金融審議会「投資信託・投資法人法制の見直しに関するワーキング・グループ」(第6回)議事要旨
1.日時:
平成24年5月18日(金曜日)13時00分~15時00分
2.場所:
中央合同庁舎第7号館13階 共用第1特別会議室
3.議題:
1.開会、メンバー等の紹介
2.プレゼンテーション
- 不動産証券化協会 巻島専務理事(本WGオブザーバー)
- 株式会社野村資本市場研究所 関研究部長
- SMBC日興証券株式会社 鳥井シニアアナリスト
3.自由討議
4.閉会
4.議事内容:
○投資法人の現状と課題について、不動産証券化協会、関氏、鳥井氏よりプレゼンテーションが行われた後、討議が行われた。
○自由討議における主な意見は以下のとおり。
(総論)
- J-REITは、運用資産が賃料収入に着目した不動産であるということ、運用資産は一の不動産でもよいこと、資金調達という課題があることが特徴として挙げられるところであり、伝統的な証券投資信託とは実体が非常に異なっているところ、REITは伝統的な意味での投資信託なのかという点につきどのように整理すべきかという課題がある。
- 従来、日本においては、証券投資信託は信託型スキーム、REITは法人型スキームが用いられてきている。一方、アメリカでは、基本的に証券投資信託も不動産投資信託も法人型スキームが用いられてきており、その理由として、信託型に比べて法人型はガバナンスが強固という点が従来は挙げられていた。ただ、アメリカでも、近時は、法人型スキームにおけるガバナンスのコストが高いことが指摘され、もっとシンプルにすることが提案されていることに留意。いずれにせよ、法人型スキームと信託型スキームかのどちらを用いるべきかという点についても検討を巡らす必要がある。
- 投資法人法制の見直しに当たっては、過去の破綻事例等を教訓とする必要がある。ただ、J-REITは導管体にすぎないこと、個人投資家にとってはシンプルであることがJ-REITの良さであることから、スキームが複雑化することがプラスになるばかりではないことに留意。
- 日本経済が景気低迷、デフレから脱却するためにも不動産投資市場を活性化して、不動産取引を活発にしていくことが非常に重要。その意味で、日本の不動産取引における最大の買い手であるJ-REITには経済的な面での期待が大きい。
(資金調達手段・資本政策手段の多様化について)
- REIT制度の国別比較等を見て、J-REITを投資対象から外す海外投資家もいる可能性があることを考えると、日本の国際金融センター化の推進のためには、多様な資金調達手段・資本政策手段がJ-REITにおいても可能だということを海外投資家に認識してもらうことが重要。そのためにも十分議論・検討を行う必要がある。
- 平時においても危機時においても投資法人の資金調達手段は制度上できる限り用意しておくことが好ましい。投資法人の資金調達手段を多様化することのネガティブな面にも気配りは必須であるが、それをもって新たな資金調達手段の導入を断念するのではなく、どういう規律を設けてネガティブな面に対処するのかを考えるべき。
- 資金調達手段の多様化が危機時のリスクをどの程度軽減するかという点については過信すべきでない。REITやSIV等のファンドは、短期から中期の借入れ・負債で資金を調達し、レバレッジをかけて不動産等に比較的長い期間の投資を行うという構造を持っており、流動性危機が起きれば、資金繰りが行き詰まるというリスクを常にはらんでいる。こういったリスクを、ファンドの資金調達手段の多様化でなくすことはできない。こういうリスクは特殊なリスクといえるところ、特に個人のREIT投資家に対しては、そういった特殊なリスクが内在している旨の理解を引き続き促していく必要がある。
- 現在J-REITが若干低迷している理由の1つに、2005年以降の地価上昇局面において投機的な取引を行うJ-REITが一部にあらわれ、それが金融危機の際に破綻したという事実が、投資家に悪いイメージを与えてしまったことが挙げられる。単なる導管体であるはずのJ-REITが破綻するということは本来あり得ないことが起きているのであり、これを再び起こさないためにも、新たな資金調達手段が濫用されることのないようにしてほしい。
- 投資法人の資金調達手段の多様化については、株式会社の規律と比較しながら議論・検討を行うことがあり得る。
- ライツオファリングについて
- 新投資口予約権はこれを売却できるような仕組みを策定しておかなければ、投資家保護上問題が生じる可能性があるので、会社法の規律や考え方を参考としつつ、制度設計の検討を行うべき。
- ライツオファリングの弊害防止につき、市場関係者の倫理観のみに頼るのは難しい。手法はともかく、何らかの工夫が必要。
- 自己投資口取得について
