「サステナブルファイナンス有識者会議」(第2回):議事録

1.日時:

令和3年2月10日(水)10時00分~12時00分

2.場所:

オンライン開催
 
【水口座長】  皆様、おはようございます。ただいまより、サステナブルファイナンス有識者会議の第2回会合を開催いたします。本日も、お忙しいところ御参加いただきまして誠にありがとうございます。よろしくお願いいたします。

 初めに、会議の運営の仕方について若干の変更があります。前回の冒頭には、議事の公開については、一般の傍聴はなしとした上で、メディア関係者の皆様には金融庁内の別の会議室において傍聴いただくというふうにお伝えいたしましたが、コロナ対策をより実効的にする観点から、今回から、メディア関係者の皆様には金融庁内の会議室ではなく、オンラインで中継を御覧いただくということにしています。

 また、発言に際しての注意事項として、ここは前回と変わりませんが、御発言されない間はミュートにしていただき、発言するときにミュートを解除し、発言が終わりましたら再びミュート設定にするということでお願いいたします。

 それでは、議事に移りたいと思います。本日の進め方ですが、まず今後の議論の視点や進め方につきまして、事務局にお願いをしてまとめていただきましたので、私のほうから最初に御説明をします。その後、本日のテーマであります開示の充実ということにつきまして、足達様、井口様、小野塚様、手塚様の4人の方からそれぞれ御報告をいただきまして、最後に自由討論ということにしたいと思います。一つ一つの発表ごとに質問を受けていますと時間が足りなくなってしまいそうですので、自由討論、討議は最後にまとめて行うことにしたいと思います。参加者の皆様にはしばらくお聞きいただくことになりますけれども、どうかお許しください。

 それでは、まず私のほうから、資料1の事務局説明資料に基づいて御説明をしたいと思います。

 資料1の「1.議論の視点」というページを御覧ください。前回の冒頭、氷見野長官からありましたように、サステナブルファイナンスは喫緊の課題であると同時に、2050年を見据えて、将来の経済、社会をどう思い描いていくのか、その中で金融をどう位置づけるのかという、息の長い課題でもあります。そこで、この有識者会議の議論の射程を次のように考えたいのですが、よろしいでしょうかということです。

 3つあるのですけれども、まず時間軸、金融が長期的に目指すべき方向性と、足元すぐにすべきこと、この両方を視野に入れて議論するということです。目先何をすべきかということも大変重要ではありますが、一方で、2030年、2050年を見据えて、金融というものが本当はどうあるべきなのか、社会の大きな転換点である今、私たちはこの金融をどういう方向に導いていくべきなのか、そういうことをぜひ大所高所から御議論いただきたいということです。

 次に議論の対象ですが、2050年のネット・ゼロの実現を目指すということが当面の最も重要なターゲットであるということと同時に、幅広いESGの課題をカバーするフレームで考えたいということです。気候変動が最も喫緊の課題であることは事実です。これは私たちは何とかしなければいけない。しかし、それだけじゃないですよねということです。気候変動と同時に、それ以外の環境、社会の課題にも私たちは応えていかなければいけませんし、金融の役割は非常に幅広いということだろうと思います。

 最後、3つ目なんですけれども、有識者会議の成果物として、施策の方向性に関する提言ですとか、必要があれば社会に向けたメッセージも含めて取りまとめをしたいというふうに考えております。もちろん報告を受けた後の施策の具体化は、金融庁において検討されるものと考えております。

 以上のことを前提にしまして、当面の進め方ですが、資料の次のページを御覧ください。今回は第2回ですが、この第2回から第4回までの3回に関しましては、既に事前に個別の具体的なテーマを設定しております。第2回は開示、第3回は投資機会の提供、第4回は金融機関です。議論を拡散させないためには、このような具体的なテーマの設定が必要だというふうに考えています。一方で、一つ一つのこの各論に入る前提として、議論の全体を貫く基本的な視点のようなものがあるのではないか、その基本的な視点、全体を貫く視点を確認しておくことも同様に重要であろうと考えます。

 では、各論の前提になる基本的な視点とは何でしょうか。それは、サステナブルファイナンスとは何なのか、それはなぜ必要なのかという基本的な理解であろうと思います。そのことが、この図の下半分に示しましたサステナブルファイナンスに対する基本的な考え方というところに書かれています。この点につきましては、恐らく委員の皆様の間ではかなりの程度、暗黙のうちに共有されているというふうに思いますが、ここで御参考までに、簡単に私の理解を申し上げたいと思います。

 今、暫定的に、サステナブルファイナンスを、投融資の判断にESGの要素を組み込むことだと考えるとしますと、中長期的には、それはリスク・リターンを改善するという側面があるだろう、そして気候変動問題というのは既にその段階に至っている。だからこそ、既に民間の金融機関や運用機関が動き始めているんだというわけです。

 しかし一方で、それだけではなくて、つまり個別投融資先のリスク・リターンへの影響だけでなくて、負の外部性を減らし、正の外部性を生むことで、社会や環境の全体的な課題が改善し、それによって経済活動の基盤が守られる、結果的にポートフォリオ全体の利益が守られる、そういう側面もあるだろう、この後者の考え方はユニバーサルオーナーシップの論理でして、ユニバーサルオーナーは既にそういう論理で行動し始めているわけです。そしてこれはユニバーサルオーナーだけでなく、金融資本市場の全体の利益でもあるわけです。だからこそ、これを政策的に推進していくということに意味があるのだと、つまりサステナブルファイナンスというのは、ファイナンスですから個々の金融商品にとどまらず、社会全体をサステナブルにしていくことによって金融市場も守られていく、そういう将来の金融のあるべき姿であり、サステナブルな社会を実現するための基本的なインフラなのではないか。そして、そのような社会課題の中の代表例が気候変動問題だ、だから金融に関わる政策の中に気候変動の要素を組み込んでいくということは本来すべきことであり、レジティマシーのあることなんだと、このように考えています。

 こういう全体的な理解を念頭に置いて、個々の各論を議論する必要があると思いますし、報告書でもそういった議論をきちんと示していきたいと思っております。また、そのように考えると、ここに挙げられた今の各論の3つの課題以外にも、もしかしたら議論すべき課題があるかもしれません。そういうこともぜひ皆様から問題提起をしていただければと思います。また、今私が申し上げた理解に対しても、御異論があるかもしれません。そういったことも皆さんから御意見をいただければと思いますし、これで固定ということではなくて、各論を議論する中で、総論との間を行ったり来たりしながら理解を深めていくということだろうと思っております。

 少し長くなりましたが、私からの説明は以上でございます。ここまででも御意見のある方は多いかもしれませんが、全体の進行の関係がありますので、御意見は最後にいただくことにしまして、まず、御準備いただいた皆様からの御報告を伺い、後ほどまとめて意見交換できればと思っております。

 それでは、ここから開示の議論に入ってまいりたいと思います。まず足達様から、資料2に基づいて御報告をお願いしたいと思います。足達様、よろしくお願いいたします。

【足達メンバー】  皆さん、おはようございます。「開示の充実」というテーマで、トップバッターを仰せつかりました。事務局からは、なるべく包括的に、パースペクティブ、概観的に今の状況を見てほしいというお話がありましたので、「サステナブルファイナンスにおける情報開示、欧州等の動向と我が国への示唆」という題で資料を作ってみました。

 まず、欧州等における事業会社(特に上場企業等)に関する情報開示の状況について、一覧にしました。EUにおける非財務情報開示のフレームワークはNFRDで規定されております。2014年に公表されているルールです。ある一定規模以上の大企業に開示を義務づけています。コンプライ・オア・エクスプレインの原則にのっとっています。そして2017年6月にはガイドライン、コメンタールのようなものも発出されています。

 気候変動が重視される状況下で、2019年には気候関連開示のガイドラインというものもできています。KPIなどもここで示されております。さらに、欧州委員会の欧州グリーンディールのアクションプランの中に、NFRD改正も盛り込まれておりまして、既に昨年7月にその作成作業は始まっていると聞いておりますけれども、現状、まだ外に出ている情報というのがうまくつかめておりません。若干作業が遅れているのではないかと思います。足元ではイギリスが去年の11月に、TCFD提言に基づく開示の義務づけを公表いたしました。カナダやオーストラリアでも同様の議論が出ているというふうに聞いております。

 それから、必ず御質問いただくアメリカですけれども、一昨年、ウォーレン民主党議員から気候リスク情報開示法案が提出されています。賛同者には、新しく副大統領になられましたハリスさんの名前もあります。また、昨年の8月には、ウォーレン民主党議員から、SECに対しての開示義務づけを要請するレターが出ております。6ページにわたるレターです。気候リスク開示で、アメリカが今後どういうふうに動いてくるかというのは1つの注目点と見ております。

 事業会社、特に上場企業の情報開示がサステナブルファイナンスの鍵だとする認識は世界的に一致していると思います。ただ、論点が4つあるというふうに私は考えております。1つは強制開示か自主開示か、2つ目が気候変動フォーカスか、広くESGの要素全体かどうか、3番目が、原則主義でいくのか、細則主義、事細かにこういう事項を開示しなさいというところまで定めるのかどうかです。それから、4番目が、従来の財務情報開示というのは過去の実績開示ということを念頭に置いているわけですけれども、将来の予測とかコミットというのをどこまで許容するのか、この辺りが大きな論点になると思います。

 そして、今の流れというのは、(1)から(4)まで掲げさせていただきました4つの流れに整理できるのかなと思います。1つはTCFD提言、それから、従来からあるSASBとか、GRIとかIIRCというような既存のイニシアチブの流れ、さらに、これらが1つに収れんしてくるということ、これが2つ目の流れ。そして3番目が、欧州を中心に議論されている、先ほどの非財務情報開示規制、これがどうなっていくのか。そして最後に、IFRS財団が主導いたしますサステナビリティーに関する国際的な報告基準です。これは議論を始めるということで、コンサルテーションが先般開始されたところでございますけれども、こうした動き、この4つの流れがどんなふうに交わったり、あるいは違うものになっていったりするのか、この辺りが非常に大きな注目点だろうと見ております。

 実は日本でも、気候関連情報、CO関連情報の開示というのはもう既に、2003年からですから、18年間議論を続けているテーマであります。この詳細を一つ一つは解説いたしませんけれども、ある意味では長い歴史があって、皆さんの意見というのも、ある意味では出尽くしている観もあるのかなと思います。あとは合意と決断の問題というようなことを感じています。

