「サステナブルファイナンス有識者会議」(第5回):議事録

1.日時:

令和3年3月25日(木曜日)16時00分~18時00分

【水口座長】  ただいまよりサステナブルファイナンス有識者会議第5回会合を開催いたします。本日も御多用のところ御参集いただきまして、誠にありがとうございます。
 
 初めに、毎回同様の注意事項ですが、御発言されない間はミュート設定にしてください。発言される際にミュートを解除いただき、発言が終わりましたら再びミュートに戻していただきたいと思います。
 
 それでは、議事に移ります。これまで有識者会議のメンバーから御報告をいただき、意見交換をしてまいりました。本日は、有識者会議として外部の専門家の方の御意見を伺い、今後の議論の参考にしてまいりたいと思います。
 
 そこで、本日は、5人の方をお招きしていますので、御紹介いたします。国連環境計画金融イニシアティブの特別顧問の末吉様、社会変革推進財団の安間様、WWFジャパンの小西様、自然エネルギー財団の大林様、日本エネルギー経済研究所の工藤様の5名の方々です。ゲストの皆様には、お忙しい中、御協力を賜りまして誠にありがとうございます。
 
 本日は、今御紹介しました順番で、それぞれ10分ほど御報告、御意見をいただきまして、その後、報告の都度、15分ほどの質疑応答を行いたいというふうに考えております。大変時間が限られておりまして申し訳ございません。しかし、この議論を通じて、有識者会議の議論をより豊かなものにしていきたいと思いますので、どうぞ御協力のほどよろしくお願いいたします。
 
 なお、大林様と工藤様に関しましては、内容が非常に関連しますので、まとめて質疑応答させていただくということにしたいと思います。
 
 それでは最初に、末吉様から、資料1に基づきまして御報告いただければと思います。末吉様、よろしくお願いいたします。

【末吉様】  末吉です。今日はお招きいただいてありがとうございます。画面を共有いたします。大丈夫でしょうか。それでは、始めさせていただきます。

 今日はお招きいただいてありがとうございます。そうそうたる皆さんの前で今さら私がお話しするようなことではないんですけれども、せっかくのお招きをいただきましたので、私が普段考えていることを申し上げたいと思います。

 今日は3つの視点からお話をしたいと思います。まず1つは、どういう時代認識を持ってこの問題を考えるのかですね。当然、金融の役割についてもう1回よく考え直すと、こういうことも必要じゃないかと思います。

 それから、今世界で起きていることは大きな転換ですから、そこで大事なことは何をやるかではなくて、原理原則の見直し、もっと言えば価値観の転換が起きている、そういったことと同時にルールや規制をどうやってつくっていくのか、このことが非常に重要になってきますし、それから、当然金融の話をする際には、金融を取り巻く社会の変化への対応が非常に重要になってきます。あえて言うと、社会が大きく変化し始めておりますので、このままだと金融が取り残されてしまう、そういうことも懸念されるんじゃないかと思っております。

 私の時代認識なんですけども、一番はやっぱり地球の危機ということをどれほど受け止めるかだろうと思っております。これは改めて言うまでもないんですけれども、グテーレス国連事務総長の言葉が非常に明快なんですけれども、「地球が壊れている」と。これは気候も生物多様性も地球自体が壊れているから、21世紀の最大の任務は自然との平和共存の回復だと言っているわけですね。ヨハン・ロックストローム教授などは、プラネタリーエマージェンシーの状況にあると言っています。

 この認識を持つと、私は今、世界に、我々を含めて言われて、問い直されているのが、本当にこの世界でよかったのかと。ですから、我々が汗水流して、皆さんが一生懸命つくってきた今の世の中はこのままでは駄目なんじゃないかということであります。

 私は戦後最大の社会改革が始まる、そういった時代認識を持っております。そこで行われるのは、私がよく使う言葉で申し上げれば、破壊と創造です。20世紀は何といってもやっぱり経済第一でやってきました。その裏で環境が壊されました。その結果がSDGs、気候危機、コロナ危機ですよね。とすれば、経済と環境の関係を逆転させると。私はそれは環境本位制の経済にしなければいけないと思っております。

 そういった新しい秩序を求めるとすれば、当然ながら20世紀型は破壊されてしかるべきであるし、その後には21世紀が必要とする新しいものがつくられていく。この破壊と創造が同時に行われているというのが今の私の時代認識です。

 その中で金融がどういう役割をするのかですけれども、実は皆さんよく御存じの21世紀金融行動原則、3・11直後に生まれた原則ですけれども、先日もこの会議でお話をしたんですけれども、この前文にすごくいいことが書いてあるんですよね。まるで今日書いたような文章です。「地球の未来を憂い、持続可能な社会の形成のために必要な責任と役割を果たしたい」、これが日本の金融の方々がつくられた原則に書いてあるんです。これこそが金融の今の役割ではないでしょうか。

 私は、大転換が起きるときに非常に重要だと思っているのは、何か新しいことをやるという、そのイベント的なことで取り組むのではなくて、これまで社会をつくってきた、我々が経済を利してきた原理原則、価値観が大きく変わるんだ、転換するんだと。そのことをよくよく認識して、そこの原理原則の問い直しをすることが非常に重要だと思います。

 これはUNEP FIから見ましたサステナブルファイナンスの歴史でありますけれども、やはり今の環境金融の一番の扉を開いたのは、2006年の責任投資原則ですよ。PRIでしたよね。ここで何が起きたのかといいますと、私に言わせれば、受託者責任の見直しをしたことが今の環境金融の道を開いたんだと思います。

 御存じのとおり、2006年以前はESGなどを考慮することは、ファンドマネジャーはできなかったんですよね。受託者責任に違反するからだったわけです。でも、その当時、UNEP FIがやったスタディーは、本当にESG考慮は受託者責任違反なのかという、ファンドマネジャーを縛ってきた原理原則、言わば憲法の見直しをしたわけです。その結果、イリーガルがリーガルになり、時を経ることによって、もっと解釈が強くなって、今でいえば、あえて言えばESGを考慮しないことが受託者違反になるという具合の解釈までエスカレートしております。こういったことが私はこれからどんどんあちこちで起きるんじゃないかと思います。

 それで、最近の話で言えば、私はやっぱり今注目しているのがブラックロックのラリー・フィンクさんですよね。彼は去年から一生懸命、心を入れ替えたのか知りませんけれども、サステナビリティこそ一番重要になってきたということを繰り返し繰り返し言い始めております。何せ、これ900兆円でしたっけ、世界最大の資金を動かしているブラックロックがこんなことを言い始めたわけです。

 私は今、サステナビリティが金融にもたらしていることを一言で言えば、このことだと思っているんです。それはどういうことかといいますと、これまでチャンスだったものがリスクになっていく。これまでリスクだったものがチャンスになる。リスクとチャンスの逆転を引き起こしているのが私はサステナビリティだと思います。

 ですから、こういった金融の、何といいますか、構造的、根源的な変化が今、世界で起きているのではないでしょうか。

 さらに、そういった変化の中で重要なのはルールづくりですよね。金融の専門の皆さんはとっくに御存じのことですけども、既にイギリスのFCAはTCFDによる情報開示を企業に義務化し始めましたよね。2025年にはイギリス経済全体に広げるというわけですよ。つまり、完全に制度化されるわけです。

 私は多少この情報を集めましたけれども、2019年あたりから非常に周到な準備をし、しかも実施計画が非常に細かく決まっております。こういったアプローチをしているところと、おい、何だかTCFDが大事だぞ、何かやんなきゃいけないんじゃないのといったレベルの取組をしているところでは、私は明らかに結果に大きな差が出ると思います。競争でいえば、勝負に負けるという話であります。

 さらに最近の話ですけど、これ皆さん御存じのとおり、次のSECの新しい議長にゲンスラーさんがなりますけれども、彼の下でやはりあのSECもはっきりと気候リスクとESG重視に転換すると、そういう話になってきております。SECが変われば、アメリカに上場している日本企業はもちろんですけれども、世界に非常に大きなインパクトを与えますよね。こういったようなインスティテューショナルな、あるいは行政に組み込む、こういう変化が起きているわけであります。

 このページのことについては皆さんよく御存じだと思いますので、スキップします。

 私が注目しているのが、この開示基準のIIRCとSASBが一緒になる。あるいはヨーロッパでもIFRSが世界標準をつくっていく。こういう運動、こういう流れの標準づくりに日本は一体どこまで絡んでいるんでしょうか。絡む覚悟があるんでしょうか。

 さらに、金融を取り巻くビジネスに非常に大きな変化が始まっているように思います。少し象徴的に申し上げますけれども、オーステッドというのはついこの間までデンマークの化石燃料の国営エネルギー会社でした。
今、全部化石を捨てて再エネになっているんですけれども、この表を見て皆さんびっくりしませんか。日本の電力10社の時価総額が、かつてはオーステッドのはるか上にいたんですよ。でも、10社まとめても、今、オーステッド1社に及ばないです、時価総額が。こんなことが現実に起き始めているんですよ。これだけエネルギー転換のインパクトが非常に強いということですよね。こういったことは本当の目の前の話です。

 さらに申し上げれば、今、ニューヨークダウの30種がどんどん名前が変わっておりますけれども、2018年にはGEが消えました。さらに去年はエクソンモービルが消えているんですよ。私はこういう情報は非常にびっくり受け止めておりますけれども、そこで考えるのは、同じ広い意味での金融の分野にある株式市場は非情に先を冷徹に読んで、非情な行動をどんどん取っているんだと。こんなことで、例えば普通の民間銀行なんか追いついていけるんでしょうか。そういった焦りすら私は感じます。

 それから、ビジネスの競争が、いつどこから新しい競争者が出てくるか分からないという例題で、私はこのリビアンというアメリカのEVメーカーに注目しているんですけど、アマゾンが一気に10万台注文したんですね。それだけならまあまあ普通のニュースかもしれませんけれども、実はリビアンがアマゾンに入れるEVを納入するために作る車の工場が、何とイリノイにあった元三菱自動車の工場なんですよ。三菱自動車が撤退して、工場を売ろうにも売れずに、解体しようかという矢先にたった1,600万ドルでこのリビアンが買ったんだそうですよ。まさにエンジンからモーターへの破壊と創造がこういうところで起きているわけです。

 フランスでは、御存じのとおり使命を果たす会社法というのができて、ダノンが第1号になったんですけども、残念ながら、ついこの間、それを遂行したファベールCEOは解任されてしまいました。これはどういうことなんでしょうか。

 それからさらに、私は、世界の企業が今、覚悟を持っていろんな決断をし始めている、その象徴的な例がシェルだと思っております。去年にシェルが、少なくとも自社に関する限り、いわゆるスコープ1と2に関する限り2050年ゼロを目指すと発表しておりましたけども、ついこの間の今年に入った2月にはスコープ3まで入れて、ゼロにするんだと。彼らいわく、シェルはこれからネットゼロエミッションのエネルギー会社になるんだというわけですよ。もう化石会社でなくなるという宣言と等しいですよね。

 こういったことが起きているわけです。こういった情報を知るために、日本の企業のCEOの皆さんは何を考えていらっしゃるんだろうか。非常に不思議に思います。

 最後になりましたけれども、今年の1月にイギリスから生物多様性の経済学が出ました。これはダスグプタ教授をリーダーとするあれですけれども、そこに様々なことが書いてありますけれども、私ちょっとここで日本全体に考えていただきたいのは、気候変動の経済学がそうであったとおり、生物多様性の経済学はこれから世界の経済やビジネスの在り方に非常にインパクトを与えていくと思います。

