平成12年11月22日
金融庁

金融税制に関する研究会(第2回)の議事要旨について

金融税制に関する研究会(第2回)(平成12年11月6日(月)開催)の議事要旨は、別紙のとおり。

なお、第3回は、平成13年1月22日(月)に開催する予定。

お問い合わせ先

金融庁 Tel:03-3506-6000(代表)
総務企画部政策課 濱田・斎藤(内線3181)
本議事要旨は暫定版であるため、今後修正がありえます。


(別紙)

金融税制に関する研究会(第2回)議事要旨

1. 日時:

平成12年11月6日(月) 10時00分~12時00分

2. 場所:

中央合同庁舎4号館金融庁会議室

3. 議事要旨

前回に引続き、委員より金融税制の中長期的課題について発表がなされ、次いで自由討議を行った。

委員より出された意見の概要は以下のとおり。

  • 日本において高齢化が深刻化することを考えると、金融税制を含めた抜本的な税制改革が必要である。労働参加率が低下する中で生活水準を守るためには、税制の役割を所得の再配分から生産要素の供給力及び生産性の向上に寄与するよう再設計すべきではないか。

  • 具体的には、労働力の供給を促すには、金融所得を含む所得全体への税率を可能な限り引き下げることが必要である。労働所得と金融所得を一律総合課税し、フラットタックス化してはどうか。

  • リスク選好を高め、資本の供給を促すには、金融所得を確定受取り(債券や預金の利子など)と未確定受取り(配当などリスク報酬的なもの)とに分類し、前者を所得とする一方、後者を無税化してはどうか。

  • 実際には、確定受取りと未確定受取りの所得分類は困難ではないか。例えば、配当は事実上確定受取りとなっているのではないか。

  • 日本では、個人の安全資産比率が戦前でも4割、現在は6割程度と高い。一方、米国では、過去高くても2割であり、現在は15~16%に過ぎない。資金を最適配分するには、キャピタルゲインは非課税とすべきではないか。

  • 納税の順法性をチェックする公務員が削減される中、国民の課税に対する公平感や信頼性を損なわないためには、ITを活用して簡素な税制を構築する必要がある。特に、取引が大量で加速化が進む金融市場においては、納税者番号制が有用と考えられる。ただし、その前提として、最大の課題であるプライバシー保護を図るため、個人情報保護基本法などによる税制情報制度の密閉化が必要である。

  • 株主利益の増大に寄与する自己株式消却を活性化するために、自己株式消却時のみなし配当課税の課税停止措置の恒久化が必要である。

  • 印紙税について、課税文書と不課税文書の区別の不明確さや電子商取引の普及によるぺーパレス化などの課題を踏まえ、廃止を念頭に置いた大胆な見直しが必要である。

  • SPC、投資法人等は、企業の保有資産の有効活用、資金調達・運用手段の多様化に資する導管体である。現状の低金利下では税負担が重いため、例えば登録免許税は一定額あるいは段階的な賦課とした方がよいのではないか。

  • 配当の二重課税の排除が必要である。また、負債利子控除について、持株会社等からの借入金利子が特定利子に含まれないため、控除負債利子額が大きくなる場合があり、問題ではないか。

  • 企業組織再編における税の中立性を確保する観点から、連結納税制度を平成14年度からなど早期に導入すべきである。導入に当たっては、効果的な連結範囲、連結手法、簡便な申告手続等に留意する必要がある。

  • 株式市場の民主化の観点から、民間企業が創造する国富を大多数の国民が享受するメカニズムを強化し、かつネガティブにみられがちな株式投資の位置付けを再認識するため、株式の長期保有に対する優遇税制をインセンティブとして導入してはどうか。

  • スピーディーな資源配分のためには、人、物、金の流動性が必要である。資金は、リスク・リターンの明確化、ベンチマークの確立によって流れるべきところに流れると考えられる。例えば、事業法人に対する公社債利子源泉を免除すれば、課税玉問題の解消に伴って社債の流動性が増し、ひいては低格付社債等の発行市場も活発化するのではないか。

