金融審議会「公開買付制度・大量保有報告制度等ワーキング・グループ」(第2回) 議事録

  • 1.日時:

    令和5年7月31日(月曜日)10時00分~12時25分

  • 2.場所:

    オンライン開催 ※一部、中央合同庁舎第7号館 12階 共用第2特別会議室 

    【神田座長】
     ただいまから金融審議会の公開買付制度・大量保有報告制度等ワーキング・グループの第2回目の会合を開催いたします。皆様方には、大変お忙しいところを御参加いただき、ありがとうございます。

     本日の会議でございますが、前回同様オンライン会議にての開催とさせていただきます。

     また、議事録は、通常どおり、作成の上、金融庁のホームページにて後日公開させていただく予定ですので、よろしくお願いいたします。

     それでは、本日会議を始めます前に事務局において人事異動がございましたので、事務局から紹介をお願いいたします。

    【谷口企業統治改革推進管理官】
     皆様、おはようございます。金融庁企業統治改革推進管理官の谷口でございます。事務局である金融庁において人事異動がございましたので、私のほうから紹介をさせていただきます。

     まず、企画市場局審議官でありました井上に替わりまして、新たに新発田企画市場局参事官が着任いたしました。

    【新発田企画市場局参事官】
     新発田でございます。どうぞよろしくお願いします。

    【谷口企業統治改革推進管理官】
     また、企業開示課長でありました廣川に替わりまして、新たに野崎企業開示課長が着任いたしました。

    【野崎企業開示課長】
     野崎でございます。どうぞよろしくお願いします。

    【谷口企業統治改革推進管理官】
     異動につきましては以上でございます。

    【神田座長】
     どうもありがとうございました。

     なお、本日の会議の模様は前回と同様ウェブ上でライブ中継をさせていただきます。

     それでは、本日の議事に移らせていただきます。本日は、事務局から資料の説明をしていただいた後、質疑応答と討議をしていただければと思います。

     それでは、資料についての説明をお願いいたします。

    【谷口企業統治改革推進管理官】
     改めまして、金融庁の谷口でございます。私のほうから資料1の事務局説明資料に基づいて御説明をさせていただきます。本日は皆様に公開買付制度に関する6つの検討課題について御議論いただければと思っております。

     まず、検討課題の説明に入る前に、公開買付制度の趣旨について改めて御説明をさせていただきます。資料2ページ目でございます。こちらは、各検討課題の検討に際しましては、公開買付制度の趣旨を踏まえて議論すべきであるという御意見が第1回のワーキング・グループでございました関係で、改めて事務局にて整理させていただいたものでございます。

     公開買付制度の制度全般の趣旨としましては、会社支配権等に影響を及ぼすような証券取引の「透明性・公正性」を確保するというところにあると言われておりますけれども、一方で、この公開買付制度につきましては、その時々の問題意識を踏まえて各規制が追加されているところがございまして、各規制ごとにその趣旨、すなわちどのような株主のどのような利益を保護するのかといった面が異なっている部分がございます。

     具体的には1971年に導入されました5%ルール、こちらは多数の者から市場外で株券等を買い付ける行為で、株券等所有割合が5%超となるものについて公開買付けを実施することを義務づけるものでございます。こちらは多数の者から市場外で買い付ける行為によって生じる提供圧力、ここに着目をいたしまして、そういった勧誘を受ける株主を提供圧力から保護するというような制度趣旨でございます。

     続きまして、1990年に導入されました3分の1ルール。こちらは、買付けが多数の者からか、少数の者からかということを区別せずに市場外で株券等を買い付ける行為で、株券等所有割合が3分の1超となるものについては公開買付けの実施を義務づけるというものでございます。こちらは、市場外取引が一般株主から見ますと不透明・不公正と見られがちであるということに着目をしまして、そういった不透明・不公正な支配権取得により著しく影響を受けるようなおそれから、一般株主を保護するという点に着目したものでございます。

     最後に全部買付義務というものが2006年に導入されまして、こちらは株券等所有割合が3分の2以上となるような公開買付けについては上限の設定を禁止したものでございます。そのような公開買付けにつきましては、上限が付されてしまいますと手残り株を抱えることとなる零細株主が著しく不安定な地位に置かれるというような問題意識がございまして、そういった問題意識を踏まえまして、手残り株を抱えることとなる株主を不安定な地位に置かれるおそれから保護するという制度趣旨に立ったものでございます。

     このように各ルールにおいてどのような株主のどのような利益を保護するのかといった点が若干異なっているという面がございます。

     そういった公開買付制度の趣旨を踏まえまして、各検討課題の説明に入ってまいります。

     まず、検討課題の1つ目でございます。1つ目は、「欧州型の規制への転換」という検討課題でございます。

     どういうものを欧州型と言うかについては論者によっていろいろとバリエーションがあるところでございますけれども、皆様に御議論いただきたいものとしましては、資料4ページ目の中段右側の部分でございます。

     まず、欧州型の公開買付規制の制度趣旨は、支配権移転の場面において、少数株主が公平な価格で売却する機会を確保することであるという点に着目をいたしまして、今回日本の公開買付規制においてもこういった制度趣旨に転換するべきか否かという点でございます。

     また、その帰結として欧州型においては日本と異なる規制が置かれております。まず1つ目が、事後的規制といいまして、日本の場合には、閾値をまたぐ取引、それ自体に公開買付けが必要となっておりますけれども、欧州型の公開買付制度においては、一般的には閾値をまたぐ取引、それ自体には公開買付けは不要であるものの、閾値をまたいだ後に公開買付けの実施義務が発生するというような事後的な規制になっております。その結果、市場内取引であろうが、第三者割当であろうが、閾値をまたぐものであれば対象になっているというような差異がございます。また、全部買付義務・全部勧誘義務と書かれておりますとおり、欧州型においては部分買付けというものは基本的に禁止をされているというところです。また、最低価格規制と書いてありますように、一定の公開買付価格以上の公開買付けでなければいけないという規制が置かれてございます。こういった規律を持っていくことについてどう考えるかという点について皆様の御意見をいただければと思っております。

     続きまして、欧州型の規制への転換という点につきまして、これまで当庁に寄せられた主な意見を5ページ目に掲載をしております。こちら、今回、各検討課題についてこのような主な意見というところを載せておりますけれども、こちらにつきましては、各委員からの御意見というところも踏まえておりますし、それ以外の有識者の皆様方からの御意見などもこちらに掲載しております。

     まず、「欧州型の規制への転換」という点の1つ目の積極意見としましては、やはり制度趣旨が分かりやすいということ。つまり、制度趣旨を少数株主の退出機会の確保という形にして、それに基づいて制度の規律を作るということにしていくと制度の趣旨が貫徹しやすいというようなメリットがあるという御意見をいただいております。

     これに対する消極意見としましては、我が国においては支配株主を有したまま上場することも否定されていないので、少数株主の退出機会の確保というニーズが現時点であまりないのではないかというような御意見であったり、欧州型のような事後的な規制に転換すると、支配権異動時の透明性が担保されないのではないかというような御意見などをいただいております。

     また、その他の意見としましては、欧州型の規制への転換、それ自体について反対というわけではないものの、そのためには健全なM&Aを阻害しないように例外を柔軟に認めるための体制が必要である。つまり、英国のテイクオーバーパネルのような体制が必要である。それが今日本には存在しないため、まずはそういった体制を整備し始めて、そういった体制が充実した段階で欧州型の規制への転換をするかどうかを判断すべきではないかといった御意見なども寄せられているところでございます。

     以上が「欧州型の規制への転換」といった検討課題についての説明でございます。

     続きまして、「市場内取引の取扱い」といった検討課題について進めさせていただきます。こちらは、市場内取引により議決権の3分の1を取得するような取引、こちらについても公開買付けを義務づけるべきではないかといった論点でございます。

     こちらにつきましては、当庁に寄せられた意見として、まず積極意見としては、市場内取引であっても、支配権に影響を与える取引については、対象会社の株主に十分な情報と熟慮期間を与えるべきではないか。すなわち、公開買付けを義務づけるべきではないかというような御意見と、さらには、市場内取引は公開買付けの場合と異なって、時間優先で取引が成立することになるため、早く売り注文を出すように売却プレッシャーが強く生じるのではないかといった御意見などが寄せられております。

     また、消極意見としましては、公開買付けを強制したとしても、部分買付けが許容されている以上は強圧性の問題を生じてしまうので、強圧性を理由に市場内取引を3分の1ルールの対象とするというのは不合理ではないかというような御意見。

     また、公開買付制度の趣旨である証券取引の透明性・公正性という言葉から市場内取引に公開買付けを義務づけることについて説明できるのかどうか、整合的なのかどうかというのが疑問であるといった御意見も寄せられております。

     続きまして、「第三者割当(新株発行)の取扱い」という検討課題でございます。こちらにつきましては、第三者割当によって議決権の3分の1を取得するとき、そのときについても公開買付けを義務づけるべきではないかというような論点でございます。

     こちらについて、これまで当庁に寄せられた主な御意見としましては、まず積極意見として、先ほどの欧州型と同様に、支配権異動時に少数株主の退出機会を確保するというような観点を貫くのであれば、第三者割当についても公開買付規制の適用対象とすべきである。その上で、株主総会の承認を受ければ例外的に公開買付けを不要とするというようなルールにすべきではないかというような御意見がございます。

     これに対する消極意見としましては、現時点で何か問題事例が起きているものではないので、あまり現時点ではニーズがないのではないかというような御意見であったり、第三者割当に3分の1ルールを適用するとなると、日本の限られた資金調達手段の1つにネガティブなインパクトを与えるのではないかというような御意見が寄せられております。

     さらには、その他の御意見として、もし新株発行を公開買付規制の適用対象としないのであれば、会社法上これと同一の規律とされている自己株式の処分についても公開買付規制の適用対象から除外すべきではないかといった御意見が寄せられているところでございます。

     続きまして、「公開買付けの強圧性の問題を巡る対応」という検討課題でございます。そもそも公開買付けの強圧性とは何かというところでございますけれども、公開買付けによる支配権取得であって、それによって対象会社の企業価値の減少が予測されるような公開買付けが実施されますと、一般株主において、企業価値の減少による不利益を回避するために公開買付けに応募するインセンティブが生じる。そういった問題を公開買付けの強圧性の問題と呼んでおりまして、この問題につきましては、全部買付け、すなわち上限を付さない公開買付けの場合には生じづらいものの、部分買付け、すなわち上限を付した公開買付けにおいて生じやすいと指摘されている問題でございます。

     こちら、そういった強圧性の問題に対応するための措置としましては、事務局のほうから3つの案を出させていただいておりまして、その3つの案それぞれについてこれまで御意見をいただいているところでございます。11ページ目以降でございます。 まず、1つ目の案は、全部買付義務の閾値を引き下げるというⅠの措置を講じることでございます。つまり、現行は3分の2までであれば部分買付けが許容されているけれども、これを引き下げて、部分買付けが許容される範囲を狭めるというような考え方でございます。

     こちらは、積極意見としては、このような方法が強圧性に対する措置としては最も直截的で適切であるというような御意見であったり、あとは、ちょっと強圧性の問題とは少し離れますけれども、そもそも部分買付けそれ自体が望ましいものではないというような御意見。すなわち部分買付けというのは、対象会社に支配株主が登場してそのまま上場が維持されるということになりますので、一般株主の視点からするとどうしても利益相反の懸念が生じてくる。かつ、部分買付けの場合には、あん分比例で決済されるため、一般株主からすると必ずしも十分な売却機会が与えられないということになりますので、部分買付けというのは基本的に制限すべき、ないしは原則禁止すべきというような御意見などもいただいているところでございます。

     これに対する消極意見としては、我が国においては、対象会社の経営陣が上場維持を希望するようなケースも多い。ですので、部分買付け一律禁止となると、M&Aに対する阻害効果が大きい。すなわち、部分買付けの中にも対象会社の企業価値を向上させ、一般株主にとっても有意義なものもあるため、一律禁止とすべきではないというような御意見なども寄せられております。

     この最後の消極意見、すなわち、部分買付けの中にも一般株主にとって有意義なものがあるので、それについては許容すべきであるというような御意見に関して、では、どのような形で部分買付けを許容すべきかというところに関連しますのが、Ⅲの措置でございます。13ページになります。

     このⅢの措置は、公開買付けに応募するか否かの意思表示というものに併せて、公開買付けに賛同するか、反対するかというような意思表示についても株主からいただいた上で、賛成が反対を上回る場合、もしくは株主総会で過半数の賛成があった場合に公開買付けの実施を認める、ないしは部分買付けの実施を認めるというような措置でございます。

     これに対する積極意見としましては、先ほどのとおり、部分買付けの中には対象会社の企業価値向上に資するものもあるので、一律に禁止するのではなくて、株主にその判断を委ねるべきではないかというような御意見が寄せられております。

     また、この点について賛成しつつ、常に株主意思の確認手続を要求すると公開買付手続が煩雑化・長期化するため、対象会社または一定数の株主の反対があった場合に限ってそういった株主意思の確認が必要になるというような建付けにすべきであるというような御意見もいただいております。

     また、そういった株主意思の確認においては、いわゆるマジョリティー・オブ・マイノリティー決議というような形で、公開買付者であったりその他の利害関係者というものは排除されるべきではないかというような御意見もいただいております。

     これに対する消極意見としましては、どのような部分買付けが企業価値に資するかということはなかなか判断することは難しい。日本の株主総会においては政策保有株主などの存在が多いので、株主総会に委ねたとしてもなかなか合理的な結論が示される保証がないのではないかといった御意見であったり、また、公開買付手続がさらに複雑化・長期化するのではないかというような御意見も寄せられております。

     以上、御説明を申し上げましたⅠの措置とⅢの措置とこれと併存し得るものとしてⅡの措置というものがございます。Ⅱの措置といいますのは、公開買付期間を2つに分けまして、通常の応募期間と追加応募期間に分けるというような措置でございまして、通常の応募期間で公開買付けの成立が確定した場合、すなわち下限に達する応募があったような場合には追加の応募期間を設けなければならないというような措置でございます。

