金融税制調査会(第三回)議事要旨

1.日時:

平成22年8月10日(火曜日)14時45分~16時19分

2.場所:

中央合同庁舎第7号館13階 共用第一特別会議室

3.議事内容:

各委員より意見を聴取した後、自由討議が行われた。参加者の主な意見は以下の通り。

【総論】

○1,400兆円を超える個人の金融資産をいかに効率的に成長分野に流して、新たなイノベーションを促し、成長力の底上げを目指すかというのが最終ゴール。そのために金融税制が目指すべき方向は、税の簡素化、ゆがみの是正、中長期的な視点に立った制度設計。

○事業活動が前向きに活発に行われ、将来が明るく思える国を目指すべき。そのためには、金融・資本市場の信頼性を確保し、取引がゆがみのない形で行われる環境を作るべきであり、中立で、わかりやすく、ゆがみのない税制であることが望ましい。

○分散投資を支えるための税制が重要であり、中立で、ゆがみのない税制とすべき。なお、個人段階と法人段階の両方を見て中立でなければならない。

○海外のプロの投資家が日本の市場に投資する場合、日本の、特に国際課税分野の規定ぶりがやや明確性を欠き、執行の面でどのような解釈がなされるのか分からないという問題がある。金融立国を目指すのであれば、きめ細かいルールを作っておくべき。

○金融税制を考えていく場合、世界の税制改革の流れと整合性をとりつつ行う必要がある。

<軽減税率>

○軽減税率の撤廃については、金融所得一体課税の道筋とセットで検討すべき。

○軽減税率(10%)を廃止するということであれば、幅広い損益通算を認めなければ、税負担としてはバランスしない。また、株価等の下落局面では、個人投資家は損失を抱え込む傾向にあるが、早めに損失を出して、新たな投資に向かうことを進めるためにも、損益通算は幅広く認めた方がいいのではないか。

○財政が非常に厳しい中、pay as you go原則の観点から、損益通算範囲および損失繰越期間を拡大するのであれば、軽減税率は本則に戻すべき。これは、他の金融商品に対する税率と揃えるという観点からも望ましい。また、高齢者に偏重している金融資産を若い世代に移転していくことを考えれば、高齢者が多く保有する株式の譲渡益や配当について、本則税率(20%)とすることは致し方ないのではないか。

○金融所得課税のやり方が変わると、非常に大きなシステム投資が必要になるため、工程表をあらかじめ示しておく必要。特に、軽減税率について、閣議決定された税制改正大綱では既に廃止とされているにもかかわらず、年末になれば変わるのではないかとの前提で議論されているのはおかしい。

○所得が約2,500万円から3,000万円ぐらいまでは、所得税の負担割合が上がっていくものの、それより高い所得では所得税の負担割合が下がっていく形になっているが、その原因の一つが金融所得関連の分離課税。このような点から考えても、10%の税率というのは望ましくないのではないか。

<配当の二重課税調整等>

○配当の二重課税の調整方法については、法人税率の引下げによる調整が理想的だが、完全な調整は法人税率を0%にしない限り困難。また、支払利子の損金算入を制限する方法も有効だが、経済界の反対が予想され実現困難。よって、配当の課税標準を2分の1とする調整方法をとるべき。この方法であれば、調整している事実が分かりやすく、計算も容易で、特定口座でも対応可能。さらに、別途財源を手当てする必要がなく、また現行制度からも移管しやすいというメリットがある。

○株式と負債の税制上の取扱いの違いの是正のためには、法人段階での支払利子の損金算入制限によるのがベスト。

<総合課税と分離課税>

○利子、配当、キャピタル・ゲイン等の金融所得は、稼得の場所を問わない足の速い所得であり、勤労所得や不動産所得等、地に足がついた所得を中心に構成されている総合課税とは異質のもの。仮に金融所得を総合課税化した場合、金融所得の課税範囲がどこまでになるか不明であるものの、原則、確定申告が必要となる結果、投資を忌避して手控えてしまうという懸念もある。このため、金融所得については、金融所得一体化の中の分離課税という考え方を推し進めるべき。