 これは後ほど、もしよろしければ長谷川メンバーにも伺いたいとは思いますけれども、我が国の経済界の皆様方の御意見としては、2004年に、経団連さんのお名前で「環境立国のための3つの取り組み」という文書が出ております。この中で、環境報告書発行企業数を3年で倍増するという一方で、コミュニケーションの手法は本来、企業の自主性、主体性が最大限に発揮されるべきであって、法制度の下での行政の関与ではなくて、企業の自主責任によって進められるべきものと、こういう見解が出ております。この見解が変わっておられるのかどうかというのは、私、不勉強で、正確に把握しておりませんけれども、こんな中で議論が進んできたという経緯かと思います。

 もう一つ、今、足元で、地球温暖化対策の推進に関する法律の改正が議論されています。先般のグリーン成長戦略では、この法律で報告義務を措置済みとうたっておられましたけれども、この法律の報告対象は自らの排出量であって、TCFD提言が推奨するような財務的なインパクトになっていないということは留意したいと思っております。そして今、改正法案提出の準備が進められていると聞いておりますが、この報告義務の電子化と、事業所ごとの詳細な情報を開示請求なく公表するという点が、私どものような調査機関からみますと、金融、サステナブルファイナンスの仕事に十分に有効に活用できる余地は大きい、法改正の意義は大きいと見ております。

 最後に1ページ付け加えたのは、事業会社、上場会社の一般的な情報開示のほかに、金融機関の情報開示に関してです。欧州委員会の政策の中には、金融商品のラベルの問題とかポートフォリオの炭素濃度の測定であるとか等々、金融商品もしくは金融機関の取組を開示してもらう、そういう方向性もあると思います。今回のこの有識者会議の中でどのようにこれを扱うかは、つまびらかではありませんけれども、こうしたテーマも必要ではないかと、個人的には思っているところです。

 時間となりましたので、以上でございます。発言の機会をいただきまして、誠にありがとうございました。

【水口座長】  ありがとうございました。4つの論点、4つの流れという、大変分かりやすい整理をしていただきました。ありがとうございました。また、最後の金融機関の開示というのも、金融機関の中にサステナビリティーへの意欲というか、方向性を組み込んでいくためには非常に有効な手段の1つではないかなと、このように考えております。

 それでは次に、井口様より御報告をお願いしたいと思います。井口様お願いします。

【井口メンバー】  本日は貴重な機会をいただきありがとうございます。こちらのほうにありますように、本日は、サステナブルファイナンスにおける企業報告の在り方ということで、投資家の視点で報告させていただければと思っております。

 本日報告する事項は、以下の3点となります。最初ですが、これは水口座長が最初に解説されたことと近いのかもしれませんが、私のサステナブルファイナンスについての考え方というものを記載しております。環境や社会が大きく変化する中で、企業のサステナブルな成長が維持されるとともにリスクが低減されるというのは、投資家にとって非常に重要なことと認識しております。また、このようなレジリエンスのある企業さんが増えれば、日本社会全体も、よりサステナブルな状況になるのではないかと思っております。

 このような企業を支えるために、サステナブルファイナンスの仕組みが必要と考えておりますが、こちらのほうには私が考えるサステナブルファイナンスに関わるインベストメントチェーンの図を記載させていただいております。このインベストメントチェーンが有効に機能するためには、インベストメントチェーン上の各主体がおのおのの役割を果たすということと、コード等を通じた各主体への意識づけ、この各主体間の報告というのが、これは足達さんも少しおっしゃっていましたが、そういうことが非常に重要になると思います。

 本日は、この図の中でも企業と投資家の間をつなぐ企業報告ということについて報告させていただきたいと思っております。この企業報告というのが適切であれば、市場参加者は機会とリスクを的確に把握することができまして、レジリエンスある企業に資金が効率的に供給されることが可能になるのではないかと思っております。

 水口座長が先ほどもおっしゃいましたように、サステナブルな事象というのは気候変動だけではなくて、多様な事項があるというふうに思っております。ただ、まずは気候変動の情報開示に絞るということが私も妥当だと考えております。これは日本を含め、各国のネット・ゼロ政策によって、気候変動が業種横断的に、大きなインパクトを企業だけでなくて資本市場全体に与えると考えておるからです。また、グローバルのサステナブル報告の基準設定の議論の中でも、この下にありますようにIFRS財団がコンサルテーションペーパーを出しておりますが、その中でもクライメートファーストということで、まずは気候変動から始めるという考えを示しておりまして、気候変動の開示から始めるということはグローバルの動向とも一致すると考えておりまして、望ましいのではないかと考えています。

 では、この気候変動の開示をどこにどのように反映するかということですが、2つ目の丸のところに書いておりますが、私はTCFDの枠組みを用いて、有価証券報告書での開示が妥当ではないかと思っております。その下に理由を2つ書いております。1つ目はTCFDの開示というところですが、1回目の委員会でも議論がありましたように、日本の資本市場の国際化ということを考えますと、グローバルな枠組みであるTCFDの活用が望ましいのではないかということです。
2つ目の開示の場所として有価証券報告書というところになります。今、企業の御尽力でTCFDの開示がすごく充実しているというのは認識しております。ただ、残念ながら、まだ、TCFD署名を行い、開示を行っているのは200から300社程度ということで、東証一部上場企業数からするとまだ道のりは遠いということです。あと、気候変動というのは、冒頭申し上げましたように、投資家にとっても非常に重要な事項になっておりまして、そういったことというのは基本的な開示媒体である有価証券報告書に開示することが妥当ではないかと思っております。この後者については、この後、詳細に御説明させていただきます。

 気候変動の有価証券報告書での開示の議論に当たりましては、既に御承知の部分もあるとは思いますが、投資家にとっての有価証券報告書の重要性と最近の動向について確認させていただければと思います。

グローバルでアニュアルレポートと言うときは、それは投資家にとって中長期的な企業価値創造プロセス、これにはビジネスモデル、企業戦略、ガバナンス、財務諸表、監査報告書などを含むことになりますが、こういったものを一覧できる法定の報告書を指すというふうに理解しております。これは日本で何かというと、有価証券報告書に相当するということになります。ちょうど真ん中辺りに、ICGNというグローバルな機関投資家団体が2019年7月に出しました対日方針、これは日本の資本市場の改善において重要と考えることというのを示したものですが、実はここで一番最初にコーポレートレポートティングというのが取り上げられておりまして、その中でも有報を、投資家にとっても非常に重要なイベントである株主総会前に発行してほしいなどが書かれておりまして、グローバル投資家にとっても有報を非常に重視しているということが分かる内容になっているかと思います。

 その下は、有報の開示ルール変更を行った金融審議会ディスクロージャーワーキング・グループの報告の「基本的な考え方」から抜粋したものです。重要な箇所について下線を引いているので、簡単に読ませていただきますと、記述情報は企業の財務状況とその変化、事業の成果を理解するために必要な情報ということと、あと、投資判断に必要と考える記述情報が有価証券報告書において適切に開示されることが重要であるということが明記されております。

 こういったことに基づいて、下のほうに私の考察が書いてあります。1つ目のところですが、日本の資本市場の国際化という中では、グローバル機関投資家団体の意見書にもありましたように、企業価値創造プロセスを一覧できる有価証券報告書の重要性は高いですし、今後ますます高くなっていくと考えております。2つ目のところですが、TCFDの考え方にありますように、将来のキャッシュフローに影響する事項として気候変動要因があり、これを取り上げるとすると、それは投資家にとっても非常に重要な事項になりますので、金融審議会の報告書等にありますように、当然のことながら有報にも開示すべき事項になるのではないかと考えております。次ページのほうに、先ほど足達さんの資料にも掲載していらっしゃいましたが、内閣府令の事業等のリスクを書いておりますが、この府令を見てもTCFDというのは開示事項に相当するのではないかと思っております。

 こういうことを言うと、有報の記述情報は形式的ではないかというような御意見もあるのではないかと思います。ただ最近、急激に開示内容も充実していますので、その点、御報告させていただければと思っております。上の四角の中ですが、こちらには金融庁のほうで実施された有報に関わる施策を記載しております。今ちょうどこの記述情報の開示の好事例集の公表というのをやっています。これは私も投資家サイドで参加させていただいていますが、あと企業さんも多く参加しておられまして、直近では数十社、多くの企業さんが参加されて、対話を通じ、有報の中の好事例集を収集して、それをホームページに公表し、記述情報の改善に努めているというものになります。

 下の四角の中には、私の観察した現在の有報に関わる状況を書いております。3つほど書いておりますが、1つ目は、現在、有報を見ると、過去情報だけではなくて、中長期的な将来の経営計画、定量目標も含みますが、そういうものを多くの企業が開示されているということです。その達成状況などの開示も進展しておりまして、図表も交え、すごくわかりやすく開示が行われています。これは任意の報告書から開示内容を転用し、工夫されている状況と考えます。2つ目は、先ほど内閣府令のお話もしましたが、事業リスクの開示も非常に充実しておるということです。3つ目、この委員会が扱う議題かもしれませんが、気候変動関連に関しましては、施策とか将来の定量的な目標の開示も見られるようになっております。一方、TCFDなどグローバルで通用する開示フォーマットを活用している会社さんは、まだ少ないというふうに理解しております。

 次ページ以降、今申し上げた記述のある好事例を御説明いたします。多くの企業で多くの好事例というのがありますが、時間の関係もあるので、ここでは4社だけ取り上げさせていただいています。

 最初は日立製作所様になります。日立製作所様では、サステナブルな社会への貢献、それから中期経営計画の施策を書かれて、こちらのほうでは中期経営計画の定量的な目標も開示されています。そのほかにカーボンニュートラルの2030年目標も明記されておるということで、サステナブル社会への貢献、そして共存、その中でどう企業価値を向上させていかれるかというのが非常に分かる開示になっていらっしゃいます。

 こちらのほうは住友化学様の事例となります。こちらも日立様と共通しますが、サステナブル社会との共存、あと経営理念、そしてこちらのほうは中期計画でどういうことをしていくかということをステップ別に開示されて、中期経営計画の定量目標も開示されているということで、中期的な方向性が非常によく分かる開示内容になっています。

 次のページは味の素様です。こちらのほうは、そういう財務的な中期経営計画の開示に加えまして、中長期的な非財務項目の定量的目標KPIとその進捗ということで、環境とかいろいろ書いていらっしゃいますが、そういうことをやっていらっしゃるということです。こちらは味の素様のリスクの開示ですが、こちらもしっかりやっていらっしゃって、前年に比べてリスクが増減したかという開示まで行ってらっしゃいます。

 最後、丸井様になります。こちらは見てお分かりのように、TCFDの開示を忠実にやっていらっしゃるということで、右のほうでは事業インパクトの定量的な開示までやっていらっしゃるということになります。

 このように、冒頭申し上げましたように有報の記述情報の開示は大きく進化しておりまして、企業創造価値プロセスというのを一覧的にできるという点で、投資家にとっても非常に有用なものになっております。したがって、この有報にTCFDの開示を行うということは、アニュアルレポートとしての有価証券報告書の有用性というのを一段と高めることになりまして、資本市場の健全化にも資するのではないかと思っております。