 もし仮に日本のビジネスが生物多様性を重要視しない、反映されないビジネスであるとしたら、恐らく世界のマーケットから排除される、忌避される、そういう可能性だって出てくるような変化がこのレポートレビューから出てくるんじゃないかと思います。

 御存じのとおり、TCFDに続いて、TNFDも始まっています。それから、つい先日ですけれども、国連は、自然資本のコストなどをプライスへ組み込む統計をつくっていこうということが決議されております。これがいろいろ広がると、GDPが変わりますよね。今のGDPで経済の強さ、大きさを測る時代は終わってしまうんじゃないでしょうか。こういった変化も私は注目すべきだと思います。

 最後に申し上げたいのは、日本の金融の存在意義は何だろうかということであります。私はサステナブル社会の実現には、先ほど申し上げましたとおり、世界とともに大きな社会改革が不可避だと思います。とすれば、その社会改革を進めていく上で、社会の基礎的インフラとしての立場にある日本の金融が果たすべき役割は何だろうか。これは金融はもちろんですけれども、金融の外にいる方々とも一緒になって、これから一生懸命考えていかなければいけない、そういう課題だと思っております。

 チャールズ皇太子がマグナカルタに倣って、テラカルタ、地球憲章というのをこの間発表しました。彼によると、気候と生物多様性を守るには、これからの10年が最後のチャンスだと言っております。世界はみんなそういう危機感、緊急的な危機感を持っております。

 ぜひ、サステナブルファイナンスがこの10年で勝つか負けるかの勝負の年を、時代をどう過ごすのか、それを金融がどうサポートできるのか。そういった危機感でぜひ御議論いただければと思います。
 少し長くなりまして申し訳ありません。以上です。

【水口座長】  末吉様、ありがとうございました。いつも末吉さんのお話を聞くと、背筋が伸びる気がいたします。ありがとうございます。受託者責任としてのインパクトというスライドがありました。ルールつくりは競争だというお話もありました。そして、気候変動だけではなくて、自然資本、生物多様性というものも、放っておくと気候変動と同じことになっちゃう、こういう御指摘をいただいたと思っております。ありがとうございました。

 それでは、少し時間は押しておりますけれども、ここから御質問を受けたいと思います。まとめて御質問をお聞きしてから末吉様にまとめてお答えいただきたいと思います。いつものとおり、質問される方はミュートを解除していただいて、声を上げていただければと思います。時間も押しておりますので、できるだけ簡潔に御質問いただければと思います。どなたからでも結構です。いかがでしょうか。質問のある方は声を上げていただければと思いますが。

【渋澤メンバー】  ありがとうございます。末吉さん、どうも非常に刺激的かつ具体的な例も提示していただき、ありがとうございます。大変勉強になりました。

 冒頭のスライドで「人新世」、Anthropoceneというキーワードが出ましたけれども、直近、『人新世の資本論』という斎藤幸平さんの本がベストセラーになっていますが、彼みたいな考え方で「脱成長」と言っている人たちが社会で増えていると思います。脱成長を求める声が、もし正しければ、どのように金融というのはその中でよりよい方向に持っていくんでしょう。

【末吉様】  斎藤さんの御本については、うわさは聞いておりますけど、読んだことはありません。そこで、脱成長とおっしゃるときに、成長の意味がどういう意味でおっしゃっているのか。今までどおりのGDPの成長、ただ経済的な結果としての数字の成長だけを成長とおっしゃるのであれば、そういう成長はなくなりますよね。

【渋澤メンバー】  その成長です。

【末吉様】  ですから、私が、これから必要なのは、違った意味の新しい価値観に基づく成長を続けていくために、地球の限界の中でどうやっていくのかというのがこれからの課題なんだと思うんです。

 ですから、そういった意味で金融が何をするのかですけれども、私は、新しい成長、新しい21世紀型の成長を支援すると同時に、20世紀型の成長を支援してきた金融は、そのストックをできるだけ早く小さくしていくということだと思います。ですから、ある意味では破壊をサポートしてきた金融はその分をどんどんどんどん減らしていく、それがダイベストメントという分野だろうと思います。銀行でいえば、今ある既存のローンストックを、在庫をどんどん見直していく。そういう作業と同時に、新しい成長のための21世紀型の創造のために必要な資金をどんどん共有していく。

 ですから、明らかに資金の置き場所がどんどん変わっていく。ですから、私は、在庫を見直さないまま新しいことだけでやっていくということでは、とてもできないと思います。ですから、ネガティブインパクトを消していくと同時に、ポジティブインパクトを増やしていくと。そういう意味の、その同時進行をどんどん金融が責任を持ってやるべきだと僕は思います。

【渋澤メンバー】  ありがとうございます。

【末吉様】  ありがとうございます。

【水口座長】  ほかに御質問のある方はいらっしゃいますか。

 特に出てこなければ、私から1つ質問したいんですけれども、末吉さんのスライドの中で受託者責任の見直しの話があって、その後にルールづくりのスライドになっておりましたが、この受託者責任の定義もルールづくりの一環として、ルールとして検討すべきであるというふうにお考えでしょうか。

【末吉様】  実はPRIが生まれるときに、受託者責任の現行法の調査を国連UNEPファイナンスイニシアティブがしたんですよね。日本を含むたしか9か国だったと思います。その結果で私の記憶に間違えなければ、受託者責任という言葉とか、その概念を持っていない国は唯一日本だけだったんです。忠実義務で何とかカバーしているというレベルでした。

 ですから、私はそのときに強く思ったのは、世界とこれから様々なものを共有して一緒に地球のために働くとしたら、共通の価値観、共通の概念を、あるいは原理原則を持たないと、日本は本当に一緒にやれないんじゃないかということを強く思いました。ですから、私は、ぜひ日本にも受託者責任という言葉が象徴する概念を、日本も本当は法律の中にちゃんと組み込むべきだと僕は思います。そういった意味のルールづくりをしていかないと、なかなか日本は世界と一緒にやっていくということができづらいんじゃないでしょうかね。なかなか議論をする共通の場を持っていないのが日本のような気がしてなりません。

【水口座長】  ありがとうございます。共通の価値観を共有しながら、そういうルールをつくっていくということですよね。

【末吉様】  そうですね。ですから、そのルールの場合に私2つ分けたほうがいいと思うのは、原理原則ですよね。環境を第一にする、COを減らしていくという、そういう一番のゴールのところを共有すると同時に、じゃ、COを減らすといったときに、具体的にどういう手段で減らしていくのか、そのことをどう評価して、どう数字で表して、どういう情報開示をするのかというツールの面ですね。その2つの分野でしっかり世界と共有していかないと、原理原則も持っていないし、そのことを表現する手段も実行する手段も共通のものを持っていないということでは、これはなかなか一緒にやっていけませんよね。

【水口座長】  ありがとうございます。

 ちょっと時間押しているんですか。あとお1人、簡単に御質問いただけるぐらいですが、いかがでしょうか。お願いします。

【岸上メンバー】  ありがとうございます。末吉さん、ありがとうございました。今の内容にも関連するんですけれども、御紹介いただいた中で、例えばブラックロックのラリー・フィンクさんですとかチャールズ皇太子ということで、民間でしたり、皇室という形で引っ張っていくリーダーがいらっしゃるかと思います。日本に即した、そういった原理原則ですとか価値観をまとめて引っ張っていく存在として、末吉さんのほうで、どういった方、または組織を想像されますでしょうか。

【末吉様】  これはそれぞれの国で歴史が違うので、一概には言えないと思うんですけれども、日本の場合にはこれから意識してそれをやるとしたら、まず第一に政治の責任が非常に大きいと思います。

 それから、もう一つは、政治はある意味では目標やゴールを示すのが役割とすれば、実際にその実行に当たるのは民間ですよね。いわゆるノンステートアクターズです。ですから、ノンステートアクターズの中でこういったことを大事に思う人たちが増えていただきたい。

 その中でもっと端的に言えば、やっぱり日本のリーディングカンパニーのCEOたちがもっとこの問題を、我が社のことだけではなくて、社会全体のこと、世界全体のことという立場から、もっともっとCEOが意見を言うべきじゃないでしょうかね。そういった人たちが引っ張ってくると同時に、私は日本にもう少しみんな注意して強く育てていただきたいのがNGOだと思います。NPOも含めてですね。

 私はかねてから、強い、いいNPOやNGOを持っている社会は幸せだと言ってきましたけれども、やはりそういった意味でのリーダーシップを取れる一角を占めるのはやっぱりNGO、NPOだと思います。

【水口座長】  ありがとうございました。まだまだ御質問はあろうかと思いますが、ちょうど時間でもございますので、末吉様にはここまでとしたいと思います。本日はどうもありがとうございました。

【末吉様】  すいません、ちょっと長くしゃべり過ぎてごめんなさい。

【水口座長】  いえいえ、ありがとうございました。

 それでは続きまして、安間様から、資料2に基づきまして御報告をいただきたいと思います。よろしくお願いいたします。

【安間様】  それでは、社会変革推進財団の安間から、「インパクト投資の意義と推進」ということでお話をさせていただきます。

 社会変革推進財団は2017年に日本財団の協力によって設立されました。自らも投資をいたしますけれども、基本的にはインパクト投資の推進を行っている団体でございます。本日お伝えすることは、インパクト投資の定義、市場における規模、ESG投資との違い、政府の役割、あるいはシングルマテリアリティーの下でのインパクト投資、今後の課題です。

 インパクト投資は、財務的なリターンと並行して、ポジティブで測定可能な社会的及び環境的なインパクト同時に生み出すことを意図する投資です。インパクト投資には4つの要素があるというふうに定義・理解されております。1つは、投資家にインパクト創出の強い意図があること。それから、ファイナンシャルリターンを犠牲にせずに、一定のリターンを目指すこと。それから、特定なアセットだけではなくて、様々なアセットを通じてインパクトの創出が図られるものであること。そして一番重要なことは、インパクト評価を行って、それを可視化するということでございます。

 インパクト投資はESG投資の延長線上にあるとも言われます。ESG投資のほうは、長期的なリスクの削減、特に企業が自ら生み出す負の外部不経済性の削減を通じまして、長期的な企業価値の最大化を目指すものというふうに理解されています。これに対しまして、インパクト投資は、企業の生み出す外部不経済性の出自に関係なく、社会に存在している特定の社会課題解決をビジネスによって行うことを目的としたもので、その課題の解決度をインパクト評価という形で可視化するものです。

 インパクト投資の種類にはプロダクツに応じていろんなものがございます。プライベートエクイティー投資、上場株のインパクトファンド、サステナビリティーリンクローンあるいはサステナビリティリンクボンド、マイクロファイナンス、コミュニティ投資、政府・自治体との成果連動型契約を通じたソーシャルインパクトボンドなどがございます。GIINの調べによりますと、世界では7,150億ドルのインパクト投資残高があります。アセットクラス別に見ますと、プライベートのデット、これは基本的に銀行融資と思いますが、上場株式、未公開企業向投資、不動産のような実物資産投資、公募債が中心となります。投資先の分野としては、エネルギー、金融、森林、食料、マイクロファイナンス、住宅、ヘルスケア、あるいは水・公衆衛生といった分野が対象になっております。

 インパクト投資残高の54%は運用会社が保有しております。残りのうち36%は、国際開発金融機関あるいはバイラテラルの援助機関が保有しております。インパクト投資を運用している運用元のアセットオーナーを見ますと、年金基金18%、個人投資家16%、銀行15%、保険と開発金融機関がそれぞれ8%、富裕層・ファミリーオフィスがそれぞれ6%、財団が5%などとなっております。日本のインパクト投資残高ですけれども、これは4月に発表予定の暫定の数字でございますが、約5,126億円という暫定値が出ております。

