金融審議会「公開買付制度・大量保有報告制度等ワーキング・グループ」(第3回) 議事録

  • 1.日時:

    令和5年9月8日(金曜日)13時00分~15時20分

  • 2.場所:

オンライン開催 ※一部、中央合同庁舎第7号館 9階 905B共用会議室

【谷口企業統治改革推進管理官】
 定刻になりましたので、開始させていただきたいと思います。皆様、お忙しいところ、お集まりいただきまして誠にありがとうございます。金融庁の企業統治改革推進管理官の谷口でございます。どうぞよろしくお願いいたします。

 本日は、座長の神田先生から御欠席の御連絡をいただきましたので、代わりまして、座長代理の神作先生に議事進行をお願いしたいと思います。また藤田委員は遅れての御出席と承っております。では神作先生、よろしくお願いいたします。

【神作座長代理】
 神作でございます。本日は、神田座長に代わって議事進行を務めさせていただきます。どうぞよろしくお願いいたします。

 それでは、ただいまより金融審議会公開買付制度・大量保有報告制度等ワーキング・グループ第3回会合を開催いたします。皆様、大変御多忙のところ、御参集いただきまして、誠にありがとうございます。

 本日の会議でございますけれども、前回同様、オンライン会議にて開催させていただいております。また、議事録は通常どおり作成の上、金融庁のホームページにて後日公開させていただく予定でおりますので、よろしくお願いいたします。

 なお、会議の模様は、前回同様、ウェブ上でライブ中継させていただいております。

 それでは、議事に移らせていただきます。本日は、事務局より資料の説明をいただいた後、質疑応答、討議を行いたいと思います。早速、事務局の金融庁から資料についての説明をお願いいたします。

【谷口企業統治改革推進管理官】
 それでは、事務局説明資料に基づいて、説明をさせていただきます。

 今回は、公開買付制度に関する論点を御議論いただきたいと考えております。前回の第2回ワーキング・グループにおきましては、公開買付制度に関する主に適用範囲の部分について御議論いただきましたけれども、今回はその残りの論点について皆様に御意見をいただければと思っております。

 2ページ目でございますけれども、公開買付制度の趣旨を改めて掲載をしてございます。こちらの内容につきましては、前回説明のとおりでございますので、詳細な説明は割愛させていただきます。

 具体的な検討課題に入ってまいりまして、まず1つ目の検討課題が、公開買付規制の5%ルールの適用範囲を見直すべきではないかという論点でございます。公開買付規制の5%ルールというのはどういうものかと申し上げますと、多数の者、具体的には60日間で10名超から買付け等を行って、株券等所有割合が5%超となるような場合には公開買付けによらなければならないというルールでございます。

 そのような比較的低い株券等所有割合であるにもかかわらず、公開買付けが義務づけられる理由としては、主として「1対多数」の取引構造、これにより生じ得る提供圧力から勧誘を受ける株主、つまり売手となる株主を保護するという点に着目したものと考えられております。そのような趣旨に照らしまして、取引価格が一定の公正な方法により定まるような場合、つまり具体的には、市場内取引であったり、一定の海外市場取引、またはPTS取引、そういったものにつきましては、既に5%ルールの適用対象から除外をされてございます。

 他方で、それ以外の適用除外類型につきましては、3分の1ルールと同じになっておりまして、5%ルール特有の適用除外類型というものは現行法上設けられておりません。そのような現行法の立てつけにつきまして、主に金融商品取引業者から、適用範囲が広過ぎるのではないか、趣旨に照らして適切な範囲で適用除外となる取引の範囲を拡充すべきではないかというような御指摘をいただいております。

 具体的にどのような取引を適用除外にすべきかでございますけれども、4ページ中央のボックスに記載してございます。こちらは金融商品取引業者等の皆様から寄せられた御要望でございまして、金融商品取引業者等が顧客の流動性を確保する目的で自己勘定で買付けを行う一定の場合については、5%ルールの適用除外とすべきではないかとの指摘でございます。1つ目が「単元未満株式の買付け等」、2つ目が「機関投資家等の顧客からの買付け等であってその後直ちに売却することを予定しているもの」、こういった2つの類型については、5%ルールの適用除外とすべきではないかというような御要望が寄せられているところでございます。特に言われておりますのは、この2つでございます。

 つきましては、皆様方に、こういった公開買付規制の5%ルールの適用範囲について、その趣旨に照らして見直しを行うこと、及びその見直しの内容、特に資料に記載されている2つの類型について適用除外とすることについてどう考えるかについて、本日御議論いただければと思っております。

 続きまして、5ページ目でございます。こちらは、御参考でございますけれども、公開買付規制の5%ルールの適用範囲の見直しに関連しまして、昨年12月に公表された市場制度ワーキング・グループの中間整理において、PTS取引の中で、取引所の立会外取引に類似するものについては、5%ルールの適用対象外とすべきであるという提言がされております。こちらは本ワーキング・グループとは別に検討を予定しておりますが、御参考として掲載させていただきました。

 続きまして、次の検討課題は、「急速な買付け等」の規制の在り方について、その適用範囲を見直すべきではないかという御指摘でございまして、7ページ目の図をもって説明させていただきます。

 まず、この「急速な買付け等」の規制が現行法上どのようになっているかというところから御説明をさせていただきますと、こちらの規制においては、まず取引を2つに分けております。一つがAの3分の1ルールの対象とならない取引でございまして、典型的には市場内の立会内取引などがここに含まれています。もう一つがBの3分の1ルールの適用対象になる取引でございまして、典型的には市場外取引がこちらに含まれております。

 こういった2つのAとBの取引に分けた上で、例えばBの取引をもって3分の1の直前である32%まで買い上がった上で、3分の1の閾値をまたぐときだけ、このAの取引を行う、市場内取引を行うというようなことによって、公開買付けによらずに3分の1超を取得するというような場面を想定し、そのような場面については、これらの取引が3か月以内に行われるのがあれば、一連の取引とみなして全体について公開買付けを求めるというような規制となってございます。

 こちらの現行法につきまして、まず検討課題のその1でございますけれども、公開買付けによって3分の1の閾値を超える場合には、規制に抵触しないように整理すべきではないかとの指摘がなされてございます。こちらの背景といたしましては、この3分の1の閾値を超えるときに、市場内取引を用いてしまうと、それによって公開買付けをせずに3分の1を取得する、これがある意味脱法的と言われることは理解できる一方で、3分の1の閾値をまたぐときに公開買付けを行うということであれば、その場合には公開買付けを実際行っている以上、公開買付けをしなければならないという義務の潜脱ではないのではないかという問題意識がございます。

 続きまして、検討課題のその2でございます。前回取り扱いました市場内の立会内取引を3分の1ルールの適用対象とすべきかどうかという論点に関連しまして、もしこれを3分の1ルールの適用対象とするということになった場合、この急速買付規制との関係で言いますと、今、市場内取引というのはAの取引、つまり3分の1の対象外の取引と取り扱っております。こちらを端的にBの3分の1ルールの対象取引に移行するということでよいのかどうかというのが検討課題のその2でございます。

 その問題意識の背景といたしましては、そもそもこの「急速な買付け等」の規制が典型的に想定していた場面が、市場外取引によって3分の1の直前まで、例えば32%まで買い上がった後に、その後3分の1の閾値をまたぐときに市場内取引で、この株式を買い集めるというような事例であったところ、今後もし市場内取引を3分の1ルールの適用対象とするのであれば、そのような事例はそもそも公開買付規制の通常の3分の1ルールで捕捉することができる。そうであれば、もはや急速買付規制を残しておく必要性というのはあまりないのではないかというような観点から、急速買付規制はもう廃止してもよいのではないか、という御意見も寄せられておりますことから、この検討課題その2を取り上げさせていただいたものでございます。

 やや複雑で恐縮でございますけど、以上が「急速な買付け等」の規制の取扱いという検討課題でございます。
 それでは、8ページ目、こちらは第1回ワーキング・グループで説明させていただいた検討課題でございます。私人による公開買付けの差止制度を設けるべきではないかという検討課題でございまして、まず差止事由として、法令違反の場合のほか、公開買付けの在り方が著しく不公正の場合も含めるべきではないかといった点や、差止権者としては対象会社の株主のほか、対象会社を含めることも考えられるのではないかということが指摘されている検討課題でございます。

 こちらにつきましては、これまで当庁に寄せられた御意見としまして、9ページ目でございますけれども、私人による公開買付けの差止制度というものを事後的な救済・是正という観点から、創設すべきであるといった御意見であったり、差止事由を法令違反に限定してしまうと、この制度が用いられる局面が非常に限定されてしまうので、制度を有効に活用できるようにするため、また強圧性の問題を解決する観点から、差止事由には「著しく不公正な場合」、これも含めるべきであるといった御意見などが寄せられております。

 これに対して、著しく不公正か否かというところにつきまして、この点はなかなか裁判所の審査になじまないのではないかという疑問もあるので、まずは法令違反の場面に限定すべきではないかといった御意見や、もし法令違反に限定するということになりますと、それは現行の金融商品取引法192条に基づく禁止・停止命令、つまり当局の申立てに基づき裁判所が発令する命令を活用していくことで足りるのではないかという御意見なども寄せられているところでございます。

 続きまして、10ページ目、公開買付けの事後的な救済制度を拡充すべきではないかという検討課題でございます。こちらも第1回のワーキング・グループで御説明させていただいたところでございますけれども、具体的には公開買付規制に違反した場合には、その取得株式の議決権行使の差止めを可能とする制度を設けるべきではないか。もしくは、そのほかの方法によって、事後的な救済を拡充すべきではないかという論点でございます。
 こちらにつきましては、先ほどのとおり議決権行使の差止めが最も実効的な救済手段ということで、そういった制度を創設すべきという御意見もございますし、他方で、そのような制度につきましては、公開買付規制の違反と議決権行使の差止めという、要件と効果の結びつき、つまりペナルティーとしての適切性に疑問があるのではないかといった御意見なども寄せられております。

 また、その他の御意見としては、民事責任規定の拡充であったり、売却命令など、そういった議決権行使の差止め以外の救済措置を用意することも考えられるのではないかという御意見が寄せられているところでございます。

 続きまして12ページ目でございます。こちらも第1回で御説明をさせていただいたものでございますけれども、公開買付制度における各種規制について、個別事案を踏まえた柔軟な運用を可能とすべきではないかという論点でございます。具体的には、当局は実質的な観点から、個別事案ごとに例外的な取扱いを許容するというような制度、これを設けるべきではないかという論点でございまして、そのために当局においては、そういった判断ができるような体制を整備していくべきだということも併せて御指摘をいただいているところでございます。

 こちらにつきましては、当庁に寄せられた御意見としましては、13ページ目でございますが、イギリスのテイクオーバー・パネルのように、専門性を備えた体制を整備した上で個別事案ごとに例外的な取扱いが可能となるような柔軟な制度、規制、運用体制というものを目指すべきだという御意見であったりとか、初めからそういったものを目指すのはなかなか人材と予算の問題もあり難しいので、まずは一部であっても可能な範囲で柔軟化と体制整備を始めて、少しずつ可能な範囲を広げていくという方式がいいのではないかといった御意見。

 また、英国のテイクオーバー・パネルにつきましては、英国においては過去からの歴史もあって、十分な信頼を得ているけれども、日本ではうまくいかないのではないかという御意見などもいただいているところでございます。以上が公開買付規制の柔軟化・運用体制という論点でございます。

 続きまして、14ページ目、公開買付けの予告について、規制を強化すべきではないかという検討課題でございます。こちらは第1回では触れておりませんでしたので御説明をさせていただきますと、まず公開買付けの予告とは何かというところでございます。