     すなわち、株主側のニーズとして、この公開買付けは成立してほしくはないけれども、もし成立してしまうのであれば売ってしまいたいというようなニーズに応えるようなことができるための制度でございます。

     こちらにつきましては、積極意見として、部分買付けについてはⅢの措置を導入しつつ、全部買付けについてはⅡの措置を導入するのがいいのではないかというような御意見いただいております。すなわち、全部買付けの場合であっても、スクイーズアウトによる現金化まで時間を要するため、その分早く現金化をしたいというような株主に対しては公開買付けへの応募プレッシャーは生じるというような御意見でございます。

     これに対する消極意見としては、公開買付期間が長期化するというような御意見のほか、投資家によっては、公開買付価格の公正性にかかわらず、様子見のために応募を控えるというような投資家もおり、そういった投資家が多数存在する場合には、公開買付価格が妥当である場合にも応募が集まらずに不成立となってしまう、そういうケースが増加するのではないかというような御意見も寄せられております。

     これに対する折衷案ではございませんけれども、3つ目の御意見として、積極意見の2つ目のところでございますけれども、Ⅱの措置については、それであれば強制するのではなくて任意に取り得る措置ということとしてもいいのではないか。すなわち、強圧性のない公開買付けを実施したいというような公開買付者は任意にこの措置を実施するというような場面はあるのではないかというような御意見も寄せられております。

     以上が「公開買付けの強圧性の問題を巡る対応」という検討課題でございます。

     続きまして、公開買付規制のオプトイン/オプトアウト制度という論点でございます。こちらはちょっとテクニカルで分かりづらい面がございますけど、14ページ目の右側中段の図を見ていただけますでしょうか。こちらの論点は、シンプルに申し上げますと、1種類の株のみを発行しているような会社において、一部の株主から買付けをして、残りの株主がこの買付けについては公開買付け不要であるというような形で株主総会で承認をした場合、もしくは定款でそのように定めたような場合には、3分の1超であっても公開買付け不要とする。そのような制度を導入すべきではないかというような論点でございます。

     こちらについては、複数種類の株を発行している場合には一部類似したような制度も取られているところでございまして、そのような制度に合わせるべきではないかというような御意見をいただいております。

     こちらにつきましては、積極意見としては、今申し上げましたとおり、複数種類の株式の場合と1種類の株式の場合というところであまり区別するような理屈がないため、全てを統一的に解決するのであれば、定款または株主総会による3分の1ルールからの離脱というものを認めるべきではないかというような御意見をいただいているところでございます。

     これに対する消極意見としましては、1種類の株式のみを発行している場合には、株主が多数に上るということが想定されるため、株主総会を開いてまで3分の1ルールから離脱するニーズはあまりないのではないかというような御意見をいただいております。

     また、その他の意見としましては、具体的な公開買付けの提案がなされてない段階で、定款によって将来的な公開買付け全般についての方針を定めてしまうということは、これはかえって結果として株主の利益に反する事態を招きかねない。定款ではなく、株主総会の承認によってオプトアウトするということにすべきではないかというような御意見などもいただいております。

     それでは、最後の検討課題でございます。「3分の1ルールの閾値」という検討課題について御説明させていただきます。

     こちらは、先ほどの説明のとおり、3分の1ルールというものが公開買付制度において大きな比重を占めておりまして、こちらの3分の1ルールにおける閾値の3分の1という数字は、株主総会の特別決議を阻止できる割合であるということなどに鑑みて設定された数値となっております。

     ただ一方で、実際の議決権行使割合などを勘案しますと、3分の1よりも低い割合で株主総会の特別決議を拒否できるのではないかというような御意見もあり、そういった御指摘を踏まえて、3分の1から閾値を引き下げるべきではないかというような御指摘がございます。

     こちらにつきましては、今回、信託協会様、ないしは信託銀行様に多大な御協力をいただきまして、このようなデータを作成いたしました。17ページ目でございます。こちらは、支配株主を有しない東証上場企業の議決権行使比率に関するデータでございます。こちらは当日行使分というものが含まれていない数字になりますので、少し低めに出ている数字ではございますけれども、今回金融庁にてこのようなデータを作成させていただきました。

     こちらのデータを見てみますと、大体中央値、平均値というのが50%前後というところでございまして、その分布図を見てまいりますと、大体議決権の30%を持っていると半数近くの企業で株主総会の通常決議を可決できる可能性があるということ、ないしは、おおむね95%以上の企業で特別決議を否決できる可能性があるということで、30%を持っていると相応の影響力があると言えるのではないかということを一つ補強する材料になるのかなと思っております。

     以上、検討課題の説明でございました。

     最後に、御議論いただきたい事項について説明をさせていただきます。まず、御議論いただきたい事項としては、1つ目の「欧州型の規制への転換」という検討課題につきましては、欧州型の規制への転換をすると、その後の論点、つまり、市場内取引をどうするか、第三者割当をどうするか、強圧性の問題をどうするかといった論点が制度趣旨からかなり説明しやすくなるというようなメリットを1つ掲げております。

     その上で、そういったところを踏まえた上で、欧州型へと転換して、公開買付規制の制度趣旨を、支配権移転の場面において、少数株主が公平な価格で売却する機会を確保するための制度であるというようなことで制度趣旨を位置づけてしまい、その上で、上記の各規律を導入することについてどう考えるかという点について御意見いただければと思います。

     また、仮にそういった転換をする場合には、各規律についてどのような例外を設けるべきかについても御意見いただければと思っております。

     続きまして、Bの「市場内取引の取扱い」というところにつきましては、こちらはシンプルに市場内取引を3分の1ルールの適用対象とすることについてどう考えるかという点。また、仮に欧州型規制へと転換せずに市場内取引を3分の1ルールの適用対象とするような場合であれば、公開買付制度の趣旨をどのように整理すべきかという点についても併せて御意見いただければと思っております。

     続きまして、Cの「第三者割当」についても同じでございます。第三者割当を3分の1ルールの適用対象とすることについてどう考えるかという点に併せて、仮に欧州型の規制へと転換せず、第三者割当を3分の1ルールの適用対象とする場合には、公開買付制度の趣旨をどのように整理すべきかという点についても併せて御意見いただければと思います。

     また、こちらについては、新株発行の部分を3分の1ルールの適用対象としない場合には、自己株式処分についても3分の1ルールから適用除外とすべきかどうかという点についても御意見いただければと思います。

     続きまして、「強圧性の問題を巡る対応」という点につきましては、そういった強圧性の問題に対応するための何らかの措置を講じること及び具体的な措置の内容についてどう考えるかという点について御意見いただければと思います。例えばというところで案として措置を3つほど書かせていただいております。

     また、こちらについても、仮に欧州型の規制へと転換せずに部分買付けが許容される範囲を制限するのであれば、公開買付制度の趣旨をどのように整理すべきかという点についても併せて御意見いただければと思います。

     続きまして、公開買付規制のオプトイン/オプトアウト制度という点につきましてです。こちらにつきましては、まず、1種類の株のみを発行している場合についても、定款の定めや株主総会の承認などによって各種公開買付規制の適否を定められる制度、こういうものを設けることについてどう考えるかという点。

     また、これを設けないということになるのであれば、現行で認められている複数種類の株式を発行している場面のオプトアウト制度、こちらについても廃止すべきかどうかという点について御意見いただければと思います。

     最後の論点、「3分の1ルールの閾値」という点につきましては、3分の1ルールにおける3分の1の閾値、これを引き下げること及びその具体的な閾値についてどう考えるかについて皆様に御意見をいただければと思います。

     駆け足で恐縮でございますけど、私からは以上でございます。

    【神田座長】
     どうも御説明ありがとうございました。

     それでは、今から、委員の皆様方から御意見、御質問等をお出しいただければと思います。

     時間が限られた中で御議論いただきたい事項もたくさんあって大変恐縮ですけれども、本日御参加の皆様方の人数で割り算をしますと、お一方当たり四、五分程度の目安かなということでございます。

     どなたからでも結構でございますので、御発言いただける方は、いつものようにチャット欄に発言希望と入れていただければありがたく存じます。私のほうから御指名をさせていただきます。

     いかがでしょうか。

     飯田先生、お願いいたします。

    【飯田委員】
     飯田です。各点について意見を述べます。

     まず欧州型への転換の点ですけれども、欧州型を採用するかどうかにかかわらず、できる限り論理一貫した考え方に基づいて規制を設計することが好ましいと思います。

     資料19ページの①の公開買付制度を「支配権移転の場面において、少数株主が公平な価格で売却する機会を確保するための制度」と位置付けること自体については、既に一部の立法政策において講じられておるように思います。現行法でも3分の1ルールとか全部勧誘義務というのは既にこの位置づけで理解できますから、この考えで規制を一貫させるということは立法論としてあり得るのだろうと思います。この場合、19ページの②の各規律も導入すべきと思います。

     そして、③については、イギリスのホワイトウォッシュのように、募集株式の発行等で閾値を超えたといったような場合などには、引受人やその利害関係者などを除いた株主の賛成に基づくオプトアウトを認めて、公開買付けの省略を認めるといったような措置も必要と思います。

     また、自発的に行われる公開買付けによって閾値を超えた場合には、いわゆるマンダトリーオファーの例外となるといったことも認めるべきと思います。

     自発的に行われる公開買付けが部分買付けであっても、強圧性の問題を巡る対応のうち10ページのⅢの措置を導入するのであれば、部分買付けは許容されてよいと思いますし、そうであれば、部分買付けは企業価値を高めるとして株主から支持されるものであれば実行できるはずですから、部分買付けを使いたいという実務のニーズにも応えられるのではないかと思っております。

     次に、市場内取引の話ですが、仮に欧州型へと転換しないときでも、市場内取引を3分の1ルールの適用対象とするべきと考えています。公開買付規制の趣旨としては、支配権の変動に際して対象会社の株主に十分な情報に基づく投資判断の機会を与えて熟慮をする期間を保障するとともに、株主の公平な取扱いを確保する必要性があるからだと説明できると思います。この趣旨自体も現在の規制に既に存在する考え方だと思いますから、それを広く当てはめていくということになります。

     より実質的な理由としては、第1に、現状では強圧的な買収手法の実行手段として、市場内取引を通じた支配権の取得が事実上可能となってまいりますから、妥当ではなくて、強圧性の問題を巡る対応のうちⅡないしはⅢの導入を前提に、これを3分の1ルールの対象とするのが合理的だと考えています。

     2つ目としては、公開買付けであれば、買付期間中の株主の平等取扱いがされて、特に価格の面での均一性が要求されるわけですけれども、市場内取引ではこれを確保できませんし、抽象的に言えば十分なプレミアムを払わずに支配権を取得できてしまうというのが問題だと思います。

     3つ目としては、買収提案が競合して、公開買付けの提案する買収者と市場内取引を行う買収者が競合しているというような場合と2人の買収者の公開買付けが競合しているという場合とを比べれば、後者のほうがオークションのメカニズムが機能しやすいと考えられるからであります。

     第三者割当の取扱いについては、新株発行と自己株式の処分は経済実質が同じですし、会社法上は同じ扱いなのに金商法は区別するということに合理性はないので、もし新株発行を対象外とするなら、自己株式の処分も対象外とするべきと思います。

     公開買付けの強圧性の問題を巡る対応については、公開買付けに応募するかどうかなどの株主の投資判断をゆがめさせないようにする規制として、公開買付規制を一貫させるために強圧性の問題を解消・低減させる措置を講じるべきと思います。

     強圧性の問題は部分買付けの場合も全部買付けの場合もありますから、Ⅰの措置では対応として過不足があるように思います。Ⅲの措置が合理的だと思いますが、立法技術的に難しければⅡの措置でも構わないと思います。

     また、審議の結果としてⅡの措置やⅢの措置を義務づけないという結論に至ったとしても、Ⅱの措置については、買収者が自発的にⅡの措置を設定したいときはこれを認めるという改正はするべきと思います。買収対抗措置の正当化根拠の重要なものとして強圧性というのがあるわけですから、対抗措置の正当化根拠を奪うために買収者が強圧性のない方法での公開買付けを実行するということを希望するときに、それを実現できるようにしたほうが中立的な買収法制になると思います。

     それから、Ⅱの措置については、追加する応募期間の長さは株主が実務的に応募するために必要な長さが確保できればよいので、例えば5営業日とか10営業日とかでもいいわけであります。ですから、買付期間の最短が現在は20営業日であるところ、これが25営業日になるだけでありますから、これでM&Aの期間が長期化するということにはならないと思います。

     また、Ⅱの措置を採用することの弊害として、下限を設定しない事例が増えるおそれがあるとの意見がありますが、そうであれば下限を設定させるように規制するというのが1つの選択肢ですし、あるいは規制しないとしても、現に幾つかの裁判例がそうしているように、適切な下限が設定されていないことを裁判においてネガティブに評価するということをすれば、下限をあえて設定しないとか不適切な設定をするといった買付者のインセンティブをそぐことができますし、あるいは、公開買付代理人等が適切な下限を設定するようにアドバイスするなどしてベストプラクティスを構築していくことで対応できることのように思います。

     最後ですけども、オプトアウトについてですが、少なくとも現行制度のアンバランスは解消すべきであります。全部勧誘義務は買付け後に少数株主として残される株主の保護を目的としていると考えますと、その売却の機会を保障するはずの勧誘義務を多数決で免除できるという発想自体が制度目的とそぐわないので、多数決による離脱を廃止するというのも1つの道だと思いますし、そういう立場を取って、全部勧誘義務を強化するのであれば、発動基準をむしろ3分の1にするということも併せて検討してもいいぐらいのことだと思います。

