第2回金融税制研究会議事概要

1.日時:

平成22年6月11日(金曜日)9時30分~11時34分

2.場所:

中央合同庁舎第7号館13階 金融庁共用第一特別会議室

○神崎政策課長

おはようございます。それでは、皆様お集まりのようでございますので、第2回金融税制研究会を開催させて頂きます。

本日は皆様、朝早くからご多忙のところご参加頂きまして、どうもありがとうございます。金融庁も昨晩からいろいろございまして、やや落ち着かない中での開催となりましたけれども。

それでは、まず、座長である田村大臣政務官からごあいさつを申し上げます。

○田村大臣政務官

おはようございます。本日もお忙しいところお集まり頂きまして、ありがとうございます。

第1回が先週の月曜日でありまして、第1回から第2回の間は激動の2週間でございました。また、昨日の夜中には大変驚きまして、自見大臣になるという報道はありますけれども、大臣がかわるという状況にはありますが、この金融税制研究会の趣旨はそもそも論点整理をして、それを副大臣が座長をする金融税制調査会にそれを上げて、そこでまた議論を詰めていくという研究会でありますので、大臣がかわってもその点は影響は受けないというふうには考えているところであります。

第1回で申し上げましたように、非常に限られた期間で大変頻繁に開催するという、皆様にご負担は重いものでございますが、その点はご容赦頂きながら、あらゆる、できる限りの議論を出し尽くして頂いて、政府としてもしっかりと幅広い議論をしているということを対外的に示しながらまとめていきたいなと。まとめていく入口にしていきたいと思っていますので、今日もよろしくお願いいたします。

あと1つ、私ども、今日の資料を見ていて思い出したんですけれども、この名前が森信大先生のつくっていらした研究会と同じ名前なんですよね、金融税制研究会。この名前自体はそもそも仮の案で私が自分でペーパーを書いて、私が座長の会をつくろうと。金融税制調査会という名前は副大臣の発案で、金融税調っていいねというので決まっておりまして、その下の私の会は、とりあえず仮称で置いて、そのまま深く考えずにこの名前にしてしまいましたので、決して森信先生の会の名前を奪おうとか、そういう意図は全くありませんで、申しわけないなと思っていることを申し添えさせて頂きます。今日もよろしくお願いいたします。

○神崎政策課長

まず、議論に入らせて頂く前に、今回初めてご出席頂きますメンバーの方、3名の方がいらっしゃいますので、簡単に一言ずつごあいさつを頂ければと存じます。

それでは、土居委員からお願いいたします。

○土居委員

慶応義塾大学の土居でございます。財政学、公共経済学を専門にしております。

たまたまここにおられる森信先生にも加わって頂いたんですが、先週、日本経済新聞出版社から「日本の税をどう見直すか」という本を出させて頂いておりまして、この議論にもお役に立てればというふうに思っております。よろしくお願い申し上げます。

○神崎政策課長

続きまして、諸富委員、お願いいたします。

○諸富委員

京都大学の諸富と申します。私は財政学、環境経済学を専門としておりまして、環境税の研究から出発をしたわけですけれども、その後、所得税制、その他全般、税制に関心を持っております。どうぞよろしくお願いいたします。

○神崎政策課長

続きまして、吉本委員、お願いいたします。

○吉本委員

吉本佳生です。前は大学に勤めていたんですけれども、今はフリーで著述家という肩書なんですけれども、金融商品に関していろんなパンフレットを集めたりして研究するということをしていて、その関係でお呼び頂いたんだと思いますけれども、どうぞよろしくお願いいたします。

○神崎政策課長

どうもありがとうございました。

それでは、議事に入らせて頂きます。

お手元に議事次第を配付しておりますが、本日は、初めに第1回会合でメンバーの皆様からご質問を頂いた点について事務局から説明をさせて頂きます。その後で、森信委員、大崎委員の順にそれぞれ約20分程度ご説明を頂きまして、その後、自由討議の時間をとらせて頂きたいと考えております。

では、初めに事務局からの説明をさせて頂きます。

○田村大臣政務官

すみません、その前に1つご相談がございまして、議事録、議事要旨というか―を今後どう公表するかどうかという件なんですけれども、例えば議事録というのは役所での言葉ですけれども、議事録というのは一言一句起こしてそのままというのを議事録といって、若干でも手を加えたものを議事概要といいます。一般的に議事概要というと、かなり箇条書きでまとめたものを議事概要ということが多いんですが、例えば私がかかわっておりました行政刷新会議の規制・制度改革分科会におきましては、議事概要となっているんですけれども、それはほとんど議事録から、要は対外的にあまり表に出すのはどうかという発言だけをまさにその発言者の方自身が削除して頂いて、あとはそのまま公表するという形にしておりました。恐らくそういう形がいいんじゃないかなと。要はほぼテープ起こしに近いような議事録を、それぞれ発言の方がこの部分だけ削ってくれということがもしあったら、それを削って頂いて、それを公表すると。あまり削って頂く部分はそんなにないと思いますけれども、もしあった場合にはという形で公表するのがいいのではないかと思うんですけれども、それについて、もしご異論ありましたら、この場で言いにくいようでしたら、また後で言って頂いても結構でありますので、何か、いや、それよりむしろというご意見がもしあればお伺いいたしますが。多分それで問題ないと思います。もしご異論が、違うご意見がありましたら、後でおっしゃって頂ければと思います。よろしくお願いします。

○神崎政策課長

よろしいでしょうか。

それでは、事務局からの説明をさせて頂きます。

○河内金融税制室長

資料1をご覧頂ければと思います。前回の会合で何人かの先生方からご指摘を頂いた点、そのうち、今回こちらからお示しできる部分について資料をご用意いたしました。

まず、軽減税率の政策的な効果というものはどういった形で検証できるのかというご指摘を前回頂きましたが、1ページ目から7、8ページ目ぐらいまで、金融庁の政策評価という観点からの公表資料を幾つかおつけしております。

1ページ目をご覧頂ければわかりますように、株価あるいは株の取引、そういったものを軽減税率の政策一つというよりは、株価はそのときのよりファンダメンタルなマーケットの動きにかなり左右されるところが大きいものですから、そのうち、軽減税率を取り入れたというその一事をもってして生じた効果というのを切り出して考えるというのはなかなか難しいところがあるというところを前提としてご理解頂いた上で、できる限りのものをご用意してみました。

2ページ目、3ページ目は、投資主体別の売買比率の推移、あるいは株式保有比率の推移、それぞれどういう主体が持っているかというのを示しておりますが、軽減税率が導入されたことによっての外国人保有、あるいは個人保有、そういったものの変化であると読み取るべきなのか、あるいはそれ以外のいろいろなファンダメンタルなものが効いているというふうに読み取るべきなのかというところはなかなか判断が難しいところであろうかとは思います。

4ページ目以降につきましては、まず、個人株主数の推移、株主数の延べ人数ですけれども、こういったものは、ご覧頂きますと、軽減税率導入以前からではありますが、増加基調で進んでいる。その増加基調の傾きが軽減税率導入によって影響を受けているのかいないのかというご判断だと思います。

5ページ目には特定口座数の推移。主要16社における特定口座数ということでこういう数になっておりますが、軽減税率導入後、一貫しての増加基調であるというところはご覧頂けるかと思います。

6ページ目には一日平均売買金額というのをお示ししておりまして、軽減税率導入後の増加基調、あるいはその後のリーマンショック以降の動きを受けてドラスティックに落ちているというような形になっていまして、これもまたファンダメンタルな効果でどの部分が軽減税率による効果なのかというのはよく吟味する必要があろうかと思っております。

7ページ目にも、東証第一部一日平均売買高ということで、軽減税率導入前あるいはその後の売買高の推移というのをお示ししているところでございます。

8ページ目をご覧頂きますと、主に所得階層別というか属性別に、軽減税率の効果が一体どの世帯が主に影響を受けている、恩恵を被っているのかというのを家計調査に基づき金融庁で分析したものでありますけれども、ここからご覧頂けますのは、むしろ軽減税率導入後に株式あるいは株式投資信託、こういったものの増加が著しいのは、富裕層というよりは中間所得層であるというようなことがご理解頂けるのではないかと思います。

9ページ目以降は、また別のご指摘を頂きました、今や、預金といった金融資産、金融商品がどのような属性の人々によって保有されているのかというご指摘がございましたので、それを幾つかの切り口で示しているところでございます。

9ページ目は年齢階層別でありまして、このパーセントは金額的なボリュームであります。例えば全体の家計金融資産1,500兆円のうち、70歳以上の方がそのうちの3割弱を保有している、そういった見方でご覧頂ければと。これで見ると高齢者の方々が、年齢階層で見ればストックベースではより多くお持ちであるという形は示されるかと思います。

10ページ目は、年齢階層ではなくて貯蓄高に基づくものでありまして、特に株ですが、半分以上の株は貯蓄資産4,000万円以上をお持ちの方という、どちらかというと富裕層かと思いますが、といったところに株は持たれる傾向があると。預金についても4割近くは富裕層、それ以外の所得階層は大体このような分布で持っているという形でございます。

11ページ目以降は、今度はフローベースに着目いたしまして、年収ベースでどういった年収の方が全体の金融資産、あるいは株、預金というものを持っているかというような形で示したものが11ページ、12ページ目であります。

11ページ目を見ますと、かなりフローベースでの低所得の方々もそれなりに株や預金を一定の割合でお持ちであるというようなデータになるのですが、ここはご想像にかたくないとおり、もう勤労所得としてのフローがたくさん入ってくるわけではない高齢者の方々が左側にかなり寄っていらっしゃるということですので、その部分を取り除いた12ページ目、勤労者世帯という、いわゆる現役世代でご覧頂くと、やはり年収ベースと株預金といったもののウエートには相関があるのかなというようなデータになっているところでございます。

前回、それ以外にもご指摘を頂いたところはあるのですが、そこにつきましては今引き続き精査中でありまして、次回以降、またお示しできるものをご説明できればと思います。

以上であります。

○神崎政策課長

今の説明について、ご議論の時間はまた後でまとめてとりたいと思っておりますけれども、内容の事実関係などについて、もしご質問があれば今お聞きしたいと思いますけれども、よろしいでしょうか。

それでは、続きまして、森信委員からご説明を賜りたいと思います。よろしくお願いいたします。

○森信委員

森信です。今日の研究会の報告をさせて頂きたいと思います。

最初に、資料の説明ですけれども、パワーポイントを打ち出したものについて説明をしたいと思います。それ以外に3つの資料があります。これは、金融税制研究会という名前で3年間、ここにおられる大崎さんとか吉井さんも加わられて、銀行、証券、経済界の方々もまじえて個人的な視角でいろいろ研究をしてまいりました。その成果をまとめたものですが、それも踏まえて、今日は私のほうからプレゼンテーションをしたいと思います。

