スチュワードシップ・コードに関する有識者会議
(令和6年度第1回)議事録
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1.日時:
令和6年10月18日(金曜日)10時00分~12時00分
2.場所:
中央合同庁舎第7号館13階 共用第1特別会議室
【神作座長】
おはようございます。ただいまより、スチュワードシップ・コードに関する有識者会議を開催いたします。皆様、御多忙のところ御参集いただきまして、誠にありがとうございます。
このたび、有識者会議の座長を務めさせていただくこととなりました、学習院大学の神作でございます。どうぞよろしくお願いいたします。
まず初めに、金融庁の油布企画市場局長より御挨拶をいただきたいと思います。油布企画市場局長、どうぞよろしくお願いいたします。
【油布企画市場局長】
7月から企画市場局長を拝命しております油布でございます。金融庁にも金融審議会とか企業会計審議会とか、いろいろ部会もワーキングもございますけれども、局長が挨拶するというのは実は非常に珍しゅうございまして、大体座っているだけのことが多い。今回挨拶してくれと頼まれまして、何でだろうと思って調べてみましたら、11年前の8月に、まさにスチュワードシップ・コードの最初のこの会合をお願いしたときに、私は企業開示課長でございました。例えば神作座長をはじめ、当時からのメンバーの方が何人もいらっしゃいますけれども、どうもその第1回の8月の会合のとき、私、局長に挨拶してくれと頼んだようでございまして、巡り巡って今回私が御挨拶を申し上げることになったということであります。
金融庁では、企業と投資家の自律的な意識改革に基づくコーポレートガバナンス改革の実践を非常に重視しております。御案内のようにダブルコードのフォローアップ会議も開催させていただいておりまして、6月には「コーポレートガバナンス改革の実践に向けたアクション・プログラム2024」を取りまとめていただいております。この中では、建設的な目的の対話を促進するという観点から、協働エンゲージメントの促進、あるいは実質株主の透明性の向上に向けた取組など、スチュワードシップ・コードの見直しのための提言がなされております。
このアクション・プログラムの記載を受けまして、本日この有識者会議を改めて開催させていただきました。今年度中を目途に改訂案を取りまとめることができればと思っております。ですから、今回の会議でも、先ほど申し上げましたように、例えば協働エンゲージメントあるいは実質株主の透明性の向上といったことを追加するための御議論をお願いするわけでございますけれども、ちょっと変わったことを1点申し上げたいと思います。
スチュワードシップ・コードは策定後2回改訂を行っておりまして、2回目の改訂のときは、私はまさに審議官のポストで担当しておりました。ただ、改訂の度に、やはりどうしても毎回毎回追加の項目をお願いするものですから、記載量が増えてまいります。もちろん、この増えた内容は私はどれも必要なものであったと思っております。例えばサステナビリティに関する記載とか、議決権行使助言会社に関する新たなチャプターの創設とか、いずれも不可欠なものであったと思っておりますけれども、他方でやっぱり記載量が増えていく一方というのも、ややいかがなものかという気はしております。
御存じのように、ダブルコードはいずれもプリンシプルベースの文書でございまして、決して法令ではございませんので、これを適用される側のほう、ガバナンス・コードの場合には上場企業さんになると思いますが、コンプラ疲れというようなことが言われるようではやっぱりコードとしての本質的な意義がどこか誤解されていると私は思っております。
今回も、新しい項目の記載をお願いする議論をお願いするわけですけれども、一つには、その追加の文言に関してもぜひプリンシプルベースということを念頭に置いて御議論いただければと思いますし、2つ目が、さらにこれは難しゅうございまして、あくまで方向性としてのお願いなんですが、既存の文言の中にも簡素化できるようなところとか重複している内容とかそういったところがもしあれば、この際若干でもスリム化を図れれば、こういうコンプライアンス疲れ、形式優先的な誤解も解けていく、あるいはコードというのはそもそもプリンシプルベースの、しかもコンプライ・オア・エクスプレインの文書なんだということを分かっていただくよいメッセージになると思っております。これは非常に難しい観点ですが、そういった観点も踏まえて御議論いただければと思っております。
その上で、新内閣の話になりますけれども、御存じのように石破総理は、所信表明演説などで、貯蓄から投資への流れを着実なものとして国民の資産形成を後押しする資産運用立国を引き継ぐとともに、産業に思い切った投資が行われる投資大国に向けた施策を講じると表明しております。そのためにも、機関投資家が建設的なスチュワードシップ活動などを通じて、企業の統治改革、経営改革を促す、そのことによりまして、例えば人的資本、成長部門への投資が促進されるよう取り組んでいくということが非常に重要であろうと思っております。メンバーの皆様方にはぜひ実効的なスチュワードシップ・コードの改訂に向けて、積極的な御議論を賜りますようお願いいたします。ありがとうございます。
【神作座長】
どうもありがとうございました。それでは、大変恐縮でございますけれども、報道関係者の皆様はここで御退出いただきますようお願いいたします。
(報道関係者退室)
【神作座長】
続きまして、事務局からメンバーの御紹介をお願いいたします。
【野崎企業開示課長】
事務局を務めさせていただきます企業開示課の野崎と申します。どうぞよろしくお願いします。
まず、メンバーの皆様を御紹介させていただければと思います。座席順に御紹介させていただきます。メンバーの皆様から御覧になって右側から、佃秀昭様でございます。
井口譲二様です。
三瓶裕喜様です。
高山与志子様です。
武井一浩様です。
田中亘様です。
西村義明様です。
藤本宣人様です。
松岡直美様です。
松下浩一様です。
また、上田亮子様、大場昭義様、翁百合様は、本日オンラインで御参加されております。翁様は、所用のため途中退席予定と伺っております。
なお、本日は御欠席でございますけれども、メンバー表にありますように、ジェン・シッソン様、それから、北後健一郎様にも御参加いただくこととなってございます。
次に、オブザーバーの方々を御紹介申し上げます。東京証券取引所、渡邉上場部長です。
信託協会、藤井業務委員長です。
法務省、渡辺参事官です。
厚生労働省、榎基金数理室長です。
経済産業省、中西産業組織課長です。
また、全国銀行協会の安地企画委員長は本日オンラインで御参加されております。
また、本日、GPIFより、ESG・スチュワードシップ推進部長の塩村様にもお越しいただいております。後ほどエンゲージメントの効果検証分析についてプレゼンをいただく予定でございます。
事務局につきましては、お手元の配席図をもって紹介に代えさせていただきます。
【神作座長】
御紹介どうもありがとうございました。
続きまして、事務局から運営要領案と会議に関する留意事項について御説明をお願いいたします。
【野崎企業開示課長】
運営要領案につきましては、資料3に記載のとおりでございますが、御説明は時間の関係上割愛させていただきます。
次に、会議の留意事項について御説明申し上げます。本日の会議におきましては、オンライン会議を併用しております。オンラインでの御参加のメンバーにおかれましては、御発言を希望される際に、会議システムのチャット上にて全員宛てにお名前を御入力ください。また、対面での御参加のメンバーにおかれましては、お名前のプレートを立てていただければ、座長から指名いただきます。
【神作座長】
どうもありがとうございました。皆様、このような進め方でよろしゅうございますか。
(「異議なし」の声あり)
【神作座長】
ありがとうございます。それでは、そのように進めさせていただきます。
それでは、早速議事に移らせていただきます。本有識者会議は、資料1にございますとおり、スチュワードシップ・コードを改訂することを目的として開催させていただくものでございます。スチュワードシップ・コードにつきましては、金融庁、東京証券取引所を共同事務局とするスチュワードシップ・コード及びコーポレートガバナンス・コードのフォローアップ会議が本年6月、「コーポレートガバナンス改革の実践に向けたアクション・プログラム2024」を取りまとめており、その中でコードの見直しが提言されております。
コード改訂に向けた本会議を開催するに当たり、まず、事務局より前回改訂以降のスチュワードシップ・コードをめぐる状況や、今回の論点等について御説明をいただきたいと思います。どうぞよろしくお願いいたします。
【野崎企業開示課長】
よろしくお願いします。では、資料4に沿って御説明申し上げたいと思います。
まず、事務局説明資料の構成でございますけれども、目次をお開きいただきまして、前半に本日の御議論の御参考となる各種資料を掲載し、最後に本日御議論いただきたい事項を記載してございます。
まず、2ページ目はスチュワードシップ・コードの概要、3ページ目と4ページ目が2020年の改訂の概要、それから、5ページ目がスチュワードシップ・コード受入れの機関数の推移を記載しております。
6ページ目、こちらは、昨年末の市場制度ワーキング・グループ・資産運用に関するタスクフォースの報告書におきまして、スチュワードシップ活動の実質化に向けた取組の一環として、2段落目でございますけれども、協働エンゲージメントの促進等にも触れられているというところでございます。
7ページ目に行っていただきまして、主に制度の議論としまして、昨年末、TOBワーキング・グループの報告書では、大量保有報告制度上の重要提案行為とか、共同保有者の概念の明確化、実質株主の透明性向上に向けた取組の必要性について提言をいただいているところでございます。
8ページに行っていただきまして、この提言を踏まえまして、本年5月、大量保有報告制度上の共同保有者の範囲の明確化のための法改正を実施してございます。
9ページ、10ページ、こちらは先ほど神作座長からも御紹介いただきましたアクション・プログラム2024におきまして、赤囲みでございますけれども、建設的な目的を持った対話を促進するため、協働エンゲージメントの促進や実質株主の透明性確保に向けたスチュワードシップ・コードの見直しを検討というふうに記載がございます。
続きまして、11ページ目でございます。直近の動きとしまして、本年8月末にアセットオーナー・プリンシプルを公表してございます。原則5、特にその補助原則におきまして、スチュワードシップ責任とかスチュワードシップ・コードの受入れ表明についても言及されております。
12ページ目、ここからは国際動向でございますけれども、目下、英国で3回目の改訂に向けた作業が進められているところでございます。13ページ目、英国での見直しの方向性でございますけれども、※印にございますように、2020年、前回改訂におきまして、機関投資家のスチュワードシップ報告の負担が過大になっているという声が強く、原則のスリム化も含めて、左下に記載している事項が今見直しの主要テーマとして掲げられているところでございます。
14ページ目でございます。こちら、ICGNも直近9月にグローバル・スチュワードシップ原則を改訂してございまして、こちらも構成を見直してスリム化が図られているというところでございます。
16ページ目に行っていただきまして、機関投資家を対象に昨年実施しました、スチュワードシップ活動の実態に関する委託調査の結果を掲載してございます。こちらではエンゲージメントのためのリソースの問題、それから、エンゲージメント活動を行うためのインセンティブの欠如といった課題が挙げられているところでございます。
17ページ目でございます。今後の方向性としまして、運用機関、アセットオーナーにおける幅広い協働の取組と、行政当局のフォローアップの必要性などが提言されているところでございます。
続きまして、18ページ目からは、企業を対象に今年の春に金融庁において実施しました、エンゲージメントの実態に関する企業のインタビューの結果を掲載してございます。具体的には19ページからでございますけれども、コーポレートガバナンス改革に積極的に取り組んでおられる企業からは、企業の置かれている状況に応じ、参考となる他社事例の共有や、事業に精通した担当者による継続性のあるエンゲージメントを高く評価する声を複数いただいているところでございますけれども、下のグレーの欄にございますように、あと、次の20ページのグレーの欄にもございますけれども、いろいろな課題も指摘されているというところでございます。
21ページ目に行っていただきまして、こちらでは金融庁が海外投資家を含むステークホルダーとの意見交換をさせていただいているんですけれども、そこで寄せられた声の概要を掲載してございます。
