「サステナブルファイナンス有識者会議」(第1回):議事録(暫定版)

1.日時:

令和3年1月21日(木曜日)13時00分~15時00分

2.場所:

オンライン開催
 
【水口座長】  
 皆様、こんにちは。それでは、定刻となりましたので、ただいまよりサステナブルファイナンス有識者会議の第1回を開催いたします。
 私は、座長を務めます高崎経済大学の水口です。どうぞよろしくお願いいたします。
 委員の皆様には、お忙しい中御参加をいただきまして、誠にありがとうございます。また、このような貴重な場を設定された金融庁の皆様の御決断にも敬意を表したいと思います。
 
 開会に当たりまして、座長として一言申し上げたいと思います。2050年の温室効果ガスの実質排出ゼロに向けて、今や産業構造の大転換が始まろうとしています。当然、金融の役割は極めて重要です。逆に2050年にネットゼロが実現できなければ、社会は大変な被害を受け、金融もまた大きな影響を被ります。したがいまして、ネットゼロの実現に向けて金融機関や金融資本市場をいかに適切に機能させるかということがこの有識者会議の喫緊かつ最大の課題であると承知をしております。
 
 一方で、なぜ気候変動がこれほど大きな課題になってしまったのかということについても、私たちは考えておく必要があると思います。それは一言で言えば、1980年代には既に警鐘が鳴らされていたにもかかわらず対応が遅れたということにほかなりません。そうであるとすれば、今は気候変動ほどの被害でなくても、今後より重要になる環境・社会課題がほかにもあるかもしれません。

 したがって、気候変動はもちろんですが、それ以外の幅広い環境・社会課題を視野に入れたサステナブルファイナンスの一般的な枠組みを私たちは考えていく必要があると思います。この有識者会議の名称が、気候ファイナンスではなくてサステナブルファイナンスとなっていることのゆえんだろうと思います。
 
 皆様御案内のとおり、サステナブルファイナンスにつきましては、海外で既に先行した取組が始まっております。EUの有識者会議に当たりますハイレベルエキスパートグループが最終報告書を出したのは2018年でした。もちろん責任投資原則、PRIは2006年から取り組んでいます。私たちは、それらの先行事例を参照できる立場にいる以上、後発の私たちがそれよりも前に進んだ議論をしなければ、日本のレピュテーションにも関わると思います。
 
 金融庁がサステナブルファイナンス有識者会議を設置するということは、歴史的な意味を持つ可能性があると思いますので、未来の世代に対して責任を持って議論を進めていきたいと、このように考えております。皆様の御協力をお願いしたいと考える次第であります。
 
 それでは、本日は有識者会議の第1回でもありますので、初めに、御参加いただくメンバーの皆様を御紹介したいと思います。メンバーの御紹介につきまして、事務局よりお願いいたします。
 
【岡田総合政策課長】  
 事務局を務めさせていただきます、金融庁総合政策課長、岡田でございます。
 当有識者会議のメンバーの方々につきましては、本日のお手元の資料1、こちらに名簿がございます。そちらをもって御覧いただければと思います。
 
 また、本日は、イノベーティブファイナンス及びサステナブルインベストメントについての国連事務総長特使及びPRI(責任投資原則協会)理事の水野弘道様にも初回ゲストとして御参加いただいております。
 
 オブザーバーにつきましては、先ほどの資料1を御参照ください。
 事務局につきましては、時間の都合もございますので、お手元の配席表をもって代えさせていただきます。
 
 メンバー等につきましては、以上でございます。
 
【水口座長】
 ありがとうございます。
 次に、会議の運営について、幾つか御承認いただきたいと思います。この会議は、新型コロナウイルス感染症対策の観点から、本日のようにオンライン会議を併用した開催としたいと思います。

 議事の公開につきましては、一般の傍聴はなしとした上で、メディア関係者の皆様には、金融庁内の別室において傍聴いただくこととしたいと考えています。議事録を作成の上、後日、金融庁ウェブサイトに掲載させていただきたいと考えていますが、皆様、以上のような形でよろしいでしょうか。
 
(「異議なし」の声あり)
 
【水口座長】  
 御承認いただいたのかなと思っておりますので、このように進めさせていただきたいと思います。
 
 議事に移ります前に、2点注意事項がございます。まず、御発言されない間は、パソコンのほうをミュートの設定にしていただくようにお願いいたします。発言される際にはミュートを解除いただきまして、御発言が終わられましたら再びミュート設定に戻していただくようお願いいたします。
 
 次に、御発言を希望される際は、オンライン会議システムのチャット上に全員宛てでお名前を御記入ください。そちらを確認して私が指名いたします。御自身のお名前を名のっていただいた上で、御発言ください。事務局のみにプライベートでチャットを送るということもあったようですが、全員宛てで送っていただければと思います。というのが、公式の発言の仕方ということです。議論が進んできてどうしても言いたくなったときには声を上げていただいても構いませんが、平等にということの配慮でございます。
 
 それでは、議事に移りたいと思います。議事次第を御覧ください。本日は、氷見野長官に御出席いただいておりますので、開会に当たりましてまず氷見野長官から御挨拶をいただき、引き続きまして、事務局より本有識者会議で取り扱う内容について御説明をお願いします。その後、水野様と高村先生から御報告をいただき、その後に自由討議というふうにさせていただきたいと思います。
 
 それでは、冒頭、氷見野長官から御挨拶をいただければと思います。氷見野長官、お願いいたします。
 
【氷見野長官】  
 皆様、今日は有識者会議に御参加いただきまして、ありがとうございます。サステナブルファイナンスとの関係で金融行政をどう設計していくかという課題は、まさに緊急の課題でもあるわけですけれども、併せて、少なくとも2050年までは継続的に工夫を積み重ねていかなければならない息の長い課題だろうというふうにも思います。
 
 私ども金融庁もこれまでいろいろ取り組んでは参りましたけれども、専門家の皆様と議論させていただきながら進めるというのは今日が初めてになります。ある意味、数十年続くプロセスに本格的に取り組むスタートの日というふうに私ども考えておるところであります。ですので、もちろん足元どういうことをしたらいいかとか、すぐできることにどんなことがあるかといったような点についてもぜひ御意見を頂戴できればと思いますけれども、併せて、将来の経済や社会をどのように思い描いて、この中での金融の姿をどう位置づけて、今後10年、20年、30年どのような取組を進めていくべきかといった大きなデザインについてもぜひ御議論をいただければありがたいと思います。
 
 国際的に見ますと、米国ではバイデン大統領がパリ協定に復帰されたりとか、気候変動問題自体についても動きが早いわけですけれども、金融行政と気候変動といった問題についても、今年はG20の議長国になりますイタリア、G7の議長国になりますイギリスも、G20、G7の主要なテーマの1つとしてこの問題を掲げております。

 また、例えば世界の主立った金融規制当局、中央銀行、財務省、基準設定主体が集まります金融安定理事会(FSB)におきましても、これまでは気候変動の問題は主に分析の委員会で扱っておりましたけれども、現在、私が議長をしております政策形成のほうの委員会で議論を始めるということで、金融機関のリスク管理の面から見るグループと、開示、ディスクロージャーの面から見るグループを立ち上げる準備を現在進めておるところであります。

 また、金融庁は、証券監督者国際機構(IOSCO)、サステナブルファイナンス国際プラットフォーム(IPSF)におきましても、それぞれ関係の部会で共同議長を務めております。皆様方に御議論いただいた中身というのは、もちろん国内における政策形成にも生かして参りたいと考えておりますけれども、併せて国際的な場における議論にも活用させていただければと考えておりますので、ぜひ活発な御議論を頂戴できればと思います。どうぞよろしくお願いいたします。私からは以上です。
 
【水口座長】  
 どうもありがとうございました。御指摘のように、将来に向けた大きな方向感を持ちながらきちんと議論を進めていきたいと思います。どうもありがとうございました。
 それでは、事務局のほうから、サステナブルファイナンス有識者会議で取り扱う内容についての御説明をお願いいたします。
 
【岡田総合政策課長】  
 資料2というのが、お手元に1枚紙があると思います。こちらは、昨年末に本会議の設置を公表した際に世の中にも公表させていただいたものであります。
 
 まず上の囲みで、2050年カーボンニュートラルを経済と環境の好循環につなげることが政府全体の課題。そして、日本企業は、こうした脱炭素社会の実現に貢献する技術・潜在力を有しているが、必ずしも生かせていない。国内外の成長資金がこうした企業の取組に活用されるよう、金融機関や金融資本市場が適切に機能を発揮していくことが重要というように問題意識を書かせていただいております。
 
 これを受けて、本日からまさに御議論をお願いしたいと思っております。テーマにつきましては、下の右のほうの囲いに案ということで3つほど例示させていただいております。これは今申し上げました、国内外の資金が企業のサステナビリティーに向けた取組に活用されていくということを考えた場合のその関係者、プレーヤーといたしまして、金融仲介者としての金融機関、それから、資金の出し手としての機関投資家を含めた投資家、それから、そうした技術とか事業の担い手たる企業、この3者を想定した場合にそれぞれ考えられる課題を私どもなりに例示してみたものでございます。
 
 他方で、国際的な議論との関係で振り返ってみましても、例えばマーク・カーニー氏の言うところの3Rs、リポーティング、リスクマネジメント、リターンといったものともおおむねこの3つというのはカバレッジが似たようなものになっているのではないかというように認識しております。
 
 政府の会議にもいろいろなものがありまして、事務方のほうで実は最初からある程度おおむね詳細なスケッチが出来ている場合もあるとは思いますが、今回は、今、長官からも申し上げましたが、私ども金融庁として、有識者の皆様の御意見をいただいて、それで短期の課題、中長期の課題をしっかり考えていきたいと思っておりますので、これらは例示でございますが、今後皆様方に積極的に御意見をいただいて、我が国として取っていく施策について金融庁として考えていく上での道しるべというか参考にさせていただければと思っております。
 
 そうした上で、あと残り、資料4で、今後御議論いただく事項に関連する国内外の動向についての参考資料も配付してございます。これは適宜御参照いただければと思います。
 私からは以上です。
 
【水口座長】  
 ありがとうございました。詳細に何も決まっているわけではなくて、大きな方向観を議論していきましょうということで、皆様、よろしくお願いいたします。
 
 それでは続きまして、水野様からのお話をいただきたいと思っております。水野様、大変御無沙汰をしております。ここでお会いできて大変うれしいといいますか、光栄です。水野様からは、国内外の情勢や政府に対する期待等について忌憚のない御意見をいただければと思います。どうぞよろしくお願いいたします。
 
【水野様】  
 よろしくお願いいたします。本日は、この第1回目のサステナブルファイナンス有識者会議にゲストとして呼んでいただきまして、大変ありがたく思っております。今ちょっとスクリーンを見渡してみますと、水口先生をはじめとして、私が去年の3月まで勤めておりましたGPIF時代の私の活動の賛同者の方々がたくさん並んでいらっしゃいますので、大変懐かしく思っております。
 
