融資に関する検査・監督実務についての研究会(第4回)議事録

  • 1.日時:

    平成30年10月29日(月)16時00分~18時00分

  • 2.場所:

    中央合同庁舎第7号館 12階共用第二特別会議室

融資に関する検査・監督実務についての研究会(第4回)
平成30年10月29日

○岩原座長‌ 
 定刻になりましたので、ただいまから融資に関する検査・監督実務についての研究会第4回会合を開催いたします。皆様におかれましては、お忙しいところお集まりいただきまして、誠にありがとうございます。

 初めに、本日の議論のためにご出席いただいているゲストの方々について、事務局よりご紹介をお願いいたします。

○渡辺地域金融監理官‌
 事務局よりご紹介申し上げます。本日の議題に関連して、全国信用組合中央協会専務理事、鈴木均様にゲストとしてご出席をいただいております。以上です。

○鈴木様‌  
 鈴木です。どうぞよろしくお願いします。

○岩原座長‌
 どうもありがとうございました。

 それでは、議事に移らせていただきます。本日はまず、鈴木様、新田様及び小倉様より、融資実務や引当等についてご意見をいただきたいと存じております。その後、事務局より、第1回会合で田中様からご指摘をいただいた引当金制度に関する日米比較についてご説明をさせていただきたいと思います。

 それでは、鈴木様、新田様、ご説明をよろしくお願いいたします。

○鈴木様‌  
 改めまして、全国信用組合中央協会の専務理事の鈴木でございます。まずは、本日はこのような意見を述べる機会を与えていただきまして、本当にありがとうございます。私からは、信用組合業界を代表いたしまして、償却・引当に関する現状認識及び意見・要望を申し上げまして、その後に、第一勧業信用組合の新田理事長から信用組合の取組みについて申し述べさせていただきます。

 それでは、資料に沿ってご説明いたします。資料の1ページでございます。まず償却・引当に関する信用組合業界の現状認識と課題でございます。(1)にありますように、金融検査マニュアルとその別表の廃止によりまして、償却・引当に関する行政当局の考え方及び金融実務で定着している標準的な基準がなくなることになります。それによりまして、金融機関の対応に混乱を生じさせるおそれがあるのではないかと危惧をしております。

 また、(2)に記載してありますが、これまでの償却・引当基準は、過去の貸倒実績率をベースにしておりまして、将来の景気変動リスクを織り込めておらず、金融機関の健全性保持の観点から問題ではないかと考えております。(注)に記載してございますが、1990年代後半から2000年代前半にかけましては、バブル経済の崩壊によりまして企業倒産が多く貸倒実績率も高かったため金融機関の健全性強化に役立っておりましたが、現在の経済状況のもとでは、企業倒産、貸倒実績率が歴史的にも極めて低い水準にありまして、今後の景気変動、景況悪化等を考慮すれば、むしろ現在の基準は健全性を損ねることになりかねないのではないかと危惧をしております。

 (3)ですが、さらに現状におきましては、過去の実績率で引当いたしますと、貸倒引当金の戻入金が発生するような状況にありまして、将来の引当不足、これが懸念される中で、景気変動リスクに備えた引当、将来の不良債権化に備えた引当を行おうといたしましても、その根拠・合理性について監査法人等の納得が得られにくいというような状況にあります。

 そういう中で、次ページの償却・引当に関する意見と要望でございます。(1)に記載しておりますが、現在の検査マニュアル及び別表による償却・引当基準は金融実務に定着していることもあって、これをベースの基準とした上で、金融機関の健全性を保持するためには、会計基準の保守主義の原則を踏まえまして、将来の景気変動リスクを織り込んだ基準とすることが望ましいと考えております。ただし、その場合でも、新たな基準の導入に伴う極端な変動が生じないよう、継続性の原則についても十分に配慮する必要があると考えております。

 括弧書きですが、これは本当に詰めたものではないのですが、景気変動リスクを織り込む償却・引当の1つの考え方といたしましては、まずは景気変動周期を踏まえた貸倒実績率の算定期間の設定とか、あるいは難しい面もあるんですが、過去の最悪期を含んだ貸倒実績率の算定期間の設定、また、不良債権化した場合に影響が大きい大口与信先に対する割増引当の制度など、これらが考えられるのではないかと考えております。

 一方で、会計基準に一定の柔軟性を持たせる場合、監査法人等の裁量の余地が大きくなって金融機関ごとに異なる基準・対応となりかねず、金融機関間の相互比較が困難となるおそれがあります。したがいまして、償却・引当の妥当性を判断する比較可能性ないし客観性を確保することが不可欠であると考えております。

 また、償却・引当の標準的な基準を検討するに当たりましては、少なくとも金融機関の健全性保持の考え方と企業会計基準委員会における会計基準の考え方並びに監査の実務指針の考え方との間の整合性を図ることが不可欠と考えております。その上で、金融実務における事務負担の問題についても検討すべきと考えているところでございます。

 私からは以上です。

○新田様‌  
 それでは続きまして、私ども第一勧業信用組合の取組みについて、私どもの小規模事業者向けの金融の現状、このあたりをお話しさせていただきたいと思います。

 まず1ページ目で、私どもがどんな組織価値とかビジネスモデルを前提にしているかということを話します。基本方針は、人とコミュニティの金融、育てる金融を実践するということで、人と人との信頼に基づく、この信頼関係が信用供与の源泉となってきます。人・事業・コミュニティを育てる金融ということを目指しております。そもそも信用組合というのは街の人たちがつくった金融機関でございますので、私たちはまず街の一員である。You&Iではなくて、まさにWeなんだと。地域のイベント、去年は数えてみたら619件の町内会・商店街の祭礼等に出ておりました。それ以外でも、ごみ拾いとか火の用心、このあたりはそもそも私たちの本来業務だということで地域密着でやっております。

 もう一つは、やはり定性判断を徹底的にやるということで、目利き力ナンバーワンを目指そうと、こんなことをかけ声にやっております。当組は3,000万円以上の与信取引先全てに対して目利きシートをつくり、また、工場・店舗、こういった現場については全て実地検査をしろと、こういったことで実はやってきております。1年がかりで事業金融相談員の研修をしてこれで5年目になりましたが、ようやく50名ぐらいの職員にこの辺が徹底ができてきたかなと。まとめますと、現場第一主義、それから、与信行為によって非対面取引は一切やらない、フェース・ツー・フェース。ある意味では信用組合の原点のようなことをやっております。

 組織価値の向上の中で、私どもは組織価値をリレーションキャピタルという言葉で置いております。これは職員、お客様、地域、コミュニティとのリレーション、これが私たちの組織価値の源泉なんだ、これを育てる金融をやるんだと、こういったことでやっております。

 これをやった結果が2ページでございます。ちょうど私が当組合に来てこれで5年半になります。債務者区分判定は、当組合の場合は、そうは言っても、決算書の数値をベースに定量的に債務者区分判定をとっています。一方で、個別の与信判断についていえば、正直、定量面というよりも定性評価、こちらを重視しながらやっている。こういうような状況でございます。

 ちょっとこの数字を出すのは恥ずかしいかなと思ったんですが、見ていただいたほうがはっきりするので。当組合の貸倒実績率は、正常先、それから、その他要注意先、いわゆる要管理を除く要注意先、この数字はこのようになっております。それから、当組合の不良債権比率が、私が着任する前が9.6%、今4.5%ということで、この9月で4.3%、多分この3月では3%台に入ると思います。これは客観的な環境がよかったということもあろうかと思います。しかしながら一方で、地域密着・定性判断を中心とする与信を行ってきてから大きな不良債権は一切発生しておりません。私どもでは、よく言われるコミュニティローン、芸者さんローンとかでちょっと有名になりましたけれども、コミュニティ構成員向け、小口無担保融資につきましては、3年前からスタートして、現在、実行件数が438件、デフォルトゼロと、こういうような状況でございます。

 そういったことで、これを踏まえまして、3ページで問題意識ということで、考え方の流れ、部分から全体へという、こういった中で思いますことは、まずそもそも多分金融機関のありようが今いろいろ多様性がある中で、それぞれの企業価値あるいは組織価値、この辺は多分いろいろあるんだろうなと。

 その中で、ビジネスモデルも多分選択肢がいろいろできてくる。そういう中において、信用リスクについては、それに基づいてどのような個別の与信判断のあり方があるのか、それに基づいて債務者区分判定はどのように行うのか、あるいは償却・引当、開示と、こういったことが流れてくると思うんですけれども、これらのポイントは相互に関連づけられている一方で、また一つ一つ検討すべき課題なのかなと。このあたりのところは、多分そもそもの企業価値、組織価値。例えば非対面でおやりになっている金融機関と私どもを比べても全く別になると思います。やはりそういう意味では、部分から全体へということの中で、ぜひ根っこにあるものがどうなのかと、現象面とか、あるいはテクニカルな面よりも、このあたりの会話をさせていただきたいなと。

 ちなみに、私どもでいうと、人と事業を見た定性判断を加えますと、いわゆるその他要注意先というのは、見ていただくとおり、ミドルリスクではなくてローリスクであります。しかも、もちろん開示債権でありません。よく皆さんから、新田のところはミドルリスクよくやるよねと言われているんですけれども、そうではなくて、ローリスクだからやっているんです。そういう意味で、私どもにおいては、その他要注意先を不良債権予備軍という捉え方はしておりません。広い意味での、開示債権ではないという意味での正常債権である。むしろ小規模事業者向けにおいて、正常か、要注意かというより、要注意か要管理以下か、ここのほうが実は非常に大きな分かれ目になってくるというのが現場の実態でございます。

 正直、金融検査マニュアルがなくなったのであれば、要注意先だ、破綻懸念先だ、実質破綻先だという名前がお客様には非常に失礼なので、うちの中だけでも名称変更しようかなと、こんなことも議論しておるんですけれども、正直、要注意先を不良債権予備軍として捉えていることが、小規模事業者向けの金融排除の原因になっているのではないかなと。少なくとも当組合においては、私が来るまではそうでありました。要注意先だから貸さないようにしようと、こういったことが起こっていました。ぜひ金融庁の皆さんとの検査・監督の現場におきましては、共通価値の創造の対話をお願いしたいと思っています。

 私どもはリレバンをリレーションキャピタルという言葉で再定義しながら、リレバンプラスなんて私はふざけて言っていますけれども、ビジネスモデルをつくっております。このリレバンの意義というのは、1つは、いわゆるリレーションシップマーケティング、良質な顧客取引、収益機会が得られるという、トップラインに与えるプラスの側面と、もう一つの側面では、リスク管理に非常に強いということです。信用リスクは今見ていただいたとおりなんですけれども、もう一つ言いますと、広義のオペリスク、コンプライアンスリスク、顧客保護違反リスク、レピュテーショナルリスク、苦情トラブルリスク、あるいはマネロンリスク、こういったものに対して実は、ここまでの対面取引をやると非常にリスク制御が簡単になってきます。

 それからあと、もう一つは、金融庁の皆様方との対話の中でやはり共通言語が必要かなということで、「かんしんSDGs宣言」というのをつけました。今回のこの研究会とは外れるかもしれませんけれども、ぜひこういったところからそもそも議論をさせていただけたらありがたいなと。今日ご列席の皆様方にもこのあたりについて大変見識をお持ちの先生方たくさんいらっしゃいますので、ぜひご指導いただきながら、この辺をさらに深化、ブラッシュアップさせていただけたらなと考えております。

