市場へのメッセージ(令和元年9月11日)

<目次>

1.証券取引等監視委員会の活動状況の公表について
2.不公正取引に関する課徴金事例集の公表について
3.東郷証券株式会社に係る損失補塡事件の告発について
4.最近の取引調査に基づく勧告について
 ・株式会社神戸製鋼所社員による内部者取引違反行為に対する課徴金納付命令の勧告について
 ・株式会社アドバンスト・メディア社員から伝達を受けた者による内部者取引違反及び当該社員による重要事実に係る伝達行為違反に対する課徴金納付命令の勧告について
 ・三精テクノロジーズ株式会社との契約締結者の役員から伝達を受けた者による内部者取引違反行為に対する課徴金納付命令の勧告について
 

1. 証券取引等監視委員会の活動状況の公表について

 証券取引等監視委員会(以下「証券監視委」といいます。)は、金融庁設置法第22条の規定に基づき、毎年、活動状況等を公表しています。今回は、その27回目として、平成30年度(平成30年4月1日~同31年3月31日)の「証券取引等監視委員会の活動状況」を令和元年8月30日に公表いたしました。

2.  不公正取引に関する課徴金事例集の公表について

 証券監視委は、令和元年6月20日、「金融商品取引法における課徴金事例集~不公正取引編~」(以下「事例集」といいます。)を公表いたしました。

 事例集は、市場参加者に課徴金制度への理解を深めていただくため、また不公正取引の未然防止という観点から、金融商品取引法違反となる不公正取引に関し勧告を行った事案について、事案毎の特色などの説明を加えて取りまとめ、事例として紹介するものです。
 本年度の事例集においては、全ての市場利用者がルールを守るために参考となるよう、
  (1) 勧告事案を分析した上で、事案の概要に留まらず、事案の意義・特徴等を出来るだけ記載する
  (2) 市場利用者の関心が高いと思われるテーマについて監視委コラムをより一層充実させる(インサイダー取引、相場操縦、偽計それぞれに関連するコラムを掲載)
  (3) 分かりやすさ、読みやすさを追求するため、個別事例について、概要図内の情報の充実を図るとともに、1事例を見開きページで掲載する
  (4) 相場操縦事例については、グラフ、表、株価チャートを活用、また偽計事例については、事例の前に偽計事例に関する用語の説明を設けるなどすることにより、複雑化する取引手法をできるだけわかりやすく理解できるように努める
などの工夫を行いました。
 
 証券監視委としては、事例集を、
  (1) 重要事実等の発生源となる上場会社等におけるインサイダー取引管理態勢の一層の充実
  (2) 公開買付け等企業再編の当事者からフィナンシャル・アドバイザリー業務等を受託する証券会社・投資銀行等における重要事実等の情報管理の徹底
  (3) 証券市場のゲートキーパーとしての役割を担う証券会社における適正な売買審査の実施のためにそれぞれ役立てていただくことを期待しています。
 また、一般投資者におかれても、不公正取引の疑いがある場合には、証券監視委による調査等の対象となり、法令違反が認められた場合には課徴金が課されることを十分にご理解いただければ幸いです。
   事例集が活用されることにより、全ての市場利用者による自己規律の強化、市場の公正性・透明性の確保及び投資者保護につながることを強く期待しています。

3. 東郷証券株式会社に係る損失補塡事件の告発について

 証券監視委は、令和元年7月9日、金融商品取引法違反(損失補塡)の嫌疑で、嫌疑法人1社及び嫌疑者3名を東京地方検察庁に告発いたしました。

【事案の概要等】
 犯則嫌疑法人東郷証券株式会社(平成26年10月18日から平成29年4月8日までの間の商号は株式会社efx.com証券)は、東京都港区に本店を置き、金融商品取引業等を目的とする会社、犯則嫌疑者Aは、同法人の取締役であって、その実質的経営者として業務全般を統括するとともに、商品デリバティブ取引等を目的とする株式会社さくらインベスト(以下「さくらインベスト」といいます。)の実質的経営者としてその業務全般を統括していたもの、犯則嫌疑者Bは、犯則嫌疑法人の代表取締役管理本部長として顧客からの苦情の処理等の業務を統括していたもの、犯則嫌疑者Cは、犯則嫌疑法人の顧問として同法人の経理業務を担当していたものです。