 1月2日から国連事務総長の特使として、イノベーティブファイナンスとサステナブルインベストメントの推進を担う特使ということで任命されております。それと、以前からやっておりますPRIの理事のほうも継続いたしますので、今後は、COP26も含め、同じく事務総長特使であるマーク・カーニーなどとも一緒に活動していく予定です。皆さんにはぜひまた御協力いただきたいと思っております。
 
 私から幾つか申し上げたいんですけれども、まず総理のカーボンニュートラル宣言が出たことによって、全ての景色が変わりつつあるというふうに私は考えています。政府に対して2050年というゴールをピン留めすることで雪崩式な構造変革やイノベーションが生まれるという主張をしていた者といたしましては、実際、毎朝の新聞でサステナビリティー、持続可能、再生エネルギーというキーワードでもう20とか30とか記事があるというのを見るにつけ、それは正しかったというように思っているんですけれども、正直、私は、日本としてはぎりぎりのタイミングでこの目標の設定が行われたというふうに思っています。

 それはやはりこの3年ぐらいですかね、当時はGPIFのCIOとしてですけれども、国際社会のサステナブルファイナンス、サステナブルビジネスモデルに対する熱意と地殻変動的なマグマが、日本の人たちが見ているのに比べてはるかに強大な力が動いているということを認識しておりましたので、それを少しでも早く日本に伝えなければという気持ちでやっておりました。

 この2021年以降何が起こるというふうに考えているかといいますと、今回バイデン政権によってアメリカのパリ協定への復帰が確定したということで、これで世界の足並みがそろったということでありますので、ずっと議論されてきた、次のゲームのルールは何だというところが1つ確定したんだろうと考えています。そうなりますと、1つ我々考えなければいけないのは、やっぱりこのエリアでは一丸となって進めてきたヨーロッパと、さらに、ブレグジッド以降ヨーロッパをさらにリードしていこうという思惑を持っているUKと、あと、アメリカはトランプ大統領がホワイトハウスにいたときも、民間のサステナビリティーの取組は、減速するどころか加速したわけであります。

 私もよくムニューシン財務長官と、それこそUSグリーントレジャリーを出すべきだなどという話をしていたんですが、「アメリカのほうが実は日本より再エネ増えてますよ」ということを言われたりしていて、これがアメリカのダイナミズムなんですね。ホワイトハウスが何か言っても、州や市はそれぞれの考えで動きますし、ましてや民間企業は、今から20年、30年どうやって企業として生き残るかということを考えて活動しております。

 なので、ここでさらに連邦であるバイデン大統領が大きな方向性を示せば、アメリカのスピード感は多分私たちの想像を絶するだろうと思っています。また、バイデン大統領は、国連とも協力していきたいというふうに明確に言っておられますので、そういう意味では、私の今度の新しいポジションである国連との協働というのもより進むと考えております。
 
 そういう中で私は今、アメリカの会社、フランスの会社の役員もやっておりますので見ているんですけれども、結局これはインダストリー4.0とか、日本の経団連さんのSociety5.0ということがテーマになっている、自動車業界であればCASE、MaaSとかありますけれども、結局これ、100年に一度の産業革命に近いものが起きているということだと思うんですね。それのトリガーになったのが気候変動問題であるわけです。
 
 ということになってくると、日本の金融がやっぱり思い出すべきなのは、それこそ明治維新の後あるいは終戦直後に金融がどういう役割を果たしたかということ、そのぐらい考えて金融の役割を考えていかないと、正直、金融は、企業がやっていることを評価して、それでいいものと悪いものだけ振り分けてやっていきますというような考え方では、多分産業革命のファイナンスは無理だと私は思います。経団連さんもこれはSociety5.0で言っておられるわけですから、金融機関、投資家の側も、産業革命のファイナンスをどうするかというぐらいの気持ちで議論してもらう必要があるだろうと思っています。
 
 では具体的にどういうことをすべきかと私が思っているかということを少し申し上げます。
 
 まず今回のサステナブルファイナンスということについて、EUなんかは、かなり長い時間をかけてサステナブルファイナンスって何かということをやってきたわけです。私もそれは定義はちゃんとあったほうがいいと思いますけれども、先ほどの金融庁さんの説明だと、やはり気候変動問題を解決するためのファイナンスということなんですが、一部の研究では、例えば女性取締役が多い会社は気候変動問題により積極的であるみたいな情報も出ていたりしますので、今回気候変動だけに絞るなら絞って全然私は構わないと思いますけれども、ほかのESG課題、特にGとEの関係性みたいなものは、特に金融庁さんがスチュワードシップ・コード、コーポレートガバナンス・コードの管轄官庁でもありますので、考えていただいたらいいと思います。
 
 私は、TCFDを推進すべきと経産省の当時の研究会でも発言し、金融庁さんもサポートしていただいて、結果として日本は世界最大の署名者数を誇る状態になっているわけですけれども、TCFDを日本に勧めた1つの理由が気候変動問題に対処するガバナンスがあるかということをTCFDは明確に求めているからです。それはやはり欧米では、CEOのインセンティブが、自分の退職までのエコノミックスを最大化するということにあるというのが前提条件ですので、気候変動問題は当然それを超えたイシュー、CEOの任期を超えるものですから、これはガバナンスで確保すべきであるという考え方なんですね。日本のCEOの方々は必ずしもそうとは私は思いませんが、やはりガバナンスを使ってEを確保するみたいな、ESGの使い方をこのサステナブルファイナンスの議論の中でしていただきたいというのが1つ目です
 
 2つ目は、多分タクソノミーとかの議論になると思います。私は、日本的な基準づくりにずっと反対をしてまいりました。それはなぜかというと、日本型とか日本的みたいなものをやっても、結局、世界中の投資家が誰もそれを使ってくれないので、単に自己満足に陥ってしまうということが1つ目の理由。

 2つ目の理由は、正直言って、日本人は海外に自分たちのルールをスタンダード化するという経験がないんですね。すると、結局、日本だけ何かサブスタンダードなルールでやってますみたいになって、また日本は特殊論になってしまうので、EUタクソノミーを使うかどうかは皆さんで議論されたらいいと思いますけれども、できるだけそういう定義づくりみたいなものは、欧米で先につくっているところがあれば、TCFDもそうですけれども、あれも実はTCFD研究会第1回目に私はこのような形でゲストとして呼んでいただいたんですけれども、最初の回では、日本型TCFDをやるべきだという意見が出ていまして、私はそれだけはやめてほしいということを言ったわけです。やはりあれも、あそこで日本型のTCFDと言っていたら、300機関署名しても世界的な評価は一切されなかったわけですが、あれはTCFDに300なので世界的に高い評価を受けているということですから、そういう意味で、スタンダードに関しては、誰かがもうやっているのであれば、それをどう使うかというふうに議論していただいたほうが私はいいと思っています。
 
 一方で、よく見てみますと、例えばEUのタクソノミーなんかは、あれはもうピュアグリーンの基準でグリーンウォッシングをさせないというブラック・オア・ホワイトの基準をつくろうということでやっていますので、それに対して日本が、自分たちですら完全グリーンとは思っていないものを入れてくれないかなみたいなディスカッションをしても、正直、そもそもかみ合わないわけです。ただ、彼らは、ピュアグリーンにする、つまり、グリーンウォッシングを防ぐということを最大の命題にしてやったがために、トランジションというニーズがあるのは分かっているんですが、それへの対応ができていないというか、まずそれは次のことだとして置いていったんだと私は理解しています。
 
 なので、例えば日本は、どうしてもカーボンヘビーな産業が多いということもあって、トランジションについてのファイナンスをやるべきだと思うのであれば、例えばUKのタクソノミーを完全グリーンな定義として受け入れつつ、そこに向かうトランジションのガイドラインをつくるというようなところに日本が努力をされれば、それはまたEUのほうもサポートしてくる可能性はかなり高いと思っていますし、私が特使をやっている国連の議論の中でもトランジションは問題になっています。
 
 トランジションのところでちょっと忘れそうになるので、1つだけ加えさせていただきますと、EUで議論されていて、実は日本でほとんど今まで議論されていないのは、ジャストトランジションの考え方だと思っています。このトランジションしていく中で、取り残された人たちをどう出さないかというような議論も、私はサステナブルファイナンスの一環として議論すべきだと思っています。
 
 最後、もう一つですが、皆さんにお願いしたいのは、具体的なプロダクトを作ってくださいということであります。GPIF時代、一生懸命指数をつくったりしましたが、なかなかそれがほかの人たちにプロダクトとして活用されていかなかったという私は思いを持っています。例えばこういう基準をつくっても、その基準で、例えば今、トランジションボンド、トランジションボンドと日本は言っていますけれども、実際初めて出たトランジションボンドは、トランジションウォッシングという話はありますけれども、中国でしたし、日本では出てこない。例えばグリーンボンドとかそういうことを言っても、日本の市場の殆どが日本の国債なのに、日本のグリーン国債がないわけですから、日本の債券市場はグリーンになりようがないわけです。

 そういう意味において、ファイナンスのプロダクト、あるいは個人の方々が銀行や証券会社に行ったときに、「ESGっていっぱい聞くんだけど」と言ったときも、やっぱりプロダクトがない。だから、いろいろ基準づくりとか、ほかの国がやった基準づくりにいろいろコメントしている割には、日本からプロダクトが出ていないし、実際の投資も起きていない。ESG投資も、GPIFがやって幾つかのところは参加されましたけれども、御存じのとおり、いまだにPRIの署名をしている年金基金、特に企業年金はかなり少ないですし、三共済も署名していないということで、結果としてアクションがないんですね。ですから、それぞれのところでやっぱりアクションを取る。
 
 あと、2050年に向けて長い闘いだと長官がおっしゃいましたし、そのとおりなんですけれども、今やっぱり問題になっている、特に日本が批判されてきたことは、2030年までに既にできることがあるのにそれをやっていないと。2050年までの問題だとずっと言っていて、日本の話を聞いていると、2049年に突然全部グリーンになるという考え方かなと思われるぐらいなので、やっぱり2030年までに今何ができるかということを具体的にやってほしいです。

 それぞれ制約があるのは分かりますので、その制約の中でどういうことをすれば実際にお金が動くのかということを、一番最初に申し上げましたように、この100年、200年に一度の産業革命に近い構造改革において金融の果たす役割と責任をみんなで考えていただければと思いますし、私も新しい立場で皆さんと一緒にこのアジェンダを進めていくのを楽しみにさせていただいております。
 
 長くなりましたが、どうもありがとうございました。
 
【水口座長】  
 どうもありがとうございました。大変重要な御指摘をいっぱいいただきました。2030年までにできることがたくさんある。それをやっていない。まさにそのとおりで、そこを、これからの10年が一番重要なところだと思うんですね。そのとおりだと思いますし、ガバナンスの重要性、そして、ジャストトランジションという概念がやはり非常に重要だということもそのとおりだと思います。プロダクトを作ってくださいは、今日の委員の皆様に頑張ってくださいということなのですが、タクソノミーに関する御指摘も大変勉強になりました。やはり国際的な流れと齟齬のないものと。一方で、トランジションのように、抜けている部分があれば日本が貢献できることもあると。大変示唆に富んだお話をいただいたと思います。ありがとうございました。
 