 通常公開買付けを行う旨を公表される場合には、その公表に際して具体的な開始日、通常は翌営業日でございますけど、そういった具体的な開始日が明示されることが一般的でございます。一方で、そうではなくて公開買付けを行う予定である、もしくはその可能性があるということのみが公表されて、具体的な開始日を明示しないというケースもございまして、こちらを公開買付けの予告と呼んでおります。

 こういった公開買付けの予告につきましては、もし公開買付けを実際に行う合理的な根拠がないにもかかわらず、そのような公表を行うとなれば、風説の流布であったり、相場操縦に該当し得ることになりますし、また、実際には公開買付けを行う意思があるという場合であっても、長期間にわたって予告の状態が継続するということになりますと、市場や対象会社の地位を不安定にするという側面もあると指摘されているところでございます。そういった側面を踏まえまして、公開買付けの予告については、何らかの規制を強化すべきではないかというような御意見をいただいております。

 具体的に、諸外国ないしは我が国においてどのような規制になっているかというところを真ん中のボックスで説明させていただきます。まず日本においては、公開買付けを実際に行う合理的な根拠はないにもかかわらず、その可能性を公表する場合には、風説の流布や相場操縦行為などに該当する場合もあり得るということをQ&Aにおいて明示しております。

 アメリカにつきましても、日本と類似しているところがございまして、こちらはSECのルールで明示されているものでございますけれども、公開買付けの完了のために証券を購入する手段があること、つまり資金調達の確実性というところについて合理的な信念を持っていないにもかかわらず公開買付けを行う可能性があるということを公表する場合には、レギュレーション14(e)の詐欺的行為に該当するということがSECのルールに定められているというところでございます。

 続きまして、イギリスは少しアプローチが変わっておりまして、イギリスにおいては、プットアップ・オア・シャットアップルールというものが採用されております。具体的には、潜在的な公開買付けに関する情報開示がなされた場合には、対象会社がその情報開示に関する義務を負いまして、そこで特定された潜在的な買付者がいる場合には、その買付者は、28日以内に公開買付けを行うのか行わないのかという意思を明確にする、そういった開示義務を負うことになりまして、具体的には28日以内に公開買付けを行うのであればバインディングのオファーを28日以内に出さなければいけないし、そうでないということであれば、その後6か月間、公開買付けを行うことができないというルールになってございます。

 このような諸外国の事例なども参考にいたしまして、公開買付けの予告について、規制強化を行うことについてどう考えるか、また、その内容についてどのように考えるかという点について、本日は皆様に御議論いただければと思っております。

 以上が公開買付制度に関する大きな論点でございまして、その後、15ページ目、16ページ目で、その他の指摘というところで細かな論点が幾つか並んでおります。このうち、1、2、3、4、5、6、7番までは、既に第1回ワーキング・グループにて説明をさせていただいておりますので、説明を割愛させていただきます。その上で8番目は今回新しく取り上げているものでございますので、説明をさせていただきます。

 8番目、「買付け等」の範囲の明確化という御指摘でございます。こちらは、この「買付け等」という概念が、公開買付規制においては、どのような場合に公開買付けが必要かということを基礎づける重要な概念となっておりまして、他方でどのような株式取得がこの「買付け等」に該当するかというところについては、解釈に委ねられている部分もございます。その部分につきまして、これまで当庁といたしましては、Q&Aなどを公表して一定の解釈指針を示してきたところでございます。

 ただ一方で、こういった解釈による解決というのは、その外縁が不明確な部分もあり、必ずしも予測可能性が十分担保されないということなどもございますので、なるべく可能な範囲で法令上明確化すべきではないかという御指摘をいただいております。

 また、これに関連しまして、現行制度上、信託銀行などが信託財産として所有する株券等については、株券等所有割合の分子から除外されることになっている一方で、そのための株式取得が「買付け等」から除外されていないということになっておりまして、その場合には、既に3分の1を保有しているような信託銀行が新たに株式の取得をするような場合には、株券等所有割合が増加しないもかかわらず、3分の1ルールに抵触するように読めてしまうので、こちらについては、「買付け等」に含まれないということを明確化すべきであるという御指摘などもいただいております。

 以上、検討課題の御説明でございました。

 最後に、御議論いただきたい事項を20ページ目から23ページ目まで掲載しておりますけども、こちらを端的に申し上げますと、これまで説明をさせていただいた検討課題について皆様はどう考えるかというところでございますので、詳細な説明を割愛させていただければと思います。

 早口で恐縮でございますけれども、私からは以上でございます。

【神作座長代理】
 どうもありがとうございました。それでは、ただいまより委員の皆様から御意見、御質問をお伺いする討議の時間とさせていただきます。限られた時間ではございますけれども、1人当たり六、七分程度を目安として御意見等を頂戴したいと存じます。

 なお、本日、石綿委員が所用で途中退席されると伺っております。石綿委員、もし御発言がございましたら、最初に御発言いただけると幸いです。

【石綿委員】
 ありがとうございます。それでは、御議論いただきたい事項に書いてあることにつきまして、順に意見を申し述べたいと思います。

 まず5%ルールの適用範囲の見直しについてでございますが、単元未満株式の買付けや機関投資家等からの買付けについて、実務上支障が大きいということが確認されているようであれば、基本的に適用除外を設けることに私としては異論がありません。ただし、その適用除外の要件を詰める段階では、公開買付規制の潜脱にならないようによくご留意をいただいたほうがよいかと思っております。その観点から、買付け後、業者が立会内取引で買い付けた株式を売却することを義務づけるなど、一定の要件整備をされたほうがよいのではないかと思っております。

 続きまして、「急速な買付け等」の規制の取扱いについてでございます。そもそもこの規制が導入される前の実務におきましては、均一性の条文などを根拠に、実質的に一体と認められる買付けについては、一つの公開買付けで行なわなければならない、といった議論がされることがございました。この実質的一体性という概念を用いることで、法の潜脱を防止するというニーズがあったのではないかと思います。

 しかしながら、実質的に一体といっても、その範囲が不明確であるため、実務に萎縮効果を生じさせたり、他方で、そのような議論を無視する買収なども行われ、法の抜け穴を突く買収として、新聞紙上をにぎわす案件もあったと理解しています。

 そういう中で、平成18年にこの規制が導入され、規制範囲が明確化されることによって、実務的には予測可能性が高まったと考えております。このようにこの規制には実務的に一定の意味があるとは思いますので、この規制を廃止する特段の理由もなく廃止するというのは控えたほうがよろしいかと思います。

 また、今回、市場内取引を3分の1のルールの対象にするという改正がなされた場合には、立会内の市場内取引を先ほどの図のBに位置づけることは合理的だと考えております。

 続いて公開買付けの差止めの話ですが、私は、公開買付けの差止制度はぜひとも導入すべきと考えており、かつその要件としては、法令違反にとどまらず、著しく不公正な公開買付けが行われたことにより、株主利益が侵害される場合も事由として含めるべきであると考えております。

 そして差止申立者としては、株主のみとすると、コストをかけてまでも差止めを行うインセンティブを持たない株主が多い可能性がありますので、株主共同の利益を配慮する義務を負う対象会社自身を差止権者に含めるべきだと考えています。

 具体的な適用事例としては、例えばスクイーズアウトの方法が違法であったり、強圧的二段階買収であるなど、重大な強圧性を伴う公開買付けである場合、それから公開買付規制に先立って、大量保有報告規制違反があったような場合などが考えられると思っております。

 日本のM&A法制を、米国のM&A法制などと比較してみますと、日本では差止めの制度が不足しているという点が問題である思います。特に米国デラウェア州などでは差止めの制度の中で多くの規範が判例上生み出されてきているのに対し、日本ではM&Aの差止めの制度で実効的なものが著しく不足しております。

 例えば、会社法の組織再編の差止制度は法令定款違反に限られておりますが、その結果として用いられることはほとんどないと理解しております。例外として、第三者割当増資の局面につきましては、著しく不公正な発行方法による第三者割当増資の差止めの規定がございます。こちらは、かなり多く用いられてきた救済手段ですし、また、この不公正発行の差止めの枠組みの中で生み出された判例法は、我々実務家にとっても非常に有意義な指針となっております。

 なぜ第三者割当増資の差止めがたくさん用いられ、それによって判例法が形成されてきたかというと、まさに差止事由を法令定款違反に限定していなかったからです。仮に法令定款違反に限定されていたのであれば、主要目的ルールというようなルールは生み出されなかったと思います。そういうことを考えますと、差止制度をつくる以上は、差止事由を法令定款違反に限定するべきではないと思います。

 差止めをすることは、大変なことだと思っておられる方もいるとは思いますが、差止制度というのは、差し止まった買収者に対して、問題点を修正して再度買収を行うセカンドチャンスを付与する救済手段です。例えば、強圧性がある買収手法として差し止められた場合には、一回公開買付けを撤回して、強圧性のないストラクチャーに変更して、もう一回公開買付けをやり直せばいいわけです。そのようなセカンドチャンスを付与する救済手段は、事後的に賠償義務を課すような救済手段と比較しても、買収にもたらす阻害効果は限定的であることが多いのではないかと思います。また、例えば、公開届出書の提出段階で、根拠が不明確にもかかわらず、下限の設定に対し当局から指導を受けるといった問題が生じることも過去にございましたが、そういうものが透明性の高い場所で議論がなされるようにしたほうがいいのではないかと思っています。

 金商法192条の禁止・停止命令については、結局公開買付けの文脈では金融庁による申立ては行われていないわけです。理由はいろいろあるとは思いますけれども、金融庁に、この申立てをするために必要な具体的情報等がタイムリーに寄せられるわけではない中で、金融庁が法執行を行うことは容易ではなく、また、金融庁が積極的に法執行を行うインセンティブもないため、今後もこの方法が実効的な救済手段になることは期待できないのではないかと考えております。

 それから事後的な救済手段につきましては、大量保有報告制度違反があった場合に、議決権行使の差止制度を設けたほうがいいのではないかという議論と関連すると思います。仮に、大量保有報告制度違反の場合に差止めを認めるのであれば、公開買付規制違反の場合にも差止めを認めたほうがいいと思います。法制度的に難しい議論があることは承知しておりますが、本来的には、差止めを認めるに値する緊急性・必要性がある場合には、差止めがなされるような制度設計が望ましいのではないかと思っています。

 それから公開買付規制の柔軟化・運用体制というところで、M&Aの専門機関は設置されたほうがいいと思います。現在の運用は、専門性等の観点で、実務界には色々な不満が生じつつあるように思います。誰がやるのかとか、予算はどうするのかという論点があります。前者については、官公庁からの出向者と民間からの出向者でまかなえばよいと思います。実務界から公的な機関に出向に行けば、実務界の人であっても公的な使命の下に適切に運用することが期待できると思いますし、また、そのような官民の交流が行われることによって、実務界における遵法意識も高まっていくと思いますので、私は専門機関を設置することでよろしいのではないかと思います。

 予算については、手数料を取ってもいいのではないかと思っています。

 それから、公開買付けの予告ですが、基本的には、風説の流布等で対応し、詳細はQ&Aで対応せざるを得ないのではないかと思います。ただし、実現可能性が著しく低い公開買付けの予告が漫然とマーケットに出続けているという状態は望ましくないと思いますので、長期間に及ぶ場合には一旦取り下げるといったような対応が求められるようになるとよろしいのではないかと思います。

