「損害保険業の構造的課題と競争のあり方に関する有識者会議」(第3回)議事録

日時:令和6年5月24日(金曜日)10時00分~12時00分
 
【洲崎座長】  それでは時間になりましたので、ただいまより、第3回損害保険業の構造的課題と競争のあり方に関する有識者会議を開催いたします。皆様方には、お忙しいところを御参加いただきまして、誠にありがとうございます。
 
 本日の会議は、滝沢メンバーにおかれましては、御都合の関係からオンラインで御出席をいただいております。
 
 また、前回までと同様に、本日の模様もウェブ上でライブ中継をさせていただいております。議事録は、通常どおり作成の上、金融庁のホームページにて後日公開させていただく予定です。
 
 議事に入ります前に、今回ゲストとして、慶應義塾大学商学部教授の柳瀬様に御参加いただいておりますので、御案内いたします。
 
 それでは、議事を進めさせていただきます。本日は、第1回で御議論いただいた事項のうち、保険料調整行為事案で認められた課題を中心に御議論をお願いしたいと思います。
 
 それでは、報道の方々におかれましてはここまでとさせていただきたいと思います。御退室いただきますようお願いいたします。
 
(報道関係者退室)
 
【洲崎座長】  では、議事を進めさせていただきます。
 
 まず本日、事務局において、第1回の議論を踏まえ、保険料調整行為事案で認められた課題等について御説明いただきます。その後で、本日はお二方からお話を伺いたいと思います。まず柳瀬様から、日本企業の保険リスクマネジメントに関する実態調査の概要や分析結果についてお話を承ります。続いて増山メンバーから、企業における保険のリスクマネジメントについて、御経験に基づいたお話を伺います。その後、メンバーの皆様方から御意見等をいただきたいと思います。
 
 それでは、まず事務局からの説明をお願いいたします。
 
【三浦課長】  保険課長の三浦でございます。それでは、資料1、事務局説明資料が投影されていると思いますが、そちらに基づいて御説明させていただきます。
 
 まず、スライド2の相関図のページを御覧ください。今回の保険料調整行為事案も、前回御議論いただいた保険金不正請求事案と同様、複数の要因が関連して起こったものと認識しているところ、それを整理したものがこの図になります。
 
 まずは市場環境の要因です。図の右上の1番にもあるとおり、共同保険のビジネス慣行として、幹事会社の保険料を基準として共同保険が組成される慣行があり、その場合、例えば最も安い価格が提示されれば、そこに全体が合わさっていくというような傾向があり、そうならないために保険料を事前に調整することが有効であるといった、独占禁止法抵触リスクが発現しやすい状況になります。
 
 また、特に企業保険分野においては大手4社で大半のシェアが占められており、それぞれの担当者間で接触機会も多かったため、保険料を調整しやすい状況にあったと考えています。さらには政策保有株式や便宜供与の実績といった保険以外の要素が共同保険の幹事やシェアの決定に影響を及ぼしていたということもあります。こうした市場環境そのものが、価格を含めた保険の質で勝負するといった適正な競争に対する意欲の減退につながっていったものと考えております。
 
 次に、損害保険会社の状況になります。左の灰色の箱になります。自然災害の頻発・激甚化により、火災保険で赤字が常態化している中、営業部門に強いプレッシャーがかかっていたものと考えています。
 
 2番に記載しておりますとおり、各社がボトムライン重視にかじを切る中、トップラインの維持を求められ、企業との交渉負担が過大になっていたこと、また、新規契約の割合が小さく、更改契約を落としにくい状況下、営業部門が幹事やシェアを維持するため、リスクに応じた適正な保険料を提示することが困難になっていたこと、さらには、従業員や代理店における独占禁止法の知識不足、第2線、第3線も牽制機能を発揮できていなかったということから、先ほどの市場環境要因と併せて、営業部門に価格調整行為へのインセンティブが生じてきたものと見ています。
 
 次に、右のオレンジの箱、企業の状況についてです。企業保険契約の代理・媒介は、当該企業と密接な人的・資本的関係を有する、いわゆる企業内代理店が行うケースが多いのですが、この企業内代理店は、企業グループの一員でありながら、損害保険会社の代理店でもあるという、双方代理の構造にあり、位置づけが不明確なところがあります。
 
 こうしたことから、企業内代理店から保険条件に関する要請を保険会社が受けた際など、この要請が顧客企業の意向を踏まえたものかどうか明らかでないまま、顧客企業の意向であると保険会社側が認識してしまう場合があったこと、また、こうしたやり取りが、独占禁止法違反、または同法の趣旨に照らして不適切な行為であるという認識が希薄となっていた場合があったことが認められています。これらの要素が企業保険市場構造のゆがみをもたらし、保険料調整にもつながっていったものと認識しています。
 
 それでは、次のスライド3は、今の御説明のとおりなので省略させていただいて、スライド4の企業保険分野における適正な競争環境、御議論いただきたい事項に移ります。
 
 まず、1つ目は共同保険のビジネス慣行です。現在の共同保険のビジネス慣行における、共同保険の組成前に営業担当者間で様々な情報共有を行って、また、保険料については基本的に安い保険料を提示した幹事社の水準に合わせるという特性について、どのように考えるか。こうした慣行を見直す場合には、どのような共同保険の組成の仕組みが望ましいと考えられるかというところです。
 
 事例として左側に、銀行を参考したシンジケートローン方式、右側に、海外でよく行われるレイヤー方式というようなものを載せてございます。個々の仕組みについては説明を割愛いたします。
 
 次に、政策保有株式の縮減に関してですが、損害保険会社各社の業務改善計画のフォローアップを行うところ、その際に留意すべき事項はあるかという点でございます。

 最後に便宜供与についてです。損害保険会社から顧客企業グループや保険代理店への便宜供与については、前回の会議において、防止すべき便宜供与に関する基本的な考え方や業界における取組が議論されたところでございます。
 
 具体的には、明示的に、または実質的に、自社の保険商品の優先的な取扱いを誘引するもの、特にニギリやノルマについては、少なくとも防止すべきではないかというような議論が行われました。今般の保険料調整事案を踏まえて、企業保険分野における適正な競争関係を確保する観点から、追加的に留意すべき点があるかというような点でございます。
 
 次のページ、スライド5の内容は先ほどの相関図の中で御説明したものですので、スライド6に移ります。こちらは適正な営業推進態勢及び保険引受管理態勢等、つまり損保会社が持つべき態勢面を中心に御議論いただきたい事項をまとめております。
 
 まず1つ、経営陣が営業担当者に対し、ボトムラインの改善とトップラインの維持の両立を求めることについて、どのように考えるか。
 
 2つ目が、営業担当者がこうした独占禁止法抵触リスクを低減しつつ、適切な企業保険を提供していくために、どのような評価体系が望ましいかという点。特にコンプライアンス上、不適切なインセンティブを与えないようにするため、どのような点を考慮すべきと考えられるかということでございます。
 
 3つ目は、自然災害の頻発・激甚化等により、火災保険の赤字が常態化している、営業部門におけるプレッシャーが高まる状況であります。こうした中であっても、企業保険分野においてリスクに応じた適切な保険料を提示するためには、保険会社における保険引受管理態勢を一層強化していく必要があると考えておりますが、どのような方策が考えられるかというものでございます。
 
 最後に4つ目が、損害保険会社や保険代理店が、独占禁止法等を遵守するための適切な法令等遵守態勢をどのように確立するかという点でございます。今業界内でも様々な取組みを進めていますが、特にその実効性を確保し、形骸化させないために、どのような点を考慮すべきと考えるかというところでございます。
 
 次に、スライド7をお願いします。こちらは企業内代理店をめぐる論点になります。上に書いてありますとおり、企業内代理店は、企業と密接な人的・資本的関係を有する代理店であり、大企業を中心とする多くの企業において設置されていると見られていますが、厳密な定義がなく、その分類や整理がないことから、実態が不明確な面もございます。

 保険料調整行為における企業内代理店の問題については、先ほどの相関図のところで説明させていただいたため、ここでは割愛します。
 
 次に、少し先に進んでいただいて、スライド10をお願いします。こちらのスライドでは、今般の保険料調整事案にとどまらず、様々な有識者等からの御指摘も踏まえ、現時点で私どもが認識している企業内代理店をめぐる課題について整理しています。
 
 左上の課題①については、これまで説明したとおり、企業内代理店の双方代理の構造、不明確な位置づけが、独占禁止法抵触リスクを高めてしまっている、そうしたおそれがあるのではないかというものでございます。
 
 左下、課題②についてですけれども、これは損害保険会社と企業内代理店との関係によるものです。すなわち企業内代理店は、人的・資本的関係を見れば企業側の立場の色彩が強いため、保険会社にとっては顧客であって、本来代理店に対して行うべき教育や指導・管理というものが、非常に困難またはできていないことや、損害保険会社が当該代理店の業務を代行するなどの便宜供与を行う場合があるほか、所属するグループ企業の従業員向けに十分な説明をせずとも保険販売を行うことが実質的に許容されていることで、企業内代理店の実務能力の向上が図られていないおそれがある、といった論点でございます。
 
 右上、課題③は、いわゆる特定契約比率規制に関するものでございます。この規制は、保険料の実質的な値引き等を防止し、保険代理店としての自立を促す観点から、親会社等との契約割合を一定程度に抑制するものですが、この規制の内容が実態と合っておらず形骸化しているのではないか、その結果、代理店としての自立が果たされていないのではないかというものです。詳細についてはまた後で触れます。
 
 右下、課題④は、これまでの課題①から③を全て受けたものになりますが、企業内代理店はこれまで述べたとおり、他の代理店とは異なる位置づけにあるため、実務能力に乏しくても、企業グループ内で保険募集を行ってさえいれば、保険代理店としての存続が可能になっているのではないかとの指摘があります。
 
 本来企業内代理店は、企業グループのリスクマネジメントを担う部門となるか、または企業グループから自立して、保険仲立人や他の保険代理店等と同様の立場で公正な競争を行うべきではないのかといった指摘もございます。
 
 このように企業内代理店については多くの課題がありますが、一方で、1ページ戻っていただいて、スライド9にありますとおり、積極的に実務能力の向上を図り、自立に向けた取組を進めている企業内代理店も一定程度存在しますし、実際に企業グループ内全体のリスクマネジメントに貢献している企業内代理店の例も聞いているところです。
 
 また企業にとっても、企業内代理店は契約者である企業グループのニーズをよく理解しているほか、例えば賠償責任保険のような企業グループの役員等の個人情報の取扱いが求められる場面においては、企業内代理店のほうが活用しやすいといった場合もあります。
 
 こうした様々な論点を踏まえつつ、次のスライド11で、企業内代理店について御議論をいただきたい事項についてまとめておりますので、そちらについて説明いたします。
 
 なお、先ほど飛ばしてしまいましたスライド8は、ただいま説明したことの詳細が記載されていますので、適宜御覧いただければ幸いです。
 
 それでは、スライド11をお願いします。企業内代理店をめぐる構造についての御議論いただきたい事項になります。〔1〕から〔4〕まで4つ記載してございます。
 
 〔1〕が独占禁止法に抵触するリスクの低減ということで、損害保険会社は、今般の事案を踏まえ、独占禁止法に抵触するリスクを低減する観点から、企業内代理店の意向を顧客企業の意向と誤認しないよう、企業内代理店の保険代理店としての立場を明確化した上で、企業内代理店を含む保険代理店を介した場合の情報共有に関するルール等を策定し、企業内代理店等へ周知・徹底することとしています。そのほか、損害保険会社または企業内代理店に対し、追加的に留意すべき点はあるかという点でございます。
 
