「サステナブルファイナンス有識者会議」(第26回)議事録

1.日時:令和6年12月12日(木曜日)10時00分~12時00分

2.会場:中央合同庁舎7号館 9階 905B会議室 及び オンライン

【水口座長】
 それでは、定刻となりましたので、ただいまから、サステナブルファイナンス有識者会議(第26回)を開催したいと思います。御多用のところ御参集いただき、ありがとうございます。

 本日は、最初に事務局から、前回のまとめ、それから、サステナビリティ投資商品に関する海外の動向等について御説明をいただきます。次に、個人及び機関投資家のサステナビリティ投資の実態等について、3者からプレゼンテーションをするということにしております。最初に、手前みそで恐縮ですが、私から15分ほど御報告をさせていただき、次に、投資信託協会様から、三井住友トラスト・アセットマネジメントの栗生様と、投資信託協会の杉江様に、今回オンラインでお越しいただいておりまして、御報告をいただきます。そして、3番目に、アセットオーナーの立場ということで生命保険協会様から、明治安田生命の中村様と細川様に御報告をいただくということで、15分ずつお話をいただいて、その後、1時間ほど残るはずですので、そこで皆様と議論をしていきたいと考えております。

 それでは早速ですが、まず事務局から御説明をお願いします。

【高岡サステナブルファイナンス推進室長】
 サステナブルファイナンス推進室の高岡でございます。本日も皆様、お忙しいところどうもありがとうございます。説明に入る前に、冒頭あれですけれども、総合政策課長の池田は、今日は国会関係の用務のために11時10分ぐらいをめどに途中で抜けるということですので、恐縮ですけれども、あらかじめ御了承いただければと思います。

 では早速、事務局の説明に入らせていただきます。配付させていただいている資料に沿って簡単に御説明させていただければと思います。

 右下1ページ目、こちらは前回の有識者会議でいただいた主な御意見をまとめさせていただいたものになります。大きく分けて、サステナブルファイナンスの意義と、サステナビリティの考慮とリターンの確保、それから、サステナビリティ投資商品の普及という3つの観点からの御意見をいただいたものと認識しております。

 意義をいかに伝えるかというところについては、特に個人に対しては気候変動に伴う、リスクの低減とか資産形成に結びつく投資であるといったところに焦点を当てたほうがよいのではないかといった御意見。それから、リターンとの関係で申し上げますと、個人のサステナビリティ投資商品の普及を考える際、リターンを前提にサステナビリティ投資商品を選択する個人を念頭に置いて商品設計を考える必要があるのではないかという御意見。それから、サステナビリティ投資商品の普及といった点においては、まず個人と機関投資家は切り分けて議論したほうがよいのではないか。個人がサステナビリティ投資商品を理解する方法としては、日本の現状などを踏まえると、例えばファンドを販売する場合に分類に応じてESG要素の考慮方法などを開示するなど商品を分かりやすくするのがよいのではないかといった御意見。それから、2つ目の丸ですけれども、監督指針において、ESGについての着眼点がありますけれども、そこでは明確な定義は置いてないということで、投資家にとって、ESGとは何かという、分かりづらさといった側面もあるのではないかといった御意見などを頂戴したところでございます。

 今回はこうした御意見も踏まえまして、まず事務局のほうから海外の動向について御紹介させていただいた上で、個人のサステナビリティ投資に関する理解・選好、それから機関投資家のサステナビリティ投資に関する実態把握を通じて、今後サステナビリティ投資の意義・効果に対する認知・理解を促進する上で、サステナビリティ投資商品の組成・提供実務の観点から具体的にどのような取組みが有効かといった点について議論を、今回も含めまして次回以降も深めていければと考えております。

 それでは、次のページの右下2ページを御覧ください。こちらから海外、国際的な動向、また、IOSCO(証券監督者国際機構)の方で出しております提言になります。IOSCOの方で主としてグリーンウォッシュの防止、サステナビリティの定義の欠如、それからサステナビリティに関する対応の基準の乱立といった課題への対応として取りまとめた提言となってございます。

 投資家におけるサステナビリティ投資の認知・理解をどうやったら向上させられるのかという取組みについて考える上で参考となる点としましては、こちらの提言1のアセットマネジャーの実務、方針、手続及び開示の在り方といったところと、提言2の商品情報の開示についての提言、それから提言4の用語、こちらは用語の一貫性を確保すべきという提言になりますけれども、この辺りが参考になるのではないかと考えてございます。

 次のページ、右下3ページを御覧ください。こちらは今申し上げた提言1・2のよりブレイクダウンした資料になります。こちらではアセットマネジャーの実務、方針、手続及び開示、それから商品情報の開示は、アセットマネジャーがサステナビリティ関連の重要なリスクと機会を考慮し、意思決定プロセスに組み込むことを確保するよう促すことに繋がるということに加えて、開示における一貫性・比較可能性・信頼性の向上を促すということを期待しての提言となっております。

 特に提言2の商品情報の開示のところにおいては、例えば2で書いてあります名称決定、要は、商品の名称を付するときの名称決定に関する要素として留意すべき点ですとか、あとは、その商品に関する表示・分類、いわゆるラベルのようなものを使用する際の留意事項、それから、4、5のところですけれども、投資目的とか投資戦略の開示に係る提言・留意事項が示されております。6では、エンゲージメントの開示、エンゲージメントの実施状況等を開示する際の留意事項についても提言が行われているというところになります。

 次のページ、右下4ページを御覧ください。こちらは引き続きIOSCOの提言になります。提言4の用語に一貫性を持たせるべきという提言を踏まえまして、CFA協会とかGSIA、それからPRIの方でこの提言を踏まえて用語の定義を統一しているものになります。これらの機関・団体における定義によりますと、戦略に着目する形でこの5つの類型に定義分けができるのではないかということで、それぞれの定義に沿って、この定義、用語を使用する際の留意事項をガイダンスといった形で整理をしているところになります。

 次のページ、右下5ページを御覧ください。こちらは海外におけるサステナビリティ投資商品に関する枠組み、取組みということで、まずはEUです。念のため申し上げますけれども、事務局として欧州とか海外の動向を何か一定の方向性を持ってお示ししているというものではなくて、あくまで海外での動向の参考ということで、工夫しているところもあるということで参考に供していただきたいという趣旨でお示ししているものになります。

 EUのほうでは、皆様御承知のとおり、この線の上のほうですけれども、SFDRという開示規制の中で8条ファンド、9条ファンドという分類をしておりまして、それぞれについて契約前、それから契約締結後の定期報告の部分で、商品情報の開示事項として開示すべき事項を整理して示しているところになります。この線の下のところが、これはSFDRではなくて、いわゆる名称ルールと申し上げてもよいのかと思いますけれども、EUのほうでトランジション・社会・ガバナンス関連の名称を使用する場合、環境インパクト関連の用語を使用する場合、それからサステナビリティ関連の用語を使用する場合のルールをESMAの方で示しているところでございます。

 投資の80%以上が環境社会の特性を促進するところに着目しているものなのか、あるいはサステナビリティ投資目的に整合するものとなっているのかとか、あるいはEUの気候ベンチマーク規制に紐づけて、それに沿って企業を除外しているのか、あるいはパリ協定に沿った企業を除外しているのかといったところに着目して、それぞれの名称を使用できる場合を定めているところになります。1点、これは8条ファンドと9条ファンドと名称がそれぞれ紐づいているというわけではなくて、環境インパクト関連の名称を付していても8条ファンドの場合もあれば9条ファンドの場合もあるというところで、そこはSFDRと必ずしも対になってリンクづけされているというものではないということだそうでございます。

 それでは、次のページ、右下6ページを御覧ください。こちらは英国のSDRになります。英国においては、Sustainability Focus、Sustainability Improvers、Sustainability Impact、Sustainability Mixed Goalsという4類型を示しております。EUのSFDRと違ったポイントとしては、Sustainability Improversというのがいわゆるトランジションも包含するような概念として示されているところでございます。

 英国においては、商品そのものの開示事項と、あとは商品を提供する事業体と書いてありますけれども、こちらは資産運用会社等の商品提供者側ですけれども、提供者側で開示すべき事項をそれぞれ定めているということと、あとは商品情報の開示については、契約前と契約締結後の定期報告についてはEUと同様の形ですけれども、英国においては個人向けにも個別に開示項目を設けております。こちらの方でやや特色というかEUとの異なる点として注記で記載してございますけれども、投資商品のサステナビリティの特性に関する主要な情報をシンプルでアクセスしやすく分かりやすい方法で提供し、その商品が自身のニーズなどに合っているかどうかを評価するための情報開示が個人向けについては求められているというのが特色かなと考えております。それから、ラベルとは別に、名称についても、Sustainability Impact、インパクトを志向しているもの以外については、インパクトの用語は使用不可というようなところも示されているというところになります。

 それでは、次ページの右下7ページを御覧ください。こちらは米国になります。上段が開示規制の改正案ということなので、これが次期政権においてどうなるのかはちょっと不透明ですけれども、御参考までに御紹介させていただきます。この開示規制の改正案の方では、大きく分けてIntegration FundsとESG-Focused Fundsというふうに分けておりまして、ESG-Focused Fundsの内訳としてImpact Fundsが示されていることになります。こちらも商品情報の開示については、契約締結前と契約締結後の定期報告について示されておりますけれども、Integration Fundsについては、契約締結前の開示条項のみが示されているというところにあります。

 この線の下の名称のところですけれども、こちらはいわゆるネームズルールでございますけれども、前回の会議の際も若干触れましたけれども、資産の80%以上をその名称が示す投資対象に投資する方針を採用しているものについて、例えばESGを志向したものに80%以上投資すればESGという名を冠せるというところになってございます。

 次ページ、右下8ページを御覧ください。こちらはシンガポールと香港になります。こちらはいずれもEUとか米国とは異なってかちっとした規制という形ではなくて、あくまでもガイドライン、通達といった形、当庁で言うところの監督指針のようなもので定められているものになります。シンガポールと香港は非常に似通っていると考えております。分類としましては、ESGファンドに位置づけられるものについては、ESG要素を主要な投資の焦点・戦略に組み込んでいるものをESGファンドと位置づけるというふうになっておりまして、こちらも当庁の監督指針で示している着眼点に近いところもあるのかなというふうに考えております。

 商品情報の開示内容としては、契約前と契約締結後の定期報告という、こちらはEU、英国、米国と共通しているところかなと考えております。ESGという名称をつけることについては、詳細なところについては、ESGを実質的に反映する投資ポートフォリオ・戦略となっているのかというところはシンガポール、香港はいずれも求めておりますけれども、シンガポールについては、注記のところですけれども、純資産の少なくとも3分の2以上が当該投資戦略に従って投資されているかなどを考慮するというふうにされております。

 次のページ、右下9ページを御覧ください。こちらも一民間企業の調査なのであくまで御参考でございますけれども、個人のサステナビリティ投資に関する調査ということで、投資経験のある個人を対象にしたものです。サステナビリティ投資に魅力を感じている理由として一番多い、約6割を占めているのが環境に対してプラスの影響を期待できるというものと、約2割が高い投資リターンが見込めるという回答になっているというところでございます。ここの下の右側の円になっているところですけれども、サステナビリティ投資が与える影響に関する情報が不足していることからサステナビリティ投資を増やすことができないと考えている日本の投資家の割合は約5割というふうな調査結果も示されているところになります。