 それから、公開買付制度に対するその他の指摘について、基本的に全部賛成ではあります。ただし、あえて強調しておきたいのは、撤回要件の柔軟化という点は、ぜひ広範にご検討いただければと思っています。論点の記載ぶりからして、かなり限定して撤回事由を緩めるということが想定されているような印象も受けますけれども、アメリカなどでは撤回は非常に柔軟に認められていますし、公開買付けの予告の条件設定や撤回が柔軟に行われている中で、公開買付けの撤回事由をここまで限定する合理的な理由が存しないように存じます。ぜひこの機会に、撤回要件の柔軟化を前向きに御検討いただければと思っています。

 資産管理会社の株式の取得に関しては、もともと平成18年の改正のときにも論点に上がって、そのときには立法的な解決はしないということで先延ばしされた論点だと理解しています。ただその後、公開買付規制に抵触するためやってはいけないというQ&Aが示されたというのは、立法的なプロセスが果たして適切だったのだろうかという疑問を持っております。

 ですので、これを規制するのであれば、法令で規制していく必要があるでしょう。ただ実際問題、色々なケースがあって個別判断が必要になる論点だと思いますので、できれば専門機関がこういう判断をしていったほうが望ましいのではないかと思っています。

【神作座長代理】
 石綿先生、どうもありがとうございました。それでは、飯田委員、御発言ください。

【飯田委員】
 まず5%ルールの適用範囲に関しては、金商業者等の買付け等が、実質的には株式の売買の仲介をしているにすぎないと言えるような、そういった評価できるような、スライドにあるようなケースだと思いますけれども、そういう場合には適用除外を認めてもいいと思います。

 それから、「急速な買付け等」の規制についてですけれども、脱法的な取引に対応する趣旨であると考えるのであれば、趣旨から外れる範囲というのは過剰規制なわけですから、そこは適用対象から外すという方針でいいのではないかと思います。

 検討課題その1については、公開買付けによって閾値を超える場合には、規制に抵触しないと整理してもよいのではないかと思っています。ただし、現在はこれが規制の対象になっていますから、先ほどの石綿先生の御指摘と通ずるところがありますけれども、3か月以内に行なう市場外取引の価格を高くして、逆に公開買付けの価格を低くするといったような形で、公開買付け前に売却した株主と、公開買付け中に売却する株主の不平等な取扱いといったことも、現在の規制は封じる効果も実質的には持っているわけであります。

 ですから、これを単純に廃止してしまうと、そこの実質を維持できなくなりますから、そこを維持するという、つまり今の点を維持するという趣旨を残すのであれば、例えば公開買付価格の規制として、直近3か月以内に対象会社の株式を取得するために払った価格の最高価格以上を公開買付価格としなければいけないとか、そういった規律を導入するとか、あるいは均一性のところをもう少し精緻にするとか、いろいろ工夫はあると思いますけれども、そういった道もあるのではないかと思います。

 また、検討課題その2については、「市場内取引(立会内)」をBの3分の1ルールの対象取引に位置付けるべきという案に賛成したいと思います。また、もし新規発行取得も3分の1ルールの対象に含めるという改正をするのであれば、「急速な買付け等」の規制を廃止することでもいいかと思います。

 次に、公開買付けの差止制度についてですけれども、少なくとも株式の取得が私法上無効と解されるような瑕疵がある場合には、私人による差止めを認めてもよいと思います。例えば今回のワーキング・グループの検討対象に含まれているのか、やや不安がありますけれども、自己株式公開買付についてはあり得るのではないかと思います。つまり自己株式取得についての手続違反の場合は、私法上無効と解されているわけでありますから、その場合には差止めを認めていいのではないかと思いますし、実際現行法でも、自社株買いの公開買付けの撤回事由としては、公開買付けによる買付け等がほかの法令に違反することとなる場合に認められているわけですから、その延長線上に差止制度を位置づけるといったようなことは可能なように思います。

 他方で、他社株公開買付けについては、今のロジックでは差止めの根拠をつけるのは難しいわけですけれども、別のロジックとしては、例えばですけれども、2段階買収で、2段階目の合併は会社法上差し止められるけれども、1段階目の公開買付けは、差止めの制度がないので、差し止められないというのはいかにもアンバランスでありますから、ここをそろえるというのは合理的だと思います。

 例えばMBOなどの買収側の取締役の行為が善管注意義務違反だから、2段階目のキャッシュアウトに差止事由があるとか、そういった会社法の解釈がもし私見のようにされるのであれば、1段階目の公開買付けも善管注意義務違反であって、1段階目こそ差し止めないと実質的な意味がないと言いやすいと思います。

 ただ、会社法の合併差止事由等については、今申し上げたような私見よりももっと狭く解するのが一般的な理解だと思いますけれども、会社法の差止事由についての一般的な理解とか現行法が狭過ぎるのであって、そちらにそろえる必要は必ずしもないのではないかと思います。

 それから、このような場面以外の一般的な他社株公開買付けについては、今申し上げたようなバランス論が当てはめにくいところはあるわけでありますし、また消極意見の指摘にも相当な説得力があるようにも思いますので、少なくとも仮にこういう差止制度を入れるとしても濫用されないように注意しておく必要があるのは言うまでもないところだと思います。

 それから、事後的な救済制度についてですけれども、公開買付規制によって保障されている対象会社株主の利益が害されたことの救済という位置づけで、違反者の議決権行使を差し止めるということで、規制の趣旨に反する状態を解消できるという意味で有意義であるように思っています。例えば3分の1ルールに違反して、公開買付けを行わずに買収者が3分の1超の支配株式を取得するというような場合には、支配権が移転する際に、ほかの株主にも売却の機会を保障するという規制の趣旨に反する状態が生じるわけであります。

 もちろん単に売りたかったというだけの株主の不利益については、損害賠償請求等の金銭的なもので回復できるとは思います。ただ、公開買付けが行われていれば、その買収の是非について株主が判断するという機会が本来であれば与えられたはずなのに、その機会が与えられずに支配権の変動が生じてしまったという状態になってしまうという点については、金銭による回復というのは難しくて、議決権の差止めを認めるということで、支配権の変動が生じていない状況に回復するということにも合理性があると思います。同じことは、全部買付義務違反とか全部勧誘義務違反の場面にも同じことが言えると思います。

 公開買付規制の柔軟化については、基本的に賛成でありまして、ただ注意すべきは、当該買収提案が対象会社の企業価値を向上するかどうかといったレベルでの実質的な判断をするという意味ではなくて、個別事案において、規制の趣旨からして、その規制を文字どおり適用するような必要性がおよそなさそうな場面であるとか、そういった意味での実質的な判断にとどめるべきであるように思います。

 公開買付けの予告についてですけれども、風説の流布とか相場操縦に当たるものが許されないのは当然のことでありまして、ポイントは公開買付期間の最長期間を60営業日と規制している趣旨とか、あるいは公開買付けの撤回を基本的に許していない趣旨などを、どこまで貫徹するかの問題であると思います。例えば60営業日を最長期間とする趣旨が成立するかどうか不確実な公開買付けの価格に、市場価格があまりに長期間影響を受けるのを防ぐ趣旨だとすると、公開買付けの予告もせいぜい60営業日までしか認めないといった整理も論理的にはあり得ると思いますし、イギリスはそういう方向だと思っています。

 ただし、日本では60営業日の上限については必ずしも厳格に捉えられているわけではありませんし、現状としても、公開買付けの予告を多くのケースで出されているわけでもありますし、また公開買付届出書の訂正等をすることで、60営業日を超えて公開買付けを行っている場合もあるわけですから、ここの規制は必ずしも厳格に考える必要はないということになるのではないかと思います。

 そうだとすると、イギリスのほうにかじを切る必然性はないわけでありまして、まずは、公開買付けの予告として開示される情報の在り方を整備するとか、あるいはプラットフォームというか、情報開示の場を整備したりすることから始めるというのが穏当であるように思います。

 最後に、その他の指摘については、私がこれまで論文等で指摘してきた論点が多く含まれているということもありまして、基本的にいずれも賛成でして、可能な範囲で明確化したり認めたりしていくべきだと思っております。特に配当の話などがそうです。

 あと、資産管理会社の話というのも、第1回ワーキング・グループで申し上げたとおりですけれども、現在の条文の文言で適切に規制するのは難しいように思われまして、他方で間接的な手法による支配権取得というのが公開買付規制の対象にならないようにしてしまいますと、3分の1ルールその他の脱法ができてしまいますから、イギリスなどのチェーンプリンシプルの立法例などを参考に、適切な範囲でできる限り条文化するべきものだと思います。Q&Aなどの解釈で、法の文理解釈よりも規制の範囲を拡張するというのは法治主義や法に基づく行政の観点からも限界があるように思います。

他方で、この資料の信託のケースもそうですけれども、買付け等の概念が広過ぎるというところもあるわけですから、Q&Aなどの解釈や運用として、規制の対象にしないことがもう既に定着しているものも幾つかあると思いますけれども、そういったものも含めて法令で明確化していくことが好ましいと思います。以上です。

【神作座長代理】
 どうもありがとうございました。続きまして堀井委員、御発言ください。

【堀井委員】
 私としては、申し上げたいのは2点でございます。

 1点目は、12ページの運用体制のところです。運用体制については、こうすべき、ああすべきという話も良いですが、まずは実行可能な体制を早急に整備すること、これが何にも増して重要だと思います。議論するだけではなく、実際に動くことを重視すべきだということです。動きながら適切な形態を模索し、変更が必要であればさらなる議論をして実態に合わせた形に整えていくことが望ましいと考えております。

 2点目は18ページの形式的特別関係者の範囲です。みなし共同保有者について一定の場合に除外される規律の導入には賛成です。ただ、無条件の適用除外というのは、やや乱暴な気もしますので、何らかのチェック機能をクリアした後で切離しが可能になるようなルールにすべきと考えます。そのチェックをどう行っていくのか、この論点については、先ほど1点目で指摘した体制整備にも関連してくるので、今後の議論で協議していくべきものと思っております。

 簡単ですけど、私のコメントは以上でございます。ありがとうございます。

【神作座長代理】
 どうもありがとうございました。続きまして角田委員、御発言ください。

【角田委員】
 私も項目に沿って発言させていただきます。

 まず、5%ルールの適用範囲ですけれども、実務上非常に障害になっているということなので、ぜひ適用除外を設けていただければと思っています。ただ、先ほど石綿先生が、買い付けた株式を立会内で売却する場合に限るとおっしゃられたと思いますけれども、それでは問題の解決にならないので、実質的には株式の売買の仲介をしていることと同等の場合には立会内に限らず適用除外を認めるべきではないかと思っております。

 あとは、5%ルールそのものは存続していただくものだと思っています。というのも、まれに公開買付けの株主への周知力等を利用するため、3分の1以下の株式を取得する場合でも公開買付けを行ないたいニーズがあります。未上場の会社で有価証券報告書を出している会社とかというのもありますので、これは残しておいたほうがいいかと思います。

 「急速な買付け」ですけれども、石綿委員のおっしゃられたことと全く同じ意見だったので割愛します。ただし、大量保有報告における開示をしっかりさせて、実効性があるものにすることとセットでルールをつくっていくことだと思います。

 公開買付けの差止制度を導入することも賛成です。ただし、「著しく不公正な場合」の定義について、経営陣の保身に使われかねないと資料にも懸念がありましたが、そこのところはかなり慎重な設計が必要だと思っています。差止権者は、被害者に当たる株主に認めることでよいのではないか。対象会社はもし強圧性があって問題があると考える場合は、強圧性の被害を受ける株主にプレスリリースなどで訴えかけて、株主に差止制度を利用していただくことができるのではないかと考えました。

