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- 中小・地域金融機関向けの総合的な監督指針
II 銀行監督上の評価項目
II -1 経営管理(ガバナンス)
II -1-1 意義
リレーションシップバンキング(間柄重視の地域密着型金融)を展開する中小・地域金融機関の持続可能性を確保し、経営の健全性の維持及びその一層の向上を図るためには、経営に対する規律付けが有効に機能し、適切な経営管理(ガバナンス)が行われることが重要である。
II -1-2 主な着眼点
経営管理が有効に機能するためには、その組織の構成要素がそれぞれ本来求められる役割を果たしていることが前提となる。具体的には、取締役会、監査役(会)といった機関が経営をチェックできていること、各部門間のけん制や内部監査部門が健全に機能していること等が重要である。また、代表取締役、取締役、監査役及び全ての職階における職員が自らの役割を理解し、そのプロセスに十分関与することが必要となる。
また、銀行法は、銀行業務の高度な公共性にかんがみ、信用維持と預金者等の保護及び金融の円滑を確保するため、銀行の業務の健全かつ適切な運営を求めていることを踏まえ、銀行の常務に従事する取締役及び監査役には、その資質について極めて高いものが求められる。
なお、上場会社は、平成26年の会社法改正及び金融商品取引所の規程において、社外取締役の確保について規定されているほか、同規程においては、コーポレートガバナンス・コードを尊重してコーポレート・ガバナンスの充実に取り組むよう努めることとされており、非上場会社に比べ、より高い水準の経営管理(ガバナンス)が要求されている。上記を踏まえ、銀行及び銀行持株会社の経営管理(ガバナンス)態勢のモニタリングに当たっては、例えば、以下のような着眼点に基づき、その機能が適切に発揮されているかどうかを検証することとする。
(注) 本監督指針においては、監査役会設置会社である銀行の場合を前提に記載するが、指名委員会等設置会社又は監査等委員会設置会社である銀行の場合には、主要行等向けの総合的な監督指針に準じるほか、実態に即して適宜読み替えて検証等をすることとする。
検証に当たっては、金融審議会金融分科会第二部会報告書「リレーションシップバンキングの機能強化に向けて」(平成15年3月27日)において「中小・地域金融機関についてこれまで経営の健全性が損なわれた事例の一部を見ると、『創業者一族による長期経営』、『経営トップによる過度なワンマン経営』、『特定大口先の融資拡大』等の弊害が明らかになっている」等の指摘がなされていることに留意するものとする。
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(1)コーポレートガバナンス・コードの各原則において求められている水準の経営管理(ガバナンス)態勢を構築するにあたって、以下の項目を含め、コーポレートガバナンス・コードに則って、適切に取組みを進めているか。
(注) コーポレートガバナンス・コードは、いわゆる「プリンシプルベース・アプローチ」(原則主義)、及び「コンプライ・オア・エクスプレイン」(原則を実施するか、実施しない場合には、その理由を説明するか)の手法を採用していることに留意することとする。
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独立社外取締役は、上場銀行及び上場銀行持株会社(以下「上場銀行等」という。)の持続的な成長と中長期的な企業価値の向上に寄与するように役割・責務を果たすべきであり、上場銀行等はそのような資質を十分に備えた独立社外取締役を少なくとも2名以上選任しているか。
また、業種・規模・事業特性・機関設計・当該上場銀行等をとりまく環境等を総合的に勘案して、自主的な判断により、少なくとも3分の1以上の独立社外取締役を選任することが必要と考える上場銀行等は、上記にかかわらず、そのための取組み方針を開示しているか。
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上場銀行等がいわゆる政策保有株式として上場株式を保有する場合には、政策保有に関する方針を開示しているか。また、毎年、取締役会で主要な政策保有についてそのリターンとリスクなどを踏まえた中長期的な経済合理性や将来の見通しを検証し、これを反映した保有のねらい・合理性について具体的な説明を行っているか。上場銀行等は、政策保有株式に係る議決権の行使について、適切な対応を確保するための基準を策定・開示しているか。
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(2)代表取締役
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法令等遵守を経営上の重要課題の一つとして位置付け、代表取締役が率先して法令等遵守態勢の構築に取り組んでいるか。
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代表取締役は、リスク管理部門を軽視することが企業収益に重大な影響を与えることを十分認識し、リスク管理部門を重視しているか。
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代表取締役は、財務情報その他の企業情報を適正かつ適時に開示するための内部管理態勢を構築しているか。
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代表取締役は、内部監査の重要性を認識し、内部監査の目的を適切に設定するとともに、内部監査部門の機能が十分発揮できる態勢を構築(内部監査部門の独立性の確保を含む。)し、定期的にその有効性を検証しているか。また、内部監査態勢に関し、監査役監査又は当局検査等で指摘された問題点を踏まえ、実効性ある態勢整備に積極的に取り組んでいるか。
また、内部監査の結果等については速やかに適切な措置を講じているか。
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代表取締役は、監査役監査の重要性及び有用性を十分認識し、監査役監査の有効性確保のための環境整備が重要であることを認識しているか。
特に、監査役監査を取り巻く環境の変化に対応した動き、例えば監査役監査基準(公益社団法人日本監査役協会)等を理解し、監査役の円滑な監査活動を保障しているか。
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代表取締役は、断固たる態度で反社会的勢力との関係を遮断し排除していくことが、金融機関に対する公共の信頼を維持し、金融機関の業務の適切性及び健全性の確保のため不可欠であることを十分認識し、「企業が反社会的勢力による被害を防止するための指針について」(平成19年6月19日犯罪対策閣僚会議幹事会申合せ。以下 II -1-2において「政府指針」という。)の内容を踏まえて取締役会で決定された基本方針を行内外に宣言しているか。
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(3)取締役及び取締役会
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取締役は、業務執行にあたる代表取締役等の独断専行をけん制・抑止し、取締役会における業務執行の意思決定及び取締役の業務執行の監督に積極的に参加しているか。
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社外取締役が選任されている場合には、社外取締役は、経営の意思決定の客観性を確保する等の観点から自らの意義を認識し、積極的に取締役会に参加しているか。また、社外取締役の選任議案を決定する場合には、社外取締役に期待される役割を踏まえ、銀行との人的関係、資本的関係又は取引関係その他の利害関係を検証し、その独立性・適格性等を慎重に検討しているか。
また、社外取締役が取締役会で適切な判断をし得るよう、例えば、情報提供を継続的に行う等、何らかの枠組みを設けているか。
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取締役会は、例えば、法令等遵守やリスク管理等に関する経営上の重要な意思決定・経営判断に際し、必要に応じ、外部の有識者の助言、外部の有識者を委員とする任意の委員会等を活用するなど、その妥当性・公正性を客観的に確保するための方策を講じているか。
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取締役会は、銀行が目指すべき全体像等に基づいた経営方針を明確に定めているか。さらに、経営方針に沿った経営計画を明確に定め、それを組織全体に周知しているか。また、その達成度合いを定期的に検証し必要に応じ見直しを行っているか。
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取締役及び取締役会は、法令等遵守に関し、誠実に、かつ率先垂範して取り組み、全行的な内部管理態勢の確立のため適切に機能を発揮しているか。
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取締役会は、リスク管理部門を軽視することが企業収益に重大な影響を与えることを十分認識し、リスク管理部門を重視しているか。特に担当取締役はリスクの所在及びリスクの種類を理解した上で、各種リスクの測定・モニタリング・管理等の手法について深い認識と理解を有しているか。
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取締役会は、戦略目標を踏まえたリスク管理の方針を明確に定め、行内に周知しているか。また、リスク管理の方針は、定期的又は必要に応じ随時見直しているか。さらに、定期的にリスクの状況の報告を受け、必要な意思決定を行うなど、把握したリスク情報を業務の執行及び管理体制の整備等に活用しているか。
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取締役会は、あらゆる職階における職員に対し経営管理の重要性を強調・明示する風土を組織内に醸成するとともに、適切かつ有効な経営管理を検証し、その構築を図っているか。
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取締役会は内部監査の重要性を認識し、内部監査の目的を適切に設定するとともに、内部監査部門の機能が十分発揮できる態勢を構築(内部監査部門の独立性の確保を含む。)し、定期的にその有効性を検証しているか。また、内部監査態勢に関し、監査役監査又は当局検査等で指摘された問題点を踏まえ、実効性ある態勢整備に積極的に取り組んでいるか。
また、被監査部門等におけるリスク管理の状況等を踏まえた上で、監査方針、重点項目等の内部監査計画の基本事項を承認しているか。
さらに、内部監査の結果等については速やかに適切な措置を講じているか。
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取締役は、監査役監査の重要性及び有用性を十分認識し、監査役監査の有効性確保のための環境整備が重要であることを認識しているか。また、監査役選任議案を決定するに際し、監査役としての独立性・適格性等を慎重に検討しているか。特に、社外監査役が監査体制の中立性・独立性を一層高める観点からその選任が義務付けられている趣旨を認識しているか。
さらに、社外監査役が適切な判断をし得るよう、例えば、情報提供を継続的に行う等、何らかの枠組みを設けているか。
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法令等遵守態勢、リスク管理態勢及び財務報告態勢等の内部管理態勢(いわゆる内部統制システム)を構築することは、取締役の善管注意義務及び忠実義務の内容を構成することを理解し、その義務を適切に果たそうとしているか。
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取締役会は、政府指針を踏まえた基本方針を決定し、それを実現するための体制を整備するとともに、定期的にその有効性を検証するなど、法令等遵守・リスク管理事項として、反社会的勢力による被害の防止を内部統制システムに明確に位置付けているか。
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銀行の常務に従事する取締役の選任議案の決定プロセス等においては、その適格性について、法第7条の2に掲げる「経営管理を的確、公正かつ効率的に遂行することができる知識及び経験」及び「十分な社会的信用」として、例えば以下のような要素が適切に勘案されているか。
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イ.経営管理を的確、公正かつ効率的に遂行することができる知識及び経験
銀行法等の関連諸規制や監督指針で示している経営管理の着眼点の内容を理解し、実行するに足る知識・経験、銀行業務の健全かつ適切な運営に必要となるコンプライアンス及びリスク管理に関する十分な知識・経験、その他銀行の行うことができる業務を適切に遂行することができる知識・経験を有しているか。