○合算して税率をかけるという部分を捉えて、総合課税が金融所得一体課税の延長にあると考えられているとすれば、それは全く違う話。総合課税となると、金融所得を10種類の所得に分類しなければならないが、金融所得について分類するのは非常に困難。また、雑所得に分類される金融商品については、その損失を他の所得と通算できないため、損益通算が制限される。利益は累進で課税される一方、損失の控除は制限されることになり、利益と損失の税負担のバランスがとれない。加えて、ほかの所得と合算するため、申告納税が必要になり、納税事務負担という問題が発生することになる。そもそも、主要国の中で純粋な総合課税を導入している国はないと認識。

○現在の財政学での租税理論では、そもそも資本所得課税と労働所得課税とを同じ税率で課税することは正当化できないと考えられ、金融所得については分離課税とすることが当然。ただし、執行面において、資本所得と労働所得とを明確に分けられるかが問題になってくる場面があるだろう。

○金融所得あるいは資本所得は、勤労所得とは分離して低い税率で一律課税していくという二元的所得税が世界の大勢。わが国も二元的所得税の下、分離課税を当面の目標と位置づけつつ、損益通算の範囲や期間を拡大していくことにより、より効率的な金融資産の活用を支援すべき。

○グローバル経済の中で日本経済が生き残っていくために、効率的で中立的かつ公平な税制を構築すべきとの観点から、資本所得と労働所得とを分離しながら、二元的所得税のような方向性を目指していくことに賛成。そして、金融所得の方から本則税率に戻しながら、長期的に法人税を下げ、法人税率と金融所得の税率を合わせていくことを目指すべきではないか。ただし、すぐには実現できないため、前段階として金融所得の一体課税を進めるべき。

○シャウプ勧告は、当時一つの大きな柱であったが、金科玉条のものではなく、それぞれの時代の変遷に応じてそれなりの調整をしていくべきもの。

○シャウプ勧告のそれぞれの税についての提言等は今でも参考になるものの、包括的な総合所得課税がよいとの考え方は、大分変わってきているところ。

○シャウプ税制の背後にある総合課税の考え方に共感。ただ、課税技術上、総合課税は難しいという側面があり、経済のグローバル化により、資本所得が国境を越えて移動する中、労働所得と同じように課税していくのは現実として難しい。

○シャウプ勧告は、ロスの控除を制限していなかったと記憶しているが、総合課税の世界でもロスの全額控除は実現しておらず、そもそもシャウプ勧告の考え方は実現していないのではないか。また、総合課税には執行面の問題があり、分離課税的な課税方法に移行しているのではないか。

<金融所得一体課税>

○店頭デリバティブ取引については、証拠金倍率の規制も導入され、個人投資家保護のための施策も進んでいることから、取引所取引と同様に扱い、幅広く金融所得一体課税の対象としてほしい。

○損益通算については、範囲と期間の両方の拡大を図っていくことが大切。成長分野にリスクマネーを流すという視点で考えると、上場株式以外も損益通算の範囲に含めるべき。

○金融所得一体課税については、全体像や工程表を示した上で進めた方が、実務面でも進めやすくなる。

○創業支援の観点から、上場株式ばかりでなく、非上場株式の譲渡損等についても、金融所得一体課税の範囲から除外しないで考えていくべき。非上場株式の取引については、価格を任意に決定でき、譲渡損が恣意的に出せるため金融所得から除外すべきとの意見があるが、不適正な価格による取引には贈与税等が課税されており、その批判は当たらない。ただし、非上場株式の配当について分離課税にすると、租税回避が容易になるため引き続き取り扱いの検討が必要。また、現行、大口株主として5%以上保有している者については軽減税率の適用から除外されることとなっているが、5%という割合を上げて、大口株主要件を緩和してもよいのではないか。

○現行の金融所得に関する所得分類は完全にがたが来ているので、抜本的改正が必要だ。ドイツの税制のように「金融所得」という概念をつくり、その中では損益通算を可能とすべき。また、デフォルト損失等の金融所得に対応する経費損失を、「金融所得」の概念の中に入れていくべき。

○デリバティブの発展により、様々なものが有価証券に転化できる(逆もまた真である)状況を考えれば、現行の所得税法本法は、金融取引の進化に容易に対応していける仕組みではなくなっている。このような状況の下、租税特別措置として金融所得一体課税を進めることは、方向感としては賛成だが、金融所得の範囲等細かいルールがどのように整備されるかに懸かっている。