 〔2〕は、企業内代理店における実務能力の向上についてです。前回の大規模乗合代理店に対する監督の問題意識と同様に、例えば第三者評価制度の運用や募集人の試験制度の改善等を通じて、企業内代理店の実務能力を向上させることが考えられるか。
 
 更に、これはまた前回の会議において、損害保険会社の役職員による保険代理店業務の代行を含め、防止すべき便宜供与の考え方等が議論されたところですが、企業内代理店の実務能力の向上の観点から、追加的に留意すべき点はあるかというものでございます。
 
 〔3〕が、保険代理店としての自立の促進、特定契約比率についてです。特定契約比率は、先ほどの説明及びスライド9の参考部分にありますとおり、親会社等の特定者との契約、いわゆる特定契約の保険料の合計が全体の50%を上回る場合は問題があるものと位置づけ、30%を超えた場合は損害保険会社に対してその割合を改善するよう、損害保険代理店に指導することを求めるものです。
 
 他方、この規制において、1996年3月31日以前に登録した代理店については、当分の間、対象保険契約が火災・自動車・傷害保険契約に限定されており、賠償責任保険等の新種保険が含まれないといった経過措置が設けられています。また、この規制の対象となる特定者は、損害保険代理店への出資比率が30%を超えるものや、代理店と役職員の兼務関係がある法人等に限られており、例えば親の親会社や兼務関係がない兄弟会社などは対象から除かれています。
 
 これらを踏まえ、近年の新種保険の需要増加などを踏まえ、一定の準備期間を設けた上で、こうした経過措置を撤廃することが考えられるかどうかという点、また、特定者の範囲をグループ全体に広げるなど、特定者の対象範囲を改めて検討することが考えられるかといった論点を示してございます。
 
 最後に、〔4〕のその他です。企業保険分野における適切な競争環境を実現するためには、企業内代理店の在り方を検討するとともに、日本企業のリスクマネジメントに対する意識向上や保険仲立人の活用促進も併せて検討することが重要であると考えておりますが、どのような具体的な対応が考えられるかというようなものでございます。
 
 事務局からの説明は以上です。
 
【洲崎座長】  御説明どうもありがとうございました。
 
 それでは続きまして、柳瀬様、お願いいたします。
 
【柳瀬教授】  それでは、私のほうから、御依頼いただきましたテーマについて、15分程度でお話しさせていただきます。慶應義塾大学の柳瀬と申します。本日はよろしくお願いいたします。
 
 今、三浦課長からの最後のその他、4のところ、ここに関係する情報提供かなというふうに思っております。本日は、私の研究室が神戸大学の山﨑研究室と協力しながら、2021年から継続的に毎年実施している調査結果の最新版の一部を御紹介させていただきたいと思います。
 
 初めに、なぜこの調査をしているのかの背景について、簡単にシェアさせていただきたいと思います。すなわち、企業保険の需要サイドにある事業会社を取り巻く環境変化、これについて3つの視点から端的にまとめさせていただきたいと思います。
 
 1つ目はこちらのページですけれども、所有構造の変化です。我が国では、戦前は財閥、戦後はメインバンクや安定株主といったものを中核とする、言わば強力な企業系列や株式持合い等によって、組織的な取引関係が形成されてきたと言われています。これにより企業グループ内の企業が、言わば互いに助け合うということによって、グループ全体的な長期安定的な成長を可能にしたと言われています。
 
 このように戦後日本の経済社会においては、言わば自由な市場経済という観点から、やや特殊とも言える独自の制度や慣行、いわゆる日本的経営と言ったりするものかもしれませんが、そういったものが存在し、それは個々の企業が直面する様々なエクスポージャー、リスクを軽減するための「暗黙のセーフティーネット」のような役割を果たしてきた可能性もあります。
 
 そしてそのような経営環境下では、個々の企業、そのグループの中のそれぞれの企業のリスク対応は,えてして,「受け身な対応」となります。そうであるならば,企業の保険購買の意思決定に関しても、保険業界との要は長期安定的な関係を重視するほうが、むしろ企業にとって、全体としても保険購買の意思決定に関しては合理的な判断であったという可能性すらあります。
 
 しかしながら、バブル崩壊後、1990年代中葉以降、日本企業の所有構造は大きく変化しています。左のグラフは、日本の上場企業の株主構成に関する長期トレンドを示したものです。こちらのグラフからもお分かりのとおり、バブル崩壊後、国内の伝統的な金融機関、銀行や保険会社ですが、この影響力が大きく低下するとともに、その「受け皿」として外国人投資家や機関投資家の存在感が急速に増しております。
 
 これは従来からの「暗黙のセーフティーネット」の機能の低下を示唆するものかもしれず、こうした変化が進むにつれて、個々の企業にはより主体的な能動的なリスク対応が求められることが予想されます。そうであるならば、企業保険もまた全社的な意思決定の一環として位置づけられるはずです。
 
 2つ目は日本企業のグローバル化の加速です。左のグラフを御覧ください。こちらは上場企業の海外売上高比率の推移を私のほうで計算したものです。これによれば、過去20年間で海外売上高比率が2割から4割を超える水準にまで、平均値として大幅に増加していることが分かります。特に製造業に絞ると、直近では5割に迫る勢いです。このように、たった20年間というかなり短い期間で、製造業を中心にグローバル化が急速に進展している背景には、恐らくですけれども、海外M&Aをはじめとする戦略的な海外オペレーションの急拡大が想像されます。
 
 そうであるならば、全社的なリスク管理、特に保険購買の一元管理体制の重要性が顕在化する土壌が整いつつあるのではないかということが予想されます。例えば,日本企業が海外企業を買収したときに、被買収会社が仮に日本よりも高度なリスク管理体制を敷いていた場合、どちらのリスク管理体制にそのレベル合わせるのかという問題が生じます。当然,レベルの高いほうに合わせることの合理性がありますので、国内の本社グループにも「見える形」で全社的なリスク管理、特に保険購買の一元管理体制の重要性が認識される可能性があります。
 
 3つ目はコーポレートガバナンス改革と投資家への説明責任の拡大です。御承知のとおり、2010年代を通じて一連のガバナンス改革が実施されてきたことは特筆に値します。またそれに平仄を合わせるように、企業と投資家の対話の手段としてのディスクロージャーの拡大も進められています。言うまでもなく、広くリスク関連の情報開示というものは、日本企業のリスクマネジメントにも一定の影響を及ぼしてきた可能性、あるいは及ぼす可能性がございます。
 
 以上3つの視点から、日本企業の保険リスクマネジメントを取り巻く環境というものは変化しているように見えるわけですけれども、一体それが現場のオペレーションにどの程度の影響を及ぼしているのかについては,よく分かっていません。
 
 そこで私の研究室では、日本企業のリスクマネジャー、特に保険購買管理を管掌される方々の協力の下、日本企業の保険リスクマネジメントの実態について,定点観測しております。ここからは、2023年12月から2024年2月の期間に実施した、最新の調査結果の一部を紹介したいと思います。
 
 初めに本調査の調査対象、すなわちサンプルの特徴を御説明します。この調査はかなり込み入った内容をリスクマネジャーの方々に伺っておりますので、いわゆる一般に実施されるランダムサンプリングによる大規模調査では収集が難しいということで、むしろ積極的に調査に御協力いただけるリスクマネジャーの方々が対象になっております。そういった意味で「サンプルセレクションバイアス」が多分に含まれる調査結果であるとご理解いただければと思います。したがいまして、調査結果解釈には,十分御注意いただければと思います。
 
 1つ目の特徴です。約8割が上場企業であり、売上高も5,000億円以上の企業が全体の、私の調査の4割を占めています。東証一部、プライムと比べましても、かなり大規模な日本企業が調査対象になっております。2つ目の特徴ですが、素材・化学、電機・精密といった伝統的な製造業が回答企業の多くを占めております。言ってみれば、日本を支えてきた、これからも支えていくかもしれない産業かもしれません。最後の特徴です。顧客市場、つまり海外売上高比率及び外国人投資家比率、すなわち資金調達市場の双方において、かなり海外依存度が高い企業が、今回結果的に御回答いただいた企業の多くを占めているということでございます。
 
 以上まとめますと、本調査のサンプル属性は、大規模な上場企業、伝統的な製造業、そして海外依存度が高い企業群ということになります。因果関係を示すことはもちろんできないわけですが、結果的にこうした企業群において、比較的保険リスクマネジメントへの意識が高い方々が調査に御協力いただいたというふうに認識しております。そういった調査対象から得られた結果を今からお話ししますので、その範囲の中で解釈を御議論いただければと思います。
 
 初めに、リスクマネジメントの専任担当者については、約6割の企業が設置しておりまして、特に5,000億円以上の売上高が、大規模企業においてはかなり顕著です。また、リスクマネジメントの専任部署は半数以上の企業が設置しており、こちらも大規模企業で顕著に見られます。こうしたことから、大規模企業ほど保険購買を、ある種全社的なリスクマネジメントの一環として位置づけている可能性が示唆されます。
 
 次に保険種目ごとの購買状況ですが、火災、海上、輸送、賠責といった、言わば伝統的な種目の加入率が、今回のサンプルで言うとかなり高いわけですが、利益保険や地震保険といったものの加入率は、こういったかなり大きくて意識が高い企業ですら4割から6割といったところで、そういった意味で加入の判断が分かれているという傾向があることが分かります。
 
 次に、保険を購買するに当たって重視する点に関しては、損益に与える影響の極小化という、言わば財務上の品質の向上を重視する企業が多いことが確認されます。また、多くの企業がリスクコントロール・サービスや事故後のノウハウサポートといった、保険のリスクファイナンス機能「以外」の保険会社が提供する「サービスバリュー」を重視している点も興味深いところです。これは今後の日本の企業保険分野において何が求められるかを議論する上でも、興味深い結果の一つかもしれません。
 
さらに回答企業の約半数が、株主に対する説明責任を重視していると回答しており、過去の調査との比較においてもこの株主の説明の重要性が、徐々にではありますが増加傾向にあることも確認されます。ただし今回の調査結果のみからは、例えばこれは株主の相手方にある機関投資家が、企業のリスクマネジメントの品質、例えば,購入している保険の内容などを投資判断の材料にしているかどうかまでは分かりません。とはいえ、日本企業の保険リスクマネジメントの高度化を推進するためには、企業のリスクマネジメント・保険購買に関して「株主との対話」の手段を充実させることで、株主の対応の実効性を高め、市場規律の有効性を機能させる方向での様々な改革が、今後の重要な課題と思われます。例えば、支払い保険料などのリスクコストに関する情報を、財務あるいは非財務の追加情報として開示などできないか、こういったことも一案かというふうに考えております。そうしたことがきっかけとなって、保険購買が、CFO、財務・経理ラインの中の管掌の下にシフトすることによって、全社的一元管理のきっかけになる可能性もあります。なお、こうした傾向はこちらのグラフからも分かるとおり、特に規模の大きな企業、5,000億円以上の企業においてより顕著に見られます。
 
 他方で足元、保険購買をするに当たって困っている点も、ダイレクトに今回聞いているわけですが、ここでは時間の関係上、財物/火災の結果のみ紹介します。種目ごとに聞いておりますけれども、おおむね全種目でほかの種目でも同じような結果が得られております。まず企業規模にかかわらず、保険料率の上昇への懸念というのは、足元かなり高いことがあります。また面白いことに、「特になし」という回答に関して、大規模企業に比べて小規模企業においてかなり高いという結果が得られています。これは合理的な判断の下、「特になし」と回答しているのか、つまり現状に満足しているのか、あるいは、保険購買の意思決定自体に何らかの問題があって「特になし」と回答してしまっているのかの判断は、ここからは分かりませんが、こういう結果が得られております。
 