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ロ.十分な社会的信用
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a.反社会的行為に関与したことがないか。
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b.暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律第2条第6号に規定する暴力団員(過去に暴力団員であった者を含む。以下「暴力団員」という。)ではないか、又は暴力団と密接な関係を有していないか。
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c.金融商品取引法等我が国の金融関連法令又はこれらに相当する外国の法令の規定に違反し、又は刑法若しくは暴力行為等処罰に関する法律の罪を犯し、罰金の刑(これに相当する外国の法令による刑を含む。)に処せられたことがないか。
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d.禁錮以上の刑(これに相当する外国の法令による刑を含む。)に処せられたことがないか。
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e.過去において、所属した法人等又は現在所属する法人等が金融監督当局より法令等遵守に係る業務改善命令、業務停止命令、又は免許、登録若しくは認可の取消し等の行政処分を受けており、当該処分の原因となる事実について、行為の当事者として又は当該者に対し指揮命令を行う立場で、故意又は重大な過失(一定の結果の発生を認識し、かつ回避し得る状態にありながら特に甚だしい不注意)によりこれを生ぜしめたことがないか。
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f.過去において、金融監督当局より役員等の解任命令を受けたことがないか。
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g.過去において、金融機関等の破綻時に、役員として、その原因となったことがないか。
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(4)監査役及び監査役会
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監査役及び監査役会は、制度の趣旨に則り、その独立性が確保されているか。
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監査役及び監査役会は、独立の機関として取締役の職務執行を監査することにより、銀行の健全で持続的な成長を確保することが基本責務であることを認識し、付与された広範な権限を適切に行使し、会計監査に加え業務監査を的確に実施し必要な措置を適時に講じているか。
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監査役及び監査役会は、監査の実効性を高め監査職務を円滑に遂行するため、監査役の職務遂行を補助する体制等を確保し有効に活用しているか。
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各監査役は、あくまでも独任制の機関であることを自覚し、自己の責任に基づき積極的な監査を実施しているか。特に社外監査役は、監査体制の中立性・独立性を一層高める観点からその選任が義務付けられていることを自覚し、客観的に監査意見を表明することが特に期待されていることを認識し、監査を実施しているか。また、常勤監査役は、常勤者としての特性を踏まえ、監査環境の整備及び情報収集に積極的に努めるなど、行内の経営管理態勢及びその運用状況を日常的に監視・検証しているか。
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監査役会は、取締役が株主総会に提出する監査役の選任議案について、同意の審議に際し、その独立性・適格性等を慎重に検討しているか。
特に社外監査役については、銀行との人的関係、資本的関係又は取引関係その他の利害関係を検証しているか。
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銀行の監査役は業務監査の職責を担っていることから、取締役が内部管理態勢(いわゆる内部統制システム)の構築を行っているか否かを監査する職務を担っており、これが監査役としての善管注意義務の内容を構成することを理解し、その義務を適切に果たそうとしているか。
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銀行の監査役の選任議案の決定プロセス等においては、その適格性について、法第7条の2に掲げる「銀行の取締役の職務の執行の監査を的確、公正かつ効率的に遂行することができる知識及び経験」及び「十分な社会的信用」として、例えば以下のような要素が適切に勘案されているか。
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イ.銀行の取締役の職務の執行の監査を的確、公正かつ効率的に遂行することができる知識及び経験
独任制の機関として自己の責任に基づき積極的な監査を実施するに足る知識・経験、その他独立の立場から取締役の職務の執行を監査することにより、銀行業務の健全かつ適切な運営を確保するための知識・経験を有しているか。
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ロ.十分な社会的信用
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a.反社会的行為に関与したことがないか。
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b.暴力団員ではないか、又は暴力団と密接な関係を有していないか。
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c.金融商品取引法等我が国の金融関連法令又はこれらに相当する外国の法令の規定に違反し、又は刑法若しくは暴力行為等処罰に関する法律の罪を犯し、罰金の刑(これに相当する外国の法令による刑を含む。)に処せられたことがないか。
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d.禁錮以上の刑(これに相当する外国の法令による刑を含む。)に処せられたことがないか。
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e.過去において、所属した法人等又は現在所属する法人等が金融監督当局より法令等遵守に係る業務改善命令、業務停止命令、又は免許、登録若しくは認可の取消し等の行政処分を受けており、当該処分の原因となる事実について、行為の当事者として又は当該者に対し指揮命令を行う立場で、故意又は重大な過失(一定の結果の発生を認識し、かつ回避し得る状態にありながら特に甚だしい不注意)によりこれを生ぜしめたことがないか。
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f.過去において、金融監督当局より役員等の解任命令を受けたことがないか。
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g.過去において、金融機関等の破綻時に、役員として、その原因となったことがないか。
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(参考) 「監査役監査基準」(公益社団法人日本監査役協会)
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(5)管理者(営業店長と同等以上の職責を負う上級管理者)
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管理者は、リスクの所在、リスクの種類及びリスク管理手法を十分に理解した上で、リスク管理の方針に沿って、リスクの種類に応じた測定・モニタリング・管理など、適切なリスク管理を実行しているか。
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管理者は、取締役会等で定められた方針に基づき、相互けん制機能を発揮させるための施策を実施しているか。
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(6)内部監査部門
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内部監査部門は、被監査部門に対して十分けん制機能が働くよう独立する一方、被監査部門の業務状況等に関する重要な情報を適時収集する態勢・能力を有し、銀行を取り巻く環境や業務状況に的確に対応した、実効性ある内部監査が実施できる体制となっているか。
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内部監査部門は、被監査部門におけるリスク管理状況等を把握した上、リスクの種類・程度に応じて、頻度・深度に配慮した効率的かつ実効性ある内部監査計画を立案し、状況に応じて適切に見直すとともに、内部監査計画に基づき効率的で実効性ある内部監査を実施しているか。
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内部監査部門は、内部監査で指摘した重要な事項について遅滞なく代表取締役及び取締役会に報告しているか。また、内部監査部門は、指摘事項の改善状況を的確に把握しているか。
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(7)外部監査の活用
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実効性ある外部監査が、銀行の業務の健全かつ適切な運営の確保に不可欠であることを十分認識し、有効に活用しているか。
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外部監査が有効に機能しているかを定期的に検証するとともに、外部監査の結果等について適切な措置を講じているか。
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関与公認会計士の監査継続年数等、適切に取り扱われているか。
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(8)監査機能の連携
外部監査機能と内部監査部門又は監査役・監査役会の連携が有効に機能しているか。
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(参考) 経営管理態勢に関する監督に当たっての着眼点については、以下が参考となる。
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バーゼル銀行監督委員会「銀行組織における内部管理体制のフレームワーク」(1998年9月)
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バーゼル銀行監督委員会「銀行組織にとってのコーポレート・ガバナンスの強化」(1999年9月)
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「企業が反社会的勢力による被害を防止するための指針について」(平成19年6月19日犯罪対策閣僚会議幹事会申合せ)
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II -1-3 監督手法
下記のヒアリング及び通常の監督事務等を通じて、経営管理態勢について検証することとする。
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(1)オフサイト・モニタリング
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総合的なヒアリング
総合的なヒアリングにおいて、経営上の課題、経営戦略及びその諸リスク、取締役会・監査役(会)の機能発揮の状況等に関しヒアリングを行うこととする。
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トップヒアリング
トップヒアリングにおいて、銀行の経営者に対し、経営戦略及び経営方針、リスク管理に関する認識等につきヒアリングを行うこととする。
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内部監査ヒアリング等
内部監査ヒアリングにおいて、銀行の内部監査部門に対し、内部監査の体制、監査計画の立案状況、内部監査の実施状況、問題点の是正状況及び今後の課題等につきヒアリングを行うこととする。