     逆に、少数株主の保護の在り方については、強行法規的に1つの道しか認めないと考えずに、株主の自治を認めるということにも理論的な理由はあると思いますし、私はそちらの立場ですけれども、そちらを取るのであれば、定款の定めを前提にした株主総会決議によるオプトアウトを一般的に認めるのもあり得ると思います。

     また、もし欧州型に移行するのであれば、オプトアウト制度を随所に認める必要が出てくるだろうと思います。

     以上です。

    【神田座長】
     どうもありがとうございました。

     それでは、次は石綿委員、どうぞお願いいたします。

    【石綿委員】
     森・濱田松本法律事務所の石綿です。御発言の機会を頂戴しまして、ありがとうございます。

     まず、「欧州型の規制への転換」については、私としてはあり得る話だと思っております。日本の公開買付規制は他国の法制と比較してやや特殊な規制になっておりまして、日本の市場のグローバルな市場の中におけるプレゼンスの低下傾向を考えますと、いつまで独自の規制を維持するのかということについて議論の余地はあると思っております。

     ただし、公開買付規制というのは在り方によっては企業買収阻害効果がありますので、欧州型へ転換した場合にどのような影響が生じ得るかという点については、実務界からのヒアリングを丁寧に行うなどして、慎重に進めたほうがいいと思います。

     そのため、規制趣旨をこのように明確に定めたので、欧州型の規制に変えますという進め方ではなくて、やはり欧州型への転換が実務界にどういうインパクト・影響を与えるのかということを慎重に確認する必要があると思います。

     その際、確認すべきポイントとしては、日本の公開買付規制が世界的に見て特殊なものであるということが一般投資家の我が国市場に対する株式投資に対する妨げになっているのか、なってないか、どのくらいなっているのかといった点が含まれるのではないかと思います。それがまず1点目でございます。

     続いて、「市場内取引の取扱い」ということですが、私は、今回俎上に上がっている論点の中ではこの論点に最も強いこだわりがあり、市場内取引について強制公開買付規制の適用対象とするべきであると考えております。市場内取引を公開買付規制の適用対象にしても強圧性がなくなるわけではないという御意見があることは認識しております。しかしそもそも、強圧性をなくすために市場内取引を公開買付規制の適用対象にするわけではなく、先ほどありましたように、十分な情報や熟慮期間を確保するために適用対象にする必要があると考えています。そして、強圧性の問題との関係では、今回、強圧性を減少さえるための改正も併せて行えばよいと考えております。情報が開示されない中でマーケットでどんどん買い集めが行われていくことにより、株主には熟慮期間が与えられず、また、発行会社がそれに強い不信感を持つ。それによって対象会社が買収防止策を使って対抗し、紛争に発展する。そういうことが起きるたびに、資本市場に対しては、日本ではまた訳の分からないことが行われているというネガティブな印象を与えてしまうことになると思います。市場内取引についても、公開買付規制の対象にすることによって、株主に十分な情報と熟慮期間を確保していくほうが透明性・公平性が増し、よろしいのではないかと思っております。

     また、わが国の市場は、十分なプレミアムを支払わずに大量の株式の買付けをしやすい環境でして、この点についても少々不安を感じているということもございます。

     続いて3つ目の「第三者割当ての取扱い」ということですが、私自身としては、少なくとも理論的には、第三者割当てについても3分の1ルールの適用対象とすることについては検討できるのではないかと思ってはいます。

     ただ、第三者割当増資については、発行会社の資金調達という側面がありますので、例外的な取扱いが柔軟にできる枠組みとセットで考えていかれたほうがよいのではないかと思います。後ほど出てくるオプトアウトの制度を入れることによってこれを達成するのか、ないしは専門機関をつくることによってそこで例外的な判断をしていくのか、いろいろなやり方があると思いますが、例外的な扱いを柔軟に可能とする仕組みとセットでやることによってこれを対象にすることも理論的には考えられると思います。

     続いて、「公開買付けの強圧性の問題を巡る対応」ということでございますが、やはり実務的な感覚から申し上げますと、強圧性についての法的対応は必須であると思っています。本日ここで出ているⅠの措置からⅢの措置に加えて私は差止めという制度も考えるべきだと思っています。それについては後日議論の機会があると思いますので、本日はⅠ、Ⅱ、Ⅲの措置にだけ意見を申し上げると、私としてはⅢの措置を選択するべきと思っております。

     特にⅢの措置の中でも、発行会社ないしは10%以上の株主が要請した場合には株主総会が必要となるというような形での法制が望ましいと考えています。それに対してⅠの措置やⅡの措置につきましては、やはり企業買収に対する阻害効果がかなり大きいと思いますので、欧州型の制度に全部転換するのであればいざ知らず、今の現行制度を前提とするのであればちょっと難しいのではないかと思っています。

     特にⅡの措置については、やはり様子見のために応募をしなくなる株主が少なからず出てくるだろうという実務感覚がございまして、それによって企業買収の阻害効果が相応に生じるのではないかと考えています。

     それから、オプトイン/オプトアウト制度でございますが、私としては、まず2番目の論点である複数種類の株式を発行している会社について、種類株主総会の承認をもって公開買付規制の適否を定められる現行制度を廃止すべきかという論点は、これは明確に反対でございます。実際に、複数種類の株式を発行している会社でこの制度を利用して公開買付けをせずにスムーズにM&Aをやっている事例は存在しており、ニーズもある中で、これを廃止するというのはやめたほうがよいと思っています。

     一方で、1種類の株式のみを発行している会社において、定款の定めではなく、株主総会の承認によって例外的な扱いができるようにしておくことは認めてよろしいのではないかと考えております。これは第三者割当を強制公開買付規制の適用対象にするのかとなどにも関係してくるかもしれませんが、方向感としてはどちらかというと認める方向でよろしいのではないかと思っています。

     それから、3分の1の閾値を下げることについては賛成です。私としては30%または25%ぐらいの閾値がいいのではないかと思っています。

     理由としては、先ほど御説明のあった議決権行使率を見ますと、30%でも支配権に大きな影響を与えることがわかりますし、30%のちょっと手前であったとしても支配権に大きな影響を与え得る立場だと思います。その点を考えますと、30%または25%で公開買付けの対象にしてもいいのではないかと思っております。
     以上でございます。ありがとうございました。

    【神田座長】
     どうもありがとうございました。

     それでは、続きまして、三瓶委員、どうぞお願いいたします。

    【三瓶委員】
     三瓶です。御指名いただきありがとうございます。

     まず「欧州型の規制への転換」については、私の立場は賛成です。まず日本型と欧州型の違いを整理してみたのですけれども、閾値を超える買付け、すなわち支配権移転までの買付けを何の手続きもなしで自由にしていいのか、いけないのかについて非常に簡単に整理すると、日本はしてはいけない、欧州型は問題ないということだと思います。

     それがなぜかというと、日本型では証券取引の透明性・公正性を理由にしています。透明性とは、事前の情報開示。ただ、これは5%ルールと重複感があるという感じがします。

     公正性については、株主の平等取扱いということで、これは部分買付けの場合に平等性に疑義が生じ得るということが指摘されています。ただし、買付けの目的や意図などの情報開示が徹底されていれば市場内で価格一定で買付けされなければならないということにはならないのではないかと思います。十分に情報が行き渡っている中で、どの価格で買付けに応じるかについては、市場内においては通常の売買ですから、それはそれぞれの当事者が考えればいい話だからです。

     そうすると、情報開示が徹底されている場合に、公正性についての説得力が少し説明力として乏しいかなという感じがします。

     他方、欧州型というのは、誰が何の思惑で株式を買い付けるのかというのは自由だと言っているのであると思います。ただし、支配権を取得する閾値を超えるとこれが変わる。支配権を取得するということは、会社の財務及び営業または事業の方針の決定に対して重要な影響を与えるということになるので、100%を取得していない支配株主と一般株主の間に利益相反構造が生じるということです。そこで、一般株主が平等に退出する機会として、全部買付け、全部勧誘による公開買付義務があると理解しています。

     そうすると、取引の類型にかかわらず一定の閾値を超えた場合に実施が義務づけられるか、部分買付けは原則禁止にするかという各規律の導入についてですけれども、これはそういう考え方からすると合理的な規律であると思います。全部の株式を取得せずに支配権を取得することによって、経済的に100%所有していないのに意思決定を支配するいびつな構造が出来上がるということです。その際、一般株主の経済的利益を保護する必要があるというところが重要なポイントです。少数派の権利及び意見を尊重することなしに民主的かつ公正な市場というのは成り立たないというのが重要な根拠になっていると思います。

     そこで、米国では支配株主に信認義務を課している、欧州では全部買付義務を課しているにもかかわらず、日本はこの問題が放置されています。構造的に問題解決するなら、支配権を取得する際に全部買付けを義務化すべきと思います。

     その場合、各規律の例外ですけれども、前述の理由で支配権取得をトリガーとした全部買付けを義務化した場合に、現状で支配株主を有する上場会社についてはその状態を維持できる例外を設ける必要があるのかもしれないと思います。

     次は市場内取引の取扱いですけれども、まず欧州型のように支配権移転の場面を重視するのであれば、議決権保有割合が重要なのであって、株式の取得方法で区別する必要はないと思います。ですから、市場内取引を適用対象とすべきです。

     欧州型へ転換せずに市場内取引を適用対象とする場合は、先ほどの証券取引の透明性を根拠として重視し、事前の情報開示が立法趣旨となると思いますけれども、これは大量保有報告制度との重複感があるので、いかがなものかなという感じです。

     第三者割当の取扱いについては、市場内取引の取扱いと同様の意見です。

     次に、公開買付けの強圧性の問題を巡る対応ですけれども、Ⅰの措置について、全部買付義務の閾値は公開買付けの閾値まで下げるというのが整合的だと思います。すなわち、支配権を取得する部分買付けの原則禁止です。

     Ⅱの措置については、通常の応募期間でなされた応募を撤回できないようにするというのは合理的な考え方だと思います。

     Ⅲの措置については、②公開買付けへの賛否の意思確認を求める者から利害関係者を除くべきと思います。

     部分買付けが許容される場合、これはあまり望ましくないのですけれども、その場合には公開買付制度の趣旨が不明瞭になると思います。また、利益相反構造が放置されるという問題があって、私は反対です。

     公開買付規制のオプトイン/アウト制度は、いろいろ考え方は理解しますが、定款による規制の離脱を認めることは特に海外投資家からは非常に見えにくい、分かりにくいという問題が残ってしまうというのがあります。
     最後に3分の1ルールの閾値です。議決権行使比率を考慮するのは非常に実践的で、今回、非常に有用な資料をいただきました。ただし、この比率が定期的に公表されているものではないので、将来これがまた変動しているということがあったときに、再度それに応じて見直すとするのか。そうなると、根拠として若干不安定さがあるなという感じがします。

     また昨日、現状を調べてみたのですけれども、現在、全上場会社のうち親会社または支配株主を有する上場会社というのは583社あります。これについて、参考資料11ページの議決権割合に応じた分布で区別すると、議決権割合20%未満の会社は12社、議決権割合20%以上30%未満は37社、30%以上3分の1未満は19社、3分の1以上3分の2未満は476社、3分の2以上は39社です。つまり、3分の1以上3分の2未満のところで急に増えるのですね。

     この状況が示唆しているのは、100%保有していないけれども支配できていると認識している議決権割合というのが3分の1以上という感じなのではないかなと思います。そうすると、閾値を実質的に支配権が移転する水準に下げるというのは重要なことですけれども、もしかするとそれよりも重要なことは、全部買付義務の閾値を公開買付けの閾値まで下げるということのほうが先ほどの利益相反の問題に絡めてとても重要だと思います。

     私からは以上です。

    【神田座長】
     どうもありがとうございました。

     それでは、続きまして、黒沼委員、どうぞお願いいたします。

    【黒沼委員】
     黒沼です。よろしくお願いします。私も全部の論点について意見を述べさせていただきたいと思います。

     まず欧州型への転換ですが、欧州型規制への転換をすれば、確かに少数株主の退出機会の確保が制度趣旨であると一貫して説明することができます。しかし、少数株主は市場で株式を売却することもできるわけですから、この制度趣旨にいう少数株主の退出の機会の確保とはプレミアムつきの価格で売却できる機会の確保という意味です。

     そうすると、事後的な義務的公開買付け時の価格規制が重要になるのですが、これをうまく仕組むことができるのか、技術的に大いに疑問があります。

     EUで義務的公開買付けを避けるために任意に公開買付けをすることが多いのは、そうすることで価格規制の難点を避けることができるからではないかと思います。

     このように全株式を対象とする任意の公開買付けによって義務的公開買付けを回避することができ、そうした任意の公開買付けのほうが合理的であるとすれば、最初から支配権の取得に全株式を対象とする公開買付けを強制したほうがよいと考えます。

     ただし、技術的観点から義務的公開買付けを導入することが望ましい場合が2つあります。

     1つは、全部買付義務の履行の後に、なお残存した株主を保護するために2回目の公開買付義務を課す場合です。

     もう一つは、第三者割当によって株式所有割合が閾値を超えた場合に割当先に公開買付け義務を課す場合ですが、この場合は幾らで公開買付けをかけさせるかという課題は残ると思います。

     次に「市場内取引の取扱い」ですが、市場内取引は時間優先で成約されるから売却プレッシャーが強く生じるリスクがあるとの意見がありますが、買付者が買付け株数や買付期限を明示しない限り、購入プレッシャーよりも売却プレッシャーが強く生じるという理由はないと思います。

     市場内買付けが行われると株価が上昇することが多いわけですけれども、株価が上昇すると見込まれれば早期に売却するプレッシャーが生じるとは考えられませんし、また、買付者以外にも買付者に便乗して購入する投資者が多くおり、それなりの購入プレッシャーが生じているからこそ株価が上昇するのではないでしょうか。

     支配権に影響を与える取引については、対象会社の株主に十分な情報と熟慮期間を与えるべきであるというのは正論ですが、情報と熟慮期間を与えると、部分的公開買付けと同様の強圧性が生じるようになることに注意すべきであります。

