金融税制調査会(第二回)議事要旨

1.日時:

平成22年8月4日(水曜日)10時00分~11時32分

2.場所:

中央合同庁舎第7号館13階 共用第一特別会議室

3.議事内容:

前回欠席委員より意見を聴取した後、自由討議が行われた。参加者の主な意見は以下の通り。

【総論】

○金融税制を考える上で重要なのは、如何に家計の健全な資産形成を支えるかであり、資産形成に一番重要な原理は分散投資。分散投資を支える税制としては中立的税制が望ましく、個人段階だけでなく、法人段階も含めた中立的税制が必要。なお、日本の税制は株価対策のため度々改正され、複雑な税制になっている。将来的にも通用する変わらない金融税制を構築していく必要。

○分散投資を促進することは大切であるが、自助努力でできる部分は限定的。したがって、例えば不動産についての税制等、新成長戦略に資する税制のあり方についても議論すべき。

○金融所得に対する課税方法については、金融所得の性格(グローバルな金融取引、足が速い、租税回避が容易等)や先進諸国の税制との整合性をふまえて検討することが必要。その際、わが国の豊富な金融資産を経済成長に結びつけるという観点や、高齢化の下で貴重になる貯蓄を活用し豊かな老後の生活に結びつけるといった政策的な観点を合わせて考えることも必要。

<証券の軽減税率>

○証券の軽減税率の影響についての実証研究によると、結論は様々だが、「税が資産選択に与える影響はあるかもしれないが規模は限定的」というのがコンセンサスのようである。

○所得税の累進機能の強化という観点から、金融課税の一体化を進めることと引き換えに、本則税率(20%)に戻すことについては容認すべき。

○年収1,000万円の層の実効税率はおよそ11%くらいであるが、社会保険料を加えると20%強になる。軽減税率の議論をするに当たっては、このような視点も考慮に入れて検討するべき。また、所得の分布を見ると、9割の方が年収1,000万円を下回っており、こうした所得の分布も考慮する必要。

○実効税率についての財務省の資料は、むしろ年収が1億円を超えると実効税率が下がってくることが所得再分配の観点から問題であり、軽減税率を廃止して20%にすることは、この問題の是正につながる、というもの。

○所得が1000万円以上の人がほとんどいないことを踏まえると、実効税率の議論はむなしい。実効税率が社会保障まで入れても20%にも満たない方が多いということであるとすれば、そういう方々について少額の投資から得られた利益は非課税にするべきではないか。

○金融所得税制は、「資本」にかかる税制として、法人税とセットで考えていく必要。本則税率に戻す際の増収分は、引下げが検討されている法人税の見合いの財源に充てることも一案。

○軽減税率の廃止は、金融所得一体課税の道筋とのセットで考えるべき。道筋のないまま軽減税率が廃止されれば、マーケットに対してネガティブなメッセージを与えることになるのではないか。

○所得再分配機能の観点やpay as you goの観点からは、損益通算を実現するのであれば、軽減税率は本則に戻すべき。これらを同時に進めることができるかについては、システム対応等の観点から、実務家の意見を聞くべき。

<金融所得一体課税>

○実現時課税は含み益が課税されないため、実効税率が大幅に低くなる。よって、発生時課税のもの(利子)と実現時課税のもの(譲渡益)とを同じ税率にしているのは中立的ではない。また、損失の実現を早く、利益の実現を先送りにする戦略をとると租税回避が可能となるため、譲渡損失の損益通算には何らかの制限が必要。

○租税回避の問題は、勤労所得と金融所得とを切り離して損益通算できないようにすれば、ある程度防げるのではないか。

○利益が確定しているならともかく、株式の譲渡益のように価格の変動によって増減するものについて、課税の繰延が生じているというのは、特に90年以降株価が低迷し続けている現状を前提とすると、かなり違和感がある。

○空売りで儲けることもできるので、株価が下がったときでも租税回避は可能。なお、損失繰越期間の拡大のほうは、租税回避に利用される余地が少ないのではないか。

○公社債の利子及び譲渡益について申告分離課税に全面的に移行することについては、申告が必要になれば納税者の負担が増えるため、本当に望ましいかは疑問。源泉分離課税を維持しつつ、デフォルト債券の取扱い等につき検討すべきではないか。

○金融所得一体課税の具体的方向としては、金融所得の損益通算範囲の拡大と損益通算期間の拡大が重要。さらには「金融所得」の創設、すなわち、所得税の10分類を踏まえつつ「金融所得」概念を作り、経費・損失の明確化を図ることも重要。なお、市場関係者の透明性を確保する見地から、工程表を作成し議論を進めていくことが必要。

○金融所得の分類方法について、現状、あらゆるものが金融商品になりうることを考慮に入れるべき。利子や配当といった所得の法的分類をもとに区分していくのではなく、金融商品から得られたものは「金融所得」というふうに整理すべき。

○日本の所得税については、10種類の所得区分があることで、さまざまな形での所得分類間のコンバージョンがなされているという問題がある。一方、所得税本則の10種類の所得区分を残したままで「金融所得」という区分を作ると、それは11種類目の所得区分を作り出すだけともいえる。長期的な視点から制度設計をすべき。

○株式においてすら、譲渡益について、譲渡所得か事業所得か雑所得かという所得分類の議論がある。新しい金融商品の場合はなおさら問題であり、しかも、所得区分が不明確なものは、一番課税が厳しい雑所得に分類される傾向がある。そのような所得区分の不明確さが金融商品開発の妨げになっている。したがって、やはり「金融所得」という分類を別途設ける必要がある。