 事後的な救済制度のほうは、具体的には売却命令かと思っております。というのも、うっかりインターネットで注文をしてしまい、規制に該当することとなった場合、公開買付けを行なうような話になりますと、実際にはできない。また、損害賠償によることも、その金額が大き過ぎ、議決権停止制度にも色々な問題があると先ほどの資料にありました。そういう意味では売却命令が一番穏当で、実行可能かと考えております。

 公開買付規制の柔軟化・運用体制。ここは私もパネルが望ましいという意見ですけれども、確かイギリスのテイクオーバー・パネルは、フィーを取っていて、収入がいいときだと1,500万ポンドぐらい、M&Aが少ないときでも1,000万ポンドぐらいあります。更に、ケースオフィサーという実務経験を持ち実際に働く人が出向でやっていて、常勤の人のコスト、経験不足を補うような形で運営しているのではないかと思います。事務局の指摘した歴史やcold shoulderのような実効性担保措置も含めて、良いものをつくるのが難しいと思っています。継続的に検討かと思っています。

 予告のところです。これは撤回事由とも絡むのでしょうけれども、現実問題として競争法や安全保障上の許認可に関係して必要がある予告と、例えば取締役会の賛同を条件とする予告、恣意的な条件付き提案というのはかなり趣旨が違うので、後者のようなものは、ある程度期間を限定するような形で、市場株価への変な影響をどこかの段階で切るというような形が考えられるのではないかと思っております。

 あと細かい残りの点ですけれども、飯田先生もおっしゃられました、配当による公開買付価格の自動調整みたいなものは、世の中ではそちらが普通な感覚と思われるため当然導入すべきと思われます。均一性の論点などは細かいので、後日まとめて出しておきますけれども、私からの意見は以上でございます。

【神作座長代理】
 どうもありがとうございました。続きまして田中委員、御発言ください。

【田中委員】
 5%ルールの適用範囲の見直しに関しましては、少なくとも4ページ目に記載されている金融商品取引業者等から寄せられた要望に答えるという限りでは、特にルールの潜脱的な利用も考えにくいかと思いますので、基本的にこういった適用除外を認めることでいいのではないかと考えております。

 次に、「急速な買付け等」の規制の取扱いですが、これはかなり重要な問題かと思いますので、様々な角度から検討するのがいいと思います。一つには今回の改正で、立会内取引によって株式を3分の1超買付けようとする場合も、公開買付けによらなければならないという改正がされる可能性があると思います。

私はそういう改正をしたほうがいいと思っているわけですが、もしそのような改正をすると、立会内取引も、立会外取引や市場外取引と言わば同じようなものになるので、普通にそのような改正をしますと、この「急速な買付け等」の規制との関係では、7ページ目の図にあるBの3分の1ルールの対象取引にも立会内取引が入ってきてしまうことになりそうです

 しかし、そのようにしますと、市場内立会内取引で6%とか、その程度株式を取得して、言わば足がかり、toeholdを築いた後で、3か月以内に全株式を対象にして公開買付けをするというような行為も、このルールによって禁じられてしまうということになります。このような足がかりを築いた後の公開買付けというのは、一般的にはごく普通の買収手段であって問題視されていないと思いますので、このような形の買収までが規制されてしまうということになると問題だと思います。従って、特に立会内取引を規制対象にした場合に、急速な公開買付けルールをどうしていくかということを検討しなければならないと思っております。

 その点で申し上げますと、私は10年前にも自分が出した本の中で書いたことですが、重要な点は、買収手法が強圧性を持たないように適切な対応をするということであって、立会内取引も規制対象にするほか、公開買付けについても、前回議論になったような強圧性防止のための規制をかけるということを前提にすれば、この急速な買付け等ルール自体は廃止してもいいと思っております。

 これは株主の平等取扱いというのは、平等それ自体に価値があるということではないと私は思っていまして、不平等な形での買付手法が認められますと、自分が買収成立時に少数株主になって不利益な取扱いを受けるということの懸念から、株式を売却するように動機づけられるという、そういう形で企業価値を低下させるような買収が成立してしまうことが問題だと思っています。

 そういう問題は、3分の1を超える株式取得について公開買付規制を課し、かつそれについて強圧性防止のための規制をすれば防げるものであると思います。そのような対処がされた後は、対象会社の株主は、自分が株式を売る3か月前に、もっと高い価格でほかの人が株を売っていたということについて、本来、文句をつけるべき筋合いはないと思います。買付者は、対象会社株主に対しては本来何の義務も負っていないわけですから、平等に買うというような義務も本来あるものではありませんし、また、上場会社の株主は、自分が株式を売ったり買ったりするタイミングによって、高い値段で売れることもあれば、安い値段でしか売れないこともあるということは当然分かって投資しているはずであります。

 したがって、根本的には、市場内取引について公開買付規制の対象にし、かつ公開買付けについて強圧性防止のための規制をすれば、この「急速な買付け等」ルール自体は廃止していいというのが私の意見です。ただ、そのような考え方はドラスティック過ぎるという御意見もあるかもしれませんが、仮にこのルール自体が残るとしても、最初に私が申し上げた、立会内取引で5%超取得し、その後に公開買付けをかけるという、恐らく現在の買収事実でも特段問題視されていない行為が規制対象になり得るという問題はありますので、この点に関してどのように対応するかを考えていかなければならないと思います。

 次に差止めについてですが、私は、少なくとも法令違反の公開買付けに対する差止制度は導入するべきだと思います。特に、公開買付けの開示情報に不実の記載があったような場合は、これに対する差止請求というのがあっていいと思います。このような制度は決して公開買付け自体を禁止するものではなくて、買付者に対して、不実であるとされた開示部分を修正して、改めて公開買付けをかけることによって、開示の瑕疵を未然に(株主に損害を与える前に)治癒するという結果になりますので、差止めといっても過度に問題視することなく、導入を検討していいと思います。

 その上で、不公正な場合も差止事由にするかどうかというのは、難しい問題だと思います。確かに、公開買付けの強圧性の問題などがありますので、そうした問題に対処するために差止制度を利用するということり得るわけですが、私自身は、強圧性の防止のためには、それに対応した明文の規制を設ける、前回検討したような規制を設けることが望ましいと思っております。不公正な方法による公開買付けに対する差止め制度によって、強圧性の問題に対処しようとしますと、強圧性が生じる買収手法というのは本来的には非常に広いわけです。部分公開買付け一般に、買収後の企業価値次第で強圧性を持つことになりますので、差止めの可能性のある公開買付けの範囲が非常に広範になる可能性があります。したがって、著しく不公正な公開買付けにも差止事由を広げるとしても、どのような買付けであれば著しく不公正になるかについて、ある程度解釈を示さないと、法的な不確実性が増大するのではないかという懸念を持っております。

 公開買付けの事後的な救済制度に関しては、私は公開買付規制に違反して取得された株式については、事後的に売却を命じるという形の救済制度であれば、それほどこれまでの規制と不連続になるということもありませんし、実現可能性はあるのではないかと思っております。

 公開買付制度の柔軟化・運用体制に関しては、いわゆる日本版パネルの創設も検討されるといいのではないかと思います。これは従来、当局により指導等が行なわれており、私たち研究者から見えにくいところで対応がされているというようなことも伺っておりますので、そのようなことについて、パネルに対して異議申立てをするというような形で運用が透明化されるだけでも一定の意義があるのではないかと思います。体制の整備はコストがかかるので、それ次第かもしれませんが、前向きに検討していただけるといいと思っております。

 次に公開買付けの予告に対して何らかの規制をすることについては、慎重に考えたほうがいいと思います。予告は色々な事情で起こることであって、対象会社の取締役会が買収交渉に対して積極的に応じないために、状況の打開のためにこうした予告をするということもあり得ます。その場合、対象会社の取締役会が、買付者に対してデューデリジェンスを認めるとか、そういった前向きな対応にならないと、公開買付け自体を始めることは難しい場合があります。従って、予告後に公開買付けを長期間開始しないことは、必ずしも買付者の責めに帰するべき事情によるものではないこともあるように思います。

 もちろん、実際に公開買付けをする意図なく、市場を混乱、攪乱させるために予告をすることが許されないことは当然です。しかし、これについては風説の流布その他の既存の規制を適切に運用することで対処すべきことではないかと思います。

 公開買付制度に関するその他の指摘に関しては、どれも賛成しますので、前向きに改正を検討されるといいと思います。

【神作座長代理】
 どうもありがとうございました。続きまして黒沼委員、御発言ください。

【黒沼委員】
 私から5点ほど意見を述べたいと思います。

 まず、5%ルールの適用範囲の見直しですけれども、「一対多」の取引構造により生じ得る提供圧力から勧誘を受ける株主を保護するという5%ルールの規制の趣旨からは、例えば60日間で10名超という多数の者の定義を見直すとか、買付け後の株券等所有割合だけではなく、買付けによって取得する株券等の量が5%を超えることを要件とするなど、要件の見直しを抜本的に検討する必要があると思います。

 ただし、現在要望が出ている部分については、そのような抜本的な見直しをせずとも、5%ルールの適用除外としても、勧誘を受ける株主の保護という規制の趣旨に反しないと考えられますので、適用除外の範囲を適切に限定するということを前提に適用除外とすることに賛成いたします。

 次に、「急速な買付け等」の規制ですけれども、「急速な買付け等」の規制の目的は、市場内外の取引を組み合わせて、3分の1ルールを潜脱することの防止にあったはずですので、そもそも公開買付けを行う場合を対象とすべきではなかったと思います。したがって、公開買付けは適用対象から除外すべきです。

 そして、今回の改正で市場内取引を公開買付規制の対象とする場合、3分の1をまたぐ取引を市場内取引で行うことができなくなりますので、市場内取引に対する急速な買付け等の規制も撤廃してよいと考えます。ただし、今回の改正でもし新株発行を公開買付規制の対象としないのであれば、3分の1をまたぐ取引を新株発行によって行う、脱法は残りますので、その限度で急速な買付け等の規制を残しておくべきであると考えます。

 次に、公開買付けの差止制度ですが、敵対的な買収が株主の利益にならないような場合には、現在では買収防衛策が講じられるのが一般的ですので、差止制度の意義は乏しいように思います。差止制度はむしろ株主の利益にならない、友好的な買収について意味があります。ですから、立法するのであれば、友好的な公開買付けに限って差止制度を導入するというのも一案であるように思います。

 また、同じことになるかもしれませんけれども、差止制度を認め、著しく不公正な場合を差止事由とし、対象会社に申立適格を付与するのであれば、対象会社は買収防衛策を講じる必要はなくなりますので、端的に買収防衛策を禁止すべきであろうと思います。

 結論的には私自身は、法令違反に限って差止事由とする差止制度であれば、導入してよいと考えていますが、それよりもまず、金融庁による金商法192条の緊急差止命令の申立てを活用していただくほうが先決ではないかと思っています。先ほど金融庁にはインセンティブがないという御意見がありましたけれども、インセンティブがあろうとなかろうと金融庁はやるべきことをすべきでありまして、インセンティブは理由にならないだろうと思います。

 次に、公開買付けの予告ですけれども、イギリスのプットアップ・オア・シャットアップルールが合理的だと思いますが、「潜在的な公開買付けに対する情報開示が出された場合」という要件部分は、買付者自身による情報開示に限定し、適用範囲を明確化すべきだと考えます。

 また、先ほど田中委員の御意見を伺っていて、買収交渉を阻害してしまうような面があるということもよく理解できましたので、そういう意味では適用除外といいますか、こういうルールを導入するにしても、その適用範囲については慎重に検討する必要があるかとも思いました。