インパクト投資を巡りましては、インパクト評価のプラクティス、指標など、世界的に様々な原則やフレームワークが乱立しておりますが、だんだんと集約・統合されてきています。1つ重要なものとしては、国際金融公社(IFC)がつくりましたインパクト投資の運用原則があります。これは世界的にみても重要な国際原則になっており、我が国でも署名する金融機関が出始めております。GIINは、インパクト投資の4つの中核的な特性などを発表し、あるいはIMPというところでインパクト評価の方法論を発表しています。

 我が国のインパクト投資が直面している課題を説明します。第1に、社会課題解決志向のある「インパクト投資家」の数や量が少ない、ということが大きな課題です。欧米では年金・保険の加入者あるいは個人投資家の方々が強いインパクト志向を持っておりまして、そうした基金の運用部門に対して強いインパクトの創出を求めています。言い換えれば、我が国ではESG投資を超えてインパクト投資を求めている機関投資家の数が少ないということがございます。第2に、インパクト測定とインパクトの創出の管理を一体として行うインパクト・メジャーメント・アンド・マネジメント(IMM)の理解もようやく我が国で始まりましたけれども、そのようなことも影響しまして、本格的な金融プロダクツの形成はまだ途上であります。第3に、国際的な議論への参画の必要性のお話が、先ほど末吉様から出ましたけれども、インパクト投資の面につきましても、国際的なワークショップ等への我が国からの参加の取組は少ない現状にございます。第4に、金融庁とGSG国内諮問委員会も共催して勉強会などをやっておりますけれども、業界横断的な取組、官民連携というのもまだまだ不足しております。第5に、株式市場におけるインパクト投資などを見ますと、やはり企業の情報開示がより進まないと、株式市場が本来持っている重要な機能が十分に社会課題解決型企業に対して提供できていないというような課題があると思います。

 インパクト投資は、民間の投資ではございますけれども、実は政府の役割も大変大きいと思います。第1に、長期のビジョンを策定し、将来の政策の見える化を行うことによって、民間企業が先を争って自主的に社会課題解決型の投資を始めます。したがいまして、カーボンニュートラル2050年の達成の道筋ですとか、社会課題解決のビジョンを政府が明確にすることによって、インパクト投資は相当程度加速することができると思います。第2に、英国におきましては、2000年以降、英国の財務省が中心になりまして、インパクト投資の促進に向けたタスクフォースを何度も開催しております。あるいは2019年には、インパクト投資協会の設立なども国の財政支援なども受けて行っております。第3に、イギリスではデータの収集、それから新しい事業モデルの検証など、大学ともタイアップした形で、新しいビジネス、あるいは新しい社会課題解決型企業の発掘に向けて取組が進められています。第4に、日本におきましても、公助の仕組みがさらに求められている場合も多いと思います。しかしながら、非効率なビジネスモデルが硬直化して、財政負担の長期化を招いている場合もありますので、民間が活動しやすくするため官民対話ということも非常に重要で、そのことによって、民間の自立的なイノベーションの導入とかということが進められることも必要であると思っております。第5に、インパクト投資の特徴として、インパクト評価ということがあると申し上げましたけれども、このインパクトの測定の評価手法につきましては、まだまだ国際的に進化・発展途上でございます。こういった分野で我が国の研究者、評価学の研究者、あるいは金融の専門家が論文を発表する、あるいは手法を開発するということを通じまして、インパクト投資が標準化されて、異なる案件で比較可能、あるいは数値化された形でインパクト投資が行えるようになりますと、金融業界においてもインパクト投資の一層の普及が見込まれるのではないかと思います。第6に、ブレンディッドファイナンスも重要です。これは海外で盛んですけれども、公的資金が高いリスクを負担して民間資金動員を最大化する施策として有効です。

 最後に、規制枠組の上でのシングルマテリアリティーの下でのインパクト投資ということを申し上げます。よく欧州では、監督上はダブルマテリアリティーの金融市場というふうに言われております。日本と米国はシングルマテリアリティーということですが、インパクト投資には必ずしもダブルマテリアリティーが不可欠というわけではないと思います。英国では、原則としてのシングルマテリアリティーを維持しつつも、2019年秋のスチュワードシップ・コード大幅改訂では、署名機関に関してのみ、社会における存在目的とか、あるいは投資理念の表明をさせて、金融機関に選択的な道を与えているということです。一方、我が国の例えば株式市場、現行の資本市場を見てみますと、企業が生み出すインパクト創出と長期的な企業価値向上を相関させて、投資家が可視化できるような明確な開示上の仕組みというのは十分内包できていないというふうに思います。しかし、翻って考えてみますと、企業の生み出すインパクトというのは、企業価値評価の最も重要な構成要素の1つであり、多くの証券アナリストの方はそれを既に組み込もうとしているはずです。柳良平さんも「同期化モデル」という論文の中でも論じておられますけれども、企業が生み出すインパクト創出と長期的企業価値の相関性を投資家が確認できるようになってくれば、株式市場というのは将来の企業が生み出すキャッシュフローの先取り評価という極めて優れた機能を持っておりますので、市場がその機能を発揮して、社会課題解決型企業の発掘とリスクマネーの供給を行い得ると思います。最近のSDGsIPO、ソーシャルPOといった取組は、その萌芽だと思われますけれども、さらにより充実したインパクト評価ですとか非財務情報の開示が必要になってくるのかなと思っています。そういう意味では、企業が自主的な開示に基づいて、インパクトに関する情報をたくさん出していくような先行事例の創出ですとか、あるいは、その開示についても新しい取組というのが制度上もできたら、より社会課題解決型の企業というのが株式市場でも高く評価されていくようになるのではないかというふうに思います。

 取りあえず私からの説明は以上になります。

【水口座長】  ありがとうございました。

 それでは、ここから、やはりちょっと時間が押しているんですけども、御質問を受けたいと思います。簡潔に御質問いただきまして、幾つかまとめて御回答いただこうと思います。どなたからでも結構です。ミュートを外して発言ください。

【小野塚メンバー】  ありがとうございます。2つございます。小野塚と申します。安間さん、ありがとうございました。

 まず1つ目は、GIINのレポート結果、11ページで、グローバルでも個人投資家のインパクト投資の実績というのがまだまだ18%ぐらいというお話がありましたけれども、これに関してはなぜでしょうか。また、促すためには、認知プラスどんな商品があると、個人投資家が投資しやすいと思いますでしょうか。

 2つ目の質問として、インパクト投資というのは、最低限のマーケットレートを求めるというところがあると思うんですけれども、そういった印象によって、インパクト投資はもうからないというような例えば認識があるとすると、それは本当にそうなんでしょうか。IRRと、もう少し高レベルのものもあるのではないかと思うのですが、いかがでしょうか。この2点お願いします。

【水口座長】  足達さんから御質問いただいて、まとめてお答えいただこうと思います。足達さん、いかがでしょうか。

【足達メンバー】  安間さん、大変充実したプレゼンテーションありがとうございました。

 私が伺いたいのは、インパクト投資そのもののリターンの問題もあるんですが、メジャーメント・アンド・マネジメント、所謂IMMをやっていく際のコストの問題についてです。

 私どものところにもインパクトの計測をしたいという債券発行体の方が来られるんですが、真面目にそれをやろうとするとものすごいコストがかかるわけです。これを投資家の側が負担すべきなのか、あるいは発行体の側が負担すべきなのか。あるいは公的な資金でカバーされるべきなのか。このIMMのコストをどう考えるべきか。もしお考えがあれば、お聞かせください。

【水口座長】  井口さん。

【井口メンバー】  井口です。安間様、非常に勉強になるプレゼンどうもありがとうございました。私も大変共感させていただくところが多いです。

 私が質問させていただきたいのは4ページの図のところです。以前、申し上げたとおり、ESG投資が全てインパクト投資に変わるとは思っていないですが、広義のESG投資の中でインパクト投資は重要な投資手法になると思っています。

 ちょうどまさにこの図では、インパクト投資が整理されており、すごくいい図だと、いつも別のところで拝見しているときにも思っています。このESG投資とインパクト投資が重なっているところ、先ほどちょっと小野塚さんもおっしゃっていましたが、ここが投資家にとって一番重要になってくると思っています。実際、機関投資家はESG投資においてもエンゲージメントをやっておりまして、その中で、社会あるいは環境を改善することによって企業価値を向上させることもエンゲージメントアジェンダとなっています。インパクト投資では、これをもう少し可視化してやっていくというように考えると、機関投資家にとっても非常に入りやすいところかなと思っております。

 御質問したかったのは、図の重なりの右の方、経済的なリターンを諦めるというところです。ここは資本市場の論理には乗ってきにくいところかなと思うんですが、この位置のインパクト投資へのお考えをまずお聞きしたいと思っています。

 資料の後段に、OECDがやっているブレンディッドファイナンスの御説明もありましたが、そういうことを考えていらっしゃるのか、その辺も教えていただければと思っております。

 2つ目は、図の上に、インパクト評価の可視化、と書いていらっしゃって、これは私も非常に重要だと思っていますが、これは誰に対する可視化というのを考えていらっしゃるのかということをお聞きできればと思います。

 前も申し上げましたが、インパクト商品のアカウンタビリティー高めるためには、最終的に資金を提供する個人投資家とか、あるいは年金基金のようなアセットオーナーさんに対する可視化は必要と思っておりまして、それでこのような質問をさせていただいております。よろしくお願いいたします。

【水口座長】  ありがとうございました。ちょっといっぱいになってしまいましたけど、安間さん、まとめてお答えできますでしょうか。

【安間様】  御質問をいただきまして、ありがとうございました。

 最初のご質問は、個人投資家の比率16%があまり高くないのではないか、その原因は何かということだと思います。最初に、海外では我が国のように個人が個別上場株に直接、生株で投資をするというようなことがなくて、投資信託などを通じて投資しているということが背景としてあります。それから、年金基金だとか保険会社において個人金融資産を代表する形で運用が行われているということであって、これらは究極的には個人投資家による投資ともいえますので、実質的には16%よりももっと多いことになります。機関投資家が個人資産を代表して投資しているということなので、そこのところは数字の捉え方の問題かなと思います。

 2番目のご質問は、インパクトとファイナンシャルリターンのトレードオフにかかる質問と受け止めました。実は、海外ではインパクトの創出とファイナンシャルリターンがトレードオフしているという懸念はさほど聞かれません。そこのところが日本でのパーセプションと違うのかなと思います。日本ではインパクト投資の話をした瞬間に「そのリターンは低いですね」という話から始まるのですが、海外の方とお話しし、いろんなマーケットサーベイを見ても、ファイナンシャルリターンが犠牲になっているということで困っているという方は、ごく一部にはいらっしゃいますが、大多数ではありません。ですから、日本でスタートアップ企業だとか社会課題解決型企業がたくさん生まれるようなエコシステムをつくっていけば、トレードオフの懸念が払拭できるのではないかと思います。

