「サステナブルファイナンス有識者会議」(第21回)議事録
日時:令和6年3月1日(金曜日)16時00分~18時00分【水口座長】 皆さん、こんにちは。それでは、只今よりサステナブルファイナンス有識者会議(第21回)の会合を開催したいと思います。本日も御多用のところ、御参集いただきまして、誠にありがとうございます。
本日は、最初に、前回の振り返りということで前回のまとめをしていただきまして、その後、金融機関の投融資先支援についてということで議論をしていきたいと思います。本日はメガバンク3行からのプレゼンテーションということでお願いしております。御協力いただきまして、ありがとうございます。
また、NZBAの石川様、そしてGFANZの安井様にも御参加いただいております。お忙しいところ御協力いただきまして、ありがとうございます。
それでは早速ですが、まず、前回の振り返り、前回のまとめにつきまして、事務局の金融庁から御説明いただければと思います。よろしくお願いします。
【西田サステナブルファイナンス推進室長】 (事務局資料に基づき説明)
【水口座長】 ありがとうございました。ということで、前回から、前回のまとめの振り返りをして、皆様からコメントをいただいて、言いっ放しにしないで順番に進めていこうということで、こういう時間を取っております。今御説明いただきました前回の振り返りにつきまして、何かコメントとか追加の御意見などありましたらいただきたいと思いますが、いかがでしょうか。
特段いかがでしょう。大丈夫そうでしょうかね。
それでは、これにつきましてはこのような形で進めていくということで確認をさせていただきまして、早速、本日のテーマであります金融機関の投融資先支援とリスク管理につきまして、まず、事務局で御説明をいただいた上で、各行さんのプレゼンテーションをお願いしようと考えております。それではまず、西田室長、御説明よろしくお願いいたします。
【西田サステナブルファイナンス推進室長】 (事務局資料に基づき説明)
【水口座長】 ありがとうございました。皆様いろいろ御意見、御質問もあろうかと思いますが、今日はプレゼンテーションを御準備いただいておりますので、次にみずほフィナンシャルグループ、三菱UFJフィナンシャルグループ、そして、三井住友フィナンシャルグループの順番でプレゼンテーションをお願いしたいと思います。では、早速ですが、みずほフィナンシャルグループの平野様、お願いいたします。
【平野様】 みずほフィナンシャルグループの平野です。どうぞよろしくお願いいたします。
それでは、資料をおめくりいただいて1ページ目になります。これはみずほの移行計画です。実体経済の移行促進とビジネス機会獲得、リスク管理の観点、この3つの観点を踏まえまして、当社のグループの気候変動対応をより統合的に推進していくために2023年4月に具体化して改定したものになります。構成が4つに分かれておりますけれども、基礎、ガバナンス、戦略、指標・目標ということで、基礎として方針や目指す姿をベースに、その上でどのようなガバナンス体制を取っているのか。戦略では、まずは重要課題の特定をしまして、それを踏まえてビジネス機会の獲得、リスク管理をおこないますが、その実行手段を具体化したものがエンゲージメント強化やケイパビリティ・ビルディングになります。それぞれの項目について指標・目標を設定しております。こちらの移行計画については、TCFDのガイダンスあるいはGFANZのガイダンスなどを参考にしながらつくっています。
では、2ページ目を御覧ください。投融資先のお客様とのエンゲージメントということで、私どもは2つの観点でエンゲージメントを行っております。1つ目は、お客様のSX支援に向けたエンゲージメントということです。延べ1,700社ですが、サステナビリティについて、お客様のリスク管理だったり、あるいは戦略の立案・実行を支援するために、ディスカッション、あるいは提案、あるいはソリューション提供などをした社数を書いております。そのうち気候変動については、1,000社になります。
これは通常のリレーションシップマネジメントの中で行っているものになりますけれども、加えて、下にございます責任ある投融資の観点でのエンゲージメントということで、こちらは主にリスク管理の面で行っています。特定セクターを決めて、環境・社会の負の影響の防止・軽減に向けた対応状況を毎年確認しています。特に移行リスクセクターのお客様とは、気候変動に伴う機会あるいはリスクに関わる中長期的な課題認識を共有しながら、移行リスクへの対応が今、どのようになっているのか、どのように進めているのかということを確認しております。
3ページ目を御覧ください。今のエンゲージメントと関わるところになりますけれども、左側、炭素セクターにおけるリスク評価をみずほの中では導入しております。表の縦軸が取引先の属するセクターで、移行リスクの高いセクターを決めております。横軸が、それぞれの企業が今、移行リスクへの対応状況のどこにいるのかということです。一番左側が低水準となっておりますけれども、右に行く、緑に行けば行くほど進んでいる状況になっております。この中でピンクに網かけしたところを高リスク領域として管理をしています。
移行リスクへの対応状況は、表の下にどういう水準かという記載があります。低水準のは移行リスクの方針や目標がないという企業であり、右側のほうは例えば第三者認証、SBTを取っているような企業まで何段階かに分けて評価しています。この2軸ですが、縦軸のところがセクターで、例えば発電ですと、石炭火力が主力の企業が例えば再エネに移るなど、より低リスクな領域への事業構造転換を支援していく、そういう支援をしていくというのが一つです。
横軸のほうは、移行リスクへの対応がより進むことを促進するような支援をしておりますが、発電の石炭火力のところは、高水準から2番目であってもまだ高リスク領域になります。ここのお客様のトランジション、事業構造転換をよりサポートするための枠組みとして、右の下にあります移行戦略の信頼性や透明性が確認できるお客様への支援であったり、再エネのようなグリーンである案件についての支援をしっかりやっております。この高リスク領域のところは、中長期的にエクスポージャーを削減するという方針になっておりますので、管理のところから少し位置づけを変えて支援していくというような枠組みにしております。
4ページを御覧ください。こちらのエンゲージメントに基づいて、先ほど分類している移行リスクへの対応状況がどのように移り変わっていっているかというところを示したグラフになります。全てのセクターで年度が進むにつれてオレンジの低水準のところから高水準のところに移っていっていることが見てとれますので、このようにしてお客様の移行リスクへの対応を促進しつつ、それを可視化しているということで進めております。
御説明は以上になります。
【水口座長】 ありがとうございました。それでは次に、三菱UFJフィナンシャルグループの西山様にお願いいたします。
【西山様】 ありがとうございます。三菱UFJ銀行サステナブルビジネス部の西山と申します。本日はウェブから参加をさせていただいております。
資料1ページですが、改めてMUFGとしては、2050年までにお客様の投融資先ポートフォリオのGHG排出をネットゼロにすること、30年までに自社のネットゼロを目指すことということで、4つの柱を基に進めております。
1つめは、実体経済の排出の削減に寄与する事業に対してしっかりとファイナンスをつけてネットゼロにコミットしていくこと。2つめは、自社独自の排出削減に向けた取組を進めていくことで、3つめはいわゆるリアリティーとアスピレーションを考慮した目標設定と開示の充実を図っていくこと。そして、4つめは体制を強化していくことです。
2ページめのとおり、お客様とのトランジションに向き合っていく際に、改めて我々の基本的な考え方について、MUFG全社で意思統一をした上で進めている点ですが、MUFGはあらゆる産業のセクターにおいてお客様との取引があり、また、日本だけではなくアジアを中心としたグローバルなエクスポージャーがあります。こうした中で、スコープ3のネットゼロを達成していく観点では、改めて実体経済の排出を削減していく、いわゆるお客様の個々の取組を理解し、そこにニューマネーをつけて、しっかりと排出削減をしていく形で当社のネットゼロを達成していきたいということです。いわゆるグリーンとかクリーンな特定のセクターのみを支援するために、そうではない高排出セクターから資金を吸い上げていくようなダイベスト型でバランスシートだけをクリーンアップする形ではなく、改めて産業横断でそれぞれのお客様の置かれた状況とその削減施策に対してしっかりニューマネーをつけて削減を果たしていく支援をしていくことを基本姿勢として進めています。
そうした取組が今後スケールしていくには、やはりお客様のトランジションに関わる事業がしっかりキャッシュフローを生み出していかなければいけない。そういう観点で我々は3つのレンズと呼んでいますが、一つめは、お客様の事業の取組が、国の設定する規制や税制と整合しているか。2つめは、その事業がしっかりとしたインセンティブの下で事業性が担保されているか。3つめには、技術の磨き込みと産業連関が進んでいったリアリティーがあるかということで、この3つのレンズを通じて、各国の置かれた状況と、あと、ミクロレベルで各国の政策や企業の進捗を全体的にモニタリングしていく必要があるという観点で認識を統一しています。