 最終ページには、まとめを書いております。最初の黒丸のところには、先ほど申し上げましたように、TCFDの有報での開示は妥当であるというふうに書いております。その2つ目のところに書いておりますが、特に、2022年4月から導入されます機関投資家の主な投資対象になるプライム市場上場企業には有報での開示が必要になるのではないかと思っております。ただ、そうはいいましても、気候変動の影響は小さいと判断される企業さんもあると思いますので、コンプライ・オア・エクスプレインベースの導入も検討の余地があるのではないかと思います。

 4つ目のところに書いているのは、任意の報告書を全く否定しているというわけではなくて、むしろ有価証券報告書の記載内容を補強する役割ということで存在意義があるのではないかと思っています。

 2つ目の丸のところで、TCFD開示枠組みの活用を書いております。TCFD開示といいましても、例えば定量的なシナリオ分析のように手法が確立されていないようなところは、有価証券報告書上での開示の取扱いについては検討の余地があるのではないかというふうに考えています。
私のような投資家にとって重要なことは、気候変動要因の機会とリスクがどう認識されているかとか、あるいはこれに対処する経営戦略・目標に関して有価証券報告書でしっかり開示して、投資家として理解できるようにしていただけるということではないかというふうに考えております。

 以上でございます。ありがとうございました。

【水口座長】  ありがとうございました。足達さんがおっしゃられていた4つの論点に関して、明確に投資家からの御意見をいただいたというふうに考えております。また、有報が大変進化しているということもよく分かりました。ありがとうございました。

 それでは続きまして、小野塚様から御報告をお願いしたいと思います。小野塚様、お願いいたします。

【小野塚メンバー】  カタリスト投資顧問の小野塚です。今回こういった機会をいただきましてありがとうございます。私は昨年まで、ゴールドマン・サックス・アセット・マネジメント(GSAM)において20年間、資産運用に関する様々な業務に携わった後、2020年5月より当社で副社長COOとして、マネジメント業務及びESGスチュワードシップの統括をしております。カタリスト投資顧問はマネックスグループの傘下にありまして、アクティビスト戦略を掲げ、日本の上場企業にエンゲージメントを通じて企業価値向上を促し、その過程で株主を含むステークホルダーの価値を向上させることを目指しております。本日は、これまで私が株式、債券といった伝統的資産の運用部門での経験と、ESGスチュワードシップの担当者として、GSAM時代には多い年ですと200社以上の日本の上場企業との対話をした経験を基に、企業の稼ぐ力とサステナビリティーの両方に貢献するサステナビリティー開示の在り方とはということでお話をさせていただきます。

 本日のトピックは大きく2つです。1つは機関投資家によるESG情報の活用の現状、そして、これからのサステナビリティー情報開示に求められることになります。

 まず、投資家によるESG情報の活用ということの現状になりますけれども、1つ目のポイントは、投資家の立場によって求める情報に違いがあるという点です。左側には、下から、ESGの基礎的データや情報、企業価値に影響を与える記述情報を中心としたESGストーリー、その上にそれぞれの企業の個別の情報、そして最終的には、事業活動によって生み出す社会・環境へのインパクトに関する情報があるというように整理をしました。右側では、それぞれの情報のユーザーとして、投資のアプローチやスチュワードシップ活動といった業務を挙げています。例えばパッシブ運用やスチュワードシップ活動では、ある一定の基準に基づいたベンチマーク自体の組成、あるいはそれを使ったパッシブ運用があります。一方で、パッシブ運用に伴うスチュワードシップ活動では、基本的には長期保有、指数に含まれる限り売却はできないという前提の下、中長期視点に立ってベンチマーク全体のパフォーマンスの改善を目指すようなエンゲージメント活動や議決権行使があります。

 その際、出発点となるのは、ここにあるベースとなる定型的、客観的なESGデータです。サステナビリティー属性を同じくする会社同士、例えばSASBでいうSICSのような、業界における横比較による、例えば劣後する企業への改善を促すようなエンゲージメント、あるいは個別の状況、例えば不祥事ですとかM&Aなどの企業再編に係る情報を網羅的に、かつ端的に捉えることが必要です。現状の分散したデータの状況では、ブルームバーグやISSなどのデータベースを使っても、完全には、網羅的かつ効率的に比較可能情報を取るのは困難な状況だと考えます。

 一方で、アクティブ運用であれば、個別のビジネスモデルや経営戦略などの企業価値に影響を与えるESGのストーリーを理解し、個別の状況を踏まえてタイミングを計り、より価格のアップサイドが期待される差別化や、競争力の見極めの情報を重視しています。昨今ではこちらもアナリストが人海戦術で調査するばかりでなく、AIなどを利用して、効率的に公開情報は処理、分析し、投資開始後の企業との対話に人的な労力を投下するエンゲージメント投資の運用実績が上がっているというふうに言われています。

 そして、インパクト投資ですけれども、上場企業のみならず、非上場企業の株や債券を通じて、リターン獲得は市場並みでありながら、より社会や環境へのポジティブインパクトを求める、そういった投資アプローチになります。この中では、企業の在り方、パーパスを中心に、企業価値に影響を与えるESGストーリーを重視し、同時に社会、環境へのインパクトの目標設定と実際の課題解決の貢献度に注目しています。これに関しては透明性と正確性、及び恣意性を排除した貢献度の開示が求められると考えます。

 こちらでは、運用プロセスにおけるESG開示の情報の活用を、当社が取っているような株式アクティブ運用プロセスにおいて御紹介しています。いわゆるESGのインテグレーションというアプローチになります。

 運用プロセスを簡略化して、3つのフェーズに分けています。まず銘柄選択のフェーズでは、財務、非財務のあらゆる情報をアナリストやポートフォリオマネージャーが、ここにあるような企業のIR関連開示ですとか取材、法定開示である有価証券報告書、ベンダーのツールを通じて取得をしています。ここではかなりの部分がデータによる処理が可能ですけれども、実際の投資判断では、計量運用などコンピューターをベースとした運用手法を除いては、アナリストやポートフォリオマネージャーの企業の取材や市場関係者からの情報収集を基に、目利き力に頼る部分があります。

 実際に投資を開始する場合には、ポートフォリオ構築の段階でトレーダーが発注するわけですけれども、その際には、最近ではESG関連情報によって、個別株式の需給やベンチマークへの組入れの状況によって資金の流出入が変わってくるということで、ESGデータをかなり活用しています。最終的に、投資開始後には、ポートフォリオマネージャーによる企業のモニタリング、対話がされるわけですけれども、特に当社のようなエンゲージメントを通じて企業価値を向上させるような投資アプローチでは、ここは人と人のコミュニケーションに頼る部分がほとんどで、追加的な情報は一部、データによって補完しているといった現状があります。

 そこで、これらを踏まえまして、これからのサステナビリティー情報開示に期待されることは何かということについてお話しします。先ほど井口さんのお話にもありましたけれども、サステナブルな社会の実現に向けた企業の在り方を実現していくということの中では、インベストメントチェーン全体を意識して、開示の出発点である企業から機関投資家、そして最終受益者の個人にとって有益な情報の開示の内容と仕方、枠組みが確保されることが重要だと考えます。としますと、サステナブルファイナンスを推進するということは、企業と投資家にとって、より企業が持続的に稼ぐ力を確保し、社会のサステナビリティーを向上させる活動をする、サステナビリティー情報開示のエコシステムにおけるデザインが必要ではないかと考えます。開示の主体となる企業や、それを読み解く投資家に、もっと頑張れ、開示情報を増やせというアプローチはなかなか難しいのではないかと思いますので、例えば情報伝達の負荷を軽減し、インベストメントチェーン自体が実質的に機能することを確保する仕組みをこのタイミングで考えることが重要ではないでしょうか。

 2点目として、開示の質の向上に注力するべきだと考えます。特にESGやサステナビリティー情報開示に関して重要な視点として、透明性及び正確性の担保、すなわち第三者機関による監査済みデータの開示、そういった意味では、有報は既に監査済みの情報ですので、こういった情報を活用し、それに加えて環境負荷及び改善データの監査などが今後求められると思います。そして、もう一つの視点として統一性があって、非恣意性の高いデータであることがあります。例えばグリーンウォッシュに関する懸念があることを踏まえると、例えばですけれども、国の施策として、統一された比較可能な開示基準やガイドラインの策定が考えられます。当初は優先したい気候変動、中でもトランジションの分野にフォーカスするということで、早い立ち上がりを目指すべきですけれども、今後はサステナビリティーという広い概念で、人的資本や社会関係資本へもモジュールを広げていくことが可能かと思います。

 3点目として、フィンテックの活用が今後特に期待されると考えます。政府にもデジタル庁ができた今、我が国の金融業界、特にインベストメントチェーンの高度化、実質化を図る上でも、ブロックチェーンやAIを活用し、よりタイムリーな開示、作業負荷を低減するような開示の方向性へ持っていく必要があると思います。またこれを、金融庁をはじめとする政府を中心とした施策としての取組に期待します。例えば有価証券報告書など、XBRLといったような規格があるデータを最大限に利用し、横比較ができるようにすること、また、ここではサステナビリティーに関係するEとSの情報に加えて、それをドライブする経営ですとか監督といった分野の情報も含めることがサステナブル志向を促すと考えます。

 こちらにはインベストメントチェーンを載せていますけれども、ポイントとしては、やはり第2次安倍政権に始まったコーポレートガバナンス改革の中で、スチュワードシップ・コードの狙いは、機関投資家による企業の状況のモニタリングと、対話を通じた企業開示や企業価値の向上、それによって日本の企業がより投資先として魅力的なることで、そこに投資をする国民の資産の形成を助けるという狙いがあったと理解しています。とすると、サステナブルファイナンス推進の時代においても、やはり企業の稼ぐ力、そして機関投資家がそれを見極め、企業価値を上げていく対話など、中長期的にリターンを上げていくことに注力できる枠組みを意識することが重要だと考えます。そして、最終的な受益者である個人が、サステナビリティーに関しても正しい理解、すなわち持続可能な社会をつくることに貢献することと、持続的に稼ぐ力を備える企業をきちんと判断、理解できるようにするためにも、インベストメントチェーンのアンカーである、そしてサステナブルファイナンスの重要なステークホルダーとなる個人にも分かるような情報開示の枠組みをつくるべきだと考えます。