 それから、3番目は足達さんのインパクト評価のコストは誰が負担すべきか、という質問です。私は、評価のコストは、形式的には企業が負担してもあるいは投資家が負担してもどちらでもいいと思います。いかなる場合でも、そのコストは最終的・実質的には投資家が負担していると私は思っています。そういう意味では、形式的な負担は誰がやってもよく、企業価値に織り込まれるという意味で、きちんとしたインパクト評価になっていれば、これは投資家の方も喜んで負担するし、発行体である企業も進んで負担するということだと思います。もちろんインパクト評価が企業価値に十分に反映されていかない過渡期の段階では、そのコストを暫定的に、補助金で対応するということもありうると思います。グリーンボンドで環境省さんがやっているようなことを考えるということはあってもいいと思いますが、究極的には市場のメカニズムの中で企業価値の向上につながっていくものの費用として吸収されていくべきものだというふうに私は考えています。

 それから、4つ目の御質問は、この資料のP4にある表の右側のほうに、リターンが低いインパクト投資の部分にかかるものでした。これはなかなか難しいところです。要するにインパクト投資という補助金なしの純粋な企業投資だけでは解決できない環境・社会問題というのも、世の中にはたくさんあるのだと思います。つまり公助だけでしか対応できないものもあると思いますが、例えば、「子どもの貧困」のように、日本でも大変重要かつ深刻になってきている課題があります。子どもの貧困の問題で、所得の低い家庭やその主婦に購買力を求めて純粋に受益者負担だけで社会課題を解決するというのはなかなか難しいことだと思います。そういったところは公的な補助金もどうしても必要となります。また、行政から頼んで民間企業に支援業務を担ってもらう場合もあると思いますが、そこに事業の効率性を高めて、補助金の投入の額を減らすということも必要です。いわゆるソーシャルインパクトボンド、成果連動型の政府・自治体による民間企業に対する事務委託というものを推奨することによって、公助の負担というのをできるだけ減らしながら、質の良い民間企業・団体の力をうまく使っていくことが大事であると思います。

 最後の御質問は、インパクトの可視化は誰のためかということですね。海外での本格的なインパクト投資では、インパクトを求めているのはあくまでも、そのインパクト創出を求めている投資家でございます。可視化はまさにインパクトを求めている投資家のためのものです。ですから、評価の報告を受けた年金基金の運用部ですとか、あるいは保険会社の運用部門が、最終的にはその運用資産の裏にいる個人に対して、ファイナンシャルリターンだけではなくて、インパクトを創出していますよと、それが皆さんの期待に沿っているかどうか、御覧になってくださいという形で説明しているのだと思います。ですから、投資家が、最終的には個人がということですけど、投資家たる個人に可視化して説明しているということだと思います。

 私からのお答えは以上になります。

【水口座長】  ありがとうございました。全ての御質問に大変明確にお答えいただいて、ありがたかったです。

 ちょうど予定の時間となりました。ほかの方よろしいでしょうか。

 ここで安間さんのセッションを終わりたいと思います。安間さん、どうもありがとうございました。

【安間様】  ありがとうございました。

【水口座長】  ありがとうございました。

 それでは続きまして、小西様から、資料3に基づきまして、10分ほどでお話をいただきたいと思います。小西さん、よろしくお願いいたします。

【小西様】  よろしくお願いいたします。本日はWWFに意見を述べさせていただく機会をありがとうございます。では、早速始めさせていただきます。

 私のほうからは、今、日本でサステナブルファイナンスの議論が大変活発になってきていますが、その中において、WWFから見た懸念点を3つお話しさせていただきたいと思います。

 まず最初に、WWFとファイナンスの関わりなんですが、このハイレベルエキスパートグループ・オン・サステナブルファイナンスにおいてWWFフランスのCEOが20人のメンバーの1人として活動しております。WWFシンガポールが、ASEAN諸国の金融機関、投資家、監督官庁の対銀行政策の持続可能性の比較評価をしたりしております。

 あと、ジャパンとしては、企業の温暖化対策ランキング、業種別に、特に各企業の目標や実績、情報開示の取組について評価しております。

 あともう一つが、グローバルにSBTi、皆様よく御存じだと思いますが、サイエンス・ベースト・ターゲッツ・イニシアティブにWWF、CDP、WRI、国連グローバル・コンパクトとともにこれを運営しております。

 さて、サステナブルファイナンス、日本の課題として私どもが考えますのは、まず、何がサステナブルな経済活動か。つまり、何がグリーンかということがまだ日本では定義がないということがございます。すなわち、何がグリーンかということがない中で、日本では、逆にグリーンに向かうトランジション、あるいはイノベーションのファイナンスの定義づくりが先行している状況だと見ております。

 理由として考えられるのは、やはり環境対策が出遅れてしまった日本はキャッチアップしているという状態にありますので、欧州や国際イニシアティブの基準が先行して、後追いとなっていること、あと、やはり一足飛びにブラウンからグリーンに行くことは難しいので、そのオリーブの濃淡、そこにファイナンスを呼び込むため、ここがやっぱり大きな関心事になっているためかなと思っております。

 まず、サステナブルファイナンスの前提、確認したいんですけれども、日本も2050年温室効果ガス実質ゼロ、これ菅首相の宣言とともに、本当に日本企業さんも今、一斉に2050年脱炭素化の施策を競っておられます。ということで、これはパリ協定の努力目標である1.5度目標を日本も目指しているということになります。まずは、1.5度目標に整合、そして、もちろん科学的根拠に基づくこと、情報開示の透明性の確保というのが、このパリ協定に基づく原則ということで全体を確認させていただきたいと思います。

 その上で、日本の今のサステナブルファイナンスの検討に対して、3つポイントがあるかなと思っております。

 1つが、先ほどから申し上げましたトランジションファイナンス、これが日本特有の定義づけになって、独自のものになってしまわないかという懸念です。

 あと2つ目が、もちろんこの検討会もクライメートファーストということなんですけれども、自然資本、生物多様性、特に森林関係とか循環社会のものは気候変動にも大きく絡むものがありますので、それを当初から含む必要があるのではないかという御提言。

 そしてもう一つは、発行体企業全体のパフォーマンスを評価する視点が必要ではないかということです。

 では、まず、経産省さんのトランジションファイナンスの委員会でも検討されていますICMA、クライメット・トランジションファイナンス・ハンドブック、ここにも書いてありますが、やはり1.5度、at the very least、2度未満ということで、サイエンスベーストの科学的なトラジェクトリーを取ること。特にこういったトラジェクトリーが存在しているところが、特に例えばサイエンス・ベースト・ターゲッツ、SBTiのような、そういったアプローチを推奨しています。

 その観点から見ると、例えば、日本のグリーン成長戦略、これが恐らく日本のトランジションとして見た場合、最終的な2050年の脱炭素化に向けての一種の、今、グリーンというものの定義づけがない中で、事実上のこれがデファクトスタンダードになるのかなと思うんですが、この中でやはり私ども非常に懸念していますのが、これ14の重点分野がありますが、これがグローバルなメガトレンドと合っているかどうかという点にございます。

 例えば燃料、アンモニア産業の成長戦略、1つ例として考えてみますと、世界から非常に批判が多い石炭火力、これがアンモニアを混焼することによってCO2排出量を下げていって、でも、2040年においてもまだ石炭火力が継続しているといったような戦略になっております。このアンモニア、これは水素と窒素の化合物ですので、まず水素をグレーかグリーンかブルーかは別にして製造して、そこに窒素をまたつけて、さらにそれを燃料として燃やしてということになりますので、非常に効率は悪くなります。再エネの価格が2030年10円以下になってくると見込まれる中で、果たしてこうしたやり方の火力発電が価格競争力を持つかといった点は非常に懸念されるところです。でも、そういった技術というものが、グリーン成長戦略にあるということで、これに向かってトランジションが行われていくというところ、これは世界的なメガトレンドから果たして評価されるかというところをやはり検討する必要があると思っております。

 もう一つ例としては、例えば電動車です。世界的にもEV化が2030年代までにいったことが先行していますけれども、日本でも2035年までに電動車ということが決まりました。これはこれで本当に方針として年数を切って明確な目標があるのでいいのですが、でも、日本の電動車というのは日本独自のネーミングで、やはりこれ、ハイブリッドということでガソリン車も入っております。その出口戦略が2050年に向かってどうなるか、こういったところも見ておかないと、じゃ、本当に脱炭素化につながるトランジションになるのかといった点が非常に心配されるところではあります。

 ということで、まだ日本独自の比較的不確実な技術とかイノベーションに依存しているところがありますグリーン成長戦略に向かってのトランジションということになりますと、日本の独自のものとなって、世界からは認められにくいのではないかということが心配されます。やはり先ほども申し上げたように、世界スタンダードは、1.5度に整合しているか、科学的根拠があるかということで、中長期的に見ても、日本も既存産業構造の延長線上の技術を検討するだけではなくて、パリ協定時代にふさわしい産業転換をも見込むような形の中長期の視点が必要ではないかと思っております。これはClimate bonds white paperにもこのように1.5度というのが繰り返し出てきております。

 その中で、このトランジション、どういうふうに世界視点から見るかということなんですけれども、やはりこれは国際イニシアティブを注視する必要があるかなと思っております。先ほど末吉さんも、NGOが強い国は幸せだと。私も実は15年前に末吉さんにそう言われてとても勇気づけられたんですけれども、例えばNet Zero Asset Owner Alliance、これ、皆様御存じのように4兆米ドルを超えるアセットオーナーの国際的なグループですけれども、これもWWFがサポートしております。また、Climate Action 100+、これは40兆米ドルを運用する、450以上の機関投資家が参加しておりますが、そこのデータプロバイダーはInfluence Mapさん。やはりこういった国際的な独立系の研究機関ということになります。ですので、こういった国際的に活動している研究機関やNGOと対話したり、連携したりして、日本もよりサステナブルファイナンスの議論を深めていくということが1つの方法ではないかと思っております。

 あともう一つは、国際的イニシアティブ、今、基準づくりが非常に進んでおります。特に先ほどから御説明しておりますSBTi、これ、標準的なものはありますが、まだ業界別メソドロジー策定ができていない業界がありまして、それ、今、いろいろなwe mean businessのグローバル企業さんとか、いろいろ多様な主体が参加してワーキンググループが出来て、メソドロジーを策定中です。

 でも、まだ日本から参画例では本当に二、三例にすぎないんですね。ですので、こういったSBTのメソドロジーづくりというものもぜひ日本から参加して、グローバルには何が評価されているのかなといった目線で日本のトランジション戦略もつくっていくのがいいのではないかと思っております。今、経産省さんでこのトランジションファイナンスの基本方針がつくられていると思うんですけれども、そこでも業種別にロードマップをつくるとお聞きしていますので、こういったSBTiのメソドロジーもぜひ御参考にされればと思います。今日は実はSBTiの担当者が一緒におりますので、もし御質問がありましたら、お答えさせていただけます。

 2つ目が生物多様性です。これ、クライメートファーストなのではございますが、特に生物多様性の中でも森林減少は日本の企業のフットプリントが大きくて、海外投資家の関心も高いケースが多々見られます。例えばパーム油、これは日本は一大消費地ですけれども、インドネシア、マレーシアなどで森林減少を引き起こして、生物多様性や現地住民の人権問題などを引き起こしております。これはもちろん吸収源の減少というのは大きな気候変動問題です。また農地転換のために泥炭地火災も引き起こされていますので、泥炭地に含まれる大量の温室効果ガスが排出されております。ですので、こういったものも最初からクライメートとしても入れ込む。いずれもクライメートファーストの後には、自然資本が検討されていくんだと思いますけれども、こういったものは最初からクライメートの中身の1つとして入れ込む必要があるかなと思っております。

 もちろんプラスチック、こういった循環社会の視点も、これも海洋汚染のみならず、これ、非常に大量生産・消費・廃棄によって大量のCO2が出ていますので、これも最初からDo no significant harm、重大な影響を他のセクターに及ぼさないというようなことでもいいんですけれども、そういった視点が最初から必要ではないかと思っております。