これらを実現していく観点で、MUFG経営企画部の石川部長を中心に、NZBA、それから、GFANZ、そして、アジア・トランジション・ファイナンス・スタディ・グループといった国際的なルールメイキングのイニシアチブの中で、しっかりと本邦行を代表して、日本の置かれた状況とグローバルの議論を理解して対話していくとともに、その内容を高排出セクター中心としたお客様に接続していく中で、お客様と国際的な議論の両方が股裂き状態にならないように、簡潔に表現すると、1つの尺度でお客様の移行計画を評価するのではなくて、各社の移行計画がどのような背景を基につくられているかということに対して情報ギャップがない形で、国際金融の皆様から日本の取組についての評価が得られるようなブリッジを図っていく、これが今のエンゲージメントの中で強化している内容となります。
3ページめですが、2年前からは石川部長を中心とした国際イニシアチブの活動と、高排出セクターと呼ばれる素材の鉄、化学、製紙、セメント、ガラスの5セクターと電力を合わせた6つのセクターを対象に、そもそもお客様がどういったプロセスでどういったものを作っているのか、地域の特性の中でどういったカーボンニュートラル戦略をしているのかを3カ月間重点的な対話をさせていただいた。その中で、改めて、お客様がつくっているカーボンニュートラル戦略そのものだけでなく、その背景情報をしっかりと理解した上でお客様の移行計画を評価すべきであり、一つの地域の移行計画がほかの地域の移行計画にそのまま当てはまることがないことを確認したので、改めて日本の置かれた状況と欧州と米国の置かれた状況を、4つのレバー(CO2の排出源とか再エネのポテンシャル、それから、電力・ガスの送電線やパイプラインの接続性、安全保障、社会政治要因)の観点で比較して、カーボンニュートラルというゴールは一緒でも、地域の特性によってスタートポイント、方向性が異なることを改めて記しています。
1つめは、経済が成熟して、これからエネルギーの需要量が落ちていくヨーロッパの中でエネルギー転換を図っていくやり方と、アジアのようにこれからまだ経済と需要が伸びていく中で既存の化石電源の低排出をしながら新規のグリーンガス・電源を入れていくような経済の動向が違う地域では、やはりカーボンニュートラルに必要な技術の組合せは異なっていく。そうした前提下において、しっかりと移行計画を評価する土台をつくらないと、その地域における移行計画は正しく評価できなくなってしまう点を改めてここでハイライトしています。
また、2つめ、鉄とか化学とか特定のセクターだけを切り出したカーボンニュートラルを議論するのではなくて、改めて産業は縦横に密接に連関しておりますので、産業連関性を踏まえた上でカーボンニュートラルは議論する必要があるということで、特に日本では電気と熱が重要になるという点を取りまとめました。こうしたお客様との対話を通じて確認した内容を「MUFGトランジション白書2022(以下、「白書2022」)」として英文でナラティブにまとめるだけではなく、私どもの副頭取(当時)、それから、石川部長を筆頭に、国際ルールメイキングの世界でボイスの大きい欧州と米国の財務省やSEC、欧州委員会などの局長クラスの方々に、白書2022の内容を説明していく中で、日本の取組についての理解、その後ろ側にある背景の説明を行いながら、それに対してのフィードバックをもらったものをまたお客様に繋げていく取組を進めております。
今年度に入ってからは、白書2022の内容を更にアップデートする形で、改めて日本で重要となっていく電気と熱のセクターにフォーカスをして、日本で今、技術実装が想定されているテクノロジーについて、欧州・米国の政策と比較した上で、何が同じで何が違うか、その背景は何かということを取りまとめた「MUFGトランジション白書2023(以下、「白書2023」)」を発信すると同時に、私どものパートナー銀行があり、エクスポージャーの観点で非常に重要な地域であるインドネシア、タイにハイライトを当て、その地域特性の中でどういった金融機関からのアプローチ、トランジションへの提言ができるかということを「MUFGアジアトランジション白書」として取りまとめました。
4ページめのとおり、白書2023では、日本で現状想定されている技術実装について、再エネのポテンシャルが限定的な日本の場合には、国内だけではなく、海外の再エネ技術の活用も最大化させながら、水素・アンモニアも考慮した海外連携も視野に入れたカーボンニュートラルの技術が検討されて、オプションが今検討されているという事実について、その背景にある日本の置かれた状況と、GXの各種企業の進展、こういったものを技術ごとに取り纏めております。
最後の5ページめのとおり、こうした国際金融と日本の情報ギャップを埋めていく取組をしながら、移行計画の背景にある差異をしっかりと確認、発信して情報の非対称性をなくし、白書を活用してお客様と国際金融との間の接合点を担っていきます。カーボンニュートラルの実現に向けて非常に重要となっていくグリーンテクノロジーについては、MUFGが自社でファンドをつくって投資をしていく部分に加え、グローバルで再エネのファイナンスを促進していくという活動を通じて資金面の支援を進めながら、更に国レベルの対話だけではなく、地域単位でも対話を進めています。
今回、カーボンニュートラルのポテンシャルが高い地域の一つである北海道で、グリーンテクノロジー実装における当該地域のポテンシャルと今後の方向性を、「北海道レポート」として纏め、各種企業活動の背景部分となる意義・理由付けの補足や後押しを行うことで、自治体との連携も強化しております。
最後に、こうした取組の中での国際金融の議論の内容、お客様と対話した内容、これを行内知見として統合していく観点で、全社横断で500名を超える規模のグリーントランスフォーメーション戦略プロジェクトチームで、この対話の内容の細部にわたる部分をしっかりと共有して前線でのエンゲージメントを強化するとともに、特に転換が難しい電力については、別途電力プロジェクトチームを立ち上げています。その中で議論、政策のアップデートを行いながらお客様との対話の強化を図っていることが、弊社の現況となります。
私からの説明は以上です。
【水口座長】 ありがとうございました。それでは最後に、三井住友フィナンシャルグループの髙梨様、お願いいたします。
【髙梨様】 三井住友フィナンシャルグループの髙梨でございます。本日はありがとうございます。
資料1ページ目でございますが、我々も移行計画を策定しておりますが、1ページ目がこの全体像になります。スコープ1、2については、2030年までにネットゼロ、スコープ3について、カテゴリー15を2050年までにネットゼロにする目標を設定しております。また、サステナブルファイナンスを累積50兆円といった前向きな目標も設定しており、それを支える実行戦略あるいはエンゲージメント戦略を推進中でございます。
本日はエンゲージメントということですので、より詳細は次のページをお示ししています。左側の矢ばねのように、大きくこのような形でくくっております。お客様に対する情報提供あるいはお客様の情報収集、これが1つ目。その上で、お客様の課題の特定、特定した後にソリューションを御提供して継続的な対話をしていくと、これが大きなエンゲージメントの方針でございます。
右側に、具体的取組として、比較的我々自身の特徴かなと思っているところを幾つか例示させていただいております。四角の上から2つ目、GHG算定支援と書いてありますが、やはりお客さんの中に、まだGHGの排出量の算定に苦心しているお客様がたくさんいらっしゃいます。こういったお客様を支援するためにオンラインのツールを我々自身で開発して御提供させていただいております。
その下、マッチング・事業共創と書いてあります。やはり具体的なソリューションを、非金融の分野でも御提供するというのが重要と考えております。もちろん金融機関ですので、我々自身が再エネを提供したりとかということはできませんが、我々のお客さんでそういったソリューションを提供する方がたくさんいらっしゃいますので、そういった方々とパートナーシップを組んで、例えば再エネの導入や燃料転換など具体的なソリューションを提供するような枠組み、体制を整えております。具体的には、専門チームを我々の社内でつくって、例えばエネルギー会社などから人を中途採用で採用して、我々のパートナーと一緒にお客さんに対してそのようなソリューションを提供しているというところでございます。
次のページお願いします。もう一つ、我々の一つ特徴だと思っておりますのが、左上に書いてありますTransition Finance Playbookです。先ほど非金融と申し上げましたが、こちら金融のところでございますが、2023年5月に我々はTransition Finance Playbookを策定しております。何かといいますと、トランジション・ファイナンスは、先ほどいろいろなガイダンスがあると西田さんからもありましたが、やっぱりあまりにもいろいろあるために、我々自身の定義が必要だろうということで、我々自身の定義あるいは判断基準、こういったものを策定して公表しております。具体的には各地の政策、タクソノミー、ロードマップなどを参考にしながら、地域ごとの違いを反映する形で策定しております。
もともとは社内外に向けたトランジションのファイナンスの透明性の向上という観点からこういったものを策定したんですけれども、結果的には、もちろんそういった効用もあったと思っているんですけれども、むしろお客様とのエンゲージメントツールとして有用だということが改めて分かっております。例えばPlaybookとお客様の戦略のギャップとかの議論を通じて、ここがずれているので、こういうソリューションをやっていきましょう、こういう作戦で脱炭素を進めましょうみたいな会話が、Playbookを策定することによってよりお客様としやすくなったと思っております。