 そして最後に、ここで私からのアイデア提供になりますが、持続可能な情報開示の仕組みとして、さきにも挙げましたとおり、もう企業と投資家サイドも、これからさらに確保が困難な人的資本を掛け過ぎることに期待するものではなくて、デジタル技術を活用した実質的なサステナビリティー情報開示のプラットフォームのようなものを、政府中心とした、業界コンソーシアムを巻き込んだ形で推進してはどうでしょうかというものです。

 サステナビリティー情報開示のフローは、下にあるとおりですけれども、ポイントとしては、既に開示情報としてデータの形で存在しているものを活用すること、例えば現在議論が進行中のコーポレートガバナンス・コードの中にも、サステナブルファイナンスに絡むESG情報を盛り込むようなことが考えられます。そしてそこから、例えばTCFDのような、グローバルで既にお墨つきと実績のある枠組みを採用して、企業の企業価値の視点、業種別比較可能性といった点を活用した、統一的で恣意性を排除した開示とすること、そして、そのデータを機関投資家に提供するだけでなく、今後サステナブル投資商品を選択する、あるいは自分で働いている企業、製品を購入する消費者として、個人にも見える形にすることで、世界初のインベストメントチェーン全体をデジタルトランスフォーメーションするような仕組みになるかなと思います。これには、企業、投資家、個人を巻き込んだ、いわゆるサステナブルトランスフォーメーションにおける情報開示のエコシステムのデザインということも言えると思います。

 また情報開示には、インパクト投資にとっても有益であるポジティブインパクトの情報を監査済みの状態で取り込むことで、このプラットフォームを利用する企業にとってはインセンティブになるかと思います。そしてTCFDを、今現在は任意ですので、そういう形を取るのであれば、さらなる賛同への後押しになるかと思います。

 また、海外のガバナンス団体などから、ソフトローを中心とした日本のガバナンス改革には限界があるのではないか、よりハードローを規定するということが言われていますので、TCFDの部分を強化することも考えられます。そして、国、業界として、さらなるキャパシティービルディングが必要だということも言われていますので、すなわちインフラ整備を行うといった意見、こういった意見に対しても対応策として提示することができますし、また、そのTCFD、サステナブル開示といったところを連携の、省庁間の連携の場として、オール・ジャパンで取り組むことができるのではないかと思います。

 最後に、第1回の有識者会議で水野さんがおっしゃっていたように、実際に投資商品や融資の設計という実弾の設計にも、こういった枠組みは貢献すると考えます。御参考までなんですけれども、私も参加していますジャパン・スチュワードシップ・イニシアティブ、JSIという団体が2019年に発足しました。そこではインベストメントチェーンを意識して、スチュワードシップ活動に係る相対契約に関するレポーティングを、アセットオーナーとアセットマネージャー間で統一して、業界全体についてスチュワードシップ活動の実質化と高度化に向けて、ある程度の成功を収めたというふうに感じております。これは世界的に見ても初の取組として、ICGNですとかACGAといった海外のガバナンス団体からも、取組を評価するコメントをいただいています。成功の要因として考えられるのは、例えば投資顧問ですとか信託銀行、生保など、規制の枠を超えた業界のコンソーシアムにおける統一化が図れたことで、その活動に金融庁様、それから経団連様、日本取引所グループ様といった、公的あるいは中立、中核となる団体による御支援があったことが大きな理由だと思います。ぜひこういった業界における動きも参考にしていただければと思います。

 日本は、諸外国に比べてサステナブルファイナンスやサステナビリティー開示が遅れているという面があるかもしれませんが、一方で、デジタルカレンシーですとかeコマースの世界で起こったように、発展途上の地域においてデジタル技術を活用することで一気に抜きに出た例もあります。ここは発想を、追いつけ追い越しから、日本らしいサステナブルな社会における情報開示の在り方という、ありたい姿をベースの発想に転換していけるといいのではないかと思いました。

 長くなりましたが、以上になります。ありがとうございます。

【水口座長】  ありがとうございました。情報伝達の負荷を減らしてテクノロジーを活用するという、まさに具体的な御提案をいただきました。ありがとうございました。
 それでは次に、手塚様から御報告いただきたいと思います。手塚様、お願いします。

【手塚メンバー】  どうもありがとうございます。スライドを事務局のほうでよろしくお願いします。最初のページをお願いします。

 私、JFEスチールで気候変動担当の専門主監をやっております手塚といいます。同時にTCFDコンソーシアムの情報開示ワーキンググループの座長ということも承っておりまして、いわゆる開示する側です。事業会社の立場から、このTCFDの意義、それからリスクと機会の開示という観点で、今後の開示の拡大普及に向けてのアイデアというか、示唆をお話しさせていただきたいと思います。

 ちなみに、私どもJFEスチールは、2019年のCSR報告書並びに統合報告書からTCFD情報の開示を行っております。全体で80ページあるCSR報告書の中で、8ページをTCFDの開示だけに費やすという形で、かなり頑張ってやっているという状況でございます。

 次のページをお願いします。これはTCFDコンソーシアムが昨年末にまとめました資料でございまして、世界のTCFD署名の状況なんですけれども、先ほどもお話ありましたが、日本で、12月9日の段階で328機関が賛同を表明されております。その中で実は特徴的なのは、日本の場合はこのオレンジの部分です。これが非金融事業会社なんですけれども、これが205社賛同して、TCFDの活動を始めているということなんですが、これは世界全体で、実は非金融事業会社の賛同社数が550社ほどしかない中で205社が賛同している、つまり世界全体の36%を占めているというのが日本の特徴でございます。そういう意味では、日本の事業会社におきましては、このTCFD開示の中で、しかも先ほどもありましたようにこれは法的に義務でやっているわけではなくて、自発的、ボランタリーな開示の世界でこれをやっているということで、これはTCFD開示の中で語るべきこと、あるいはストーリーがあるという自信のある会社から、こういうものに手を挙げて活動を開始しているというのが実態なのではないかというふうに思います。

 次のページをお願いします。その辺の経緯をお示ししているのがこのグラフでございまして、横軸が時間軸で、緑の部分がTCFD賛同会社の日本の企業の数なんですが、歴史的に見ますと2018年の8月に、経済産業省が主体となってTCFD研究会というのが発足いたしまして、この研究会で同年12月にガイダンスというものをつくっております。TCFDの開示は非常に新しい試みであるということと、英語の大変膨大なガイダンスになっておりまして、それを読み解いて、どういうふうにやったら開示ができるかということの日本語のガイダンスを2018年12月に発表しています。これに合わせまして、2019年5月にTCFDコンソーシアム、これは賛同企業のボランタリーな活動なんですけれども、これが発足いたしまして、この頃から急激に賛同企業数が増えてきている。私どもJFEホールディングスは2019年5月に賛同を発表いたしまして、その年の秋のCSR報告書、統合報告書から開示を開始しているという状況にございます。

 その後も順調にこの賛同数は伸びていっているんですけれども、やはり今後の課題としまして、これをいかにしてファイナンスの世界に結びつけるかということになろうかと思います。実はこの動きと並行しまして、経済産業省のほうでクライメート・イノベーション・ファイナンス戦略というものを立てつける議論がちょうど2020年に行われていまして、9月にその戦略が発表されております。

 次の次のページをお願いします。その中ではサステナブルファイナンスに関して、赤で囲ってあるような立てつけを指定しておりまして、いわゆるグリーンファイナンス、ゼロエミッションに向けて今ある技術をいかに普及させるかという、一番右側にある(3)の部分、これだけではなくて、それに向かって、トランジションとして今できること、あるいは現状よりもよくするための活動にもファイナンスがつく必要があり、さらには、まだ存在していないようなイノベーション、あるいは革新的な技術の開発に向けたチャレンジを行っていくためのファイナンスというものも必要になるとまとめています。情報開示は、この3つのファイナンスに、実際に企業活動のこういった部分にお金が流れていくためのインセンティブになるというか、そういうことに資するという形で情報開示が行われていき、それが国際的な活動とリンクしていくべきであるというふうにまとめられています。この資料はこうしたクライメート・イノベーションファイナンス戦略を支持し、推し進めるべきとして2020年10月に経団連の意見書として、世の中に発表させていただいたものでございます。

 実は、その開示をファイナンスとリンクさせることが非常に大事になってくるわけです。前のページをお願いします。これは私どもJFEスチールの19年のCSR報告書に書いている部分でして、TCFD開示の前にある全体像の立てつけを御紹介していますが、横軸が時間軸で、真ん中辺が現状です。2100年に向かって、ゼロカーボンに向かって進めていくということが、右の上の象限でゼロカーボンスチールへの挑戦という、革新的な技術開発を中心にやっていくということが書かれていますけれども、これは非常に先の話になってきます。それとは別に、前のほう、上の赤い象限の左上の部分、これは現在まで自分たちがどういうふうにCOの削減に取り組んできたか、あるいはその中でどのような技術開発をやってきたかというストーリーを展開しています。つまり、現状のリスクをいかに低減していくかという部分のストーリーを入れてあります。

 今度は左下側の緑の部分、これは世の中が気候変動対策をすすめていく中で、私どもの持っている技術なり商品なりが貢献できる事業機会としてのストーリーを展開している。例えば省エネ技術であったり、あるいは電気自動車や再エネの設備等に使われる高機能の鋼材であったり、こういうもののビジネスチャンスは増えていくと、こういう削減貢献の部分で事業機会のストーリーを書いています。さらに、インフラ企業といたしまして、適応です。気候変動が激甚化していく中で、社会のレジリエンスを高めるために、やはり我々は貢献する部分が非常に大きいということで、適応貢献というものも事業機会として書かせていただいております。

 こういったものがストーリーとして展開できるんですけれども、これには実際に莫大なお金が必要になってくるわけでして、次の次のページをお願いします。これは経団連がおととし12月に発表しましたチャレンジ・ゼロという新しいイニシアチブの中で、今後どういう形でカーボンニュートラルの世界に到達するかということを書いている技術のロードマップの概略なんですけれども、最終的に、右側にあるようにネット・ゼロエミッションの世界に行くにしても、その途中経過というのは非常に幅広いトランジションの技術、あるいはアクティビティーというのが必要になってくる。したがいまして、長期の資金も大事なんですけれども、同時に、今からそこに至るまでの中間部分でのトランジションの活動、先ほどのJFEスチールの例で申し上げますと、削減貢献のための商品群の充実であるとか、あるいは自分の製鉄所の中の省エネ、あるいはCO削減であるとか、こういうものに対して順次ファイナンスがついてくるということが非常に重要になってくるという形になるわけです。