- 2012年4月末においてNAV倍率が1倍割れしている銘柄はJ-REIT全体の7割を占めるという現状に鑑みれば、市場に対して当該銘柄が割安であるというメッセージを伝えるのと同様な効果を伴いながら、J-REITの投資口価格の適切かつ安定的な推移が期待できるのであれば、自己投資口取得の解禁は検討に値すると思われる。
- 一口当たりNAVを投資口価格が下回っているのであれば、新規で物件を取得するよりも、自己投資口を取得したほうが理論的には収益性が上がるのであり、自己投資口取得によるアナウンスメント効果は大きいものと考えられる。純資産価値を下回る水準での増資を行ったものの、既存の物件の利回りよりもかなり高い利回りの物件を取得することで分配金を向上させるということができた実例はあるものの、投資口価格が一口当たりNAVの0.5倍といった水準であれば、高い利回りの物件を取得しても一口当たりの収益性を維持することは困難。
- 取得した自己投資口については、消却する方が会計制度上好ましいと聞いている。
- 自己投資口取得のために、保有物件を売却することや借入れを行うことまでは必要ない。自己投資口取得の制度があること自体が重要であり、減価償却費として蓄積された現金を活用して、自己投資口の取得を行うのが妥当。
- 何を原資として何のために自己投資口を取得するのかが重要。投資口価格がNAV倍率で1倍を割っているのが異常な状態なのであれば、物件を売却してその資金で安くなっている自己投資口を取得するという株式市場と不動産市場を通じた裁定取引は可能だが、株式市場の中で高値で増資をすることを目的に安値で自己投資口取得を行うことが果たして可能なのか。もしそうであれば投資家をミスリードしてしまうリスクがないかということに留意する必要がある。
- 自己投資口取得解禁により、J-REITにおいては多様な資本戦略が可能となるが、簡素なガバナンス構造や導管体というJ-REITの性質に鑑みれば、どこまでそういった自由度に耐え得るかという点も考慮すべき。
(投資法人のガバナンスについて)
- 外部運用型をベースとしているJ-REITにおいては、できる限りスポンサー、REIT、運用会社が同じ箱に乗って利益相反にならないように、あるいは利益相反になる場合にはそれをチェックするガバナンスのメカニズムを設けることが重要。具体的には、投資主総会を有効活用することが考えられ、例えばスポンサーから物件を取得する際に投資主総会決議を経ることとすべきという意見もある。
- 法律で一定の規律を行うとともに、自主規制ルール、職業規範のようなものも含めて、利益相反の問題について総合的に検討することが必要。資金調達手段等の拡充とバランスをとるという視点から、利益相反規制のあり方について見直すことも必要。
- 本質的には一番利益相反のリスクが高まる瞬間は、REITがスポンサーから物件を取得するときであり、その譲渡価格が適正なのであれば、利益相反のリスクは相当程度軽減できる。ゆえに、外部の鑑定評価がどの程度適正なのか、その適正さを担保するような仕組みはどうするかを検討するべき。
- 投資法人については、投資法人と運用会社のそれぞれにガバナンス体制が敷かれており、両者がセットで機能しているのが実情。例えば、投資法人が物件を取得する際に運用会社内で審議を行うコンプライアンス委員会には、多くの社では拒否権を持つ独立した外部の専門家をメンバーに加えている。ガバナンス体制の充実を考える際には、投資法人特有の事情についても考慮の上で、検討することが必要。
(インサイダー取引規制について)
- 現状でもREITにはインサイダー取引規制の適用があってもおかしくないが、ましてや資金調達手段が拡充し、市場価格に重大な影響を与えるような事由が生ずる場合には、インサイダー取引規制を課すことがどうしても必要になる。
- 合併や増資をインサイダー取引規制の対象とすることに異論はないと思われるが、その他REITのパフォーマンスに影響してくるようなさまざまな要素について過度な規制を入れていくと実務上問題が生じる可能性がある。具体論については相当慎重に検討する必要があり、むしろ一般規定を設けることも一つの選択肢になりうるものと思われる。
- インサイダー取引規制については、上場商品である投資法人投資口の健全な流通を確保し、投資家からの信頼性を向上させるためにも重要な課題。実際の制度設計に当たっては規制が適切に設定されるよう実務者の意見も参考としてほしい。
(J-REITによる海外不動産取得促進について)
- 制度上、税務上の制限によりJ-REITが海外不動産投資を行うことが困難であり、代替的に他国のREITを購入せざるを得ないような状況は問題である。シンガポールや香港のアジアREIT等と健全な競争を促進していくためにも税務上、制度上の改定が必要。