第1 犯則嫌疑者A及び同Bは、ほか数名と共謀の上、法定の除外事由がないのに、犯則嫌疑法人の業務及び財産に関し、いずれも同法人において、本人名義の取引所為替証拠金取引口座を開設し、取引所為替証拠金取引を行っていた顧客のDほか3名に対し、そのデリバティブ取引につき、当該デリバティブ取引について生じた損失の一部を補塡するため
 1 平成27年8月上旬頃、犯則嫌疑法人の顧客Dをして、さくらインベストに同人名義の店頭デリバティブ取引口座を開設させた上、同社従業員をして、同口座において前記Dの注文に係る商品差金決済取引を行ったかのように仮装して、同取引により同人に利益が生じた旨の取引内容を、同社に設置されたパーソナルコンピューターを用いてシステムに入力させる方法により、平成28年8月中旬から平成30年6月下旬までの間、複数回にわたり、同人が売買等を同口座で行ったかのように装い、利益を同口座に帰属させ、よって、同社をして、同人に対し、合計約65万円相当の財産上の利益を提供させ
 2 平成28年7月中旬頃、犯則嫌疑法人の顧客Eをして、さくらインベストに同人名義の店頭デリバティブ取引口座を開設させた上、前記1同様の方法により、同月下旬から平成30年12月下旬までの間、複数回にわたり、同人が売買等を同口座で行ったかのように装い、利益を同口座に帰属させ、よって、同社をして、同人に対し、合計約210万円相当の財産上の利益を提供させ
 3(1) 平成28年10月中旬頃、犯則嫌疑法人の顧客Fに対し、現金20万円を提供し
  (2) 同月中旬頃、前記Fをして、さくらインベストに同人名義の店頭デリバティブ取引口座を開設させた上、前記1同様の方法により、同月下旬から平成30年9月下旬までの間、複数回にわたり、同人が売買等を同口座で行ったかのように装い、利益を同口座に帰属させ、よって、同社をして、同人に対し、合計約258万円相当の財産上の利益を提供させ
 4(1) 平成28年10月中旬頃、犯則嫌疑法人の顧客Gに対し、現金20万円を提供し
  (2) 同月中旬頃、前記Gをして、さくらインベストに同人名義の店頭デリバティブ取引口座を開設させた上、前記1同様の方法により、同月下旬から平成30年12月中旬までの間、複数回にわたり、同人が売買等を同口座で行ったかのように装い、利益を同口座に帰属させ、よって、同社をして、同人に対し、合計約191万円相当の財産上の利益を提供させ

第2 犯則嫌疑者A、同B及び同Cは、共謀の上、法定の除外事由がないのに、犯則嫌疑法人の業務及び財産に関し、いずれも同法人において、本人名義の取引所為替証拠金取引口座を開設し、取引所為替証拠金取引を行っていた顧客のHのほか3名に対し、そのデリバティブ取引につき、当該デリバティブ取引について生じた損失の一部を補塡するため
 1 平成29年10月中旬頃、犯則嫌疑法人の顧客Hとの間で、犯則嫌疑法人が同人に現金1458万円を支払う旨の和解契約を締結した上、同契約に基づき、同月下旬から平成30年12月下旬までの間、複数回にわたり、同人に対し、現金合計1458万円を提供し
 2 平成29年11月下旬頃、犯則嫌疑法人の顧客Iとの間で、犯則嫌疑法人が同人に現金1450万円を支払う旨の和解契約を締結した上、同契約に基づき、同月下旬から平成30年9月下旬までの間、複数回にわたり、同人に対し、現金合計1450万円を提供し
 3 平成29年11月下旬頃、犯則嫌疑法人の顧客Jとの間で、犯則嫌疑法人が同人に現金2000万円を支払う旨の和解契約を締結した上、同契約に基づき、同月下旬から平成31年1月下旬までの間、複数回にわたり、同人に対し、現金合計1650万円を提供し
 4 平成29年11月下旬頃、犯則嫌疑法人の顧客Kとの間で、犯則嫌疑法人が同人に現金1850万円を支払う旨の和解契約を締結した上、同契約に基づき、同月下旬から平成31年1月下旬までの間、複数回にわたり、同人に対し、現金合計1650万円を提供しました。