このPlaybook活用の例として左下に書かせていただいております。これは海外の例でございますが、オーストラリアの石炭火力発電の早期退役・廃炉と蓄電池設備の新設案件、こんなようなものを我々のトランジション・ファイナンスの例としてお示しさせていただいております。
あと、国内について、より金融機関が具体的に何をやっているかということをお示しできるように、右側に国内の事例を説明します。マツダさんと最近、サステナブルファイナンスフレームワークを策定するということに御協力させていただきました。特に自動車業界は、今後やっぱりカーボンニュートラルに向けて莫大な資金が必要になってくるという業界でございます。そういう中でお客様としては、サステナブルファイナンス、これを拡充することによって、投資家層の拡大、資金調達力を拡充したいという思いがございました。そういったようなところをお聞きして、特にマツダさんはEV一辺倒ではなくて、マルチソリューションによる移行戦略の説明力の向上が必要だという思いがあったりとか、あるいは実は自動車会社としては唯一、石炭火力の自家発電設備も持っていたりしておりまして、ここをいかに移行していくかと、こういったような課題感を持っているお客さんでございました。
こういったお客様に対して、いろいろなロードマップとかガイダンスとか、投資家の動向とか、あるいは各国の政策動向、こういったような情報提供に加えて、グリーンあるいはトランジションの適格事業をどう考えるかとか、インパクト指標をどういうふうにしていくか、こんなようなことの会話を通じて、移行戦略の実施をサポートさせていただきました。
これは一つの具体例ですけれども、こういったお客様とのエンゲージメントを通じて、我々自身も今後は自動車セクターのトランジション・ファイナンスも検討していきたいと思っているんですけれども、こういったお客様の移行戦略が我々の知見としてもたまっていっておりまして、お客様とのエンゲージメントを通じて我々の知見も上がってくるなということで改めて感じているところでございます。
以上でございます。
【水口座長】 ありがとうございました。各行それぞれ大変熱心に取り組んでいただいているということですし、それぞれのグループの情報がこうして共有されるというのもなかなか珍しいことかなと思いますが、それぞれ大変すばらしいお取組をしていただいているなと思いました。
今日は、質疑応答もあろうかということで、先ほど御紹介もありましたけれども、三菱UFJフィナンシャルグループの石川様にNZBAのお立場で今日御参加いただいております。また、GFANZの安井様にも御参加をいただいております。特段御準備いただいていないかと思いますけれども、もし何かコメントなどありましたら、最初に一言二言いただいてもと思いますけれども、石川様、いかがでしょうか。何か追加でコメントされることはありますか。
【石川様】 ありがとうございます。石川でございます。先ほど西山からも当社の取組の説明をさせていただいておりましたが、御案内のとおり、NZBAはグローバルな集まりで、そういう意味で日本だけではないんですけれども、全てNZBAに入っている銀行は、ネットゼロを目指す、つまり、ファイナンスドエミッションを減らさなければいけないわけです。減らさなければいけない一方で、実体経済のトランジションを促すために、支援をするためにファイナンスをしていく。そうするとファイナンスドエミッションが増えてしまうわけです。つまり、そこにジレンマがある。減らさなければいけないけれども、増えてしまうと。
これはどうしたらいいんだろうというのは、先ほど西田さんからもサブワーキングの御紹介をいただきましたが、そのレポート、経産省さん環境省さんとも一緒にレポート出したんですけれども、NZBAでは、ファイナンス案件ごとのインパクトを計量化して、それを見える化しましょうと。これはエミッション・リダクションROI、リターン・オン・インベストメントという言い方をしているんですけれども、いわゆるROI、これは通常は財務的なリターンを見るわけなんですけれども、財務ではなくて、融資によって、例えば100億の融資がどれぐらいのCO2削減の影響を与えたのか。それを見える化すれば、仮に短期的にファイナンスドエミッションが増えたとしても、いや、こういうトランジション・ファイナンスをしたんですよという説明をすれば、より我々としての説明能力を高めることができるだろうと。
そんな問題意識からNZBAというグローバルな組織でレポートをCOPの最初の日にアナウンスをして、こういう考えはどうなんだろうと。もちろんこの考え方だけが全てだと言うつもりはないんですけれども、ネットゼロを標榜しながらファイナンスを提供するというこのジレンマを何らかの形で解決をしたい、そんな問題意識でレポートを公表したというところでございます。
石川からは以上です。
【水口座長】 ありがとうございます。エミッション・リダクションの定量化といいましょうか、インパクトを計量化して見える化するというのはなかなか面白い試みですよね。ありがとうございました。
安井様、NZBAも含めてGFANZは大きな枠組みですけれども、安井様からも何かコメントいただけますか。
【安井様】 ありがとうございます。GFANZの安井です。お願いします。私どもGFANZでは、アジア太平洋ネットワークを2022年6月から始めまして、日本支部を2023年6月から活動しております。
その中で、こちらのテーマとしましては、アジア太平洋におけるネットゼロにおいて高排出セクターの移行が非常に大きなテーマだと感じております。その辺りまだ世界的にも、何が信頼性のあるものか、どのようにインパクトを計ればいいのかというようなところが2大テーマだと感じておりまして、石川さんが先ほどおっしゃっていた、(金融機関の脱炭素化のインパクトを)計る方法(の検討)はGFANZももちろんやっておりますし、NZBAさんを始め他のステークホルダーでもやっています。他方の(高排出セクターの移行へのファイナンシングの)信頼性のほうも、日本をはじめアジアでもかなり議論をしてまいりました。日本支部では去年のCOPに向けて移行の過渡的な技術、つまり、例えばディーゼルからLNGに替え技術を使われる企業のネットゼロ計画の信頼性はどのように評価できるのかのクライテリア、要件などを検討し、日本支部として世界に発信できたことが成果だと思っております。これに関しましては、もう少し今年、日本支部でさらに発展を続けたいと思っております。
以上です。ありがとうございました。
【水口座長】 ありがとうございます。ネットゼロの戦略の信頼性、そういうこともきちんとクライテリアを考えて議論していこうということでお取組をいただいております。ありがとうございました。
それでは、ここから残された時間で、委員の皆様と意見交換ということにしてまいりたいと思います。冒頭の西田さんの御説明も含めて、委員の皆様の御意見あるいは御質問などいただければと思いますが、いかがでしょうか。ここからは自由討論ですので、札を立てていただければ。御自由に御発言ください。では最初に、河本さん、お願いします。
【河本メンバー】 全国銀行協会の河本です。今日は3メガからプレゼンテーションということで機会をいただきまして、本当にありがとうございます。今お聞きいただきましたとおり、それぞれメガですので、大企業あるいはセクターのレベルでの大きな取組ということでエンゲージメント、それから、ソリューションの提供ということで御説明させていただきましたけれども、全国銀行協会というレベルで見ると、当然中小企業、あるいは小さな規模の金融機関もここに関わっていかなければいけないと。下請といいますか、産業単位ではそういう人たちも当然プレーヤーということですので、そういった中小企業あるいは小規模な金融機関も含めた取組ということで少し補足させていただきます。官民の連携という観点も含めて2点ということです。
まず1点目が、前々から申し上げていますデータの標準化ということでございます。中小企業にとって、いろいろな関係者から様々な形でこれ出してくれ、あれ出してくれというふうに来ているということで皆さん悩んでおられるということですので、何とか標準化できないかという取組をやっているということで御紹介してきたと思います。銀行界が中心に参画しておりますサステナビリティデータ標準化機構というものがございまして、標準化のハンドブックの初版を先月公表したということですので、これは金融界だけでなくて産業界でもぜひ活用いただきたいということで、この辺りの浸透についてぜひ官民の連携をお願いしたいというのが1点です。
もう1点がエンゲージメントということです。これも大企業へのエンゲージメントだけではなくて、小規模な金融機関から中小企業に対するエンゲージメントも世の中あるわけでということで、今、全銀協、地銀協、第二地銀協で、「CO2見える化とその先に」というタイトルのエンゲージメントツールを作成して、ちょうど昨日公表させていただいたということです。こうした第一歩、第二歩の取組について、どういうことをやっていく必要があるのかを分かりやすく整理した資料ですので、ぜひ利活用が進むようにということで、金融庁にも御相談させていただいていますが、勉強会をやっていきたいと思っていますので、こうした分野についてもぜひ官民の連携を引き続きお願いしたいと思っています。資料はありませんが口頭で補足させていただきます。
以上です。よろしくお願いします。
【水口座長】 ありがとうございます。サステナビリティデータ標準化機構でもハンドブックを出され、そしてさらに、「CO2見える化とその先に」、これは銀行協会で出された?