     3分の1を超える市場内取引を禁止し公開買付けを強制する場合、公開買付制度の趣旨を統一的に説明することが困難になるというのはそのとおりですが、そのような事態は既に3分の1ルールの導入時から生じているので、これはやむを得ないのかなと思います。

     次に、「第三者割当の取扱い」です。支配権異動時に少数株主の退出機会を確保するという観点から、第三者割当についても公開買付けの規制の適用対象とすべきです。このとき、退出機会の保障とは、先ほど述べたようにプレミアムつきの、あるいは市場価格がマイノリティーディスカウントされた価格であるという見方からすれば、ディスカウントのない価格での退出でなければなりませんから、公開買付けに何らかの最低価格規制が必要になります。

     また、支配株主の出現について取締役の選任と同様の株主総会決議による承認が必要かどうかは会社法が手当てをすべき問題であり、市場価格よりも高い価格で買い取らせるべきかどうかは、今言ったような新たな支配株主が取締役の選任権を握ってもよいかどうかとは別の問題ですから、株主総会の承認を受ければ義務的公開買付けを免除するようなルールは妥当でないと考えます。

     次に、「公開買付けの強圧性」を巡る問題です。既に様々な意見が出ていますので、自分の意見のみ整理して述べたいと思います。

     まず、買付者がスクイーズアウトにコミットしている場合には、ⅡやⅢの措置の対応策を取る必要がないと考えます。したがって、ⅡやⅢの措置によりスクイーズアウトが阻害されるおそれはありません。ただし第2段階までの期間が長過ぎるスクイーズアウトは問題が多いので、そのような公開買付けを禁止する規定を別途設けるべきではないかと思います。これは論点に上がってない点で申し訳ないのですけれども、意見として述べさせていただきました。

     全部買付けでも強圧性は生じますので、対応策としてⅠの措置は適当でありません。Ⅱの措置については、公開買付けの成立を不当に妨げるおそれが指摘されているので、これも賛成しません。ただし、全部買付義務が生じた公開買付けの残存株主については、先ほど述べたように第2回目の公開買付義務を課せば少数株主を保護することができると思います。

     そして、相対的に見てⅢの措置が弊害が少ないと考えますが、対象会社、経営者のバイアスが入らないようにする必要があるということ、また、Ⅲの措置を講じた場合でも、現在の買収防衛策を禁止するということにならないというのであれば、別途買収防衛策で対応することができるわけですから、応募株主の賛否を株主意思の確認手続で代替すべきではないと考えます。

     次に、公開買付規制のオプトイン/オプトアウトの話です。複数種類の株式を発行している会社に関して3分の1ルールを適用除外する規定は、買付け対象となっている種類の株式については株主全員の同意がある場合の話ですから、もしこれと整合的なルールを定めるとすれば、1種類の株式を発行している会社について、株主全員の同意がある場合に3分の1ルールを適用しないということになり、残りの株主から成る株主総会の承認と置き換えることはできないと思います。

     複数種類の株式を発行している会社に関して、買付け対象外の種類株主総会の承認で3分の2ルールの適用除外する規定は、これは3分の2ルールの適用除外の話なので、3分の1ルールの適用除外に当てはめることはできません。

     したがって、ルールの整合性はここで問題となっているようなオプトアウトを認める理由にはならないと考えます。

     同じ理由から、1種類の株式を発行している会社のルールを変更しない場合に、複数種類の株式を発行している会社のルールを変更する必要もないと考えます。

     3分の1ルールのオプトアウトについて、提案内容は合理的であると私は思いますけれども、私自身はそもそも立法論として3分の1ルールには反対なので、そうであれば3分の1ルールを廃止したほうがよいと考えます。

     最後に、「3分の1ルールの閾値」の問題ですが、事実上拒否権を有するか否かという観点で考えれば、3分の1ルールの閾値を引き下げるということになるでしょう。しかし、今回、市場内取引の取扱いや第三者割当の取扱いのように支配権の異動に着目した規制を導入しようとしているのでありますから、このルールの閾値は事実上支配権を取得できる割合と考えて設定すべきです。30%も事実上支配権は移転すると考えるのであれば、30%でもいいと思いますけれども、事実上の拒否権を基準とすると閾値が低くなり過ぎるおそれがあるのではないかと思います。

     発言は以上です。ありがとうございました。

    【神田座長】
     どうもありがとうございました。

     それでは、続きまして、角田委員、どうぞお願いいたします。

    【角田委員】
     角田です。私も全部の項目についてお話しさせていただきます。

     1つ目の「欧州型の規制への転換」ですが、確かに制度設計上、また学問的にも美しく個々のルール同士も整合的になりますが、そもそも3分の1近く持っていても少数株主であればスクイーズアウトされてしまう可能性がある。マジョリティー・オブ・マイノリティーを強いるような判例の積み重ねもない。支配株主が少数株主から責任を問われることもない。こういった点で我が国は諸外国とかなり少数株主の保護について考え方に差異があります。また、実務上も、親子上場自体が否定されておらず、今年度もかなり大型のものがございました。

     こういうような我が国において、欧州型公開買付を今の少数株主の保護の在り方のところで無理に入れるというのはおかしい。このワーキング・グループだけではなくて、そもそも少数株主の保護の在り方について幅広く検討して、新しいスタンダードをつくった上で、それに合致するような形の公開買付制度の改正にしてほしいと考えております。

     先ほど三瓶委員のコメントでありましたけれども、確かに3分の2以上の株式を有する親会社のいる会社は、上場廃止直前、完全子会社化を待っている会社を除いても30社ほどありましたので、こういうような形の会社をどう上場維持または強制上場廃止させるのかといった実務上の問題も出てくると思います。

     ただし、少数株主に退出の機会の確保を3分の2の閾値で与えたほうがいいのではないかという点には検討する意義があるのではないかなと考えております。

     SBI新生銀行のときは、合計で3分の2を超える大株主が3人合意することによってスクイーズアウトを実施し、その場合、本来は公開買付けは必要ないのですが、2段階目のオファーのほうが株主に有利な条件になりそうな状況であったので、安く買える1段階目については公開買付けをする理由が支配株主側にあり、実際に公開買付けは実行されました。しかし、逆の2段階目が不利なケースもあり得るので、そういったようなところにおいて、退出の機会を与えるという考え方が必要なのかなと思っております。

     ただし、東京証券取引所の上場廃止基準、これも少数株主の保護ではなくて、あくまで流動性に関する基準ですが、プライムで65%、スタンダードで75%みたいな基準がありますので、この辺りとの整合性を考えながらこの点は考えていきたいなと思っております。

     強圧性の問題を巡る対応のⅠとⅢの措置にも通じますが、欧州型の規制にいくとした場合、ⅠとⅢの措置というのはそれを実現するためのものだと思いますので、その辺りについても少数株主保護の大枠と併せて検討すべきだと考えております。

     次に、Bの「市場内取引(立会内)の取扱い」ですが、基本的には適用対象とするのだろうなと思っておりますが、インパクトが非常に大きくなりますし、特にオンラインのトレードとかでボタンを押せば流れてしまうとか、特別関係者を自分では把握してないみたいな事例が多々ありますので、これを超えてしまった場合にどうするか。例えば売却命令や、課徴金、売却で利益が出た場合の短期売買利益の返還みたいな制度など、どういうふうに違反を処理するかも明確にしておくべきだと併せて考えております。

     「第三者割当の取扱い」でデータを見てみたのですけれども、2022年以降、1年半の間に3分の1以上に出来上がりがなるような第三者割当というのは30件近くございました。という観点では、非常に資金調達の重要な手段となっておりますので、これが公開買付けの対象となると極めて大きな影響があるのではないかなと考えております。

     特に、第三者割当には差止制度や総会の開催を要求する制度などの株主保護を図る施策があり、支配権争奪のときに悪用されないように経済産業省が検討している新しいガイドラインにそって社外取締役をしっかりインボルブする、あとは取引所の規則をもっと強くするなど、いろいろな手段が考えられますので、今回は対象としなくていいのではないかなと思っています。

     自己株処分のほうは、同じ理由ですけれども、公開買付規制から排除するのが正しいと思います。

     公開買付けの強圧性の問題を巡る対応ですけれども、ⅠとⅢの措置については、先ほど申し上げましたように、全体の枠組みと併せて特に考えたいなと思っておりますので、消極的な反対。Ⅱの措置に関しては、私どもいつも感じているのですけれども、公開買付けの応募が最終日周辺に集中する、また、パッシブインデックスファンドその他、応募できない理由を持っている方もいらっしゃる。そのため、この規制を導入すると、よい公開買付けも成立しなくなってしまうリスク、様子見の株主の存在によりリスクが顕在化するので、実務を考えていただきたいなと考えております。

     公開買付規制のオプトイン/アウト制度についてはたくさん意見が出ておりましたけども、日本の取引所はなるべく上場している会社をスタンダード化していると考えており、投資家も定款とか個別のところを細かく見たりしておらず、種類株や複数議決権株をあまり認めていないことからも、定款を細かく見ないと投資できないような制度というのは日本の実情にあまり合ってないのではないかというのを付け加えておきます。

     最後の「3分の1ルールの閾値」ですけれども、オーストラリアの20%という閾値は我々の同僚に聞いていても、少し窮屈で低過ぎるという意見がありますし、ニュージーランドはスクイーズアウトの代わりみたいなところも見えますので、30%はマジックナンバーなのかなとは思います。

     ただし、先ほど、議決権行使比率について支配株主がいないところの行使比率が6割程度とありましたけれども、逆に支配株主を入れるとそれより少し上になります。アクティビストから株主提案を受けているケースや、対抗提案があるM&Aでの総会などの注目を浴びているケースでは行使比率は大体90%前後になっています。

     ですので、30%という数字の根拠としては、過半数というよりは、もめごとになっているような、非常に争いがある総会での拒否権を持つことができるのが90%の3分の1である30%であるという説明のほうが私にはしっくりきましたので、申し添えておきます。

     私からは以上でございます。

    【神田座長】
     どうもありがとうございました。それでは、続きまして、田中委員お願いいたします。

    【田中委員】
     発言の機会を与えていただきありがとうございます。私も各論点について意見を申し述べたいと思います。

     まずAの「欧州型の規制への転換」ですが、これは欧州型に転換するかどうかという形で議論するのではなくて、まさに本日各論として論点になっていることを、一つ一つ是々非々で採用するかどうかを判断していったほうが恐らくいいのではないかと思います。例えば、全部買付義務を課すかどうかということについて、それ自体として議論していったほうが生産的ではないかと思います。

     欧州型と日本の現行法制の違いとして、欧州型は事後規制であるということが言われるわけですけれども、私は、イギリスの公開買付制度を調べたことがありますが、イギリスにおいて、議決権の30%を取得した場合に課される義務的公開買付けというのは、撤回条件を付すことが原則できなくなっている点で、ある意味で懲罰的な制度になっているため、現実には、買付者は30%取得しようとするときに任意的に公開買付けをするように強く動機づけられるようになっていて、結果的には義務的公開買付けはあまり行われないということになっております。

     それから、イギリスでは、第三者割当増資で議決権の30%を取得した場合も義務的公開買付けが課されるわけですが、株主総会の承認を得ることで義務的公開買付けを免れることができるようになっています。従って、実態としては、第三者割当増資で30%を超えて取得する場合は、株主総会の決議を取れというものになっている。つまり、ある意味で事前規制のようになっておりまして、あまり事前規制と事後規制の違いは本質的ではないのではないかと思います。

     日本の場合は、もともと事前規制になっておりますので、事前規制の中で例えば市場買付けも規制に含めるべきかとか、あるいは、全部買付義務が生じる範囲について、閾値を引き下げるべきかというような形で議論をしたほうがよくて、必ずしも欧州型の規制に転換するかどうかというような形で議論する必要はないのではないかと思っております。これがAの欧州型の規制への転換に関することです。

     それから、Bの市場内買付けの取扱いですが、これは以前から申し上げていますけれども、市場内買付けも規制の対象に含めるべきであると考えております。この点に関して、7ページ目のスライドで消極意見として挙げられていることとして、市場内買付けの強圧性を理由に規制対象にするのであれば、公開買付けの強圧性に対処するための規制を課さないと一貫しないという意見があったようでありますが、私自身は公開買付けの強圧性に対処するための規制も課すべきであると思っております。強圧性に関して論じた学説の見解は、大体その点で一貫していると思いますので、強圧性だけを根拠に市場内買付けを規制対象とすべきだと主張しつつ、他方で公開買付けについては強圧性防止のための規制を課さないでよいと言っている人は、実際には存在しないのではないかと思っております。

     その一方で、では、公開買付けについて強圧性に対処するための規制を課さないけれども、市場内買付けは規制対象にするという考え方にはおよそ合理性がないかというと、そうでもないと思っています。市場内買付けの問題点は、強圧性だけには限らないと思っております。経営支配権を取得するほどの株式を取得しようとしているのにも関わらず、公開買付けにおいては課されるような情報開示や検討期間の確保も特に要求されませんので、十分な情報によらずに買収者にとって都合のいいタイミングで経営支配権取得が行われ、対象会社の株主は、十分な情報や検討期間を与えられずに判断を迫られる。市場内取引のこのような問題は、強圧性とはまた独立の問題になることかと思っております。

     一方で、経営支配権を取得する際には、公開買付けによるべきとしたとしても真っ当な買収がそれによって阻害されるとはちょっと私は思いませんので、市場内買付けも規制対象に含めるということでいいのではないかと思っております。

     それから、第三者割当増資についてですが、私はこれについても規制対象に含めるべきであると考えております。私が、従来、強圧性について問題にしてきたのは、経営支配権の取得の是非について株主が適切に判断できないということです。それとの関係でいえば、第三者割当増資というのは、対象会社の株主が適切に判断できるかどうかを問う以前に、そもそも株主に判断機会が与えられなくて、取締役会の決議だけで経営支配権の取得が実現してしまう。それに関して対象会社株主に何の保護も与えられないということこそが問題だと思っております。その点で、第三者割当増資による経営支配権の取得は、ある意味で強圧性のある買収よりも問題だという意見があってもおかしくはないと思います。

