「サステナブルファイナンス有識者会議」(第23回)議事録

日時:令和6年5月28日(火曜日)10時00分~11時30分
 
【水口座長】  それでは、只今より、サステナブルファイナンス有識者会議の第23回の会合を開始したいと思います。
 
 御多用のところ、御参集いただきまして、ありがとうございます。
 
 議事に移ります前に、メンバーの変更がございましたので、御紹介したいと思います。全国銀行協会の安地様です。どうぞよろしくお願いいたします。
 
【安地メンバー】  よろしくお願いします。
 
【水口座長】  それでは、議事に入りたいと思います。本日の議事は大きく3つ予定しております。まず、前回のまとめ、そして企業開示について、そして最後に、サステナビリティの多様な課題ということで用意しております。最後の多様化するサステナビリティ課題につきましては、岸上さんにもプレゼンテーションを御準備いただいております。本日もよろしくお願いいたします。
 
 それでは、まずは前回のまとめということで、前回の議論につきまして、事務局から御報告をお願いします。
 
(事務局資料2ページに基づき説明)
 
【水口座長】  ありがとうございました。ここまでで。小野塚さん、お願いします。
 
【小野塚メンバー】  ありがとうございます。前回御登壇いただいた商工会議所の方、それから北九州の方に、私、再度フォローアップをさせていただきましたけれども、大変お二人とも、こういった有識者会議にそういった視点を持っていただいたことを快く思ってくださっていましたし、あと、特に北九州は私昨日伺って、市役所でお話をさせていただいてきたんですけれども、やはり我々が地方で取り組んでいることを実際に現地の視察なんかも含めてやっていただけたらすごいいいのではないかというふうな次なる交流の機会みたいなものを御要望されていましたので、共有させていただきます。
 
【水口座長】  ありがとうございます。地域の自治体で取り組んでいるものも有識者会議と連携していきましょうということですかね。
 
【小野塚メンバー】  という御要望でしたので、そういったことが、中央だけでなく、日本全国に広がると、特にこういったトランジションに関しては、悩みが深い地域、産業というのがあるかと思いますので、やっていけたらいいんじゃないかなと思います。
 
【水口座長】  ありがとうございます。ほかにいかがでしょうか。
 
 大体前回はこのような感じでしたということでよろしいでしょうか。
 
 それでは、先を急ぐようですが、2つ目の議題ですけれども、企業開示の充実ということで、企業の開示につきまして、開示課の野崎課長にもお越しいただいております。ありがとうございます。野崎課長と西田さんからそれぞれ御報告お願いできればと思います。
 
(事務局資料に基づき説明)
 
【水口座長】  ありがとうございました。
 
 それでは、ここから皆様から御意見、御質問等を伺いたいと思います。国内における企業開示につきましては金融審議会で議論しているところですので、こちらで結論についてどうこうということではないと思うのですけれども、野崎課長も来られておりますので、今後どういう点に留意していくべき、どんな論点があるのかということについてインプットいただければ、今後参考になるのかとも思います。御質問等も受けたいと思いますが、いかがでしょうか。どなたからでも結構ですけど。
 
 では、岸上さん、鳥海さんの順番で行きたいと思います。岸上さん、お願いします。
 
【岸上メンバー】  ありがとうございます。主に7ページ、8ページで御紹介いただきました導入時期と保証との関係のところですけれども、実際委員会のほうで既に議論されているかもしれませんので、把握していなければ申し訳ないですが、恐らく保証する側も今急ピッチで研修を行って、保証する専門性を身につけるという現状かと思います。そうした中で、これはあくまで個人的な意見になりますが、保証する側も、試運転ができる期間を設けて、保証の質の確認をする期間があるとよいのではないかと思いました。
 
 同時に、保証の質を確認する各企業内の監査役ですとか担い手のトレーニングも同時に行って、保証する側の質と保証を確認する側の社内の質向上の期間を、それを何と呼び、規制対象にするかどうかというのは別だと思いますが、そういった期間があるとよいのではないかと思いました。
 
 あともう1点ですけれども、14ページの論点のところのバリューチェーンのデータの収集についてですけれども、以前もちょっとコメントさせていただいた点かと思いますが、他国に比べまして、大手企業のバリューチェーンの中で、特に日本の中ですと小規模の農家の方ですとか、個人の技術者の方といった非常に小規模な方々がバリューチェーン上にいらっしゃるかと思います。それに関する個別の賛否もあると思いますが、バリューチェーンの測定をするといった中で、小規模な個人の方々に意図しない影響がない形で測定と開示をするというところを考慮する必要があるのではないかなと思いました。
 
 以上です。
 
【水口座長】  ありがとうございます。いろいろお答えもあろうかと思いますが、少しまとめて御意見いただきたいと思います。鳥海さん、藤井さん、手塚さん、そして林さんの順番で行きたいと思います。まず、鳥海さん、お願いします。
 
【鳥海メンバー】  ありがとうございます。既に野崎さんのお話の中というか、金融審の中でも意見出ているところですけれども、2点申し上げたいと思います。
 
 1点は基準のインターオペラビリティのところで、これはISSBないしSSBJということだけでなく、やはりCSRDとか、域外適用も含めて、本邦企業の負荷が必要以上に高くならないようにということで、こちら御助力をお願いしたいということが1点です。
 
 それから、国際動向を注視しながらという形でおっしゃっておられたと思うんですけど、まさに米国についても、SEC基準についても、今、規則停止していると認識しておりますので、これ両サイドからの訴訟が提起されていると認識しておりますし、カリフォルニア州の規制についても、全米商工会議所から提訴しているというふうにも認識しておりますので、この後、選挙の動向もありますし、全体、グローバルにどういう動きになっていくのかということを見極めながら決めていく必要があるだろうと思っておりますので、その辺りも改めてお願いしたいと思っております。
 
【水口座長】  ありがとうございます。では、藤井さん、お願いします。
 
【藤井メンバー】  私からは、西田さんから最後にご説明のありましたバーゼル規制についてです。本会議は銀行の健全性規制を議論する場ではないということは理解した上で、サステナブルファイナンスにも影響を与える可能性があるということで、今ある議論についての認識共有の意味でコメントさせていただきます。
 
 事務局資料の参考の39ページにあるとおり、気候関連金融リスクは、銀行の安全性と健全性及び広く銀行システムの安定性に影響を及ぼし得るものということで、いわゆる第3の柱開示の提案がなされているわけですけれども、その中では、ファイナンスド・エミッションをセクターごとに公表するということが提案されています。もともと第3の柱は、銀行の健全性規制の中で、自己資本比率、それから監督上の検証、これに加えて市場関係者からの監視の目というのが第3の柱で、銀行のリスクを見るというものですけれども、この提案には大きく2つの点で留意する必要があると思っています。
 
 1つは、ファイナンスド・エミッションをセクター別に開示するというところで、本会議でも議論したとおり、ファイナンスド・エミッションだけを捉えてしまうと、例えばトランジション・ファイナンスは一時的にエミッションが増えるという形になるので、これを第3の柱開示を見る関係者が銀行のリスクであると誤解してしまうと、銀行がトランジション・ファイナンスに消極的になるというディスインセンティブが生まれる可能性があるという点です。
 
 もう一つは、今までTCFD、あるいはISSBでも、ある意味丁寧に、誤解が生じないように、気候関連リスクについては常に「リスクと機会」という形で開示をするように注意深く構成してきたのに対して、本提案ですと、バーゼル規制上の銀行のリスク開示ということになりますので、「リスクと機会」の、いわば両手の片側だけに焦点が当たってしまうというリスクがあるかと思っています。
 
 冒頭申しましたとおり、健全性議論は、本会議のテーマではないですし、かつ、本バーゼル提案はまだ市中協議中ではありますが、本提案については銀行業界でも非常に深刻に受け止めていると理解していますので、我々が促進、後押ししないといけないトランジション・ファイナンスに対してディスインセンティブにならないように、民間側からももちろんですけれども、バーゼル委員会の議論でもぜひ留意いただきたいということでコメントさせていただきます。
 
