III.監督上の評価項目と諸手続(清算機関)

III-1 経営管理(ガバナンス)

III-1-1 経営管理体制

  • (1)意義

    清算機関の業務が複雑化し、より一層適切なリスク管理等が求められる中で、清算機関の業務の的確な運営と経営の健全性を確保し、もって金融システムの安定を確保するためには、清算機関において経営に対する規律付けが有効に機能し、適切な経営管理(ガバナンス)が行われることが重要である。

    経営管理が有効に機能するためには、その組織の構成要素がそれぞれ本来求められる役割を果たしていることが前提となる。具体的には、取締役会、監査役会といった機関が経営をチェックできていること、各部門間のけん制や内部監査部門が健全に機能していること等が重要である。また、代表取締役、取締役、執行役、監査役及び全ての職階における職員が自らの役割を理解し、そのプロセスに十分関与することが必要となる。

    • (注)指名委員会等設置会社である場合については、取締役会、指名委員会等、執行役等の機関等、また、監査等委員会設置会社である場合については、取締役会、監査等委員会等の機関等が、それぞれ与えられた権限等を適切に行使しているのかどうかといった観点から検証する必要がある。この場合においては、本監督指針の趣旨を踏まえ、実態に即して検証を行うこととする。

  • (2)主な着眼点

    [代表取締役]

    • マル1法令等遵守を経営上の重要課題の一つとして位置付け、代表取締役が率先して法令等遵守態勢の構築に取り組んでいるか。

    • マル2代表取締役は、リスク管理部門を軽視することが企業収益に重大な影響を与えることを十分認識し、リスク管理部門を重視しているか。

    [取締役・取締役会]

    • マル1取締役は、業務執行にあたる代表取締役等の独断専行をけん制・抑止し、取締役会における業務執行の意思決定及び取締役の業務執行の監督に積極的に参加しているか。

    • マル2社外取締役が選任されている場合には、社外取締役は、経営の意思決定の客観性を確保する等の観点から自らの意義を認識し、積極的に取締役会に参加しているか。また、社外取締役の選任議案を決定する場合には、社外取締役に期待される役割を踏まえ、清算機関との人的関係、資本的関係その他の利害関係を検証し、その独立性・適格性等を慎重に検討しているか。また、社外取締役が取締役会で適切な判断をし得るよう、例えば、情報提供を継続的に行う等、何らかの枠組みを設けているか。

    • マル3取締役会は、例えば、法令等遵守や信用リスク管理等に関する経営上の重要な意思決定・経営判断に際し、必要に応じ、外部の有識者の助言、外部の有識者を委員とする任意の委員会等を活用するなど、その妥当性・公正性を客観的に確保するための方策を講じているか。特に、制度設計・規則・全体的な戦略・重要な決定事項について参加者その他の関係者の意見を適切に反映するための方策を講じているか。

    • マル4取締役会は、清算機関が目指すべき全体像等に基づいた経営方針を明確に定めているか。さらに、経営方針に沿った経営計画を明確に定め、それを組織全体に周知しているか。また、その達成度合いを定期的に検証し必要に応じ見直しを行っているか。

    • マル5取締役及び取締役会は、法令等遵守に関し、誠実に、かつ率先垂範して取組み、全社的な内部管理態勢の確立のため適切に機能を発揮しているか。

    • マル6取締役会は、リスク管理部門を軽視することが企業収益に重大な影響を与えることを十分認識し、リスク管理部門を重視しているか。特に担当取締役はリスクの所在及びリスクの種類を理解した上で、各種リスクの測定・モニタリング・管理等の手法について深い認識と理解を有しているか。

    • マル7取締役会は、戦略目標を踏まえたリスク管理の方針を明確に定め、社内に周知しているか。また、リスク管理の方針は、定期的又は必要に応じ随時見直しているか。さらに、定期的にリスクの状況の報告を受け、必要な意思決定を行うなど、把握したリスク情報を業務の執行及び管理体制の整備等に活用しているか。

    [監査役・監査役会]