     もちろん第三割当増資について公開買付規制の対象にして、しかもそれについて何らオプトアウトを認めないことにしますと、適切な第三者割当増資も阻害してしまうことになります。しかし、この点に関しては、第三者割当増資を3分の1ルールの対象にする場合は、株主総会の承認によって適用除外を受けられるという規律とセットになると思います。 また、既に会社法にある支配権の異動を伴う第三者割当増資のルールも参考にして、対象会社の取締役会が総会決議を要求するか、または対象会社の株主のうち一定割合、例えば10分の1の株主が総会決議を要求したときだけ総会決議が必要とされるというような規律とセットになると思っています。

     そのほか、緊急に資金調達が必要になる場合、現在の会社法の下でも総会決議を不要とする例外も、セットで入れられるかと思いますので、そのような規制にすればそれほど第三者割当増資を阻害することもないのではないかと見ております。

     それと、消極意見の中で、第三者割当増資については現状あまり問題が起きていないという御意見もあったようでありますけれども、しかし我が国では、敵対的な公開買付けに対し、第三者割当増資で対抗して公開買付け自体を撤回させたケースもあり、問題が起きていないとは言えないのではないか。近年そうした事例は比較的少なくなっているという見方もあるかもしれませんが、これは、比較的規模が大きくてマスメディアのカバレッジの対象になっている事例についてはそうかもしれませんが、やはり裁判例を検討すると、特に小規模な上場会社の場合は、第三者割当割当増資による対抗というのは最近でも起きていますし、また、最近は日本版ESOPができたものですから、それに割り当てて株式を発行するというような新たなタイプの事件も起きており、決して問題がないとは言えないと見ております。

     その点でも、第三者割当については、特に、有価証券報告書提出会社に関しては、会社法の上乗せ的な規制として3分の1を超えた取得に関しては強制公開買付規制の対象にし、先ほども言いましたような手続によって、株主総会決議の承認を得た場合には例外とすると、そういう形にするのがいいのではないかと思っております。

     それから、Dの強圧性の問題を巡る対応に関してですが、強圧性に関して、私は以前からこれも規制強化を検討すべきだと申し上げてきたのですが、御提案されているものについて申し上げると、全部買付義務の閾値を下げるというⅠの措置は、これは強圧性の問題とは別に採否を検討したほうがいいと思うのです。これは先ほど黒沼先生からも御指摘があったと思いますが、全部買付義務を課すことだけでは、全部買付けの後にこれに応募しなかった既存株主が少数株主として残る可能性がある限り、少数株主になることの不安から買付条件に不満があるときでも買付けに応募してしまうことがあり得ます。従って、全部買付義務を課しても強圧性自体が解消されるわけではないと思っています。強圧性を解消するには、ここに書いてあるⅡかⅢの措置を課す必要があります。

     ですので、全部買付義務を課すかどうかというのは、強圧性の問題というよりは、むしろ支配権が取得される場合は対象会社株主にプレミアムつきで自分の株式全部を売却する機会を与えるというルールをつくるかどうかという論点として議論されるべきかと思います。

     これは、私も機関投資家向けにアンケート調査をやったりしたこともあるのですが、かなり投資家の間でも意見が分かれているところではないかと思っていまして、欧州型の全部買付義務を強く主張される方もいれば、やはり我が国では部分買収が現に行われていて、部分買収であっても買収によって企業価値が増加するときにはそれに賛成するという株主も、少なからずいるように思われますので、全部買付義務の閾値を下げことは、慎重に考えたほうがいいと思っております。

     基本的には強圧性への対処は、ここに述べている中のⅢの措置で行う。このⅢの措置は、対象会社の株主が本当に支配権取得に賛成する場合は、公開買付け自体に賛成するという形で議決権行使できるという制度です。Ⅲの措置を導入するのであれば、部分買付けを認めていいのではないかと思います。

     もっとも、部分買付けについて、Ⅲの措置を導入せずに認めてほしいという意見もあるのかもしれませんが、そうした意見に対しては、例えば、先ほど第三者割当増資に関して述べたような、対象会社の株主の10分の1がこの決議を要求したときだけ、この決議を必要とするというようなルールにすればよいと思います。10分の1もの株主が決議を要求した場合に、それを無視して部分買付けをするというのは必ずしも適切ではないと思われます。対象会社ないしその取締役会と買付者にとってやりやすい買収が、対象会社の株主にとってもよい買収であるか疑問がありますので、少なくともⅢの措置は入れるべきではないかと思います。

     一方で、Ⅲの措置を入れる際の問題点として、経営陣の持ち株比率が高いとか、あるいは、持ち合いの安定保有株主の比率が高いときに、そういった株主の権利行使によって公開買付けがブロックされてしまって、一般株主が株式を売却する機会が奪われてしまうのではないかという懸念をお持ちの方もいらっしゃると思います。

     それについては、Ⅲの措置が原則なのだけれども、全部買付けをして、かつⅡの措置にあるような応募期間の延長期間を設定する場合は、Ⅲの措置は免れるということにすればいいのではないかと思っております。これは延長期間を認めた上で全部買付けをすれば、とにかく株主としては支配権取得が嫌であれば売ることができるので、その場合はⅢの措置は不要ではないかということであります。

     延長期間が設定されると、対象会社の株主が判断を先送りし、売り渋りあるいは様子見をするのではないかということなんですが、これについては、支配権取得目的の公開買付けの場合は、下限条件が付されることが通常であると思います。そうすると、対象会社の個々の株主としては、自分が応募しないでいると公開買付け自体が成立しないおそれがあるということになりますので、様子見を決め込むといっても限度があるように思います。あくまでも様子見を決め込んで、その結果、公開買付けが不成立に終わり、株主は株式を売る機会をみすみす失ってしまうというシナリオは、私にはあまりもっともらしいとは思われません。どちらかというと、我が国の場合、関係者は何が何でも公開買付けを成立させたくて、成立しないことはそれ自体として問題のようにみなされているところが無きにしもあらずだと思っています。公開買付けが成立するかどうかは対象会社の株主の判断に任せられるべきかと思いますので、成立に必要な数の株主の応募がない場合には、それは基本的には、株主が賛成していないのだから実現しなくてもよい買収だったのだというように見たほうがいいと思っております。

     それから、Eのオプトイン/アウト制度についてですけれども、私は先ほど言いましたように、公開買付けに関してはいろいろと規制を強化するべきであると思っておりまして、このように新たな規制を設けることについて特段大きな反対がないのであれば、単に規制を強化すればいいということになるのですが、やはり規制強化には反対意見もあるかと思います。その場合、対象会社の株主の多数が規制の採用に反対し、たとえ問題のある買収が起きる可能性があるとしても買収機会が増えたほうがいいと考えているのであれば、定款で、規制のオプトアウトを許すことも可能性として考えておりました。

     一方で、定款によるオプトアウトを認めることに対しては、株主の判断は、株主の合理的無関心といった昔から言われている問題に加えて、持ち合い安定株主による議決権行使等により、必ずしも一般株主の利益に沿わない定款変更が行われるという問題があり得ます。平時における(定款変更という形でなされる)株主の判断は、有事の場合の判断と比べても、相対的に見て、どれほど信用、信頼ができるかという問題があるかと思います。また、定款によるオプトアウトの場合、新たにその会社に投資しようとする投資家が必ずしもそれについてよく知らない、調べるということも結構大変であるというような面もあって、これはメリットとデメリットがあるかなと思っています。

     ですので、私としては、特定の規制を入れるか入れないかで意見が分かれた場合は、オプトアウトを認めるという制度付きで当該規制を入れることも選択肢として検討してもいいのではないかと考えております。一方で、実体的なルールに関してどういう規制を入れるかについて、意見が一致するのであれば、必ずしもオプトアウトという制度を導入しなくてもいいのかなとも思っております。

     最後、3分の1ルールの閾値ですが、この閾値の選択は、改正後の規制の下で防衛策をどこまで許容するのかという、非常に難しい問題と組み合わさっていると思います。私は今の日本社会にとって何が一番いいかを考えたときは、強制公開買付けルールの閾値を20%まで下げた上で防衛策を禁止するというのがいいのではないかと思っております。

     これは現在の3分の1という閾値の場合、かなり多くの上場会社では3分の1未満の閾値でも実効支配されてしまうケースがあるので、規制が十分ではないということがあります。一方で、現行法では防衛策が相当程度に許容されているわけですが、必ずしも会社関係の紛争に通じていない裁判所が、いつ起きるとも分からない紛争が起きる度に判断を強いられているため、十分に予見可能かつ合理的なルールの設計にこれまでも必ずしも成功していないし、今後もどの程度成功するか分かりません。こういう問題を考えたとき、20%まで閾値を下げて、一方で、欧州的なニュートラルティールールを文字どおりの意味で採用して、防衛策はもうなしにするというのが世の中にとって一番いいのではないかと最近は考えております。

     ただ、このワーキング・グループでは防衛策というのは論点に入っていないと思います。金商法と会社法という、規制当局の権限分配の面もあり、ヨーロッパであれば論点になるはずのニュートラリティールール(公開買付けに対しては対象会社の取締役会は中立を保たなければならないというルール)に関しては論点になっていないということがあります。そのことを前提にすると、恐らくこの改正がなった後も、防衛策をどの程度認めるかというのは、引き続き裁判所の解釈に委ねられるということになるのかなと思います。そうであれば、閾値をあまり引き下げるというのはやはり疑問があります。閾値を引き下げた上で、さらに防衛策も認められる余地があるとすると、買収が過度に阻害されるということにもなります。それを考えれば、閾値を下げるとしても、あまり引き下げるというのは難しく、ヨーロッパを参考にして、30%程度が限度になるのではないかという認識を今は持っております。

    以上です。

    【神田座長】
     どうもありがとうございました。

     それでは、続きまして、神作先生、どうぞお願いいたします。

    【神作委員】
     神作でございます。御指名ありがとうございます。私は大きく4つの論点に絞って発言させていただきたいと思います。

     初めは、Aの欧州型の規制への転換についてでございますけれども、田中さんが先ほど言われましたように、個別の論点を積み上げていくことが大事だと思いますが、しかし、公開買付規制全体を通じた考え方、原理原則によって一貫した理論的説明ができることが望ましいと思われます。

     そのような観点から、第1に、公開買付けに関する情報提供は、公開買付けに係る事実関係を知った上で投資者が意思決定できるために必要な情報と時間を確保することが1つの大きな原則になると思いますし、第2に、支配権が関わってくる場合には、特に投資者である株主の平等取扱いが重要になってくると思います。

     欧州型に移行するかどうかという点にも関わるのですけれども、私は現行の日本法の3分の1ルールと3分の2ルール、すなわち、支配権の言わば強度に応じてグラデーションのある投資者の平等取扱いについて考えるというのは、1つの合理的な考え方であって、市場内買付け等についてきちんとカバーをすれば、現行の枠組みの下でも、投資者の平等取扱いという観点から、3分の1ルールの下ではプレミアムを含む割合的な公平な分配、それから、3分の2ルールの下では保有株式全部についての退出権の保障という形で、内容は違ってきますけれども、投資者の平等な取扱いという観点からは統一的な説明ができるのではないかと思います。統一的な説明ができるように、制度設計、制度改正をしていくことが重要であると思います。

     続いて、20ページの市場内取引の取扱いでございます。支配権の変動をもたらし得る株式取得に関する情報提供を受けた上で、適切な判断期間を確保し、投資者である株主を平等に取り扱う必要性は、市場内取引であろうと市場外取引であろうと同じであると考えます。

     したがいまして、公開買付けの対象範囲に、市場内取引についても3分の1ルールを適用すべきということを私は支持したいと思いますけれども、その際難しい問題は、公開買付けの価格について、平等取扱いが確保されるような形で、かつ、投資者の誰もが不利益にならないような形で価格規制を行うことが重要で、その内容を検討する必要がありますが、かなり難問であると思います。

     それから、第三者割当の取扱いでございますけれども、これも理屈の上では、支配権の変動をもたらし得る場合には、3分の1ルールの適用対象にするということが原則となると思いますけれども、既に御指摘がありましたように、価格規制の難しさや適用除外の設定等の難しさがあり、特に第三者割当の場合には、もちろん買収防衛という使われ方もありますけれども、正当な資金調達目的の場合ももちろんあり得るわけですので、対象会社の資金調達に支障が生じないような適切なルールを設計する必要があると思います。

     続きまして、スライドの21ページでございますけれども、公開買付けの強圧性の問題でございますが、強圧性の問題は主として何によって生じると理解しているかと申しますと、要するに、株主間で意見交換とかコミュニケーションが十分にできずに、株主がどのように行動するか分からない。そのために、当該会社が公開買付けによって将来どのような支配構造になるかということが極めて不確実だという疑念の中で意思決定をするということが問題だと考えています。

     そのような理解に基づくと、例えば、ⅡやⅢの措置にありますような、ほかの株主の行動、あるいは、ほかの株主の意見を聞くということが基本的には強圧性解消の手法になると思われます。それとともに、買付期間を延長するということも、もう一つの強圧性を緩和する大きな手法であると思いますけれども、例えば、Ⅱの措置につきまして、反対意見もあるということは重々承知しておりますが、公開買付けが成功したときには追加の応募を可能にするといったことですとか、あるいは、公開買付けに関わる株主総会が招集された場合には、少なくとも公開買付けの最長期間まで公開買付期間の延長を認めるといった、株主の判断期間の確保による強圧性の解消という考え方もとれると思います。

     最後に、スライドの22ページの閾値について申し上げます。本日、データを御提示いただきまして、30%に引き下げる可能性というのは十分にあり得るかなと思いましたけれども、他方で、現行法の3分の1ルールや3分の2ルールは会社法の特別決議の要件とリンクしていると思いますので、確たるデータ、相当しっかりしたデータがあって始めて30%に下げることができるのかなという感想を持った次第です。