 以上でございます。ありがとうございます。
 
【水口座長】  ありがとうございました。それでは、手塚さん、お願いします。
 
【手塚メンバー】  ありがとうございます。開示する事業会社の立場なので、少しこれについてコメントさせていただきます。詳しくはパブコメもかかっているようですので、会社あるいは業界団体としても提出させていただこうとは思っております。
 
 最初に開示の負荷についてなんですけども、実は日本の主要産業は省エネ法、温対法等で極めて詳細なデータを政府に報告をしております。ただ、このタイミングというのが、期が締まってから数か月というタイミングではなくて、ずれがあるんですね。
 
 したがいまして、スコープ1、2の排出量の報告に関しては、少なくとも政府の金融関連の開示と温対法の開示とか既存の報告制度の間で平仄を合わせていただくか、あるいは、過年度の温対法の報告を使えるような一種の緩和措置のようなものがいただければいいかなと思っております。
 
 それから、スコープ3の開示は、アメリカでもSECが先延ばしたという話がございましたけれども、先ほど冒頭に開示の目的が比較可能性を担保するということだったと思うんですけども、スコープ3については、定義も、中の詳細の計算の仕方も様々でございまして、ルールが決まっていない状況です。特に使用段階での排出のように算出困難なものもございます。そういう状況の中で、少なくともスコープ1、2、3を合算して多いの、少ないのということを議論するのは極めて不適切と考えております。何らかの根拠に基づきスコープ3の開示をしているということが評価されるというのは結構なことだと思うんですけども、これについて数字の多寡を議論するというのは時期尚早かと思われます。
 
 また、連結ベースで見ますと、かなり小規模の関連子会社を例えば私どもも持っておるわけですけども、そういうところもスコープ3の開示対象にしていくのかということで、対象についても何らかの閾値が必要になってくるのかなと思います。
 
 それから、内部炭素価格の使用の有無あるいは数字の開示という項目がございます。使用しているかどうか。例えばマネジメントの手法として内部価格を使っているかというようなことの開示は、これも結構なことかと思うんですけども、実際に価格が幾らであるかということを開示するのは非常にこれもミスリーディングな問題だと思っています。内部炭層価格の使い方としては、上限として使う場合と下限として使う場合が当然あるわけですし、それからプロジェクトごとに内部炭素価格を使う企業もあれば、事業部単位あるいは会社全体で設定しているというようなケースもございます。つまり、価格の数字にどういう意味があるかということはそれぞれの使い方によって異なってまいりますので、これを横並びで評価するということは極めて不適切だと思われます。その辺の事情を配慮した開示基準にしていただくことが必要かなと思っております。
 
 それから、気候関連の移行・物理リスクの脆弱資産に関する金額開示という項目が案として提示されていますけども、これも、脆弱資産の定義というのは一体どういうものなのか、あるいはそれは一律のものなのか、あるいは事業特性ごとに異なるものなのか、こういった指標がないと、企業の側にこれを一律に求められても非常に判断に困るわけです。
 
 端的に申し上げますと、これは気候変動ではないですけども、例えば首都直下型地震なんていうのは、6割、7割の確率で向こう何十年以内に来るということが言われているわけですけども、仮にそういうことを定義として使うのであるとすると、首都圏にある事業資産はほぼすべからく脆弱資産になってこの金額を開示するということにつながりかねないわけです。それと同じような問題が気候変動の事業リスクの脆弱資産の開示には伴っているということを御配慮いただけるとよろしいかなと思います。
 
 私からは以上です。
 
【水口座長】  ありがとうございました。それでは、林さん、安地さん、長谷川さんの順番で行きたいと思います。
 
【林メンバー】  ありがとうございます。皆さんおっしゃられていることとあまり変わらないんですが、やはりスコープ3の取扱いというのは本当に難しいと思っていて、金融機関についてはスコープ3まで求められる中で、事業会社については必ずしも全部じゃないとなると、バリューチェーン全体で、金融機関としてどう考えたらいいのかということがあると思っていますし、ファイナンスド・エミッションの取扱いですとか、実際に金融機関としての負担と申しますか、複雑さというのがありますので、そこはきちっと整理していただけるといいなと思っております。
 
 あともう一つは、同じく課題のところで、15ページですかね、総会前提出のタイミングということで御議論いただいていて、これ本当に難しい問題だと思うんですが、これは質問なんですけれども、総会前提出のありようについてはいつ頃をめどにお決めになるとかというのはあるんでしょうか。多分準備のことも、総会って皆さんにとっては、ものすごく大変なことなので、その辺りのタイムラインがもし現時点で見えていれば御教示いただきたいと思います。
 
 以上です。
 
【水口座長】  それは後ほどお答えいただくことにして、安地さん、長谷川さんの順番で行きたいと思います。安地さん、お願いします。
 
【安地メンバー】  安地でございます。開示の原則というか、基本がリスクと機会なので、特にリスクのところなんですけれども、今年度は2回目のパイロットエクササイズということで、リスクの枠組みもどんどん高度化されていくと思うので、この有識者会議においてもそちらの流れをしっかり注視しておかないといけないかなと思います。
 
 正直、我が社の開示を見ても、リスクのところは、移行リスク、物理的リスクともに2年前のパイロットエクササイズのときにやったのをそのまま載せているくらいでして、今は何となく、先ほどの藤井さんの意見にも重なるんですけれども、ファイナンスド・エミッションがリスクの代わりに載っているかのような雰囲気ですので、リスクに関する理解というのを、定義というか、そこをクリアにしていくべきだと思います。
 
 以上です。
 
【水口座長】  ありがとうございます。では、長谷川さん、お願いします。
 
【長谷川メンバー】  1点目は、鳥海さんの意見と同じですが、経団連のサステナビリティ関係の部会のメンバー企業の間でも、現在、欧州のCSRDに対応しなくてはならない企業が結構多く、その作業が大変という意見をよく聞いております。グローバルベースラインで1つの基準に統一できればよかったですが、そうでないとしても、ISSBとCSRDのインターオペラビリティはぜひ確保していただきたいということです。また、これは金融庁がということではないとは思いますが、やはり、欧州のCSRDや、今度入ってくるCSDDDなど、欧州の独自のコンセプトや、用語の定義などを理解するのが難しいという意見も聞いておりまして、何か研修のようなものがある良いのではないかと思ったりはしました。もう一つは、ISSBの次のアジェンダ協議に関してですけれども、生物多様性と人的資本ということで決まったということですが、生物多様性について、20ページには、TNFDの関連する側面も含まれると書いてありますが、TNFDはダブルマテリアリティを採用していると思うのですが、ISSBはシングルマテリアリティで来ていると思うので、その辺がどうなっていくのかということが1つ御質問です。
 
【水口座長】  ありがとうございました。ちなみに、TNFDはダブルとシングルと両方使えるんですよという御説明ですね。
 
【長谷川メンバー】  そうなのですか。
 
【水口座長】  それでは、小野塚さん、高村先生の順番でお願いします。
 
【小野塚メンバー】  ありがとうございます。私からはちょっと違うアングルで2つほど申し上げますが、有報関連になります。私も、金融庁サステナブルファイナンス有識者会議に加えて、金融庁の開示の記述式、好事例の勉強会にも出させていただいたり、あと経産省の開示の在り方懇談会にも出させていただいています。
 
 そこで話題になるのが、有報という出口の開示物に関する手間とか、あと、デジタル化不足みたいなところはやはりあると思っていて、実際に入り口のところでスコープ1、2を開示するためのツールという話は先ほどありましたけれども、やはり有報、とても世界的に見ても開示物として大変洗練されていて、XBRLも使われているという中で、もう少しこの辺りを工夫することで、開示を助ける、緩和するというようなことを考えられないかという、デジタル側面の部分についての議論をぜひ進めていただきたいなと思います。
 