 私からは以上でございます。

○岩原座長‌  
 どうもありがとうございました。

 続きまして、小倉様、ご説明をよろしくお願いいたします。

○小倉様‌  
 日本公認会計士協会の小倉でございます。本日は説明のお時間をいただきまして、ありがとうございます。資産査定・償却・引当に関する監査上の論点についてご説明をさせていただきます。

 3ページをご覧ください。今般の検査マニュアルの廃止が会計監査に及ぼす影響を評価する上で、まず財務諸表監査の枠組みをご理解いただきたいと思います。銀行の経営者は、適用される財務報告の枠組みに準拠して財務諸表を作成し、私ども外部監査人は、銀行が作成した財務諸表が財務報告の枠組みに従い適正に作成されているかどうかを判断いたします。図表はそれを表示したものでございます。

 4ページをご覧ください。適用される財務報告の枠組みは、我が国では大きく4つございます。日本基準は主として企業会計基準委員会が設定する企業会計基準から構成されていますが、そのほかにも、記載のとおり、職業的専門家等の団体が公表する会計上の解釈指針、公表する見解、業界の実務慣行などから構成されます。なお、財務報告の枠組みに含まれる文書間で不整合が生じている場合には、最も規範性の高いものが優先して適用されるということになっております。

 5ページをご覧ください。今回のテーマである銀行の貸出金の評価を取り上げますと、財務報告の枠組みとしては最も規範性の高い企業会計の基準である金融商品会計基準をはじめ、左側に記載のとおりであり、金融検査マニュアル(別表1)も含まれております。金融検査マニュアルの別表1においては、資産の自己査定や償却・引当について適切性や正確性を検証するための具体的なポイントが示されています。日本公認会計士協会の銀行等監査特別委員会報告では、資産の自己査定や貸倒償却・引当金に関する監査上の取り扱いを定めております。

 6ページをご覧ください。貸出金の評価について最も規範性の高い金融商品に関する会計基準では、債務者の財政状態及び経営成績等に応じて債権を一般債権、貸倒懸念債権、破産更生債権等に区分し、その区分ごとに貸倒引当金の算定方法を示しています。したがって、ここで申し上げたいことは、銀行等金融機関においてもその基本的な考え方には検査マニュアル廃止後であっても引き続き従う必要があるということです。現状は、ご存じのとおり、右側のとおり5区分に区分をしております。

 7ページをご覧ください。ここからは、「金融検査・監督の考え方と進め方」に対して日本公認会計士協会から提出したコメントのうち重要と考えるものをご紹介させていただきます。

 1番目のコメントですが、債権を5区分に分類した上でおのおのの区分ごとの貸倒引当金の算定方法に従うという財務諸表作成上及び会計監査における適正性の判断の基本となる考え方は明文で残していただきたいというものです。先ほど図表でもご説明をさせていただきました。

 2番目は、貸倒引当金の算定期間に関するもので、現行実務で多く用いられている、いわゆる1-3年基準についてのものです。この取り扱いは、銀行の財務諸表に及ぼす影響が大きいと考えるため、当面継続適用を許容すべきという意見です。

 10ページをご覧ください。銀行業の貸倒引当金に関する現行の会計実務は、予想損失額を見込む一定期間について他の基準と大きく異なっていることを図表にまとめたものになっております。金融商品会計実務指針では、債権の貸倒損失は、債権を計上した後、その平均回収期間にわたり発生するものであるため、貸倒実績率は平均回収期間内に発生した貸倒損失額を分子として算定することとされています。平均回収期間が1年未満の債権は1年とされています。これに対して銀行業は、いわゆる1-3年基準として、正常先債権、一般要注意先債権は1年、要管理先債権は3年分の貸倒損失額をベースに算定します。さらに、表の下の※印に記載のとおり、破綻懸念先債権は、検査マニュアルにおいて、通常今後3年間の予想損失額を見積もっていれば妥当なものと認められるという取り扱いがあります。これが現行の日本の会計基準です。

 これに対しIFRS9号では、ある金融商品にかかわる信用リスクが当初認識以降に著しく増大していない場合は12ヶ月の予想損失額、著しく増大している場合には全期間の予想損失額を計上することとされています。上から3行目でございます。4行目、米国基準は、全ての債権について全期間の予想損失額を計上することとされています。これらの国際的な会計基準と同様のモデルを我が国に取り入れるかどうかは、今後検討が行われるものと理解をしております。

 9ページにお戻りください。4番目は、ここに記載している支払承諾見返にかかわる貸倒引当金の計上など、一般の会計基準にはありませんが、金融検査マニュアルの記載が銀行業の財務諸表の実務として定着しているものがあります。記載のとおり、破綻懸念先債権の未収利息を原則不計上とする取り扱い、部分直接償却の取り扱い、DCF法を適用する大口債務者に係る債務額の基準などがあります。これらについては、金融検査マニュアルの廃止後の取り扱いについて、適用可能とするのであれば、何らかの考え方を示すことが必要と考えております。

 11ページをご覧ください。意見のまとめですが、金融検査マニュアル(別表)は、金融機関の実態に合わない部分もあるため廃止には賛成しますが、償却・引当に関して基本的な考え方を明示し、採用可能な方法は改めて設定いただくことが必要と考えております。引当実務に当たり創意工夫が行われることも想定されますので、財務諸表の利用者の比較可能性を確保するため、開示の充実も必要と考えております。

 12ページをご覧ください。12ページは、これまでの会議の中でデータ分析やAIの活用というお話が出ておりましたので、監査の分野におきましても、データ分析やAIを活用し、より効率的・効果的な監査を目指していきたいと思っております。地銀協様でご紹介のありましたCRITSについても、ぜひ監査の活用の道を開きたいと思い、図表の「電子データ」というところに入れさせていただきました。このような形でデータの分析の活用やAIの活用を図っていきたいというものでございます。

 それではここで、この後、別紙の内容を少しご説明させていただきたいと思います。机上のみのお配りとなっておりますが、こちらは、金融機関の監査を通じて識別されている自己査定・償却・引当実務における課題です。幾つかご紹介をさせていただきます。

 貸倒実績率による引当金の算定(将来予想の反映)についてです。1番、将来予想を反映させる一般的手法が明らかでないことや、過去実績に基づく算定方法が規定化されているため、金融機関の実感に即した貸倒引当金の算定に苦慮しているケースが見られるという意見が出ております。3番、日銀の金融システムレポート別冊が発行されて、いわゆる予防的な引当を計上している金融機関が多くなっているが、過去の貸倒実績の高いものを算定期間に取り込む等にあまり理論的な説明がなされていないケースが見受けられる。4番、金融機関から貸倒引当金の算定方法の変更に関する相談を受けたときに、提示された方法が許容されるか否かの判断に困るケースがあるというものです。

 次は、実績率低下への対応です。6番のコメントですが、貸倒実績率が低下する中、将来の貸倒増に備えるために、貸倒引当金残高を維持したいと考える金融機関が多く、一般貸倒引当金の引当率の算定方法、個別貸倒引当金の算定方法などを調整することを選択肢として考えているものの実現に至っていないケースが多いというもので、これらは金融機関サイドから出ている内容と表裏になっているものと思います。

 2ページ、破綻懸念先債権の実績率です。9番のコメントですが、業績が不芳な債務者でも最終処理に向かう事例が減少し、回復もせず破綻懸念先債権に滞留する事例が増加している。その結果、当該先は3年間の貸倒実績に含まれないことから、破綻懸念先債権の非保全部分の引当率の低下を招く要因の1つになっているというものです。

 続きまして、フロアの設定です。10番、ビジネスモデルを踏まえて引当率のフロア(一定程度の備え)を設けることもニーズはあると考えられるが、現状の会計理論ではなかなか説明が難しい状況にあるというものです。

 それから、3ページ、債務者区分の判断です。12番、過去の経営成績や財務状態にとらわれず、重点支援方針等により当面倒産の懸念がないと独自に判断し、債務者区分の大幅ランクアップは当然に認められるとする金融機関に対して、監査上どのように判断すべきかと考えるということで、こういった悩みを抱えているケースもあるということでございます。

 4ページ、貸出条件緩和債権の判定及び取扱いです。こちらも金融機関様のほうからもご意見が出ておりましたが、17番、基準金利の取扱いなど複雑になっているため、もう少しわかりやすくできれば望ましいという意見が会計士サイドからも出ております。

 5ページ、22番、開示についてです。財務諸表の利用者が、金融機関ごとの特性・リスクを理解するには、債務者区分ごとの残高では不十分である。債務者の業種の集中度や資金使途、融資期間等、金融機関の与信スタンスやセンシティビティ等の把握に資するような債権の回収可能性に応じて分類した残高を開示する必要があるというものです。

 これらは、統一見解ということではないですけれども、個別に監査に当たっている会計士から意見として出ているものでございます。ご紹介をさせていただきました。

 本紙のほうへお戻りいただきまして、13ページをご覧ください。最後に参考2を2表つけておりますが、1枚目のほうは、全国の116行の銀行のバランスシートです。貸出金558兆円に対し、貸倒引当金は2.8兆円、約0.5%となっております。次ページの信用金庫は261金庫、貸出金70兆円に対し、貸倒引当金は約7,800億円、1%強となっております。比率の差は4分類直接償却の採用割合にもよるものと推定されますが、財務諸表監査においては貸出金の評価は重要な論点になっておりますので、引き続き議論のほうを充実させていただければと思っております。

 私からの説明は以上でございます。

○岩原座長‌  
 どうもありがとうございました。

 それでは、事務局からの説明をよろしくお願いいたします。

○渡辺地域金融監理官‌  
 それでは、事務局より、日米の貸出検査実務の比較について、資料に基づいてご説明したいと思います。

 1ページ目をご覧ください。上にアメリカ、下に日本と並べております。こちらにつきましては、FRBの実務者からかなりの時間をかけまして私ども直接確認したものとなっております。まずアメリカの実務ですけれども、こちら、まずPass、Watch、Special Mention、Substandard、Doubtful、Lossと英語が並んでおりますが、こちらは会計上の概念ではないものであります。こちらに基づきまして、まず債権の内部格付をいたしまして、それぞれの区分に該当しているのが正しく整理されているかどうかということを確認いたします。こちらの目的は、与信の質を金融機関が正確に把握しているか否かを確認するためのものとなります。FRBの担当者によりますと、検査の半分の時間はこちらにかけるというものであります。

 しかしながら、日本と違いますのは、次に会計上の引当の作業に入る際にこれが直結していない。日本の場合ですと、下を見ていただきますと、ダイレクトに1対1で対応しているわけではありませんが、債務者を債務者区分に分けまして、それがそれぞれに区分されますと、あとは区分ごとに一定の実績率を乗じ、ないしは一定の区分以下になりますと、個別に担保・保証をベースに損失額を見積もって、ある意味、債務者区分から引当・償却の金額が一定流れるように計算されていくわけです。

 アメリカのケースですと、こちらは参照されたりとか関連したりはいたしますけれども、直結はいたしておりません。会計上の引当の計算になりますと、こちらは先ほどのものは一旦横に置いた上で、会計上の概念として、毀損している債権か、毀損していない債権か、この2つに分けましてそれぞれ議論していくということになります。