22ページ目は、協働エンゲージメント、実質株主の透明性に関する現行コードの概要を抜粋として載せているところでございます。
24ページ目から、協働エンゲージメントの取組に関する資料でございまして、国内及びイギリスのInvestor Forumの取組を御紹介してございます。
25ページ目でございます。こちらは、諸外国における協働エンゲージメントに係るソフトローあるいは制度の枠組みを示した資料となります。
26ページは、先ほどエンゲージメント活動を行うインセンティブについて触れたところでございますけれども、例えばGPIFにおいては、パッシブ運用においてエンゲージメント強化型の仕組みを採用されており、そういったところの概要の資料となってございます。
27ページ目は、アセットオーナーによる運用機関に対する協働モニタリングの取組とか、MFA社のエンゲージメント支援の取組を掲載してございます。
最後、以上を踏まえまして、御議論いただきたい事項でございます。29ページ目に行っていただきまして、まず、コーポレートガバナンス改革全般につきまして、スチュワードシップ・コードが果たしている役割と今後の課題、それから、スチュワードシップ活動の実質化につきましては、パッシブ運用の割合が高まる中でのインセンティブ付与や、コストシェアリングの在り方、それから、スチュワードシップ活動の底上げに向けた各種取組、さらに、より広い主体によるスチュワードシップ活動を促進するための取組などについて御議論いただければと思います。
最後、30ページでございます。こちらは次回以降さらに御議論いただければと思いますけれども、実質株主の透明性についての論点も記載してございます。また、英国やICGNのコードに見られるような、先ほど局長のお話にもありましたけれども、スリム化に向けた御議論、それから、その他の課題についても御議論いただければと考えてございます。
事務局からは以上でございます。
【神作座長】
御説明どうもありがとうございました。続きまして、先ほど事務局からも御案内がございましたとおり、GPIFの塩村様より、エンゲージメントの効果検証分析について10分程度で御説明をお願いいたします。塩村様からは資料5を御提出いただいております。それでは、塩村様、どうかよろしくお願いいたします。
【GPIF塩村ESG・スチュワードシップ推進部長】
GPIFの塩村でございます。本日はこのような貴重な機会をいただきまして、ありがとうございます。エンゲージメントの効果検証のエッセンスを10分間でできるだけお伝えしたいと思いますので、かなり駆け足になると思いますけれども、御容赦いただければと思います。今回の検証結果につきましては、表紙につけておりますQRコードで飛べますので、お時間のあるときに御覧いただければと思います。
1ページを御覧ください。まず、このエンゲージメントの効果検証をなぜ始めたのかということですけれども、金融庁の方々、ここにいらっしゃる皆様の御尽力によりまして、エンゲージメントの重要性についてはかなりもう広く認識されることになったと思います。ただ、エンゲージメントについては、運用会社と企業との閉じられた空間で行われるものですので、日本でどのようなテーマでエンゲージメントが行われているのか、また、その効果はどうなのかということは、外から、我々も含めてうかがい知ることができないということがあります。また、エンゲージメントをする、しないということについて、社会実験を行えるわけでもありませんので、この左の図にありますように、エンゲージメントしなかった場合に日本の市場がどうなっていたのかということを見ることもできません。ですから、エンゲージメントによるβの向上ということを我々は志向しておりますけれども、実際のところ、そこを測るというのはかなり難しいところではあります。
ただ、こういった課題を抱えながらも、運用会社、企業双方がかなりの経営リソースを割いてエンゲージメント活動をやっているわけです。その効果を示すこと、また、PDCAサイクルを回す上でも実態を分析するということの重要性を鑑みまして、今回このようなプロジェクトを行っております。この効果をしっかり見ないと、当然今後も適切な経営資源の配分はなされないわけですので、そういった観点でも重要なプロジェクトと考えまして取り組みました。
2ページを御覧ください。今回の分析では、2017年度から2022年度、2022年度は12月末までですけれども、GPIFの国内株式の運用委託先21ファンド、全てのエンゲージメントの記録を頂きました。約27,000回のエンゲージメントについて中身を精査いたしました。1回のエンゲージメントで複数のテーマに関するエンゲージメントが行われるケースもありますので、その中身に応じてまた分類をしました。その分類が38のテーマになりまして、それをテーマごとに分けて数えますと、延べ48,000回のテーマとなっております。右にあるのがそのテーマの区分となっております。
次のページを御覧ください。運用会社の対話テーマの時系列での推移を見たものがこちらになります。こちらで、右側にありますけれども、G1、取締役会構成・評価とか、B1の経営戦略・事業戦略は、年度に関係なく非常に多い割合を占めていることがお分かりいただけると思います。また、時系列の変化としましては、E1の気候変動、こちらについてのエンゲージメントが増えているということが確認いただけるかと思います。
次のスライドを御覧ください。業種別に対話テーマの構成を見たものがこちらになります。どの業種も、B1の経営戦略・事業戦略、G1の取締役構成・評価をテーマにした対話が非常に高い割合を占めております。一方、業種別の特徴としては、エネルギー資源、電力・ガスといったところはE1の気候変動が多い、また、食品は生物多様性が多い、小売ではサプライチェーン、銀行では資本効率が多いというような形で、その業種によって対話のウエートが変わってきているということが確認できると思います。運用会社は、企業のマテリアリティに応じて対話を行っているということがここで確認できるかと思います。
次のスライドを御覧ください。企業側の対話対応者別の対話件数を見たものがこちら、件数を左、比率を右に示しています。まず、右の対話の比率のほうを御覧ください。年々、社長・会長、取締役・執行役員の方々が出ていただける対話が増えているということが確認できます。特にアクティブとパッシブの区分を見ますと、アクティブについては、社長・会長の対話の比率が多いということがお分かりいただけるかと思います。また、件数こそ、数こそは少ないですが、社外取締役との対話もパッシブを中心に増加傾向にあるということが御確認いただけるかと思います。
次のスライドを御覧ください。企業の対話対応者別にどのようなテーマで対話が行われているかというのを見たのがこちらの表になります。社長・会長との対話ということでは、B1の経営戦略・事業戦略をテーマにした対話が一番多いです。また、真ん中のほうにありますけれども、社外取締役については、G1の取締役構成・評価とか、G5-3のコーポレートガバナンス(その他)が多いということが確認できます。このその他の中身ですけれども、サクセッションプランなどもここに含めておりますので、そちらについては社外取締役の方と議論をしているということがここで確認いただけると思います。合理的な話かなと思います。
次のスライドを御覧ください。次の分析はProbit分析という手法を用いまして、どのような特徴を持つ企業が対話先として選ばれているのかというものを見たものになります。この表の係数は対話が行われる確率とお考えいただければと思います。言い換えますと、対話されやすさを示している。赤く塗っているものについては、正の値で統計的に有意なもの、青いものは負の値で統計的に有意なもの。正ということは、左のほうにあります説明変数が増加する、増えると対話が行われやすいということになります。
具体的に見ていただきますと、支配会社持株比率というのがずっと青になっていると思いますけれども、これは支配会社持株比率が高いとエンゲージメントが行われないということです。これは企業側が声を上げても声が通りにくいということなのかもしれませんし、運用会社さんも親会社と話したほうがいいというような話かもしれません。また、上から2つ目の総資産というところを見ていただくと、全部赤くなっていると思います。これは総資産が大きいほど対話を受けやすいということですので、企業規模が大きい会社にエンゲージメントが行われているということが確認できます。
続きまして、今回の分析の一番中心となるところを紹介したいと思います。次のスライドを御覧ください。エンゲージメントが実際に企業価値向上や様々なKPIの改善につながったのかという分析を行いました。分析手法の細かいところについては、今日は割愛させていただきますけれども、直感的な説明としましては、エンゲージメントを行った企業と行われてない企業で、エンゲージメント前とエンゲージメント後においてそれぞれのKPIがどのように変化したのか、その差がどれだけあるのかというものを見る分析を使っております。これは差分の差分法と言われるものです。
ただ、差分の差分法を用いるだけでは、当然エンゲージメントを受けた会社と受けていない会社というのは、根本的な企業の特性の違い、企業規模などの違いがあるということを先ほど御説明いたしましたけれども、それをそろえるという観点で傾向スコアマッチングという手法を使って、その2つを組み合わせた形で分析をしております。つまり、エンゲージメントが行われた会社と似た特徴を持つがエンゲージメントが行われていない会社とを比較して例えば企業価値がどう変わったのかというのを見るということです。
次のスライドを御覧ください。今回分析対象としましたのは、右のほうの表、KPI一覧の、B1とか書いてありますけれども、こちらに挙げております10個のテーマに絞って分析を行いました。その10個のテーマに沿ったエンゲージメントで関連するKPI、例えば気候変動に関するエンゲージメントであれば、炭素強度が改善したのかとか、脱炭素目標を掲げる企業が増えたのかどうか、そういったことを見ています。また、共通KPIということで財務指標とか企業価値を示す指標、そういったものを中心に、その両方を合わせて、エンゲージメントの結果、これらが改善したのかどうかというものを見ております。
その結果が次のスライドになります。こちらは統計的に有意なものを全て列挙したものになります。例えば気候変動に関するエンゲージメントでは、脱炭素目標の設定が増える、8%増えるということが確認できています。また、そういった直接的なものではなくても、市場の評価という意味ではPBRが改善するということが確認できています。
また、同じように取締役構成・評価に関するエンゲージメントでは、独立社外取締役が増えるということや時価総額が増えるということなどが確認できています。この時価総額の0.06というものについては、小さいようにも見えますけれども、これは6%ですので、エンゲージメントをされた企業とされてない企業と比べると6%企業価値に差がある、時価総額に差があるということが確認できます。また、具体的により見ていきますと、2017年度にこの取締役構成・評価においてエンゲージメントを受けた企業は256社で時価総額が304兆円ですので、そう考えるとこの6%というのはかなり大きいということが言えるかと思います。こういったことでやはりエンゲージメントについては実際に効果があるということがこの分析では示されたと考えております。
今後の課題ということで次のスライドを御覧いただければと思います。今回の分析では、エンゲージメントを受けた企業が、初めて受けてからそれから先ずっとKPIにどれだけ変化があったのかということを追い続けております。ただ、実際のエンゲージメントに関しては、複数の会社さんから受ける場合とか、同じ運用会社さんが何度も同じ会社にエンゲージメントする場合、いろいろなケースがあると思いますけれども、それらのケースを分けて分析していくというのはこれから一つ課題かなと思っておりますし、先ほど事務局の方から御説明がありましたけれども、協働エンゲージメントについて関心が高まっているということですので、複数の運用会社さんが、示し合わせていないにしても、同じテーマで同じようなタイミングでエンゲージメントを行った場合にどういう効果があるのかというのは、一つ今後深掘りしていきたいテーマと考えております。
ちょっと駆け足になりましたが、御説明は以上であります。
【神作座長】
どうもありがとうございました。続きまして、メンバーの方から御説明をいただきたいと思います。近年のエンゲージメント実務の在り方について、運用機関の立場から、井口メンバーより10分程度で御説明をお願いいたします。井口メンバーからは資料6を御提出いただいております。それでは、井口メンバー、どうぞよろしくお願いいたします。
【井口メンバー】