 それでは、次のページの右下10ページを御覧ください。こちらが本日の御議論いただきたい事項です。今私がざっと御説明してしまいましたけれども、事務局の説明と、これから御説明いただく水口座長、それから生保協会様、投信協様のプレゼン内容を踏まえて御議論いただきたい事項ということでございます。

 こちらは文字では記載していないのですけれども、御議論いただきたい事項としてここでお示ししているものについての事務局としての問題意識を少し補足させていただければと思います。

 まず、前回の事務局資料の御議論いただきたい事項でお示ししておりましたけれども、サステナブルファイナンスの意義については、幅広い機関投資家、個人投資家などにとって長期的な投融資ポートフォリオの価値を守り高める点で意義があるものと考えられるとされているところですけれども、その一方で、特に個人投資家については、投資実践にまで結びついていない投資家が多いとされているという中で、個人投資家にとっては投資した商品の性質を理解することが難しいとの指摘があるということが現状認識としてあるものと考えております。

 その上で、個人と一言で申し上げても、その投資選好は、前回の議論でも少し御指摘がございましたけれども、財務リターンを相対的により重視する個人と、サステナビリティ目的をより重視する個人など異なる層が存在し得ると考えておりまして、また、その程度も二元論的なものではなくて、相応にグラデーションがあるのではないかなというふうに考えております。そうした多様な個人投資家層の全てに対して、貯蓄から投資への一環としてこのサステナブルファイナンスを一律に推進するということではなくて、個人のサステナビリティも含めた投資選好が多様であることを踏まえつつ、株式投資などの経験はない、または投資を忌避しているけれども、サステナビリティ投資であれば関心がある、またはやってもよいといった潜在的な個人投資家も含めまして、投資家に対して多様な投資機会を提供してそのニーズに応えていくためには、サステナビリティ投資の意義・効果に対する認知・理解を促進する取組みとしてどのような工夫ができるのかというのが主たる問題意識として抱いているところでございます。

 その工夫・方法として、サステナビリティ投資商品の組成・提供実務の観点から具体的にどのような取組みが有効であると考えられるかといったことについて、御示唆をいただきたいというのが、こちらでお示ししている御議論いただきたい事項を設定しておる背景でございます。

 個人と機関投資家を分けて考えるべきだという御意見もありましたけれども、機関投資家であるアセットオーナーにおいてもサステナビリティ投資の取組状況は様々であると考えておりまして、まだ認知・理解が進んでいないアセットオーナーについては、個人に対する同様の取組みが有効となり得るのではないかと推察しているところでございます。

 すみません、ちょっと前置きが長くなってしまいましたけれども、その上で本日御議論いただきたい事項といたしましては、先ほどもざっと触れました海外の動向とか、個人のサステナビリティ投資に関する理解・選好、機関投資家のサステナビリティ投資に関する実態、現在の市場実態、こちらも前回の会議で触れましたけれども、現状ESGを冠する商品は1%だけれども、実はもっと多いんじゃないのかといったところですけれども、そういった実態などを踏まえまして、個人においてサステナビリティ投資の意義・効果に対する認知・理解を促進する上で、リスク・機会、リターンの関係性に関する分かりやすい説明などを、サステナビリティ投資商品の組成・提供実務の観点から具体的にどのような取組みが有効であると考えるか。その際、投資家保護等の観点からどのような点に留意すべきと考えるか。機関投資家への投資機会の拡充を図る観点から、今申し上げた点についてどのように考えるかといったことについて本日は御議論いただければと考えております。

 すみません、少し長くなってしまいましたけれども、事務局からの説明は以上とさせていただきます。ありがとうございました。

【水口座長】
 ありがとうございました。ここまででもいろいろ御意見もあろうかと思いますし、いろいろ言いたいことはあろうかと思いますが、ここで議論を始めると先に進まないので、一旦全員の御発表をいただいた上で、意見を言っていただければと思いますので、ご意見は覚えておいてください。今のところが多分一番重要な話なので、海外の動向も踏まえてこういうことがあるなというのはぜひ覚えておいていただいた上で、少し先の話を聞いていただければと思います。

 それでは次に、私から御報告をしたいと思います。これは実は大学の研究グループでして、私も含めて金融の専門家と、それから社会心理学の専門家、そして統計の専門家でグループをつくって研究してきました。今もちょっとありましたけれども、個人の投資選好は多様だという話がありましたが、単に多様なだけではなくて、個人の投資の選好というのは多分固定的ではない。いろいろな要素によって変わり得るのだろうと思われます。では、どういうことが選好に影響しているのかということが一つの問題意識になっております。

 次のページをお願いします。基本的な検討の前提としては、人々がESG投資を選好するというときにどういう要因が影響しているのか。よく海外では、例えば女性で若い人がESG投資を選好しやすいとかそういう属性レベルで議論されることが多いんですけれども、それだけではなくて、例えば環境に関する知識とか、あるいは金融に関する知識とか、そういうリテラシーが高いか低いかによってもESG投資の選好が変わるのではないかというのが仮説です。

 もしそうだとするならば、例えば環境に関する知識を普及することによってESG投資が推進されるということもあるのではないか。一方でリテラシーとは別に、環境に対する態度とか、金融に対する態度という心理的な尺度というのがありまして、環境を守りたいという気持ちがあるとか、お金を儲けたいと思う気持ちがあるとか、人によってその心理的な態度は様々で、そういう態度の違いがESG投資商品を買おうかどうかという選好に影響しているだろうと。実は、恐らく環境に関するリテラシーとか金融に関するリテラシーが心理尺度である態度のほうにも影響するんだろうなという感じもするんですけれども、そういうことをいろいろ仲間に言ったら、モデルが複雑になり過ぎるので、一旦この図のようなモデルで議論しましょうということになりました。

 次のページをお願いします。具体的な仮説として、まず個人が投資をすると仮定して、一般的な株式投資かESG投資かそれともインパクト投資か、どれを選びますかという質問をするのですけれども、環境に関するリテラシーが高くて環境に対する態度も肯定的な人は、一般的な株式よりはESG投資を選ぶのではないか。それから、人権に関しても同じような仮説をとりました。仮説の3.1と3.2は逆転しているのですけれども、金融に対するリテラシーが高い人は、ESG投資よりも一般的な株式を選好するんじゃないかという考え方と、いやいや、金融に対するリテラシーが高いとESGを考慮すると儲かるんだから、よりESG投資をするようになるんじゃないかと、こういう両方があるんじゃないかということです。

 ちなみにここは、誤植がありまして、3.1のところは、「金融リテラシーが高い回答者は、ESG投資やインパクト投資よりも、一般的な株式投資よりもESG投資」と書いてありますけれども、最後の「よりもESG投資」は削除してください。「一般的な株式投資を選好する」です。仮説3.3も誤植になっておりまして、2行目の最後のところ、「よりもESG投資」の部分は削除してください。つまり、金融に対する態度、つまり、お金を儲けたいと思っているということが強い人は、やはりどちらかというとESG投資よりは普通の株式投資を選ぶのではないかというのが前提としての仮説であります。

 次のページをお願いします。具体的にどういう調査をしたかというと、いわゆるオンライン調査でありまして、1万2,000人を対象に2段階で調査しました。まず、1万2,000人の方に対して、投資経験の有無、それから属性情報を聞きました。この段階でリテラシーがあるかどうかの調査もしました。

 その上で、投資経験がある人だけを抽出をして第2段階の調査をしました。投資経験がある人を2つの標本に分けました。一つは、これから投資信託を買おうと思っていると仮定して、株式投資とESG投資どっちがいいですかという、そういう投資信託のことを前提にして聞くグループ。

 もう一つは、あなたは年金に入っています。確定給付年金です。確定給付年金に入っていて、自分が入っている確定給付年金にどういう投資をしてほしいですかという、そういう質問をするグループです。つまり、投資信託を買う人は自分のリスクで買うわけですけれども、確定給付年金の場合には自分はそのリスクを負わないというか、確定給付ですから返ってくるお金は変わらないわけで、それだったら年金のほうによりESG投資をしてほしいと思うのか、それとも自分が入っている年金だから、やっぱりちゃんとリスク・リターンを考えてほしいと思うのか、そういうリスクに対する影響の違いも一緒に測ってみようということで、こんなふうに標本を分けて検討してみました。

 次のページをお願いします。これが具体的な、これは従属変数になるのですけれども、どういう選好がありますかというのを聞いた質問です。年金群と投資信託群に分けています。年金群は、あなたが確定年金の受益者ですということを前提にして、将来受け取る額が決まっているというのを説明した上で、その場合にどのファンドに投資してほしいと思いますかという質問です。投資信託群のほうは、あなたが自分で投資信託をするとしたらどのファンドに投資したいと思いますかということで、3つの選択肢を示しました。日本株投資とESG投資とインパクト投資です。

 それぞれどういうものかの説明も簡単にしているんですけれども、日本株ファンドが成長性とか利益成長が期待できる銘柄を選定するファンド、ESG投資ファンドはちょっと工夫しまして、ESGの取組みや企業理念に優れ、かつ一定以上の収益力が期待できる銘柄を選択するファンド。普通、日本のESG投資ファンドはこういうふうにうたっていると思うんですけれども、これが標準的なESGファンドの説明じゃないかと思います。インパクト投資ファンドも、実は競争力のあるリターンを追求しているファンドがほとんどだと思うんですけれども、でも、それだと違いが出てこないので、あえてここではインパクト投資ファンドでは、リターンのことを言わずに、実際に社会的インパクトが生まれるような投資先企業と対話するファンド、こういう仮定で聞いてみました。

 この中でどれが1番、2番、3番と順位をつけてくださいという質問をしました。その結果が次のページですけれども、左側が年金群、左が投資信託群で、例えば年金群で聞いたら、約1,500人弱の中で、日本株投資を1位につけた人が約900人、ESG投資を1位にした人が295人、インパクト投資を1位にした人は277人です。

 もちろん日本株投資を1位にした人が一番多いので、やっぱり日本株投資が一番選ばれるんだなというのも一つの見方ですが、逆に言うと、2つ目と3つ目、ESG投資とインパクト投資を合わせると572件でして、つまり4割ぐらいの人は、日本株投資よりもESG投資やインパクト投資を選ぶ人がいるんだというのも一つの驚きでありました。投資信託群のほうも聞いているんですが、ほぼ傾向は同じでありまして、投資信託群でも日本株投資が一番多いんですが、やや日本株投資が少なくて、ESG投資がちょっと増えると、こういう感じになりましたということです。

 ただ、この調査だけでは本当のことは分からないというのは、これは順序効果というのがありまして、実は選択肢をこの順番に並べて聞いてしまったので、1番から選ぶ人が多いという可能性はあるので、もしこの次やるときには、この選択肢もランダムに出てくるような調査にしないと駄目ですよねみたいなことをちょっと言っていたんですが、そういうことです。

 次のページを御覧ください。次に、リテラシーを確かめる調査をしました。このリテラシーを確かめる調査のこの問題は私がつくっています。いろいろIPCCのレポートなどから常識かなと思うようなことをいろいろ聞いてみて、右側に正答率が出ているのですけれども、例えば最後の、GHG排出量の一番多い国はアメリカである、イエスかノーか。イエスと答える人が多いんです。それはそうかなと。中国が多いとかという、そんなことを知っている人はあんまりいないのかもしれないとか思いながら、こんな結果でした。

