平成15年8月12日
金融庁
大阪証券取引所に対する行政処分について
1. 証券取引等監視委員会(以下「委員会」という。)による犯則事件の調査及び大阪証券取引所に対する検査の結果、法令違反等の事実が認められたことから、行政処分を求める勧告が行われた(平成15年8月5日付
)。また、金融庁検査局(以下「検査局」という。)が実施した検査においても、法令違反等の事実が認められている。
(1)委員会の犯則事件調査の結果認められた法令違反
有価証券オプション取引の状況に関し他人に誤解を生じさせる目的をもって、オプションの付与又は取得を目的としない仮装の有価証券オプション取引を行う行為及び有価証券オプション取引の申込みと同時期に、当該取引の対価の額と同一の対価の額において、他人が当該取引の相手方となることをあらかじめその者と通謀の上、当該取引の申込みをする行為
大阪証券取引所副理事長(当時。平成11年6月以前は専務理事。以下「元副理事長」という。)は、その業務等に関し、当該取引所の株券オプション市場の取引が繁盛に行われていると誤解させる目的をもって、
○平成10年12月ころから平成11年10月ころまでの間、前後約250回にわたり、日本電子証券株式会社(以下「日本電子証券」という。)の自己注文同士ないしは有限会社ロイトファクス(以下「ロイト社」という。)の委託注文同士を対当させる手法により、株券オプション合計約3万8千単位について、オプションの付与又は取得を目的としない仮装の株券オプション取引を行い、
○平成10年12月ころから平成12年3月ころまでの間、前後約340回にわたり、株券オプション合計約7万2千単位について、日本電子証券の自己注文とロイト社の委託注文が、株券オプション取引の申込みと同時期に、同取引の対価の額と同一の対価の額で、互いに同取引の相手方となることを通謀の上、株券オプション取引の申込みを行う、いわゆる馴合い取引を行った。
当該取引所が行った上記行為は、証券取引法(平成12年法律第96号による改正前のもの)第197条第1項第5号、第207条第1項第1号、第159条第1項第3号及び第8号に規定する「有価証券オプション取引の状況に関し他人に誤解を生じさせる目的をもって、」「オプションの付与又は取得を目的としない仮装の有価証券オプション取引を行う行為」及び「有価証券オプション取引の申込みと同時期に、当該取引の対価の額と同一の対価の額において、他人が当該取引の相手方となることをあらかじめその者と通謀の上、当該取引の申込みをする行為」に該当すると認められる。
(2)検査局検査の結果認められた法令違反
○日本電子証券の設立(平成10年11月16日)に際して、その設立が旧証券取引法(平成10年法律第107号による改正前のもの)第86条違反となることを回避するため、元副理事長は、大阪証券取引所の資金を関連会社に迂回させる一連のスキームを立案し、実行させたものと認められる。
日本電子証券の設立については、元理事長が了承していたことが判明しており、実質的に当該取引所が日本電子証券を設立したものと認められる。
このように日本電子証券のような証券取引所の目的と関係のない証券会社を大阪証券取引所が設立し、運営することは、「証券取引所は、その目的を達成するために直接必要な業務の外、これを営むことができない」とする旧証券取引法第86条の規定に違反した行為と認められる。
○当該取引所は、平成11年11月に、(株)大阪証券会館の株式を取得し、子会社化(取得後100%保有)しているが、同社は、主として所有不動産である大阪証券会館の賃貸や管理等を行なっているため、「市場の開設及びこれに附帯する業務のほか、他の業務を営むことができない」とした証券取引法第87条の2の規定が新設された平成12年12月の同法改正時以降、同条の規定に抵触する状況となっている。
(3)その他の問題点
○委員会検査の結果認められた問題点
検査基準日現在、当該取引所の自主規制業務の運営に関して、以下のような問題点が認められた。
(a)取引参加者に対する検査業務に関し、検査官の人員構成及び人材育成並びに検査計画の策定等に問題があることから、取引参加者に対して十分な検査が行われていなかった。
(b)検査に基づく措置業務に関し、措置基準が整備されておらず、組織的な検討もないままに、取引参加者に対して措置が行われていた。
(c)市場監理業務に関し、取引審査担当者の人員構成及び人材育成、問題のある取引の抽出基準の設定並びに抽出された取引に係る調査方法に問題があることから、当該取引所内の取引について十分な調査が行われていなかった。
(d)関連部署間の連携について、自主規制本部内の連携や関係部署との情報交換が十分図られておらず、各種の情報が検査業務及び市場監理業務に活かされていなかった。
特に(c)の市場監理の問題点は、前記(1)の違法行為が長期間放置された原因の一つと考えられ、深刻な自主規制の不備となっている。
このような組織体制の不備をはじめとする自主規制業務の運営に関する問題点は、当該取引所の経営陣において、証券取引所の根幹業務である自主規制業務の重要性に対する認識が著しく欠如していたことにより生じたものと認められる。同取引所は、検査基準日以降、様々な改善策に着手しているが、それを実効あるものとするためには、経営陣の自主規制業務の重要性についての意識改革とともに、組織体制の充実を柱とした自主規制業務の刷新に引き続き取り組む必要がある。
○検査局検査において認められた問題点
日本電子証券の取引資格の審査において、元副理事長がその設立に関与していたことを理由に、申請書類に記載されている業績予想数値の妥当性について検証が行われていない。また、役職員の上場審査や取引資格審査に対する重要性の認識が乏しいことに起因して、役員が上場時期をあらかじめ申請会社に約束している事例や役員が資格付与に係る審査期間の短縮を指示している事例が認められている。いずれの事例も結果的には基準を満たしていたものの、上場審査や取引資格の審査に対する信頼性を損ねるものであり不適切である。
上記の問題点について、当該取引所は、検査実施日以降現在までの間において、各種の改善策に着手しているが、さらに法令等遵守態勢及び内部管理体制の充実・強化を図る必要がある。
2. 以上のことから、本日、大阪証券取引所に対し、以下の行政処分を行った。
(1)業務停止命令
○平成15年8月13日から同年11月12日までの間、当該取引所の発行する株券の当該取引所有価証券市場への上場に係る業務を停止すること。
○平成15年8月13日から同年11月12日までの間、当該取引所有価証券市場における「株券オプション取引」の新規上場に係る業務を停止すること。
(2)業務改善命令
○当該取引所の役職員が関与した証券取引法違反行為が発生したことに鑑み、法令違反の根絶に向けた「再発防止策」を策定し、役職員に周知徹底する方策を講じること。
○委員会から指摘されている「自主規制業務の運営に関する問題点」に関し、組織体制や業務の方法等の抜本的な見直しを行うこと。
○検査局から指摘されている問題について、その発生原因を究明した上で、具体的な改善策を講じること。
(3)報告及び検証
○上記命令の実施状況については、平成15年10月末日までに書面で報告すること。また、具体的対策の実施状況についても、当分の間、四半期ごとに書面で報告すること。
○なお、命令の実施状況については、大阪証券取引所監理官を中心とするプロジェクトチームにおいて検証する。
問い合わせ先
金融庁 Tel:03-3506-6000(代表)
総務企画局市場課 課長補佐 下畑(内線3605)、係長 竹内(内線3612)