    • マル1監査役・監査役会は、制度の趣旨に則り、その独立性が確保されているか。

    • マル2監査役・監査役会は、付与された広範な権限を適切に行使し、会計監査に加え業務監査を実施しているか。

    • マル3監査役会が組織される場合であっても、各監査役は、あくまでも独任制の機関であることを自覚し、自己の責任に基づき積極的な監査を実施しているか。

    • マル4監査役・監査役会は、外部監査の内容に応じてその結果の報告を受けるなどして、自らの監査の実効性の確保に努めているか。

    [内部監査部門]

    • マル1内部監査部門は、被監査部門に対して十分けん制機能が働くよう独立する一方、被監査部門の業務状況等に関する重要な情報を適時収集する態勢・能力を有し、清算機関を取り巻く環境や業務状況に的確に対応した、実効性ある内部監査が実施できる体制となっているか。

    • マル2内部監査部門は、被監査部門におけるリスク管理状況等を把握した上、リスクの種類・程度に応じて、頻度・深度に配慮した効率的かつ実効性ある内部監査計画を立案し、状況に応じて適切に見直すとともに、内部監査計画に基づき効率的・実効性ある内部監査を実施しているか。

    • マル3内部監査部門は、内部監査で指摘した重要な事項について遅滞なく代表取締役及び取締役会に報告しているか。内部監査部門は、指摘事項の改善状況を的確に把握しているか。

    [外部監査の活用]

    • マル1実効性ある外部監査が、清算機関の業務の健全かつ適切な運営の確保に不可欠であることを十分認識し、有効に活用されているか。

    • マル2外部監査が有効に機能しているかを定期的に検証するとともに、外部監査の結果等について適切な措置を講じているか。

    • マル3関与公認会計士の監査継続年数等が適切に取り扱われているか。

  • (3)監督手法・対応

    下記のヒアリング及び通常の監督事務を通じて、経営管理について検証することとする。

    • マル1総合的なヒアリング(II-1-1(1)参照)

      総合的なヒアリングにおいて、経営上の課題、経営戦略及びその諸リスク、ガバナンスの状況等に関し、ヒアリングを行うこととする。また、必要に応じて、経営陣に対して直接にトップヒアリングを行うこととする。

    • マル2日常の監督事務を通じた経営管理の検証

      上記のヒアリングに加え、例えば、検査における指摘事項に対する業務改善報告のフォローアップ等の日常の監督事務を通じても、経営管理の有効性について検証することとする。

    • マル3モニタリング結果の記録

      上記モニタリング結果を踏まえ、特記すべき事項についてはその記録を作成・保存することにより、その後の監督事務における有効な活用を図ることとする。

    • マル4監督手法・対応

      清算機関において、経営管理の有効性等に疑義が生じた場合には、原因及び改善策等について、深度あるヒアリングや、必要に応じて金商法第156条の15の規定に基づく報告を求めることにより、自主的な業務改善状況を把握する。

      さらに、公益又は投資者保護のため必要かつ適当であると認められるときには、金商法第156条の16の規定に基づく業務改善命令を発出する等の対応を行うものとする。

III―1-2 清算機関の役員

  • (1)主な着眼点

    清算機関の役員の選任議案の決定プロセス等においては、金融商品債務引受業の公共性を維持するとの観点から、以下の点に留意して検証する。

    • マル1欠格事由(金商法第82条第2項第3号イからヘまで)のいずれかに該当するか又は免許若しくは承認時既に該当していた者でないこと。

    • マル2金融商品債務引受業又はこれに付随する業務に関し法令又は法令に基づいてする行政官庁の処分に違反していないこと。

    • マル3金融商品債務引受業に関し、不正又は著しく不当な行為をし、その情状が特に重いと認められることがないこと。

  • (2)監督手法・対応

    清算機関の役員が、マル1金商法第82条第2項第3号イからヘまでに該当することとなったとき又は免許若しくは承認時既に該当していたことが判明したとき、マル2不正の手段により清算機関の役員となった者であることが判明したとき、マル3法令又は法令に基づく行政官庁の処分に違反したとき又は違反したことが判明したときは、金商法第156条の14第3項又は第156条の17第2項の規定に基づき、当該役員の解任命令等の処分を検討する。