 特に記述式のところで、事業会社さんから出てきたのは、ある特定のシステムを使うと、統合報告書の内容を入れ込もうとすると対応してないので、開示したいけどできないみたいな話があるのは大変もったいないと考えていますので、その辺りですとか、あとは、本当にAI等で読み込めるようなXBRL化というところですね。
 
 それも関連してタイミング、以後の開示のタイミングなんですが、これは総理も海外の投資家との対話の中で話題にされていて、そこはやはり私も投資家サイドで20年以上いましたけれども、例えば取締役を選任するに当たっても、どういう実績があった上で今年選任するのかって分からないのは大変不思議な状況だという根本的な問題があるところで、そこをやはり、今回、東証さんがPBRについて言及をされて、本当に底上げがされたというような、そういった、規制まではいかなくても、期待値の設定ということで取り組んで、日本の市場の透明化、タイムリーネスというのを上げていくことはできないかということをぜひ御検討いただけたらと思っております。
 
 私、今、上場事業会社の社外取をやっておりますが、タイミング論については相当議論して、やはり取り組めるところから取り組んでいこうじゃないかという、やってみたらできるかもしれないというような議論もありますので、ぜひその辺りをシステム化と併せてベースアップを図っていくような方向に道筋をつけていただけたらありがたいと思っております。
 
【水口座長】  ありがとうございます。では、高村先生、お願いします。
 
【高村メンバー】  ありがとうございます。御報告ありがとうございました。私も井口さんはじめ、皆さんと一緒にワーキングに参加をしておりますので、その繰り返しではなく、特にサステナブルファイナンス有識者会議の文脈で3点申し上げようと思います。
 
 1つは、スコープ3の使い方も含めて、開示情報をどういうふうに使うのか、それは利用者がどういうふうに使い評価をするのかということが、同じく開示情報を出していただくにしても、非常に重要になってきていると思います。それは開示をする側の情報の開示の質と同時に、利用者がどのように利用していくかと。これはこれまでの発言の中にもあったと思います。
 
 既に金融庁で開示について投資家など利用者の観点からのグッドプラクティス、よい事例を集めてまとめていただいていると思うんですけれども、まさに投資家と開示側の建設的な対話を進めていく上で、さらにどういう取組が必要かという点については、議論を深めていくべき点ではないかなと思っております。
 
 今挙げましたグッドプラクティス集ですとか、様々な主体のところでの開示に関わる知見の共有といいましょうか、こうした取組をどう底上げしていくのかということでもございます。
 
 2点目は、前回の議論に関わりますけれども、やはりバリューチェーン全体、スコープ3に典型的ですけれども、バリューチェーンからの情報の入手あるいはバリューチェーン全体に対するDD、どういうふうにしていくかというのは非常に重要な事項になってきていると思います。
 
 これ、日商・東商さんから前回も御報告ありましたけれども、中小企業のところの対応というのはかなり進みつつも、まだなお取組を強化していく、あるいはこれ日商・東商さんからもありましたけれども、情報の欠如と人の欠如と資金の欠如というのを中小企業の取組の課題として挙げて、中小企業さんから上がってきていると思います。ここはやはり前回の議論も含めて、改めて、今度は開示、スコープ3に典型ですけれども、開示の水準を引き上げていく上でも重要な課題になっているんじゃないかと思います。
 
 3点目は、有報の総会前開示について、これ奥野委員から出ていたと思いますけれども、サステナビリティ報告の同時報告との関係でやはりしっかり議論すべき点だと思っていまして、他方で、先ほど、早く、あるいはどういうスケジュールでとありましたように、実務的なインパクトも多い事項だと思います。ここはぜひ具体的にどういう課題があって、どう進めるかというのを検討いただきたいと思います。
 
 すいません、最後手塚さんから御指摘あった点は、どちらかというとSSBJと日本版の案について御指摘をいただいたように思いまして、これは多分ぜひ御意見を、市中協議の意見を出していただきたいと思いますが、温対法と同時報告の関係ですとかについては、日本版の基準のところでも可能とするような基準案にしていると思います。それから内部炭素価格のところも、幅での差をつけた開示の案を出していると思います。ここはぜひ御意見をいただければ検討することができるかと思います。
 
 以上です。
 
【水口座長】  いろんな議論が錯綜するんですが、吉高さん、お願いします。
 
【吉高メンバー】  どうもありがとうございます。既に多くの委員の方がおっしゃっていただいたことは私も同意でございまして、1点申し上げたいのが、8ページにございます、義務化の開始のタイミング、これはよく考えられて御用意されている案が2つございますけども、私、昨今感じるのは、非常に情報開示に関して、確かにバリューチェーンにおける中小企業の開示に関しましては課題も多いんですけども、一方で、AIを活用した新たなテック企業、情報開示に対するテック企業が各業界ででき上がっておりまして、どんどんとそこでスタンダードができ始めると。そのときにSSBJの基準というものと本当に合ってくるのかというのが大変危惧しているところです。
 
 例えば建設業界のサプライチェーンと自動車のサプライチェーンと繊維業界、アパレルでまるっきり違うサプライチェーンの中で、どのような情報開示が、今最先端で何が起こっているかというのを国内でも把握しておかないと、こちらの海外のばっかり見ていると、齟齬が起こってしまうのではないかというのを危惧しております。
 
 それらを踏まえて、では任意の適用の間に一体何ができるのかということとか、そういったものをきちっと把握しながら、中小企業、地方にも対応していただきたいと思っております。
 
 以上でございます。
 
【水口座長】  ありがとうございました。大変いろんな議論が出てきて、野崎さんに全部答えてくださいというのはなかなか大変だと思うんですけども、御感想的なことと、あと幾つか御質問がありました。林さんからいつからなんですかというお話もありましたので、お答えできる範囲でコメントいただければと思います。いかがでしょうか。
 
【野崎企業開示課長】  大変幅広い観点から貴重な御意見、誠にありがとうございます。ちょっと長くなりますけど、皆様からいただいた御意見についてお話しさせていただいて、追加で倉持室長のほうからお話しさせていただければと思います。
 
 まず岸上さんからいただいた保証についても、準備期間をしっかり設けるということでございます。まさに今、統合報告書で任意保証というものもやられていますけども、それはやはり制度の枠組みに入っていくということなので、いろんな準備が大変だと思いますので、企業の方、それから保証を提供する方で、今監査法人が財務諸表の監査をやられていますけども、財務諸表監査人だけじゃなくて、それ以外の人も保証の提供者となり得るので、そういった幅広い担い手が円滑にこの制度に入っていけるようにしっかりと状況を見ていきたいと思います。
 
 それから、バリューチェーンのデータ収集に関しましては、特に小規模の事業者に対して過大な負担にならないようにというところはしっかり見ていければと考えてございます。
 
 鳥海様からいただきました基準のインターオペラビリティ、非常に重要でございます。一方で、CSRD、長谷川様からいただいたように、CSRDはダブルマテリアリティというところで、シングルマテリアリティとダブルマテリアリティの差というのは埋められない部分はありますが、共通する部分でしっかりと重複を解消していくという取組は我々もしっかり国際的に打ち込んでいければと考えてございます。
 
 あと、やはりインターオペラビリティ、もともとISSB基準が何でつくられたのかということは、各国がばらばらで、サステナが大事だということでばらばらでやり始めて、それがアルファベットスープだと言われて、それを解消しようということで国際基準ができていますので、その趣旨をしっかりと、皆、やっぱり各国が協力しないとまたアルファベットスープに戻ってしまいますので、そこはしっかりと働きかけていければと思います。そうじゃないとやっぱり投資家、企業、双方にとってコストがかかってしまうということになろうかと思っております。
 