     以上、御発言させていただき、どうもありがとうございました。

    【神田座長】
     どうもありがとうございました。

     それでは、次に、堀井委員、どうぞお願いいたします。

    【堀井委員】
     私からは、投資家として気になる部分についてお話します。

     まず、欧州型の制度趣旨です。支配権移転の場面において少数株主が公平な価格で売却する機会を確保するための制度という点は、投資家として非常に重要だと考えており、これを担保できる形に近づけることが望ましいと思っております。

     次に、市場内取引の取扱いですが、支配権に影響を与える取引については、対象会社の株主に十分な情報と熟慮期間を与えるべきという意見には賛成で、投資家にとって基本的な原則にようなものとなので、市場内取引についても当然対象とすべきと考えています。

     続いて、部分買付けについてですが、今までの各委員からのご指摘の通り、親子上場問題と密接に関係するものと考えています。部分買付けは全部買付けに向けた通過点、こういう整理も成り立つと理解していますが、長々と部分買付けの状態を続けることは利益相反を中心とした様々な問題につながるため、好ましくないと考えています。こうした観点から、当社では既存の親子上場会社に対してその解消に向けたエンゲージメントを行っています。このように現状でもエンゲージメントを通して親子上場の解消に努めているため、部分買付けによる新たな支配株主の登場は基本的に好ましくないという考えです。

     また、もともと株主分散構造で支配株主がいないところに突如として考え方の異なる支配株主が登場するというケースと、従前からの親子上場状態を認識したうえで株主になるというケースでは、若干違うのではないかと思っており、前者の突然に考え方の異なる支配株主が登場するケースでは、もう一度投資家として投資判断をやり直したいというニーズがあるということです。

     以上の状況から、制度的にすべてをイエス、ノーという形で白黒きっちり判断するのは難しいと思うのですが、少数株主の退出機会については考える時間や情報がしっかり確保されるべきだと考えています。

     私のコメントは以上です。ありがとうございました。

    【神田座長】
     どうもありがとうございました。

     それでは、次に、齊藤委員、どうぞお願いいたします。

    【齊藤委員】
     齊藤でございます。発言の機会をいただきましてありがとうございます。

     平成2年改正は、当時の解説資料に英国を参照したという説明も認められるのですが、現在からみると、実際の英国の規律とはずいぶんと違っておりまして、その後のEUの動きに照らしましても、比較法的に、当時の日本は非常に特殊な規制を採用したと言えます。

     その後、市場内取引は特に規制をする必要がないものとして、改正で規制の対象拡大が図られたときにも、問題となっている取引が典型的な市場内取引と言えるのかどうかという点に着眼した線引きがされ、このことが、我が国の公開買付けの対象に関する規律が非常に複雑になる要因となってきました。

     3分の1ルールは支配権異動局面に着目しているのであれば、その点につき十分な情報と時間が確保された投資判断を保障するものであると位置づけて、今後、日本の制度を漸次的に整理・改善していくのが望ましいのではないかと思われます。

     欧州型の事後的な強制全部買付義務につきましては、取締役の中立義務やセルアウトなどの会社法的な規律とも足並みをそろえて整備していくのがよいと思われまして、今回の検討対象が、金商法の改正のみに留まるのであれば、金商法の内部の論理で説明し得る部分のみを手当てしつつ、先ほど述べたような方向性に道筋をつけ、今後、議論をさらに深めていくというのが1つの可能な方向ではないかと思っております。

     支配権異動局面における十分な情報と時間の確保という観点からは、市場内と市場外を区別する必然性は乏しいことから、3分の1ルールにおいて市場内外を区別することなく規制をしていくのがよいと思われます。そういたしますと、現在対象とされている個々のカテゴリーもすっきり整理することができ、分かりやすい規制になるのではないかと思います。

     新株発行につきましては、平成26年会社法改正で対応されたところでもございますし、今回の検討の趣旨からは、会社法206条の2について上場会社の例外を定めるようなことは考えられると思うのですけれども、それは、会社法の改正になりますことから、新株発行は今回の改正の対象外とし、事後的な義務的な公開買付け制度に完全移行するときに、規制対象に含めていくというのが1つの考え方ではないかと思います。

     部分買付けにつきましては、我が国では部分買付けが多数なされているという現実に照らしまして、直ちに厳しく制限をすることに対しては、近い将来にM&Aをしようと検討している関係者の中には抵抗を感じることもあるものと予想されます。

     しかしながら、部分買付けに伴う強圧性の懸念については共通認識が形成されつつあることもございますので、今回の改正では、例えば、原則・例外という形で部分買付けに関する考え方を整理し、部分買付けを実施したいのであれば、その必要性や条件・実施方法の妥当性、特に潜在的な利害関係者の保護が足りているのかにつき、買付者が、その利害関係者の支持を集めるよう、説得をしなければならない立場に置くような規律を導入し、その後の様子を見て、例外が認められる場合が広過ぎるというのであれば、それを例外を狭く、厳格にしていくという方向が考えられるかと思います。

     その点に関連しまして、スライドで示されている「強圧性のおそれを解消・軽減させる措置」Ⅰ、Ⅱ、Ⅲについて、部分買付けにはⅢの措置を導入しつつ、全部買付けを行う場合にはⅡの措置というのは、妥当な案であるように思われる一方で、他の委員から御指摘があったように、Ⅱの措置については様子見株主が増えるおそれがあるという懸念は私も持っております。

     ですので、Ⅱの措置を強行法として導入するのであれば対象となる延長期間をあまり長くしないということが大事であると思われます。強行法にせず、任意に延長し、強圧性を排除する方法を提供するという案も御指摘にあがっていたと思います。特に、第一段階で応募した株主の撤回を認めない形で延長期間を設定するというニーズはあると思いますので、Ⅱの措置を強行法的に導入しないとしても、任意にそのような形で延長できるような制度を導入していくことは、実益があるのではないかと思います。

     オプトイン、オプトアウトにつきましては、柔軟な対応という側面もあり、また、いきなり厳しい規制を導入することに対して抵抗感を感じる関係者の不安や不満を緩和するという意義もあるかもしれませんけれども、定款という形で将来にわたって株主の権利を大きく変える変更については、上場会社の株主総会が適切に判断できるのかという観点からも、慎重に検討する必要があるのではないかと思います。

     以上、長々と失礼いたしました。ありがとうございます。

    【神田座長】
     どうもありがとうございました。

     それでは、続きまして、桑原委員、どうぞお願いいたします。

    【桑原委員】
     ありがとうございます。桑原です。発言の機会ありがとうございます。私も上から順番にコメントをさせていただきます。

     まず、欧州型への規制の転換の点について、既にいろいろな御意見が出たところでございますが、私も中長期的な課題として検討を重ねていくことは考えられると思いますけれども、今回の改正を検討する際に、欧州型の規制に転換するということを前提にして議論を進めていくかというと、そこまで日本の実務の状況に抜本的な問題があるのかと思いますし、また、先ほど御発言の中にあった、売却を選択しなかった残った少数株主の保護をどうするのか、セルアウトのような仕組みをどこでどう入れていくのかなど、かなり大がかりなことをやっていかなくてはならないと思いますので、個別の論点について検討するときに参照することはあっても、そもそも大きく切り替えるというのはあまり現実的ではないのではないか、あくまでも中長期的な課題として考えていくべきではないかと考えております。

     続いて、市場内取引の点ですが、こちらも既にいろいろな方がおっしゃいましたけれども、私も市場内取引を3分の1ルールの適用対象とすることについては賛成でございます。いろいろな事例の集積の中で、市場内取引でどんどん買い進められていて、透明性が保たれない、公平性が保たれないというような事例も実際に出てきておりますので、強圧性の観点というよりは、先ほども御指摘がありましたが、会社支配権に影響を及ぼすような取引における透明性・公正性を高めるということを制度趣旨として整理していくのがよいのではないかと考えております。

     それから、次の第三者割当のところでございますが、オプトアウトといったアイデアも田中先生がおっしゃって、なるほどとは思ったのですけれども、発行会社の資金調達の必要性が差し迫っている場合、スポンサー探しをしているような状態で公開買付けが原則になるというのは、実務上の影響が大き過ぎるのではないかと思います。ここは既に東証のルールや会社法で一定の手当てがされているので、そちらのほうでさらに考えていくべき点と整理をするほうがよいのではないかと考えております。

     自己株処分については、個人的には公開買付けの適用除外とするほうが整合的だと思っております。ただし、金商法全体として、インサイダー取引規制などでの取扱いとの整合性も考えていかなくてはならないと思いますので、全体感を持って検討する必要があるものと思います。

     続いて、強圧性の問題でございます。部分買付けについては、再三御発言もありましたけれども、現在の日本の実務では、健全な部分買付けが行われている事例もございますので、全部買付義務の閾値を一律に引き下げるというのは、私としては反対でございます。実務への影響が大きいと思いますし、全部買付義務の閾値を下げて、応募しなかった残った株主をどうするのかということも考えていかなくてはならないと思いますので、Ⅰの措置を取るのには反対でございます。

     それから、部分買付けにおいてⅢの措置を入れるというのは考えられる方向性であると思いますけれども、全ての場合にこれを入れるというよりは、一定の要件で考えていく必要があるだろうと思います。対象会社の取締役会または10分の1の株主が求めた場合という話が出ていましたが、そういった一定の条件を満たす場合にこれを入れていくというように整理をすべきではないかと思います。公開買付期間中に株主総会を開催するような制度になれば全体で3か月ぐらいはかかってしまうと思いますが、そうした時間的なこと、コスト的なことも考えると、適用場面をある程度限定しながらⅢの措置を入れていくというのがいいのではないかと思います。

     それから、Ⅱの措置ですけれども、これもオプショナルなものとして入れるというのは確かにあり得るかなと思いましたが、一方で、応募期間の最後になだれ込みのように応募がされるという実務もあるので、本当にうまくワークするのかというあたりは、もう少し検討をしていったほうがよいのではないかと思います。

     それから、次のオプトイン、オプトアウトですけれども、現行制度への指摘として、株主の意向に応じて公開買付規制の適否を決める必要性は異ならないはずといった記載がございましたけれども、私としては、種類株式発行会社における異なる種類の株主の取扱いを決めるというのは、1種類の株式しか発行していない場合と同一に論じられないように考えております。

     実務では、会社の業況が悪くて財務基盤の改善や事業再生のために優先株を発行したケースにおいて、その後、優先株をきちんと処理しないと、例えば、一般株主に復配ができない、何とか優先株をうまく処理しなくてはいけないといったニーズが出てくる場合もありまして、そうした優先株の処理に関して普通株主の意向確認をしてうまく処理をしましょうという場合と、1種類の株式しか発行されていないケースでは、状況がずいぶん違いますので、ここは一律に平仄を合わせて議論するというよりは、現行制度の維持でよろしいのではないかと考えております。

     それから、最後に、3分の1ルールの閾値のところですが、議決権行使比率を調べていただいてありがとうございます。ただし、ここは、先ほど御説明にもありましたけれども、当日行使分が含まれていないということで、実際の数値よりはやや低めに出ていると思いますので、現行の3分の1を維持するということも考えられるのではないかと思いつつ、確かに会社支配権に影響を及ぼす数値ということで、30%というのを選ぶというのも考えられるかなと思っているところです。

     ただし、これより下げるというのは抵抗がございます。実務では、持分法適用会社として20%以上の議決権を保有・維持するという場合に、例えば、取締役に対する株式報酬やストックオプションの行使により小さなダイリューションが起こるので、20%プラスアルファをもって持分法適用会社として、例えば資本業務提携を行うといったニーズがございます。こういう場合に、例えば20%を超えると全部TOBというと、かなり実務への影響も大きくなってまいりますので、あまり下げ過ぎないほうが実務としてはやりやすいのではないか、そして、また、真っ当な実務というものがそこにあるのではないかと考えております。

     以上です。

    【神田座長】
     どうもありがとうございました。

     それでは、次に、高山委員、どうぞお願いいたします。

    【高山委員】
     高山です。発言の機会をいただきまして、どうもありがとうございます。私は3分の1ルールの閾値について意見を述べます。

     事務局の資料にありますように、現在の議決権行使比率を鑑みて、閾値を下げるというということに私は賛成いたします。この議決権行使比率についてですけれども、実務の観点から若干補足させていただきたいと思います。

     こちらには平均値、中央値が出ていますけれども、時価総額によって実際の議決権行使の比率というのはかなり異なります。参考資料にもありますように、時価総額が高い企業であれば行使比率は非常に高く、時価総額が低い企業であれば行使比率がかなり低くなっているという状況にあります。これは株主構成の違いによるもので、時価総額が高い企業においては、議決権行使比率が非常に高い機関投資家の割合がかなり高くなっている。一方で、時価総額が小さな企業では、機関投資家の割合が非常に低いということがこの比率、数字に反映されています。

     現実に公開買付けの対象となる企業の時価総額を考えますと、時価総額が比較的低い企業が対象になることが多いように思います。その観点から考えますと、彼らの議決権行使比率というのは、全体の平均値や中央値よりも低いところにあるという状況にあります。もちろん、有事の場合には、個々の株主、例えば、個人株主にそれぞれコンタクトして議決権行使比率を上げるということは可能ですし、現実にそれは行われています。ただ、そのための労力であったり、コストというのはかなりのもので、企業の負担というのはそれなりにあるというのが現状です。

     以上から考えまして、最初の話に戻りますけれども、3分の1ルールの閾値を下げるということに賛成いたします。具体的にどの数字が適切かというところですけれども、ヨーロッパにありますような30%というのが1つのめどになるのではないかというふうに考えます。

