金融審議会「我が国金融業の中長期的な在り方に関するワーキング・グループ」(第8回)議事録

  • 1.日時:

    平成23年12月2日(金曜日)13時30分~15時30分

  • 2.場所:

    中央合同庁舎第7号館13階 共用第一特別会議室

○黒澤総務企画局企画課長

それでは、ワーキング・グループの開催に先立ちまして、まず、お手元の資料の確認をお願いしたいと思います。

資料は4種類ございます。資料2-1といたしまして、宅森先生のプレゼンテーションの資料でございます。

資料2-2といたしまして、有田理事のプレゼンテーション資料です。

3つ目が、祝迫先生の資料でございます。

4つ目、資料2-4、これは井潟委員の資料でございます。

以上、4点、確認方よろしくお願いいたします。

○吉野座長

それでは、ただいま資料のご紹介がございましたけれども、第8回目の我が国金融業の中長期的な在り方に関するワーキング・グループを開催させていただきたいと思います。第1回目にお話しさせていただきましたけれども、今日のワーキング・グループも原則公開の中で行われておりますので、ご承知おきいただきたいと思います。

今日からは3番目のテーマでございますが、国民のニーズに合った金融サービスの提供というテーマに移らせていただきたいと思います。この場合の国民という場合でも、2つぐらい大きな意味があると思います。1つは、資産運用を行ってリスクマネーを提供していく、そういうような立場としての側面と、資産運用のほかに、借入やその他の金融サービスを必要とする生活者の側面があると思います。

そこで今日は、まず最初には資産運用、それを通じたリスクマネーの提供、そういうところに焦点を絞らせていただきまして、皆様方から向かいまして右側にお座りの三井住友アセットマネジメントの宅森様、日本FP協会常務理事の有田様、一橋大学の祝迫先生、この3名の方々からお話をいただきたいと思っております。

それでは、最初に三井住友アセットマネジメントの宅森様からお願いいたします。

○宅森三井住友アセットマネジメントチーフエコノミスト

ご紹介いただきました宅森でございます。どうぞよろしくお願い申し上げます。

私からは、「個人とリスク資産投資-我が国家計部門を取り巻く環境-」ということにつきましてご説明させていただきたいと思います。

なお、ここでご発表する内容は私個人の意見でございますので、ご了承いただけたらと思います。

まず、1枚めくっていただきまして1ページ目でございますが、最初に、金融広報中央委員会のアンケートの結果などを幾つか、1ページ、2ページでご紹介させていただきたいと思います。

1ページ目の上のほうは、日本銀行の資金循環勘定、それと同時に発表される日米欧の比較でございますが、やはり日本の家計資産は現金・預金が多い、リスク資産のウエートは小さい、こういうことが一番最新の情報からもわかるわけであります。日本は、債券、投資信託、株式・出資金の合計で12%、アメリカは52.4%、ユーロエリアが31.7%ということでございます。

また、金融資産の選択の際に重視することということで、アンケート結果を見ますと、やはり安全性ということが一番重要視されている。収益性はかなりウエートが小さいということになります。

2ページの上でございますが、リーマン・ショックの後ということもあるんでしょうけれども、元本割れを起こす可能性があるが収益性の高いと見込まれる金融商品の保有について、そうした商品を保有しようとは全く思わないという意見がどんどん増えてきている、こういう状況でございます。

それから、金融資産の保有目的ですけれども、病気や不時の災害への備え、老後の生活資金、こういったところのウエートが大きいということでございます。

さて、次に3ページ目ですけれども、じゃあ、なぜ、このようにリスク資産投資が芳しくないかということをマクロ的に、これから幾つか分析してみたいと思います。

まず、潜在成長率の推移でございます。これ、OECDのエコノミックアウトルックからとった表でございます。日本も、89年から98年の平均で2.1%、ちょうど真ん中あたりでございますが、99年から2008年の平均で1.0%、その後、0.7%、0.9%ということで落ちてきております。日本は長期にわたるデフレ傾向にありますけれども、それは短期的・循環的要因だけでは説明できなくて、やはり根本的な原因は、こうした潜在成長率の趨勢的な低下傾向にあるのではないかと考えております。

成長率が長期にわたって低下していく状況では、人々は所得の増加の期待はどんどん低下してしまう、そういうことになると思います。そして、支出活動が抑制されてしまうということで、ますます物価下落圧力が大きくなってしまう、こういうことになると思います。

ちなみに、日本のGDPギャップですけれども、別の統計ですけれども、内閣府のほうで試算されているものですと、この前のQEが出た7-9月期の第1次速報の段階でマイナス3.5%、そういう数字になっております。

それから、潜在成長率は、ほかの先進国でも下がりぎみでございまして、OECD諸国の合計でも、一番下のところになりますが、左側の2.6%からずっと1%台まで下がってきているということでございます。

もちろん成長率で言いますと、4ページのところですが、中国等新興国は非常に伸びてきたということも言えるわけですけれども、やはり先進国のほうは、4ページの上のグラフを見ていただいても、実質GDP、ほとんど横ばい、ほんのちょっとずつ伸びているというような感じになるわけです。

そういう中で、総合株価指数、各国の主なものを載せているのが4ページの下のグラフでございますけれども、これも先進国の株価はさえない状態という感じがいたします。日経平均に関しましては、2000年を100といたしますと、10年のところで74.2という数字になってしまっております。

5ページですけれども、先ほど、GDPのグラフ、実質ベースでしたが、名目GDPの実額で書いてみても、大変厳しい状態だということになります。2002年から、いざなぎ景気を超える景気拡張局面が起こりましたので、2007年に515兆円までいきましたが、その後はリーマン・ショック等の影響で大きく落ち込んでおりまして、今、470兆円台、大体そのくらいにいるというところでございます。

こういう厳しい経済環境の中では、雇用関連の統計等も芳しくないということであります。最近、最悪期よりは少しよくはなっておりますけれども、それでも、まだ絶対的レベルで見れば、有効求人倍率も完全失業率も厳しい状況でございます。

6ページですけれども、これは家計調査を使って、全国勤労者世帯(含む農家)ベースの実収入を取り上げたものです。世帯員全員の現金収入の合計でございますけれども、これも2000年の675万円からずっと下落基調と言っていいかと思います。2010年で624万円ということになっております。

この実収入を、2000年を100としたグラフでかいたのが下でございますけれども、これに消費者物価の動きを重ねてみました。2000年を100とした物価でかいてみますと、物価の下落しているよりも実収入の下落のほうが大きい、そういう形になります。大変厳しい状況にあるということでございます。

7ページでございますけれども、そういう厳しい環境下、株価等もさえない中、一番上のほうは景気ウオッチャー調査という、これは生活者の人を見ている、ご商売をされている方等々の景況感ですけれども、転換ポイントが株価と似たような動きで来ている。また、消費者の消費者マインドでございますけれども、消費者態度指数のほうも、リーマン・ショックの後、2008年12月に27.4という季節調整値で非常に低い水準をつけました。その後、回復していたんですけれども、この前の東日本大震災によって下がると。11年の4月ですが、33.1まで下がり、今、10月分で38.6まで少し戻ってきている、こんなような状態でございまして、マクロの環境的には厳しい状態になっております。

8ページでございますけれども、家計の金融資産の残高ですが、2006年に1,554兆円ということで、ここが年末ベースでは一番高い数字になりましたが、その後、少し下がっておりまして、1,491兆円というのが直近の6月末の数字でございます。

その中でも、構成比の中で、債券、投資信託、株式・出資金のいわゆるリスク資産のウエートですけれども、2006年には19.3%、約2割ございましたが、直近では12%ということになっております。

それから、金融資産の保有額も、バブルのときまでと言ったらいいでしょうか、90、91年あたりまでずっと右上がりで来まして、その後、緩やかな上昇と言ってもいいか、横ばいと言ってもいいか、そのような感じになっている。これは平均値でも中央値でも言えることだと思います。平均値のほうで1,542万円、中央値のほうが820万円というのがアンケート調査による平均的な数字と中央値でございます。

金融資産の目標残高というのを、同じくこの調査では聞いておりますけれども、平均値で2,000万円ぐらい、中央値で1,000万円ぐらいということでございます。中央値の場合、1,000万円で、今持っているのが820万円ですから、8割ぐらいということになるわけですが、リスクがある中で積極的にリスクをとっていこうというふうには思わないという環境にあるのかもしれません。

9ページでございますけれども、9ページの上で、リスク資産投資への興味、世の中の興味を示すものとして、「貯蓄から投資へ」という言葉が、その言葉が入った記事が掲載された新聞の記事の件数を調べてみました。「貯蓄から投資へ」という言葉は、2000年までは日経新聞が3回、90年代に載っけたぐらいで、ほとんど使われてなかった言葉でございますが、2006年には、日経、朝日、毎日、読売の合計で212件、ここまで使われておりました。ただ、その後、だんだんと数が少なくなり、今年は11月15日までで7件ということになっております。「貯蓄から投資へ」というような言葉自体も、普通の人々が目にする機会が減っているということが言えると思っております。

それでは、もうちょっと細かくいろいろ見てみたいと思いますが、10ページでございます。世帯主の地域別に見たリスク資産の投資している割合、金融商品に占める、持っている保有割合でございますけれども、関東、中部、近畿という大都市を含む地域が高い、こういう傾向にあるかと思います。これは4本棒が立っておりますが、2007年、8年、9年、10年のそれぞれの調査を左から右に順番に並べております。

10ページの下のほうは、今度は世帯主の年齢別に見たものでございますが、全体では基本的には下がっている。右肩下がりで2007年から2010年に来ているわけであります。ご高齢の方、70代以上とか60代とかも右下がりでございますが、逆に右肩上がりになっている世代があります。30代でございまして、ここのところは少し、これからの動きとして期待してもいいのかなと思います。持っている資産の金額自体は少ないんでしょうけれども、リスク資産への投資ニーズといいますか、それが上がってきている世代だと言えると思います。ちょうど9ページの下に人口ピラミッドを載せておきましたが、30代、団塊の世代ジュニアというようなこともありますし、人数も比較的多いということが言えると思います。

あと、これから、あまり言われてない点なんですけれども、少しこういう視点も入れておいたほうが、個人の投資家の行動等を考えるときに参考になるかなという点をお話しさせていただきたいと思います。

まず11ページでございますけれども、11ページの上にありますのが、東証株価指数の1985年からのグラフでございます。ちょうど景気動向指数の先行系列に採用されているものでございまして、景気の山と谷について線を引いておりますが、ちょうど景気の循環と合わせるように、先行指数ですから、それに先駆けて、同じように循環していることが多いということがおわかりいただけるかと思います。

そうすると、例えば、投資をするときの期間の考え方、どのくらい持っていれば上昇局面も下降局面もあるのかなというようなことを考えるときに、景気の拡張期間、後退期間、それを合わせた全循環の平均的な数字というのは53カ月ですし、また、一番長かった直近の第14循環ですと86カ月ですから、平均で5年弱、最長で7年強というようなことも言えるんだと思います。そのくらいの期間で考えれば、相場ですから、ずっと下げているばかりではない、上げているときもちゃんとある、こういうことになってくると思えると思います。

12ページでございますが、12ページは、先月、内閣府の経済社会総合研究所のホームページに載った論文で、ちょっとおもしろいのがありましたので、ご紹介したいと思っております。「我が国世帯のインフレ期待形成:消費動向調査個票による実証分析」というものなんですが、これはキャロルという人が2003年にやった分析手法、そのモデルに基づく論文だと思います。

結論なんですが、そこに下線を、私のほうで勝手に引かせていただきましたけれども、「日本の個別世帯によるインフレ期待形成の実態は、合理的とは言えず、少なくとも事後的に見て上方バイアスがあり、また、専門家(プロ)による経済予測等、メディアを通じ容易に入手できるインフレ動向に関する情報を即時に自らの期待に反映するということも十分行っていない」。非常にすごいことなんですが、要するに、物価見通しについて聞いても、消費者物価指数の数字を知っているとは到底思えないような回答が平気で出てきている、こんな状況であります。

例えば、債券投資をするときに、物価見通しわからないでやっていいのかという話ですよね。そういうのは、ある程度知らなければいけない情報だと思います。ですから、これは金融リテラシーとかなんとかいう以前の問題で、情報をちゃんと伝えるようにしなければいけないということだと思います。

例えば、ESPフォーキャスト調査というのが、この分析で使われたプロによる経済予測等でございます。2004年度ぐらいから始まったアメリカのブルーチップにならって、日本にもなかったもので、オールジャパンのエコノミストの平均値、コンセンサス調査を毎月発表しているものでございます。

13ページのところに、年度の数字の質問項目全部をまとめております。年度だけではなく、この中の全部ではありませんが、3分の1ぐらいでしょうか、四半期ごとに予測を毎月毎月聞いていたりとか、そういう聞く調査で、経済企画協会という内閣府の外郭団体のホームページを見れば、概要だけはどなたでも入手することができる、そういうものでございます。その総平均の数字と高位8機関の平均と低位8機関の平均も載せているので、強気派、弱気派の景気の見方みたいなものもずっと追っていけるものでございます。

