I.基本的考え方

I-1 清算・振替機関等の監督に関する基本的考え方

I-1-1 清算・振替機関等の監督の目的と監督部局の役割

清算機関(金商法第2条第29項に定める金融商品取引清算機関をいう。以下同じ。)、外国清算機関(同項に定める外国金融商品取引清算機関をいう。以下同じ。)、資金清算機関(資金決済法第2条第11項に定める資金清算機関をいう。以下同じ。)、振替機関(振替法第2条第2項に定める振替機関をいう。以下同じ。)及び取引情報蓄積機関(金商法第156条の64第3項に定める取引情報蓄積機関をいう。以下同じ。)(以下これを「清算・振替機関等」と総称する。)は、有価証券等の金融取引について、清算、振替、記録等の取引成立後の多量・多額の処理を行うものである。

(注)金商法:金融商品取引法、資金決済法:資金決済に関する法律、振替法:社債、株式等の振替に関する法律(以下同じ。)

清算・振替機関等において、取引成立後の多量・多額の処理が行われることで、その参加者等は効果的・効率的に業務遂行を行い、また、金融取引に係るリスクを削減することが可能となる。

一方で、一度、清算・振替機関等の業務に問題が発生した場合には、参加者等は、集中化された多量・多額の取引の処理に係る重大なリスクに直面する可能性がある。また、多数の当事者と多量・多額の取引等を行う清算・振替機関等の健全性等に対する信頼が損なわれた場合には、金融システムに不測の混乱を招きかねない。

このため、清算・振替機関等において、清算、振替、記録等の業務が的確に遂行され、適切なリスク管理が行われることは、清算・振替機関等に対する信任を確保し、ひいてはわが国金融システムの安定を確保する観点から、重要である。

清算・振替機関等の監督の目的は、こうした清算・振替機関等の業務の健全かつ適切な運営を確保し、もって、わが国の金融の機能の安定の確保及び投資者等の保護に資することにある。

効果的な監督行政を行うためには、清算・振替機関等の検査を行う検査部局の「オンサイト」と監督部局の「オフサイト」の双方のモニタリング手法を適切に組み合わせることが必要であり、実効性の高い監督を実現するためには、両部局が適切な連携の下に、それぞれの機能を的確に発揮することが求められる。

このような枠組みの中で、監督部局の役割は、継続的な情報の収集・分析を通じて、清算・振替機関等の業務の健全性や適切性に係る問題を早期に発見するとともに、改善のための働きかけを行っていくことである。具体的には、清算・振替機関等との定期的・継続的な意見交換等や、清算・振替機関等から提供された各種の情報の蓄積及び分析を通じ、問題を早期に発見し、改善を促していくことが重要な役割といえる。

I-1-2 清算・振替機関等の監督に当たっての基本的考え方

上記を踏まえ、清算・振替機関等の監督に当たっての基本的考え方は、次のとおりである。

  • (1)検査部局との適切な連携

    監督部局と検査部局が、それぞれの独立性を尊重しつつ、適切な連携を図り、オンサイトとオフサイトの双方のモニタリング手法を適切に組み合わせることで、実効性の高い清算・振替機関等の監督を実現することが重要である。このため、監督部局においては、検査部局との連携について、以下の点に十分留意する。

    • マル1検査を通じて把握された問題点については、監督部局は、問題点の改善状況をフォロ-アップし、その是正につなげていくよう努めること。また、必要に応じて、行政処分等厳正な監督上の措置を講じること。

    • マル2監督部局がオフサイト・モニタリングを通じて把握した問題点については、次回検査においてその活用が図られるよう、検査部局に還元すること。

  • (2)清算・振替機関等との十分な意思疎通の確保

    清算・振替機関等の監督に当たっては、清算・振替機関等の経営に関する情報を的確に把握・分析し、必要に応じて、適時適切に監督上の対応につなげていくことが重要である。

    このため、監督当局においては、清算・振替機関等からの報告だけではなく、日頃から十分な意思疎通を図ることを通じて積極的に情報収集する必要がある。具体的には、清算・振替機関等との定期的な意見交換等を通じて、清算・振替機関等との日常的なコミュニケ-ションを確保し、財務情報のみならず、経営に関する様々な情報についても把握するよう努める必要がある。