 最後に、公開買付制度に関するその他の指摘のうち、形式的特別関係者の範囲については、ここに書いてあるように、一定の場合にそこから除外するような規律を設けるべきであると考えます。公開買付けの撤回事由については、撤回事由を法令に列挙することはせず、公開買付けの目的達成に重大な支障となる事項であり、買付者のコントロールが及ばず、当該事項に該当するか否かを客観的に判断し得る事項であれば、買付者が撤回事由を指定できる制度にすべきであると考えております。

 それから、買付けの範囲の明確化についてですけれども、資料に掲げられている資産管理会社の株式取得の例は、私はこのQ&Aの内容が正しい解釈とは思っておりませんので、これを法令に記載することには反対します。それは置いておくとしても、こういった脱法が行われる場合のみを規制するという場合について、法令で範囲を明確に規定することには無理があるのではないかと思います。

 他方、信託財産として所有する株券等の例は、これは当然のことなので、解釈でもできるでしょうけども、明確化することに賛成です。以上です。

【神作座長代理】
 どうもありがとうございました。続きまして三瓶委員、御発言ください。

【三瓶委員】
 まず、5%ルールの適用範囲の見直しですが、金融商品取引業者等が顧客から自己勘定で買い付ける取引を適用範囲から除外することは規制の趣旨に反しないと考えます。もう皆さんもおっしゃっていますけども、理由は、日本の規制目的が証券取引の透明性、公平性であることを踏まえると、まず現行制度でも、ここに書いてあるように、公正性が担保される取引については適用対象から除外されているということ、2つ目は、金融商品取引業者等の買付けの目的が顧客からの依頼に基づく買付け、つまり受け身的なわけです。ですから、規制が想定している勧誘による圧力というのがないこと。3つ目は、買手1人に対し売手が多数ではなくて、売手1人に対して買手候補、金融取引業者だと思いますけども、買手候補多数ということで、規制が懸念している取引構造の逆になっているので、これも勧誘による圧力がないということから適用対象から除外でいいと思います。

 次に、「急速な買付け等」の規制の取扱いですけども、取引形態に注目して取引形態ごとに条件をつけていることで、過度に複雑で分かりにくいルールになっていると思います。まず、公開買付規制の趣旨は証券取引の透明性・公正性であり、3分の1ルールの目的は支配権プレミアムの公平な分配だと思います。「急速な買付け等」の規制の導入の意義は、3か月以内の取得を一連の取引とみなすことです。ですので、3か月以内の取得、すなわち一連の取引で3分の1を超える取引は、公開買付規制の適用対象として、もっと分かりやすく簡潔なルールにすべきではないかと思います。その結果、透明性は向上すると思います。

 そうすると、ここで挙げられている検討課題は、検討課題2については、市場内取引(立会内)をBの3分の1ルールの対象取引とすると位置づけるというのでいいと思います。そして、検討課題1のほうでは、公開買付けによって3分の1の閾値を超える場合は規制に抵触しないという整理になるかと思います。

 次に、差止制度ですけども、私は私人による差止制度は不要ではないかと思います。理由は、証券取引の透明性・公正性の観点からの規制なので、バイアスのある対象会社などの当事者が差止権者になるのは、公正性のバランスを欠く危険性が大きいというのが一つあります。また、差止事由は法令違反に限ることが、透明性が高くてよいと思います。将来のテイクオーバー・パネルの設置を念頭に置くと、現状の当局の申立てが確保されていればよく、そこから発展していく形でいいのではないかと思います。

 事後的な救済制度について、公開買付けは議決権取得が目的の買付行為であるので、議決権行使の差止めというのは一見合理的に見えますが、差止期間は買付け直後の総会まででいいのか、その後の影響をどう考えていくのかというのが非常に難しく、差止めの期間が問題と思います。これには合理的な解はないと思うのです。ですので、元に戻すというのが最も素直な方法だと思います。つまり、違反して買い付けた議決権数を売却することです。

 違反した買付けに相当する部分の取引に応じて売却した一般株主への補償は、売却した議決権数の買戻しと差額の補償というのがあるのではないかと思います。ただしここで、もともと換金のためにそのタイミングでたまたま売却したかった株主などもいると思うので、先ほど提案したような補償というのは、希望する株主だけでよくて、一般株主に買い戻す義務はないと思います。

 柔軟化・運用体制については賛成です。ただし、高い透明性と合理的な説明が不可欠な条件となると思います。こういう体制を担うときに、利害を有する様々な団体組織からの独立性が重要だと思います。そして、その執行体制についてのガバナンス体制も必要だと思います。英国のテイクオーバー・パネルが参考になりますけれども、それを形だけまねするということではなくて、むしろその理念とか使命感、姿勢などがより重要だと思います。

 公開買付けの予告については、予告が悪いことのように印象づけられているきらいがあるのですけれども、そうではないと思うのです。正確に言えば、予告による情報提供の内容や、予告または予告のようなものの使い方に問題があるということだと思います。ですから、予告の定義とか、必要な要件を明確化する必要があると思います。その上で、正当な予告の要件を満たさないような、リークとか示唆みたいな違反については、罰則を設ける必要があるのではないかと思います。

 最後に、公開買付制度に関するその他の指摘の中では、②と⑦は、合理的な市場での裁定取引に準ずる対応が市場機能と整合的でよいと思います。先ほど皆さんも配当の件を言っていましたけども、当然のことであると思うのです。②のほうも、これを市場でどういうふうに相対的に評価するのかという、市場が裁定取引によって価格付けする、そういうことに準じていくのが最も市場機能と整合的でよいと思います。

【神作座長代理】
 どうもありがとうございました。続きまして齊藤委員、御発言ください。

【齊藤委員】
 まず、5%ルールにつきましては、維持し、御指摘いただいたケースについて、潜脱が起きないような手当てをした上で、適用の範囲を見直すという点については異議がございません。

 次に、「急速な買付け等」の規制でございますが、立会内取引を仮に3分の1ルールに含めるといたしますと、公開買付制度の潜脱防止という意義は乏しくなるように思われ、「急速な買付け等」を残すかどうかは、3か月にわたる取得を1つの取引と見て、事前の十分な情報開示と均一の取扱いを強制すべきかどうかという点と、新株発行を対象としていることに積極的な意義を見いだすかという点にかかってくるのではないかと思います。

 後者の新株発行の点につきましては、仮に、新株発行をそもそも3分の1ルールに入れるかどうかという問題について、当面は会社法の規制に委ね、いずれ欧州型の義務的公開買付けを導入するときに包括的に対応するということでございましたら、この点を急速買付けの意義として積極的にとらえる必要はなくなります。その場合、3か月にわたる取得を一つの取引として規制していくべきかという観点から捉えていくべきかということを検討すればよいのではないかと思われます。画一的な規制なので、その中に合理的な行動も含まれることは避けがたいところ、それでも防止すべき行動があるのかについて、実務の事情をもう少しおうかがいしたく思います。

 次に、差止制度につきましてですが、会社法の差止制度に依存している現在の状況が望ましいかどうかと合わせて、検討する余地があると思われます。例えばこのワーキング・グループでも紹介されている東京機械製作所の例で言いますと、実質的には急速な市場内買付けという買付けの態様が、差止めの仮処分の可否の判断において重要な要素であったわけですが、その買収の方法の妥当性を争うためには、対象会社が買収防衛策を発動を決定することを待たねばならず、買収者側の買付け態様に問題があるために、買収防衛策の発動は不公正であるとはいえないのではないか、という持って回った問いとして争われることになったわけでございます。

 ですので、買付行為に問題があったとしても、会社法上の差止制度の対象とならないようなケースですと、司法の場で争うことが難しくなっております。また、問題がある買付けについて、差止めの可否が争われる場合に、本来であれば買付け行為の適法性・妥当性が正面から問われるべきであるのに、買収防衛策の発動が不公正とは言えないかどうか、買収者による買収が対象会社の企業価値に影響があるのか、といった、会社法上の利害関係も加味した複雑な利益衡量が裁判所に求められることなります。

 公開買付けを対象とした差止制度を設けますと、買付方法の妥当性・適法性が正面から問われるということになって、検討の対象がすっきりするという意義があると思います。その場合に、差止めについてインセンティブを持つ対象会社が差止権者に入らないと、実際にはこの制度があまり活用されないのではないかと考えられます。

他方で、適正な買付けの確保という側面において差止めという制度にどの程度の意義を見いだすかは、本日の議論の後半で取り上げられている公開買付規制の規制主体の在り方とも関わってくるように思われます。差止めには私人による規制のエンフォースメントという側面があり、公的なセクターによるエンフォースメントがうまく機能しない場合、それを代替する機能も果たし得るのでございますが、他方で、必ずしもこのような企業買収の利害状況に通じていないかもしれない司法機関にその裁定を委ねるということになります。

 裁判所ではなく、本日の議論に上がっている英国におけるテイクオーバー・パネルのような存在に買付行為の妥当性・適法性のモニタリングや当事者へのアドバイスを委ねるという方向で、公正な公開買付け市場を運営していくという道もあるわけでございまして、差止め制度とパネルと両立し得ないわけではないとしても、パネルのような主体があれば、差止めに置かれる重点も異なってくるだろうと思われます。

 しかしながら、三瓶委員の御意見にもございましたように、英国のシティの自主規制というのは、市場関係者が地理的に比較的狭い地域に集まっていることを生かして、お互いへの信頼と相互モニタリングに基づき、司法や議会に頼らず、ルールをつくり、エンフォースをしていくという文化的な背景があるところで出来上がった制度でございまして、日本ですぐに同じものを再現するということは難しいのではないかと思います。

 もっとも、日本のコーポレートガバナンス・コードの歴史に見られるように、日本流の制度の根づき方というのもあり得るのでございまして、直ちに完成された体制が実現するわけではないとしても、公開買付けに係る規範の策定、解釈、運用、エンフォースメントについて、一定の権限を有する主体を設け、小さく産んで、官民の協力の下で大きく育てていくという方向も十分にあり得るように思われます。

 議決権の停止につきましては、大量保有報告制度においても検討すべきではないかと思いますけれども、公開買付け規制との関係でも設けるというのはあり得るように思います。特に、買付けの在り方やその問題性が第三者にリアルタイムで分からないような場合には、差止めも機能しないことがありますので、問題がある買付けがなされたことが判明した後に、制裁として議決権を停止するという制度はあり得るように思われます。

 他方で、対象会社や他の株主との関係で、違法な公開買付の問題性は、会社法上の仮装払込みの場合と比べて乏しいというのであれば、売却命令というような形で、事後的な是正をすることも検討に値するように思います。

 公開買付けの予告につきましては、今般の議論で問題点が明らかにされ、このような行為について、風説の流布や相場操縦のおそれがあるという理解が関係者の間で共有されることになりましたら、予告する側においても、リーガルアドバイザー等による行動の適正化が図られるのではないかということを期待して、様子を見るということもあり得るのではないかと思います。

【神作座長代理】
 どうもありがとうございました。続きまして桑原委員、御発言ください。

【桑原委員】
 まず、5%ルールの適用範囲の見直しについて、5%ルールの趣旨に反せず、実務上合理的な必要性のあるものについては適用除外とする方向で検討を進めることに異論ございません。既に御指摘のあったように、抜け道として使われないような要件整備と併せて御検討いただければと思います。