 次のページが人権リテラシーです。これも例えば日本で1週間に49時間以上働く労働者は、ドイツ・フランスと日本は大差ないと書いてみたんです。イエスと答える人が少ないんですけれども、4割5分ぐらいがそうだろうと思っていると。そういうことがいろいろ分かって、回答だけでもいろいろ面白いんです。面白いんですが、この話をしていると時間がなくなってしまうので、次のページに行きます。

 次は金融リテラシーです。この金融リテラシーに関してはBig fiveという、もう既に確立した調査があるんだそうでして、金融リテラシーを調べる調査があります。これはなかなか難しくて、例えば金利が上がったら債券価格が下落するというのは、債券の市場価格のメカニズム知らないと普通分かりませんよね。さすがにこういうものはリテラシーが低くて0.26なんですけれども、これはやっぱり投資経験のあるなしで明らかにリテラシーに違いがあって、投資経験のある人のほうがやっぱり分かるんだということはよく分かりましたということです。

 次のページを御覧ください。次のページは、回答者の属性とリテラシー水準です。一番左が投資経験なしですから、第1段階でこの調査で投資経験なしということで除外された人たちのデータ、右の2つは投資経験ありなので、第2段階の調査をした人たち、それを投信群と年金群に分けています。投信群と年金群の分け方はランダムに分けていますから、この2つの間の差異は出てこないはずでありまして、実際にも投信群と年金群の間に差はありません。

 しかし、例えば投資経験ありの側の2つと左側の投資経験なしのほうを比べると明らかに違いがあって、まず性別で違いがある。これは男性と答えたほうを1、女性を0というふうに置いて点数を比べると、年金群といいましょうか、投資経験ありのほうは男性が多くて、投資経験のない人は女性が多いということで、やっぱり男性のほうが投資をする傾向にあるとか、学歴の高い人ほど投資をする傾向があるとか、そういうことが分かります。それから、これは因果関係は逆かもしれませんけれども、投資経験のある人のほうが金融資産が多いというのは当たり前かもしれませんけれども、そういう関係があります。

 興味深いのがリテラシーでして、例えば金融リテラシーは、当然のように投資経験のない人よりもある人のほうがリテラシー高いんです。このリテラシーのところは、先ほどのそれぞれ6項目質問がありましたから、正解に1点を振っています。そうすると、最高点が6点になりますから、6点の中でどのくらい点を取っているかということなんですけれども、これは環境とか人権でも実はリテラシーを見ると、投資している人のほうがリテラシーが高いらしいということがちょっと分かるということであります。

 次のページを御覧いただきまして、今度は心理尺度です。環境に対してどう思っているかとか、そういう心理尺度です。心理尺度は難しいんですが、いろいろな研究がありまして、ここでは環境に関しては堀毛・大島さんという方の研究成果を使っております。サステナビリティとか環境を重視したいと思う心理というのは、4つの下位因子に分かれると。4つの下位因子ごとに点数がつけられるということで、例えば次世代のニーズを危うくしないことを心がけながら云々かんぬんと、こういうことについて、「とても当てはまる」から「全く当てはまらない」までの7スケールで回答してもらうという、そういう調査なんですね。その調査結果、その点数で、この人の環境心理尺度は何点というのが出てくると、こういうものです。その心理を構成する要素が4因子に分かれてそれぞれの要素が合算して、大きな環境に対する意識というのが出てくるという、こういう研究になっております。実際にこれで質問をしまして、7スケールで質問を聞いていますということです。

 次が人権の心理尺度です。人権に関する心理尺度は、日本になかなか適当なものがなかったので、これは海外の方なんですけれども、Katz and Hassという方の心理尺度を日本語に訳して質問をしてみましたということです。この研究では人権に対する心理尺度は構成要素が1つしかないので、人権を大事にするという心理尺度は、どうも因子分析をすると1つの因子に集中するようだということでした。

 最後は金融に関する心理尺度です。金融心理尺度というのが、これはやっぱり相当検討されて、いろいろな人が議論しているんですけれども、金融に対する心理尺度というと、よくお金に対する忌避感とか、お金は汚いものだと思うとか、お金はステータスの象徴だと思うとか、いろいろな尺度があるんですけれども、ここではそうではなくて、資産運用をしようと思うかどうかの心理尺度があります。それもやっぱり4因子に分かれるんだそうです。運用に対して合理的に計画をするような人とか、渡り鳥型とか幾つかの下位因子に分かれるんだそうです。というもので実際に調査してみましたということです。

 調査をした結果が、次のページをお願いします。こういうモデルです。これは構造方程式モデリングといいます。構造方程式モデリングとは何かという質問はしないでください。統計の専門家がやっているんですけれども、複数の要素が相互に影響し合っているとき、普通の重回帰分析みたいなものでも説明変数と目的変数の間の関係は評価できるわけですけれども、その要素がお互いに複雑に絡み合っているようなケースをモデルとして関係性が調べられるのがこの構造方程式モデリングというもののようです。

 例えばリテラシーに何が影響しているのかということで、環境・人権・金融に関するリテラシーそれぞれやっぱり、例えばこの※印が3つついているのは一番有意に相関しているということで、※印が1個でもついているとある一定の有意性がありますということです。※がついてないのは誤差です。プラスはプラス方向に、マイナスがついているとマイナス方向に影響ありますということなんですけれども、年齢が高ければ高いほどいずれのリテラシーも高くなるとか、学歴が高いと人権と金融に対するリテラシーは高くなるとか、資産額が多いと金融に対するリテラシーは高くなるとか、こういう関係にありますということです。

 そして、リテラシーと投資の選好、それから、態度と投資の選好のところの関係も出ております。これ、数値が縦に3つ並んでおりますけれども、一番上が日本株投資に対する選好、一番下はインパクト投資に対する選好です。例えば環境に関する知識が高ければ高いほど、日本株投資に対してはマイナスですから、有意にマイナスなんですね。つまり、環境に対するリテラシーが高い人は日本株はあまり買わない、その分インパクト投資を選ぶという傾向があるんだとか、金融のところも見ていただきたいんですけれども、金融に関するリテラシーも、リテラシーが高い人ほど実は日本株投資よりもインパクト投資のほうを選好するという傾向があります。

 下を見ていただきますと、環境に対する態度でありまして、環境に対する態度が高い人ほどやっぱり日本株投資はしないで、ESG投資やインパクト投資を買うということなんですけれども、金融に対する態度、要するに、投資で儲けたい派の人たちは、やっぱりそういう意識が高いほど日本株投資を選び、ESG投資はしないと、こういう傾向があるらしいというようなことが分かりました。

 次のページを御覧ください。次のページは、さっきのが年金群で、こちらは投信群です。細かい違いはありますけれども、基本的には年金群でも投信群でもほぼ関係性は同じでありまして、ランダムに分けているので、ランダムに分けている以上、前提条件である年金なのか、投信なのかの違いしかないんですけれども、ほぼ傾向は同じだということが分かりました。

 次のページを御覧ください。これはまとめなんですけれども、基本的に投資経験ありの人のうち4割ぐらいはESG投資やインパクト投資を選ぶということと、環境・人権などリテラシーが高くて環境への意識の高い人はESG投資やインパクト投資を選ぶという傾向があります。ちなみに、人権に関するリテラシーはこの研究では影響が出てきませんでした。

 こういうことがあるということは、やっぱり環境・社会課題に関するリテラシーを高めるとか、あるいはESG投資がそれに貢献するんだというそういう情報をきちんと発信するとか、そういうことによってESG投資への選好を高めていくということは可能なんじゃないかというのが1点です。

 それから、面白いのは、金融に対する態度が高い人は日本株投資を選ぶけれども、リテラシーの高い人はESG投資を選ぶ。つまり、単に儲けたいと思っている人は日本株を買ってしまうけれども、でも、本当に金融のリテラシーが高くなると、日本株投資よりもESG投資を選ぶかもしれないというのがこの結論なんです。本当かどうか分かりませんが、ESG投資が合理的なんですという情報発信も意味のあることかなということです。最後に、投信群と年金群の間に違いはありませんでした。

 もう一枚、次のページをお願いします。今後どういう研究をしようと思っているかということだけ一言申しますと、やっぱりどうしても「ESG投資を良いと思いますか」とか、「サステナブルファイナンスをしたいと思いますか」という、こういう調査をしているんですけれども、この聞き方自体が投資家の選好を正しく反映していないのではないかと。つまり、投資家の中にはESGが儲かると思うから投資をするという意味でのサステナブルファイナンスに対する選好と、サステナビリティに貢献したいと思うからそれを買いたいと思う人がいて、それらを分けて把握できるような、サステナブル投資に対する選好というものを正しく把握する心理尺度をつくる必要があるんだろうと思っています。ということで、今後はサステナブル投資に対する需要がどのぐらい高まったのかをもうちょっと細かく目的別に把握できるような心理尺度を開発しようということで今、次の研究をしようとしているということであります。

 ということでちょっと長くなりましたけれども、私からの報告は以上とさせていただきたいと思います。

 こちらについて後ほど、もし御質問があればいただきたいと思いますが、取り急ぎ、次に、栗生様と杉江様からですね。それでは、投資信託協会の栗生様と杉江様、お待たせしました。御報告のほうをお願いいたします。

【栗生様】 
 ……部会長……。

【水口座長】 
 すみません、音声が。

【栗生様】 
 音声聞こえています?

【水口座長】 
 はい、聞こえています。大丈夫です。

【栗生様】 
 栗生でございます。……。また、……務めております……。

【水口座長】 
 すみません、やっぱり音声が途切れ途切れになってしまうんですけれども、どうしたらいいんですかね。

 では、すみません、栗生様、杉江様、なかなか接続がうまくいっていないようでして、少し事務局と調整していただくことにしまして、その前に生保協会さんのほうからのプレゼンを先にお願いしたいと思います。

【中村メンバー】
 かしこましました。よろしいでしょうか。それでは、御紹介にあずかりました生命保険協会の中村でございます。ありがとうございます。本日は、生命保険会社のサステナブルファイナンスの取組みについて、弊社といいますか明治安田生命の取組みを例に挙げて、少し具体的に御紹介できればと思います。

 それではまず初めに、3ページになりますが、生命保険会社の資産運用の特徴について御説明をさせていただきます。ここは釈迦に説法みたいな話なんですが、生命保険会社においては、お客様からお預かりした保険料を原資に資産運用を行うということで、生命保険の契約は一般的に長期にわたること、それから、お客様に着実・確実に保険金をお支払いする必要があるということで、長期にわたり安定的に収益が得られるような運用をしているということになります。また、生命保険事業は公共性の高い事業であることから、安定性や収益性、これに加えて公共性にも配慮した資産運用を行っているところであります。生命保険会社の資産運用の基本的な考え方は、長期的な視点で持続可能な社会を実現するというサステナブルファイナンスの考え方と親和性が高いと認識をしているところであります。

 続いて4ページにお進みください。こちらは現在生命保険協会に加入する41社の2023年度の資産構成を示したグラフになります。総資産では428兆円に上ります。このうち、右側になりますが、約2割を占める90兆、これを社債・株式・貸付金などに充てておりまして、インベストメントチェーンを担う機関投資家として企業の成長資金を積極的に供給しているところであります。これは御参考までですけれども、右下、約4割を国債・地方債という運用しておりますが、このうち国債が165兆、ほとんどでございます。165兆というのは国債全体に占める保有割合でいうと約13%に上るということでございます。これは御参考でございます。