ありがとうございます。本日はこのような機会をいただき、ありがとうございます。スチュワードシップ活動への考え方についてプレゼンさせていただきます。本日は個人の考え方を述べさせていただければと思いますが、私は現在所属しておりますニッセイアセットマネジメントで10年超にわたりスチュワードシップ活動の責任者をしております。ですので、私の考え方の多くが当社の取組の中に含まれていますので、本日の説明の中で当社の開示資料も使わせていただきたく思っております。よくある運用会社の宣伝ではありませんので、その辺りを御理解いただければ幸いでございます。
次のスライドお願いいたします。本日お話しさせていただくスチュワードシップ活動の実効性向上についてですが、ここに記載しております8点が必要になると思っています。本日はこういったポイントが実際の当社の方針や活動にどのように織り込まれているかを具体的に御説明させていただきます。
次のスライドお願いいたします。最初は原則1にありますスチュワードシップ活動の方針となります。まず、スチュワードシップ活動の目的というのは、受益者の中長期的なリターン向上としております。これはとりもなおさず、投資先企業の中長期的な企業価値向上を目的としているということになります。また、この目的を達成するための出発点として、企業活動への深い理解と洞察、つまり、企業リサーチとなりますが、リサーチは実効的なスチュワードシップ活動の出発点として欠かせないと考えております。
次のスライドをお願いします。こちらのほうには対話のプロセスを、ちょっと細かいですが、①から⑤の段階に分けて記載しております。一番最初、左の①の段階で企業分析を行い、企業の状況の適切な把握を行っております。①のほうから下に矢印を出しているところとなりますが、企業分析について記載しております。時間の関係で詳細は割愛いたしますが、企業の将来のキャッシュフローに影響するサステナビリティ要因を識別した上で、中長期的視点で業績予想を行うということをしております。この企業分析を通じ、③と書いてありますが、企業の弱み・改善点、企業価値向上に向けた課題を発見することができますので、その課題を次の④にありますように、対話アジェンダとして設定、そして次の⑤でそれについて対話をするということになります。また、最後の⑤のところで進捗管理と記載しておりますが、これについては後で御説明したいと思います。
なお、このような中長期の企業分析をベースとするスチュワードシップ活動におきましては、今後、ISSB、SSBJ基準で開示されますサステナビリティ関連財務情報に対する読み解き、この能力が実効性向上においても重要になるのではないかと思っております。
次のスライドお願いします。こちらのほうはスチュワードシップ活動の態勢となります。先ほど御説明いたしましたように、企業の状況の把握が重要と考えておりますので、当社では、リサーチを行っているアナリストが担当企業においてスチュワードシップ活動を実施するということにしております。先ほどGPIF様からも御説明がありましたが、右の円グラフにありますように、対話アジェンダの割合を記載しております。今申し上げたような対話プロセスの結果もありまして、経営課題も含んでとなりますが、ガバナンスの割合というのが一番高い状況になっております。
次のスライドお願いします。こちらのほうは、先ほど少し触れました対話の進捗管理について記載しております。スライドにございますように、対話アジェンダの新規設定から対話の完了までのステップで管理していますが、対話の進捗管理は、単に対話の管理にとどまらず、適時適切な対話の確保においても重要と思っております。一方、こういったやり方をしていますと、個別企業ごとの対話となり、企業価値向上に向けてのアジェンダは企業さんごとに様々ですので、管理等が大変となります。従って、右のほうに記載しておりますが、対話の高度化を推進するチームを設置しております。ただ、この分野はまだまだ発展途上で発展させる必要があるのではないかと思っております。
次のスライドをお願いします。こちらはちょっと小さくて恐縮ですが、対話事例の開示となります。アセットオーナーさんばかりではなく、対話先企業にも当社の対話の状況を理解していただき、円滑な対話が可能となることを目的としてこのような開示をしております。事例の中では、理解度向上のため、対話アジェンダを設置した背景、対話概要、結果・進捗などを開示しております。
次のスライドお願いします。こちらは議決権行使となります。実効的な判断ができるよう、企業の状況を理解したアナリストが一次判断をし、私のほうで全件最終決定するという形にしております。また、最初の方針のところでも御説明しましたが、議決権行使も対話の一つの手段と定めておりますので、議決権行使基準の策定において、投資家としてのメッセージがきっちりと伝わるように、賛成と反対となる事項を明確に定めておるといったことをしております。一方、規律を持った中ではありますが、一部の議案については、基準外判断、オーバーライドを行うこともありますが、オーバーライドをした上で対話を行うことは有効と認識しております。ただ、このような対話をするに当たっては、行使基準の明確化は必要と考えております。
次のスライドお願いします。もう一つ、議決権行使の実効性の向上の観点でやっていることですが、大きな基準変更時には適用する1年前に基準を策定・公表し、適用までの期間に対話などを行い、企業の変化を促進するといった取組もしております。掲載しているスライドですが、これは来年2025年6月の株主総会から適用します取締役会の構成や資本コストについての基準変更となりますが、この基準については今年2024年2月に策定し、公表しております。即、適用しないので、反対率は上がらないのですが、実効的な取組の一つと考えております。
次のスライドお願いします。こちらは御参考となります。
次のスライドお願いします。こちらは協働対話となります。協働対話には、個別の企業に働きかける直接的な協働対話と、投資家の行動に働きかけ、基本的な考えを共有しながら個別の判断は投資家に委任する、間接的な協働対話の2つがあると考えております。どちらの協働対話も有用と考えておりますが、投資家の運用戦略、テーマ、対話に活用可能なリソースなどによって有用な協働対話の形は変化すると考えております。
当社のケースでいいますと、間接的な協働対話では、私が2015年からICGNの理事であったということもありまして、ICGNの考え方の多くを取り入れております。一方、直接的な協働対話につきましては、テーマ別の対話、例えば、気候変動を対話する、CA100+のような洗練された協働対話に参加しております。こちらのスライドにも示しておりますように、協働対話への考え方についても公開しております。将来的には、テーマ型対話だけではなく、資本効率などの投資家の間の意見がまとまりやすい事項や、あるいはパッシブ運用でのみ保有している銘柄に対し、個別の企業に対する直接的な協働対話の活用もあり得ると思っておりますが、現状はこのようになっております。
また、これは協働対話の副次的な効果と言っていいかもしれませんが、協働対話には教育的な効果もあると思っております。私の経験も踏まえれば、グローバル機関投資家団体との協働対話というのは、グローバル投資家や優れた投資家と議論する機会を得ますので、効果があると考えております。この意味ではICGN、あるいはPRIへの活動に積極的な参加を推奨するというのはスチュワードシップ活動の実効性向上において望ましいのではないかと思っております。
次のスライドお願いします。こちらはスチュワードシップ活動における一つの大きな課題を示しております。これは当社の課題だけではないと思っておりますが、パッシブ運用でのみ保有している企業への対応が課題と思っております。当社の場合、これまで説明した方式で時価総額ベースでは8割ぐらいはカバーできると思っておるのですが、投資先の企業数ベースでいいますと30%程度しかカバーできないという状況だからです。この課題に対する一つの解決手法というのが、投資家の開示と考えております。
スライドの左のほうにちょうどありますように、サステナビリティレポートの中にスチュワードシップ活動の振り返りと自己評価の開示も含めておりますが、開示においては、分かりやすさを可能な限り配慮しております。また、それをさらに分かりやすく解説した資料なども、右のほうに公開しております。そのほかにも、先ほど申し上げましたように、議決権行使基準も賛否が明確になることに努めまして、投資家の期待をしっかりお伝えしようと思っております。このように、投資家の開示というのは直接御説明できないアセットオーナーの方に対しても有用であるばかりではなく、アクセスできない企業の方にも有用と考えております。
次のスライドお願いします。こちらのスライドにはスチュワードシップ活動のガバナンス態勢を掲載しております。スライドにもございますように、スチュワードシップ活動を監督する組織として責任投資監督委員会を設置しておりますが、委員会は主に、当社の独立社外取締役4人で構成されております。委員会での議論を通じ、社外取締役はスチュワードシップ活動の状況について理解するということになりまして、実質的に取締役会から執行までの監督は可能になっていると思っております。このような社外取締役を中心としたスチュワードシップ活動のガバナンス組織というのは、運用会社の持続的なスチュワードシップ活動において欠かせないと感じております。
次のスライドお願いします。ガバナンス組織の透明化にも努めております。ちょうどスライドの左のほうにありますように、委員会が開催された日付及び議題を開示しております。また、委員である社外取締役との対談内容も毎年公開しておりまして、理解に努めておるという状況でございます。
次のスライドお願いします。最後のスライドとなりますが、機関投資家向けサービス提供者への対応となります。現状、原則8に記載しておりますが、議決権行使助言サービスだけではなく、スチュワードシップ活動において様々なサービスの活用が増えている中、サービス提供者のスチュワードシップ活動への影響力は大きくなっていると考えております。例えば気候変動の対話先を選ぶときに、温室効果ガス排出量のデータを活用する、あるいは購入することになりますが、このデータが不正確でありますと対話先が異なってくるといった状況も生じ得ると考えております。当社では、金融庁で策定された「ESG評価・データ提供機関に係る行動規範」も参考に対話に努めている次第です。
以上でございます。ありがとうございました。
【神作座長】
どうもありがとうございました。これから御討議いただきますけれども、討議に移る前に、本日御欠席のジェン・シッソンメンバーから、意見書として英文の資料7-1、それを翻訳した7-2を御提出いただいておりますので、事務局より簡単に御紹介をお願いしたいと思います。
【野崎企業開示課長】
それでは、ジェン・シッソンメンバーより頂戴した意見書につきまして、資料7-2、この日本語に沿って御説明させていただければと思います。
まず、「課題1:スチュワードシップ活動の実効性を高める」についてでございますけれども、スチュワードシップ活動の実効性を高めるには、スチュワードシップの目標と投資家の期待について、企業内で理解を深める必要がある。優れた対話とスチュワードシップは、建設的であって、対立的でないことを忘れてはなりません。
対話の議論の有効性を高めるには役立つ幾つかの方法がありますということで、まず、1)としまして、株主総会前の企業情報のタイムリーな、かつ質の高い開示。日本の現在の慣行は、有報が株主総会後に発行される唯一の市場であり、極めて異例。これは企業と投資家との間の情報に基づいた対話の妨げになっています。有報の早期発行は、エンゲージメントや議決権行使を含むスチュワードシップ活動において投資家に役立ちます。
2)でございますが、ミーティングの目的の明確化と企業側、投資家側の双方からの適切な人々が関与することの確保。対話のミーティングには幅広い議論と目標が含まれます。したがって、出席すべき人々のリストは一律ではありません。投資家と投資先企業との間で明確な議題と優先事項が定められていれば有益でしょう。様々な場面で、CEO、CFO、部門長、取締役が様々な課題について対話するのに最適な立場にある場合があるということでございます。
続きまして、3)スチュワードシップには様々なアプローチがあり、それを実行する唯一の正しい方法はないという理解の促進。資産運用会社やアセットオーナーは、それぞれ異なる目的と期待される成果をもってスチュワードシップに取り組みます。投資と同様にスチュワードシップが均一なプロセスではないのは当然です。一番下でございますけれども、スチュワードシップ活動に十分なリソースが確保されていることは非常に重要であり、適切に資金が提供されるのを促す方法を見つけることが鍵となる。