 それでは続きまして、高村先生からお話をいただきたいと思います。高村先生にもいろいろなところでお世話になっております。ありがとうございます。高村先生から、「気候変動と金融 気候変動問題から見たサステナブルファイナンスの課題」と題してお話をいただければと思います。先生、よろしくお願いいたします。
 
【高村メンバー】  
 ありがとうございます。ただいま水口先生から御紹介にあずかりました、高村でございます。今日は、このサステナブルファイナンス、金融分野のそうそうたる専門家と実務家に囲まれて、大変緊張しております。水野さんには、2019年のパリ協定の長期成長戦略の過程の中でもいろいろ本当に重要な指摘をいただいて、あれが1つの跳躍台となって2050年のカーボンニュートラルに結びついてきているんだろうと思っています。こうした先生方の専門家あるいは実務家の皆さんの前ですので、私はどちらかというと、気候変動の観点からお話をさせていただこうと思っております。
 
 気候変動と金融ということで今日はこちらをお持ちいたしましたけれども、なぜ気候変動問題にとって金融が重要なのか、逆に金融にとってなぜ気候変動問題が重要なのか、ここにいらっしゃる方々にとっては極めて基本的なことだと思うんですけれども、それをお話しした後に、気候変動政策が世界的にやはり大きくそのアプローチが変わってきている、その中での金融の役割ということ、そして、最後に、水野さんほど尖った示唆はできませんけれども、サステナブルファイナンスの、日本にまさにこうしたファイナンスを集め、新しい産業・社会構造をつくっていくという課題に応えるファイナンスの在り方について、先生方の御議論を喚起するための1つの頭出しをさせていただこうと思っております。
 
 パリ協定、こちら、よく皆さん御存じのとおり、今日といいましょうか、現地時間では昨日ですけれども、アメリカがパリ協定に復帰をするということを大統領令で署名されて決まっておりますけれども、パリ協定第2条に目的を定めております。基本的な目的は、よく皆さん御存じのとおり、2度目標、1.5度の努力目標といった長期の目標ですけれども、見ていただきたいのは、2条のcであります。気候変動の国際条約の中で初めて資金に関する目標を定めている協定であります。低排出型の強靭な、レジリエントな発展に向けた資金の流れをつくっていくということ、資金をそういう方向に転換していくということを目的に定めています。

 これは先立つ気候変動に関する政府間パネル、そして、その後の2018年のIPCCの最新の報告書の中で表されている知見の中にも含まれております。現在、我々、1度気温が上昇した世界に生きていますけれども、このままで行けば、さらに気温の上昇が予測され、気温の上昇とともに気候変動関連のリスクは高くなる。その意味では、1.5度というパリ協定の努力目標を達成するためには、50年頃にはCO2排出実質ゼロといった水準での削減が必要だというふうに示されています。
 
 見ていただきたいのは次のところでして、こちらでございます。残念ながら、今の各国の対策の水準は、この長期目標の水準には合致しておりません。したがいまして、脱炭素社会、カーボンニュートラルに向かうためには、エネルギー、建築、交通、様々なインフラと産業が大きく転換をしていかないといけない。そのための投資の増大というのが鍵であるということが示されております。
 
 今こちら御紹介しているのが、目標とどういうギャップがある、今、我々、目標というのが1.5とか1.8度とかありますけれども、2度とかありますが、我々の対策水準と大きなギャップがあるということを示しているものです。

 これはエネルギー分野についても同じでして、我々の目指す排出の経路はこちらですけれども、排出の実態としては非常に大きなギャップがある。したがって、そこを埋めるための、目指すべき未来社会に向けて社会を、経済を、産業を転換していくための施策とお金、資金が必要だということです。
 
 少し古いんですけれども、それを端的に示しているのが、このIPCCの第5次評価報告書に示された知見であります。こちら、2度目標を達成するためには、エネルギー分野だけでこれまでの投資のトレンドを大きく変えないといけないということを示しています。化石燃料発電への投資を大胆に低減し、反対に再エネあるいはエネルギー効率改善に大きな投資が必要だということを示しております。
 
 足元でいきますと、エネルギー転換というのが2010年代に入って半ば近くから動き出しております。こちら見ていただきますと、再生可能エネルギーを軸にしたエネルギー転換への投資は確実に増えてきております。2020年、減ると思われていたんですけれども、このエネルギー転換投資は下がっておりません。注目されますのは、再エネ投資、これは非常に大きいんですけれども、もう一つは、この緑のところであります。交通・輸送の電化が非常に大きなエネルギー転換投資の割合を占めるようになってきている。
 
 しかしながら、先ほど言いました長期目標との関係でいきますと、再生可能エネルギー1つをとっても、さらなる再エネの導入とそれへの投資が必要だと。これはUNEPとブルームバーグNEFのデータの御紹介をしています。
 
 今、気候変動にとって金融がいかに大事か、資金をカタライズする金融は非常に重要だということをお話ししてまいりましたけれども、今度は、金融にとっての気候変動の問題であります。こちらは、参加の委員の先生方にとっては釈迦に説法なのですけれども、気候変動が金融市場の安定性に脅威を与えるシステミックなリスクとして認識され始めているということかと思います。

 これは2018年、日本でも関西国際空港が浸水した台風21号、あるいは200名以上の方がお亡くなりになった7月の西日本豪雨、この2つだけで18年は2兆5,000億円を超える経済損失。
 
 19年は、関東圏、首都圏、東日本に参りました台風15号、19号、2つで2兆7,000億円を超える経済損失があります。これらの中にはいわゆる海面上昇などのスローオンセットイベントと言われる緩慢に進行する気候変動影響は含まれていないわけなんですけれども、非常に大きな、とりわけ日本という地理的な条件を踏まえる必要がありますが、日本にとっては気候変動に起因する自然災害の経済損失が非常に大きな額になってきているということであります。
 
 これは世界的にもそうでありますけれども、こちらは、バンク・オブ・イングランドのちょっと古いデータでありますけれども、世界的にも80年以降、経済損失額、気象関連の損失額が右肩上がりで増えてきているということを示しています。当然それに伴って保険の支払額も増えております。
 
 もう一つのリスクというのは、御存じのとおり、移行リスクであります。これはHSBCとブルームバーグが示して、大変面白くて使わせていただいているんですが、社会の変化に対応ができる企業と対応ができなかった企業が、その株価がどう変わったかということを示しているもの、デジタル化に対応できたキヤノンとデジタル化に対応ができなかったコダックということを対照的に示しているものと思います。これはログベースですので、どれだけ株価に差が出たかということが分かる。
 
 もう一つ話題提供、移行リスクと言うにはちょっと飛び出ているかもしれませんが、これはブルームバーグNEFの一番直近レポートです。昨年1年、2020年、クリーンエネルギー企業の株価と石油企業の株価、1月を100としたときにこれだけの大きな変化が、クリーンエネルギー企業のほうの評価が高まっているということを示しているものであります。これが移行リスクに直結するものでないにしても、社会の変化にうまく対応を企業がしていく、それを誘導していくということが金融市場にとっても重要だということを示唆するものであると思います。
 
 すみません、これ、追加資料です。先ほど水野さんが、本当に歴史的に大きな変化が生まれていると。これは全く実は同じでして、物理的リスク、移行リスク、気候変動の文脈で申し上げましたけれども、もう一つ重要なのは、気候変動と脱炭素化の動きと連動した大きな技術の革新、エネルギーの転換が起きているという認識があります。脱炭素はそれを後押ししていますけれども、それがなくても大きな転換が起きているという認識です。ですから、これにうまく企業が対応できていくということが、同じように金融市場にとっても重要な意味合いを持つと思います。
 
 これは世界の電源構成でございますけれども、19年よりもむしろヒストリカルな、歴史的動向を見ていただきますと分かりますが、2010年を越えた頃から、それまで50年間起こっていなかった非化石需要が起きているということが分かります。これは同じように、先ほどEV、輸送分野、交通分野の電化の動向もお話ししましたけれども、デジタル化、自動化、分散化、脱炭素化といったようなキーワードを軸に、モビリティエネルギー、場合によっては住宅、デジタルと、複層的な、分野を超えた技術革新が加速的に起こっているという認識が必要だと思います。
 
 さて、そういう意味で、戻らないといけないですが、金融市場にとって、足元の技術で社会の変化と共に後押しされた気候変動に注目することは極めて合理的だと思うわけでありますけれども、そこで、やはりマーク・カーニーの、パリ協定が出来る前ですけれども、ロイドでのステートメント、スピーチの中である、これ、事務局の資料4にも御紹介ありますけれども、いわゆる時間軸の悲劇、あるいは時間的視野の悲劇と言っていいかもしれませんが、中長期的な視野を持って脱炭素社会へのスムーズな移行、秩序立った移行を行うということが必要だということです。
 
 マーク・カーニーを引用させていただいたのは、彼のTragedy of the Horizonのところですね。やっぱりビジネス、経営者、政策決定者、専門家、実務家に時間的視野の制約があるという言及があるかと思います。これは逆に言いますと、その中にしっかり、それぞれ3つのレイヤーにしっかり長期的な視野を持った脱炭素社会へのスムーズな移行ということが組み込まれるということが必要だというふうに考えます。
 
 さて、残った時間で、金融の話というよりも、次のところ、金融の話はここに書いていますけれども、ここは事務局の資料4にもありますし、このメンバーにお話をするまでもないと思いますので、御覧いただこうと思っております。
 
 むしろ後半は、政策の変化でございます。カーボンニュートラルに向かって日本も明確な目標を持って、期限を持った目標を持って歩み出したわけですけれども、世界的にもこの1年強のところで、50年カーボンニュートラルの目標を掲げる国が120を超え、バイデン政権のコミットメント、誓約によってアメリカもこれに加わりますので、排出量としても相当の量を占める国々がこの目標を掲げることになります。金融の分野でも、例えばPRI、UNEPFIを中心としたアセットオーナー、それから、ネットゼロアセットマネジャーズイニシアティブ、立ち上がったばかりだと思いますが、こうした取組も進んでおります。
 
 主要国の気候変動対策でぜひ注目をしていただきたいのは、先ほども既に水野さんから言及がありましたが、EUのタクソノミー。ここには書いてありませんけれども、これはもう既に2018年から議論がされているものであります。加えて、先ほどのネットゼロ、2050年までの温室効果ガスのゼロ排出、そして、コロナの中で傷んだ経済を復興する戦略の中心に気候変動を位置づけていく、温暖化対策に位置づけていくという方向性が示されております。
 
 イギリスに関しても、離脱はしましたけれども、同様な立場は維持をされております。こちらも事務局の資料にございますけれども、TCFDに沿ったComply or Explainでの情報開示を義務づけるという方向での政策が取られております。
 
 アメリカについては、ちょうどパリ協定再締結をしたところでございますが、バイデン政権の下で50年排出実質ゼロ、35年の電力脱炭素化、グリーンエネルギーなどへのインフラ投資に4年間で2兆ドルを投資するという政策であります。
 
