日本型金融システムと行政の将来ビジョン懇話会(第3回)議事要旨

日時:平成13年11月19日(月)18時00分~20時05分

場所:金融庁9F特別会議室

  • 第3回会合においては、淵田 康之(ふちた やすゆき)委員、吉野 直行(よしの なおゆき)委員からのレポートの後、それらを基に自由討議を行った。

  • 淵田委員によるレポート

(レポートの要旨)

  • 不良債権額の大きさや銀行の自己資本が十分かどうかに関わらず、銀行貸出は(1)経済実態に比べても、(2)今後あるべき姿に比べても、過剰な状態にあり、オーバーバンキングの是正が必要。

  • 間接金融(銀行)と直接金融(証券市場)の機能は補完的なもの。銀行が健全にならなければ証券市場も拡大せず、また、証券市場の活性化が銀行行動の健全化にも寄与。

  • 金融の構造改革は企業・経済の体質改善の必要条件だが、早期の解決を要求するのは非現実的。当面は、個々の参加者の地道な努力が必要。

  • 今後は、(1)銀行と企業の関係の正常化、銀行と証券市場の適切な役割分担等を通じた銀行改革、(2)相対型バリュエーションでも、マーケットバリュエーションでもない、フェアなバリュエーションを形成する金融システムの構築を期待。

  • 金融のコングロマリット化の潮流に対応した監督行政の一元化が必要。また、従来型の価格規制や業務規制から、規制目的の達成により直結した行政手法が模索されるべき。

(レポートに対し、各委員から出された主な意見は以下のとおり)

  • 日本の間接金融の比重が高過ぎるというのは正しいと思うが、それが不良債権問題の原因ではないのではないか。70~80年代に直接金融の比率が高まったとしても、企業の過剰債務問題は生じていたであろう。直接金融が発達しなかったのは、一般株主へのリターンを真剣に省みなかった企業の経営姿勢の結果、個人投資家の株式離れにつながったと見るのが自然。

  • 90年代は不動産価格も株価も下落したが、投資家が儲けられる環境があれば自ずとマーケットは成長する。基本は、投資家に金融資産を長期に保有してもらうことであり、個人による株式への直接投資よりも、機関投資家等を通じた投信主導での資産形成が必要。

  • 銀行と企業は基本的に異なる。企業は大株主や大口債権者によるコーポレートガバナンスが働くが、預金者が銀行をコントロールするのは無理であり、監督当局のプレッシャーが必要。

  • 国が銀行に対してできることに限界があるとすれば、マーケットのアナリストをうまく使えばいいのではないか。そのためには、ディスクロージャーの徹底やルール違反へのペナルティーをしっかりしておくことが必要。銀行に対しては、預金保険でカバーされない部分の負債を、ある一定の格付け以上にするように言えばそれでいいのではないか。

  • 金融庁に期待するのは、破綻処理に際して、大幅な債務超過になる前に処理すること。ペイオフ解禁後も預金カット率が数%に収まる程度にすべき。

  • 社会全体のリスク量は景気等で必然的に増減する。個人の金融資産残高が多い中で、個人をいかに社会的に有効に、リスクの受け手にしていくかということを考えなければならない。銀行がリスクを抱え込まず、交換等によりリスクを平準化できる仕組みを考えるべき。

  • アメリカではグローバルな銀行グループが2つだけ(CitigroupとJP Morgan Chase)というのは、参考にすべき。日本はグローバル銀行を目指すところが多すぎ、それにこだわって戦略が狭められているのではないか。

  • アメリカは元々銀行に規制が強く、小規模なものを統合してきている一方、日本は元々全国展開しているところが多くあり、出発点がずいぶん違うという点にも留意が必要。

  • 政府の介入は、小さければ小さい程良い。唯一許されるのは、金融システムの危機の時の介入であり、それは大いにすべき。その際、政策のタイムラグ等を考えると、対応は早めにすべき。また、不良債権問題が産業再生と絡めてよく言われるが、これは全く別物であり、産業政策にまで介入すべきではない。

  • 投資家がリスク・リターンの認識ができて、ポートフォリオをどういう形で作っていくか、投資家と一緒に考えていかなければならない。ペイオフの1000万円限度はアメリカの10万ドルを参考にしたものだと思うが、例えば500万円にすると、投資家の行動も変わるのではないか。

  • 吉野委員によるレポート

(レポートの要旨)

  • 郵便局のネットワークは国民のインフラとして機能しており、非常に利便性が高い。これを民間金融機関に解放して、民間の金融商品を販売するチャネルとして活用し、国民の金融商品選択の幅を広げることが必要。

  • 政府系金融機関の融資には投資誘導効果(低利融資による利子軽減効果、量的補完効果、民間金融機関への情報生産効果)があるが、近年、低金利を背景として利子軽減効果がマイナスになるなど、全体としての効果は大きく低下している。

  • 財投出口機関においては、政策コスト分析により将来的な税負担等が推計されるようになったが、需要予測の過大見積もりなどもあり、今後更にインターネット等を通じたデータ開示や説明責任の明確化が求められる。