【河本メンバー】 銀行協会で作って、昨日公表もしました。
【水口座長】 そうなんですね。ありがとうございます。
【河本メンバー】 ぜひ活用いただきたいと思っています。
【水口座長】 各行にも情報が、銀行協会から情報提供が?
【河本メンバー】 公表しましたけれども、中身についてこういうふうに活用してほしいということの勉強会を会員行向けにやっていきたいと思っています。
【水口座長】 ぜひよろしくお願いいたします。ほかにいかがでしょうか。では、佐藤さん、そして、藤井さんの順に行きたいと思います。
【佐藤メンバー】 生命保険協会の佐藤でございます。今日はNZBAの紹介、あと、銀行のメガさんの紹介がありました。生命保険業界はどちらかというと、NZAOAというアセットオーナーのグローバルなイニシアチブに加盟をして、アセットオーナーサイドからトランジションをどうサポートするか、加速するかということで取り組んでいます。視点としては、我々は機関投資家としての立場として、議決権行使を通じて背中を押すということと、実際にファイナンスをつける、両面から、どちらかというと中堅・中小企業というよりは大企業の企業さんに対して、計画をつくっていただいて、目標を設定していただいて、その進捗を毎年対話を通じて確認をしています。その中で、なかなかうまくいかない先については、どこかのタイミングで議決権行使をしてメッセージを強く発していくということの対話の活動、これはスチュワードシップ活動の中で過去からずっと進めてございます。
2018年ぐらいから、日本生命ですと、気候変動のところのテーマを各社に設定して行っておりますが、足元、個社でいうと75社ですかね、設定をして、これは我々の80兆の資産サイドのうちのCO2ガスの排出量の上位8割を占める銘柄が大体70社に集約されますので、この70社に重点的に対話を行って、より議決権を背景に活動・取組を加速してもらうということをやっていただきます。そういう意味では、ファイナンスも当然重要ですけれども、我々アセットオーナーとしてのスチュワードシップ活動の中での議決権行使活動を通じて、こういった取組を支援、後押ししていることについては御理解をいただければなと思っております。
【水口座長】 ありがとうございます。では、藤井さん、お願いします。
【藤井メンバー】 ありがとうございます。コメントの前に、メガバンクさんにいただいたプレゼンに御質問させてください。
お聞きしていて、銀行さんによってそれなりにアプローチが違うなという感想を持ちました。MUFGさんにおかれましては、地域の事情とか産業連関といったようなことを踏まえながら、そういう意味ではやや柔軟なフレームワークと。みずほさんは、とても意欲的な御説明をされていて、低水準から高水準の基準に基づいて、最終的に低水準のままだとエクスポージャー削減という。ここは恐らくそうならないようにエンゲージメントをされると思うのですが。ただ、数字が出ているとどうしてもそこに目がいっての御質問なのですが、対応状況の中で、移行リスク対応戦略/目標ありという左から2番目から、その右側にパリ協定と整合した目標を設定しているという3番目のカテゴリーに移っていく形になっているんですが、私の印象で言いますと、各企業さんにおかれましては、パリ協定目標を設定するということと移行対応の戦略目標を立てるということをある程度同時並行的に行っておられるところが多いような気がしておりまして、移行戦略が先に出来て、それに基づいてパリ協定に合わせた目標を立てるというのは、恐らく理屈的にはその方が美しいんですが、実際には並行して作業されているような印象を持っています。
その一方で、4ページのこの分類を見ていくと、パリ協定と整合した目標を策定しているところが、ほぼ100%とされていて、そのうちセメント業界では、第三者認証も含めて達成が確実であると評価している会社が40%を占めています。恐らくいろいろな定性的な評価とかも踏まえてやられているとは思うんですけれども、特に移行計画戦略とパリ協定との線引きはどのような形で取り組まれておられるのかということについて、コメントをいただければありがたいです。
【水口座長】 これは、では、平野さん、お願いします。
【平野様】 御質問ありがとうございます。この評価の基準もレベルアップしないといけない課題でありまして、先ほどおっしゃったとおり、だんだん黄緑色のところに塊が移ってきているという、ここがボリュームゾーンになっていますので、ここをもう少し細分化も含めて考えていかないといけないなということで社内では議論を進めております。
移行リスクの戦略があるかということとパリ協定と整合した目標を設定しているかというところは、②のところは目標があればこのレベルになりますが、③のところは例えばWell-below2度だったり、2050年ネットゼロというような、何に基づいて目標設定しているのかというところまでを見て評価しているということになります。セメントのところは濃い緑が多いですけれども、これは実は海外のセメントの企業でSBTを取っているところがあるということで、国内はそんなに進んでないというのが実情でございます。
【藤井メンバー】 ありがとうございました。では、コメントの方ですけれども、今日議論いただきたい点の中の2つ目で移行計画の記載があります。今、メガバンクさんは、日本の金融機関あるいは銀行の中では先進的な取組をされておられると思うんですけれども、その中でもアプローチに幅があることが先ほどのお話しで分かります。事務局から御説明いただきました2年前のガイダンス報告書は、金融機関における顧客企業支援を重視した点で一定程度評価されていて、その中にも移行の要素は入っているんですけれども、その後の特に海外におけるトランジション・プランの議論が盛り上がっていること、あるいは国別のガイダンスの公表をしているところもあるということで、そういう意味では、移行計画にフォーカスをしたガイダンスのようなものは考えられるのではないかと思います。特に日本はトランジションが戦略上非常に重要だという観点からすると、官民で協調したような形でそういった議論をまとめていくというのは意味があるとは思います。
ただ、ここまではイエスの部分ですけれども、「Yes, but」のようなところがあって、一方でこの分野はそもそも官民の議論がかなり交錯しているようなテーマでもありまして、正しく後押しをしないと、いわゆる予期せぬ副作用といったことが起きてくる可能性もある分野だと思っています。例えば海外における移行計画の議論の中心が多排出産業及びそうした産業に大きなエクスポージャーを持つ大手の金融機関にフォーカスした議論となっていて、全ての金融機関の全てのエクスポージャーを議論しているわけではないということは認識する必要があると思います。
今日の御説明の中でも、資料の13ページの地銀さんの修正ファイナンスドエミッション、メインバンクじゃないところを外した修正FEでみると、地銀さんの多排出産業のウエートというのは17%ということでかなり低くなっています。メガバンクさんが対応すべきトランジションに係る支援と地銀さんが行う支援というのはおのずから異なりますし、地銀さんではもしかすると優先順位も異なると思います。
そういう意味では、移行に係る大手行に対する期待と、中堅あるいは地域金融機関に対する期待というのは、丁寧に整理をしないと、あるいは優先順位も自ら決められるようにしていかないと、予期せぬ結果として、トランジション課題の比重が低い地銀さんのような金融機関が移行計画づくりに右往左往するといったようなことにならないかと心配します。移行計画の支援だけでなく、エンゲージメントの実施とか、あるいは河本さんからもコメントいただいた、中小企業さんに対するエンゲージメントをどうしていくかといったこととか、そういった課題の優先順位を、金融機関の規模であったり、あるいはエクスポージャーであったりに基づいて自ら選べる、あるいは変えていけるといったような形にすることが必要じゃないかと思います。
以上です。ありがとうございます。
【水口座長】 ありがとうございます。なるほど、おっしゃるとおりで、金融機関といっても、銀行といっても一律ではなくて、やはりどういう産業に重点があるかによって対応のレベル感といいましょうか、優先順位も違うと。そこが選べるようにという一方で、国全体としてはトランジションがきちんとできていかなければいけませんので、その辺の少し精緻な戦略づくりが必要ということですね。ありがとうございました。
それでは、林さん、お願いいたします。
【林メンバー】 私も藤井さんと同じく、まず平野さんに質問があって、その後、御議論いただきたいという点ということで。
みずほさんの資料の4ページ目で、これは何かタイムラインみたいなものというのはお客様ごとに設定されているんですか。2050年カーボンネットゼロというところは御行としてあるとしても、2030年までにとか、だんだんオレンジから緑になっていくスケジュール感というのは具体的にあるんですか。
【平野様】 そうですね。今まで中長期としていたのですが、中長期って一体何年なのか、どういう時間軸でやっていくのかというのは考えていかなければいけない課題だなと思っております。私たちはダイベストメントしたいわけではないので、いかに早く移行を進めていくかということをしっかりエンゲージメントでやっていく。おっしゃるとおり、そのためにも、どういう時間軸で進んでいかないといけないのかというところの、社内でもやっぱりちゃんとコンセンサスを取ろうよという話にはなっています。
【林メンバー】 そんなに簡単じゃないんだということですね。
