I.基本的考え方

I-1 為替取引分析業者の監督に関する基本的考え方

(1)金融のデジタル化の進展や、マネー・ローンダリング、テロ資金供与及び拡散金融(以下「マネー・ローンダリング等」という。)の手口の巧妙化等を踏まえ、国際的にも、金融活動作業部会(FATF)において、より高い水準でのマネー・ローンダリング等への対応が求められており、金融機関等におけるマネー・ローンダリング等対策(以下「AML/CFT」という。)の実効性の向上は、喫緊の課題となっている。

こうした中、複数の金融機関等(資金決済に関する法律(以下「法」という。)第2条第18項に規定する金融機関等をいう。以下同じ。)の委託を受けて、為替取引に関し、同項各号に掲げる行為のいずれかを業として行うことを為替取引分析業とし、これに許可制を導入し、当局の検査・監督等を及ぼすことで、当該業務運営の質を確保することとした。

こうした制度趣旨の下、為替取引分析業者には、取引フィルタリングや取引モニタリング等の実効性を継続的に向上させることにより、金融機関等におけるAML/CFTの実効性の向上に資する役割が求められている。

為替取引分析業者の監督の目的は、こうした為替取引分析業者の業務運営の質を確保することで、委託元金融機関等(その行う為替取引に関し、為替取引分析業を行う者に法第2条第18項各号に掲げる行為のいずれかに係る業務(以下「為替取引分析業務」という。)を委託する金融機関等をいう。以下同じ。)におけるAML/CFTの実効性の向上を図り、もって資金決済システムの安全性、効率性及び利便性の向上に資することにある(法第1条)。

(注)本監督指針において、「取引フィルタリング」とは、次の①から③までの業務をいい、「取引モニタリング」とは、次の④の業務をいう。

① 法第2条第18項第1号又は第2号に掲げる行為のいずれかに係る業務

② 為替取引分析業者に関する命令(以下「命令」という。)第8条第2号若しくは第3号に掲げる業務又は為替取引分析業者に関する内閣府令(以下「府令」という。)第8条第2号若しくは第3号に掲げる業務

③ ①又は②に相当するものを行う業務(命令第8条第4号、第5号若しくは第6号又は府令第8条第4号、第5号若しくは第6号)

④ 法第2条第18項第3号に掲げる行為に係る業務又はこれに相当するものを行う業務(命令第8条第4号若しくは第5号又は府令第8条第4号若しくは第5号)

(2)金融庁としては、発足当初から、明確なルールに基づく透明かつ公正な行政を確立することを基本としている。このため、監督を始め検査・監視を含む各分野において、行政の効率性・実効性の向上を図り、更なるルールの明確化や行政手続面での整備等を行うこととしている。

(3)行政の透明性や公正性は、今後も行政運営の基本である。しかしながら、ルールを明確化しようとするばかり過度に詳細なチェックリスト等を策定し、問題の根本原因やこれが広がりをもって他の問題として生ずる可能性を踏まえた実質的な検証等を行うことなく、網羅的な検証項目に基づいた事後的かつ一律の検証を機械的に反復・継続するにとどまれば、かえって、為替取引分析業者において、経営全体や問題の根本原因を踏まえた真に重要な課題の把握、再発防止に向けた根本原因の解決、将来に向けた早め早めの対応や、より良い実務に向けた創意工夫の発揮が進まない等の弊害を引き起こしかねない。

金融庁としては、各為替取引分析業者の規模・特性や財務の健全性・法令等遵守等に係る重大な問題が発生する蓋然性等に応じて、実態把握や対話等によるオン・オフ一体のモニタリングを継続的に行い、必要に応じて監督上の措置を発動すること等により重大な問題の発生を事前に予防し、併せて、対話等を通じ為替取引分析業者によるより良い実務に向けた様々な取組を促していく。

(参考)「金融検査・監督の考え方と進め方(検査・監督基本方針)」(平成30年6月29日)

(4)為替取引分析業者の監督に携わる職員は、上記(1)から(3)までの基本的考え方を踏まえつつ、業務遂行に当たって、以下の事項を行動規範とし、行政の信認の確保に努めることとする。

① 国民からの負託と職務倫理の保持

自らの業務が国民から負託された職責に基づくものであって、その遂行に当たっては、上記(1)における為替取引分析業者の監督の目的を最優先の課題として行う必要があることを意識するとともに、職務に係る倫理の保持に努め、金融行政に対する国民の信頼を確保することを目指す。

② 綱紀・品位、秘密の保持

監督行政の遂行に当たり、綱紀・品位及び秘密の保持を徹底し、穏健冷静な態度で臨む。

③ 大局的かつ中長期的な視点

金融サービスを利用する国民や企業の目線に立って、局所的・短期的な問題設定・解決のみに甘んずるのではなく、根本原因を把握し、大局的かつ中長期的な視点から、早め早めに問題解決に取り組む。