 その一方で、特に大規模企業においては、「キャパシティー不足」への懸念がかなり大きいということも確認されました。これは、国内の保険市場全体として大規模企業のリスクを受け切れるほどのキャパシティーが、もしかすると足元で不足しているということを示唆するものかもしれません。こうしたキャパシティー不足の深刻さは、頻発する巨大自然災害を背景とする、ここ数年の大きな変化の一つではないかと推察します。
 
 もしそうであるならば、今後は、日本の国内の損害保険会社の企業に対する立場は、今回カルテルが問題になっていましたが、逆に強くなる可能性も示唆されます。そうなった場合、特に自然災害リスクのエクスポージャーが深刻な製造業、そういった企業においては、保険に入りたくても入れないといった、日本の基幹産業のリスクマネジメントにとって,深刻な問題が生じる懸念さえあります。
 
 そうであるならば、合理的なリスクマネジャーがいる会社であれば、そういった事態を当然想像し、先取りする形で、現時点から保険リスクマネジメントの多様化、例えば,それはもう保険だけに頼らない、例えば,「キャプティブ」などを積極的に利用していく、あるいは予備的動機としての現金保有の水準をさらに高めていくことも考えられます。そして,このような戦略の合理性を株主にも説明しながら、全社的な観点から「リスクの保有とリスクの移転」のバランスを議論することの重要性がさらに高まると思われます。
 
 もちろん,本日の会議は,損害保険業が主な対象ではあります。しかしながら,企業保険の需要サイドにある事業企業の側から見ると、損害保険というのはその一つの手段であり、その意味において,従来の国内の損害保険だけに頼らないスキームの構築の可能性についても,損害保険業界の今後の課題を議論する上で,その重要性は高いと思います。例えば、国内の損保業界は従来からの保険金支払いといった「リスクファイナンス」の機能に加え、「リスクコントロール」の機能、すなわち,損害・損失の期待値そのものを引き下げていくような「保険会社のサービスバリュー」に関する付加価値の向上がより一層重要になるかもしれません。そうであるならば,日本の損害保険業界が提供する「リスクコントロール」の機能をより一層,高めていく必要があるのではないかと思います。
 
 他方で保険種目ごとの加入内容について見てみますと、主力の財物・火災分野では、かなり大きな企業ですが、回答企業の約2割が自己負担なし、すなわちリスク全てを保険会社に移転しているという構造が見られます。これが最適なリスクファイナンスの解として観察されるものなのか、あるいはそうでないのかについては非常に興味深いところですが、今回の調査からは分かりません。
 
 保険購買管理の体制に関しては,回答企業の約86%が、保険に関して全社的に一元管理をしています。ただし,今回の調査は比較的,リスクマネジメントの意識が高い企業の皆様にご回答いただきましたので、日本企業の平均的な姿とはやや異なるかもしれません。それでは、一元管理はどこの部署がやっているのかということについて見たのがこちらになります。売上高5,000億円以上のかなり規模が大きい企業では、財務や経理や経営管理、リスクマネジメントといった、全社的な意思決定に近いラインが担当しているのに対して、相対的に規模の小さい企業では、人事・総務といった、どちらかというと現場オペレーションに近いところが管掌する傾向が確認されました。
 
 また、損害保険会社を選定する理由について、今回確認しているわけですが、私たちの結果によれば、「保険料の水準」を理由に挙げる企業が最も多くいことが分かりました。なお,こちらの調査項目については,東日本大震災の直後2011年にMarshが実施した調査でも聞いています。興味深いことに,10年以上前の調査と比較すると、「資本関係やビジネスの関係」を挙げる企業の割合が当時はかなり多かったのですが、最近は,この割合が相対的に低下してきているということが確認されます。
 
 またここでも、「保険会社のサービスバリュー」、すなわち,リスクファイナンス以外の機能を重視する企業が一定割合存在することも確認できます。やはり,これからの国内の損害保険業にとって,「リスクコントロール」サービスのさらなる付加価値向上は,重要な課題の一つではないかと思われます。
 
 最後に保険仲介チャネルです。2011年にMarshが実施した調査ではグループ企業、ここで言う企業内代理店、インハウス代理店ですけれども、これに,企業が利用する仲介チャネルは集中していました。しかし今回の調査では、それが外資系や金融機関系に分散する傾向も見られます。特に規模がかなり大きい企業では,外資系の活用が進むとともに、規模が小さい企業では金融機関系の活用が進んでいるようにも見受けられます。
 
 このように、それなりの企業が代理店やブローカーを複数併用しているような傾向が見られるわけですが、実際にそのチャネルをそれぞれどのように使い分けているのかについては、今回の調査からはよく分かっておりません。ただ、もしそれを積極的に、あるいは合理的に使い分けている可能性があるとするならば、そこは掘り下げて今後見ていく必要があると思っております。
 
 本日の報告では、ユーザである事業会社のリスクマネジメントの観点から,日本の企業保険を取り巻くビッグピクチャーをお示しさせていただきました。すなわち,日本企業、つまり保険を買う側の企業、日本の企業を取り巻く環境変化というものを、3つのポイントから考察し,そこから保険リスクマネジメントも、やはりこの20年高度化していっているはずであろうという期待、予想をたてたわけです。その上で,現状の調査結果からは、企業を取り巻く環境変化のスピードと比べると、大規模でリスクマネジメントの意識の高い企業ですら、保険リスクマネジメントの高度化は、その漸進的な変化の途上にあるのではないかということが確認されました。
 
 以上、私からの報告となります。今回かなり時間が限られていましたのでかいつまんだ報告になりますが、もし御関心があれば、研究室のウェブサイトのほうにフルバージョンのほうを載せておりますので、御活用ください。
 
【洲崎座長】  どうもありがとうございました。
 
 それでは、続きまして、増山メンバー、お願いいたします。
 
【増山メンバー】  三菱重工の増山でございます。
 
 当社は、先ほど柳瀬先生から御紹介のありましたとおり、典型的な日本の製造業でございまして、ここ20年で株主構成も非常に変化しましたし、海外売上高も非常に大きくなった、海外M&Aも実施をしておりますし、それから主力工場は日本の沿岸部に集中しておりまして、自然災害の影響も大きいという、調査対象となった典型的な会社の一社であろうというふうに思っております。
 
 本日は第1回の会議体でメンバーの皆様から御指摘があったとおり、本問題に関しては企業自身もレベルアップが必要であるということでございまして、考えてみますと企業の役割というのは、当然リスクを取って、利益を上げて、ステークホルダーに貢献するというのが役割ですので、そのリスクマネジメントの一翼を担っている保険リスクマネジメントについて自律的に行うというのは、企業自身が本来行うべきものであろうことだというふうに考えております。
 
 そのような中で、今日はお時間をいただきまして、当社の保険リスクマネジメントの実例というのを、一例として御紹介させていただきたいと思います。その中心になっているグローバル保険プログラムについての導入経緯、それからどんな実務になっているのかというのをお話しさせていただきました後、我々が加入している企業保険を取り巻いている環境認識、それからそれを踏まえた提言というところをお話しさせていただきたいというふうに思っております。じゃ、資料のほうよろしいですか。
 
 では、次のページ、お願いいたします。まず当社の保険リスクマネジメントの体制というところでございますけれども、当社はリスクと機会は表裏一体というような考え方で、担当役員はチーフ・ストラテジー・オフィサー(CSO)の下に、私の所属しております事業リスク管理部と言う組織体が置かれております。そこに私と担当者がもう1名おりますという体制になっておりまして、右上に事業リスクマネジメント委員会というものがございますが、こちらが、CSOが座長となります、リスクマネジメントの最高意思決定会議という形で議論や意思決定を行うという形になっております。
 
 右下のグローバル保険プログラム、これが我々の保険リスクマネジメントの根幹を担っている保険プログラムですけれども、2017年度より本格導入されておりまして、弊社のグループ会社はグローバルに約320社ほどございますが、これらが加入する保険プログラムというふうになっております。
 
 左側にMHIビジネスリスクサポートという会社がございますが、弊社は数年前にノンコア事業であるという形で、企業代理店はグループ外に売却をしてございます。その際に、弊社のグローバルプログラムを運営、実務を担っていただく、業務請負していただくビジネスプロセスアウトソーシング会社としてスピンアウトさせたのが、こちらのMHI-BRSという会社でございまして、こちらに現在は14名ほど保険リスクマネジメント専従者というのがおりますということですので、国内は約16名という形で対応しております。
 
 これに加えまして、世界4拠点にリージョナルリスクマネージャーという人間を配置しておりまして、これで保険リスクマネジメントの実務を回しているという体制になっております。
 
 次、お願いいたします。こちらのグローバル保険プログラムは、2017年というふうに申し上げましたが、それ以前、2016年度以前は、図の左上にございますとおり、実は保険の証券というのはばらばらでございまして、事業単位ですとかプロジェクト単位で、必要な方が必要に応じて買っていましたという実態でございました。
 
 これですと全体の実情は誰も分からないというところでございまして、まずは保険はどんなものを買っているのかという、付保実態調査というのをやってみましたということで、結果、賠償責任保険だけで、弊社のグループで年間400証券あるということが分かりましたということでございまして、当然これだけやりますと全体像を把握するのは不可能ですし、抜け漏れはないのかという懸念もございましたというところです。
 
 それからやはり海外M&A、先ほどのお話にもありましたけれども、買収先にはグローバル保険プログラムがあるのに当社にはない、こういったことも導入の契機になったわけでございます。
 
 下のほうに行きまして、導入後どうなったのかというところですけれども、先ほど申し上げたとおり、全世界の320社が包括カバーされる保険プログラムであって、財物保険ですとか賠償責任保険といった、いわゆるグループ会社が通常買っている一般的な保険は、もうまとめ買いしたほうがよかろうという形で、まず1点目のメリットは、グローバルに統一的なカバーが実現されましたというところと、当然まとめ買いをする形になりますので、スケールメリットも最大化できますし、それから保険の申込みの手配、今まで400件、皆さんがばらばらにやっていたものを我々のところで集約していますという意味では、事務効率も上がっていると思っております。
 
 結果的になんですけれども、現在はプログラムがまとまったことで、保険事故の情報、全世界でどんな事故が起きているのかというのも我々のところでモニタリングができるようになっていまして、こういったデータを使って将来の事故防止といったところにも生かしているというのが現在の姿になっております。
 
 次、お願いいたします。では、このグローバル保険プログラムってどんな実務の運用になっているのかという話で、多分普通の皆様、当社のプログラムは4月1日の更新になっているんですけれども、ちょうど今5月ですから、保険って更新したらしばらく何かすることないんじゃないのというように思いになるかもしれないんですけれども、もう更新直後からいろいろな実務が走っておりまして、例えば更新した後には保険のマニュアルの更新をしたり、それから我々のグループ会社に対して説明会というのを何度も実施しております。ちょうど私、来週海外出張なんですけれども、海外でも実施をしております。
 
 それから大事なところは、4月のところの一番上に書いてございます、保険会社ロードショーという、ちょっと聞き慣れない言葉かもしれませんけれども、これは、私どものグローバル保険を引き受けていただいている保険会社のアンダーライター、引受審査を行う方と、直接コミュニケーションさせていただく機会という形でして、これは何かというと、ある意味リスクマネジャーの仕事というのは、保険の購買者のような立場に思われるかもしれませんけれども、実は考え方を変えますと、当社のリスクをプレミアムつきで保険会社に買っていただいている、こういう見方もできるわけです。
 