【平野様】 そうです。
【林メンバー】 ありがとうございます。次に、今日御議論いただきたい点というところで、5ページ目の茶色いのはすごくよく整理していただいたなと思っています。実線の枠がおおむね現時点での進捗ということで、そのとおりと思っているんですが、次の本格化・対象拡大とか、次の右に行くところを本当に精緻な議論がとさっき水口先生もおっしゃいましたけれども、例えばクライメート・トランジション・ボンドの次に、150兆円に皆さん、メガさんなり、生損保さんなり、証券会社も取り組んでいるんですが、次の一手をどうするというところが、官民協調してというのは枕言葉であるんですが、どう協調していくかというところについてより具体的な議論が必要かと思います。
GX推進機構で多分議論が始まっていくんだと思いますけれども、そこだけの議論なのかどうかも含めて整理していくべきだと思います。それから、官民対話の場を整理していただいた後に、有効なアプローチ、議論・発信とか、関係者が連携など、どうやって連携していくのかとか、ここまではすごくよかったと思うんですが、この次、本当に具体的にビジネスに、さらに各行でやっていることと国がやろうと思っていることがうまく連携できるような仕組みを考えていくことが必要だと思います。ただ、あんまり官がやれやれと言うのもどうなんだという議論も当然あるので、自主性を重んじながらも、方向観を見誤らないようにしていくということが大事なんじゃないかと思います。
ちなみに、たまたま昨日うちの会社の会議があって、ヨーロッパでも大変なんだと思ったのが、CSDDDというのがあって、コーポレート・サステナビリティ・デューデリジェンス・ディスクロージャーというものが止まってしまったとのことです。ドイツが大反対だったようです。ヨーロッパでEUのDirective案が否決されるのは初めてだったということで、あんまりばりばりに縛るとやっぱり産業に影響があるんだとヨーロッパでも思うんだとちょっと意外感を持って感じたところではあるんですが、本当にどこまで政府の指導を強めていくか、日本はそんな感じはしないんですけれども、そことのバランスも考えながらとも感じます。すみません、長くなりました。
【水口座長】 いえいえ、ありがとうございます。この5ページの整理学もなかなか難しいところでして、西田さんからもちょっとありましたけれども、もともとこの開示、市場機能、そして、金融機関という、こういう枠組みで見ていましたけれども、一方で、当初、金融機関のところで脱炭素の話を随分して、しかし、トランジション・ボンドみたいなこともあって、脱炭素の話は何も銀行さんだけの話ではないと。利付債もちゃんと出ましたので、その話、そして、150兆円全体をどうやって調達していくのかという議論、そういうこともしなければいけない。では、そのための次の一手は何なんだという、そこですよね。次の一手をどうするのかを一体誰がどうやって検討するのか。ここでやれということかもしれませんし、経産省でもされるんだと思いますけれども、そこは考えていかなければいけないですね。ぜひ皆様からも御意見いただければと思います。
ここで、鳥海さんからお手が挙がっていますので、鳥海さん、お願いいたします。
【鳥海メンバー】 今日のテーマは金融機関の投融資先支援とリスク管理ということですけれども、前者の投融資先支援は脱炭素に向けた産業政策的なカテゴリーだと思いますし、後者はどちらかというと金融機関の健全性規制のお話かなと思うんですが、これ、もう少し明確に分けて議論したほうがいいのかなとは思っております。これが健全性規制で例えば自己資本規制とかそういったところにかかってきますと、脱炭素に向けた産業政策的なものがやや阻害されるというおそれもありますし、産業政策と健全性規制はあまり一緒の議論じゃないほうがいいのかなと感じております。
別の観点から、移行リスクが実際顕在化する状態とはどういう状態かと想像しますと、そのときは恐らく実体経済にも何らかのかなり大きなことが起きている状況ではないかと思います。そうすると、金融機関の移行リスクがどうこうということだけではなく、産業としても何か手を打たなきゃいけない状況だろうと思います。
そういう意味では、今日の資料の中にも入っていますし、お話もありました、ファイナンスドエミッションに関するサブワーキングということで、金融当局と産業政策の当局、経産省さんと金融庁さんと、あるいは環境省さんが共催でガイダンスを出されているというのは、その両者のバランスを取るという意味で非常によい試みなのかなと感じておりました。これが既にされているのか分からないんですけれども、こういった日本としてはこういう複数の軸で考えるようにしているということをグローバルに発信していくというのもよいのではないかなと感じました。
【水口座長】 ありがとうございます。それでは、岸上さんからお手が挙がっていますので、岸上さん、そして、池田さんという順番で行きたいと思います。岸上さん、お願いします。
【岸上メンバー】 ありがとうございます。事務局資料へのコメントと各プレゼンテーションに対する質問がありますが、もし長くなりそうであれば2つ目に関しては追ってコメントさせていただければと思いますので、そちらで御意見いただければと思います。
先に金融庁の事務局資料に関してですが、11ページのところで金融機関の気候変動への現存のガイダンスについてまとめられていたと思います。先ほどの藤井様の御意見にも少し重なりますが、こちらでまとめていただいておりますとおり、コンサルティングとか融資先の支援を事例に出されていることが、今回3行のプレゼンでも反映されているとおり、非常に支援のところが進むきっかけにはなっているのかとは思います。一方で、マクロビジョンでの金融市場、経済市場全体としての移行計画を金融機関としてどのように取り組んでいくかといったところに関して、ガイダンスの部分が少し現状では足りないといった印象でしたので、そこが1点目のコメントとなります。
2点目ですけれども、33ページです。アジア全体での活動の中での官民協力が不可欠になってくるかと思いますが、その官民協力を行った際の効果といったところで、どれだけ資金提供ができたかといった金銭的・数値的なアウトカムだけではなく、実際に気候変動に関する、先ほどの石川様の御発言のような形の、気候変動への対応としてのアウトカムが官民協力における透明性において非常に重要になってくるのではないかと思いました。
ひとまず、事務局資料へのコメントは以上になります。
【水口座長】 では、これは西田さん、何かコメントというか、お返事がありますか。
【西田サステナブルファイナンス推進室長】 これはまさに今、皆様にご議論いただいているところだと思いますので、大丈夫です。
【水口座長】 分かりました。ではここで、池田さん、せっかく手を挙げていただいていますので、池田さんからコメントいただければと思います。
【池田CSFO】 鳥海さんから産業政策とリスク管理というお話がありましたので、関連して発言いたします。事務局資料15ページに、移行計画についてどんな国際的な議論がされているかというのが一応まとめられていますけれども、今、各国の主要な金融監督当局の中で、この移行計画をどう使おうか、使えるかというのは、結構中心的なトピックになっております。この資料を御覧いただくと分かるように、金融安定理事会とかバーゼル銀行監督委員会とか保険監督者国際機構とか、あるいはNGFSとか、いわゆるプルーデンス的な観点から様々なポリシーを考える主体が移行計画の問題について取り組んでいると。
FSB、金融安定理事会に関しては、ワーキンググループを私が議長しているという形になっているんですけれども、要するに、金融機関がそれぞれ移行リスク・物理リスクにさらされているわけですけれども、排出がずっと続いていくといずれそれが大きな物理リスクとして返ってくるということですし、そこに至る経路の中で移行リスクが発現するような移行のパスになっているかどうかを評価するというのが、金融リスクとしてもやはり重要なものになっているんじゃないかという問題意識が共有されているということです。
基本的に移行計画というのは、各金融機関が、ある種、戦略文書というか、ネットゼロに向けた取組としてどんなことをやっていくかということを一義的には表していくものとして作られている一方で、そういう現実を踏まえた上で、先ほど申し上げたような潜在的に金融リスクがそこにあるとすると、その移行計画の情報をどういう形で使えるかという議論も進展しています。これはいろいろな発現の仕方があるのでなかなか難しいんですけれども、産業政策との関係みたいなことでいうと、結局、現実的なパスよりも金融機関の歩みが速過ぎるとやっぱりそれはリスクになるし、一方で、本当に物理リスクが発現するようなパスに乗っかっているような形で対応が進んでいないと、それもまたリスクになる。
その辺りをどう捕捉するかということは、ある種、産業政策みたいなものと絡み合いながら、ある種、私の非常に個人的な感覚からすると、そういうリスクも踏まえながら、理想的な産業政策を描くという切り口でも、このリスクの観点って実は大事だみたいな関係性も、この作業をやっていて何となく感じているところであります。国際的にそういう議論が進んでいるということと、産業政策とプルーデンス政策というか、自己資本比率規制みたいのも含めて、必ずしも相反するだけのベクトルではないという話を一応念のためにさせていただきました。