 最後のページをお願いします。ここで経団連のチャレンジ・ゼロの活動を御紹介したいと思うんですけれども、これは、これに賛同する企業が、自らの事業の中でどのようなチャレンジ、イノベーションあるいはトランジションに向けてどのような技術、どのような施策をもってチャレンジしていくかというストーリーを、それぞれボランタリーに経団連に提出しまして、これをホームページ上で日本語及び英語で公開していくという活動を始めています。現状では178社が376のチャレンジを、具体的なストーリー展開としてここに掲示しているんですけれども、何を狙っているかといいますと、結局こういうイノベーションというのは、個々の企業のパーツ、パーツの技術だけではなくて、様々な技術の組合せでもってイノベーションというのは起きてきます。

 例えば、鉄鋼のゼロカーボンに向けての活動というのは、どうしても大量の水素が必要になってくる、あるいは大量のゼロエミの電源が必要になってくる。こういう活動をやられている企業さんとのブリッジがかかってこないと、1社だけでは解決できない問題は非常にたくさんございます。

 そういう意味で、もし今後このサステナブルファイナンスの世界の事業会社の情報開示を実際に読まれる、利用される金融機関さん、あるいは投資家さん、そういうファイナンスの側が、単にその企業の採点評価をするだけではなくて、エンゲージメント活動を通じて、個々の企業のそうした様々な取組にうまくブリッジをかけていき、あるいは仲介のような形で新たな価値の創造につなげていくようなプロアクティブな利用のされ方をしていただけると、より充実したトランジションファイナンスが進むことになりますし、それこそがまさに企業にとってこういう情報を開示することの大きなインセンティブになって、先ほどの三百数十社の開示というのがさらに大きく拡大していく、加速していく、こういうことのいい循環が起きるのではないかというふうに期待しているところでございます。

 私からの発表は以上です。どうもありがとうございました。

【水口座長】  最後のところ、大変共感いたしました。1社だけでは解決できない問題に企業間、業種間のブリッジをかけていく、こういうところにも金融の役割というのはあるんだなというふうに感じました。また、TCFDの開示で日本が世界をリードしているのも、大変よいことでして、このリードを生かさないといけませんよねということも思った次第であります。ありがとうございました。

 それでは、ここから自由討論としたいと思います。前回は御発言のときにはチャットに書いてくださいという形にいたしましたが、本日は、なるべくインタラクティブな議論とするために直接声を上げていただくという方法にしたいと思っております。

 御発言を希望される方はミュートを解除して、例えば、「水口ですけど、ちょっといいですか」というように声を上げていただければと思います。声を上げられた順に御発言いただきたいと思います。

 ただ、ここで2つお願いがございます。1つは、発言中の方の発言を遮らないようにお願いします。1つの発言が終わってから御発言をお願いいたします。

 もう一つは、会話のキャッチボールができるといいと思いますので、1回の発言は短めにお願いします。1つの発言では1つのテーマに絞って発言していただき、長くても、一、二分程度で御発言いただければと思います。そして次の方に発言の機会を譲っていただき、また自分の回が回ってくる、こういう形で会話のキャッチボールができればなと思っております。

 なお、なかなか自分の番が来ないなと思われるときにはチャットに書いていただければ、事務局の方が見ていてくださって私に教えていただけますので、なかなか発言がうまくできないときにはチャットに書いていただければと思います。皆様、会話の仕方はよろしいでしょうか。そのようにお願いをいたします。

 それでは、最初に、冒頭御説明した事務局資料に関連して、もし何かコメント、御意見等あればいただくことにして、その後、開示の今の御報告について、まとめて議論していきたいと思います。

 まず、冒頭の事務局資料に関連して何かコメント等ございますでしょうか。

【田代メンバー】  田代ですけども、よろしいですか。

【水口座長】  どうぞ。

【田代メンバー】  今日の皆様の発表も事務局の方に御用意いただいた資料も環境中心にテーマを絞って議論した方がよいのではないかという内容になっておりますが、会議の期間も短期のため、それもその通りだなと思います。一方で、会議の名前が「サステナブルファイナンス有識者会議」となっている手前、外から見ると日本におけるサステナブルファイナンスは環境だけと見られてしまうリスクもあるのではないかなと思いまして、そこは様々な視点から議論した方がよいのではないかと思いました。
 以上です。

【水口座長】  ありがとうございます。気候変動が重要な論点であることは事実ですが、同時に、環境だけでなくてサステナブルですから、社会課題などについても、この後、少し目線を広げていければと思っております。
 ほかに何かコメントございますか。

【林(礼)メンバー】  いいですか、林ですけれども。今日はありがとうございました。冒頭、水口座長からこの会議の位置づけを改めて御説明いただいたので、大分、考え方がすっきりしてお話を伺えました。ありがとうございました。

 提言のところ、最初の事務局の資料の中で、すごくいい資料だなということを改めて感じたんですけれども、1点だけ気になったのが、1ページ目のところの会議の役割及びアウトプットとありまして、施策の方向性に関する提言というふうにありまして、これは誰の誰に対する提言と考えたらいいのか。誰に対する、そして、サステナブルファイナンス有識者会議によるどなたに対する提言ということなのか、社会全般に向けた提言なのか、その辺りの位置づけを、どこまでどう詳しく議論すべきかというところにも関わると思いますので、そこの部分について一応、改めて御説明をいただければと思います。

【水口座長】  ありがとうございます。岡田さん、お願いします。

【岡田総合政策課長】  ありがとうございます。内容にもよりますし、まさにそういったことも含めて今後御議論いただければと思いますが、恐らく、政策として御提言いただく部分で中心になるのは、私ども金融庁に向けてこういったことを検討して実現していくべきではないかということが中心だと思います。
 それ以外にも、民間の金融機関の方、あとは企業の方とかも御参加いただいていますので、民間プレーヤーの方に対しての何か期待、そういったことはメッセージとして出していかれることがあるのかなと、事務局としてはそんなふうに考えています。

【水口座長】  ありがとうございます。そのとおりだろうと思います。提言としては、やはり金融庁の有識者会議ですから、金融庁への提言というのが1つあると思いますが、一方で、メッセージという意味ではいろんな方へのメッセージがあり得るのかなと思いますし、その辺も有識者会議の中でおいおい議論できればと思います。
 今、もうお一方、お声を上げられたと思いますけども。

【小沼メンバー】  よろしいでしょうか。東京証券取引所の小沼でございます。ありがとうございます。議論の視点、長期と足元の問題、あるいは幅広いESGの課題と、それから、今、足元の最重要課題、これを仕分けして進めていくというやり方は大変いいんじゃないかというふうに思っております。

 今後の、議論につきまして、当面の進め方でこれからシリーズで予定されている議論になると思いますが、最後に水口座長がお話しされた各論と総論を行ったり来たりしながら物事を考えて進めていくという、そういう発想、すばらしいなというふうに思います。
 以上でございます。

【水口座長】  ありがとうございます。
 ほかに何かコメントございますでしょうか。

【藤井メンバー】  座長、よろしいでしょうか。

【水口座長】  どうぞ。

【藤井メンバー】  座長より、インタラクティブにとのことでしたので。先ほどの田代様の、環境(E)だけかというところについて、業界における議論を御紹介したいと思います。銀行業界の国際団体でございますIIF、国際金融協会が、今年1月に監督当局宛てに提言報告書を出しています。

 その中では、「E・S・Gのすべてが非常に重要であり、またEだけをとらえても、気候変動以外にも、バイオダイバーシティーとか水の問題などもあるが、一方で、ネット・ゼロ政策を踏まえて、かつ、相対的に議論が進んでいる気候変動リスクに、当面は集中すべきだ」ということを言っております。

 欧州のEBA、欧州銀行監督局も、10月に、銀行監督方針についての市中協議文書を出しておりまして、こちらも、当面はE中心に具体的に対応するという中身を出しています。そういう意味では、まさに、事務局ペーパーにもございますように、長期的にはESG全てをということだと思いますけれども、短期的には、ネット・ゼロ政策目標もあるということを踏まえながら、そのウエート、優先順位をつけていくというアプローチがあるのではないかと思います。

 以上です。

【水口座長】  ありがとうございます。恐らく、例えば開示の中身の詳しい議論に入っていきますと、TCFDなどがあって気候変動の部分は進んでいますけど、それ以外の部分をここで議論し始めると大変なことになってしまいますので、内容の詳しい部分やっぱり気候変動が中心になってくるんだろうと思います。

 一方で、考え方としては、EだけではなくてS、あるいはEの中でもバイオダイバーシティーですとか、プラスチックですとか、様々な論点がありますので、そういうものもちゃんと包含したフレームワークで物事を考えるという、この辺、なかなか難しいところでありますけども、またおいおい皆様と議論させていただければと思ってございます。

【手塚メンバー】  手塚ですけども、よろしいですか。

【水口座長】  どうぞ。

【手塚メンバー】  事務局の資料の、当面の進め方の意義のところで、負の外部性を低減することでポートフォリオ全体の利益を守ることが可能かというところの御説明のときに、水口先生から、「負の外部性を低減し、あるいは正の外部性を増やし」というような御発言があったと思うんですけども、実は、それができれば一番いいんですが、一方で、特に気候変動絡みの技術は今の段階で、まだコストと環境メリットがトレードオフの関係にあるようなものもあります。導入するほどコストが高くなり、社会負担が増えるということです。

 そういう意味で、実は対策を進めると負の外部性が減ると同時に、正の外部性も減るというケースもあり得る状況に、残念ながら今の段階はあるんだろうと思うんですね。そうすると、サステナブルファイナンスという意味では、トランジションをどうやってジャスト・トランジション――ヨーロッパで言っていますけれども、捨てていくべきものと伸ばしていくべきものの間で全体のメリットをどうやって確保していくか。端的に言えば、化石エネルギー関係のアセットとか事業とかいうものが縮んでいく際のファイナンスみたいなものもきちんと配慮しながらやっていかないと、ポートフォリオ全体の利益を守ることにつながらないリスクはあるのではないかと、そういう視点は指摘させていただきたいと思います。

【水口座長】  ありがとうございます。おっしゃるとおりだと思います。

 負の外部性の部分、今おっしゃられたコストと環境メリットが見合わないところがある。恐らく、時間軸の問題と、目に見えないコスト――目に見えないコストを負の外部性と言うんですけど――私たちが本当にまだ把握できていないコストも実はまだあるのかもしれないということは思いました。

 それともう1つ。今、ジャスト・トランジションというのは重要な概念でして、ジャスト・トランジション、適正なトランジションという意味もあると思いますが、それだけではなくてこの「ジャスト」には「公正な」とか「公平な」という意味があって、国際的にジャスト・トランジションの議論は非常に進んでおりますけれども、トランジションが進む中で、言わば影響を受ける雇用ですとか働き方の問題にも視点を向けていこうという、ちょうどEとSの橋渡しの部分の議論がございます。そういう意味でも、気候変動の問題というのはSの課題とも関わってくるということもあるのかなと思いました。