4)でございます。協働対話に対する実際の、または認識されている障壁を取り除くことも重要。資産運用会社やアセットオーナーが協働対話を行うことは必ずしも必要ではありませんが、これが有用なツールである場合がある。我々は、金商法の改正により共同保有者の定義が明確化されたこと、それによって投資家の効果的な協働が可能になることを歓迎します。一番下でございますが、適切な場合にはスチュワードシップ・コードの改訂においてさらにこれを明確化するということは、協働対話の実践を促進する上で有益であると考えます。
5)でございます。個別企業とシステミックなスチュワードシップの実践はどちらも有用なツール。スチュワードシップ・コードは個別企業の資本管理と配分に重点を置いていますが、市場全体を見据えたユニバーサル・オーナーの視点からのスチュワードシップも、企業やその企業が活動する広範な市場、そして長期的なアセットオーナーに利益をもたらす貴重なツールとして認識されることが重要。
課題2、実質株主の透明性でございます。私たちは、透明性が重要であり、対話プロセスの効率化に役立つという点で、全般的に賛成。日本では株主名簿に記載されていない実質株主は株主総会に出席できないことがよくある。これは企業の裁量次第ですというふうに書かれてございます。
課題3、スチュワードシップ・コードのスリム化。次の2つの領域でスリム化は賛成。1つ目としまして、コードの内容と原則。重複を排除し、期待事項を簡素化する。2つ目としまして、署名者の報告負担と期待事項というところでございます。ただし、スリム化によってコードが骨抜きになったり、署名者のスチュワードシップに対する全体的な期待が低下するようなことがあってはならないと強く確信していますというふうに記載されてございます。
私からは以上でございます。
【神作座長】
どうもありがとうございました。それでは、これよりメンバーの皆様から御意見、御質問をお伺いする討議の時間とさせていただきます。本日は初回ということでもございますので、事務局やメンバーからの御説明に対する御質問とか、当会議の進め方なども含めまして、それ以外の論点についても幅広く御意見等をいただければと考えております。
時間が限られておりますので、メンバーの皆様の御発言のお時間を確保できるよう、大変恐縮ではございますけれども、お一人当たり4分程度をめどに御発言をいただければ幸いでございます。なお、御発言から4分が経過したタイミングで、恐縮ですけれども、事務局よりベルを鳴らして合図をさせていただきます。
それでは、どなたからでも結構でございます。いかがでしょうか。御発言をいただければと思います。
佃メンバー、お願いいたします。
【佃メンバー】
今お話がありましたように、本日、第1回目ということもありまして、スチュワードシップに関して私が持っている課題意識をお伝えしたいと思います。上場会社の企業経営者と接する機会が多いのですが、機関投資家の方々とも建設的な対話や、あるいは議決権行使について意見交換する機会がありますので、そのような立場での課題意識についてコメントさせていただきます。
まず、スチュワードシップ・コードが導入されて10年以上がたった今、何のための対話かということをそもそも論で考えるよい機会なのではないかと思っています。先日、対話と議決権行使の実質化を討論するシンポジウムに参加する機会があったのですが、国内の大手機関投資家から、「現在の僅かな運用手数料では賄えないほどの体力、リソースをスチュワードシップ活動にかけざるを得ないのが多くの運用機関の実態である」との発言がありました。
この発言は、機関投資家が対話にかけているコストの大きさと、対話に対する真摯な取組を物語っていますが、かけたコストに見合う十分なリターンが得られているとの実感は、上場会社からも機関投資家からも聞こえてきませんでした。さらには、このまま今の対話の努力を続けていれば、将来、企業価値の向上につながるようなリターンが得られるかもしれないとの期待感も得られませんでした。
なぜ対話を続けるのか、何のために対話を重ねるのかという問題があると思います。もちろん企業価値向上を目指して対話を重ねているのですが、果たして今我々が向かっている方向性は正しいのだろうか。一例を挙げると、先ほどのGPIFさんの資料にもありました、対話の相手です。今の対話の相手の構成比は望ましいのでしょうか。対話の相手の50%近くが部長職以下です。機関投資家からは、経営トップや独立社外取締役との面会を申し入れても応じてくれないという声をよく聞きます。GPIFさんの資料を見ると、社外取締役との対話の構成比率は1.4%と、ほとんどないに等しい状況です。今の構成比のままで対話を続けるのがよいのだろうかという問題があると思います。
国内の時価総額上位100社のうち、直近では既に40社以上の会社が取締会に占める社外取締役が過半数になっていて、取締役会の主役は社外取締役になっています。取締役会の過半数が社外取締役で構成されている企業などは、機関投資家の対話の相手として必ず社外取締役が含まれるべきだと考えます。これはコーポレートガバナンス・コードの改訂での対応になるかもしれませんが、上場会社に社外取締役と機関投資家の対話を強く促すことが必要であると考えます。そもそも何のための対話か、対話の相手は誰がよいのか、対話の先に何を期待できるのか、そして、対話の実質化が議決権行使の実質化に果たしてつながるのか。こういった大事な論点についていま一度考え直すよい機会であると考えています。
次に、機関投資家、特に国内機関投資家の形式主義の問題を指摘したいと思います。複数の国内及び海外の資産運用会社の社長や幹部から、10年前と比較して日本の資産運用会社は残念ながら進化していないとの声を聞きます。また、上場会社の経営者からは、相変わらず外資系の機関投資家とのエンゲージメントでは気づきは得られるが、日本の機関投資家とのエンゲージメントは形式的過ぎるとの批判が聞こえてきます。上場会社からは、社外取締役の独立性基準、在任年数、兼職数などをめぐり、対話で説明責任を果たそうとしているが、結局、形式的な議決権行使をされ、会話にかける労力がむなしく感じるなどの厳しい意見も多いです。
これは先ほどのGPIFさんの資料で、これほど多くの対話テーマをカバーしなければならない機関投資家に対して同情を禁じ得ない部分がありまして、これだけのテーマをカバーしようとすると、どうしても形式主義に陥らざるを得ない現実があると思います。とはいえ、コストを上回るリターンを得るためには、機関投資家が対話の質を上げるか、さもなくば対話をしないという選択肢を取らざるを得ないです。対話する場合には、投資先企業のビジネスモデルを正しく理解し、経営課題を洞察し、経営者のリーダーシップクオリティーを正しく見極め、的確な質問を発するだけの高い能力と高い見識がなければ、上場会社の経営者に気づきを与えることは不可能であるように思われます。機関投資家における対話の質の向上、そのための人材育成、能力向上は喫緊の課題であると考えます。
時間が来ましたので、以上で終わらせていただきます。どうもありがとうございました。
【神作座長】
どうもありがとうございました。それでは続きまして、オンラインで御参加の翁メンバー、お願いいたします。
【翁メンバー】
翁でございます。御説明ありがとうございました。金融市場改革が進みまして、海外投資家の評価も非常に高くなっていると思います。そうした中で、スチュワードシップ活動の実質化を進めていくということは今非常に重要な課題だと思っております。
幾つか申し上げたいんですが、まず、スチュワードシップ・コードの賛同につきまして、5ページで事務局のグラフがございました。数としては増えておりますけれども、母集団は非常に大きいのに、まだスチュワードシップ・コードについて賛同していないところがアセットオーナーにも非常に多いことも大きな課題として残っていると思いますので、これを広げていくことは極めて重要だと思っております。
それから、パッシブ運用が広まる中でいかにエンゲージメントを充実させていくかということにつきましては、事務局の資料でも御紹介がありましたけれども、例えばアセットオーナーが報酬インセンティブなどを変えてこういった取組をしている動きとか、また、協働エンゲージメントなども必要に応じてやっているという紹介もございましたけれども、こういった取組をいかに拡充していくかということも重要ではないかと思っております。
それから、実質化について、GPIF及び井口さんからいろいろ御紹介があって大変参考になったんですけれども、やはり今の佃様の御意見も私は賛同するところがあります。テーマ別でいろいろ分析していて、これはこれで重要なことだと思っているんですけれども、最終的にどういうふうにサステナビリティトランスフォーメーションができるかという、結局ビジネスモデルをどういうふうに変更して企業価値の向上につなげていくかというような議論が対話としてできることが大事だと思っています。それによって財務指標の向上なども果実として出てくると思います。したがって、こういったテーマ別の分析は大事だと思いますが、やはりテーマを統合し、ビジネスモデルと企業価値向上の議論ができるようにしていくことが実質化に極めて重要なのではないかと思っています。そういう意味では、経営トップの方とこういった実質的な議論ができることが大事かなと思っておりますし、その点でニッセイアセットマネジメントの取組も非常に関心を持って伺いました。
また、議決権行使との有機的な連携というのも非常に重要だと思っております。井口さんから御紹介がありました協働エンゲージメントについても、PRIやICGNとの協働対話といったような示唆もありましたけれども、そういったグローバルな動きと連動してやっていくということについても検討の余地があると思いました。
私からは以上でございます。実質株主の透明性向上とか、スリム化については次回と伺いましたが、大きな方向については賛同しております。以上でございます。
【神作座長】
翁メンバー、どうもありがとうございました。続きまして、松下メンバー、御発言をお願いいたします。
【松下メンバー】
発言の機会をいただきまして、ありがとうございます。投資信託協会の松下でございます。事務局説明資料の御意見、御議論いただきたい事項について、機関投資家の立場から幾つかの意見を申し上げさせていただきます。
まず、スチュワードシップ活動実質化の適切なインセンティブの付与についてです。機関投資家においては、スチュワードシップ活動を通じて、企業が抱えるESG課題の解決を図るべく社内態勢の整備に努めているところですが、これらの課題につきましては、年々高度化、多様化しておりまして、これと相まって、機関投資家がアセットオーナーに報告する活動内容も大幅に増加している状況です。こうした状況に鑑みますと、特にパッシブ運用においては、スチュワードシップ活動を付随業務と位置づけることは適切ではなく、現状の報酬率のままではこれらの活動を充実させることは困難ではないかと考えております。
一部アセットオーナーでは、エンゲージメント強化型パッシブとの名目で費用を御負担いただいておりますけれども、インベストメントチェーン全体の機能向上という観点から、アセットオーナーにもスチュワードシップ活動を推進する責務があるということを踏まえると、機関投資家による実効性のある適切なスチュワードシップ活動の維持向上のためにも、アセットオーナーの皆様におかれては、こうした活動に係る費用負担の在り方について御理解をお願いしたいと思っています。
また、アセットオーナーへの活動報告に当たっては、報告資料作成のために投資先企業との対話の時間を削って対応しているのが実情です。スチュワードシップ活動をより充実させるためには、スマートフォーマットなどの報告様式の共通化により資料の作成負荷を下げることが有効であり、こうした共通フォーマットを活用することで、アセットオーナーの負担軽減も期待できるほか、必要に応じて、アセットオーナーと機関投資家が対話を行うことでスチュワードシップ活動の理解促進につながるものと考えています。
次に、協働エンゲージメントについてです。既に一部の機関投資家では積極的な取組が行われておりますので、フォーラムの設立や、今般の大量保有報告制度における共同保有者の範囲の明確化等、協働エンゲージメントのための環境整備が進められることは歓迎したいと考えています。一方で本会会員に対して行った調査によれば、協働エンゲージメントを実施していると回答した運用会社は約4割で、実施しないとした理由につきましてですけれども、必要性が認められないとか、他社との意見調整が難しいといった声が寄せられております。機関投資家、ファンドごとに運用哲学や運用目的が異なる点に鑑みれば、協働エンゲージメントはあくまでもエンゲージメントの手法の一つとして捉えられるべきであり、各運用会社が行う多様な視点からの建設的な対話や、効率的かつ効果的な対話が阻害されないことが重要であると考えています。