また、特に必要があると認められる場合には、銀行の監査役、社外取締役及び会計監査人に対してもヒアリングを実施することとする。
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(2)通常の監督事務を通じた経営管理態勢の検証
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経営管理態勢については、上記(1)
から
のヒアリングに加え、例えば、免許審査、取締役、監査役及び会計監査人の選任・退任届出の受理、検査結果通知のフォローアップ、不祥事件等届出書の受理、早期警戒制度、早期是正措置などの通常の監督事務を通じても、その有効性について検証することとする。
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特に、内部管理態勢等に問題があると認められ、法第24条に基づき改善対応策の報告を求めた場合や、特に重大な問題が認められ、法第26条に基づく業務改善計画の提出を求めた場合には、問題の発生原因分析を踏まえ、必要に応じ、経営管理機能が適切に発揮される態勢となっている改善対応策又は業務改善計画となっているかどうかについても検証することとする。
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II -1-4 監督上の対応
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(1)上記のオフサイト・モニタリング及び通常の監督事務を通じた検証の結果、経営管理態勢の有効性等に疑義が生じた場合には、原因及び改善策等について、深度あるヒアリングを行い、必要な場合には法第24条に基づき報告を求めることを通じて、経営管理態勢の着実な改善を促すものとする。
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(2)また、役員が重大な法令違反等の社会的な信用を失墜する行為を行った場合、業務改善命令を受けたにもかかわらず経営管理に問題があり改善の実施状況が不芳である場合、又は異なる事由で多数の業務改善命令を受けている場合等、経営管理態勢に重大な問題があると認められる場合には、法第26条に基づき経営管理態勢の確立を求める業務改善命令を発出し、状況に応じ、例えば、
内部監査機能等の相互けん制機能の強化、
社外取締役、外部の専門家等を登用した監視態勢の構築、
監査役会設置会社、指名委員会等設置会社及び監査等委員会設置会社の制度間の移行の検討等を求めるものとする。
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(3)銀行の常務に従事する取締役及び監査役が、II-1-2(3)
及びII-1-2(4)
に掲げる勘案すべき要素に照らし不適格と認められる場合、又はその選任議案の決定に当たり、十分な要素が勘案されていないと認められる場合であって、銀行業務の健全かつ適切な運営を確保するため必要があると認められるときは、取締役・監査役の適格性や経営管理の遂行状況、それらについての銀行の認識、及び取締役・監査役の選任議案の決定プロセス等について深度あるヒアリングを行い、必要な場合には法第24条に基づき報告を求めるものとする。また、報告徴求の結果、経営管理態勢に重大な問題があると認められる場合で、自主的な改善努力に委ねたのでは、銀行の業務の健全かつ適切な運営に支障を来すおそれがあると認められる場合には、法第26条に基づき業務改善命令を発出するものとする。
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(注)II-1-2(3)
及びII-1-2(4)
に掲げる取締役・監査役の知識・経験及び社会的信用に係る着眼点は、各銀行の取締役・監査役の選任プロセス等における自主的な取組みを基本としつつ、その過程において法第7条の2に規定されている適格性が適切に判断されているかどうかを当局が確認するための事項の例示であり、また、特定の事項への該当をもって直ちにその適格性を判断するためのものではない。取締役・監査役の選任議案の決定等に当たっては、まずは銀行自身がその責任において、上記着眼点も踏まえつつ、その時々の時点における取締役・監査役個人の資質を総合的に勘案して適切に判断するとともに、免許申請や取締役・監査役の選任届出等において、監督当局への説明責任を果たすべきものであることに留意する必要がある(様式・参考資料編 様式1-1、1-1の2、4-15-1-1~4-15-2-2参照)。
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(4)銀行が法令、定款若しくは法令に基づく内閣総理大臣の処分に違反したとき又は公益を害する行為をしたときで、銀行の常務に従事する取締役・執行役・監査役・監査委員・監査等委員の適格性の不備にその主たる原因があると認められるとき、会計監査人が職務上の義務に違反し、又は職務を怠ったことに重大な原因があると認められるときなどの場合には、法第27条に基づき取締役・執行役・監査役・監査委員・監査等委員・会計監査人の解任を命ずることを検討するものとする。
II -2 財務の健全性等
II -2-1 自己資本(早期是正措置)
II -2-1-1 意義
銀行は、預金者等の信認を確保するため、自己資本の充実を図り、リスクに応じた十分な財務基盤を保有することは極めて重要である。財務内容の改善が必要とされる銀行にあっては、自己責任原則に基づき主体的に改善を図ることが求められるが、当局としても、それを補完する役割を果たすものとして、銀行の財務の健全性を確保するため、自己資本比率という客観的な基準を用い、必要な是正措置命令を迅速かつ適切に発動していくことで、銀行の経営の早期是正を促していく必要がある。
II -2-1-2 監督手法・対応
「銀行法第二十六条第二項に規定する区分等を定める命令」(以下「区分等を定める命令」という。)において具体的な措置内容等を規定する早期是正措置について、下記のとおり運用することとする。
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(1)命令発動の前提となる自己資本比率
「区分等を定める命令」第1条第1項及び第2項の表の区分に係る自己資本比率は、次の自己資本比率によるものとする。
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決算状況表(中間期にあっては中間決算状況表)により報告された自己資本比率(ただし、業務報告書(中間期にあっては中間業務報告書)の提出後は、これにより報告された自己資本比率)
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上記
が報告された時期以外に、当局の検査結果等を踏まえた銀行と監査法人等との協議の後、当該銀行から報告された自己資本比率
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(注) 本監督指針における自己資本比率の具体的計数は、明示的な規定のない限り、便宜的に、海外営業拠点を有しない銀行の自己資本比率である国内基準の数値を用いることとし、海外営業拠点を有する銀行にあっては、主要行等向けの総合的な監督指針「III-2-1-3 早期是正措置」に定める国際統一基準の自己資本比率の区分と読み替えるものとする。
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(2)「区分等を定める命令」第1条第1項又は第2項の表の区分に基づく命令
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第1区分の命令、第2区分の命令及び第2区分の2の命令の相違
第1区分の「経営の健全性を確保するための合理的と認められる改善計画(原則として資本の増強に係る措置を含むものとする。)の提出の求め及びその実行の命令」は、経営の健全性が確保されている基準として自己資本比率4%以上の水準の達成を着実に図るためのものである。したがって、計画全体として経営の健全性が確保されるものであることを重視し、その実行に当たっては、基本的に銀行の自主性を尊重することとする。
第2区分の「次の各号に掲げる自己資本の充実に資する措置に係る命令」は、自己資本比率が、経営の健全性を確保する水準をかなり下回っており、これを早期に改善するためのものである。したがって、個々の措置は、当該銀行の経営実態を踏まえたものにする必要があることから当該銀行の意見は踏まえるものの、当局の判断によって措置内容を定めることとする。なお、銀行が当該措置を実行するに当たっては、基本的に個々の措置毎に命令を達成する必要がある。
第2区分の2の「自己資本の充実、大幅な業務の縮小、合併又は銀行業の廃止等の措置のいずれかを選択した上当該選択に係る措置を実施することの命令」は、自己資本の充実の状況が特に著しい過小資本の状況にある銀行に対し、これを速やかに改善するか、銀行業務の継続を断念するかを迫るものである。
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第1区分に係る改善計画の内容
「経営の健全性を確保するための合理的と認められる改善計画」とは、当該改善計画を実行することにより、原則として1年以内に自己資本比率が4%以上の水準を達成する内容の計画とする。
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第2区分に係る措置の内容
「自己資本の充実に資する措置」とは、自己資本比率が、原則として1年以内に少なくとも2%以上の水準を達成するための措置とする。
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第2区分の2に係る措置の内容
「自己資本の充実、大幅な業務の縮小、合併又は銀行業の廃止等の措置のいずれか」のうち、当該銀行が合併(解散会社となる場合)、銀行業の廃止以外の措置を選択した場合にあっては、自己資本比率が、原則として1年以内に少なくとも2%以上の水準を達成するための措置とする。
また、当該銀行が合併等を選択した場合にあっては、例えば合併の場合には合併の相手方の意思が明確であるなど確実に実現する内容であることが必要である。
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(3)改善までの期間
自己資本比率を改善するための所要期間については上記(2)
から
を目途とするが、銀行が策定する経営改善のための計画等が、当該銀行に対する預金者、投資家、市場の信認を維持・回復するために十分なものでなければならないことは言うまでもない。したがって、当該銀行の市場との関係の程度等によっては、市場の信認を早急に回復する必要があるため、上記の期間を大幅に縮減する必要がある。例えば、国際統一基準行であれば、少なくとも1年以内(原則として翌決算期まで)に第1区分に係る自己資本比率の範囲を上回る水準を回復するための計画等であることが必要である。
また、銀行が預金保険法第105条の規定に基づき株式等の引受け等に係る申込みを行う場合にあっては、自己資本比率を改善するための所要期間については、同条第3項の規定に基づく経営健全化計画と同一でなければならない。
なお、銀行が、「区分等を定める命令」第2条第1項の規定により、その自己資本比率を当該銀行が該当する「区分等を定める命令」第1条第1項又は第2項の表の区分に係る自己資本比率の範囲を超えて確実に改善するための合理的と認められる計画を提出した場合であって、当該銀行に対し、当該銀行が該当する同表の区分に係る自己資本比率の範囲を超える自己資本比率に係る同表の区分に掲げる命令を発出するときは、上記(2)の自己資本比率を改善するための所要期間には、下記II-2-1-3(1)の自己資本比率を当該銀行が該当する同表の区分に係る自己資本比率の範囲を超えて確実に改善するための期間は含まないものとする。
II -2-1-3 「区分等を定める命令」第2条第1項に規定する合理性の判断基準
「区分等を定める命令」第2条第1項の「自己資本比率の範囲を超えて確実に改善するための合理的と認められる計画」の合理性の判断基準は、次のとおりとする。
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(1)銀行の業務の健全かつ適切な運営を図り当該銀行に対する預金者等の信頼をつなぎ止めることができる具体的な資本増強計画等を含み、自己資本比率が、原則として3か月以内に当該銀行が該当する「区分等を定める命令」第1条第1項又は第2項の表の区分に係る自己資本比率の範囲を超えて確実に改善する内容の計画であること。
(注) 増資等の場合は、出資予定者等の意思が明確であることが必要である。
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(2)当該銀行が預金保険法第105条の規定に基づき株式等の引受け等に係る申込みを行う場合にあっては、同条第3項の規定に基づく経営健全化計画と整合的な内容であること。
II -2-1-4 命令区分の根拠となる自己資本比率