 アメリカなど諸外国の動きをしっかりと見つつも、やっぱり筋はアルファベットスープをやめるということでございますので、そこはしっかり言っていければと思います。
 
 手塚様のほうから事業会社が抱えられている問題意識、非常に丁寧にいただきまして、高村様から回答いただいたように、SSBJの役割が大きいかなと思っていますけども、我々、当局で例えば温対法との関係は、環境省ともしっかり話し合っていければと考えてございますので、引き続きSSBJに寄せられるコメントも踏まえて、我々も制度の改善について検討していければと考えてございます。
 
 林様からいただいたスコープ3の取扱いというところ、まさにバリューチェーンのところはしっかり見ていくという話と、あと総会前提出についての議論のめどでございますけども、これは何年も前から議論されてきて、なかなか進んでないのがなぜなのかという実態をしっかりと我々も勉強していく必要があります。サステナビリティ情報という追加的な情報開示が企業に求められる、さらに保証も出てくるという中で、期末から3か月の開示が現実問題として大変になるので4か月にずらしてはどうかという議論があります。アメリカでは2か月なんですけど、ヨーロッパでは4か月になっている。期限を延ばす一方で、有報も総会前という、両方の要請を満たすためには、従来的な実務の工夫だけでは難しいので、そこは制度論とかも含めてしっかりと考えていく必要があります。いつ頃というよりは、実際よく投資家のニーズとか、海外の状況とか、企業の具体的な実務、それをしっかりと我々も調べた上で検討を進めていければと考えてございます。
 
 それから、長谷川様の話、TNFDは倉持さんから後ほど答えていただきます。
 
 小野塚さんからいただいた有報の話ですが、有報については、いろいろな御要望をいただいて、XBRLのタグづけとか、かなり詳細に記述情報についても進めているというところで、サステナビリティ情報のタグづけを今後どうしていくのかというところは、ISSB基準とのインターオペラビリティも含めてしっかり考えていく必要があるかなと思ってございます。
 
 あと、統合報告書で書いているような図とかも有報で載せられるようにという工夫はしていて、一部の企業は載せられているところです。図とか表も使って分かりやすい開示を有報の中でもしていただいているというところでございますので、まだ足りない部分がもしあるのであれば、引き続き工夫をしていただければと考えてございます。
 
 それから高村様からいただいたのは、スコープ3の話とか、あと開示の質、利用者がどう使っていくのかというところは我々も非常に重要と思っていまして、やっぱりルールで情報開示こうしてくださいと企業の方々にはお伝えしていますが、実際にどう活用されているのかがよく分からないというお声がある中で、開示の好事例集を2018年から公表しておりまして、そういう中でやっぱり投資家はこういうところに着目しているというところをより具体的にお示ししていければと思っています。
 
 今日も簡単に31ページ、32ページのほうで人的資本を例にとって御紹介させていただきましたが、そういった取組を引き続きしっかり深めていって、最終的には投資家と企業が建設的な対話を、中長期的な企業価値向上のための建設的な対話に資する取組みを後押ししていくことが情報開示の目的なので、その本来の目的をしっかりと常にお示しし続けるというところが重要なのかなとは考えてございます。
 
 最後、吉高様からいただいた、サプライチェーンにつきましては、いろんな業界でシステムの構築が始まっており、我々も一部の業界からは勉強させていただいているのですが、そういったところと制度の企画立案の議論がずれないような形で引き続きしっかりコミュニケーションをとっていければと考えております。
 
【倉持国際会計調整室長】  ありがとうございます。長谷川様からいただきましたTNFDに関してですが、確かにTNFDは、ダブルマテリアリティの色彩が強いです。ISSB側とコミュニケーションをとっていますが、ダブルマテリアリティの考え方をとるという話では無くISSBとしては、基準設定を効率的に進めていくために既存のいろいろな基準をできるだけ参考にしてつくっていくという方針で、その一環で見ていくということでした。
 
 あくまでシングルマテリアリティを引き続き軸にしていくというところが現時点でのISSB側のポジションです。
 
 同じような例が実はEFRAGのESRSとの間でもありまして、EFRAGの基準、ダブルマテリアリティですが、ISSBの基準とどこが共通しているのかという分析をして、インターオペラビリティに関する文書を今月初めに公表しています。
 
 そういった観点から、ISSBは既存のいろいろな枠組みを見ながら、インターオペラビリティを確保しながら進めていく。その中でシングルマテリアリティという軸は少なくとも現時点においては保持していると理解しております。
 
【水口座長】  ありがとうございました。何か追加でコメントありますか。
 
 なかなか開示の議論は、幅が広いですけども、大きく分けると、実務的に対応できないではないかとか、実務的にどう対応するのかという、実務上の対応の問題の議論と、理念的にといいましょうか、建設的な対話に資する情報とは何なのかという理念の問題があって、実務的な議論は今だいぶしていただきました。理念的な部分では恐らく、例えばファイナンスド・エミッションとかスコープ3というものとトランジションという考え方の関係、どこがリスクでどこが機会だと考えるのかということの考え方ですとか、ダブルマテリアリティとシングルマテリアリティですとか、ダブルとシングルの多分間にあるシステム的なリスクですとか、そういったことが理念的には議論になるのかなと思います。これはなかなかここで議論したからといって簡単に答えが出るものではないので、引き続き議論していければと思いますし、意見交換を活発にできればと思っております。よろしくお願いいたします。
 
 よろしいでしょうかね。
 
 それでは、この先に進みたいと思いますが、多様化するサステナビリティ課題、次の議題、まず事務局から御説明いただければと思います。
 
【西田サステナブルファイナンス推進室長】  (事務局資料に基づき説明)
 
【水口座長】  ありがとうございました。それでは、続きまして、岸上さん、お願いいたします。
 
【岸上メンバー】  よろしくお願いいたします。時間も限られておりますので、早速内容に移りたいと思いますけれども、先週のRIジャパンに参加された方は既に御覧いただいている可能性もございますが、先週、機関投資家向けの「ビジネスと人権」に関するガイドというものが公表されました。
 
 2ページのところを見ていただきますと、先ほど事務局のほうから御紹介されましたとおり、国内で行動計画及びガイドラインの策定といった取組の中でビジネスと人権に関する認識と取組が加速している状況ではあるかと思います。
 
 ただ一方で、各国の法律ですとか施策に基づいてやや受け身なきっかけで取り組まれる企業が多い中で、人権への負の影響の部分の対応と同時に人権尊重による企業や社会にとってのプラスの影響、この両側面を機関投資家としても促せるのではないか。ただし、それを促すためには、機関投資家自身が、ビジネスと人権が何を意味して、どうして取り組むべきで、どのように取り組むべきか、それを整理する必要があるのではないかという背景で策定されたガイドとなります。
 
 私は、ILOが取りまとめを行っておりまして、PRIの署名機関で関心を持ちました機関投資家の方々が関わる中でファシリテーターとして関わりましたので、その立場で今日は御紹介させていただいております。
 
 3ページに行っていただきますと、機関投資家向けということですので、アセットオーナー及びインベストメントマネジャーといった機関投資家が主な対象、そして、投資先の企業にも機関投資家の目線を理解していただくという、3者に対して、読者層、そして行動変容を期待している内容となっております。
 
 次お願いいたします。人権といいますとどうしても児童労働ですとかネガティブな負の影響をリスクとして捉え、人的資本は企業にとっての機会といった形で先入観を持たれることも多いかと思います。ですので、今回ここで概念図のほうで皆様と非常に議論を重ねた中で整理しましたが、人権という視点の中で、左側を見ていただきますと、人権侵害が生じていると事業リスクにもつながってしまい、あと、関わっている人々が、社会の構成員、組織の構成員として育たないので木が枯れてしまう。一方で、人権尊重が行われると、そのような人々が活用されて、木の成長にもつながる。その人権侵害から人権尊重への企業の関わり、人との関わりの変化を促す役割として機関投資家の役割があるのではないか。黄色の矢印になりますけれども、これを今回のガイドの根本的な概念図として整理しております。
 
