I .コンサルティング機能の発揮の意義

I -1 基本的考え方

平成21年12月に「中小企業者等に対する金融の円滑化を図るための臨時措置に関する法律」(平成21年法律第96号。以下「法」という。)が施行されて以来1年あまりが経過した。この間、当局は、法の施行にあわせて、金融検査マニュアルや監督指針の改正、金融機関に対する金融円滑化の要請など、金融の円滑化に向けた様々な施策を講じてきた。

他方、金融機関は、法の施行後、貸付けの条件の変更等(貸付けの条件の変更、旧債の借換え、中小企業者の株式の取得であって債務を消滅させるためにするものその他の債務の弁済に係る負担の軽減に資する措置をいう。以下同じ。)への取組みや、金融円滑化の態勢整備に積極的に取り組んでおり、審査中等の案件を除いた貸付けの条件の変更等の実行率は9割を超える水準で推移している。

しかし、貸付けの条件の変更等に際しては、借り手のモラルハザードなど金融規律の低下を懸念する意見や、貸付けの条件の変更等を実施した後に債務者の経営状態が着実に改善しない場合には債務者区分の格下げに伴う貸倒引当金の増加等を通じて金融機関の経営を圧迫するおそれがあるとの懸念も聞かれる。

こうした懸念を顕現化させないためには、貸付けの条件の変更等を行った債務者について、返済負担が軽減されている間に、真に経営改善、事業再生等が図られることが必要である。そのためには、何よりもまず、債務者自身が、自らの本質的な経営課題を正確かつ十分に認識し、当該経営課題に対して真正面から向き合った上で、経営改善、事業再生等に意欲を持って主体的に取り組んでいくことが重要である。

同時に、金融機関においては、法に基づき債務者の返済負担を軽減するだけでなく、債務者のこうした自助努力を、経営再建計画の策定支援、貸付けの条件の変更等を行った後の継続的なモニタリング、経営相談、指導といったコンサルティング機能を発揮することにより最大限支援していくことが求められている。

このような、債務者と金融機関双方の取組みが相乗効果を発揮することにより、債務者の経営改善、事業再生等が着実に図られるとともに、債務者の返済能力が改善し、将来の健全な資金需要が拡大していくことを通じ、金融機関の収益力や財務の健全性の向上も図られるという流れを定着させることが重要である。

特に、貸付残高が多いなど、債務者から主たる相談相手としての役割を期待されている金融機関は、コンサルティング機能を積極的に発揮し、債務者が経営課題を認識した上で経営改善、事業再生等に向けて自助努力できるよう、最大限支援していくことが期待される。

以上の考え方を踏まえ、今般、当局は、金融機関によるコンサルティング機能の発揮を一層定着させるため、貸付けの条件の変更等に関する相談または申込みを行った中小企業者(以下「債務者」という。)に対して金融機関が果たすべき役割を具体化するよう、法の延長・施行に併せて監督指針を策定することとした。

I -2 本監督指針の位置付け
(本監督指針と「中小企業者等に対する金融の円滑化を図るための臨時措置に関する法律に基づく金融監督に関する指針(平成21年12月公表)」との関係 )

「中小企業者等に対する金融の円滑化を図るための臨時措置に関する法律に基づく金融監督に関する指針(平成21年12月公表)」(以下「円滑化指針(平成21年12月)」という。)は、平成21年12月当時の極めて厳しい経済金融情勢の下で中小企業者等の資金繰りを支援するための臨時の措置として制定された法の施行期間中に、法が円滑に施行されるための環境整備の一環として策定されたものであり、貸付の条件の変更等の申込みに対する対応を中心に定められている。円滑化指針(平成21年12月)は、本監督指針の施行後においても引き続き効力を有する。

他方、本監督指針は、法の1年間の延長にあたり、法の期限が到来した後も、金融機関によるコンサルティング機能が積極的に発揮されるような環境整備の一環として策定されたものである。したがって、本監督指針は、円滑化指針(平成21年12月)の内容とも一部重複する箇所を有しつつ、金融機関がコンサルティング機能を発揮していくにあたって恒常的に果たすべき具体的な役割を中心に定められている。

なお、本監督指針の運用にあたっては、各金融機関の規模、特性その他の個別の状況等を十分に踏まえ、機械的・画一的な取扱いとならないよう配慮するものとする。

特に、今般の東日本大震災により大きな被害を受けている地域においては、債務者の置かれている極めて厳しい状況や債務者のニーズに十分に配慮したコンサルティング機能の発揮が強く期待される一方、金融機関自身も大きな被害を受けているため、コンサルティング機能の発揮のための経営資源の十分な確保が期待できない、といった困難な状況が想定される。本監督指針の運用にあたっては、こうした震災地域特有の極めて厳しい事情に十分に配慮するものとする。震災地域の金融機関においては、自ら対応可能な範囲においてコンサルティング機能を発揮し、債務者の経営改善、事業再生等を図ることで自らの収益力や財務の健全性の向上も図られるよう、債務者と共に復興に向けて着実に歩んでいくことが期待される。

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