 すなわち、自分の売っているリスクがどういうものであるかというものを当然買っていただく方に説明する必要がありますし、それを買っていただく、保険を引き受けていただく損害保険会社さんは、どんなリスクを引き受けたくて、こういうリスクは最近引受けが難しいよと、こういうダイアログを重ねることによって、双方が長期安定的にプログラムを運営できる体制がつくれますし、それからマーケット環境、この保険は最近どのぐらいプライスが上がっているとか、こういった情報というのもダイレクトに保険会社とリスクマネジャーが会話をする、こういう機会になっております。
 
 第2四半期、7月に入りますと、もう次年度の更新の具体的な実務が開始されますという形で、第1四半期で集めた情報を基に、じゃ、来年度の保険のプログラムをどんな形で組成していこうかということを考えていくとともに、グループ320社に向けて基礎情報の収集というのが開始されます。もちろんそれは売上高とか固定資産とか財務情報もありますけれども、非財務情報も聞いておりますので、なかなかこの情報を集めるのって結構大変でございまして、事務負荷がかかっております。
 
 このデータというのはもちろん保険会社への申告にも使われておりますし、最後の項目にございます保険料の配賦、こちらにも使われるデータですので、データチェックというのにもかなり時間をかけてやっております。
 
 第3四半期になりますとマーケティングが開始されますという形で、更新日6か月前から翌年度の見積り取得というのが開始されまして、およそ3か月間、各保険会社さんとの折衝というのがございます。当社の場合、グローバル保険プログラムは国内だけでも10社以上の保険会社さんに参加いただいておりますので、全体の保険料ですとか条件というのは3か月近くかけて交渉させていただいて、毎年12月末までには大枠の合意をいただくというスケジュールになっております。もう更新3か月前にはストラクチャーが決まっているということです。
 
 かなり早いとお思いになられるかもしれませんが、結構これでもぎりぎりのタイミングでございまして、第4四半期になりますと、詳細条件の折衝という形で、各国の保険料水準をどのぐらいにするかですとか、それから被保険者として一番負担が重いというところは、まさにこのグループ内の保険料配賦のところでございまして、保険プログラムを持っていらっしゃる企業さんは結構悩んでいらっしゃる方が多いと思います。
 
 これがきちんと行われていないと、何でうちの会社の保険料はこんな高いんだという形で、リスクのいい人たちはもうこのプログラムは入りたくありませんという形で、プログラムが崩壊していってしまいますので、ある意味我々がグループ内で保険会社をやっているようなイメージで、きちんとリスクに応じて保険料配賦をしていくというのが、このプログラムの運営上の要諦かなというふうに思っております。
 
 こういった一連の作業を、左のほうにGIP管理システムというのがございますが、最初はメールとエクセルでやっていたんですけれども、膨大なコミュニケーション量になりますので、これを弊社独自で開発しておりますが、システム上で行うというような形になっております。
 
 真ん中のラインは保険事故求償という形で、保険事故は年にいつ起こるか分かりませんので通年の取組ということになりますが、基本的に保険求償は事故を起こされた各グループ会社、被保険者の方にやっていただくという形になるんですが、左にございますクレーム管理システムという、これは事故報告と事故のデータベースの機能を持つシステムですけれども、こちらも弊社のほうで開発したものですが、こちらに入力をいただきまして、私どものほうでは、具体的にどんな事故が入ってきているのかだとか、長期にわたってペンディングになっているものはないかというのをモニタリングしたり、それからデータベース機能がございますというふうに御説明しましたが、毎年かなりの件数の保険事故の報告がありますので、これを分析して、何か特徴的に、この事業部門は事故が多いとかそういうことがあれば、それを取りまとめてフィードバックをする、こういうような実務を行っております。
 
 これに加えまして定期的な報告という形で、先ほど御紹介したトップマネジメント、事業リスクマネジメント委員会に対して、四半期ごとに保険の更新の状況ですとか事故の発生の状況というのを報告しておりますということで、特にその保険事故の発生というのはかなり小さい金額から報告が来るようになっていまして、それがかなりタイムリーに経営まで報告が上がっていくという意味で、我々はこの保険プログラムをあくまでファイナンスだけではなくて、グループのリスクセンサーとして、どういったことがグループ内で起きているのかを早期に感知する保険プログラムというのが、我々の保険プログラムの特徴ではないかなと思っております。
 
 次、お願いいたします。そういった我々の企業保険を取り巻く状況というところで、これは先ほど柳瀬先生のほうからもお話がありましたけれども、実際のリスクそのものというのは非常に今高まっているという認識でございます。インフレの問題はもちろんのこと、気候変動に伴って自然災害は激甚化しておりますし、それから最近は非常に大型な工場や倉庫というのが登場しておりまして、1事故当たりの金額というのが増えてきているという認識です。
 
 そういった背景もありまして、損害保険会社さんの収益環境というのは非常に厳しくなっているというふうに思っておりまして、特に元受保険会社さんの契約をしている特約再保険、こちらのほうが上昇が顕著でございまして、それの影響というのは、特にキャパシティーの大きい日本企業に向けて顕著に表れていると。先ほどの柳瀬教授のアンケートにもありましたが、売上高5,000億超の会社では、キャパシティー不足が顕著になっているというところは、この辺とつながっているんじゃないかというふうに思っております。
 
 ゆえに、これも柳瀬教授のお話と一緒ですけれども、我々、特に大企業は、なかなかその高額キャパシティーを継続的に得るのは難しい中で、自家保有も強化していかなきゃいけない。保有したリスクについては、それを低減する取組を強化していかなければならない。こういうような環境認識になろうかというふうに思っております。
 
 次のスライドをお願いいたします。ということでございますので、こういった環境認識を踏まえまして、私のほうからは2点提言させていただきたいというふうに思っておりまして、結論としましては、大企業を中心に、より自律的な保険リスクマネジメントが求められる時代でございますということですので、我々大企業の契約者は自らがプロの契約者として申告を行って、自律的にやっていきますので、その分規制緩和もしていただけないでしょうかというような制度を設けられないかというのが、1点目の提言でございます。
 
 投資の世界でも、プロ投資家としての適格機関投資家という方がいらっしゃいますので、仮称で適格保険契約者という名前をつけさせていただきましたが、それのベネフィットとして、国内で調達の難しいキャパシティーについては、海外の保険会社から直接調達が容易にできるような道筋をつけていただくですとか、もしくはそれでも自家保有を余儀なくされるリスクについては、何らかのファンディングのスキームというのを設けていただく、こういったところが議論のポイントではないかなというふうに思っております。
 
 もう1点は、仲介者の効果的かつ主体的な活用というところでございまして、現状は、仲介者、代理店さんないしはその仲立人の皆様のところの手数料は、保険会社さんから保険料プロラタで支払われることが多いかというふうに思っております。そうなりますと、保険料が上がると手数料が上がるという形で利益相反もございます。
 
それから企業としては、保険の加入ニーズも完全に顕在化しております。つまり保険募集人あるいは仲立人に保険募集・媒介を受けるという立場よりも、先ほどの御説明のとおり、どちらかというと企業としては、保険プログラムの運営に関する実務を担っていただける方、お手伝いいただける方が必要ですということであるとすれば、やはり契約者が仲介者を直接使って、そのフィーもこちらでお支払いさせていただくのが合理的ではないかと考えておりまして、これを通じまして、御指摘のあった利益相反の構造ですとか双方代理というようなところも解消されるのではないかというふうに考えている次第です。
 
 私からの発表は以上とさせていただきます。ありがとうございました。
 
【洲崎座長】  どうもありがとうございました。
 
 それでは、メンバーの皆様方に御議論をいただければと思います。本日もできるだけ多くのメンバーの皆様方に御発言いただく機会を確保する、また議論を掘り下げていくという観点から、できるだけ2度目の御発言の機会を設けたいと考えております。したがいまして、お一方当たり5分程度以内を目安にしていただければありがたく存じます。
 
 また、御発言を希望される際は、対面で御出席いただいている方々におかれましては、挙手をしていただくか、あるいはお名前の札を立てていただきますようお願いいたします。オンラインで御出席いただいている滝沢メンバーにおかれましては、御発言の希望がある場合には、直接発言したいというふうにお声がけをいただければと思います。そちらを確認して私のほうで指名させていただきますので、その後で御発言していただければと思います。
 
 今、御説明をいただきました内容につきまして、メンバーの皆様方から御質問、御意見、どなたからでもお出しいただければと思います。いかがでしょうか。では、中出メンバー。
 
【中出メンバー】  中出です。総論的な意見ですので最初に話をさせていただきます。今、柳瀬先生や増山メンバーから貴重な御示唆があったと思います。今回の事案では、いろいろな論点が存在し、相互に関係しています。挙げられている3つの点について、私の意見を述べさせていただきたいと思います。
 
 まず第1は、4ページ目にある共同保険の改善策等についてです。改善策を考える場合においては、基本的な考え方とか、基本的な軸を明確化して、それを押さえることが重要であると思っています。まず、共同保険自体は、14世紀まで遡るような非常に長い歴史を持つ制度で、世界的に利用されていて、その制度自体に問題があるわけではないと思っています。
 ただし、欧米などでは保険会社の数が多く、企業領域の保険では、保険仲立人が保険をアレンジする形が一般的です。ドイツの場合は少し異なる面もあります。いずれにせよ、企業保険では共同保険がデフォルトで標準形というわけではなくて、リスクに応じて大規模物件などで共同保険が利用されていると理解しています。
 
 日本では、1社で引き受けられるようなリスクであっても、顧客の意向によって共同保険が利用される場合が多く存在するように思います。その背景には政策株式の保有等の存在があるのでないかと思っています。原則としては、リスクの実態に照らして適切な保険のスキームを作ることが重要であると思っています。
 
 日本の特色としては、さらに、幹事会社の保険料率に非幹事会社も合わせて、幹事会社の保険料率が低ければそれに合わせるという慣行があります。入札方式をとった場合、各社は自分で一番良いと考えている保険料率を提示しているわけですので、本来はその意思に基づいて共同のスキームが構築されるのが望ましいと思いますが、各社間の決済システムという技術的な問題もあって、保険料率をばらばらにすることは非効率的で難しいと思います。しかしながら、長期的に共同保険の在り方を考えますと、応札の保険料がばらばらであれば、そのばらばらの保険料で共同保険を組成していく方式も研究する必要があるように思います。
 
 それから、幹事会社は契約手続から保険金支払いまでの全ての業務を実施し、これは大変な作業ですが、その報酬を請求しないという慣行もあります。その結果、幹事と非幹事で負担が大きく異なります。本来、コストを負担している会社、役務の提供をしている会社は、それに対する正当な対価をもらってよいと思いますので、こういった慣行についても、長い目で見た場合に、健全な保険市場を形成する上でよいかを検討する必要があるのでないかと思います。
 
 以上の基本的な考え方をもとにして原案を拝見しますと、資料に出ているシンジケートローン方式とかは一つのやり方であると思いますが、アレンジャーの費用とか報酬を誰が払うかなど、いろいろと検討する点はあると思います。いずれにせよ、基本的な事項を押さえた上で、より良い方式を研究する必要はあると思います。
 
 次に第2点の論点(適切な営業推進態勢及び保険引受管理態勢等)ですが、柳瀬先生や増山メンバーの御報告をお聞きして、企業におけるリスクマネジメントは非常に重要で、今後それをさらに進化させることが重要で、良い取組を日本全体に広げていく必要があると思いました。保険事業の領域でできることとしては、保険会社や保険募集人は、リスクマネジメントに関する高度なノウハウを有していますので、それを募集上の競争の源泉にしていくという形で貢献していく方法があると思います。この点は、柳瀬先生からお話があった点でもあると思います。
 