実は、ESPフォーキャスト調査の総平均の数字というのは、過去分析してみますと、今、42人ぐらいがお答えになっているんですが、普通、総平均というと、成績をつけると15番目ぐらいじゃないかとお思いになるかもしれないんですが、過去すべて見てみますと、1けたということで、パフォーマンスは大変いいですね。最高によかったのが、総平均の数字と同じ回答をずっと出していった人を評価すると、3位になるというのが一番よかった年で、一番悪くて9位であります。昨年、2010年は6位だったと思います。ほんとうはこういう情報なんかを持っていれば、個人の投資家の人にとってもかなりいいと思うんですが、まずこれを知らないということだと思います。

実は、日経新聞は、経済企画協会の予測ということで、民間予測の調査ということで毎月一遍載せるんですが、ほかの全国紙、朝日、読売、毎日は、この1年間、一度も載せてません。ということは、普通の人がそういう調査があること自体知らないよということになってしまうのかなと思われます。

それから、そもそも消費者物価指数自体をあまり知らないのではないかと思われてしまいます。例えば、先ほどの消費動向調査の直近10月分の調査によりますと、消費者が予想する1年後の物価見通しは、一番多いのが2%以上5%未満上昇するという回答が多い。これが30.2%。2番目に多いのが、2%未満上昇する、24.1%。3番目に多いのが、変わらない、17.2%。4番目に多いのが、5%以上上昇する、15.3%。低下するという意見は、全体のたったの6.9%であります。

ところが、エコノミストの見方を見ていただきますと、物価見通しは若干のマイナスなんですね。全然違うんですよ。おそらく足元の物価指数を知らないのではないかと思われます。じゃあ、なぜ知らないか。これは、そもそも今の消費者物価の発表の仕方自体にちょっと問題があるのかなと思っております。なぜかといいますと、皆さん、一生懸命いいと思ってやっていることが全部合わさると、あまりよくないことになっているわけです。

まず、マーケットの要請で、アメリカなどもそうですが、経済指標は市場が開く前に発表しましょうということで、今、8時半及び8時50分ぐらいに発表される統計がほとんどです。官庁のほうは、なるべく早く発表してくださいということがあるので、翌月に発表しようということで、翌月の月末に集中します。それから、各期に報告しなきゃいけないような統計もあります。

例えば、今月の例ですけれども、今月は年末ということでちょっと変わっていますが、12月28日の朝にものすごく集中します。例えば、完全失業率とか消費者物価指数、家計調査、鉱工業生産、商業販売統計、これ、みんな同じ日です。そうすると、今度、マスコミのほうなんですが、新聞社は早く伝えようということで夕刊で出しますね。夕刊ってスペースがないんです。これだけ重要な統計が一遍に出た場合に、ほとんど小さい記事の扱いになってしまう。そうすると、一般の人がまず統計について細かく見ない。しかも、新聞のほうは、例えば、翌日細かく書けばいいんでしょうけれども、それはもう古いニュースだからといって書かないということになりますので、まず情報をいかに伝えるかということも考えていく必要があるのではないかなと思っております。

ということで、いろいろ言わせていただきましたけれども、私のご報告はこれで終わりにしたいと思います。どうもありがとうございました。

○吉野座長

どうもありがとうございます。

それでは、有田理事にお伺いして、それから、一度皆様からご質問いただいて、その後、祝迫教授と井潟委員にお願いしたいと思います。

じゃあ、有田理事、お願いいたします。

○有田日本FP協会常務理事

着席のまま失礼いたします。本日は、表題のテーマに沿って、ご報告内容を大きく2点に絞ってお話し申し上げます。

まず第1点は、日本FP協会が実施しました資産運用に関する意識調査から学ぶことです。第2点は、シニア世代の運用が家計部門に及ぼす影響が大きいことをご報告申し上げたいと思います。

まず、お手元資料の1ページをごらんいただきたいと思います。意識調査から学ぶところであります。次の3点に要約しました。

まず第1点は、資産運用についての考え方、第2点はリスク資産を回避する理由、第3点が、今後保有したい・興味のある金融商品です。先ほど、宅森様のご説明と内容が重複するところは除きまして、お手元資料の13ページから15ページに添付させていただきました調査データをごらんいただきたいと思います。FP協会の調査は、男女別、年齢別にまとめているところに特色がございます。

では、13ページをごらんになってください。こちらでは、まず資産運用についての考え方でありますが、大きく4つに分類いたしました。一番右側の第4点、「リスク資産を含めた資産運用をする予定はない(安全資産のみで運用)」、これが全体の中で46.6%と最も大きなウエートでありました。

続いて、マル1「リスク資産も含めた資産運用を行っており、今後もリスク資産を含めた運用を継続していく予定」である、29.9%であります。

また、男女別で見ますと、マル4のところでもおわかりになるんですが、女性の方が安全志向が強いことがわかります。また逆に、マル1でごらんいただきますと、男性の方が女性に比べてリスクをとる姿勢があることがわかります。

では、次の14ページをごらんください。リスク資産を回避する理由であります。左側のほうに「資産運用」という項目がありますが、こちらの上側、「リスク資産現在○」とありますのは、持っているが、今後×、持ちたくない、下側が、リスク資産、現在は持っていないが今後も持ちたくない、この大きな分類でまとめました。

上のほうで見ますと、持っているが今後持ちたくない、これは右をごらんいただきまして、マル6の経済情勢に影響を受けやすい、あるいは不安定である、これが36.3%。2番目、「安全に運用したい」、25.1%。そして、マル8の「自分や知り合いが失敗した経験がある」、21.5%の順でございます。

いわゆる下側のリスク資産を現在持っていないが、また今後も持ちたくない。なぜなのか。「資金に余裕がない」、マル1のところが断トツに大きな数字になっております。

では、次のページ、15ページをごらんください。今後保有したい・興味のある金融商品であります。ちょうどマル1からマル4までのところだけを取り上げましても、女性よりも男性のほうがリスク資産へのニーズが高いことがわかります。また、一般的に特徴的なことは、マル1の国内株式への投資が男女ともにニーズが高くて、年齢層の若い女性も、国内株式か外貨預金への関心が随分と高いことがわかります。

では、もう一度1ページにお戻りいただきたいと思います。まず、要点を、ほかの調査項目も加味しまして整理いたしたいと思います。

まず、第1でありますが、資産運用についての考え方。男性のほうがリスク資産への投資ニーズが高い傾向がある。マル2、リスク資産を回避する理由、これは資金に余裕がない、あるいは、リスク資産が経済情勢に影響を受けやすい・不安定である、失敗した経験がある。マル3、今後保有したい・興味のある金融商品ですが、国内株式への興味が最も高くて、投資に消極的であると答えた年齢層の若い女性も、国内株式や外貨預金への関心が高いことがわかりました。

では、2ページをごらんください。まとめでございます。ほかの調査項目なども加味いたしまして、まとめてみました。個人の潜在的なリスク資産への投資意欲は見られるものの、金融リテラシーの不足、リスク資産投資への中長期的視点の乏しさ、魅力ある金融商品の少なさなどから、実際の行動に移れていないと私どもは理解しております。

今後の対応といたしまして、2点下記に書きました。学校教育段階等での金融経済教育が必要であり、英国、米国での取り組みを参考としてメモしました。

例えば、英国では、金融トラブルそのものをなくしていくという方針のもとで、金融経済教育に力を入れている。米国では、金融教育団体の中に、教育プログラムの受講前と受講後で行動がどのように変化したかを調査することを検討しているところもあったりいたします。いずれも興味ある内容でございます。

第2点は、投資に関する中立的なアドバイザーが必要であるということ。一方で、アドバイザーにはフィデュシャリーという受託責任が必要であります。これは、運用者との信頼関係が重要となるという内容であります。以下のところのまとめは、上記と重複いたしますので省略をさせていただきます。

続けて3ページをごらんいただきます。ここからは、私、一実務家の立場から、シニア世代の運用が、若い世代の生活設計やマネープランなど家計部門への影響が大きいことをいろいろな角度からお話を申し上げたいと思います。

まず、シニアマーケットの実際といたしまして、ある地方の農村地帯を商圏としております某県のJAバンクの顧客基盤をそこにデータとしてお示しをいたしました。年代別にごらんいただきますと、取引者数をごらんいただきますと、60代以上の人たちが随分と伸びております。また、取引先数の構成から見ましても、60代以上が45.8%、50代を含めますと実に61.3%を占めております。また、貯金量で見ますと、その前年同期比の増減数では、やはり同じように、60代、70代以上が大きな伸びを示しています。

また、構成比でごらんいただきますと、60代、70代以上合わせまして66.1%になり、50代を含めますと実に80.2%になるという現実がございます。

逆に言えば、若年層の取引がいかに少ないかということがわかるわけです。なお、この40代の取引者数、貯金量の増加、少しございますけれども、これは相続による資産の引き継ぎがあったと私どもは理解をしております。

では、4ページをごらんいただきます。このような高齢社会の課題というものが考えられるところがありますけれども、ここでは、次世代へのスムーズな資産移転、不動産などを含めて資産の流動化を進めるに当たりまして、家族情報が重要であるというお話を申し上げたいと思います。

左側が世代関係図です。持っていらっしゃる資産移転の流れをつかむために非常に有効なデータとなります。例えば、農地や宅地が先代、あるいは先々代の名義のままに残っていて、資産の流動化を妨げる要因になっていることが多くありますが、そうした場合の権利関係を明らかにする手がかりともなってまいります。

右の家族関係図があります。家族内での人間関係や外部からの情報に対する感応度を主観的に表現したもので、運用商品選択に際しまして影響を受ける要因の分析ツールとして重要だと理解しております。

では、次の5ページをごらんいただきます。家計の経営管理といたしまして、家計ALM、Asset Liability Managementでございますが、生活設計との関係で、経済的見地だけでなく、社会的見地からの管理もファイナンシャル・プランニングでは必要になってくることをお示ししております。

例えば、社会的見地の下のほうでありますが、ごらんいただきますと、家族機能の変容。これは家族が分散しているとか、あるいは、その下の地域社会とのつながり方についても、生活面での安心、あるいは不安感といったものが、リスクある運用を避ける傾向が出てくるところでございます。こういった家計ALMというものを、経済的・社会的見地から見た内容でございます。

次の6ページをごらんいただきます。こちらは、地域個人金融資産の変化を展望するものでございまして、こちらは野村資本市場研究所の宮本佐知子様の執筆論文を引用させていただきました。人口の地域移転に着眼した示唆に富む論文であると思っております。ごらんいただきますように、関東地区では、埼玉、千葉、神奈川に、相続によって金融資産の資金流入が多く入ってくる。そして、関西のほうでは、滋賀、奈良というところでございます。あとのエリアは流出というところに大きな意味があろうかと思います。

では、次をごらんいただきます。7ページをごらんいただきます。資産承継を意識したリスクマネジメントの例でございます。一人一人の方が尊厳ある生き方を実現することも資産運用に影響を及ぼすものでございまして、そのためのリスクマネジメントを例示したものであります。判断能力の変化とリスクマネジメントに着目した一覧でございます。遺言書の作成、任意後見契約の活用、死後事務の委任契約など、生活支援をサポートすることも重要なことではないかと考えております。

では、8ページに続いて参りたいと思います。こちちは民事信託を活用した例でございまして、親子間での民事信託を活用したスキームです。このスキーム図は、信託会社、金融機関、不動産管理会社がチームをつくりまして、お客様に細やかなサービス、細やかな助言を提供しているものでございます。地域密着の金融機関の取り組み例としてご紹介をいたしました。

では、続いて9ページをごらんいただきます。生活設計(ライフプラン)の課題でございます。ライフステージ別の主なライフイベントとマネープランの視点から整理したものでございます。ここでのポイントは、人生前半のライフイベントが後半生の人生において繰り返されることが多い。そのためのマネープランニングが必要である、こういうことをそこに書き込んだつもりでございます。

例えば、教育、結婚といったようなこと、あるいはマイホームの取得なども人生の後半でもう一回起こり得ることが多々あるわけでございます。そのことを10ページのところにまとめました。リニアライフプランニングとサイクリックライフプランニングという言葉を使っておりますが、リニアというのは直線的なことであります。サイクリックは繰り返すということで、先ほどご案内を申し上げたところで、生活設計を立てることにおいて、生活の現場で非常に重要なことではないかと思います。

例えば、結婚というところを例にして次のページでご紹介したいと思いますが、結婚の場合、夫婦財産契約というのが現在の日本の民法の中にはございます。民法755条から762条に位置するところですが、これまで我が国ではほとんど活用されておりません。しかしながら、家族の変容などの関係で、今後、資産運用を円滑にするために必要となると考えております。

