金融審議会「我が国金融業の中長期的な在り方に関するワーキング・グループ」(第5回)議事録

  • 1.日時:

    平成23年10月14日(金曜日)13時30分~15時30分

  • 2.場所:

    中央合同庁舎第7号館13階 共用第一特別会議室

○黒澤総務企画局企画課長

それでは、会議に先立ちまして、配付資料の確認だけお願いいたします。資料は4種類ございます。資料1-1「地域金融の現状」、資料1-2「地域金融機関の効率性の分析」、資料1-3「中小企業向け貸出の経済分析:理論と現実」、資料1-4、A3の織り込みですけれども、「地域密着型金融の推進に関する経緯等」、この4種類でございます。

以上、確認方、よろしくお願いいたします。

○吉野座長

それでは、時間になりましたので、ただいまから「我が国金融業の中長期的な在り方に関するワーキング・グループ」の第5回目の会合を開催させていただきたいと思います。

第1回目の会合でご了解いただいておりますが、このワーキング・グループは原則公開としてありますので、本日も議事を公開とさせていただいております。

今日は、これから3回にわたりまして、地域経済における金融機能の向上についてさまざまな議論をさせていただきたいと思っております。本日は、全部で4人の方からご報告をいただく予定でございます。皆様から見て右側の方にお座りの方々ですけれども、まず、全体といたしましては、地域経済における金融サービスの需給状況、それから、マクロ的な状況、少しアカデミックな立場から議論的、実証的研究がどんなふうになされているか、こういうものを今日はご報告いただきたいと思っております。

このために、最初のご報告は、日本銀行の金融機構局の廣島金融モニタリング課長、それから、立命館大学の播磨谷准教授をお迎えしております。一度その後で質疑応答をいたしまして、その後、中小企業向け貸出しに焦点を当てまして、小野委員と、地域密着型金融に関する金融庁の取組みにつきまして、監督局の西田銀行第二課長からご説明をいただいて、さらに最後にご議論していただくというご状態でございます。

それでは、まず最初に、日本銀行の廣島金融モニタリング課長からご報告をお願いしたいと思います。よろしくお願いいたします。

○廣島金融機構局金融モニタリング課長(日本銀行)

日本銀行の廣島でございます。本日は、よろしくお願いいたします。

私ども日本銀行金融機構局がやっております幾つかの仕事のうちの一つに、金融機関の方々といろいろミーティングを行ったり、資料をちょうだいしたりして、連続的に経営の状況をフォローしていくという仕事がございます。俗にオフサイトモニタリングと申しますけれども、私は、そのモニタリングのセクションにおりますので、本日はそのモニタリングの過程で得られました情報をベースに、地域金融の現状についてお話をさせていただきたいと思っております。

それでは、資料を1枚おめくりください。まず最初に、左側の表ですが、大きな絵柄としまして、貸出しの動向を載せております。こちら、細い線は大手行、黒い太線は地域銀行になりまして、貸出しの残高そのものを2000年から並べておりますけれども、特徴的なことは、出発点の2000年のあたり、実は大手行の方は地域銀行を非常に大きく上回っていたわけでありますけれども、足元にかけてその差異はどんどん縮まってきました。実は、足元については、この貸出しの金額が逆転をしております。すなわち、数字が書いてありますけれども、地域銀行が197兆円、大手行が196兆円ということになっています。

絵をご覧いただくとおわかりいただけますが、地域銀行の場合、例えば2005年あたりから、緩やかではありますが、じりじりとこの貸出しの残高は上がってきている、増加をしている状況であります。ですので、こういった面を見る限りにおいては、貸出し自体は銀行の非常に基本的な機能でありますので、その面も果たしているという言い方ができるかと思っています。ただし、中身をいろいろ見てまいりますと、若干留意すべき点もあるかなというふうに思っています。

同じページの一番右側をご覧ください。こちらは、過去5年間につきまして、各業態の貸出しがどういう分野で増えたのか、減ったのかというのをお示ししています。幾つか特徴があると思っていまして、実は真ん中2つ、地域銀行を大都市圏と地方圏の2つに分けてみました。これをご覧いただきますと、まず1つ目は、大都市圏の地域銀行、こちらにつきまして、黒い棒の部分が非常に大きく伸びています。これは、個人向けでありますけれども、もう住宅ローンと考えていただいて結構かと思います。ですので、大都市圏では住宅ローンの取組みが非常に強まったということになるわけです。

それから、この大都市圏、地方圏共通でありますけれども、ゼロ線から上に延びている斜線の部分、こちらは実は大企業向けであります。ですので、地域銀行でありますけれども、大企業向けの貸出しというのはこの間伸びたという面があります。

それから、今度は地方圏の方の地域銀行で、下に延びている線が中小企業向けであります。ですので、この間、中小企業向けの貸出しが減っていまして、それとは違って、同じところの上の棒、白のところがありますけれども、これは地公体向けであります。ですので、こういった地方圏の地域銀行では、地公体向けの貸出しも非常に増加をしているという格好になっています。

1枚おめくりをいただきまして、こういった内容につき若干だけ付言させていただきますけれども、まず、住宅ローンにつきましては、ご案内のとおり、かつての住公の改革があってから民間部門の貸出しが伸びてきた。こちらは、大手行、地域銀行を合わせてしまっているベースでありますけれども、民間のシェアも高まっているということであります。ただ、その過程においては、やはり大都市圏を中心に非常に激しい競争が行われています。結果としまして、右側、住宅ローンの金利でありますけれども、下の方の線、実線の部分が変動金利になりますが、こちらの方がかなりの角度をつけて下がっている。すなわち、厳しい競争の過程で、大分低金利貸出しなどを増やしながらシェア争いをしているというような格好が見受けられるかと思っています。

それから、下のページの左側の図表、比較的似たような情報でありますが、多少計量的なといいますか、分析をかませた結果でありまして、何をやっているかといいますと、日本の各県において、この過去5年間、大体利ざやが縮小しているんですけれども、その利ざやの縮小に対して、それぞれの県における競争の厳しさがどういうふうに寄与をしているかというのを見たものであります。競争の厳しさは、一応、その県において例えば貸出しのシェアが変わりやすいといったようであれば競争は厳しいと認識しているわけですけれども、こちらの方も、大都市圏において、やはりより厳しい競争がなされ、より利ざやが下がりやすくなっているということを示しているかと思っています。

また、右側の、これは短期と長期の貸出しの金利をそのまま並べているというものでありますが、1つ特徴は、長期の貸出金利が短期を下回っているということであります。通常のある種の金利のイールドカーブのようなものを想定していただくと、長期の方が高くてもおかしくないと思いますが、お話ししたように、まず、住宅ローンの取組みが、しかも低金利貸出しで大分強まっていること。それから、この中の一つには、地公体向けというのも大体長期の貸出しになるわけですけれども、地公体向けも非常に低い金利で行われているということが知られています。ですので、そういった効果がこの絵にあらわれていると思っています。

1枚おめくりいただきまして、先ほど、1枚目のところで大企業向けが地域銀行で伸びているというお話を差し上げました。この左上、これはよく言われていることでありますが、地方圏の中小企業の売上高はこの間、非常に下の方に落ちてきています。下の図につきましては、今度は地域銀行の取引先、貸出先というふうに見ていますけれども、こちらの方、黒い太線の中小企業は、やはり減っていく方向です。よく言われています地方経済は大分厳しい状況ですし、廃業率と開業率を見ると廃業率の方が高まっているということで、中小企業の取引先、貸出しの相手先というのはどんどん減っていくような状況もあるということです。

結果といたしまして、右側でありますけれども、地域銀行による県外の貸出し、前年差というものを載せております。こちらをご覧いただきますと、大変目立つのが斜線の部分の東京での貸出しというものであります。こちらは、具体的には東京でじかに地域銀行の方々が相手先を探すというのはないわけではないかもしれませんが、同時に、大手行などが組んだシンジケートローンの方などに参加する格好で、こういった東京で伸びているという内容がございます。

以上、ご覧いただいたように、いろいろな分野にそれぞれ取り組みながら何とか貸出の増加を維持するということをやっているわけでありますけれども、この間、預金は預金でコンスタントに集まっております。ご案内のように、下のページの図表の右側ですけれども、貸出しだけではある種追いつかないといいますか、国債の投資の方の増加も進んでいるということも並行してみられているわけでございます。

1枚おめくりいただきますと、こうした活動の結果としてと申しますか、収益の動向でありますけれども、一番左側、コア業務純益でございますが、基礎的な収益力を示すというふうにご理解ください。これを大手行と地域銀行に並べております。一たん棒を無視していただいて線の部分だけご覧いただきますと、右側の地域銀行は大手行に比べて、まず若干レベルが低い。あわせまして、じりじりとこの間、基礎的な収益力が下がる方向にあるということが見てとれるかと思います。

この内訳に相当します資金利益の部分だけを真ん中に取り出していますけれども、こちらは、やはり大宗を占めますのは貸出しの関連でありますが、ここからの収益というのはじりじりと下がる方向にあるということでございます。

一番右側、当期純利益、最終利益の段階で改めて大手行と地域銀行、両方並べていますけれども、大手行の方、さまざまな、例えばそもそもシンジケートローンをアレンジしてフィーをとるですとか、M&Aを活発にやるとか、あるいは海外業務を持つとかということでありまして、高いときは収益は高いんですけれども、今度は低いときは低いという、振れが大きいというのは大手行の特徴だと思っています。

これに対して、この点線の地域銀行については、非常に安定をしているという言い方が一つはできると思っています。ただ、安定はしているんですけれども、水準としてそれほど高まる感じでもない。足元は経営体力なども十分備えておりますので、特段の問題、経営面の心配はないというふうに理解しておりますけれども、この先、地域経済が一段と疲弊していく、縮小するようなことがあれば、それに従ってだんだん地域銀行自体の営業基盤、ひいては収益性というのは低下をしていくおそれがあるというふうに理解をしております。

ただ、もちろん、その状態について地域銀行が何もやっていないというわけではありませんで、以下、もちろん地元の中小企業に対してさまざまな支援の取組みを行っているということを簡単にご紹介したいと思っています。

1枚おめくりください。お話の出発点といたしまして、私どもの日本銀行がやっております成長基盤の強化を支援する融資というものをご紹介したいと思います。日本経済全体の課題といたしまして、潜在成長率や生産性を引き上げていく必要があります。そういったものとの関連で、成長基盤をそれぞれの地域で強化しようとご努力をなされている金融機関の方々の取組みを何とか支援できないかというもので、私どもでは、昨年の5月から成長基盤強化を支援するための融資というのを始めております。ここまで四半期に1回、5回実行いたしまして、事前に設けました3兆円という上限に今達しているという状況であります。

その融資でどういった分野の貸出しを支援しているかといったものが円グラフで示されております。非常に大きな面を占めているのが環境エネルギーですとか、その後の医療・介護ですとか、以下いろいろありますけれども、その中には、アジア投資であるとか、地域・都市再生、事業再編といったものも含まれています。やはり、通常こういった分野で皆さん取り組まれておられますし、取り組む必要があるなと思っているところに、しっかりと貸出しを行おうという動き自体が見られているところだと思います。

こういった成長基盤を支援する融資との関連では、今年の6月につきまして、新たに、例えば出資ですとか、ABL(アセット・ベースト・レンディング)でありますけれども、動産や債権担保融資、こちらの方を見合いにした特則スキームというのを新たに導入しております。その関係につきまして、以下ご説明いたしたいと思いますけれども、なぜこのABLを支援するかということでありますが、下のページであります。左側、中小企業の与信・受信バランスとありますけれども、中小企業から見た場合、この間、例えば大企業などを相手にみずからの方がより商売上与信をしていく、売掛債権なんかを多く持つという状況が強まっております。ですので、そういった売掛債権なんかを、より簡便に流動化できれば、中小企業の資金繰りの緩和にはなるということであります。

また、右側、いわゆるライフステージごとに見た場合の支援にもなる面があると思っていまして、例えば、創業5年以内の企業、こちらの方は、この黒棒で示していますけれども、商売を始めますので、売掛金なんかはバランスシートにおいて、ある程度ウエートが重いということはありますが、一番右側、固定資産になりますと、当初はなかなか蓄積がないということで、ここの部分はあまり余る部分がないという格好であります。ですので、こういった面でも売掛金をうまく利用ができれば、創業段階の企業の支援にもつながりやすいという面があると思っています。

