平成12年10月23日
金融庁総務企画部国際課

バーゼル銀行監督委員会が
「電子バンキンググループの活動の趣旨および白書」を公表

バーゼル銀行監督委員会(以下バーゼル委)は、近年、インターネット等を介した電子バンキングが急速に拡大していることに注目し、この分野の現状把握やリスク分析を行うため、昨年11月、電子バンキンググループ(以下EBG、議長は米国のJohn Hawke通貨監督庁長官)を設置した。EBGは、本年上半期までをPhase Iとして、各国における電子バンキングの進展状況や監督体制の把握、および電子バンキングを巡る課題の分析作業を行ってきた。また本年下期をPhase IIとして、Phase Iにおける作業の成果に加え、金融機関、テクノロジー・プロバイダー、コンサルティング会社等への追加調査を幅広く実施し、電子バンキングの監督に係るガイダンスを作成する予定。

本ペーパーは、Phase Iの作業成果を白書として取り纏めて公表することにより、電子バンキングを巡る諸問題に対する銀行監督当局および銀行の注意を喚起することを主たる目的としている。本ペーパーは、(1)EBGの活動の趣旨を説明した序文に、(2)クロスボーダー電子バンキングにおける監督上の課題、(3)電子バンキングのリスク管理における監督上の課題を扱った2つの白書を添付するという構成を採っている。本ペーパーの要旨は別紙のとおり。

(本件に関する照会先)

総務企画部国際課企画調整1係
(3506-6209、内線3197,3198)


別紙)

「電子バンキンググループの活動の趣旨および白書」の要旨

(1) EBGの活動の趣旨の概要

  • 各国の銀行監督当局は、電子バンキングに関する監督ガイダンスを設定・共有するため積極的に協力する必要がある。但し、電子バンキングが未だ発展の初期段階にあることを考慮すると、技術革新を制限しかねない規制色の強い提言等を行うことは適当でない。

  • 従って、EBGの当面の目的は、電子バンキングの健全性に係る監督の枠組みが発展してゆくことを期待しつつ、監督当局による問題の分析と銀行等関係者との対話を促進することにある。

(2) 白書1:クロスボーダー電子バンキングにおける監督上の課題

  • インターネットの利用により、銀行は免許取得等の旧来の手続きを経ずに国外に営業範囲を拡大することが技術的に可能になっている。この結果、銀行のクロスボーダー業務には何れの国の法律や規制を適用すべきか、また健全性に係る監督に関する責任が何れの国の監督当局に存するか、といった問題が従来以上に複雑化することは不可避である。このため、監督当局は互いに協力し、法域の曖昧性を回避して適切な監督を行う枠組みを確立する必要がある。

  • こうした観点から、以下の項目に重点を置く。

    ○ クロスボーダー電子バンキングに固有の問題に対処するため、バーゼル委の既存のガイダンスを修正する必要があるか否か、また修正する必要があるとすればどの部分かを検討する。

    ○ 地域的な銀行監督当局グループ(SEANZA等)と協力し、国際的な電子バンキングの進展について情報交換を行うとともに、健全な監督実務の開発とクロスボーダーの調整を促進する。

    ○ 他の国際金融市場監督団体(IOSCO、IAIS、CPSS等)がクロスボーダーの商取引全般に関するルールやガイダンスを設定しつつあり、これが電子バンキングに影響を与える可能性がある場合は、それらの国際金融市場監督団体と協力する。

    ○ 電子バンキングのリスクおよび同リスクに対処するための健全な実務を模索するため、銀行業界内部および公的部門と民間部門の間の国際協調努力を促進する。

(3) 白書2:電子バンキングのリスク管理における監督上の課題

  • 電子バンキングに伴うリスクは本質において新しいものではない。但し、情報技術の革新によって取引の処理速度が高まっていること、インターネット等のオープン・ネットワークの利用に伴って取引相手の本人確認等が難しくなっていることなどから、オペレーショナル・リスクや戦略・業務リスクをはじめ、既存のリスクが拡大する可能性が極めて高い。殊に、銀行が情報技術等をアウトソースする傾向が一般化していることは、銀行が自ら行うリスク管理を難しくしているのみならず、監督当局にとっても、銀行業務の一部が監督権限の及ばないところで行われる結果となり得る点が懸念される。