【本件の意義】
 本件は、東郷証券の実質的経営者である犯則嫌疑者Aらが顧客8名に対して損失補塡を行ったものであり、その合計金額は、約6900万円と高額な事案であり、悪質性が高いと認められます。

  証券監視委は、引き続き、市場の公正性・透明性の確保に向けて、本件のような重大で悪質な違反行為に対し、厳正に対応していきます。

4. 最近の取引調査に基づく勧告について

 証券監視委は、取引調査の結果に基づいて、以下の事案について課徴金納付命令勧告を行いました。

 ・R1.6.21 株式会社神戸製鋼所社員による内部者取引違反行為に対する課徴金納付命令の勧告について

 ・R1.6.25 株式会社アドバンスト・メディア社員から伝達を受けた者による内部者取引違反及び当該社員による重要事実に係る伝達行為違反に対する課徴金納付命令の勧告について 

 ・R1.7.5 三精テクノロジーズ株式会社との契約締結者の役員から伝達を受けた者による内部者取引違反行為に対する課徴金納付命令の勧告について


株式会社神戸製鋼所社員による内部者取引違反行為に対する課徴金納付命令の勧告について

【事案の概要】
 本件は、株式会社神戸製鋼所(以下「神戸製鋼」といいます。)の社員2名が、その職務に関し、神戸製鋼のアルミ・銅事業部門において、顧客と取り交わした製品仕様を満たさない不適合製品を、検査結果の改ざんを行うことにより、当該仕様に適合する製品として、出荷していたことが判明した旨の神戸製鋼の運営、業務または財産に関する重要な事実であって投資者の投資判断に著しい影響を及ぼす事実(以下「本件事実」といいます。)を知りながら、本件事実が公表される前に、自己の計算において、神戸製鋼株式を売り付けたものです。
 本件は、課徴金納付命令対象者2名(以下、本節において「対象者」といいます。) の事案です。
 ・対象者(1)について
  対象者(1)は、神戸製鋼の社員ですが、本件事実を知りながら、本件事実の公表前に自己の計算において、神戸製鋼株式を売り付けたものです(インサイダー取引違反)。
 ・対象者(2)について
  対象者(2)は、同じく神戸製鋼の社員ですが、本件事実を知りながら、本件事実の公表前に自己の計算において、神戸製鋼株式を売り付けたものです(インサイダー取引違反)。
 
【事案の特色等】
 本件は、データ偽装による上場会社の不祥事に端を発するインサイダー取引事案であり、平成21年4月に勧告を行った栗本鐵工所事案、平成28年8月に勧告を行った東洋ゴム工業事案、平成29年3月に勧告を行った旭化成事案に続いて4件目となります。
 本件は、いわゆるバスケット条項(金融商品取引法(以下「金商法」といいます。)第166条第2項第4号)を適用した課徴金勧告事案であり、これまで11件あります(本件が12件目です)。なお、12件以外に上場会社等の子会社のバスケット条項(金商法第166条第2項第8号)を適用した勧告事案(上記記載の平成29年3月に勧告を行った旭化成事案)も1件ありますのでバスケット条項を適用した課徴金勧告事案はこれまで13件ということとなります。
 不祥事が発生した際、上場会社においては、当該不祥事が金商法上の重要事実に該当するか否かを的確に判断したうえで、適切な情報管理を行うことが求められます。不祥事については、金商法上の重要事実として個別列挙されている事項に該当しないこともあり、上場会社において重要事実に該当するか否かを的確に判断することは、必ずしも容易ではないと思われますが、バスケット条項を適用した過去の勧告事案を参考(※)にするなどし、不祥事が発生した際には、投資者の投資判断に著しい影響を及ぼすか否かにも着目して、幅広に重要事実該当性を検討していただきたいと考えています。
 ※バスケット条項の適用事例を整理した資料については、令和元年6月20日公表の「金融商品取引法における課徴金事例集~不公正取引編~」104頁をご覧ください)。
 