    併せて、当該役員又は委員の選任プロセス等について深度あるヒアリングを行い、必要な場合には金商法第156条の15の規定に基づく報告を求め、さらに、当該清算機関の経営管理態勢に重大な問題があると認められる場合であって、公益又は投資者保護のため必要かつ適当であると認めるときは、業務改善命令(金商法第156条の16)等の処分を検討する。

III-1-3 人的構成

  • (1)主な着眼点

    清算機関の役員又は使用人に関する以下の事項に照らし、金融商品債務引受業を適正かつ確実に遂行するに足りる人的構成が確保されていると認められるか。

    • マル1金商法及び関連諸規則や本監督指針で示している経営管理の着眼点の内容を理解し、実行するに足る知識・経験、並びに金融商品債務引受業の適正かつ確実な遂行に必要となる法令等遵守態勢及びリスク管理に関する十分な知識・経験を有している者を確保しているか。

    • マル2暴力団員(暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律第2条第6号に規定する暴力団員をいう。以下同じ。)でないか(過去に暴力団員であった場合を含む。)又は暴力団(暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律第2条第2号に規定する暴力団をいう。以下同じ。)と密接な関係を有する者ではないか。

    • マル3金商法等わが国の金融関連法令又はこれらに相当する外国の法令の規定に違反し、罰金の刑(これに相当する外国の法令による刑を含む。)に処せられたことがないか。

    • マル4暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律の規定(同法第32条の3第7項及び第32条の11第1項の規定を除く。)若しくはこれに相当する外国の法令の規定に違反し、又は刑法若しくは暴力行為等処罰に関する法律の罪を犯し、罰金の刑(これに相当する外国の法令による刑を含む。)に処せられたことがないか。

    • マル5禁錮以上の刑(これに相当する外国の法令による刑を含む。)に処せられたことがないか。特に、刑法第246条から第250条まで(詐欺、電子計算機使用詐欺、背任、準詐欺、恐喝及びこれらの未遂)の罪に問われていないか。

  • (2)監督手法・対応

    上記マル1からマル5までに掲げる要素は、清算機関が金融商品債務引受業を適正かつ確実に遂行するに足りる人的構成を有していると認められるか否かを審査するために総合的に勘案する要素の一部であり、特定の要素への該当をもって直ちにその人的構成の適否を判断するものではない。まずは清算機関自身がその責任において、こうした要素を踏まえつつ、適切な人的構成の確保に努めるべきである。

    ただし、清算機関の役員又は使用人の選任プロセス等において、こうした要素が十分に勘案されていないと認められる場合であって、清算機関の業務の運営に関し公益又は投資者保護のため必要かつ適当であると認めるときは、当該人的構成に関する清算機関の認識、及び役員又は使用人の選任プロセス等について深度あるヒアリングを行い、必要な場合には金商法第156条の15の規定に基づく報告を求める。

    報告徴求の結果、清算機関の経営管理態勢に重大な問題があると認められる場合であって、公益又は投資者保護のため必要かつ適当であると認めるときは、金商法第156条の16の規定に基づく業務改善命令等の処分を検討する。

III-2 財務の健全性

III-2-1 資本の充実

  • (1)意義

    清算機関が、信用・流動性リスク等に係る適切なリスク管理体制を整備しつつ、経営の態様に応じた十分な財務基盤を保有することは、清算機関に対する参加者・市場関係者の信任を確保し、清算機関が継続的・安定的に業務運営を行う上で重要である。

    このため、清算機関においては、各種のリスクが顕在化した場合でもそれに伴う損失に十分耐えられるだけの流動的な資産を保持すべきである。

    また、リスク特性に照らした資本の充実の程度を評価するプロセスを有し、十分な資本を維持するための適切な方策を講じる必要がある。

  • (2)主な着眼点

    [取締役・取締役会]

    • マル1取締役は、自社が取っているリスクの性質及び水準並びにリスクと適切な資本の水準との関係について理解しているか。

    • マル2取締役及び取締役会は、戦略目標を達成するためには、それに見合う資本計画が不可欠な要素であることを理解し、自社の経営課題を踏まえた適切な資本計画を策定しているか。

