日本型金融システムと行政の将来ビジョン懇話会(第8回)議事要旨
日時:平成14年5月20日(月)16時00分~18時05分
場所:金融庁9F特別会議室
○事務局より、証券市場改革の推移について説明した後、柳澤大臣より、証券市場の現状等についての所感・問題意識について発言。
(柳澤大臣発言の概要は以下のとおり。)
現在の証券市場は、ビッグバンで期待したような成果が上がっておらず、満足できない状況。不良債権問題についても、直接金融市場をきちんと整備しなかったからだという議論がある。
最終的なリスク負担者は個人であるべきで、それが一番安定的。金融仲介機関が全部負担するのには無理がある。どのように個人へのリスク分散を実現するか。
いわゆる資産家層が、相続に伴う時価評価での有価証券の売却などにより、やせ細ってしまっているのではないか。時々の株価変動には関係ないような長期の保有層を育てないと、最終負担者の基盤を固めることは実現できないのではないか。
ペイオフ解禁は直接金融にとってもチャンスだが、証券業界が生かしきっていない。国民には様々な層があり、例えば証券会社に行く人、銀行に行く人、郵便局に行く人などがあるが、どのようにしたら証券会社が顧客層を拡大できるのか。証券会社による資産管理・運用型ビジネスモデルもうまくいっていないように見える。証券会社のあり方をどう考えるか。
香港やシンガポールのマーケットでは、激しい競争をしている。特にオプション取引など、日本のように上場基準が厳格でなく、マーケットの活力を考えて頻繁に出入りしている。
資本市場におけるリスク、特に株式のリスクは何なのか。なぜ株式は短期であれほど大幅に価格変動しなければならないのか、また、その必要性はあるのか。マーケットを「賭場」とするような発言も聞くが、こうした状況を前提として安定株主が育てられるのか。
(各委員から出された主な意見は以下のとおり)
証券会社に対する批判にはやや酷な面があるのではないか。今の日本には特殊な事情があり、バブル後の株価の大幅下落で、庶民は大きく損をした。日本経済の下降トレンドの中で、証券市場活性化に向けてハンディキャップを背負っている状況。アメリカでは、一般市民が株の議論を日常的にしているが、わが国でも教育・意識の面から堀り起こさねばならない。証券市場活性化のための教科書的な答えとしては、(1)証券市場の信頼回復、そのための監視機能の強化、(2)当事者(証券会社、取引所、発行体等)の自覚、(3)証券税制の思い切った見直しが必要。
ドイツで市場改革がうまくいった理由は、(1)民営化商品によって個人が儲けたこと、(2)ユニバーサルバンクで個人が銀行に行くのと同じ様に証券会社に行けたこと、(3)景気が非常に良かったことの3つであるが、日本はすべてがうまくいかない状況。日本がダメなら海外で投資すればよいが、海外の情報を持っていない。証券会社も、各国の情報に長けた人材教育の必要がある。また、取引手数料に関し、固定手数料では個人に還元する意識にはならないため、固定の部分を薄くしていくべき。
貸出市場も、証券市場もリスク・リターンの関係が適正に成立していない。その適正化や市場型間接金融の育成が大事であると同時に、市場原理に合わない運用・調達機会を提供するような公的金融の見直し・縮小が必要。また、個人投資家拡大のためには、間接金融と直接金融を対立的・代替的に捉えるのではなく、多様な商品を、個人のニーズに合わせて販売できる環境を整備すべき。例えば、親子会社間の非公開情報の共有制限(ファイアウォール)が、複合商品の提供や証券化商品を拡大の障害になっているのではないか。
個人投資家が増えない理由の1つに、小株主と大株主がイコールフッティングになっていないという問題がある。パフォーマンスではなく系列に基づいて取引を行い、例えば、利益が出ても配当に回さず、大株主から送り込まれた役員やOBに給料として支払っている。アメリカでは利益相反として個人の責任が厳しく追及されるが、日本の商法はエンフォースメントが甘い。
株式自体リスクが金融商品の中で高いのは事実であり、いかにリスクを最小化するかが重要。リスクの高いところに個人の資力で入っていけるのは一部の者に限定されるため、やはり機関化を通じてプールした資金の中から市場に入っていくというのが長期的・安定的な姿。
個人の金融資産1,400兆円がリスクテイク能力として期待されているが、住宅等の実物資産まで含めて考えると、金融資産の中でのリスクテイク余力は弱くなり、相対的に安全資産に向かうことになる。また、ファンダメンタル面では株価は企業収益・マネーサプライに大きく左右されるので、それらが伸びない現状では株価はマクロ的にはあまり上がらない。
日本では短期保有、アメリカでは長期保有と二分法で考えるのは危険。アメリカでは個人が日常的にリスクをマネージメントしようとする姿勢があり、そこに手間暇をかけられるかどうかの違いではないか。日本ではそこに時間を割くだけのインフラがなく、証券会社に頼って失敗する。また、日本人よりアメリカ人の方がリスクテイクするという二分法も危険。アメリカでも、mutual fundが売れた背景には、銀行で売られ預金保険の対象となると思い込まれていたことがある。