具体的な内容は、夫婦財産契約のところに書き込みましたが、婚姻前に契約をするとか登記をするとか、変更に制限があるといったことであります。ただ、若い世代等におきましては、このようなきっちりしたものではなく、婚姻契約というような形で活用が始まっているところが多々見えるところであります。

では、12ページ、最後になります。全体のまとめでございます。個人のリスク資産の投資ニーズにこたえるためには、潜在的な投資意欲を支援するための教育、税制、法制等の改善が必要であるという結論でございますが、まずマル1のところで、生涯にわたる生活設計を立てるため、あるいは家族の変容に伴う世代間の円滑な資産移転を支援するために金融経済教育や啓発活動が必要であること。第2点は、資産の流動化を支援するための法整備が必要であること。第3点は、中長期的な投資にこたえるために、世代別、属性別にきめ細やかな商品開発や営業活動が求められることということにまとめておきました。

以上、甚だ簡単でございますが、ご報告とさせていただきます。

○吉野座長

有田理事、どうもありがとうございました。

それでは、これから宅森チーフエコノミストと有田理事に対する皆様からのご質問をいただきたいと思いますが、最初に私から1つご質問させていただきたいと思いますが、宅森様の先ほどのお話の中で、物価に対して、あまり日本人がきちんと見てないんじゃないかというお話だったんですけれども、それは逆に言いますと、預貯金中心のために、名目の金利がどうなるかとかそういうことをあまり気にしない世界であるので、そうなっているような気がするんですけれども、それが正しいかどうか、お聞きできればと思います。

それから、有田理事が3ページのところで、あるJAバンクのデータをお示しなされたんですけれども、これはひょっとすると、農業という業種自身が高齢化しているので、少し極端に見えるのか、大体こういう傾向はほかのところでも同じようなのかを、それぞれ最初に口火に、お伺いさせていただきます。お願いいたします。

○宅森三井住友アセットマネジメントチーフエコノミスト

それでは、私に対するご質問でございますけれども、まさにそういった面もあるかと思います。あまり物価のことを気にしなくても、例えば、債券の運用だとか何かをやるのであれば、かなり気にしなければなりませんがということもあると思います。ただ、やはり預金の金利自体も物価動向等々を反映する面もあるので、そこのところはもうちょっと気にしたほうがいいのかなということだと思います。さっきの実収入のところでもグラフでありましたけれども、消費者物価は実収入よりは落ち方が少ないけれども、下がっているわけですね。それが上がっていると判断すると、もっともっと生活は厳しいんじゃないかと思ってしまって、例えば、余裕がますますないよねと考えてしまうということもありますので、その辺、預金するにしても何にしても、正しい物価認識みたいなものを持ってもらえるような環境をつくるということは必要ではないかなと考えております。

○吉野座長

ありがとうございます。

じゃあ、有田理事、どうぞ。

○有田日本FP協会常務理事生活経済研究所代表取締役

ご指摘のとおりでございまして、農業エリアでは非常に高齢化が進んでいることは事実でございます。JAバンクの統計データは、都市部のものも含めてまとめたものではございますけれども、農業エリアが相当多く入っていることは事実でございます。

また、私、実務的には関西圏を中心によく確認をしているところでございますが、東名阪というエリアを除きまして、データは違いますけれども、数字の構成は違ってまいりますが、ほぼ同じように、地方には高齢者の方が多く、このような構成に近いところが多いことを確認しております。

以上でございます。

○吉野座長

どうもありがとうございます。

それでは、いかがでしょうか。川波委員、どうぞ。

○川波委員

有田理事、もう少し追加でお教え願いたいということでございます。一等最初に、13ページ、14ページ、15ページで、意識調査の結果についてお話しになったのですが、これは平成20年3月時点での調査でございますね。

○有田日本FP協会常務理事生活経済研究所代表取締役

はい。

○川波委員

よろしければ、経年で見てどういうトレンドがあるかということ、もしご存じであればお教え願いたいということです。

○有田日本FP協会常務理事生活経済研究所代表取締役

大変いいご質問をいただきました。ありがとうございます。過去のデータをここにお示しをしておりませんけれども、まだ新しいデータというものはできておりません。ですから、直近のものがないということでご理解いただきたいと思います。過去のデータとしましては、これがほぼ踏襲されてきている傾向があるというところでございます。

○川波委員

過去と申しますと、どれぐらい……。

○有田日本FP協会常務理事生活経済研究所代表取締役

3年ぐらい前です。

○川波委員

大体同じような傾向が見てとれるということですか。

○有田日本FP協会常務理事生活経済研究所代表取締役

はい、そうです。

○川波委員

ありがとうございます。

○吉野座長

篠原委員、どうぞ。

○篠原委員

有田さんに2点ばかり。

1点は、6ページの表ですか、地域個人金融資産の変化、やはり今の状況と、地方の方が都会に働きに出て、そのままそこにずっと住んで、田舎のほうへは帰らないと。そうすると、お父さんやお母さんやおじいちゃん、おばあちゃんが亡くなった資産というのが、みんな都市部に移転されていくという、こういう流れですよね。

○有田日本FP協会常務理事生活経済研究所代表取締役

そうでございます。

○篠原委員

これを、もう少しバランスよくするためにはどうしたらいいのかということを1つお聞きしたいんです。

それから、もう1点は、金融教育のお話がございましたね。2ページ目ですね。確かに、子供や青年たちの金銭トラブルをめぐって、そういうところが未熟だなというのを僕も感じるんですが、そういう面ではきちんとした金融教育を、場合によっては、小学校の段階ぐらいからやらなきゃいけないという必然性は私も同じ認識なんですけれども、一方で、あまりにもお金、お金、お金という、拝金主義、マネー主義みたいなものを子供のころから植えつけるのは教育上いかがなものかという考え方、議論もあるので、この辺のバランスをどうとったらいいかということについて、何かお考えがあれば。

○有田日本FP協会常務理事生活経済研究所代表取締役

はい、わかりました。まず最初の、第1点のご指摘でございますけれども、不動産を地方の方が持っていらっしゃって、そして、都市部にいらっしゃる方が受け皿として金融資産を受け取ると。そのバランスの崩れというところは確かにございます。そのときに、先ほどもお話を申し上げたと思うんですが、農地、あるいは地方の宅地というものが実は流動化しづらいところがございます。現実的に、例えば、先ほどお話を申し上げた中では、先代、あるいは先々代の名義のままに残っていて、それが相続登記がなされないままに放置されている。今、どのようにしようかとしても、法的な整備がないと現実的に難しいというところがあるわけですね。つまり、もう農業はやらないんだけれども、農地をそのまま保有している。これはアンバランスの原因になってくることだと思います。

それから、第2点の金融教育に関するところでございますが、私ども日本FP協会のほうでは、「小学生『夢をかなえる』作文コンクール」というのを毎年実施しております。今年も、先般、応募を締め切りましたが、全国から約2,500点の応募をいただきました。こちらで委員からご質問もありますけれども、いわゆる金融のお金、お金したところの話だけではなくて、実は生活設計に根差したところで、自分たちがどんな職業に将来つきたいか、あるいは、どんな夢を持っているか、それに向かって、どんなマネープランニングが必要であるかというところを、実はシートに落とし込みながら学んでいただけるような、そういった教材も作成しておりまして、いわゆるお金の醜い、汚い面というだけではなくて、生活設計に根差したところにマネーの課題があるんだということを意識していただく、こういうテーマで取り組んでおります。そういった形で、バランスのよさというところを確認しながら、学校の先生方にもご理解をいただいているというところでございます。

○吉野座長

ありがとうございます。

永沢委員、どうぞ。

○永沢委員

有田委員にご質問させていただきたいことがございます。

まず第一に、先ほどの質問と重なりますが、2010年の実施のアンケート、資料としては13ページの調査を、とても興味深く拝見しました。特に2010年から現在までの間に、大きく金融環境が変わっておりますけれども、投資態度は何かが原因で大きく変わるものなのか、それとも、それほど影響を受けないものなのでしょうか。ご経験を踏まえてのご回答で結構ですので、その点が第1点でございます。

それから、資料の4ページ目になりますけれども、高齢社会の課題のところですが、お話しいただいた話は、先ほどもご指摘があったかと思いますが、かなり資産のある方、特に農村部で不動産を所有されている方、あるいは事業を展開されている方というのが想定されていると思われます。しかし、一番多い人口というのは、一般的な勤労者というんでしょうか、60歳なり65歳まで働いてリタイアするという層ではないか。そういう人がリタイアしたときにどうなんでしょうか。そういう層を対象に、同じような調査や分析をなさっていらっしゃいませんか。

そこで、もう一つお聞きできればと思う点として、ここで、「家族の意向で商品選択をすることが多く」とありますけれども、これは一般的なことなのかどうか。といいますのは、金融トラブルの現場では、この点ができていないことが多く、これさえできていれば、もう少しトラブルが少ないだろうにと思ったもので、この辺のご指摘が一般的なことなのか、いや、これは資産のある方だけのことなのか、その辺、少し立ち入った質問ですけれども、お願いしたいと思います。

○有田日本FP協会常務理事

わかりました。まず第1点のご質問でございますが、これは雑駁なご回答になってしまいますけれども、大きなトレンドには変化がないという回答にさせていただきたいと思います。

第2点の4ページの図に関係するところでございましたけれども、資産のある方を想定しているのかというご質問であったと思いますが、実は必ずしもそうではございません。私自身、実は2年半ぐらいの間に、約300件ぐらいの方々の相談を承っております。そのうちの約4割の方が、ご家族でご一緒に相談をされるというケースがすごく多いんですね。ただ、その場合に、全員の家族の方がそろっているということでは必ずしもございませんが、そういった形で、子供たちと相談しながら、どのようにするかな、こういうふうなことをご相談事があります。これは金融だけの話ではなくて、ほかの生活全般についてのことも絡んでくるところがあるからであろうと思っているんですね。ですから、勤労者世帯におきましても、退職金の運用をどのようにするかとか、日ごろの保険の見直しをして、家計をどのように安定的に保っていくのかとか、こういったご質問におきましても、夫婦でご質問いただくとか、このような傾向が強いことはご報告申し上げておきたいと思います。

○吉野座長

じゃあ、家森先生、それで次の発表に移らせていただきたいと思います。

○家森委員

宅森先生にまずお聞きしたいんですけれども、家計の金融資産の残高のうちで、リスク資産のウエートがかなり減ってきてしまっているということで、当然、所得が伸び悩むとか株価が低迷するというようなことが理由としてありますが、先生から見られまして、金融システム上の問題というものは、この下落には関与していないのでしょうかという点です。つまり、この下落に関して、どのような理由が大きいかを教えていただきたいというのが第1点でございます。

それから、もう一つ、先生から、リスク資産投資の割合が30代では上昇しているというご指摘がございましたけれども、これはどういった要因でそういうことが起こっているとお考えなのでしょうかという点を教えていただければと思います。

それから、有田先生にもやはりお尋ねしたいんですが、金融リテラシーを向上させるのは非常に大事だということはそのとおりでありますが、同時に専門家を利用するというのも非常に重要だろうと思うんですけれども、実際、FPなどの専門家の利用を促進していくには、どういうようなことが必要かということを教えていただければと思います。

以上です。

○宅森三井住友アセットマネジメントチーフエコノミスト

それでは、私のほうからでございますが、ご質問の中の金融システム上の問題というのが何を指すのかあれなんですが、例えば、リーマン・ショック的なものも入るのであるとすれば、それはまさにその理由によってガタガタッと、このところ、おかしくなっているということです。さらに、その辺が潜在成長率の低下を一段ともたらしている要因にもなっていると思いますので、そうしますと、株価も低迷するし、低金利も続いていまして、低金利の弊害も出るし、長短のスプレッドも小さくなっちゃう。そういうようなことで、いろいろと運用上はしづらい環境になっているなという気はします。

それから、30代ですけれども、そういう意味では、年齢層として、まだ資産はそんなに持ってないんですよね。ただ、資産を何とか増やしていこうとするような興味を持っている世代なのかなとも感じるところはあります。やはりいろんな意味で、団塊の世代もいろんな世の中の動きをつくっていった世代ですけれども、団塊の世代ジュニアというのも結構人数がいますので、新しい動きが出てきやすい、そういうことなのかなという感じもするんですよね。

例えば、彼らですと、ゲーム世代と言ったらいいんでしょうかね、そういったところもあって、ネットから情報をとったりするのも比較的たやすくできる、そんなような人が多いんじゃないかと思います。そうすると、先ほど申し上げましたように、情報というのが、例えば、ご高齢の人とか何かは新聞からとったりすると、その新聞に書いてないと情報がないよということになってしまうわけですが、ない情報でもどっかで探してきているとか、友達同士で伝え合っているとか、そういうようなことがあるのかなと思います。若い世代では、少し株だとか何かをやってみようなんていうことでやっている方は、何となく周りなんかでも多いように個人的には感じております。

