II コンサルティング機能の発揮に際し金融機関が果たすべき役割
金融機関によるコンサルティング機能は、債務者の経営課題を把握・分析した上で、適切な助言などにより債務者自身の課題認識を深めつつ主体的な取組みを促し、同時に、最適なソリューション(経営課題を解決するための方策)を提案・実行する、という形で発揮されることが一般的であるとみられる。コンサルティング機能の発揮にあたって金融機関が果たすべき役割は、以下のとおりである。
なお、これは、当局及び金融機関、さらには債務者の認識の共有に資するために、本来は、債務者の状況や金融機関の規模・特性等に応じて種々多様であるコンサルティング機能を包括的に示したものである。コンサルティング機能の具体的な内容は、各金融機関において、自らの規模や特性、債務者のニーズ等を踏まえ、自主的な経営判断により決定されるべきものであり、金融機関に一律・画一的な対応を求めるものではないことに留意する必要がある。
II -1 経営課題の把握・分析等
(1)経営課題の把握・分析と事業の持続可能性の見極め
融資等を通じて債務者の財務情報や各種の定性情報を蓄積している金融機関は、立場上、当該債務者の経営課題を適切に把握・分析することに優位性を有しており、かつ、その機能を発揮することが期待されている。
金融機関は、自らのそうした立場や期待されている機能を十分に認識した上で、貸付けの条件の変更等の相談や申込みへの真摯な対応等を通じ、以下のような点を総合的に勘案して債務者の本質的な経営課題を把握・分析し、債務者の事業の持続可能性等(類型は本監督指針II-2(1)参照)を適切かつ慎重に見極める。
- 債務者の経営資源、経営改善・事業再生等に向けた意欲、経営課題を克服する能力
- 外部環境の見通し
- 債務者の関係者(取引先、他の金融機関、外部専門家、外部機関等)の協力姿勢
- 金融機関の取引地位(総借入残高に占める自らのシェア)や取引状況(設備資金/運転資金の別、取引期間の長短等)
- 金融機関の財務の健全性確保の観点
(2)債務者の課題認識・主体的な取組みの促進
金融機関は、貸付けの条件の変更等の相談や申込みへの真摯な対応等を通じて把握した債務者の本質的な経営課題を、債務者自身が正確かつ十分に認識できるよう適切に助言し、債務者がその解決に向けて主体的に取り組んでいくよう促す。
また、経営課題についての債務者の認識が不十分な場合は、必要に応じて、他の金融機関、外部専門家、外部機関等と連携し、債務者に対し認識を深めるよう働きかけるとともに主体的な取組みを促す。
(参考)顧客企業が自らの経営の目標や課題を正確かつ十分に認識できるよう助言するにあたっては、当該顧客企業に対し、「中小企業の会計に関する指針」や「中小企業の会計に関する基本要領」の活用を促していくことも有効である。
II -2 最適なソリューションの提案
(1)ソリューションの提案
金融機関は、II-1(1)に定めるとおり債務者の経営課題を把握・分析し、事業の持続可能性等を適切かつ慎重に見極めた上で、その類型に応じて適時に最適なソリューションを提案する。その際、必要に応じて、他の金融機関、外部専門家、外部機関等と連携する。
特に、顧客企業が事業再生、業種転換、事業承継、廃業等の支援を必要とする状況にある場合や、支援にあたり債権者間の調整を必要とする場合には、当該支援の実効性を高める観点から、外部機関等の第三者的な視点や専門的な知見・機能を積極的に活用する。
(参考)事業の持続可能性等に応じて提案するソリューション(例)
事業の持続可能性等の類型 | 金融機関が提案するソリューション | |
外部専門家・外部機関等との連携 | ||
経営改善が必要な債務者 (自助努力により経営改善が見込まれる債務者など) |
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事業再生や業種転換が必要な債務者 (抜本的な事業再生や業種転換により経営の改善が見込まれる債務者など) |
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事業の持続可能性が見込まれない債務者 (事業の存続がいたずらに長引くことで、却って、経営者の生活再建や当該債務者の取引先の事業等に悪影響が見込まれる債務者など) |