 以上が全体の資産運用の特徴でございますが、ここからは明治安田生命のサステナブルファイナンスの取組みについて説明をさせていただきます。初めに6ページを御覧ください。まず、その前に会社全体の戦略になります。当社では、2030年に目指す姿として、「「ひとに健康を、まちに元気を。」最も身近なリーディング生保へ」を掲げておりまして、この中で社会的価値と経済的価値双方の向上、その好循環によりそれを実現していくということを目指しております。

 7ページを御覧ください。こちらが当社の優先課題、いわゆるマテリアリティでございます。選定に当たっては、ステークホルダーへの影響度、それから事業との関係性、これが相対的に高い左側の8項目を設定してございます。その優先課題の一つに、枠で囲んでおりますが、機関投資家としての責任投資を通じた持続可能な社会づくり、これを設定しております。重要テーマとして、右側になりますが、脱炭素社会の実現、それから生物多様性の保全、人権等のソーシャル、それから4番目として上に上がっていただいて、健康寿命の延伸、それから地方創生の推進といった5つのテーマを設定してございます。

 次の8ページにお進みいただければと思います。こちらが責任投資の目指す姿と全体像でございます。2019年にPRIの責任投資原則に署名し、現在、先ほどお話しした5つの重要な取組みをテーマに、ESG投融資と対話、議決権行使といったスチュワードシップ活動、これを両輪として責任投資を推進しているところであります。責任投資の推進によりまして、会社全体の経営と同じように、投資先企業の経済的価値の向上と社会的価値の創造、これを促すことで持続可能で希望に満ちた社会づくりに貢献していくという方針を掲げております。

 9ページを御覧ください。こちらはサステナビリティ経営全体の推進体制、ガバナンスの全体像になります。その中で、責任投資の取組みは、右下のほうを御覧になっていただければと思いますが、専門部署であります、今横に座っております細川が担当しております責任投資推進担当部、こちらが中心となって方針の策定や高度化などに取り組んでおります。この責任投資推進担当部から、下への矢印になりますが、各アセットの担当部署には責任投資の動向を共有しているほか、責任投資の取組み実績、推進状況を、上部になりますが、各種委員会等の会議体へ報告し、報告内容の検証を受けるなど、PDCAを通じた全社的な取組みを推進しております。なお、サステナビリティに関する方針等については、サステナビリティを所管する委員会と連携の上行っておるところでございます。

 ここから先は、少し具体的に当社の責任投資の取組みについて、細川から御紹介させていただきますので、10ページからお願いいたします。

【細川様】
 それでは、10ページを御覧ください。最初にお伝えさせていただきたいのですが、先ほど冒頭事務局の説明の中で、海外の事例におきましては、資産の80%以上とか3分の2以上をその名称が示す投資対象に投資するものという前提があったと思いますけれども、弊社におきましては、サステナブルファイナンスとESG投融資、これを同義として使用しております。このため、今から御説明いたしますESG投融資という文言に関しましては、サステナブルファイナンスと置き換えていただいて構いませんので、その旨御承知おきいただければと思います。

 弊社におきましては、図に記載のとおり、責任投資の推進に際しまして、社会的インパクト創出による経済的価値向上の考え方を整理しております。これが図示したグラフになります。まず、投融資の実行段階におきましては、当然財務情報だけではなく非財務情報も含めて分析をして、経済的価値の確保を前提としながら、社会的価値の創出がより見込まれる企業を選定の上、ESG投融資を実行しています。ここで少し強調したいのは、短期的な効果は左のほうに書いてあるんですが、業績の向上に伴い株価が上昇し信用力が向上することによって、ベンチマークを上回る経済的価値の確保が期待できることになります。ただし、短期的には、社会的インパクトはなかなかこの時点では創出されにくく、経済的価値の向上には直結しにくいというふうに認識しております。

 一方、右側、長期的な効果といたしましては、投融資先企業との経済的なエンゲージメント、これを通じることで企業側のESG課題が解決され、社会的インパクトが創出されることによって、より獲得する経済的価値が高まる、こういったような整理をしておりますので、中期的な観点と長期的な観点と短期的な観点で時間軸が異なるという点をこちらの点で御理解いただければと思います。

 スライド11をお開けください。ここからは、弊社における責任投資の取組み事例を紹介させていただきます。まずは、責任投資の両輪の一つであるESG投資に関してですけれども、前中計期間である2021から23年度におきまして、累計1兆円のESG投融資を実行いたしました。当該1兆円のうち、脱炭素ファイナンスに5,700億円、インパクトファイナンスに600億円の資金を提供しております。また、今年度から始まりました現中計期間2024から26年度におきましては、ESG投融資の目標額を8,000億円と設定するとともに、収益性の確保を前提とするインパクトファイナンスの拡大を掲げておりまして、インパクトファイナンス目標額を前中計期間から倍増の1,200億円と内枠設定をして取組みを推進しているところでございます。

 12ページをお開けください。なぜ現中計でインパクトファイナンス拡大を打ち出したかという理由ですけれども、ESG投資を取り巻く外部環境の変化が取り上げられると思っております。近年、グローバルベースでも、日本におきましても、社会的インパクト創出を明確に意図するインパクトファイナンスへのポイントが高まっておりまして、図の真ん中のところですが、投資残高は右肩上がりで増加・成長してきております。加えて右側、先進的な会社のインパクト開示例を見てみますと、やはり先進的な会社におきましては、資産運用を通じたインパクトの創出を戦略的に拡大しながらインパクトを積極的に開示する、こういった動きが示されていると思います。

 こういった状況を踏まえまして、下段左の下、ESG投資を取り巻く環境が変化というふうに書いておりますが、世の中の潮流が社会的課題解決への行動、いわゆる投融資額を幾らやりましたという世界から、効果、社会的インパクトをどのぐらい創出しましたかという時代に変化してきているのではないかというふうに受け止めております。

 13ページをお開けください。こうした状況を踏まえまして、当社におきましては、グローバル金融機関の動向を踏まえ、2023年度以降実行したESGテーマ債あるいはプロジェクトファイナンスを含むESG投資に関し、投融資先企業の開示データ等を基にしながら、社会的に与えたインパクトを計測の上、ディスクロ資料で開示しております。

 例えば実例といたしまして、一番上、アウトカムの一つであるCOの排出削減量を取り上げますと、これは今年度の対外公表では、ここに記載の593万トンと記載されておりますが、昨年同項目の数値を確認いたしますと262万トンとなっておりまして、この1年間でインパクトが着実に増えていることを実感することができています。こちらのESG投資の実行に際しましては、責任投資担当部におきましても、実行時点でESGウォッシュの懸念がないか、妥当性・検証性を事前検証する運用を行いながらこういったインパクトの開示を行っておりますが、こういった開示を行うことで当社の取組みを対外的に知っていただくだけではなくて、弊社の中におきましてもESGに取り組むモチベーションを高めることにつながっているのかなと思っております。

 14ページを御覧ください。こちらは少々実務的なお話になります。こうした整理の下、弊社におきましては、全ての運用資産の投融資判断プロセスに資産・業種等の特性に応じてESGの要素を組み込んでおります。加えまして、下段の右図のように、投融資先のポートフォリオ全体のESGリスクスコアについても日常的にモニタリングしておりまして、弊社の投融資全体のポートフォリオの全体のESGリスクは年々低下傾向にあって、改善が進んでいるということも実感できているといったところでございます。

 15ページをお開けください。こちらはESG投融資の手法について情報のとおり定義の上、適切かつ透明性のある取組みを推進しております。先ほど事例ということで、ある海外の事例でこういったESG手法の定義があったと思いますが、当社なりの定義をしているということで御理解ください。特に下段のネガティブスクリーニングに関しましては、非人道兵器を製造する企業とか、石炭火力発電、石炭採掘プロジェクト、あるいは企業向けの石炭火力発電、石炭採掘施設の施設更新とか、あるいはパーム油、輸入木質チップを燃料とするバイオマス発電所といったようなものの投融資をこういった形でスクーリングしておりますが、こちらも市場とか規制動向、社会的要請に応じて適宜見直しを行っていたところでございます。

 16ページをお開けください。ここからは、責任投資のもう一つの要因でありますスチュワードシップ活動について説明いたします。弊社におきましては2014年5月に責任ある機関投資家の諸原則、日本版スチュワードシップコードを受け入れておりまして、「スチュワードシップ責任を果たすための方針」、こちらを明定しております。こちらの方針の下で、株主利益向上への取組み、ESG観点からの態勢・機能に問題があると考えられる場合には、積極的なエンゲージメントを行い、株主議決権行使の適切な行使を行うことで、長期的な観点から、企業価値及び株主利益の向上に資するような取組みをしています。なお、左の一番下に書いてありますが、ずっと対話を続けている中で長期的な視点から粘り強く対話を実行しても改善が見られない場合には、議決権行使の反対行使とか売却、こういったことも行うことも検討しているというような方針で進めております。

 17ページをお開けください。弊社におきましては、議決権行使の対話にとどまらず、日頃から業績等の確認、投資先企業の課題についての認識共有、弊社からの改善要望のため、長期的な視点から対話に取り組んでいます。ただし、世の中の関心事項は次々に変わっていきます。対話に取り上げるテーマも順次見直すということで、こちらに記載のとおり、対話の高度化にも継続に取り組んでいるところです。特に足元、2023年度以降は、先ほど御説明した重要な取組みテーマの中で、特に健康寿命の延伸、それから地方創生の推進をテーマに、企業側のインパクト創出を企図した対話を継続実施しているといったところでございます。

 18ページをお開けください。こちらがインパクト創出を企図した対話の事例でございます。弊社におきましては、企業が創出する社会的価値が経済的価値の向上につながる好循環を実現するために、企業側において企業理念、戦略に紐づく定量的なKPI、これを設定してもらうことが重要だと思っています。このため、下段に記載ですが、ロジックモデルのイメージ図というふうに書きましたけれども、こういった図のようなロジックモデルとかKPI案へこれを当社側から作成して、投資先企業側に提示しながら対話を行うことで、企業価値の向上に努めた対話を実施しているといったところでございます。

 19ページをお開けください。こちらがスチュワードシップに関しての生命保険協会としての取組みにつき紹介したページになります。生保協会におきましては、株式市場の活性化と持続可能な社会の実現の貢献に向けまして、傘下のワーキンググループを通じ、参加各社が協働して企業に対して課題意識を伝える協働エンゲージメント、これを2017年度より実施しており、弊社も参画しております。昨年度はこちらに記載の株主還元の充実、ESG情報の開示充実、気候変動の情報開示充実の3テーマに関しまして、上場企業148社、延べ155社を対象に直接課題意識を伝える活動を行っております。特に気候変動のような世界的な課題につきましては、こういった協働エンゲージメントの形で業界全体の課題認識を伝えるのは、企業との対話をするに当たって有効な手段と考えております。

 20ページをお開けください。こちらは先ほど一度お示しした資料の再掲になります。今まで御説明したとおりでございますが、弊社のプレゼンの締めくくりといたしまして、実務を通じたサステナブルファイナンスあるいは投資商品に関して感じている課題につき2点だけコメントさせていただきます。

 1点目、サステナブルファイナンスを通じた社会的インパクトの創出と同創出による経済的な価値の向上の考え方が正確に理解されていないのではないかといった点です。先ほど弊社における社会的インパクト創出による経済的価値向上の考え方については説明しましたけれども、サステナブルファイナンスは、投資したらすぐ社会的インパクトが創出される投資商品ではないという理解をしております。中長期的には社会的インパクトが創出され、それがビジネス機会拡大につながることで投資先企業の企業価値向上がさらにもたらされるものであって、投資軸の時間軸を正確に理解してもらうことが必要というふうに思っております。そのためにも投資家に対しましては、分かりやすい言葉でサステナビリティ投資の特性、これを説明するとともに、投資商品名に関しましても、社会的インパクトが容易に想像できる名称をつけることが必要と考えております。