○吉野座長

有田理事、どうぞ。

○有田日本FP協会常務理事

私からは、ご質問いただきましたが、専門家を利用する何か対策はあるのか、こういうような趣旨だと思いますが、実はファイナンシャル・プランナーという資格を持っている方は、日本FP協会の場合も約18万人を超えるメンバーがおります。多くの方が企業内で活躍をされている方が多い。また、業種的には、少し少ないところではありますけれども、非常に分野が広いんですね。例えば、お医者さんであったり、看護師さんであったり、福祉関係の方であったり、会計人の方であったり、法曹界の方であったりと。非常に社会のすそ野にあるところにあって、病院でいうならば総合診療のようなところの、そういった役割を社会の中で位置づけることができればすばらしいのではないか、このように思っています。

そのために、私どもは、全国的な展開といたしまして、「FPの日」というのを全国的に設けまして、各地で50の支部がございますけれども、全国一斉に一般の市民の方々にご理解をいただくような活動を進めております。

それから、当然のことですが、個人個人の人たちが、それぞれポジションは違いますけれども、働く位置は違いますけれども、それぞれの場で実務能力を高めていくという、この資質の向上というところについて、協会内部でも厳しい教育体系をつくって、継続的な教育ができるような仕組みをつくっております。こういった形を持って、専門家としての認知を高めていきたいと考えているところであります。

○吉野座長

ありがとうございます。

私から、今の皆様のお話に対して2つだけコメントがあるんですけれども、家森先生から、リスクマネーの流れに関してということは、おそらく預貯金中心になって、そこが今、国債に大分回っていますので、そうすると、ますますリスクマネーが提供できず、そうすると新しい産業も起こらないという、そういうマクロの流れはあるような気がいたしました。

それから、先ほど、篠原委員で、農村をどうしたらいいかということで、日本の場合、農地というのはわりに小さい農家が多くて、なかなか効率性が上がらないわけですけれども、そういう方々がだんだんに定年になりますが、そういう農地を信託して、もう少しスケールを大きくして、それで大農地化といいますか、もう少し大きく耕すようになれれば、日本の効率も上がってくるような気がいたしまして、それは農地の信託という手法でやれるようなんですね。ですから、そういう意味では、今が少し大農地化して効率を上げるというチャンスではあるような気がいたします。それが私からの2点のコメントです。

それでは、引き続きまして、祝迫先生と井潟委員からお話しいただいて、それから、また皆様からご質問いただきたいと思います。よろしくお願いいたします。

○祝迫一橋大学経済研究所准教授

ご紹介いただきました一橋大学の祝迫でございます。それでは、早速発表に移らさせていただきます。

発表のアウトラインとしましては、2ページにありますような形で、まず最初のほうで、経済学の理論のほうで、家計のポートフォリオ選択に関してどのようなことが言われているか。私自身の研究として、日本の家計のポートフォリオ選択を経済学的な視点から見るとどういうことが起こっていくということに関して、まず前半お話をさせていただきまして、後半、そこからの理論的、政策的インプリケーションということでお話をさせていただきたいと考えております。

早速、4ページ以降、経済理論に関する、ちょっとかた苦しい説明になりますけれども、おつき合いください。まず4ページ目でございますけれども、ポートフォリオ選択の理論、これは最初、家計であれ企業であれ何でもいいんですけれども、主に2つに分けることができます。1つはスタティックな、静的なポートフォリオ理論と呼ばれているもので、もう一つは、動学的、もしくはライフサイクルに関するポートフォリオと呼ばれているものがこれに相当します。

まず、4ページのポートフォリオ選択理論(1)というスライドでお見せしているのは、スタティックな1期間のポートフォリオ選択の問題でございます。これは、平均分散分析とかCAPMといった、比較的MBAや学部のファイナンスでも教えているようなタイプの理論でして、基本的には、メインのメッセージとしては、投資家として家計を念頭に置いた場合には、少なくとも国内のリスク資産ということは、主に株式や社債等ですけれども、国内のリスク資産に関するポートフォリオ配分に関しては、単にマーケット全体を保有するようなストラテジーが最適な戦略になる。ということは、実際問題といたしましては、TOPIXとか日経225のインデックスファンドを保有するのが最初の一歩で、あとはインデックスファンドと安全資産との投資配分をどうするかという、そこは家計、それぞれのリスク回避度に依存した選択の問題になるということになります。

これは、投資期間が1期間だけということなんですけれども、次のスライドに移っていただきまして、ポートフォリオ選択理論(2)というところですけれども、では、今度はもう少しダイナミックに、長い期間生きるような家計を想定した場合に、どういうふうにポートフォリオ理論の最適化問題が解けるかと。ここでの前提は、1期間のポートフォリオ選択理論に関しては、(1)のところで申し上げたようなポートフォリオ分離定理と呼ばれている仮定が近似的に成立しているものとして、リスク資産と安全資産の配分を年齢を通じてどうやって変えていくべきかということになります。このスライドから、あと幾つかお見せするスライドでは、基本的に横軸に年齢をとってありまして、縦軸に総資産もしくは金融資産に占めるリスク資産、簡単に言ってしまえば、株式を思っていただいて結構ですけれども、株式のシェアをとってあります。

まず、(2)、ページで言うと5ページのグラフでありますけれども、前提としまして、家計が直面しているリスクの源泉は金融リスクのみ。さらに、株式のリターンが基本的には予測できない、ランダム・ウォークに近いという前提を置きますと、基本的には株式のシェアと年齢の関係というのは全く無関係で、基本的にはフラットになるはずです。これは、1960年代にマートンとサミュエルソンが解いた問題でして、逆に言うと、これは解析的な解を得ようとすると、紙とペンで解を得られるのはこういうケースに限定されるという話になります。

しかしながら、現実の家計を考えますと、その次のページのポートフォリオ選択理論(3)というところを見ていただくと、これは一種のイメージの図ですけれども、実際の家計の多くにとっては、一番大きなリスクの源泉というのは人的資産ということになります。ここで言っている人的資産というのは、人的資本とかそういうことよりは、むしろライフサイクルの残存期間に働いて得ることのできるレーバーインカム(labor income)の現在価値ということになります。したがいまして、若者というのは人的資産はたくさん持っているけれども、実物資産はほとんど持ってない。逆に、定年を迎えた人というのは人的資産は非常に少なくなっていて、そのかわり実物資産はあると。ここで実物資産と言っていますけれども、実物資産と言っているのは、1つは金融資産が大きな部分ですけれども、残りとしては、主土地や持ち家ということを想定しております。

したがいまして、金融資産だけではなく、その背後で人的資産というものがあって、それが年齢を通じて変化していく。基本的には、年齢を経るごとに、人的資産を労働所得と交換することによって実物資産を蓄積していると思われますので、そのことを前提にしておくと、次のスライド、ポートフォリオ選択理論(4)と書いてあるスライドに移りますけれども、基本的には、若年期のほうがリスクをとれるだろう。さらに、若年期では、多少金融資産運用で失敗しても、より多く働くことで埋め合わせることができると考えられますので、基本的には、直線になっているところですけれども、右下がりで、リスク資産のシェアというのは年齢とともにだんだん減っていくと考えられます。あるいは、ファイナンシャルアドバイザーと言われている人たちのアドバイスを、非常にプロトタイプで考えるとこういうふうになっているのではないかと考えられます。

しかしながら、若年期というのは、先ほど申しましたように、人的資産はあるけれども、金融資産、実物資産はないというのがほとんどの状況ですので、流動性制約や、あるいは、持ち家を購入したいがために頭金をためるために貯蓄をしているという場合には、そもそもリスク資産に回すお金がない。その場合には、若年期のリスク資産への投資が抑制されますので、点線にありますように、山形になるのではないかと考えます。

そこまでが、大体理論的にこうなるのではないかという考えなんですけれども、次に9ページに飛んでいただきまして、実際のデータがどういうふうになっているかということをお見せしていこうと思います。3枚ほどのスライドは何をお見せしているかといいますと、昔、私がやった分析からとってきたグラフですけれども、日経NEEDS-RADARと呼ばれている金融資産のマーケティングに使われるデータがあるんですけれども、それを使って、主に関東圏の家計に関して、実際にどういうふうにポートフォリオ政策を行っているかということを調査したものです。

同じように、横軸には年齢がとってあって、縦軸にはリスク資産のシェアがとってあります。これを見ていただくとわかるとおり、一応、山形になっていると思われるんですけれども、基本的には日本の家計というのは山形のピークがかなり高いところに来ていまして、おそらく定年の直前、直後ぐらいになっております。したがって、ほとんどこのデータでは、右側の一番端に近いところに出てきておりますので、一番高いところで減っていると言いつつもそんなに減っていない。これは日本に特徴的なところで、おそらく米国は40代後半、もしくは50代前半あたりがピークになっております。

そして、次の2つのスライドがおそらく経済学者にとっては一番悩ましいところなんですけれども、じゃあ、そういう優雅なポートフォリオ理論というのはあるんですけれども、実は個々の家計がリスク資産への投資のシェアを決定しているということが実際に起こっているかというと、そうではない。リスク資産のシェアがアグリゲートで見て、あたかも年齢に関係しているように見える最大の理由というのは、実は同じ年齢の中で、リスク資産に投資をしている家計、しない家計の意思決定のほうが非常に重要だと。別の言い方をしますと、株式市場に参加する家計が同世代の中で増えるか減るか、その効果が圧倒的に支配的だということになります。

したがいまして、実際のデータ(2)というスライド、ページで言うと10ページに当たりますけれども、そこでお見せしているのは、実際に同じ年齢層の中で株式を保有している家計の割合ということになります。これは基本的に、1枚前のスライドと同じように、右上がりになっていて、若干一番最後のところで下がっているという感じになっています。

次のスライドにいきまして、実際のデータ(3)、11ページのスライドになりますけれども、これは株式を保有しているということを前提として、株式を保有している家計に限定した場合に、彼らのリスク資産のシェアというのは金融資産に占める割合としてどうなるかということをプロットしたものですけれども、これは見ていただくとわかるとおり、基本的には全くフラットになっておりまして、年齢にかかわらずほぼ一定ということになっています。

残念ながら、お見せしてきたデータは1990年代の終わりで終わっていますので、若干アップデートするために、次の12枚目のスライド、「日本の家計の株式保有の直近のデータ」というふうにタイトルをつけてあるデータですけれども、これはちょっとデータのソースが違って家計調査になっておりますけれども、2002年以降どうなっているかということを、ほぼ3年置きのデータで見ております。2002年が一番下の×印でチェックしてある線になっていまして、その後、2005年が四角い印ですね。2008年が一番上の直線で、2010年が丸印の直線ということになります。

したがいまして、大ざっぱに見ますと、基本的には2002年、2005年、2008年と上がってきて、その後、当然のことながら、リーマン・ショックがございましたので、2010年には下がっている。ただし、2005年のレベルまでで、2002年のところまでは下がっていないということが1つ。

もう一つは、今まで発表された方々のご発言の中にもありましたけれども、2010年のデータを見ていただくと、29歳以下のリスク資産のシェアというのは、基本的にはそんなに下がっていないんですね、2008年から2010年にかけて。したがいまして、非常に若い世代でのリスク資産へのある程度の選好が見られるということは確かではないかと考えております。

ただし、ここではデータとしてはお見せしていませんけれども、やはり日本の家計にとって一番重要な資産というのは、あくまでも土地、持ち家でありまして、そこへの選好ということは全く変わっていない。したがいまして、リスク金融資産、株式資産への投資というのは、やはり非常に限定的なものになっているという状況は相変わらず変わっていないということになるかと思います。

以上の簡単な現状分析みたいなことを踏まえまして、次に、もう少し具体的な、政策的インプリケーションみたいなことに関してお話をさせていただきたいと思います。

14ページに行きまして、まず「家計の資産選択『貯蓄から投資へ』?」というタイトルをつけてありますけれども、「貯蓄から投資へ」ということに関しては、おそらく一番熱心に言われていたのはリーマン・ショック直前くらいだと思いますけれども、基本的な私の考えとしましては、資産価格ブームがもう一度起きない限り、もっと平たく言ってしまえば、バブルをもう一回起こさない限り、著しい投資へのシフトということはおそらく起きないだろう。これは、後の井潟委員の説明のデータの中にも出てくるかと思いますけれども、1990年代の米国のデータを見たとしても、実際に起こっているのは、資産価格ブームが起こって、それによって保有増が起こるという時間軸でありまして、逆ではない。したがって、おそらくそんなにできることはないんだけれども、もしできることがあるとすれば、政府のほうで税制改革をする、それから、手数料を引き下げる等の証券会社、金融機関の努力。それから、前のお二方の発言にもありましたけれども、ファイナンス・リテラシーの充実。それから、若年層の株式市場参加の促進ということで、これは後で詳しく述べますけれども、これは最終的にはもっと若者にお金を持たせるということになりますので、ということは、要するに、若者の所得を上げるという以外、ほとんど選択肢はないだろうと考えています。