 まず毀損している債権につきましては、個別にチャージオフ(charge-off)、すなわち、日本でいいますと、償却が基本となってまいります。一部、引当がされる場合もあります。この場合は、担保の価格とか、将来回収見積もり額などを使いまして、かなり厳格に評価をしていくということになります。他方、毀損していない債権につきましては、特定のグループごとに一定のグループに分けまして、過去実績にさらに定性要因による調整を加えまして算出をしてまいります。後ほどまた具体的に申し上げますが、例えば融資方針とか、あるいは経済状況の変化、ポートフォリオの中身がどう変わっているか、こういったものを加味して計算をしてまいります。

 特徴を以下、日米それぞれについてまとめております。アメリカにつきましては、まず、先ほど申し上げましたが、内部格付と引当がリンクをしていない。区分のほうは与信の質の正確な把握が目的であって、引当の準備作業ではないということがあります。2番目に、早い段階でチャージオフ、すなわち、償却してまいりますので、一般貸倒引当金が大部分を占めます。FRBが今の足元ですと、平均的に見れば、引当全体の大部分がこの非毀損債権に対する一般貸倒引当金だというふうに言っておりました。また、一般貸倒引当金のうち、最大8割程度が定性要因になっているという実情があります。3番目は、先ほど申し上げましたが、原則、不良債権は個別に担保を評価して、差額を償却してまいります。4番目は、引当の具体的な方法につきましては、金融機関の自由度が高いということがあります。5番目とも重なりますけれども、当局は、金融機関の引当に係る説明が合理的であれば、一旦それを尊重した上で定期的にフォローアップしていくという対応をとっております。

 他方、日本の特徴は、①から④にまとめておりますが、債務者区分と引当がリンクをしている。正常先に潜むリスクを引当に反映するのが難しい、ないしは特定の債務者に帰着しないリスクを反映することが難しい。過去実績をベースに引当を計上しますので、足元の状況や将来予測があまり反映されない。あるいは、金融機関の業務・方針あるいは顧客特性と引当が乖離している。アメリカの場合ですと、そこがこういう方針あるいはこういう特性なので、こうグルーピングをしてこういうふうに計上すると、そういうことが実務として行われているということです。

 次、2ページをご覧ください。今申し上げましたことと重複をいたす部分もありますが、米国の取組みからの示唆をまとめてみました。日米を比較して見ますと、資産査定と引当が分かれているかどうか、もう一つは、引当について、毀損している債権と毀損していない債権の扱いを分けているかどうか、この2点が特徴的ではなかろうかと思っております。

 アメリカはこの2つの点ともに分けている。すなわち、資産査定は引当の準備行為ではなく、与信の質を把握するために行っています。また、毀損債権につきましては、定量的な方法で厳格で、主に償却を求めていくのに対して、非毀損債権、毀損していない債権の引当の計算方法については、経営判断を伴い、精密ではあり得ず、幅のある推計とならざるを得ないものという位置づけになっております。さらに、先ほど申し上げましたけれども、引当の十分性を確保する上では、毀損していない債権に対する定性評価の役割が大きいという特徴がございます。

 片や、日本をこの2点で見てみますと、2つともこれは分けていない。すなわち、資産査定と引当はリンクしている。毀損債権、非毀損債権ともに一律客観的な基準で厳格に検証している。あえて申し上げれば、アメリカの毀損債権の引当のアプローチを引当全体に拡大して、資産査定まで及ぼした姿が日本の姿ではなかろうかというふうに、今となってみると言うこともできるのではなかろうかと思います。

 フレームワークについては今申し上げたとおりでありますが、定性評価について、日本の一部の金融機関でもこの萌芽が見られます。こちらにつきましては、第2回会合で私どものほうからもご紹介をいたしました。下に幾つかの例を書いておりますが、ドンピシャのものとすると、例えばハリケーンで一定の地域に損害が出た場合、個社ごとにではなくて、おおまかに損失見込み額を推計するという方法をアメリカはとっております。片や、東日本大震災の際にも同様の方法を日本の金融機関でも採用をしているところです。

 また、目的は同じではあるが方法が違うというもので申し上げますと、例えばこの中の資源・エネルギー産業向けの融資、あと、日本でいいますと、外航船貸渡業向け融資、このあたりが特徴的かと思います。アメリカの場合、例えばエネルギー市況の変化を評価いたしまして、これをポートフォリオのセグメントに対して当てはめていくというやり方をとっておるのに対して、日本の場合は、同じ市況商品ということで外航船貸渡業を比較しておりますけれども、用船料などの変動をフォワードルッキングに見た上で、一旦債務者区分のほうに反映いたしまして引当に反映をするという方法をとっています。全体で申し上げますと、定性評価の萌芽は見られますが、日本ではまとめて引当を上乗せするというようなやり方というよりは、むしろ債務者区分の調整によってその目的を果たそうとしているところが大きな違いかと思います。

 次、3ページをご覧ください。先ほど定性要因による調整と申し上げましたが、実際にアメリカの定性調整の実務例をこちらにまとめております。例として商工業を挙げております。この1から9に縦にありますように、例えば融資方針・手続の変更とか、経済情勢とか産業構造の変化、あるいはポートフォリオの質・量の変化、場合によっては融資スタッフの経験の変化、こういったようなものの9項目がございまして、それに対して金融機関と当局でリスクの高低のどこに位置づけているかというものを議論してまいります。

 まずこちらに対する単純評価、単純平均をとった上で、それぞれについてウェイトといいますか、重要度も金融機関によって違いますし、その他に考慮する要因もありますので、総合評価を出します。その上で、これが前回の例えば検査なりのときと比べてリスク度が上がっているにもかかわらず引当率がもし下がっているというようなことが仮にあれば、それは一体どういう考え方によるものかという議論が当局と金融機関の経営陣との間でなされていくと、こういうように話を聞いております。

 幾つかのセグメントに分かれておりまして、特に不動産などについてはカテゴリーに細かく分かれているということもあります。一定の標準的な区分はありますが、セグメントごとにこういった議論を踏まえた上で、過去実績の上にどういったプラスマイナスをしていったらいいかということを経営陣と議論してまいります。例えば商工業についていうと、景気がよくなった、悪くなった、その場合はふやす、減らす。商業用不動産だとどうだ、エネルギー関係だとどうだ、何か天災のようなものが来た場合にはそれをどう評価するか。これをベースになる過去実績の上に足したり引いたり加減をしながら、非毀損債権全体への引当額を計上していく、考えていくと、こういうやり方をとります。ここまでが現在足元で行われる検査・監督の多様な実務をまとめました。

 4ページに、参考までに、アメリカの新会計基準、こちらの考え方をまとめております。アメリカの新しい会計基準、CECLという略称になっておりますけれども、こちらについては、原則、集合的に評価をしていく。すなわち、リスク特性が類似する資産はグルーピングをして見積もっていく。要素としてはさまざまなものがあろうかと思います。そこにそぐわないもの、これにつきましては個別に評価をする。例としては、デフォルトとか延滞のある債権、あるいは大口先、個性が強いもの、こうしたものについてはそれぞれ合理的だと思われる方法で計算していく。集合的に評価されたほうにつきましては、こちらは、グルーピングをした上で、定性要因を加えて将来予測をグループごとにしていく。さらには、契約期間にわたる予想信用損失を引当する。こういうような考え方でなされている、今後こういった仕組みが導入される予定であるというふうに聞いております。

 説明は以上となります。

○岩原座長‌  
 どうもありがとうございました。

 それでは、皆様からご質問、ご意見をお伺いする自由討議の時間とさせていただきたいと思います。どなたからでも結構でございますので、よろしくお願いいたします。

 馬場さん、その次、関さん。

○馬場様‌  
 川崎信用金庫の馬場でございます。本日、第一勧業信用組合の新田理事長様の人と事業、コミュニティを見る金融というお話、誠にご慧眼だと感じました。ありがとうございます。

○新田様‌  
 ありがとうございます。

○馬場様‌  
 私ども特にそれを感じやすい立場にありますが、第2回会合のプレゼンでも私のほうからも、金融機関の現行実務を十分尊重していただいて、これをベースに各金融機関が自らの特性を踏まえた創意工夫を行うことを柔軟に認めてほしいと申し上げ、工夫の例や引当の方法をご説明いたしましたが、本日一番重要な点として改めて強調いたしたいのは、まさに理事長様がおっしゃった、中小企業・小規模事業者向け金融、これの特徴を十分考慮の上、今後の検査・監督実務や償却・引当のあり方をご検討いただきたいということであります。

 私ども信用金庫の取引先は、ほとんど、約9割を従業員数10人、20人に満たない小規模な事業者が占めております。そうした企業は売上高も自己資本も小さく、たった1つの販売先が増えた、減ったというだけで経営状態が大きく左右され、事業の存続に直結するということであります。そうした事業者と相対する私どもとしては、経営改善計画があったとしても、計画どおりにはいかないということを目の当たりにし、それを当たり前の前提としつつ、資金供給を適切に行えるよう日々業務に取り組んでいます。

 例えば長い将来計画を見積もるのはそういう場合大変難しいため、すぐ手前のきちんと見込める部分のお金の出入りや資金繰表を見ながら適切に融資するとか、経営者からの長期借入金を擬似資本として見る、経営者と事業者を一体として判断するということとか、あるいは設備資金などの長期資金を出す場合には、後継者がちゃんといるのか、いないのかということも考えて当然対応を検討するといったような、小規模事業者の実情を踏まえ、実態バランスをできるだけ捕捉しながら、地域金融の円滑化に努めているのであります。

 つまり、小規模事業者向け金融では、単なる将来の計画、あるいは長期的な将来キャッシュフローの見積もりをベースとして対応してもなかなかうまくは回っていかないというのが実態であります。当然の帰結として、償却・引当のルールも、こうした実態、実情を踏まえ、各金融機関の創意工夫に沿った適切な資金供給のあり方、我々のような小規模金融機関のやり方等も踏まえて、そういう資金供給のあり方をゆがめては決してならないものだと思います。

 小規模な事業者向け金融では、財務を見るのはもちろんのこと、先ほど新田理事長様がおっしゃったように、経営者の資質・資産等も踏まえて、事業者の総体を評価するということが重要であります。それが今の債務者区分に当たるんだと思っております。公認会計士協会さんのペーパーにもありましたご指摘とか、中小企業融資編にもあるように、債権ごとではなくて、債務者単位をベースとして事業者全体で考えていかねば、中小企業への適切な融資判断、融資管理、もちろん、それに続く査定・償却・引当はできません。

 他方で、現行の問題点の本質は、償却・引当と債務者区分とがあまりに画一的にリジッドに結びついていて、日本の場合特にそうですが、金融機関や地域の特性に応じた柔軟な対応が認められていないという場合が多いことにあります。リスクをフォーカスしてよく見た部分、すなわち、事業性を評価した結果をもう少し引当のところでも反映できるような余地を設ける方向で環境整備をしていただきたいと思います。

 60回にも及ぶ対話会とか、皆様の各プレゼンでも数多くの参考となる事例が挙がっていました。そうした創意工夫の中には、景気変動サイクルの織り込みなど貸倒実績率の技術的な計算上の部分ももちろんございます。前回会合の日銀さんのプレゼン資料を拝見しながら、自己査定が定着したここ十数年で見れば、信用リスクのピークはリーマンショック直後あたりにあり、例えば破綻懸念先については、そのときの引当率と直近の引当率の平均値をとるようなやり方にすれば、引当水準のなだらかな平準化ができるなと思いましたし、スタビライザーというか安定化装置的な機能を私の申し上げた「新しい管理ゾーン」が担うような方法もあるなと思いました。

