平成28年12月28日
金融庁

日本マニュファクチャリングサービス株式会社との契約締結交渉者の社員による内部者取引に対する課徴金納付命令の決定について

金融庁は、証券取引等監視委員会から、日本マニュファクチャリングサービス(株)との契約締結交渉者の社員による内部者取引の検査結果に基づく課徴金納付命令の勧告新しいウィンドウで開きますを受け、平成28年3月28日に審判手続開始の決定(平成27年度(判)第40号金融商品取引法違反審判事件)を行い、以後審判官3名により審判手続が行われてきましたが、今般、審判官から金融商品取引法(以下「金商法」といいます。)第185条の6の規定に基づき、課徴金の納付を命ずる旨の決定案が提出されたことから、下記のとおり決定(PDF:134KB)を行いました。

1 決定の内容

被審人に対し、次のとおり課徴金を国庫に納付することを命ずる。

  • (1)納付すべき課徴金の額金77万円

  • (2)納付期限平成29年3月1日

2 事実及び理由の概要

別紙のとおり


(別紙1)

(課徴金に係る金商法第178条第1項各号に掲げる事実(以下「違反事実」という。))

被審人は、兼松(株)(以下「兼松」という。)の社員であったが、平成27年2月12日、日本マニュファクチャリングサービス(株)(以下「日本MS」という。)と兼松との資本業務提携に関する契約締結の交渉に関し、日本MSの業務執行を決定する機関が、兼松と業務上の提携を行うこと及び同社に対する第三者割当により自己株式の処分を行うことについての決定をした旨の業務等に関する重要事実(以下「本件重要事実」という。)を知りながら、法定の除外事由がないのに、上記重要事実が公表された同年3月30日より前の同月27日午後1時56分頃、B証券株式会社を介し、(株)東京証券取引所において、C名義で、自己の計算において、日本MS株式合計2000株を買付価額合計80万4600円で買い付けた(以下「本件買付け」という。)。

(違反事実認定の補足説明)

  • 争点

    被審人は、本件買付けは、被審人ではなくCを主体とし、かつ同人の計算によって行われたものであるとして、本件買付けにつき、(一)主体が被審人であること及び(二)被審人の「自己の計算」によることを否認しているから、この(一)及び(二)の各争点について補足して説明する(なお、違反事実のうち、その余の点については、被審人が争わない。)。

  • 認定事実

    • (1)被審人とCの関係

      • 被審人とCとの交際

        被審人及びCは、平成25年頃から親しく交際し始め、被審人がCを「c」、Cが被審人を「a」と呼ぶようになり、携帯電話間でのメール(以下、単に「メール」という。)においてもかかる呼称を用いていた。

      • 被審人のCに対する送金

        被審人は、Cに対し、平成25年9月以降本件買付けまでの間、別表1・通番1ないし13のとおり、Cに金員を各振込送金した。これらの振込送金に用いられた振込人名義は、いずれも被審人の氏名である「A」であった。

    • (2)被審人とCの株取引の経験等

      • 被審人の株取引の経験等

        被審人は、15年以上にわたる株取引の経験があり、証券会社窓口又はインターネットを通じて、年2、3回の頻度で株取引を行っていた。また、被審人は、社内研修などを通じてインサイダー取引規制の概要も理解していた。

      • Cの株取引の経験

        Cは、本件買付けまで、株取引の経験はなかった。

    • (3)本件買付けに至る経緯

      • 本件買付けに用いられた証券口座

        Cは、平成26年11月頃、B証券株式会社の証券口座(以下「本件証券口座」という。)を開設した。

      • 本件買付け前の送金

        被審人とCとの間で、平成27年3月26日以降本件買付けまでの間、別表2・通番1ないし25のメールが送受信された。

        また、被審人は、Cに対し、同日午前11時45分頃に別表1・通番14(10万円)の振込送金を、同日午後0時25分頃に別表1・通番15(90万円)の振込送金を行った。これらの送金に用いられた振込人名義は、いずれも「D」であったが、被審人とCとの間のメールのやりとりにおいて、「d」は被審人を指していた。