  • 高齢化の進行に鑑みれば、現状以上にリスクキャピタルが供給されやすい環境を整えるべく、家計がリスクを負担し易い仕組みを作る必要がある。例えば、エンジェル税制(スモールビジネス支援)について、米国では長期保有株式の譲渡益の50%が非課税であるほか、譲渡損は5万ドルまでの損金算入が可能である。また、短期保有であっても、60日以内に他のベンチャー株を購入した場合には課税の繰延べが可能である。

  • グローバルベースの連結経営強化の観点から、連結納税制度、持株会社税制、タックスヘイブン税制等を十分検討する必要がある。例えば、先進国では、海外関係会社宛ローンに係る利子源泉税を課さないケースもあり、二国間でもよいので、利子源泉税の廃止を実施してはどうか。

  • 経済のストック化や資産間での流動性向上に鑑み、資金運用ポートフォリオの対象である金融資産と不動産の横断的な税体系のあり方を考えてはどうか。

  • 株式譲渡益に係る源泉分離課税の廃止が個人投資家の市場離れを引き起こすとの指摘があるが、それは経過的な現象であり、株式保有の間接化に伴って趨勢的にみられることである。個人投資家が株価を支えているという証左はない。そもそも、これまで、証券業界が個人投資家の市場離れ対策に本格的に取り組んできたとは思えない。

  • リスクキャピタルに不利がないような、あるいはインセンティブを与える税制が必要である。

  • リスクキャピタルについて、低所得者の参加が少なく、高所得者の参加が多いと言われるが、一方で、株式累積投資制度、ミニ株等により投資をする人が増加しており、投資者の裾野は拡大している。

  • 株式譲渡益課税への選択制導入にあたり、その簡便さ等から源泉分離課税が支配的になることは当初から予想されていたはずである。源泉分離課税が浸透しているなかで申告分離課税にシフトするに際して、市場に周知・理解させるべく、経過措置と経過期間を延長することが望ましい。

  • 預貯金、株式など各主体が選択するポートフォリオ構成要素が課税上異なる扱いを受けるのは、最適選択を歪ませるため、金融所得は原則合算するのが望ましい。

  • 株式譲渡益は総合課税か少なくとも高率の申告分離課税が望ましいと考えられている背景には、株式流通市場が富裕層による投機的行為(博打的性格)の場との認識があると思われるが、流通市場を機能させるためには投機的行為が不可欠である。そもそも、富裕層は、相対的に危険回避逓増であり、リスク資産の絶対額は大きいものののその構成比は低下すると言われている。一般個人が預貯金を主に保有し、富裕層が主に株式を保有するという典型化は誤りである。

  • 株式譲渡益の20%源泉分離課税が結果的に富裕層を優遇しているとの指摘は正当であり、源泉分離課税を廃止することは基本的に問題はない。一方、株式投資と預貯金ではリスク負担に違いがあるのに、金利所得のみ源泉分離を維持することは直接金融拡大の動きに逆行するとも考えられる。従って、源泉分離を一部で廃止するよりも、金融所得に包括的な税制を導入することが望ましい。

  • 株式への源泉分離課税が富裕層に対して優遇になっていたか否かは、未だ実証はされていない。

  • 海外市場や他の金融商品と不整合な金融課税は、市場の流動性を奪い、価格発見機能を低下させる。課税次第で市場が育成されるか否かが大きく左右される。また、証券発行市場を育成するためには流通市場の活性化が不可欠であり、その流通市場は課税に感応的である。このため、経済・市場環境によって、課税も弾力的に適応していく必要があるのではないか。