1枚おめくりいただきますと、こちらは非常によく議論されている担保・保証の役割のものであります。また、この後もいろいろご説明があるかと思いますので、あまり詳細には触れませんが、担保・保証自体、各国でもいろいろなことが行われているということがあるとは思いますけれども、この担保の中での不動産比率の高さ、保証の中での個人、代表個人の高さといったものは、やはり特徴があるのではないかと思っています。

こういったものを背景としつつ、各金融機関においてABLの取組みに努めているわけですけれども、ただ、現状、下のページになりますが、貸出し全体に占める比率は0.1%程度とあまり大きくなっていないのが実態であります。幾つか課題があるというふうに認識はしております。この担保管理、動産ということでありますので、そもそもその担保が存在するのかどうか、増えているのか減っているのか、そういったものを非常に連続的にモニタリングをする必要がある。大変コストと手間がかかることではあります。「『一般担保』化」というふうに急に書いてありますけれども、預金とか、国債、などについては優良担保として非常に確実に換金ができる。それ以外のものの名称として一般担保という名称があります。動産担保という名前もついていますので、それをきちんと一般担保と認めれば、その部分はきちんと貸出しが保全をされているというふうに、引当金なんかを積まなくていいという効果を持つはずなんですけれども、残念ながら、現状はそういう使い方はあまりされていない。いろいろな意味で、最初に申しました担保管理の難しさ、それを処分した経験もあまりないので、そういう意味でのトラックレコードのなさ、そういったものもあわせまして、あまりきちんと保全効果を持つものとは見なしていないという実態がございます。

3つ目になりますと、売掛債権が二重に譲渡をされてしまうと困るということで、譲渡禁止の特約というのが通常ついています。これを外していかないと担保としてとれないというのがあるわけですが、例えば中小企業から見たときに、取引先の大企業に対して、そちらに対する売掛債権の譲渡特約を外してくださいとお願いすると、大企業から見たときに、そんなものまで資金化しないといけないぐらい困っているのかというような認識が出る可能性があって、やはり中小企業から言い出しづらいという面がございます。この点は1つ、電子記録債権制度という制度が立ち上がりましていろいろな機関が取組み、登録機関ができ上がっています。こちらであれば、もともと譲渡を前提としたような仕組みで登録されますので、こういった機関が広がっていけば、この部分の制約の緩和になっていくのかなという気がいたしております。

1枚おめくりください。海外進出支援の分野になります。ご案内のとおり、中国、アジアを中心に大変多くの企業が海外進出をするようになって、また、足元でそういった動きが強まっている実態があるかと思っています。そういった中で、背景をグレーで記載している中堅・中小企業も例外ではございませんで、これは9年までのデータでありますけれども、04年に対して2割ほど、この中堅・中小企業の現地法人も増えています。大企業にくっついていくだけではなくて、中堅・中小がみずから現地で販路を開拓したり、現地法人を取り込むといったことも始まっている状況かと思っています。

ただ、地方銀行において海外に支店をつくる、フルバンキングを行うというのは非常にコストもかかりますし、なかなか人材もいないという面がございます。結果として、下のページでありますけれども、今やっていることとしては、こういった企業のサポート力を強めたいということでありまして、駐在員事務所を増設したり、海外現地金融機関との提携を強めたりといったことをやっている最中であります。今こういった動きを強めているというご紹介であります。

また、1枚おめくりいただきますと、経営改善・事業再生というのがございます。こちらは、もういろいろ議論をされているところではございますけれども、私どもは、実地の考査というのもやっております。そういった中で中身を拝見させていただきますと、いろいろな意味で成果を上げつつある分野、面はあるのかなと思っています。例えば、外部機関、やはり金融機関内部の人材だけではなかなか全部見切れないというのがございますので、中小企業再生支援協議会ですとか、いろいろな機関とタイアップをしながら事例に取り組むといったこと。地域と一体となった、これは県ですとか地元のほかの金融機関と一緒になりながら事業に取り組むといったことも随分広がりを見せているというふうには思いますけれども、引き続きこのあたりというのはきちんときめ細かく、それぞれの企業の実態を見て改善計画を立て、進捗管理をするというのが必要なところであります。

ただ、いかんせんそういった取組みを要する企業も多いという意見もございますので、このあたり、金融機関としてはもう少しきちんと見ていく必要があるというものもあるかと思います。

最後、事業承継ということでありまして、注目されている分野の1つかと思います。やはり、それぞれオーナー企業の方々の高齢化の問題といいますか、後継者不足があるということだと思います。

1枚めくり、最終ページに行っていただきまして、事業承継の場合に1つ問題となるのは、代表の方が例えば個人保証なんかをしていらっしゃって、その会社の役員の方に非常に能力の高い後任候補がいらっしゃっても、その方自身は同じだけの保証をする資力、財力を必ずしも持っているわけではないという面が引っかかるという事例をよく聞いております。その意味におきましては、下側ですけれども、例えば、M&Aなどを通じまして、ほかの企業を買収していくという形というのも、一瞬ドライには聞こえますけれども、一つのあり方なのかなと思っています。金融機関は、そこに対して、もちろんファイナンスをつける、そのマッチングなんかを事前の段階でやるといったこともできるかと思っています。

以上、後半、非常に駆け足で見出し的なご説明になってしまいましたけれども、一連の取組みについてまだまだ不十分な面が多いということは事実かと思っています。ただ、一方で、あまりにも短期間のうちに非常に性急に収益化を求め、効果を求めるということであると、前段でご紹介した仮に低採算であっても何とか貸出しのボリュームを確保するといったようなことと同じような構造になってしまう可能性もあると思います。そういう意味では、時間をかけて着実にこういった取組みを強めていくことに対するこれも、我々としては必要かなというふうに思っております。

駆け足でしたが、以上でございます。

○吉野座長

どうもありがとうございました。

それでは、引き続きまして、資料1-2を使いまして、立命館大学の播磨谷准教授、お願いいたします。

○播磨谷准教授(立命館大学経営学部)

立命館の播磨谷と申します。どうぞよろしくお願いいたします。

最初のページをおめくりください。私の今日の報告内容は、以上5つの構成になっております。ただ、時間が15分と限られておりますので、この2番と4番、特に4番ですね、私が最近データを使ってやっております近年の地域金融機関のパフォーマンスの計測結果と背景の問題について中心にしたいと思っております。

まず、3ページ目、効率性の問題につきまして概観しているページをご覧ください。この問題につきましては、経済学的にはX非効率性の議論というのがスタートになっております。その後、産業組織論におきまして市場成果をどう評価するかという問題がありSCPパラダイムと呼ばれる、市場構造が市場行動を規定して、さらに成果に反映するといった因果関係の内容では、高い市場成果を得ている事業体というのは、市場集中度が高いという指摘があり、それがよくないというような議論がありました。

それが1970年代初めのころから、市場成果が高い事業体というのはパフォーマンスがいいのではないのかと。つまり、その事後的な結果に基づいて、逆にその因果関係を見直すという議論が起こってきまして、その効率性をどう測るかということに70年代以降、計量経済学的に大きな関心が集まっております。

特にここ二、三十年の間は計量パッケージが非常に普及化しまして、簡便な方法で効率性を測れるというのが、この一連の研究の流れになっております。

次をご覧ください。4ページ目につきましては、バンキングセクター全般についての効率性の問題の背景についてまとめております。こちらにつきましては地域金融に限定した話ではございませんので、今日の議論としてはご覧いただくという形で流したいと思っております。

次の5ページをご覧ください。これらが効率性に関連しました現在の主要な検証課題になるかと思います。まず1番目ですが、後述するとおり、効率性というのは非常にいろいろな計測手法がございます。そこで、異なる計測手法から得られたパフォーマンスの指標につきまして、その頑健性を見るというのが一つの分野として確立されております。

あと、2番目から4番目につきましては、得られた効率性を使いまして、その背景を見るという分野になっております。まず、2番目は、保険業でありますとか、銀行業に限らず、ガバナンスの違いなんかを、出た効率性を分割した上で比較をする。例としては株式会社形式か相互会社形式といったような、産業全体の中で属性の違いに応じて背景を見ていくというのがこの分野になっております。

3番目が規制緩和の起こった前後につきまして効率性がどう変化しているか。実は、今回の私の後半でご紹介します地域金融機関の近年のデータを使った分析でも、この内容に関連しまして一部検証を行っております。

4番目ですが、実は、90年代末以降、ヨーロッパの規制緩和の流れを受けて非常に多いのはこの分野になります。効率性という指標が破綻をする金融機関の事前予測をどこまでできるかという問題でありますとか、あるいは、合併を行ったコンビネーションにおきまして、吸収する側とされた側につきましてどう違うか、そういったこともこの分野では大きな検証のテーマになっております。

次をご覧ください。6ページです。こちらが先ほど申しました効率性の計測手法の内容であり、ここでは代表例を4つ挙げております。斜体になっております1番と4番が日本の金融産業では非常に多いアプローチになっておりますが、これは時間の関係もございますので、今日の後半の参考資料の1から最後のページ4枚につきまして、特にSFAというものを中心に概要をまとめておりますので、後でご覧いただければと思っております。

近年の関連研究の傾向は、次の7ページをご覧いただきたいのですが、先ほど申し上げたとおり、効率性というのはさまざまな分析手法がございまして、80年代につきましては、どの効率性の手法を採用するかということに非常に学問的な関心が集まっておりました。したがって、この当時では、異なる計測手法から得られた効率性の指標の比較を行うというのが代表的なアプローチになっておりました。その後、90年代半ば以降ですけれども、得られた効率性につきまして決定要因というものを検証するアプローチが盛んになってきております。具体的には、合併といったような再編の問題でありますとか、規制緩和の影響、特にEU内におきまして近年多いのは国際比較であり、どの国の銀行セクターのパフォーマンスが高いか低いかということを取り扱った論文が非常に多くなっております。

これも今日の参考資料の最後の方に最近のサーベイ論文をまとめておりますので、後でご覧ください。特に3つ目のGoddard et al. (2007)というのがヨーロッパの方の近年のバンクパフォーマンスのサーベイを行った論文として挙げております。

一方、2000年代以降のアメリカの銀行業におきまして、こういったパフォーマンスの問題というのは非常に関心が集まるはずではあるのですが、先行研究が急に少なくなってきております。むしろ最近多いのは、このレジュメのとおり、新興国におきまして、欧米での先行研究のアプローチをそのまま適用したようなものが非常に多くなっておりまして、アメリカでは、むしろ、新しい計測手法の方に議論が流れている印象を持っております。

次の8ページをご覧ください。今回、私の事例研究でも、費用関数と利潤関数に基づいて両方の効率性を計測しております。

9ページ、uとvというのが、確率的フロンティアアプローチ(SFA)の大きなポイントになっております。vというのが通常の関数形に付随する左右対称の統計的誤差項になります。この9ページの図は費用関数に基づいて行っておりますので、理想的な費用フロンティアから各事業体の費用が上に超過している。その超過の部分をuで表される非効率としてとらえるというのがこのアプローチの特色になっております。

次の10ページをご覧ください。これは、先ほどのサーベイ論文等から近年、過去20年近くの欧米の先行研究の主要な帰結点につきましてまとめている内容です。特に注目していただきたいのは、上から3点目の問題でありまして、費用関数、利潤関数、それぞれから得られたパフォーマンスなのですが、前者につきましては、多くの先行研究において、費用効率性は合併直後から数年間は悪化し続けるという結果が報告されています。一方、利潤の方につきましては、合併直後から改善が認められるというのが非常に多くなっております。ただ、この2番目にも書いておりますとおり、利潤の場合、何をもって銀行の利潤とするのかが非常に定義があいまいであり、先行研究によって結果が大きく違っております。

次の11ページが、今回の報告の主要な分析事例になります。今回、私は、地域金融機関の中から地域銀行と信用金庫を取り上げ、2002年度以降の効率性の計測と、その得られた結果に基づいた効率性の格差の要因について分析を行っております。

分析手法に書かれているとおり、費用関数、利潤関数、おのおのを定義して計測を行っております。データにつきましては、11ページの下段にまとめておりますので、ご覧いただければと思います。