「区分等を定める命令」第2条第1項の適用に当たり「実施後に見込まれる当該銀行の自己資本比率以下の自己資本比率に係る同表の区分(非対象区分を除く。)に掲げる命令」は、原則として3か月後に確実に見込まれる自己資本比率の水準に係る区分(非対象区分を除く。)に掲げる命令とする。
II -2-1-5 計画の進捗状況の報告等
計画の進捗状況は、その実施完了までの間、毎期(中間期を含む。)報告させることとし、その後の実行状況が計画と大幅に乖離していない場合は、原則として計画期間中新たな命令は行わないものとする。ただし、第2区分の2の命令を行った銀行にあっては、その後自己資本比率が1%以上4%未満の範囲に達したときは、当該時点における自己資本比率に係る区分に掲げる命令を行うことができるものとし、第2区分の命令を行った銀行にあっては、その後自己資本比率が2%以上4%未満の範囲に達したときは、当該時点において第1区分の命令を行うことができるものとする。
また、銀行が、「区分等を定める命令」第2条第1項の規定により、その自己資本比率を当該銀行が該当する「区分等を定める命令」第1条第1項又は第2項の表の区分に係る自己資本比率の範囲を超えて確実に改善するための合理的と認められる計画を提出し、当該銀行に対し、当該銀行が該当する同表の区分に係る自己資本比率の範囲を超える自己資本比率に係る同表の区分に掲げる命令を発出した場合においては、原則として増資等の手続きに要する期間の経過後直ちに、当該銀行の自己資本比率が、当該銀行が発出を受けた命令が掲げられた同表の区分に係る自己資本比率以上の水準を達成していないときは、当該時点における自己資本比率に係る同表の区分に掲げる命令を発出するものとする。
II -2-1-6 「区分等を定める命令」第2条第2項に掲げる資産の評価基準
「区分等を定める命令」第2条第2項各号に掲げる資産のうち、次に掲げる資産については、それぞれに規定する方法により評価するものとする。
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(1)第1号「有価証券」
「区分等を定める命令」第2条第2項第1号の「公表されている最終価格」とは、取引所取引価格、基準気配値、基準価格等とする。また、「これに準ずるものとして合理的な方法により算出した価額」とは、金融商品取引業者等から算出日の時価情報として入手した評価額又は銀行の独自の評価方法によるもので合理的と認められるものとする。
なお、算出に当たっては、以下の点に留意する。
-
株式又は社債で発行会社が大幅な債務超過に陥っていること等により、償還等に重大な懸念があるものについては、実態に即して評価し算出する。
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外貨建有価証券は、円貨に換算することとし、算出日のTT仲値により算出する。
-
-
(2)第2号「動産不動産」
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土地
鑑定評価額(1年以内に鑑定したもの)又は直近の路線価、公示価格、基準地価格及び客観的な売買実例等を参考として算出した妥当と認められる評価額とする。
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建物及び動産
原則、帳簿価格とする。
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(3)第3号「前二号に掲げる資産以外の資産」
金銭の信託(有価証券運用を主目的とする単独運用のものに限る。)において信託財産として運用されている有価証券(外国有価証券を含む。)の評価は、「区分等を定める命令」第2条第2項第1号及び上記(1)に準ずるものとする。なお、デリバティブ取引を組み入れている金銭の信託については、当該取引に係る未決済の評価損益も加え算出する。
II -2-1-7 その他
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(1)「区分等を定める命令」第1条及び第2条の規定に係る命令を行う場合は、行政手続法等の規定に従うこととし、同法第13条第1項第2号に基づく弁明の機会の付与等の適正な手続きをとる必要があることに留意する。
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(2)自己資本比率が2%未満の銀行に対しては、原則として「区分等を定める命令」第2条第2項各号に掲げる資産について当該各号に定める方法により算出し、これにより修正した貸借対照表(様式は任意で可)を提出させるものとする。
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(3)早期是正措置は、自己資本比率が銀行の財務状況を適切に表していることを前提に発動されるものであることから、いやしくも早期是正措置の発動を免れるための意図的な自己資本比率の操作を行うといったことがないよう銀行に十分留意させることとする。
II -2-2 統合的なリスク管理等
II -2-2-1 統合的なリスク管理
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(1)意義
銀行は、経営の健全性を確保するため、それぞれの経営戦略、規模及びリスク特性等に応じて適切に統合的なリスク管理を行う態勢を構築し、最低所要自己資本比率の算式に含まれないリスクも含め、各事業部門等が内包する種々のリスクを総体的に把握した上で、こうした総体的なリスクに照らして質・量ともに十分な自己資本を維持していくという自己管理型のリスク管理を行うことが必要である。
特に複雑なリスクを抱える金融商品等のリスク管理においては、経営陣が十分な資質・能力を備え、各事業部門等が抱える多種多様なリスクについて、担当部門等より適時適切に報告を受け、統合的なリスク管理の態勢を整えた上で、指導的・横断的見地から、迅速・的確な経営判断を行う態勢を整えることが求められる。
当局は、銀行による統合的なリスク管理態勢の構築に向けた自発的な取組みを最大限尊重しつつ、それが銀行の規模やリスク特性等に照らして適切かどうかを評価・検証することを通じて、銀行に対しより適切なリスク管理態勢の構築を促すこととする。
なお、規模やリスク特性等にかんがみて直ちに高いレベルの統合的なリスク管理を求めることが適当でない銀行に対しては、原則として早期警戒制度に基づく対応を実施する中で、その規模やリスク特性等に応じ、経営改善のために必要と認められる適切なレベルの統合的なリスク管理態勢の構築に向けた取組みを促すこととする。
大規模かつ複雑なリスクを抱える銀行の統合的なリスク管理態勢の評価・検証については、「主要行等向けの総合的な監督指針」を参照し、これに準ずるものとする。 -
(2)主な着眼点
-
多様なリスクを総体的に把握するため、全てのリスクを認識した上で、銀行自らの規模やリスク特性等に照らし、できる限り統合的なリスク管理の実施に努めているか。
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対象となる全てのリスクを可能な限り整合的な考え方で管理しているか。
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リスク管理の高度化の取組みを評価・検証する際の着眼点の例示
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イ.計量化の対象とするリスクカテゴリーを合理的に選択し、それらを整合的な考え方で計量化しているか。
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ロ.リスク資本の配賦及びその見直しのプロセスは適切か。
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ハ.主要なリスクについて、国際統一基準行の場合は普通株式等Tier1資本でカバーし、また、国内基準行の場合は自己資本比率規制上の自己資本(適格旧資本調達手段のうち補完的項目に該当していたものを除く。)でカバーする等、自己資本の損失吸収力の程度も適切に勘案したものとなっているか。
-
ニ.各リスクカテゴリー・各事業部門等へのリスク資本の配賦は、業務計画、収益計画等と整合性がとれているか。
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ホ.各事業部門のリスク量がリスク資本を超過しないような業務管理が適切に行われているか。
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国内基準行については、例えば、リスク資本の配賦等に当たり、その他有価証券評価差額金による影響も適切に勘案する等、自らが抱えるリスクや自己資本の特性等を十分に踏まえた対応を行っているか。
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II -2-2-2 早期警戒制度
銀行の経営の健全性を確保していくための手法としては、法第26条第2項に基づき、自己資本比率による「早期是正措置」が定められているところであるが、本措置の対象とはならない銀行であっても、その健全性の維持及び一層の向上を図るため、継続的な経営改善への取組みがなされる必要がある。
このため、以下に掲げる持続可能な収益性と将来にわたる健全性、信用リスク、市場リスク、流動性リスクについては、行政上の予防的・総合的な措置である早期警戒制度やオフサイト・モニタリングを通じて、銀行の早め早めの経営改善を促していくものとする。
こうした個々のリスク等に関する具体的な指標について、あらかじめ設定した基準に該当することとなった銀行に対しては、以下の①から③の対応等を行うこととする。
① 当局における分析
基準に該当した個々のリスク等のみならず、経営環境やビジネスモデルを含め、収益性・リスクテイク・自己資本が現在の状況にある背景・要因を総合的に分析し、銀行が抱えている課題及びその原因について仮説を構築する。
② 対話を通じた課題の明確化と共有
構築した仮説に基づき、銀行の自己評価を十分に踏まえながら、当局と銀行との間で深度ある対話を行い、課題及びその原因を明確化し、共有する。
③ 改善に向けた監督・対話
共有された課題認識に基づき、原因への対応も含めて必要な改善対応策の策定を促す。必要に応じて、当該改善対応策の実行状況のフォローアップを行う。
また、改善が必要とされる場合でも、金融市場への影響や中小企業金融の動向等に十分配慮し、改善手法や時期等が適切に選択されるよう、特に留意して監督を行うものとする。
II -2-3 持続可能な収益性と将来にわたる健全性
II -2-3-1 意義
人口減少や高齢化の進展等により経営環境の厳しさが増す中において、銀行が地域における金融仲介機能を継続的に発揮するためには、各行において、持続可能なビジネスモデルを構築し、将来にわたる健全性を確保することが必要である。
たとえ、足下では一定の健全性を維持していても、恒常的に収益が悪化すれば、将来の財務内容の懸念につながるため、足下の実態に止まらず、持続可能な収益性・将来にわたる健全性についてモニタリングを行い、早め早めの経営改善を促していく必要がある。
II -2-3-2 主な着眼点
継続的に金融仲介機能を発揮していくため、持続可能な収益性と将来にわたる健全性を確保する態勢が整備されているか。例えば、
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(1)経営陣は、的確な現状分析に基づき、時間軸を適切に意識し、実現可能性のある経営戦略・計画を策定・実行しているか。
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(2)こうした経営戦略・計画の策定・実行に当たって、銀行の実情に応じ、例えば、収益性・効率性や健全性等に係る定量的指標(コア業務純益、当期利益、ROA、RORA、ROE、OHR及び自己資本比率等)、管理会計その他の財務・経営分析、リスクアペタイト・フレームワーク等の経営管理の枠組み等を活用しながら、経営戦略・計画の妥当性の検証や見直し等を行っているか。
-
(3)また、経営施策の実施状況について、PDCA サイクルの実践を通じて、目標未達の要因を分析し、これを踏まえた改善対応策を策定・実施しているか。
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(4)取締役会(社外取締役を含む)は、経営陣による上記の取組みに対して、実効的な規律付けを行うべく、ガバナンスを発揮しているか。
II -2-3-3 監督手法・対応
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(1)収益性や各種リスク情報に関するオフサイト・モニタリングデータ及び決算状況表等に基づき、持続可能な収益性と将来にわたる健全性の状況を常時把握し、分析を行い、改善が必要と認められる銀行に関しては、Ⅱ-2-2-2①から③の対応等を行う。具体的には、以下の(2)から(4)の3つのステップを段階的に実施し、最終的な対応を検討・実施する。
-