 最後にもう一つ、発行体企業全体のパフォーマンスを評価する必要があるのではないかと思っております。例えば海外の機関投資家さんは既に、企業さんの政府への働きかけというものも1つの評価の対象に見ています。日本では例えば個社では環境配慮をうたっていても、業界団体としてはNDCのパリ協定の削減目標の引上げにあまり前向きでなかったり、炭素の価格づけにも消極的であったりといったケースが見られるんですけれども、先ほどのClimate Action 100+の共同エンゲージメントの参照情報として使われるInfluence Mapさんでは、業界団体の気候政策反対ロビー活動と個別企業の姿勢の乖離をもエンゲージしていかれる、こういった評価もされています。

 あともう一つが、当該プロジェクトだけではなくて、発行体レベルで1.5度の目標に整合した戦略を持つかどうかということも評価が必要ではないかと思っております。既に、プロジェクトはグリーンでも、企業全体で見た場合では持続可能ではないといった評価をされることを理由にファイナンスが停止されるようにもなっていますので、発行体主体レベルでのトランジション戦略を目指す必要性があるかなと思っております。

 ということで、以上3点を申し上げまして、私どもから提案とさせていただきたいと思います。ありがとうございました。

【水口座長】  小西様、ありがとうございました。NGOからの貴重な御意見をいただいたと思っています。

 ここから、先ほど同様に御質問いただきたいと思いますが、最初に特権で私から2点質問させていただいて、ほかの方の御質問を受けて、まとめてお答えいただこうと思います。

 私から2つ質問があります。1つは、前段のほうで、トランジションに関していろいろ御懸念の点をいただきました。このトランジションの問題点について、小西様は、誰がどのようにこの評価の枠組みに組み込むべきだというふうにお考えでしょうか。つまり、小西さんの御指摘は、投資家がちゃんと気をつけなさいよという、投資家に対しての注意なのか、それとも、政府が、あるいは金融庁が政策的に何かしたほうがよいのでしょうか。これが第1の質問です。

 第2の質問は簡単な質問でして、スライドの10枚目のところに「技術的な実行可能性は、経済的競争力に勝る」と書かれております。これについて少し御説明いただければありがたいです。私からは以上です。

 ほかの方からも御質問を幾つか受けて、まとめて回答いただきたいと思います。どなたか御質問のある方がいらっしゃいましたら、お声を上げてください。どなたでも結構です。

【長谷川メンバー】  経団連ですけれども、よろしいでしょうか。

【水口座長】  お願いします。

【長谷川メンバー】  経団連の長谷川です。大変分かりやすく御説明いただき、ありがとうございました。今の小西様の説明で、スライド3の日本のサステナブルファイナンスの課題として、何がグリーンかを定義しない中でトランジションとイノベーションの……。

【小西様】  すみません、私ども、ちょっと聞こえなくて。

【長谷川メンバー】  すみません。聞こえますでしょうか。聞こえますか。よろしいでしょうか。

【水口座長】  聞こえていますよね。皆さんうなずいているようです。大丈夫だと思います。

【長谷川メンバー】  大丈夫ですか。

 何がグリーンかを定義しない中でトランジションとイノベーションの定義づくりが日本で先行している理由として、欧州などでグリーンの定義づくりが先行して、その後追いになっているからではないかという御説明でしたけれども、経産省等の資料でも、カナダとかシンガポールなどでも日本と同様に、グリーンの定義づくりを先行させることなく、独自のトランジション志向のタクソノミーの検討を進めている。シンガポールでも、欧州とは異なるアジア独自の道筋の必要性を指摘されているということで、特に、日本が遅れているからということではないようにも思うのですが、そこはいかがでしょうか。

【水口座長】  小西さん、最初に私からも質問しまして、聞こえておりましたでしょうか。

【小西様】  今、後追いでは必ずしもないのではないか、シンガポールという、そのことだけ聞き取れたんですが、その前のものが聞き取れなくて、申し訳ありません。

【水口座長】  なるほど。最初に私のほうから御質問したのが、1つは、トランジションに関していろいろ御懸念をいただきましたけれども、これは誰がどのように組み込むべきなのか。つまり、金融機関が注意しなさいという意味での御注意なのか、それとも、政府が何か政策的に取り組むべきことがあるのかということについての御意見をいただきたいということ。

 2番目にですね……。

【小西様】  はい、水口先生のは。

【水口座長】  それは聞こえました?

【小西様】  はい、水口先生のは聞こえました。

【水口座長】  そうですか。では、大丈夫だと思います。私の後に経団連の長谷川様から御質問いただいています。

 ほかに御質問ある方がいればと思いますが。

【吉高メンバー】  じゃ、よろしいでしょうか、1つ。

【水口座長】  お願いします。

【吉高メンバー】  吉高です。すみません。小西さんのプレゼンありがとうございました。お久しぶりです。10ページにグリーンウオッシュを防ぐ5つの原則の中の3番に、オフセットは認められないとあるんですけれども、SBTのほうで今、植林の吸収源とか、あとは、地中貯留の関係のオフセットの評価が始まっているというのをちょっと聞いたんですけれども、トランジションの中で、やはり私たちとしてはそういうものにもお金を流していくということも1つの過程ではあると思っているので、もしそこら辺が分かれば教えていただきたいと思います。よろしくお願いします。

【水口座長】  ありがとうございます。ほかに御質問ありますか。

【林(礼)メンバー】  林ですが、よろしいでしょうか。今日はありがとうございます。大変勉強になりました。やはり海外の立ち位置を意識し、グローバルな視点から見るということは本当に大切な御指摘だというふうにも思っている一方、別に日本独自がいいと言うつもりも全くないんですけれども、それぞれの地域の制約とかそういったものもあることも事実なので、それをどういうふうに乗り越えていくべきかというところが本当に皆課題だと思っており、例えばエネルギーということでありますと、全て急に例えば再生可能エネルギーになるというのもなかなか難しいと考えます。そういう中で、どうやってみんなで現実的な解を見つけていけばいいというふうにお考えなのかぜひ教えていただければと思います。

 以上です。

【水口座長】  ありがとうございます。どなたか今……。

【渋澤メンバー】  渋澤です。よろしいですか。

【水口座長】  お願いします。

【渋澤メンバー】  すみません、恐れ入ります。今日はありがとうございました。小西さんの問題意識というのは私も共感するところたくさんあり、そして、サイエンスベーストターゲットが重要だということもすごく分かります。けれども、そういう意味では、サステナビリティの定義が必要だということでいうと、サイエンスベーストターゲットの定義も教えていただきたいです。

 なぜなら、私も電動化とEVの違いというのはちょっと気になっているところですけれども、仮に全てがEVになったら、その電力ってどこから来るんでしょう。そして、全てEVになったら、レアメタルはどこから持ってくるんですかと。そういう意味で、EVのサイエンスベーストターゲットがあまりクリアでないように思います。私の自動車はハイブリッドですけど、とても気に入っています。この前、テキサス州であったような1週間ほど停電になったとき、みんなEVだったらかなり困ったと思うんですね。ハイブリッドだったら多分大丈夫だったと思います。

 だから、そういう意味では、サイエンスベーストターゲットも必要だと思うんですが、先リアルワールドベースのターゲット、それも考慮すべきじゃないのかと思うんですけれども、お考え聞かせていただけますでしょうか。

【水口座長】  いろいろ御意見、御質問ありがとうございました。経産省様からもコメントがあるということなのですけれども……。

【経済産業省】  経産省環境経済室の梶川です。小西様、どうもありがとうございます。グローバルな視点から、トランジションファイナンスの進め方について御示唆をいただいたと思っております。
 1点だけ事実関係について申し上げます。トランジションファイナンスの検討につきましては、経産省で進めているというよりは、金融庁、環境省、経産省の3省庁で実施しております。その検討においては、金融機関、投資家、オブザーバーにはNGOにも入っていただいてご議論いただいています。また、国内の事情だけで物事を決めるということではなく、国際資本市場協会(ICMA)のクライメート・トランジション・ハンドブックを踏まえながら、国際的にしっかりと評価されるよう、また国内の事情を踏まえてどのように現実的に設計していくべきかという観点で議論をしており、3省庁連携して具体的な解決策を考えております。その点だけ皆様にお話をしたほうがよいと思いまして、コメントさせていただきました。

【水口座長】  補足説明ありがとうございました。

 それではこの辺で小西様からまとめてお答えいただきたいと思いますので、小西様、いかがでしょうか。

【小西様】  ありがとうございます。じゃ、SBT担当の池原庸介のほうからSBTについては答えさせていただいて、まず私のほうから。ちょっとごめんなさい、音声が悪かったので、もしかしたら御質問飛んでしまっているかもしれないんですが、まずトランジション、これは誰に向かって、誰がやるべきかということは、これは私は、やはり政府が一番方針をまず決めていただけると、安心してほかのそれぞれ、それぞれ投資家とか別々にはいろいろなガイドラインは出来ていくとは思うんですけれども、やはり政府が一番の方針を決めるということがすごく重要ではないかなと思っております。

 あと、「技術的優位性は経済的競争力に勝る」、これはClimate bonds white paperの中の言葉なんですけれども、要は、今はちょっと高いけれども、だけど、ないではないみたいな、そういったものは逆に経済性よりも技術で今できることを先に優先しなさいという、そういう意味です。すごく簡単に言っちゃえば、LED高いけれども、今ある技術なんだから、先にそれを買いなさいねという、そういう意味になります。

 あと、すみません、長谷川さまからいただいた御質問が、私が最初のほうちょっと聞こえていないんですけれども、1つだけ、後追いになっているということではなく、やっぱりシンガポールとかも含めてアジア独自の
道というものが必要で、その中では我々はちゃんと先行しているということの意味かなと思って、もし違ったら後で教えてください。ということなんですが、例えば中国とかもタクソノミーを策定して、中国のタクソノミーの中には石炭火力が入っているとか、そういったことも重々承知してはいるんですけれども、やはり1.5度、パリ協定、日本も2050ゼロを言った国ですので、ですので、2050ゼロを言った国として何をやっていくべきかという視点でこれ、見ていくべきかなと思っております。その点では、日本は2050ゼロというのが、アメリカは政権交代と共にですけれども、ほかの国に比べて検討が遅れてきたので、今、やっぱり、最初は2050年・80%削減の政府の方針に従って企業さんが作っていらっしゃったのが、2050ゼロになって、今度は脱炭素化でもう一回つくり直しというような形になっているので、そういう意味で申し上げております。

 あと、オフセットは、SBTで池原さんにお任せして。

 あとは、日本独自の、日本にはやはり制約がある。これは恐らくこの後の自然エネルギー財団さんとエネ研さんがいろいろおっしゃることだとは思うんですけれども、もちろん制約はあるんですけれども、今の問題は、グリーン成長戦略とかで参考値ではありますけれども、再エネが50%から60%、あとは、化石燃料プラスCCS、原発みたいに、あたかも将来シナリオが1つの方向ということを政府が見せているような形になっていて、やっぱり政府が示すことってすごくインパクトが大きいんですね。企業さんは特に見ていらっしゃるので、そこに向かって、あたかもそれしかないように動いていくということが心配なんですね。ですので、日本独自ということももちろんあるんですけれども、いずれにしても対話、産業界さん、省庁、アカデミア、そして、やはりヨーロッパのように市民社会というものも入って多様な主体で対話を続けていって、日本の将来像を決めていくことが重要ではないかと思っております。