 21ページを御覧ください。2つ目の点は、社会的インパクトが創出されれば、本当に中長期的に経済的価値も向上するのかといった問いに対する実証研究とか分析がまだまだ不足しているのではないかといった点です。この席上では当社が認識している実証分析結果を1つだけ紹介いたします。

 こちらのグラフはESG格付と株価収益率の関係を示したもので、これは米国に本拠を置く世界最大の企業調査リスクコンサルティング会社であるクロール社が、2013年から2021年の長期にわたって分析した結果です。対象はグローバル1万3,000社を対象にしています。こちらを見ますと、ESG格付が高くなればなるほど、つまり、社会的価値が高まるほど株価収益率も高まる傾向にあることが把握できていると思っております。当該グラフは、あくまでもこういった事例紹介の1事例にすぎませんが、こうした実証事例をできるだけ多く公表することでサステナブルファイナンスと収益性の関係についての理解が深まるのではないかと考えます。

 最後、22ページ目を御覧ください。グローバルな金融機関であるフィデリティ投信が行った個人投資家向けのアンケート調査結果につき簡単に触れさせていただきます。こちらは先ほど水口先生の御説明にもあったとおりですが、こちらのアンケート結果によりましても、サステナビリティ投資に投資しない理由につきまして、サステナブル投資が何かよく分からないからとの回答率が最も多く、次いで、サステナブル関連の金融商品のもたらす影響が懐疑的だからとか、他の金融商品よりもリターンが低い可能性があるからといったことで、こちらからも分かりやすい商品説明、名称付与、あるいは中長期的な観点でのインパクトと経済的価値の関係等につき共通理解を醸成していくことが望ましいと考えております。

 以上で弊社からのプレゼンを終了させていただきます。御清聴ありがとうございました。

【水口座長】
 ありがとうございました。投信協さんが調整中なんですけれども、その前に池田さんがそろそろお時間ですので、もし池田さん、ここまでで何かコメントとか御意見とかございましたらいただきたいと思いますが、いかがでしょうか。

【池田総合政策課長】
 水口先生の御発表が非常に興味深いなと思って聞いていたんですけれども、金融に対する態度とリテラシー、2つの金融に対する考え方の尺度を用いると、儲けたいと思っている人はESGをやらない、金融リテラシーが高いとESG投資をやるみたいな、どういう形でサステナブルファイナンスだったりESG投資に潜在的に関心を持っている方あるいは持つ可能性のある方にアクセスしてメッセージを届けていくかと考える上で、御発表の中の問題提起にもありましたけれども、単純にサステナブル投資をどう思っていますかみたいなことだけじゃなくて、結構重層的な問いの立て方が必要だとすると、それを踏まえたサステナブルファイナンスのある種認知向上策というか促進策みたいなものを考えていく必要があるんだなというのを改めて印象深く思いました。

【水口座長】
 ありがとうございます。おっしゃるように潜在的には関心のある人がいるんだろうなという感じです。ありがとうございます。

 それでは、すみません、投信協様、今度有線で入っていただいたということですけれども、もう一度、すみません、トライさせていただければと思います。いかがでしょうか。

【栗生様】
 栗生でございます。声、聞こえておりますでしょうか。

【水口座長】
 今聞こえております。

【栗生様】
 それでは、私から御説明させていただきたいと思います。私、投資信託協会の投資信託のESGに関する検討部会で部会長を務めております。それから、普段は三井住友トラスト・アセットマネジメント(以下、SMTAM)で商品開発業務を担当させていただいております。

 次のスライド、右下2ページを御覧ください。SMTAMは、資産運用業のありようとして、「未来の可能性を拓き、真に“豊かな”社会を育む。」をビジョンとして掲げています。

 次のスライドをお願いします。当社は、国内外の機関投資家、リテール投資家から総額94.8兆円をお預かりしておりまして、国内外の株式・債券・リート等に投資をしています。このうち、ESGインテグレーションの残高は36.3兆円となっております。

 次をお願いします。ここから、SMTAMのサステナビリティ投資の実務についてご説明します。弊社は、「サステナビリティレポート」を12月3日に発行いたしました。本日はそのダイジェスト版とも言えます。ご興味ありましたら、弊社ホームページにてご高覧くださいますと幸いです。

 次を御覧ください。お客様本位の業務運営を実践するためのFD行動計画の第一に掲げているのが「資産運用の高度化」です。2点目の通り、お客様の利益の最大化を目指すために、ESGの考慮が重要と考えています。

 次のスライドをお願いします。ESG投資の考え方を、渦巻きの絵でお示ししています。ESG投資の目的は、お客様、受益者の投資リターンの最大化です。これはアップサイドを追求する側面と、ダウンサイドリスクを抑制する側面の両面があります。投資リターンの最大化は、株式であれば投資先企業の株価が上がることで実現されます。株価は様々な要因で変動しますが、弊社としては企業価値が株価に反映すると考えています。つまり投資先企業の価値向上が、リターンの原動力となります。その企業価値を評価するうえで、サステナビリティやESGは切っても切り離せません。いまや、全ての経済主体が、中長期的な経済社会のサステナビリティに向けた行動をとる必要があります。とくに、経済の主役である企業には、サステナビリティに配慮した経営や課題解決に主体的な役割を果たすことが期待されています。企業が、社会価値やステークホルダーの豊かさを“ないがしろ”にしてしまっては、企業価値の向上や持続的成長は実現できません。つまり、投資リターンの最大化も実現できません。

 弊社としましては、投資先企業に対して企業価値向上、持続的成長を促すことが、インベストメントチェーンにおける資産運用会社の役割と考えています。そのため、SMTAMでは、運用する全ての商品においてESG投資を最大限考慮しています。

 次のスライドを御覧ください。ESG投資の実践手法には、ESGインテグレーションとアクティブオーナーシップの2つに分類される、7つのアプローチを活用しています。次のスライドで、この位置づけを御説明します。まずエンゲージメント、議決権行使、投資の意思決定におけるESGの考慮、つまりESGインテグレーション、この3つを、お客様のリターン最大化を図る責任、言い換えますとスチュワードシップ責任と言えますが、これを果たすための活動の柱と位置付けています。

 エンゲージメントにつきましては「ベストプラクティスを求める機会」、議決権行使は「ガバナンスのミニマム・スタンダードを求める機会」と位置付けております。ESGインテグレーションにつきましては、企業価値棄損の限定化、つまりダウンサイドリスクの抑制、そして、事業機会化を通じた企業価値増大、つまりアップサイドポテンシャルの追求を図る手段と位置付けています。 

 次のスライドを御覧ください。こちらはスチュワードシップ活動の推進体制をまとめております。詳細な説明は割愛いたします。

 次のスライドを御覧ください。エンゲージメント、議決権行使、ESGインテグレーションを実践する上でどのようなESG課題を重視するのか、それを整理したものがこちらのESGマテリアリティと重点活動項目でございます。これらが今、投資先に対しまして価値向上や持続的成長を促す上で特に重要なテーマと考えております。

 次のスライドを御覧ください。3つの柱のうち、ESGインテグレーションについて業務の流れを御説明いたします。まず、出発点はESGマテリアリティとなります。次に、全ての投資対象について、ESGマテリアリティを踏まえて、自社ESGスコアを算出しています。ESGスコアはESG課題が与える機会やリスクの影響を分析し、投資家の視点で算出する投資指標でございます。外部のESGデータと自社のリサーチ、エンゲージメントを通じて得た情報や分析結果を基に算出しております。

 次に、国内の株式と債券の運用におきましては、MBIS総合スコアを活用しております。MBISは企業の中長期的な持続的成長性を評価するものでございまして、ESG要素を含む非財務情報について、右下の経営、事業基盤、市場動向、事業戦略の観点から分析し、スコア化しております。投資への考慮については、次のスライドで御説明いたします。

 アクティブファンドではESGを考慮したネガティブスクリーニングを実施しております。その上で各資産、各投資戦略の特性に応じて、MBISスコアやESGスコアを利用しております。その使い方は商品によって差異がございます。例えば日本株アクティブ商品の中でも、MBISスコアをスクリーニング基準として定めて、投資先を選定する際にもMBIS、ESGを含みます非財務情報を投資判断の主要な要素と位置づけている商品もあれば、バリューとかグロース、そういった観点を重視しつつ、投資候補を絞り込む際の判断材料の一つとしてMBISも参照している、そういった使い方の商品もございます。

 次のスライドを御覧ください。先ほどSMTAMでは運用する全ての商品においてESG投資を最大限考慮すると申し上げましたが、国内外のESG投資関連規制を勘案しまして、ある意味狭い意味でESGプロダクトと標榜できる商品を社内で認定する仕組みを導入しております。認定要件は左に記載の3つでございます。

 このうち2つ目のポートフォリオのESG特性、これを測定する方法には幾つかアプローチがございますので御紹介します。一つは何らかの閾値を設定する方法です。例えば自社ESGスコアや温室効果ガス排出量について、ポートフォリオのそういった数値とベンチマークを比較するという方法です。ほかには、特定のESGテーマに投資する場合にはテーマに該当する銘柄の定義を決めた上で、最低投資割合を基準としてその遵守状況を確認するという方法もございます。また、いわゆるESG指数に連動するパッシブファンドの場合にはそのトラックの状況を確認するというようなことをしております。もう一つのアプローチとしては、改善状況を計測する方法でございます。インパクト投資ファンドにおきましては、投資銘柄ごとにインパクトKPIを設定し、その改善状況を確認しているところでございます。

 次のスライドを御覧ください。公募の投資信託におきましては、6個の認定ESGプロダクトがございます。上の3つは国内株式のアクティブ型、SRI型でございまして、2003年に設定したものでございます。委員の足達さんと共に立ち上げたファンドでございます。下の3つは、それぞれESG指数に連動するパッシブファンドでございます。現状、この6ファンドの残高の合計は380億円程度にとどまっておりまして、弊社の公募投資信託の残高は8兆円ございますので、比率でいきますと0.5%程度という、そういう状態でございます。

 次のスライドをお願いいたします。ここからESGプロダクトの開示について御説明いたします。まず、誤認防止の観点から、公募投資の全てについて、ESG投信です、もしくはESG投信ではありませんと、こういうことを目論見書に明記をしているところでございます。

 次のスライドお願いいたします。こちらは認定ESGプロダクトの目論見書におけます開示について、日本株アクティブのSRI・ジャパン、こちらを例にお示しをしているところでございます。SRIとかCSRという単語は様々な解釈、誤解もあるかなと感じるところですが、記載のとおり、ESGを考慮した投資判断を実践している、そういったプロセス等を開示しているところでございます。

 次のスライドをお願いいたします。こちらの投資リスクの欄におきまして、ESG評価と短期的な株価変動との関係性について言及しているところです。また、ポートフォリオ構成の欄ですが、ESG特性について自社のESGスコアの平均と分布をTOPIXと比較したグラフを掲載しているところです。このESGスコアの分布等は、月次レポートでも毎月末の状況を開示しているところでございます。それから、月次レポートでは、組入れ上位銘柄についてESG評価のポイント、こういったところを御報告しているというところでございます。以上がSMTAMにおけますサステナビリティ投資の実務の概要でございます。