 また、ほかにも、信用金庫の場合、事業エリアの限定がございます。その分、地域の産業構造や業種等に偏りがある場合も多いので、そのような特性に応じた工夫だとか、信用リスク量の計測や、IFRSでもそうだと思いますが、破綻懸念先は定義としてデフォルトステージ扱いではあるものの、そのような個別先に対しても、事業内容、キャッシュフロー、経営者をつぶさに見て、可能だと判断すれば、事業再生に向けた融資を行っているというのは、近年日常化した創意工夫でございます。

 それらは、マクロ的な情報というよりも、日常的な接点で集めた身近な足元の情報によって将来リスクをより適切に判断するものであります。特に小口多数の場合に、労が多くなり過ぎる割に信憑性がともすれば乏しくなりがちなDCF法のようなものではなくて、より簡単なキャッシュフロー控除法といった引当手法も用いながら、取引先との密接なリレーションを踏まえた創意工夫、あるいは将来予測の知見、金融機関の経営の知見の受け皿として「新しい管理ゾーン」のようなところを利用する。そこで柔軟かつ集中的にマネージし、ざっくりと開示するのはどうですかと申し上げたつもりです。

 少々長くなりましたがまとめますと、小口分散効果も含めた中小企業金融の特徴、今日おっしゃっていただいた中小企業金融の特徴を踏まえながら、今まで培ってきた現行実務をベースとしつつ、あわせて各特性に応じた融資の創意工夫に沿った引当、これを極力負担感のない、少ないやり方で、一般貸倒引当金から個別貸倒引当金だとか、1年から全期間へだとかいう、以前の表にあったような一足飛びではない、将来のリスクに見合った段階的な引当をできるようにする。そうした形で金融機関が感じている潜在的なリスクに適切な水準で備えられるというか、すなわち、先ほどの米国で言うところの非毀損債権に対する定性評価みたいなものをもう少し織り込めるようにすれば、金融機関が将来にわたって安定的に金融仲介機能を発揮することにつながっていくものと確信しておりますので、よろしくお願いいたします。

 以上でございます。長くなりましてすいません。

○岩原座長‌  
 それでは、関さん、お願いします。

○関メンバー‌  
 今、馬場さんからお話があった件とは少し観点が違うんですが、いいですか。今日は日米の比較をやっていただいたということと、公認会計士協会からのご意見もあったので、質問したいということなんです。アメリカの場合には、資産査定と引当に対する関係が、金融庁の検査・監督行政からいって、これは分けて考えるというのが1つの特徴だということであるわけですが、会計のほうの引当に関して、検査・監督行政の立場から、監査法人との関係をどういうふうに担保しているんだということはどうかと、こういう質問です。

 といいますのは、先ほどから議論が出ていますのは、引当に関する検査・監督行政と、今、監査法人が行う引当の考え方はまさに連続していて一体であるわけですが、今のままの債務者区分に基づく引当というのは非常に評判が悪いわけで、今後これを変えていこうというのが本会議の趣旨だと思います。そのときに、金融監督行政の観点から、引当について具体的に、これは両方がよく相談するのは当たり前のことなんですが、きちんとした整合性をどのように確保していくのか、先ほどの信金のお話も、整合性が必要だと、こういうご議論があるわけですが、その辺をどういうふうに担保していくのかということについての、アメリカがどうなっているかということと、金融庁の今後の方針のようなものを伺いたいと思います。

○岩原座長‌  
 では、渡辺さん、お願いします。

○渡辺地域金融監理官‌  
 その点につきましても、FRB等からかなり聞きました。これは会計基準自体は当然あるわけでありまして、それをもとに当局も監査人も、あと、会社といいますか、金融機関も議論をすると、こういう状況だそうですが、決して何か1つの答えがそこにあって、それで簡単に折り合うというものではなくて、やはり相応の議論、場合によってはかなり厳しい議論もあるのかもしれませんけれども、それがあった上で生まれてくるものだと。

 おそらくこれは田中様のご指摘のあったお話がまさにその間に入っている1つの答えの部分なのかなと思うんですが、経営のガバナンスといいますか、それが先ほど私が紹介いたしました、経営判断を伴い、精密ではあり得ず、幅のある推計とならざるを得ないものという前提があって、そこに経営のガバナンスもあって、一体どういうような方針で自分たちは融資もし、リスクを見るのかという議論がやはり真ん中にあって、それを当局も監査人もその周囲で議論していく。これによって一定の結論に収れんすると。ただし、これが1つの答えに、それが正しい数字だということよりも、一旦それが合理的であれば、では、時間を、インターバルを置きながら、その考え方が成り立っているのかどうかということを当局ときちんと議論していきましょうと、こういう全体の仕組みがあって成り立っている制度だと思います。

 確かに日本と違いまして、債務者区分といいますか区分のところとは直結はしておらないわけですけれども、当然ここに検査の時間の半分をかけているということは、おそらくは、どういう方針であるとか、あるいはどういう経営判断があるか、あるいは資産の質自体をどう見ているかと、こういったところにはやはりきちんと当局としてそこを理解しようとしていると、こういうことではないかとFRBの話を聞いて私どもは感じております。

○岩原座長‌  
 金融庁としてもそのような考え方で行こうということですか。

○渡辺地域金融監理官‌  
 金融庁としてどうするかということは、これはまさにディスカッションペーパーをつくる中でまたご意見をいただきながらということではありますけれども、第1回会合の資料で私ども、そこで問題提起ということでお出しいたしましたのは、どういう方針があって、それに基づいてどういうリスク認識をしてと。そうすると、その目的自体は金融機関としては、正しく収益の管理ができて、リスク認識ができて、最後は引当をということでありますけれども、やはりそれの全体像をきちんと把握する、理解するということが、やはり今のような状況では必要じゃないかという問題提起を第1回会合の資料でさせていただいております。その考え方からしますと、このアメリカのやり方というのは、やはり整合的な1つのやり方なのかなという印象は持っております。

○岩原座長‌  
 それでは、田中さんの後に、川上さん。

○田中メンバー‌  
 日米の話をもう少しニュアンスをお伝えします。私、これで非常に苦労した経験があるものですから。

 まず第1に、右側にありますインペアメントについては、インペアメントテストをやるんですけれども、これはおそらく小野さん、小倉さんのほうが詳しいかもしれませんが、そのときによく使われるのが、プロバブル・アンド・エスティマブルという基準です。要するに、損失が発生するプロバビリティが高くて、その損失の額が大体エスティマブル、何らかの形で計算できるという判断基準です。ですから、左側の、与信の質を調べるというものに比べると、インペアメントというのはそういう形のテストで考えることが多かったと思います。ですから、担保の金額とかそういうものは、エスティマブルのときに使うわけです。

 それからもう一つは、事務局資料1ページの右上の表、①と書いている「会計上の概念」の右側に「全体的な評価」という青いのが書いてあるんですけれども、この全体的な評価は一体誰がするのという論点があります。この全体的な評価をするのは、取締役会です。頭取とか社長ではありません。それが大きな点です。ご承知のように、アメリカの場合は、取締役会は圧倒的に社外の方が多いという形になっています。そういう社外の取締役の方々が全体的な評価を、もちろん経営陣のほうからそれなりに提示はするんですけれども、行うというプロセスがあります。

 したがって、そこでは、社外取締役個々人の資質が問われます。FEDの場合もOCCの場合もそうだと思うんですが、資質が適切でないという場合には、金融機関の取締役になることを否認することがあります。それがフィット・アンド・プロパー・ルールと言われるものです。そこが非常に大きなポイントで、そうした人たちがガバナンスを構成し、議論の中身がよくわかり、金融機関の経営に見識のある方々が集まっている。そうでなければいけないという、そもそもそういうガバナンスの前提があるわけです。

 その前提がある中で、しかも、FEDとかOCCは、そういう社外取締役の方々に対して年に1回もしくは半年に1回研修会をやっています。例えば10人ぐらいの社外取締役がおわれると、毎年そのうち2人か3人選んで研修会をやり、そういう意味で、金融機関のガバナンスのレベルを高めるという、そういうプラクティスがそもそもあります。

 これは別にアメリカだけじゃなくて、イギリスでも、いわゆるシニア・マネジメント・レジームというものが導入されて、同様に、金融機関の取締役の金融機関経営に対する理解の度合いが高くないと、そもそも金融機関の取締役になってはいけない、もしくはなってもし失敗した場合には、シニア・マネジメント・レジームの場合には、懲役刑までついていますから、そうしたガバナンスのレベルを非常に高めるという大前提のもとにこうした仕組みが回されているという、そういう部分があります。

 それから、チャージオフを個別に結構頻繁にやるということですが、これはまさにそうなんですが、一方で、償却済み債権の回収益、これ、リカバリーといいますけれども、これを認識することも頻繁にあります。したがいまして、償却してしまえばそれでおしまいではなくて、償却した債権も回収をすれば益が出てくる。それをきちんと認識することができるということです。したがって、早目早目に償却することによってバランスシートをきれいにする。しかし、その後回収ができれば、それを特別益として、利益として認識することができる、そういう仕組みなっていますから、単にチャージオフがどんどん進んでいくというだけではないという側面があるという面がございます。これが1点目、ちょっと補足です。

 2つ目は、金融検査マニュアルです。これをつくるときにも私も随分参加していましたが、これは、ご承知のように、20年前の金融危機の後に償却・引当を適正にしようという、そういうことがこれあり、どちらかというと、大手行とか地方銀行とかを対象にして考えたマニュアルだったんじゃないかなという印象を私は持っています。それは日本の不良債権問題を早く終わらせるという、適正な引当をすることによって終わらせると、そういう当時の金融行政の1つの流れの中で、焦点はそこにあったような気がするんです。

 したがいまして、上場の大手の金融機関の場合にはこの対象としてやってきたわけですけれども、非上場の金融機関とか、もしくは協同組織金融機関とかにそのまま適用するというやり方が本当に適切なのかどうかというのは前々からちょっと疑問に思っています。例えばアメリカでも、銀行に対する引当のやり方に対する指導とクレジットユニオンに対するものはおそらく違うと思うんです。そういうことを考えますと、それぞれの金融機関の制度の中で、検査マニュアルのあり方を今後考えるに当たって、それぞれの役割とかあり方とか、上場なのか、非上場であるのか、それから、ビジネスモデルがどうなのか、そうしたことを考えながら、少しばらつきがあってもいいんじゃないかなという気が実はしております。

 以上です。

○岩原座長‌  
 それでは、川上さん、お願いします。

○川上メンバー‌  
 今ご両名からお話があったということとちょっと重なるところがあるかもしれませんけれども、ピュアな感じでご質問なんですが、今の流れとしては、定性的な要因をどこまでこれから先の基準に当てはめていくのかということとか、できるだけ金融機関による自主的な判断をどういう形で取り入れるかということにあるような気がします。

 アメリカの事情なんかもそういう視点で金融庁から今日お話を聞いたんですけれども、そのアメリカの事情についてご質問があるのは、1つは、そういう形で現場の状況を踏まえた上で判断をするということになっているんですが、検査官、FRBであったり、州であったりすることがあるんですけれども、その人たちの個人の検査官の資質の蓄積度と、もう一つは、アメリカにもそれぞれ地域があります。その地域ごとの事情なるものがFRBなり州政府にどこまで集積した上で会話が可能になっているのかということをしっかり踏まえた上でチェック、ヒアリングをしてほしいなと思っています。