 今までは、保険募集では、契約獲得とその手数料などの部分が、非常に大きなインセンティブになっていたわけですが、長い目で見ますと、リスクマネジメントに関するコンサルタントとしての評価、この辺りに軸足を変えていく、あるいは変えていくように経営資源を投入していくことも重要であるように思います。これは日本社会経済全体にとっても重要であると思います。
 
 前回の代理店のインセンティブのところでも意見として申し上げましたが、代理店報酬におけるインセンティブの算出においても、保険の活用を広げていくという観点や、リスクマネジメントを支援していくという観点を重視することが重要でないかと思います。
 
 最後に第3点目は、「企業内代理店をめぐる構造」ですが、11ページに各種の対応策が書かれていて、それに基本的には賛同いたします。ただし、ここでも重要な点は、企業内代理店の位置づけを明確化すること、それから第2に、代理店が実施するサービスと対価との整合性がきちんと説明できるものにしていくことであると思います。
 
 特定比率の見直しについては、一定の準備期間を経て経過措置を撤廃することに賛成いたしますが、規制を強化することになりますので、基準や対象に問題がないかの確認は必要であると考えています。
 
 私個人の意見では、例えばグループ内の団体保険、職域領域については、代理店が自分のグループ内で従業員等に対して募集活動を懸命にして契約を集めてくるわけですので、代理店としての募集活動として機能していて、こういった業務に対する手数料は当然支払われるべきであると思います。しかしながら、例えば、企業グループ内の財産の保険について、窓口として取りまとめているような場合には、保険料の高にスライドして代理店の報酬を払っていくのが良いのかどうか疑問があるように思います。
 
 このように考えますと、自立化といった観点も重要ですが、単純に50%を超えれば駄目であるといった線引きよりも、その企業内代理店のビジネスの実態を踏まえて、その機能や対価性、こういった実質を基に基準を考えることが重要でないかなと思います。
 
 今回の企業内代理店の問題に関する資料では、企業内代理店の問題点がいろいろ書かれていますが、保険会社にも代理店の自立化に向けた指導の責任があったと思います。しかし、企業内代理店は乗り合いで、お客様そのものに近く、そして政策株式保有や本業支援などの問題が存在するという点で、これは根っこではBM問題と共通する部分があり、乗合代理店に対する規制の在り方を考えるなかで、企業内代理店についても考えていく必要があるかと思います。
 
 最後になりますが、企業保険の領域でいろいろ問題が出てきましたが、今回の出来事を起点として、これから企業保険の市場が良くなっていき、さらに成長する重要な機会になると思いますし、またそのようになるように、いろいろと改革を進めなくてはならないと思います。
 
 以上です。
 
【洲崎座長】  どうもありがとうございました。
 
 ほかにいかがでしょう。では、大村メンバー、どうぞ。
 
【大村メンバー】  私の方からも何点かコメントさせていただきます。
 
 今回のカルテル事案に関して、私自身がもっとも看過できないと思っている点は、ほとんどのカルテル事案が悪績契約、損害率が高く利益率が低いと言われている火災保険で起きている点、そして関与した従業員の3分の1以上の者が不適切である、または違法行為であるということが分かっていながら着手していた、ないしは着手せざるを得なかったという点になります。
 
 今回の問題が発生した背景には、参考資料の7ページにもございますが、火災保険において、損害保険会社が10年以上にわたって、相当低い保険料率で引受けを行ってきた、収益度外視の形での保険の引き受けを行ってきたということがあり、追い詰められる形でやむを得ずカルテル行為に及んだという側面は否めないのではないかと考えております。
 
 そのため、各社の業務改善計画に則りスリーラインディフェンスの高度化が図られ、共同保険の引受方式について見直しが行われたとしても、収益の改善、適正な保険料での保険の引受けというところが改善されない限りは、数年後に同じような問題が発生してしまう可能性が高いのではないかと思っております。
 
 では、どうしてこのような事態が発生してしまったのか、まず保険会社側の問題点としてすぐに思いつくのは、当局資料にも挙げられておりますが、トップライン重視の営業方針を掲げていたことがあるかと思われます。やはり、悪績契約が存在する保険種別において、トップラインベースで高い目標を課されてしまうと、収益が悪い契約についても、引き受けざるを得なくなるといった状況は避けられないように思います。また、保険契約ごとの収益を保険会社側が、もちろんやっていた会社もあるのだと思いますが、きちんと算定していなかったということも問題の一つではないかと思っております。
 
 日本の保険市場が特殊なのは、一の保険会社が一の事業会社から複数の保険を引き受けているという点であり、それゆえ、たとえ火災保険で収益が悪かったとしても、自動車保険その他の保険で利益が出るのであれば、またはそれらの保険が引き受けられなくなってしまうリスクを取るぐらいであれば、悪績保険であっても引き受けてしまえといったようなことが起きていたのではないかと考えております。
 
 この点については、本来的に保険契約者が違う場合に収益の付け替えを行うというのは論外だと思いますが、同じ保険契約者だとしても、保険は種別ごとにきちんと収益管理をして、いずれの種別においてもきちんと収益が取れるような形で運営をしていくべきであって、そこができていなかったということも、一つの大きな要因なのではないかと考えております。
 
 他方で契約者側においても非常に問題は大きかったと考えております。保険会社側が保険料を上げたいと背景や理由を含めてきちんと説明したとしても、多くの事業者は、基本的に保険を購買の対象としか考えておらず、安ければいい、全社的なコストカットの中で保険料が上がるのは許容できないということで、たたき続けてきたといったことはあり、事業会社のリテラシーの低さゆえの問題という側面はあったと思っています。
 
 ここについては法制で何らかの手当てをするということはなかなか難しいと思っておりますので、柳瀬先生と同じ方向性かと思いますが、市場の圧力、市場からの声をいかに利用していくかが重要なのではないかと思われます。そういった意味では、昨今、有報等でリスク情報に関する開示が義務付けられ、事業会社としても一定程度自分達でリスク分析をせざるを得ない形になってきている、事業者側が市場の目にさらされるようになってきているというのは良い傾向であり、一定時間はかかるかもしれませんが、少しづつ良い方向に変わっていくのではないかと期待しています。
 
 加えて、もし可能なのであれば、例えば役員報酬であったり、SDGであったりは、コーポレートガバナンスコードに記載されたことによって、大きく前進したという実感がありますので、保険を含めた形でのリスク管理というものがガバナンスコード上で求められるようになれば、大きく前進する可能性はあるのではないかと考えています。
 
 最後に、先ほど保険会社のほうで収益管理ができていないと申し上げましたが、これについては、実際に算出に必要な情報が開示されてこなかったというような問題があるという話も聞いております。収益管理をするためには、過去10年のロスの情報であったり、事業会社におけるリスク管理の情報が必要になるかと思われますが、かかる情報を事業会社が出し渋る、出さない、場合によっては少々隠蔽されたような状況での情報開示がなされるといったことがあるという話は随所で伺っておりまして、その点については、改善のために何らか手当てをする必要があるだろうと考えています。
 
 公正取引委員会の確認は必要ですが、引き受けの前提となるロス情報としてどのようなものを要求すべきかについて、業界で取りまとめて、ひな形をつくったとしても、独禁法上問題がない可能性は高いのではないかと思っております。以上が、2点目の課題に関するコメントになります。
 
 次に、1点目の課題、企業保険分野における適正な競争環境に戻らせていただきます。ここではシンジケートローン方式が挙げられていますが、個人的にはこの仕組みは、まず幹事会社を選んでそこから非幹事会社を集めて組成していく、現在の共同保険の組成方式と非常に似通っており、この方式を採用したからといって即独禁法上の問題が解決するということではないと考えております。
 
 他方で、現在、共同保険の引き受け方式に決まった型がなく、実態として様々なバリエーションが併存するがゆえに、いつ、どこで、どのような情報を共有していいかのルール化が難しいということは問題としてあるかと思いますので、1つ標準的な型を決めて、この場合にはどこまで何をしてもいいのかを議論することには意味があると考えています。
 
 シンジケートローンに関しては、欧州委員会から2019年に、どういった競争法上の問題が生じうるかが記載された報告書が出されており、弊害防止措置等についても掲載されておりますので、そういったものも参考に、今後詳細を議論していく必要があると思われます。
 
 政策保有株式に関しては、今後のフォローアップが不可欠であり、フォローアップに際しては、実際の売却状況のみならず、例えば事業提携投資であったり、純投資であったりに区分を替えてしまうことで潜脱は幾らでも可能ですので、そのような潜脱行為の有無を含め適切に監督をしていく必要があるものと考えます。また、政策保有株式の縮減が進んでいった場合、保険会社におけるビジネスモデルが変わる可能性があると思っております。特に、日本の保険会社は海外と比較したときに事業コストが高いというのはよく言われることで、そこの削減というものは大きな課題かと思われますので、そこを含めて各保険会社において検討を進めて頂き、それを当局においてフォローアップしていくことが必要になるのではないかと考えております。
 
 議論いただきたい事項の3点目、便宜供与のところにつきましては、企業保険だからということで追加的に必要となる留意点は特段思いつきません。ただ1点、企業保険の場合、提供先が代理店ではなく事業会社であり、事業会社にとって業界のガイドラインは、内輪のルールにすぎず自分達とは関係がないといった見方をされ、あまり重視されないことがあると伺ったことがございます。
 
 また、業界のガイドラインベースですと、やはり独禁法上の問題もあり、具体的な例示が難しいといったケースも想定されますので、公正競争規約等公的な器できちんと議論したことが規約化できると、実効性のあるルール作りができるのではないかと考えております。
 
 最後が、3点目の課題、企業代理店をめぐる構造についてとなりますが、こちらの概要、問題の背景・真因、指摘等としてまとめられている内容は、いずれも妥当であり違和感はございません。
 
 細かい点のみ1点付言しますと、8頁最後の部分で、企業内代理店の方向性として、グループのリスクマネジメントを担う部門となる方向性があると記載されており、それ自体は否定するところではありませんが、本来的に代理店というのは保険会社の代理を行う者であって、そこから管理監督を受ける必要があり、それゆえに、代理店が行った保険募集に伴い保険契約者に発生した損害は保険会社が負うものとされていると理解しておりまして、リスクマネジメントを担うのだとすると、はたして保険会社の代理を行う者と言えるのか、また、なぜその場合に保険料率に応じた手数料をもらえるのかというところの説明が難しくなるのではないかと思っております。
 
 そのため、かかる方向性も認めるのであれば、先ほど増山メンバーからの指摘もございましたが、保険料の支払い方法・内容を含め一定見直しが必要になる可能性があるのではないかと考えております。
 
 また、企業内代理店全体の見直しの方向性としては、あくまでも企業内代理店というのは例外的なものですので、基本的には特例措置は認めない方向で、かつ、独立して代理業をやるのであればこそ、今の枠組みが維持されうると考えておりますので、特定者の定義については、連結を含める形での見直しが必要になるのではないかと思っております。ただし、大きく規制を変えるときには経過措置等の設定が必要となり、その内容を確定するためには実態が正確に把握できている必要があるというのは指摘のとおりかと思いますので、まずは実態把握のための調査を先行し、その後枠組みの変更をするという、現在の事務局のスタンスについて違和感はございません。
 
 最後にもう1点、議論いただきたい事項〔2〕企業内代理店の実務能力の向上についてコメントさせて頂きます。企業内代理店はどこまでいっても、事業者側の顔、契約者側の顔を持ち合わせることになりますので、通常の代理店と比べて、保険会社による管理監督は難しくなるであろうと思われます。
 