    • マル3取締役は、上記資本計画の策定、資本の充実の程度を評価するプロセス、及び十分な資本を維持するための適切な方策を講じることに十分に関与しているか。

    [資本の充実の評価]

    • マル1上記資本計画の策定に当たっては、事業環境の変化等を踏まえ行われる包括的なリスク管理において計測したリスクとの対比において充実したものとなっているかについて、評価が行われているか。

    • マル2純資産の額など、営業上のリスクに備えて保有すべき金額については、信用リスク、流動性リスクなどの参加者破綻に備えることを目的に手当てしている財源を控除した上で、少なくとも減価償却費を控除した営業費用の6月分に相当する額を確保することとし、また、当該金額が自社の業務の継続を確実なものとする観点から十分な水準にあるかを検証しているか。

    • マル3自己資本についても、例えば、現金・現金等価物を中心とする等によりストレスシナリオ下で容易に流動化することできるかなど、適切な検証を行っているか。

    • マル4仮に資本の水準が自社の業務の継続を不確実なものとする水準に近づいたり、下回ったりする場合には、追加的な資本を調達するための実行可能な計画を有しているか。

III-2-2 包括的なリスク管理の体制

  • (1)意義

    金融商品に係る取引終了後の処理を集中的に行う清算機関は、信用リスク、流動性リスク等に止まらず、システムリスク、事務リスク等の多様なリスクに直面している。清算機関においては、これらのリスクが自らの財務の健全性等に影響を与えることがないかを包括的に確認し、適切なリスク管理体制を整備していくことが求められる。

    また、清算参加者である金融機関等が、清算機関に資金決済機能や流動性供給機能を果たすこととされている場合には、当該金融機関等が清算機関の健全性に及ぼす影響は上記信用リスクの顕在化等に止まらないことを踏まえ、清算機関においては、当該金融機関等との間でのリスクを包括的に特定することが重要である。

  • (2)主な着眼点

    • ①リスク管理部門は、十分な権限、独立性、資源及び取締役会へのアクセスを有し、実効性あるリスク管理を行うことができる体制となっているか。例えば、リスク管理部門が把握した事項の取締役会への報告体制は、他の部門の報告体制と明確に分離され、リスク管理部門の権限により取締役会に直接報告できるような体制となっているか。

    • ②多様なリスクを包括的に把握するため、全てのリスクを洗い出し、特定した上で、可能な場合には計量的なリスク管理の対象として、リスクカテゴリーを適切に決定しているか。

    • ③必要に応じて、計量化の範囲及び精度を向上させるための検討を行っているか。例えば、異なる種類のリスクの重要性や相関等について、適切性を確保すべく検討を行っているか。

    • ④取締役会は、清算機関全体の経営方針に沿った戦略目標を踏まえたリスク管理の方針を明確に定め、定期的に、少なくとも年次で、検証及び必要に応じた見直しを行うこととしているか。加えて、取締役会は、リスク管理の方針が組織内で周知されるよう、適切な方策を講じているか。

    • ⑤取締役会は、定期的にリスクの状況の報告を受け、必要な意思決定を行うなど、把握されたリスク情報を業務の執行及び管理体制の整備等に活用しているか。

    • ⑥資金決済機能を日本銀行以外の金融機関に委ねる場合には、当該資金決済金融機関の信用力、資本、流動資産等の状況を適時に把握し、当該資金決済銀行に対して過度に信用・流動性リスクを集中させていないか等の観点から、リスク管理の包括的な検証・管理を行うこととしているか。

    • ⑦他の清算・振替機関等との間で、直接又は仲介機関を通じて接続するための契約・事務処理上の取極めを行う前に、又は当該取極めを行った後は継続的に、当該取極めが清算機関にもたらす潜在的なリスクの源泉を特定し、管理するための方策を講じているか。