(2)例えば、貸出金・預金利息、有価証券利息配当金、役務取引等利益、経費等について、足下の傾向が継続すると仮定し、将来の一定期間(概ね5年以内)のコア業務純益(除く投資信託解約損益)や、ストレス事象を想定した場合の将来の自己資本の状況について決算期毎に確認する。これらが一定の水準を下回る銀行等に対して、下記(3)の対応を行う。
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(3)銀行自らが経営計画等において想定する将来の収益や自己資本の見通しに関して、前提条件(地域の経済状況や顧客基盤の見通し)、銀行が実施中・実施予定の経営改善に関する施策とその効果(トップラインの増強、経費削減、増資等)、将来発生が見込まれる費用(本店建替・償却、システム更改費用、固定資産の減損、繰延税金資産の取崩し、信用コスト等)、有価証券の益出し余力、配当政策、ストレステストの結果(ストレスシナリオ含む)等の観点から、顧客向けサービス業務(貸出・手数料ビジネス)の利益やそれを構成する内訳にも着目しつつ、ヒアリングを実施し、見通しの妥当性について検証する。
その際、銀行が自らの経営理念・経営戦略に照らし、どのような金融仲介機能を発揮しようとしているか等を踏まえ、将来の収益・費用の見通しが盛り込まれた経営計画等がその考え方と整合的になっているか、経営計画等を実行するために必要な人的資源が十分に確保・育成・活用されているか等について留意して検証する。 -
(4)(3)の結果、例えば、将来の一定期間(概ね5年以内)に、コア業務純益(除く投資信託解約損益)が継続的に赤字になる、または最低所要自己資本比率を下回ることが見込まれる等、持続可能な収益性や将来にわたる健全性について改善が必要と認められる銀行に対しては、必要に応じ、法第24 条に基づく報告徴求、または、法第25 条に基づく検査を実施し、業務運営やガバナンスの発揮状況等について深度ある検証を行い、必要な業務改善(注1)を促す。更に、業務改善を確実に実行させる必要があると認められる場合には、法第26 条に基づき業務改善命令を発出するものとする。(「持続可能な収益性と将来にわたる健全性」改善措置)
-
(注1)店舗・人員配置の見直しなどの業務効率化を含む収益改善施策、資本増強、社外流出の抑制及びこれらを確実に履行するための経営管理態勢の確立等。
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(注2)ヒアリングや検査を行うに当たっては、当局担当者の先入観に基づく対話にならないよう、また、対話が一方的な指導にならないよう、銀行の意見を十分に踏まえ、理解を得ながら行う必要
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(注3)上記の検証に際しては、
① 経営計画等に掲げた当期純利益や配当を維持するため、含み益のみを実現し含み損の処理を先送りしているため、今後、早期(例えば5年以内)に含み益が枯渇し、当期純利益が赤字になり多額の含み損を抱える状況に陥ってしまわないか、
② 有価証券運用のあり方等が、例えば、表面上高収益を計上しているものの、含み損益の動向や中長期のテールリスク等を考慮すれば実質的には収益とリスクのバランスが取れていないなど、将来の経営を圧迫する要因となっていないか、
についても確認する。
II -2-4 信用リスク
II -2-4-1 意義
信用リスクとは、信用供与先の財務状況の悪化等により、保有する資産(オフバランス資産を含む。)の価値が減少ないし消失し、銀行が損失を被るリスクをいうが、銀行は当該リスクに係る内部管理態勢を適切に整備し、経営の健全性の確保に努める必要がある。
特に、特定大口先への融資拡大が結果として銀行の経営悪化・破綻の原因となった事例を踏まえると、大口先に係る信用リスク管理態勢の確立が重要である。なお、カントリ-リスク管理及び信用リスク削減手法については、「主要行等向けの総合的な監督指針」を参照し、これに準ずるものとする。
II -2-4-2 主な着眼点
信用供与先の財務状況の悪化等が経営に与える影響の分析が行われ、適切な対応が講じられているか。例えば、
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(1)取締役会は、銀行全体の経営方針に沿った戦略目標を踏まえた信用リスク管理の方針を定めているか。また、営業推進部門と審査管理部門の分離等適切な与信管理・審査管理体制を整備しているか。
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(2)特定の業種、企業グループ、地域、融資商品などのリスク特性が相似した対象等、リスク管理上重要なセクターの内部定義が適切に行われているか。また、業種別、地域別等のポジション及びリスクの内訳を適切に把握しているか。
- (3) 取締役会等は、合理的な基準に基づき経営に対して大きな影響を及ぼす可能性のある大口与信先を抽出し、その信用状況や財務状況について、継続的なモニタリングを行うこととしているか。
(8)を参照し、これらに準じた大口与信管理を行うものとする。
-
(4)取締役会等は、大口与信先の取組みについて、厳格な自己査定の実施や事業再生に当たっての十分な検討・指示を行っているか。特に、大口与信先の再建計画の検証に当たっては、当該計画の妥当性・有効性等について、十分に慎重な検証を行う態勢が構築されているか。
-
(5)株式を取得・保有する場合、保有時における株価下落リスクや減損リスク、処分時における売却損リスクがあることや、特に大口の株式や非上場株式を保有している場合については売却が困難となるリスクがあることに留意し、適切にリスク(注1・2)を管理しているか。
特に、銀行等による資本性資金の供給をより柔軟に行い得るようにするため、平成25年の銀行法改正により議決権保有規制の見直しが行われたことを踏まえ、基準議決権数を超えて議決権を取得・保有する場合には、以下のような点にも留意する必要がある。
-
法第16条の2第1項第13号又は第52条の23第1項第12号に規定する「経営の向上に相当程度寄与すると認められる新たな事業活動を行う会社として内閣府令で定める会社」(いわゆる事業再生を行う会社)の株式を取得・保有する場合、事業再生計画を適切に審査するとともに、当該計画等の進捗状況等を的確に評価・分析する態勢を整備しているか。
また、必要に応じて、対象企業の企業価値の向上に向けて、経営改善に関する支援、助言等を行う態勢を整備しているか。
-
投資専門子会社を活用して、以下の会社の株式を取得・保有する場合、銀行本体からは一定のリスク遮断が図られているものと考えられるが、その場合も、当該子会社のリスク管理状況の把握・分析・管理等を行う態勢を整備しているか。
-
イ.法第16条の2第1項第12号又は第52条の23第1項第11号に規定する「新たな事業分野を開拓する会社として内閣府令で定める会社」(いわゆるベンチャービジネス会社)
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ロ.法第16条の4第8項又は第52条の24第8項に規定する「地域の活性化に資すると認められる事業を行う会社として内閣府令で定める会社」(いわゆる地域経済の面的再生(再活性化)事業会社)
-
-
(注1)「II-2-5 市場リスク」も参照すること。
-
(注2)株式の取得・保有に係る、株主の立場と債権者としての立場における利益相反については、「III-4-12 顧客の利益の保護のための体制整備」も参照すること。
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(6)ストレステストを実施しているか。また、信用リスクの計量を行っている場合にあっては、損失額が大きく発現するシナリオの分析を行っているか。
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(7)デリバティブ取引等においては、主なカウンターパーティの信用リスクについて、以下の点も含め、適切に管理しているか。
-
カウンターパーティ別及びカウンターパーティの類型別のエクスポージャーの管理
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デリバティブ取引の参照資産の時価の変化等によりエクスポージャーが拡大することによるリスクの把握
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担保その他の信用補完措置の有効性の確認
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市場流動性が低下する状況等も勘案した適切なストレステストの実施
-
-
(8)清算集中されたデリバティブ取引等に係る中央清算機関との間の取引に係るリスクについて、以下のものも含め、適切に管理しているか。
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中央清算機関との取引固有のリスク
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適格中央清算機関が服している規制・監督の枠組みに重大な欠陥がある場合に生じるリスク
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適格中央清算機関以外の中央清算機関について、当該中央清算機関の求めに応じて支払わなければならない未拠出の清算基金について、その全額が当該中央清算機関の損失補填に充てられるリスク
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(9)中小・地域金融機関(金融商品取引業等に関する内閣府令第123条第10項第4号ロに該当する店頭デリバティブ取引に係る想定元本額の合計額の平均額が3,000 億円未満の者を含む。)は、金融機関等を相手方とする非清算店頭デリバティブ取引において、変動証拠金の授受等、取引先リスク管理に係る態勢整備に努めているか。
また、金融商品取引業等に関する内閣府令第123条第1項第21号の6の規定(当初証拠金)の対象となる中小・地域金融機関は、同号で対象となる非清算店頭デリバティブ取引において、当初証拠金の授受等、取引先リスク管理に係る態勢整備に努めているか。
具体的な監督上の着眼点については、「金融商品取引業者等向けの総合的な監督指針」の「IV-2-4(4)非清算店頭デリバティブ取引」等を参照するものとする。
II -2-4-3 監督手法・対応
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(1)信用リスク情報に関するオフサイト・モニタリングのデータ及び決算状況表等に基づき、信用リスクの状況を常時把握し、分析等を行う。
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(2)不良債権比率、大口与信(国際統一基準行についてはTier1資本の額、国内基準行については自己資本の額(適格旧資本調達手段のうち補完的項目に該当していたものを除く。)の10%以上の与信先又は与信残高が上位一定数以上の先(国、地方公共団体、政府関係機関等向け与信を除く。)への与信合計額で大きい方)の比率、特定業種への集中度といった基本的な指標に加え、大口与信先に対するリスクが顕在化した場合の影響額(=大口先のうち要管理先以下の者に対する債権の非保全額(担保・保証及び引当金により保全されていない債権額)の一定割合が損失となったと仮定した場合の損失額)を勘案した自己資本比率を基準として、信用リスクの管理態勢について改善が必要と認められる銀行に関しては、Ⅱ-2-2-2①から③の対応等を行い、必要な場合には法第24条に基づき報告を求めることを通じて、着実な改善を促すものとする。また、改善計画を確実に実行させる必要があると認められる場合には、法第26条に基づき業務改善命令を発出するものとする。(信用リスク改善措置)
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(3)なお、銀行の個別取引先に対する与信判断は、あくまでも当該銀行の経営判断で行われるものであり、当局が指示・関与等することはなく、その権限もないことに留意する必要がある。
II -2-5 市場リスク
II -2-5-1 意義
市場リスクとは、金利、為替、株式等の様々な市場のリスク・ファクターの変動により、資産、負債及びオフバランス取引の価値が変動し、銀行が損失を被るリスク、資産・負債から生み出される収益が変動し、銀行が損失を被るリスクをいうが、銀行は、当該損失が自己資本比率規制上の自己資本に算入されるか否かにかかわらず、当該リスクに係る内部管理態勢を適切に整備し、経営の健全性の確保に努める必要がある。
II -2-5-2 主な着眼点
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(1)リスク管理態勢
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取締役会は、銀行全体の経営方針に沿った戦略目標を踏まえた市場リスク管理の方針を定めているか。また、取締役会は、銀行の戦略目標、リスク管理方針に従い、かつ収益目標等に見合った適切な市場リスクの管理態勢を整備しているか。