次の12ページ、こちらに費用関数、利潤関数の各業態別の結果をまとめております。この指標は1に近づけば近づくほどパフォーマンスが高い。逆に悪ければ1から乖離していくという指標になっておりまして、これを見ていただきますと、左の方が地域銀行の値になっているのですが、コストの効率性の方が利潤に比べて非常に高いというのがわかるかと思います。信用金庫につきましても同様でして、コストの方が利潤に比べて高くなっています。おのおのの指標につきまして差の検討を行った結果、各業態とも有意に費用のパフォーマンスと利潤のパフォーマンスが違うという結果が確認されました。

一方、業態間の違いということで、費用と利潤のパフォーマンス格差につきまして検証した結果、地域銀行と信金との違いは、費用の効率性につきましては、各年度と全体、すべてにおいて有意な違いが示されておりました。つまり、この表を見ていただくとお分かりのとおり、地域銀行の方が費用効率性は高いという結果が得られたのですが、利潤の効率性につきましては、若干信金の方が高い結果が出ていますが、年度間ではすべてにおいて有意な結果が得られていないという違いが出てきております。

次の13ページをご覧ください。こちらでは何を示しているかと申しますと、効率性というのはあくまでも銀行のパフォーマンスの一つの代表的な指標でありまして、他の代替的な指標との関連について分析結果をご紹介しております。こちらは2009年度の結果に基づいて、いわゆる生産性の指標である従業員数当たりの業務純益の値と、ROA、あるいはDEAという別の効率性の計測手法から得られたパフォーマンスの指標との相関係数を示しております。コスト効率性につきましては、DEAとは0.47と若干高いのですが、あと、ご覧いただければおわかりのとおり、代替的な記述統計から得られる指標とはあまり関連性がないと、こういった結果が得られております。

こうした費用、利潤おのおののパフォーマンス指標に基づいて行ったのが、次の14ページの分析内容になります。何をやっているかと申しますと、まず、真ん中あたり、ここをご覧いただきたいのですが、費用効率性や利潤効率性がどのようなファクターによって差が生じているかということを誘導形の推定関数形で確認をしているのがこの内容になっております。

考えた課題としまして、貸出姿勢の問題でありますとか、収益構成の違いについて変数を定義して検証を行っております。

具体的には、預貸率と経常収益に占める役務取引等収益の比率を用いております。

次に、2番目の課題としまして、有価証券の運用の問題につきまして、全有価証券の保有残高に占める国債比率を用いております。ここには示しておりませんが、計測結果にはもう一つ代替的なポートフォリオの変数としまして、その他有価証券比率、つまり、外債でありますとか仕組債といったような、国債、地方債、株式以外の有価証券の比率につきましても変数と置いて検証を行っております。

3点目、これは定義につきましては議論が分かれるかと思うのですが、地域密着度の代理変数としまして、近年、地域銀行は非常に広域的な店舗展開をされておりますので、本店所在地内都道府県内にどれだけ店舗があるかということを比率として定義しまして、こういった検証も行っております。

最後に、地域ダミーを使って地域性の検証についても行っております。

こういった地域密着型金融というものとの関連に加えまして、欧米の先行研究にならい、合併の影響を、合併の経過後にパフォーマンスがどう変わっているか、そういったことにつきましてもダミー変数を使って検証を行っております。

次の15ページが、まず地域銀行の計測結果になります。アスタリスクマークがついているのが有意な結果を示しておりまして、下に要点をまとめておりますとおり、実は、フィービジネスの手数料収益の比率が利潤の方に有意にマイナスの影響が出ています。一方、国債の投資比率は有意には出ていないのですが、逆に、その他有価証券の比率というものが地域銀行につきましては費用、利潤ともにパフォーマンスを高めるという結果が出ています。

合併経過後の年数の違いを表す最後の3つのダミー変数につきましては、まさに欧米研究を示唆するように、費用効率性が合併後3年たっても全般的に低下をするという結果が得られています。

逆に、利潤効率性につきましては、合併直後こそ有意ではありませんが、合併直後ダミーと2年後ダミーというのがプラスに効いています。

次の16ページをご覧ください。こちらは信用金庫さんの要因分析の結果になります。信金につきましても、近年、広域合併が進んでおりますので、本店所在地以外の店舗が多い先はあるのですが、ここでは店舗の問題はまず割愛しまして、それ以外の変数を使って同じような検証を行っております。

こちらも下段に要約をしておりますが、フィービジネスの比率が、費用効率性、利潤効率性ともに有意に効いてこないという結果が出てきております。同様に、国債投資比率につきましても全く有意に効いてきていません。一方、預貸率につきましては、費用効率性に対してプラスの影響が出ています。

こういった2つの結果を踏まえまして、次の17ページに全般的な解釈といいますか、政策的な含意につきましてまとめております。

まず1点目は、近年、貸出収益が環境的に厳しい状況の中で、地域金融機関の現場におきましては、いわゆる投資信託であったり、保険販売といったような非金利収入へのシフトが起こっていますが、少なくとも2002年度以降の8年間のデータに基づく分析では、こういった非利益収入へのシフトというものは有意な影響を与えていない。一方、貸出しが低迷する中で、有価証券への投資先としては国債投資が近年非常に注目されていますが、こちらにつきましても、パフォーマンスに対しては全く有意な影響は出ていないという結果が得られてきております。

最後の合併の問題につきましては、欧米の先行研究を示唆するような、費用効率性に関しては効果はないが、利潤効率性については効果があるという結果が得られてきております。

次の18ページをご覧ください。こちらは、今回取り上げた近年の地域金融機関の環境変化としまして、非金利収入の変数がパフォーマンスに与える先行研究の紹介です。この90年代末のアメリカ商業銀行のデータを使ったRice and De Youngの2004年の分析では、こちらの計測結果を見ていただくとおわかりのとおり、非金利収入比率が高ければ高いほどROEは高めるけれども、その分散についてはかえって大きくなる。つまり、下に書いていますとおり、リターンについてのメリットはあるけれども、業界全体としてのリスクというものがむしろ拡大していく要因になっていることがこの論文では主張されております。

こういった結果を踏まえまして、当然、今回の報告でもまだ十分に検証されていないテーマがあるかと思います。今後の地域金融機関の分析につきまして、私なりに課題を次の19ページに述べさせていただいております。

特に今回の私の検証では、地域経済の変数というものが全く入っておりません。ですから、今後はこういった地域経済の環境要因との関連について見る必要があるのではないかと考えます。

2番目の問題としまして、経営形態の変化という点を指摘しております。今回の報告内容では、効率性の変化というものをただ単純に合併後の経過年数だけでとらえているんですが、私の別の現在投稿中の論文では、地域銀行を対象に仮想的な広域再編を費用関数に基づいてシミュレーションをやっておりまして、そこでは、いわゆる一県一行主義的な再編というのは費用を低下させる効果があるという結果が出てきておりまして、そういった現状の地域金融機関の規模に基づいた再編の効果についても今後検証していく余地があるのではないかと考えております。

以上、駆け足になりましたが、私の報告はこれで終わらせていただきたいと思います。ありがとうございました。

○吉野座長

播磨谷先生、どうもありがとうございました。

それでは、ここで一たん、お二人のご発表に対しまして、どなたからでも結構ですけれども、ご意見あるいはご質問がありましたらお願いしたいと思いますが、いかがでしょうか。

まだどなたも質問がないので、私から播磨谷先生にちょっとお聞きしたいんですけれども、先ほどの日本銀行の廣島課長からの方は、地方公共団体向けが大分増えているということが1つあったんですが、先生の中でそういう貸出しの中に企業向けか、地方公共団体向けか何かそういうのが入っているのかどうかと、もう一つは、先ほどのお話の中で地域の変数がないというお話だったんですけれども、例えば人口密度とか産業密度とか、そういうことも効率性に影響するような気がするんですけれども、いかがでしょうか。

○播磨谷准教授(立命館大学経営学部)

こういった分野につきましては、因果関係をどっちの方向からとるかということに非常に議論があるかとは思うのですが、やはりその地域を代表する変数として、都道府県内GDPなどの変数との関係見る必要があるかと思います。

もう一つ、貸出構成につきまして、実はこれも同じような検証を試みてはいたのですが、信用金庫の業種別貸出比率というのがデータベース上でとれるのは、ファイナンシャルクエストでは2003年か2004年度以降でありまして、今回はたまたま2002年度からやったということもありまして、データがそろわなかったというのが正直なところです。

地域銀行につきましては、公表されているデータベースで過去から遡及できますので、そういったどの業種に貸しているかという問題には対応できるかと思います。

○吉野座長

ありがとうございます。いかがでしょうか。

はい、じゃ、どうぞ、大垣先生。

○大垣委員

ちょっと専門ではないので、効率性という言葉を私なりの人間語で理解したいんですが、例えば効率性というのは、要するに全体の費用を変化させるに当たって、ある項目を変化させるとどのぐらいそれが強く影響するかというのを見ていらっしゃるという感じですか。

○播磨谷准教授(立命館大学経営学部)

そうですね。費用関数、利潤関数、ともに経済学的なベースというのは距離関数になりますので、投入産出の関係でいきますと、なるべく少ない投入で高いアウトプットを出すというのが効率性の定義になります。

○大垣委員

ということは、15ページの地銀の結果を見る場合には、例えばある銀行が、ある地銀さんがいらっしゃる場合に、その他、国債以外の有価証券の保有比率に注目してそこを変化させると、費用効率がより効率的に改善することができるというふうに読めばよろしいんですね。

○播磨谷准教授(立命館大学経営学部)

はい、そういう解釈で。

○大垣委員

そうすると、預貸率も、したがってわりと効いてくるということですね。

○播磨谷准教授(立命館大学経営学部)

そうですね。

○大垣委員

それが、費用の効率性を改善するということは、要するに、例えば粗利経費率がそれだけ改善するとか、そういうようなことに置きかえて考えていけばよろしいんでしょうか。

○播磨谷准教授(立命館大学経営学部)

そうですし、ご指摘の結果、特に地域金融機関の地域銀行さんの結果に基づいてやや強引な解釈をしますと、役務取引等収益の比率が上がっていないということは、マンパワーを使って投資信託や生命保険の販売を行うよりも、本業である貸出業務、ロットが大きいですから、そういった効率的な貸出業務を推進した方が、むしろコスト面において改善が図られると。

○大垣委員

それは、要するに額の議論をしているわけではないので、1人の銀行員をどっちにあてるかというふうに考えた場合は、1人の人間をそちらに振り向けた方がより大きな効果が得られると。

○播磨谷准教授(立命館大学経営学部)

そういう解釈は可能だと思います。

○大垣委員

その場合に、コスト効率性ですから、利ざや率を上げるというよりは、同じ利ざや収入から経費率を下げて、純利益を上げるという方向に行きたいのであれば、役務取引にそれを振り向けるよりは貸出しの方をやらせた方がいいということが読み取れるという、そんな理解でよろしいわけですね。

○播磨谷准教授(立命館大学経営学部)

はい。

○大垣委員

ということは、預貸率を改善しても、収益性に対する貢献はむしろマイナスということは、あまりいい効果は得られないぞというふうに読めばよろしいんでしょうか。

○播磨谷准教授(立命館大学経営学部)

ただ、この利潤の方の効率性は、今日の報告資料で利潤の定義をまとめているかとは思うのですが、実は、研究に応じて利潤の定義はさまざまであります。今回私が用いた定義は、単純に経常利益を使っておりますが、経常利益はマイナスの金融機関がございますので、推定関数形で対数にできないという問題が起こってしまいます。

○大垣委員

なるほど。

○播磨谷准教授(立命館大学経営学部)

そこで、マイナスが一番大きい金融機関の値を1にする形で切片を上げまして、それで全部プラスになった形で利潤を定義しております。

○大垣委員

そうか。そうすると、プロフィットとおっしゃっていますけど、どちらかというとグロスプロフィットに対する貢献を見ているという感じになりますか。経常利益ということになりますと。

○播磨谷准教授(立命館大学経営学部)

そうです。業務純益よりもさらに広い概念でとらえていますので。

○大垣委員

それと同じように考えると、コストというのはどういうもので見ているのでしょうか。

○播磨谷准教授(立命館大学経営学部)