次に、2つほど例をお話しさせていただこうと思います。まず、15ページの例1というグラフは何を示しているかといいますと、一種のシナリオ分析みたいなことをしておりまして、定年時点で3,000万円をもらった家計を考えましょうと。その家計が、TOPIXのインデックスファンドに投資を行いました。たしか毎年200万円だったと思いますけれども、200万円ずつ消費に回して、つまり資金から取り崩していって、10年後にどれだけのお金が残っていますか。それを1979年、84年、89年等々、5年置きでスタート地点をとって、10年後にどうなっているかということを見ていただいた簡単なシナリオ分析の結果がそこに出ております。

これを見ていただくとわかるとおり、どの時点で株式投資を始めるかということが、その後の、特に10年後の富の水準のレベルに非常に大きく影響している。つまり、これはどういうことかというと、定年後に株式投資を始めた場合には、そこからだんだん消費に回していくので、だんだん運用額は必然的に下がっていきますので、実は運用額が高い最初の2、3年の運用の利回りが決定的に重要になります。したがいまして、平均利回りが同じだったとしても、最初の数年間の利回りがよいほうが10年後の残額はずっと大きいということが言えます。

したがいまして、こういう問題をどういうふうに考えるかということですけれども、次のスライドに移っていただきますと、おそらくその改善策としては、定年前後の投資パフォーマンスをスムージングするような金融商品を供給するということが考えられるだろう。例えばアメリカでは、そこに書いてあるような「guaranteed lifetime withdrawal benefits」とか「lifetime income benefits」と言われているような金融商品が、主に保険会社だと思いますけれども、供給されております。

それから、繰り返しになりますけれども、もっと若い時期からリスク資産投資を行えるようにするということは、年功賃金という形でどんどんどんどん年寄りになってからお金をあげるということじゃなくて、もっと早い時点で、働きに応じて賃金を支払う。したがって、若い時点から金融資産投資を行えるようにする。そうすれば、パフォーマンスをより長い期間でスムーズにできますので、それが必要になってくるのではないかと考えています。

次に、今度は金融リテラシーの話に移らせていただきます。ページで言うと17ページからになりますけれども、これは金融リテラシーと申し上げているんですけれども、むしろマクロのリスクシェアリングの問題だと思っていただければいいかと思います。ここで例に挙げていますのは、Calvet、Campbell、paoloのスウェーデンの税務調査に基づくデータなんですけれども、これは日本やアメリカの人間からすると信じられないことですけれども、かの国では、どの家計がどの金融資産にどれぐらい投資しているかのデータが、原則、研究者やパブリックに公表されていて、それを利用できるということが前提としてあります。

そのデータを使って見ますと、スウェーデンの家計というのは、約3分の2が株式市場に参加しており、なおかつ参加している家計の平均として60%をリスク資産、株式に投資しているという結果が得られています。

なおかつ、金融リテラシーの代理変数である所得や富、教育水準等はリスク資産への投資比率との間に比例関係があるということがわかっている。ただし、一部の家計は、誤ったリスク資産のポートフォリオの配分を行っており、Sharpe比ではかったコストというのは、参加してない家計のコストよりも高いということが言われています。

次のページに移っていただきまして、では、なぜここまでスウェーデンの家計というのは株式に投資を行っているのかということを考えてみました。私、今、大学に戻っておりますけれども、今年の3月まで財務省におりました。財務省におりましたときに、いろいろ税金関係の研究会等に出ておりまして、わかってきたことでありますけれども、スウェーデンの状況と日本の状況を比較しますと、何が違うかというと、そこに挙げてありますとおり、スウェーデンと日本の税制を比べますと、所得税に関してはほとんど変わらない。消費税はもちろん、当然のことながら、あちらは25%ですので、日本よりはるかに高い。法人税は逆に日本のほうが高くて、スウェーデンのほうが低い。ということはどういうことが起こっているかといいますと、個人家計の所得に関するリスクというのは、スウェーデンの場合は完全に政府がカバーしているということになります。

逆に法人税は低いんですけれども、そのかわり、政府は法人のリスクの面倒は一切見ない。したがって、日航を政府が救済するとかそういうようなことはスウェーデンの場合は起こらない。したがいまして、それを日本との対比でどういうふうに考えるかということなんですけれども、日本というのは、歴史的に大企業が労働者のリスクをカバーして、企業のリスクを政府がカバーするということをしてきたわけですけれども、結局、そのようなフレームワークというか、そのような体制というのはだんだん崩れてきておりますので、スライドでいうと、次の金融リテラシー(3)のスライドに移っていきますけれども、基本的には結局、これだけ家計のほうが労働所得リスクにさらされている現状で、家計に金融リスクをとれというのはそもそも無理だろう。したがいまして、結局どこがリスクをとるかというマクロの問題で、どの部門がリスクをとるかという問題ですから、そこで家計だけを取り出して、家計にもっとリスクをとれというのは、やはりちょっと無理なのではないかということになります。

時間が迫ってきましたので、簡単にまとめさせていただきますと、最後のスライドになりますけれども、いわゆるpersonal FinanceもしくはHousehold Financeと呼ばれている研究分野を少しやっておりますので、その立場から言えることは以下のようになるかと思います。

1つは、若年層や非富裕層への金融教育の充実というのは重要だろう。基本的には、自分がどのようなリスクに直面していて、それをどうやって金融資産を使ってヘッジすることができるかということを自覚してもらうということが非常に重要だろう。それは、金融資産への投資を促進するということだけじゃなくて、住宅ローンの借り入れや借りかえに関する指導や、どういう保険に入ったらいいかというコンサルティング等がおそらく一番最初のプライオリティーになるんだろう。

それから、詳しくは述べませんけれども、高齢家計の投資リスクを減らすさまざまな手段の提供。そのための制度整備や法改正等も重要だろう。しかしながら、これらの家計の構成を改善するような手段というのは、ぜひ推進すべきだと思うんですけれども、それが必ずしも家計のリスクテーキングを助長するかどうかは全く別問題だと。したがいまして、基本的には家計にもっとリスクマネーをとれというのは非常に難しい。もし、リスクマネーの供給ということが非常に重要であるというならば、むしろもう少しほかの、代替的な手段を模索するべきではないかと考えております。

以上です。

○吉野座長

祝迫先生、どうもありがとうございました。

それでは、野村資本市場研究所執行役員の井潟委員、少し早目にお願いいたしたいと思います。

○井潟委員

本日は、貴重な機会をいただき、ありがとうございます。米国において、投資信託を中核として、1980年代以降、家計による投資が大きく進展しましたが、その経済的・社会的な背景などについて話せ、という事務局からのご要望でしたので、お手元の資料を準備させていただきました。15分という短い時間での発表なので、早速始めさせていただきたいと思います。

1ページをご覧ください。まず、簡単にお金の流れ方の確認です。資金供給者たる家計から資金調達者たる企業、政府に資金が流れる仕組みに、預金すなわち銀行を経由する間接型金融と、投資すなわち証券市場を経由する市場型金融の2つがあるのはご存じの通りです。日本では、間接型金融が市場型金融を凌駕しているということです。しかし、90年代に銀行の不良債権問題で、間接型金融が麻痺しました。間接型金融への依存度が高かっただけに、経済が蒙った悪影響にも大きいものがございました。さらに、バーゼルの自己資本比率規制など銀行に対する規制強化で、銀行が今後も株式や低格付社債などへの投資に積極的に取り組めなくなってきているということから、家計からのリスクキャピタル、いわゆる成長資本、その供給の弱体化が懸念されています。間接型金融偏重の反省と家計からの成長資本、成長マネーの供給強化の必要性から、資金の流れを、いわゆる間接型金融依存の単線から市場型金融も発達している複線化を目指すという「貯蓄から投資へ」が目指されて、現在に至っていることはご承知の通りです。

2ページをごらんください。一方、何度か今日、お話ありましたが、米国では現在、市場型金融が間接型金融を上回っているという状況です。先ほどの発表でも同様のデータがあったかと存じますが、米国の家計金融資産に占める株式、債券、投資信託の割合はほぼ半分。預金は1割強と、前者が後者を大きく上回っています。

また、例えば、金融業態別で上位のプレーヤーを見比べると、定期預金の上位3行よりも投資信託の上位3社の純資産や、証券会社の上位3社の預かり資産が大きいのが米国の現状です。決済性預金とMMFを比べてもほぼ同様の状況です。

米国は、先ほどの1ページの図でいうと、マル1と書かせていただいた線がございますが、マル1の線よりもマル2マル3の線のほうが太い、という国なわけです。こうした日本と米国の違いについては、往々にして伝統的な国民性の違いなどで説明されることも多いようですが、米国で実はこのように広く国民全体が本格的に投資の拡大に至ったのは、実は1980年代からの直近の四半世紀で生じた変化の結果だということでございます。

3ページをご覧ください。米国において、1980年代からの家計による投資拡大という大変化を牽引したのは投資信託でございました。左側の図が示すように、投資信託の1970年代の当時の米国の家計金融資産に占める割合は、提示した金融商品で最下位の、平均で1.4%にしかならないという非常に低い地位だったわけですが、1980年代から一貫して上昇を続け、現在は14倍の20%でございます。

一方、預金の割合は、80年代前半は25%でトップだったものの、その後、低下を続け、90年代半ばに投資信託を下回って、現在に至っているという状況です。

米国の家計による有価証券投資は、投資信託が主役になっているということは、右の図に示すように、家計の資金フローの動きを見ると一層明らかです。1980年代以降における家計の資金フローの動きでは、ほぼ一貫して株式からの流出と投資信託への流入というものが続いているわけです。日本のマスメディアなどでは、米国民は株好きと報道されることがありますが、むしろ投信好きになったと言っても過言ではないような状況かと考えております。

4ページをご覧になってください。こうした米国における投資信託の普及ぶりですが、株式をどういう形態で保有しているか、という調査でも示されています。左の図が示すように、株式ファンドを通じてのみというのが、アンケート調査などでは5割超、株式ファンドと個別株式の両方で持っていますという方が4割、個別株式のみだというのは、こういうアンケートではわずか1割しか占めない。また現在、米国の全世帯の44%、ほぼ半分に当たる5,060万世帯が何らかの形で投資信託を保有しているという、そういう投信大国になっております。

真ん中の図に示すように、1980年に投資信託を保有している世帯数はわずか460万世帯でしたが、ほぼ四半世紀で10倍以上に拡大したということになります。

一番右の図で、投資信託を保有する世帯の世帯主の年齢を見てみると、3分の2が35歳から64歳と、現役世帯が中心です。年収面で見ても、投資信託を保有する世帯の6割強が2万5,000ドルから10万ドル未満。75円換算で188万円から750万円といったあたりの中間層。米国では、投資信託が決して高齢者や一部のお金持ちだけに偏る投資対象ではなくて、むしろマス層、すなわち広く平均的な家計や個人にとっての有価証券への投資手段になっているという状況でございます。

先ほど、祝迫先生からもございましたが、ここで株価も少し見てみたいと思います。5ページに、米国でこうした広く国民投資が普及した当時の株価や預金金利の推移を示してみました。一番左の図が米国の株価です。60年代後半から十数年に及び低迷を続けて、Death of Equity、株式の死とまで言われた時期が実はあったのですが、1982年の8月から、現在に至ると言ってもいい長期上昇が始まっております。当時の上昇の背景にはいろいろな理由がありますが、例えば、コーポレート・ファイナンスの観点などからでは、80年代は非友好的買収を含めたLBO、MBOなどを活用した実質的な大企業の経営効率化の波や自社株買いの本格化ということなどがありました。90年代に入っては、IT産業やバイオ産業、あるいは第3次産業の一層の革新などで、事実上、米国産業、ひいては米国の経済成長が本格的な再生・復活を遂げたということなどもございました。

預金の方は、と言えば、市場金利が高騰した70年代に、預金と対抗する投資信託としてMMFというものが開発され、ご存じの方も多いと思いますが、当時、預金に金利上限が設けられたこと、あるいは、MMFを利用した利便性の高い証券総合口座などの登場が米国であったということもあって、80年代前半までにも預金からMMFへ資金が大きくシフトしたということがございます。

その後、この真ん中の図に示すように、預金金利の自由化などもございました。銀行もMMFに対抗する預金などを投入したのですが、80年代末に、当時の米国銀行の不良債権問題による体力低下という現象がございまして、米国の銀行は、最初はまず、一番下の線にございます普通預金の金利を、経済の状況にかかわらず、ほぼ一方的に継続的に引き下げるという動きに入って、現在に至っています。当時の不良債権問題が解決した後の90年代半ば以降も、米国の銀行は、実はそれまで以上に銀行のALM及び収益性というものを非常に重視するようになり、金利上昇期は定期預金の金利でさえ抑制ぎみにするという状況に至っております。こうした状況下で、マス層にとっては、小口の資金でも有価証券投資を行うには、分散、あるいは専門性といったものを活用できる投資信託が主流となりましたし、銀行も90年代半ば以降ですが、みずからMMFなどを積極的に販売するという戦略を展開して、現在に至っています。