 ほかにありますでしょうか。そろそろ開示の議論をしなければと思っているんですけども、もし何かコメントがあれば、もし何かほかに追加があればいただきますが。

 よろしいでしょうか。この資料のことについて、また、いつでも戻ってきて議論していただいて構わないと思いますので、今日の本題であります開示の部分につきまして、今、4人の方からそれぞれ大変興味深いお話をいただきました。

 ここの部分につきまして、皆様からのコメント、御意見、あるいは御質問等いただきたいと思いますが、いかがでしょうか。どなたでもお願いいたします。

【渋澤メンバー】  渋澤です。よろしいでしょうか。

【水口座長】  お願いします。

【渋澤メンバー】  今日は4名のメンバーの先生、どうもありがとうございます。開示についていろんな気づきをいただきました。御礼申し上げます。

 その中で、井口メンバーの御提案のところで、有価証券報告書がこんなに進化すると私は知らなくて、大変勉強になりました。これは足達メンバーもおっしゃったところだと思うんですけど、この有価証券報告書というのは、やっぱりこれは法的に決まったものでありますので強制的なものですよね。それで小野塚メンバーも、横の比べができるということが大事とご指摘されておりまして、そういう意味で投資家が有価証券報告書を重宝する理由は簡単に横比べができることです。

 また、有価証券報告書は公開企業に義務付けられているドキュメントなので、一般個人でも分からなきゃいけないというところが鍵だと思っています。以前、私はすごく単純な計算で総合商社のCO排出量と、売上と利益の比率を比べようと思っていたのですが、フォーマットや単位が統一されていなく断念したことがありました。同じ業界でも同じ形式で開示がないことに驚きました。だから有価証券報告書に開示するということが法的に決まるんであれば、統一された形式にメリットがあると思います。

 井口メンバーにお伺いしたいのは、有価証券報告書というのはある意味でドライなドキュメントであって、企業のストーリーというのは、統合報告書とか、サステナビリティーとかCSR、そちらのほうで表現すべきだと私は思ってます。ただ統合報告書、サステナビリティーレポート、CSRレポートとたくさんあって、投資家から見た場合、それぞれの情報開示に何の違いがあるのでしょうか。それとも、例えば統合報告書に全てまとめたほうがいいのか。御意見いただければと思います。

【水口座長】  井口さんいかがですか。

【井口メンバー】  よろしいですか。

【水口座長】  お願いします。

【井口メンバー】  渋澤さん、御質問、どうもありがとうございます。

 おっしゃったように、法的なものであるので、文章が堅めというのは、これはどうしても致し方ないという部分もあります。ただ、ストーリー性ということで言うと、今、リスクのところだけじゃなくて、ビジネスモデルとかそういうことを書くところがありますので、そういうところで読んでいただくと、結構ストーリー性というのはできてきていると思います。したがって、任意の統合報告書の開示内容というのは、徐々に有価証券報告書に移っていくんだろうというふうに思っています。

 特に私が懸念しているのは、先ほど申した統合報告書を出しているのが、渋澤さんもよく御存じように約400社ぐらいですね、多くなったといっても。その中でもかなりクオリティーの差があるということです、残念ながら。東証一部の上場企業数をみても、情報開示の面でちゃんと補強をしていく必要があると思っています。TCFDという気候変動に関わる情報は、すごく重要になってくると思っていますので、そういうことでも有価証券報告書での開示というのは重要ではないかと思っています。

 あと、私は任意の報告書を否定しているわけではなくして、グローバルでやられているように、企業価値創造プロセスに関わる事項を一覧的に有報で開示し、さらにもう少し知りたい情報は、海外の企業でも行われているように、サステナビリティー報告書で補強をするという在り方というのが正しいやり方ではないか、と思っております。

【渋澤メンバー】  ありがとうございます。勉強不足で申し訳ないんですけど、TCFDでは、COの排出の計測は基準化しているんでしょうか。それとも、それぞれで単位がそろっていないのでしょうか。

【水口座長】  井口さん、どうぞ。

【井口メンバー】 企業さんが、今、任意の報告書でやっていらっしゃるようなことの延長線上でやられればいいのではないか、と私は思っております。

【渋澤メンバー】  TCFDに署名したメンバー企業は同じフォーマットで情報開示を行っているのかという質問の趣旨でしたが、いかがでしょう。

【水口座長】  TCFDコンソーシアムの手塚さんに、開示の統一化ということについて、いかがですか。

【手塚メンバー】  今、私の手元にぱっとガイドブックが出てこないので、明確なお答えはできないのですが、開示すべき項目、あるいは、例えばCO総排出量であったり原単位であったり、こういうものを開示するのが望ましいというふうなことは書いてありますけれども、例えば、比較を本当にしようと思うと、実はそんなに簡単な話ではなくて、バウンダリーをどう取るとか、いろんな定義が必要になってくるんですね。

 例えば、日本の温対法とかで開示する場合には、法律でもって外部から購入してきている電力はどれだけCOをしょっているのかとか、こういうものの定義が全部決まっていて、それを使って計算しましょうと決まっています。これは法律で決まっている話なので、各企業はそのとおりに開示していると思います。

 TCFDはそこまでは決まっていなくて、企業は自らのCO排出量をきちんと報告しましょうというような書き方で、どのような計算方法で、どのようなバウンダリーで、どのような係数を使って開示するというところまでは規定していなかったと記憶しています。

【水口座長】  私からちょっとだけ補足すると、GHG(温室効果ガス)の開示については、GHGプロトコルという国際的な規範があって、長い長い歴史があって、GHGプロトコルを使ってだんだん開示を統一化させていこうという動きはあります。

 一方で、事業内容の違いもありますので、GHGプロトコルがあるだけで本当に比較可能かという議論はあると思います。

 また、TCFDの開示は排出量の開示だけではなくて、リスクや機会、そういった企業の方針的なものも含めた総合的な開示になっているというところが特徴でして、それをちゃんと項目立てをして開示項目を決めているところに特徴があるのかなと思っております。

 どなたか、補足していただける方がいればぜひお願いしたいと思いますし、ほかの論点でも結構ですが、いかがでしょうか。

【長谷川メンバー】  経団連の長谷川ですけれども、よろしいでしょうか。

【水口座長】  お願いします。

【長谷川メンバー】  発言の機会、ありがとうございます。今の点にも関わりますし、井口メンバーからもプレゼンがあった有価証券報告書を通じたTCFD開示の件でございます。

 後程、最初のプレゼンで足達メンバーからの御質問があった点にも回答させていただきたいと思いますが、経団連では、先ほど手塚メンバーからも御紹介のあったTCFDコンソーシアムの中で、TCFDの開示媒体ですとか普及方法について、ずっと議論を重ねております。

 その中の意見として、TCFDの最大の狙いは、投資家にとってディシジョン・ユースフルな開示を促すことを担保することが最も重要だという意見がある一方で、企業による開示内容が画一化されないように、自主性や柔軟性を維持することも重要という意見もあります。

 また、足達メンバーからも御紹介があったとおり、非財務情報開示については、SASBやGRIをはじめ、様々なスタンダードが提案されておりまして、現在は、IFRS財団で基準開発の取組みに向けた動きが始まったばかりでございます。

 さらに、日本では、既に地球温暖化対策推進法ですとか、コーポレートガバナンス・コードなど、温室効果ガスの排出量やESGに関する開示についての国内の制度的な基盤が整備されており、また、TCFDの開示も進んでいるということでございます。したがいまして、法定開示という議論もありますけれども、現在コーポレートガバナンス・コードの改訂が検討される中では、企業の情報開示について、自主性、柔軟性を確保しながら、まずはTCFDについて、既にある制度的な基盤の中での位置づけを明確化すべきと考えております。

 したがいまして、先ほど、奥田経団連会長時代の意見書を踏まえ、現在の経団連のスタンスについての御質問が足達メンバーからありましたが、現在も企業の情報開示は自主性、柔軟性を確保しながら進めていくべきということを考えております。

 以上です。

【水口座長】  ありがとうございます。ほかにいかがでしょうか。

【林(礼)メンバー】  BofAの林です。今日の議論の繰り返しになりますが、大変に有意義で、私としては、やっぱりある程度統一的なものを有価証券報告書に入れられるようにしていくと。それがTCFDなのかどうなのかというのはもう少し議論が必要なのですが、一方で、有価証券報告書というのは、これも金融庁様のお声も聞きたいんですけれども、発行開示書類として投資判断に資するものということになりますと、やはり、投資家に対してできるだけ正確な情報をとなると、結果として、あんまり踏み込んだ長期目標とかってどこまで書けるのかなという点が気になります。その観点とのバランスがすごく必要で、訴訟リスクに御発行体を巻き込むわけにはいきませんし、我々も引受けリスクを考えたときに、本当にこの有価証券報告書の目標値って正しいのかと、財務情報ですら議論になっている中で、まだ手法が確立していない非財務情報を入れるのは、非常に投資家にとって有意義な部分はあるものの、まだまだ議論が煮詰まっていない中で、あまり法定開示の中に多くの情報入れ過ぎることによって、むしろ御発行体のほうが保守的になってしまって、ストーリーを与えにくくなるんじゃないかなということも感じるところです。したがって、これはぜひ、海外事例も参考にしながら、御発行体、投資家さんとの議論の中でも収れんしていけばよいのではないかと思っております。
 以上です。

【水口座長】  ありがとうございました。もう1人、手を挙げた方がいらっしゃいましたか。どうぞ。

【小野塚メンバー】  小野塚ですけれども、よろしいでしょうか。今の林メンバーと長谷川メンバーのお話なんですけれども、やはり、今回このサステナブルファイナンスという、ESGをもう一段進めるようなフェーズに来たときには、やはり日本の成長戦略とも絡んで企業の競争力の見える化というところにつなげる。そして、投資家のほうもその情報をきちっと精査できるような形で進んでいくというのが望ましい形だというふうに思うんですけれども、その際に、せっかく開示を充実させるのであれば、それが法的な枠組みなのか任意なのかというのは今後の議論だと思うんですが、やはりそれを、実質的なアウトプット、すなわち資金をサステナブルな投資に振り向けるような流れにつなげるですとか、あるいは投資家がそれを使って、きちっと企業の企業価値を判断できるような方向にということが、恐らく、目的だとするならば、量とか、あとはある意味、自由な書きぶりというよりも、やはり分かりやすさとか基準ですとか、あとは諸外国であるものに関して日本の独自――独自の基準をつくるという意味ではなくて、日本の企業がより正確に理解されるような枠組みとか、あるいは、先ほどお話を差し上げたデジタルなプラットフォームのようなものがあるべきでないかと思いました。
 以上です。