 それゆえ、第三者評価の必要性は通常の代理店以上に大きくなると考えております。また前回も出てきた社員代行は、伝統的に企業内代理店の体制整備を全て保険会社が丸抱えするときに使われていた手法だと理解しておりますが、この点に関してはやはり自立を促進するような形で、きちんと適正な支援にとどめて、自立ができた代理店については、今後も保険代理事業を続けることができるという形にしていくべきではないかと考えております。
 すみません、長くなりましたが以上です。
 
【洲崎座長】  どうもありがとうございました。多岐にわたる論点についていろいろお話をいただきまして、私もなるほどというふうに伺っていたのですが、ただ御発言の時間については御協力いただければ有り難く存じます。
 
【大村メンバー】  すみません。
 
【洲崎座長】  ほかにいかがでしょうか。
 
 では、増山メンバー、お願いします。
 
【増山メンバー】  中出メンバー、大村メンバーの御発言も受けてというところなんですけれども、先ほどの共同保険についてなんですが、中出メンバーから、もうばらばらの保険料でもいいんじゃないかというところについて、これは第1回のところで私どもの発言しておるんですが、保険料の支払いだけA、B、C、D各社別々に払う。保険会社さん側のシステムが許すなら、これは多分そんなに大きな問題はなかろうと。年に1回やるだけですのでということだと思うんですが、一方で保険条件が変わってしまいますと、これは1回目にも発言しておりますが、各保険会社と別々に保険求償をやって協定してくださいと。これは実務上もう不可能だというふうに思っておりますので、すなわち保険条件はやはり合わせていただく必要があろうと思っております。ですので共同保険のところにつきましては、必ずしも保険料が全社一緒じゃなきゃいけないという、これはマスト要件ではないのではないかというのが私の意見でございます。
 
 それから、大村メンバーから御指摘のあった、悪績の火災保険というところで、そのとおりだなというふうに思って。私も火災保険のアンダーライティングをやっておりましたので。一方で保険の収益。トップラインはすごく見やすいんです。保険料というのは毎年決まっていますので、とても見やすいKPIなんですけれども、ボトムラインというのはとても見にくい指標でございまして、単純に言えば、1契約の損害率が毎年100%超えている、さすがにそういう契約はないと思いますけれども、要はポートフォリオ全体で見て赤字になっているというのが多分火災保険の現状でして、個々個別の契約を見ていくと、全く事故のない年もあれば、どかんと事故が起きる年もある。
 
 こういうふうになっているんだというふうに思っていまして、特に難しいのは、高額免責なんかにしますと、本当に事故が起きるのが100年に1回とか、500年に1回とか、こういうレベルになってきますので、何か毎年の成績だけ見ると物すごくよく見えるんだけれども、ただ実は取っているリスクとしては大きいんですと。じゃ、これはどういうふうに収益を見ましょうかというのは、非常に保険会社さん側でも単純な損害率だけではやっぱり見られないというところに難しさはあるんだろうと思っております。
 
 そういう意味では、多分収益管理という観点で言いますと、何か個々個別の契約というのももちろん重要ですが、やはりポートフォリオ全体を見てというところが保険会社さんとしては重要なんだろうと思っていまして、そう考えますと、恐らくそのポートフォリオに大きな影響を与える大企業の契約というのが、これまでは大きなシェアで大きなキャパシティーで受け入れられてきたというのが、やはり悪影響だったとすれば、先ほどの話と全く一緒ですけれども、キャパシティーを下げていくことで影響を軽減していくことが、多分取り得る手段なんだろうというふうには思っております。
 
 もう一つは、多分保険会社さんが申告されているものの一つに、ソルベンシーマージンという、これは金融庁さんのほうで管理されていらっしゃると思うんですが、要するにどのぐらいのリスク量を取っていらっしゃるんですかというような指標の中にも、火災保険の指標というのは入っていらっしゃるんじゃないかと思いますので、例えばこういうところの指標の見直しを通じて、各保険会社さんが適正なシェアを取っていく、引受けをしていくというものが後押しになるのではないか。
 
 ただ反対側の契約者目線でいくと、より厳しい引受けになっていくということは想定されますので、繰り返しになりますが、そうなりますと契約者は自助努力で自家保有もしなきゃいけないということは、併せて制度として議論されるべきだろうというふうに考える次第でございます。
 
 それから、中出メンバーから御指摘のあったリスクマネジメント能力の専門性。ここはまさにそのとおりだなと。ここは毎回同じような意見を申し上げるようで恐縮なんですが、やはり保険に関わる方、それは募集人の方であれ、リスクマネジャーであれ、それなりの専門性が必要です。企業保険においては今まではあまり企業側にその専門性がなかったとしても、保険会社さんのほうでたくさんのキャパシティーをほとんど自動的に提供してくださっていたと。
 
 要するに、能力がなくてもそんなに差がなかった時代じゃないかというふうに思っていまして、それがある意味で普通の世界に戻っていくだけなのでありますというふうに捉えるとすれば、ある意味で、ここから先どういう専門性を持って、どういう戦略を取るのかということによって、ビジネスチャンスにもなり得るんだとも思いますし、今までがある意味では保護され過ぎていて、これからが普通になっていくんですという考え方を取るとすれば、当然のことながら、そこに裏受けされるものというのは、各リスクマネジャーであれ、代理店でさんであれ、仲立人であれ、それぞれの専門性、それからリソースに基づくものだろうと思っております。
 
 そう考えますと、今、特に仲介者の皆さんのところで言うと、企業代理店さんって今まで国内でしか活動されていらっしゃいませんので、そういう意味で、一部の代理店さんは海外に拠点をお持ちの方もいらっしゃいますけれども、例えば外資系のブローカーさんなんかと比べますと、海外のネットワークではなかなか強みがないですねというところだとすれば、そういうところの強み弱みを補完しながらビジネスを新しく創造される、こういうようなこともあり得るんじゃないかなというふうには思っておる次第でございます。
 
 私からは以上です。
 
【洲崎座長】  どうもありがとうございました。
 
 滝沢メンバーから御発言の希望がございましたので、御発言いただければと思います。では、滝沢メンバー、お願いいたします。
 
は、滝沢メンバー、お願いいたします。
 
【滝沢メンバー】  事務局から御説明いただきました、企業保険分野における価格調整行為が起きた環境、そして構造的な課題と真因の全体感も非常に的確なものだというふうに思っておりますし、お示しいただいた対応策についても大変妥当なものであると考えております。
 
 特に、企業内代理店の立ち位置が不明確であり、代理店でありながら実質的には顧客企業と同一視されがちであること、また保険料ベースの手数料収入を保険会社から得る立場にあるということから、保険料を下げようとするインセンティブが働きにくい、企業保険の組成は本来非常に高度な専門性が必要とされるところ、その能力が低くても存続可能な環境で今まではあったということが、健全な競争環境を妨げている、この点について是正するべきであろうというふうに思っております。
 
 まず企業内代理店における特定契約比率規制の措置についてですけれども、御説明にもありましたように、既に20年近く経過しておりまして、賠責ですとかサイバーセキュリティー等のいわゆる新種リスクへの対応の必要性、こういったものが増している中では、明らかに時代に即していない対応になりつつありますので、準備期間を置いた後に撤廃するということで、本来保険代理店が備えてしかるべき能力をお持ちでない企業内代理店、これは自然淘汰されていくのではないかなというふうに思っております。
 
 また、保険以外の要素で契約が決まっている環境、補償内容の適切さというより保険料の多寡で判断されてきた背景には、今までもありましたように、企業側のリスク管理意識の甘さといったものも多分にあったというふうに思っております。
 
 先ほど柳瀬先生からの御説明にもありましたけれども、グローバル化を背景とした統合的なリスク管理の重要性、単なる契約保守ですとか、支払い業務の事務手続の簡素化といったところにとどまらない保険契約の一元管理の必要性、こういったものは高まり続けているわけですけれども、それに対して日本企業は、やはり環境認識、そして体制ともに相対的に弱いと言わざるを得ないんだなというふうに思っております。
 
 増山メンバーから御紹介いただいたような、ベストプラクティスの域までを実現できる、あるいは必要とする企業は、一定限られるのかなとは思いますけれども、まずは自社が抱えるリスク、事業リスクを正しく理解すること、そしてそれをカバーする手段として、企業内代理店に代わり、様々な選択肢を組み合わせて最適なリスクカバレッジを実現できる仲介人、アレンジャー、ブローカー、こういったものを選択肢とすることによって、複雑さが増している事業リスクをより適切にカバーするということは可能であるかなというふうに思っております。
 
 今までは、ここまで議論してきたような株式保有ですとか、出向者による企業保険マーケットの囲い込み、企業内代理店の存在といったものが、一定参入障壁となってきたことから、例えば保険ブローカーのような複雑な保険組成を専門とするアドバイザリープレイヤーが、なかなか競争に参加しにくい環境にあったのかなというふうに思いますけれども、この事案をきっかけに適切なリスクカバレッジの実現に向けた選択肢の一つに加えることで、企業保険マーケットにおける適正な競争環境の整備、こういったものを促進することにつながるのではないかなと思っております。
 
 私からは以上です。
 
【洲崎座長】  滝沢メンバー、どうもありがとうございました。
 
 ほかにいかがでしょうか。では、山下メンバー。その後に嶋寺メンバーにお願いします。
 
【山下メンバー】  すみません、先に発言することのお許しをいただきありがとうございます。山下でございます。私からは3点ほど申し上げたいと思います。
 
 まず、共同保険の組成の仕組みについて、事務局説明資料の4ページで、シンジケートローン方式とレイヤー方式が例示されておりますけれども、いずれも損害保険会社と顧客企業との間に、アレンジャー、または仲立人、代理店などの仲介者が介在するという形になっております。この仕組みがうまくいくためには、誰が仲介者などを務めるのか、その選定をどうするのか、そして組成などの事務コストに対してどういうふうに報酬を払うのかなど、検討すべきことがいろいろあるように感じました。
 
 保険仲介者は、仲立人であっても顧客からは費用を取らないというのが一般的な慣行なので、それがそのままだとしますと、顧客企業は共同保険の組成や管理に対する報酬を払わないということにはなるのですけれども、それだと少々問題が生ずるように思います。
 
 というのは、共同保険の組成というサービスについて、そのサービスを受ける顧客企業が報酬を支払い、仲介者はサービスの品質と報酬の額をめぐって競争をするという形でなければ、結局は本業支援など不透明な営業活動により競争することになるんではないかというふうに懸念されます。増山メンバーのプレゼンにもありましたように、少なくとも企業保険分野においては、保険仲介者の報酬の在り方というのは要検討であるというふうに思っております。
 
 2点目が企業内代理店についてでございます。事務局の説明資料10ページの図を見ましても、やはりその立場というのは非常に分かりにくいと言わざるを得ません。顧客企業グループに属して、グループ全体の経営方針に従うという立場にある一方で、保険募集との関係では保険会社から委託されて、保険会社のために募集業務を遂行するという立場にあるわけでして、この2面性といいますか、不透明さから、様々な問題が生じているということが、今回明らかになったのだというふうに認識しております。
 
 そうしますと、企業内代理店の立場を明確化する必要があります。その場合に、企業内代理店を顧客企業グループから切り離して完全に独立させてしまうのか、顧客企業グループに属しながらも、少なくとも保険募集との関係では自立を図ってもらうのか、いずれかが選択肢としては考えられそうです。その観点からいえば、特定契約比率規制の見直しは、ぜひ進めていただきたいと思っています。
 