 次のスライドお願いいたします。ここからはサステナビリティ投資の実務・投資商品に関する課題等について、私、栗生個人の考えを述べさせていただきます。SMTAMを代表する意見でも、検討部会を代表する意見でもないというところでございます。また、資料の御用意はなく、口頭での御説明となりますが、御容赦いただければと思います。お伝えしたいことは3点ございます。

 1つ目は、手触り感についてです。投資家の認知・関心を高めるキーワードとして手触り感という単語がこれまでの会議でも言われてきたかと思います。これについて、投資商品はあくまでリターンが目的であって、サステナビリティが投資の目的ではないということがございますので、投資商品に関する説明の中で手触り感を出していくのは正直難しいと感じております。投資家の誤認を招くおそれもありますので、端的な表現、キャッチーな表現には慎重にならざるを得ません。

 できることとしましては、個々の投資先企業について投資判断とその際のESG考慮の内容等を説明する、これが王道だろうと考えております。投資商品は投資先企業を通じてサステナビリティに貢献している。これと同様に、投資家が投資商品に手触り感を感じていただくには、投資先企業の事業内容等の理解を通じて商品理解を深めていただくことが必要だろうというふうに考えます。機関投資家であれば、商品選定の際に、時間をかけて過去のレポート等から投資判断の実例・事例の積み上げを吟味していただくことが多いかなと思いますが、リテール投資家の場合には商品選択をする際にそのような手間をかけていないケースも多いのではないかというふうに推察いたします。そうでありますと、なかなか手触り感を感じることは難しいのではないかと考えているところです。

 次に、2つ目はラベル、分類についてです。今申し上げたとおり、手触り感を感じることが難しいと、そういった前提に立ちますと、何らかのラベルを貼ることは投資家が認知しやすくなり、また、商品選定の判断材料となる効果が期待できるんだろうというふうに考えます。サステナブルファイナンスの定義や理解が定まらない中で、投資家の裾野を広げていこうとしますと、誤った認識、偏った考え方が広がる懸念もございます。特にSNS等で拡散してしまうと軌道修正が難しいだろうというふうに想像いたします。投資家保護、品質保証的な観点でもラベルが有効だろうと思います。

 ただ、ラベルを貼ることだけでは投資家の関心を高め、投資ニーズを喚起することにはつながらないではないかと思います。実際の投資につなげるには、海外では事例があるようですけれども、ラベル付き商品に対して税制メリットを付与するとか、あくまで例えばですが、NISAにおいてサステナビリティ投資商品枠をつくるなども検討に値するのではないかなというふうに個人的には考えているところございます。

 3つ目は、資産運用会社にとっての課題をちょっと述べさせていただきます。ラベル、分類につきましては、冒頭御説明もあったとおり国・地域によって少しずつ基準が異なるところがございます。この違いは運用現場の実務負荷の増大につながっておりまして、基準の違いに合わせて運用スタイル、商品仕様、開示内容、こういったバリエーションが増えていくことになりますので、運営コストの増大につながっております。

 また、開示の充実といったことが求められますが、開示に必要なデータの入手の費用負担も実際問題大きくなっているところが課題でございます。全般的に投資商品のフィー構造は依然デフレ状態を脱却しておりませんでして、なかなか価格転嫁もままならないというところがございまして、資産運用会社の持続性に小さくない影響を与えていくのではないかというふうに懸念をしているところでございます。

 また、開示のもう一つの課題は、当局様とか業界から期待されます開示内容と、マスリテールが理解できる内容とのギャップがどんどん広がっていくのではないかという心配でございます。当然ながらそのギャップを埋めるためにどのように情報をデフォルメしていくのか、分かりやすく伝えていくための工夫が必要なわけですけれども、どこまで対応できるのかが悩ましいといったところがございます。

 最後に、次のスライドをお願いいたします。手触り感の話に関連しまして、SMTAMの活動について御紹介させてください。投資という行為、インベストメントチェーンに対する理解を深めていただくために、金融リテラシー高度化活動に取り組んでおります。スライドタイトルの“ワタシもはた楽 オカネもはた楽”をキーメッセージに、小学生、中高生、大学生、社会人、それぞれの世代に沿ったコンテンツを提供しております。こちら記載しておりますのは、主に小学校高学年をターゲットとしましたSDGsと金融を同時に学ぶプログラムの一つでございます。

 次のスライドに授業コンテンツの抜粋をお示ししております。こうした活動を通じまして、投資そのもの、インベストメントチェーンに対する理解が深まることで、サステナビリティ投資に限らず、人生100年時代を有意義に過ごしていただくための投資商品の利用・活用に広がっていくんじゃないかというふうに考えております。

 以上でございます。

【杉江様】
 引き続きまして、投信協会の杉江のほうから御説明を申し上げます。時間が押しておりますので、簡略に御説明をしたいと思っております。

 まず、資料の1ページをお開きください。ESGにつきましては、投資信託のESGに関する検討部会を設置いたしまして、今御説明いただきました栗生さんに部会長をお引き受けいただきまして、どのようにすれば投資信託におけるサステナビリティ投資を増やしていけるかという議論を重ねてまいりました。昨年4月には金融庁の監督指針が改正されまして、ESG投信が定義づけられました。それを受けまして、投信協会では、昨年5月に、今説明しております「ESG関連投資を行う資産運用会社としての基本的な考え方」を公表しているところでございます。

 次に、ESGの現状について御説明をいたします。2ページを御覧ください。私どもが取り扱っている公募投信は現在、6,000本程度ございますが、そのうち監督指針上のESG投信に該当するものは216本あり、残高は3兆9,326億円となっております。こうしたESG投信をさらに増やしていくことが重要だと考えております。

 3ページをお開きください。こちらのほうは現在、今お示ししたESG投信が投資信託全体の中でどのぐらいのシェアがあるかということを示したものでございます。現在、ESG投信のシェアは約2%ということで、そのため、私どもとしましては、このESG投信だけではなくて、投資信託全体、今、私募も含めますと約370兆円の投資信託がございますが、この投資信託全体の組成においてESGの考え方を取り入れていくことが非常に重要であると考えているところでございます。

 そのためには、先ほど水口先生のほうから、金融リテラシーが高い人ほどESG商品を買う傾向が強いというお話がございましたが、個人投資家に対するサステナブル投資に対する理解を深めるために、ESG商品あるいはサステナブル商品に対する啓蒙活動・広報活動が重要であると考えております。本年4月に創設されました金融経済教育推進機構(J-FLEC)と投信協も含む関係民間団体が連携をしまして、サステナブル投資に対する啓蒙活動・広報活動を推進していくことが望ましいと考えております。

 また、現在、政府におきましては、資産運用立国の政策が進められておりまして、若い資産形成層に長期・積立・分散という形で資産形成をしていくため、NISAの抜本的な改革が行われております。長期的な資産形成という観点では、ESG商品は非常にNISAと親和性がある商品だと思っております。先ほどのESG投信216本を見てみますと、そのうち積立投資枠の対象商品は2本、成長投資枠の対象商品は124本で、57%になっております。ESG投資は長期的な観点で行うべきものであり、その意味でESG投信は投資信託の中で積立投資に最もふさわしい商品の一つと考えられます。ESG投信が積立て投資枠の対象となるような税制改正が望まれるというふうに考えております。若い年代、特にZ世代と呼ばれるような社会問題の解決に関心が高い層がちょうど資産形成層の世代ですので、若い資産形成層の人たちにESG投信に投資をしていただいて、長期的な資産形成が日本全体として推進されていくことが大変重要であると考えているところでございます。

 投信協会は、顧問業協会と共同で2020年に資産運用業宣言を出しております。この中では、資産運用会社の社会的使命として、国民の豊かな資産形成に最善を尽くすとともに、投資信託を通じた責任ある投資活動によって社会問題の解決を図り、サステナブルな社会の実現に貢献するというふうに資産運用会社の社会的使命を規定しております。投信協会としましては、投資信託を通じた多種多様なESG関連投資の流れを一層力強く確かなものにしていくことにより、引き続きサステナブルな社会の実現に貢献してまいりたいと考えております。

 ありがとうございました。以上でございます。

【水口座長】
 ありがとうございました。司会の不手際で、時間があと30分になってしまいまして、申し訳ありません。ここから自由討論としたいと思うのですけれども、途中退席というふうに事前にお伺いしている方に優先的に、もし御意見があればいただこうと思いますが、手塚さん、鍋嶋さん、吉高さん、高村先生は途中退席と伺っております。もし御意見があれば先に伺いますが、何かございますでしょうか。どなたからでも結構なんですが。もういないかもしれませんが。また何か御意見があればいただければと。

 それでは、ほかの方も含めて、今、フロア全てにオープンということですけれども、コメントなどいただければと思います。井口さん、お願いします。

【井口メンバー】
 ありがとうございます。プレゼン、ありがとうございました。最初、同業者の栗生さんのほうに1つ御質問したいんですけれども、投信協会さんのデータでは、多くのサステナブルファイナンス投資をやっているといっても、結局、ESG投信が1%程度であるということになっています。実は、私の会社も、選定の仕方やESG投信商品も含めて公開していますけれど、同じようにESG投資を標榜しているんですけれども、ESG投信の数は少ないというところがあります。理由は、この金融庁さんの監督指針で、ESG投信は、ESGを投資判断における主要な要素、主要な判断事項とされておるので、例えば、普通のESGインテグレーションですと、ESG要素を考慮したとしても、主要な要素には株価判断が大きく入ってくるので、ESG投信にはならないということがあると思います。結局、栗生さんの資料にも書かれていたような、スクリーニングなどをして、ESG的にいいところを選んだファンドのみがESG投信になって、結果的にかなり少なくなってくるという状況があると思います。もちろん、インパクトファンドも、ESG投信に含まれると思うんですが、その辺もし何か御意見あればよろしくお願いします。

【水口座長】
 栗生さん、いかがでしょうか。

【栗生様】
 ありがとうございます。これはESG投信とかサステナブル投信の定義によるところだというふうに思っております。御指摘いただいたとおり、監督指針とか海外の様々な分類でいきますと、やはり主要なとか重要な要素として考えているか否かというそこの線引きがございますので、なかなか主要なと言い切るにはどうだろうと。例えばこの運用スタイルについてESGの要素を主要な特性だというふうに言うのはなかなかはばかられると。その辺りの部分がESG投信と分類するかしないかの当落線になっているんだと思います。

 他方で、弊社の場合には、国内株式、外国株式の完全法のパッシブファンドを運用しております。これはインテグレーションの余地はないわけでございますが、他方で議決権行使、それからエンゲージメントを実施して、市場ベータそのものの押し上げに寄与したいと、こういった思いでやっているわけでございますけれども、これが、では、サステナブル投資、ESG投資かというと、これはこれでまた、様々な御議論があるというところだと思います。この辺りはやはり数字が独り歩きしやすい部分を踏まえて、定義の問題、分類の問題、そういったところが必要かなと考えております。投資はすべからくインベストメントチェーンを回すことがサステナブルだというふうに私は思っておりますので、あくまで定義・分類のところが工夫の余地があるところかなというふうに思っております。