 やっぱり今回のことを進めていく上には、金融庁サイドとしての準備というか、そういうものがどこまであるのかということが非常に重要でありまして、これからそういう世界に行くような流れにあるわけですけれども、それを見る検査という立ち位置として、ガバナンスを見るとか何かを見るというようなことはありますけれども、より具体的な貸出債権をどうするかということになってきたときに、それに対してどこまで自分たちがどういう材料をもとにしてやるのかが重要です。マクロプルーデンス的な視点もいいんですけれども、そういう具体的・現実的な点に非常に問題意識があるものですから、アメリカの場合、そういうところが現実としてどうかなということであります。

 それからもう一つは、田中さんおっしゃったように、前にも申し上げましたが、今議論しているのは、預金を調達する権利を持った金融機関、銀行であったり、信用金庫だったり、信用組合というものがあって、それのベースになる貸し出しをどうするのかという議論が原点のこの研究会なんですけれども、そうすると、それぞれのステークホルダーによって相当事情が違うということをやっぱりもう一回繰り返しここで申し上げておきたいなと思っています。それをどういう形でこれから先に適用していくのかと。

 今日は公認会計士の小倉さんからも相当具体的な形で問題提起をされております。そういう中にも今おっしゃったようなことも入り込んでいると思うんですが、これをどう調整していくかということになると、相当幅が広いんですね。だから、やっぱりその幅の広さというものをどう収れんさせていくかということは、ステークホルダーによってある程度違っていくかということを、やっぱり金融庁がある種判断をして、そういう目線で民間と会話をしていくというようなことが非常に重要です。具体的になればなるほどそういうところが非常に重要だと思っています。そこはある意味では、どちらかというと徐々に、議論をすればするほど、金融庁は、じゃ、どういう立ち位置でやるのかみたいなことに収れんされていきます。そのご覚悟というと変ですけれども、そういうことになっていきますよということになります。

 大きな流れは、まさに今、信用組合さんからメガさんまでお話を聞いた流れとしては、収れんされてきています。金融庁及びユーザーである金融機関がマニュアルを廃止する意味、意義をしっかり認識した上で、廃止をして次どうするかというときに何を入れないかという議論は、よくそれぞれされてきたというような気がしますので、これから先それが具体的にどういう方向になるかといことになります。よろしくお願いいたします。

○岩原座長‌  
 では、渡辺さん。

○渡辺地域金融監理官‌  
 今おっしゃった点もなかなか難しいポイントではあるんですが、私どもも幾つか、FRBもそうですし、あるいはほかの機関にも聞いてみました。1つは、やはり研修なりのプログラムを充実させて、まさに私どもが対話した方はそういうところなんですけれども、もともとそれなりのクオリティーのある人間を採用した上で、研修を行って、そこでレベルを一定なようにするというような取組みは当然あります。

 さらには、FRB以外の機関にもちょっと聞いてみたんですけれども、そういういろいろな今起きていることをヘッドクオーターのほうに集めて、それは実際検査で立ち入った場合もありますし、そこからどういう切り口で今この金融機関と対話したらいいかということを分析するような機能を、ツールキットというんでしょうか、そういったようなものを検査官がちゃんと持てるような、そういう機能を組織の中に持っているというようなこともあります。あるいは、おそらく州ごとの状況の差もあると思いますし、あとは、金融機関によっては、例えば不動産に強いとか、エネルギーに強いとか、そういういろいろな特徴の差があって、そうすると、各セグメントでどう見るかということもおそらくその中で議論されているのかなということを私どもとしては推測をしております。

 まさにご指摘のとおり、私どものクオリティーが問われるわけでありまして、そういったことをちゃんと対話できるようになるのかどうかということですね。あるいは、そもそもの性格の差のようなところをちゃんと理解できるかどうか。このあたりはやはり仮にいろいろな定性要因を加味するような考え方になったときに非常に重要なポイントになるのではないかなというふうに、いろいろ米当局の話を聞きながら個人的には思っているところです。

○岩原座長‌  
 玉井さん、どうぞ。

○玉井メンバー‌  
 今のことに関連して、ちょっと角度変わるんですけれども、私が銀行時代に経験したことから申し上げると、今日の日米比較の話は、「ポリシー・アンド・プロシージャー」と呼ばれる分厚い虎の巻みたいなものが米国の金融機関では使われていて、それを前提に検査をしているというイメージで捉えると非常によくわかると思います。

それを裏付ける記載があります。「セグメント毎に定性要因を基にスコアリングし、総合的な評価を実施」というタイトルからすると、冒頭「融資方針・手続の変更」という要因が記載され、「経済情勢・産業構造の変化」という項目より先に来ているのは、普通に読むとちょっと違和感があるのではないでしょうか。これは何かというと、融資方針と手続という2つの一般名詞ではなく、「ポリシー・アンド・プロシージャー」という一つの熟語というか、専門用語です。これはポリシー、つまり金融実務の虎の巻の基本の憲法みたいなものとプロシージャー、つまり手続集を一体化した文書で、各銀行職員が全員手元において、それに基づいて実務を行っているということです。それくらい重要なものなので、その変更があれば検査時の定性要因として重視しているというこです。

 これから得られる大事なインプリケーションとしては、今日の話では、米国の検査実務が「ポリシー・アンド・プロシージャー」を前提にして、基本方針と実務の両方をチェックするという運営であり、かつポリシーに関するヒアリングに時間の半分も使っているというところが重要だと思います。

 欧米の銀行では、経営者もオフィサーも流動性が高くてころころ代わるという背景事情があると思います。だから、人が代わってもポリシーに基づく運営をきちんと徹底させるために細かいところまで文書化する必要があったわけです。加えて幾つもの金融危機がありましたので、要するに、明文化した規定を「ポリシー・アンド・プロシージャー」という一種の虎の巻の形で導入した上で、トップから末端まで周知徹底するというプラクティスが定着しています。本支店の人はみんなそれを机の中に置いて、自分自身のやっている業務はこれに基づいているということでチェックするし、いざ検査が来れば、それを出して、それに基づいて議論するという実務が続いてきたと思います。

 私の記憶だと、日本でも歴史的に見れば、金融危機以前に欧米流のポリシー・アンド・プロシージャーを導入しようという動きが実はありました。95年ごろに、ベアリングス証券とか大和銀行のニューヨーク支店の問題とかもあって、更にバーゼルの自己資本規制とか、そういう一連の動きの中で、日本銀行の考査局のほうからデリバティブ取引のチェックリストが公開されたり、それから、金融当局、当時は金融検査部と言われていた部署でも、日下部元雄さんが中心になって、市場関連リスクに関するチェックリストを策定・公表していました。

 私自身も95年当時、興銀のALM担当をやっておりまして、バーゼルとか当局の動きに対応しようということでいろいろ議論した結果、欧米銀行にならって日本でもポリシー・アンド・プロシージャーをつくろうということになり、対象の範囲は市場部門に関してでしたが、手づくりでポリシー・アンド・プロシージャーをつくった経験があります。

 ポリシーは市場部門の目的と手段、リスク管理の方法、それから、組織体制などの基本方針を明記し、さらにALMや国債投資、デリバティブなどの業務ごとの運営方針を定めました。それから、プロシージャーのほうは、各業務ごとに運営マニュアルが既に存在し、決裁ルール、組織規定、それから、事務マニュアル、こういったものが既存の文書としてもあったので、それを編集し直すという格好で、3カ月ぐらいで手づくりで完成したという経験があります。要は、ポリシーと実務、これが首尾一貫した体系となって1冊のブックとして各担当が持ち、幾らまでこのルールに基づいてリスクあるいはポジションがとれるといったようなことを明確にするという流れが95年当時ありました。

 ところが、それを融資部門まで拡大しようとしていたときに、96年の住専事件とか、97年、98年の金融危機があって、金融危機に対応する不良債権処理という大きな課題に向かっていく中で、早期是正措置に伴って99年に金融検査マニュアルが導入されたという経緯だったと思います。

 このときの目的は、海外から不信感を持たれてしまった日本の金融機関のアセットの質といいますか信用を回復させるために、不良債権をあぶり出して早期に処理するということにありました。その目的に沿って今の金融検査マニュアルの体系はできている。裏返せば、今の枠組みは、不良債権問題の処理を目的としたいわば有事モード、戦時態勢の対応を20年も続けてきたことになる。これを平時モードに戻していく必要があるということが今の金融庁当局の問題意識だと理解しています。

 この研究会のテーマもまさにそれに関連しているわけですが、米国当局が検査対象の各銀行に「ポリシー・アンド・プロシージャー」という明確な文書集が存在することを前提に、それに基づいて対話をしているというところがとても参考になると思います。日下部元雄さんも本で書かれていますけれども、信用リスクに関しては、クレジットポリシーをきちんと明文化して、つまり伝統的に各銀行の暗黙の文化としてあるというのではなくてあえて明文化し、かつそれにトップをはじめとする経営陣が直接かかわって定めるべきだという主張もされていますが、私もそのとおりだと思います。

その次には、クレジットポリシーなどに基づく運営の考え方、それから、それを担う組織のあり方、リスク管理のあり方、そういった議論が最初に、これこそまさに半分の時間をかけてでもやるべき議論だと思うんですけれども、それをしっかりヒアリングをした上で、各プロシージャー、事務手続も含めた、実務の手順が、そのポリシーに整合的にできているかというところを読み込んで、漏れがあればそこを指摘し議論する。最後に現場に臨んで、ポリシー・アンド・プロシージャーがいくら立派にできていても、現場のプラクティスがそれに反してないかというチェックも行われる、そんなようなイメージじゃないかと思います。

 金融庁が言われている、深度ある対話とか建設的な対話あるいは探求的対話というのは、まさに前半のポリシーに関して時間をきっちりかけて対話をしていくという、そういうヒアリングに当たると思いますが、これは検査の半分で、もう半分は、そのポリシーがどれだけ実務に落とし込まれてプロシージャーとして体系化されていて、ちゃんと遵守されているかという、ポリシーとプロシージャーの両方をチェックするという、そういうことだと思います。

 ちょっと長くなりますけれども、日本の銀行にはポリシーがなかったかといえば、それは全く間違いで、いろいろな形で伝統的な組織文化の中にあったと思います。ただ、ポリシー・アンド・プロシージャーという形で整理されてなかっただけではないかと思います。先ほど新田さんのほうからあったのは、まさに経営全体のポリシーであり、またクレジットポリシーの表明でもあると思います。

 それから、信金さんで、創業支援融資を非常に熱心にやってすばらしい実績を上げているところがある。あるいは、分野別でいえば、自動車関連産業とか、船舶造船、それから、農業融資、このような特定の分野に自分たちの存在意義を見出して、果敢な取組みをしている地銀もあります。優れたリーダーのもとに、自分たちはこういう分野のリスクをとるということを明らかにして、キャピタルアロケーション、つまり金とか人とかそういったものをきちんとその面で優先して取り組んでいる成功事例だと思います。もちろんリスク・リターンの関係もしっかり押さえたうえでの話ですが。

 だから、足りないのは、金融機関・金融庁ともに、ポリシー・アンド・プロシージャーのような一貫した枠組みで経営と実務を整理・表現して、それを徹底する。それを共通の議論の場に出して議論を深めていくという、そういうことではないかなと思います。