○利子や配当のような発生時課税の所得と、キャピタル・ゲインやキャピタル・ロスのような実現時課税の所得の間には、同じように課税してもゆがみが生じる。また、それを利用した租税回避戦略もよく知られているところ。したがって、損益通算の範囲を検討する際には、対象所得もしくは額を制限する等の方法を検討すべき。

○キャピタル・ゲインについては、課税繰延べの問題が指摘されているが、いつでも売却できるということは、流動性が高いということであり、それが価格に織り込まれ、売却時に結果的にキャピタル・ゲインとして課税されると考えれば、ある程度、問題も緩和されていると言えるのではないか。

○損益通算の範囲を拡大する場合には租税回避に配慮しつつ進めなければならない一方、損失繰越期間の拡大については、租税回避等の問題はないため、損失繰越期間の拡大に力点を置くべきではないか。なお、(書類の保存期間などの)執行可能性の問題は検討しなければならない。

○公社債の利子及び譲渡所得を申告分離課税とすることについては、コンプライアンス・コストがかなり高くなる可能性が高い。したがって、源泉分離の原則等を維持しつつ、問題が生じているデフォルト債券等について例外的な扱いをする方が現実的。

○軽減税率について、金融所得の一体課税とセットでなければ本則税率へ戻すことは困難との話があるが、システム投資等も含めて考えると、金融所得の一体課税を23年末から実施するのは困難であろう。そこで、利子と配当・譲渡益に限って一体課税を実施し、一方で本則税率に戻していくことで、全体的に中立的かつ公平な税制を目指すことが必要なのではないか。

○損益通算を行うことにより、リスクの高い商品の損失をリスクの低い商品の利益でカバーしてリスクを吸収するという側面があるため、金融所得一体課税の範囲は制限すべきではない。

○金融所得の範囲については、金融商品取引法の有価証券とデリバティブの定義や金融商品販売法などをベースに考えてもよいのではないか。ただし、流動性のないファンドをどのように扱うかについては、問題になると考えられる。

<その他>

○非居住者の債券の利子の非課税措置については、非課税の対象となる投資家の範囲にパートナーシップを含める等、整備すべき。

○金融取引を媒介するための様々な仕組みが発達してきている状況を考えれば、信託やパートナーシップ等のビークルについて、どのような課税上の取扱いをするのかを検討し、明確化すべき。

○特定目的会社の支払配当の損金算入の要件について、税制上の機関投資家の範囲と金融商品取引法上の適格機関投資家の範囲とを一致させる必要があるのではないか。

○今後の日本の成長のためには、不動産の有効活用が必要であり、米国で主流となっているアップリートを導入すべき。

○新成長戦略において促進すべき分野として掲げられている環境エネルギーや健康分野等について、エンジェル税制で支援するためにも、当該税制の範囲を拡大すべき。

○現行の事業承継税制は非常に複雑であり、使いづらい。日本の企業を後押しするという面では事業承継税制の簡素化を行うべきではないか。また、親族間に限らず、第三者間で事業承継税制を利用できるようにすべきではないか。

○行き過ぎた事業承継税制はやめたほうがよい。

○証券の軽減税率の効果は必ずしも確認されていない。むしろ重要なのは、投資教育。特に、分散投資の必要性について教育を実施していくこと。また、確定拠出年金等におけるデフォルト設定が重要。

○公的年金や企業年金の現状にかんがみると、自助努力で老後の準備を行う個人を税制で奨励していく必要性が高まっている。そこで、貯蓄し運用しながら老後の生活に備えていくことを支援する制度として、日本版IRAが必要。その際、課税後の所得を積み立てて、運用時・給付時を非課税にする簡素な税制(TEE)が望ましい。

○アメリカにおいて、個人の株の保有比率が増えているのは、株の直接投資が増えたというより、むしろ投資信託、確定拠出年金、あるいはIRAを通じての保有が増えているから。日本においても、そこに着目するのがよいのではないか。

○少額投資を行う若い世代の支援のため、日本版ISAを整備すべき。

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総務企画局政策課総合政策室(内線3182、3716)

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