III-2-3 信用リスク管理

  • (1)意義

    清算機関は、支払・清算の過程において、清算参加者、決済銀行、カストディアン等の取引関係者の財務状況悪化や決済不履行等により損失を被るリスクを負っている。

    特に、参加者が破綻した場合などには、参加者間の急速な信用収縮等が金融市場に深刻な混乱を引き起こす可能性が存在する。

    このため、清算機関は、参加者に対する信用エクスポージャーを的確に管理し、証拠金制度その他の制度・手法を組み合わせ、参加者の決済不履行等から生じる潜在的な損失を制限し、自ら及び他の参加者の損失を極小化することが求められる。

  • (2)主な着眼点

    • マル1清算機関は、参加者に対する信用エクスポージャーなど、自社の行う清算業務の過程で生じる信用リスクを管理するための方針を定めているか。

    • マル2清算機関は、信用リスクの源泉を特定し、信用リスク量を定期的に計測し、信用リスクを管理するための方針の遵守状況を把握し、必要に応じ、リスク量の削減等の措置を講じることとしているか。

    • マル3信用リスクを管理するための方針の策定に当たっては、必要に応じ、参加者その他の外部有識者を活用するなど、当該方針の妥当性等を確保するための措置を講じているか。また、その作成後も、外部環境の変化等に応じ定期的に、少なくとも年次で、その妥当性等を検証し、必要に応じ見直しを行うこととしているか。

    • マル4清算機関は、証拠金などの事前拠出型の財務資源を用いて、各参加者に対する信用エクスポージャーを高い信頼水準でカバーしているか。具体的には、III-2-5にある証拠金制度を実施すること等により、必要な事前拠出型の財務資源を確保することとしているか。

    • マル5また、極端であるが現実に起こり得る市場環境を念頭におき、事前拠出型の財務資源に限らない追加的な財務資源も含めて、最大の総信用エクスポージャーをもたらす可能性がある1先の参加者(連結ベース)(注)が破綻した場合のストレスシナリオを十分にカバーするだけの財務資源を保持しているか。特に、CDS等の複雑なリスク特性を伴う商品の清算業務に従事している場合には、最大の総信用エクスポージャーをもたらす可能性がある2先の参加者(連結ベース)(注)の破綻など、当該商品の複雑性を加味したより保守的なシナリオを十分にカバーするだけの財務資源を保持しているか。

      • (注)当該参加者の関係会社等(当該参加者の子会社及び関連会社並びに当該参加者の親会社、当該親会社の子会社及び当該親会社の関連会社のことを指す)を含み算出された額をいう。

    • マル6上記の必要財務資源について、以下の点に留意しつつ、厳格なストレステスト等により、その十分性を定期的に検証しているか。

      • ア.ストレステストの実施に当たっては、価格ボラティリティやイールドカーブの変化等の市場要因の変化、複数参加者の破綻、参加者破綻時の市場の逼迫など、極端であるが現実に起こり得る市場環境を様々に想定したフォワードルッキングなシナリオを含め実施することとしているか。

      • イ.リスク管理の方針に則り、事前に決定されたシナリオ、モデル、パラメータ等を用いて、ストレステスト及びバックテストを日次で実施しているか。当該テストの結果を、内部の適切な意思決定者に報告し、財務資源の十分性を評価し、必要に応じ追加資源を確保するための明確な手続を策定しているか。

      • ウ.採用しているシナリオ、モデル、パラメータ等の適切性につき、少なくとも月次で、詳細な分析を行っているか。また、市場のボラティリティ上昇、流動性低下、参加者のポジションの規模・集中度の著しい増大などにより必要と認められる場合に、シナリオ等の分析をより頻繁に行うこととしているか。

      • エ. また、少なくとも年次で、上記リスクを管理するための方針の検証と併せて、リスク管理モデル全般について、全面的な検証及び、必要に応じ修正を行うこととしているか。

III-2-4 流動性リスク管理

  • (1)意義

    取引相手が将来いずれかの時点で債務を履行し得る場合にも、これらの者が限られた期日どおりに決済できない場合には、清算機関に当該債務の不履行による損失が生じることとなる(流動性リスク)。

    こうした場合には、清算機関が自らの流動的な資産によって当該債務不履行等に係る資金不足をカバーし、決済を完了する必要が生じるため、清算機関において、流動性リスクの把握とこれに応じた流動的な資産の確保等により、流動性リスクを的確に管理することが求められる。