 最後の梶川様。重々承知しております、経産省さんと金融庁と、それから、環境省さんで事務局を務められて、ICMAをベースにつくっていらっしゃるということ。ICMAにすごく忠実に、かつ日本のその中でより詳しくということの中で、気になるのはやっぱり業種別にロードマップをつくるところのワーキンググループなんですね。ここがグリーン成長戦略を目指してつくっていくということになると、そこが世界標準から見てどういうふうになるかなと。せっかく日本企業さん一生懸命やっても、それが国際的にファイナンス業界から評価されないということになるのはぜひ避けるような形で進んでいけばいいなと思っております。

 じゃ、SBT。

【池原様】  同じくWWFジャパンの池原と申します。私のほうから、では、吉高様、渋澤様の御質問にお答えさせていただきたいと思います。

 まずSBTは、おっしゃるように、オフセットクレジットというものは原則的には使わない。ただ、それはSBT、科学と整合した目標として立てた目標の達成に向けては、そこの部分には使わない。当然削減をして、なお残る排出というのがありますので、そこの部分にはオフセットクレジットを使うこともできるということになっています。

 おっしゃっていたように、現在FLAGというプロジェクトがありまして、FLAGというのは頭文字で、Forest, Land and Agriculture、つまり、森林とか土地利用変化あるいは農業、畜産業、そういったところから付随してCO2が大量に出てくるわけですけれども、そこの部分をきちんと、どれぐらいCO2が出ているのかということを算定して、企業がScope3の最上流のところで今まではヒドンエミッションと言われてきていたところの見える化をしましょう。そして、そこの部分も含めて科学と整合した削減目標を立てましょうということを実現するためのそこの部分の最上流の部分の算定のガイドライン、メソドロジーを今つくっているんですね。

 恐らくその部分では、もしかすると、そういった排出削減量自体をクレジット化して、それを何らかの活用の仕方を模索するという要素が入ってくる可能性はありますけれども、恐らく今の従来の流れからいいますと、いわゆる企業自身の真水の削減目標の部分にそれを充てるということは認められないのではないかなと考えております。ただ、やっぱりそこの部分の排出量を見える化して、そこを減らしていくということの重要性は、SBTは非常に重視していますので、まずは誰もその見える化ができなかった部分についてメソドロジーを先人でつくっていこうと、そういうところですね。

 それから、もう一つのSBTの定義というところで、全てEVになったら、電力どうするんだ、レアメタルどうするというところ、確かにおっしゃるとおり、そういうところの部分、削減目標だけじゃない部分として考慮していく必要があるところかと思います。まずSBTの定義という意味で申しますと、SBTはあくまで1.5度未満に抑えていくためには、今後どれぐらい炭素予算が残されているのか、この部分をベースにして、IEA、国際エネルギー機関、それから、IPCC、気候変動に関する政府間パネル、これらのレポート、科学的な知見をベースに、いかに定量的に各セクターが2050年にかけて脱炭素化をしていくのかということをカーボンバジェットの視点でうまく割り振って、きちんと全体ではゼロを目指していくというところ、セクターごとにコスト最適、いかに効率的に脱炭素化をしていけるかという、そういった知見を基に定量的に目標を策定すると、そういうやり方になっています。

 おっしゃるような、じゃ、全てEVになった場合に電力を供給し切れるのか。この辺りは、恐らく第一義的な定義のところに入らないものの、SBTがもう一つ重要視しているのは、企業が自らできることだけをベースに目標を立てるということを推奨するのではなくて、上流、下流の様々なステークホルダーであったり、消費者であったりとか、顧客企業であったりとか、あるいは自社に電力を供給する、資源を供給するような事業者、彼らとも相乗効果を発揮しながら、お互いが50年に脱炭素を目指していった場合には、一緒にできる部分がありますよね、R&Dでもベクトルを合わせることもできますよね、投資先のポリシーについてもベクトルを合わせることができますねと。

 そういったことをしていくことによって、やはり今のデフォルトでいくと、全てEVに替わると確かに電力が足りなくなる可能性もあるとは思いますけれども、徐々に2030年、40年、50年と脱炭素に向けてそういった変化を少しずつ起こしていく。その間ではそういった問題もうまく上流、下流、あらゆるステークホルダー同士で議論しながら解決策を進めていきましょうねという、そういうある意味で波及効果を広めていくというところも含めてSBTは目標策定を課していますので、そういった意味では、あらゆるステークホルダーでそういったことも解決をしながら、脱炭素に向けてベクトルを合わせて、イノベーションも高めていくということかと思っています。
 
【水口座長】  ありがとうございました。今のSBTのお話、大変説得力があったと思います。また、小西様も大変簡潔に全てにお答えいただきまして、ありがとうございました。まだまだ御質問あろうかと思いますが、時間もありますので、WWFのお二人にはここまでにしたいと思います。本日はどうもありがとうございました。

【池原様】  ありがとうございました。

【小西様】  ありがとうございました。

【水口座長】  それでは、最後のセッションということになりますが、大林様と工藤様からそれぞれ10分ずつ御報告をいただき、質疑応答をしたいと思います。では最初に、大林様から御報告をお願いいたします。よろしくお願いいたします。

【大林様】  ありがとうございます。自然エネルギー財団で事業局長を務めております大林と申します。今、スライドはシェアされていますでしょうか。では、スライドと共にお話をさせていただきたいと思います。もしスライドが先に進んでいないなどございましたら、御指摘いただけましたらと思います。

 皆様、非常に専門家の方々の前でお話しするのは恐縮でございますが、私からは、脱炭素に向かうために加速していくエネルギー転換についてお話をしたいと思います。

 それでは、まず世界で今起きている自然エネルギーの転換についてお話しさせていただきたいと思います。まず太陽光発電です。世界ではすごい勢いで太陽光が伸びておりまして、この10年でコストは9割低下、昨年はついに風力の導入容量を追い越したということで、将来的には世界では太陽光が全てを席巻すると言われております。

 もう一つの自然エネルギーのキーとなる技術、風力でございます。風力発電は堅調に拡大をしている。既に競争力を持つ電源だったのですが、この10年でさらにコストが4割低下、近年では洋上風力という新しい技術が市場を拡大しております。今大体700ギガワットぐらい入っているということでございます。

 では、過去10年、どういったエネルギーが拡大してきたかを見ていきます。中国を中心に石炭の拡大というものが行われた一方で、太陽光、風力、水力といった自然エネルギーが大幅に拡大をしてきています。

 まず、その一つの要因となっておりますのが、先ほどのスライドでも示しましたが、コストが非常に下がってきていることです。今、自然エネルギーは、世界のGDPの4分の3弱を占める国々で最も安価な新しい電源になっています。これから電源を追加していくということになると、自然エネルギーが大きな競争力を持っているということでございます。つい先日、日経で、緑の世界と黒い日本ということで紹介をされたのと同じ地図です。世界では既に自然エネルギーが一番安い電源となっており、これが大量の拡大につながっています。こうしたコスト要因だけではなく、自然エネルギーが増えているのは、気候危機を回避するためでもあります。IPCCは、2030年にエネルギー転換をしていくことが必要であり、1.5度以下に抑えることを目指す、大幅な超過排出を開始する3つのシナリオで、2030年に電力の5割から6割を自然エネルギーにしていくことを提案しております。

 価格が安くなってきている、しかも気候変動の危機のために挑戦をしていかなくてはならないということで、各国は非常に意欲的な目標値を抱いております。ドイツは、2030年までに自然エネルギー電源で65%。2050年に関しては少なくとも80%でございますが。イギリスは2030年に62%程度の、これは目標というか提言と現実の数値を組み合わせたものになります。フランスは2030年までに40%、スペインは74%、50年には100%という形で、高い目標を掲げています。アメリカの場合は、自然エネルギー全体の連邦の目標というのはないのですが、バイデン新政権が2035年に電力の脱炭素化を図ることを掲げていまして、この中で自然エネルギーがやはり主力の電源になっていくということです。

 そのアメリカを少し見ていきますと、2020年自然エネルギーがそれぞれ原子力と石炭からの発電量を追越しています。こちらは、実はトランプ政権の下にあったときにむしろアメリカでは石炭への離脱が起こっており、原子力と天然ガスへとシフトが行われているということで、大体今、自然エネルギーが全電源の20%、日本と同じぐらい入っているという状況になっております。

 日本の状況を少し見ていきたいと思います。日本でも自然エネルギーは拡大をしており、特に2012年の固定価格買取制度が導入されて以降、太陽光の商業的な発電が始まり、昨年末では70ギガワットという大きな導入量が達成されています。一方で、風力発電が、様々に政策が変わってきたことに翻弄されて、なかなか伸びが進んでおらず、現在では4ギガワットにとどまっています。

 世界の中で日本        4%の自然エネルギーですが、もう既に22%入っていますので、わたしたちは、今までの政策、このトレンドが続くと、30%になるのではないかと考えています。2050年排出ゼロの実現をするためには、プラス15%以上、少なくとも45%が必要であると考えています。2030年というのは、2050年に向かうための1つの通過点ですので、わたしたちは2050年自然エネルギー100%の未来というシナリオ研究をしていますが、それにたどり着くためには、自然エネルギーは2030年で45%以上になっていないと難しいです。

 先ほど小西さんのほうからも2050年のグリーン成長戦略についての話がありましたが、昨年12月提案されましたカーボンニュートラルの素案は2050年に自然エネルギーを50から60%にしていて、これは各国が今現在2030年の目標として掲げる数値にとどまっているので、やはり、もっと意欲的な取組が必要です。

 世界を見ていきますと、セクター別エネルギー転換への投資額では、エネルギー転換投資が2020年に初めて5,000億ドルに到達をしたと。先ほど末吉さんのほうからも御紹介がありましたが、日本の10電力の時価総額がデンマークの風力大手に及ばないという状況になっています。既存の電力会社から再生可能エネルギーにマネーが集まっているという状況です。
そしてこうした日本の国内のエネルギー政策は、アジアにも大きな影響を与えています。日本と中国は、インドネシアとベトナムにおける最も強力な石炭支援の金融を融資している国となっています。

 しかし、つい先日「フィナンシャル・タイムズ」がスクープしたところによれば、中国がバングラデシュの炭鉱と石炭火力発電所への融資をやめるということです。もはや炭鉱や石炭火力発電所など大気汚染を招く事業への投資は検討しないとしています。アジアにおいて、日本の影響が1つだけ残ってしまうということになるのではないかと懸念します。

 一方で、南アジアでは、ベトナムを中心に自然エネルギーの拡大が非常に大きく見込まれていますので、石炭ではなく自然エネルギーへの投資やサポートが、日本として求められることではないかと思います。

 今まで供給側の話をさせていただきましたが、需要側からの動きも加速しています。RE100は自らのエネルギーを自然エネルギーにしていくキャンペーンですが、2021年2月には、世界で288社、うち日本は50社が参加しています。これは、特にGAFAMと言われるアメリカのIT企業たちが加速をしてきた運動ですが、彼らは、自分たちのエネルギー消費を全部自然エネルギーにしていくのみならず、全世界のサプライヤーに対して2030年までに自然エネルギー100%の生産を求めている、アップルのような会社もあります。こうした要請に応えていくためには、日本の企業にとっては、日本国内のエネルギーがグリーン化されて行く必要があります。今、日本の企業や自治体の中で、2030年自然エネルギーの目標引上げの要求や、あるいは日本の自然エネルギーの増大という要請が強まっています。