 次お願いいたします。人権への取組が例えば人権方針を策定して、人権デューデリジェンスのプロセスを導入する行動が行われていると思います。一方でどういった具体的な人権を尊重するために人権方針を掲げて、どういった人権侵害を防ぐためにデューデリジェンスを行っているか、そこの「何」といったところが、投資家サイドの投資先もなかなか理解されていないという現状に問題意識が機関投資家の中でもございました。6ページに行っていただきますと、今回のガイドで全てを紹介するというのは現実的ではないので、考えるきっかけを提供していますが、右図のほうで見られますとおり、国際的に認められた人権がこれだけ多くあるということと、その中で、具体的にこういったそれぞれの人権が各企業の活動の中でどういった関連性があって優先すべきかということを投資家と一緒に学んでいく。その意図でこの「何」というところでまとめています。
 
 次行っていただきますと、人権が何かというのを理解した上でビジネスとどう関わりがあるかということですが、もちろん人権を保護する義務は国家にありますが、企業としては、バリューチェーンを通じて非常に多くの人々と関連がある中で、人権への影響も及ぼし得る。その立場でビジネスと人権に関する指導原則の中で人権尊重を行う責任があるということを明記しておりますので、この指導原則を投資家としても理解する。そして、もちろん投資先企業の責任もですが、機関投資家自身が一組織として人権尊重を行っていく責任があるということを大前提として、投資行動にもそれを反映させていくということを整理しています。
 
 次お願いします。正直、皆様、機関投資家の方々と議論している中で、人権尊重を行うことに反対する方はいらっしゃらないと思うんですね、概念上。ただし、投資行動にそれを落とし込むリソースや優先度も含めて上げるためには、自ら納得し、そして社内の組織的に説得するツールが必要ということで非常に多く議論しました。なので、「Why?」というところの中では、あくまで投資家の視点からしてどのようにビジネスと人権の取組を整理するかということをまとめています。
 
 9ページをお願いします。先ほどの概念図を思い出していただきながら見ていただければと思いますが、まず1つ目の整理としましては、人権リスクというのはあくまで事業リスクではなくて、人権を持っている私たち一人一人の消費者、労働者、生活者の立場で負の影響を受けないようにというところがまず1点目になります。
 
 一方で、人権リスクを放っておくと、それが事業リスクにもつながっていき、結果的に企業価値の毀損にもつながってくる。そのため、人権への負の影響を予防・軽減することが企業価値の毀損を防ぐことにもつながるというのが1つ目の整理となっています。
 
 右側見ていただきますと、一方で人権尊重ですが、例えば消費者の人権を尊重することによって、企業のレピュテーションの向上にもつながり、購買意欲の向上にもつながる。労働者においては、人権が尊重されることによって、労働に対する効率性も上がって、人的資本の構築にも貢献できるので、そういったプラスに影響。そして地域住民に関しては、やはり尊重されることによって、例えば新規事業開発を行う中で、事業を延期しなければいけないといったコストも下げるということで、人権尊重への取組が様々な企業の価値に還元することで結果的に企業価値の向上にもつながるというのが、投資家として人権尊重に企業の取組を促す理由づけがあるのではないかと整理しております。
 
 「なぜ」に納得したという前提ですが、具体的にどのように取り組むかというところで、「How?」、10ページに行っていただきますと、細かくは今日全ては御紹介できないですが、5つの観点で整理しております。
 
 1つ目としては、もちろん投資行動を通じてですが、大前提として組織全体として人権尊重に取り組む必要性を企業と同様に機関投資家としてもトップコミットメントと体制づくりを行っていく。その上で、投資行動で人権尊重を取り組んでいくというところですけれども、11ページ行っていただきますと、投資行動の中で具体的にどのように考慮するかということで、3-1といったところなんですけれども、様々なアプローチでサステナビリティを投資に考慮する取組をされているかと思います。従来の人権の考慮といいますとどうしてもネガティブスクリーニング、ダイベストメントという手法が多かったかと思いますけれども、それが必ずしもライツホルダーの視点に立つとプラスの影響でもない可能性もあるので、ダイベストメントという手法を否定するわけではないんですけれども、最終手段としてきちんと慎重に行うべきというところなどを整理しています。
 
 初めて取り組まれる機関投資家にとって、なかなか個別課題の知見ですとか、自社だけでは把握し切れないときの第三者機関のイニシアチブや情報というところで、参考資料の中で幾つか参照先を入れております。
 
 3つ目、これがかなり要になっているかと思いますが、先ほどから申し上げておりますとおり、例えば人権方針を作っているか、デューデリジェンスを行っているか、それだけの質問ですと形式的な取組を促してしまう可能性がありますので、投資家としても賢い質問をしていくことで企業の行動を促していくということを今回皆様と議論している中で重要な項目にしています。
 
 具体的に1つ挙げてみますと、人権方針のところにおきましては、各社のCEOや執行役員がどのように人権尊重に取り組む意義を説明しているかという問いを行うことによって、その問いの中からトップコミットメントとして、自分事として考えているかどうかというのを企業の方々と確認することができます。また人権デューデリジェンスのところに関連してなんですけれども、各社の中の風土が意図せずに人権侵害を習慣化してしまうようなこともあるということを意識して、そういったことをなくすために継続的に確認するようなプロセスを入れているかですとか、そういった、指導原則の内容は理解した上で賢い問いを投資家としてもできるようにしていくということをこのガイドの中で紹介しています。
 
 最後に、12ページのほうですけれども、理由の3と手法の4を同時に載せさせていただいておりますのは、先ほど法遵守だけではリスクにもなる部分もあるんですけれども、一方で、まだ適用されていない各国法に対しても積極的に取り組むことによって、グローバルなサプライチェーンの中での安定的な関係性を持つなど、競争力の向上にもつながるので、そういったプラスの見方で各国の法令に遵守していくという見方ですとか、一方で、投資家の観点から見ますと、国によっては企業の人権尊重への取組を促していないような施策もありますので、そこをより開示を進めたりですとか、環境を向上するために投資家がプラスの政策立案者との対話を行うということを手法4としてまとめています。
 
 こういった形で基本的に機関投資家の皆様に対してのガイドになりますが、最終的な行動変容を期待しているのが投資先企業となりますので、投資先企業としても、いかに投資家側がどういった整理の中で企業と働きかけを行っているかと理解していただくためのガイドでもあるかと思われます。
 
 その上で13ページに載せていますが、投資先企業に対して全体的に特に見ていただきたいポイントをまとめておりまして、1つだけ御紹介します。人権侵害というのを完全になくすことは不可能に近いので、人権リスクがありませんということを企業に伝えてほしいのではなく、関連し得る人権リスクを把握して、それにいかに取り組んでいるかということを透明性を持って発信していただき行動することを投資家としては求めているのですよということを2点目として挙げております。
 
 駆け足となりましたが、以上となります。
 
【水口座長】  ありがとうございました。多様化するサステナビリティ課題の1つの重要な分野として人権の話を御紹介いただきました。私があまり感想を言っちゃいけないんですけど、人権というのは本来そもそも権利なので、権利が守られるのは当たり前なんですけど、この前のところで、比較的シングルマテリアリティ的な説得の仕方をしているというのは、これは今の投資家は、単に人権は権利なので当然ですよと言ったのでは通じないので、こういうシングルマテリアリティ的な言い方をしている、今の既存の投資家に対する評価がここにあらわれているという感じかもしれないなと、そんなことも思いながら、しかし一方でHowの部分、確かに、そんな理念的なこと言って具体的に何するんですかと言われると、こういうのは大変役に立つのかなという感じもいたしました。
 