それでは、資料の2-1というのを開いてください。

私はこの金融税制を考えていくに当たっては、前回も申し上げたんですが、租税政策に占める金融所得一体課税というものの意義を改めて考え直す必要があるのではないかと。そこから出発すべきではないかということを申し上げたいと思います。

1枚目は、かつて旧政府税制調査会にIMFのスタッフが来ましてプレゼンテーションをしたものをそのまま載せております。彼らは、現在租税政策を考えていく上で、所得税のモデルは4つあるということです。

これまで1番目の包括的所得税が一番メイン、中心を占めておったんですが、これに対しては近年いろんな問題点が出ている。ここに書いてありますが、1つは、未実現のキャピタルゲインというものになかなか課税ができないので、結果として課税繰り延べが生じるという大きな問題点。それから、より根本的な問題として、資本所得に対して労働所得の最高税率で課税することになるということで、これがいろんな海外への資金逃避とか、あるいは租税回避をもたらすということです。

次のページですが、報告書の続きで、途中はしょっていますが、3番目に二元的所得税をあげておりまして、この税制をポジティブに評価しております。この二元的所得税というのは、ご存知だと思いますが、3ページに概念図をつけてございます。簡単に言えば、資本所得と勤労所得を分離して課税すると。資本所得は勤労所得の最低税率を適用し、一定率にすると。それから、願わくは法人税率も資本所得の税率に合わせて、資本というものに対しては同じ税率を課していくということでございます。

これに対して、二重課税の調整をどうするかというのは、国ごとにばらばらですが、基本的には資本にかかる税率が低税率になるので、二重課税のバイアスは小さくなるということです。

2ページ目に戻って頂きますと、この二元的所得税は資本所得にどう課税するかという難しい問題はあるのですが、二元的所得税が資本所得に対する累進的な課税よりも公平(及び税収)を達成する可能性があるということ、一見、資本所得に低い税率を課しますから公平の観点から問題があるのではないかということですが、租税回避とか海外への逃避をもたらさないことから、結果として公平につながってくるということを述べております。その上で、日本の税制は二元的所得税の特徴を持っているということも指摘しています。

それから、OECDの報告書でも「世界の大勢は二元的所得税に向かいつつあり、日本の税制はセミ・二元的所得税だ」というふうに分類をしております。

そういった中でこの問題は考えていく必要があるというのが私の最初の問題意識です。

4ページ目ですが、2001年にOECDで各国の税制担当者が集まりまして、二元的所得税をどう評価するかということを議論したときの報告書の抜粋です。10年ぐらい前ですが、読みますと、「二元的所得税というのは税制の全体的なゆがみを減少させるということで、純粋な包括的所得税と消費支出課税との間の現実的な中間的な方策として機能してきた」と非常に高く評価をしております。現実、後で申しますように、世界の主要国の税制改正はそういう方向に行っているということです。

それから、5ページ目に、では、なぜ包括的所得税がそういうふうに批判を浴びるようになったのか。最大の要因は、経済が多様化、複雑化、あるいはグローバル化する一方で、政治的配慮などからさまざまな控除が導入され課税ベースが小さくなり、所得税本来の所得再分配機能がうまく働かなくなったということです。年金は非課税、住宅投資も控除で軽減するとか、特例が増えて、税制が複雑になり、その結果、かえって公平性が阻害されてきたということが最大の問題点だと思います。それから足の速い所得(海外に逃避しやすい所得)への課税が十分じゃないとかという問題がグローバル化等々の中で顕在化してきたという点です。

それからもう1つ、二重課税の問題がありまして、支払利子は所得控除されて、配当のほうは課税後ということで、直接金融と間接金融の中立性の問題が大きくクローズアップされてきた。これは現在まで続いておりますが。その背景には、1つやっぱりインピュテーションという二重調整の問題が複雑過ぎて、あるいはEU裁判所でこの税制が内外無差別ではないということで否定されたりして、各国とも廃止してしまったということも一つの原因として考えられます。かわりの税制として、いろんな消費課税の分野において一つの、先ほど言いました二元的所得税というようなものが現実に出てきたこともそのような傾向を強めました。

6ページは、現実の世界の税制です。北欧で90年代の初めに二元的所得税が導入され、オランダがボックス・タックスという形でほぼそれに近いものをつくって、ドイツの税制改革は、利子・配当・キャピタルゲインは25%の分離課税という二元的所得税を導入しました。ドイツの税制改革で1つ重要な点は、「資本所得」という概念を税法に新しくつくったことです。さらに、「貯蓄者概算控除」という形で資本所得を得るための経費に相当するものを控除する、そういうふうな税制改革が行われておりまして、私はこれを、後で申し上げますが、日本にもこの考え方を導入すべきじゃないかというふうに思っております。

それから、ブッシュの税制改革案の第2案というのがまさに二元的所得税。法人税率はちょっと高いですが、基本的には二元的所得税です。これは実現されていません。

それからオーストリアやスイス、そういうところも二元的所得税の思想に基づいた税制になっておって、今や包括的所得税にとって代わる税制として機能しております。こういう流れを踏まえて金融所得一体課税を議論する必要があるのではないかというふうに思います。

8ページで、では、どうやって具体的に議論していくのかということで、私なりの考え方をつけておりますが、二元的所得税という言葉を我が国で始めて言ったのは97年の政府税制調査会の金融税制小委員会です。このときは本間先生が委員長でしたが、この二元的所得税をめぐってこの小委員会の中でいろいろ議論をしました。議論の結論だけ申しますと、日本で正式に位置づけるのはすこし早いのかなということで、言葉だけ出して、これからの議論にしようということでした。その後、04年まで、あまりこの議論は進まなかったのです。しかし、このころから株式相場がどんどん悪くなってきたこともあって、何か株式優遇税制を考える必要があるのではないか、となりまして、金融所得一体課税について前向きに考えていくべきではないかということで、金融小委員会で議論が始まり、報告書がまとめられました。

今、譲渡損失と配当との損益通算が可能になるところまできたわけですが非常にテンポが遅いですよね。なぜテンポが遅いのかというのが、その後つけてありますが、これは私の感想です。

1つは、証券優遇税制を導入し継続したために譲渡益・配当が10%、利子所得が20%と税率が異なってしまった。これがあると一体化は難しい。税率が違うものをどうやって損益通算するんだという問題があるわけです。

それから、金融所得を分離して軽減することは、金持ち優遇ではないかという批判が強くあります。繰り返しになりますが、これを世界の税制改革の潮流に沿った本格的な税制として位置づけていく必要がある。そのためには優遇税率をやめて本則税率に戻す必要があると思います。23年末に証券優遇税率が廃止と平成22年度税制改正大綱に書いてあるわけですが、そうであるならば金融所得一体化を勝ち取るということ、特に利子所得等との一体化をセットするということが必要ではないかと思います。

それから、激変緩和として日本版ISAというのが、これは前回説明がありましたが、入っているわけです。しかし私は、それよりも日本版IRAといって、個人の年金貯蓄を優遇するような税制を、金融所得一体課税とあわせ導入することが必要ではないかと思います。これについては、後でまた資料をつけております。こういうパッケージで議論を進めていけばいいのではないかというふうに思っております。

9ページですが、証券業界の方は優遇税率を志向される傾向が強いわけですが、有名なドーマー・マスグレイブの教科書には、税率よりも損益を完全に通算することがリスクテイクを高める、ということが書いてあります。簡単に説明しますと、全く税率がない世界で100の元本を投資してうまくいけば200になる、つまり2倍になる、損すればゼロになる。この確率が50、50のような投資があったとします。これに、譲渡益に対して50%の税率を課す、その代わり損益通算は完全に行う、こういう場合には税引き後どうなるかというと、100儲けた場合、半分が税金だということになると、税引き後は150になるわけです。

今度、損をした場合はゼロになるのですが、これを他の所得と通算すると50還付があるということですから、損した場合でも税引後は150になる。そうすると、平均値は一緒ですよね。200とゼロの平均値は100で、150と50の平均値も100なんですが、分散が小さくなります。

そうすると、投機的な行為が抑えられるので、リスクをとれるようになる。要するに税率の多寡よりも100%の譲渡損失を控除する方がリスクテイク能力が高まると。このことは、シャウプも言っております。しかし現実はそうしても目先の税率のほうに目が行くということです。

それで、10ページは、ではどんな課題があるかということですが、これは進め方でもあるんですが、国民が資産形成のために利用する金融商品を個別に法律で、租税法律主義ですから、法律でこの商品から生じるこの所得が金融所得ですと法定していく必要があると思います。そのためには、優遇税率の廃止に合わせて、利子所得等の一体化の工程表を定めて、例えば債券利子はいつまで、預金利子はいつまでというふうな形で、市場関係者にも見えるようにする必要があると思います。

それからもう1つ、金融所得一体課税を進めていく上においては、何といっても世界に誇る課税インフラであります特定口座を活用することです。キャピタルゲインが源泉徴収できるというのは日本だけです。先進国で日本だけ、特定口座というすぐれたインフラを持っているので、これを活用し一体課税を進めていくと。そうしますと今後、利子所得が入ってきますと、利子所得というのは銀行口座に生じますから、一方で証券の口座に譲渡損失があるといった場合、その特定口座同士をうまくつなぐようなスキーム、システムが要るのではないかと思います。税務署にいって損益通算をすればいいんですが、そうすると特定口座のメリットが損なわれるわけですから、そのメリットを損なわずに損益通算するためには、システムの中で特定口座の所得を損益通算できるような金融所得確認システムというふうなものが要るのではないかというふうに思います。

13ページを見て頂きたいんですが、これは金融所得確認システムということで、要するに金融機関AとBがあるときに、金融所得確認システムという右側の税務署の管理するシステムの中で、預金者を一に特定する番号を使いながら、自動的に名寄せ機能を使って損益通算をする。そうしますと、特定口座のもとで損益通算ができるということです。この一に特定する番号をどうするかというのは、今、番号制度の話が進んでおりますから、それとも非常に関係してくると思いますが、金融所得の場合には、通算したい人だけが選択的に導入するようにすれば十分です。

それから、10ページに戻って頂きたいんですが、3番目、先ほどドイツのところで申しましたが、「金融所得」という概念を設立していくことです。今、所得税は10分類ですから、その10分類を全部ばらばらにして2つにするというのは所得税法の抜本的な改革になるので難しいと思います。そこで、例えば租税特別措置に金融所得という概念をつくって、先ほど(1)で言いましたように、これこれの金融商品を個別に金融所得ですというふうに法定して、金融所得という箱に入れていくと。そういうふうにして、その中では損益通算ができるというふうになっていくというアプローチが望ましいのではないか。