 ここで、3点、日本のエネルギー転換のために必要なことを挙げさせていただきたいと思います。

 ますは、大量の自然エネルギー導入のためには、コストを低下していくことが重要です。野心的な目標値による投資へのシグナルが必要です。2050年の長期目標と整合性のある形でバックキャスティングをした足元の野心的な2030年目標が必要です。そして、事業予見性を担保する安定的な政策を実施する。さらに、規制改革による環境の整備も必要です。例えば、荒廃農地等の土地規制の改革、立地手続の迅速化、または、住宅・建築物への自然エネルギー設備の導入義務化なども考える必要があります。さらには、外部コストの内部化による市場環境の整備が必要と考えています。この右側のグラフでは、新規の発電設備では、日本でも自然エネルギーが最も安価な電源になっていくことは予測されていて、実際にそうなりつつありますが、既存の石炭と比較すれば、石炭がやはり安いままです。こうした現状をかえるためには、早期のカーボンプライシングの導入が必要です。

 次には、やはり大量に自然エネルギーを入れていくためには、系統の柔軟性を確保していく必要がある。これは、ヨーロッパの図に日本を重ねたものですけれども、日本は島国で欧州のようにつながっていないので自然エネルギーを入れられないという議論がありますが、単純に申し上げると、例えば日本の東側がドイツ、西側がフランス、そういったような、日本は非常に大きな電力需要のある国ですので、まずは日本の国内の系統のやり取りを柔軟化させ、強化していくことによって自然エネルギーを大量に導入できることが可能であると考えています。

 そして最後、需要家が自然エネルギーを購入できる、利用できる制度が必要です。こちら、日経が行っている社長100人アンケートでは、トップの4番目までがデジタル化と再エネの規制改革でした。わたし自身は、今、河野大臣の再生可能エネルギーの規制改革のタスクフォースに協力をしておりますが、足元で見たときにまだ日本には多くの規制が再エネに掛けられていると感じています。

 あとは、御参考といたしまして、自然エネルギー100%の未来の2050年のシナリオについて書かせていただきました。また、こちらのほうはぜひ御覧になっていただければと思います。

 私からは以上です。どうもありがとうございました。

【水口座長】  ありがとうございました。それでは、工藤様からもお話をいただいた後に質疑応答したいと思います。工藤様、お願いいたします。

【工藤様】  日本エネルギー経済研究所、工藤と申します。どうぞよろしくお願いいたします。

 今日は、このような場所にお呼びいただきましてありがとうございます。
弊所はどちらかというとエネルギーの世界を経済的に分析するといったエネルギーに特化しているのですが、私自身はちょっとその中でもユニークな位置づけかと思っております。

 そういう意味では、今日御発表さしあげる内容というのは、研究所の考え方というよりは、私自身が常日頃いろいろ議論に参加させていただいている等の感覚も含めてお話をするということを御留意いただければというふうに思います。

 このスライドを新たに入れさせていただきました。口頭でと思っていたのですが、やはり文字がないと分かりづらいと思ったので、簡単に述べさせていただきたいと思います。どういうことかといいますと、今、ゼロエミッションの話をしようということですけれども、これに至るまでの過去の流れをちょっと見ていきますと、そもそも長期的にパリ協定に基づいて日本の戦略を出したのが一昨年の6月11日の閣議決定、そして、昨年の1月に革新的環境イノベーション戦略を出して、このときに目指していたのは、2050年に80%の排出削減、これが1つのベースになっていたということです。それを実現するための様々な技術開発等を戦略的にやりましょうということで、グリーンイノベーション戦略推進会議を設置して、府省横断でいろいろ取り組んでいきましょうとなったのが昨年の7月です。さらには、昨年3月には、地球温暖化対策計画を見直すということで、これはパリ協定に基づいたNDCを提出することを受けて、その中に、この数字にとどまることなくさらなる削減努力を追求していくということを日本の意思表示として書かれております。実際問題として、このパリ協定等に出している排出削減目標の数字そのものが書かれている地球温暖化対策計画の見直しにも着手することが、去年の3月に既に政府として宣言をしているわけです。その際に重要な点というのは、基本的にエネルギーミックスの改定と整合的に、そして野心的な削減努力を反映したものを検討するということが、昨年の3月には議論されておりました。その観点で、先ほど大林さん等からもいろいろ御紹介があったとおり、第6次のエネルギー基本計画について、この大きな環境的な目的に対応する形で議論を始めたのが昨年の7月ぐらい。その後に総理のゼロエミッション宣言がなされたということです。ですから、よくよく考えてみますと、このゼロエミッションの世界をどうしようかと考え始めたのは、実は昨年の10月からです。ですので、まだ半年も実はたってないんです。ただ、今までいろいろ検討してきた過去の80%削減をさらに深掘りをするという考え方は当然あるわけです。ですから、今までのそういった長期戦略をさらにゼロエミッション化に結びつけていく、そういったようなことを考えているというのがまさに今の状況だと御理解いただければと思います。

 これはもう皆さん御承知のとおり、ゼロエミッション宣言の総理の語られた部分を抜き出しているのですけれど、ゼロエミッションのところがフォーカスされてはいるのですけれども、本質的にどういう世界を目指すかというと、当然発想の転換は必要なんだというような困難さ、チャレンジングなものであるということと、さらにはやはり技術というものをどういう形で実現活用していくかが大事だというようなこと、さらには、やはり日本の場合にはどうしてもエネルギー由来のCOの排出量が大宗を占めますので、そういった観点で、エネルギーを安定的に使いつつ、かつ、このゼロエミッション化を実現するんだという、そういったような政策的な複合的な目標を同時解決するというようなことが非常に重要だということを前提とした上で、このゼロエミッション宣言がなされたということが重要なポイントじゃないかと思っております。

 総理の所信表明を受けて、第6次のエネルギー基本計画の考え方が昨年の11月の総合資源エネルギー調査会で示されておりまして、実際問題として、エネルギー由来のCOのウエートが高いですから、この分野での取組が非常に重要である。また、当然のことながら、現時点では2050年のカーボンニュートラルへの道筋にはいろいろな意味での不確実性がある、これを明確に認めているわけです。その不確実性の中で、様々なシナリオを想定した上で、将来的にどうなるかということは、当然のことながら、実際のそれぞれの技術の進展等に合わせて柔軟に対応していく。先ほど、小西さんからも、シナリオもしくはトランジションをどう考えるのかというご指摘がありましたけれども、本質的に見るならば、この技術開発を中心とした道筋には不確実性が伴うので、複数のシナリオをイメージしながら柔軟に対応していくという方針が、今の基本的な検討の中にあると思っています。

 カーボンニュートラルのイメージが審議会等の中でも示されていまして、ポイントになるのは、やはり電力と非電力の世界というのに分けると。電力の場合は、再生可能エネルギーを含めた様々な技術、原子力も入っておりますし、CCUSと火力を組み合わせた、先ほどいろいろトランジションとしてこういう技術はどうなのかということもありましたけれども、水素、アンモニアという新たな、言ってみれば水素キャリアの活用ということのゼロエミッション貢献という技術的な命題が出ておりまして、こういった様々なものを検討するというのが電力の考え方。非電力の部分については、どうしても熱を使わなければいけないところがあって、そこのところで化石燃料をどうしても使わざるを得ない部分をどういう形で転換していくのか。それから、電化を通じて、この電力のほうでの脱炭素化を進め、需要サイドの需要構成を変えることによって脱炭素化を目指すというような、様々な技術の組合せの中でいろいろやっていく。でも、これでも恐らくは足らない。足らないので、この下のほう、すなわち、炭素除去と書いてありますけれども、ネガティブなエミッション技術が当然必要になってくるだろう。先ほども少し話題になりましたが、植林であるとかDACCSであるとか、大気中のCO等を直接回収して何かしらの形で固定化する。こういったようなことを通じてトータルでのゼロエミッション、カーボンニュートラルという世界を目指すというのが、今、様々なシナリオが考えられる中での最終的な形として考えられるんじゃないかということで、議論が進んでいるところだと思うんです。

 先ほども少し話題になりましたが、今はそのシナリオ分析を通じて、今後の可能性をいろいろ評価しましょうと。再エネの参考値をベースにしながらシナリオを幾つか想定して、最終的にどういったシナリオがあり、コ
ストや様々なパフォーマンス等を比較して、具体的なシナリオの中身を考えていく、まさに今その段階です。これからこのシナリオ分析を行って議論に供するという形になっていると思います。

 確かに、参考値の妥当性を考えるべきという御指摘もありますが、少なくとも、まずこういったところから入っていき、さらに何かしらの技術を深掘りする必要があるのなら、それを柔軟にまた見ればいいと個人的には思っております。あくまでも議論の出発点、たたき台として、こういったバリエーションで複数のシナリオを評価して、そして将来の考え得る姿というものを検討しましょうという形になっていると認識しています。それに加えて、やはり、先ほど来キーワードとして、グリーン成長戦略という言葉が出てきておりましたけれども、この中にあるコアのエレメントというのは、やはり技術、もしくは既存の技術を最大限活用するというようなことになるかと思っています。成長戦略ですので、気候変動、カーボンニュートラルを実現しつつも、やはり経済成長の議論にもありましたが、少なくとも既存の経済の成長という観点から、そういったような効果も期待するんだと。両方の効果を期待するという戦略を日本は取ろうとしているということです。

 ただ、それに加えて、当面やはり議論になるのは、恐らく2030年の目標強化をどうするのかという話。これは、今年のCOPに向けて、その前までになるかもしれませんが、議論をしましょうということになっていますし、総理からも国際的な場において、強化された目標を出しますということを宣言されていますので、これはかなり近々で議論が進むでしょう。

 それから、手法としてのカーボンプライシングの話というものも、今経産省と環境省で制度検討が行われていて、特にここでポイントになるのは、従来からのカーボンプライシングの議論に成長戦略に資するという1つのカードを付加して、議論しましょうということになっていることです。ですから、ここのところの解を一体どのように考えるのかというのが、今後のテーマとして大きいと思っています。

 これはEUが出しているゼロエミッション戦略の姿を評価した1つの事例を示しているのですが、この図が示す1つのポイントは、先ほど申し上げたとおり、やはりEUとしてもゼロエミッションにはこのネガティブエミッション技術を活用することが明確に書かれているということです。それから、パワーセクター等々も含めて、やはりプラスの排出というのも当然あるということです。ですから、こういったような様々な、これでもいろいろな技術が当然入ってくるわけですけど、いろいろと方策を考える際、このネガティブエミッション技術が入ってくる。そうすると、このネガティブエミッション技術はどこで実施できますかということになり、全ての国等で実施できるわけではない。地域的に当然活用可能性が違ってきますので、このネガティブエミッションの実績・成果をオフセットクレジット的な観点で、各国が共有して使うことが必要になってくるということは、将来的な絵姿として考える必要があると思っております。

 最後に、幾つかの課題を私なりに整理したのですが、大林様おっしゃったとおり、再エネを大量に挿入することは非常に大事な要素になるのは間違いないと思っています。ただし、やはり日本はまだコストが高い。だから、このコストをどうやって下げていくのかということが非常に大きなポイントになってくる。洋上風力産業を国内で形成して、そして競争力のある産業形成を通じたコストダウンということも考えられていますが、こういったところはかなり大事なポイントになってくるでしょう。