     私からは以上です。

    【神田座長】
     どうもありがとうございました。

     それでは、続きまして、玉井委員、どうぞお願いいたします。

    【玉井委員】
     玉井です。発言の機会をいただき、ありがとうございます。

     まず、欧州型の規制への転換のところですけれども、確かに理屈としては非常にすっきりと説明ができて個別の論点についても整理がしやすくなるということはありますが、非常に大きな制度の変更になりますので、この点については、極めて慎重に検討すべきかと考えています。

     石綿委員だったと思いますけれども、これを導入するという方向に行くのであれば、その前に実務界においての丁寧なヒアリングをすべきではないかというお話がありました。また、角田委員のほうからは、少数株主保護という観点からすれば、その退出の機会の確保の点だけではなく、より広く少数株主の保護の在り方を別途しっかりと検討すべきではないかというご意見がありました。私もいずれについてもそのとおりだと思うところです。

     例えば、少数株主の保護という観点では、退出機会の確保ということに加えて、それ以外にもいろいろ工夫の余地はありそうにも思われます。コーポレートガバナンス・コードでも、近年、支配株主を有する上場会社について独立社外取締役の増員や特別委員会の設置といった利益相反に配慮した施策の工夫というような、ガバナンスの観点からの定めが入ったということもありますので、そのような施策の実効性についても、まだ検証は未了ではないかという感じもいたしますし、この辺はもう少し議論を続けたほうがいいのでないかと考えています。

     欧州型ということですと、部分買収を認めるかどうかというところが理屈としては1つ大きいと思うのですけれども、これもお話に出ていましたが、事業会社ではストラテジック・バイヤーが通常のM&Aの選択肢をいろいろ検討するときには、全部買収ではなくて部分買収というものがある前提で検討しているというのが実情です。結果として、いわゆる社会経済的にも望ましい買収が実現されているという実例自体も出ていることは間違いないと思います。これがやりにくいということになると、望ましい買収というもの自体が出てくるチャンスが減ってしまうのでないか、そういう意味で、M&Aの阻害要因となる可能性が大きくなってしまうのではないかというところが気になっております。

     1つ関連して、これも先ほども既に田中先生が指摘されていたところですが、事務局資料の4ページの注のところに非常に細かい字で英国での実際の買収実務について書いてあります。事後的な義務的公開買付けが行われている例というのは実は非常に少なく、53件中1件となっていて、実際はボランタリーオファーがかなり行われているということのようです。そういう実態も踏まえると、ある意味、原則と例外が逆転した実務が行われているということがあるようです。そのような中で、わざわざ日本でこのようなタイミングで欧州型に切り替えるというほどのニーズもまだ日本の実務上は確認されていないのでないかというような気がいたします。

     市場内取引の扱いについてですけれども、これはいろいろな方がおっしゃっていましたが、私もこの市場内取引について、3分の1ルールを導入することについて賛成ですし、今回のこの見直しについては、特に重要なポイントではないかと考えています。

     仮にここの改正を行うとすると、証券取引の透明性・公正性という観点から説明ができるだろうかといった問題提起というのがあったように思いますが、ここは「証券取引の透明性・公正性」という言葉の中にどういう意味を込めるのかということにもよるのではないかと思います。今までも出てきているように、支配権取得の意向や取得後の経営方針についての情報といった、支配権取得を前提にした必要十分な情報をきちんと提供した上で株主が判断できるようにするということも、透明性・公正性という観点から重要なポイントだと思いますので、その文脈の中で説明できないということはないのでないかと考えています。

     第三割割当増資の取扱いについてですけれども、こちらはやはり、実務家の立場からしますと、第三者割当増資という形で成長資金あるいは財務的な支援を対象会社に対して供給する取引というものと、株式の売買という形で既存株主に対してその代金を対価として渡す取引というのは、そのニーズも買付者にとってのエコノミクスも全然異なるわけなので、第三者割当増資についてもTOB規制を及ぼすということについては、資金調達の阻害要因にならないようにという観点から、なお慎重に考えるべきだと思っています。

     資料にもありますけれども、第三者割当増資については平成26年改正会社法で一定の手当てがされているということもございますので、あえて今回TOB規制のところの上乗せをする必要まではないのではないかと考えているところです。

     強圧性の問題に関しては、一定程度対応すべきだというところについては異論ないのですけれども、この資料の中に出ているⅠ、Ⅱ、Ⅲの措置については、私自身はⅢの措置がいいのではないかと思っています。

     他方で、全ての取引について必ずこういうステップを踏むということになりますと、煩瑣といいますか、ある程度負担が大きくなってしまうので、これまでも何人かの方がおっしゃっていましたけれども、先ほども申し上げた会社法の規定の借用といいますか、考え方をここにも適用するような形で、対象会社自身あるいは取締役会なり経営陣、または、10分の1の株主が反対の通知をするといったことがあれば、株主総会の承認を必要とするという形の設計が考えられるのではないかと思います。

     そうすることで、取締役会としても、一般株主の理解を得るために、この取引がどのように企業価値の向上に資するのか、望ましい取引なのかという点について、株主に対する説明責任を尽くそうというインセンティブにもなりますし、開示の充実にもつながるのではないかと考えています。

     それを前提にして、Ⅱの措置についても、強制的にということではなく、任意でオプショナルにそういう手法を取り入れるということも考えられるのではないか。特に全部買付けとの関係で、そのような対応を採れるようになるのは望ましく、特に任意に入れるということであれば、反対する理由もないかなと思います。

     応募の差し控えというか、様子見をする株主がいる問題あるいは、公開買付期間の最後に集中して応募があることとの関係でうまく機能するかといった問題は確かにあるとは思いますけれども、後ろのほうの追加応募期間を短くする前提で、任意の選択肢として用意すること自体はよいのではないかと思います。

     最後に、3分の1ルールの閾値のところですけれども、こちらについては、私も他の国の閾値の例なども見ましても、30%まで下げることはやってもよいのではないかと思います。今回お示しいただいた60%程度という数値が当日の行使分は含まない前提とのことでしたが、それを踏まえても、30%というレベルまで下げるのは問題ないのかと考えています。

     以上です。ありがとうございます。

    【神田座長】
     どうもありがとうございました。

     それでは、続きまして、藤田先生、どうぞお願いいたします。

    【藤田委員】
     順に従って意見を申し申し上げさせていただきます。欧州型への賛否という形で立てられている論点は、欧州型への賛否というよりは、どういう制度設計にするか、どういう趣旨で公開買付制度を説明するかという問いなので、いきなり欧州型に賛成か反対かという形ではなく、答えさせていただきたいと思います。

     以前にも申し上げましたけれども、我が国の買収実務から離れて、抽象的な制度趣旨から演繹的に結論を出したりしてはならないのは言うまでもありませんが、他方、現在、目に見えて問題があるところだけ個別に手当てして、何とか理屈を後でつけるようなことを繰り返していくと、規制の全体像が見えなくなってしまって、理解が得られない制度になるということもあるので、そちらにも注意しなくてはならないと思います。国際的な理解が得られるようなルールになっているかという視点が必要だという御指摘が、さきほどどなたかからあったと思いますけれども、その点も含めて、個別な目の前のニーズだけをカバーする改正を積み重ねるようにならないようにすべきであるという視点も必要だと思います。

     その上で、市場内取引を規制対象に入れず、第三者割当も入れないとしますと、微調整をするだけということになりますので、基本的には、改めてルールの趣旨の説明は考えなくていいことになるのですが、恐らくほとんどの委員はこのような選択肢は考えてないと思うので、それは除外します。

     そうなると、市場内取引も規制の範囲に入れて第三者割当も入れるか、市場取引は入れるけれども第三者割当入れないか、いずれかがほとんどの方の意見だと思うので、その選択肢について説明しますと、仮に市場内取引も入れて第三者割も規制範囲に入れるとすると、制度の説明はある程度しやすくなると思います。支配権取引についての包括的な規制ということになるので、株主に十分な情報と熟慮期間を与えるためのために支配権取得は公開買付けで行うことを原則とするという建てつけで、一応、説明はしやすくなると思います。

     ただし、第三者割当を規制範囲に入れますと、3分の1を超える場合については、公開買付けとうまく接合できず、結果的に第三者割当の単なる禁止になってしまうので、結局、会社法206条の2の閾値を思い切り下げるのと同じような性格の規制になってしまいます。金商法でやっていいのかという話も出てくるかと思いますが、仮に導入するとしても、併せて会社法206条の2が認めるような、例えば、総会決議による除外とか、一定の緊急事態の場合の例外とか、こういったことも考えていくことになるとは思います。また当然のことながら、自己株式の処分も規制対象に含めることになると思います。

     ただし、ここまで規制範囲を広げてしまうと、欧州型と適用範囲がほとんど同じになってしまいます。その上で、部分買付けを認める余地があるかどうかのあたりを、さらに日本的なコンテクストで柔軟に例外を認めていくか、つまり、建てつけは欧州型にしつつ、適用除外を柔軟に設定するかという問題になっていくのだと思います。

     次に、仮に市場内取引も取り入れるけれども第三者割当は入れないとすると、目に見える弊害のところだけ対処するという受け入れやすい改正にはなるのは確かですが、制度趣旨が非常に説明しにくくなって、ますます特異なルールになってくる気がします。制度趣旨が一貫して説明しにくいのは、今でも同じといえば同じなのですが、そもそも企業買収自体が非常にまれであった3分の1ルールが導入された当時ならともかく、今、改正するときに、説明ができないような方向での改正をさらに積み重ねるというのは、非常に疑問に思います。あえて説明するなら、支配権の取得は株主に重要な情報と熟慮期間を与える形で行うべきだから、公開買付けによるけれども、新株発行は会社法で株式取得規制があるから除外するという説明になるのでしょうが、会社法の規制とはあまりにも段差が大き過ぎますので、うまく説明できるのか疑問が生じて、結局、規制の結果をそのまま趣旨と言い換えているだけの開き直りのようにも思います。

     そうなると、市場内取引を入れて第三者割当は規制範囲に入れないというのは、ちょっと賛成しにくいのですが、両方とも規制に取り込むとすると、第三者割当の場合の例外の設定も含め、かなり大幅な改正になります。総会決議でのオプトアウトとか緊急の必要がある場合の例外とかいった話は、そもそも金商法で入れられるかどうかもよく分かりませんが、そうなってくるといっそ欧州型に転換するほうが素直にも思えます。ただ、一足飛びに移ろうとすると、スライドの5ページに書いてあるように、健全なM&Aを阻害しないように、ある程度例外を柔軟に認める必要が出てくると思いますが、そうなると、それを判断できる専門的機動性を有する機関が存在しないことが最大のネックになって、こういう制度の整備に手をつけないまま、いきなり欧州型に移れるのかという、そういう疑問も出てきます。

     そうすると妥協的ですが、今までそれに近い意見を言われた方は何人かいらしたように、この研究会の結論としては、日本の現状だと必要がないから欧州型に行くべきではないとか、日本のM&A実務を害するから行ってはいけないといった切り方ではなくて、むしろ、公開買付規制を包括的にする、つまり、公開買付規制というのは支配権の移転に関する包括的な規制という性格を持つようなものに変化してきていることは正面から受け止めて、そうなったら欧州型への移行というのはむしろ、あるべき方向としては十分考えられる、単に可能性としてあるという以上の魅力のある方向性だということははっきり示し、基本的な方向性としては支持もできるようなものだということまで示した上で、ただ、その上での必要な体制は何か、あるいは強制公開買付けが外れる場合は何かといった問題点を長期的に検討するとして、今回は直ちに取り入れないけれども、将来の方向としては、むしろそちらのほうが筋なのだというぐらいのスタンスでの結論を示すのがいいように思っております。

     ただし、3分の1ルールについて欧州型は適用しない場合でも、3分の2ルールだけについては欧州型に転換することも考えていいように思います。こちらは残された零細株主の保護という趣旨は、3分の2の取得の原因を問わないはずですから、現行法のような規律の仕方がむしろ説明しにくいと思います。市場内取引、第三者割当を入れるとほとんど穴は埋まりますけれども、やっぱり建てつけとしては欧州型のほうが自然なのだとは思います。

     次に、強圧性の問題を巡る対応については、多くの方が言われたように、ⅡとⅢの措置の組合せでいいと思います。ただし、Ⅲの措置は、総会決議を常に必要とするというよりは、一定の株主からの申出があった場合の会社法206条の2のような規制のほうがいいようには思います。

     オプトアウトはあまりニーズがないのは分かるのですが、種類株式についてだけ存在するというのも整合性を欠くと思いますので、仮に欧州型にするなら、もちろんオプトアウトを入れるほうがいいと思います。そしてまた、支配権取引の透明性のようなことを言いますと、公益的な性格の規制になってくるので言いにくいのですが、特定の会社の株主の退出権という発想を取り入れるなら、オプトアウトというのは入れられないわけではありません。

     欧州型に移らない場合でも、第三者割当を対象に含めるなら、一定の範囲でのオプトアウトは必要だと思います。この場合、ただ、第三者割当だけを対象としたオプトアウトというのも変なので、公開買付規制全体のオプトアウトにしてもいいようには思います。ただ、これを定款でできるようにすべきかどうか、オプトアウトの要件はちゃんと詰める必要があると思います。

     最後に、3分の1ルールの閾値は、データから30%の移行はあってもいいように思うのですが、3分の1ルールについて実質的な支配力で考えるというのであれば、3分の2ルールの閾値についてどう考えるかという問題が出てきます。欧州型に移行しない場合の話ですけれども、その場合どうなるか私はよく分かりません。ひょっとしたら3分の1ルールのほうは3割程度で実効的な支配ができるのかもしれませんが、キャッシュアウトしようと思ったら、ほとんど3分の2近く取っておかないとキャッシュアウトはできないのかもしれませんので、この辺りは、もし3分の1ルールを実質基準で3割程度に、あるいは、さらにそれ以下に落とすのであれば、3分の2に関するほうも、何らかの実質に関するデータを示していただければと思います。