 中国も、60年までにはカーボンニュートラルを国連総会で習主席が発言をしておりますけれども、それに伴って2030年の目標の引上げを行いましたが、やはりかなりの排出削減、とりわけ、再生可能エネルギー、エネルギー分野の転換をもたらす30年目標になっております。
 
 今お話ししましたのは、主要国いずれも、パリ協定の下で協調しながら、しかしながら、コロナからの復興、経済の復興を気候変動対策をてこにして実現しようという方向であります。これは同時に主要国間での競争が生まれる状況でもございます。どの分野でどの国がどういう産業で優位を取っていくのか。そのためにどういうふうな金融政策が必要か。これまで御紹介がある各国のサステナブルファイナンスの最近の動向というのは、こうした裏打ちを持ったものと理解すべきではないかと思います。
 
 ネットゼロの動きは、自治体、そして、企業にも広がっております。これはもう私もよく御紹介しますので、御覧いただこうと思っています。

 その際の金融の皆様の積極的な取組、ディスクロージャー、それから、ESG投資をはじめとした取組によって、日本の企業の意識も随分変わってきたように思います。これは少し古くて、19年3月に実施した週刊東洋経済さんのアンケートですが、上場企業108社が記名入り、社名入りで回答をしております。こちら、見ていただきますと、先ほどのパリ協定と整合的な目標を持つという、サイエンス・ベースド・ターゲットの目標を設定する企業、そして、TCFDの下でディスクロージャーをしている、あるいは対応する予定と19年3月に回答した企業は既に9割、回答した上場企業の9割になっております。そういう意味ではこうした取組が着実に日本の中でも進行しているかと思います。それは同じように気候変動リスクに対する認識も同様でございます。
 
 さて、2050年カーボンニュートラルに向けて総理の表明の中でも、グリーン投資のさらなる普及というのが2050年カーボンニュートラル実現の鍵とされております。直近の施政方針演説においても、社会経済の変革、投資を促す、生産性の向上、産業構造の大転換ということを生み出すための金融市場の枠組みをつくるということが施政方針演説の中では非常に重要なパートとして強調されています。その意味でこの有識者会合も、そうした観点から、そうした機能を果たす金融市場の枠組みづくりについて意見交換ができればと期待をしております。
 
 最後に、最も実務を知らない私から、しかし、大局的な観点からとあえて言わせていただこうかと思いますけれども、サステナブルファイナンスについてぜひ委員の先生方と議論したいという点を示させていただこうと思います。

 4つ大きく分けておりますけれども、1つは、情報開示、ディスクロージャーでございます。御存じのとおり、TCFDを軸に、それを基に進んできておりますし、部門ごとの指針の作成、それから、実際にそれが先行している開示のイニシアティブ、CDPとか、あるいは各企業の実務にも影響してきていると思います。先ほどイギリスにおいて言及をいたしました。同時に、米国においてもバイデン政権の政策の1つとして予定されておりますけれども、主要国が一定の条件を満たす上場企業あるいは金融機関に対して、情報開示を規律、ルールとして定めるという動きがございます。やはりこれをどういうふうに対応していくかというのは非常に重要な論点かと思います。
 
 こうした事項について、例えば法律で何らかの規定を定めるということについて、やはり企業の多様性や事業の多様性を考慮した懸念も耳にいたしますけれども、例えばComply or Explainというのは、御存じのとおり、一定のルールに従えない場合にはその事情も含めて説明をすることでその義務を果たすことができるという仕組みでございますので、これはやはり開示を促進する措置の在り方を含めて検討する必要があるのではないかと思っています。併せて、当然、企業が情報開示をして、それによって金融からの資金を受けることができる、そのために必要な開示の項目あるいはその情報の質について、改めて検討するということも有意義ではないかと思います。
 
 2つ目の柱が、リスク評価でございます。これは企業がよりよく将来の移行、物理的リスクに対して準備をするということと同時に、やっぱり金融の側がそれを踏まえた評価がきちんとできて、それが投資に結びつくという意味で重要だと思います。少し乱暴な言い方をしますと、方法論について、今、様々な団体等から出されていると思っております。団体やネットワークからですね。これはいかにどういうよりよい方法論を策定していけるか、どういうガイダンスが必要なのか。これは国際的な議論にインプットをする観点からも、検討の項目とする価値があるのではないかと思っています。

 併せて、情報開示と結びついておりますけれども、投融資を行う金融機関のポートフォリオにいかに気候変動のリスクが統合され、あるいは気候変動のリスクについての評価がされているかということについても、どのようにそれを促進するか、それは情報開示と結びついてでございますけれども、検討する必要があると思われます。金融の場合は、通常の企業とも異なって、リスク評価の方法というのは特殊性を持つと思っておりますけれども、これは方法論も含めて検討する必要があるかと思います。
 
 なお、今日ここに書いておりませんが、この分野は実は研究者にとっても課題があると思っています。よりよい、やはり日本における気候変動リスクの評価をどう高度化するか、あるいは2050年カーボンニュートラルに向かっていくときに社会はどういうパスウェイを通っていくのか。現在、企業は世界シナリオを使って分析をされていると思いますが、日本の特殊性、これは気候変動影響の特殊性や移行していくときの特殊性を考慮した、そうしたツールが実は必要ではないか。これは先ほど言いましたように、アカデミックの側の課題かもしれないということも付しておきたいと思います。
 
 そして、こうした開示やリスク評価を踏まえた投資資金の導入の上には、これは先ほども水野さんからもありましたけれども、どういうふうに資金の導入、あるいはそれをカタライズしていくかというための方法、ツールを考える必要があるように思います。先ほどもありましたように、今、企業が事業を行いながら排出を減らす、あるいは排出を減らすための商品やサービスを提供する、こうした企業に対してしっかりお金が集まってくる、そうした仕組み。さらに、長期的な脱炭素技術の開発を行う野心的な技術開発を行う企業に集まってくる。特に長期的な脱炭素技術の開発というのは、技術の開発の不確実性がございますので、こうしたところにうまくどうやって資金を導入できるのか。あるいは、当然、移行していく、その移行をうまく促していくトランジションへのファイナンスをどう集めていくのか。とりわけ、やはり脱炭素に今、新しい技術開発、あるいは新しいソリューションなしには移行が難しいセクターもあると思いますので、こうした文脈ではトランジションについて議論することの意義が大きいと思います。
 
 そうした観点から、それをタクソノミーという形で欧州は整理をしているわけでありますけれども、それだけでなく、こうした金融の資金導入を促すためのツールについて、方策について、やはり検討課題とすべきであると考えます。
 
 最後の柱は、金融監督官庁の役割と大上段に立っておりますけれども、こうした民間の活動を支援し、促進をする、やはり金融庁という監督官庁の役割強化を考える必要があると思っています。その観点から、ここに、僭越ながら、これはNGFSでも議論があるところと思いますけれども、金融モニタリングへの気候変動リスクの組み込みの方法、あるいは中央銀行の運用ポートフォリオへの組み込みをどうしていくかといったような論点があるように思っています。今、多くの国際的な政策協調、ルール形成の場がございますので、そこにやはりどう効果的にインプットをしていくかということもまた必要な観点のように思っております。
 
 最後でございますけれども、僭越ながら、ファイナンスの類型は様々ございますので、今挙げました項目ごとの論点が、こうしたファイナンスの類型ごとにそれぞれどういう特質があるか、あるいは留意すべき点があるかということもまたやはり見る視点としては重要だと思います。そして、もう一つは、実際に脱炭素化の取組というのは、それぞれの地域で行われて、そこが脱炭素化していきますので、その移行、地域社会の移行を支援する、地域の金融の役割についてもやはり論点としては必要なように思います。
 
 最後でございますけれども、今、気候変動にフォーカスを置いてお話をいたしましたが、足元では、御存じのとおり、ほかの問題にも広がり、波及が起きているという点も踏まえてこの議論をする必要があると思っております。サーキュラーエコノミー、プラスチック、そして、御存じのとおり、今年から本格的にですけれども、水などの自然資本についても、そのリスクをディスクロージャー、リスク評価の対象に組み込んでいこうという作業が昨年の7月から準備をされております。こうした動きについても念頭に置いての検討をこの場でできればと思っております。
 
 どうも御清聴ありがとうございました。
 
【水口座長】  
 ありがとうございました。まさに大所高所からの御指摘をたくさんいただきました。全てに非常に感銘を受けているんですけれども、特に、1つは、途中でTragedy of the Horizonの話をいただきまして、やはりこういう金融システムの中に私たちはある種の規範といいましょうか、視点を組み込んでいくということが必要なんだなということを改めて感じました。

 また、最後のところも大変重要でありまして、気候変動の問題と例えばサーキュラーエコノミーとかプラスチックの問題あるいは水などの自然資本の問題は、決して無関係ではなくて、地続きの問題だと思いますし、水野さんからあったジャストトランジションの問題も含めて、恐らくESGの課題というのは全部が結びついているので、そこを切り離して考えることはできないのだろうと。
 
 一方で、先生おっしゃるように、資金がとにかく必要なんだということでいえば、やはりちゃんと、まさにこれも水野さんからも明治維新の頃というお話がありましたけれども、リスクマネーをきちんとこういう分野に流していけるというのが本来の金融の仕事ですので、そこもぜひ頑張っていきたいというか、頑張っていただきたいというか、議論していきたいと思ってございます。
 
 それでは、ここからは自由討論ということになります。御発言を希望される方は、チャットに書き込んでいただきたいと思っております。また、皆さんは心配ないと思いますけれども、御発言を大体4分程度でまとめてくださいということで、1人で長々と話してはいけないというルールになっているようですので、大体4分程度でお話をいただければと思います。

 それでは、ここから先は自由討論ですから、これを言いたいという方から次々に発言いただければと思うんですが、どなたかいかがでしょうか。では、渋澤さん、お願いいたします。
 
【渋澤メンバー】  
 水口先生、ありがとうございます。水野さん、高村先生、どうもありがとうございました。いろいろ参考になりました。
 
 水野さんと高村先生に一つずつ質問したいんですが、1つは、水野さんのタクソノミーの話はすごく大事だと思っていて、私もいつも日本版と主張することはなんだがなぁと思うのですが、企業とか産業界から「EUは自分たちの有利になるルールをつくっている。それを押しつけている」という反対意見があります。その側面はあるかもしれないけれども、それを超えられるようなメッセージが重要だなと思うので、お伺いしたいことです。
 
 あと、高村先生には、先ほどのエネルギーミックスのすごく面白い図がありましたが、あの中に水素燃料が全然入っていませんでした。日本はこの分野では色々と働きかけている印象がありますが、世界ではそれほど注目していない感じがしています。実際、水素燃料にはどれぐらいの技術の進歩が必要で、どれぐらいの金額のお金が必要なのか、相場観があれば教えていただきたいと思います。
 
 もう一点、付け加えさせていただきたいですが、2年前に外務省が設置したで「SDGsの達成のための新たな資金を考える有識者懇談会」の座長をさせて頂いたのですが、そのときに意見が出まして、提言にも書いたのですが、例えば、機関投資家がサステナブルの投資をするときに、リスクアセットの自己資本の緩和の可能性がないか、という話があった。これは氷見野長官のご専門分野であるかと思いますが、そういう可能性があるのであれば、日本から国際の舞台で提案できることがあるのか。ここも併せて御質問させていただきたいと思います。
 