そのときに、先ほどこれもドイツで言いましたが、「金融所得」を得るために必要な「経費」の概念、例えば前回でもちょっと問題になりましたが、リーマン債を個人が買って倒産したと。これは今は消費行為ということで何も税務署から面倒を見てもらえないわけですが、これはおかしい話で、投資して金融所得を得るための必要な経費としてそういった損失を経費の中に入れていくと。あるいは投資信託の解約手数料みたいなものも、これは投資信託からの所得を得るために必要な経費ですから、こういう経費概念に入れていくという形で、法律を構成していくということがわかりやすいのではないかと思います。

ただ、問題は、過大な借り入れをして、それを経費にしていくという、これはよくスウェーデンでも起きた話ですが、そういう租税回避行為がありますから、そこはきちんと閉じるということが重要ではないかと思います。

そもそもこの二元的所得税の1つの大きなメリットは、勤労所得と金融所得の間の損益通算は基本的にはしない、ということです。そうすると、大半の租税回避は大体、勤労所得のプラスと金融所得の人為的な損失を相殺するわけですから、そこがそもそもなくなるということなので、二元的所得税の考え方をとっていけば、大きな租税回避はなくなるわけです。

それから、最後ですが、金融資産1,500兆円をどうやって活用するかということも考える必要がある。アメリカとかイギリスとか諸外国では老後の資金を自助努力で形成するための優遇税制があります。拠出時は課税、つまり課税された後の所得から放り込んで、引き出し時は非課税という個人型年金貯蓄非課税制度を「日本版IRA」という名称を付けていますが、提言したいと思います。

一番最後のページに概要をつけてありますが、1階、2階公的年金、3階企業年金を補完するものとして、個人で老後の資金を積み立てていく、それを支援する。

それはあくまで将来の年金といいますか、老後の資産なので、引き出し制限を設けて、60歳になるまで引き出しできないとか、そういった要件をつけながら、その間の運用益、それから引き出し時は非課税にすると。これはアメリカにロスIRAというのがあり、それをとって日本版IRAというふうに名前をつけたわけです。こういったものをつくって、この中では個人が金融所得一体課税で投資できるということで、リスクマネーに流れていく可能性もありますし、1,500兆円の活性化が図れるのではないかというふうに考えております。そういう全体のパッケージとして金融税制を考えていく必要があるのではないかなというのが私の意見です。

ちょうど時間だと思いますので、以上でとりあえず終わります。

○神崎政策課長

どうもありがとうございました。

それでは、続きまして、大崎委員からご説明を頂きたいと思います。よろしくお願いします。

○大崎委員

大崎でございます。発言の機会を与えて頂きまして、どうもありがとうございます。

先ほど森信先生からご紹介がありました金融税制研究会に私も発足当初から参加しておりますものですから、別に何か示し合わしているとかそういうことでは全くないんですけれども、ある程度発言内容に重なる部分が出てくるかもしれませんが、その点はご容赦頂ければと存じます。

私のほうは、森信先生のようなちゃんとした理論的な資料ではなくて大変申しわけない、非常に簡単な筋書きのようなものを出しておりますが、これに沿ってご説明していきたいと存じます。

まず1枚めくって頂きまして、この金融所得に対してどのような税金をかけるかということに関する基本的な考え方をまずは申し上げたいと存じます。

私も、先ほど森信先生がおっしゃったこととこれは完全に重なるんでございますが、包括的所得税論にのっとった完全な総合課税という考え方は、今日の金融資産への課税方法としては必ずしも適切ではないという考え方をとっております。その理由も先ほどご説明があったものとかなりかぶるんですけれども、1つ私が重視しておりますのは、やはり足の速い所得である金融所得が海外へ逃避する可能性、これは無視できないと思っております。例えばスウェーデンが二元的所得税を導入する大きな動機となったのは、スウェーデンの金融取引がロンドンに相当程度、実際に流出したという苦い経験であります。

また、こういう海外逃避ということになりますと、やはり金持ちほどやりやすいんです。ですから、金持ちを優遇しないための総合課税と思ったのに、結果的に金持ちのほうがうまいことやってしまうと、こういう現実になるということは注意が必要であります。

もちろんスウェーデンが税制を変えた当時に比べますと、マネロン規制も、テロや麻薬の問題などで随分厳しくなっておりますので、状況が違うんだという考え方もございますが、他方で、クレジットカードや電子マネーの普及等々、より資産をわかりにくくするいろんな手段もふえておりますので、この点は決して無視できないと思っております。

あるいは海外に逃避しなくても、タンス預金という形で消えてしまうという、見えなくなってしまうということもございます。これは別に脱税でも何でもないんですが、しかし国内の金融資産が有効に活用されない、つまり単に消費されるだけで、金融機関や投資に回らないということですから、効率が悪くなるということでございます。

また、金融所得というのはもともと労働所得が蓄積してでき上がったものでありますから、極端なことを言えば、最初から金融所得に課税するのは二重課税ではないかという議論すらできます。私はもちろん、だから金融所得は非課税にしろなどということを政策として主張する気は全くございませんが、その点は、金融所得に重課税するということが労働所得への重課税以上に若干問題があるということはご認識頂ければと思います。

また、これは実は森信先生に教わったことの完全な受け売りなんですけれども、労働所得というのは個人の能力や努力によって差がつくために再分配をしなければいけない必要性が高くなるわけでございますが、金融所得というのはある意味人任せで結果が出るものでありますので、個人差というのはそれほど出ないということを考えますと、累進税率を課す必要性というのはむしろ低いのではないかということでございます。

それから、シャウプ勧告以降、日本では包括的所得税論、総合課税というのが本来の姿だという信念がかなり共有されているところがあるんですけれども、では実際に歴史を振り返って金融資産から生じる所得に総合課税が完全に行われたことがあったかと。これは現実的に徴税等々考えたときに、難しいということで一度も実現していないんです。このことを忘れて、単に理想だと言っていていいのかということはあろうかと思います。

では、どうするかということですが、これも繰り返しになってしまいますが、幅広い金融商品を対象とする金融所得の一体課税ということであろうと思っております。ここで非常に重要なことは、幅広いということでございまして、現在ですと金融所得課税一体化という名のもとに、キャピタルゲイン・ロスと配当の通算というところまでしかできていないわけですが、損益通算範囲を拡大すると。とりわけデリバティブですとか不動産関連商品など、いろいろなものを視野に入れていく必要があろうと思います。

前回も申し上げましたが、同じ経済的機能を果たす金融商品に同じ課税をするということが大事だと思っております。例えば現在も雑所得扱いになることに着目した、言い方に気をつけなければいけませんが租税回避的ともいうべき商品が現実に提供されており、これらは最低投資単位の大きいものが多くて、したがって金持ち向けになっているという現実があると。これも忘れてはいけないと思っております。

それから、先ほど森信先生から相場対策ではない金融所得一体課税というお話がありました。これは私、全く賛成でございまして、さらに言えば、金融投資に低税率を課すと株が上がるかというのを理論的に考えてみますと、これはおかしな話でございまして、税金を下げるということは取引コストが下がるということですから、理論的にはそれは流動性を高める効果はあるであろうと。したがって、今の株価が流動性の欠如によってディスカウントされている、つまり流動性が欠けていることによってディスカウントされているということがあれば、その分だけ株価は上がるという結論になるんですけれども、日本の場合、そこまで流動性が阻害されてはいないと考えられますので、税金を下げたら株価が上がるというのは、そもそも成り立たないだろうかと思います。

2ページでございます。私は、新しい税制として、やはり簡素でわかりやすい課税というのが重要だと思っております。そこで1つ強調しておきたいのは、投資の手法に、何がいい投資で何が悪い投資というのは、違法というのは問題外ですけれども、合法的な投資にいい投資と悪い投資というのがア・プリオリに存在するという考え方はよくないということを申し上げておきたいと思います。

例えば短期売買、批判も多いですけれども、これは市場の流動性向上、ひいては効率的な価格形成に寄与しているわけであります。あるいは配当のほうが何となくキャピタルゲインよりもいい投資の仕方ではないかという方がおられるんですけれども、これも配当を過度に優遇すれば配当取りということで、基準日の直前に買って直後に売るというような、より短期的、投機的な売買を助長するだけでございます。

また、デリバティブ、確かに個人があまりやると博打っぽいという、何となくそういう感じは私も同感するんですけれども、これは経済的に言えばリスクヘッジ機能を提供しているわけです。ただ、それを言うと、ではリスクヘッジ目的じゃないデリバティブは冷遇すればいいじゃないかという方が必ず出てくるんですが、これも勘違いでありまして、リスクヘッジができるのはリスク・テイクをしてくれる相手方がいるからでありまして、リスク・テイクする人なしにヘッジはできない。これは忘れてはいけないことでございまして、ヘッジ目的とそれ以外を例えば税制上別扱いにしたりしますと、リスク・テイカーは市場から出ていき、結果的にヘッジもできなくなるということでございます。

あるいは個人は投資信託を買っていればいいので、個別株の投資を奨励するかのような税制はおかしいというようなご意見もありますが、これも実際に個人投資家の声を聞いていますと、複雑な投資信託よりも、むしろよく知っている会社の株のほうがよっぽどわかりやすいという実感もあります。この辺は、制度としては中立的であるべきだということを強調しておきたいと思います。

また、総合課税という話になりますと、これは申告制度というのがどうしても前提になるんですが、現実の金融取引に今、個人の皆様がどういうふうに動いているかというのを考えますと、やはり申告不要にできるだけしていくということが非常に重要でございまして、この点では、先ほど森信先生からも世界に誇るべきというご紹介を頂いた特定口座、これは宣伝させて頂きますと、実は私ども野村総合研究所がキャピタルゲインに対する申告分離課税への一本化の際に提言させて頂いた、それを採用して頂いた制度でございまして、私どもこれは結構自慢にしているんですが、これが個人にとって金融取引に近づきやすい要因になっているということは間違いないと思っております。したがって、この特定口座をできるだけ活用して、あまり複雑な制度にしないということを考えて頂くべきだと思っております。

それから、金融商品、金融所得の一体化といいますと、あまり議論されないんですが、では保険はどうするのかという論点があるんだと私は思っております。経済的に言えば、デリバティブと保険商品というのは基本的に同じだとも言えるわけでございます。ただ、ここについてはちょっと、留保するところがございまして、保険商品というのはどうしてもキャッシュフローが最後にどんと出てくるという、そういう商品特性がありますので、これを単純に一体課税にしてしまうとどうなのかなというところがございます。今、保険についてはさまざまな控除がございますが、そちらのほうがむしろ妥当な制度なのかなと思う感じでございます。

次に、いわゆる軽減税率、「いわゆる」と書かせて頂いたのには理由があるんですが―についてちょっと意見を申し上げたいと思います。

まず、これは大事なことなんですが、過去のことをあまりほじくり返してもしようがないとも思いますが、この税制が導入されたときに、キャピタルゲインについて20%で課税するという制度があって、それを10%に軽減したというようなことではないんだという、その経緯を改めて思い起こして頂かないと、今の制度が軽減であるという認識が本当に正しいのかという、そこがうやむやになってしまうという気がしております。