 今日は、人権の話も含めて、その前に西田さんからいただきました最後の御議論いただきたい事項ですけれども、こういった多様化するサステナビリティ課題についてどう取り組むのかということですよね。開示の分野では既に開示の議論も始まっているということだと思いますけども、じゃあ、開示以外で何か対話を促すような、サステナブルファイナンス有識者会議としてどう取り組むのか、どこにどう優先順位をつけるか、優先順位があるようなものなのか、何か包括的な枠組み的な議論ができるのか、そんなことを少し皆さんと考えていきたいと思います。
 
 ということで、私の導入はそのぐらいなんですけど、皆さんいかが思われますでしょうか。足達さん、お願いいたします。
 
【足達メンバー】  ありがとうございます。人権の部分が1つの優先課題というところで1つ申し上げたいと思います。人権については、日本は、政府、それから民間、金融機関、投資家含めて、やっぱりまだまだ議論が不足しているというか、これへの取組の機が熟していないというところがあると思うんです。御案内のとおり、ビジネスと人権の世界ではNAP、ナショナルアクションプランの策定について、日本は非常に対応が遅れた。私見で申し上げれば、そういう実態があり、そこに何を入れるのかということについても非常に消極的な意見が多かったという実態があると思います。
 
 足元でいうと、NAPができて3年になるわけですけども、中間報告、進捗をしなきゃいけないというタイミングであるものの、ここについては府省庁の連絡会議というのがあって、金融庁さんもメンバーとして入っておられると思いますけれども、数ページの紙がホームページに開示してあるだけで、さらっと終わっています。
 
 何が申し上げたいかというと、やっぱりここは前に進めていかなきゃいけない領域だと思うのです。岸上さんのPRIの取組も1つの大きな成果だとは思いますけれども、より感度を高めていかなきゃいけないと思うんですね。
 
 具体的に何をやるかなんですが、私自身、ESG調査をなりわいにしていた過去の反省があります。それは、ESGのSのところで「人権」という包括的な項目を立てて、企業評価やビジネスのデューデリをすべきと考えていた、これではいけなかったかなという思いがあります。なぜかというと、例えば昨今でいえば、気候変動でも人権侵害に結びつけられて議論されているわけです。弊社で、この春に「こどもESG調査」の結果を公表しており、子供の権利とビジネスという大きな1つの塊もあります。これはESG的に各企業の行動としたらどう見えるかという調査結果です。健康の問題でも、肥満と食品の問題というのも、これで1つの人権領域ができるわけですよね。
 
 日本では特にプラクティカルにものを考えざるを得ないので、あるいはそういう性向があるので、何々の人権というふうにして常に議論をしていく必要があると考えます。子供の権利とか、あるいは健康に関する人権とビジネスとか、そういうふうな形で具体化をして、優先課題づけをして、投資家なり金融セクターが目をつけていかなければいけないアジェンダはこうですと示していく、こういう丁寧なやり方が必要になっているんじゃないかなと思います。
 
 当会議で、こういう問題を取り上げますということも、NAPの議論に金融庁さんからぜひインプットしていただければありがたいと思います。私が見たところ、金融庁さんからのインプットだと思われる言及は、報告にはどこにも出てこなかった。これは、ちょっと残念だと思いました。私の見方が間違っていればお許しください。
 
 次に、優先課題のところに関してなんですが、先ほど水口座長からもありましたが、情報開示にも関わり、技術論と理念論といった分類にも関わりますが、生物多様性とか自然資本の問題がISSBでも次のアジェンダの暫定合意として出てきたというときに考えなければいけないのは、これらの資本家というのは誰なんだという点です。資本を出す主体は誰か。例えば人的資本の資本家って一体誰なんでしょうか。金融資本の資本家である、投資家ではないんだろうと思うんですよね。企業が人的資源を持っているといって、企業が資本家なのか。それも、いやいや違うだろうと。水口先生がかつて連合総研さんと一緒に評価基準をつくられましたけども、やっぱり働く人それぞれが人的な資本というのをもって、それを企業活動に提供している資本家と見るべきではないのか。
 
 自然資本とか生物多様性にとっても、荒唐無稽なことを申し上げるようですけど、地球が資本家なのか、あるいは未来世代が資本家なのか。何かそういう視点の立ち位置を最初に整理して議論をしておかないと、優先課題として自然資本の問題や人的資本の問題を取り上げることに多分なるんだろうと予感をするんですけども、そのときに非常に議論が横滑りになりはしないかということを感じています。
 
 ですから、これは先ほどのダブルマテリアリティとシングルにもつながるわけです。まさに金もうけのことを前提に考えるのであればシングルマテリアリティということなんですが、ステークホルダー資本主義といいますか、ステークホルダーが主体で物を考えるというふうにこの有識者会議の議論を立てるのであれば、働く人、未来世代、あるいは地域社会という資本家を前提に議論を立てなきゃいけないということになります。問題提起だけに終わるかもしれませんけども、インプットさせていただければと思います。
 
【水口座長】  ありがとうございます。最初の立ち位置が大事だということで、サステナブル経営って誰にとってのサステナブルなのかと、よく言われる議論ですね。企業のサステナビリティなのか、社会のサステナビリティなのかということですが、社会のサステナビリティということなのかなと思っています。
 
 あと、権利、人権の話は、非常に懐かしくて、かつて環境基本法という法律を議論したときに、環境権、つまり豊かな環境を享受する権利、環境権というのは基本的人権なんだという、こういう議論をさんざん昔したなと思っていましたけど、まさにそういうことですね。
 
 それでは、小野塚さん、お願いいたします。
 
【小野塚メンバー】  ありがとうございます。49ページの御議論いただきたい事項のところに関してなんですけど、まず1つ、参考のところにあるサステナブルファイナンスの定義なんですが、私、これ大変気に入っていまして、第一次報告書が出て以来、いろんなところで御紹介しているんですけれども、その後、多分この前のシーズンが始まるときに、この有識者会議でサステナビリティということをどう捉えるんだということを1回問題提起というか、投げかけさせていただいて、どこまで広げるんだという話をたしか皆さんとさせていただいたと思います。
 
 またこの課題に戻ってきたというのは本当にありがたいことなので、少し意見を申し上げたいんですが、まず1つ、この会議というのはやはり日本の政府がセットアップした有識者会議でありますので、やはり日本の国として、経済、産業、社会の望ましい在り方というのがどういう方向性なのかというのを捉えた上で、様々なサステナビリティ課題のことを語っていく必要があるのではないかということ。
 
 それはどういう意味かといいますと、やはり我々は先進国の一員として、一方で人口減少であるとか高齢化であるとかという社会問題にいち早く直面しているということ。そこを深く考えることが、ひいてはこれからのほかの地域へのためになるということを踏まえてまず日本ということを鑑みるというのが1つの根拠なのではないかと思っています。
 
 ですので、これまで世界基準に合わせていくという意味で開示等が、気候変動というところから始まって人権というところに行っていますけれども、今水口先生のお話で懐かしいというお話ありましたが、環境の対応がものすごく進んでいる日本で、ある意味そこに関してはあまり不自由を感じないということは過去の功績だと思いますし、その上で、今日本における課題が何なのかというところを世界の課題と併せて考えると、じゃあ、今、大きな課題として上がっていない項目は何かというところを少しこの会議でも議論して、そういったところもハイライトしながら、企業の価値の向上とともに語っていくというのが重要なのではないかと思いますので、一つ、要望というか期待としましては、ぜひ世界で上げられている、こちらに上がっているNSCIですとかの課題も重要ということも踏まえた上で、じゃあ、日本の社会課題、我々が企業も踏まえて対応していく課題は何なのか、サステナブルファイナンスで解決を後押ししたい分野は何なのかということを整理することに少し議論を費やしてはいかがかなという御提案になります。
 