こちらは、今回用いた費用関数の投入要素というのは、預金と労働と、不動産等になりますので、いわゆる預金利息プラス営業経費が今回の費用になります。

○大垣委員

ああ、なるほど。

○播磨谷准教授(立命館大学経営学部)

いわゆる信用リスクを反映するような引当金等につきましては、一切コストには入っておりません。

○大垣委員

そうすると、人件費なんかは固定費になりますけど、預金の場合、本来は変動費のような気がするんですが、頑張って預金を伸ばすと経費が増えるというようなことが効果として入ってくる可能性はあるわけですか。

○播磨谷准教授(立命館大学経営学部)

投入要素間の代替につきましては、厳密には推定関数の中では組み込まれてはいないので、なかなかその解釈は……。

○大垣委員

ああ、そうなんですか。

○播磨谷准教授(立命館大学経営学部)

はい。

○大垣委員

ざっくり費用というのをグロスで置かれているわけですね。

○播磨谷准教授(立命館大学経営学部)

そうです。

○大垣委員

なるほど。銀行の人は効率性というと比較的率で見ている場合が多いですよね。

○播磨谷准教授(立命館大学経営学部)

そうです。

○大垣委員

粗利経費率ですとか、その逆ですとか。そういう意味では、効率性という言葉をこの表を読む人が気をつけて読まないといけないのは、むしろグロスのマージンであったり、エクスペンスに対する寄与度みたいなものを分けて見ているというような見方をすべきだということでよろしいでしょうか。

○播磨谷准教授(立命館大学経営学部)

はい。

○大垣委員

すいませんでした。

○吉野座長

ありがとうございました。

では、後藤委員、どうぞ。

○後藤委員

播磨谷先生に伺いたいんですけれども、大変興味深い研究をご紹介いただきましてありがとうございました。とても勉強になりました。

一見テクニカルなことかもしれませんが、先生にとって多分初歩的なところかと思いますので、2点ほどお伺いしたいんですけれども、1つは、この用いられた分析の手法は、パネルデータ型の分析をされたのか、それとも、プーリング回帰分析なのかというところが1点です。

それから、そのあたりに絡むんですけれども、もしパネル分析であると、時間効果みたいなのは考えておられるのかというところを伺いたいと思います。

というのが、2点目のご質問の趣旨なんですけれども、やはりフィービジネスですね、役務取引と収益比率が有意でない、あるいは、むしろ期待されるところと逆の符号条件になっているというのは、素直に解釈するとすごく重要な政策的なインプリケーションがあると思うんですけど、もし時間効果とかを考えておられないのであれば、もしかしたら、この部分に何かほかの要素が吸収されてしまって、期待されない結果が出てしまった可能性がある。例えば、収益が上がらない局面に限って、あるいはそういう銀行に限ってフィービジネスに特化してしまうので、見かけ上、こういう注力している銀行の方が収益性が低くなってしまっているような形になっている可能性もあると思いますが、どのあたりまでコントロールされているのかというのを伺いたいという趣旨でございます。

○播磨谷准教授(立命館大学経営学部)

まず、データ特性に関しましては、プーリングでやっております。というのは、合併が数件あった時代を対象にしておりますので、パネルでやった場合、どうしても合併した対象の金融機関につきましては、時間のデータが2年とか3年しかない。そうすると、幾らパネルの性格上、一致性を満たすとはいっても、時間が2年、3年でそれをコントロールできるかというと個人的に非常に疑問に思っておりますので。信用金庫も同様です。こちらも全部プーリングでやっております。

したがって、ご指摘のとおり、環境変化に応じてこのように手数料収入等の注力度が違うというのは、当然この結果には十分反映できていないという問題はございます。あと、このアプローチで考えられるとすれば、固定効果を時間について考えまして、時間のダミーを加えて、そこでコントロールするというのが私の現在やっておりますアプローチではせいぜい対応できる限界かなと思っております。

○吉野座長

家森先生、どうぞ。

○家森委員

日本銀行の廣島さんにお尋ねしたいんですけれども、今日、具体的な例として中小企業金融の支援の取り込みということで、ABLを挙げていただいているんですけれども、これについて金融機関によってできているところ、できていないところ等があるような気がするんですけれども、そういう差が生じている理由についてモニタリングの感覚から、例えば都市部と地方部といった外部環境なのか、あるいはガバナンス上の問題であるのかとかいうことも含めて、ご意見をいただければと思います。

○廣島金融機構局金融モニタリング課長(日本銀行)

私ども、ABL等を対象にしました新しい貸出しというのを既にやっておりますけれども、そこへのある種申し込みといいますか、利用された方々を拝見しますと、地方銀行、とりわけ地方圏の銀行の方々が多かったなという印象を持っております。

それは、とりもなおさず、冒頭の説明でもそうでありましたが、やはりなかなか地元に大きな企業がなく、中小企業の基盤も徐々に弱体化しがちな地方圏の銀行の方々ほど、今度はいろいろな工夫、取組みをしながら、これは金融機関の方々にとってはコストのかかる連続的にモニタリング、これはまさに商流全体といいますか、最初に原材料があって、それが在庫になり、売り掛けになり、その回転の様子をかなり連続的に見るということでありますので非常に手間がかかるわけですけれども、そういう手間をかけてでも、こういった分野の取組みは広げていきたいといった方々が多いように思います。

ですので、そういったニーズを持つ方々を中心に、この分野の取組みは強まっているところもそうなんですけれども、ただ、なかなかある種の成功体験というか、事例を積み重ねていかないと、きちんとした広がりを持ちにくい分野でもありまして、きちんとした収益面の貢献を高めているといったところまでいっていらっしゃる方はまだあまり多くないのかなというふうに理解しております。

○吉野座長

ほかにございませんか。

齊藤先生、どうぞ。

○齊藤(誠)委員

廣島さんにお伺いしたいんですけれども、ABLのお話は非常に関心を持ったんですけれども、商慣行上、中小企業が大企業に売掛金に関して大企業が譲渡禁止特約を求めてきて、なかなか動産担保としての実行が難しくなっているということだったんですけど、考えてみると、そういう信用のあるクレジットリスクが低い先の売上債権が動産担保としてやっていくことが難しいとなると、なかなかこの分野は難しいなと思うんですが、何で大企業の方が譲渡特約を求めてくるのかというのがわからなかったんです。

あと、播磨谷さんにお伺いしたいんですけど、すごく超越的な質問になっちゃいます。委員の先生方がご質問されたことと広いところでは重なってしまうと思うんですが、この種のアプローチですね、ある種の生産関数を考えて投入と産出で見ていって、複数の投入と複数の産出から、ある種の生産効率でフロンティアを求めていくというのは、物理的技術体系があるような、製造業だとか何とかということはよくわかるんですけれども、金融機関のように産出と投入というのをこういう記述の中であらわす、例えば、投入が預金、従業員、固定資産、従業員と固定資産は投入とわかりますけれども、預金が投入かと言われると非常に……ですし、複合産出物が利息運用収益、役務収益となっているというのは、この種のアプローチ自体で何か言ってくるとか本当に意味があるのかどうかということを教えていただきたいんです。

○廣島金融機構局金融モニタリング課長(日本銀行)

最初のご質問の方でありますが、こちらの資料にも書かせていただきましたけれども、もともとはここにありますように、例えば二重譲渡リスクをきちんと排除するというところから、ある種、商習慣上、ここにわざわざ商慣行上と書いてありますけれども、こういうやり方が広く長い間使われてきたということだと思っています。その意味においても、もちろん、一連の証券化等が一般的になる前は、ご案内のとおり、債務者の人たちが自分自身が負っている債務がどこに行くかわからないということについて非常に不安を持つという部分もございましたが、ただ、そういう面は、この間のさまざまな証券化の制度を整備するような話の中で大分解消されてきたという意味では、大企業の方からこれをどうしても外してくれるなということは、必ずしも強くない面があるとは思います。ただ、先ほどご説明しましたのは、ある種のスティグマではないですけれども、中小企業自身の方が非常に気にするといった見方をされた、そういったような風評が立ってしまったときに、経営問題に直結する可能性というのは否定できませんので、むしろそういった方面の問題かなと思っております。

○播磨谷准教授(立命館大学経営学部)

銀行業に生産関数や費用関数を適用できるか否か、これは非常に古くて新しい問題でございまして、同様の批判は過去20年来、私もこの研究をやっている中で受けております。

特にどういう生産物を定義するかという議論が非常に高まっていない分野でして、今回の資料でも7ページ目の近年のアメリカにおける先行研究の例を幾つか挙げているところにもあるように、実は齊藤先生ご指摘のとおり、モーダルな関数形に基づいて生産構造を決めるということが非常に問題があることを指摘しているものがあります。そこでは、いわゆるデータに基づいて、しかも生産物のみを用いてノンパラ推定を行っております。特に私が読んだのは、付加価値というものを銀行のアウトプットと置きまして、2変数、3変数でスプラインを描いて、銀行の生産費用構造を見るというもので、確かFRBのワーキングペーパーとかに掲載されていました。ただ、このノンパラ推定を適用するにはサンプル数で1,000以上のオーダーが必要になってきまして、日本の地域金融機関を対象に同様のアプローチをテストするというのは非常に制約があるのが実情です。

したがって、いろいろ批判はあるかとは思うのですが、現状では先行研究にのっとって、こういう特定の生産費用構造に基づいて何らかのパフォーマンスを出すという以外に、この分野における効率性を出す方法は、私自身はないのではないかと考えております。

○吉野座長

じゃ、もう一度最後に大垣先生。

○大垣委員

簡単に。1点は、日銀の方にこれはお願いですが、先ほどの譲渡禁止の問題を解決するために、支払いのために昔は手形を使っていた。これを電子記録債権にしようということであえて立法したわけですので、その点をより明らかにしていただいたり、日銀さんとしてフォローしていくことで、改めて電子手形の世界へ戻ることでそこの譲渡禁止の問題をやっていくと、この辺はもう少しメッセージとして強く出していただきたいと思います。

それから、もう1点は、ABLということで動産と債権担保を一緒くたになさっているわけですが、在庫というのはまだ販売活動をやって初めて売り掛けに変わるという非常にビジネスリスクを内包したものであります。それと、あと回収すればいいという売り掛けというのは担保力は全く違うわけでありますから、むしろ動産を担保にとっている最大の理由は、返せないときに在庫を売って資金を回収するということを期待しているわけではなくて、在庫フローを抑えることで情報の非対称性を下げる、エージェンシーコストを下げることで一見わからない中小企業をより見ることができるようになるという、そこで最大の効果があると思いますので、これも金融庁の方もご考慮いただきたいのですが、それを担保として見ることで規制をかけていくだけではなくて、どこまでそういうことを通じてモニタリングをして貸出能力を増やしているかというところが、銀行の行動に対してプラスに働いていくような規制の手法というのをもう少し工夫をしていただきたいと思います。これはお答えいただく必要はありません。お願いでございます。

それから、もう1点は、播磨谷先生の、これはすばらしい研究だとは思うのですが、ただ、1点、例えば例を挙げますと、ある大手銀行は住宅金融支援機構のフラット35というのを取り扱います。そういたしますと、35年の住宅ローンが出るわけですが、本来想定されるサービシングに対応するコストを超過する部分というのは、現在価値ベースで全部貸出しをした年に収益認識をするという会計が一般化しております。そういたしますと、毎年の利ざやの十数倍の収益が初年度に出るわけですが、これ、全部役務収益としてカウントされるわけです。しかし、これは実態的には明らかに貸出業務でございまして、このようにビジネスモデルのとり方1つを変えていくだけでも、実は銀行の効率性というのは大きく変化させることができます。

したがって、マクロのアプローチとしては、私これはすばらしい業績だと思うんですが、事務局の方にお願いしたいのは、これをあたかも効率性の、こういうのがこういう金融審の資料に入ってまいりますと、これを見て効率性の問題だというふうに素人が判断するという可能性もあるわけでございますから、1つ銀行の効率性、あるいはビジネスモデル、これからの収益性と考える場合に、マクロ経済学以外のさまざまな視点があるように思っております。金融審の資料に含まれることの重みを踏まえると、もう少し多面的に資料を用意されるとかということをなさいませんと、何かこれだけ見てしまうと、一方向に誘導されかねないという点を、事務局としてもう少し認識をいただきたいと思います。これもお願いでございますので、お答えいただく必要はございません。