  • (2)主な着眼点

    • マル1清算機関は、自社の行う清算業務の過程で生じる流動性リスクを管理するための方針を定めているか。また、決済及び資金調達フローを継続的・適時に監視するために実効性のある運用方法や分析手段を有しているか。

    • マル2清算機関は、極端であるが現実に起こり得る市場環境を念頭におき、最大の流動資源を必要とする1先の参加者(連結ベース)(注) が破綻した場合のストレスシナリオを十分にカバーするだけの流動的資源を全ての関連通貨について有しているか。
       特に、CDS等の複雑なリスク特性を伴う商品の清算業務に従事している場合には、最大の必要流動資源を必要とする可能性がある2先の参加者(連結ベース)(注)の破綻など、当該商品の複雑性を加味したより保守的なシナリオを十分にカバーするだけの流動的な資産を保持しているか。

      • (注)当該参加者の関係会社等を含み算出された額をいう。 

    • マル3流動的な資産を、日本銀行や金融機関への預金、コミットメントラインなど、資金調達に係る事前の取決めが存在し、危機時においても直ちに利用でき、現金化できるものに限ることとしているか。

    • マル4流動的な資産の供給主体についても、当該主体が自らの資金流動性リスクを的確に管理する体制を整備していることなど、事前の取極めに基づき流動性を供給できる能力を有していることを、十分に確認しているか。

    • マル5日本銀行の口座や資金決済サービス、証券決済サービスにアクセスできる場合には、それが実務に適している場合、資金流動性リスク管理を強化するために、こうしたサービスを利用することとしているか。

    • マル6上記の流動性財務資源について、以下の点に留意しつつ、厳格なストレステスト等により、その十分性を定期的に検証しているか。

      • ア.ストレステストの実施に当たっては、価格ボラティリティやイールドカーブの変化等の市場要因の変化、複数参加者の破綻、参加者破綻時の市場の逼迫など、極端であるが現実に起こり得る市場環境を様々に想定したフォワードルッキングなシナリオを含め実施することとしているか。

      • イ.リスク管理の方針に則り、事前に決定されたシナリオ、モデル、パラメータ等を用いて、ストレステストを日次で実施しているか。当該テストの結果を、内部の適切な意思決定者に報告し、流動性資源の十分性を評価し、必要に応じ追加資源を確保するための明確な手続を策定しているか。

      • ウ.採用しているシナリオ、モデル、パラメータ等の適切性につき、少なくとも月次で、詳細な分析を行っているか。また、市場のボラティリティ上昇、流動性低下、参加者のポジションの規模・集中度の著しい増大などにより必要と認められる場合に、シナリオ等の分析をより頻繁に行うこととしているか。

      • エ. また、少なくとも年次で、上記リスクを管理するための方針の検証と併せて、リスク管理モデル全般について、全面的な検証及び、必要に応じ修正を行うこととしているか。

III-2-5 証拠金制度

  • (1)意義

    証拠金とは、変動証拠金と当初証拠金等の適切な組合せ等により、市場価格の変動等により生じる日々のエクスポージャーのほか、参加者破綻等による急速なポジション変動に備えるものである。

    実効性のある証拠金制度は、清算機関の信用・流動性リスク管理において重要な役割を果たすものであり、清算機関は、参加者破綻等のストレス時の市場環境も考慮した上で、清算の対象となる金融商品のリスク特性等を踏まえた証拠金水準を算出する証拠金制度を整備し、検証することが求められる。

  • (2)主な着眼点

    • マル1清算機関は、清算の対象となる金融商品のリスク特性等を踏まえた証拠金水準を算出する証拠金制度を備えているか。

    • マル2証拠金制度の整備・見直しに当たっては、必要に応じ、参加者その他の外部有識者を活用するなど、制度の妥当性等を確保するための措置を講じているか。

    • マル3証拠金を適切に算出するため、最新のデータが入手できる体制が整備されているか。また、市場特性等により外部からの客観的な価格情報を入手することが困難な場合には、価格を合理的に評価・決定するための方針を予め定めているか。