【水口座長】  ありがとうございます。

【吉高メンバー】  よろしいでしょうか。

【水口座長】  お願いします。まず今、声を上げられた方。

【吉高メンバー】  吉高です。多くの企業の経営者層と気候変動のことをお話しします。その中で、有価証券報告書に情報を出したらどう評価されてしまうのだろうと怖がっていらっしゃるのを感じます。もちろん、法的にというよりは、柔軟性をもたせてというのは重要だと思います。有価証券報告書で、TCFDについて、90社近くが何らかの形で触れていらっしゃいますが内容に濃淡があります。ご指摘になっているところは、プロコンがあると思っているのが発行体側の実情だと思っています。基準があればあったで、発行体は情報を出しやすいけれども、それを出した後にどうなるのかというところが見えないので不安になります。そこは御理解いただきたいというのが1つあります。

 もう一つは、投資家はSASBのような基準で業界内を比較したいというのは理解しておりますが、例えば先ほど、ニッセイの井口さんからの御発表でありましたが日立製作所さんのような企業の場合、よく言われるのが、コングロマリットディスカウントみたいなことなんですね。特に、手塚さんからご指摘があったように、この気候変動対策も、プラスチック問題も同じですが、1社だけでは進められないことが多い課題だと思います。そのときに投資家がどうやって判断するのかというのを示していかないと、事業会社も進んで情報開示をしていけないと思っています。要は、この企業と機関投資家側の認識のギャップが日本の開示を遅らせていると思います。双方の御要望はよく分かりますので、この日本の実態に合う形での議論ができればと思っており、小野塚さんや林さんがおっしゃったことと共感するところでございます。

 ありがとうございます。

【水口座長】  今手を挙げられています、藤井さん、どうぞ。

【藤井メンバー】  2点申し上げますが、両方とも長期的視点か短期的視点かということについてのコメントです。比較可能性は非常に重要ですし、渋澤さんがおっしゃられたポイントは全く同意します。そういう意味で有価証券報告書を使うというところも方向性としては、意見は近いですけれども、一方で、足元を見た場合に、炭素排出量ですら、スコープ3まで行けば定義は固まっていない状況にあると。さらには、排出量をどう減らしていくかということは全く議論されていない中で、有価証券報告書だ、と決めるのはいいんですが、何を開示してもらうのか、あるいは何を開示してもらうためにはどういうツールが必要なのかというところについては、全くコンセンサスがないということなんだと思います。

 長期的な方向性については、皆さん恐らくあまり異論はないと思うんですが、短期的には、私はよりフレキシビリティーが高くて、各社の創意工夫が出せる、統合報告書を活用するということが一つの道ではないかと思います。

 もう1点ですけれども、これは林様のコメントに関連しますが、やはり日本の企業の中期的な計画は、最終的には中期経営計画に収れんされるので、基本的に3年から5年に留まると思います。一方で、気候変動はそれを超えたスパンになるわけで、マーク・カーニーが言う時間軸の悲劇、Tragedy of the Horizonがあるので、それを有価証券報告書の中でどう折り合いをつけていくかということについても、やはり何らかの段階論が必要かと思います。それを示してあげないと、片や3年、5年の中期計画が公的な公表の計画である一方で、じゃあ、2030年、2050年、2100年というものが、それがどう矛盾しないのかという部分について、短期的に有価証券報告書という枠組みの中で折り合いがつけられるのかといった点についても、やはり長期的な方向性と短期的に何をやってもらうかということの間の整理が要るのではないかと思いました。

 以上であります。ありがとうございます。

【水口座長】  ありがとうございます。
 今、岸上さんから手が挙がりました。岸上さん、お願いいたします。

【岸上メンバー】  ありがとうございます。本日の議論は、CO排出量などのリスク情報を有報に載せることが話の中心になっているかと思います。低炭素社会への移行に貢献する経済活動を表す売上高や比率ですとか、そういったプラス(投資機会)の情報に関しましても、アニュアルレポート等に開示していなければ信頼性のある情報として捉えられないという傾向もありますので、気候変動関連を始めとする機会の情報も有報に載せていくという流れは基本的に賛成です。

 一方、グローバルな傾向でもあると思いますが、投資家の目線であったとしても、より広いステークホルダーの価値を尊重する流れがあるかと思いますので、そうしたときに全ての情報が有報に収まることが必ずしも適切ではないと思うので、その両方の位置づけと使い分けというのを整理することで、より全員にとっていい情報が発信できるのではないかと思います。
 以上です。

【水口座長】  ありがとうございます。ビジネスチャンスみたいなものをきちんと押し出していく必要がありますし、有報に載せるか載せないかという二者択一ではなくて、有報で書くべきことと、それ以外で書くべきことという使い分けもあるんだろうなと思いました。

 あと、足達さんの一番最初の資料にありましたが、国際的に、イギリス、フランス、ニュージーランドとTCFD開示の義務化をしようとしているというところもどう思われるのか、せっかく日本がTCFD開示でリードしているのにとも思いますが、この辺、国際的な流れを皆様どう思われるのかなというのはちょっと気になるところですが、いかがですか。ここで抜かれてもと思いますが。

【渋澤メンバー】  よろしいでしょうか。

【水口座長】  ごめんなさい、今どなたか、すいません。

【渋澤メンバー】  渋澤です、すいません。
 国際的と考えるときに、先ほど吉高メンバー経営者が怖がっているという御発言が、それがリアリティーなんだと思うとちょっと愕然としたんですけれども、例えば海外の経営者で同じような状況になったときに、怖がるという経営者はいないんじゃないでしょうか。アクティブ運用者としては、グリーンに関して怖がっている経営者がいるんだったらそれを情報開示してほしいです。ネガティブスクリーンの材料として使えますので。経営者が新たな状況で怖がることなくチャレンジできるかできないかということは投資判断にとってすごく大きい情報です。ヨーロッパは自身が有利になるようにルールを決めるというぼやきは聞くんですけれども、新しいルールの中で、怖がるんではなくてチャレンジしていく経営者を求めたいと思います。この委員会の議論の範囲を越える内容かもしれませんが、怖がらない経営者も日本の企業にいるはずなので、そのようなベストプラクティスをきちんとクローズアップして、示すことが大事だと思います。いつもEUがルールを決めて、陰で文句を言うみたいなことはそろそろいいんじゃないんでしょうか。

【水口座長】  それでは、手塚さんから御発言の希望があるみたいです。手塚さん、お願いします。

【手塚メンバー】  この法的開示の必要性、あるいはどうあるべきかという議論でコメントしたいんですけれども、有報に書くという話で、怖がっている経営者がいるという議論もあるかと思いますが、特に私の専門は気候変動なので、気候変動絡みの話をしますけれども、世界の未来に関する議論というのは、非常に不確実性が高いんですね。例えば、私どものTCFDの開示とかも、IEA(国際エネルギー機関)の2度シナリオにのっとって自分たちがどういうふうになってくるがお示ししたり、あるいは、大災害とか被害とか、こういう分野はIPCCのレポートに準拠して、こういう世界になったときにはこうなるというようなことを書かせていただいていますけども、根拠となっているIEAのレポートとかIPCCのレポートそのものに非常に大きな不確実性があるということはもう明記されていまして、例えば66%の確率でこういうことが起きるというようなレベルの記述がいっぱい入っているわけです。その中で、未来のストーリーをつくる際には、ある種会社のスタンスとして割り切りをして、その中で自社が考える、あるいはこうなるだろうと思う未来に自分たちはかけて行動しているというような記述をしている面があるんですが、果たしてこういうものが、そこに書かれている定量的な見方とかリスクとか機会の数値とかいうものが、リーガルな制約を受けたフォワードルッキングなステートメントに適しているのかというのは大変大きな疑問の余地があると思います。

 と同時にCOの排出量の話も、先ほどから何人かの先生方から、横串を入れて比較できるようにならないかとか、共通のルールはないかというお話もありましたけれども、実はこれも単純な、例えばダイオキシンの発生とか、あるいは排水量がどれだけあったかといったレポートは直接的に計測して出しているデータなんで「正しいデータ」というのは存在するんですが、COというのは実は直接測れないんです。これは全ていろんなルールに基づいて、投入されるエネルギーや原材料などを目ベースに仮定と係数を使って計算してつくっていて、しかも外部から電力を買ったり、燃料を買ったり、燃料を外部に売ったり、そういう取引がある中で、これとこれとこれは自分たちで出したことにするというのを積み上げたものを報告しているというのが、先ほどの地球温暖化対策法で日本企業が報告しているCOの量なんですけれども、これはほかの国の企業が報告している数字と定義がまるで違いますので、実はアップル・ツー・アップルの比較はできないような構造になっています。こういう間接的に計算で出している数字を持って、どういうリーガルフレームワークで管理していくかというのは、実は真面目に考えるとすごく大きな課題になってくるんだろうと思います。

 一方で、ある程度の割り切りをしないと、一々いろんなものを書いているときに、これは何十何%の確率で言われているものに準拠してこういうふうに発表しますとかどんな計算方法に準拠しているかなどにつて注記していると分かりにくくなるんですね。なので、分かりやすくするためには、ある種そういう細かな部分は捨象して、自分たちはこういうふうに考えていて、それをどういうふうに対処しようとしているかということを記述しているというのが実態なんです。何々と言ったんだからそうならなかったときどうなんだみたいなことにつながるような、法的縛りが入ってくると、これは大変ミスリードする形になる。ここら辺のバランスをどう取るかということは、ぜひ御理解いただいた上で御議論をいただきたいなと思います。
 以上です。

【水口座長】  ありがとうございます。今、どなたか手を挙げられましたか?
 どうぞ、お願いします。

【井口メンバー】  井口です。プレゼンでも申し上げましたが、私が有報の解釈をやるというのも僭越ではありますが、ご説明しましたように、すでに将来のフォワードルッキングな情報、中期経営計画なども有報で出されているということです。それはまさに投資家が欲しいところとなります。それがなければ、ほとんど投資情報として意味がありません。したがって、非常に有用な情報だと思って感謝しています。そういう意味でいうと、TCFDも確かに将来のフォワードルッキングな情報にはなりますが、投資家にとって、非常に重要な情報になっているというのは、最近の株主提案とかでも見られることと考えています。

 あと、私、プレゼンの最後のほうにTCFDの開示についてということで申し上げたんですが、例えば、私も記載していますが、手塚様もおっしゃった、シナリオ分析など、まだ固まってないというところがあると思います。投資家として知りたいのは、数字だけの横比較というよりも、水口座長がおっしゃったように、TCFDの枠組みでは、ガバナンス・戦略・目標などの開示枠組みがあるので、そこを比べるということにも意味があると思っています。単にシナリオ分析をやって、幾ら損失が出たとかいっても、その背後には、想定があると分かっていますし、企業さんの裁量もすごく強いと思っているので、正直言ってそこだけを比較して判断できないのではないかというのが本音です。
先ほど吉高さんがおっしゃったような、企業経営者が恐れているというのでは困っちゃうんですけれども、ただ、気候変動のリスクが実際もうそこまで来ているので、それに対して、もちろん内部では定量含めいろんなシナリオ分析をしていただくというのは必要だとは思いますが、どういう戦略を取っているのかといった定性的な情報を定型フォーマットで出していただけるだけでも、その定性部分も横比較できることになりますので、すごく意味のあることじゃないかなと思っております。
 以上でございます。