つまり、現行の制度に移行する前は申告分離課税で26%ということになっておったわけですが、実際には源泉分離課税との選択ができまして、申告分離を選択する人は非常に少なかったわけです。しかも、この源泉分離課税方式においては、税率20だったということになっているんですが、売却額の5.25%がみなし利益で、それに対して20掛けて1.05という。そういう制度でございましたものですから、実際にはもっと利益が出ていても、それで済んでしまっていたわけです。

現在の税率が低い税率であることは間違いないと思うんですけれども、これは、取得価格の把握を徹底し、正しく捕捉されたキャピタルゲインに対する課税をするということといわば引きかえに導入された税率でありまして、決して従来重課されていたキャピタルゲインに対する減税が行われたのではないということを確認しておきたいと思います。もちろん株価が動きますので、税収がどうなったかは税率だけで決まるものではありませんが、私はキャピタルゲインに対する捕捉度は高まっていると理解しております。

20%への復帰というのが、本来の状態への復帰であると。これも間違いないのでございますが、そのときには金融所得課税の一体化が進み、損益通算範囲が拡大しているということが暗黙の了解になって、その上で20%税率に戻るんだという理解だったと思うんです。

ところが、ここは諸般の事情がございまして、残念ながら現在、金融所得課税の一体化というのは配当と譲渡損失というところで止まっておりまして、公社債、公社債投信、定期預金、デリバティブ等々、何も入っていないという状態で、とても本当の一体課税とは言えない。その中で、とにかく10%は軽減なんだから早くやめろということだけが、私も別に10%を永遠にやるべきだと強く言っているわけではないんですが、戻すことばかりが先行する議論になるのはどうかなというのが率直な感想でございます。

あと、4ページでございますが、その他さまざま重要な論点がありますので、幾つかについて簡単なコメントを申し上げたいと思います。

まず、配当二重課税というのがよく取り上げられます。これは理論的には大変重要な問題であると私も認識をしております。ただ、これを調整するために税制を複雑にすることによるデメリットというのも十分考えるべきだと思っておりまして、例えばヨーロッパ諸国では一時このためにインピュテーション方式というのが採用されたわけですが、とても計算ができないということで、大変不便な税制だと言われて、結局今はほぼ廃止されておるわけであります。この点については、1つは法人税率が現在よりも低くなっていればそれほど大きな影響はないという考え方ができると思っております。また、技術的には、例えば一体課税をした上で、配当所得の金額を実際に受け取った額の半分とするというようなやり方も選択肢としては考えられるかと思います。いずれにしましても、完全な調整ということにあまりこだわらないほうがいいのかなと思います。

それから、証券投資優遇税制というものも、一体課税が実現した後にもある程度は必要なんじゃないかと私は思っております。これは先ほど森信先生からご提案のあった日本版IRAとある意味、問題意識を共通にしているものでございますが、前回もちょっと申し上げましたが、やはり日本の金融構造、預貯金で銀行を通じて貸し出しに回されるというものの割合が高過ぎるという、これは否定できないことで、これが一番効率的な方法かどうかというのは、90年代の金融システム危機の経験なども踏まえて言えば、大変疑問が多いわけで、これを変えていくというのはやっぱり政策的にも必要だろうと思っております。

また、成長産業に個人が自分の判断で資金を投下していくという、これは証券投資という流れを使ってやるわけですから、それも重要だろうと思います。

また、先ほど森信先生からご指摘のあった社会保障制度をいわば補完するものとしての自助努力による資産形成を国がサポートすると、これも非常に重要であろうと思っておりますし、また、先ほどの軽減税率といわれるものが本来の姿へ戻るときの、これは理屈上どうかは別として、目先の現象としては10%が20%課税に倍でかかるという話になるわけですから、一定の激変緩和措置も必要という見方もできるわけでございます。そのようなことを考えると、何らかの証券投資に関する非課税制度とか、それはもちろん森信先生がおっしゃったように引き出し制限をかけるというようなことも含めて、検討すべきであろうと思っております。

これを言うとすぐ金持ち優遇だ、けしからんというご指摘があるわけですが、それは先ほどの金融庁の資料にもございましたし、例えば証券業協会がやった調査などでも出ておりますが、必ずしも証券投資をやっている人が金持ちばかりではないというのはいろんな調査に出ております。また、若い世代ほど証券投資に積極的であるというのは、これは顕著な事実でございまして、インターネットの普及なんかとも相まって、決してそんな大金持ちじゃない人たちが一生懸命、自分の能力を使って証券投資をしているという現実をちゃんと見て頂きたいと思います。

また、詳しくは今日はご紹介を控えますが、イギリスにはチャイルド・トラスト・ファンドという、子どもが生まれたときに国が一定のお金を給付して、これを個人が運用して教育資金に充てるという制度、あるいはアメリカではこれに似たようなもの、これは国がお金を出すんじゃないですが、529プランという税制優遇措置がございます。

これらは年金を補完するものという、さっきお話ししたものとはちょっと観点が違うんですが、子ども手当などといわば一緒になって、教育という非常にお金のかかることに国民が備えていく手段として考えてもいい制度なのではないかと思っております。この場合も、例えば生まれたときに積み立てたお金というと、教育資金で使うといっても運用期間は十数年、最低でもあるわけですから、中学校以上の教育に使うんだと考えると。この場合の運用手段としては、やっぱりいわゆる証券投資がかなり重要なものになってくるのではないかと思うわけでございます。

最後に、この議論を今やって頂いているというのは大変感謝しているところでございますが、これは前にもちょっと申し上げたことですが、昔は税制というのは12月ぎりぎりにいろいろ交渉して、年末に決まれば翌年1月1日から実施で、何ら問題がないという、そういう認識でよかったんだと思うんですけれども、すべてが紙と鉛筆で処理されていた時代は。

今日では、あらゆるものがコンピューターシステムになっておりまして、税制が変わったからというので慌てて開発を始めても、とても間に合わない。データの蓄積などの時間もかかるわけでございますので、どうしても再来年、4年後の税制を今年議論するというスタンスが大事だということでございます。

また、これは過去にも実際何回かあったことなんですが、証券税制がこういうふうに変わるというのが二転三転して新聞等々で報じられて、お客さんが大混乱する。証券会社の説明窓口ももう大混乱という、説明している社員自身も本当はどうだったのか自信がないというぐらいの混乱が起きたことも現実に過去何回かございまして、このようなことはぜひ避けるように検討を進めて頂きたいと、こんなところでございます。

大変雑駁な話で恐縮でございますが、私のほうからは以上でございます。

○神崎政策課長

どうもありがとうございました。

それでは、今までの説明へのご質問も含め、自由討議の時間に入りたいと思います。

本日、湊委員からも資料の提出を頂いているんですけれども、何かもし一言ありましたら。

○湊委員

今日は私のほうの発表の機会ではないんですが、全体の討議をするに当たって、先ほど森信先生からもお話があったように、損が出たときに、現在日本の税体系がどうなっているかということを金融所得に限ってまとめたほうがよろしいかなということで、2枚ほどペーパーをつくらせて頂いたものです。

カラーにさせて頂いたのは、オレンジ色の部分のところが損益通算が現在認められている所得になります。左側の不動産所得、事業所得、それから譲渡所得、山林所得ですね。譲渡所得についてはゴルフ会員権等が含まれる総合課税されるものと下の申告分離になるものという形になるんですが、損が出た場合の計算が、同一所得の内部だけ行なわれるものを私のほうで内部通算という表記をして、損益通算という言葉とは区別した色分けをさせて頂きました。

2枚目のほうが株式の譲渡関係なんですけれども、その上の不動産のところを見て頂いてもわかるように、内部通算で通算後切り捨てられてしまうというロスが日本の所得税体系の中には非常に多く存在しております。したがって、投資というファクターで考えたときに、損が切り捨てられてしまう、あるいは3年間の繰り越しでとどまっているという部分について、他の所得と通算させる、いわゆる損益通算のほうに持っていくという議論の中で、たたき台として使って頂ければいいかなという形でつくらせて頂きました。

あと、ちょっと1ページ目のほうに戻らせて頂きますけれども、金融所得に関する税体系が非常に複雑だなというのがつくっていてよくわかったんですけれども、一番上の預貯金の利子については源泉分離課税となっており、この源泉分離という言葉で申告不可、つまり申告の選択は今できない形になっております。一方、申告不要という言葉があると思いますが、これは、あえて申告をすることもできるという意味で使い分けがされております。したがって、いわゆる株の損が出ても、今は、預貯金の利子についてあえて申告をして損益通算をするというオプションが与えられていません。

この辺も先ほど話が出た利子所得を金融所得に入れて計算をするという形の中で、どのような取り扱いをしていったらいいのかというところのヒントとして使って頂ければと思います。

以上です。

○神崎政策課長

どうもありがとうございました。

それでは、ご議論の時間ということで、どなたでもご発言ございましたらどうぞ。

では、島本委員、お願いします。

○島本委員

森信委員、大崎委員、わかりやすい話、どうもありがとうございました。

私、税の専門家ではありませんが、改めて二元的所得税という潮流の中で金融所得を一体化すべきだということを理解しました。

特に、今こそ日本においては有効じゃないかということを3つの点から言えると感じました。第一には、最近の日々の日本のマーケットを見ていますと、非常に閉塞感が強く、ユーロ危機が今のマーケットのテーマですが、日本株が一番弱かったりします。そもそもギリシャ問題は、財政の問題だけではなく、成長産業がないということが国の不信感につながっているという面もあり、政府の成長戦略にも期待したところです。ただし、例えば医療であるとか、農業であるとか、成長分野を育成していく上ではリスクマネーが必要だということは言うまでもないわけであります。

それから2点目は、リスクマネーという点で、日本は貯蓄大国と言われているわけですが、今日頂いた金融庁の方がおつくり頂いた資料を見ても、これだけリスクをとっていないということは、のりしろが大きいとも言えるわけであります。すなわち、金融取引を活性化するメリットというのは大きいと考えることが出来ます。

それから3点目が、幸いというか、ここの2週間で菅内閣が発足しまして、消費税の議論を逃げないと主張されています。これは、金融税制についても戦略的な位置づけで議論を深めるいい機会かなと思いました。

あと、大崎委員がお話しされていた税金と株の関係というのは全く私も同感であります。よく誤解があるんですけれども、税金が安ければ株が上がるという極めて単純な議論で、大事なのは、むしろ企業の魅力があるかどうかということだと思います。

ただ一方で、最近、世界の金融市場では流動性競争という側面も出てきました。公共インフラとしてのマーケットの機能を高めて信頼性を高めていく上では、やはり売買のボリュームを大きくしていくということも重要になっています。よくアメリカのマーケットというのは、米国債にしても落ちそうで落ちないということをよく言われるわけですが、そこはいろんなお金に取り組んで流動性を高めているというメリットがあるわけでありまして、こうした観点で参加者をふやすということのメリットもあるということは留意が必要だと思います。

