【法令解説】

信託法改正に伴う信託業法の改正の概要について

平成18年12月8日、第165回国会において「信託法」(平成18年法律第108号)及び「信託法の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律」(平成18年法律第109号)(以下「整備法」といいます。)が可決・成立し、同月15日に公布されました。信託業法についても、信託法の改正内容に伴うものを措置するとの位置付けから、信託法改正によって必要となる種々の法律改正を一括して行う法務省提出の整備法の中において改正が行われました。

これに伴い、金融庁では、「信託法及び信託法の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律の施行に伴う金融庁関係政令の整備に関する政令(案)」及び「信託業法施行規則等の一部を改正する内閣府令等(案)」を平成19年4月4日にパブリックコメントに付し、平成19年7月13日付でその結果について公表しました。本件政府令は同日公布されています。

施行日は、法律、政府令とも、信託法(平成18年第法律108号)の施行日である平成19年9月30日となっています。

以下では、信託法改正に伴う信託業法及び同政府令の改正の概要についてご紹介します。

1.基本的な考え方

信託法の改正に伴い、信託業法の改正についても、平成17年11月16日から金融審議会金融分科会第二部会と信託ワーキンググループの合同会合において検討が行われ、平成18年1月26日に、「信託法改正に伴う信託業法の見直しについて」が取りまとめられました。この中で、信託法改正に伴う信託業法の改正については、基本的な考え方として、

  • (1)原則として、委託者・受益者保護の必要性及び規制のあり方については、改正前の信託業法の枠組みを維持する

  • (2)新しい信託類型については適切な参入要件を設けつつ、信託会社と同様の受託者義務を負わせることによって受益者保護を図る

  • (3)受託者義務については受益者保護の要請を勘案しつつ、実務上不都合が生じている部分について措置する

旨が示され、この内容を踏まえて、信託業法の改正作業は進められました。

2.受託者の管理運用上の義務

新しい信託法では、受託者の善管注意義務、忠実義務等が任意規定化され、当事者間の契約により軽減等が可能となっていますが、信託業法では、信託会社については、現行どおり善管注意義務、忠実義務を強行規定として課すこととしています。これは、信託会社と顧客の間の情報力等の格差から、善管注意義務の水準を当事者間の契約に委ねると、信託会社に過度に有利な契約となり、顧客保護が確保されない可能性があり、また、受託者の権限濫用や利益相反行為を防止し、当該義務の履行を確実に担保する必要があると考えられるためです。

なお、自己取引等の利益相反行為の禁止については、禁止が解除される要件の明確化を図るため、受益者の保護に支障がないと考えられる場合を信託業法施行規則に定め、許容される取引類型を明確化しました。また、取引が制限される利害関係人の範囲についても、銀行法上の特定関係者の範囲を参考に見直しました。

そして、信託業務の第三者への委託について、新しい信託法は、原則として、受託者は善管注意義務に基づいて委託でき、信託行為の定めがない場合でも委託できると整理していますが、信託業法は、信託行為の定めがなければ原則として信託業務を委託することはできず、委託先に信託会社と同様の善管注意義務・忠実義務等の義務を課すこととして、現行どおりの枠組みを維持することしています。

ただし、(1)信託財産の保存行為に係る業務、(2)信託財産の性質を変えない範囲内において、その利用又は改良を目的とする業務、(3)信託会社が行う業務の遂行にとって補助的な機能を有する行為等信託業法施行規則に定めた一定の行為については、受益者保護の観点から問題のない範囲で信託行為に定めがない場合でも委託が可能とされました。また、委託先が信託会社と同様の機能を果たしているとまでは考えられない場合には委託先に義務を課す必要はないと考えられますので、その場合は、委託先に義務が課せられる範囲も限定することとされました。

3.新しい信託類型に対する信託業法の規制

新しい信託法では、受益証券発行信託、信託法第3条第3号に掲げる方法によってする信託(自己信託)、受益者の定めのない信託(目的信託)、限定責任信託の4類型が創設されました。

このうち、受益証券発行信託、限定責任信託、目的信託については、通常の信託における受託者に対する従前の参入規制、行為規制を原則としつつ、信託類型に応じて必要となる説明義務等を加重しました。たとえば、目的信託は受益者の定めのない信託ですから受益者保護を考慮する必要がありません。受託者は委託者に対して説明義務・書面交付義務等を負うとされています。また、限定責任信託には通常の信託と異なり財産分配規制がありますので、限定責任信託の受託者は、通常の説明義務に加えて財産分配規制について委託者への説明義務を負うとされています。

他方、自己信託については、信託業とは別の規律に服するものとして新たな規律が設けられました。自己信託を営業として行ったとしても、信託業に該当することはありませんが、多数の者を相手方として自己信託を行う場合には、改正信託業法第50条の2第1項の登録を取得する必要があります。どのような場合が多数の者を相手方として自己信託を行う場合に該当するかについては信託業法施行令に具体的に定められており、多数の者は50名以上とされています。

そして、自己信託を行う者の受託者としての管理運用上の義務は、通常の信託会社の場合と基本的には同じですが、自己信託の登録の要件は、共通点も多いものの信託会社の免許・登録の要件とは異なります。例えば、自己信託の登録に必要な最低資本金は3,000万円とされており、株式会社でなくとも会社法上の会社であれば登録可能です。また、専業制はとられておらず、代わりに経常損益、純資産額などを基準に他業の健全性が客観的に担保されていることが必要とされています。さらに、自己信託の場合の追加的義務として、実体のない財産や過大評価された財産を引当てとする受益権が多数の投資家に販売されることを防止するため、信託設定される財産の状況等について弁護士、公認会計士等の第三者の調査を受ける必要があることが法令上の義務として定められています。兼業規制の具体的な内容や、第三者の調査の具体的調査事項については信託業法施行規則に定められています。

なお、自己信託については、信託法の施行の日から起算して一年を経過する日までの間は適用しないとされており、それまでは、信託業法における自己信託に関する規定も適用されません。

3.信託業の適用除外

信託業とは、「信託の引受けを行う営業をいう」と定義されていますが、単に信託契約を締結する場合以外にも、他の契約に付随して金銭の預託等を行う場合に、時に当事者間でも予期せぬ形で信託が成立していることがあります。このような場合にまで、信託業法を適用するのは妥当でないことから、(1)弁護士等が弁護士業務に必要な費用に充てる目的で金銭の預託を受ける行為その他の委任契約における受任者が委任事務に必要な費用に充てる目的で金銭の預託を受ける行為、(2)請負人がその仕事に必要な費用に充てる目的で金銭の預託を受ける行為が、信託業法施行令において信託業の適用除外となる行為として定められました。

なお、信託業法の適用除外とされているのは、他の契約を締結することにより、当事者間でも予期せぬ形で信託の成立が認められるような類型だけです。信託契約を締結する行為そのものが適用除外とされているわけではないことに注意が必要です。

自己信託についても、サービサーが債権回収した金銭等を自己信託する場合等受益者保護のため支障を生ずることがないと認められる一定の場合が自己信託の登録の適用除外として信託業法施行令・施行規則に定められました。

以上、信託法改正に伴う信託業法及び同政府令の改正の概要について簡単にご紹介しましたが、この他にも信託法の改正に伴い所要の規定の整備が行われています。


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