次に、実質株主の透明性についてですが、企業と投資家の対話は重要であり、これを促進する観点から実質株主の透明性の向上を図ることは賛成いたしますが、その方法については一定の留意が必要であるのではないかと考えています。例えば本日の資料では、株式の保有状況を発行会社から質問された場合にはこれに回答すべきとの記載がございますが、6月下旬に株主総会を開催する企業は直近でも2,000社以上あり、これらの企業に対して都度、保有状況を回答するのは困難ではないかと考えています。また、保有状況については、受益者の利益にも影響する事項であり、相手方の真正性について確認できない中でこれを回答することは、フィデューシャリー・デューティーの観点からも非常に難しいのではないかと考えています。逆に言えば、これらの課題が置き去りにされたままでコードを改訂しても、実質株主の透明性の向上は進まないと考えています。
最後ですが、その他という項目で現行のスチュワードシップ・コードの原則8について意見を申し上げます。原則8は、機関投資家向けサービス提供者に係るものとなっておりますが、現状、大手のESG情報ベンダーなどが署名機関となっておらず、その実効性は必ずしも十分ではないという状況であると思います。ESG情報ベンダーにおきましては、ESG評価・データ提供機関に係る行動規範が策定されており、一部はこれに署名をしておりますが、ESG情報がスチュワードシップ活動に及ぼす影響が高まっていること、また、市場全体におけるパッシブ戦略の比重が高まる中、ESG情報ベンダーの責務も受託者責任に準ずる形で重くなっていることに鑑みれば、これらの者がコードに署名するよう促すことも一案と考えております。
以上4つでございますが、私からは以上でございます。
【神作座長】
どうもありがとうございました。続きまして、松岡メンバー、御発言をお願いいたします。
【松岡メンバー】
発言の機会をいただき、ありがとうございます。松岡と申します。経団連の金融・資本市場委員会の資本市場部会長も務めておりまして、金融庁資料の「ご議論いただきたい事項」を中心に発言させていただきます。
まず、コーポレートガバナンス改革の実質化を進める上では、スチュワードシップ活動のさらなる質の向上が不可欠と考えます。発行企業からは、アセットマネジャーによってはスチュワードシップ活動が形式的なものにとどまっている、あるいはスチュワードシップ活動に携わる人員、態勢が不十分であるといった指摘がございます。その観点からは、スチュワードシップ・コードの内容を変えるというより、金融庁や東証におかれまして、コードの実質化に向けて、コードがきちんと守られているかしっかりモニタリング、フォローアップをし、できていないところについては、例えば金融庁のウェブサイトで機関名を公表するなど、何らかの対応、またはサンクションを課すことや、アセットマネジャーへのスチュワードシップ活動に向けたインセンティブとコスト削減の検討などの改善策を検討する必要があると考えます。
とりわけ、発行企業側としては、アセットマネジャーによる議決権行使について2つの課題認識がございます。1つ目は議決権行使助言会社についてです。対話の質に対する不満や、そもそも対話が行えず評価に偏りがあるといった指摘が相次いでいる現状です。
2つ目が、アセットマネジャーによる議決権行使についてです。未来志向で中長期的な企業価値を踏まえ、議決権行使を行うアセットマネジャーもいる一方で、過去の結果責任のみで形式的に取締役選任反対などの議決権行使を行っているアセットマネジャーもいると伺っております。政策保有株式についても、数年の計画で削減する方針では評価されず、一定割合以下になったことが評価されるということですと、例えば一時に株式を売却することの保有先株価への影響も懸念されます。形式的な基準に従い機械的に議案への賛否を示す助言会社の助言にそのまま従うということも同様に懸念が指摘されており、アセットマネジャーの議決権行使のプロセスを実質化していく必要があると考えます。
この解決には、アセットオーナー・プリンシプルの徹底によって、アセットオーナーがアセットマネジャーに対するモニタリングを強化することも一つの方向性だと考えております。今月3日に経団連ではGPIFとの間でアセットオーナー・ラウンドテーブルを開催し、4つの年金基金からアセットオーナー・プリンシプルに基づいた行動計画を伺っております。アセットオーナーがアセットマネジャーに対して企業との建設的な対話を行うよう働きかけていただきたいと考えます。
なお、当該ラウンドテーブルでは、次回以降アセットマネジャーからも取組内容を伺う予定です。金融庁におかれましても、例えば企業とのエンゲージメントを重視するアセットマネジャーの取組の好事例を公表するといった対応も考えられるのではないかと思います。いずれにしましても、経団連としては、全てのステークホルダーが中長期的な企業価値向上に向けて行動できるインベストメントチェーンを構築していきたいと思っており、様々なステークホルダーとの対話を今後も重ねてまいります。
最後に、実質株主の透明化に関してです。たった今議論がございましたけれども、企業側としては、株主との建設的な対話を行うために、自社の株式を保有する投資家の考えや、株式の保有数について正確に把握しておく必要がございます。しかし、現状では多くの上場会社が民間企業による実質株主判明調査等に膨大なコストをかけて定期的に実施しておりますが、調査できる範囲にも限界があるのが実情です。また、機関投資家に個別に保有株式数を尋ねても、回答が得られないケースも多くございます。
このような実務の状況を踏まえまして、機関投資家が保有する株式数の回答義務を行うことを明確化する必要があるのではないかと考えます。その実効性を確保するという観点からは、名義株主及び実質株主の回答義務を法律で規定することが望ましいと考えておりますが、法改正には時間がかかりますので、まずスチュワードシップ・コードの改訂を通して機関投資家の回答義務を明記していただきたいと思います。
以上です。ありがとうございました。
【神作座長】
どうもありがとうございました。続きまして、三瓶メンバー、御発言をお願いいたします。
【三瓶メンバー】
御指名ありがとうございます。私も資料4の29ページ、30ページの論点に沿ってお話ししたいと思います。
まず、この資料の冒頭2ページに、そもそものスチュワードシップ・コードの概要が書かれています。そこには、「『建設的な対話』を通じて、企業の持続的成長と顧客・受益者の中長期的な投資リターンの拡大というスチュワードシップ責任を果たす」と明記されています。しかし、先ほどの資料5によれば、GPIFさんの委託先運用会社の対話件数だけでも年平均で4,600件、これだけやっているけれども、直近、今年の9月末現在のプライム上場企業の約1,600社中、PBR1倍割れはいまだに45%もあります。要するに、これだけ対話をやっても、まだ十分な市場評価を得られていないということですね。私は今、市場評価という言葉を使いました。よく「企業価値向上」という言葉が使われるんですけれども、「企業価値」については様々な解釈があってちょっとぶれるところがあるので、はっきりと市場評価が上がること、市場評価には企業の将来性ということが織り込まれてくるので、こう言うほうが明確かなと思ってあえて使います。こういった課題があるということですね。
ではどうするのかというと、論点の2つ目なんですけれども、イギリスのFRCは2021年11月にガイダンスを公表して、その中で、「モニタリングとエンゲージメントの区別」の重要性を指摘しています。日本のスチュワードシップ・コードでいうと原則3が、「企業の状況を的確に把握すべき」という、これがモニタリングに当たるわけですけれども、英国で言っているのは、通常の情報収集や、原則3のモニタリングの一環としての企業とのミーティングとエンゲージメントは違いますよということですね。エンゲージメントは、「明確な目的を持って変化を求めるやり取り」であると。「情報収集を目的とした活動」とは区別してくださいということを言っています。先ほどICGNの意見書、課題1の2にもありましたけれども、「エンゲージメントの目的の明確化」、これが非常に重要です。その目的というのは、何らか今課題を抱えている企業に対して変化を求めるということであるということです。
次のパッシブに関するところなんですが、ただ、パッシブ運用のエンゲージメントの場合には、テーマエンゲージメントとか議決権行使のためのエンゲージメントということに向かうことが多い。これは彼らのビジネスモデルからするとある種当然というか、理解できることなんですけれども、ただ、パッシブ運用がこれだけ多くのエンゲージメントをしているんですけれども、やはり求める変化が「非財務情報開示の改善」とか、「独立性や多様性の基準値までの達成」とか、そういうところにとどまっているんですね。これは市場評価向上ということからいうと、中間的な目的でしかない。ですから、最後の、本当に市場評価を得られるのかというと、それがどう財務パフォーマンスやリスクマネジメントの効果発揮につながるのかというところまで考えて対話していただきたいというふうに思うわけです。
では、それをするスキルとかコストとかはどうするのかとなりますが、協働エンゲージメントについて、資料の13ページまたは25ページに英国の例で、必要に応じて協働エンゲージメントをすべきと書いてあるんですけれども、「必要に応じて」というこの短い言葉にはすごく深い意味があって、先ほどの英国のFRCによる2021年のガイダンスには、「投資家は数多くのイニシアチブに署名するよりも、より少数のイニシアチブに積極的かつ大きく貢献するほうが効果的な場合がある」と書いてあります。つまり、実質化にはless is moreという英語の表現がありますけれども、そういうことだということです。なので、それぞれの運用機関が得意として大きく貢献できると思うテーマやイニシアチブを選択して、それで対話をしていくということが重要なんだということで、数とか何でもかんでもではないということです。
こういうことを進める上で、日本でそれぞれの対話を先導、活動する人たちは相当のスキルをつけなきゃいけないと思いますが、スキルには大きく3つあると思います。投資判断、企業価値評価のスキル、2つ目にサステナビリティに関する知識、動向把握、3つ目がエンゲージメントスキルそのものです。交渉スキルのようなものです。これらは特にアセットオーナーにも必要です。アセットオーナーがこれを理解していない、分かっていない状況で、アセットマネジャーのモニタリングを強化すると変なことになると思います。
それに加えて、スキル向上をどう促進するかというのを金融庁でこれから考えていただきたいんですけれども、アセットオーナー、アセットマネジャー、企業から成功事例、失敗事例を集めて、何かグッドプラクティスとか、こういうやり方がいいんだというようなものが出来上がってくると、それに向けて研鑽を積むことができるのではないかと思います。
最後にその他のところで、2つだけ申し上げます。海外では、株式以外のアセットクラスにも対象を広げています。これは資産運用立国ということをうたう場合に、そこで日本はまだスチュワードシップは株式だけかというと後れを感じるので、今は前書きに書いてありますけれども、本文のどこかにもう少し具体的に書くほうがいいのかなと思います。
もう一つ、ICGNの原則5にパブリック・ポリシー・アドボカシーというのがあります。これはシステミックリスク等に関してもう少し広く働きかけをする、イニシアチブに乗っかるのもありますけれども、例えば行政、省庁と対話していくということも含まれる。または、先ほど井口さんの御説明にありましたけれども、サービス提供者と対話をしていく。要するに、対話というものをもっと広く捉えていろいろな方面でやっていく。応用する範囲が広いですよということをどこかに書くことがあり得るかなと思います。原則に書かなくても、前書きでも何らかの形でもっと対話を応用しましょうという喚起の仕方はあるのではないかと思います。
以上です。
【神作座長】
どうもありがとうございました。続きまして、西村メンバー、御発言ください。
【西村メンバー】
御説明ありがとうございます。住友理工の西村でございます。私は関経連の企業制度委員会で副委員長を仰せつかっておりますが、私からは企業経営者の視点、観点から御説明をさせていただきたいと思います。
まず、コーポレートガバナンス改革の課題とスチュワードシップ・コードへの対応ということでございますが、現時点、日本経済がいわゆる長きにわたるデフレ経済から適切な賃上げや価格転嫁、そして適正な値上げを認めていくという、いわゆるインフレ経済への移行が進んできているのではないかと思います。そういう中で企業は、やはり付加価値を高めて、それを多様なステークホルダーに適正に分配するということで、中長期的な企業の発展、強いて言えば我が国のGDP成長に資するのではないかと思っているところでございます。