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(注)この図表の例示に当てはまらない対応が必要となる場合もある。例えば、金融機関が適切な融資等を実行するために必要な信頼関係の構築が困難な債務者(金融機関からの真摯な働きかけにもかかわらず財務内容の正確な開示に向けた誠実な対応が見られない債務者、反社会的勢力との関係が疑われる債務者など)の場合は、金融機関の財務の健全性や業務の適切な運営の確保の観点を念頭に置きつつ、債権保全の必要性を検討するとともに、必要に応じて、税理士や弁護士等と連携しながら、適切かつ速やかな対応を実施することも考えられる。
(2)経営再建計画の策定支援
II-2(1)に定めるソリューションが金融機関と債務者、必要に応じて他の金融機関、外部専門家、外部機関等との間で合意された場合(金融機関から提案されたソリューションが債務者、必要に応じて他の金融機関、外部専門家、外部機関等との協議等を踏まえて修正された後に合意に至る場合を含む。)、速やかに、当該ソリューションを織り込んだ経営再建計画の策定に取り組むこととなる。
経営再建計画は、債務者が本質的な経営課題を認識し改善に向けて主体的に取り組んでいくためにも、できる限り、債務者が自力で策定することが望ましい。その際、金融機関は、経営再建計画の合理性や実現可能性、II-2(1)に定めるソリューションを適切に織り込んでいるか等について、債務者と協力しながら確認するよう努める。
ただし、債務者が自力で経営再建計画を策定できないやむを得ない理由があると判断される場合には、債務者の理解を得つつ、経営再建計画の策定を積極的に支援(債務者の実態を踏まえて経営再建計画を策定するために必要な資料を金融機関が作成することを含む)する。
なお、経営再建計画の策定にあたっては、中小企業者の人員や財務諸表の作成能力等を勘案し、大企業の場合と同様な大部で精緻な経営再建計画等の策定に拘ることなく、簡素・定性的であっても、債務者の経営改善や事業再生等に向けて、実効性のある課題解決の方向性を提案することを目指す。
(注)経営再建計画や課題解決の方向性が、実現可能性の高い抜本的な経営再建計画に該当する場合には(該当要件については、主要行等向けの総合的な監督指針または中小・地域金融機関向けの総合的な監督指針等を参照のこと。)、当該経営再建計画や課題解決の方向性に基づく貸出金は貸出条件緩和債権には該当しないこととなる。
(3)新規の信用供与
貸付けの条件の変更等を行った債務者に対しても積極的かつ適切に金融仲介機能を発揮する観点から、II-2(1)に定める経営改善が必要な債務者等から新規の信用供与の申込みがあった場合であって、新規の信用供与により新たな収益機会の獲得や中長期的な経費削減等が見込まれ、それが債務者の業況や財務等の改善につながることで債務償還能力の向上に資すると判断される場合には、積極的かつ適時適切に新規の信用供与を行うよう努める。
II -3 ソリューションの実行および進捗状況の管理
金融機関は、債務者や連携先とともに、ソリューションの合理性や実行可能性を検証・確認した上で、協働してソリューションを実行する。
ソリューションの実行後においても、必要に応じて連携先と協力しながら、実行状況を継続的にモニタリングするとともに、経営相談や経営指導を行っていくなど、ソリューションの進捗状況を適切に管理する。
また、債務者へ貸付けを行っている金融機関が複数存在することを認識している場合は、必要に応じ、それらの金融機関と連携を図りながら進捗状況の管理を行うことも検討する。
なお、進捗状況の管理を行っている間に、経営再建計画の策定当初には予期し得なかった外部環境の大きな変化等が生じたことを察知した場合には、経営再建計画やソリューションの見直しの要否について債務者や連携先とともに検討する。見直しが必要な場合は、そうした変化や見直しの必要性等を債務者が認識できるよう適切な助言を行った上で、ソリューションの見直し(経営再建計画の再策定を含む)を提案し、債務者や連携先と協働して実行する。