80年代初めからみると、定期預金が一番リターンがよく、株が悪かった。また、証券会社というチャネルへの信頼感が低かった。外資系証券会社は、自国内では“get rich slowly”との標語で、ゆっくりと皆で金持ちになろうというのがリテールの隅々まで行き渡っている。これからの日本には、銀行チャネルに期待を持っている。また、社会人の啓蒙は進んでいるが、子供に対しても、総合学習の時間等を利用した投資教育を期待する。
配当をきちんと行い、income gainを見せれば投資家は増えていくはずだが、従業員主権から抜け切れていない。経営に対するガバナンスの問題はいつも不透明であり、何が株主として要求できるのか分からない。長期的に配当が低ければ、結果としてcapital gainを狙わざるを得なくなり、そうすると投資を控えるようになるという自然な構造。また、アナリストについては、会社から独立しておらず、利益相反の問題がある。
これまでの間接金融偏重からバランスをとるには、直接金融を積極的に育てる方向へシフトするしかなく、それを税制で示すべき。市場のインフラであり最大のコストである税制を何とかすることが必要であり、貯蓄優遇税制から証券投資優遇税制へ簡素な形で明確に示すべき。
今の証券市場は、資金・資源配分機能も果たさず、弱った会社を市場が株価で叩いて退出させるというチェック機能だけを過剰に果たしている。これでは一般国民を呼び込むことはできない。また、株は汚いものとの意識を変えることも必要であり、まずは政治家が率先して取引するべき。
証券市場というと株式に目が行くが、必要なのは、株に限らずいわゆる証券市場、多数の間を転々流通する資産の市場をどうするかということ。資産の将来見通しがきちんと反映される仕組みにする必要がある。また、証券化商品を正面から取り上げるべきだが、なかなかそうなっていない。
日本の金融業は、顧客ニーズを反映するために、例えば自動車や家電などの産業と比較できるだけのマーケティングをしているのか。知的投資を十分にしていないのではないか。ようやく最近、投資家教育に力を入れているが、例えば、アメリカのSECやイギリスのFSAのホームページと金融庁のホームページを比較してみてほしい。
配当政策については、全体として、株主重視への転換の過渡期にある。日本独特の安定配当が感覚を鈍くしているが、儲けたら配当を高くし、赤字ならゼロ配当というように、利益に応じた対応をしていくべき。これから変わっていくのではないか。
リスク・リターンの問題は金融システム全体との兼ね合いで議論が必要であり、これまでは間接金融から借りるのがベストの体系になっていた。この4月から預金金利が引き下げられ、変化は今始まったばかり。ビッグバン以降、景気が悪いこと、金融システムが間接金融中心であることといった理由で個人投資家の裾野が拡がっていないが、証券市場本来の議論として、例えば、投資家保護、市場の効率性を高める改革を地道にやっていくことが必要。
アメリカでは個人にとってのマーケットの入口は投信であり、そこで証券市場に馴染んでいく。個別株にいきなりというのは稀。大衆にアピールすべき投信が日本でうまくいっていないのは、手数料が高く、また、証券子会社が親会社の収益をあげるため不必要な回転売買をしていること。また、日本には、これまで、金持ちのニーズにあった商品を提供し、金持ちを大切にしようという意識がなかったのではないか。
○今後の将来ビジョンの取りまとめ方等について自由討議。
(各委員から出された主な意見は以下のとおり)
民間でできることは民間の競争に任せておけばいいのではないか。例えばビジネスモデルの転換は官が旗を振ってやるものではない。それができるようになったのがビッグバンの成果。行政としてのポリシーや制度設計に重点をおくべきではないか。
日本経済が5~10年後こういう姿になっているためには金融市場としてこういった土壌が必要というような、5~10年後の着地点を描いておかなければビジョンに繋がらないのではないか。
なるべくレポートや委員の発言内容を削らない方がいい。ビジネスモデル転換についても、報告書の中にこういう例もある、としておけば参考文献として役に立つ。
不良債権問題等の当面の問題を乗り切らないと将来のビジョンはないのではないか。学界の一部には銀行の国有化や、自己資本の計算方法等についての非常に厳しい意見もある。こうしたものに一定の答えを与えないと先のことを書いても受け入れられず、避けては通れないのではないか。
逆に、将来のビジョンがないから、これまでずるずると当面の対応でも手をこまねいていた部分があるのではないか。
日米官民会議で不良債権の問題が議題に上ったが銀行の参加がなかったということにも見られるように、官民のコミュニケーションが希薄化しており、そうした点も盛り込んではどうか。
官庁自身の国際競争力の問題もある。アジアでは欧米の金融当局が欧米のルールを教えている。日本もそのようなことを考えてみてはどうか。
(1)報告書の性格としては、金融庁が是認するものか、委員の意見を取りまとめただけで特に責任は持たないのか。(2)ビジョンとは、将来の予想なのか、こうあるべきという政策提言なのか。
基本的には委員の意見を大臣へのメッセージとして整理するものであり、また、将来の予想ではなく、あるべき姿を示すものになるのではないか。全体としてある種の筋は必要だが、枝分かれして出てくるものはそれとして整理し、併記するような形になっても構わないのではないか。
以上
問い合わせ先
金融庁 総務企画局 企画課
電話 03(3506)6000 (内線 3514,3515)
本議事要旨は暫定版であるため、今後修正があり得ます。