  • また、非銀行企業がネット上で銀行類似業務を行ったり、銀行と顧客の間に介在するサービスを提供したりする事例が増えていること、あるいは銀行自身がネット上で異業種と様々なかたちで提携したり、自らが情報技術の提供者となったりするなど、銀行業のあり方が少なからず変化していることも、銀行のリスク・プロファイルに影響を及ぼしている。従って、監督当局は銀行に対し、電子バンキングに関する包括的なリスク管理プロセスを整備し、かつ同プロセスが取締役会等により監視され適切な知識・技能を有するスタッフによって遂行されることを求めるべきである。

  • 銀行監督当局は、電子バンキングのデリバリー・チャネルの発達に伴って発生するリスクや課題を確実に理解するため、テクノロジーに関する適切な知識と技能を有する監督スタッフを自ら確保することが決定的に必要であることを認識しなければならない。監督当局は、益々複雑化するテクノロジーと市場の進展に遅れないため、既存の監督スタッフに対するテクノロジー面のトレーニングを強化する一方、補強措置として外部の専門家を採用することを優先度の高い課題とすべきである。

  • 以上の観点から、以下の項目に重点を置く。

    ○ EBGは、今日までにEBGメンバーが行ってきた作業を踏まえ、電子バンキング業務における慎重なリスク管理のあり方に係る監督ガイダンス(supervisory guidance)を策定する。本ガイダンスは、バーゼル委の既存のリスク管理原則を延長したものに相当し、銀行が電子バンキングに関連するリスクを如何に評価・コントロール・モニターすべきかについて、監督当局が銀行に期待すべき事柄の概要を具体的に述べたものとなる。

    ○ EBGは、銀行業界およびテクノロジー・プロバイダーと協力のうえ、テクノロジーのアウトソーシング、セキュリティ問題、アグリゲーション等の最重要分野ないし新興分野において、業界の健全なリスク管理実務を認定し、その適用を促進する。

    ○ EBGは、新しいテクノロジーと生成期にある電子バンキング・ビジネスモデル(例えば、アグリゲーション、企業対企業/企業対消費者の電子商取引など)が銀行業界に及ぼす潜在的な影響を引続き分析する。こうした状況の進展は、情報サービスやテクノロジー関連企業の金融部門への参入と相俟って、銀行の商品・サービスのグローバル化および均一化を加速する方向に向かっている。それらが、銀行業界に対して多大な戦略上および競争上の影響を与えるであろう。

    ○ EBGは、銀行監督当局が開発しつつある電子バンキング関連の監督研修プログラムおよび教材の交換を奨励・促進する。

以上


  • 1.バーゼル委の主要なガイダンスには以下のものが含まれる:「銀行の海外拠点監督上の原則」(「コンコルダット」、1983年5月)、「国際的業務を営む銀行グループおよびその海外拠点の監督のための最低基準」(1992年7月)、「クロスボーダー銀行業務の監督」(1996年10月)、および「実効的な銀行監督のためのコアとなる諸原則」(1997年9月)。

  • 2.アグリゲーター(aggregator)は、銀行、異業種の何れでもあり得る。アグリゲーターは顧客の代理人として行動し、顧客が複数金融機関に有する口座に係る総合情報を提供する。顧客から所要のセキュリティ・パスワードないしID番号を渡されたアグリゲーターは、主としてスクリーン・スクレーピング(screen scraping)という技術(他の金融機関のウェブサイトからデータを抜き取る技術、ウェブサイトの所有者である金融機関はこれを把握していない場合が多い)により口座情報を統合する。

    銀行は、アグリゲーターの介在によって顧客との直接の接触を失うという営業上のマイナスを被ることに加え、アグリゲーターの支配する領域内で起こった問題(システム障害、プライバシーの侵害、事務ミス等)について責任を問われる可能性もあるなどのリスクを被っている。一方、銀行自身が顧客基盤の確保等を目的としてアグリゲーション・サービスを提供する例もみられる。


サイトマップ

ページの先頭に戻る