【水口座長】  
 ありがとうございます。水野さん、いかがですか。
 
【水野様】  
 渋澤さん、ありがとうございます。渋澤さんの今の最後のところを聞いて思い出したんですけれども、私も国連の特使になって日が浅いので、先ほどのスピーチの中でSDGsにコメントするというのを忘れるという大チョンボを犯してしまったということに今気づかされましたが、SDGsのフレームワークを使ってやるというのは、先ほどの1つの世界のフレームワークを活用するという意味ではいいのではないかと思います。
 
 渋澤さんの質問なんですけれども、この議論はずっとついて回るんですね。日本に不利じゃないかということなんです。ただ、日本に不利なものでも、国際的にやるべきである、あるいは日本の将来の世代に向けてやるべきであるということは、まずやる方向で私は物を考えないと話にならないと思っているんです。ですから、例えばヨーロッパのつくったルールが、取りあえず産業競争力は置いておいて、日本としてもそれは長期的にはやるべきものであるとすれば、それはアクセプトした上で、それで、それの中間期間をどうするかみたいな議論をしていかなければいけないと私は思っています。


 そこがまさに、タクソノミーで例えばグリーンとグリーンじゃないものをきっちり切られてしまうと、日本の得意な分野、得意な製品がそれに入らないということを、入れてくれというディスカッションをするというのは、そもそもやはりナンセンスだと思うんです。それをやるのであれば、完全グリーンがそれだということは合意しています。長期的にそこに行かなければいけないのも合意しています。ただ、今からの30年の中でのグラデーションというか、時間軸の中で今こういうファイナンスを行わなければ、先ほど申し上げたように2049年にいきなり減るというのでは駄目なわけですので、2030年に向けて減らしていくという意味でもトランジションのようなもの、トランジションのような技術が必要で、そこに日本は強みがあるから、逆にそこへの資金が流れてこないのは困るということであれば、それはタクソノミーの外のところで議論すべきだと思っているんです。
 
 なので、欧米陰謀論的なものとかそういうものを議論する際には、そもそもそれが長期的にも日本の利益に反するのであればそれは話が全く違ってきますけれども、長期的には合っているのであれば、向こうのものに対してどうやって乗せていくかとか、いわゆる英語で言うコンプリメンタリーにするということがやっぱり重要なんじゃないかなと思います。そこは逆に日本の強みで貢献できるというところに資金が来ないというのが多分問題なのであるとすれば、そちらに資金が来るということのパイプをつくるために戦ったほうが私はいいと思います。
 
【水口座長】  
 ありがとうございました。高村先生からもコメントをいただけますか。
 
【高村メンバー】  
 ありがとうございます。渋澤さん、ありがとうございます。先ほどお見せした図は間違いなく、電源構成で基本的に水素は入っておりません。ブルームバーグNEFの分析ですけれども、あれは現在のこれまでの電源構成と、これからの今の電源技術を想定した予測になっておりまして、その意味で水素発電というのは入っていないということです。
 
 水素に関しては、2017年に100億米ドル、18年は少し増えて190億米ドル、2019年、150億米ドルと、大体100から190ぐらいの間で推移してきていますけれども、2019年はやはり落ちていまして、やはり水素への資金フローについて課題があるという認識です。ただ、2050年カーボンニュートラルを欧州、そして、バイデン政権の下でのアメリカ、そして、中国も非常にこの間プログラムを立てて力を入れていまして、これから大きな投資が必要ともされ、同時にお金のフローも出来てくるだろうと思います。
 
 今いただいた御質問というのは、先ほどちょっと申し上げましたが、やはり将来本当にフライするかどうか分からない技術を支える資金のフローをどうやってつくっていくかという課題だと思っています。ぜひ御意見をいただければと思っております。ありがとうございました。
 
【水口座長】  
 ありがとうございました。今、続々と御発言の希望がありますので、順番にお願いしたいと思います。まず田代様、お願いいたします。
 
【田代メンバー】  
 水野さん、高村先生、本日はありがとうございます。水野さんがいらしたのが大和証券じゃないといいなと思っているんですけれども。


 特に水野さんに御質問なんですが、今の国連のお立場で考えていらっしゃることを教えていただきたいです。例えばグローバル規模で投資家に一気にアクセスをしようという商品は、そういう試みも今までなかったと思うんですが、そういうところも含めてやろうと思っていらっしゃるのか、それとも、イノベーションというのは技術についてで、ファイナンスについてのイノベーションはそんなに考えていないのかというのが1つ目の質問です。
 
 もう一つが、渋澤さんが座長をやってらっしゃるビル&メリンダ・ゲイツ財団の勉強会があったと思うんですけれども、その中で、IFFImやGAVIを通じたワクチンについての枠組みを国際機関がつくっていて、今回もその枠組みに似たようなものが比較的簡単に出来るのかなと思っています。ただし、そういった場合は、日本が複数年の予算が立てられない為にその様な取組に参加できなかったというような過去の歴史があるので、そういったものも含めて考えていらっしゃるのかというのが質問です。
 
 私どもは、2030年までに貯蓄からSDGsへという目標を掲げてやっているので、おっしゃるように、プロダクトを作って実際の投資をぜひ進めたいと思っておりますので、よろしくお願いいたします。以上です。
 
【水口座長】  
 水野さん、簡単にコメントいただけますか。
 
【水野様】  
 すみません、ちょっと別アカウントで入りました。田代さん、ありがとうございます。
 
 まず国連のほうで何をやろうとしているかということについては、もちろんグローバルな、いわゆるコンビーニングパワーといいますか、国連の人を集めてくる力みたいなものを活用して、今、ESGやサステナビリティーに関する動きっていろいろなところでいろいろな人が努力をして、いろいろな基準やルールをつくろうとしているんですね。それ一つ一つは大変重要なことなんですけれども、やはりそれでできるところはコンソリデートしてやっていかなければ、川の流れとして大河にならないというのが私の以前からの考え方で、UNを使ってそれをやりたいというように思っています。
 
 イノベーションをどこで起こしたいかというのが、まさにこれが私のタイトルそのもので、イノベーティブファイナンスというふうになっています。これは私の発言を聞かれたことがある方もいらっしゃると思いますけれども、正直、私たちが投資をしている投資先の企業の今求められているイノベーションレベルと比較すれば、私たち金融の世界が今、イノベーションとか言っているのは恥ずかしいぐらいのイノベーションのなさであります。今、ハーバードビジネススクールやオックスフォードのサイードの客員も今やっていて、このファイナンスをやっていても、99%のファイナンス理論は40年前と同じという状況ですので、こういう中でやっぱりファイナンスがもっと自分たちがイノベーションを起こさなければいけないというのが1つの今回の私のテーマになっています。
 
 まずとりあえず取りかかろうと思っていますのは、インデックスとレーティングエージェンシーとか信用格付に関するイノベーションと、あとは、まさにレーベルドボンドと言われていますグリーンボンドやソーシャルボンド、これを活用して資金の流れを変えたいということを考えています。実はワクチンのほうも国連のほうで私もやっておりますし、GPIFが、私が確か辞める直前に、アフリカ開発銀行の最初のCOVID-19リアクションボンドだったかな、の投資家になっていますので、そういうボンドの世界のイノベーションをやりたいなと思っていますので、ぜひ大和証券さんや日本の証券会社さんにもアイデアをお願いしたいと思っています。
 
【水口座長】  
 ありがとうございます。ぜひファイナンス理論のイノベーションもと思っておりますが。
 
 それでは、岸上さん、お願いいたします。岸上さん、今、電話で入られているということですけれども、大丈夫でしょうか。
 
【岸上メンバー】  
 ネットで入っております。よろしくお願いいたします。1つ簡単にコメントですけれども、資料2のほうでサステナブルファイナンスの今回の有識者会議の設置についての説明があると思いますが、冒頭の説明で皆様、様々なサステナブルな要素の中で気候変動にまず優先的に取り組むとおっしゃっていたかと思います。この勉強会の中での共通認識として恐らくあるかと思いますが、この資料を見ますと、若干、カーボンニュートラルの目標ありきでサステナブルファイナンス勉強会があるような立ち位置になってしまうかと思います。


 より長期的に汎用性がある勉強会ということであれば、様々な、少子高齢化、サプライチェーンでの労働などといったことが今後もっとマテリアルになるかもしれませんので、それらの中でのまずその1つ目として気候変動に取り組む。そこから汎用性を見つけていくというような見方が、もう少し対外的にも含めて発信できればと思っております。
 
【水口座長】  
 ありがとうございます。大変同感です。私が冒頭申し上げたことも同じでして、気候変動はもちろん重要、最重要だと思いますが、同時にサステナブルな課題を幅広にきちんと見ていく必要があるのかなと思ってございます。
 
 それでは続きまして、林礼子様、お願いいたします。
 
【林(礼)メンバー】  
 社名は読みにくいんですけれども、BofA(ビー・オブ・エー)証券になりましたので、御確認ください。バンク・オブ・アメリカを略しましてBofA証券ですが、去年の年末からメリルリンチ証券から社名が変更になっております。今日はよろしくお願いいたします。
 
 感想というわけではないんですが、イノベーティブなファイナンスという言葉を皆様におっしゃっていただくと、何となくファイナンスにいる人間としては耳が痛いなというふうにも思うんですが、先ほど言及されたレーベルドボンドというんですかね、グリーンボンドとかトランジションとか、ソーシャルボンドも今後の課題としてあるんだと思うんですけれども、やっぱりプロダクトを作る身として、あるいは引受け側としては、このような債券を発行することはすばらしいものの、特に今、日本が求められている技術って、まだ本当に形になるかどうか分からないけれども、形にしなくちゃいけない、水素だったり、アンモニアだったり、CCSだったりとなります。これらの新しい技術への投資のための債券発行はすばらしいことだと思うんですが、それを1企業のクレジットで本当に出せるのか、それにどれぐらいの投資家がついてくるのかというのがすごく大きな課題で、今日は別にここで結論めいたものを申し上げるつもりも、そんな知恵もないんですが、煎じ詰めてみると、カーボンニュートラルはそこにどうやってお金を流すんですかという話だと思います。それを実現するために、政府と民間とどうやっていけばよいのか、よく分からないファンドとか、機構みたいなものをつくればいいという問題でもないような気がしますし、その点が多分ずっと抱えてきた課題のような気がいたします。せっかくのすばらしい知見を持っていらっしゃる皆様がいらっしゃるので、そこを議論できれば大変有意義ではないかなというふうに思っております。ありがとうございます。
 