【水口座長】 ありがとうございます。なかなか奥の深い議論ですけれども、表裏の関係にあるんだということですね。いわゆる脱炭素に向けたトランジションを進めていくための産業政策、そこにいかに金融をつけていくのかという話と、それがうまくいかない場合とか、逆に実際に社会がトランジションしていくときに取り残されてしまうという、いわゆる移行リスク、さらに移行もできない場合の物理リスクに対するプルーデンスという話もあって、連携しているということですね。
それ全体をうまくマネージするオーケストラの指揮者みたいな人がどこかにいるわけではないということですね。池田さんが指揮棒を振るとうまくいくということだとよいのですが、なかなかそれも難しい。結局、個々の民間の金融機関が民間の判断でやりながら、しかし、全体としてうまく回るようなフレームワークをつくっていくというのは、なかなか難しいのかなと思いながら聞いておりました。
岸上さんがさっき途中で終わってしまっていたと思いますので、岸上さんにお話をいただいて、その後、お手が挙がっていますので、手塚さんに行って、その次に、足達さんということで行きたいと思います。では、岸上さん、続きをお願いします。
【岸上メンバー】 ありがとうございます。足達さんが先に手を挙げられたかと思いましたが、よろしいんでしょうか。
【水口座長】 はい。こちらのメモの順番でさせていただいていますので。
【岸上メンバー】 分かりました。ありがとうございます。すみません、度々失礼します。今の議論にかなりタイアップすると思いますが、具体的な質問を2つほどさせていただければと思います。
SMBCのプレゼンテーションの中で、サプライチェーン全体のGHG算定と削減に関する支援をやっていらっしゃると御報告いただきました。以前、サプライチェーンの算定と削減のところに関する課題感をこの有識者会議においても議論していたかと思いますので、非常に重要な取り組みかとは思っております。
その上でなんですけれども、当然サプライチェーンの見える化というところは気候変動だけに限った課題ではないと思います。自然資本とか、人権、労働者のリスクといったところにおいても重要なところになると思いますが、そこへの応用というのは、今のところ可能性は感じていらっしゃるかという点と、今、1社として御報告いただいていると思いますが、特に大手の企業におきましては、一つ共通のサプライチェーン、見える化のプラットフォームがあったほうが有効な場合もあると思いますが、それを官と連携してやるということに関する御意見があればお伺いしたいと思いました。
2点目ですが、MUFGのほうで日本版マネージドフェーズアウトについて御報告いただいたかと思います。同様の質問ですが、こちらを1行として取り組むというよりも、国全体としてマネージドフェーズアウトの方向性が一貫性があるほうが企業にとってのメッセージとしては有効かと思います。例えばオーストラリアの場合ですと、民間主導で、結果的に政策のほうに反映されていくといったような流れもあると思いますが、例えばこれを一つの事例として、今後国のほうでより政策を改善することで国全体としてのマネージドフェーズアウトにつながるといったところで何かご要望があるかどうかお伺いできればと思いました。ありがとうございます。
【水口座長】 それでは、御質問いただきましたので、まず髙梨さん、お願いいたします。
【髙梨様】 質問ありがとうございます。2つ御質問をいただいたと認識しております。1つ目は、サプライチェーン上のCO2だけではなくて、人権とか自然資本とか、こういったところの管理が重要だという御指摘に対しては我々がどういうサービスをしているかというところでございます。個別のプロダクツについて宣伝する場ではないとは思ってはいるんですけれども、最近、大きな枠組みとして、やっぱり自分自身でできるということも限りがありますので、いろいろなスタートアップと連携させていただいております。
今の人権とか自然資本とか、ここら辺のサプライチェーン上のお客様の管理のサポートという意味でいいますと、実はアスエネさんというところとタイアップしております。彼らはどういうサービスを提供しているかというと、頂点企業のサプライヤーさんに対して、人権とか自然資本とかCO2などに関するいろいろな質問状、よくあるようなESG評価機関が出しているような質問状を自動的に送付してくれて、それを回収して、見える化して、レーティングまでしてくれると、こういったようなサービスを提供されているスタートアップさんです。ここと連携をすることによって、我々のお客さんに対して、人権問題の見える化、例えばサプライヤーが本当に人権対応をちゃんとしているのかとかという質問状を投げて、それに対する回答をもらうことによって、その頂点企業がちゃんとサプライヤーの人権対応を管理する、こういったような取組を足元は進めております。
2つ目、同じくサプライチェーン上のCO2の見える化、本当はみんなで共通したデータベースがあるといいんじゃないかという御指摘ですが、それがあるとやっぱり理想的だと思いますし、実際そういう動きも幾つも出ていると思ってはいるんですが、とはいえ、まだちょっと時間がかかると思っております。我々自身ができることとして今やっておりますのは、先ほど冒頭プレゼンの中でも申し上げました、Sustanaというサービスをやっているんですけれども、我々自身だけだとやっぱりどうしてもデータが拾い切れないというところもございます。
例えばこれはつい数日前だったと思うんですけれども、NECさんも同じようなサービスを提供されているので、NECさんとデータ連携ができるように提携したりですとか、あるいはゼロボードさんというところが同じようなスタートアップで同じようなことをやっていますが、ここも、要は、データが連携できないと頂点企業は、例えば親会社が我々のSustanaを使っていて、子会社がゼロボードを使っていたとすると、ここをデータ連携しないと結局、親会社が見えないという状態になりますので、極力いろいろなところとタイアップしながら、少なくともデータ連携ができるというような形をつくっていけば一定程度見えてくるんじゃないかということで、こういったような取組を進めておりますが、本当は統一的なプラットフォームみたいなものが出来ると理想だなとは思ってはおります。
以上です。
【水口座長】 ありがとうございます。それでは、三菱UFJフィナンシャルグループの西山様、お願いできますか。
【西山様】 ありがとうございます。石炭火力については、やはり排出していくCO2のサイズが大きいということから、どのような形でフェーズアウトしていくかということが非常に大きな論点になると思います。その上で非効率なものもしくは老齢化したものは早期退役していくことについて、これは日本を含めて皆さん同じ考え方、方向観で進んでいると思うのですが、まだ比較的若く、また高効率のものについては未償却残高の残価も大きい中で、低排出、それから専焼していく技術の見込みと、それを実装していく上での値差、価格を補填していくことで見ると、岸上さんがおっしゃるとおり、民の取組による技術の磨き込みと、海外と連携した再エネ・水素・アンモニアの連携、サプライチェーンのつくり込み、この価格を転嫁していく官の取組が合わさらない限り、フェーズアウトといいますか、排出を削減していくことの実装がされていかないと見ると、民間による技術とサプライチェーンの磨き込みの連携が土台にあった上で改めて、官による値差補填、それを引き受ける産業側、需要家側の納得感、合意形成、これが抱き合わせとなっていくことが非常に重要になっていくと考えております。
以上となります。
【水口座長】 ありがとうございます。官による値差補填というお話もありましたが、手塚さん、足達さんの順番でお手が挙がっていますけれども、その前に、安井さん、もしよろしければ、GFANZでもこのマネージドフェーズアウトについては大分レポートも出されていて、先ほどの信頼性ということなのかもしれませんけれども、もしマネージドフェーズアウトについて、一言コメントいただければと思いますが、いかがですか。
【安井様】 ありがとうございます。実は4月から日本支部の第2期、2年目の活動としまして、GFANZのアジア太平洋で発表しましたマネージドフェーズアウトのペーパーの日本マーケットリサーチを始めたいと思っておりす。私どもでは、まずは(マネージドフェーズアウトの)経済的なコストは、(先ほど未償却残高の残価も大きいというお話も上がりましたけれども、)実際にどのぐらいなのかというのを見て、経済性の部分を調べたいと思っています。それがある程度明らかになり、カーボンプライシングなどで吸収できるような値段だった場合、マネージドフェーズアウトも日本のエネルギー移行の中で一定の役割があるのではないかなと思っております。
【水口座長】 ありがとうございます。それでは、すみません、手塚さん、足達さんの順番で行きたいと思いますが、手塚さん、お願いします。
【手塚メンバー】 どうもありがとうございます。今日私、今実はシンガポールに来ていまして、ナショナル・ユニバーシティ・オブ・シンガポールのロビーから参加させていただいています。金融庁さんの資料のほうでもアジアへの展開というのがあったと思うんですけれども、実はここで今シンガポールの建築分野におけるカーボンニュートラルをどうやってやっていくかというシンポジウムが開かれていまして、そこで私どものカーボンニュートラル戦略とグリーンスチールの市場戦略の講演をついさっきさせていただいています。なので、非力ながら少し貢献させていただいていると思っています。