      • 本件買付け

        Cは、平成27年3月27日(金曜日)、上記イの金員合計100万円を本件証券口座に入金した上、本件証券口座を用いて、同日午後1時56分頃、成行により日本MS株式2000株の買い注文を発注し、合計80万4600円(単価400円で1100株、単価404円で300株、単価405円で200株、単価406円で400株)で約定した(本件買付け)。

        被審人とCとの間で、上記の本件証券口座への入金から買い注文の約定直後までの間、別表2・通番26ないし31のメールが送受信された。

        Cは、本件買付け時点で、同日の日本MS株式の株価を把握しておらず、本件買付けに係る発注を指値ではなく成行による注文としたのは、被審人から教示を受けたことによる。

    • (4)本件買付け後の経過等

      • 本件買付け後の経過

        本件重要事実の公表は平成27年3月30日(月曜日)午前9時50分頃であったが、同公表前の同日午前2時頃、日本経済新聞電子版により日本MSと兼松との業務提携の記事が配信された。

        上記記事の配信以降、被審人とCとの間で、別表2・通番32ないし43のメールが送受信された。

      • 日本MS株式の売却等の経過

        被審人は、平成27年10月1日、Cに「生活面は困れば、例の株半分でも売ればなんとかなるでしょ」「どうせcのだから、好きにすればイイよ―」との文言が含まれたメールを送信した。

        その後、Cは、同年11月2日、本件証券口座から19万円を出金し、翌3日、被審人に「株の資金、崩させてもらったけどね」との文言が含まれたメールを送信した。

        Cは、同月30日及び同年12月24日、本件買付けに係る日本MS株式合計1100株を成行による発注で順次売却し、その後、本件証券口座から当該売却代金のほぼ全額に当たる88万円を出金した。

  • 争点に対する判断

    • (1)争点(一)(本件買付けの主体)

      • まず、本件買付けの原資は、被審人が別表1・通番14及び15のとおりCに振込送金した合計100万円であるところ(上記2(3)イ及びウ)、被審人は、当該振込送金に際し、Cに対し、現金を銀行から本件証券口座に移す時間があるか尋ね、翌日であれば可能である旨確認した上、「dさんから100万送るから、上手く運用して。あげるんじゃないよ~」と当該100万円の使途を「運用」と明示し、かつ贈与ではない旨伝え、Cから「dさんからの指示でしか動かせないから、従うね」と被審人の指示に従う旨の回答を得ていることがうかがえる。その後、被審人は、Cに対し(当該100万円を銀行から本件証券口座へ移すことにつき)「明日必ずね」と伝えたところ、実際に、Cは「明日」である平成27年3月27日に当該100万円を本件証券口座に入金している(上記2(3)ウ)。かかる経緯からすれば、本件買付けの原資である100万円は、被審人とCとの間で、その使途が「運用」に限る旨の合意がされた上、実質的には被審人が口座の移動を指示するなどして管理し、Cが自由に費消することはできない性質のものであったというべきである。

      • また、Cは、株取引の経験がなく、本件買付け時にやり取りされたメールの内容からすれば、本件買付けに必要なパソコン画面での操作方法すら理解していなかったものであって、インターネットによる株取引の経験のあった被審人こそが本件買付けを実行することができる知識・経験を有していたものである(上記2(2))。

      • さらに、実際の本件買付けに至る経緯をみると、被審人は、買付資金を本件証券口座へ入金するよう指示し、かつ、C自身で買い注文の発注操作を行うことを示唆しているところ、かかる入金の指示等を通じ、被審人の意図する時期に日本MS株式の買付けを実現しようとしていることがうかがわれる上、Cから指示を求められると、日本MS株式以外の銘柄の購入の必要がないことに加え、当日の同株式の価格すら知らなかったC(上記2(3)ウ)に対し、購入株数の指示まで行ったものである。そうすると、日本MS株式を買い付ける時期や購入数量を実質的に決定したのは被審人というべきである。

      • そして、本件買付けの態様をみると、実際に発注の操作を行ったのはCであるものの、Cは、パソコンでの株式の発注方法等を逐一被審人に確認しながら、被審人の教示に基づき成行で発注している(上記2(3)ウ)のであるから、具体的な注文の場面においてまで被審人の影響が及んでいたものといえる。