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市場リスク管理のための規程においては、市場部門(フロント・オフィス)、事務管理部門(バック・オフィス)及びリスク管理部門(ミドル・オフィス)について、各部門の管理者のそれぞれの役割と権限を明確にしているか。
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市場関連リスク管理に当たっては、特定取引(トレーディング)部門と非特定取引(バンキング)部門の双方がカバーされる体制をとっているか。
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経営陣は、幅広い視点から能動的かつ迅速に業務運営やリスク管理等の方針を決定しているか。
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内外の経済動向等を含め、保有資産の価格等に影響を与える情報を広く収集・分析するとともに、経営陣が適切かつ迅速に業務運営やリスク管理等の方針を決定できるよう、重要な情報を適時に経営陣等に報告を行う態勢が整備されているか。
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リスク管理部門は、各業務部門へのリスク資本の配賦や限度枠(ロスカット・ポイント、ウォーニング・ポイントなど)の機械的な設定にとどまらず、リスク管理に資する様々な情報を収集・分析し、主体的にリスクの把握を行い、日常的なリスク管理に活用しているか。
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リスク管理部門は、把握したリスクについて、定期的な報告にとどまらず、必要に応じて経営陣への報告を行っているか。
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(2)リスク管理の内容・手法
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現在価値に換算したポジション、及びリスクの保有資産別・期日別等の内訳を適切に把握しているか。特に、特殊なリスク特性を有する保有資産のリスクを適切にとらえているか。
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銀行勘定の金利リスクは、いわゆるコア預金(明確な金利改定間隔がなく、預金者の要求によって随時払い出される預金のうち、引き出されることなく長期間銀行に滞留する預金)の定義によって、計算されるリスク量が大きく変動することを理解し、コア預金の内部定義を適切に行い、バックテスト等による検証を行っているか。
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VaR値をリスク管理に用いる際は、商品の特性を踏まえて、観測期間、保有期間、信頼区間、計測手法及び投入するデータ等の適切な選択に努めるとともに、計測結果を検証し、妥当性の確保に努めているか。
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過去の実績が十分でない場合やデータの信頼性が乏しい場合等にはVaRの値が過少となる可能性があるなど、統計的なリスク計測手法には一定の限界があることを踏まえ、ストレステストを含むリスク管理手法を整備しているか。なお、リスク管理に当たっては、経済動向等を踏まえてその前提条件を機動的に見直すこととしているか。
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ストレステストに際しては、ヒストリカルシナリオ(過去の主な危機のケースや最大損失事例の当てはめ)のみならず、仮想のストレスシナリオによる分析も行っているか。なお、仮想のストレスシナリオについては、内外の経済動向に関し、保有資産等に対し影響の大きいと考えられる状況を適切に想定しつつ、複数設定しているか。さらに、前提となっている保有資産間の価格の相関関係が崩れるような事態も含めて検討を行っているか。
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ポジション枠(金利感応度や想定元本等に対する限度枠)、リスク・リミット(VaR等の予想損失額の限度枠)、損失限度、ストレステストの設定に際しては、取締役会において、銀行におけるリスク管理の方針として、各設定に際しての基本的な考え方を明確に定めているか。また、取締役会等において、定期的に(最低限各期に1回)、各部門の業務の内容等を再検討し、設定内容を見直しているか。
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ポジション枠、リスク・リミット、損失限度を超過した場合、もしくは超過するおそれがある場合の管理者への報告体制、権限(方針及び手続き等)が明確に定められているか。
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ストレステストの結果については、経営陣により十分な検証・分析が行われ、リスク管理に関する具体的な判断に活用される態勢が整備されているか。
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「銀行等の株式等の保有の制限等に関する法律」に定める株式等の保有の制限を踏まえ、適切に株式保有リスクを管理しているか。
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(3)証券化商品等のクレジット投資のリスク管理
証券化商品をはじめとする市場性のあるクレジット商品への投資では、以下のような点を留意して、リスク管理を行っているか。なお、市場性のあるローン(自行でオリジネートする場合、セカンダリー市場で取得する場合を問わない。)やCDS取引についても、同様の留意が必要となる。
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商品の適切な価格評価
市場性のあるクレジット商品(市場性のあるローンやCDS取引も含む。)に関して、以下のような点を留意して、価格評価を行っているか。
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イ.価格評価にあたっては、頻繁に取引されている価格が存在する場合は当該価格で評価し、このような価格が存在しない場合でも、類似商品の価格を用いて評価するなど、可能な限り客観的な価格評価を行っているか。また、価格評価モデルを用いる場合、モデルが一定の前提の上に作られていることを理解し、定期的にモデルの前提やロジックを見直し、適切性を検証しているか。
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ロ.フロント部門において算出された商品の価格を、リスク管理上の時価評価額として使用する場合は、当該価格について、リスク管理部門等において、独立した立場から検証を行っているか。
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ハ.ブローカーや外部ベンダーから価格評価を取得する場合は、可能な限り価格評価手法にかかる情報の提供を求め、当該価格評価の妥当性の検証に努めているか。また、外部ベンダー等が提供する価格評価モデルを用いる場合は、可能な限り詳細な情報の提供を当該ベンダー等に求め、モデルの前提・特性や限界の把握に努めているか。
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ニ.価格評価モデルを用いるにあたって、流動性リスクや価格評価モデルの不確実性リスク等に重要性があると認められる場合には、これらが適切に考慮されているか。
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証券化商品等投資における商品内容の適切な把握
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イ.証券化商品等への投資や期中管理にあたり、格付機関の格付手法や格付の意味を予め的確に理解した上で外部格付を利用する等、外部格付に過度に依存しないための態勢が整備されているか。
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ロ.証券化商品等の投資において、裏付となる資産内容の把握、優先劣後構造(レバレッジの程度)や流動性補完、信用補完の状況、クレジットイベントの内容といったストラクチャーの分析及び価格変動の状況の把握等、自ら証券化商品等の内容把握に努めているか。
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ハ.証券化商品投資では、原資産ポートフォリオの運用・管理をオリジネーター、マネージャー等の関係者に依存していることから、関係者の能力・資質、体制等の把握・監視に努めているか。
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ニ.証券化商品については、オリジネーターによる原資産の組成において、その組成当初から当該原資産の全てを証券化ビークルに譲渡することを意図した場合、投資分析等が疎かになるなど不適切な原資産組成がなされ、その結果当該証券化商品の持分のリスクが高くなるおそれがある。そのため、当該証券化商品のリスクの一部を、オリジネーターが継続保有することが望まれる。これらを踏まえ、オリジネーターが証券化商品に係るリスクの一部を継続保有しているか確認しているか。また継続保有していない場合には、オリジネーターの原資産に対する関与状況や原資産の質についてより深度ある分析をしているか。
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市場流動性リスクの管理
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イ.証券化商品等への投資や期中管理において、市場流動性を適切に検証しているか。なお、市場流動性を検証する方法としては、
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a. 市場規模と自己の投資額とを比較し、過大なシェアとなっていないかを確認すること
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b. ヒアリング等を通じて、市場のビッド・オファー・スプレッドや実際に売却可能な価格水準を把握すること
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c. 各種指数等(証券化商品のインデックス等)の分析により市場環境の変化をモニターすること
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d. 過去のストレス事象を参考に、市場流動性枯渇に関するストレスシナリオを作成し、証券化ポートフォリオの損益等を確認すること
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等が考えられる。
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ロ.証券化商品等の市場流動性につき、懸念が認められた場合、適時に対応を検討する態勢が整備されているか。
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(注) マーケット・リスク規制の適用対象取引(「銀行法第十四条の二の規定に基づき、銀行がその保有する資産等に照らし自己資本の充実の状況が適当であるかどうかを判断するための基準」(以下「告示」という。)第10条第2項第2号に規定する特定取引等)に関する内部管理等については、主要行等向けの総合的な監督指針の「 III-2-1-2-3 マーケット・リスク規制の適用対象取引に関する内部管理等」を参照すること(19年3月期より適用)。
II -2-5-3 監督手法・対応
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(1)市場リスク情報に関するオフサイト・モニタリングのデータに基づき、市場リスク等の状況を常時把握し、分析等を行う。
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(2)以下のいずれかに該当する銀行に対しては、Ⅱ-2-2-2①から③の対応等を行い、必要な場合には法第24条に基づき報告を求めることを通じて、着実な改善を促すものとする。また、改善計画を確実に実行させる必要があると認められる場合には、法第26条に基づき業務改善命令を発出するものとする。(安定性改善措置)
② 以下のイ.及びロ.により、深度ある対話を行う必要があると認められる銀行(国内基準行は、以下のロ.d.を除いて平成31年3月期より適用)
イ.重要性テスト