今日の議論に関するコメントなんですけれども、先ほど池田さんが産業政策に関することを少し触れられたんですけれども、そこに少し関わってくるかもしれないんですが、私、先ほど3メガさんのプレゼンテーションを聞いていて、非常に広範囲にわたってかつ体系的にエンゲージメントをされていて、私どもなんかもまさに多くの金融機関さんとの間でエンゲージメント活動をさせていただいて、我々の移行計画なども説明させていただいているんですけれども、これぐらい広範囲に様々なセクターの移行計画、あるいはカーボンニュートラル戦略のようなもののエンゲージメントをされてきている金融機関さんが存在しているとなると、今後、個別の企業のエンゲージメントというより、もう少しプロアクティブかつシナジークリエーションみたいなところにこの話を展開していけないのかなというような気がいたしています。
といいますのは、実はカーボンニュートラル戦略、私どもの場合もそうなんですけれども、個別の企業だけで閉じた形でできることというのはある程度限られていまして、どうしてもその中に、例えば水素の供給とかあるいは低炭素、あるいはカーボンニュートラルなエネルギーの供給とか物流とか、様々な要素を全部組み合わせて実際のソリューションは行われるわけです。そうしますと、個々の企業がどういうことに取り組んでいるか、あるいは何に障害があって何が課題になっているかということをある意味エンゲージメントを通して把握されている金融機関さんは、場合によってサプライチェーンの上から下までの中でどういう組合せをするとトータルのソリューションがより効率的に起こせるかというようなこと、つまりプロアクティブなシナリオみたいなものをつくれるポジションに実はおられるのかもしれないなと思います。当然企業から聞いている内容についてのコンフィデンシャリティーはあるかと思うんですけれども、一方でオポチュニティークリエーションみたいなことは次のラウンドでは可能性として出てくるのではないかなと思います。
一方、逆に今度は問題の解決という方なんですけれども、例えば私どものようにバリューチェーンの中で上流のほうにいる素材産業というのは、当然そこから出てくるグリーンな鋼材のようなものが、製造にかかったコストに見合った価格でもって下流の産業のほうにちゃんと流れていって市場が形成されていかないと、設備投資というようなことができなくなってきます。したがいまして、金融機関さんにとっても、そういうもうからないビジネス、市場の予見性がないようなビジネスに対してファイナンスする、あるいは出資をするということはなかなか難しくなってくるということがあると思います。そうすると、上流から下流にグリーンな製品を流していく際に障害となるであろうことをいろいろ予見して、どうやってそれを乗り越えていくかというようなシナリオみたいなこともプロアクティブに考えていただくということが実はできるようになってくるのかもしれないなと思います。大変これは難しいとは思うんですけれども、一種の産業政策あるいは産業の組替え政策みたいなことになってくるかと思うんですが、そういうことも今後の議論の中には課題として入ってくるのかなとお話を伺っていて感じました。
私からは以上です。
【水口座長】 ありがとうございます。まさに次の一手をどうするかという話は、産業政策から金融までつながってくる議論になるということかもしれません。ありがとうございました。
それでは、足達さん、お待たせしました。足達さん、お願いします。
【足達メンバー】 ありがとうございます。今日はオンラインで失礼いたします。
今日の議論の設定として移行計画を挙げられたということは、大変時宜を得たものだと思っております。ISOはあまり金融への影響はないこと分かった上での発言になりますが、私が関係しておりますISOのTC322の今年の総会が4月8日からキプロスで開催されますけれども、先般、議長団から、議題の一つとしてトランジション・ファイナンス並びにトランジション・プランについても議論をしたいと連絡がありました。ISOでも、こういうアジェンダセッティングがなされているということをまず御紹介をしておきたいと思います。
本当にこの2年間ぐらいでトランジション・プランについての関心や世界的な議論は随分深まったと思っております。ISSBやTCFDの中でも推奨されている事項でありますから、ぼやっとしているとまた日本企業がビハインドになってはいけない、取り残されてはいけないなと思っております。
一方で、今年の1月、日本を代表する企業の経営者の方がこういう趣旨の発言をされておられるんです。「日本では、期待どころか、この産業を衰退させたいんじゃないかと思えるようなことばかり言われている気がします。カーボンニュートラルの山の登り方は国や地域によって違います。ある製品分野に携わる人たちは最近、銀行からお金を貸してもらえないこともあるそうです。そんなこと絶対にあってはならない、何とかしていきたいと思います」と、発言をされておられます。
これは、トランジションを巡って、まだまだ認識のギャップもあり、トランジション・プランをめぐる理解のところのコンセンサスが取れていないのではないかと私は思っております。このギャップを存在させたままにすると、非常に機会損失であると思いますので、第1の御提案ですが、金融庁の主導で、日本の金融機関のトランジション・プランというのはこういうふうに考えるのだということについての考え方の整理をある程度のスピード感を持ってやっていくべきではないかなと思うのであります。
去年の5月に、NGFSがトランジション・プランのストックテーキング、言い換えると過去のいろいろな考え方を棚卸してみるというレポートを出しております。この中に、「金融機関は実体経済の進展を受動的に単にミラーリングすべきではない」という一文が入っているんです。実体経済の仲介者であるのだとすれば、よりプロアクティブに意欲的に実体経済を変えていくトランジション・プランをつくるべきだと書いてある。これはNGFSのコンセンサスで入ったのかは分かりませんけれども、私は大変注目をしております。
果たして、トランジション・プランなるものをどういうスタンスでつくっていくのか。今、御紹介をした日本の経営者のような考え方、一方でNGFSで方向性を示しているような考え方、この間のどの辺に我が国は位置するのか、それをきちんと決めて、それが決まったら発信していくアクションが必要です。この辺りをぼやっとしていると、国内の金融機関も動けませんし、海外からも要らぬ誤解を生むのではないかということを申し上げたいと思います。
2つ目は、実は金融機関のトランジション・プランというのは、実体経済の側の事業会社のトランジション・プランがなければつくれない、もしくはクレディビリティーを担保できないということであります。日本の国内の事業会社のトランジション・プランのガイダンスとか、この先の策定の方向性というのも、早急に方向性を見極めていかなければならないのだろうと思います。
今、日本のNGOが、現状でトランジション・プランと思われるような企業の情報開示を収集して、その内容を分析するレポートを作っております。私も先般レビューの形でそれを途中経過ですが拝見しました。相当これは企業によってばらつきがあるということが明らかになろうとしております。これは金融庁さんへの提言ということよりも、広く政府への提言ということになるんですけれども、そういうことがあります。
3番目は、今日の資料15ページ目のところに、NGFSが2024年4月までにスーパーバイザリーのワーキングストリームの中で、トランジション・プランの監督の必要性・可能性を分析するということが書かれています。このワーキングストリームの一連の流れの中でさっき御紹介したストックテーキングのレポートも出ています。このストックテーキングのレポートを拝見すると、先ほど出た、非常に柔らかいというか、抽象度の高い、トランジションストラテジーのようなトランジション・プランもあれば、リスクに重点を置いた非常に仔細な、もしくは目盛りがついたような、そういうトランジション・プランもあると、私から見ると大変合理的な分類をしております。
こういうNGFSの議論をたたき台、検討材料にして、この有識者会議なのか、また、別の組織がいいのか分かりませんけれども、金融機関のトランジション・プランをめぐる日本の方向性についての議論をスタートできないものかと、これが3つ目の提言です。
私からは以上です。
【水口座長】 ありがとうございました。大変広範な御意見をいただいたと思っております。最初の特定の産業を衰退させようと思っているのではないかというのは、決してそういうことは多分ないんだろうと思いますけれども、トランジション・プランについての誤解とかギャップがあるならばそこは埋めていかなければならないということだろうと思います。
私から足達さんに質問するのも何か変なのかもしれませんけれども、トランジション・プランと足達さんがおっしゃっている場合に、冒頭のお話がどちらかというと例えば国全体とか産業とかのトランジション・プランというイメージ、それから、個々の金融機関のトランジション・プランというイメージと、それから、個別企業のトランジション・プランというイメージと、いろいろなトランジション・プランの話が入っているのかなとも思いました。
【足達メンバー】 おっしゃるとおりですね。
【水口座長】 そして、民間の企業が個別につくるトランジション・プランは、民間の企業の自主的な、自由主義の国ですから、自由につくられる部分もあるのかもしれませんけれども、これを政策的に何かすべきであるという、こういう御意見なのでしょうか。その辺の感覚がよく分かっていなくて。