④ 公正性・公平性

法令等に基づく適正な手続にのっとり、為替取引分析業者等の状況を踏まえて、公正・公平に業務を遂行する。また、国内の為替取引分析業者等と外国法人の子会社等である為替取引分析業者等との間で、法令等に基づく合理的な理由なく、異なる取扱いを行わない。

⑤ 為替取引分析業者の自主的努力の尊重

上記(1)の目的を達成するためには、為替取引分析業者による自主的な取組と創意工夫が不可欠であることを自覚し、民間事業者である為替取引分析業者の業務の運営についての自主的な努力を尊重するよう配慮する。

⑥ 自己研鑽

諸外国のものを含む金融に関する諸規制や金融機関の動向等のほか、金融という経済インフラを取り巻く幅広い社会・経済事象について、基本的知見を養う。また、対話等を行う自らの業務遂行に当たっては、各為替取引分析業者固有の実情に係る深い知見はもとより、経営分析、ガバナンス、リスク管理等の課題に応じた高い専門性に基づいた分析等が必要であり、これらの能力の習得に向けた自己研鑽に日々努める。

⑦ 適切かつ密接な組織内外の関係者との連携

実効性の高い監督を実現するためには、自らの所管に限らない広い視野が重要であり、庁内外の様々な主体と適切かつ密接に連携する。

I-2 為替取引分析業者向け監督指針の位置付け

I-2-1 本監督指針策定の趣旨

為替取引分析業者が、取引フィルタリング、取引モニタリング等を適正かつ確実に実施し、金融機関等におけるAML/CFTの実効性の向上に資する役割を果たしていくことは、極めて重要である。

そのためには、為替取引分析業者が自ら主体的に創意工夫を発揮し、取引フィルタリング、取引モニタリング等の実効性を継続的に向上させることが期待される。また、監督行政として、健全なイノベーションを促進するとともに業務の適正かつ確実な遂行の確保も図る観点から、適切な制度設計と併せて、為替取引分析業者が法令等遵守や情報システム等(情報システム又は情報システムを構成する施設、設備、機器、装置若しくはプログラムをいう。以下同じ。)の適切な管理・運用、業務において取り扱う情報の適切な取扱いの徹底等により国民からの信頼を得ることに加え、取引フィルタリング、取引モニタリング等の実効性の継続的な向上を意識したガバナンスを強化するよう適切に動機付けていくことが必要となる。

このような趣旨に基づき、日常の監督事務を適切に遂行するため、為替取引分析業者の監督に必要と考えられる項目を整理し、包括的かつ横断的に、為替取引分析業者に対する監督の考え方(監督上の着眼点等)、具体的な監督手法等を整備することとした。

I-2-2 本監督指針の位置付け

(1)本監督指針は、為替取引分析業者の監督を担う職員向けの手引書として、監督に関する基本的考え方、事務処理上の留意点、監督上の評価項目等を体系的に整理したものである。

(注)本監督指針においては、特に断りのある箇所を除き、監査役会設置会社である為替取引分析業者(法第2条第18項第1号に掲げる行為を業として行う者に限る。)又は監査役会設置会社であって当該行為を業として行おうとする者に対する監督事務について記載している。これら以外の者に対する監督事務に当たっては、本監督指針の趣旨を踏まえ、例えば以下のように、適宜読み替えて検証等を行うものとする。

① 監督対象が一般社団法人である場合

原則として、「代表取締役」とあるのは「代表理事」と、「取締役会」とあるのは「理事会」と、「取締役」とあるのは「理事」と、「監査役」とあるのは「監事」と、「資本金」とあるのは「基金」と読み替えるものとする。

② 監督対象が為替取引分析業者(法第2条第18項第1号に掲げる行為を業として行う者を除く。)又は法第63条の23の許可を受けようとする者(同号に掲げる行為を業として行おうとする者を除く。)である場合

命令の規定について、これに対応する府令の規定に適宜読み替えるものとする。

(2)金融庁は、検査・監督に関する方針として、本監督指針のほかに、分野別の「考え方と進め方」や各種原則(プリンシプル)、年度単位の方針、業界団体等への要請等の様々な文書を示しているが、検査・監督を行うに当たっては、各文書の趣旨・目的を踏まえた用い方をするとともに、為替取引分析業者に対し当該趣旨を丁寧に説明することとする。

(3)金融庁担当課室においては、本監督指針に基づき為替取引分析業者の監督事務を実施するものとする。その際、本監督指針が、為替取引分析業者の自主的な努力を尊重しつつ、その業務の適正かつ確実な遂行を確保することを目的とするものであることに鑑み、本監督指針の運用に当たっては、各為替取引分析業者の個別の状況等を十分踏まえ、機械的・画一的な取扱いとならないよう配慮するものとする。なお、評価項目に係る機能が形式的に具備されていたとしても、為替取引分析業の適正かつ確実な遂行等の観点からは必ずしも十分とは言えない場合もあることに留意する必要がある。

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