 ついでに言うと、前回もお話に出たRAF、リスク・アペタイト・フレームワークというのは、これは急にできるものではなくて、ポリシー・アンド・プロシージャーという枠組みがあって、それを融資の部門で発展・深化させたものと見ることができます。

 この研究会では償却・引当の議論ももちろん重要でありますけれども、それはプロシージャーの中の引当・償却の実務のところをどれだけ正確にきちんとやっていくかという一部分の話として位置づけられます。くどいようですが、ポリシーとプロシージャーの一貫した体系で運営されるという銀行経営の全体像を前提にすえて、そういう全体の枠組みの中で検査・監督のあり方を議論していくという方向がいいのではないかと思います。

 長くなりまして、失礼しました。

○岩原座長‌  
 ほかに。村岡さん、どうぞ。

○村岡メンバー‌  
 今回の検討で1つ忘れてはいけないのは、金融機関の経営の自由度とか健全性という議論は出るんですが、取引先、事業者のニーズを取り入れたような形の議論とか方向性になるかどうかということだと思うんです。要は、取引先ももちろん規模とか業態によって全然違う。かつ、それがどんどん多様化している。多分、地方経済とか産業の活性化の中で、ますますイノベーションとか、あるいは事業構造の変革とかいうことが求められていて、そういうことを行っていく上で、今のこの枠組みが支障になっていないかどうか、あるいはより支障にならないような形に変えていくという必要がある。それを考えると、やっぱり銀行自身の戦略の自由度とか、あるいは今回の引当なんかの自由度を極力うまく取り入れられるような仕組みに変更していくことが間違いなく望ましいと私は思います。

 そういう中で、先ほど第一勧信さんの戦略的なユニークな取組みのお話がありました。私、海外で言うマイクロファイナンスなんかの考え方と一部重なる部分もあるかなと思って伺っていたんですが、フェース・ツー・フェースの部分を重視しながら、それを信用組合の融資の方針なり、あるいは引当の方針まで取り込みたいと。それが回り回って事業者さん側のメリットがあるんですという、そういう形であれば、その自由度を損なわないような仕組みに間違いなく変えていくのが正しいんだろうと。

 そういう中で、先ほどアメリカとの比較あるいは田中さんから欧州のほうの取組みのお話も紹介がありましたけれども、そのあたりも参考にしながら舵を切っていくということを本気で考えたらいいんじゃないかと。ただ、それをやっていく上では、そこでの各プレーヤー、銀行の経営陣だけではなくて、それから、監査法人あるいは当局、さらには、もしかしたら一番重要になるかもしれないのは社外取の役割ですよね。こういった各プレーヤーの質を高めていく、あるいは審査を高めていくということも今回を機に取り組み始めるということを本気で考えられたらどうかと私は思います。

 以上です。

○岩原座長‌  
 ほかにいかがでしょうか。

 多胡さん、どうぞ。

○多胡メンバー‌  
 多胡です。どうもありがとうございます。川崎信用金庫さんのお話で、要は、地域特性とか創意工夫、それから、小口分散云々ということで、かなり少量多品種的なものが出てきて、その一方で負担感なくという、非常に難しいお話をされているんですね。となると、どこかでグルーピングして、それでやっぱり定性を見ていかなければいけないと思うので、そこはどこで割り切るかというところはすごく問題だと思っています。そもそも信用金庫さんご自身で、いろいろもう、本当にこれ、ブレークダウンしたら数限りなくなるわけですけれども、そこはある程度グルーピングというのはできるものなんでしょうか。まずこれを伺いたいんですね。

○岩原座長‌  
 鈴木様か、馬場さんですか。

○多胡メンバー‌  
 馬場さんのお話でしたよね、たしか。

○馬場様‌  
 実績率でやっている限り、グルーピングというのが引当金の水準の全体を変えることがないので、潜在的な将来リスクをどう織り込んでグルーピング等をするかが問題だと申し上げてきました。

○多胡メンバー‌  
 これ、定性のところの話ですから。おっしゃっていることは、定性的ないろいろなものがあるから、それに合わせて創意工夫を尊重してくださいというお話だったと思うので、まさにそのとおりだと思うんですが、その一方で負担感がなくということをおっしゃられておるんですね。

○馬場様‌  
 負担感なくというのは、IFRSで出ているような将来キャッシュフローを全債権に当てはめるような作業ではなくて、今の債務者区分をうまく生かしながら、要管理のところがなかなか使いづらくなっているものを逆にうまく利用して、「新しい管理ゾーン」として使おうと。例えば思い切って創業支援したとかリスクをとるとか、そういういろいろな実例が各金庫から上がっています。当金庫でも幾つかやっておりますが、現状は、グルーピングというよりは、単品というか個別債務者でやっている感じなんですけれども……。

○多胡メンバー‌  
 そこなんですよね。だから、負担感がないというのと、定性面でどれだけ多様化するかという難しさがあって、これはまず信用金庫さんご自身というか、金融機関ご自身がある程度そこには枠組みがないといけないし、その土台にあるのは、先ほど玉井さんがおっしゃった、まさに経営方針、経営計画、そこから融資方針等が出てきて、当然、経営計画というのは画一的ではなくて企業の特性云々というのもあるし、そこで出てくる融資方針というのもフォワードルッキングとなるわけで、これは全部つながってこなければいけないわけです。

○馬場様‌  
 そうですね。

○多胡メンバー‌  
 だから、そこがまずしっかりできて、ある程度、グルーピングという言葉が適切かどうかわからないんですけれども、当然負担感との話でいったら、そこが必ず出てくるし、それで、それは検査する側の行政のほうも当然一本一本というわけにいかないわけですから。それからあと、会計士さんたちがそれで対応できるかどうか。

○馬場様‌  
 そうですね。

○多胡メンバー‌  
 ここをある程度、最終的なコンプラマイズしなければいけない、どこかで妥協点を見つけなければいけないと思うんです。それで、玉井さんのお話で、例えば造船とか、自動車とか、私、自分でやっておりましたけれども、例えばある金融機関ではアグリクラスターとか、こういうものはわかりやすいわけです。その部分についてということで、その特定の産業。それから、第一勧業信用組合さんの場合は、おそらく理念でくくれているんですよね。それから、組織論でくくれているんですよ。だから、これはこれでグルーピングができている。

 逆に新田さんのご意見を聞きたいんですけれども、これはこれである程度、創意工夫、特性とか、馬場さんがおっしゃったいろいろなものを何でくくるかというと、第一勧業信用組合さんの場合はそういうくくり方ができるので、負担感云々というところはかなりクリアできると思うんですけれども、このあたりのところが、それぞれ個別の金融機関さんに落とし込んだ場合、果たしてできるのかどうか。

 それがないとおそらく、行政のほうも、先ほど渡辺さんがおっしゃった、金融庁側の対話能力、これ、探究型対話ですよね、これができるかどうかというのはもちろんあるんだけど、当事者の金融機関がそういうものを経営計画、経営方針、もっと言うと、経営理念から一気通貫で持っているかどうか、そこにフォワードルッキングがぴしっと入っているかどうかというところで、やっぱり何をもってくくるかというのがないと。いや、おっしゃっていることは全くそのとおりなんです。ただ、それがどこかでそういうものを割り切らないとと思って。

○馬場様‌  
 そうですね、おっしゃるとおりだと思います。当金庫の話になるのも恐縮なんですが……。

○多胡メンバー‌  
 いや、川崎さんはできると私は思いますけれども。

○馬場様‌  
 前も申し上げたかもしれませんが、都心への時間・距離が短いので、製造業は残念ながら、川崎市の統計なんかでも目に見えて減ってきている中で、大型の商業施設だとか、あるいは大型マンション群みたいなものに鞍替えしていくというようなことがあるわけですが、それがもう20年30年続いているわけです。

 やはりそういうものというのは、今はいいですけれども、一定のグループとして経営者は考えているはずですし、築年数が、型式がとても古くなってしまうということになれば、いつかはどこかで空室率が上がっていく。そうすると、一生懸命融資したものが焦げついていくというようなことは十分あり得るわけで、そういったものに対する備えとか。あるいは、今はオリンピック景気もありますので、建材屋さんとかがとても調子がよかったりしますが、やっぱりリーマンショックのときに、あまり個別先が連想されてしまうと困るんですが、苦しい時代もあったというようなものについても一定の引当準備をしているだとか、グルーピングと言うほどきちんとやれているわけでもないですが、そういうようなことは具体的にやっているということです。

 そういうものをそれぞれの地域特性を活かしながら、今後柔軟にもっと考えていけば、むしろ今までの流れはなかなかリジッドに実績率以外の引当が認められないという現状の中で、せっかくこういう研究会があるわけですから、そういうものを我々も含めて後押しできるようなコメントがいっぱい出てきている、実例もいっぱい出ているということが、全国的に引当などの適切性を高めていくということにもつながるんじゃないかなと思っていろいろ発言をしているということです。

○岩原座長‌  
 よろしいですか。

○多胡メンバー‌  
 はい。

○岩原座長‌  
 森さん、どうぞ。

○森メンバー‌  
 今日のプレゼンはすごく参考になりました。私、質問が1つと意見が2つあります。それは、事務局からご説明のあった日米の貸出検査実務についてです。まさにここ、2ページに、先ほども事務局から改めて説明があった、切り離す考え方(①資産査定と引当、②引当についての毀損債権と非毀損債権)ですね。まさにこれをやっていかない限り、今の日本のべったりとくっついてしまったものだと、金融機関も監査法人も身動きがとれない形になっていますので。その身動きがとれない背景には、先ほども議論が出ましたけれども、大量の不良債権を処理する。私も当時は日銀サイドにいて、バーゼル合意の代表をやったり、実際の日銀考査で不良債権の大量処理もやった経験からしますと、検査マニュアルはまさに必要であったという認識です。

 ただ、べったりくっついてしまったその発想の結果、今まさに人口減少とか廃業の嵐になっている日本として、まさに不良債権を国是とする局面からは大きくパラダイムシフトが起こっているという認識のもとで、検査マニュアル廃止。これは先ほども公認会計士協会のほうからも廃止に賛成という話があって、私はよかったと思って聞いておったんですけれども、そのときに、じゃ、どういうふうに展開するのかといったときに、今日プレゼンのあった、この切り離し、米国方式、これはいわゆる健全な償却・引当をいかに目指していくかといったときに、やはり仕組みとして重要な観点だと。ここにあります、まさに枠組みとして参考になるんじゃないかというのは、まさしくそのとおりだなと私は感じています。

 あとは、債務者区分なのか債権区分なのかというような、これは米国と日本の融資慣行の違いもありますし、もちろん先ほどもございましたけれども、中小・小規模事業者になってくると、いろいろな、一言で言いますと、法人と個人も一体化しているような形にもなって、まさにコーポレートそのものを見ざるを得ないといったところになると思うんですけれども、いずれにせよ、日本として債務者区分の観点が定着しているので、それはそれで生かしながら、米国方式を取り入れていくと。ノンインペアのところに対して、いろいろな定性の判断を加えながら、適切な引当水準、償却をやっていくと、そこを目指すといいなと思います。