 次に、「急速な買付け等」の規制についてでございます。こちらは市場内取引を3分の1ルールの適用対象とするという場合において、支配権の移動に影響を与えるような場合の透明性、公正性を高めていくということを一つの趣旨として考えるとすれば、閾値まで市場で取得した上で直ちに公開買付けを開始するということの透明性、公正性には疑義があるように思われるので、この観点から「急速な買付け等」の制度は残してもよいのではないか、そしてこの場合は、検討課題その2の1つ目のところにあるように、市場内取引をBの3分の1ルールの対象取引に位置づけるということでよいのではないかと思います。

 また、実務では、「急速な買付け等」で3か月以内と制度設計されている点について、一連の取引と見られるリスク等を考慮して、3か月よりもう少し期間を空けなければいけないのではないかなど、悩ましく思うこともありますが、市場取引も3分の1ルールの適用対象として法制が整理されていく場合には、この3か月の位置づけを割り切った形式基準にするなど、その位置づけをよりクリアにしていただけるとよいのではないかと思っております。

 それから、公開買付けへの差止制度について、色々な御議論が行われておりましたが、私も法令違反だけでなく、著しく不公正な場合を入れるかどうかが一つのポイントだと考えております。そして、例えば、スクイーズアウトで強圧性が非常に高い方法がとられたらどうかと言われると、確かにそういう場合の救済方法として考えられなくはないかと思う一方、実務では、公正なM&A指針などの影響もあって、実際にはそのような事案が見当たらないところでもありますので、結局、「企業価値を損ねる」といった理由で対象会社から使われることになるのではないかと思います。

 そしてまた、既に色々な議論の中でもでておりますように、「企業価値を損ねる」という理由でこの制度が使われるのは適切でないように思いますので、具体的にどういう事例を念頭に置くか、もう少し慎重に整理をしたほうがよいのではないかと考えております。

 また、強圧性の点についても、例えば部分買付けについては、株主の意思を確認する措置といった別の方策の議論がなされているので、そちらで対策をするほうが現実的ではないかと思っているところです。

 それから、事後的救済でございますが、既に課徴金制度をはじめ一定の規律もあるところ、公開買付制度に関して議決権行使の差止めのような制度が必要な状況が実務にあるのか、やや疑問に思っております。売却命令という御意見も出ています。確かにそちらのほうがまだ検討しやすいかと思うのですが、この場合も売買益の取扱いを含めて整理が必要になるかと思っております。

 それから、公開買付規制の柔軟化でございますが、こちらは私も賛成でございまして、ぜひ運用体制を含めて、御検討を進めていただけないかと思っております。実務において、例えばこれまで使われていなかった新しいスキームなどを検討するときに金融庁に事前相談をさせていただいて、対応するといったことは行ってきておりましたが、その位置づけも必ずしも明確でないところもございましたので、柔軟化に向けた体制整備をしていただいて、事例ごとの検討を積み上げ、これをまた事例として示していただけると健全なM&Aの促進に資するのではないかと思っておりますので、これはぜひ前向きに取り組んでいただけないかと思っています。

 それから次に、公開買付けの予告でございます。実務上、競争法のクリアランスとか、許認可関係のように、いつ許認可が取れるのか、クリアランスが下りるのかということがなかなか読めなくて、予告でやるしかないということはございますが、予告の場合には、公開買付けを開始した場合の規制が及ぶわけではない、例えば、撤回事由の制限もかからず、資金調達の裏づけが求められているものでもないということで、かなりアンバランスが生じているという印象を持っております。

 また、競争法のクリアランスのように、実務上やむを得ない場合もあれば、本当に合理的な理由があるかよく分からないケースもあるように思っております。確かに風説の流布や相場操縦などの規制はかかっていますが、それはまた結構立証のハードルも高いと思うので、公開買付けの予告の在り方、開示の在り方、あるいはその場合の対象会社の行動指針なども含めて、検討を進めていくほうがよいのではないかと思っております。

 また、実務的には公開買付けの予告プレスを出す場合でも、関東財務局にその段階で事前相談に来るように言われております。事前相談の在り方も今回の一つのテーマに上がっておりますが、予告プレスの場合の根拠を含めて、整理できるとよいのではないかと思っています。

 それから、公開買付制度に関するその他の指摘のところについては、基本的にそれぞれ異議のないところですが、法規制の中で対応するのか、先ほどの柔軟化の中で見ていくのがよいのか、その辺もさらに検討できるとよいのではないかと思います。

 また、ほかの委員の方からもありましたが、私も、撤回事由についてはぜひ今回しっかり検討をしていただきたいと思っております。第1回ワーキング・グループのときにも申し上げたのですが、ファイナンスの前提条件と撤回事由がリンクしないような実務の状況になっていて、決済事故が起こってもおかしくないような制度設計になっている点は、今回ぜひ実務上の対応ができるように、検討が進むとよいと思っております。

【神作座長代理】
 どうもありがとうございました。続きまして萬澤委員、御発言ください。

【萬澤委員】
 私からは運用体制と、差止めに関する論点について申し上げたいと思います。

 運用体制ですけれども、イギリスのテイクオーバー・パネルのような柔軟な規制運用体制を目指す、そういった機関を設けることを目指すことは賛成します。事務局説明資料の17ページに記載の買付け等の範囲の明確化で述べられているとおり、また、参考資料の20ページに記載の「株券等の買付け等」の該当性に関するQ&Aに、原則は公開買付けを行う必要があるけれども、公開買付規制の趣旨に反しないと認められる場合にはこの限りでないというような解釈が示されているとおり、公開買付けの対象になるか否かという判断が難しい場合が既に生じていて、今後、改正を経て、規制趣旨をより明確に一貫させて規制を拡大する方向に進んでいくとするならば、ますますそういった場面は増えると思います。そのような状況で、そういった柔軟な運用規制を可能にするような体制を目指すことはとても重要なことと思います。

 次に、差止めについて、既にもう先生方からお話が出ているとおりですが、私自身、投資家に差止請求権を認めることは、一般論としては賛成です。最も保護されるべき主体である、投資家がそれを有していないというのは、法制度としてあまり望ましいことではないように思います。ただし、ほかの制度とのバランスを見て、採用すべきと考えます。

 すなわち、ほかの救済制度で手当てがなされているならば、その部分を重ねて差止めの手当てをする必要はないと思います。事務局説明資料の9ページ目に関して、強圧性の問題を解決する観点からも差止制度が必要という御議論がございましたけれども、強圧性の問題は、前回の議論で論じられた強圧性のおそれを解消・低減させる措置が採用されるか否かという、前回の議論を前提にして、それらが採用されるならば、強圧性の問題に対応するための差止制度は用意しなくていいのではないかと思います。むしろ、その強圧性のおそれを解消・低減させる措置が適切に取られなかった場合、すなわち法令違反があった場合に、投資家が差止請求をすることができるようにすればよいのではないかと思います。ほかの救済のための制度との関係で、過不足のないような形で調整される必要があるように思います。

 これとの関連で、金商法192条ですが、これがもっと多く発動されるようになることは賛成です。192条は、これまで平成22年に初めて申し立てられて、東京地裁によって発令されてから、令和5年まで30件の申立てがあったようですが、その多くは無登録営業の禁止等であって、すなわち、金融商品取引法29条の登録を受けていないのにもかかわらず、有価証券の募集または私募といった金融商品取引業を行っているということに対する禁止に関するものだったようです。

 そして、裁判所が、192条の必要性の要件について、どのように判断したかというと、無登録業者であるがゆえに金商法51条52条の行政処分が行えないから、192条で差し止めるほかないというような書きぶりになっていたと思います。

 これを前提とすると、本件では少し性質が異なって、公開買付規制違反の場合に、192条を発動させるということは少しハードルがあるようにも思う一方で、30件の中の3、4件は、適格機関投資家等特例業務届出者に対する虚偽告知の禁止等という申立ての内容になっているということで、金融商品取引契約の締結又はその勧誘に関して、顧客に対し虚偽のことを告げる行為を行うことに対しても、申し立てられて裁判所によって発令されているというところからすれば、たとえば、公開買付けの書類において、虚偽があったという場面でも192条を発動させるようにつなげていけるかもしれない、これをもう少し発展できないかと思っているところです。

【神作座長代理】
 どうもありがとうございました。続きまして玉井委員、御発言ください。

【玉井委員】
 まず、5%ルールの適用範囲の見直しについてですけれども、事務局説明資料にもありますように、5%ルールは、3分の1ルールとは大分違った趣旨の規制です。私ども実務家としては、このような規制があることを所与として、割と細かな技術的な解釈論のところを5%ルールと60日10名超の要件について検討することが、この条文との関わりのほとんど全てだったのですけれども、翻って考えると、この5%という閾値自体が本当に必要かということが、疑問がなくもないというのが、個人的に感じたところです。

 その意味では、閾値の見直しがあってもいいのかもしれないと最初は思ったのですけれども、ただ特段、実務界あるいは市場関係者から、その点についてのコメントがなさそうでもありますので、それを踏まえますと、5%ルールの現行の規制の枠組み自体は維持しながら、実質的に問題なさそう、あるいはニーズがある取引類型について、趣旨の潜脱にならないような観点から整理をした上で、適用除外を拡充していくというこのアプローチ自体には異存ございません。

 それから、「急速な買付け等」の規制の取扱いについてですけれども、ここに関しては、私自身は正直まだ迷っているところです。6ページの記載にあるように、このルールは3分の1ルールの適用の潜脱を防止するためということで、一定の要件を満たす行為を一連の取引として捉えて規制の網をかけるということだと思いますけれども、非常に実務家としても分かりにくいと思う複雑なルールですが、これを事務局の方々が7ページに分かりやすく示してくださったと思います。

 市場内の立会内取引を3分の1ルールの規制に服するということにするのであれば、ロジカルには、事務局説明資料7ページ目で言いますと、市場内の立会内取引をAの3分の1ルールの対象外取引からBの3分の1ルールの対象取引に移動させるということになるのだと思います。ただ、もともとの規制の典型的な想定パターンというのが、まさにこのAの中での市場内取引を活用するというパターンであったこと、また、Aの中に公開買付け自体を含めていることが規制として過剰でないかという御指摘もあることからすると、いっそのこと、急速な買付規制は潜脱防止という観点から設けられたということを考えると、これ自体を廃止して、通常潜脱の議論というのは、むしろ個別具体的な事案の状況を総合的に考慮してケース・バイ・ケースで考えるというほうが合理的にも思われるので、そういう方向にかじを切る、むしろ元に戻るということになるでしょうか、そういう整理も一つ考えられるのかもしれないと思います。

一方で、もともと、この規制が導入されたときの議論でも、実質重視とはいうものの非常に曖昧な潜脱論では取引自体に萎縮効果を生じる、あるいは解釈の曖昧さが取引の安定性を欠くといった問題の指摘がされていたところなので、それを考えると、市場内取引の立会内取引をBのほうに移す形で、現行の規定を基本的には維持するということもありかと思っているところでして、ここは踏ん切りがつかないところです。

 それから、公開買付けの差止めについてですけれども、まずプライベートアクションとして、公開買付けに対する差止制度を導入することについては、法令違反に関して言いますと、創設してもいいのではないかと思っています。金商法192条の規定があるわけですけども、その職権発動を促すという形で、一応の懸念を表明することは、事実上のルートとしてはあるのかもしれないですが、金商法192条がある程度意味のある頻度で公開買付けの局面について活用されているとか、あるいは公開買付期間内に間に合うように当局が迅速に動いてくれるといった、この2つの点の見通しが現時点で特にないということも踏まえると、私人による直接的な監視といいますか、是正のルートがあってもいいのではないかと思っています。