【水口座長】  ありがとうございます。それでは、高村さん、井口さん、林さん、長谷川さんという順番に行きたいと思いますが、高村先生、お願いします。
 
【高村メンバー】  ありがとうございます。今日事務局から御議論いただきたい事項で出されている内容についてですけれども、私自身は、気候変動を最優先しつつ人的資本と自然資本を優先的に取り組むべきという指摘にかなり共感をいたします。気候変動が、特に金融、先ほどのバーゼルの規制もそうですけれども、金融システム全体から非常にやはり重要なシステミックリスクとして捉えられていて、そういう意味では、サステナブルファイナンス有識者会議の文脈からいくと、やはり気候変動をまず、これは開示についても含めて、最も優先課題、緊急性が高い課題だと思います。
 
 次というとあれですけど、しかし同時に、やはり自然資本、人的資本は今まで議論ありましたけれども、自然資本対応というのが次に重要な課題になっていると思います。これは1つは、気候変動との問題、イシューのリンケージが非常に強い問題で、水や森林ひとつをとっても、気候変動の影響によって影響を被りますし、森林は当然気候変動対策としても一定の効果を持ち、そうした問題ごとの相互連関があるということです。同時に2つ目には、原材料調達を含めて、企業の事業の必須のエレメントに影響を及ぼし得る事象が関わるものが自然資本の問題だと思っております。実際企業の皆さんのサステナビリティ報告あるいは統合報告書の中でもこれら統合的に報告をされようと、気候変動と自然資本の問題と統合的に報告される実務も進んでいると思っていまして、その意味で、優先にすべき課題としての自然資本、これISSBが将来見越して立てているというのはもちろんそうですけれども、重要な課題と思います。
 
 TNFDについて、既に御存じのとおり、TNFDのフォーラムには日本から金融機関も含めて231のメンバーがフォーラムを構成し、80の企業が、これかなり多くのプライムの上場企業さんも入っていらっしゃいますけれども、アーリーアダプターとして既に今年ないしは来年の開示を目指して取組が進んでいらっしゃるという、一種、ある意味では実務の、現実の現場でのマチュリティ、問題への対応のマチュリティという観点からもです。
 
 ただ、気候変動と比べて非常に難しい。開示にしても、様々な投資家さんとの建設的対話にしても、まだ発展の途上にあり、よいプラクティスを積み重ねて基準設定をしていくということが必要な分野だと思っていまして、その意味でも前半の議論にありましたけれど、日本の企業の皆さん、非常に大きな関心を寄せていらっしゃるので、それにむしろ日本が国際的な基準に対して、基準形成について大きなイニシアチブをとっていける課題としても自然資本の問題は位置づける必要があるんじゃないかと思います。
 
 以上です。
 
【水口座長】  ありがとうございます。では、井口さん、お願いします。
 
【井口メンバー】  ありがとうございます。よろしくお願いします。大変難しい問いかけだと思います。世の中的に考えれば、全てのサステナビリティ課題が重要だという、これは足達さんがおっしゃったことに近いかもしれないと思うんですが、ただ、殊、資本市場ということになってくると、ここの第1回目から議論していますように、企業価値、将来のキャッシュフローに影響するもの、そしてそれはとりもなおさず投資家の判断に資するものというのに絞られてくるんじゃないかなと思います。
 
 これは先ほど、野崎課長から御説明ありましたように、ISSB基準でもSSBJ基準でもこの重要性の考え方を軸として企業さんから開示が行われることになってくると思います。ESRSもダブルマテリアリティではあるんですけど、実は、御存知のように、最後のラストミニッツにマテリアリティアセスメントというのが入って、10個ぐらいのテーマ別基準があるんですけど、日本の企業でCSRD対応するところなんか聞いていますと、大体2つか3つぐらいだけテーマ基準を採用するとおっしゃっているところが多い。つまり、それぞれ企業の状況を踏まえた重要性に応じて皆さん絞られていくということかなと思っています。
 
 結論は、高村先生がおっしゃったことと近いと思うんですけど、人的資本と気候変動、これは全ての企業さんに影響ありますし、あるいは投資家にとっても非常に重要である。その周辺として自然資本も入ってくるということになるのかなと思います。ただ、それ以外の事項は、業種別とか、サステナビリティの重要課題って業種別に変わってくるということはあると思いますので、業種別とか、あるいは、業種の中でも企業さんの置かれたそれぞれの状況で変わってくるんじゃないかなと思っています。
 
 そういう意味でいうと、業種別でいいますと、ISSB基準とかSSBJでも参照が義務づけられていますSASBスタンダードの開示トピックスを見るとか、あるいは、そもそも、テーマではなく、企業さんが、どういうふうにしてこういうサステナビリティ課題を識別する仕組みをつくっていくということのサポートが重要になるのではと思います。まとめますと、人的資本とか気候変動、これは最重要課題ですが、こういったテーマ別の事項とともに、他のサステナビリティ課題をどのように識別するのかというプロセス面でのサポートが必要になるのではと思っています。この詳細なガイダンスというのはないので、ISSB基準でも、できる限り規定というのが入って、可能な限りで識別してください、ということになっていますが、そういうところに対して、これはSSBJの仕事かもしれないんですけど、テーマを決めるのではなく、プロセス面で何かサポートするようなことをすればいいんじゃないかなと思います。
 
 以上です。ありがとうございます。
 
【水口座長】  ありがとうございます。では、林さん、長谷川さん、安地さんという順番に行きたいと思います。林さん、お願いします。
 
【林メンバー】  井口さんにほぼ言われてしまった感があるんですけれども、私も人的資本とそれからあと自然資本については、当然、両方重要だと思っています。
 
 人的資本については、本当にありとあらゆる企業についてそもそも大事ですし、日本の人的資本といったときには、女性とか年齢という国内の議論もあるんですが、やはりバリューチェーンを考えたときに、物をつくってくださっている海外の方々の労働者の権利が守られているのかというのは重要なポイントです。なぜ人的資本を開示しなくてはいけないかと、相応に大きな企業でサステナビリティに関わる方に最近言われたことがあり、それぐらいまだまだ認知度が低いんだなと感じました。これは重要なポイントだと思っています。
 
 自然資本については、今井口さんがおっしゃったように、企業によって全然マテリアリティが違うので、食品業界だったら栄養だったり、建築だったら森林だったりといろいろあると思うんですが、それを事細かにどこまで指導しなくてはいけないのかというのは、特に大企業においては、自分の会社のバリューがどこにあるか考える必要があると思います。それがもう少し小さい企業になったときには、先ほど冒頭に人もお金も何もかも足りないんですというお話がありましたので、ある程度分かりやすいガイドラインを設けていただくことになると思いますが、少なくともプライムでサステナビリティ開示を求められている方々については、できるだけ自分の会社のミッションがどこにあるのか、自分たちのバリューがどこにあるのかというのは、より考える機会を設けていただきたいと思います。
 
【水口座長】  では、長谷川さん、お願いします。
 
【長谷川メンバー】  ありがとうございます。優先課題につきましては、今、林さんがおっしゃったことにほぼ同感でございます。大企業については、各社のマテリアリティに基づいて優先課題は決めていけば良いことだと思いますが、一般的に言えば、ここに書いてあるとおり、気候変動を最優先にしつつ、人的資本と自然資本が優先されるというのが日本企業全体にとってほぼ当てはまるのではないかと思っております。
 
 それから、私は、ビジネスと人権も担当しておりますので、先ほど、足達様から日本企業の取組みが遅れたというお叱りを受けたのですが、ここ数年で非常に取組みは進んでおります。経団連が実施したアンケート調査でも、人権デューデリジェンスに取り組んでいる企業は、2020年は36%、まだ3分の1だったのですが、去年実施したアンケートで、2023年には76%に増えておりますし、大企業に限っていいますと、95%に達しているということで、ここ数年で非常に取組みが進んだと考えております。他方、やはり課題は中小企業ということと、大企業においてもどの範囲までやっているかという質問に対しては、国内の関連会社、子会社までというところが6割以上で、海外の子会社やグループ会社までやっていますというところは3割から4割になってしまうということで、実態としてはそういったところが課題と思っております。
 