 そのときに、これも議論にあったんですけれども、まさにガバナンスですね。徹底的に……、先ほどもポリシー・アンド・プロシージャーの話がありましたけれども、私、日銀考査に携わっているときにも、ポリシー・アンド・プロシージャーをしっかりつくり込んでいこうとするような金融機関も幾つか見てきているんですけれども、実際にそれが新しいパラダイムのもとで米国方式を、枠組みを仮に取り入れていったときに、きちんとしたポリシー・アンド・プロシージャーになり、かつやっていくかというのは、やはり取締役会、それと、先ほども出ましたけれども、いわゆる健全な社外の資質の高い意見がいかに取締役会で戦わされてしっかりとしたものになっていくかと、そういった観点は非常に重要なので、これは先ほど検査官・監督官の研修の話等がありましたけれども、そういったところにより力点を置いていくといいなと思います。

 それを述べた上で1つ質問は、かなり自由度が高まってくるといったときに、これは皆さんから、信組さん、そして、公認会計士協会のほうから比較可能性というキーワードがございまして、質問は、米国で比較可能性をどのように確保しているのかといったところをぜひご教授いただきたいなと。そこがうまくクリアするのであれば、米国方針の枠組みを入れながら、まさに比較可能性もある程度、みんなが金融機関を評価するときに、機関投資家も含め、判断ができていくんじゃないかと感じたと。

 あと、意見2つの1つは、資金使途の話が、これまでの会合で皆さんから出ましたし、私も強く主張してきた点なんですけれども、やはり正常運転資金見合いの短期融資。私の理解では、米国は当座の極度額を、いかに運転資金をしっかり把握しながら、まさに事業性評価そのものは運転資金の把握に尽きると思うんですけれども、そのときにこの米国方式はまさに運転資金とかキャッシュフローそのものですので、これは田中メンバーから最初のほうで、キャッシュフローが非常に重要だという意見があったんですけれども、米国方式の枠組みを入れながら、やはり日本の、今、正常運転資金に見合った、つまり、事業性評価に基づく融資の典型例である極度枠の設定をする当座貸越などで、とにかく資金使途をしっかり捉えながらやっていくやり方というのを、やっぱりそこの軸は外してほしくないなと感じています。それが1点目です。

 それともう一点は、グルーピングの議論が先ほどございました。私自身、実際にリスケ先とか、破綻懸念先とか、実質破綻先も含めてなんですけれども、事業再生をやっていく際に、やはり事業者そのものが、誠実で、やる気があって、きらっと光るものがあるという3条件を満たせば、徹底的に金融機関が伴走支援すれば、かなりのスピードで正常化に向かうと。本業支援ももちろんやりながらということなんですけれども、それを日々実務で実感しているところなんです。

 そのときに、やはりグルーピングの発想が、米国方式ですと、ノンインペアのところを中心にという話であったんですけれども、やはり日本が直面する廃業とかも含め、事業再生もなかなか進んでいないといった、そういった状況に直面している観点からすると、インペアのところについても、伴走支援型、いわゆる事業性評価に基づく融資、そして、本業支援のところ、それをしっかりやっていくというところは切り出して、そこはそこで改めて引当の問題、償却の問題を考えていくというんですかね、やっていくといいんじゃないかと。金融機関も経営資源が限られていますので、リスケ先とか破綻懸念先の全先に全てできるわけではないので、やはりそれは事業者の話がありましたけれども、さっき言った3条件を満たすような事業者に旗を立てながら徹底的に支援すべきところを支援しながら、そこはうまくグルーピングの概念を使いながら引当・償却を切り出していくと、そこが重要だと感じています。

 以上です。

○岩原座長‌  
 それでは、渡辺さん。

○渡辺地域金融監理官‌  
 まず比較可能性の確保ですが、私どももあまり網羅的に調べているというわけでもないのですけれども、おそらくまず1つ、制度の枠組みといいますか、先ほどの内部格付のPass、Watch以下のこれが合っているか、合ってないかという確認とか、あと、コールレポートで出してくる金額がどうであるかとか、おそらくこういった外側にある部分がまず1つあるんだと思います。

 その上で、この比較可能性をどういうふうに確保しているのかということで、僕らも幾つかの金融機関を、ホームページで開示しているものを調べてみたりもしたんですが、例えばある金融機関は、かなり大きいところなんですけれども、個人の貸し金であれば、いわゆるスコアリングといいますか、一定のレーティングといいますか、これがきくので、そちらを使って自分たちは引当をしています。不動産については、これはおそらく不動産の市況が違うとかいろいろな事情があるんだと思いますけれども、あと、ノンリコースだということもあるんだと思いますが、むしろそれは債務者のスコアリングを見ていくよりは各地域の不動産市況を見たほうが引当に適切なので、それで引当ていますというような開示をしています。

 おそらく推察するに、裏側では先ほどお見せしたこういうような議論をして、地域ごとにどうなのかということを議論した上で、ただ、外に言っている開示としては、今申し上げような、自分のところのポリシーはこうだということではなかろうかと思います。ですので、以前からも公認会計士協会さんからも、あるいは各業界からも話がありましたが、開示をどうしていくか、やり方の部分、この部分というのはやはり1つ重要なポイントでなかろうかと思います。

 あと、融資慣行の違いというのも、ここもなかなか分かりきらないところもあるんですが、日本に比べて向こうはコミットメントライン方式だと思いますので、おそらくコベナンツ的なものも入っているでしょうし、そういう意味でいうと、債権の本数が一体実際のところどうなのかとかいうそういう問題もきっとあるんだと思います。なかなか想像するところを超えてデータがとれない部分もあるんですが、そういったものの中で、ですから、どういうモニタリングなり、お客さんとの関係をとっているのかということはあろうかと思います。

 先ほど川崎信金さんからもお話があった、キャッシュフローが見づらいということですが、アメリカも会計の原則は今、基本的に一本一本キャッシュフローを見なさいとなっています。ただ、日本のDCFと違って、基本はこれが経営としてのベストエスティメート、推測可能であるということを先ほど田中様からお話がありましたけれども、あれを経営としてどう考えるかという観点があるということです。ですので、ここをどういう見方をしていったらいいかというのは確かに課題なんだと思います。ただ、運転資金を出している場合と設備資金を出している場合とで、経営から見て損失可能性が違うということであれば、それをどう担保してどういうふうに見るかというのは、これは確かに課題だと思います。

 3番目のインペアドのところなんですが、これは過去といいますか、現在の日本の方式が実態バランス主義に基づく債務者区分に基本なっておりまして、インペアドかどうかということよりも、将来的なサステナビリティということを考えたときに、それが債務者区分とずれが出てきている可能性もあると思います。ですので、このあたりもどういうような実損率といいますか、グルーピング、将来見通しがあり得るかというのは1つのテーマだと思います。

 その際に、ただ、検証可能性といいますか、それはおそらく社外の方も、あるいは公認会計士も、あるいは当局も、議論するときにはやはり何らかのデータなりが必要になるのではないかと思いますので、そういったものをどのように確保していくか。おそらくそういう問題意識がおありになるからこそ、先ほど公認会計士協会さんからは、CRITSのデータも含めて使えるようにしてほしいと、こういうお話があったのかなと思っております。

○岩原座長‌  
 では、田中さん。

○田中メンバー‌  
 1点だけコメントします。比較可能性の話が出たんですけれども、アメリカの場合は2つのアプローチです。1つは、当局が、ピアグループコンパリソンということで、データを出します。ですから、一定のグルーピングをした金融機関の、例えば収益率とか貸倒引当金を総貸出で割った比率であるとか、さまざまな分析手法でそのピアグループの比較対象表を出します。それで、金融機関にもそれを渡して、このピアの中ではあなたは何番目ぐらいです、ここが強い、弱いとやります。これが1つ。

 それから、もう一つは、それぞれの銀行の基準そのものの比較はやりません。一方で当局は、どういうやり方で引当を積んでいるのか、それから、どういう形でチャージオフをやっているのかと、そういうことを各銀行に開示しなさいという、そういう指導をします。ですから、自分たちのやり方を変えることもあるわけです。グルーピングの中、当然変わるわけです。ポリシーなんかも変わったりするわけです。そのときはそれを開示しなさいということを当局が言います。いわゆる比較可能性に関してはその2つの手法が使われていると私は思っています。

○岩原座長‌  
 比較可能性と言うときに、誰にとっての比較可能性かという問題があって、まず最初に問題になるのは、投資家から見ての比較可能性で、それはまさに公認会計士協会がおっしゃったような基準で比較可能な数字を出すことになると思います。それに対して今ここで議論しているのは、それとは切り離して、まさに銀行の健全性の観点、ある意味でいうと、コールレポートの中に書く数字としての償却や引当がどれだけのレベルにすべきということを議論している。そこで言う比較可能性というのは大分意味が違って、今、田中さんがおっしゃったように、当局から見てどれだけの銀行の健全性のレベルかということが判断できるようにするという意味での比較可能性であって、両者は一応別に考える。まさにそれを区別していくというのがこの研究会の大きな目的ではないかと思います。

 かつては、さらにそれに税法が絡んでいて、税法で損金経理できるようにする基準が引当の基準と一致していたために、まさに銀行監督上の基準と、会計上の財務諸表の基準と、それと税法上の基準が一体になっていたのを、とりあえず税法だけは切り離そうとしたんですけれども、今度は、会計と監督の観点での償却・引当をそれぞれ独立して考えて、最適なものを開発していこうというのが多分ここでの議論ではないかと思います。

 何か渡辺さんから。

○渡辺地域金融監理官‌  
 ご指摘いただいた内容、大きく言うとそうだと思うんですが、あともう一つは、開示債権というものがありまして、銀行法と、あと、金融再生法の開示債権があります。これをどういうふうに位置づけるのかというのがまた1つの論点としてあると思います。いろいろな割り切り方、今はそれが開示債権と、会計上の引当とが全部一致している状態のわけですけれども、ある意味、開示債権のほうはまず不良債権なりが一体、国民から与えられた一定の基準で幾らあるのかということを問われるのが開示債権の役割だという考え方かもできるかもしれませんし、それは法目的をどう捉えるかということかと思います。

 あと、会計上の話と健全性のほうですが、それぞれのやはり立場はもちろんありますが、やはり根っこのところでは、どれだけの損失が予想し得るのかというところがありまして、このあたりは、ですから、お互いの折り合いといいますか、これをどこでとっていくのか。

 こういった点につきましては、少し私どもも今後、ディスカッションペーパーを書く際に研究をしてまいりたいと思うんですが、これはまさに担当課長として個人的に、公認会計士協会さんの資料を見ていてあっと思ったことですけれども、6ページ目の会計基準と今のマニュアルも含めた金融での実務、これを比較して見たときに、よく金融業界の方が生きている破綻懸念先と死んでいる破綻懸念先という言い方をされるんですが、本当は多分貸倒懸念債権以下のところは、これは倒産する蓋然性が相応に高いところがここに入ってくるところが、その後のいろいろな制度がこうなる中で、実は会計基準と今ある私どもの中でも、少しすき間といいますか、合わないところも出てきているのかなと。この議論がある1つの背景はそういうことなのかなというようなことを、この場でこんな形で申し上げるのが適切かどうかわかりませんが、お話を伺っていて、個人的には思いました。

 今座長からご指摘があったように、まさに投資家から見た場合の情報の有用性、あるいは当局なり、あるいは預金者といった立場から見たときの情報の有用性、さらには、その際に、会計基準なり、あるいはこういった当局との関係をどう整理していくか、さらには、不良債権の開示の諸法令、銀行法、金融再生法、あるいは協同組織金融機関の各業法、このあたりをどのように位置づけるかということはやはり整理を要する事項だと考えました。