そして、株価や預金金利のこうした動向に加えて、米国で80年代以降、広く平均的な家計、いわゆるマス層が投資信託への投資を拡大するようになった代表的な制度運営もございます。そちらに触れてみたいと思います。6ページでございます。

それは、確定拠出型の年金制度の普及・拡大でございます。2つございます。IRAと呼ばれる、我が国の個人型と呼ばれる確定拠出年金にほぼ該当する制度と、401(k)プランと呼ばれる、我が国の企業型と呼ばれる、職場で提供されている確定拠出年金に該当する制度です。それぞれの制度の詳細については、参考資料として13ページに記載いたしましたので、後ほどご参照ください。

例えば、6ページで言えば、左の図に示しますように、アメリカの家計がどこで投資信託を保有したのか、どこで購入したのか、を見ると、実は401(k)プランやIRAといった確定拠出型の年金制度を通じた割合が、投資信託全体のほぼ半分、45%に及んでおります。

また、右の図にありますように、投資信託を保有している人に対して、どこで初めて投資信託に投資しましたか、という調査では、職場の確定拠出型年金だと答えた人が6割超に上っています。現在は、どこで投資信託に投資していますかというアンケートには、職場の確定拠出のみという人が3割であることから、職場の確定拠出型で投資教育を受けながら、投資信託に初めて投資経験を持った後、それ以外のチャネルでも投資信託に投資するようになった人が相当程度存在すると今考えています。

そして、このように家計による投資信託の保有チャネルとして非常に大きな役割を果たすことになったIRA、あるいは401(k)プランといった確定拠出型年金制度が拡大したマクロ的な背景については、次の7ページにございます。

これは、少し金融から離れて、社会的な背景になります。まず、我が国の個人型確定拠出型年金に該当する制度のIRAについては、1980年代前半、当時のレーガン政権による公的年金の支給開始年齢の67歳への引き上げを含む公的年金改革、左の表のほうに書かせていただきましたが、こういったものを受けて、アメリカ国民において、初めて老後への備えというものについて自助努力も必要だという認識が生まれて、その受け皿としてこのIRAが、対象者も拡大したということもあり、活発に利用されるようになったという経緯がございます。この頃から、いわゆる投資が単にうまくいけばいいよな、増えればいいな、ということではなく、老後に備えるという明確な目的を伴った行為に変わったとされておりまして、左下の表にあるように、IRAは米国の中流階級を預金者から投資家に移行させた制度だと歴史的には評価されております。

一方、日本の企業型確定拠出年金に該当する401(k)プランの拡大は、真ん中の図表に示しましたように、労働市場の変化に影響を大きく受けております。80年代以降の終身雇用を前提としないサービス産業の台頭やホワイトカラーを中心とした女性の社会進出です。特に女性は、結婚、出産、子育てなどで休職、転職が多いわけですが、そうした変化が進む中で、伝統的な企業年金と異なり、自分の口座が明確に分離、確保されている401(k)プランというものは、生き方に応じてポータビリティが確保されるという点で非常に受け入れやすかったと評価されています。

また、401(k)プランでは、従業員が労働の対価である、老後への備えの年金資産を、今申し上げたように、自分の口座に確保できるということがあるのですが、一旦、口座に入った資産は、企業の経営悪化や倒産、吸収合併などの影響を受けないということもあり、真ん中の一番下の図で示しましたように、1980年代から90年代にかけて、米国で企業の倒産などが急速に増加しましたが、こういう環境において非常に大きな説得力を持ったということでございます。

さらに1987年から伝統的な企業年金である確定給付型の積み立て不足の会計上の開示というものが開始され、一番右側の図表でございますけれども、伝統的な企業年金の運営負担を嫌って、米国の企業群が、確定給付型と呼ばれる伝統的なものではなく、401(k)プランをメインの制度にするようになった、ということも1つの大きい背景になっております。

さらに、原則60歳まで引き出せない老後の備えとしての長期の資金運用を担う、こうした確定拠出型の年金は、米国の家計金融資産の、先ほど来から見ている投資へのシフトの呼び水としての役割を大きく果たしたと言われております。

8ページをご覧ください。左の図に、IRAの資産配分の推移を示しましたが、1981年には預金が72%だったのが、2010年には、投資信託がほぼ半分、投信以外の証券投資も36%に至るという変化が起きております。

右の図は401(k)プランの資産配分ですが、ほぼ同様で、1990年代に投資信託への配分が急速に拡大し、2010年に6割に達しています。IRAと401(k)プランが家計金融資産全体の投資拡大の先導役を果たしたと言われる所以になっております。

次のページの9ページはここまでのまとめですので、後ほどご参照ください。

こうした米国における家計による投資信託を核とした投資拡大ですが、その意義については、10ページに示しますように、家計からのリスク・キャピタル(成長資本)が安定的に供給され続けたということが、どうしても一番最初に出てくるのではないか、と思います。10ページ左上の図に示しましたように、投資信託を通じて、現在、米国の株式全体の25%、社債全体の15%が支えられています。ちなみに、日本ではいずれも5%に至らない状況が続いています。

また、米国の企業は、1980年代半ば以降、真ん中の図に示しますように、労働分配率を引き下げる傾向を続けて現在に至っていますが、アメリカの家計は、投資を通じて資本の果実を手に入れることで、この低下を補完できたというマクロの構図もございます。

なお、80年代までは証券業の一角にしかすぎなかったこの投資信託ですが、投資信託の増加を通じて、いわゆる投資信託業が、新金融サービス産業と呼ばれていいほどの非常に大きいビジネスの広がりを見せ、現在、15万人を超える雇用を生み出しているという点も注目に値するのではないか、と感じている次第です。

一方、11ページ、次のページですが、家計による投資の拡大で、市場の動揺への家計資産、個人資産のエクスポージャーが高まったということも事実だと思っています。ただ、11ページに示しましたように、左側のグラフですが、例えば、投資信託の口座数の推移では、1987年のブラックマンデーや2000年のITバブル崩壊などで、家計による投資の普及の動きは止まらなかったという点が確認されておりますし、直近の2008年の金融危機後も回復が見られております。金融危機に直接関連しなかった投資信託会社や証券会社では、運用資産残高や預かり資産をむしろ拡大させているところもあると伺っております。

左下の表に示しますように、確定拠出型年金制度についても、オバマ政権もまた、むしろ一層の拡充策を打ち出しているというのが現実です。

なお、今回の金融危機の経験を通じては、課題ももちろん見えております。市場型金融の拡大については、リスクの所在地が拡散することで、そのリスクが顕在化した場合の迅速な対応の難しさというものが改めて認識されることになったのではないでしょうか。

例えば、金融危機では、老舗の有名MMF、まさに最初に発明されたMMFですが、リーマンブラザーズのCPなどを保有していたことから元本割れに至るということで、MMFへの信頼性を維持するために、右側の表にございますような、政府が保証プログラムを出したというほどでございました。

以上、少し足早ではございましたが、米国において、投資信託を核とした1980年代以降の家計による投資が大きく進展した経済的・社会的な背景について、そして、家計による投資拡大の意義や課題について、主なものに限ってではございますが、ご説明させていただきました。

ただ、皆さんもお聞きになられて感じられたことと存じますが、米国のこうしたマクロ的・制度的な経緯は、先ほどからも何度かデータなどが提示されておりますが、日本の現状にとって、重なる部分もありますが、むしろ重ならない部分も非常に多く、一概にそのままに参考になるとは限らないと思っています。

そして、もし、こうしたマクロ的・制度的な違いを所与にすると、家計による投資が拡大していくための、むしろ商品開発やマーケティングなどのミクロ的な取り組みからの示唆のほうが、おそらくより重要になるはずなので、本日の私のお題から少しずれるのではありますが、最後に、そうしたプレーヤーによる主な取り組み事例を幾つかご紹介したいと思い、12ページに記載いたしました。

例えば、一番左ですが、米国の投資信託というのは非常に厳しい商品開発競争を勝ち抜いて、ロングセラー、10年、15年と人々に愛され続けるような投信といったものも少なくないのですが、米国で初めて、全国津々浦々の米国民を投資信託に引きつけた有名なファンドに、マゼランファンドというものがございます。このファンドは当時、周囲では必ずしも注目されていなかったが、今となっては成長性が非常にあったことがわかっている中小型の銘柄をファンドマネジャー、ピーター・リンチさんという方ですが、この方の高い目利きの力で見出して、10年以上にわたり高い成績を出し続けたということで知られています。このファンドが出てこなかったら、米国の投資信託をめぐる風景は今とは違っていただろう、ということまで言われる方がいるほどのファンドでございます。

また、米国でも近年、海外、特に新興国への投資について、先ほど日本のデータでも非常に関心を持っている方が増えてきているということのようですが、重要性が非常に認識され始めています。例えば、真ん中の上の図に示すように、米国の投資信託の、大手3社に限っても、早くは2000年代に入って、こうした新興国への本格的な分散投資を行う商品開発に着手しており、この3社で既に2006年で300億ドル、現在では500億ドルを超える運用残高を形成し、個人に対して新興国への分散投資といったものを実現しているツールを提供しているということになります。

なお、米国では、投資教育、投資リテラシーが進んでいるとマスメディアで言われることが多いのですが、現実は必ずしも皆十分とは限らないという調査分析なども非常に多くあります。むしろ近年では、投資リテラシーが必ずしも皆十分ではないのではないかという認識を再確認し、それを前提として、どう投資に向き合うべきかという模索が追求されるようになっております。例えばですが、下の2つの図表に示しましたが、個人のライフサイクルに応じた資産配分調整といった機能の重要性を内在化した、ターゲット・イヤー・ファンドと呼ばれる商品の開発、拡大といったことも展開されています。

そして、運用会社のみならず、販売を担う証券会社も、1990年代より、顧客資産全体の投資収益の最大化を目指すポートフォリオ運用のサービスとして、投資信託をさらに個人ごとにカスタマイズしたとも言えるファンド・ラップやSMAの取り組みなどを本格的に開始して、現在に至っています。

この場合、顧客資産全体の配分、構成の最適化が鍵になるわけですが、そのためには、ファイナンシャル・プランニング・ツールが非常に中核的かつ重要な役割を果たします。そのため、実は極めて高度なITを駆使した、発達したファイナンシャル・プランニング・ツールが開発、活用されているという事実もございます。

また、資産をつくるだけじゃなくて、どう取り崩していくのかという、ここでも今日、何度か議論が出ましたが、退職した後のプランニングというものをどう考えるのかといったことについてのアプローチなども、非常に注力されているというのが現状でございます。

もちろんこれらが、今申し上げた12ページに記載したことだけが、こういうミクロ的な取り組み事例の全てではなく、参考資料として、16ページに記載させていただきましたETFの開発・普及、あるいは教育資金というものを目的とした積み立てを仕組みに入れるような、こういったサービスなどを始め、ほかにも多々あるかと存じますが、本日はこれで終わらせていただきたいと思います。ご清聴ありがとうございました。

○吉野座長

どうもありがとうございました。

それでは、皆様からご質問いただければと思います。後藤委員からどうぞ。

○後藤委員

祝迫先生からご指摘のあった、貯蓄から投資へというマクロ的な資金フローの問題意識から伺いたいと思います。

まず、祝迫先生に伺いたいんですけれども、旗としては、「貯蓄から投資へ」というコンセプトがずっと掲げられつつも、しかし、なかなか進んでいないというのが実情かと思います。短期的には、リーマン・ショックとかいろいろ個別の要因があるのかもしれませんけれども、しかし、ベーシックには、1つの考え方としては、日本の家計資産においては、不動産という、流動性が低く、かつ価格変動も結構大きい実物資産の重要度が相対的に高いので、よって、金融資産の部分においてリスクをとりにくいという、そっちにしわ寄せが来ているんじゃないかという考え方もあり得ると思います。もしそうであるならば、解決策の1つは、確かに先生がおっしゃるとおり、そうしたしわ寄せを補って余りあるほどの金融資産の価格の上昇、言ってみれば、バブルみたいのが起きれば、確かにお金の流れが投資のほうに向かうのかなとは思いますけれども、もう一つの考え方としては、例えば、実物資産側のケア、住宅政策なんかによって、比較的安価に不動産を取得できるようなやり方というのも、遠回りかもしれませんけれども、もっと腰の据わった方策としてはあり得るのかもしれないという、これは1つの考え方ではありますけれども、このあたりにつきまして、先生のご知見としてどういうふうにお考えかというのを伺いたいと思います。これが、まず祝迫先生に対する質問です。