しかしながら一方、過去の日本企業の付加価値の分配状況に目を向けますと、一橋大学伊丹名誉教授によると、例えば日本の資本金が10億円以上の大企業では、バブル崩壊直後の1992年度は配当が2.8兆円でございました。設備投資額は28.2兆円ということで配当は1割程度でございましたが、2012年には配当額が10.6兆円と、設備投資額の17.6兆円に対しまして6割に達してきております。それでその後、2022年度ですけれども、配当額が24.7兆円、設備投資額が22兆円と、1割以上もむしろ配当額が上回ったという状況でございます。
加えて、大企業の人件費総額に占める配当金額の割合が、2001年頃までは6%前後でございましたが、2022年の配当人件費率は47%にまで上昇をしてきているというところでございます。非上場企業が多い、資本金10億円未満の中堅・中小ではこのような配当に偏重する動きは認められておりません。こういう動きからいいますと、今までの持続的な成長と中長期的な企業価値、業績というコーポレートガバナンス改革が、その趣旨が達成できておらず、現時点では、結果として株主への配当だけが増えてしまってきたのではないかとも考えているところでございます。
こういう実態を踏まえた上で、いわゆるスチュワードシップ活動の実質化でございますが、コーポレートガバナンス改革の趣旨、先ほど申し上げた趣旨を達成するためには、やはり投資家がスチュワードシップ・コードを遵守することが不可欠であると考えております。ぜひ投資家の遵守状況を定期的にモニタリングする仕組み、こういうものが必要だと思いますので、ここはぜひ金融庁さんに御検討いただければと思っているところでございます。
また、主に機関投資家に強い影響力を持ちます議決権行使助言会社でございますけれども、ROE水準など多くの形式的要件によって機械的に推奨判断を出しているということに関しまして、企業に安易な自社株買いなどの対応に走らせるというようなことで、これはこれで企業行動に大きなプレッシャーになっているんじゃないかと危惧しているところでございます。ROEだけではなく、こういうコーポレートファイナンスに基づく財務指標だけではなて、企業の財務の全体の安定性、あるいはシェア、技術力、あるいはESG、さらには多様なステークホルダーへの貢献といったそういう要素も多面的に考慮をしながら、深い分析に基づき投資家が企業価値を判断した上で、建設的な対話ができるように能力の向上を図るべきではないかと思いますし、ぜひお願いしたいと思います。
現状の投資家のリソースの不足を補うということで、有用な取組、そして協働エンゲージメントの活用が取り上げられておるところでございます。これはこれで私も進めていただいていいと思いますけれども、一方で、協働エンゲージメントは、複数の投資家が1つの企業に対して対話を行う、もしくは複数の投資家の代表者が企業と対話をしていくということになると思うんですけれども、いずれの場合にも、企業に過度なプレッシャーを与える可能性、懸念はやはりあるのではないかと思っております。金融庁におかれましては、相談窓口を設けていただいて、高圧的な対話を迫ってくる、してくる、こういう投資家に対しては、ぜひ何らかの対応をお願いできればなと思っています。
それから、実質株主の透明性の確保でございますが、これは実質株主の調査に海外の投資家の調査協力が不可欠であると考えておりますが、法制度上の整備によってこの実質株主を調査する法的権限を信託銀行に与えることで、確実に実質株主の透明性確保が進む態勢整備、これはぜひお願いしたいと思っています。
また、実質株主の透明性確保とは別の論点ではございますが、アクティビストなどが複数の投資家と示し合わせて大量保有報告制度に違反してといいますか、秘密裏にといいますか、企業の株を買い占める、いわゆる日本版ウルフパックと呼ばれるような問題への対処も必要ではないかと考えております。この点につきましては、ドイツなどを中心に参考にしていただいて、違反した投資家への議決権停止処分、こういうような実質的にエンフォースメントが働くような態勢整備をお願いしたいと思っています。また、今後、大量保有報告制度に悪質に違反した投資家に対しましては、信託の口座、これを使用することを禁止するといったような対応も、できれば金融庁がガイドラインなどを作成して旗振りをしていただければと考えているところでございます。
私からは以上でございます。
【神作座長】
どうもありがとうございました。続きまして、田中メンバー、御発言ください。
【田中メンバー】
発言の機会を与えていただき、ありがとうございます。スチュワードシップ・コードについての課題として、冒頭、佃メンバーからかなり厳しい現状認識が示されたかと思います。
もともと機関投資家、特にパッシブファンドの投資家にはエンゲージメントをする十分なインセンティブがないのではないかというのは、海外では2010年代頃からもう既に広く指摘されている問題であって、しかも、まだ必ずしも解決を見ていないことのように思います。特に、私が研究しているアメリカ会社法学ですと、パッシブファンドを中心とした主流派の機関投資家が自ら積極的にエンゲージメントをするというのは無理があって、そういうことをするのは、投資先企業にかなり集中的に投資してアクティブに活動している投資家である、主流派の機関投資家は、そういうアクティブな投資家の提案を検討して、それに対して賛否を表明するという形で、投資先企業の企業価値向上に貢献していくというモデルがかなり有力ではないかと思います。
もっとも、日本では、アクティビストに対する毀誉褒貶も激しいですので、今いったようなアメリカの会社法学でいわれている考え方をコードに盛り込むことは難しいかもしれません。その上で、一つ、私からの提案として、現在、コードには株主提案に関連した原則はないと思います。そこで「投資家は、株主提案が出された場合には、それが真に企業価値向上に結びつくかという観点からその是非を検討するべきである」というような原則を盛り込んではいかがと思います。なお、企業価値が向上すれば、それは株式の高い市場評価に結びつき、ひいては受益者の利益にもなると思いますので、コードの中で「企業価値」、という表現を使うことは私は構わないと思います。こういう新しい原則を盛り込むことは、スリム化の要請と矛盾するわけですが、必要性の高い原則を盛り込んでいくという観点から、ある程度正当化ができるのではないかと思います。
それから、これは、時間の関係で言うかどうか迷っていましたが、買収提案について投資家がどう対応するのかということも、御検討いただけないかなと思うところがあります。現在、インデックスファンドが、公開買付けに対して応募しないということがかなり問題になっています。特に、利益相反のあるM&Aについてはマジョリティー・オブ・マイノリティー (MoM)条件(利益相反のない株主の多数が応募することを公開買付け成立の条件にする)をつけるという、海外では比較的一般的に行われていることが、日本ではなかなかできない理由になっているようです。
公開買付けにMoM条件をつけた場合に、パッシブファンドの機関投資家がそれに対して応募をしたとしても、もしMoM条件が満たされれば、その後は非公開化がほぼ約束されるので、その株式はインデックスからいずれにせよ除外されるはずです。逆に、MoM条件が満たされるほどの応募がなかった場合には、公開買付けは撤回されるため、株式はパッシブな投資家の手元に戻されるはずです。従って、パッシブファンドの投資家が公開買付けに応募したとしても、それによって保有株式の構成がインデックスと乖離してしまうという問題は、特に公開買付けにMoM条件がついているときには生じないはずです。ですので、保有株式の構成がインデックスと乖離することを恐れて公開買付けに応募しないというのは、あまり合理的な対応ではないように思います。こういうことも含めて、投資家は買収提案に対して合理的に行動してほしいというような趣旨のことをぜひ盛り込んでいただければと思います。
それから最後、スリム化に関してです。これについては、具体案は持ち合わせていませんが、今のコードを見ていると、ちょっと脚注が多過ぎるのではないかと思います。私は、論文の注が長いほうなので人のことは言えませんけれども、プリンシプルベースのコードとしては、少し注が多過ぎるのではないかと思います。今日の目で見ると言わずもがななことが書いてある場合もあると思いますので、注に関してはゼロベースで検討して、必要のあるもの以外はこの際削除するというのも考えられるのではないかと思います。
【神作座長】
どうもありがとうございました。続きまして、高山メンバー、御発言をお願いいたします。
【高山メンバー】
発言の機会をいただきまして、どうもありがとうございます。私はこの議論いただきたい事項の最初のコーポレートガバナンスの改革の成果、スチュワードシップ・コードの影響について、ポジティブな側面に注力してお話ししたいと思います。
私自身は、日本企業の取締役会の実効性の向上に関わる仕事、企業と投資家の対話に関わる仕事を長年やってまいりました。そういう観点で日本企業の取締役会の議論の状況を十数年にわたって見てまいりました。この10年間で、取締役会でかなり議論の内容が変わったように思います。具体的に言うと、取締役会のアジェンダ、議論の項目に、資本市場、投資家が、自社をどう見ているかに関するテーマがかなり増えてきたと思います。
また、内容も変わってきました。例えば両コードが出来る10年前ぐらいですと、取締役会で上げられる資本市場に関する報告とか議論の内容というと、セールスサイドアナリストのレポートが幾つか紹介されて、それに簡単に言及するというケースが多かったように思います。それ以外の情報は執行側にとどまっていて取締役会に出るということがあまりなかったように思います。
しかし、その後かなり変化しました。投資家が経営戦略とか財務戦略についてどう評価しているかということも取締役会のアジェンダとしてよく出るようになりました。また、この三、四年間を見ますと、これは両コードにその内容が入ったせいもあると思うんですけれども、コーポレートガバナンス態勢について、サステナビリティと自社の企業価値との関係について、投資家が自社をどう見ているかというアジェンダがかなり増えてきました。あと、当然ながら、自分たちが考える価値と株式市場が与える評価が異なるのか否か、異なることがあればそれは何故なのかということに関する議論も増えてきます。
これは単にそういう報告があったとか分析をしたということにとどまるわけでは、ありません。企業は、長期ビジョン、それから、中計について数年に1回見直したり、あるいは新しく構築しておりますが、そのような重要な計画の意思決定において、自社の状況だけではなくて外部環境も非常に重視します。例えば自社を取り巻く様々な経営環境がどうかということもそうですが、同時に、投資家が、株主が、自社をどういうふうに評価しているかということも重要な要素として取り上げられます。ですので、投資家の考え方、資本市場の考え方というのが、企業の取締役会の重要な意思決定に大きな影響を与えているというのが現状であると思います。これは、両コードの下で、投資家と企業の対話の内容が充実したことが反映されているのだろうと私は考えています。
今後についてなんですけれども、今後も継続的に対話の質を高めるということが重要で、これは企業と投資家の双方の努力が必要です。それから、対話の質をより高めるためにも、実質株主の透明性の確保は必須であると考えます。この点についてはこの会議で今後議論されると思いますので、また改めて意見を述べたいと思います。
私からは以上です。
【神作座長】
どうもありがとうございました。続きまして、藤本メンバー、御発言をお願いいたします。
【藤本メンバー】
生命保険協会より参加をさせていただいております日本生命の藤本と申します。発言の機会をいただきまして、ありがとうございます。私のほうからはまず、生命保険会社のスチュワードシップ活動の特徴ということについて一言御紹介をさせていただければと思います。
生命保険会社は、終身保険や年金保険等、長期にわたる保障責任を確実に全うするとともに、より多くの配当を安定的にお支払いすることを使命としまして、資産運用に取り組んでおります。国内株式への投資もその一環として、投資先企業の企業価値の向上を中長期にわたる安定的な株主還元や株価の上昇という形で得ることを目的に行っております。こうした考え方は、エンゲージメントなどを通じまして、企業価値の向上や持続的成長を促すことにより、顧客、受益者の中長期的な投資リターンの拡大を図る責任を意味するスチュワードシップ責任の考え方とも親和性が高いと認識をしております。