○岩原座長‌  
 どうもありがとうございます。

 ほかに何かございますでしょうか。

○新田様‌  
 新田です。

○岩原座長‌  
 新田さん、どうぞ、お願いします。

○新田様‌  
 すいません。多胡さんからちょっと言及ありましたけれども、むちゃくちゃ手間はかかっています。私どもはまだ一件一件個別で見ます。逆に絶対符号化するなということで見ています。そういう意味では、私どもがやっているのは、今、ローリスク、ミドルリターン、そのかわり、手間がかかるモデル。逆に言うと、誰もまねできないで、ブルーオーシャンと、多分こんなような感じだと思うんですけれども、そんな感じです。

 ただ、分けているところは、今、創業支援は別にしています。創業支援はもう私ども500件ぐらいやっていますので。あと、先ほど言ったように、四、五百件来たコミュニティローン、これはまだデフォルトゼロなので、普通にまぜて足せばいいかなと。そういう意味では、だから、SDGs宣言にも書いたんですけれども、私どもは何をやるかということで、SDGs上、創業支援、コミュニティローン、あるいはソーシャルビジネス、こういったところを項目立てしています。

 実はこの辺のヒントはどこからとったかというと、今、日本で私どもだけが入っているGABVという組織があります。Global Alliance for Banking on Valuesという、世界のサスティナブル金融機関のネットワークです。これは日本中で私どもしか入っていません。今、世界で55の金融機関が入っているんですけれども、議長がオランダのトリオドス銀行です。彼らは、ご承知の方はよくおわかりかと思いますけれども、クリーンエネルギー分野以外には貸しません。しかも、貸した先は全量、どこに貸したかというのを開示しています。似たような感じでは、ドイツのGLS。ここは学校とかまちづくり関係。あと、イタリアのエチカとか、ヨーロッパで実はこの辺のところはものすごく発展しています。

 アメリカの件でいうと、先ほどおっしゃられたように、アメリカのFRBというのはクレジットユニオンは管轄していませんので、約6,500あるクレジットユニオンはFRB外です。私、アメリカのクレジットユニオンがどうなっているのか、もう一個言えば、クレジットユニオン、クレジットコーポラティブという協同組織というのは、ライファイゼンも含めてドイツ、フランス、イタリアが本場なので、ここの内容を実は日本で研究している人が誰もいなくて、そんなことで僕らはそういったところに踏み込んでいます。

 そういう意味では、多分、これからの信金信組のあり方というのは特化していくんだと思います。うちは例えば太陽光発電なら強いよとか、うちは例えばまちづくりについては強いよとか、この辺のところを僕らは今これをどういうふうにノウハウを蓄積してやっていくのか。

 そういう意味では、多分日本の研究者の方は皆さん、アメリカのいわゆるFRB管轄についてであって、それ以外のところについては、日本中の大学行ってもどなたも教えてくれないので、もしここでいらっしゃる方がいれば教えてほしいんですけれども、協同組織金融機関……、信用組合というのは、ご承知かもしれませんけれども、出資者は全部組合員です。貸出先は全部組合員です。預金先も8割は組合員です。員外預金規制がありますから。だから、いわゆる外に開かれている株式会社と全くこれはガバナンスのあり方が別物なんですね。だから、その辺も踏まえて、実は私ども、監査法人さんといつも議論するんですけれども、どうもかみ合わない。それで困っているんです。

 逆に言うと、多分僕らのやっている領域というのは、私も一応、みずほの常務ですから、みずほの東京統括を私、やっていましたが、ここはみずほ銀行が絶対にできない分野なんです。だけど、これ、誰かがやらないとしょうがないから、全然もうからないけれども、汗かいてやっているんです。ただ、でも、これ、サスティナブルという意味ではやっぱり必要なんです。

 だから、そういう意味で、今回の議論ではそこまで行かないかもしれませんけれども、できれば研究者の方に、私は一介の経営者であり実務家ですから、やっぱりヨーロッパのクレジットコーポラティブがどういう会計をやっていて、どうやっているのか、あるいはアメリカのクレジットユニオンがどうやっているのかということも教えていただきながら、今後、上場会社の地銀さんのをこちらに倒すのも結構なんですけれども、やっぱり信金信組ってちょっと違うよねと、ここのあたりのガバナンスの議論をどなたかさせていただけると非常にありがたいなと。

 正直、みずほと第一勧信、両極端やった中では、全く別物です。同じ業界だと思わないほうがいいです。ここの中であまり小規模事業者のところをご存じない方が多いと思いますけれども、私自身がこの6年間泡食っていますから、そんな意味で。すいません、話が混乱するとあれなんですけれども。

 多胡さんへのお答えとしては、川崎信金さんはうまくやられているのかもしれないですけれども、私ども、むちゃくちゃ手間かかります、これ。残念ながら、この手の省き方が私はわかりません。そんなことでやっております。すいません、失礼いたしました。

○岩原座長‌  
 大変に耳の痛いことで、法律の分野に関していえば、協同組合法のまとまった研究文献というのは1960年代が最後になっています。それ以後は殆ど書かれてないのです。

 ほかに何かございますでしょうか。

 小野さん、どうぞ。

○小野様‌  
 ありがとうございます。1点コメントさせていただきたいと思います。現在の会計基準を前提にしたコメントですけれども、先ほど日本公認会計士協会の小倉さんのほうからお話がありました資料の11ページに書いてあるところについてです。金融検査マニュアルの別表が廃止された場合、償却・引当に関する基本的な考え方については何らかの明文が必要という点については、これは実務の円滑化という観点からは、私も同じように思います。

 その上で、この研究会で多くの金融機関の方からプレゼンテーションをお聞きしまして、いろいろな工夫がされているということで非常に参考になったわけですけれども、そういった信用リスク管理の向上に向けた各金融機関の創意工夫といいますか、それはしっかり尊重されるべきだと思います。一方、償却・引当についてのルールとして何か定めるという場合には、各金融機関の実態をしっかり反映させた上で、過不足なく適正に償却・引当が算定されるようにあまり任意性が強い形のルールにはしないほうが良いのではないかなと思います。先ほど柔軟とか、あるいは自由度というようなお話もございましたけれども、これもバランスの問題だと感じました。

 以上です。

○岩原座長‌  
 ほかにございますでしょうか。

 どうぞ、五島様。

○五島様‌  
 地方銀行としての意見と要望を1つずつ申し上げたいと思います。

 まず、事業性評価に関する意見を1つ。金融庁の金融研究センターの「金融機関による事業性評価の定着に向けた採算化にかかる分析・考察」というのが出ているんですけれども、その中で、事業性評価は貸し出しの残高あるいは格付改善において銀行収益に一定の貢献をもたらすと。それから、2つ目が、金利低下に対する抑制効果を発揮するのは短期的には難しいけれども、将来的な収益構造の改革に向けた顧客基盤の構築、顧客の潜在ニーズの把握、組織風土改革、人材育成等にも寄与し得るということが示されています。そういった観点から今私たちも取り組んでおりますけれども、事業性評価をさまざまなデータを活用しながらさらに高度化して推進することが必要かなと。これが顧客満足度向上にもつながりますし、我々の生きる道であろうと考えています。

 今回の議論で、引当や償却額の算定にはフォワードルッキングな目線が必要と。そのためには、データ分析による将来予想が必要だというご意見がありました。それはそのとおりで、やっていかないといけないというふうにも考えています。一方で、今申し上げた事業性評価のようなもので、個別企業の将来性を予測して、それを格付に反映させたりしていくこと、これも財務データだけに頼らない定性的な観点で顧客を理解するという意味ではフォワードルッキングであろうというふうに考えています。人材育成という意味でも、行員にこういうフォワードルッキングな目線を培いながら、銀行の融資運営の創意工夫につなげていきたいと思います。個別企業にはこういった事業性評価、それから、銀行経営全体としてはやっぱりリスク・アペタイト・フレームワーク、この両面から実効性を上げていくことが必要かと思います。

 それから、もう一つは要望です。今日は公認会計士協会のプレゼンがありましたけれども、将来予想の反映とか、貸倒実績率の低下への対応、貸出条件緩和債権の判定における客観的な目線での検討など実務的な論点が多く残されています。それぞれの金融機関の償却・引当実務の高度化・精緻化をさらに進めるためには、関係者間で実務的な議論・対話を継続することが必要であると思います。

 前回ご紹介しましたけれども、地銀協にあるCRITSデータ、これと金融庁あるいは日本銀行にもある金融機関の貸し出しに関連するさまざまなデータ、こういったものを関連しながら見ていくということが今後は有用かと思いますし、公認会計士の方々には、金融機関の財務会計あるいは管理会計に関する多くのノウハウが、あるいは専門知識をお持ちだと思いますので、こういった関係者が持っているデータやノウハウを持ち寄って組み合わせることで、金融機関の貸出業務運営あるいは償却・引当実務の高度化につながるのではないかと。ひいては、これが金融機関全体の健全性あるいは持続可能性の向上につながっていくのではないかと考えています。

 私どももCRITSを利用していろいろデータ分析をやっていますけれども、やはり事務局あるいは実務家だけではなかなか十分な成果が得られない場面もあります。例えば長期の累積デフォルト率や与信集中度指標を活用したリスク管理のあり方、あるいはマクロ経済指標と金融機関の貸し出し行動との関係に係る定量分析、あるいはそれらを踏まえた引当額の適切性など、関係者の方々とはやはり実務的な議論、対話を続けていきたいと考えております。よろしくお願いしたいと思います。

 今後、金融庁から考え方、進め方が示されるということであれば、特に資産分類あるいは償却・引当については、基本的な考え方、原理原則だけではなくて、具体的な例示、あるいは強制されるものではないと思いますが、一定の目線をできる限り示していただければと思います。

 以上、意見と要望を申し上げましたけれども、我々地方銀行の使命であります金融仲介機能の発揮を通じて地域経済の発展に貢献するとともに、私ども金融機関みずからも発展するためにも、リスク管理の高度化、特にそのベースとなる償却・引当のあり方・考え方については、今後も情報を共有し、議論を進めていければと考えています。よろしくお願いいたします。

○岩原座長‌  
 ほかに何かございますでしょうか、よろしいですか。

 特にないようでございましたら、時間でございますので、本日の自由討議は以上で終わらせていただきたいと存じます。

 事務局から連絡などがあれば、よろしくお願いします。

○渡辺地域金融監理官‌  
 10月2日に開催しました第3回会合の議事録につきましては、10月26日金曜日に公表させていただきました。ご協力ありがとうございました。

 貴重なご意見を数多くいただきまして、大変ありがとうございます。今回までにいただいたご意見を踏まえ、金融庁として、融資に関する検査・監督実務についてのディスカッションペーパーの作成作業を進めた上で、その状況も踏まえ、次回会合の持ち方については改めてご相談をさせていただきたいと思います。

 なお、その間におきましても、引き続き皆様からのご意見をいただければと思いますので、よろしくお願いいたします。ありがとうございました。

○岩原座長‌  
 それでは、以上をもちまして本日の会議を終了させていただきます。どうも長時間熱心なご議論大変ありがとうございました。

 以上

お問い合わせ先

金融庁 Tel 03-3506-6000(代表)

総合政策局リスク分析総括課(2602, 2543)

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