 それから、岸上様の資料の12ページに書いていらっしゃる環境改善に向けた働きかけが機関投資家の役割という点は、事業会社にとっては重要な指摘だと思っております。
 
 経団連もよく指摘するのですが、途上国のサプライチェーンにおけるビジネスと人権の課題は、企業だけではどうしようもない途上国の政府によるガバナンスの欠如だったり、汚職の問題であったり、もしくは紛争の問題であったりということも多いので、そういう意味で、こういう現地の政策立案者ですとか、規制当局、もしくは軍事政権というのもあると思いますが、そういうところへの働きかけも重要な視点ではないかなと思います。
 
【水口座長】  ありがとうございます。では、安地さん、岸上さん、吉高さんの順番で行きたいと思います。
 
【安地メンバー】  安地でございます。優先順位ですけど、結論から申し上げると、気候変動最優先で、人的資本、自然資本を優先的にということで、違和感ないと思うというか、それに賛同します。
 
 その考え方なんですけども、先ほどから水口先生が、実務か理念かみたいな、足達さんがなかなか進まないという、多分実務と理念だと進まなくて、その真ん中のストーリー性みたいなものが割とないと、企業とかなかなか進まない。多分国も一緒だと思うんですけど、ストーリー性という観点で考えると、これは高村先生がおっしゃったことにつながるんですけど、この3つ、作文しやすいかなと。気候変動と生物多様性とか、自然資本というのは多分サーキュラーエコノミーなんかの文脈でつながりますし、気候変動、人権なんかは、多分サプライチェーンの中で当然両方とも気にしなきゃいけないので、ビジネスの世界でも。人的資本は、若干人権とも無理やりつなげることはできますし、あと、これだけ人材不足なので、多分きれいなストーリーが割と基本で描けて、その他のマテリアリティについては、恐らく井口さんがおっしゃった産業とか企業によって多分違ってきて、この3つをコアにするというのはかなりいいのではないかと。しかもドライブできるんじゃないかと思います。
 
 以上です。
 
【水口座長】  ありがとうございます。では、岸上さん、お願いします。
 
【岸上メンバー】  ありがとうございます。水口座長を含めたコメントへの反応も含めてなんですけれど、まず優先課題に関してですが、そもそも各社において、また金融機関において何に取り組むべきか、重要性を常に考えていく必要性をこの有識者会議でも強調すべきではないかと思います。
 
 もちろん、実際に細かく議論するものは絞ってくると思いますが、それだけになってしまうと、各産業特有のマテリアルな課題を見過ごしてリスクになってしまうことがあると思うので、それとは別途マクロのビジョンとして常に重要性を考えていくというメッセージが必要ではないかと思います。
 
 その上でなんですけれども、ちょっと今日はあくまで人権担当というような視点からでもありますが、人的資本への取組に賛成はしますが、先ほど林様の御発言にもつながってくると思うんですが、先ほど労働者の権利を尊重することと個人的資本をつないでいただいたと思うんですけれども、やはり人への負の影響がある中では人的資本も生まれないと思いますので、人への正負の関係を、両視点が必要ではないかと思いますので、それを備えた上での人的資本への議論に賛成いたします。
 
 先ほどの水口座長のシングルマテリアリティの視点ではないかというところで、この資料、恐らく関わった全ての人が1人で書いた場合、違う資料になったと思うんですね。これが、皆さんと議論して、人権というものがあくまで人視点、ライツホルダーの視点で守られるべきものであるというストーリーと、一方で、まだ取り組まれていない9割の投資家の方が取り組もうとするために必要なストーリー、その両方のバランスを非常に葛藤しながら策定した結果ということをちょっと共有させていただければと思います。おっしゃるとおり、その結果、現状のバランスがこれですというのが、どのように解釈するかは皆様にお任せしますけれども、そういった状況かと思います。
 
 その上でなんですけれども、6ページのほうで御紹介させていただいて、足達様の御発言にもつながると思いますが、やはり人権といったものがふわふわしてしまうことが多いと思うので、具体的にどういった人権があるのか、そこの具体性といったところを今回非常に重要視しておりまして、6ページのような形で、例えば清潔で健康的かつ持続可能な環境への権利というのも昨年追加された権利ではありますので、そういった面も含めて、より具体的に、投資家も企業も議論して行動を進めていくといったところが進められればと思います。
 
 以上です。
 
【水口座長】  ありがとうございます。では、吉高さん、お願いします。
 
【吉高メンバー】  私も気候変動が中心というのが優先でよいですけど、ここで気候変動の取組というときに、皆さんCO2削減の話ばかりになると思うんですけど、元来は、緩和、適応、それから、パリ協定やILOが言及しているジャストトランジション(公正な移行)には人権が入っているわけなんです。生物多様性条約と気候変動条約というのは同じ年に採択されています。こういったILOの指針ですとか生物多様性と気候変動がこうやって一緒になってきているというのは、今、皆さんが言ったように、気候変動が全ての起点にはなっているということをまず考えていく必要があろうかとは思っております。
 
 そういった視点で、金融システムが、どこにリスクがあるのかというところをきちっと、決して投資家だけの視点だけではなく、あらゆる金融システムの中で、どれが最もリスクが高く、そして日本の将来のビジネスにおいて金融がどのような働きをするかということを考えること自体が最も私としては、ずっとこの二十何年間やってきたことですので、そういったことをぜひこの中で考えていただきたいなと思っております。
 
 そして先ほど長谷川さんがおっしゃったように、やはり途上国、アジア等の国というのがなかなか今までサステナファイナンスの中であまり触れられてなかったことだと思いますけども、私自身、長年関わってきて、明らかに日本がアジアを助けるという位置づけというのは基本的には成り立たなくなっていると。先ほど申し上げたAIや、ああいったテックはアジアのほうが進んできているというところもございますので、そういった世界の中の日本の位置づけということ、それから金融システム安定というところで何がサステナビリティが優先なのかというのは御検討いただく必要があろうかと思っております。
 
 以上でございます。
 
【水口座長】  ありがとうございます。では、藤井さん、お願いします。
 
【藤井メンバー】  ありがとうございます。優先順位につきましては、人的資本と自然資本ということで全く異論はないですが、先々週ヨーロッパでいろいろ議論してきたんですけども、彼らの中で気候変動と自然資本というのは言わば一体不可分として議論されています。そういう意味では、自然資本の議論は、優先順位として次が自然資本だというよりは、気候変動を主軸として議論する中では、議論の粒度は別として、一体として議論していくという認識で進めるべきではないかと思います。
 
【水口座長】  ありがとうございます。おっしゃるように、気候システムは自然資本の一部ですので、そういうことなんだろうなと。
 
 あと、私、いろんなところに書いているんですけど、人的資本と人権を別の概念と思われる方が多いんですが、同じことの裏表だと思っていまして、岸上さんが御指摘されたとおりだと思うんですね。ですので、ISSBが人的資本と人権を別のものとしてパブコメをしてしまったので分かれているんですけども、人権を尊重することと人的資本は多分同じ議論かなとは思っています。
 
 そういうことも含めて、今後、この有識者会議でどんなふうに議論していくのか、今日の御意見を踏まえて、今後の計画を策定していければと思います。
 
 大変多くの御意見いただきまして、ありがとうございました。
 
 それでは、本日の議論はここまでとさせていただきまして、次回、6月17日は報告書案について議論をしていきたいと思います。
 
 以上をもちまして、本日の有識者会議を終了したいと思います。御協力いただきまして、ありがとうございました。

 
―― 了 ――
 
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