    • マル4当初証拠金の算出に当たっては、金融商品のリスク特性等に応じ、適切なシナリオ、モデル、パラメータ等を採用しているか。特に、モデルで想定される流動化期間は、店頭デリバティブについては少なくとも5日、その他の店頭商品については少なくとも2日、上場商品については少なくとも1日を確保し、また、当該期間が金融商品のリスク特性等を踏まえた保守的なものとなっているか等について検証しているか。また、市場変動のパラメータに過去データを用いる場合には、算出に用いる過去データのサンプル期間は、過去の市場変動等に照らし十分なものとなっているか。

    • マル5算出された当初証拠金が、想定損失額の分布の少なくとも片側99%信頼水準をカバーするものとなるなど、十分な水準にあることを確認しているか。

      • (注)ポートフォリオベースで証拠金を算出する場合には、ポートフォリオごとの将来エクスポージャーの分布につき、ポートフォリオ内でリスクの相殺を認め、証拠金を減算することに十分な合理性があるかに留意しつつ、想定損失額の少なくとも片側99%信頼水準をカバーするものとなるなど、十分な水準にあることを確認しているか。

    • マル6変動証拠金の算出に当たっては、頻繁に、少なくとも日次で、参加者のポジションを値洗いし、変動証拠金の授受を行うこととしているか。また、必要な場合に清算参加者に当日中に追加資金を預託させる権限を有し、これを行うための体制を整備しているか。

    • マル7証拠金算出のモデル等につき、リスク管理の方針に則り、少なくとも、日次でのバックテストの実施、月次での証拠金算出モデルの実績等の分析、並びに、年次でのモデルの全般的な検証及び必要に応じた修正を行うこととしているか。

      また、上記の年次での検証及び必要に応じた修正については、III-2-2のリスク管理体制の検証と整合的に行うこととしているか。

III-2-6 担保制度

  • (1)意義

    担保は、清算機関の信用エクスポージャーを保全して清算機関が抱える信用リスクを削減するのみならず、参加者に対しても、リスク管理のインセンティブを与える意義がある。

    一方で、担保の清算価値は、市場環境に応じて変化するものであり、参加者破綻等のストレス下においては、市場価格・流動性が急激に減少することも考えられる。

    このため、清算機関は、ストレス下において担保の清算価値が保全対象額以上となるよう担保価値に対して慎重な掛目を適用し、また、ストレス下において担保を実際に処分することのできるよう、体制の整備を図る必要がある。

  • (2)主な着眼点

    • ①一般に、担保として受け入れる資産を、信用リスク・流動性リスク・市場リスクの低いものに限定しているか。

    • ②清算機関は、担保価値の慎重な評価手法を確立した上で担保掛目の設定を行っているか。また、担保掛目は、定期的に検証され、かつ、ストレス時の市場環境を考慮したものとなっているか。

    • ③清算機関は、担保をプロシクリカルに調整する必要性を抑制するため、ストレス下の市場環境を含めて掛目を算出し、実行可能な範囲でできる限り慎重に、安定的・保守的な掛目を設定しているか。

    • ④清算機関は、担保として特定の資産を集中的に保有することとならないような措置を講じているか。

    • マル5外国の担保を受け入れる清算機関は、その利用に伴うリスクを軽減し、担保処分を適時に行えることとしているか。

 (3)監督手法・対応

 取引証拠金の代用有価証券等として、金融商品取引所等に関する内閣府令第68条第1項第3号に規定する権利(以下「LG」という。)が認められている。

 LGは、特定通貨関連店頭デリバティブ取引(金融商品取引業等に関する内閣府令第117条第1項第28号の2に規定する特定通貨関連店頭デリバティブ取引をいう。以下同じ。)のカバー取引(同令第94条第1項第1号に規定するカバー取引をいう。以下同じ。)について、
・ 特定通貨関連店頭デリバティブ取引を行う金融商品取引業者等が特定通貨関連店頭デリバティブ取引やカ  
 バー取引を安定的に行う観点から清算機関の利用を促進する必要性が高いこと
・ 特定通貨関連店頭デリバティブ取引を行う金融商品取引業者等が清算機関の利用を促進するためのインセン  
 ティブとして、代用有価証券等としてLGの利用を認めることが有効であること
を踏まえ、例外的に代用有価証券等として認められたものであることに留意する必要がある。
これを踏まえ、LGの利用については、市場環境の変化等を踏まえ、必要に応じて見直す必要がある。