それから、井潟委員に対するご質問、基本的にやはり同じ問題意識、貯蓄から投資へという問題意識なんですけれども、貯蓄から投資への資金誘導の有力なツールと思われていた市場型間接金融、やはり日本では思ったほど進んできていないというのが実情かと思います。ただ、実際、委員も大きな要因として、プレーヤーの努力というのを最後にまとめていただきまして大変勉強になりましたけれども、その一方で、制度的な要因というのは、相当規制緩和が日本でも進んでいて、できることの選択肢は限られてきていると思いますが、例えば、アメリカなんかと比べて、日本でここを制度的に変えたら、お金が投資のほうに向かいやすいんじゃないかというような箇所があるんであれば、ご指摘いただければと思います。そうじゃなくても、あとは、プレーヤー側の努力に負っている部分が大きいというのであれば、それはそれで結構ですので、そのあたりを伺えればと思います。

○吉野座長

祝迫先生からお願いいたします。

○祝迫一橋大学経済研究所准教授

ありがとうございます。まず不動産の件なんですけれども、それはおっしゃるとおりでして、私の今日お見せしたデータのもとになっている論文でも、不動産のことは実は大変書いてありまして、時間がなくてご紹介できなかったんですけれども、確かに住宅政策は重要だと考えております。特に、住宅を安価にするというか、住宅価格を下げるというのは、ある意味、必ずしも経済全体にとってはいいことだけとは限りませんで、むしろ私が考えますのは、みんなが住宅を買わなきゃいけないわけではないだろうということで、借家市場をもっと効率的なものにする。特に日本の場合には、貸しマンションというと、大体独身の人向けですけれども、もう少し大型の、2、3人子供がいるくらいまでの家計を対象としたファミリー向けの賃貸市場というのがもう少し整備されてしかるべきではないかと。ただ、そのためには、さまざまな法整備とか制度整備が重要になってきますので、その面での整備というのは非常に重要だと思います。

それから、議論する時間がございませんでしたけれども、リバースモーゲージみたいな形で、要するに、住宅を持っている人がもっと金融資産投資をしやすくするというようなメカニズムは検討するには値するだろう。ただ、リバースモーゲージの話に関しましても、ずっと言われてきてはいることですので、とっとと制度を変更してくれよということになるかと思います。

○吉野座長

井潟委員、お願いいたします。

○井潟委員

非常にいいご質問だと思います。制度的な部分につきましては非常に細かいことについて言えば何か多少あるかもしれませんが、大きい骨太のところでは、日本で何かがまだ障害として残っている、などということはほとんどないんじゃないのかな、と理解しております。むしろここで申し上げました、金融制度そのものから少し離れるものではありますが、投資を目的、老後への備えなど明確に目的を持って、長期の資金を60歳まで原則下ろせない形で運用すること。それで、申し上げましたが、確定拠出年金制度の充実といったもののほうが、むしろ重要じゃないのかなと思っているところでございます。同制度については使い勝手が非常に悪いという、そういう意見も企業の方や個人の方からも聞くこともございまして、こちらのほうが制度的要因として大きいと思っております。

さらにご指摘いただきましたし、私も12ページに書かせていただきましたが、やはりプレーヤーの商品開発、あるいはサービス、こういった部分は、もちろん、どちらが先かということになりますが、非常に重要で、ファイナンシャル・プランニング・ツール、私も簡単に、IT、高度だという言い方をしたんですけれども、そこへの注力ぶりというのは、平均的な姿を日米で比べると、圧倒的に米国のほうが強いような印象がございますし、こういった、今日申し上げましたターゲット・イヤー・ファンドという、本来であれば、30歳なら30歳、40歳なら40歳、50歳なら50歳、さっき、祝迫先生のところにもございましたが、場合によってはリスク資産配分を変えていく必要があるような、そういう作業が本当は必要なんですが、実はなかなかできない人が多いという現実に対応し、例えば、2030年に退職を迎えるんだということを考えている人であれば、2030年ファンドというファンドを買うと、ちょうどそれに合わせて、2030年に安全資産が自動的に増えていくようなアセットアロケーションになっている、こういう商品開発などが非常に盛んに行われ、今、拡大しているんですけれども、こういったところでの工夫の余地というのが、プレーヤーサイドではまだ残っているような、そういう印象を受けております。

○後藤委員

ありがとうございます。

○吉野座長

ありがとうございます。リバースモーゲージは、いろいろ信託銀行の方がやり始めてくださっているんですけれども、長生きのリスクとか、今度は相続の方が一緒に住んでいるとか、日本では今のところ、うまくいってないようでしたので、それがコメントです。

それから、やっぱりMMFに関しましては、ちょうど私、80年代の初め、アメリカにいたんですけれども、そのとき、MMFのパフォーマンスがすごくよくて、預金よりも全然利回りよかったですから、それで随分動いたところがあるような気がいたしまして、やっぱりパフォーマンスの高さというのもあるような気がいたします。それはコメントです。

それじゃあ、永沢委員、どうぞ。

○永沢委員

井潟委員に最初に質問させていただいて、後で祝迫先生に質問させていただきたいと思っております。

まず、井潟先生にお尋ねしたいことですが、米国の投信をモデルにした投信改革というのは、我が国では1995年から2000年にかけて大変熱心に議論をし、そのような方向で投信改革がされたはずだと思っておりますし、当時、マゼランファンドやターゲットファンドを参考にした商品というのは、既に日本に投入されたという理解でおります。ところが、現状を振り返ってみますと、日本の投資信託で主力に販売されているのは……。その前に、マゼランファンドというのは、私の理解では、アメリカの市場に主として投資をする、つまりマザーマーケットを中心としたファンドだと思うんですが、それに比べて、日本の今の投資信託の販売の主力は、デリバティブと外債に投資をするものが上位に、ここのところ、ずっと来ていると思います。

先ほどから、金融リテラシーというような問題もいろいろ指摘されておりますけれども、なぜ日本では、あのときに行われた投信改革が成功しなかったのか。例えば、ロングセラーのファンドはなぜ育っていないのか。私の記憶では、当時、投信改革をするときには、アメリカのミューチュアルファンドのように、永遠に続くようなファンドをつくるということが目標とされていました。それなのに、今市場で起こっていることは、信託期間がどんどん短くなって、3年から5年となっていたり、さらには、どんどん繰り上げ償還が行われているという状況にあるわけです。こうした中で、果たして投信改革が日本でうまくいかなかった理由は何なのかというところについて、私たちは、反省し、見直すことを出発点としなくてはいけないんではないかと思っております。この点、投資信託をずっとごらんになっている井潟委員の、非常にお話しにくいところもあるかとは思うんですが、ご意見を伺いたいと思います。それが第1点目でございます。

それから、祝迫先生にお伺いしたいことでございますが、21ページにお示しいただきましたご提案というのは、私もどれもそのとおりだと思っております。その前提となりましたところといいますか、前提と言っていいのかわかりませんが、その前のページで、「金融リテラシー」という言葉をお使いになっていらっしゃいます。ほかの先生方にも、もしお時間があったら、いつかお聞きしたいとは思っているんですが、「金融リテラシー」という言葉は、非常にわかったような気持ちになる言葉ではありますけれども、それぞれの方がお話されているときに、お考えになっていることが違うんではないかと思うときがございます。先生が考えていらっしゃる金融リテラシーというのは、例えば別の言葉に置きかえるとどういうことを意味するのか。それが難しいということであるならば、世間で金融リテラシーと言って行われていることで、先生の目から見るとこれは当たらないというようなものがありましたら、そういった観点からでも結構ですので、金融リテラシーというものの定義をもう少し詳しくお話していただけたらと思っております。

以上でございます。

○吉野座長

ありがとうございます。じゃあ、井潟委員、どうぞ。

○井潟委員

非常にすばらしいご質問、ありがとうございます。私も非常に悩んでいるところでございますが、一番大きいのは、やはり先ほど触れさせていただきましたが、何を目的に投資をするのかということについてだと思います。アメリカではマス層を中心とした、ごく普通の一般的な家計や個人で、30代や40代の人たちが中心に投資しているというお話を申し上げましたが、60歳あるいは65歳という非常に長い目標に向けて投資を行うという観点がある。うまくいったら、すぐ何とかしたいという観点よりは、いい投信であればこそ、むしろもっと自分の60歳や65歳に向けて保有し続けたいという、そういう観点が強いというところがまさにあらわれているのかなと。投資リテラシーや金融リテラシーという中に、なぜ投資をするのかということについての意識というものをもっと強く入れていく。アメリカの場合は、繰り返しで恐縮ですが、制度的には、いろいろ年金改革などもあったり、会計の問題もあったりということで確定拠出型が非常に拡大し、投資の目的というものが、こういう年金制度などを通して認知されている。特に確定拠出では、ご存じのことと思いますが、投資教育というものが必ずセットで行われているという点もあり、強く認知されるようなことが促されるようになっていると思います。

実際、マゼランをはじめ、アメリカのロングセラーの投資信託の運用資産は、半分以上が実は確定拠出で形成されているものもあり、ロングセラーの投資信託であることは、イコール実は確定拠出で採用されている商品だということと理解しております。老後を目的にする、あるいは、先ほど少し申し上げましたが、最近は教育資金、子供が生まれたときに、18年後を目指して積み立てていくという、こういう目的を持った投資といった姿勢、ここが大きい違いになっているんじゃないのかなと思っております。

○吉野座長

じゃあ、祝迫先生、どうぞ。

○祝迫一橋大学経済研究所准教授

金融リテラシーが何を意味するかということなんですけれども、実は言っている人によってそんなに違いがあるとは思わないんですけれども、どこを強調するかという違いだと思いまして、やはり家計の厚生ということを強調して考える立場から言うと、ほんとうはCAPMとかそういうところまでいってほしいんですけれども、まず、どうやって金利を計算しますかとか、住宅ローンの借りかえをちゃんとしましょうとか、あるいはどういう保険がほんとうに有利で、どれぐらいの保険が必要なんですかと、そういう部分が金融リテラシーの第一歩になって、それの重要性というのは、ほかの、もっとソフィスティケートされた株式での金融資産の運用といった話よりはるかに重要だと。そういう初歩の初歩が重要な家計というのがおそらく大半なんだろうと考えています。

だから、強調の置き方の違いはあると思うんですけれども、金融リテラシーという言葉自体が指しているものはさほど変わらないんだけれども、それのどこを使いたいかということは、それを使う人の立場によって結構違ってくるのかなと感じております。

○永沢委員

ありがとうございました。

○吉野座長

小野委員、どうぞ。

○小野委員

祝迫先生に2点お伺いしたいと思います。

既に後藤さん、永沢さんからご指摘のあった点と重なるかと思いますが、資料9ページの年齢プロファイル別のリスク資産のシェアのカーブについて、日本の特徴として、カーブのピークに達する年齢が欧米より若干遅いというお話だったかと思います。その背景なり、どうしてそうなのかということを教えてくださいというのが1点目の質問です。

前半の理論に関するご説明からすると、このカーブに影響を及ぼす基本的要因としては、労働市場の問題と予備的貯蓄だとか流動性制約だとかという制約条件の違い等が考えられますが、どの要因が効いているかによって、政策インプリケーションはおそらく変わってくると思います。例えば、労働所得とのリンケージでピーク年齢が欧米と違うのであれば、かといって、年功賃金をリスク資産投資のためにやめるといえるかというと、それは全然別問題ですので、金融面での政策インプリケーションとしては、おそらくあまりやれることがないとなると思います。逆に流動性制約が寄与しているのであれば、何か金融的な政策相合ができるかもしれないなと思っているというのが、私の質問の背景です。

2点目として、先ほど、永沢さんからもあったんですけれども、日本の家計のリスク資産投資において、外貨建ての投信などの比率が、例えばアメリカと比べても高いという話がありましたけれども、外貨建ての金融商品に対する投資比率の高さというのはどういうふうに説明できる事象なんだろうかというのが2点目の質問です。

以上です。

○吉野座長

祝迫先生、いかがでしょうか。

○祝迫一橋大学経済研究所准教授

なぜリスク資産のシェアのカーブのピークが遅いかということなんですけれども、基本的には2つ理由があると思いまして、1つはもう単純に、日本の家庭の場合、退職金をもらって、それで株式に投資を始める、もしくは、少なくとも退職直前ぐらいになって、子供もある程度大きくなってというところで株式投資を始める人たちが多いんだろうということだと思います。だから、そこは言ってもせんないことではあるんですけれども、やはり年功賃金の問題とかなり密接に結びついているだろう。