     以上です。

    【神田座長】
     どうもありがとうございました。

     それでは、次に、太田委員、どうぞお願いいたします。

    【太田委員】
     お時間頂戴いたしまして、ありがとうございます。

     私ども実務サイドのスタンスとしましては、まず、M&Aや株式所有につきましては、各案件の経緯、各時点でのそれぞれの戦略等、ビジネスにおける個別具体的な状況に応じた様々な検討を要する局面を想定しております。一律、上場会社を対象とするからということではなく、個別個別の戦略に応じた対応をしていくということを大原則に考えており、部分買付けに関しても上場会社との間で例えば資本業務提携であるとか様々なケースにおいて実際に行われてもおり、今後も、一定の需要が国内ではあると想定しています。

     一方で、御指摘もございましたとおり、上場子会社や上場関連会社につきましては、どうしても利益相反のリスクの存在自体は否定はできず、様々な御指摘があることも承知をしております。それにつきましては、コーポレート・ガバナンス報告書での開示や、様々な投資家の皆様とのエンゲージメント等いろいろな機会を通じまして、支配株主もしくは支配的株主として、様々要請されているところに対応するということも考えております。

     その上で、しっかりとしたガバナンスというものは大前提として必要であるとは思いますけれども、先ほど申し上げましたとおり、部分買付けであるとか部分保有というものは、国内では引き続き許容されるべきではないかというふうに考えております。

     したがいまして、1つ目の欧州型規制への転換というところで、全ての事例について全部買付義務を課す大きな転換は、M&Aの一定の機動性、柔軟性というものの維持の観点からも、私どもとしては賛成しかねるというところでございます。

     次に、市場内取引及び新株発行を通じた支配権の異動というところに関しまして、皆様方の議論を種々聞いておりまして、おっしゃるとおりと思うことも多々ございました。ただし、一部には、確かに不健全といいますか、例外的なケースというものはあろうかと思いますけれども、必ずしも全ての取引が少数株主の皆様の利益を害するということに直結しているものではなく、企業価値向上にプラスに働くということも実際あると思いますので、一律の規制というところに関しましては、どの程度ニーズがあるかを含め、様々な方々の意見も聞いた上で決められるべきではないかというふうに考えております。

     M&Aをしていく中で、機動的な実施というものが相当程度妨げられるというようなことになりますと、M&A市場の活性化という観点からも非常に重要な問題が生ずると考えておりますので、その辺についても配慮いただきたいと考えております。

     現時点で、ビジネスの現場としましては、既にある規制、急速買付規制や大量保有報告規制を意識して動いておりますけれども、後日の論点ともなるのかもしれませんが、大量保有報告制度の実効性の確保といったところでのケアがどの程度できるのかということもしっかり勘案した上で、実際に公開買付規制という一番大きなところにメスを入れるべきなのかというところは改めて考えてみたいというふうに思います。

     また、仮に市場内取引が公開買付規制の強制に服するということであったとしましても、3分の1の閾値を超える、いわゆる支配権の異動を伴うタイミングと、それ以外の3分の1を超えた後50%以下といったあたりの買付けといったところは、また考え方もある程度違うのではないかと考えております。都度公開買付けを必要とするとなりますと、我々からすると、非常に時間も要しますし、準備期間であるとか、それから、プレミアムをつけていくということのコストというのも都度かかってまいりますので、その辺のところも、M&Aの機動性という観点からもぜひ検討していきたいと考えております。

     新株発行につきましては、先ほどもどなたかの議論であったかと思いますけれども、東証の規則であるとか会社法のルールにおいて既に手当てをされていると考えておりますし、発行会社にとっての資金調達の非常に重要な選択肢の1つと考えておりますので、こちらにつきましても、公開買付け規制の対象とするということがたちまちに必要であるとは考えておりません。

     それから、強圧性に関しても、議論としては同じ議論となります。手続の煩雑化、長期化というところは、実務としてはなかなか受け入れるハードルは高いと考えております。ですので、その辺につきましても、相当程度の必要性を前提として、先ほどから議論されている通り、いろいろな任意の手続であるとか、場合分けをするであるとか、資料のⅠ、Ⅱ、Ⅲの措置として記載があるものをさらに細かくしっかり見ていって、適切な対応をしていく、措置を考えていくということにこれからなっていくのかと思いますけれども、その議論の中でしっかり考えてまいりたいと思います。

     ただ、実務の観点としましては、完全に強行規定ではなくて任意だということになりましても、そちらのほうが公正性が高いというようなイメージがしっかりついてきますと、事実上、企業としてはそこを気にせざるを得なくなり、任意だというふうに言われても、事実上強制されるというようなイメージで動きを取らざるを得ないという局面もありますので、その辺も踏まえて、実際の必要性というところは判断していきたいと思います。

     それから、3分の1の閾値のところにつきましては、結論から申し上げますと、あえて3分の1という閾値を変えねばならないというまでの必要性は特に感じておりません。

     グローバルには確かに多数を占めるということを資料でお示しいただいておりますけれども、3分の1という閾値は現在の国内の制度としての整合というところも取れているということで、非常に整理としては分かりやすい説明ができるというものにもなっておりますし、先ほどから申し上げていますとおり、公開買付けが増えるということにつきましては、企業側としては、プレミアムでの取引、それから、手続の準備、コストといったところが様々出てきますので、M&Aを阻害するという要因にもつながりかねないところでございます。議決権行使比率というある程度不確定な、不安定な数値をベースにして30%ぐらいまでしか下げる理由がないということであれば、あえてこれを変える必要性は感じていないというところになります。

     以上です。

    【神田座長】
     どうもありがとうございました。

     では、続きまして、児玉委員、どうぞお願いいたします。

    【児玉委員】
     児玉でございます。発言の機会をありがとうございます。

     実は私、つい今し方まで、2点ほど確認的に御指摘させていただければと思っておったのですけれども、太田委員のほうから企業としての意見ということで意見が出されましたところ、ワンウェイに聞こえかねない部分があるかなというふうに思いましたので、そちらについてもコメントをさせていただくことにしたいと思います。ですので、3点ほど指摘をさせていただきます。

     まず、1点目。冒頭の市場内取引を3分の1ルールの適用対象とするかどうかという点でありますけれども、これはもちろん、企業の大きさ、大中小、それから、現実に買う側に回るか、あるいは、買われる立場になるのか、それによって意見が異なるということはよく分かるのですが、トータルで考え、企業全体のトータルの代弁者という立場で物事を考えますと、私、太田委員と意見は異なっておりまして、とりわけ関心の高いであろう中小規模の企業にとっては、市場内取引というものであるからといって公開買付けの適用対象外にすべきと考えることは必ずしもマジョリティーではないのではないかというふうに私自身は考えております。

     現実に市場内取引で会社の支配権を取得するという事例が見受けられたという裁判例があるということも、それを示していると思うのですけれども、私はやはり、そういう意味で、市場内取引は適用対象とすべきであるというふうに考えます。ほかの委員の方々から御指摘がありましたとおり、一般株主の保護という理屈は、市場の中であるのか外であるのかということによって差異があるとは思えませんので、トータルな意味でトランスペアレンシーを高めるという意味合いでも、私は適用対象とすべきであるというふうに考えております。

     それから、2点目ですが、これは確認です。第三者割当、新株発行のところです。これは資料の9ページを確認していただければ、ほかの委員の方々も御指摘いただきましたので、企業としては、買収以外の局面での新株発行と第三者割当がありますので、これにネガティブなインパクトを与えることはぜひ避けさせていただきたい。こちらについて皆様方に御確認をいただければというふうに指摘させていただくところであります。

     それから、もう一点、最後のところですが、3分の1ルールの閾値のところですけれども、私は閾値を下げるということについては、恐らく多くの企業は異議はないのではないかというふうに考えております。ただ、問題となりますのは、これは神作先生が御指摘のとおり、日本法の中で、やはりこの3分の1という論拠が非常に説得力があって、スーパーマジョリティの特別決議に対する拒否権だという非常に論理的説得力のあるものでありますので、これを変更するということについて、閾値を変更するということについて、ちょっと根拠づけが難しいなと以前から議論を私はさせていただいたところです。

     今回、実務的な資料を頂いて改めて思いましたのは、これは問題の立て方といいますか、今日の各委員の御意見をお聞きしても同じことを思ったのですが、30%がいいのか、25%なのか、20%なのかという議論ではなくて、ここはむしろ、ストレートにグローバルスタンダードである30%、日本のマーケットがここまで下げるということに合理性があるかという検証をする作業なんじゃないかなと思います。でないと、恐らく、この数字というような確定的な論拠になるようなもの、いかにプラクティカルな資料があったとしても難しいのではないかなというのを今日も実感した次第です。

     ですので、問題提起の仕方という意味での御提案かもしれませんが、そういった目線で議論ができれば、個人といたしましては、これを下げることにはもちろん異議はありませんし、30%という数字を支持したいというふうに考えております。

     以上でございます。ありがとうございました。

    【神田座長】
     どうもありがとうございました。

     それでは、次に、武井委員、どうぞお願いします。

    【武井委員】
     手短に申し上げます。

     まず、欧州型への全面移行に関しては、大幅な変更はいろいろと難しい点があるということだと思います。

     市場内取引に関しては、強制公開買付規制の対象に含めるべきだと思っております。加えて、閾値を超えた後、ほんの少しでも買い増すときに全件公開買付けが要るのか、それとも、たとえば何か月以内に何%以内なら公開買付けを不要にするかどうかという、スピード制限的なものをどうするのかということが次の論点として要検討かと思います。

     第三者割当に関しては、これは株式の買付けと会社に資金を入れる第三者割当では経済的色彩がかなり違うので、オプトアウト付きという制度の形であっても、公開買付規制を義務づけること、デフォルトにすることはやめるべきだと思います。あと、自己株式処分についても射程から外すべきだと思います。

     強圧性に関しまして、Ⅲの措置に賛成です。13ページの積極意見に3点ございますけれども、対象会社または10%ぐらいの株主の要求があったときに限り、意思確認手続を必要とすることを含めて賛成です。

     Ⅱの措置につきまして、任意なら導入してもいいのではないかという点につきましては、いろいろな前提条件が今日の議論の中で出てきた気がしていて、任意だと制度設計がどういうふうになるのかよく分からなかったので、任意で採用できる場合にどういう制度設計になるのかを事務局さんのほうで考えて整理していただいた上でないとよく分からないなと思いました。

     オプトイン、オプトアウトに関しましては、今回、公開買付規制の射程が広がりますので、総会決議による離脱といったものを併せて入れるべきだと思います。

     最後、閾値の変更に関しましては、私は30%に下げることに賛成です。まさに、欧州が30%を閾値として採用していることもあるので、30%には下げるべきだと思います。

     以上となります。

    【神田座長】
     どうもありがとうございました。

     それでは、次に、萬澤委員、どうぞお願いいたします。

    【萬澤委員】
     萬澤でございます。発言の機会をいただき、ありがとうございます。

     これまでのお話にも出てきたとおり、欧州型への移行によって、一貫した趣旨説明ができるというのは、本当にそう思うのですけれども、ただ、私はまだ、趣旨が従来とは大きく変わってしまい得るその移行について、すごく積極的に賛同するところまでは至っていない状況でございます。

     それでも、市場内取引は公開買付規制の対象にすべきというのは賛成です。このように申しますのは、事務局説明資料の6ページで掲げられております東京高裁の令和3年11月9日の決定では、「一般株主からすると、投資判断に必要な情報と時間が十分に与えられず、買収者による経営支配権の取得によって会社の企業価値がき損される可能性があると考えれば、そのリスクを回避する行動をとりがちであり、それだけ一般株主に対する売却への動機付けないし売却へ向けた圧力(強圧性)を持つものと認められる」と記載されており、これはこれまで公開買付けの裁判例等で述べられてきた強圧性の問題とは少し異なる強圧性の問題が論じられていると思います。

     これまでの裁判例では、公開買付けの強圧性の問題として、買付者から提示された公開買付価格に不満があったとしても、公開買付けに応じる誘因が生じてしまう、そういったことを強制するといったことが強圧性の問題として論じられてきたと思っておりますところ、今回の令和3年の決定で述べられた、「投資判断に時間と情報が十分に与えられ」ないことから生ずる売却への圧力という強圧性の問題は、この事務局資料の2ページ目に書かれております、現行の公開買付制度の趣旨の「会社支配権等に影響を及ぼすような証券取引の『透明性・公正性』を確保する観点から」、事前の情報開示と十分な検討をするための時間を求めるというところから、まさに規制を及ぼすことが要請されるものであるように思います。ですので、こういった強圧性が裁判例で問題となった以上は、現在の規制の趣旨のもとでも、最低限、市場内取引を規制対象にすべきだと思った次第です。

     どうもありがとうございました。

    【神田座長】
     どうもありがとうございました。

     本日は委員全員の方に御参加いただきまして、全員の方から御意見をいただくことができました。しかも、大変貴重な御意見を多数いただくことができまして、誠にありがとうございました。本日の議論を踏まえ、さらなる検討を進めさせていただきたいと思います。

     ほかの委員の方の御意見を伺った上で、自分はまたこういう意見だというのもあるかと思います。お気づきの点や追加での御意見など、ぜひ事務局までお寄せいただければありがたく存じます。

     それでは、本日は以上とさせていただき、事務局のほうから何か御連絡等ございましたら、お願いいたします。

    【谷口企業統治改革推進管理官】
     金融庁の谷口でございます。ありがとうございました。

     次回のワーキング・グループの日程でございますけれども、現在、日程調整をさせていただいておりますが、最終的に決定次第、皆様に御連絡をいたしますので、御案内をお待ちいただければと思います。

     事務局からは以上でございます。

    【神田座長】
     どうもありがとうございました。

     以上をもちまして、本日の会議を終了とさせていただきます。皆様、どうもありがとうございました。

    ―― 了 ――

    お問い合わせ先

    金融庁 Tel 03-3506-6000(代表)
    企画市場局企業開示課(内線3659 3849)


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