あと最後に、森信先生がおっしゃっていたIRAについてちょっと質問させて頂いてもよろしいですか。年金制度というのはマーケットに時折インパクトを及ぼすので、今日このお話を聞いて非常に興味深く関心を持ったわけでありますけれども、既存の年金に税制優遇をつけるということ以上のメリットとしては、やはり損益通算が可能になるというところがみそになるわけですか。

○森信委員

そうですね、金融一体課税を前提としていますから、損益通算ができることを前提にこういうまた新たな貯蓄・投資促進税制ができるということです。

○島本委員

わかりました。ありがとうございます。

○神崎政策課長

大崎委員、どうぞ。

○大崎委員

今の島本さんの発言を受けてなんですが、私もちょっと補足したい点がございまして、先ほど島本さんがおっしゃった流動性を高めるという観点が重要だということで、これは私も全くそのとおりだと思っております。

今、世界の一部で、金融取引に課税をするという流通税のような考え方が一部で出ていることを承知しておりますが、これは大変害が多いということを強く申し上げておきたいと思います。これは間違いなく流動性を低下させ、価格発見機能の効率性を下げ、資源の適正な配分を妨げるという、すべて弊害ばかりでございますから、金融所得に対してどう課税するかということと別建てで流通税というのを検討するというようなことは、これはもう絶対にやめて頂きたいということを強く申し上げておきたいと思います。

○神崎政策課長

太田委員、どうぞ。

○太田委員

森信委員、それから大崎委員のご提言、プレゼンテーション、大変興味深く伺いました。非常に貴重な提言が数多く含まれているかと思います。

ただ、私自身はどちらかというと、議論の活性化のためにややちょっと違うスタンスでお話ししてもいいのかなと思っております。私は金融所得一体課税や二元的所得税に反対ではないのですけれども、若干懐疑的なところもございまして、それはまた別の機会にお話ししたいと思いますが、私が金融庁でこういう議論をしていく中で視点として考えるべきだと思っておりますのは、資本市場の活性化が大事であるということです。

その際に、そうした視点からこの税制というものを眺めたときに、島本委員のほうからもご指摘ございましたけれども、特に上場株式に関する市場の強化・活性化というのは、経済の牽引者である上場会社の活力を高めるためにも非常に重要ではないかと思います。また、我が国の場合には、金融資産がかなり預貯金に偏っていて、それが金融機関を通じて国債の購入に充てられるという、少し歪んだ構造をしておりますので、これをもう少し、「貯蓄から投資へ」という言葉で表されているとおり、投資のほうにシフトしていく必要性があると思っております。

こういう観点から考えると、金融商品間の課税の中立性の確保ということも理論的には大事だということはよく承知をしているのですが、現在の上場会社の株式譲渡益・配当に関する軽減税率を維持していくということも、資本市場の活性化の観点からは重要ではないのかなというように思っております。

金融庁の今日のご説明では、軽減税率の導入後、あまり貯蓄が株式投資の方にシフトしているように見えるデータというのはなくて、微妙なデータが多かったと思うのですが、ひとつ指摘させて頂きたいのは、ご紹介頂いた資料の4ページで、全国上場企業の個人株主数の推移です。これは毎年着実に増加をしていることがデータ上も現れている訳ですけれども、実感としても、私のような企業弁護士は、株主総会シーズンには毎年いろいろな会社の株主総会に出るわけですけれども、各社とも非常に株主総会に出席する個人株主の方が増えていると感じています。このようなところからも、個人株主の増加は最近かなり実感をしているところでございまして、その意味で、軽減税率は、上場会社の株式に投資する個人株主の裾野を広げるという政策的効果はあるのではないかと思っております。したがいまして、これを当面の間維持するというのは、政策的にはそれなりに有効なのではないか、成長戦略の観点からもいいのではないかと思っている次第です。

あともうひとつご指摘させて頂きたいのは、金融商品間の損益通算ということも大事なポイントだとは思うのですが、私はむしろクロノロジカルな意味での損益通算といいますか、課税は単年度課税になっていて、中長期で所得が変動した場合に中長期で見た場合の担税力が正確に反映されない憾みがある訳でございますが、そして、それを是正するための例外として認められている繰越控除の期間も、現在3年間とかなり短くなっております。しかし、この繰越控除の制度は、単年度で課税をしていくが故に、ある年は儲けて、ある年は損が出たというような場合に、そのような所得の振れがあっても、その部分の調整がうまくできない点を是正する効果がある訳です。

そうしますと、本当は担税力を見る場合にはもう少し中長期で見るという考え方も十分あり得るわけで、そういった観点からすると、投資の方にお金を振り向けて頂くということを考えた場合には、クロノロジカルな意味での損益通算、つまり繰越控除期間の伸長ということも非常に大事なのではないかと思います。7年間というようなことが言われていたりもするわけですが、これは法人税の場合との平仄ということだと思っておりますけれども、金融庁の前回のプレゼンテーションでもありましたとおり、諸外国ではもう少し長い期間で繰越控除を認めている例もあるようですので、これは法人税との平仄ということに必ずしもとらわれずに、もう少し長い期間で担税力を把握するという考え方は十分あろうかとも思います。従いまして、繰越控除期間のさらなる伸長ということも選択肢として考えてよろしいのではないかなと思っております。

以上でございます。

○神崎政策課長

それでは、土居委員、お願いします。

○土居委員

初めて参加させて頂くので、少し場の雰囲気がわかっていない部分もあるかもしれませんが、今日のプレゼンテーションに関して少しお話しさせて頂きたいと思います。

森信先生のプレゼンテーションの中で、損益通算の重要性ということは全く私としても同感で、むしろここが強調されてしかるべきだと思います。

損益通算のメリットを生かすには、実は税率が低いよりも高いほうが損益通算のメリットがより大きく発揮されて、投資家にとってリスクを軽減することができると。経済学の別の言葉で言うと、投資家と税務当局とかリスクをシェアするというような言い方をしたりもするわけでして、そういう意味では、森信先生の9ページの図というのはまさにそのとおりだと思います。

ただ、恐らく、必ずしもオールジャパンで損益通算を幅広く認めて税率を上げるということだとしても、乗り気でない方がいらっしゃるというところが一つあると思うのは、今の森信先生の説明は損が出るという可能性があるという場合なのですが、確実にゲインがあって、ゲインが多いときと少ないときがあるという場合は、税率が高ければその分だけ期待収益率が下がる、平均的な収益が下がるということになってしまいますので、そういうところで、課税後、平均的な税引き後収益率が下がるとなると、分散が小さくなるということと、期待税引き後収益率が下がるということと、どう見るかということなんです。

どうも、はっきり言えば税率を上げることに反対なさる方は、期待税引後収益率が下がるというほうを強調しておられるんですが、それは普通、投資の理論からするとおかしな話で、リスクとリターンの見合いでどうなのかということを考えなければいけないと。期待値でのリターンは下がっているけれども、分散も小さくなっているわけですから、どちらのメリットのほうが大きいかということを比較考量して、それでも期待収益率が下がるということのほうがデメリットが大きいという言い方で反対されているならばわかるんですが、どうもそういう言い方には世の中なっていなくて、いたずらに期待税引後収益率だけが下がるかのようなことで反対しておられるというような印象があるので、もう少しそこは丁寧に議論をする必要があるのかなと。

つまり、投資の基本的な理論であるリスクとリターンの関係から投資判断がなされるはずであるということからすると、金融所得一体課税によって税率を上げることになったとしても、それは決して投資家のデメリットばかりではないということなんだろうと思います。

それから、先ほど来、プレゼンテーションから委員の先生方のコメントも含めて聞かせて頂いて思ったところは、税制でできることとできないことがあるということはもう少しきちんと分けて議論するべきだろうと思います。特に証券優遇といいましょうか、証券投資を促すということについては、特にこの金融所得課税によってできることとできないことがあるというふうに思います。

私が想定している経済学の理論では、基本的には人々は生涯を通じて所得を稼ぎ、消費をし、その所得と消費のタイミングの違いが貯蓄になってという、いわゆるライフサイクル理論のようなイメージをしておるわけでして、その段階では別にその貯蓄を預金に回すのか株式に投資するのか国債に投資するのかということは、それは収益率ベースでは重要だけれども、別にあらかじめ投資先を決めているというわけではなくて、純粋に今後将来、生活、老後のことまで考えたときにどれだけ貯蓄するのが望ましいか、もちろん望ましい貯蓄額が確実に常に実現できるかどうかはちょっと別としても、より望ましい水準に貯蓄額をコントロールしていくという発想だと思います。

ですから、そうすると、まず貯蓄ありきで、その貯蓄をどう運用するかというような、その次の段階のディシジョンメーキングになってくるということだと思います。そのときに当然税制はかかわっていて、いわゆる期待税引後収益率が税によって影響を受ける、さらにはさっき申し上げたような分散、リスクですね、投資の収益率の分散も影響があるという手順なんじゃないかなと思います。

そういたしますと、確かに貯蓄から投資へと、経済学でいうと貯蓄から投資へという言い方はおかしいと言う経済学者の意見があって、むしろ私の言葉で言えば国債から株式や社債へということなんだろうというふうに思うんですけれども、そうであるならば、確かに株式や社債のところでの金融税制の不備があって、本当はもっと税制を変えることを通じて、リスクとリターンの関係でよりよい投資のポジションが税引き後のものとしてとれるということがあれば、そちらのほうに税制をシフトさせていく。恐らくは、基本的には損益通算をもっと幅広に認めるということが一番大きなてこになるとは思うんですけれども。そこから先の成長産業により資金を振り向けるには株式や社債の投資を促すべきだということは、ちょっと微妙におかしな話じゃないかなと。

つまり、裏を返すと、今たくさん預金がなされていて、銀行に預け入れられていて、銀行はその目利きができないということなのかということですね。銀行関係者はここにいらっしゃらないので、ちょっと私はこれ以上言及しませんけれども。個人ならば株式や社債で成長産業にお金が投じられる。でも、ここで金融税制が邪魔をしているからそれを阻んでいるということならば、それはそれでいいんですけれども、それは裏を返すと銀行の方は目利きができていないということかとなるので、そこまで銀行の方が目利きができないというわけでもないんだろうと。最も根本的な問題として、そもそも企業、産業レベルで生産性の向上がなされていないとか、そういうような問題という、税制と関係ないところの話のほうが本質なんじゃないかなと思います。

ですから、私が思うには、森信先生も強調されていましたけれども、大崎さんも書いておられましたよね、投資の選択にゆがみを与えないような税制というところが目指すべき第一段階の目標なのではないかと思います。