ΔEVE(銀行勘定の金利リスクのうち、金利ショックに対する経済的価値の減少額として計測されるものであって、「銀行法施行規則第十九条の二第一項第五号ニ等の規定に基づき、自己資本の充実の状況等について金融庁長官が別に定める事項」(以下「開示告示」という。)に定められた金利ショックにより計算されるものをいう。以下同じ。)の最大値(国内基準行については、ΔEVEのうち、上方パラレルシフト、下方パラレルシフト又はスティープ化に基づき計算されるもののうちの最大値)が次に該当する銀行は、以下のロ.の対象とする。
a.国際統一基準行においては、Tier1資本の額の15%を超える銀行
b.国内基準行においては、自己資本の額の20%を超える銀行
ロ.オフサイトモニタリングデータの追加分析
収益性・リスクテイク・自己資本のバランスや、金利ショックが自己資本に与える実質的な影響について分析を行う。具体的には、「銀行が銀行勘定において保有するポジション全体の金利リスク」と「自己資本の余裕」(告示に定める自己資本の最低水準を上回る額をいう。以下この②において同じ。)との関係を基本的な着眼点としつつ、以下の観点等を踏まえ、銀行と深度ある対話を行う必要性について判断する。b.「通貨別の金利リスク」と「自己資本の余裕」との関係
c.「金利に係るリスクテイク」と「収益力」との関係
d.「金利ショックが将来収益に与える影響」(国内基準行は平成32年3月期より適用)
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(注1)銀行が、内部モデルを使用して銀行勘定の金利リスクを計測する場合には、モデルの検証及びガバナンス態勢の構築が適切に行われ、モデルについての必要な情報(目的、意図された使用方法、基礎となる理論、限界、仮定等)、管理の枠組み(方針、検証の手順、組織体制等)及び検証の過程が適切に文書化されることを求めるものとする。また、監督にあたっては、内部モデルの使用が計算上の金利リスク量に与える影響についても留意する。
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(注2)銀行が、銀行勘定の金利リスクを計測する際には、重要性に応じて、いわゆる行動オプション性(流動性預金の滞留、固定金利貸出の期限前返済、定期預金の早期解約、個人向けの金利コミットメントラインの実行等、金利変動に対する顧客の必ずしも経済合理性のみに基づかない行動変化がキャッシュフローに与える影響)を、内部モデルの使用又は保守的な前提の反映により適切に考慮することを求めるものとする。
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(注3)重要性テストに該当したことをもって、銀行が過大なリスクテイクを行っているとみなされるものではない。また、オフサイトモニタリングデータの追加分析を通じて、健全性の観点から深度ある対話を行う必要があると認められる場合であっても、改善対応が自動的に求められるものではない。改善が必要とされる場合でも、金融市場への影響等に十分配慮し、改善手法や時期等が適切に選択されるよう、留意して監督を行うものとする。
II -2-6 流動性リスク
II -2-6-1 意義
流動性リスクとは、銀行の財務内容の悪化等により必要な資金が確保できなくなり、資金繰りがつかなくなる場合や、資金の確保に通常よりも著しく高い金利での資金調達を余儀なくされることにより銀行が被るリスク(資金繰りリスク)と、市場の混乱等により市場において取引できなかったり、通常よりも著しく不利な価格での取引を余儀なくされることにより損失を被るリスク(市場流動性リスク)からなる。銀行は当該リスクに係る内部管理態勢を適切に整備し、流動性リスクを適切に管理していくことが重要である。
II -2-6-2 主な着眼点
預金動向や流動性準備の変動が経営に与える影響の分析が行われ、適切な対応策が講じられているか。例えば、
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(1)取締役会は、銀行全体の経営方針に沿った戦略目標を定めるに当たり、資金繰りリスクを考慮しているか。また、取締役会は、資金繰りリスクの管理に当たり、例えば、資金繰り管理部門とリスク管理部門を分離するなど、適切なリスク管理を行うため、けん制機能が十分発揮される体制を整備しているか。
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(2)資金繰り管理部門及びリスク管理部門の管理者は、資金繰りの状況をその資金繰りの逼迫度に応じて区分(例えば、平常時、懸念時、危機時等)し、各区分時における管理手法、報告方法、決裁方法等の規定を取締役会等の承認を得た上で整備しているか。
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(3)資金繰り管理部門は、即時売却可能あるいは担保として利用可能な資産(国債など)の保有など、危機時を想定した調達手段を確保しているか。
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(4)国際統一基準行においては、流動性カバレッジ比率(銀行法第14条の2の規定に基づき、銀行がその経営の健全性を判断するための基準として定める流動性に係る健全性を判断するための基準(以下「流動性比率告示」という。)第8条に定める単体流動性カバレッジ比率をいう。以下同じ。)が最低水準を満たしていることを早期に捕捉するため、流動性カバレッジ比率を基に作成した近似指標(以下「近似LCR」という。)について、以下に掲げるところにより、日次で算出する態勢を整備しているか(最初に流動性カバレッジ比率を算出し、当局へ報告した日の翌日より適用)。
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更新するデータの内容
近似LCRを構成する分子及び分母は、流動性カバレッジ比率を適切に捕捉するために、少しでも多くのデータ項目について更新する取扱いとなっているか。なお、流動性カバレッジ比率に対する捕捉力を確保するために、例えば、分子については、流動性カバレッジ比率の分子に相当する資産の80パーセント以上(直近の流動性カバレッジ比率対比)を更新する等の対応を行っているか。
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近似LCRを算出する期限
近似LCRは、算出の対象となる日から2営業日以内に算出しているか。
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当局への報告
直近月の流動性カバレッジ比率が、最低水準より10%ポイント高い水準を下回った場合には、速やかに近似LCRの当局に対する日次の報告を開始することとしているか。当該日次の報告は、翌月以降の流動性カバレッジ比率が、最低水準より10%ポイント高い水準を上回るまで継続することとしているか。
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当局への報告期限
において、当局へ報告を行うこととなった場合は、近似LCRを算出した日の翌営業日以内に当局に報告しているか。
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文書化
近似LCRの算出方法について文書化しているか。
率」という。)について、最低水準を下回るおそれがあると見込まれる場合には、速やかに当局へ報告すること
としているか。
II -2-6-3 監督手法・対応
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(1)流動性リスク情報に関するオフサイト・モニタリングのデータ(月次又は四半期毎)に基づき、流動性リスクの状況を常時把握し、分析等を行う。
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(2)預金動向や流動性準備の水準を基準として、流動性リスクの管理態勢について改善が必要と認められる銀行に関しては、預金や流動性準備の状況について、頻度の高い報告を求めるとともに、Ⅱ-2-2-2①から③の対応等を行い、必要な場合には法第24条に基づき報告を求めることを通じて、着実な改善を促すものとする。また、改善計画を確実に実行させる必要があると認められる場合には、法第26条に基づき業務改善命令を発出するものとする。(資金繰り改善措置)
II -2-6-4 流動性比率規制(国際統一基準行)
II -2-6-4-1 意義
財務の健全性を確保するためには、自己資本の充実を図るだけではなく、流動性リスクにも備える必要がある。流動性リスクに対する短期的な備えとしては、流動性リスクに応じた十分な流動性資産を保有することにより、資金調達が困難な状況に陥っても、業務の継続を可能とする強靭性を高めることが重要である。当局としても、銀行の流動性リスクを把握し、必要に応じて十分な流動性資産の保有を促していく必要がある。
また、流動性リスクに対する中長期的な備えとしては、銀行の保有する資産(オフバランス資産を含む。)の構成に応じて、安定的な資金調達構造を維持することが重要である。当局としても、銀行の資産と資金調達源の特徴を把握し、必要に応じて十分に安定的な資金調達源の確保を促していく必要がある。
こうした観点から、国際統一基準行に対しては、流動性カバレッジ比率及び安定調達比率という客観的な基準を用い、十分な流動性資産の保有及び十分に安定的な資金調達源の確保を求めるものとする。
II -2-6-4-2 流動性カバレッジ比率及び安定調達比率の計算の正確性
II -2-6-4-2-1 意義
流動性カバレッジ比率及び安定調達比率については、銀行の流動性に係る健全性を示す基本的指標であることから、正確に計算されなければならない。
流動性カバレッジ比率及び安定調達比率の計算の正確性については、流動性比率告示及びバーゼル合意の趣旨を十分に踏まえる必要がある。
II -2-6-4-2-2 留意事項
流動性カバレッジ比率及び安定調達比率の計算の正確性については、流動性比率告示上の規定に則って正確に計算されているか。特に以下の点に留意してチェックするものとする。
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(1)銀行が具体的な計算方法及び資産・負債の特定方法を策定する場合の留意点
流動性カバレッジ比率における資金流出項目のうち、流動性比率告示第29条に規定する適格オペレーショナル預金に係る特例、同告示第38条に規定するシナリオ法による時価変動時所要追加担保額及び安定調達比率の計測に係る同告示第101条に規定する相互に関係する資産及び負債に係る特例を適用する場合には、当該各条に規定する要件を満たす範囲で、銀行が具体的な計算方法を策定する又は対象となる資産・負債の特定を行うものとされている。この場合には、次の点について、具体的な計算方法や資産・負債の特定方法が告示を踏まえて適切に策定されているか、事前に確認するものとする。
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銀行が適格オペレーショナル預金に係る特例を用いようとする場合には、適格オペレーショナル預金の額の推計方法が適格業務要件、オペレーショナル預金要件、定量的基準及び定性的基準を満たす形で設定されているか。
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銀行がシナリオ法による時価変動時所要追加担保額を用いようとする場合には、そのストレスシナリオの設定及び金額の推計方法がストレスシナリオの選定基準、定量的基準及び定性的基準を満たす形で設定されているか。
③ 銀行が相互に関係する資産及び負債に係る特例を用いようとする場合には、対象となる資産及び負債が流動性比率告示第101条に規定する要件全てを満たす形で設定されているか。
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(2) 流動性カバレッジ比率及び安定調達比率の計算における計算対象の判定について
流動性カバレッジ比率及び安定調達比率の計算においては、銀行における内部管理等も踏まえつつ計算対象の設定を行う事項があるが、具体的には以下の項目について、適切な取扱いを行っているか。
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「金融機関等」の定義における「流動性に係るリスク管理の観点から重要性が低いと認められる者」の判断
流動性比率告示第1条第19号に規定する「金融機関等」については、「流動性に係るリスク管理の観点から重要性が低いと認められる者」を除くこととされている。この際、例えば、資金流出額を減少させることによって流動性カバレッジ比率を高めることを目的として、または利用可能安定調達額を増加することによって安定調達比率を高めることを目的として、重要性が認められる者を意図的に「金融機関等」の定義から除外するなど不適当な取扱いを行っていないか。
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規模の小さな連結子法人等の取扱い
