金融審議会「我が国金融業の中長期的な在り方に関するワーキング・グループ」(第5回)議事要旨
1.日時:
平成23年10月14日(金曜日)13時30分~15時30分
2.場所:
中央合同庁舎第7号館13階 共用第一特別会議室
3.議題:
開催挨拶
有識者等からのヒアリング
事務局説明
質疑応答・自由討議
4.議事内容:
○有識者等(日本銀行、立命館大学播磨谷准教授、小野委員)より、我が国金融業の地域経済における金融機能の向上をめぐる論点に関して説明を受けた後、事務局より金融庁の取組みについての説明を行った。その後、質疑応答・自由討議がなされた。
○質疑応答・自由討議の概要は以下の通り。
【中小企業向け貸出と担保】
- 中小企業向け貸出しにおいて有担保取引が多いことはどこの国でも見られること。米国対比での我が国の特徴は、担保として不動産が偏重され、在庫や売掛債権等を含む担保の多様化が進んでいないことである。
- 貸し手が借り手に対して適切な審査やモニタリングを行っているかということと、担保をとるかどうかは別の問題だと考えられる。担保をとっているからといって、審査やモニタリングが疎かになっている訳では必ずしもない。
- 担保の多様化を進める上で、ABL(動産・債権担保融資)は一つの代替的な手法。在庫や売掛債権は、不動産よりも、担保管理においてコスト・手間が嵩むが、地元において有力な貸出先が多くない地方の金融機関を中心に取り組みがみられている。もっとも、まだ端緒についたばかりであるため、収益面での貢献が明確に認識されるような状況には至っていない。
- ABLにおいて、在庫と売掛債権の間には担保力につき大きな違いがある。すなわち、在庫は実際に販売出来てはじめて価値をもつものであり、内包しているリスクはビジネスリスクそのもの。その一方で、売掛債権は無事に回収できれば価値を保てるものであって、内包リスクは信用リスク。従って、在庫の方がより大きなリスクを内包し、担保力は低いといえる。しかし、貸し手である銀行が借り手である中小企業の在庫状況を把握していくことは、両者の間にある情報の非対称性を緩和することを通じて、当該企業への理解を深める効果が期待できるもの。この効果が得られるよう、地域金融機関に対して規制・監督上の一定の配慮がなされるべきである。
- ABLの裏付資産として売掛債権を利用することについては、譲渡禁止特約の存在がネックとなっている。同特約は二重譲渡リスクを排除するための商慣習によるもの。証券化の仕組みの整備が進み、債務者が自己の債務の行方について心配する必要性が少なくなる中で、大企業については、掛取引で債務者になる場合において譲渡禁止特約を設けないことに反対することはあまりない。むしろ、その取引相手である中小企業の方が、債権者の立場にありながら、同特約を設けないことを敢えて申し出ない傾向がある。申し出てしまうことによって自社の財務状況について良からぬ風評が立つのを恐れてのことだと思われる。
- 在庫や売掛債権については、不動産とは異なり、一般に登記制度を作るのは難しい。このため、ABLが積極的に活用されている国は米国などいくつかの国に限られているのが実情。我が国では、ABLを後押しする政策的な手当て自体はもうすでにやり尽くされていると思われる。
【地域金融機関の効率性分析】
- 計測された銀行業の効率性を複数の要因で説明する重回帰分析を行うにあたっては、個別金融機関が本拠地とする地域の特性(人口密度など)や貸出しの内訳の違いなどを説明変数によって制御すると、より示唆に富む結果が得られるものと考えられる。
- 特定の形の生産関数や複数の投入物・産出物を予め仮定した上で、実際のデータを用いて得られるフロンティアからの乖離幅を非効率性と定義する生産関数アプローチについては、それを製造業のように一定の技術体系を有しているわけではない銀行業に適用することがどのくらい理論的妥当性を有しているのか釈然としない。
- 生産関数アプローチのもとで定量的に計測された銀行業の効率性については、投入物・産出物の種類や利潤・費用の定義が実務的に注目されている財務・経営指標と必ずしも一致しないことや、銀行による収益獲得の実態をうまく捉えていないことなどを背景に、解釈しづらい面がある。銀行業の効率性については、同アプローチによる実証分析結果だけに頼らず、より多角的な視点での吟味が必要。