以上です。

○神崎政策課長

ありがとうございました。

○田村大臣政務官

すみません、質問させて頂きます。ちなみに私、11時からまた別の会議がありまして、ただ、もしお時間が許す方がいらっしゃったら、ぜひご意見はどんどん言って頂ければ、後で議事概要を拝見すればいいと思っていますので、申しわけございませんが、そういう意味で中座をさせて頂くことをお許しください。

まず、森信さんと大崎さんに質問したいんですけれども、二元的所得税について私も四、五年前から勉強して、当時、峰崎さんとも議論をして、ただ、峰崎さんは今でも総合課税的だという話を伺っておりますが、私は当時からかなりなびいてはおります。

ただ、1つ非常にシンプルな質問は、ここの中のメンバーでも二元的所得税のお考えの方が多いんですけれども、それはたまたまというか、最近、学会とか、あるいは専門家の中で、包括的所得税あるいは総合課税という考え方を維持していらっしゃるというか、そういうお考えの方というのは減っているか、今でもたくさんいらっしゃるのかという、大変年配でずっとそういう考えの方は別として、例えば学会でもいいんですけれども、そういう動向をちょっと教えて頂きたいのと、ちょっと議論を混乱させるかもしれませんが、例えば森信さんの資料の3ページを見て、大変シンプルでいいなと私も当時から思っておりますが、まさにこの二元的所得税の場合は法人税と連動すると。そうすると、とても日本ではそんな簡単ではないなというのがまず最初にあって、法人税を置いておいた場合に、まさに勤労所得の最低税率と一緒にするという、そうすると今だと10%にするということになるんだと思いますけれども、一方で、所得税の累進の10%のブラケットが多過ぎるんじゃないかと。本来もうちょっと20%というのを中心にすべきじゃないかという議論もある中で、ちょっと議論が混乱しますが、そういう意味では、所得税の税率自体にかかわってきてしまうと思いますけれども、単純に、要は適用できないという中で現実的にどうするかという議論になってくると思いますけれども、それは所得税の累進をどうすべきかということに言及して頂いても結構ですので、そこは10なのか15なのか20なのかという、あまりこれは議論し出すと切りがないと思いますから、現時点でのお考えをお二人にそれぞれお伺いしたいと思います。

あと、ちょうど太田さんが先におっしゃって頂いたので、やはり一体課税の先の話だと思いますけれども、金融所得を一体化した上で、やはり繰り越し、繰り戻しというのは非常に大きいんだろうなと。日本はそこまでまだ議論が進んでいないだけだと私は10年以上前から思っているんですが、それについてお二人はどうお考えかというのもあわせて教えてください。

○神崎政策課長

それでは、森信委員。

○森信委員

大変難しい質問ばかりですが、一番最初の学会の話は、ここに学会の関係者もいらっしゃるので、私の印象だけ述べますと、法学者は基本的にはいまだ総合課税論者というのが多い、といいますのは、私は日本版二元的所得税ということを10年前から提言しているのですが、法学者はあまり賛成してくれません。リスクの高いものと低いものを同じ税率で課税するのはおかしいというのです。ではどう課税するのか、と聞きますと沈黙します。ただ、財政学者は若手の学者も基本的にはある程度のシンパシーを持っているというのが私の印象です。

それから、3番目の質問ですが、繰り越しの期間を長くすると。これはまさに大賛成です。ただ、これは帳簿の保存期間とも関連しますが、特定口座ならその問題はないのではないかとも思います。

それから税率ですけれども、これは非常に難しい問題で、二元的所得税を導入している国でも、細部は異なっています。日本型の中で考えていくしかないと思いますが、地方税と所得税をあわせると、15%が最低税率です。そこで、金融所得税率は、15%とか20%とか、その辺が一つの水準になるのではないかというふうに私は思っております。

もっとも、資本に対する税率ということで、法人税率がいくらになるのかという点とも関係しておりますが。 以上です。

○神崎政策課長

では、大崎委員。

○大崎委員

税率の話ですけれども、二元的所得税の森信先生の3ページの図というのは、これはあくまで、理念型だと理解をしておりまして、これと全く一緒じゃないと成り立たないという話ではないと考えております。また、今のところ金融所得で一体化という話が全部の資本所得を一体化というところまですぐに行くのかというのは、私は現実問題としてちょっと疑問を持っておりますので、私は必ずしも二元的所得税論に基づく一体課税ということこだわり過ぎないほうがいいのかなと思っております。

所得税全般については、やはり所得税も広く浅く負担をして頂くというのは非常に重要だと思っていまして、課税最低限を低くする、そのかわり税率についてはあまり高くしないという考え方で所得税制自体を再構築していかないと、正直言って、所得税を払っていない人がたくさんいる国というのは健全ではないというふうに私は思っております。

それから、繰り越しについてなんですが、これも期間が長いほうがいいというのは全くそのとおりで、特に個人は会計期間というのがないので、そのために投資行動も法人とも随分違ってくるという点があります。したがって、損失繰越を例えば無限に個人について認めてもらえると、個人の投資行動がある意味合理的になって、そのことが市場によい影響を与えるというようなことも期待できると思っております。

ただ、ここで大事なのは、損失の繰り越しの話をすると、これは基本的には総合課税という枠内では考えられないということは忘れてはいけない話で、総合課税で損失繰越で、例えば勤労所得と繰り越してきたキャピタルロスを通算していいとかという話になると、めちゃくちゃなことをやりたい放題というふうになりますので、今年はボーナスが出たから株の損を出しておくかみたいな、これはあり得ない話だということはよく理解して議論をしないと、繰り越しはやるべきだけれども金融所得一体課税には疑問があるなんていう議論は、ちょっとおかしいということは申し上げておきたいと思います。

○神崎政策課長

吉村委員、どうぞ、お願いします。

○吉村委員

すみません、補足ということなんですが、先ほど法学者のほうがやや消極的という話がありまして、税に関する法律関係の学会だけで実は3つも4つもあるという状況で、いろいろな思想を持った方々がいることのあらわれだというふうにちょっとお聞き頂ければと思います。

その上で、一般論として、法学者がややこうした二元的所得税のような仕組みに消極的であるというのは、やはり租税回避の危険性というのを考えてのことだというように思います。

例えばこちらの二元的所得税、北欧で導入された経緯として、森信委員のほうからはむしろ資本が逃げてしまうといった点、ご指摘ありましたけれども、国によってはというか、そもそもの発想としては、従来すべて総合課税でやっていたと。そうしたところ、資本所得のほう、具体的に言うと家賃なんですが、家賃について北欧では帰属所得ですね、自分の家に住んでいても家賃分は課税をするという仕組みをとっておりましたので、自分の家を買うときのローンの利子もその際には控除を認める。その結果として、それが給与所得のほうにまで控除が食い込むという自体が広く生じておりました。特に帰属所得の評価というのは非常に低くなりがちですので、その点が公平の観点から望ましくないということが背景をなしております。

したがって、資本所得として二元的にしたということで説明するとそのとおりなんですけれども、日本の文脈とは逆で、従来、総合課税でまとめていたものを切り離したんだという側面があるということをやはり忘れてはいけないんだろうと思います。というのが1点目の補足。

それとあと、税率の話が出ましたけれども、法人税率と一緒であるというのは、これはやはり法人成りをして労働所得を資本性の所得に振りかえると、性格がえをするということを防ぐために法人税率とそろえてあるんだというふうに一般的には理解されていると思います。

○神崎政策課長

諸富委員、どうぞ、お願いします。

○諸富委員

私も森信委員と大崎委員に質問を含みながら発言させて頂きたいんですが、既に田村政務官より法人税率の話は出ましたので、私も同じように、本来は法人税率と資本所得に対する税率をそろえていく、二元的所得税というのであれば、それが一応理念系かなというふうに思っております。

私も、ある種の総合課税、包括的所得税を1つの理念系として肯定的に見る立場ではあるんですけれども、しかし、やっぱりグローバル経済の中でどうしても資本所得に対する課税をなかなか包括的所得としてまとめていくことが難しくなってきていることは事実でありますし、そういう意味で、包括的所得税の再編の時期に入ってきていて、それをいろんな形で、二元的所得税で行くのか、フラットタックスで行くのか、いろんなタイプで各国が模索しているというふうに現状認識をしております。そういう意味で、日本的な形で、どういう形で資本所得に対する課税を扱うかということを、まさに今議論が始まっているんだなというふうに思っております。

そういう中で、日本の場合には、やはり法人税率、経産省からも成長戦略が出ておりますけれども、法人税率の引き下げという提言が出てきておりまして、私は同時に課税ベースを広げて、法人税を下げていくべきだと思っておりますけれども、そういった法人税率が下がっていくプロセスの中で、私としては逆に、資本所得に対する課税税率を20%に戻していくプロセスの中で合わせていくというプロセスで、長期でこれを合わせていくということが目標とされるべきではないかなというふうに考えております。そういう意味で、森信先生のご見解をこのあたりも伺いたいと思っているんですが、そういうふうにご回答されていましたので。

それから、大崎委員に質問させて頂きたいのは、20%の税率ということについて、必ずしも20%に維持する必要はないのではないかというご意見で、これは非常に現実論として理解いたしました。

しかし、税率は本来どうあるべきかということについての理論的根拠があるのかどうかということです。なぜ、そもそも今回我が国においては20%という税率に決まったのかどうか、この経緯を私はよく存じ上げていないんですが、もし何らかの理論的な根拠をご存知でしたらお教え頂きたいと思いますが、1つの基準としては、法人税率と、先ほどから議論に出ていますように資本所得に対する課税税率をそろえるという形で、吉村先生が指摘されたゆがみを抑えるということが根拠としてあると思います。

それからもう1つは、大崎委員のご指摘にあったように、資本がグローバルに国境を越えて動いているわけですから、そういった意味で国境を超える資本の移動にゆがみを与えないような形で各国と資本所得に対する税率をそろえていくような形で税率を設定していくということも一つの基準かと思いますが、そうなった場合、日本の場合、やはり低過ぎないかということも言えるかというふうに思います。この点、大崎委員のご見解を伺いたいなというふうに思っております。

最後に、分配的な側面ということがございました。金持ち優遇ではないということではございますが、今日、金融庁の事務局方にご用意頂いた資料の10ページ、こちらで資産の保有状況ということを見ますと、4,000万円以上が圧倒的に占めているということをかんがみましても、確かに数ということから見ると結構、低所得の方々も株を保有しているということがわかりますが、額の点で見れば、圧倒的に高額所得者が多いということを見ると、こういった軽減税率の恩恵をだれが受けるかという点は、割とはっきり出てくるのではないか。

それから、アメリカではブッシュ減税の、いわゆる配当減税の効果の帰着がだれに行っているかという点でも、高額所得者に行ったということは実証研究でもはっきりしているわけでして、そういった意味で、一定の税収をだれがどのように分担するかということを考えました場合に、この10%という軽減税率が税の公平な負担ということから考えた場合に、果たして正当化し得るかどうかということは、そのメリットとデメリットをしっかり考えなければいけないというふうに思います。