  • 将来ビジョンとしては、外交政策として、日本の金融機関が海外でサービスを売り、稼ぐことができるよう国際競争力を強化していく必要がある。

(レポートに対し、各委員から出された主な意見は以下のとおり)

  • アジアの通貨危機の時、外資はアジアに入っていったが逆に日本は撤退していった。非常に対照的であり、残念に感じた。

  • 郵便局の店舗展開を強調しているが、郵便局・銀行における金融商品の販売は、インターネットや電話を通じて行うことにより、店舗の負担も少なくなるのではないか。

  • 郵便局の店舗の利便性が好まれているのが実状。インターネットや電話による取引が根付くまでには相応の時間がかかり、それまでのtransitionとしての段階は必要ではないか。

  • 郵便局のネットワークは国民の資産であり、できる限り活用すべき。本当にリテールバンキングに力を入れるなら郵便局のように軽量店舗を多数活用するのが、欧米でも実践されている通り、本来のあるべき姿ではないか。ただし、郵便局の物理的ネットワーク活用の話と郵貯や公的金融がどうあるべきかとは別問題として整理すべき。

  • リテールバンキングへの移行はもっともな話だが、現時点では産業金融をやらないとバンキングではないという先入感があり、リテールが伸びていないのが実態。

  • 郵貯は大量のお金を集めているが、リスクマネーとしてのリスクのとり方に問題があるのではないか。市場リスクで株式の運用をしたり、財投の流れのどこかで運用せねばならないが、結果として取るべきでないリスクまで抱えているのが現実ではないか。

  • 郵貯の預入限度額を引き下げれば、それ以上のより大きな部分について国民がリスクを考えながら資金を配分することになる。わざわざ証券会社まで行かなくても、郵便局を通じて株式・投信等、様々な商品を購入でき、国民がリスクをとれるようにすべき。

  • 郵貯においてはコスト・ベネフィット分析という観点が必要。固定商品で6か月たったら引き出し自由であり、大きなALMリスクをとっている。金利の変動による将来の不透明なコストを国民負担の下に置いて事業をしているが、この辺があまり論ぜられていないのではないか。

  • リスクに見合ったリターンが取れていないとの議論が多いが、個人にどれだけ正確にリスクを理解してもらい、どこまでリスクをとってもらうべきなのか。また、リスクの仲介者が必要なのかといった点についても議論が必要ではないか。

  • アメリカでペイオフの限度額を10万ドルとする時、sophisticated investorかどうかの判断基準として決めたと聞いた。リスクを開示しても分からない人々のための基準として設定しており、日本でも、保護するレベルが高いほど求められる税負担も多くなることをきちんと説明した上で、国会での議論を通じて国民の合意を得て決める必要があるのではないか。

  • 財投出口機関のコスト分析は、事業をやりたいところが委託するため、まず結果を出せという前提がある。自己点検はできず、厳しい評価が出てこない構造になっている。中立的な第三者による評価をすることが必要。

  • 家計の資金が株式に向かわずに郵貯に向かうというのは、ある意味で合理的な行動の結果。現状のデフレ下では、ゼロ金利でも実質利回りは結構高く、リスクをますます取らず、株や不動産を売り、預保対象の預金や郵貯へのシフトが起きる。まずはデフレを止めなければいけない。

  • リスクマネーが供給されないから、リスクをとった企業活動が行われないという議論には疑問がある。アメリカでも、企業部門全体としては、自社株買い等でむしろ株式市場に資金を注入しており、株式市場からリスクマネーをとっている訳ではない。マーケットの役割は、価格発見機能(企業に値打ちをつけること)であり、企業への資金の供給ではない。

  • リスクの内容にもよるが、アメリカでもリスクマネーが必要とされているのはベンチャー企業や、初期の段階のハイ・イールド債を出すような中小企業。安定した後の企業の財務については、リスクマネーがあるからお金が入っていくというわけではない。

  • 我が国では、リスクの最適配分が行われていない。リスク配分を考える時に、郵貯や政府系金融機関が、取るべきリスクとそうでないリスクをきちんと仕分けず、どんぶり勘定でリスクをとって、それを他に回していくというやり方は問題。

  • 日本には宝くじやパチンコ等をする人がたくさんおり、必ずしもリスクをとらないわけではない。それより好ましい商品、リスクのプロファイルがあれば買う人はいるはずであるが、そういうものを公的機関がオーバーライドして供給しているのが問題。

  • ドイツは株式投資のシェアが上がっているが、国鉄民営化の時、郵便局を通じて株式を売り、その際、元本保証はないということを顧客に徹底的に啓蒙したということだった。ドイツの場合は株価の上昇がありうまくいったが、結局は株価の動向次第ではないか。

  • 証券会社が売る投信と、銀行が売る投信では買う人の層が違うということだが、郵便局でも、また更に投資家の層が違うのではないか。

  • 民間でも郵便局のように、預金と保険を一緒に取り扱えるようにすることが必要ではないか。

以上

問い合わせ先

金融庁 総務企画局 企画課
電話 03(3506)6000 (内線 3514,3515)
本議事要旨は暫定版であるため、今後修正があり得ます。

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