【井口メンバー】
 ありがとうございました、あと、ひとつ意見の方も言わせていただければと思います。個人というところに絞った場合、水口先生がご説明されたように、すごくサステナビリティを意識されている方から、ESGインテグレーション型を好み、最終的にはリターンが非常に重要とする方まで、レベル感がいろいろと思っております。ですので、そういった中で、制度的に、どう対応するかというところは悩ましい課題と考えております。全体を含むようにすると規律が弱いと言われてしまいますし、厳格に一定のところをやると、今度はほとんどサステナブル投資として広がり方がなくなります。ですので、私は、栗生さんもおっしゃっていましたけれども、米国型のネーミングルールにあるように、まずは、ESG投信からインパクト投資を分けて厳格な方に対応する、あと、インテグレーション型はどうするかという議論はあるんですけれども、そういったことでまずは幅広くやりながら、水口先生がおっしゃったように、教育で底上げを図る中で、もう一度、考えていけばいいんじゃないかなとは思っております。この世界でよくいわれる、段階的なアプローチの方が現実に合っているのかなと思います。以上です。ありがとうございました。

【水口座長】
 ありがとうございました。では、藤井さん、お願いします。

【藤井メンバー】
 ありがとうございます。まず、事務局資料の記載に戻って、個人にサステナ投資の理解を促す上でどのような取組みが有効と考えるかというところでコメントをさせていただいて、最後にちょっとだけ細かい質問をさせていただきたいと思います。

 個人においてサステナビリティ投資を進めるということの必要条件と十分条件は何かと考えた場合に、事務局資料の2、3ページにあったような、IOSCOの提言とか、あるいは4ページの用語定義というのは、ある意味、商品を組成する側あるいは提供する側における必要条件ではないかなと思いました。そういう意味では3ページの提言というのはある意味最低限求められるリストとも考えられます。

 では、その原則をルールベースにするかプリンシプルベースにするかということについていうと、プリンシプルベースのほうが望ましいと思います。先週、米国のゴールドマンサックスがNZBA(Net-Zero Banking Alliance)から離脱しましたけれども、理由の一つとしてSFDRへのコンプライアンスのコストといいますか、負担が非常に大きい、言わば「コンプラ疲れ」のようなことも挙げられていますし、前回も申し上げたように、ESGのテーマは変化が激しいので、ルールベースは後追いになりがちかと思います。

 ここまでは必要条件の話でありまして、では、十分条件、投資のモチベーションにこれらの提言がなるかというと、そこはちょっと違うのではないかと思います。個人の方々がこの2、3ページのものを見て投資を決めるか、したくなるかというと、それは違うように思います。では、投資のモチベーションになる十分条件は何かを考えた場合に、水口先生の研究は非常に興味深いと思います。特にまとめのところの金融リテラシーが高い方がESG投資を選ぶ傾向がある、ということからすると、個人投資家側のベースを形成するのは、先ほど栗生さんもおっしゃられたような金融リテラシー対策が有効だと思いました。ただ、金融リテラシーだけでは、投資のベースが形成されるだけになりますので、最後に投資家の背中を押すということが必要だと思います。そのためには、投資家における分かりやすさという意味でのラベリングは一つ考えられると思います。

 以前投信商品が乱立した際に、これはハイリスク・ハイリターン型だとか、これは低リスク・低リターン型だといったような分類をしたという記憶がございます。ただ、その場合はいわゆるリスク・リターンなので、一定程度確立されたポートフォリオ理論上の投資フロンティアに基づく分類だったわけで、ESGはそこまで簡単ではないというのは理解していますが、例えば環境重視型とか人権重視型とか、先ほどのSMTAMさんの中でもESG投信である、あるいはないという分類はされておられるわけで、では、ESG投信であるとした場合に、どういうところに特に重点を置かいているのかといったような分類は考えられるのではないか、また、そのためにも共通定義という論点を整理するということは意義があるのではないかと思いました。

 以上ここまでが意見なのですけれども、細かい話で申し訳ないのですが、気になってしまったので投信協会さんに御質問したいのですけれども、2ページの投信の動向というところで、一番右端、ESG投信の本数は1件増えているだけですが、残高が若干減っています。この間に日本株は恐らく15%ぐらい上がっていると思うので、これはやっぱり一定程度の利食いが出たというふうに理解していいのでしょうか。

【水口座長】
 もしすぐ分かるようなら、今のところを、なぜ残高が減っているんでしょうねという。分かりますか。

【杉江様】
 よろしいでしょうか。投信協会の杉江でございます。御指摘のとおり、2021年の4兆6,000億円から減っております。しかしながら、市場全体とした視野で見てみると、2021年では3.08%あったものが1.76%まで減っているということでございますので、相対的にESG投信の残高が全体よりもかなり減っているという状況にございます。これについては市況の影響もございますが、ESG投信以外に資金が集中したという影響も受けているのではないかなというふうに考えてございます。216本ございまして、その中で詳細な分析等はまだやっておりませんが、全体として見ると若干の資金流出が起こっているというふうに認識をしております。

 以上です。

【水口座長】
 ありがとうございました。では、長谷川さん、岸上さんの順番で行きたいと思います。長谷川さん、お願いします。

【長谷川メンバー】
 ありがとうございます。今日は水口先生の御説明と、明治安田生命さんの御説明を非常に興味深く開きました。個人投資家にいかにサステナブル投資を推進するかということで、水口先生の調査結果でいうと、やはり金融リテラシーが高い人はESG投資・インパクト投資を選ぶ傾向にあるということや、環境・人権のリテラシーが高い人もインパクト投資・ESG投資を選ぶということであれば、やはりインパクト投資やESG投資がリターンにもつながるしインパクトをもたらすということを周知していくことが必要だろうと思いました。

 そのときに、明治安田生命さんの資料22ページのフィデリティ投信の調査も非常に面白いと思いました。同結果では、個人がサステナブル投資をしない理由としては、まずよく分からないということがあって、その次に、商品がもたらす影響、インパクトに懐疑的であるということや、リターンが低い可能性があるということ、企業の取組みが主観的で取組みの内容が明確でないといった理由が上位に来ています。今、経団連でインパクト投融資ワーキンググループを開催していまして、事業会社と金融会社の方に集まっていただいて、インパクト評価をいかに実施するかということをずっと検討しているのですが、やはり何回も出てくる意見が、企業のサステナビリティへの取組みがいかにリターンにつながるか、つまり、その事業を通じた社会・環境へのインパクトがどう企業価値につながって、それが企業財務にどう影響するかというパスウェイがうまく説明できないということです。また、それを投資家にエンゲージメントの中で理解してもらうのが非常に難しいという意見が多く出されています。

 ですので、やはりまさにインパクト評価の課題として指摘されていることですけれども、インパクトが出るまでのアウトカムがいかにリターンにつながって企業価値向上につながるかというところのロジックの説明方法や、これも明治安田生命さんの資料にもありましたけれども、ESG評価の高い企業のほうが株価収益率が高いとか、そういったデータをいろいろ整備して、個人投資家にも分かってもらえるようにしていくのが良いのではないかと思いました。

 その関連で一つ、これもESG評価でもよく指摘されることですが、人権がマテリアリティに入っているのですけれども、この評価の仕方も、例えば、サプライチェーン上の人権問題が1件も報告されていない企業が良いのか、他方、それは単にモニタリングが弱いということであって、実際に数件は報告されたけれども、それに対してちゃんと対応をとって改善されたほうが社会に対するインパクトは高いのではないかという意見もあります。そういったことも含めたリスクファクターの評価の方法なども個人投資家は関心持つと思いますので、少し検討を進めたら良いのではないかと思いました。

【水口座長】
 ありがとうございます。おっしゃるとおりですね。では、岸上さん、お願いします。

【岸上メンバー】
 ありがとうございます。本日は議論する時間が限られているかと思いましたので、今後のまとめ方についての提案にフォーカスしたいと思います。5月のこちらの有識者会議で機関投資家向けのビジネスと人権ガイドを御紹介させていただいたかと思います。その際に、機関投資家の目線で、ビジネスと人権が何を意味して、なぜ取り組むべきで、どのように取り組むべきかという整理をしましたが、同じようなフレームワークで、個人投資家とサステナブルファイナンスについて整理することも可能なのではないかと思いました。

 具体的には、例えばWhatのところで、そもそもサステナブルファイナンスもしくは投資が何を意味するかということでそこの課題点、そして、やはり多様であるということで、その多様が何を意味するかという整理が必要ということとか、なぜサステナブル投資をやるべきかといったところで、それも1つの解でないとしてもこういった考えがあるからこそ選択肢として入れていますよという整理で、そこの課題点。本日も皆様の御意見の中にもあったと思いますが、Howのところで、例えば積立てのところに今、個人投資家が一番アクセスしているのにもかかわらず、そこにサステナビリティ商品が入りづらいということがHowのところの課題だとすれば、その課題解決策を提示することがHowに含まれる一つというふうにもなってくるかと思いましたので、個人投資家向けのWhat、Why、Howで課題点とでき得ることを整理するというのはどうかと思いました。

 あと、今日全員意見を言い切れないような気がしましたので、この場でしか議事録が取られないといった課題もあるのかと思いますが、本日以降も意見を共有していいということであれば、検討いただければと思いました。

【水口座長】
 そうですよね。何かSlackとかつくりますかね。みんなで議論する場とかをつくったら面白いんですけれども。それでは、足達さん、林さんの順番で行きたいと思います。足達さん、お願いします。

【足達メンバー】
 ありがとうございます。岸上さんが議論のフレームワークをうまくまとめていただいた後に具体的な各論の提案になって恐縮ですが、高岡さんから冒頭に、呼び込むための工夫のヒントになることを教えてくださいということがあったので、それに忠実にお話ししたいと思います。3つ申し上げます。

 1つ目は、ESG投資を考えるときに、インテグレーションという概念の罪というのを私は思うんです。インテグレーションというのは統合して考えるということで、そういう投資判断スタイルがあるんだということになっていたわけですけれども、これが手触り感あるいは分かりやすさを阻害している可能性を私は謙虚に考えてみるべきなのかなと最近は思っております。

 これはもう井口さんが御専門なので私が横から変なことを言うと後で叱られそうですが、実際にポートフォリオを組成するということの場合に、あるAという企業はこういう理由で入れたい、Bという企業はこういう理由で入れたいというのが現場の本音だと思うんです。ところが、ことESGに関していうと、ある企業は、例えば女性の管理職活躍が進んでいるから入れます、こちらの企業は、社会課題を解決する新製品の将来のキャッシュフローが見込めますから入れますと、こういうことをひとつのファンドで例えば100銘柄についてやってしまうと、外から見みると、やっぱり「分からない」という印象になるんだと思うんです。

 したがって、若干ポートフォリオ組成上の難しさ、ハードルを上げることになることを承知のうえですけれども、投資判断のところで、ファンドマネジャーの皆さんがこういうふうにファンドのパフォーマンス貢献へのパスを見ていますという点を具体的に類型化するという提案を申し上げたいと思います。

 例えばそれはリスクの側面か、キャッシュフローの側面かという類型ぐらいの非常に緩いものでもいいと思います。先ほどの長谷川委員からのお話でいえば、不祥事に対してリスク耐性がある企業と見込んだからこの銘柄を集めましたという類型もありうる。粒度をどうするかというのは非常に重要な論点になろうかと思いますし、実際のファンドマネジャーの皆さんの御意見なんかも伺わないと簡単にはできないと思いますけれども、そういう類型化を行って、そういう形の投資方針なり投資判断を具体的に目論見書なりパンフレットに書いてくださいという取組みを進めてはどうだろうかというのが最初の御提案です。