 実務感覚としては、どちらかというと、公開買付規制に違反して、公開買付けすべきところをせずに取引を実行するといった局面のほうが、実際には問題になりそうにも思われるので、正面から法令に反するような形で公開買付けを行なうというケースは、実際にはそれほど多くないとは思っています。現状では公開買付けを行う場合に、事前に当局に、入念なチェックを受けていることもありますので、そのように感じているところです。
 他方で、著しく不公正な方法による場合を差止事由に含めるかということについては、これまでにも色々御議論が出ていますけれども、具体的にどのようなケースをこの場合に含めると考えるのかということによって、実務にも非常に大きな影響を与えるポイントでありますので、そこの議論を深めることは非常に重要だと思っています。

 確かに会社法の210条の不公正発行の表現と同じような形ですけれども、文脈と言いますか、対象となる行為が大きく異なりますので、この文言だけから一体どういうものなのかということが一義的には分からないと思っているところです。

 先ほどからもお話がありましたけれども、仮に、この要件を差止事由と認めて、対象会社も差止権者に含むとした場合に、適用範囲が非常に広範になるのではないかということについて留意しながら検討すべきだと考えています。

 例えば、先ほども例が挙がっていましたけれども、開示された情報が不実であるといったことが非常に重大な問題であるというときに、むしろそこは未然に是正していただくほうがいいというのは確かにおっしゃるとおりだとは思いますけども、他方で、別の例として出ていた強圧性の問題、部分買収に関する強圧性の問題といったものも、ここの要件の中に入ってくるということになりますと、企業価値を毀損する取引なのか、それとも企業価値向上に資する取引なのかといった実質的な判断自体を、今大きな考え方としては、株主の意思を確認すべしということになっているという理解ですが、これを事前に裁判所が判断するということになるので、なかなか従前の裁判例との整合性も難しくなる、あるいは司法への負担も大きくなるというところが気になっております。

 ですので、部分買付けに関連しての強圧性の問題というのは前回に議論したように、別の方法で対処するということを前提にしまして、こちらの差止事由のほうからは抜くといいますか、範囲に入らないような形であることを確認させていただくのがいいかと考えております。

 事後的な救済制度に関してですけれども、ここはもう事務局の資料10ページにも掲げられているとおり、平成26年改正のときに議論されているとおりだと思うのですが、公開買付規制違反と議決権行使の差止めの効果とのリンケージですね。ペナルティーとして議決権の停止が適切かという点について、私自身は若干疑問というか悩みがございます。

 一口に公開買付規制違反といっても色々なレベルがありますので、どこからがこのペナルティーに服するべきなのかという線引きも容易ではないと思いますし、先ほども御指摘がありましたが、実際導入した場合に、どこの株主総会までこの議決権が止められるのか、いつまで止められるのか、ほかの共益権はどうなるのかといった、色々と関連して考えなければいけないことも出てくるだろうと思っています。

 他方で、実効的な、事後的な救済制度を設けるというそのこと自体については、エンフォースメント強化の観点からは大変よいことだと思いますので、11ページの主な御意見3に記載があると思いますけれども、例えば売却命令であるとか、売却の機会を与えられなかった少数株主による買取請求といったほかの救済手段も考えてみてもいいのではないかと思います。

 これで全てがカバーできるわけではないと思いますけれども、できるところからやっていく、要件と効果を整理しながら導入していくというのは考えられるのではないかと思います。

 公開買付規制の柔軟化と運用体制については、個別の事情を踏まえて、実質的に問題がないケースについては、規制の免除・緩和を認める方向に活用されるということであれば、実務家としては大歓迎です。実務にとっての予測可能性が高まっていくということも非常に重要だと思いますので、あらかじめ基準が設けられているものについては、それを明確に公表しておいていただきたいと思いますし、事例の積み重ねの中で明確化していくものが新たに加わってくるのであれば、それを事例集のような形で効率的にアクセスできるようにしていただければと思います。

 それから、公開買付けの予告についてですけれども、典型的には合理的な理由がある場合としては、競争法や外為法といった規制のクリアランス取得に時間がかかるケースが多く見られると思います。問題になりそうなのが、対象会社の同意が得られれば公開買付けしますというような形での条件が付されているようなケースで、同意が得られる見込みが立っていない中で、期限を切らないで、市場に長く予告をし続けているといったケースかと思っています。

 この中には合理的な根拠があって提案をしている場合と、根拠が希薄な場合と、いずれもあると思いますけれども、いずれにしろ、市場や対象会社を不安定な立場においてしまうという問題があること自体は変わらないと思います。この点、先日公表された経産省の企業買収における行動指針にも取り上げられていたポイントだと思います。

 私自身は、この手の提案の公表には有効期間といいますか、一定の期限を付して、定期的にその期間の延長なり更新なりをする節目を設けるとか、あるいは経過開示をさせるといったようなことが一つ対応の方法としては考えられるのではないかと思っているところです。

 最後の公開買付制度に関するその他の指摘については、いずれについても賛成です。特に6の事前相談方針の明確化、これは実務上のニーズがとても高いと理解しておりまして、ぜひよろしくお願いいたします。

 それから7の撤回事由、条件変更の柔軟化、これも配当の問題を含めて、実務上のニーズが非常に高いため、実質的に規制の趣旨を損なわない範囲でどんどん進めていただきたいと思っております。

【神作座長代理】
 どうもありがとうございました。続きまして太田委員、御発言いただけますでしょうか。

【太田委員】
まず、「急速な買付け等」の規制の取扱いでございますけれども、検討課題のその1につきましては、従来の規制が、私としましては、少しやや過剰な規制と考えておりまして、検討課題その1に上がっています支配権移動時に公開買付けを実施する場合というのに関しては規制には抵触しないとの整理には賛成でございます。

 それから、市場内取引を対象にするかしないかというところに関しては、市場内取引を3分の1ルールの適用対象とすべきか否かの議論の結論次第というところも残っているとは思いますけれども、いずれにしましても、新株発行であるとか、諸々の取引の組合せを活用した潜脱的な行為というのは、もしかしたらまだ残るのかもとは考えておりますので、それを抑制する必要は引き続きあるのではないかと考えております。したがいまして、規制を全て撤廃するというところには現時点では少し賛成し難いと考えております。

 それから、公開買付けの差止めでございますけれども、まさしく法令違反があるというような場合に関して、株主や発行会社に差止めの権利を与えるということは、賛成をいたします。ただし、公開買付けの実施に関しては、ローンチの前に、開示書面等につきまして、当局に十分説明をし、指導をいただいて進めているというのが現状との認識でございますので、公開買付規制の重大な違反がある状態で公開買付けがスタートするというケースはあまり多くはないのではないかと考えております。

 その一方で、著しく不公正な場合であるとか、例えば金商法以外の法令、例えば善管注意義務違反といった場合まで適用範囲を広げた上で差止制度を認めるということになりますと、差止権が認められる、認められないといった判断がつくまでの時間を待たねばならず、M&Aを実施していく上で不安定な状態が長続きしてしまうということを懸念しております。

 また、実務的にも社内の意思決定におきましても、リスクやコスト予測がかなりしにくくなりますので、その辺が妨げになるというようなことも一部懸念をしているところがございます。

 更に、曖昧な判断が可能な状態で差止権を認めるというところになりますと、実際に差止め自体が認められるか、認められないか結論は分かりませんが、権利の濫用をするようなことが起こり得る、そういう可能性もあるのではないかと考えておりますので、差止権の導入に関して、特に法令違反以外の部分の導入に関しては、より慎重に検討いただければと考えております。

 それから、柔軟化・運用体制でございますけれども、これには賛成でございます。どういう風にルール化して落とし込んでいくのか、実務への落とし込みというのもどうやっていくのかというところは非常に難しく、検討すべき事項が多々残っているとは思いますけれども、これに向けた検討を継続していただけるということには賛成をいたします。

 ただし、もしこういうパネルのようなものを形成していく、そして柔軟化をしていただけるということであれば、ぜひスピード感といったところも重視していただいて、運用については、今までの機動性が損なわれない形で運用できるように御配慮いただければと考えております。

 それから公開買付けの予告につきましては、様々なパターンがあって、どうしても予告をしなければならないということが実際のケースとして多くあるかと思います。ケース・バイ・ケースで、そういう予告をせざるを得ないということがあると思いますが、この場合も、実務上は当局の方への事前相談をしておりますので、予告にかかる規制強化をする必要は、今の時点ではあまり感じられないと考えております。

 ただし、予告をする場合に、事前にきちんと相談をして、適正な内容で予告をしている買付者と、そうではなく、あえて潜脱的とは言いませんけれども、適切ではない予告をする買付者で不公平感みたいなものが残るのは避けるべきかと思いますので、この場合、例えば予告の場合でも事前相談を一定程度義務づけるといった規制の方向は検討に値するのではないかと考えております。

【神作座長代理】
 どうもありがとうございました。続きまして児玉委員、御発言ください。

【児玉委員】
 本日のテーマはかなり専門性の高い議論であると感じておりますけれども、ビジネス界からという目線で、申し述べさせていただきたいと思います。

 5%ルールの適用範囲の見直しと「急速な買付け等」の規制の取扱いですが、これらは同じ考え方で、具体的な当てはめをしていけばいいだろうと考えております。ビジネスを行う者としては、しかるべき合理性があれば例外を認めることは全くやぶさかではありません。その一方で、潜脱・脱法は許さないという態度で、基本的にはそういった正義といいますか、フェアといいますか、そういう目線で考えていただければそれでよろしいのではないかと思っております。

 各論の当てはめについて、5%ルールの適用範囲の見直しのほうで言いますと、金融商品取引業者から寄せられているこの事例、これが合理的な理由があってしかもそのエビデンスがあるのだということであれば、これを例外とすることについては全く異論はございません。

 「急速な買付け等」の規制の取扱いについて、このルール自体は、一つの行為を2つに分けることがもともとプランニングされていることに対する規制であり、これは実務的には十分あり得るし、現にあることだと理解しておりますので、このルール自体は潜脱・脱法行為を許さないという目線から、必要なルールであると思っております。

 検討課題の1とか2につきましては、とりわけ検討課題の2のところでは、私自身はもう市場内取引(立会内)というのを3分の1ルールの対象とするという前提で物事を考えておりますので、それはBの3分の1ルールの対象取引の枠組みに位置づけるという方向になるのではないかと思っております。

 角度の違うことを申し上げるかもしれなくて恐縮ですが、私人による公開買付けの差止めについて、これは差止め自体を認めるか否かの議論というよりも、私は実は差止権者につきまして、せっかくの機会ですので、今回一度ちゃんと議論をしていただきたいと考えております。事務局説明資料8ページに「対象会社を含めることも考えられるという指摘がある」との記載がありますが、これについては、議論をする価値があるということを指摘させていただきたいと思っております。

 金商法192条の実効性がどうなのかというのが、私自身の考えの出発点ですが、この192条が実効性がそれほどあるとは、現状では感じられていないところでして、私人による差止めも、対象会社の株主に申立てを認めることはもちろんのことですけれども、それだけとした場合に果たして実効性がどれぐらいあるのでしょうか。

 費用ですとか、色々な問題意識等も含めて、また内容的な専門性も含めて少しハードルが高くなるかもしれないと思いますので、対象会社自身を含めるということは、実効性という観点からは必要なのではないかと私自身は思っています。

 ただし、もちろんですが、既に指摘がありますとおり、例えば、現執行体制の保身に使われるような濫用的なもの、もちろんこういったケースについては、申立適格を全部否定するという前提、濫用を許さない前提で、対象会社を含めるということの議論はぜひ真剣に行う機会ではないかと考えている次第であります。