 特定契約比率の規制によれば、特定保険、すなわち、自らまたは自らの人的・資本的に密接な関係を有する者を保険加入者とする保険契約を、一定割合に抑制しなければならないということになりません。そうしますと、グループ外に保険契約を求めていくということになるはずで、それを実現するためには代理店としての実務能力を向上させる必要があります。そこで、実務能力向上のために努力するか、実務能力向上は無理なので企業内代理店であることを諦めるか、どちらかになるはずです。すなわち、特定契約比率規制の見直しは、結果として、企業代理店の立場の明確化につながるのではないかというふうに思います。
 
 特定契約比率規制の見直しとして、具体的には、事務局説明資料の9ページにあるように経過措置はそろそろやめる必要があるのではないかというふうに思います。また、特定契約比率規制の趣旨として、保険料の実質的な割引の防止ということも挙がっております。この場合に、保険料の割引の便益は、個社の決算だけではなくて、連結決算にも反映されますので、特定者の範囲としては連結決算ベースで考えるという考え方に、私は賛成です。あるいは、そのほかにも特定契約比率規制については見直しの必要があるかもしれません。
 
 ただ、他方で、企業内代理店というのはどうも多種多様で、一律に捉えることができないということも資料に書かれておりまして、それは確かに考慮すべきであると私も思います。そのため、まず企業内代理店の立場の明確化が必要であるとか、特定契約比率規制の見直しの必要があるという、その方向性は確認した上で、今後、企業内代理店の実態調査をして、その結果を踏まえたうえで詳細を詰めていくということでよいのではないかと思っております。
 
 最後に、企業のリスクマネジメント能力向上の点ですけれども、これはまさにコーポレートガバナンスの一環として企業は積極的に取り組むべきものだと思います。
 
 そして、柳瀬先生のプレゼンにもありましたけれども、株主に対する説明責任を重視する企業が増えているというのは、まさに投資家からのプレッシャーが上場企業にかかってきていることの表れだというふうに思います。これをさらに後押しするためには、大村メンバーも御指摘されたように、コーポレートガバナンス・コードに盛り込むことは、一つの有力な選択肢であり、これが実現すれば、かなり実効性があるのではないかなというふうに考えております。
 
 私からは以上です。
 
【洲崎座長】  ありがとうございました。
 
 それでは、続きまして、嶋寺メンバー、お願いいたします。
 
【嶋寺メンバー】  ありがとうございます。私からも幾つかコメントをさせていただきます。
 
 まず共同保険に関してですけれども、この仕組みには巨大なリスクの引受けという観点で、合理的なニーズがあると思いますが、現状の実務を見ておりますと、本来共同保険にする必要のないような契約まで共同保険が広がり過ぎているという印象がございます。
 
 資料にも書かれておりましたが、トップラインの維持という従来の経営の姿勢というものも関係してくるのかもしれませんけれども、共同保険にする必要がない契約については、本来は適正な競争をして、単独での引受けを目指すというのが基本ではないのかなと思います。
 
 その上で、共同保険を行うことが必要な場面はもちろんあると思いますけれども、そのような場面についても、あくまで保険契約は各保険会社と契約者との間でそれぞれ成立するということになりますので、保険料率が同一である必然性は、本来はないのかなと思います。
 
 実際に共同保険の実務を見ておりますと、保険料の支払いであったり、支払保険金の精算というのが、システムで行われているということもありまして、既存のシステムの改修というものが必要になってくるかもしれませんが、やはり異なる料率で各社が引き受けできるようにする、そういう仕組みを構築することを検討すべきではないかと考えております。
 
 2点目に企業内代理店についてですけれども、先ほど他のメンバーからもお話があったとおり、特定契約比率の問題については、経過措置を撤廃するという方向性に賛成でございます。資料にも書いておりましたが、特定者の範囲をどうするかという問題については、やはり多種多様な企業グループの形態があることを加味して判断していく必要があると思いますが、少なくともこれだけ時間がたっている状況を踏まえますと、現在の経過措置を維持する合理性というのはなくなっているのではないかなと思います。
 
 1点、事務局からの説明資料の中で気になったのが、9ページの部分で、企業内代理店の活用の例として、役員の個人情報の取扱いとの関係で企業内代理店の活用が有効という記載がありましたが、私は企業の賠償責任保険の支払実務に関わる機会が多いのですけれども、あまりその場面で役員の個人情報の扱いが問題になるということは実際経験しておりませんので、この問題はなくはないのかもしれませんが、それほど大きな根拠になることでもないのかなと感じたところですので、1点だけコメントさせていただこうと思いました。
 
 最後に、日本企業のリスクマネジメントという観点についてですけれども、企業保険の支払実務に関わっている中で感じますのは、実際保険に入っていても、補償内容が適切でないために、いざ事故が起きたときに、保険会社としては保険金を払いたくても払えないというような事案が、実は結構多いというところでございます。
 
 幾つか例を挙げますと、企業保険も基本は1年契約ですので、毎年契約更新をするわけですが、まだまだ前年と同じ条件で契約を継続しているという企業が多い印象があります。ただ年数がたつうちに、当然事業の内容は変わっていきますので、次第に保険カバーの範囲と事業の内容がずれていくということが起きていて、いつの間にか重要なリスクが補償の対象から外れてしまう、こんなことも実は珍しくないと感じております。
 
 また別の例としては、工場で扱う製品の種類が変わったり、在庫の量が大幅に増えるということがあっても、本来それに応じて保険金額は見直していかないといけないのですけれども、保険金額を上げていないために、実際事故が起きたときに十分な補償が受けられない、こんな事例も実はたくさん起きています。
 
 これらの情報はなかなか表に出ないということがあるために、あまり知られていませんけれども、私が支払実務に携わっている中で、いつか大規模な事故が起きたときに、保険へのリスクヘッジが適切にされていなかったという理由で、損失を出した企業の役員が株主から訴えられるような代表訴訟が起きることがあるのではないかと、非常に心配しているところでございます。
 
 今回の有識者会議では損保会社の問題というのが主に議論されておりますけれども、企業保険の分野においては、損保会社だけが変わればよいということではなく、契約を締結する企業の側も保険のことをよく知って、リスクマネジメントの一環として適切に保険契約を活用していく、そういうことが重要ではないかなと思います。
 
 先ほど柳瀬先生からの報告にもありましたが、確かに企業で保険に関する情報を、財務の部門であったり、総務の部門が一元管理しているところは多いと思いますが、では、そこで管理していても形式的な管理にとどまっていて、事業の実態に応じた保険をつけていくところが、果たしてどこまでできているかということについては、実際に支払実務に携わっている中では非常に疑問を感じるところでございます。
 
 増山メンバーからお話があったグローバルプログラムというのは、一部の大企業については活用される事例がありますが、私が見ている多くの企業保険の支払事例というのは、もっともっと小さい企業であったり、中小企業もたくさんありますので、なかなかそこまでのプログラムは組めていない。
 
 やはり単発の賠償責任保険の組合せ、財物保険の組合せという企業がまだまだ多いという実態にありますけれども、それについても事業の変化、事業の内容に応じて、適正に保険を掛けていくということが行われていないために、本来事業活動をバックアップするはずの損害保険がうまく機能していないという現状については、非常に残念に感じるところがあります。今回の議論をきっかけに、損保会社側も変わっていかないといけませんが、同時に企業側についても、保険リスクマネジメントということを考えるきっかけになっていくといいのかなと感じたところでございます。
 
 私からのコメントは以上です。
 
【洲崎座長】  どうもありがとうございました。
 
 それでは続きまして、金岡メンバー、お願いします。
 
【金岡メンバー】  金岡でございます。私は国立大学法人の理事を務めておりまして、国立大学協会の損害保険運営委員会の委員にも就任しおります。今回のテーマは、企業側の立場と損害保険会社の立場について様々な議論がございましたので、私としては、国立大学協会で加入している共同保険の保険契約者側の立場から発言をさせていただきます。
 
 今回事務局のから御紹介いただきました共同保険契約の見直しの部分についてです。例えば国立大学協会の場合、保険会社と代理店が、過去の保険金の支払金額・件数等について数値を示したうえで、各国立大学の昨年度支払い保険料と各国立大学への保険金支払状況等を確認し、翌年度の保険料交渉を行いました。
 
 その中で感じましたことは、保険会社さんは非常に優秀な社員の皆さんが担当してくださっていることが1つです。保険会社さんの担当者さん、特に幹事会社になられた保険会社さんは、代理店さんと協力しながら丁寧に対応してくださっているという印象を受けました。柳瀬先生にご報告いただきました「保険会社のサービス価値」が高いことは、国立大学のような運営形態の法人が加入する共同保険においては、非常に重要なことであります。
 
 現行の共同保険においては、本有識者会議で明らかにされましたような基準に基づいて、保険会社さんから代理店さんに対し、代理店手数料が支払われており、代理店さんについては、保険契約者が支払う保険料から、代理店さんの募集活動、その他必要なサービスを提供していただいているという感覚でございますが、保険会社さんからも、リスクマネジメント情報提供、事故報告手続き、損害査定、保険金支払い手続き等において質が高い保険契約者サービスを提供いただいていることについては、実は、ただではないのかもしれませんが、追加料金を請求されることなく、ご対応いただいていると感じています。
 
 そうしますと、不適切な便宜供与ですとか、違法な保険料調整等の問題が出てきたことをきっかけに、もう少し独立した形で、かつ企業側というか、保険契約者側も、増山委員が御紹介していただいたような形で、もっと努力をして、今回4ページで提案していただいたような新しい仕組みを導入していくということを想定することになった場合、現在の共同保険のしくみにおいて、保険会社さんが代理店さんと協力して提供している良質なサービス等現在の共同保険のよい面まで失われてしまう可能性がないか、心配です。たとえば国立大学協会の場合は、共同保険の翌年度以降の保険料の値上げに関して、代理店と保険会社から示された過去の保険金支払金額等の数値を基に、翌年度以降の保険料がリスクに応じた合理的かつ適正な保険料であることを確認し、国立大学協会における必要手続きを経て、翌年度以降の共同保険の保険料の値上げに応じました。
 
 しかしながら新しい共同保険の仕組みが導入されることによって、アレンジャーさんに支払う手数料ですとか、新たに様々なプラスのフィーがかかってくるだけでなく、保険会社が引き受けられないリスクについては、保険外の自己保有リスクとして内部で引き受けなければならない状況になりますと、国立大学としては非常に厳しい状態になる可能性もありますので、この機会にこのような発言をさせていただきました。
 
 したがいまして、現在の不適切な状態については、事務局の今回提案資料のとおりの方向性で改善していただきたいと思いますが、現行においていろいろ受けている良質な保険契約者サービスを得ることが、共同保険の仕組み自体の変更によって難しくなる可能性があることについても御考慮いただければと思います。
 
  それから企業内代理店をめぐる構造の11ページについては、ほとんど全てのメンバーの皆様から貴重な御意見をいただきましたが、私もほぼ同じ意見でございます。企業内代理店さんはやはり自立していただかなければいけないということは、一致した意見であると考えます。その自立の方向性としては、保険募集のプロとして、またリスクマネジメントのプロとして自立していただくということは、おおむね同じ意見であると考えます。
 
 現在、損害保険、生命保険、様々な保険の募集代理店さんとして、兼業されていない企業内代理店さんもあるかと思いますが、特定契約比率の規制の見直し、それから代理店の質の保証の評価によって、保険代理店として得られる保険募集手数料のみで経営的に自立することが難しい場合には、例えばその代理店さんが、高齢者支援の事業ですとか保険業以外の兼業をして自立していく道というものもあるかと思いますので、保険制度の維持と適正な募集のために必要な対策として、11ページで提案いただいたことについては、私は進めていただいたほうがよろしいかと思います。
 