 それから2つ目は、これも専門家の前ですけれども、私の四半世紀やってきた実感は、リターンよりもやっぱりリスク、相場全体が下がっていくときのリスク耐性が大きいというのが、このESG投資だという実感を持っております。これも、すみません、検証はできてないんですが。ただ、そう考えると、リターンとリスクをシャープレシオのような形で相対化して考える。こういう概念を日本の金融界あるいは投信の世界でもっと広めていいんじゃないかと。そのことと連動して、このESG投資というのは相対的リスク・リターンで見ると優位ですよという言い方、それを普及できるようなムーブメントにできないかと。これは専門家の御意見をぜひ伺いたいと思います。これが2つ目です。

 それから3番目は、今日生保協会さんのお話を伺ったものですから申し上げるんですけれども、私の持論でもありますが、日本の生命保険の出し手は専ら相互会社であるという特性があるわけです。保険加入者の皆さんとの対話とか、仕組みとしては各社、総代会を持っておられたりするわけですが、こういうところで、サステナブルファイナンスのような運用のダイアログとかができるのではないかと思います。総代会の議題とすることが望ましいぐらいでもいいかもしれませんが、そういう形で、加入者の人たちとの対話の中でこういうリテラシーを高めていったり、意識を醸成していく工夫です。

 私が今から25年ぐらい前にイギリスのUSSという大学職員の年金基金にヒアリングに行ったときに、今でも覚えていますけれども、「USSが当時の責任投資みたいなことを始めたのは、年金加入者からの意思である」と聞きました。大学の職員だったからインテリの人が多かったということもあるんでしょうけれども。日本の生保のガバナンスはときに問題視されるけれども、私は相互会社でいらっしゃるがゆえの強みとして、加入者が何を考えているのかということのなかから、ESG投資なりサステナブルファイナンスを底上げできないかという可能性を御提案したいと思います。

 以上3つでございます。ありがとうございました。

【水口座長】
 ありがとうございました。それでは、林さん、そして安地さん、鳥海さんという順番で行きたいと思います。林さんお願いします。

【林メンバー】
 ありがとうございます。皆さんおっしゃったことにあんまり追加はないんですけれども、今日いらっしゃる皆様は別として、結局、日本の機関投資家、個人投資家については特になんですが、やっぱり金融リテラシーというか、サステナブルファイナンス、そもそも投資って何ということすらよく知らない大人が多いというのが日本の実態です。だからこそ資産運用立国にしていくのであれば、すごく時間はかかるんですけれども、今日皆さんおっしゃっていたように、そもそも金融リテラシーの確立が大事だというのは、水口先生のお話や皆様のお話からも改めて実感しました。

 先ほどJ-FLECさんのお話が出ましたけれども、どうやって活用していくかということが本当に大事だと思っています。それプラス、やはりIOSCOの提案というのが必要条件だと藤井さんがおっしゃいましたけれども、ここで提言されていることって当たり前だけれどもちゃんとやってないということだと思いますので、まずはそこからもう1回、何ができるかを考える必要がある。また、サステナブル投資の商品が少ないんだということについて驚きました。その理由はいろいろあると思うんですけれども、その課題について改めて洗い出すところ、それに対して一体何ができるのかという具体的なことを考えないと、結局机上の空論で終わってしまうような気がいたしましたので、2点、リテラシーの確立をどうしていくかということと、何が本当に障壁になっているのかということを改めて整理していただけるといいかなと思いました。

【水口座長】
 ありがとうございました。では、安地さん、お願いします。

【安地メンバー】 
 安地でございます。

 皆さんの意見と重複するところもありますが、王道は、投資家のリテラシーを引き上げて、どのようなESGインテグレーションを組み入れているESG金融商品か理解いただきまして、インパクト投資やテーマ型商品に投資いただくことが良いのだと思います。一方で同時に、ウォッシュとの関係であまりいいかげんなことはできませんが、入口の敷居を下げるという取組みも一定程度やったほうが良いと考えています。

 先ほど足達メンバーもおっしゃっていましたけれども、ESGインテグレーションという概念は結構難しい用語だと思うので、少し極端な例で申しあげると、当然、ここまでいいかげんにしないほうが良いと思いますが、とてもESGか、ちょっとESGかぐらいの表現、個人の方はそれぐらいの用語でなければなかなか浸透しないような印象を持っています。したがって、パッシブ型だとか、ESGインテグレーションでも例えばネガティブスクリーニングだけやったとか、そういった緩めのESGインテグレーションを組み入れた金融商品も出していければESG投資の裾野も広がると思います。また、すでに議論が出ていましたけれども、例えば年金とかiDeCoとかのデフォルトファンドに、そういったESG金融商品を組み入れていくということがテクニカルにはとても良い取組みではないかと思っていまして、その辺の工夫もやっていくと良いと思いました。

 あと、明治安田生命保険の中村副社長などに御説明いただいた社会的価値か経済的価値かのような議論についても、長期的には社会的価値の向上が経済的価値につながるという、我々もそういうふうに考えているんですけれども、ただ、研究・分析途上のこともあるため、本当に経済的価値につながっているのかどうか分からない面もあります。このため、純粋に社会的価値の向上に貢献したいという方も一定数というか相当数いらっしゃると思うので、そういう方々はあまりリターンが上がるかどうかよりも、社会的価値の向上の目的で投資いただくということを日本の場合は最初喚起しても良いような気がいたしました。

 以上です。

【水口座長】
 ありがとうございます。では、鳥海さん、お願いいたします。

【鳥海メンバー】
 ありがとうございます。本日はウェブで失礼いたします。まず、水口先生の大変興味深いリサーチをありがとうございました。最後におっしゃられていた、今後の質問の仕方、問いの立て方を工夫しなければいけないというのは本当にそうだなというふうに共感しておりました。と申しますのも、やはり投資というのが本能的に何かをする行動ではないので、何が食べたいとかそういうものと違って、聞いても、個人の方がこういうふうにしたいという意見を能動的におっしゃることというのはまずないので、やっぱり聞き方を工夫していかないと浮かび上がってこないというのは常日頃思っております。なので、違う聞き方をしていただいて、こういう投資だったらということがもうちょっと明確に浮かび上がってきたらというのは大変期待をしておるところでございます。

 ただ、さはさりながら、仮にそれが浮かび上がったとしても、仮にピュアにサステナビリティに貢献したいという層が浮かび上がったとしても、そこからリスクをとる投資というところの行動に移すというのはまたこれはすごくハードルが高いと思います。そこを越えるために金融経済教育をやりましょうということなんですが、私どもも、もう20年以上延べ100万人以上の方に金融経済教育を提供しているんですけれども、それでも今こういう状況であるということを考えるとそう簡単ではないんですね。

 そう考えますと、ここを乗り越えるための一つの、いきなり卑近なHowという話になりますけれども、やはり何人かの方がおっしゃっていましたけれども、新NISAのところのチャネルを使って、ここでESGインデックス、まずはもう分かりやすいところでESGインデックスの活用を拡大する。それについての連動した情報発信の強化といったようなところが足元でできることなのではないかなと思っております。

 あと、先ほど岸上さんから今後の進め方ということで御提案がありましたけれども、やはりまた来年の6月までに報告書をまとめるということを考えますと、整理して進めていく必要があろうかなと思います。先ほど、なぜやるべきか、それからHowというお話がありましたが、そのHowの中でも時間軸を分けて、やはり時間のかかる取組みですが、短中期でできること、中長期でできることを、こういう状態にしたい、そのためにメジャメントはこうしていくというような形で、個人、機関投資家を分けて、何象限かに分けた形で整理をしていくのがよいのかなと思いました。

 以上でございます。

【水口座長】
 ありがとうございます。最後に鍋嶋さん、もし何かコメントあればいただきますが、鍋嶋様、いかがでしょうか。

【鍋嶋メンバー】
 ありがとうございます。水口先生の研究の「まとめ」のページが非常に分かりやすいと思いますが、これは投資経験ありの人たちの結果ということで、やはり環境・人権リテラシーが高い、金融リテラシーが高い人はESG投資・インパクト投資を選ぶ傾向があるということなので、まずこれをもっと促進するという意味でいくと、やはりこの両領域のリテラシーを高めていくことが必要だということは皆さんコメントされていたとおりだと思います。

 ただ、投資経験がない人たちに対してどうするのか、今、金融庁さんのほうで実態把握調査をこれからされるということだと思いますが、どの層を対象にやるのかということは結構重要なのではと思います。投資経験のない方、特に今サステナビリティに感度が高いと言われている10代、20代はまた選好も違うのかなとも思いますし、サステナビリティの意識は女性の60代でも高いとも言われていますけれども、一方でこの層の金融リテラシーはどうかということがありますので、やはり年代や性別といった属性によって一定程度リテラシーが変わってくるだろうと思います。どのような取組みが有効であるかに関しては、そこに一定程度フォーカスした取組みをしていかないと、なかなか刺さらない、効果がないかもしれないと感じております。

 それから、個人に関しては、やはり投資というのはリスクがあることは、皆様もコメントされていますが、どうリスクを取るかということに関してやはりインセンティブをどう出していくかというのは非常に重要ではないかと思います。

 以上です。

【水口座長】
 ありがとうございました。というわけで、一通り御意見をいただいたところで時間となってしまいました。岸上さんが言われたとおり、今日ここで言い切れなかったことについては、後日メール等で御意見をいただければと思います。それをどう議事録に載せるかという意味もあったのかもしれないんですけれども、そこはまた考えさせていただいて。

【高岡サステナブルファイナンス推進室長】
 次回の会議で、今回と同様に、前回いただいた意見という形で御紹介というのもあるのかなと。また、御相談させていただければと思います。

【水口座長】
 分かりました。そうですね。というわけで、やはりある程度サステナブルファイナンスの中身の定義とか、粒度を少し細かくして、ラベルになるかどうかは別にしまして、何らかの発信の仕方をしていくということは重要なんだろうと感じました。

 一方で私が一つだけ思ったことは、例えばインパクトという言葉も今すごく動いておりまして、つい昨日おとといかな、インパクト投資を推進しているGIINのSeanさんにお会いしたんですけれども、今、GIINではインパクト・ストラテジー、それから、システムシンキング、そしてインパクト・レンズ・アプローチという議論をしているようです。私たちがイメージしているインパクトと大分違う。ですから、インパクトの概念自体も、もうちょっと整理をしていかないといけないのかなと。PRIが言っていることとは違うという立場を明確に取っておられて、それが広がっているという面もありますので、その辺も整理する必要あるのかなと思いました。

 それと、これも岸上さんの御提案でなるほどと思ったのは、機関投資家向け何々ガイドと併せて個人投資家向けサステナブルファイナンスガイドみたいなものが出来たら、それはそれでなかなか面白いなと思いますけれども、金融庁が果たしてそこまで出せるのかとは思いました。

【高岡サステナブルファイナンス推進室長】
 極めて重要な考え方、一つのアプローチではないかなというふうに思いますので、そのような形も含めて検討していきたいと考えております。

【水口座長】 
 インパクトは大きいかなと思いました。というわけで、今日も大変いろいろな御議論をいただきまして、ありがとうございました。今年はこれでおしまいということになるわけですが、次回は来年の2月4日火曜日14時からとなります。

 今年1年大変お世話になりました。皆様どうぞよいお年をお迎えください。

 では、本日は終了いたします。ありがとうございました。
 

―― 了 ――

(参考)
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