  • 公平性の観点から、金融所得と勤労所得の総合課税が望ましいとの原則論が強く見られるが、両者の性格は大きく異なるため、総合課税化はむしろ不公平税制となる可能性がある。金融所得は、勤労所得と分離して、別枠で包括的に課税することが望ましい。その際、譲渡益と譲渡損の両面で配慮が必要であり、特にキャピタルロスは一定限度を設けて繰越し可能とするべきである。なお、公平性の観点からは、複数税率にすることも考えられる。

  • 勤労所得と金融所得、あるいは勤労所得と資産性所得の区分は難しい問題である。例えば、ストック・オプションは勤労所得と金融所得の何れに区別するかなど、所得分類の境目が曖昧になってきている。

  • 金融商品に関する従来の所得課税は、商品毎、所得分類毎にバラバラである。また、土地税制、株式税制は、その時点での政治状況を映じて決定されており、方向感も理屈も全くない。また、金融技術革新の結果、キャッシュフローの変換による商品や所得分類の変更が容易になっている。この結果、所得の捕捉、税の執行が困難化しており、唯一それなりに横断的に対応しているのが、源泉分離所得課税ではないか。

  • 日本の金融税制において、その基本となる理念が全く存在しないため、税の作り直しが必要である。所得分類毎に異なる課税を行なう従来の考え方を変更し、「金融所得」とでも呼ぶべき類型を新設し、横断的に課税を行ってはどうか。原資産の分類に応じた課税を廃止し、仕組みの経済実体に応じた課税に作りかえるべきと考えられる。

  • 具体的には、現在の利子所得への源泉分離所得課税(および金融類似商品課税)は若干整理した上で、「預貯金類似商品課税」として維持する。リスクを伴う金融商品については、現行税制では整理がついていないが、少なくとも預貯金とリスクを伴う金融商品は区別することが必要ではないか。ただし、金融税制が税制全般を覆すことは適切ではなく、現在の税制全体の基本を抜本的に変更することまで検討する必要はないと考えられる。

  • 従来、金融商品は、リスクを伴うものであっても、預貯金に合わせた商品設計がなされてきた。しかしながら、日本版Big Bangにより、「金融商品の中心はリスクを伴う商品」というパラダイムシフトが起きた。金融税制についても、リスクを伴う金融商品からの所得に対する総合課税(ポイントは損益通算を認めること)を本則とし、特則として預貯金類似商品への源泉分離課税を設けるような抜本的な見直しを行なうべきではないか。

  • 金融取引に関する課税問題を議論する際には、金融取引を利用した課税逃れ(タックス・シェルター)について検討することが必須である。米国等の例をみても、課税逃れの蔓延に対しては、立法上、判例上で厳格な対応がなされている。日本においても裁判で問題となるケースが出現しており、課税の中立性や消費者の保護の観点から、企業、金融機関、課税庁などの対応をしっかり検討するべきである。

  • 効率性の観点からみた場合、資本所得に対する課税と賃金所得に対する課税とでは個人の行動に与える影響が異なり、ひいては経済全体に与える影響も異なるので、資本所得と賃金所得は合算して総合課税すべきではない。例えば、賃金所得課税に伴う超過負担が極端に小さければ、資本所得税を廃止してもよい(逆のケースもあり得る)。

  • 危険資産のリターンに対する課税引上げは、収益への期待値を引下げると同時に分散も小さくする効果があるため、後者の効果が充分に大きければ危険資産への投資が増加すると考えられる。なお、実証研究では、税率引上げが投資の増減にどのように影響するのかについて明確な結論は得られていない。

  • 課税における超過負担を最小限にするには、各財の需要の価格弾力性に応じて税率を変える(具体的には、需要の価格弾力性が小さい財には重く、弾力性が大きい財には軽く課税する)ことが望ましいと考えられる(最適課税に関するRamseyルール)。従って、様々な金融商品のリターンに対する課税は非中立的であるべきという結論となるが、問題はどの程度の非中立性が望ましいかということである。

以上

サイトマップ

ページの先頭に戻る