今回、スチュワードシップ活動の実質化が課題に挙げられております。日本生命個社の話にはなりますが、私どももこの実質という点を大変重視する中で、議決権行使を含めて、中長期的な視点からスチュワードシップ活動に取り組み、絶えず強化を図ってまいりました。まだまだ課題も多いのですが、個別企業の状況を十分に踏まえた上で、企業との相互信頼に基づくウィン・ウィンの関係を維持しながら、企業の持続的成長に向けた取組を後押しすることが投資家に求められている役割と認識をしており、引き続き取組を進めてまいりたいと思っております。
次に、今回のテーマの一つであります協働エンゲージメントに関しまして、事務局の資料でも触れていただいておりますが、生命保険協会としての取組を簡単に御紹介させていただければと思います。当協会の協働エンゲージメントは、2017年度から開始をし、おおむね10社程度で活動をいたしております。具体的なエンゲージメントの進め方についてですけれども、まずは対象とするテーマや選定基準のすり合わせを行います。テーマや選定基準は毎年議論し、少しずつアップデートをしてきており、現在では株主還元の充実、財務情報と非財務情報の統合的な開示、気候変動、この3点をテーマとしております。
対話に当たっては、まず、これまでの対話結果の振り返り、対象企業の足元の状況を踏まえた対話方針について議論を行った後、対象企業に対して論点をお伝えするペーパーを参加各社の連名であらかじめ送付をした上で、各社で分担して具体的な対話に取り組んでおります。なお、いずれのテーマにおきましても、企業の取組の進捗を確認しており、一定の成果が出ているという実感はございます。
今後の議論に向けまして、協働エンゲージメントを複数年継続してきて感じているところを率直にお話しさせていただきますと、協働エンゲージメントを円滑に進めるためには、参加各社の投資哲学や投資期間等が近いということが重要だと実感しております。当協会の協働エンゲージメントは、同じ生命保険会社として、投資哲学や投資期間も比較的近いということで継続して取り組めているのではないかと思っておりますが、一方で、一歩踏み込んだテーマ、例えば企業の事業戦略等取り組むべきと考える改善策につきまして、同じ生命保険会社でも認識が異なるようなテーマにおきましては、協働エンゲージメントで扱うことは簡単ではないという実感もございます。
簡単ではございますが、中長期的な視点で資産運用を行っております生命保険会社の立場から御紹介をさせていただきました。以上でございます。
【神作座長】
どうもありがとうございました。続きまして、オンラインで御参加の上田メンバー、御発言ください。
【上田メンバー】
御指名ありがとうございます。では、御議論いただきたい事項に沿って、初回ですので少し幅広い視点でコメントさせてください。
まず、コーポレートガバナンス改革についてです。スチュワードシップ・コードが定着して、さらに昨年来、資産運用立国実現プラン等もあって、機関投資家の運用力が高まっていると言われております。アセットオーナー・プリンシプルが策定されまして、インベストメントチェーンが受益者までつながったという状況かと思います。アセットオーナーというのはインベストメントチェーンの要でありまして、個人とインベストメントチェーンとの連結点にあるということで、チェーン全体をサステナブルに維持されるという責任を負っておられると、本日のGPIF様のお話はまさにそういうことであったかと思います。
他方で、資産運用が高度化するのに伴い、本日お話もあったように、スチュワードシップ活動も相当高度化、具体化し、個別論点も深まっています。このような中で、他方では社会全体で人件費も上がっているという状況のもと、資産運用に携わる産業および関係する人たちがちゃんとチェーンを回せるようにするといったところも意識する必要があるかと思っています。
これはスチュワードシップ・コードの直接の内容ではありませんが、アセットオーナー・プリンシプルにも明記されているところでありまして、例えばGPIFさんは、対話型のパッシブファンドについてはそれを勘案した高いフィーをお支払いなさっておられるということでした。しかし、現状のようにGPIFだけが負担するとなると、対話の成果は他のアセットオーナーと共有される部分もあるところ、1つのアセットオーナーが全てのフィーを負担するというのも少し適切ではないだろうとも考えられるわけです。そうすると、それ以外のところはどうなのかというと、現状、フリーライドしている状況なのかなとも感じるわけです。したがって、これはスチュワードシップ・コードの直接の内容ではないかもしれませんが、環境整備のところでインベストメントチェーン全体でコストシェアリングをする、我々最終受益者も負担するというようなところの意識づけというのは、いろいろな場を通じて議論を共有いただきたいと思っています。
続いて、スチュワードシップ活動の質とその説明責任についてです。スチュワードシップ活動、特に対話については、本日の御意見にもありましたけれども、機関投資家に対してはもっと実質的な議論をして、これを議決権行使に反映させてほしい、言うなれば、企業からは機関投資家は議決権行使で賛成してほしいと言う声が強いかと思います。この点は私も気になって、企業、投資家双方に関心が高い、サステナビリティ関連の株主提案に対してどういう投資家が判断しているのかと思って調べたところ、結構、投資家さんによって個別の判断が分かれていて、理由も多様であるということが分かりました。
説明したから賛成してほしいという気持ちは分かるのですが、恐らく運用機関については、アセットオーナーに対する立場や説明責任の関係もあるかと思いますが、客観的な判断を行う傾向があるなと考えています。これに対してアセットオーナー自身が行使する場合には、そこは柔軟に自由な判断の余地が大きいと思っています。ただ、対外的なスチュワードシップ活動の説明責任については、投資家さんによって相当ばらつきがあるといいますか、議決権行使結果を個別開示でデータをエクセルで提供されておられて、丁寧に内容を説明されているところもあれば、一方で個別開示はしていないけれども、個別ケースをとても詳細に説明されているところもあると感じています。
スチュワードシップ・コードは受入れ時に公表される方針等のフォローアップ、実際のスチュワードシップ活動報告についてのレビューやモニタリング、評価というのは、必ずしも十分なされていないとは思っております。英国のように個別の受入れ機関について詳細にモニタリングを行うのは、社会負担およびコストも大きいのだろうと思いつつ、今後アセットオーナー・プリンシプル等に基づいてアセットオーナーによるコード受入れを推進するためには、今回の議論を通じてスチュワードシップ活動の報告についても、実効性を高める工夫を御検討いただければと思っています。例えば、有価証券報告書の底上げで使われているように、好事例の紹介等の金融庁がよくなされておられる方策などもあるかと思うので、頑張っている投資家にはその成果が得られやすいように、そうでないところにはもっと努力を促せるようになる工夫があればと思います。
あとは、個別のところは今後御議論ということですが、協働エンゲージメントについて1点だけ申し上げます。協働エンゲージメントは、対企業という点とともに、対市場当局、例えば金融庁、政府あるいは国際機関等様々なところとの対話というものもあろうかと思います。一方で、対企業との関係では今般、金商法の御対応も進んできておられるかと思います。ただ、投資家からすれば、これは必要に応じて活用できるという選択肢を明記しておくということがよろしいのかなと思っています。現行コードは、有益な場合があるというような表現、これはとても苦心された結果の文章だと思うんですが、若干コード作成者側というか、この会議なのかどうなのかわかりませんが、その見解が含まれているかのように読めなくもないなと思います。そのため、この辺りはもう少しニュートラルに選択肢を提供することで、投資家側も対話手段の選択肢として協働エンゲージメントに対する受入れ態勢というか、検討できるようにしたらいかがかと思っています。
実質株主については、簡単に申し上げます。最終的に法改正という形に行かれるのではないかと推測しますが、実務的なところでいうと、米国、英国、欧州でいろいろなアプローチがあるかと思います。実務へのインパクトも大きいところですし、逆に新しいサービスの開発とか、企業には選択肢、メリットも大きいかと思いますので、これは早急に具体的な御議論を見せていただけるとよろしいのかなと思いました。
以上でございます。ありがとうございます。
【神作座長】
どうもありがとうございました。本日まだ御発言いただいていない方はぜひお願いいたします。それでは、武井メンバー、御発言ください。
【武井メンバー】
武井でございます。お疲れさまでございます。まず、最初に今日のGPIFさんの話も、井口さんの話も、とても有益で、重要なお話をいただいて大変よかったと思います。エンゲージメントに付加価値があるという点、あと、エンゲージメントにいかに付加価値を示すかという工夫、そういうお話があったので、とても重要なお話で、広くこの話は共有すべきだと思います。その上で、冒頭のガバナンス改革、リソース不足、インセンティブ欠如、いろいろな論点があるわけですけれども、2点申し上げます。
まず、1つ目が、対話、エンゲージメントについて、ほかの方もおっしゃっていますが、人的資本改革をきちんとやっていくということが大事だと思います。エンゲージメントに付加価値があるということは、まさにいろいろな形で示されつつあります。コード導入から10年たっていろいろな実証研究もできるようになって、やっと示されつつあるといいますか、まだ5年・10年前は、やっても何か効果がないんじゃないか、意味がないんじゃないか、だから、そこまでのリソースを割いてもしょうがない、お金をかけてもしょうがないといった、そういう認識もあった可能性があるところ、相当この5年・10年で、やっぱり物事は中長期で見ないといけないということがここでも分かるわけですけれども、しかももともとスチュワード・コードは「中長期の」と表題がついているわけですけれども、中長期で見ていくとやっぱり意味があるんだということが示されているのだと思います。その意味で、やっても意味がないということではないということです。
ただ、こういう付加価値には結構、無形資産というか目に見えない部分があるので、こういったことにどうやってリソースとお金をかけるのかというのは結構根本的な問題です。そこを今、変えようとしているのが人的資本改革だと理解しています。人を人件費と見るんじゃなくて資本、資産と見てほしいということなので、こういう活動にリソースをかけましょうという話を進めていく大事な時期だと思います。
あと、この話で、最近のサステナ事項なんかもそうなんですけれども、これは社会全体、経済全体のインフラの話です。インフラをどういうふうに整えますか、整えさせるかというのが、各所のミクロな経済合理性でやるとどうしてもうまく回らないという市場の失敗が起きていて、そういった負のコスト、負の外部性をどうやってみんなで負担しますかという話でもあります。そういう意味で、サステナの事項であろうとなかろうと。あと、パッシブ投資が増えているという点についてもそうで、パッシブが増えすぎていることについても市場の機能が損なわれるというのではないかというそういう構造上の問題もあるわけで、そういう意味でインフラの話です。このインフラの話というのは全体でやはりある程度、リソース、コスト、人的資本という形のものを共有していくことの重要性・理解を改めて示すことが大事かと思います。
スチュワードシップ・コードというのはもともとそういう形で日本企業の中長期的な企業価値の向上のために、ミクロの集合体ではなかなかうまく回らないところを、ソフトロー、プリンシプルの形で、マクロでこういうふうに考えましょうというものなので、こういうことを示す場所としてもいい場所だと思います。もちろんアセットオーナー・プリンシプルもありますので、そこを含めてですね。みんなでこういったちゃんとリソースを割きましょう、またエンゲージメントの付加価値がマクロであるんですと。みんなで日本経済をよくするために、付加価値があることを行うと。それを皆さんで共有しましょうということを進める場として、そういう大きな考え方を今回の改訂で改めて示すことが大事なのだと思います。以上が1点目です。そういう意味で、アセットマネジャーの現場を含めていろいろな人的資本投資を進めやすくする環境を整えることが、特に今回出すべき事項かなと思います。