連結流動性カバレッジ比率や連結安定調達比率の水準への影響が極めて小さい小規模の連結子法人等については、算入可能適格流動資産をゼロとする又は利用可能安定調達額をゼロとするなど保守的であることが担保される場合に限り、簡便的な計算をすることも可能である。この際、例えば、連結総資産(連結総負債)に占める資産(負債)の割合が非常に大きな金融機関に対して当該計算を適用したり、オフ・バランスシートにおいて多額の資金流出が見込まれるにも関わらず、これを考慮しないまま小規模の連結子法人等であるとして当該計算を適用するなど不適当な取扱いを行っていないか。
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(3)過去の流動性ストレス期の判定
「過去の流動性ストレス期」の判定においては、2007年以降(我が国においては、2008年以降)まで遡ることを基本としつつ、可能な範囲で1990年代後半のデータ等を参照することとされている。この際、データが入手可能であり、かつ過去の流動性ストレス期としての要件を満たしていた時期について、適切に判定の対象として含めているか。
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(4)価格下落率等の確認
流動性比率告示上のレベル2A資産及びレベル2B資産の判定においては、過去の市場流動性ストレス期における価格下落率若しくは担保掛目の下落幅を確認することが求められている。例えば、債券の格付及び残存期間について、十分に細分化した上で判定を行うなど適切に確認を行っているか。
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(5)資金流出入項目の区分及び資金流出率の設定の適切性
流動性比率告示上、流動性カバレッジ比率については資金流出入項目に係る区分の設定並びにそれらに係る資金流出率(額)又は資金流入額の設定を行う項目、安定調達比率については利用可能安定調達額並びに所要安定調達額にかかる項目があるが、これらについては、銀行による適切な設定及び検証を求めることとしている。具体的には、以下の項目について留意することとする。
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流動性比率告示第21条に定める「準安定預金」について、内部管理として追加的な区分を設定する必要があるか否か検討し、必要があると認められる場合には適切な区分を行っているか。また、過去の流動性ストレス期における資金流出の割合の実績を踏まえた資金流出率の設定を行っているか。さらに、過去の資金流出率をそのまま適用することなく、現在の準安定預金の構成に当てはめた場合にも資金流出率が10%を超える蓋然性が十分に低いか等について検証を行っているか。
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流動性比率告示第53条に定める「その他偶発事象に係る資金流出額」及び同告示第100条第3号に定める偶発債務について、内部管理を踏まえた適切な区分を行っているか。また、その適切性について定期的な検証を行っているか。
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流動性比率告示第60条に定める「その他契約に基づく資金流出額」及び同告示第73条に定める「その他契約に基づく資金流入額」について、流動性リスクの管理上の重要性を踏まえた適切な設定を行っているか。また、その適切性について定期的な検証を行っているか
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(6) 残存期間の設定方法の妥当性
流動性カバレッジ比率及び安定調達比率の計算において、残存期間を価格算定モデルにより計算している場合には、モデルが一定の前提の上に作られていることを理解し、定期的にモデルの全体やロジックを見直し、残存期間の見積もりの確からしさについても適切性を検証しているか。
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(7) 有価証券の割当方法の適切性
流動性カバレッジ比率及び安定調達比率の計算において、有価証券の調達元が不明な場合(例えば、有価証券のショート・ポジションやレポ形式の取引等の担保として差し出している有価証券の調達元が不明な場合)において、銀行が定める任意の割当方法を使用している場合には、当該割当方法を文書により明確化するとともに、当該文書に従って適切に運用されていることを定期的に確認しているか。
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(8) 流動性カバレッジ比率及び安定調達比率の計算方法の一貫性等
例えば、流動性比率告示第35条第2項のネッティング(資金流出額及び資金流入額の計算過程において、一定の額との相殺を行うことをいう。)の取扱いや、同告示第29条に規定する適格オペレーショナル預金に係る特例、同告示第38条に規定するシナリオ法及び同告示第101条に規定する相互に関係する資産及び負債の特例を採用している場合にはそれらの取扱いなど、流動性カバレッジ比率や安定調達比率の計算方法に関して銀行に一定の裁量が認められている場合、合理的な理由に基づく変更の場合を除き、一貫した、かつ保守的な計算方法を採用しているか。
II -2-6-4-2-3 監督手法・対応
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(1)オフサイト・モニタリング
流動性カバレッジ比率及び安定調達比率の計算の正確性等に問題があることが判明した場合には、詳細な報告を求め、必要に応じてヒアリングを行うものとする。
また、流動性比率告示第29条に規定する適格オペレーショナル預金に係る特例、同告示第38条に規定するシナリオ法及び同告示第101条に規定する相互に関係する資産及び負債の特例を採用している銀行に対しては、これらの取扱いについて、定期的に報告を求め、同告示に定められた要件を充足しているか、または前回から計算方法に変更がないか等について確認することとする。
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(2) 検査結果や(1)のオフサイト・モニタリングにより、流動性カバレッジ比率及び安定調達比率の計算の正確性に問題があると認められる場合には、法第24条に基づき報告を求め、重大な問題があると認められる場合には、法第26条に基づき業務改善命令を発出するものとする。
II -2-6-4-3 流動性比率規制に関する監督上の措置
銀行の流動性リスク管理における取組みを補完する役割として、流動性カバレッジ比率及び安定調達比率という客観的な基準を用い、必要に応じた措置を迅速かつ適切に発動し、銀行の経営の改善を求めるものとする。
II -2-6-4-3-1 監督手法
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(1)定期的なモニタリング(月次又は四半期毎)
銀行に対し定期的に流動性カバレッジ比率及び安定調達比率の報告を求め、銀行の流動性リスクの状況を常時把握する。
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流動性カバレッジ比率(月次)
月末日又は最終営業日を基準日とした流動性カバレッジ比率について、翌月の第10営業日までに指定され
た様式に基づく報告を求める。その際、流動性カバレッジ比率の水準や変動の傾向を確認するとともに、流動
性カバレッジ比率の分子・分母の内訳を把握することにより変動の要因・背景を分析するものとする。
また、他のオフサイトモニタリングデータや金融経済指標等を分析することにより、金融システム全体に流
動性に関するストレスの兆候がないかを確認する。
② 安定調達比率(四半期毎)
四半期末日を基準日とした安定調達比率について、報告徴求により求める。その際、安定調達比率の水準や
変動の傾向を確認するとともに、安定調達比率の分子・分母の内訳を把握することにより変動の要因・背景を
分析するものとする。 -
(注)原則として流動性カバレッジ比率については月末日を基準日とするが、各銀行が採用している会計基準等により、最終営業日を基準日とすることもできるものとする。この場合、合理的な理由に基づき変更する場合を除き、一貫した基準日を採用することとする。
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(2)随時のモニタリング
(1)に加えて、必要と認められる場合においては、流動性カバレッジ比率及び安定調達比率の状況について報告を求めるものとする。
II -2-6-4-3-2 監督上の対応
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(1)監督上の措置の前提となる流動性カバレッジ比率及び安定調達比率
(2)に定める監督上の措置の前提となる流動性カバレッジ比率及び安定調達比率は、Ⅱ-2-6-4-3-1における定期的なモニタリング又は随時のモニタリングにより報告されたものとする。
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(2)監督上の措置
流動性カバレッジ比率又は安定調達比率が最低水準を下回った場合には、その理由や流動性カバレッジ比率又は安定調達比率の向上に係る改善策について、法第24条に基づき速やかに報告を求めるものとする。さらに確実な改善が必要であると認められる場合には、法第26条に基づき業務改善命令を発出するものとする。
また、流動性カバレッジ比率又は安定調達比率が近い将来に最低水準を下回るおそれがあると見込まれる場合には、まずは理由や改善の見込み等についてヒアリングを行うものとする。ヒアリングの結果、なお問題があると認められる場合には、法第24条に基づき報告を求め、さらに確実な改善が必要であると認められる場合には、法第26条に基づき業務改善命令を発出するものとする。
ただし、監督上の対応については、機械的・画一的に運用するものではなく、流動性カバレッジ比率及び安定調達比率の最低水準を維持するために銀行がとる対応策の内容やその効果及びその対応策が金融システムに与える影響等に留意する必要がある。
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法第24条に基づく報告には、以下の内容を含むものとする。また、必要に応じて、追加的な内容を徴求することとする。
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イ.流動性カバレッジ比率又は安定調達比率が最低水準を下回った要因(特定の算入可能適格流動資産又は利用可能安定調達額の減少、特定の資金流出額又は所要安定調達額の増加等)及びその背景
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ロ.流動性カバレッジ比率又は安定調達比率が最低水準を上回る時期の見通し、及びそれまでの流動性カバレッジ比率又は安定調達比率の分子・分母の内訳の推移の見通し
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ハ.流動性カバレッジ比率について、算入可能適格流動資産に含まれないものの、緊急時において資金調達に用いることが可能な流動性資産の額及びその種類等
(注)法第24条に基づく報告があった際には、報告内容等を踏まえ、例えば、以下の点を分析することが考えられる。
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a.流動性カバレッジ比率又は安定調達比率の低下が、主に一時的な要因に起因するものであるか、あるいは長期的・構造的な要因に起因するものであるか。
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b.流動性カバレッジ比率及び安定調達比率の最低水準を維持するための対応策を起因とした金融システムに悪影響を及ぼす可能性及びその経路等
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法第26条に基づく命令においては、合理的と認められる改善計画の提出を求めるとともに、その確実な実行を求めるものとする。改善計画には、以下の内容を含むものとする。また、改善計画の提出に併せ、上記
のイ.、ロ.及びハ.に関する報告その他の報告を徴求することとする。
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イ.既に講じた措置及び今後講じる予定の措置及びその時期
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ロ.改善計画に要する期間
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(注)Ⅱ-2-6は、主に単体流動性カバレッジ比率及び単体安定調達比率について定めたものであり、流動性比率告示第2条に規定する連結流動性カバレッジ比率及び同告示第74条に規定する連結安定調達比率が適用される場合には、適宜読み替えて適用するものとする。