 それから、化石燃料の脱炭素化技術、これもいろいろ議論はあるかと思いますが、やはり実際問題としてネガティブエミッション技術、先ほど言ったCCUS等を活用しながら、こういった化石燃料の脱炭素化の可能性というものも、並行して検証していくということが重要ですし、関連してCCUS等のバリューチェーンを今後どう構築するのか。実は国内だけの問題ではなくて、貯留という観点でいきますと、恐らくは海外というのも国際的には視野に入ってくる。だから、そういったようなことをどう考えるかというようなことです。

 それから、こういった技術をどういう視点で評価するのか、KPIをどうするかということが多分大事になってくると思います。コストは当然ですけれども、様々な観点でこういったような技術選択が有効であるという、そういった指標は一体何によって考えるのか。ここが非常に重要なポイントになってくると思っております。

 さらには、先ほど来若干出ていますが、実はこの脱炭素化を、例えば国のインベントリーじゃなくて企業の脱炭素化というゼロエミッションをどう評価するのかということを、今ISOで規格化が進んでいるところです。そこでは、オフセットクレジットが最終的には使われる。先ほどWWFの方がおっしゃっていましたが、やはり企業努力だけでは無理な部分は、オフセットクレジットで補完するという考え方が明確にヨーロッパ等から示されています。ですので、いずれにせよ、こういった国際標準化を通じた社会評価が今後重要になってくると思いますので、こういった取組に対して日本も積極的に関与していく必要があると思っております。

 あと最後に1点、レジリエンシーという考え方です。やはりこのコロナ禍の中で、ワールドエコノミックフォーラムでも昨年レポートが出されていましたけれども、社会的な強靭性をどう考えるかということが、今後の取組の中で非常に大きな柱になるということを指摘されています。APECでも昨年、Energy Resilience Principleを発行し、エネルギーシステムの強靱化が大事であることが共有されています。日本は特に台風19号など様々な自然災害等によるインパクトが既に顕在化していて、エネルギーシステムの強靱化を並行して社会全体で考えなければいけない。先ほど申し上げたような技術転換、社会構造転換が起こるときのエネルギーシステムについて、ゼロエミッションと強靭化を併せて考えていかないと、当社会システムとしての理想的な形にはなっていかないわけです。ですので、今後、ゼロエミッション化を目指すという大きな流れの中に、このエネルギーシステムの強靱化という評価軸も明確に当て込んで、投資促進等の政策検討が行われると思っている次第です。

 私からは以上です。どうも御清聴ありがとうございました。

【水口座長】  ありがとうございました。工藤様と大林様から、共通する部分もあり、違う視点の部分もあるというお話をいただいたかと思っております。

 ちょうど閉会の時間になってしまいましたが、ここで終わるわけにもいきませんので、大変恐縮ですが、10分ほど時間を延長させていただきまして、質問をお受けしたいと思います。簡潔に御質問いただきまして、まとめてお答えをいただきたいと思います。工藤様か大林様か両方か、どなたへの御質問かも示していただければと思います。どなたからでも結構です。いかがでしょうか。

【林(礼)メンバー】  林ですけれど、よろしいでしょうか。

【水口座長】  お願いします。

【林(礼)メンバー】  ありがとうございました。お二人の説明、大変勉強になりました。それで工藤さんに質問なんですが、最後のところのResiliencyの視点ということについては本当に大事だと思っているんですけ
れども、例えばアンモニアだったり水素だったりということにつきましては、海外での製造ということとかも視野に入ってくると思うんですけれども、そのエネルギー政策のエネルギーシステムの強靱化という観点で、この辺りの海外からの輸入に頼らなくてはならないものということについての議論というのは、今何かなされているんでしょうか。

【水口座長】  手塚様からも御質問があるということなので、手塚様。

【手塚メンバー】  私からは大林さんにちょっと質問があります。太陽光のコストが非常に下がっているというのは大変心強いことだと思うんですけども、下がっている要因の1つに、パネルが相当量中国でつくられているということで、日本でも今導入されている太陽光パネルの大宗が中国製になっているのだろうと思います。その中国製のパネルが、どうやってつくられることで安くなっているかということですが、安い石炭火力電源でつくっているんじゃないかという話があるんですけども、そこら辺、何か情報をお持ちだったら共有いただけると思います。パネルをつくる際の電源はどういうふうになっているのかということです。

 それと、再エネの普及について今世界で一番新しいREN21のレポートを見ると、2019年実績で電力の世界の供給量の約27%が再エネになっているということで、これも心強い話なんですけども、実際は16%が水力で、風力と太陽光とバイオマス合わせて10%ぐらい。ただ、これはエネルギー供給の20%しかカバーしていない電力供給の内訳です。最終エネルギー消費で見ると、実は同じREN21の最新のレポートを見ても、太陽光、風力、バイオマス合わせても世界の供給シェアはまだ2%なんです。なので、確かにこの10年間で物すごい勢いで投資されて容量が増えているというのは事実なんですけど、これが本当に2桁に到達する、世界のエネルギーの1割以上を供給するようになる日というのがどれぐらいのタイミングでくると思われているかというのを、もし知見おありでしたら教えてください。

【水口座長】  ありがとうございます。ほかにいかがでしょうか。取りあえずよろしいでしょうか。今工藤さんと大林さんに1つずつ御質問をいただきました。

 では、質問いただいた順番に、工藤さん、大林さんの順番にお答えいただけるとありがたいんですが、いかがでしょうか。

【工藤様】  どうも御質問ありがとうございます。エネルギーのサプライチェーン全体を捉えていきますと、御質問にあった、エネルギーを輸入に頼っていることに対するリスクというものをどう回避するべきかということについては、従来のエネルギーの3Eと言われた頃からずっと言われ続けています。エネルギーセキュリティーという観点です。ですので、エネルギー供給の上流については自給率を上げることがエネルギー政策上非常に大きな柱ではあったわけです。しかし、資源の特性であるとか、国内での供給能力ということをいろいろと考えて、経済性も含めて、例えば輸入元の多様化であるとかについて政策的に取り組まれてきています。

 今日申し上げたエネルギーレジレンシーの発想というのは、どちらかといいますと国内のエネルギーシステムの中での様々な災害リスク等を考えるという視点で議論が進んでいるのですけれども、APECのEnergy Resilience Principleの時にも、やはり従来型のエネルギー安全保障の考え方というのも要素としては入っており、これから詳細なガイドライン、ガイダンスをつくることをAPECの中で検討されているものですから
 
 以上です。

【水口座長】  ありがとうございます。それでは、大林様、いかがでしょうか。

【大林様】  手塚さん、御質問ありがとうございます。大変ごぶさたしております。なかなかチャレンジングな御質問どうもありがとうございます。

 まず最初に、日本の太陽光発電に、中国製が多いんじゃないかというご質問ですが、中国で製造している日本の会社もございますので、例えば、今にわかに統計が分からないですが、大体五分五分ぐらい、5割が日本製、5割が中国製ということになろうか思います。ただ、日本の会社であっても、中国で製造して、それを日本の製品として中に入れているということはあるかと思います。

 しかし、私思いますのは、そういう意味では太陽光発電のモジュールに限らず、かなり多くのものが中国産ですし、サプライチェーンというのは世界中つながっていますので、モジュールだけ取り上げて中国産だからおかしい、というのは少し違和感がございます。また、モジュールが外から来たとしても、太陽光発電をつけるための架台をつくる、設置をするという、そういうサプライチェーンや作業というのは日本国内ですので、雇用の問題ということからも、再生可能エネルギーを拡大していく、太陽光発電を日本で拡大していくということは意味があるのではないかというふうに思っています。

 また、エネルギーのLCOEということでいうと、手塚さんがおっしゃいますように、確かに中国でつくられたモジュールというのは化石燃料でつくっている部分もあるかもしれません。ただ、その中国ですが、世界の自然エネルギーの大規模な開発というのは、もう中国がこの10年間率いておりまして、例えば昨年1年間でも90ギガワット以上風力を入れています。太陽光と合わせてでは、昨年1年間で150ギガワットを導入しています。物すごい大量の自然エネルギーが中国では導入されてきておりまして、御存じと思いますが、2060年にはエミッションをゼロにするという目標値を掲げておりますので、中国の電力の構成自体もグリーンにどんどん近づいていくのではないかと思います。

 2つ目ですが、確かに電力で言いますと、まだ再生可能エネルギーは世界全体の27%程度にとどまっておりますが、それは、燃料、先ほど手塚さんがおっしゃった運輸とか熱に使っている部分を合わせると少ないということをおっしゃっておりますが、係数がどういうふうになって計算されているのか、一次エネルギーに換算する時に、再生可能エネルギーを三割割り戻しているのかどうかなどによって数値が変わってきますし、今後はほとんど全てが電化に向かって来ますし、それに従ってエネルギー効率も上がっていきます。そして、先ほどお見せいたしました世界の先進国の再生可能エネルギーの電化率の目標値をみれば、2030年で60~70%、2050年には100%に向かっていこうとしているということから考えますと、まずは、やりやすい電化を進め、その電力を再生可能エネルギーにしていく。そして、運輸や熱で使う部分も、再エネ電化をできる部分はやっていくというのが、今現在、2050年に向けて各国が取っている戦略かと思います。日本も同じような戦略を想定しているというふうに思いますが、先ほど工藤さんへの御質問とも関係するんですが、やはり最終的には電力では賄えない産業分野というのが残りますので、それはやはり、水素とか、そういったものを使っていく必要があると。必ずしも日本で全て水素を生産するのではなくて、海外からグリーンな水素を輸入してくることによってコストを下げていくと。そういったようなシナリオをわたくしどもも模索をしておりますので、ぜひ手塚さんとは、今後ともいろいろ意見交換させていただいて、重工業のグリーン化というのが日本の命運を握るというふうに思っておりますので、よろしくお願いしたいというふうに思います。

 以上です。

【水口座長】  ありがとうございました。専門家同士のお話は聞いていて楽しくて、このままシンポジウムをしていただいたら面白いのですが、残念ながら時間ではありますので、本日の議論はここまでにさせていただきたいと思います。

 なお、チャット上で藤井様からWWFに御質問いただき、WWFの池原様がチャット上で回答もしていただきました(※)。どうもありがとうございました。
 
(※チャット上でのやり取り)

【藤井メンバー】      SBTiの金融の基準決定と公表(特に下流)が遅れていたという理解なのですが、これは決定済み(公表済み)でしょうか。
 
【池原様】      SBTiの金融の方法論につきましては、2018年頃から長く検討が続いておりましたが、2020年10月にパイロット版のドキュメント類が公開されました。このパイロット版をベースに世界で20社ほどの金融機関からの目標申請を受付け、その審査を通じて得られた知見をもとに、パイロット版を改定し4月以降にあらたに発効する予定となっております。おそらく今後すぐには「最終版」とはせず、今後もその時その時の状況や最新動向に応じてアップデートを続けていくものと考えられます。
 
 今日、大変幅広い意見交換をしていただきました。こういった話題、専門家同士の議論は議論として、一方、有識者会議としてこれをどう消化して、私たちとしてどういう提言をしていくのかということについては、また改めて考えてまいりたいと思います。どうか、委員の皆様には、日本全体の視点からお考えをいただければというふうに思います。

 それでは最後に、事務局のほうから御連絡等がございましたらお願いいたします。

【岡田総合政策課長】  本日もありがとうございました。次回の有識者会議の日程につきましては、追って御連絡させていただきます。

 以上でございます。

【水口座長】  どうもありがとうございました。

 本日は若干時間を超過してしまいまして申し訳ありませんでした。本日は以上で終了したいと思います。御協力いただきまして、ありがとうございました。
  

―― 了 ――

金融庁 Tel 03-3506-6000(代表)

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(内線3515、2770、2893、5404)

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