【水口座長】  
 ありがとうございます。全くおっしゃるとおりですね。実際にどうやってお金が流れるのかという、そのとおりなんですよね。最も難題だと思っています。
 
 それでは、ニッセイアセットの井口様、お願いいたします。
 
【井口メンバー】  
 水口先生、どうぞよろしくお願いいたします。あと、水野様、高村先生、御説明ありがとうございました。
 
 本日、初回ということもありますので、サステナブルファイナンスという今回のお題を実現するためにどんな重要なポイントがあるかということについて申し上げたく思います。水口先生おっしゃるように、サステナブルというと、気候変動だけではなくて、環境、社会などもありますが、特に差し迫った課題、一般的にも重要な課題と認識されている環境、特に気候変動に絞り、コメントをしたく思います。あと、すみません、水野さんとか、あるいは高村先生のように大きな話と違って、少し細かい話になりますが、御容赦いただければと思っています。
 
 資本市場にいる投資家としましては、最も重要になるのは、上場企業が中長期的に持続的な利益成長を達成するということになると考えています。脱炭素のような大きな変革が生じるという中では、企業の機会とリスクに応じ適切に資金供給が中長期的になされるということが非常に重要と考えておりまして、このためには、健全な資本市場の機能維持が非常に重要になってくると思います。健全な資本市場の機能維持というところでは、インベストメントチェーンに参加する各主体がおのおのの役割を果たすという必要があります。これをどう働かせていくかということが重要になってくると考えています。
 
 事務局の資料を拝見しますと、企業、そして、金融機関、投資家も含むということだと思いますが、私は、ESG評価会社あるいはESG格付会社も、非常に重要な主体となっておりまして、企業あるいは金融機関と同様に、ESG評価・格付会社をインベストメントチェーンにどう位置づけていくかということも重要になってくると思っております。ちょうど2020年にスチュワードシップ・コードが改訂された際に、機関投資家向けサービス提供者向けに原則8が設定されましたが、その考え方を積極的に活用するという方策もあると思っています。
 
 もう一点としては、このインベストメントチェーンを資金が効率的に流れるということでは、適切な開示は欠かせないと思っています。企業の開示においては、水野様がおっしゃったようにグローバルな基準を私も活用したほうがよいと思っております。参考資料にもあります、気候変動に関する重要な開示であるTCFDへの署名ということで企業さんにもすごく頑張っていただいていて、開示内容もよくなっていると思いますが、ただ、残念ながら、現状でも200社程度の署名ということで、いい方向には向かっておると思いますが、機関投資家の主な投資対象となる東証一部の上場企業数2,000社以上ということを考えると、まだ道のりはかなり遠いと思っております。
 
 したがって、私は、少なくとも2022年から創設される、機関投資家が主な投資対象とするプライム市場への上場企業については、気候変動にどう取り組むのかとか、あるいはTCFDの全ての項目でなくても、主な項目について法定開示資料である有価証券報告書に記載する必要があるのではないかと思っています。
 
 一方、投資家も、その取組を資金提供者から評価されるという必要がありますので、スチュワードシップ・コードの原則7にありますスチュワードシップ活動の公表において、気候変動にどう取り組むのかということを開示する必要があると思います。開示は開示だけで終わるというのではなくて、開示作業を通じて、脱炭素に向けた経営戦略や体制の構築にも資する、また、企業と投資家の建設的な対話、あるいはアセットマネジャーとアセットオーナーの対話も促進されるということで非常に有効かと考えております。
 
 最後に、主体の行動変容というところでいうと、コーポレートガバナンス・コードとか、スチュワードシップ・コードの活用もあると思います。参考資料でこれも事務局に書いていただいておりますように、サステナビリティーについては、かなりの程度コードに織り込まれていると認識しております。特にスチュワードシップ・コードは、2020年に改訂されたばかりということもあって、より明確に織り込んでいると思っています。
 
 ということで、現状十分という見方もあるとは思います。ただ、脱炭素化に向けて、企業、投資家の行動の変容とか、あるいは開示が十分でないというふうに判断された場合には、例えば英国のスチュワードシップ・コードの原則7のように、サステナビリティーの中でも気候変動、クライメイトチェンジを外出しして、気候変動への対応を催促するという方策もあるのではないかと考えております。
 
 少し長くなりましたが、以上でございます。よろしくお願いいたします。
 
【水口座長】  
 ありがとうございます。特に開示の部分に対しては、非常に明確な御意見をいただきまして、ありがとうございます。おっしゃるとおりかと思っています。それと、インベストメントチェーンを全体で見るというのは重要で、確かにサービス提供者というんでしょうかね、そういう部分はありますし、ESGの言わばエコシステム全体をきちんと見ていくという視点が必要なのかなと改めて感じました。
 
 それでは、藤井様、お願いいたします。グローバルリスクアンドガバナンスの藤井様、お願いいたします。
 
【藤井メンバー】  
 水口先生、今日はありがとうございます。水野様、高村様、ポイントを的確に捉えたご説明をいただきましてありがとうございました。グローバルリスクアンドガバナンス代表で金融庁の参事をしております藤井と申します。これ、実質個人会社ですけれども、過去、メガバンクでの20年余りの勤務を含めまして、金融機関のリスクマネジャーを25年間やっております。最近は気候変動リスク管理について多数の金融機関と意見交換をさせていただいております。そういった経験から、本日の事務局の御説明資料の流れで幾つかコメントさせていただきます。
 
 まず開示でございますけれども、TCFD提言に日本が最大数賛同ということは御説明のとおりですけれども、釈迦に説法ではございますが、開示はあくまで事業活動の結果であって、開示自体が目的ではないということはよく頭に置いておきたいと思っています。TCFD開示をやったということで満足してはいけないということだと思います。一方で、イギリスのようにTCFD開示を義務化したり、あるいはアジアの取引所で同様な動きもございますので、日本を魅力的な資本市場とする上で、TCFDを含む開示の方向性については重要な論点と考えています。
 
 次に、投資機会の提供という大きなテーマの中で、まずソーシャルボンド、タクソノミーというところですけれども、やはりこういうところで明確な基準を定めていく方向性は、日本の金融資本市場を魅力のあるものにするということ、高い金融機能を提供する場とするという意味で重要だと思いますので、ぜひこのことについて議論させていただきたいと思っております。ESG債等につきまして現在、世界からマネーが集まっている状況でございますので、そのためにも明確な基準が必要だと考えます。
 
 また、サステナブルファイナンスがあれば、アンサステナブルファイナンスもあるわけでございまして、そういう意味では特に移行期においてトランジションファイナンスという論点も重要だと思います。ただ、トランジションというのはあくまで移行ということでございますので、サステナブルに向けたロードマップを明確にして、それに合ったトランジションになっているかどうかということを何らかの形で検証するメカニズムが必要だと思います。そういったメカニズムを、銀行がデッドガバナンスとしてになうのか、投資家がエクイティガバナンスとしてになうのか、あるいは格付機関やアナリストに期待するのかといった点については、全体の枠組みの中で検討が必要かと思います。
 
 また、その対象につきまして、金融資本市場を通じた直接金融とするのか、あるいはローン市場を含めた間接金融も含めるのかということによって、関係者や枠組みの広がりは異なってくると思いますし、特に日本は間接金融が主になっておりますので、その辺りも頭に置く必要があると思います。また、水野様あるいは氷見野様からグローバルな展開ということを御提起いただきましたが、グローバルな整合性が必要だという点は同感です。
 
 最後に、リスク管理をやっていますので、高村先生の資料の中でリスク評価については、まだ方法論が決まっていない、バザール状態というコメントをいただいています。御指摘のとおりでございますが、実務家をずっとやってきた経験からすると、とにかくまずやってみましょうということだと思います。データはありません、モデルはありません、で止まってしまうと、水野様のお話のように、その間に取り残されてしまいます。今、世界中の実務家がどんどんこの分野を研究して百花繚乱に近い状態になっています。手法が決まってから動くのではもう致命的に遅れるということになりかねないと思いますので、バザール状態、モデルがない、データがないでもまずシナリオ分析をやってみましょうと、そういうアプローチが金融機関の側には求められると思います。そうした状況であるということを頭に置きながら議論を前に進めていきたいと思います。
 
 以上です。ありがとうございました。
 
【水口座長】  
 ありがとうございました。トランジションの検証なども課題かなというのと、ローンまで含めるかどうかということですかね。すみません、若干時間が押してまいりまして、皆様、短めにお話をいただけると大変ありがたいです。それでは、JFEスチールの手塚様、お願いいたします。
 
【手塚メンバー】  
 どうもありがとうございます。皆さん、初めまして。こんにちは。水野さん、高村さん、今年もまたよろしくお願いします。
 
【水野様】  
 よろしくお願いします。
 
【手塚メンバー】  
 私自身は、JFEスチールで地球環境問題を担当しておりますけれども、同時にTCFDコンソーシアムの情報開示ワーキンググループの座長、それから、経団連の国際環境戦略ワーキンググループの座長も引き受けさせていただいておりますので、この金融のメンバーの方が多い委員会の中で、産業界というか、いわゆる事業会社の立場を代表したお話をさせていただければと思います。
 
 まず最初に、TCFDの件なんですけれども、水野さんがおっしゃるとおり、これは日本版のTCFDをつくるというのはもともといいアイデアではなかったと思うんですけれども、17年にこの提言が出る前から経団連の中でこの動きを非常に強くウォッチしていまして、できるだけ我々が有意義に使えるようなものにするべきだというようなことで、TCFD本体にいろいろ働きかけをしたんですね。それで、当初、リスクばかりにフォーカスが当たっていたTCFDの活動が、リスクと機会を両方バランスよく開示するという話に最終的なってきたということで、経団連の中でもTCFD開示は前向きに、積極的に進めていこうではないかと、こういう話になった。つまり、相手の土俵は使っていますけれども、中身に関しては言うべきことはいろいろ言って、自分たちでも使えるようなものにすると、こういうアプローチが非常に重要だろうと思います。
 
 結果的に、機会の部分にも光を当てるということにフォーカスを当てて、今のTCFDガイダンスができているわけですけれども、こういうふうになることで、事業会社の立場からすると、金融機関さん等とのエンゲージメント等が、ある意味、非常に深い議論ができるようになったということで、価値があるものになったのではないかと思っておりますので、これが広がっていけばいいと思います。
 
 ただ、義務化の話になってくると、どういう形で義務化するかという議論が、多分、出てくると思います。エンゲージメントに使われるようなリスクと機会についてバランスよく開示する議論の中で、企業が開示するものというのは、やはり柔軟性とか自主性みたいなことが担保される形でないと、チェックシートみたいな形の内容が義務化されると、今度は逆に中身が面白くなくなって、あまり価値が高くなってくる。その逆の動きも出てくると思いますので、ぜひその辺のバランスの議論をしていただければと思います。
 
 もう一つ、タクソノミーの件も先ほど議論が出ていましたけれども、EUが有利で日本が不利というよりは、EUが独自につくったものを世界に広めようとしているというのが実態だと思うんですが、タクソノミーについてもやはり日本の事業会社ができる限りインボルブする必要があると思っています。
 