      • 以上のとおり検討してきた上記アないしエの本件買付けに係る各事情は、被審人が、買付資金を提供して実質的に管理した上、本件買付けに係るあらゆる判断事項を実質的に決定していたことを示す一方、実際に本件買付けに係る発注の操作を行ったCは、何ら実質的決定をすることなく被審人の指示に従って行動していたことを示すものといえる。そうすると、本件買付けは、取引が行われた証券口座の名義人であるCによって実現されたものではなく、被審人が取引行為を支配し、被審人の意思・判断に基づき実現されたものというべきである。

      • したがって、本件買付けに係る各事情を総合すると、本件買付けは、Cの名義で、被審人が主体となって行ったものと認められる。

    • (2)争点(二)(本件買付けの計算)

      金商法第175条が規定する「自己の計算」については、対象取引による経済的な利得の帰属を個別・具体的に評価して判断すべきであるところ、同条が当該計算を対象となる取引行為の属性として規定していることからすれば、当該評価の時点は、取引時であると解される。

      • 本件についてみるに、上記(1)アで指摘したことからすると、本件買付けの資金は、被審人からCに贈与されたものではなく、本件買付けに係る取引時点において、被審人とCとの間で、その使途が「運用」に限る旨の合意がされた上、実質的には被審人が管理し、Cが自由に費消することはできない性質のものであった。

      • また、上記(1)オのとおり、本件買付けは、被審人が取引行為を支配し、被審人の意思・判断に基づき実現されたものであって、実際に発注の操作を行ったCは、被審人の指示に従って行動していただけであった。

      • 上記ア及びイの点からすると、本件買付けに係る取引時点において、買付けに係る経済的利得は、資金を自由に費消できず、被審人の指示に従って行動していたにすぎないCに帰属していたとみることはできず、自己の資金を用い、自己の意思・判断で取引を実現したと評価できる被審人に帰属していたものというべきである。

      • この点、本件買付けによる利益を確認した後になって、被審人が本件買付けに係る儲けは全てCのものである旨伝えていること、本件買付けから半年以上経過した後になって、被審人が本件株式をCが処分しうることを伝え、これを受けてCが本件買付けによる株式を売却したものとみられ、また、Cが本件証券口座から残余金を引き出したことを「株の資金、崩させてもらった」などと被審人に報告していること(上記2(4)イ)も、Cにおいて、本件買付けに係る取引時点においては、株式を処分して経済的利得を受ける立場にはなく、本件買付け後に被審人から経済的利得を与えられたことを示すものといえる。

      • 以上によれば、本件買付けは、被審人が「自己の計算」において行ったものであると認められる。

    • (3)結論

      上記検討の結果によれば、本件買付けは、被審人を取引主体として、被審人の「自己の計算」で行われたものと認められる。

(課徴金の計算の基礎)

別紙2のとおりである(課徴金の計算の基礎となる事実については、被審人が争わず、関係各証拠によって認められる。)。

(別表1)

被審人からCに対する振込送金(平成25年9月~平成27年8月)

通番 振込年月日 金額(円) 振込名義
1 平成25年 9月19日 370,000
2 10月10日 250,000
3 11月11日 25,000
4 12月24日 500,000
5 平成26年 1月15日 300,000
6 1月23日 500,000
7 1月28日 700,000
8 2月26日 300,000
9 4月8日 300,000
10 6月12日 250,000
11 9月9日 500,000
12 12月1日 100,000
13 平成27年 1月20日 300,000
14 3月26日 100,000
15 3月26日 900,000
16 8月17日 120,000

(※ 別表2の添付は省略する。)


(別紙2)

(課徴金の計算の基礎)

別紙1に掲げる事実につき

  • (1)金商法第175条第1項第2号の規定により、当該有価証券の買付けについて、業務等に関する重要事実の公表がされた後2週間における最も高い価格に当該有価証券の買付けの数量を乗じて得た額から当該有価証券の買付けをした価格にその数量を乗じて得た額を控除した額。

    (789円×2,000株)-(400円×1,100株+404円×300株+405円×200株

    +406円×400株)

    = 773,400円

  • (2)金商法第176条第2項の規定により、上記(1)で計算した額の1万円未満の端数を切り捨て、770,000円。

お問い合わせ先

金融庁 Tel 03-3506-6000(代表)

総務企画局総務課審判手続室

(内線2398、2404)

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