以上でございます。

○神崎政策課長

大崎委員にご発言をお願いする前に、もし今までにご発言頂いていない方でご発言あるようでしたら、先にお願いできますか。

吉本委員、お願いします。

○吉本委員

前回の資料を見ていて、今回も出ている話なんですけれども、デリバティブの話が出ているところで、先ほどの損益の繰り越しの話に関係するんですけれども、たくさんみんなが今やっている投資の中で、ここに明示的にあまり出ていないんですけれども、FXがありますよね。

FXの問題は結局、店頭なのか取引所なのかによって違っているという点が非常に大きな問題を生んでいて、先ほど損益の話はこの後かなというような形のことを政務官がおっしゃっていたんですけれども、FXをやっている多くの人からすれば、ここでこういう話をしてくれるんだったら何で優先順位が低いのかなという話だと思うんです。

ですから、もう少し、FXという取引がいいのか悪いのかという話もあるのかもしれませんけれども、それは先ほども出ていたように、投資をどんな形でやるかというのは個人の自由だとすれば、実際に国民がたくさんやっている取引で、かなりゆがみが出ている取引としてFXのことを一つには頭に置きながら、やっぱり損益の繰り越しの話というのはもうちょっとしないといけないのかなということを一つ感じました。

以上です。

○神崎政策課長

武田委員、お願いします。

○武田委員

本日は森信委員と大崎委員に大変わかりやすい解説をして頂きまして、ありがとうございます。私のほうからは感想を1つと意見1つ、最後にご質問を一つさせて頂ければと思います。

まず、感想ですが、金融一体課税のご説明、大変わかりやすかったです。前回も意見として申し上げさせて頂いたとおり、やはり税の中立性を高めるということと、簡素化し投資家にとってわかりやすい税体系にして、結果として投資コストを下げることで経済効率、あるいは市場の流動性といったものを高めていくという視点が大事なのではないかと感じました。

意見としましては、やはり成長産業に資金を振り向けるには、損益通算の拡大が大事だという点です。先ほど土居委員のほうから、そもそも税率の問題ではなくて、もっとその先にある問題だと。要するに成長企業がうまく出てこない中で、お金がそれにつかない、つまり鶏か卵かという議論では、根本的には企業が出てこないというところにも問題があるというお話を頂きました。私はどちらも重要な視点だと考えていて、一つ何か打ち出の小槌があれば解決する問題ではなく、金融税制もその中の1つとして重要であると思います。

もちろん企業に投資減税をするとか、あるいは法人税率を下げるとか、企業に対してやるべきことはまだまだあると思いますが、一方で、大きなビジョンの中で金融税制の役割というのはやはり無視し得ないものであるとも思っています。一言で申し上げると、経済の新陳代謝を高めるために、どういうふうに金融税制のところで貢献できるかということだと思います。

あとは、土居委員から、日本の銀行の目利きがあるかないかというようなお話もございましたけれども、多分、現実として、なかなかいろんな縛りがある中で、キャッシュフローが見えていない企業に日本の銀行がお金を貸すというのは難しい状況にあることを踏まえると、それは銀行サイドだけの問題ではないかもしれませんけれども、やはりよりリスクの高い企業や産業への投資、ベンチャーキャピタル等への投資の増加にも繋げていく取り組みが必要かもしれません。損益通算の観点では、より幅広い商品を対象にしていくことによって、金融税制が少しでもリスクマネーの供給を増やすきっかけになるのではないかと思っています。ただ、もちろん金融税制だけで解決するわけではないということについては、土居先生のご意見に全く同意いたしております。

最後に質問ですけれども、森信委員から、年金制度を捕捉するという観点で、日本版のIRAのご提案がありましたが、前回、金融庁からご説明を頂いたISAとの違いがどの辺にあるのかはっきりしなかったものですから、ご質問させて頂ければと思います。

○河内金融税制室長

今回導入されますISAは株式投資のみに限ったアカウントでありまして、株式投資をする際の非課税枠をつくると。それ以外の年金ですとかそういったものは範囲に入っていない、まさに株のための便宜的な非課税口座をつくりましたという意味で、Individual Savings Accountの略になっていますが、そこのカバーの広さの違いです。

○武田委員

わかりました。ありがとうございます。

○神崎政策課長

和泉委員、お願いします。

○和泉委員

今日は本当にありがとうございました。私は税の専門家ではないので、こういう考え方をするのかということで、枠組みを教えて頂いて感謝しています。二元的所得税についてのご説明を頂いて、反対意見を伺っていないからかもしれませんけれど、非常に合理的な考え方だと感じました。

私は、使う立場、説明する立場というところから幾つか感想や、意見というほどのものではないんですけれども、お話をさせて頂きたいと思います。

私は、多くの皆様にメディアなどを通じて税制の細かいことを実用的に説明する立場にあるのですが、税の不整合に関しては日ごろから強く感じていて、論理的に説明し切れない部分が多くあります。一つ一つのご議論を伺えば、ああ、なるほど、そういうことなのかということなのでしょうけれども、全体観を外から見たときには、何でこれとこれが違うんだろうということがうまく説明ができないことがあるので、金融所得ということで一体課税にして整合させていくという方向性に関しては緊急にやって頂けたらいいのではないかと思いました。

いただいた資料を順番に読んできたんですけれども、3年間かかってこんなにゆっくりなペースなのかと強く感じました。今日、森信先生から何故スピードが遅いのかというお話も頂きましたが、国民の普通の感覚からすると非常にテンポが遅いということに関しては、もし根本的な問題がはっきりしているのであれば、そこから手をつけていくことがいいのかなと思いました。

2つ目に、資料を読んだり議論を聞いていてよくわからないというか、場面場面で使いわけされているのだろうかと思ったのは、税制は本質的に中立的であるべきだという一方で、大きな国家戦略として何かのインセンティブを与えるというような税の役割もあります。その中で、どこからどこまでが大きな目標のためのインセンティブとして考え、どこの次元からは中立であるべきだと考えるのかが、どうやら場面によって使い分けられているような感じがしてならないので、予めそこを共有させて頂いたほうが、この後議論が進みやすいのかな、あるいは私のように門外漢の者でもわかりやすいかなと思いました。

また、この研究会、5回か6回集中的に行われるという中で、どのゴールを目指して何を優先的に議論していくのかがよくわからない状態でおります。今日はまだ実質的には1回目ということで、その議論の枠組み自体を話しましょうということなのかもしれないんですが、そこがわからないので、例えばこういうコメントもどこからどこまでをするのが私の役割なのかがわからないなと思いながらお話ししています。その点も合わせて教えて頂けたらうれしいなと思った次第です。

最後に、私は生活者の方のライフプランを見守るような仕事をしているんですけれども、今日ご提案にありました日本版のIRAというのは非常に魅力的に感じました。60から65歳の間で、年金が今の高齢者に比べて1,000万円ほど総額で少なくなるということもありますし、若い人の年収が10年前に比べて大きく下がっていて、50代の前半で年収カーブのピークが来て下がっていく中で、老後資金の準備ができません。

その準備を早い段階からしていきましょうというのが私の立場なんですが、今のような低金利の世の中では、預貯金だけでは必要な老後資金を確保することができないので、上手にリスクと付き合いつつ、自助努力でやっていく枠組みというのは大変重要だと思います。それがこの研究会、あるいはこの税制の大きな方向感である市場の活性化であったり、資本市場の効率化と整合するのであれば、こういった枠組みというのも積極的に考えていくといいなという感想を持たせて頂きました。

○神崎政策課長

吉井委員、どうぞ。

○吉井委員

本日の森信先生のご説明の中で、冒頭で証券界から10%税率維持の要望が出された旨のお話がございました。

本日の森信先生の資料ですと、9ページ目に損益通算の範囲を拡張すればリスク資産への投資が進むといった説明がございます。

これは、一つは税引き後のほうが分散が小さくなりリスクが少なくなるということがあるでしょうし、もう一つは、個人が例えば老後の資金とかを考えて、大体これぐらいの利回りで運用していきたいというふうに考えた場合に、多分税率が高いほうが税引き後の期待利回りというのは低くなるので、その分リスク資産の割合を高く引き上げていかないと、期待する収益は達成できない、おそらくそういうことなのかなと思っております。

このような損益通算をして税率を上げたほうが、むしろリスク資産のほうのウエートが高まるんだという考え方がある一方で、実際にこれまでの諸外国の税制とかを見ると、むしろリスク資産の税率は低く設定することでリスクマネーの供給を促しているという側面もあるわけでして、それがどちらが本当に効果があるのかというのはよくわからないので、とりあえず10%という税率が今あるわけだから、今あるものはできるだけ維持していきたいというのが多分証券業界の考え方なのかなという感じがいたします。従いまして一体化を進めていく上で、損益通算の効果というのはどれぐらい大きなものかというのを説明していくことが一つ重要なのかなというふうに思っております。

それからあともう1つは、やっぱり二重課税の部分ですね。ここはやはり何がしかの調整が必要であると思われます。一番シンプルなのは法人段階で調整する方法ですけれども、ただ、それをやろうとすると、極端な話、法人税を全部撤廃しないといけないといった話になりますので、それはなかなかとりづらい。であれば、代替手段としては、例えば配当の課税ベースは半分だけにするといったことも選択肢として視野には入れられるのかなと思っております。これは優遇税制とではなくて、二重課税を調整した上での金融商品間の税負担の中立性という観点から、そういった対応も考えられるのかなというふうに、個人的には思っております。

以上でございます。

○神崎政策課長

どうもありがとうございました。

大崎委員、お願いします。

○大崎委員

先ほど諸富委員にご質問を頂いたので、ここはぜひきちっとしておきたいと思いまして。もし私のさっきの説明で、私が今の10%税率というのが理論的に正しいとか、あるいはこれをぜひともずっと維持するべきだという主張をしたというふうに理解されたのであれば、それは誤解でございますと、まず率直に申し上げておきたいと思います。私は、先ほど来の法人税率と資本所得の税率をできるだけ近づけるという考え方、あるいは法人成りを防ぐべきであるという考え方には全く賛成でありまして、20%の税率がおかしいなどということを申し上げているつもりは全くございません。

ただ、正しいからそこへ明日から戻ればいいんだというふうに短絡してしまうと、いろいろ問題が出てくる可能性があるので、そこは留意して考えましょうということを申し上げているだけでして、そこは誤解をしないで頂きたいなと思いました。

それから、発言を許可して頂いたついでに、ほかの委員の方々のご発言にも幾つか申し上げますと、吉本委員のおっしゃったFXの店頭と取引所の扱いが違うという問題、これは私、ある意味申し上げるのを忘れましたが、これは非常に重要な点で、確かにこういうものを一つ一つつぶしていかないと、金融商品間の中立性が確保できないと思っております。