○吉野座長

どうもありがとうございました。

では、河野委員、最後に。

○河野委員

日銀の方にお伺いしたいんですけれども、資料の15ページのところで、この点線で囲った表というのがございますよね。これ、主語は、いわゆる金融機関が外部機関の積極的な利用であったり、地域と一体となった企業再生というふうなこと、いわゆる地域なりの金融機関のことだと思うんですけれども、具体的には「外部機関の積極的な利用」とか、その次、「地域と一体となった企業再生」という具体的なイメージが非常にわきづらいので、ちなみに外部機関というのはどういったところなのかというのと、本来はそういう金融機関もあるということで、優秀なというか、新しいチャレンジが功を奏しているAグループとBグループとの、さっき播磨谷先生がおっしゃったような収益の差というふうなことをどこかで統計でもおとりになっているのかどうかというのを教えていただければと思うんですけれども。

○廣島金融機構局金融モニタリング課長(日本銀行)

すみません、先ほど、ご説明の中で、かなり急ぎましたので具体例はなかなか出せませんでしたけれども、例えば、外部機関といった場合、まずお話ししたのは、金融機関の内部でも、当然日ごろの融資活動を通じて、ないしはこういった再生の取組みを通じて、そういった分野に通じたノウハウを積んだ人材というのは育ってきてはいますけれども、ただ、実際の企業の経営支援、ないしは再生を行っていくときには、より一段と専門的に、例えば税務関係、法律関係もそうですし、場合によってはサービサーの人たちの力を借りながらという面もありますし、その過程では、いろいろ公的な性格を持ったような、例えば企業の再生支援機構ですとか、県なんかが出資をした再生ファンドというようなものが各地にございますし、そういったところとの協調、いろいろな意味での調整を経ながら、実際に案件に取り組んでいくということが必要になるということが実態であります。

地域と一体というものも、先ほど県が出資したファンドを既にご紹介しましたけれども、県自身が関与するケース、それから先ほどお話しした地元の他の金融機関であるとか、地元の有力企業、そういった方々とかなり協調しながら、また調整をして、また負担なんかをいろいろな意味で分担をしながらという面があるかと思っています。

2つ目のご質問、なかなか統計としてうまく切り分けて把握をしているということがないというのが実態ではございます。このうちの、今、資料15ページの左側の方、先ほどご説明しませんでしたけれども、こちら、例えば全体といいますのは、ある意味ではあまり強く企業に対して取り組み、働きかけをしないで、その状態で自然にランクアップ、債務者として区分が上がった人たちと、実際に少しこちらから働きかけを行ってランクアップをした人たちを比べますと、年によって振れがありますけれども、一応やはり働きかけを行えば、それだけきちんとランクアップをしてくれて、その分、金融機関にとっては、もちろん直接的に与信費用が減るといった面もありますけれども、やはり長い目で見て、その企業の企業価値がきちんと生きていて、先々営業基盤をきちんと確保するということにつながるということがありますので、なかなか、ここの部分の効果だけを切り分けて認識することは難しいとは思いますけれども、やはり金融機関にとっての収益性向上、維持に対する寄与というのはあるのかなと思っております。

○吉野座長

ありがとうございました。

それでは、時間の関係もありますので、後半のお2人のご説明の方に移らせていただきたいと思います。

まず最初は、小野委員からご説明をお願いしたいと思います。よろしくお願いいたします。

○小野委員

小野でございます。

私からは「中小企業向け貸出の経済分析」についてご報告いたします。

あらかじめ概要を申し上げますと、まず、中小企業向け貸出に関する経済理論を簡単にご紹介します。そのうえで、幾つかの基礎的なデータに基づいて、日本の中小企業向け貸出の現実について、経済理論と整合的な部分は何か、そうでない部分は何かを整理して、皆様の後ほどの議論のための材料を提供したいと考えています。

なお、本日の報告は、私個人の見解に基づくものであり、私が所属する組織の公式見解ではないことをあらかじめ申し添えさせていただきます。

資料2ページ目ですが、日本の中小企業向け貸出は、過去20年近くずっと低迷してきました。例えば1997年、ちょうど金融危機のあった年ですけれども、当時、預金取扱金融機関の中小企業向け貸出はだいたい320兆円ぐらいありました。2010年末ですと、これが226兆円ということで、13年間でほぼ100兆円減っています。また、資料に記載してある通り、現在、4割弱の中小企業は、そもそもメインバンクからの借り入れがない状態です。

ただ、その原因については、企業が借りたくても借りられないという供給側の要因による資金制約を強調する見方がある一方で、そもそも資金需要が欠如しているため貸出が減少してきたという見方もございます。図表1はそうした認識ギャップを端的に示していると個人的に思ったのでお示ししたものです。左側が企業向けのアンケート調査により資金繰りをみたもの、右側が銀行向けのアンケート調査により貸出スタンスをみたものです。左側の企業向けのアンケートで見ますと、企業規模別に見て、資金繰りが苦しいと考えている企業が最も多いのは中小企業です。一方、右側の銀行向けアンケートにより、貸出の運営スタンスがもっとも積極化しているセクターはどこかをみると、やはり中小企業となっています。ある種の需給のミスマッチが生じていることが示唆されます。

こうしたミスマッチが生じている背景は何かについて議論するための材料を、これから何枚かのスライドで提示したいと思います。

初めに、そもそも日本の中小企業はどういった財務特性を持っているのかという点からお話ししたいと思います。

資料3ページ目、図表2は、日米製造業のバランスシートを、規模別、具体的には企業の総資産規模別に、比較したものであります。日米とも下にいくほど総資産でみた企業規模が大きい企業となっています。企業規模の違いに応じた負債・資本構成には、日米で共通する点と、相違する点があります。共通する点としては、企業規模が小さいほど金融機関借入への依存度が高い、あるいはその他借り入れ、具体的には社長や他の経営者からの借り入れ、あるいは関係会社からの借り入れが含まれますが、そうした借り入れへの依存度が高い点は、日米ともに共通する点です。他方で日本の特徴としては、資本の比率が、特に総資産5億円未満の企業で小さいことがあげられます。これはアメリカには見られない特徴です。

企業規模が小さいほど資本基盤が薄い、逆にいうとレバレッジ比率が高いというのは、中小企業は、俗に根雪融資、あるいは疑似エクイティーと呼ばれている借入が多いという話と整合的です。これは、資本(エクイティー)比率が小さい中小企業は、それをカバーするように短期の融資を毎期毎期ロールオーバーしているというものです。そういった事象が、一応、マクロ統計からも見てとれるということかと思います。

次の4ページ目は、今申し上げたことを時系列で追ってみたものです。左側の中小企業について見ますと、一番上の自己資本の比率は、実は90年代後半から徐々に上昇しています。並行して、一番下にある金融機関からの借り入れの比率は低下しており、過去十数年ぐらいにわたって、根雪融資の解消ととれなくもない事象が生じていると言えるかと思います。ただ、右側の大企業と比べますと、中小企業の自己資本のバッファーが相対的に薄いということは、昔と変わっていません。

以上がストックベースのバランスシートの話ですが、これに対して、フローベースの事業の収益性について見たのが、資料5ページの図表4です。これは日、米、ドイツ、フランスについて、それぞれ総資産規模5分位別にROAの中位値と、各5分位におけるROAの散らばりぐあいを棒グラフ及び括弧内の数字でお示ししているものです。わかりやすい例でいいますと、アメリカと日本が対照的かと思います。ドイツ、フランスも基本的にはアメリカに似たような姿になっています。アメリカの場合、企業規模が大きくなるほど平均的なリターンは小さくなる一方で、分散も小さく、安定性も増しています。要は、規模の小さい企業は、ハイリスク・ハイリターンだということです。

それに対して日本の場合、あまり大きな差はありませんが、規模が小さい企業の方が平均的なリターンが小さくなっています。一方で、分散、散らばりぐあいは、アメリカと同様に、企業規模が小さいほど大きくなっています。要すれば、日本の小規模企業はハイリスク・ローリターンであり、資金の出し手にとっては、非常に資金供給が難しい主体だといえます。加えて、先ほど申し上げたとおり、リスクのバッファーである自己資本の備えも薄いので、こういった主体に対して貸し出しを行う際には、貸し手によるガバナンスがよほど効いていないと、困難な事態に陥りやすいだろうということが示唆されます。

資料6ページ以降では、中小企業向けの貸出、具体的にはリレーションシップ・バンキングと呼ばれるものが、どのようなビジネスモデルであるかを、経済学の観点から、数ページにわたって整理しています。

そもそも中小企業金融において、なぜ外部資金調達が困難なのかというと、2つの理由が考えられます。

1つは、貸し手と借り手との間の情報格差が大きいという情報の非対称性の問題です。ここでいう情報とは、具体的には、貸出実行前の事前の意味では借り手の債務履行能力ですし、貸出実行後、あるいは期中ということでいえば、借り手の行動、あるいは経営努力といったものを指します。非対称情報の問題に対する手立てがきちんとなされないと、リスクの高い借り手ばかりが集まってしまう「逆選択」、あるいは事後の行動という意味では、借り手の「モラルハザード」という事象が生じることが懸念されます。

金融機関は、こういった非対称情報に係る問題を解決するため、審査やモニタリングを行っているわけですが、ただ、そうした審査、モニタリングという情報生産活動は、労働集約的な側面が強いので固定費的な部分が大きくなっています。例えば1億円の融資と100億円の融資で、規模は100倍違うわけですが、コストも100倍違うかというと、おそらくそういうことはありません。そうすると、貸す側からすると規模の大きい貸出の方がコスト効率性は高いという規模の経済に係る問題が生じます。

こうした規模の問題、それから情報の問題に対応する上で有効なビジネスモデルの1つと考えられてきたのがリレーションシップ・バンキングと呼ばれるものです。すなわち、情報の問題についていいますと、金融機関と借り手とが親密な関係、リレーションシップを築くことで財務データや、他の定量的なデータからははかり知れないソフト情報を蓄積していき、情報の非対称性を緩和すると考えられます。また、そういった緊密な関係を長期継続的あるいは多面的に築くと、情報は再利用が可能なので、取引期間が長くなればなるほど、あるいは取引の範囲が広がれば広がるほど取引単位当たりのコストは低下し、情報生産に係る規模の経済の問題も軽減されます。

資料7ページ、8ページでは、リレーションシップ・バンキングにどういったメリット、デメリットがあると考えられているかを整理しています。

まず、1つめのメリットとして、ソフト情報を活用することによってより正確な与信判断が可能になることがあげられます。俗に「貸すも親切、貸さぬも親切」と申しますが、そうした実務家の言葉の背景には、貸すべき先と貸してはいけない先を正確に識別することで資源配分の効率性に寄与し、経済活動を支えるのが金融の役割であるという認識があるかと思います。

それから、リレーションシップ・バンキングの場合、長期継続的な取引なので、長い目で見て採算がとれればいいというビジネスモデルであります。そうすると、ある一時点での採算性は劣るかもしれないが、長い目で見れば採算にあう金融取引が可能になるというメリットもあります。

具体的には企業のライフサイクルの中で難しい局面にある企業、たとえば創業期の企業ですとか、あるいは事業が一時的な困難に陥っているような企業に対して、金融機関が手助けをしてあげることが考えられます。例えば後者、すなわち事業が一時的な困難に陥っているような企業に即して申し上げると、リレーションシップに基づく救済融資は、企業に対していわば「保険」を提供しているようなものだと考えられます。そして、その保険料というのは、事業が立ち直った際に、若干金利のプレミアムをもらうということになるかと思います。

ただ、こういったビジネスモデルの前提条件として、業況がよくなった際に借り入れ企業がほかの貸し手に乗りかえないことがあげられます。そうしないと、せっかく提供した保険機能の対価を金融機関が得られず、採算がとれなくなります。そして、企業価値評価においてソフトな情報の比重が高い企業、具体的には規模の小さい企業ほど、こういった乗りかえは少ないだろうと考えられているということです。

資料8ページですが、逆にリレーションシップ・バンキングのコストとしては、借り入れ企業の経営インセンティブへの悪影響というのが考えられます。具体的には2つのルートが考えられます。