 以上でございます。
 
【洲崎座長】  どうもありがとうございました。
 
 それでは、永沢メンバー、お願いいたします。
 
【永沢メンバー】  ありがとうございます。
 
 私は消費者側の委員として入っておりますので、企業保険の実態について、金融庁の資料、それから皆様からの御説明等で、見えなかったものが見えてきたという程度でして、本日はご説明に対する感想と、それから御議論いただきたいと提示された事項について、素人ながら感じたことをお話しさせていただきたいと思います。
 
 まず、参考資料として添付されておりました金融庁の調査結果については、大村メンバーと同意見で、私も大変残念なことと思いました。社員の方々が、よくないこと、やってはいけないことと分かっていながら、そのような行為を行ったことがあるという回答があったこと自体が大変残念なことですし、不適切行為を容認するような企業文化、あるいは業界文化があるということについても、改革が本当に急がれると思いました。
 
 また、これも大村メンバーの御指摘と重なりますが、こちらで損してもあちらでもうかれば、全体として収支が合えばいいというような発想がもし業界内にあるとするならば、それは、私たち契約者が損害保険について教わってきたこと、つまり、厳正な審査が行われているというご説明と矛盾するようにも思え、損害保険に対する契約者の信頼を失うものであると同時に、また株主に対しても信頼を失うことになるのではないかと思います。このような慣行があるということであるならば、すぐに正していただきたいと思いました。
 
 それから次に、柳瀬先生の調査結果は、大変興味深く伺わせていただきました。情報開示のワーキンググループでは、ガバナンス改革と情報開示の充実について議論してきているところで、その中で、リスクマネジメントについてもより具体的に説明してほしいという意見が挙がっております。
 
 リスクマネジメントの具体的な説明はどのようにあるべきかと考えていたところ、本日増山メンバーから、企業におけるリスクマネジメントの具体的な取組をご説明いただき、このような説明が情報開示で行われると、企業のリスクマネジメントについての株主の理解も進みますし、またそのようなことが行われていくことによって、企業全体のリスクマネジメントの取組も促されていくのではなかろうかと思いました。非常に興味深い調査結果であると思いました。
 
 それから、今日御議論いただきたい事項について、適正な営業推進態勢等については、前回も申し上げたことですが、適正な営業推進を進めていただくためには取締役会の役割が非常に重要と思っております。
 
 損害保険会社は株式会社であり、株式会社として利益の追求をされることは当然ですが、損害保険を提供する会社であり、長期的に持続可能な事業体として成り立つためには、契約者の信頼に応える厳正な審査体制の確保ができていることが欠かせません。そのような観点からも経営トップへの牽制が働くような仕組みが必要であろうと思います。素人ながらに申し上げるとするならば、例えば、監督指針等で、取締役会の議事録に具体的な記録が残されているかどうか等、当局がより厳しく検査を実施いただくことによって、取締役会によるその辺の牽制がより働くようになるのではないかと期待いたします。
 
 企業内代理店については、私も、ほかのメンバーと同意見でして、保険会社の代理人なのか、事業会社のグループの一部なのかが不明確であるのは、よろしくないと思いました。海外でも企業内代理店というものがあるのでしょうか。
 
 それから、ポイント制の説明を前回受けまして、この企業保険にも恐らくポイント制というのが適用されていると思いますが、そうならば、企業内代理店で特段何もされず、社員代行というような形で、保険会社から来てもらって業務をいろいろとほぼ全部やってもらって報酬も受け取られているとするならば、それは形を変えた保険料の割引なんじゃないかなとも、前回のお話と重ねて素人ながらにそう思いました。
 
 一方、企業内代理店として、しっかり業務をやっていらっしゃるところもあり、必要性もあって企業内代理店を置いていらっしゃる企業グループもあると思います。企業内代理店の実態はよく分からないということですので、これを機会にまず実態を把握していただくと同時に、資料の中に、特定契約比率というものが1996年に議論されて、以降、猶予期間ということでそのまま来ているということでしたが、四半世紀を超えております。なぜ猶予期間がそこまで長いのか。これはそろそろ結論を出されたほうがいいのではないかとも思います。
 
 前回から話題になっている第三者評価とか、管理者資格試験の導入とかというところですけれども、こちらはむしろ経済界の御理解を得られれば、企業内代理店については、進みやすいものではないかと思っております。
 
 山下先生からだったと思いますが、存続かやめるか、どちらかしかないのではないかというご意見に私も同感です。自立した代理店を目指すという方向で進めて、財界の御協力を得ることが必要であろうと思いました。
 
 最後になりますけれども、増山メンバーのご提言中、プロの企業には企業保険に関する規制の緩和をしてほしいというお話がありました。投資の分野では、特定投資家制度が導入されており、プロの投資家については規制を緩和しております。私自身、消費者の立場から、投資の分野において、個人投資家の保護を強くお願いしている立場ですが、日本のプロ投資家がよりグローバルな競争力をつけていくためには、めり張りをつけて、規制緩和はすべきところはすべきだという考えです。企業保険についても、自律してリスクマネジメントができる企業を育てていくために、規制緩和を検討する価値があるのではないかと思いました。
 
 私からは以上でございます。ありがとうございます。
 
【洲崎座長】  どうもありがとうございました。
 
 一通り、メンバーの皆様方から御意見をいただけたかと思います。多岐にわたる論点について、有益な御意見、御議論をいただいたと思いますけれども、多くのメンバーの方々が、企業内代理店の問題点については共通して問題意識を持たれていたのかなというふうに思います。さらに実態調査が必要ではないか、そして特定契約比率に関する経過措置の撤廃も考えていいのではないかということを、多くのメンバーが指摘されたように思います。
 
 井林副大臣から御発言の希望がございましたので、御発言いただければと思います。では、副大臣、お願いします。
 
【井林副大臣】  先生方には、大変積極的な御議論をいただきましてありがとうございます。
 
 恐らくこの3回までで各論的な話を終えて、6月には取りまとめるということでございますので、今後取りまとめの方向で御議論いただくのだと思います。もちろん個別の問題も重要でございますが、私としましては、この有識者会議で、やはり多くの有識者の皆様方が、企業内代理店の問題点ですとか色々な問題点を感じられていたと思いますし、また現場で私も色々な声をお聞きしますが、そうしたものがなぜ今まで改善されてこなかったのか、この業界内でなぜちゃんと改善が行われなかったのかという、この構造的な問題と、そして保険というのは非常に公共性が高いものですから、競争も大事ですが、適正な競争とは一体どういうふうにあるべきなのかということを通じて、国民の皆様や企業の活動のお支えになるような、そしてその発展に貢献できるような業界になっていくようなお取りまとめの方向で御議論を賜れば、大変ありがたいと思っております。よろしくお願いします。
 
【洲崎座長】  副大臣、どうもありがとうございました。
 
 時間のほうが押してきておりますけれども、これまでのメンバーの御意見、御発言、またオブザーバーの方々の御報告等を踏まえまして、もし御発言がございましたら承りたいと思います。
 
 では増山メンバー。
 
【増山メンバー】  すみません、2回目ですので手短になんですけど、先ほど嶋寺メンバーのほうから、共同保険が受けられるなら単独のほうがいいのではという御指摘もあったので、ちょっと実務的な違う観点で申し上げますと、企業保険って契約者保護機構の対象にもなっていませんで、戦略的に分けるというのは契約者側でももしかしたらあるかなということと、あとはやっぱり競争環境ですが、まさにその牽制効果という意味でも、複数社に引き受けていただくというような契約者判断は一つあるかなというふうに思った次第です。
 
 それからもう1点御指摘があった、補償内容が現実に合っていない。これはまさに当社も先ほど御説明したとおり、賠償責任がばらばらですというのが実態でしたので、多くの企業でこういうことがあるんじゃないかと思うんですけれども、保険種目でいきますと、特に賠償責任保険、これはもうグループ包括にする、包括化するというのをもう当たり前にすべきじゃないかなというふうに思っていまして。
 
 といいますのも、賠償責任保険は今、国内では施設賠償とか、PLとか、別々に売っていらっしゃるんですが、企業側としてこれは別々に入るニーズがあるのかというと、恐らくないでしょうし、それからグループ会社、本体と子会社が別々の保険に入ったほうがいいかというと、もしかすると事故で一緒に訴えられるケースもあるとすると、これはAとBと違う保険会社になっていたりすると、ここで利益相反が生じたりということもあり得ると思いますので、特に幾らの事故が起きるか分からない、これは最初のほうで申し上げたかもしれないですけど、企業にとって賠償責任保険って最後の砦ですので、これをグループで包括化する、それから会社が入ってきたり出たりという、いろんな変化がある中で、やっぱりそのプログラム化するメリットというのは、そこに抜け漏れがないというのは、企業経営者としても安心感があるんじゃないかなと。
 
 それが何かネームド、つまり記名式で会社ごとになっていますというと、どこで抜け落ちるか分からないという意味では、まさに嶋寺メンバーから御指摘があったとおり、非常に不安な状態だと思いますという意味では、商品ですとか売り方というところで、まずは賠責からそういう取組を進めるのが一案じゃないかなというふうに思った次第です。
 
 それから、永沢メンバーからも御指摘がありました、リスクマネジメント情報の開示。皆様からも御指摘がありましたが、開示というのはやはり企業にとって非常に大きな影響があるというふうに思っております。そういう意味では私の提言も、自律的なリスクマネジメントをやりますということは開示しますということなんですけれども、どこまでやるかというのは非常に重要なところだと思っていまして、例えば保険料とか保険条件とか、年間支払限度額とか、全部開示してくださいというと、これはさすがに競争環境上というところもありますし、それからリスクマネジメント上も、さすがにそこまでは開示できないというところもあろうかと思いますので、どういう開示をすれば企業側にリスクマネジメントを自主的に高めていくインセンティブがあるのかというところは、十分に議論されるべきと思います。
 
 以上です。
 
【洲崎座長】  どうもありがとうございました。
 
 では最後に、中出メンバー、お願いします。
 
【中出メンバー】  すみません、ごく手短に話します。今日のお話の中でも保険会社の活動はいろいろあって、そしてさらに多様なものになってきていて、また顧客から求められるものも変わってきているといえます。共同保険については、幹事社として報酬をもらってよいか、アレンジャーとして保険会社が報酬をもらうことがよいか、リスクマネジメントの提言そのもので報酬をもらっていくことをどのように位置づけるか。保険ビジネスの領域も広がってきていますし、保険のコアの業務の周りの部分についてもきちんとビジネスを正当的に実施できるように、さらには、そうした活動がやりやすいような業法上の枠組みや運用も考えていく必要があるように思います。
 
 2点目には、募集人等のレベルアップの重要性です。資格とか試験制度も重要で、協会等で進めている制度などを一層レベルアップして、それがインセンティブになるように、いろいろなところで利用していくのがよいのではないかと思います。
 
 以上です。
 
【洲崎座長】  どうもありがとうございました。
 
 先ほど最後にというふうに言ってしまいましたけれども、もう一言発言したいという御希望がございましたらお知らせください。よろしいですか。
 
 どうもありがとうございました。まだまだ議論は尽きないところでございますけれども、お時間が参りましたので、一通り御意見をいただいたということで、本日の自由討議は以上で終わらせていただきたいと思います。多くの貴重な御意見をいただきましてありがとうございました。
 
 では最後に、事務局のほうから御連絡がございましたらお願いします。
 
【三浦課長】  それでは、事務的な御連絡になります。次回、第4回有識者会議は6月7日の金曜日に開催させていただきたいと思っておりますが、改めまして事務局より御案内させていただきますので、よろしくお願いします。
 
【洲崎座長】  本日はお忙しい中御参加いただき、熱心に御議論をいただきまして、どうもありがとうございました。

―― 了 ――
 
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