III-2-7 再建計画の策定等

(1)意義

 システム上重要な清算機関が危機に直面した場合、その影響が当該清算機関のみならず、金融システム全体にも及びかねないことから、国際的には、「再建・処理計画(Recovery and Resolution Plans; RRPs)」の策定について金融安定理事会において合意(注1)がなされている。また、再建計画については、CPMI及びIOSCOから、ガイダンス(注2)が示されている。
 我が国の清算機関は、CPMI、IOSCO及び関係当局が決定する「複数の法域においてシステム上重要な清算機関」に該当しないことに加え、金融商品債務引受業の適切な遂行の確保のため、損失が生じた場合に清算参加者が当該損失の全部を負担する旨を業務方法書に定めるなどの措置を講じている(金商法第156条の10)ものの、金融システムの安定性を確保する上で万全を期すため、再建計画の策定に向けた取組みを引き続き進めていく必要がある。なお、我が国の清算機関が複数の法域においてシステム上重要な清算機関に該当することとなった場合は、追加的な措置を検討する。
(注1)金融安定理事会「金融機関の実効的な破綻処理の枠組みの主要な特性」(2011年11月)、「FMI及びFMI参加者の破綻に関する付属文書」(2014年10月)、「清算機関の破綻処理及び破綻処理計画に係るガイダンス」(2017年7月)
(注2)CPMI及びIOSCO「金融市場インフラの再建」(2014年10月公表、2017年7月改訂)
 

(2)主な着眼点

 清算機関(金商法第156条の62各号に掲げる取引に基づく債務をその行う金融商品債務引受業の対象としている清算機関に限る。)に対して金融商品取引法第156条の15に基づき、年1回又は事業やグループ構造等に重要な変更があった場合に、再建計画の策定・提出を求めるものとする。再建計画の内容は、各清算機関のグループ構造やビジネスモデルの実態に応じて異なるものとなるが、最低限、以下の項目が含まれているか確認するものとする。
① 再建計画の概要
ア.当該清算機関における再建計画の位置付け
イ.再建計画の策定体制
② 再建計画策定に当たって前提となるべき事項
ア.事業概要及びグループ構造の概要
イ.財務の健全性及び流動性に係る平時におけるリスク管理態勢
③ 再建計画発動に係るトリガー
ア.危機時の対応が手遅れとならないような十分に早い段階のトリガー(財務の健全性及び流動性それぞれに
 係る定量的・定性的トリガーを含む。)
イ.通常よりも高いストレスを想定したストレステスト及びリバース・ストレステスト(市場全体のストレス
 シナリオ及び当該清算機関固有のストレスシナリオの双方を含む。)
ウ.トリガー抵触についての判断及びトリガー抵触時の対応策の検討における内部意思決定プロセス
エ.通常時における危機の程度に応じたリスク管理運営と再建計画発動時のリスク管理運営との関係
④ リカバリー・オプションの分析
ア.ストレスシナリオごとの各リカバリー・オプション(流動性対策、財務の健全性対策)の有効性・適切
 性・十分性(定量的評価を含む。)
イ.各リカバリー・オプション実行に当たっての留意点と実行可能性の評価
⑤ その他
ア.経営情報システム
 再建計画の策定及びリカバリー・オプションの実行の検討に必要な情報の一覧並びに当該情報の入手に要する期間

III-2-8 監督手法・対応

清算機関の財務の健全性やリスク管理体制の状況に問題が認められる場合には、原因及び改善策について深度あるヒアリングを実施し、必要に応じて金商法第156条の15の規定に基づく報告を求めることにより、自主的な業務改善状況を把握する。

さらに、公益又は投資者保護のため必要かつ適当であると認められるときには、金商法第156条の16の規定に基づく業務改善命令を発出する。

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