1つは、事業が不振の際に金融機関が支援をしてくれることを、もし借り入れ企業が事前に認識するようになると、救済期待が生じて、事前の経営意欲、努力するインセンティブに悪影響を及ぼすであろうという点です。

2つめとして、先ほど平時における若干高目の金利プレミアムがリレーションシップ・バンキングの対価だと申し上げました。これは、企業の側からすると、事業不振時に頑張って経営再建を果たしても、経営再建後の事業収益のうち金融機関にわたってしまう部分が大きいことを意味します。このことも、何がしか企業の経営インセンティブにマイナスの影響を及ぼすことが考えられます。

以上、やや理屈っぽい話を申し上げましたが、それでは、こうした理屈っぽい話の前提条件なり、あるいは生じるであろうと予想されている事象が、日本の現実に合致しているのかという点について幾つか見たものが9ページ以降です。

9ページ目、まず取引期間が長期継続的か、取引範囲が多面的かという点をみますと、おおむね理論が想定するような姿が日本でも観察されます。すなわち、日本の中小企業のメインバンクとの平均取引年数は大体30年と言われています。また、図表5にもお示ししていますとおり、メインバンクとの取引している金融サービスは貸出以外にもいろいろあります。

他方で、リレーションシップ・バンキングの議論では、金融機関と企業とがOne to Oneで排他的な取引関係を築いていることが暗黙のうちに前提視されていますが、この点については、日本は異なっているというのが10ページ目の図表6です。

図表6でも日米比較を行っていますが、アメリカの場合、例えば従業員規模100人から499人という中堅規模のクラスの企業であっても、1行だけと取引している企業の比率は8割を占めています。それに対して日本の場合、従業員20人以下の小さい企業であっても取引銀行が1行のみというのは3割に満たないということであります。また、日本の中小企業の平均的な取引金融機関数は、近年増加傾向にあります。

資料11ページ目では、アメリカでなぜ1行取引が普遍的なのかという点について、私がかつてアメリカの金融機関の方にヒアリング調査をした際の代表的な回答例を幾つか羅列しています。

最初のコメントは、緊密なリレーションシップを築くには1行取引が望ましいというものです。

それから、2つめのコメント、これは後ほどデータでもご紹介しますが、アメリカでも中小企業向け貸出しの多くは有担保です。なおかつ、1行が包括担保権、すなわち企業の全資産を担保にとるというのが商慣行として定着しています。そうすると、2番手以下の金融機関は無担保で貸出しをすることになりますが、中小企業向け貸出しにおいて、無担保で貸し出すのは非常にリスクが高いため、1行取引が望ましいという回答です。

最後に、複数行取引の場合には、企業が過剰にレバレッジをかけてしまうことをモニタリングすることがなかなか難しいので、1行取引が望ましいという回答もありました。自行以外の金融機関から借り入れがあると、他行からの借り入れはわからないため、企業の債務全体が把握できないということです。

なお、以上申し上げたことは、アメリカでは銀行間の競争がないということを意味しているわけではありません。アメリカでも当然、銀行間の競争はあります。ただ、そのときの競争というのは日本とはやや様相が違い、例えば、現在取引のない企業、別の銀行とつき合っている企業に対して銀行が新たにアプローチする際には、新規資金だけでなく、他行からの既存借り入れを含めて、全部自分たちに乗りかえませんかという提案をするそうです。

翻って日本の場合、取引金融機関数が多いわけですが、どういったメリット、デメリットがあるのかを考えると、メリットとしては、メインバンクに不測の事態が生じた際、たとえば金融危機が典型例だと思いますが、そうしたときに、平時からほかの金融機関と取引があれば資金調達がしやすいことが考えられます。先ほど申し上げたリレーションシップバンキングの保険機能とは別の意味ではありますけれども、これも一種の保険といえます。ただ、他方でデメリットとして、先ほどの米銀へのヒアリング結果の1つとしてもご紹介しましたけれども、過剰債務へのモニタリングが困難になるという問題もあります。

資料12ページの図表7では、日本とアメリカ、それからイギリスについて中小企業向けの貸出利ざやの分布を見ています。先ほどのリレーションシップ・バンキングの理論では、企業のライフサイクルに応じた金利変動があるという議論でしたので、一時点のスナップショットをお見せすることにいかほどの意味があるのかというご批判もあろうかと思いますが、一時点のスタティックなデータであっても、幾つか興味深い点があると思い、お示ししています。

図表7を見ますと、日、米、英ともに一番多い金利の分布帯というのは1%から2%のところで共通です。ただ、日本の際立った特徴として、スプレッドが2%超の企業の割合が15%弱と非常に低いことがあげられます。ちなみに、スプレッドが2%超の企業の比率は、アメリカでは5割、イギリスでは4割ぐらいです。俗に、日本にはミドルリスク市場がないと言われますが、そういった指摘がこのデータからも裏付けられると思っています。

資料13ページは、担保についてです。日本では担保は大変不人気ですが、理論的には、中小企業向け貸し出しにおいて、担保には一定の役割、意義があると認識されています。すなわち、非対称情報の下で逆選択やモラルハザードが懸念される状況において、担保はそれらの問題を解決する有効なツールの1つだと認識されています。

ただ、日本における利用状況について見ますと、図表8にありますとおり、まず物的担保を利用している企業の比率は過去5年ほどで5割から4割に減っています。また、第三者保証についても2割弱から1割弱に減っていますが、本人保証、いわゆる代表者保証については若干比率が上がっています。それから、これは日本の際立った特徴ですが、公的な信用保証、政府による信用保証を利用している企業の比率は4割以上です。かつ、リーマンショック以降は同比率が上昇し、47%とほぼ半分近くなっています。半分の中小企業が政府のサポートを受けている国というのは、ほかにあまりないのではないかという気がいたします。

資料14ページでは、担保や保証に関するアメリカの数字、先ほど廣島さんからもご紹介がありましたけれども、これをもう少し詳しく見ています。まず指摘したいのは、アメリカでも6割ぐらいの中小企業が担保を使っているという事実です。ただ2点目として、これも廣島さんのお話にありましたとおり、担保の内訳を見ると、実はアメリカの場合、多種多様でして、特に短期の運転資金目的のクレジットラインについていうと、在庫や売掛債権の比率が4割超と、一番高くなっています。したがって、日本の中小企業向け貸出における担保利用について何か問題があるとすれば、それは担保を使うことそのものというよりは、その裏づけ資産が不動産に偏っているという点にあるのではないかと認識しています。

最後に、資料15ページになりますが、リレーションシップ・バンキングというビジネスモデルについて、あるエコノミストがマーク・トウェインの言葉を引いていたのを借用しています。すなわち、リレーションシップ・バンキングというのは、「1つのかごにすべての卵を入れて、そのかごを落っことさないようにずっと見張っていろ」という言葉が合致するビジネスモデルなのだそうです。これは、分散投資に関する格言である「1つのかごにすべての卵を盛るな」の逆といえます。

アメリカのリレーションシップ・バンキングの実態というのは、1行取引が普遍的であるなど貸し手、借り手双方が非常に深くコミットし合うという意味で、こういった言葉がよく当てはまると思われます。では、翻って日本はどうかというと、私自身は、日本の中小企業向け貸出は「薄利多売」だと認識しています。

図表10は、この点を非常にラフにお示ししたもので、中小企業向け貸出が多い幾つかの大手米銀と、それから日本の金融機関について、従業員1人当たり、あるいは1店舗当たりの中小企業向け貸出件数をみています。もちろんすべての従業員、あるいはすべての店舗が中小企業向け貸出に割かれている訳ではありませんが、ここではそういった点はとりあえず捨象しています。従業員1人当たりの貸出件数をみると、大手の米銀といえども10件、Wells Fargoに至っては3件であるのに対して、日本の場合、一番規模の大きい都市銀行で平均86件、この表の中では一番規模の小さい信用金庫についてみても、平均的には46件ということです。業態間の数値の違いがあまり大きくないことも踏まえると、日本の中小企業向け貸出しは、非常に同質的なように思います。

冒頭で申し上げたとおり、平均的に見れば、日本の中小企業の財務内容は現在あまりよい状況にはなく、いわばハイリスク・ローリターンとなっています。そうした難しい主体に対して、薄利多売的なビジネスモデルで今後も対応できるかというと、なかなか難しいのではないか、というのが、私個人の意見です。

ありがとうございました。

○吉野座長

小野委員、どうもありがとうございました。

それでは、引き続きまして、監督局の西田銀行第二課長、お願いします。

○西田監督局銀行第二課長

銀行第二課長の西田です。よろしくお願いします。

それでは、資料1-4、A3版の資料をご覧いただければと思います。今年の5月に地域密着型金融の推進に関する監督指針を全面的に改正しました。本日、小野委員の今ほどのご説明とややダブる部分もございますけれども、監督指針の改正に至る経緯、改正のねらい、指針の概要について簡単にご説明をさせていただきたいと思います。

まず、経緯でございます。地域密着型金融に関する経緯につきましては、資料の1枚目の左上をご覧いただければと思います。金融庁では、金融審のご提言を踏まえまして、15年度から18年度にかけまして、4年間、二次にわたるアクションプログラムを策定して、地域金融機関による地域密着型金融の取組みを促してきたところです。この取組みにつきましては、以下に申し上げます考え方、すなわち地域金融機関における不良債権処理というのは、主要行と異なって地域経済に与える影響を十分に踏まえながら、貸し手と借り手の双方が納得いく形で進められる必要があるということ。そのためには、自ら適切な引き当てを行いながら、地域金融機関の健全性を確保しつつ中小企業の再生と地域経済の活性化を図るための取組みを推進することによって、不良債権問題を解決していくことが適当であること。そういった考え方に基づいて推進してきたところであります。

具体的な監督手法としては、アクションプログラムにおいて金融機関に対してやっていただく具体的なメニューを示しまして、その取組みを要請し、一方で計画の策定、実行、計画の履行状況の報告、公表を求めてきたところであります。その後、19年4月に金融審議会のご提言を受けて、時限的なアクションプログラムから監督指針という恒久的な枠組みに基づく監督に移行したところであります。当時、金融審からは、資料に記載しておりますようなご提言をいただいたところであります。

1つは、地域金融機関には、地域密着型金融のビジネスモデルの確立、深化が必要であるということ。2つ目は、地域金融機関に共通して求めるものは、ここに書いてございます1から3に記載した3つの分野とすること。3つ目は、監督当局による地域密着型金融の推進に当たりましては、金融機関の自由な競争あるいは自己責任に基づく経営判断の尊重、地域の利用者の目を通じたガバナンスを基本とすること。こういった提言をいただきました。これを受けまして、監督指針において恒久化を図りまして、以降、これに基づいて取組みを促してきたところでございます。一言で要約いたしますと、15年度以降、不良債権問題の解決を通じて財務の健全性の向上を図るというステージから、地域金融機関としてのビジネスモデルの確立・深化というものを通じて、顧客基盤の維持・拡大、さらにはその収益力の向上を図るというステージに移行しつつ、地域密着型金融を推進してきたというところでございます。

資料の左下の方には、この推進してきた期間中における地域銀行の年度決算の推移を掲載させていただいております。折れ線グラフの実線が自己資本比率、点線が不良債権比率でございまして、棒グラフが損益の主要な科目となっております。これをご覧いただきますと、自己資本比率あるいは不良債権比率という、バランスシートの改善という点では、徐々に進捗してきているところでありますけれども、収益、フロー面で見ますと、丸で囲ったのがコア業務純益でございますが、いわゆる基礎的な収益力の推移というものをご覧いただきますと、ここ数年漸減傾向にあるということであります。この傾向は信用金庫、信用組合でもほぼ同様の状況でございまして、地域金融機関におきましては、やはり本業による収益力の強化というものが、いわばその共通の構造的な課題になってきているということが言えるのではないかと考えております。

このような認識も踏まえまして、監督指針の改正から3年が経過しました昨年の5月以降、地域金融機関のすべての経営トップの方々でありますとか、金融機関の実務者あるいは有識者の方々からいろいろなご意見をいただきまして、また年に1回金融庁で実施しております利用者の評価に関するアンケート調査、こういったものを踏まえながら、地域密着型金融の推進に関する課題及び今後の改善の方向性というものを整理したところであります。これは今般の監督指針の改正のねらいといえるものだと思うんですけれども、それについて簡単にご説明をしたいと思います。