あと、2点目が、さっき佃さんもおっしゃった形式的な議決権行使の話なのですけれども、ここの論点は、特によくみられるのが例えばさきほど独立性基準の話がありましたが、どうしても形式的に行うことによって実質とずれてしまうものがたくさんあって、特に企業の側からよく問題となっているのは、例えば12年超えたら社外役員はおよそバツという行使基準です。これも、結局、要するに、いくらその方がいかに有用であるとか、もしくは年数が長い短いというのは本来独立役員の多様性の一種だと思いますし、また年数が短い人ばかりだと結構監督もできないものもあるのに、長い年数いる人はやっぱりなれ合うだろうとしておよそバツにする。これは一種の形式的価値観の押しつけなのですね。そういった、もうこんなもの駄目に決まってるんだろうとおよそバツにするということがあると、何か対話しても意味がないなとなりますし、対話しても意味がないのだったら対話に役員の人を出しても意味がないとかということで、悪循環に結びついてしまうということになるのだと思います。そういう意味で、一種の今のガバナンス・コードの形式性とかコンプラ疲れの一因は、こういった機関投資家側の形式的な対応にもあると言ってもいいのだと思います。
あと、アセットマネジャーからしますと、一応一定の基準を決めた上で、なぜ行使の結論が基準と違うんですかということをアセットオーナーに説明するのが一手間であるというということで、説明の手間を省きたいから形式どおりやるという動機も働いているということもある。そこを含めて、問題としては、このインベストメントチェーンの連鎖の全体の中で、マイクロマネジメントというものの問題点を考えないといけないのだと思います。
少なくとも議決権行使基準とかでも、何らかのイシューがある、例えば年数が長いというイシューがあるときも、そこは本来は一律にバツにするんじゃなくて、長いんだったら対話をしましょうと。なぜそうなっているんだ、長いんでしたら、実質的な対話をしたその上でマル・バツを考えましょうという形にするべきです。年数という、イシューがあること自体はいいのですけれども、12年って長いとか、そのときにどういうことで前向きになっているんですかということをやっていく対話をやっぱりすることによって実質化が図れるんだろうと思います。そういう意味でも、前段に言った、対話の機会が増えるということによるリソース負担が大事になります。
あと、アセットオーナーの方も、アセットマネジャーの側がそういういろんな心理的な抵抗を持っているという中で、マイクロマネジメントをすること、何でこうなんだって入ることが、アセットオーナーの方のフィデューシャリー・デューティーというか職責なのか。アセットオーナーの方について最近いろいろなところで期待が高まっていますけれども、どういうことをするのがアセットマネジャーとの関係で職責なのかということをある程度考え方を明確にしないと、何かマイクロマネジメントで口を出すことが職責なのだとなると悪循環も生まれるのだと思います。
この論点はインベストメントチェーン全体で起きていることでして、企業側でもマネジメントとボードとの関係でも同じような論点があるのです。そういう意味で、「マイクロマネジメントをしてないと自分は仕事してない」ということではないのだということ。答えはやはり現場に近いほうが持っていることが多いので、そういう意味で何を納得すればよいのか。プロセスを含めた説明責任とかの中身とか、こういったことを詰めていく。そういう考え方の整理によっていろいろな悪循環を防げると思います。
以上、マイクロマネジメントの論点とリソースを含む人的資本の2点を申し上げたいと思います。あと最後に、実質株主の透明化の箇所はやっていただきたいと思います。以上です。
【神作座長】
どうもありがとうございました。井口メンバーもどうぞ御発言ください。
【井口メンバー】
すみません、たくさん発言させていただいて、もう一度、発言させていただきます。皆様から厳しい言葉もいただきまして、国内系運用会社として反省する部分もあると思っております。
今回、発言させていただきたいのはスチュワードシップ・コードのスリム化というところとなります。油布局長からお話があったスリム化では必ずしもないかもしれませんが、コードについて簡潔に4点ほど申し上げたいと思っております。
1つ目は、原則2と7となります。我々のような国内系運用機関投資家が大手金融グループの中にあるということで、2014年のコード導入当初、利益相反管理を原則2として、コードの中でも一番重要な項目の一つとされているということは納得感がありますし、この原則によって各運用機関とも厳しい利益相反管理の態勢が整ったということで大変貢献があったと考えております。
今後ともスチュワードシップ活動において、この利益相反管理の重要性は変わらないとは思いますが、大手機関投資家においてこういった態勢が定着する中、事務局から御説明のあったスチュワードシップ活動のリソース問題や、武井先生も触れていらっしゃいましたような、その他の課題も出てきていると思っております。このような状況を鑑みまして、持続的なスチュワードシップ活動の維持の観点から、原則2と7を合わせて、スチュワードシップ活動のガバナンスといった形で位置づけるということも検討の余地があるのではないかと思っております。
2つ目が、顧客・受益者への報告を求める原則6となります。これにつきましては、コード導入以降、アセットオーナーなどへの報告など顧客・受益者への報告ということが定着してきたと思っております。このアセットオーナーさんへの報告の重要性については、今後とも、何らその重要性は変わることはないと思っておりますが、冒頭、お話させていただきましたように、投資先企業との建設的な対話、その中でもパッシブ運用対応という意味でも、投資家の開示が非常に重要になってくるのではないかと考えております。ですので、原則6かどこか分かりませんが、投資家の開示ということについて定めるということも検討する余地があるのではないかと思っております。
3つ目は、細かい点になって恐縮ですが、原則3-3で定められています、把握する内容となります。三瓶さんがエンゲージメントに必要な3要素の一つとしておっしゃっていましたが、私も、スチュワードシップ活動においてサステナビリティの把握が非常に重要になってくると思っております。こういった中で、ISSB基準やSSBJ基準で開示されますサステナビリティ関連財務情報といった用語も、原則3-3の把握する内容に入れていったほうがよいのではないかと思っております。これは、今後、開示される企業さんと対話しておりましても、せっかく開示するのだからと、かなり御希望も強いということもありますし、コードの最初に定められておりますスチュワードシップ責任の中で、サステナビリティの考慮に基づく建設的な対話を行う、ということも定められておりますので、そういったことからも必須の情報になるのではないかと思っております。
最後の4つ目となりますが、これは冒頭でもお話しさせていただきましたように、機関投資家向けサービス提供者の影響力というのが大きくなっておりまして、必要に応じて、可能な限り、という前提はつくと思いますが、ユーザーである機関投資家の働きかけというのも必要となる部分もあると思っております。現状、原則8あるいは原則5の5-4に、これに近いことが定められておりますが、こういった事項をコードにどう位置づけるかということは検討の余地があるのではないかと思っております。
以上でございます。ありがとうございました。
【神作座長】
どうもありがとうございました。オンラインで御参加の大場メンバー、もし御発言がございましたら、ぜひ御発言ください。
【大場メンバー】
では、私からは、時間も限られておりますので、簡単に5点申し上げます。今日御議論いただきたい事項の実質化のところに関連している点でございますが、スチュワードシップ活動の実質化を阻害している要因をちょっと整理してみました。これは当協会が運用会社各社にアンケート調査をした結果として見えてきたものと御理解いただければと思います。
まず第1点は、運用会社です。運用会社の最大の課題は何かというと、専門的な人材が必要となっているのですが、十分な経営資源が割かれていないということです。この背景には、最初に佃さんからも御指摘がありました、運用報酬が極めて低レベルにとどまっているというのが背景にあるのではないかと推定されます。
2点目は、投資先企業の課題です。情報開示の質に課題があるという回答が非常に多くなっています。これはどういうことかというと、開示は十分にしているけれども、ビジネスの戦略として、企業価値の向上と関連づけた開示が行われていない。これらについて改善の余地があるのではないかという回答が多くなっているということであります。
3点目はアセットオーナーです。アセットオーナーの課題は、そもそも論として、スチュワードシップ活動にそれほど高い関心を持っていないという結果が示されています。どちらかというと、リターンが中心ということではないかと思います。アセットオーナーも大変多くございますので、そうでないアセットオーナーももちろんあるのですが、実効的なスチュワードシップ活動を行うよう特に求められていないとの回答が60%以上に上っているという結果になっています。
4点目は、その他の指摘として大変多い回答になっていましたのは、持ち合い安定株主の存在が依然として大きいという声が多く寄せられています。エンゲージメントの実効性が阻害されているということが推定されるということであります。
5点目は、そもそも論になってしまうので大変恐縮なのですが、10年間このスチュワードシップ活動をずっと継続してきているわけですが、中長期マネーが日本企業投資を敬遠し始めているのではないかという事実であります。最近では、つみたてNISAのお金が海外志向を鮮明にしておりまして、日本企業に向かっていない。もう一つは、企業年金連合会が開示しているアセットミックスの推移を見ると、日本企業への投資が傾向として縮小していると、こういう事実が見てとれます。したがいまして、全体として、こういった状況をどのように改善していくかというのが大きな課題になっているのではないかと推定されるということです。
私からは以上です。
【神作座長】
どうもありがとうございました。本日御参加いただいたすべてのメンバーの皆様から御発言をいただきました。どうもありがとうございました。
若干時間がございますので、もしオブザーバーの方で御発言を希望されている方がいらっしゃいましたら、御発言いただければと思います。それでは、信託協会、どうぞ御発言ください。
【信託協会】
信託協会で業務委員長を務めております、三井住友トラストグループの藤井と申します。
まず、本日の御議論いただきたい事項ということで挙げていただいておりますスチュワードシップ活動の実質化に関しまして、スチュワードシップ活動の範囲とか活動量が拡大する中で、コスト負担の観点は非常に重要と我々も考えておりまして、この中で、インセンティブの付与だとかコストシェアリングが重要といった記載をいただいております。これらに関しましては、運用に携わることも多い信託業界といたしましても非常に進展に期待するところでございます。
また、30ページの実質株主透明性のほうでございますが、こちらにつきましても、企業と投資家の対話の促進という観点からは、実質株主の透明性向上が非常に重要、望ましいと考えております。また、昨年の金融審の報告を受けまして、今後、法制度上での義務づけの議論も行われていくと認識しておりますけれども、いずれにおきましても、発行会社側のニーズを踏まえつつ、一方で実効性のある運営が必要と考えております。例えば、実質株主のデータ提供のインフラの構築が必要になる、あるいは運営態勢の整備が必要になるということであれば、負担も含めた実務上の論点は非常に多岐にわたるのではないかと考えております。
そのほかにも、実質株主の範囲、把握可能なレベルはどこまでなのか、こうしたところも論点になるかと思いますし、あるいは関係者間の守秘義務の問題もあるのではないかと考えておりまして、こうした多数の論点を業界横断的に議論することも必要になってくると思われます。信託業界としても、前向きに議論に取り組めればと考えております。
以上でございます。
【神作座長】
どうもありがとうございました。ほかに、オブザーバーの方で御発言を希望されている方はいらっしゃいますでしょうか。オンラインで御参加の方も含めて、よろしゅうございますか。
それでは、そろそろ定刻が近づいてまいりましたので、本日の討議はこの辺りで終わらせていただきたいと思います。
最後に、事務局から御連絡等がございましたら、お願いいたします。
【野崎企業開示課長】
ありがとうございます。次回の有識者会議の日程でございますけれども、また、皆様の御都合を踏まえた上で、後日事務局より御案内させていただければと思います。
事務局からは以上でございます。
【神作座長】
どうもありがとうございました。
それでは、以上をもちまして、本日の有識者会議を終了させていただきます。大変御多忙の中、建設的な御議論をいただき、誠にありがとうございました。
―― 了 ――
(参考)開催実績
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企画市場局企業開示課(内線:3849、3659)