【水口座長】  ありがとうございます。大分意見は出てまいりましたでしょうか。これはなかなか難しい問題で、時間軸のこともありますし、海外との比較の問題もありますし、書く内容ということもありまして、今、井口さんがおっしゃられたように、企業の姿勢とか、リスクに対する考え方、あるいはビジネスチャンスをどう捉えていこうとしているのかとか、そういう内容もあるのかなと思います。有報も、井口さんの御報告にありましたように、昔に比べて、すごく自由に皆さんいろいろ書かれるようになっているということもあって、会計情報の開示は規則に基づいてきちんと書かれますけれども、それ以外の定性部分というのは比較的自由に書けるのかなという気もしております。

 ところで、今日、金融機関側の開示ということについても、足達さんから御報告をいただきました。これは金融機関にもある種の規律といいましょうか、あるいは、こういう考え方を持っていただく、そのことが逆に、きちんと企業のほうにお金が流れるようなインセンティブになるのかなという気もするんですけども、金融機関の開示については、何か御意見とかコメントございますか。

 林さん、お願いします。

【林(礼)メンバー】  先ほど手塚さんの御説明にもありましたように、海外でTCFDって金融機関がメジャーで、事業会社って少ないんですよね。もともとは本当に、釈迦に説法な話ですけれども、金融機関のリスクとして始まった開示だったのが、日本は事業会社の方々が大変真面目に反応しているという特殊な例だと実は思っていて、我々も金融機関としてTCFDの開示を本国でも行っていますが、それを通じて事業会社に対するエンゲージメントを行うということだと思っています。やはり有報なのか、TCFDなのか、気候変動含めてサステナブルファイナンスの開示の在り方をまず金融機関としてしっかり考えて合意を持つことが、結果としてその先にある事業会社の皆様の開示の姿勢にも関わってくるし、事業ポートフォリオにも関わってくると思っています。したがって、今日は事業会社の観点での御議論が多かったと思いますけれども、金融機関のあるべき姿というのは、まさに金融庁さんのこの有識者会議でより議論を深めてもいいのかなと思っております。
 以上です。

【水口座長】  ありがとうございます。

 それでは、藤井様、お願いします。

【藤井メンバー】  すいません、ありがとうございます。金融機関の開示については、足達さんの資料の最後のページになりますが、その多くの部分は、まさに今までの議論で出てきた論点の流れなんですけれども、私の理解では、ヨーロッパにおきましては、サステナブルファイナンス促進に向けた投資商品の開発ということが1つのテーマになっていて、当たり前ですけども、その中には投資家保護、消費者保護というのが非常に大きいパーツとしてございます。この中で、投資商品、金融商品のラベリングですとか、ベンチマークといったことが、EUのアクションプランないし、EUの報告の中で重視されているということが、金融機関の開示一般に加わる形で入っているということではないかと理解をしております。
 以上です。

【水口座長】  ありがとうございます。
 ほかにいかがでしょうか。コメントがあればと思います。

【吉高メンバー】  よろしいでしょうか。すいません、吉高です。
 せんだって、ブラックロックのラリー・フィンク氏と、元SEC委員長のメアリー・シャピロ氏がウェビナーで対談されたのを聞きました。我々が進めるのはパブリックカンパニー中心の開示ではあるが、気候変動に関してはパブリックカンパニーだけでは解決できず、プライベートカンパニー(非上場、未上場企業)に関連する様々なファイナンスについても議論すべきと話しておりました。TCFDを設置したFSBの役割は金融システムの安定化を図ることであり、(上場企業、大手金融機関、資産運用会社や資産オーナーのみならず)金融機関全体に対してメッセージを出せるのは金融庁の役割ではないかと私は思っています。

 金融機関自身の意識が変わらなければ、サステナブルファイナンスの本来の目的というのは達成ができないというのは欧米でも議論されつづけているわけです。藤井さんから欧州の話もありましたが、金融機関としてグローバルで競争していく機関もいれば、地域を支えているところもあるので、それぞれに向けたメッセージというのが必要だと思っております。
 以上でございます。

【水口座長】  ありがとうございます。足達様から何かもしコメントいただければと思うのですが。もしよろしければ。いかがでしょうか。

【足達メンバー】  ありがとうございます。金融機関側の開示に関しては、コストになることを懸念される御意見があります。それから、欧州との比較でいうと、今、藤井メンバーもおっしゃってくださったように、欧州には金融機関に対する厳しい目というのがあります。NGO等から、例えばその商品はグリーンウォッシュだとか、その融資先は問題だという声が上がる。日本では、金融機関を、一般の方々がそういうふうに評価をしたり、選別をしたりということはあまりないと言えます。したがって、冒頭の座長の整理で言えば、このテーマは、長い時間軸の話だと思いますが、将来的には金融機関もそうした情報開示をしていくべきだと考えます。

 それから、金融商品に関しては、例えばグリーンボンドの場合には、発行体さんの思いにプラスアルファで、何らかの評価、アセスメントというものが必要になってくると思います。その結果、金融商品にきちんとラベルがつく状況を目指すべきだと、この有識者会議のまとめとして盛り込んではどうかというのが私の考え方でございます。
 ありがとうございました。

【水口座長】  ありがとうございます。

【小野塚メンバー】  すいません、今の点について1つコメントさせてください。小野塚です。

 足達さんのおっしゃること、本当に共感します。やはりそれで重要なのは、事務局のペーパーにもありましたけれども、最終投資家とか個人、世論といったところに、このサステナブルファイナンスのリテラシーを上げる、そういった活動も併せて、今回、提言といいますか、意見書をまとめられるといいのではないかと思います。やはり規制で縛る部分と、それからデマンド側、ステークホルダー側からガバナンスする部分と、両方があったほうが健全ではないかと思っております。
 以上です。

【水口座長】  ありがとうございます。今日は、井口さんと小野塚さんの御報告で、どちらも期せずしてインベストメントチェーンの図が出ていました。最終受益者がアンカーだというお話もされておりましたけれども、そういう視点は大変重要ですよね。そのとおりだと思います。

 ほかにいかがでしょうか。

 はい、井口さん、どうぞ。

【井口メンバー】  先ほどの事務局資料にコメントする時間がなかったので、そこだけさせていただいてもよろしいですか。

【水口座長】  はい、どうぞ。

【井口メンバー】  事務局資料の、水口座長の議論の視点とか、あるいは基本的な考え方というのは全て賛同しております。それで、事務局資料のP2の右の意義の一つ目のところですが、スチュワードシップ・コードには、スチュワードシップ責任として定められておりますが、サステナビリティーの考慮を中長期的な投資リターン拡大に適切につなげれば、私自身もそれを経験しておりますが、レジリエンスのある企業を見分けることを通じ、投資の成果につながると思っています。

 2つ目の負の外部性の低減のところは、今後、議論になると思っていまして、水口座長がおっしゃったように、ユニバーサルオーナーのような投資期間が、例えば50年、60年とかになってくると、負の外部性の低減というのはすごく重要になってくると思います。ただ、投資期間にかかわらず、ここで特に重要と思いますのは、金融機関サイドにとってはポートフォリオのリターンを守ること、それから、企業にとっては、長期的な成長収益性を守るために負の外部性を低減させるのだ、という基本的な考え方をしっかり認識することが大事と思っています。
 以上でございます。

【水口座長】  ありがとうございます。では、田代さん。

【田代メンバー】  証券会社の立場からいたしますと特に金融機関の開示が重要だと考えています。日本の場合はやはり個人投資家が資金を持っており、日本政府もそういった個人の資金をSDGsやESG投資に向けるという話が出ていると思いますので、その様な観点においても分かりやすい開示が非常に重要だと思っています。また、開示については商品の比較ができるような、ある程度標準化したものでないと個人の方には分かりづらいと思います。手数料等を始め開示内容はどうすべきかや、あとは企業の取組みに関する評価機関による評価をどのように活用すべきかといった議論も、今日はあまり出来ませんでしたが、これから出てくるのではないかと思います。自分のお金が何に使われて、その結果どういうよいことに繋がるのかということを分かりやすく整理することで、個人の方が安心して投資していただける環境を整備できますし、それが、日本がESG投資に成功するかしないかのすごく大きなポイントと思いますので、ぜひいろいろな議論ができればと思います。よろしくお願いいたします。

【水口座長】  ありがとうございます。そろそろ時間もなくなってきましたが、今、岸上さんが手を挙げられていますので、岸上さん、お願いします。

【岸上メンバー】  ありがとうございます。少し違う視点ですけれども、主に小野塚委員がおっしゃっていたデジタルの活用に関連してですが、当然効率化においてデジタル化は重要になると思います。その上で、AIを活用したときに生じるバイアスなども広い意味でESG課題であるかと思いますので、最終的にデジタルの活用が何らか政策提言に関わるのであれば、AIを活用した際のESG課題の視点も念頭に入れないといけなければと思いました。

【水口座長】  おっしゃるとおりですね。AIそのものが一種のESG課題でもある。一方で、活用もしなければいけないし、ということですよね。

 ありがとうございます。大変活発な御議論をいただきまして非常に勉強になりましたし、いろいろ多面的な御意見をいただけたかと思っております。まだまだ言い足りないこともあろうかとは思いますけれども、お約束の時間になってまいりましたので、自由討論の時間をこの辺りにさせていただきたいと思います。

 本日の会合でまだ言い足りなかったこと、あるいは補足したいことなど、追加の御意見がある場合には、後ほど事務局のほうに書面、メールで御提出いただければと思います。メンバーの皆様に共有をさせていただきたいと思います。

 それでは、最後に事務局のほうから御連絡があればお願いいたします。

【岡田総合政策課長】  ありがとうございました。次回の本会議は2月18日木曜日に開催することで既に御案内差し上げています。日が近くなりましたら、改めまして事務局から詳細を御案内させていただければと思います。
 以上です。

【水口座長】  ありがとうございました。それでは、本日は大変活発に御議論いただきまして、ありがとうございました。以上をもちまして、本日の会議を終了させていただきたいと思います。どうもありがとうございました。
 

―― 了 ――

金融庁 Tel 03-3506-6000(代表)

総合政策局総合政策課

(内線3515、2770、2893、5404)

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