資料の右側をご覧いただければと思います。ここでは大きく5項目に整理をしてご提示をさせていただいております。

まず1点目は、この地域密着型金融の推進というのは、その成果を短期間で、金融機関の財務の健全性あるいは収益力の向上に結びつけるのは難しい場合が多いと、こういったご意見があります。したがって、経営者が主導性を発揮していただいて、地域密着型金融というものを顧客基盤の維持・拡大、さらには収益力・財務の健全性の向上に不可欠なビジネスモデルということで位置づけていただき、中長期的な視点に立って、組織全体として継続的に推進していくことが重要であるという点であります。

2点目は、金融機関の営業店の業績管理が短期間で行われていることもありまして、営業の現場では「短期的」な「量」重視に偏りやすくなっている。そして、次は行政の反省でもあるわけですけれども、金融機関は当局に対する取組みの実績の報告、あるいは開示を意識するあまりに、網羅的な実績づくりに陥っているんではないかというご指摘もありました。したがって、短期的な効果の測定が必ずしも容易でない継続的な取組みに対する姿勢、あるいは活動というものを評価・推進していくための工夫が必要でありますし、また、行政当局としても地域金融機関による自主性・創造性を発揮した取組みを促進するための工夫が必要であるということでございます。

3つ目は、人材やノウハウの面から、顧客企業に対して十分なソリューションを必ずしも提案できていないのではないか、ノウハウの底上げが必要である。一方、顧客企業の創業とか成長、あるいは経営改善・再建のためには、まずもって顧客企業の経営者自身が明確なビジョンをもってみずから主体的に取り組むことが重要という点であります。このため金融機関側では専門的な人材の育成、あるいは本部による営業店支援、縦のラインをしっかり強化する、あるいは外部専門家・外部機関との効果的な連携を図ることによって、顧客企業のライフステージに応じたコンサルティング機能を具体化していくことが重要である。その際、顧客企業の経営者による課題認識、あるいは主体的な取組みを促すとともに、ソリューションの策定に際して顧客企業と認識の共有を図っていくことも大事である。金融機関がいろいろ計画をつくって提示しても、それを実行するのは最終的には企業でありますので、企業の方々にもそういったご認識を十分持っていただいて取り組むこともアドバイスをしていくことが金融機関の役割だということであります。

4点目は、顧客企業の発展のためには、地域や広域の活性化策の中に企業や取引先を戦略的に位置づけて支援していくことも有益である。このため、地公体あるいは商工関係団体との連携、特に地公体等が主導的に進めている計画的で継続的な取組みへ積極的に参画、あるいは連携していくことも重要であるという点であります。

そして、5つ目はディスクロージャーでございます。単なる金利の高低では計れない、地域密着型金融のメリットを地域の利用者に対してわかりやすく具体的に理解してもらう必要がある。そのためにも積極的な情報発信が必要であると。

こういった大きく分けて5つぐらいの課題、方向性を認識しているところであります。このような課題、及び改善の方向性を踏まえまして、本年5月に監督指針の全面的な改正を行ったところであります。資料の2枚目をご覧いただければと思います。この資料は監督指針の中の監督に当たっての基本的な考え方、地域密着型金融の目指すべき方向性というものを一覧にしたものでございます。地域金融機関は経営計画の中で、地域密着型金融の推進というものをビジネスモデルの1つとして明確に位置づけていただいて、みずからの規模、特性、あるいはそれぞれの地域にいらっしゃる利用者の期待やニーズを踏まえて、自主性・創造性を発揮しながら、中長期的な視点に立って、組織全体として継続的に推進していくことによって、最終的には顧客基盤の維持拡大、さらには収益力や財務の健全性の向上につなげていくことが重要であると考えています。

そして、そのためには、やはり経営陣が主導性を十分に発揮して、本部による営業店の支援であるとか、外部専門家・外部機関、さらには他の金融機関との連携、職員のモチベーションの向上に資する評価、専門的な人材の育成、こういった態勢面の整備、充実を図っていくことが重要であると考えております。

地域密着型金融の目指すべき方向につきましては、この資料の上段に記載の顧客企業に対するコンサルティング機能の発揮、下段にあります地域の面的再生への積極的な参画、そして、右の方にあります、地域や利用者に対する積極的な情報発信という3本柱で構成をしているところでございます。

このうち、地域密着型金融の中心となります、顧客企業に対するコンサルティング機能の発揮についてですが、その具体的な内容といいますのは、本来金融機関において、みずからの規模とか特性、さらには地域の顧客企業の実情、ニーズ、期待というものを踏まえて、自主的に判断されることによって決定されるべきものであると考えているわけですけれども、地域密着型金融の取組みというものが、地域の利用者と地域金融機関の双方にとって一層実効あるものとなるよう、監督指針におきましては地域金融機関、監督当局、さらには利用者である顧客企業との間で認識の共有を図ろうという観点から、あえて金融機関が果たすべきコンサルティング機能の具体像というものをできるだけ具体的、かつ包括的に示そうということで掲載したものでございます。

この顧客企業に対するコンサルティング機能の発揮については、3つのステージに分けて具体的に示させていただいております。上の方のシャドーのかかった部分、流れを見ていただきますと、第1ステージが、日常的・継続的な関係強化と経営課題の把握・分析ということであります。日常的な接触によって率直な相談をできる信頼関係を構築しつつ、そこで得られるいろんな情報から、それぞれの企業の経営の目標や課題を把握し、分析する。その上で、ライフステージ、例えばここに書いてありますように、創業・新事業開拓、成長段階における飛躍、経営改善、さらに一歩踏み込んだ事業再生や業種転換、事業の持続可能性が見込まれないような場合、事業承継が必要な場合、こういったライフステージを十分に見きわめていただいて、まずは顧客企業の主体的な取組みを促していただくのが第1のステージだと理解しております。

そして、第1ステージで把握した課題等を踏まえまして、外部専門家・外部機関、あるいは他の金融機関と効果的に連携しながら、顧客企業のライフステージに応じた最適なソリューションを提供していく、提案していくというのが第2ステージであろうかと思います。

そして、その実行の段階の第3ステージでは、顧客企業が連携先とともに、ソリューションを実行するのを金融機関がしっかりと継続的にモニタリングし、経営相談・経営指導に応じていく。そして、環境の変化が起こった場合に、ソリューションの見直しもやり、実行していく、こういった第3ステージの部分が今、説明した内容でございます。

こういったコンサルティング機能をしっかりと発揮していく。特に我々としては、第1ステージというものが何よりも大事なんではないかと考えているところであります。この監督に当たりましては、コンサルティング機能の発揮の個々のアクションにつきましては、各金融機関の自主的な取組みを尊重しつつ、短期的な視点で個別のアクションの単なる定量的な実績のみをもって評価をせずに、各金融機関が中長期的な視点に立って、組織全体として継続的に推進しているのかという観点から、態勢面を重点的に検証しながら、そういったものを通じて地域金融機関のビジネスモデルの構築に向けた自主的な取組みを促していきたいと考えているところであります。

私からは以上でございます。どうもありがとうございました。

○吉野座長

どうもご発表ありがとうございました。それでは、あと残り20分ぐらいございますので、ご質問、ご意見、あるいはゲストの方々も適宜ご議論に参加して、じゃあ、川波先生、それから太田委員、大崎委員。では、川波先生、どうぞお願いいたします。

○川波委員

小野委員にもう少しご意見を伺いたいということでございます。先ほど日本の中小企業向け貸出しの担保の構成についてお話がございました。その中で、物的担保、第三者保証は傾向として減りながらも、不動産や個人保証にかなり偏り過ぎているということがございましたけれども、とりわけ不動産に偏り過ぎていることについて、今後何か政策的に、あるいは制度設計上改善すべきところはどういうところであるかということについて、インプリケーションがあれば教えていただきたい。

と申しますのは、先ほど廣島課長のお話の中にABLに関して幾つか示唆に富むご指摘があったと思います。ここでいえば、担保管理というのは非常に難しくて、トラックレコードがないとか、したがって債権保全がなかなか難しいとか、そういうことがございましたし、それから、今日のお話とは直接関係ないですが、アメリカのRTCが破綻の処理をするときに、かなり高い債権の回収率を実現したと思います。その1つの理由として、担保の処分がうまくいって、かなり高い債権回収率を実現したと考えられます。そういうことも含めて、今の日本の担保のあり方について、先ほどは不動産に偏り過ぎていることをご指摘になりましたけれども、それを踏まえて何か制度設計上のインプリケーションがあれば少しご意見をいただきたいということですが、いかがでしょうか。

○吉野座長

じゃあ、お願いいたします。

○小野委員

ありがとうございます。誤解をさせてしまったかもしれないんですけれども、批判的に日本は不動産に偏り過ぎだというふうに申し上げたつもりはありません。そこは、実は私もよくわかっていない点で、偏っているのは事実であると。

その上で幾つか申し上げますと、まずABLですね。売掛債権ですとか、あるいは在庫を担保として積極的に活用しているアメリカのような国というのは、実は世界を見渡すとそんなに多くはないです。つまり、先ほど廣島さんもご指摘があったとおり、そのためには不動産ですとか在庫の債権譲渡の登記制度がなければいけなくて、不動産というまさに名前のとおり動かないような資産であれば、登記というのは比較的楽ですけれども、在庫だとか売掛債権という日々動いているものの登記制度をつくるのは非常に難しくて、世界でも幾つかの国、英米系の法体制の国ですけれども、しかないと。

そういう中で、当然アメリカというのもあるわけですけれども、そこの点について政策的に手当てできることは何か残っているのかというと、私自身はもうあらかたやり尽くしたと認識をしています。具体的な中身は先ほど廣島さんがご紹介いただいた点ですけれども。その上で、ただ1つ私が今、自分が持っている意見としてあるとするならば、担保全般について日本の金融機関は担保偏重で企業のキャッシュフローをちゃんと見ていないというご批判を聞くことがあるんですけれども、それはもちろんそういう部分もあるのかもしれないんですけれども、ただそれはやや偏った見方ではないのかと。すなわち、中小企業向けの貸出しにおいて担保を使うのは比較的どこの国でも見られるビジネスモデルで、そのこととモニタリングをちゃんとやるか、審査をちゃんとやるかというのは基本的には別の話だろうと理解しています。

○吉野座長

ありがとうございます。

○川波委員

ありがとうございました。

○吉野座長

じゃあ、太田委員、それから大崎委員、それから齊藤さん。

○太田委員

ありがとうございます。小野委員と、それから廣島課長のレポートをありがとうございました。関連してご質問したいんですけれども、お二人のレポートの内容をつまみ食いして申し上げれば、中小企業融資というのは担保重視、それも不動産担保重視であるということと、それからモニタリングを非常に重視している、この2つだと思うんです。そういうふうに勝手に決めつけてご質問するわけですが、そのビジネスモデルだと、地方もそうですけれども、中小企業が海外に進出するときに非常に難しいんではないかと思うんです。ただ、現実的にはたくさんの中小企業が既に海外にいらしているわけですけれども、どういうふうに地域金融機関で対応されているのか、現実がどういうことになっているのかもしわかれば教えていただきたいということであります。

拝見していますと、担保の比率が少し近年下がっていたりしますので、そういうことかなとは思いますが、廣島さんのレポートにありましたように、実際海外に店舗を持っていらっしゃる地域金融機関は15しかないということですので、実際はモニタリングはできない、土地担保がとれないということなので、その辺が少し新しいビジネスモデルがないと、今後、地方の企業の海外進出の支援には、金融面からの支援はなかなか難しいのかなということです。それがご質問でございます。

それからもう一つは、関連しますけど、タイの洪水を実は相当心配しておりまして、これが長引けば資金繰りの問題が出てくる可能性があると思うんです。中小企業もタイにたくさん、製造業だけで何百じゃきかないんじゃないかと思うんですけれども、いらしていまして、そこに今後、資金繰りの問題が出てくるときに、仮にこれが日本で起きていれば何らかの制度的な対応が考えられると思うんですけれども、今後こういうことが、海外に進出する企業が増えれば世界中でのいろんなリスクに対して、制度的あるいは個々の金融機関じゃ対応できないような何らかの対応をしていかなきゃいけないんではないかと感じるわけですけれども、その辺について、今日はふさわしくないのかもしれません。その場合にはお答えは結構ですけれども、何らかのご意見があればお聞きしたいと思います。