  • (3)清算・振替機関等の自主的な努力の尊重

    監督当局は、清算・振替機関等が法令等に基づき自ら行う一連の機能の提供状況や、自己責任原則に則った経営判断を、法令等に基づき検証し、問題の改善を促していく立場にある。清算・振替機関等の監督に当たっては、このような立場を十分に踏まえ、清算・振替機関等の業務運営に関する自主的な努力を尊重するよう配慮しなければならない。

  • (4)効率的・効果的な監督事務の確保

    監督当局及び清算・振替機関等の限られた資源を有効に利用する観点から、監督事務は効率的・効果的に行われる必要がある。したがって、清算・振替機関等に報告や資料提出等を求める場合には、監督上真に必要なものに限定するよう配意するとともに、現在行っている監督事務の必要性、方法等については常に点検を行い、必要に応じて改善を図るなど、効率性の向上を図るよう努めなければならない。

I -2 監督指針策定の趣旨

I -2-1 監督指針策定の趣旨

わが国の決済システムについては、平成12年の金融審議会報告書「21世紀に向けた証券決済システム改革について」以降、平成14年の社債・国債等のぺーパーレス化及び清算機関の制度整備、平成21年の株券電子化実現、平成24年の店頭デリバティブの清算・取引情報保存義務導入など、清算・振替機関等の行う業務の拡大・複雑化が進んでいる。

また、先般の金融危機の教訓等を踏まえ、国際決済銀行(BIS)・支払決済システム委員会(CPSS)(注)と証券監督者国際機構(IOSCO)において、既存の資金決済システム、証券決済システム、清算機関に関する国際基準の包括的な見直しが行われ、これらの基準を統合し、強化を図った「金融市場インフラのための原則」が策定・公表されるなど、清算・振替機関等に係る国際的な規制環境も大きく変化している。

(注)支払決済システム委員会(CPSS)は、平成26年9月1日に決済・市場インフラ委員会(CPMI)へ名称を変更した。

このような状況の下、新たな国際基準も踏まえつつ、清算・振替機関等に対する監督上の着眼点と監督手法等を明確化し、日常の監督事務を効果的に遂行し、もって清算・振替機関等における一層的確な業務運営の確保を図るため、本監督指針を策定することとした。

本監督指針は、清算・振替機関等の実態を十分に踏まえ、様々なケ-スに対応できるように作成したものであり、本監督指針に記載されている監督上の評価項目の全てについて各々の清算・振替機関等に一律適用することが求められているものではない。

従って、本監督指針の適用に当たっては、各評価項目の字義通りの対応が行われていない場合であっても、公益又は投資者保護等の観点から問題のない限り、不適切とするものではないことに留意し、機械的・画一的な運用に陥らないように配慮する必要がある。一方、評価項目に係る機能が形式的に具備されていたとしても、公益又は投資者保護等の観点からは必ずしも十分とは言えない場合もあることに留意する必要がある。

なお、金融商品取引所が内閣総理大臣の承認(金商法第156条の19第1項)を得て行うことができる清算業務についても、金商法上、清算機関と同一の規制に服し、本監督指針の対象となる。

また、国債の振替については、日本銀行を振替業を営む者として指定できるとする特例(振替法第47条第1項)がある。当該規定に基づき振替業を行っている日本銀行に対し、本監督指針の下で振替法の定めるところにより監督を行うに当たっては、日本銀行法に基づき運営されている日本銀行の組織の特殊性に留意するとともに、その業務運営における自主性に十分配慮する。

以上を踏まえ、監督部局は、本監督指針に基づき、清算・振替機関等の監督事務を実施する。

I-2-2 本監督指針の構成

本監督指針は、清算・振替機関等の監督に効果的に利用可能なものとする観点から構成されている。

すなわち、「I.基本的な考え方」、「II.清算・振替機関等の監督に係る事務処理上の留意点」は、特段の記載がない限り、清算・振替機関等の全てを対象とし、その上で、清算・振替機関等に対する「監督上の評価項目と諸手続」については、III.からVI.において業態ごとに整理することとしている。

なお、清算機関に係るI.からIII.までの規定は、外国清算機関についてこれを準用し、本監督指針の趣旨を踏まえ、実態に即して適宜読み替えて検証等を行うこととする。

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