もう一つは、これも先ほどお答えしたことではあるんですけれども、不動産投資というか、要するに、持ち家を極めて重視していると。とにかく自分が将来これだけ稼げそうだと思ったら、その稼ぎの分で買えるだけでかい家を、でかい家かどうかは知りませんけれども、いい物件を買って、あわよくば自分の子供に残そうというのが日本の家計のプライオリティーになっていると思いますので、それが家計全部だとは言いませんけれども、そういうライフプランニングしている家計がかなりの部分をまだ占めていると思いますので、そうすると、やはり不動産のほうをどうにかしないと、もう少し若年層でリスクがある金融資産に投資するという行動は起きないのではないかなと思います。だから、そういう意味で言うと、繰り返しになってしまうんですけれども、あんまりやれることはないんじゃないのかという、ちょっとネガティブなご回答になってしまうかと思います。

それから、リスク資産がなぜ外貨建て金融商品に向かうかということなんですけれども、基本的には、外貨預金だと思うんですね。一部、グローバルソブリンみたいなものもありますけれども、例えば、海外の株式を一生懸命買っているかというと、それはそんなには多くなくて、基本的には外貨預金とグローバルソブリンのたぐいですよね。そうすると、結局何をやっているかというと、基本的には国内で、ミドルレンジという言い方は適切ではないかもしれませんが、株式でもないけれども定期預金でもなくて、もう少しミドルレンジで、ある程度ちゃんとお金が入ってきて、リスクもそんなには大きくないという金融商品がひょっとしたらないのかもしれない。

あとは、グローバルソブリンという、経済学者から考えると謎の商品があるんですけれども、何でそれがそんなに売れているのかと野村の人に聞いても、何で売れているのかよくわからないという商品があるんですけれども、やっぱりあれを買っている人たちは、大半が、それこそ定年のときの退職金で投資を始めた方たちでして、これを持っていると、チャリンチャリンと毎月お金が入ってくる。それで、孫にお小遣いをあげられるのよと、そういう人たちが投資をしているわけですね。だから、そういう部分で、期せずして、一種マーケティングがうまくいってしまったのかなとは考えています。

○吉野座長

じゃあ、どうぞ、小野委員。

○小野委員

すぐに終わります。前半のほうのお答えなんですけれども、退職金というのはわかるんですけれども、ただ、退職金がキャッシュとして実際に手に入るのは確かに60歳なり何なりの年齢なわけですけれども、資産としてはずっと積み立てられているわけで、見方によっては、単に流動性制約に服しているだけではないかと思います。もし合理的に将来を見越して、ライフタイムのインカムベースで投資の意思決定をするのであれば、退職金がいつキャッシュになるかというのは別の話のような気もするんですね。つまり、年功賃金の話とは別のような気もするんですけど。

○祝迫一橋大学経済研究所准教授

そういう意味で言えば、まさにおっしゃるとおりだと思います。ただ、逆に言うと、年功賃金がどこまで合理的かということで、要するに、実際に働いている人の生産性に合った賃金が払われているかというと、明らかに、こういうことを言ってしまっていいのかわからないですけれども、定年に近い人たちは、自分たちのプロダクティビティーよりは高い賃金をもらっているというのが事実だろう。そこは、もっと早目に若い人たちにプロダクティビティー(productivuty)に合った賃金を払うべきではないですかということが申し上げたかったことです。

○吉野座長

大垣委員、それから山田委員の順番で。

○大垣委員

井潟委員に1点だけ。

私も、投信とかリスクマネーというのを、長期投資を呼び込むという観点から、確定拠出の持っている重要性というのは非常に大きいと思うんですね。特に所得税を払う前から投資できるわけですから、これぐらいインパクトのある投資商品はないと思うんですが、現在の位置づけは、それがどうも、最初、PBO対策で入ったということもあって、企業の年金問題との関係でだけ使われていて、導入が企業サイドで入らないと、なかなか入らないと思うんです。もう少し、そういう意味では、個人型といいますか、個々人のイニシアチブで確定拠出をやるというような、年金の補完とかというところから、年金ぐらいまでは少なくとも格上げをしてあげるような施策があれば、これがおっしゃっているような間接的に投信のマーケットというのを広げていく意味があると思うんですが、そういう視点から言って、井潟先生からごらんになると、どういうようなことが必要になるとお考えになりますでしょうか。

○井潟委員

まず環境的には、今回は少し先送りされたような議論ではございますが、やはり日本でも、アメリカの80年代前半当時に、アメリカで個人型が普及するきっかけになった社会的背景、すなわち年金改革、日本では今回、68歳への支給開始年齢引き上げなどという議論まで出てきた、こういう環境変化といったものが、現役の世代の方々にも少し自分の老後といったものに関してどう備えていくべきかという認識などを高めていくという点では、間接的ではありますが、非常にそういう方向に向かっていく1つの要素になるんじゃないかなと思っております。

祝迫先生のスウェーデンのデータと少し関連しますが、おそらくスウェーデンで金融資産のリスクの部分が結構高いというところは、実は、スウェーデンも1990年代半ばだったと思いますが、公的年金改革を行っておりまして、公的年金の中に確定拠出を入れてしまった。国の年金に確定拠出を入れてしまったということで、15歳以上のスウェーデンの人たちは全員口座を必ず持たされて、国に登録された投資信託を購入するということになっている国のはずなんですが、そういうことが影響しているんだと思いますけれども、個人型の利用と拡大という部分は、やはりこういった社会的な背景もあると思います。

もう一つ、ミクロ的な部分については、こういう制度を金融機関が取り扱うという点においては、金融機関サイドも、ファイナンシャル・プランニングとか老後についての考え方とか、そういったものを整備し、お客様にきちんとお伝えするようなツールや理論武装をきちんとしなきゃいけないという点がありますが、そこの部分、どうでしょう。今のところ、まだまだ老後は安泰だと、日本の年金制度はまだまだ十分だと思い込みたいし、そういう認識が強い中で、もう少し注力してもいい部分もあるんじゃないのかな、と思ったりします。

○大垣委員

1点だけ。今、企業型ですと、レコードキーピングの会社がきちっとしたシステムを提供してくれて、投信を行ったり来たりとか非常に自由にできるんですが、私、今、非営利法人の理事長とかやっていて、個人型を入れようとすると、もう変額年金だったらそれしかやらせません、銀行だったら預金だけですよっぽくなったりとか、個人型と企業型との間にあまりにも商品としての差があるし、フィーも高いし、そういう意味では、だれもまじめに個人型を考えてない感じがするんですが、技術的にレコードキーピングのああいう仕組みというのを、日本では個人型に適用することはできないんでしょうか。それだけ。

○井潟委員

私も専門じゃないので、その部分は詳しくわからないんですが、ちゃんと確認して、改めてまたお答えしたいと思いますけれども、私の記憶に間違えなければ、日本で普通に企業型で使われているシステムは、おそらく個人型でも使われているはずだと認識しております。

○吉野座長

山田委員、どうぞ。

○山田委員

時間の関係もありますので、簡単な質問を4人の先生方全員に差し上げますので、簡単にお答えいただければと思います。

日本の個人金融資産の中身、割合はほとんど2、30年変わってないわけですね。一部、投信が増えたということがありますけれども、変わってない原因は何なのか。具体的に言っちゃうと、制度設計が悪いのか。例えば、年金制度とか税制が悪いのか。あるいは、保守的な国民性が影響しているのか。さらに、市場が悪いと言っちゃいけませんけれども、特に株のパフォーマンスが大変悪いのかと、こういった要因があると思うんですが、これはどういう要因が一番大きいとお思いでしょうか。

それから、これが今後変わるとしたらば、どういうきっかけで変わるか。それについて、個人的なご意見を4人の先生からお伺いしたいと思います。

○吉野座長

順番に、宅森先生からよろしいでしょうか。お願いいたします。

○宅森三井住友アセットマネジメントチーフエコノミスト

今、わりあい変わってないというご指摘だったんですが、少しは変わりましたよね。私の資料でも、8ページの上のところなんか、ちょっと見ていただくと、一生懸命、貯蓄から投資へという話になってきたときに、動いたことは少し動いたと思います。株だって少し増えたと思うんですよ。ただ、そこのところは、マクロの環境とか何かも、せっかくよくなりかけたところでリーマン・ショックなり何なりがあってだめになっている。だから、名目GDPなんかもずっと上がってきたところで、またすとんと落ちてしまう。

そういう中で、損が出てしまったということが多いんでしょうね。だから、リスクに対する、やっぱり言われて買ってみたものの、何か損が出てしまったから、ちょっと怖くなってやめとこうみたいな。今、一番縮こまっちゃっているような感じもします。だから、そこは少し長い目で見たほうがいいんじゃないかというお話をさせていただいたんですが、1つの景気循環とか何かで考えれば、ある程度の期間待てば、また少し戻るんだろうと思うんですよね。だから、少しせっかく動きが出てきたところに水を差された形なので、私はウエートが変わってないとは思いたくない。ほんの少しは動いてきた。ただ、まだまだ、大きな目で見るとあまり変わってないというふうにもとれちゃいますからね。少し変化があったので、そういう変化みたいなものが、また復活してくることを期待したいと思っている感じです。

○吉野座長

有田先生。

○有田日本FP協会常務理事

不安といいましょうか、金融商品一般に言えることではあるんですけれども、特に見えないものに対する心理的な不安ということが、私は1つ、大きな原因としてあるように思います。それから、じゃあ、どう変わるべきかということに対しまして、雇用不安とか年金制度の問題であるとか、こういった、自分の生活を踏まえて、将来に向けて、どういう不安があって、それをどう解決していいか、個人個人の人がわかりにくい環境にある。このところに伸びない原因があるのではないかと思っております。

○吉野座長

祝迫先生、お願いします。

○祝迫一橋大学経済研究所准教授

基本的には、もうすべてマクロだと思っておりまして、要するに、過去20年間、単に景気が悪かったわけですから、景気がよかった試しがないわけで、それでリスク資産を増やせと言うのは無理でして、マーケットが悪かったこともそうですけれども、それにプラスして、やはり労働所得が、特に2000年代に入ってほとんど伸びてないということは大きかっただろう。

それから、そうは言いながら、最初に宅森様がおっしゃったように、やはり少しは動いているんだろうと。特に年金崩壊というようなことが言われてきて、若い世代が、もう年金には頼れないから自分で資産運用しようという動きはありますし、それから、インターネットがこれだけ盛んになってきていますので、ネットを通じた株式運用ということは、若者、若者だけではないかもしれませんけれども、ある程度広がってきている。だから、そういう意味で言えば、若干ではあるけれども変わってきていると。ただ、それが数量的に、アグリゲートで見たときに目立つようなところまではつながってないのかなという気がしております。

○吉野座長

最後に井潟委員、どうぞ。

○井潟委員

まず、質的な変化がなかなか定量的に見えてきてない。投資信託については、1970年代から80年代くらいは、単位型と呼ばれる、今の追加型とは全然仕組みが違う投信が中心だった。今は追加型と呼ばれる商品を中心に、これだけ実は拡大してきている。アメリカに比べるとまだまだということですが、以前から比べると拡大している。あと、私なども、社会人の学生さんがいる大学院で10年ほど教えたりしていますが、学生さんの意識なども随分変わってきている。ただ、こういう質的な部分がなかなか量的な部分に反映していない。ここは、ちょっとじくじたる思いもある部分ですが、そういうふうに思っております。

今後の展開というか、今後の方向性については、既に何人かの発表者の方々からありましたが、2つですかね。1つは、やはり資料のほうでもアメリカで触れさせてもらいましたが、労働市場の変化だとか日本の少子高齢化社会の中で、今まで前提としていたことが随分変わってくる。制約条件がいろいろある中で、夢としてはそうあったほうがいいというのが、現実はどうなんだろうか、ということがこれからどんどん出てくるという中で、個人の資産の運用のあり方といったものをどういうふうにしていくのかという点では、さらなる変化が場合によってはあるんではないか、あるべきじゃないかと思っております。とりわけ2つめとして、日本の成長が少子高齢化や人口減少で厳しい中で、海外の成長というものを取り込んでいくという点においては、海外への投資といったものを、自分が海外に働きに行けなくても、資産のごくわずかでも、例えば、そういう投資を通して手に入れるとか、あるいは海外で非常に活躍している日本の企業を評価し、その企業を通して、そういう果実を手に入れるということなども、場合によっては今後必要になってくる。こうした点から考えると、多少は変わっていくべきところもあるんではないのかな、と思ったりしております。

○吉野座長

どうもありがとうございました。少し時間をオーバーしてしまいまして申しわけございません。4人の報告者の方、活発なご議論ありがとうございました。

それでは、今後の予定に関しまして、お願いいたします。

○黒澤総務企画局企画課長

次回の日程に関しましては、皆様方のご都合を踏まえまして、また座長ともご相談の上、12月中旬のやはり金曜日という方向で調整をさせていただきたいと思います。今年はおそらくそれが最後になろうかと思います。

○吉野座長

今日も活発なご議論、どうもありがとうございました。これで終了させていただきたいと思います。

以上

お問い合わせ先

金融庁Tel 03-3506-6000(代表)
総務企画局企画課(内線3645、3520)
本議事録は暫定版であるため、今後変更があり得ます。

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