○吉野座長

どなたでもお願いいたします。いかがでしょうか。廣島さん。

○廣島金融機構局金融モニタリング課長(日本銀行)

よろしいですか。最初の点といいますか、やはり海外現地に進出した企業のモニタリングが非常に難しい面があるんではないかということにつきましては、まさにご指摘のとおりでありまして、金融機関サイドもその点については、かなりある種問題意識を持っているということかと思います。

それで、今、地域金融機関にとりましては、先ほどもお話ししましたが、海外にもちろん支店をつくるのは非常にコストではありますけれども、海外に進出する企業をアシストする、サポートすることにつきましても、かなりいろんな情報、ノウハウを仕入れ、現地に事務所とはいえ人を送り、商談会等を現地でもこちらでも開きというところで非常にコストのかかる大変な事業であります。ただ、これを今、非常に手間暇かけながら何とかやっているのは、例えばもし地元の金融機関が何もしなければ、例としてはメガバンク、大手行などにその企業にかかわる海外現地での金融取引をすべて奪われてしまう可能性があると。そうなったときには例えば、進出といっても何がしか一部、本体部分ですとか日本に残る可能性があるわけですけれども、その場合でもすっかり自分たちから離れた企業になってしまう可能性がある。こういったあたりに、危惧の念を持ちながら、サポートをしっかりしていこうということであります。

ひっくり返せば、今のところ消極的なやり方ではありますけれども、例えばそういった一部何がしか本体の部分が地元に残ってくれるのであれば、そこを通じて何とか現地の様子を確認をし、金融面でのサポートをすることとなります。金融面のサポートは、先ほどのタイの話にも関連しますが、どうしても間接的にならざるを得ない部分もあります。やはり実際に融資をするにしても、提携銀行を通じて、そこに保証をつけたりすることはできますけれども、そこを通じた融資が、例えば多くなると思いますし、そういった面ではやはり日本にいるケースに比べまして、どうしても柔軟なサポートは難しいというところについては、問題意識を地域金融機関は持っているところでございます。

○吉野座長

ほかに委員の方でございませんでしょうか。先ほどの太田委員、何かよろしいですか。太田委員のお話で聞いた話なんですけど、ベトナムに出ていった中小企業が20%とか30%ぐらいの金利を払わないと現地の金融機関から借りられないということも聞きましたし、ですからこういう何かのときには現地の銀行を通じて日本からツーステップローンをやるとか、さまざまな工夫が必要ではないかと思いますので、どうもご意見ありがとうございました。じゃあ、大崎委員どうぞ。

○大崎委員

ありがとうございます。西田課長からリレーションシップ・バンキングの推進ということで、コンサルティング機能を強化していくことが求められているというお話があったわけですけれども、他方で小野さんのお話を伺っていますと、日本の中小企業金融というのは薄利多売と整理されたんですが、ほかの銀行との競合も激しいし、利ざやも薄いし、メーンバンクといっても1行が完全に取引先を押さえ込んでいるというような関係ではないようだという状況を踏まえると、なかなか経営改善のためのコンサルティングといっても、あんまり厳しいこというと自分のところは外されちゃうんじゃないかという感じもするように思います。他方で先ほど廣島課長からあったように、地域銀行の県外貸出しが非常に増えているというのは、県外といっても東京圏、大阪圏というところですから、そこでの競合はますます激しくなっていると考えられるわけで、そうなってくるとほかも貸しているからうちも貸さざるを得ないし、そうはいっても2件に1件ぐらいは公的保証もつくんだしということで、とにかくやっておかないとという感じになってしまっても自然なんじゃないかという感想を抱いたんです。

別にここで西田さんとバトルをやってくれというわけじゃ決してないんですけれども、小野さん、こういう分析をされた専門的なお立場から、先ほどのご説明を聞かれて、何かこういうようなこともやったらいいんじゃないかみたいなご示唆なり、アイデアがあればぜひお聞かせいただきたいと思うんですが。

○吉野座長

小野委員、いかがでしょうか。

○小野委員

最初に申し上げますが、ギブアップなんですけれども、大崎さんが今、クリアに整理していただいてありがとうございます。その上でということなんですけれども、ただ、大崎さんと認識を共有しているのは、なかなか難しいだろうなという認識は当然持っています。大崎さんがまさにおっしゃった理由で難しいだろうと。ただ、他方で地域の金融機関あるいは小さな金融機関にとって、ほかにバイアブルなビジネスモデルがあるのかというと、現状は預金を受け入れて、貸せるところには貸して、でも与信運用みたいなのの比重が過去10年、20年、どんどん大きくなってきていると。それが果たして今後も続けていけるのかというと、そこはそこで私は疑問だと思うんです。結局、地域金融機関がよって立つよりどころというのは、そういうところにしかないんだからという意味においては西田さんがご紹介いただいたような方向性というのは1つあり得るんだろうと思います。

ただ、そのときにどんどん地域金融機関が業容を拡大していく中でコンサルティング機能を発揮する姿というのはイメージしづらいとは思っています。つまり、ボリュームとしてはどんどん小さくなってくるかもしれないけれども、1件当たりの手間暇をかけていく方向性なのかと思っています。

○大崎委員

ありがとうございます。もしかすると、競合する金融機関の数を少し整理していく中で、そういうコンサルティング機能を強化していくなんていうのも1つのソリューションなのかなという感じを私は今、小野さんのお話を伺って感想として思いました。

○吉野座長

じゃあ、齊藤先生、それから大垣委員。

○齊藤(誠)委員

私は大崎さんほどうまく丁寧に言えないので、率直なところを申し上げます。私は地域金融に関しては、多分問題の認識が非常にずれ始めたのはリレーションシップ・バンキングとか、地域密着型金融という言葉を使い始めてから問題の論点がずれちゃったんじゃないかと思います。もちろん学問的にリレーションシップ・バンキングの議論は尊重すべきだと思いますけれども、先ほど大崎さんがいろいろと論点を挙げましたけれども、やっぱり地域金融機関、特に企業金融面での地域金融機関の弱体化ということは、もう少し正面切って議論しないといけないんじゃないかと思うんです。あれだけ公的信用をやっていけば、別に自分たちで信用リスクをとってビジネスする必要もありませんし、預貸率があれだけあって、スプレッドは国債の方でほぼ確保していくとか、あるいは今もずっと論点に出ていましたけれども、債権譲渡市場の活用ということは非常に遅れているので、欧米、特にアメリカであれば企業間信用から資本市場への移動というのが、いろんな債権譲渡ツールの中でやっていって、そのためにやっていくような高度なノウハウの取組みも地域金融機関は非常に遅れたと思うんです。

そういうことは何で起きたかというと、先ほどの議論に出ていましたけれども、薄利多売で1行が何件もの融資をやって、それでずっとビジネスが続いていることは、裏返しでいえば健全な地域金融の競争環境が非常に劣化していて、よく言われるオーバーバンキングみたいなことが地域金融の中に起きているんではないかと思うんです。地域密着型金融という特に2枚目の方の監督指針を担うような地域金融機関というのはよほどのノウハウがないとだめだし、体力もないといけないですし、マーケティングしていく力もないといけないのに、こんな乱立した中でこういうビジネスモデルが実現できると、例えば小野さんの15ページの従業員一人当たりの貸出し件数、これが端的に物語っていると思うんです。四、五倍違っているような中で、いかに日本の中小企業に向けた地域金融が担っているノウハウの投下の度合いがいかに希薄かということ、これはもうみんなわかっていると思うんです。その裏返しがやっぱり薄利多売になっちゃうんじゃないかと。

そういうことをちゃんと見ていかなければ、こんなことを幾らいっても、絵にかいたもちよりも、もっとこういうことを書くコンサルティング会社をもうけさせるだけじゃないかと思うんですけど。

○吉野座長

多分それは先ほどの15ページのところで、アメリカの方は従業員一人当たりの件数が少なくで、日本がすごく多いわけですけど、これはやっぱりキャピタルマーケットみたいなのもあるということも関係しているかもしれないですね。どうもありがとうございます。

じゃあ、大垣委員どうぞ。

○大垣委員

地域密着については大崎さんたちと感想を一にいたしますし、そもそもビジネスモデルというのは収益を獲得する枠組みなので、地域密着と書いてあることはやらないといけないということはすごくよくわかりますけど、これでもうかるかどうかというのは別の話だと思います。ただ、こういうことを言っているとどんどん隘路に入っていくので、1つ私は委員の皆さんに提案をしたいんですが、私はかねて産業金融ではなくて、クオリティー・オブ・ライフを支えていく金融に変わっていかないといけないのではないかということを申しております。

例えば、2012年で完全に退職をなさる団塊の世代の方というのが、単純に計算すると300万人ぐらいいらっしゃるわけですけれども、200万人程度についてわかった部分で、戸建ての住宅を……、200万人ぐらいの方は首都圏に住んでおられるんです。首都圏に住んでおられる方の住宅を仮に今、私は住みかえの支援ということをやっておりまして、賃貸に回した場合の想定の収益還元価値を考えてみますと、40兆円ぐらいになります。この40兆円の現在価値をもって、もう退職をなさって子育てもなさらない方が地域に移っていかれて、そこで少し自分たちが今度はまだ介護になっていない、老後を過ごす地域をつくっていかれるというと、少なくともそのぐらいの投資が地域に出るわけですけれども、こういうものをファイナンスしていこうというのも、例えば地域密着型金融と考えてはいけないんだろうか。

産業ということを考えていますと、地域に産業がこれからばかみたいに伸びることはおそらく絶対にないので、我々が日本経済をつくってくる中で、どんどんと首都圏に一極集中させてきた、この人たちが今度は老後の時代を幸せに過ごすために地方に戻っていく。そうすれば1カ月で必ず20万から30万のお金を使う。それが地方における消費になるとか、あるいはどこにでも工務店はいますので、それが少し実家をリフォームしたり、新しい家をつくることで投資を図るとか、産業以外のところで図っていく。それを推進していくという視点もこの中に加えないと、どうも私はこれを読んでおりますと、何か産業を伸ばす視点に執着され過ぎていらっしゃるような気がいたします。

もう1点だけ言わせてください。介護でございます。今度、サービスつき高齢者向け住宅というのを、この10年間で60万戸つくるんだそうです。単純に計算すると6兆円ぐらいの投資が起こるんですが、現在私が目の前にしております現実というのは、介護事業者というのが中小の介護事業者になってまいりますと、もう金融機関は絶対に貸しません。これは色物と呼ばれております。そういうものを例えばフォローする。彼らの収入というのは国保から払われる介護報酬でございますから、実は国のリスクなのに、これを工夫して例えばファイナンスにしていこうという努力を私は個人的にここ2年ぐらいやっておりますが、銀行の方は絶対にこういうことに協力してくださいません。それで、仕方ないので国の機関とやらざるを得なくなる。このようなところの怠慢というのが非常に目をつく。

ですから、私は日本に収益機会がないとは全く思わないんですが、産業金融というものに固執されている限り、そこのところがうまくいかない、隘路に入ってしまうと思いますので、もう1つの視点として、できればクオリティー・オブ・ライフを今後変えていく、あるいは上げていくところに視点を置いたようなものも、別の視点でお考えいただけないだろうか。これはお願いでございますので、お答えいただく必要はございません。ありがとうございます。

○吉野座長

どうもありがとうございました。時間が来てしまいましたので、まだまだご議論おありになると思いますけど、これは次回に続けさせていただければと思います。それでは、黒澤課長から。

○黒澤総務企画局企画課長

本日は長い時間どうもありがとうございました。次回の日程に関しましては、皆様方のご都合も踏まえまして、座長ともご相談の上、今月下旬の金曜日という方向で調整をさせていただきたいと思います。またよろしくお願いします。

○吉野座長

今日は活発なご議論をどうもありがとうございました。これで閉会させていただきます。

以上

お問い合わせ先

金融庁Tel 03-3506-6000(代表)
総務企画局企画課(内線3645)
本議事録は暫定版であるため、今後変更があり得ます。

サイトマップ

ページの先頭に戻る