 ちなみに、鉄鋼に関するタクソノミーが、今、EUの中ではつくられています。これをISO14030ということで国際標準にする動きがあるんですけれども、これにつきましては、実は日本から相当いろいろな活動を国際的に展開しています。もともとEUが排出権取引に使っている基準を使って、実はウルトラグリーンなプロセスしかグリーンと認めないと。先ほど水野さんがおっしゃったブラウンを決めるみたいな、ブラウンか、グリーンをクリアカットに分けるというものになっていたんですけれども、これだとやはり世界の鉄鋼業に対してお金がついてこない、例えば改善投資みたいなものにお金がついてこなくなってしまいます。
 
 そういうことで、BATベースにこれを変えるというような活動をやりまして、実際には、ISOの場ですから、南米、北米、アジア、こういったところの鉄鋼関係者が束になって日本のアイデアに賛同して、昨日の段階でこれがBAT方式に変わるという結論がほぼ出ています。なので、EUがやっていることが有利というよりは、自分たちでできることを、ちゃんとやるべきことはやっていくということが、各産業セクターにとって重要になってくる。特に、国際標準をつくる場合には重要になってくるだろうと思います。
 
 最後に1点だけ、今後、革新技術開発にしても、トランジションファイナンスにしても、この場で議論されることになると思うんですけれども、やはり今後は製造設備の総取替えみたいなことをやっていかなければいけない。鉄などの場合は水素還元製鉄なんていう話が出ていますが、こういうことをやっていこうとすると、あるいはトランジションで現状をよりよくするということも含めて、既存のプロセスを入れ替えていかなければいけない話になりますので、長期に関わる投資が必要になってくるんです。そうしますと、やはりトランジションファイナンスにしても、グリーンファイナンスにしても、短期ではなくて、いかにして長期に、我々の目から見たサステナブルな資金フローが担保できるかということが、実はトランジションにとっても、グリーン化にとっても肝になってきますので、どういう形で長期の資金をこの分野に流し込んでいただけるかということを、ぜひこの場で御議論いただければと思います。
 
 私からは以上です。
 
【水口座長】  
 ありがとうございました。産業界の立場からの話は大変参考になると思っております。
 
 皆様、大変申し訳ありませんが、時間が押してございますので、お一人2分ぐらいでお願いできればと思います。
 それでは、次に経団連の長谷川様、お願いいたします。
 
【長谷川メンバー】  
 経団連SDGs本部の長谷川と申します。本日は、水野様、高村様、大変興味深いお話をありがとうございます。
 
 私は、ふだんはSDGsの推進を担当しておりますので、水野様から、国連のほうでも、これからSDGsのトランスフォーメーションに必要な資金を集めるためのイノベーティブファイナンスという動きに積極的に取り組まれるということを聞いて、大変心強く思っております。
 
 経団連の取組について、若干、紹介させていただきますと、経団連は昨年11月に「。新成長戦略」というものを公表いたしました。これまでの資本主義からサステナブルな資本主義に移行するために、企業は、多様なステークホルダーの多様なニーズを包摂しながら、新しい付加価値を創造するイノベーションを推進していくことが重要であり、これは、まさにこれまでも主張してきたSociety 5.0 for SDGsの動きであるということを訴えております。
 
 このSociety 5.0の実現ですとか、SDGsの推進のためには、金融面からのサポートが不可欠でございまして、そのためのサステナブルファイナンスの仕組みをつくることは非常に重要だと考えております。
 
 これまでのサステナブルファイナンスへの取組ですが、TCFDについては、今、手塚様のほうから御紹介いただきました。菅政権が2050年カーボンニュートラルを打ち出したことを受けまして、経団連でも昨年12月には提言を公表しておりまして、その中で、経済と環境の好循環のために「チャレンジ・ゼロ」によりイノベーションを創出するということ、電力システムの次世代化、脱炭素社会への移行を金融面から後押しするサステナブルファイナンスの促進等を宣言しております。
 
 また、本日、御参加いただいております水野様にも御協力いただきまして、経団連と東京大学とGPIFの間で共同研究を行って、報告書も発表しております。この中で、投資家は、今後、Society 5.0を実現するサステナブル、デジタルといった分野を成長させるための事業やイノベーションに積極的に投資を行うこと、つまり、ESG投資を進化させる必要があるということも提言しております。先ほど、水野様からはアクションがないという御発言もありましたが、Society 5.0関連の金融商品の開発も行っております。
 
 また、社会的課題の解決に資するプロジェクトを促進するために、ソーシャルボンドの活用も非常に重要、有効だと考えております。ただ、現状では、日本独自のガイドラインがなく、発行体がソーシャルボンドを発行しづらいことや、発行にコストがかかるというような課題があるということでございますので、昨年12月、金融庁に対して、ソーシャルボンドに対する実務的ガイドライン策定に関する要望も出しております。このガイドライン策定に向けた検討は、この有識者会議の下に設置される会議体で行われると聞いております。
 
 また、これは本日の参考資料にも御紹介いただいておりますが、国際基準の開発への積極的な参加ということでは、IFRS財団がサステナビリティーに関する国際的な基準を策定するための新たなボード、SSBをつくる動きがございます。これに関しては、経団連では昨年、IFRS財団から公表された市中協議文書に対して、SSBが設置された場合は積極的に貢献していくことを表明しております。
 
 サステナブルファイナンス促進に向けては、企業の情報開示の促進ということが非常に重要な要素でございますので、こういった国際的な取組にも積極的に参加してまいりたいと考えております。
 
 以上です。
 
【水口座長】
 ありがとうございます。ソーシャルボンドにつきましては、また後ほどコメントさせていただきます。
 
 それでは、全銀協の林様、お願いいたします。
 
【林(尚)メンバー】  
 ありがとうございました。全国銀行協会の林でございます。
 
 これまでも、個別行の話で恐縮ですが、欧州大陸IR等で欧州のテンション等は正しく体感している、共有している、このように理解をしております。
 
 また、三菱UFJ銀行といたしましても、再生可能電源に過去10年間で440億ドルのファイナンスを実施しておりまして、日本国民1,500万人分の二酸化炭素削減に貢献しました。これは、オランダ1か国分に相当すると理解しておりますので、そういった実績も積んできてございます。
 
 それらを踏まえて、今後、全てのステークホルダーの御期待、御要請を踏まえながら、本業を通じてどうやってネットゼロに貢献していくのかということについては、銀行界としても経営の最重要課題となると、このように理解しております。特に、個別金融機関の価値観や思考の有無、あるいは是非、これが問われる時代になっているという理解でございます。
 
 それらを踏まえて、3つ申し上げます。
 
 まず第1に、気候変動対策は、先ほど来お話がありますとおり一定の時間を要するということがありますので、目に見える成果がすぐに具体化するということにはなってございません。これは、申し上げるまでもなく、実体経済は黒か白かという二元論でさばけるものではございませんので、既に実行した貸出資産を抱えながら、新規貸出しの内容を変えていくという二正面対応が金融機関には求められるという理解でございます。
 
 これは、トランジション期間の重要性を意味していると認識しておりまして、1つは技術の転換を支えるファイナンスの実施、これは我が国だけではなくて近隣諸国への支援を含む場合も当然、ございます。もう一つは、お客様の事業がサステナブルであるように、お客様の事業構造のトランジションをファイナンス面から促すことをもってネットゼロに貢献するということ、この2つがあると理解しております。
 
 また、貸出資産は、コーポレートファイナンスとプロジェクトファイナンスに大別されますけれども、資金使途が必ずしも特定されない前者の取扱いをどうするのかという技術的な課題、これも今後、存在していくと認識しております。
 
 このようなトランジション期間のアクションを誤らないようにするための大前提は、やはり国のエネルギーに関わる基本計画、これが明示されることであると思ってございまして、2050年ネットネットゼロに向けたエネルギーミックスの変化、スケジュールが具体的に示されること、これを強く希望しているということでございます。
 
 第2に、間接金融と直接金融の役割や機能の違いについて少し申し上げますと、我々、銀行は、間接金融を通じて、お客様に一定期間の期限の利益を提供する形で資金を供給しております。そのことによって、お客様の事業の持続的成長に貢献する、こういう形でございます。間接金融は、すぐに市場に売却して、退出できましたという商品設計、契約ではございません。この点は直接金融と大きく異なってございまして、この差を意識しながら取り組む必要がございますので、何らかのルール導入やストレステストの新設等によって、あるときから、これは座礁資産ですねと分類されることについて、非常に経営を困難にする、このように認識をしております。よって、そのような状況に陥らないように、前広な議論、備えを万全にしてまいりたいということでございます。
 
 最後、2050年のカーボンニュートラルは、様々な挑戦を伴うものでございますので、長期戦、総力戦でございます。この高い壁を乗り越えるためには、金融機関自身が持続可能性を持って、息長く取り組むことが重要でありまして、そのためにも、資金動員に当たってリスクとリターンが見合うことが必要でございます。全ての技術開発には必ずリスクも並存してございますので、様々な資金供給手段が市場メカニズムに基づいて適切なプライシングで供給される枠組みが必要、このように思っております。このことは、グリーン案件だからプライシングは既存の条件よりも優遇されるべきだといったような単純な議論ではなくて、一つ一つの案件の丁寧な判断が必要、このような認識ということでございます。
 
 以上でございます。
 
【水口座長】  
 ありがとうございました。
 
 それでは、生命保険協会の中村様、お願いいたします。
 
【中村メンバー】  
 生命保険協会の一般委員長をしております中村と申します。よろしくお願いします。発言の機会をいただきまして、どうもありがとうございます。
 
 本日は、水野様、高村先生から、大所高所から、非常に示唆に富んだお話を広範にわたりいただき、誠にありがとうございました。
 
 そうした中ではございますが、論点の1つとして挙げていただきました情報開示につきまして、業界での足元の取組について少しコメントをさせていただければと思います。
 
 御承知のとおり、生命保険事業は、国民生活の安定、向上、経済発展、及び持続可能な社会の実現に密接な関わりを持つ、公共性の高い事業でございますので、資産運用に関しましても、収益性、安全性、流動性に加えまして、公共性にも十分留意した、長期安定資金の供給を行うことを基本的な考え方としてございます。
 
 こうした考え方の下、エンゲージメントを重視しつつ、会員各社がESG投融資の取組を推進しておるわけでございますが、その前提として、気候変動リスクに関する情報など、非財務情報の開示充実の進展が非常に重要にテーマであると認識しております。これは個社でもやるんですが、私ども生命保険協会ではワーキングを設置いたしまして、協働でエンゲージメントを行うのという仕組み、協働エンゲージメントと呼んでいますが、これを2017年から、企業に対して課題認識を伝えるという取組を行ってございます。
 
 本年度は、昨年の11月から12月にかけまして、ESG情報の開示の充実ですとか、気候変動の情報開示の充実といったことをテーマに課題認識を伝える書簡を発信済みでございまして、今後、その書簡を基に、対話活動を通じて、こうした企業に非財務情報の開示の充実を促すという取組を実施してまいる予定でございます。
 
 事務局資料の16ページでございますか、井口メンバーからもございましたが、改訂版スチュワードシップ・コードで、サステナビリティーの考慮や、情報開示の充実等が盛り込まれまして、これは私ども協会の取組を大きく後押しするものと評価、認識してございます。本有識者会議の議論を踏まえまして、引き続きその対話活動を通じて機関投資家としての役割を果たすとともに、一層のサステナブルガバナンスの推進によって、政府の成長戦略に沿った貢献を果たしてまいりたいと考えます。
 