【足達メンバー】 おっしゃるとおり、国のトランジション・プランというんでしょうか、国の場合はストラテジーということになるのかもしれませんけれども、そのレイヤーと、金融機関のレイヤー、個別の事業会社のレイヤー、これが異なるということは事実で御指摘のとおりです。これをきちんと峻別して議論するということがまず必要であるというところは、座長が今おっしゃるとおり、私もそのとおりだと思っております。それを私の発言の中でごっちゃにしたようなところがあればお許しをいただきたい。
2つ目の個別の企業のトランジション・プラン、今、ボランタリーな、自由主義の国ですからという御発言がありましたけれども、例えばイギリスではこれをもう義務化しようとしているわけですね。それから、ヨーロッパでも、さっき林メンバーから、今までとちょっと違う風が吹いているということがありましたけれども、ヨーロピアンコミッションの執行部の中では、トランジション・プランのレギュレーションの議論が実際行われているわけでありまして、それに対応して日本はどうするのか。そして、これも繰り返しになりますけれども、TCFDやISSBの中で推奨されているわけですから、これをどう位置づけるのかということも併せて検討していかなければいけないと思います。
【水口座長】 ありがとうございました。おっしゃるとおりで、トランジション・プランの開示は義務化というのはあり得ますよね。開示をすることを義務化するというのは、ヨーロッパがよくやっていたやり方でもありますけれども、そういうことを通じて、実際にトランジション・プランを策定することを促していくという、やり方は確かにあるなとも思いました。ありがとうございます。
ほかに御意見とか……、藤井さん、お願いします。
【藤井メンバー】 ありがとうございます。コメントは2点です。
1つ目は、今のやり取りに関係して思ったことですけれども、トランジション・プランにつきまして、先ほど私のコメントの中で官民の議論が交錯するという表現をしましたけれども、例えば企業にトランジション・プランの策定・開示を義務化するといったような議論と並行して、それを金融機関が評価することを求めるといったような議論があります。
先ほど足達様から、事業法人のトランジション・プランがなければ金融機関のトランジション・プランはないというお話がありましたけれども、金融機関からすると、トランジション・プランというのは、まずは事業法人さんの戦略ありきで、その上で、金融機関が企業さんのトランジション・プランを評価するとしても、こうしろああしろと言えるほどの強い立場にあるわけではないと思います。なので、1つ目のコメントとしては、先ほど申しました官民の議論が交錯しているというところの中で、事業法人さんの課題としてのトランジション・プランと、それを拝見して評価するという金融機関側のトランジション・プランの課題、さらに、海外の議論の高まりに遅れないようにといったことも含めた課題といった、幾つかの論点があるということを思ったということをコメントとして申し上げます。
もう一つのコメントは、事務局さんの整理の1つ目、官民の取組の全体状況についてどう考えるかについてのというものです。今日の議論も、金融機関の投融資先支援とリスク管理という大きなトピックの中で、ほとんどの時間は移行計画の話になっていましたので、そういう意味での移行計画の議論の重要性というのは2つ目のポイントにリンクしてハイライトできると思う一方で、5ページにあります全体像の中で、右から2番目の欄の上から2つ目の大規模金融機関の知見を段階的に広げていくというのは、今日の話だけ聞いていると、先ほどちょっと私が申し上げた、規模とかビジネスモデルによって違いはあるという論点があると思います。
さらに5ページの、2つ目の大きな箱として移行計画、エンゲージメント、GX投資と、アジアを含めた海外という項目が上がっていますが、ここに挙がっている項目ごとに、グローバルな金融機関、大手地銀、中小企業さんを相手にした地域金融機関という言わば組合せ、マトリックスにしてみて、ここは埋まった、ここは埋まってない、ここは進んだ、ここはちょっと進んでないといった評価をされると、全体状況がよりクリスタライズされるのではないかと思いましたので、コメントさせていただきます。
【水口座長】 ありがとうございます。大変全体感をきちんと捉えたご意見で、えてして特定のところへつい議論が集中しがちですけれども、おっしゃるとおりだと思います。そこをもうちょっと、規模等を分けて精緻な議論していく必要あるということですね。ありがとうございました。
ほかにいかがでしょうか。石川さん、お願いいたします。
【石川様】 すみません、石川でございます。本日私、NZBAという立場で出ていますので、その立場でお話をさせていただくと、実はNZBAというこのアライアンスでも、メンバーにはトランジション・プランをつくって公表しなさいということを明記しているんですね。そういう意味でいうと、ネットゼロにコミットしている銀行は、我々も含めてですけれども、トランジション・プランをつくれと。ただ、それ以上のことは書いていませんので、もう少し詳しいことは、GFANZさんがガイドラインをつくっておられたりしますので、そういうものを見ながら、さっきみずほさんからも説明がありましたけれども、つくって公表しようとしていると。
NZBAでどういう議論になっているかというと、実はトランジション・プランはライセンスツーオペレートだと、そういうことを言っているんです。要するに、トランジション・プランをつくらない銀行というのはもうこれから業務をやっちゃいかん、ぐらいの位置づけにしようと。ただ、これはどういうことを我々は言わんとしているかというと、しっかりとお客様のまさにトランジション支援をすることをもって我々はネットゼロを達成しましょうということ。
他方で、さっき池田さんからも若干ありましたけれども、FSBでも若干そういう議論もあるような気もしますが、いやいや実体経済よりもとにかく銀行自身のバランスシートをグリーン化しようというような、リスク管理という表現を借りつつも、とにかくリスクを減らしなさいというような議論もあったりしますので、トランジション・プランと同じ話をしながらも、しっかり実体経済の支援だよねという議論と、いやいや、リスク管理でしょうという議論がありますので、やはりしっかり日本あるいはアジアにおいては、お客様の支援をしっかりとするためのトランジション・プランなんだと、そういうことを明確にしていただけると、より日本にとってもアジアにとっても加速をするにはプラスになると思っております。
石川、以上です。
【水口座長】 ありがとうございました。なかなかリスク管理なのか実体経済なのかの議論は、同じことの裏表でありながら、どういう時間軸で見るかによっても違うということかもしれません。時間軸を長くしていけば多分同じことになるのかなと思いつつも、おっしゃるような御指摘はそのとおりだと思いますので、そこもよく考えていかなければと思います。
ほかに何かございますでしょうか。一旦ここで、いろいろ御質問とか御意見もありましたし、もし西田さんのほうからコメントがあれば伺いたいと思います。
【西田サステナブルファイナンス推進室長】 資料の配付や議論のやり方について何回かコメントをいただいております。今回の5ページにあたる資料は10日程前にお配りしましたが、資料全体は4日前になりました。様々な考え方やフレームがあり、組み立てが難しいものですから、マテリアルを集めることは早くできても、組み立てに時間がかかってしまうかなと思います。よろしければ、5ページのような資料は比較的早く作りつつ、こんなことをマテリアルとして集めていますというものを少し早めに共有させていただいて、最終形のまとまったものは直前に配付させていただく形にさせていただければと思っております。
【水口座長】 ありがとうございます。
何かコメントありますか。林さん。
【林メンバー】 いつも、これはこの場だけじゃなくて申し上げるんですが、本当に御当局の方々の御負担が激しいと思っていて、御無理のない範囲でいいのでサステナブルにお願いいたします。
【水口座長】 そうですよね。全くそのとおりで、ありがとうございます。
【西田サステナブルファイナンス推進室長】 ありがとうございます。
【水口座長】 ほかによろしいでしょうか。
それでは、本日は以上となりますが、最後、何か事務的なことはもう?
【西田サステナブルファイナンス推進室長】 先程、林さんからCSDDDの話がありましたけれども、16ページに御紹介させていただいています。この暫定合意だったものが適用になれば、移行計画の策定を義務づけることになっていたはずだがどうだろうということで、まさに直近でかなり議論が当地であるということです。
【林メンバー】 ほぼなくなったみたいです。
【水口座長】 出ていましたね。
【林メンバー】 リーガルリスクが懸念されたとのことですが、NGOはもう大激怒みたいです。
【水口座長】 どこの国でもそうですよね。
ありがとうございました。というわけで、本日も大変建設的な活発な議論をいただきまして、誠にありがとうございました。
次回は3月28日木曜日、地域におけるサステナブルファイナンスの推進について議論したいと思います。次回もよろしくお願いいたします。
それでは、本日は以上で終了したいと思います。御協力いただきまして、ありがとうございました。
―― 了 ――
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