○所得分類については、仮に「金融所得」という分類を作ったとしても、その下にさらに小分類ができることになろう。もっとも、現行、雑所得に分類されているようなものについては、「金融所得」という分類を作ることで拾えるものが出てくるのではないか。

○「金融所得」という概念は、金融所得について特別の課税ルールを定めるためのものという意味合いにすぎない。所得分類が11分類になるというような大層なものではない。「金融所得」概念の導入により、雑所得に区分されているものを拾える、デフォルト損が損失として取り扱える、投資信託の解約手数料のように金融所得を得るためにかかっている経費を差し引けるといったところがメリット。ドイツ税制には金融所得の経費概算控除制度がある。

○金融所得の一体課税に関しては、損益通算の範囲拡大と損失繰越期間の拡大(3年→7年)が重要。

○損益通算が同一年で行われるケースは少ないため、損失繰越期間は3年から、例えば、7年にしてもよいのではないか。損失繰越期間の拡大や繰戻還付を可能にする方が、軽減税率10%の延長よりも効果的。

○(経済の)サイクルが大きくなっており、3年ではマーケットの影響を把握することが難しいことを考えると、損失繰越期間の拡大は重要な論点。

○その時々の経済状況にとらわれるのではなく、中長期的にあるべき税制を考えるべき。金融所得の一体課税(損益通算範囲の拡大及び損失繰越期間の拡大)を進めることが望ましく、工程表を示すべき。

○軽減税率を本則に戻すのであれば、損益通算の範囲拡大が必要。金融所得課税一体化の際に株式の譲渡損失の通算を制限したドイツの場合、個人金融資産に占める株式の比率は8%から4%未満に下がった。東証一部上場銘柄の6割強が、株価が1株あたりの純資産を下回るというマーケットの現状から考えても、譲渡損失の通算の制限は行うべきではない。また、損益通算を制限すると特定口座を活用する場合のシステム対応も困難。

<日本版IRA、確定拠出年金>

○1,500兆円の金融資産を活用するための本格的な貯蓄・投資促進税制として、日本版IRA(個人年金貯蓄優遇税制)の導入に向けた検討を開始すべき。

○個人型の確定拠出年金がある中で、拙速に日本版IRAを導入すると、税の体系としては整合がとれないのではないか。

○日本版IRAについては、個人の非課税貯蓄を整理統合するという面と、個人の年金制度を整備するという両方の面がある。年金について、現在の制度上は、拠出時非課税、(特別法人税凍結のため)運用時非課税、(年金控除のため実質的に)受取時非課税となっている。いずれかの段階で課税を行うべきと考えられるが、年金を受け取った時に課税となるのは高齢者に申告事務を負わせることになるため、拠出時に課税を行い、受取時は非課税というのが望ましいのではないか。もっとも、個人貯蓄について、既存の制度を日本版IRAに移すのは、混乱も予想されるため必ずしも望ましくない。日本版IRAの導入後はそちらに集約しつつ、既存の制度でそれまでに設定されたものは並存させておくべきではないか。

○日本版IRAについては、経済、社会保障や年金に対して現在の多くの人が不安を持っている中、包括的に対応すべき問題。

○株式投資を増やすために必要なのは、今投資をしている人達への分散投資の必要性についての職場での教育。投資教育が充実した投資スキーム、具体的には401Kについて、税制の優遇強化をしていくことが重要。

○株式投資を増やす最も有効な手段は、デフォルト設定(初期設定)をどうするかということ。確定拠出年金について、今は元本保証型を選ぶ人が多いが、バランス投資をデフォルト設定にすることで株式投資を増やすことが可能となる。ただし、当該設定について政府が介入することについては、慎重な議論が必要。

○リスク商品への投資はますます難しくなっている。401Kの拡充とあわせて、投資教育や401K商品のデフォルト設定(初期設定)等について考える必要があるのではないか。税にとどまらず、幅広く柔軟な対応が必要。

○401Kの制度拡充については、マッチング拠出が導入されれば、投資家側から資金を拠出できることになり、かなり使い勝手がよくなると考えている。これまで税制改正大綱等には記載されても、今のところ実現しておらず、是非実現をお願いしたい。

<その他>

○株式と負債の税制上の取扱いの違いの是正のためには、利子の損金算入制限を行うのが最善の方法。法人税率を引き下げる中で、課税ベースを拡大するという意味でもベスト。

○今後の生活不安を持っている中で、給与所得者が株に投資する余裕は全くない。若者にリスク投資を行うべきと、単純には言えないのではないか。むしろ、インフレに連動して価値が上がるような長期投資(株・不動産)を若者が行えば、結果としてはリスク資産に投資していても、長期投資という意味でリスクはなくなる。東京都内には一戸建ての空き家が非常に多くあるが、活用されず埋もれたままになっている。空き家の活用を提案しても、税金が増える等の理由で、断られる場合が多い。実物資産の有効活用を後押しする税制も必要ではないか。

○若者が自らの置かれた状況に応じた投資をできるようにすることが大切。公的年金には頼れないので、自ら資産形成を図るための投資教育が重要。

○若者が投資できる環境を作るという点については、相続税や贈与税等の優遇措置がなければ、高齢者から若者に資産を移転することは難しいだろう。金融税制の観点からは、少額投資非課税制度(日本版ISA)を当面活用するのがよいのではないか。

○日本版ISAは上場株式等に限られているため、対象範囲を広げる必要があるのではないか。

お問い合わせ先

金融庁 Tel 03-3506-6000(代表)
総務企画局政策課総合政策室(内線3182、3716)

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