- 銀行業の効率性分析に生産関数アプローチを適用することについては、古くから疑問の声があるのは事実。このため、最近では、特定の関数形を想定しない所謂ノンパラメトリックな手法が開発されているところだが、我が国銀行業については、データの制約を主因としてそのような手法を用いることはできない状況にある。従って、我が国銀行業の効率性について実証分析を行う際には、生産関数アプローチはなおも有益な手法となっている。
【リレーションシップバンキング】
(コンサルティング活動の実態)
- コストや人材面の問題から、地域金融機関は、海外でのフルバンキングを行うことに対して消極的であり、結果として、中小企業は、その海外進出において、取引先の地域金融機関から金融面のサポートをなかなか得にくい状況にある。また、地域金融機関としても海外にて当該企業をモニタリングすることは難しい。
- 取引先企業に対して、その進出先現地において、融資を含めたサポートを国内ほど柔軟に行えないことは地域金融機関にとって懸案事項となっている。実際、様々な情報やノウハウを仕入れ、現地に事務所を開設し、商談会を国内外にて開催するといった手間暇のかかる取り組みを行っている先もある。この背景には、そうしなければ、進出先現地にて取引先企業が我が国メガバンクの海外支店に奪われてしまうという危機感があるものと考えられる。
- 取引先企業の経営改善・事業再生支援にあたって、地域金融機関は、内部のノウハウや人材だけではなく、外部の税や法律の専門家を活用したり、公的な性格を持つ再生支援機構や県出資の再生ファンドと協働したりしている。こうした活動は、当該企業の債務者区分の向上に伴う与信費用の削減や当該企業の企業価値の維持を通じて、ゆくゆくは地域金融機関の収益性の向上ないし維持に繋がることが期待できる。
(コンサルティング機能の向上)
- 金融庁の監督指針では、地域密着型金融の推進にあたって、コンサルティング機能の向上が標榜されているが、現実には、地域金融機関はある中小企業のメイン行であったとしても、借り手から見れば複数の貸し手のひとつに過ぎない。地域金融機関が激しい競争に直面し、低利鞘での貸出しを余儀なくされている中では、コンサルティング機能を向上させようにも限界があるものと考えられる。
- 金融庁の監督指針にあるようなコンサルティング機能については、それが発揮されれば地域にとって有意義であることは十分理解できるところではあるが、それを行うことによって地域金融機関が収益をあげられるかどうかは全く別の問題といえる。
- 地域金融機関が実際に監督指針に沿ったコンサルティング活動を行うためには、ノウハウ、体力、およびマーケティング力が必要となるが、これまでそうした基盤が地域金融機関において必ずしも形成されてきたわけではない。むしろ、公的信用が拡大し、また流入する預金も国債投資に振り向けられる中で、企業金融における地域金融機関の弱体化が進展してきたものと思われる。金融機関の職員1人当たりの貸出先の数が欧米に比べて4~5倍という事実は、わが国の中小企業向け貸出しにおいていかにノウハウの投下が希薄であるかを示しており、薄利多売となっていることはその裏返しである。こうした状況を正面切って議論する必要がある。
- 地域においてコンサルティング機能を発揮することは、日本の中小企業金融の実態を踏まえると困難。しかし、地域金融機関の拠り所は地域にしかないことを踏まえると、金融庁の監督指針は一つの方向性を示すものとして評価できる。ただし、地域金融機関が業容を拡大しながら、その機能を発揮していく展開は想像しづらい。むしろ、あり得る展開は銀行の規模としては小さくなりつつも、貸出先一件一件に対してより手間暇をかけていくというものではないか。
- 地域にて競合する金融機関の数を整理していくことを通じて、地域金融機関がコンサルティング機能を発揮できる環境を整備することが一つの解決策かもしれない。
- 地域金融については、地域経済における産業振興に加えて、人々のクオリティ・オブ・ライフ(個々の人生の充実)の向上にも貢献していく発想が必要。
以上
お問い合わせ先
金融庁 Tel 03-3506-6000(代表)
総務企画局企画課(内線3645)
本議事要旨は暫定版であるため、今後変更があり得ます。