 公開買付の運用体制・柔軟化についてコメントさせていただきます。パネル構想ですけれども、これは私も齊藤委員と同じことを申し上げようと思っていました。イギリスは、大英帝国の歴史があってこのテイクオーバー・パネルは長い歴史の中で、独立性を持って、なおかつ信頼ももう得ているといいますか、システムの一つに完全に組み込まれているのです。

 ですから、それを日本でやるということは柔軟な運用体制をぜひお願いしたいということが第一声には上がりますけれども、パネル構想というのでやっていきましょうということになると、そういったバックグラウンドの違い、歴史的背景の違いというのはぜひ御理解いただく必要があるだろうと思っております。

 一言、俗な言い方をさせていただきますと、金融庁の皆さん方を中心に相当の覚悟といいますか、決意表明をしていただかないと、これはなかなかうまくいかないし、時間がかかり過ぎるだろうと思っておりまして、やっていただけるのであれば、ビジネスの目線で申し上げますと、これはまず、どういう最終の到達点になるのかというターゲットとなる体制をあらかじめ明確にしていただいて、しかもそこにたどり着くまでのタイムフレーム、そういったKPI的なものをお示しいただかないと、せっかく運用を柔軟にしていただくシステムなのに、柔軟になるまでには相当時間がかかってしまうということになることを懸念しております。

 そこのところを、可視化というか、目に見えるような形で全体像と、到達するタイムフレームをお示しいただけるとありがたいと思っている次第です。

【神作座長代理】
 どうもありがとうございました。続きまして武井委員、御発言ください。

【武井委員】
 まず、5%ルールの適用範囲の見直しに関しましては、適用除外を認める合理性のある取引はどういう理由で合理性があるのかをきちんと厳格に整理をした上で、その範囲内で除外を認めることが大切だと思います。

 差止制度については、会社を差止権者に入れないと、およそ規律としての実効性はないと思っております。差止事由があるときには、会社を取り巻く状況をきちんと見ている対象会社に差止権限を与えないと、差止めの結果がどうなるかについては裁判所が判断するわけですけども、差止めのスタートの段階で問題が生じ、およそ空文化してしまうと思うので、差止制度を導入するのであれば会社を差止権者としないと意味がないのではないか、実効性がないのではないかと思います。

 事後救済について。売却命令も方法としてあるべきだとは思いますけれども、議決権停止制度が存在しない国というのは、今となっては日本ぐらいで、グローバルにはどこの国でもある制度です。資本市場回りの規律において、公開買付制度であれ、大量保有報告制度であれ、最近のヨーロッパでは、実質株主の把握制度でもそうですけれども、この手の資本市場回りのルールに違反したときには、株式の権利を奪う、もしくは議決権だけ、共益権だけ止めるといったことは、普通に、どこの国でもある状態です。これが日本だけないというのはさすがにおかしいのではないかと思います。

 資本市場は本当にグローバルであって、日本だけ変な状態になっているのはおかしいですし、課徴金は公的サンクションとして色々な限界も当然あるわけですし、損害賠償請求も色々な論点があるわけです。議決権停止制度を導入することにより規律の実効性を高めることはどこの国でもやっているので、それが日本だけできないというのは、私は理解ができないところです。そのため、議決権停止制度は重要ではないかと思っています。むしろ売却命令と両方導入してもいいと思います。

 公開買付けの予告について。これは結構難しい点ではありますけれども、論点は、上場会社が買収する場合は、競争法等のクリアランスが必要なときには、上場会社としての開示があるわけですけども、上場会社以外が買付者に回るときに、開示のインフラが、公開買付けの現在の届出書等ではなされないという点です。それが、予告という形で、ある程度一定の情報が外に出るのであれば、何がどういう根拠であるかを示されないと、風説の流布等の認定もできないと思います。開示の在り方をどういうふうにたてつけるかという全体の議論をどうするか、色々な選択肢があると思いますけども、予告に関しては何らかの方法で開示の在り方を規律するということは考えられるかと思います。もちろんこれはQ&Aでも構わないですけども、そういった開示の在り方、原則である透明性の在り方として、これは重要な論点だなと思います。

 公開買付規制に関するその他の指摘に関連して2点あります。1つ目が、ヨーロッパでは普通に公開買付届出書に従業員を含めた処遇や雇用に重要な影響があるときには、それを開示しろとなっていることについて、日本でも開示がきちんとなされるようにするという点で、開示の強化が必要だと思います。

 2点目が、公開買付期間の延長に関する論点にも絡むのですが、公開買付期間中に色々な裁判が継続したり、総会決議を挟む必要がある場合等に、その事由に関する帰趨によって、公開買付け期間自体がどうなるか分からないというときに、公開買付期間が延びるか延びないか分からない状態というのは非常に不安定です。現在の公開買付期間の規制である60営業日の期間制限は、基本的にいつまでも不安定な状態にすることによる資本市場への影響を考えたわけですけれども、先ほど述べたような裁判や総会による必要があるときには、公開買付期間は自動的に延びる、延びるか延びないか分からない状態ではなく、延びるものであるということを明記しておいたほうがいいと思います。そもそも期間延長に関する制限がここまで硬直的な国は日本だけかもしれず、そのこととも絡むのですけれども、このような場合は、公開買付期間が延びるか延びないか分からない状態が続くこと自体が不安定ですので、延びるということを私は明記すべきではないかと思います。

【神作座長代理】
 どうもありがとうございました。続きまして藤田委員、御発言ください。

【藤田委員】
 まず5%ルールの適用範囲の見直しは、事務局説明資料4ページ目で挙げているような点についての個別除外というのはあっていいかと思います。本当は5%ルールの存在意義も気になるところはあるのですけれども、そこまで根本に立ち返った全面的な見直しをすることが難しいとすると、差し当たり、明らかに弊害がなく、問題になっているような、不当な規制になっているようなところだけ個別に手当することでもいいように思います。

 差止制度は非常に見解が分かれているところですが、私も差止めを認めること自体は賛成です。そしてこの場合に、法令違反だけに限定すると、典型的に問題と思われている強圧性のある買付けなどが拾われないことになります。そうなると、強圧性のある買付けがされた場合、公開買付け後の救済は難しいので、対象会社の方で防衛策で対抗してください、許される防衛策かどうかは、裁判所に聞いてくださいという形になります。その場合の裁判所の判断は、公開買付それ自体だけではなく、買収全体を見てなされることになると考えられますので、ここでの問題意識と若干のズレが生じ、あまりそういう解決だけに委ねることはよくないような気がします。ですので、公開買付け自体に問題に対処するため、端的に公開買付けの差止めを私人が求めるという制度があってもいいと思います。

 ただし、一番問題となるのは要件です。現在は、著しく不公正な場合を含めるか否かという形で議論をしていますが、まず、「著しく不公正」という用語を使うことはやめたほうがいいと思います。そもそも、買収防衛の適否等の話とは全く関係ない話ですので、会社法210条とは全くコンテクストが異なります。ここで仮に法令違反以外の差止事由を入れるとしても、公開買付けに応募する者の意思決定にゆがみを与えるおそれなどといった形で、全く別の用語で表現したほうがいいと思います。その際には、あくまで公開買付けの構造自体に着目した不公正さであるということをはっきりする用語で表現したほうがいいと思います。

 申立て主体も色々な議論があって、インセンティブだけを考えると、会社を含めろというのも分かるのですが、他方でこの制度は、今私が言ったような用語で要件を表現したとしても買収防衛の一手段となりがちなので、少なくとも、対象会社一般に利用可能性を認めるというのは多少抵抗があります。法令違反、たとえば開示違反がある場合については、対象会社に申し立てを認めてもいいと思うのですけども、少なくとも法令違反以外の場合の差止めについては、会社は申立主体から外したほうがいいように思います。なお法令違反については、今入れてもいいと申し上げましたが、法令違反に限定するとすれば、対象会社が申し立てる実益はあまりないかもしれません。そうだとすれば一律に外すということも考えられるかもしれません。いずれにせよ、法令違反以外の原因について全面的に会社を請求主体とするのは抵抗があります。

 事後的救済については、議決権の停止というのが一番端的ですし、また私はあってもいいと思っているのですが、会社法の改正なしにやれるのかという疑問、さらには平成26年の改正で否定されていることとどう調和させるかという問題があって、実現可能性があるかどうか気になるところです。したがって、私は内容としては賛成ではあるものの、今回、金商法の改正によってこれを導入できるかどうかについて、難しい面もあるということは認識しております。

 そうなると、代替的手段も併せて考えたほうがいいことになります。可能であれば議決権停止が導入できれば一番いいと思うのですけれども、代替的な事後的救済も併せて考えておいたほうがいいとは思います。その場合、一番単純で現実的な手法は売却命令でしょう。ただ、これは、ある意味分かりやすい制度ですけれども、要件設定と効果を検討する必要があるように思います。要件はおそらく、法令違反に限定するのでしょうかね。その上で、どういう効果を与えるかについて検討する必要があるように思います。

 公開買付けの予告は、事務局説明資料に書かれているように、風説の流布や相場操縦行為に該当するという解釈自身は基本的にそれでいいと思います。イギリスのような形式的なルールを入れることの是非については、少なくとも、28日以内というイギリスのルールは厳し過ぎるし、これをそのまま入れることに問題があることは私もそう思います。もう少し長い期間、例えば数か月という要件で、イギリスのようなルールを入れることはあり得るという気もするのですが、そこまで長期間放置するような行為はあまり気にしなくていいか、あるいは、風説の流布や相場操縦行為に該当することが多いと考えてもいいのかもしれません。したがって、非常に長期間にした上で、一定の意思表示を求めるというのはあってもいいと思いますが、入れても入れなくても大勢に影響ないというのであれば、特に強く求めるものではありません。

【神作座長代理】
 どうもありがとうございました。

 それでは、日本証券業協会の森本様、御発言ください。

【日本証券業協会】
 公開買付規制5%ルールの適用範囲見直しに関しまして、市場仲介機能を担う証券会社からの意見を取り上げていただきまして、また委員の先生方からは本日、前向きな御意見をおっしゃっていただいており、御礼を申し上げます。

 なお、この点につきまして、本日、委員の先生方からは、潜脱防止についての御意見がございました。こちらにつきましては、恐らく要件の明確化を考えていくことになるのではないかと思いますけれども、その点では事務局説明資料4ページ目の要望2点目のところに、機関投資家等からの買付け等とございますけれども、この機関投資家等とはどこまでの範囲を指すのかといった論点も出てこようかと存じます。

 このような詳細にわたる点につきましては、市場への影響や、証券会社の実務面におけるフィージビリティーの面を含めまして、追って金融庁の担当の方々と相談をさせていただきたいと思っておりますので、よろしくお願い申し上げます。

【神作座長代理】
 御意見をいただき、どうもありがとうございました。

 それでは、本日はこれにて終了したいと思います。貴重な御意見を多数いただきまして、誠にありがとうございました。本日の議論を踏まえて、さらなる検討を進めていただきたいと考えております。また、お気づきの点や御意見などにつきましては、何かございましたら遠慮なく、事務局のほうまでお伝えいただければ幸いでございます。

 最後に、事務局から御連絡等がございましたら、よろしくお願いいたします。

【谷口企業統治改革推進管理官】
 本日は誠にありがとうございました。

 次回のワーキング・グループの日程でございますが、10月2日の14時半から17時を予定しております。詳細はまた御連絡させていただきたいと思いますので、御案内をお待ちいただければと思います。

【神作座長代理】
 それでは、以上をもちまして本日の会議を終了させていただきます。どうもありがとうございました。失礼いたします。
 

―― 了 ――

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