 以上でございます。ありがとうございました。
 
【水口座長】  
 ありがとうございます。
 それでは、続きましてカタリスト投資顧問の小野塚様、お願いいたします。
 
【小野塚メンバー】  
 よろしくお願いいたします。水野様、高村先生、大変御示唆のあるお話、ありがとうございました。水口座長、このたびは大変お世話になります。よろしくお願いいたします。私は、現在、マネックスグループ傘下のカタリスト投資顧問というところにおりますけれども、昨年までゴールドマン・サックス・アセットで20年間やっておりました。
 
【水口座長】  
 小野塚さん、ちょっとお待ちください。
 すみません、今、小野塚さんのお話、ウェブの方は聞こえていましたでしょうか。
 
【藤井メンバー】  
 ミュートのマークがついています。
 
【水口座長】  
 ミュートのマークがついている。
 小野塚さん、すみません。今、私は聞こえていたんですけれども、ウェブの参加の方に聞こえていなかったようです。
 
【小野塚メンバー】  
 では、後ほどでも構いません。
 
【水口座長】  
 では、すみません、小野塚さん、ちょっとお待ちいただいて。
 
【小野塚メンバー】  
 そうですね。大丈夫です。
 
【水口座長】  
 その間に、三菱UFJリサーチ&コンサルティングの吉高さん、お願いいたします。
 
【吉高メンバー】  
 ありがとうございます。
 
 水野さん、高村先生、今日は本当にどうもありがとうございました。大変示唆に富むお話でした。
 
 今日、皆さん、もう既にいろいろと言っていただいておりますので、私から何点か、出ていない点についてコメントさせていただきたいと思います。
 
 私自身、もう20年以上、気候変動と金融に関わっておりまして、このような会議が金融庁で開催されるというのは本当に感慨深く思っております。また、今、水野さんのイニシアティブをお聞きしまして非常に心強く思っておりますので、御活躍を期待したいと思っております。
 
 私から申し上げたいのは、まず、先ほど水野さんがEとGの関係についておっしゃったことです。
 
 日本の場合、最初の御説明にもあったかと思いますが、地銀ですとか、地域、中小企業に対する影響を非常に危惧しております。SDGsで掲げる「誰一人取り残さない」という点を念頭においてほしい。ここで議論することは、地域や地方が影響を受けると思っております。
 
 また、サプライチェーンの管理や人権問題などの点から、EとSとの関係も大変重要だと私は思っております。EUはSに関して、これまで取り組んできた歴史があるので、サステナブルファイナンスではあまりSのことは触れていないわけですけれども、日本はSについて投資家から比較的弱いと言われているので考えていくべきだと思います。
 
 あと、先ほどアジアとの関係についてお話が出たと思いますが、御存じのとおり、マレーシアの中央銀行が今年からサステナブルのタクソノミーを入れるというような話もありますし、中国の中央銀行がグリーンファイナンスの基準を見直そうとしている動きもあります。日本がインフラ輸出をする際には、技術の輸出だけでなく資金自体も見られることになり、これらの地元資金の動きも考慮していかなければなりません。今日の事務局の資料の25ページは先進国の中央銀行の事例が中心でしたが、アジアや途上国も取り組みが進んでいるので、見ていく必要があろうと思います。
 
 あと、トランジションファイナンスですが、ICMAが出した今回のトランジションハンドブックでは、はっきりSBTのことが言われているわけです。御存じのとおり、SBTに参加しているのは米国企業が一番多く、その次に英国、日本です。もちろんTCFDに基づいた情報開示も重要ですが、SBTに基づいたターゲットを各企業が持つことによって、それに対してどのような資金を提供していくかという、具体的な金融機関への示唆にもなろうかと思っています。最近トランジションファイナンスについて話をする機会が多いのですが、この点については必ず触れています。
 
 最後に、今年、COP26では、まだ詳細運用が詰まっていない排出権市場(パリ協定6条)などの話が出るかと思います。米国ではドット・フランク法にも排出権については言及していますし、EUのグリーンリカバリーでも排出権取引制度の対象拡大等も後押しの政策として考えられているので、日本はこの点で遅れているところがございますから、サステナブルファイナンスの中で、CO削減などに対する金融資産としての価値の位置づけについて深化させることも、このディスカッションの中に入れていってはと思っております。
 
 以上でございます。ありがとうございました。
 
【水口座長】  
 ありがとうございました。
 
 小野塚さんは、今,電話で入られていて、なかなかウェブのほうとつながらないというか、私のほうには聞こえるんですけれども、なかなかウェブの皆さんにつながらないので、チャットで書いていただきました。皆さんも、チャットで御覧いただけているかと思いますが、簡単にご紹介いたします。
 
 (以下読み上げますと) 現在は、マネックスグループ傘下のカタリスト投資顧問におられて、昨年までゴールドマン・サックス・アセット・マネジメントで20年間、直近ではスチュワードシップとESGに関する部署の責任者をされていたということです。
インベストメントチェーンの話がありましたが、企業と投資家、投資家とアセットオーナー、アセットオーナーの先にある最終受益者を見据えた情報開示や、個人投資家に向けたプロダクトの提供ということが重要であると考えます。それに関する規制改革も期待しています。サステナブルファイナンスというのは金融業界の持続可能性も重要、とすると従来型の開示の発想やアプローチではなく、デジタルの発想、フィンテックを活用した取組が期待されるのではないかと思います。やはり活動の実質性が重要であるとすると、取組だけでなくインパクトまで見る仕組みづくりが必要であると考えます。
 
 今後のディスカッションのポイントに含めていただけたらということです(紹介ここまで)。
 
 おっしゃるとおりで、特にインパクトをきちんと評価するというのは、今後の大きな課題の1つで、タクソノミーと対になる考え方、むしろタクソノミーがないとするならば、逆にインパクトをきちんと評価できるということが重要であろうと思います。また、最終受益者まで見据えた開示というのも重要なポイントかと考えてございます。ありがとうございました。
 
 吉高メンバーからも、コメントありがとうございました。特に、誰一人取り残さないというSの思想は重要なポイントだったと思います。
 
 私、ちょっと時間管理をしているので慌てていた部分もありまして、途中あまりコメントを挟まずに次の方にお願いしていた面もありますけれども、少し印象に残ったことを申しますと、特に生命保険協会の中村様から協働エンゲージメントというお話をいただきました。全国銀行協会の林様からも、お客様の事業構造の転換を促していくことが重要だと。これもエンゲージメントということかと思いまして、サステナブルファイナンスの中のお客様との対話といいましょうか、こういう部分も非常に重要だと感じた次第でございます。
 
 まだ御発言いただいていない方もおられるのですけれども、どうしましょう。よろしいでしょうか。もし、一言コメントしたいという方、まだ発言されていない方で何か言うぞという方がおられたら、一言ぐらいいただける時間はありますが…。
 
 では、足達様、お願いいたします。
 
【足達メンバー】  
 ありがとうございます。会議の第1回スタートに当たりまして、皆さんの大変刺激的な議論を伺うことができました。
 
 3つ、申し上げたいと思います。私は、この新型コロナの問題で、経済活動の負の外部性ということに改めて思いをいたしておりまして、経済を回そうとすると、感染者がどうしても増えるという関係です。これは、環境の問題やサステナビリティーの問題にも大きく示唆を与えているような気がいたしております。この会議では、経済の負の外部性をどういうふうに金融としてマネージできるのかということを考えたい、というのが1つ目の提案です。
 
 2つ目は、金融機関の皆さんから、この会議でつくった成果物が、何かきれいごととか、金融機関が善人になれと言っているよとか、人類愛に目覚めろと言っているよと、こういうふうに思われないような成果物を是非つくりたいと思っております。先ほども水野さんから、何か金融のイノベーションに通じるもの、アクションに通じるものをやってくれということがありました。ここのところは肝に銘じておきたいと思います。
 
 そして、最後ですが、どうしても金融(私も金融グループの一員ですけれども)は、「今」ということに目が行きがちです。政治家の皆さんは環境は票にならないとか、企業の皆さんはしょせんコストだとか、金融の人間はグリーンでやっても数字が立たないと、こういうふうにすぐ言うわけです。日本人は「今」と「未来」の橋のつなぎ方というんですか、このあたりは必ずしも得意ではありませんが、私は、海外に、ひとつの技術というか、ふたつを上手く繋げていく術があると思うんです。ですから、日本的なものとか、日本の事情ということももちろん分かりますけれども、学ぶべきところは学ぶということで、この成果物が出来上がっていけばと思っております。
 
 以上です。
 
【水口座長】  
 ありがとうございました。最後に、言わば今日の会議のまとめの言葉をいただいたような感じがいたします。3つの点、いずれもごもっともだと思いますし、私も肝に銘じていきたいと。特に、2つ目の単なるきれいごとではない、しっかりした成果物を、金融のイノベーションにつながるもの、それが3番目にもつながっているんだと思いますけれども、1番目と3番目の議論につながっていると思っております。ありがとうございました。
 
 まだ御発言いただいていない方もおられるのですが、すみません、時間ですので、議論をここまでにさせていただきます。
 
 最後に1つ、お話の中にもございましたソーシャルボンドについて一言申し上げたいと思います。企業が、社会的課題解決に資するプロジェクトの資金調達のためにソーシャルボンドを発行しようというときに、日本で参照できる実務的な指針が欲しいと、こういう声をいろいろいただきました。そこで、この有識者会議の傘下にソーシャルボンド検討会議を設置しまして、実務指針の策定を検討することにしたい、このように考えてございます。
 
 座長には、大先輩ですが、青山学院大学名誉教授である、私の敬愛します北川先生にお願いいたします。そのほかのメンバーは、金融庁さんと北川先生と御相談しながら決めてまいりたいと思いますので、最終的には私に一任していただきたいと考えておりますが、皆様、よろしいでしょうか。
(「異議なし」の声あり)
 
【水口座長】  
 ありがとうございます。それでは、そのように進めさせていただきたいと思います。
 
 今後、ソーシャルボンド検討会議の検討結果も、有識者会議のほうに御報告いただきたいと思っております。
 
 それでは、最後に、事務局のほうから連絡事項をお願いいたします。
 
【岡田総合政策課長】  
 本日、リモートでの運営で若干不手際ございまして、小野塚様をはじめ、皆様、申し訳ございませんでした。改善できるところ、工夫してまいりたいと思います。
 
 次回の有識者会議は、2月10日で調整を進めさせていただいておりますが、日が近くなりましたら、改めまして事務局より御案内させていただきたいと思います。
 
 以上でございます。
 
【水口座長】  
 ありがとうございました。
 
 また、冒頭、申し上げましたとおり議事録は公開ということですので、恐らく事前に皆様のところにも確認が行こうかと思いますが、よろしくお願いいたします。
 
 それでは、以上をもちまして本日の会議を終了とさせていただきたいと思います。皆様、御協力いただきまして、ありがとうございました。今後とも、よろしくお願いいたします。
 

―― 了 ――

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