それから、武田委員が土居委員のご発言についてコメントされたこととも相通ずるんですが、私は成長産業を育成していくためには証券投資、とりわけ株式投資の役割が大きいというのは決して我田引水の話ではないと思っておりまして、今これだけ金融システムの安定性ということが大事になってきている中で、銀行というのは基本的に日々の資金繰りの面倒を見るものであって、設備投資資金を供給する役割ではないというのが、どんどん世界の共通認識になってきていると思うんです。そういう中では、リスクを伴う設備資金を供給するのはやはり株式市場であろうというのが現実だと思っておりまして、これは決して銀行の方が目利き能力がないとかそんなことを言っているのではなくて、銀行の資金の出し方として、そういうところへ大量に出すのはいかがなものかという話なんだろうと思います。

あと、和泉委員がおっしゃった中立性の話とインセンティブの話がちょっとごちゃごちゃしているんじゃないかというご指摘、それはやっぱりクリアにする必要があると思っていまして、私はインセンティブというのも非常に大事だと思っていて、森信先生からあった日本版IRAみたいなものですとか、それから金融庁で今度入れて頂くということになっているISAみたいな、そういうものを政策的につくっていくということは非常に大事だと思っています。

ただ、本則としては中立性を確保した上で、いわばアディショナルにそういうものを入れていくという、そういう考え方なのかなと思った次第です。

○神崎政策課長

森信委員。

○森信委員

1つだけ。9ページの記述ですが、タイトルにありますように、投資家がリスクを取れるようにするにはということです。要するにリスクマネーをふやすことが重要だということであればこういう税制だということでして、税率の話とは直接関係ありません。もっとも、分散を小さくするには、税率は高い方がいいということにもなりますが。

私自身は、格差社会とかそういうことも含めると、20%というのは決しておかしな税率ではないというふうに考えております。先ほどどなたかからなぜ20%になったのかという質問がありましたが、これは金融庁のほうで調べて頂いたほうがいいと思います。

以上です。

○神崎政策課長

吉村委員。

○吉村委員

すみません、先ほどは租税法学者の一般的な補足だけで、ちょっと森信委員の説明の中に1点質問がありまして、実は私個人としては一つのモデルとして二元的所得税を非常に評価していて、こういったモデルを常に念頭に置きながら制度改正を進めていくという方向でいいんだろうなと思っているんですが、先ほど申し上げましたように、租税回避を初めとした、そういったどこの馬の骨ともわからない損失をどうやって切り捨てていくかというのが問題なんだろうと思っています。

その点で、ご紹介のあった金融所得確認システムというのは非常にいい仕組みだなというふうに思っておりまして、例えば前回の資料で、アメリカでは公社債の無価値化については譲渡損として取り扱っているというご紹介がありましたけれども、あれもやはり事業や業務と関係しない損失ももちろん認められているんですけれども、実際に無価値化を申告してロスとして使おうとすると、やはり必要書類が非常に多く要求されると言われています。

これはなぜかといいますと、日本では税務署側・国側に立証責任があるんだというふうに一般的に理解されておりますが、アメリカでは逆に納税者のほうに立証責任があるという、そういった逆の状況にあるんだということですので、例えば日本で損益通算の範囲を広げていくという話になりますと、その点をどう乗り越えるかというのはやはり大きな問題なんだろうと思います。納税者側から何でもかんでも損失を出されて、それを税務署側がすべて否定するだけの証拠を積み上げなきゃいけないというのはやはりおかしいんだろうというふうに思っています。

そこで、ちょっとお伺いしたいのは、金融所得確認システムというのは、このシステムに乗らなければ損益通算を認めないという仕組みとして考案されたということでよろしいんでしょうか。確認でお願いします。

○森信委員

このシステムを提言した趣旨は、これから複数の金融機関に特定口座を持つという状況が予想されます。日本では、銀証分離しているので、利子所得は銀行に、譲渡損失は証券会社の特定口座に出る。そうすると、今の制度のままで損益通算するには、税務当局に行く必要がある。これでは特定口座のメリットを失いかねない。そこで、確認システムを作ってあくまで特定口座の中で損益通算する、という考え方です

それから、損益通算の話ちょっと誤解があるのかなという感じもするので、3ページの絵を見て頂きたいんですが、この絵は理念形ですが、資本所得と勤労所得が一応分離してあります。そこで、考え方としては、資本所得の損失は勤労所得と相殺できないということです。スウェーデンでは経過的に少し相殺を認めているのですが、今年は勤労所得が多いので株式の譲渡損失だけ出しておくかなということは基本的にはできないという意味において、非常に大きな遮断がここでされているわけです。

それからもう1つ、吉村先生がさっきおっしゃったことと関係するんですが、OECDの二元的所得税の評価、上から4行目、これはスウェーデンのことが書いてあるんですが、スウェーデンは総合課税制度をとっていたために、まさに利払い、利子ですね、利払いが通常、最高限界税率に対して控除されると。スウェーデンではだから、お金持ちの人は住宅投資のために過大な借り入れをして、過大な控除をつくりそれがお金持ちの高い限界税率に対して控除されると。そうすることによって、どんどん課税ベースが流出していった、まさに租税回避が進んでいったということです。

これではいけないというので、2つを分けて二元的所得税にすれば、借入金利子は、低い天井のついた資本所得の税率からしか控除できないではないか、ということです。そういう意味で、スウェーデンが二元的所得税に移行した大きな狙いは租税回避を防止することだったと。それは、ひいては税収を守ることでもあったということがこの4ページにはいろいろ書いてあるわけです。

ただ、金融所得の中では損益通算を幅広く認めるということと、勤労所得との損益通算の話を混同されると非常に議論が錯綜します。私のトータルの考え方は、とにかく勤労所得とはなるべく遮断する。しかし、金融所得の中では譲渡損失があれば、利子所得とか、配当所得とか、そういったものと損益通算ができるようにする。そういうふうなピクチャーです。

○神崎政策課長

お時間もあれですけれども、それでは、土居委員。

○土居委員

先ほど吉井委員と大崎委員のご発言があったので、すみません、一言だけ申し上げさせて頂ければと思いますけれども、例えば金融所得の税率を上げるということに伴う影響ということで言うと、私がさっき申し上げたとおりであるんですけれども、極端に言えば、有価証券投資をしようとする投資家ないしは私の印象で言うと、私が金融機関に行くとそういうご説明が多いので辟易しているんですけれども、割と収益率のほうにばかりフォーカスするような感じになっている。分散がいかに小さいか、リスクが小さい投資であるか大きい投資であるかということについてはどちらかというと二の次、という説明を受けているということが投資家側にもあって、それが現状として、印象として、税率を上げると税引後収益率が下がるというほうのデメリットが何か強調されて印象に残ってしまうというようなところがあるんだけれども、実は損益通算がきちんと認められればリスクが下がる。

先ほど大崎委員がおっしゃったように、リスクテイクが必要だということであれば、むしろ税率を上げたほうがリスクテイクはしやすくなるわけです。そういう意味では、私も金融所得を決して累進課税をするべきではないということは日経新聞の4月5日の経済教室で書きましたけれども、少なくともある一定の税率で金融所得には課税するけれども、今のような低い税率ではなくて、よりリスクをとりやすいような形にすれば、確かにその分で阻害していた証券投資は促されるだろうと。ただ、それ以上のものはあるかというと、先ほど申し上げたように、税制でできないこともあるというふうに思います。

○神崎政策課長

湊委員。

○湊委員

では手短に。森信先生の10ページのところを見ながら、まず1つは、金融所得をつくることによって、今は複雑な税体系がかなりシンプルになるというのはお話のとおりだと思うんですが、投資のファクターでいくと上場金融商品が中心という体系になると考えられますが、配当や、株式のキャピタルゲイン・ロスも、非上場会社からも発生します。この辺で、特に中小企業から発生する配当及びキャピタルロス・ゲインはどの程度まで整理するかということによっても、税体系がどういう形になるのかという問題が1つあります。

それから、最近ではホールディングカンパニーを作るときに、一時上場企業を非上場化するということも行なわれており、この場合には、上場株式が、いったん非上場株式になるので、株式の譲渡所得計算が大変複雑になることがあります。ですので、その辺の上場・非上場の区切りというところのお考えをちょっとお聞かせ願いたいと思います。それから利子所得の一体化ということになると、どうしても番号制という問題が出てくると思うのですが、番号制導入と金融所得一体化の制度導入に関する順序というところのお話を、もし今お考えとかがあればお聞きしたいと思います。

○森信委員

手短に話だけ。最後のほうの質問からお答えしますと、利子所得の一体化は番号という話がありますが、今の源泉分離を申告分離にすれば、特定口座の中での一体化は十分行えると思います。

それから、さっきの非上場の話は非常に難しい問題です。配当というのは事業的性格を持っている所得ですよね。だから、株式を例えば5割も持っていれば、自分が資本を投下して得る事業所得そのもので金融所得ではない。今はたしか持ち株比率5%で切られていて、5%よりもたくさん持っていると、事業所得ということで総合課税です。もっとも、この比率をもう少し広げることは考えてもいいのではないでしょうか。非上場の会社の場合には、給与所得で取るのか配当で取るのかどちらが税制上有利かという問題、租税回避をどう防ぐかという問題があります。方向としては、なるべく金融所得一体課税に取り込んでいくというのが望ましいのではないかというふうに思います。

○神崎政策課長

まだご議論もあろうかと思いますけれども、もうかなりお時間も超過しておりますので、この辺で終了させて頂きたいと思います。

先ほど和泉委員から議論の方向性というお話があったので、ちょっとご説明させて頂きますと、今日を含めて3回は何名かの委員の方からプレゼンテーションを頂くことをお願いしておりまして、その間はいろいろ、特に論点なり、あるいは議論の範囲を決めないで、自由に討議をお願いしたいというふうに考えております。

その後で、論点整理のたたき台のようなものを、ご議論を踏まえて我々のほうで用意させて頂いて、そこでは論点をかなり絞った形で、また議論をお願いしたいというふうに考えておりますので、次回と次々回につきましては、またプレゼンテーションを最初にお願いして、その後で、いろいろ皆さんバックグラウンドなりご専門があるかと思いますので、本当に自由にご意見なりご議論をして頂ければというふうに考えているところでございます。

それでは、ここで本日の研究会を終了したいと思います。

次回でございますけれども、6月18日金曜日、10時から、会場はこの建物の12階にございます共用第2特別会議室のほうで開催させて頂きたいと思います。

本日は、すみません、時間のほうがかなり超過いたしましたけれども、お忙しい中ご出席頂きまして、どうもありがとうございました。

以上

お問い合わせ先

金融庁Tel 03-3506-6000(代表)
総務企画局政策課総合政策室(内線3182、3716)

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