- 非常に多くの日本企業が海外展開のための現地の不動産を保有しているが、事業会社は海外不動産を保有することを海外展開の目的としているわけではない。海外不動産の保有が増えればバランスシートが大きくなり、事業会社が更なる事業展開ができないのは明白であるところ、キャッシュフローの安定した不動産につきREITや私募ファンドを活用することで、本業に充てる資金を捻出したいというニーズがある。これに応えるためにも、REITの海外不動産投資促進のための施策は必要。
- REIT市場は安定したキャッシュフローを配当してきたから、ある程度の規模まで成長してきたところ、同様に安定したキャッシュフローを生み出すものとして、インフラ、ヘルスケア施設、高齢者施設、有料道路とか、上下水道、空港、港湾等があると考えられる。これらの資産につき、投資法人制度を使ってキャッシュを調達し、地方自治体等が財政の健全化を図ったり、インフラ資産の更新を図るといった方策もありうるものと考えている。そして、これらの資産につき、SPCを通じて投資法人が保有するようなればよいと考えている。
- 海外不動産取得に係る一番大きな問題は為替リスク。現在は所得収支が増えてきており、海外から日本に戻ってくるマネーが多いところ、円転せずに海外の資産に投資できるスキームを組成できれば、為替リスクを回避できるので、具体化を期待している。
(J-REIT市場の拡大への課題・対応策)
- 特に個人投資家の投資の敷居を下げるために、J-REITの名称について検討する必要があるのではないか。例えば、スポンサーの名前をREITの名称に付すことで当該REITの信任を高めるといった考え方もありうるものと考えている。その他、ランドマーク的なビルを取得することで市場の関心をJ-REITに集めることも考えられる。実際に、シンガポールのREITでは、そういった取組みが行われている。
- 長期的な開発を行うJ-REITが現れれば、新たなタイプの商品としてJ-REIT市場の活性化につながるかもしれない。実際に、シンガポールの商業施設REITは、大規模な開発やリニューアルを成長性の源泉としている。
- J-REITが期待していたよりも拡大しなかったことの要因として、賃貸不動産市況に対する漠然とした不安がある。例えば、マンハッタンと異なり、東京は床面積が増加しており、将来における不動産需給マーケットの状況を不安視する声がある。その他、スポンサーの存在はJ-REITの信用を高める場合もあるが、同時にスポンサーとの潜在的な利益相反関係への漠然とした不安があることも指摘でき、J-REITのガバナンスの強化やインサイダー取引規制の導入による市場の透明性向上が、今後のJ-REIT市場成長のために重要だと考えている。
(その他)
- 投資法人の内部留保については
- 譲渡損や減損等により一時的に多額の損失が発生した場合、資金調達手段を多様化したのみでは直接カバーできないので、上場廃止を回避することも含めて投資法人の安定性を維持確保するためには、内部留保を一定の程度で許容していくことは不可欠。
- 利益の9割以上が配当金として支払われることを理解した上で、投資家はJ-REITを購入してきていることに鑑みれば、運用会社において支払配当額・内部留保額につき裁量を有することはマイナスに働く面もありうることを考慮するべき。
- J-REITスキーム上の最大の問題点は、会計と税務が乖離した場合に非常に多額な税金が課されるという点。このような制度上の欠点を修正するためには、J-REITに関する税制を含めた制度上の改正が必要。
- 優良な不動産の取引促進という観点からすれば、REITへの不動産現物出資及び課税の繰り延べという形で、遊休の優良な不動産をマーケットに呼び込むべき。また現物出資については、デット・エクイティ・スワップを資本政策手段のメニューに加えるという意味でも、特に危機時において重要だと思われる。
- 現行の投資法人法制においては、会社法と比べると、有利発行や差止めに関する規制につき会社法と比べると不十分な部分がある。実体的規制や手続的規制についても見直す必要があると思われる。
- 運用財産相互間取引について全投資口保有者の個別の同意が必要である点は実態に合わないと考えられるので、弊害防止措置を考えつつも、投資主総会決議(多数決)又は役員会の承認で行えるよう、規制緩和を行うべき。
- 取引制度の改善等、証券取引所の取組みも重要。
- J-REITとREITに投資するファンドとで、出資金の払戻しがなされるか否か等、分配方針に関する考え方が大きく異なる場合がある。これらを混同する投資家もおり、このような違いを統一すべき。
以上
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