日本型金融システムと行政の将来ビジョン懇話会(第6回)議事要旨

日時:平成14年3月4日(月)17時30分~19時35分

場所:金融庁9F特別会議室

  • 第6回会合においては、堺屋 太一(さかいや たいち)委員からのレポート等を基に自由討議を行った。

  • 堺屋委員によるレポート

(レポートの要旨)

  • 日本の金融は、規格大量生産型の近代工業社会の形成のために、非常に特殊な条件でつくられており、金融機関に求められた性格は「金融仲介業」であった。

(近代工業社会における金融の考え方の例)

  • 「財」の価値は中長期的に不変であり、鉄工所や綿花畑のような、「財」の生産機能を担保とする金融は安全である。

  • 土地を含む資源の価値は安定的であり、土地等の資源を担保とした金融は安全である。

  • 家計は健全な貯蓄性向を有し、家計に対し適切な金利を支払えば貯金は必ず集まり、かつ年々増加する。

  • 「知価社会」(Knowledge Based Society)は上記のような近代工業社会の前提をことごとく覆し、規格大量生産よりむしろ多様な知価創造が企業利益・経済成長の主要な源泉となる。

  • 「知価社会」においては金融には必ずリスクが伴うため、金融業は「金融仲介業」であると同時に「リスク分担業」である必要があり、また情報公開により自ら販売する金融商品がハイリスク・ハイリターンかローリスク・ローリターンかを明示するべき。

  • リスク分担機能のためには、金融任意保険・再保険証券の売買を行う市場(新証券取引所)の設立や不動産証券の市場の確立により、流動性を高めるべき。

  • ハイリスク・ハイリターン金融をSPCの設立を通じて通常金融に取り入れ、消費者金融、商工ローン、保険取引の正常化を図り、その資金は多様なボンド(社債)で調達するべき。

(レポートに対し、各委員から出された主な意見は以下のとおり)

  • 要はリスクを仕分けてリスクそのものを取引させ、再保険可能な構造をつくることが必要との認識。リスク分担については、リスクプール主体がリスクを専属的に管理し、区分経理的に行うべき。新証券取引所については、企業がリスク・ポートフォリオをつくってリスクからリターンを生み出すのが価値創造であり、その時リスクが個別化・細分化され、再構築可能になる。また、不動産の証券化についてはJ-REITができ、既に上場して取引されている。

  • まず新証券取引所をつくることが必要であり、それができればどのようなものが売買できるかは自ずと選択されてくる。不動産の証券化に関しては、今あるものは買値と売値が大きく違っていて流通性が少ない。また、大型のものは不動産所有会社が運営しているが、透明性の観点から問題がある。

  • 金融機関による情報公開が重要とのことだが、例えば、ある企業への貸付金債権を取引する場合にリスク・プレミアムの内容まで公開するというのは、当該企業への不安を掻き立てることになるのではないか。

  • 不確かな情報や噂で左右されるよりは、情報公開により内容を明確にした方が良い。確かに今にも倒れそうな会社の足は引っ張ることになるが、まだ頑張れるところは今後の方針や再建計画と合わせて公開すれば良いのではないか。国ではなく、金融機関自らが情報公開していくべき。

  • リスクプール主体を分解し、個別債権の中から自分のポートフォリオを選択できる仕組みをマーケットに与えることが必要。また、Bloombergの画面上では、社債のデフォルト・プレミアムが取引されており、債権の実際の取引をしなくとも、キャッシュフローの交換は可能となっている。

  • 現在でも取引されているとはいっても、問題はその量が少なすぎるということ。どうすれば規模を拡大していけるのか。税制によるインセンティブの付与なども一つの考え方ではないか。

  • 証券化に関するアメリカの例を見ると、最初は住宅ローンから始まり、政府の信用もついていた。そこから20~30年経って不動産の証券化が出てきたというのが実態。日本では住宅金融公庫が自分で債権を抱えてしまっていたため市場ができず、ベンチマークもできなかったが、今後ベンチマークとなるものを作っていくことが必要。その際、何らかの形で政府のサポートがある市場がないとうまくいかないのではないか。

  • 適正なリスク・リターン市場を形成していくことが求められる中で、消費者金融の分野は、大手金融機関が手を染めるべき分野ではないと言われてきたが、だんだん変わってきた。本日開業の東京三菱キャッシュワンは、東京三菱の名前を貸したジョイント・ベンチャーであるが、新しい市場を開拓し、この分野での適正なリスク・リターンを育てていくことを意図したもの。

  • 堺屋委員の言うような金融の姿になるには、個人が預金から多様な社債への投資にシフトすることが奨励されるべき。新たな市場に参入するのであれば、出資や債権債務の関係、リターンがどのように分配されるのかが明示されないと意味がないのではないか。

  • リスク・リターンが歪んでいるのは、(1)金融機関が中小企業向け融資を義務付けられたり、政府系金融機関が低利・固定で貸してくれる、(2)デフレのため、ゼロ金利下でも実質1~2%の利回りがあり、リスク商品にはお金が回らないためである。また、リスクを図る場合に安全資産がいるが、大多数の日本企業の格付けが国債に連動して下がり、安全資産がなくなっていくと、金融そのものが回らなくなる。

  • リスクフリー資産がなくなる時にどう対応するかがポイントであり、リスクフリーの資産がなくなっても構わないのではないか。格付け会社の判断と市場の判断が大きく異なることがあるが、どちらを信用して選ぶのか。

  • 消費者ローンの収益分配の話があったが、銀行による参入でそもそも収益があがるのか疑問。消費者金融の大手5社は精密なスコアリングモデルを持っており、中小は多重債務者の債務の取り合いをしている。消費者金融が25%以上の貸出金利で利益を出している中で、銀行が利率15%程度で参入するのでは、元々利益を出すのは難しいのではないか。

  • 今後の金融を考える際には、金融需要があるという前提で考えないといけない。現状を前提にすると八方塞がりになる。貸金業の貸付残高で見ると、事業者向けの方が個人向けより多く、また顧客層は年収500万円以下、40歳以下に集中している。新規事業をいかにして興していくかを考えないといけない。

  • 政策的位置づけは別として、金融面においては、中小企業か大企業かということは実際には重要な概念でなく、リスクプール主体から見て将来キャッシュフローがある限り、リスクをポートフォリオに入れることには意味がある。リスクを見分ける能力を高めていくことが必要であり、貸したくないところに貸せという時には何らかの政策的な保証(サポート)が必要。

  • 将来のキャッシュフローがどうなるのか見分ける能力を持つことは非常に重要だが、それが最近ずいぶん揺らいでいるとの印象がある。様々なタイプの中小企業があるが、ノンバンクとの取引のある中小企業については、銀行や政府系金融機関が貸してくれない、逆に言うと、ノンバンクにしか相手にされない中小企業が流れていく、という構造があることを忘れてはいけない。

  • 90年代初めにアメリカでは銀行による貸渋りが起こり、企業が潰れ、調整が行われた。最近そうしたことが言われなくなったのは、リスクテイカーのいるハイ・イールド債の市場が確立してそこに企業が逃げる余地が増えてきたということ。ベンチャーのスタートアップ時など最終的にとりきれないリスクが出てくるが、equityとdebtとの間で棲み分けをすることが必要。我が国では、debtに依存し過ぎているのではないか。

以上

問い合わせ先

金融庁 総務企画局 企画課
電話 03(3506)6000 (内線 3514,3515)
本議事要旨は暫定版であるため、今後修正があり得ます。

サイトマップ

ページの先頭に戻る