 本件が広く周知されることにより、インサイダー取引の抑止効果が発揮されることを期待しています。


株式会社アドバンスト・メディア社員から伝達を受けた者による内部者取引違反及び当該社員による重要事実に係る伝達行為違反に対する課徴金納付命令の勧告について

【事案の概要】
 本件は、株式会社アドバンスト・メディア(以下「アドバンスト」といいます。)が平成30年4月18日に公表した、アドバンストの属する企業集団の経常利益及び親会社株主に帰属する当期純利益に係る業績修正に関するインサイダー取引及び当該重要事実に係る伝達行為違反です。
 本件は、課徴金納付命令対象者(以下、本節において「対象者」といいます。)が2名の事案です。
 ・対象者(1)について
  対象者(1)は、アドバンストの社員ですが、同人がその職務に関し知った、同社の属する企業集団の平成29年4月1日から平成30年3月31日までの事業年度の経常利益及び親会社株主に帰属する当期純利益について、平成30年2月9日に公表がされた直近の予想値に比較して、同社が新たに算出した予想値において投資者の投資判断に及ぼす影響が重要なものとなる差異が生じた旨の重要事実(以下「本件事実」といいます。)を対象者(2)に対し、本件事実の公表がされる前に、アドバンスト株式の買付けをさせることにより、同人に利益を得させる目的をもって、伝達したものです(伝達行為違反)。
 ・対象者(2)について
  対象者(2)は、対象者(1)から本件事実の伝達を受けながら、本件事実の公表前に、自己の計算において、アドバンスト株式を買い付けたものです(インサイダー取引違反)。
 
【事案の特色等】
 本件において課徴金納付命令勧告の対象となっている情報伝達行為違反については、これまでの市場へのメッセージでも何度か記載させていただきましたが、平成26年4月から導入されている「情報伝達・取引推奨行為規制」(金融商品取引法第167条の2)に基づき違反を行った者を対象とする課徴金納付命令勧告です。利益を得させる等の目的をもって、未公表の重要事実等を伝達した場合、伝達者は取引により利益を得ていない場合であっても、伝達された者が行った取引金額に応じて課徴金が課せられることになり得ます。自身のインサイダー取引だけではなく、情報伝達行為も課徴金納付命令の対象となることを十分ご理解いただきたいと思います。
 
 本件が広く周知されることにより、インサイダー取引の抑止効果が発揮されることを期待しています。


三精テクノロジーズ株式会社との契約締結者の役員から伝達を受けた者による内部者取引違反行為に対する課徴金納付命令の勧告について

【事案の概要】
 本件は、三精テクノロジーズ株式会社(「以下「三精」といいます。)が平成30年3月30日に公表した、三精によるオランダに所在するVekoma Rides B.V.(「以下「Vekoma」といいます。)の発行済株式を取得することによる子会社化に関するインサイダー取引です。
 課徴金納付命令対象者は、三精と業務委託契約を締結していた法人の役員であった者から、同人が上記契約の履行に関し知った、三精の業務執行を決定する機関がVekomaの発行済株式を取得して子会社化することについての決定をした旨の重要事実(以下「本件事実」といいます。)の伝達を受けながら、本件事実の公表前に、自己の計算において、三精株式を買い付けたものです(インサイダー取引違反行為)。
 金融商品取引法に規定されていますが、会社関係者とは、上場会社に勤務している役職員がその職務に関し知ったときだけではなく、上場会社と契約を締結(交渉)している法人の役職員が、当該契約の履行(交渉)に関し知ったときも、会社関係者となります。本件のように、上場会社の役職員から重要事実を直接聞いていなくても、会社関係者に該当する者から重要事実を聞いた場合、第一次情報受領者としてインサイダー取引規制の対象となります。
 
 本件が広く周知されることにより、インサイダー取引の抑止効果が発揮されることを期待しています。


<発行>
証券取引等監視委員会 事務局 総務課
    (情報公開・個人情報保護係)
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