金融仲介の改善に向けた検討会議(第14回)議事要旨及び配付資料
議事要旨
1.日時:
平成30年6月22日(金曜日)10時00分~11時40分
2.場所:
中央合同庁舎第7号館 13階 共用第1特別会議室
3.議題:
「地域金融行政における平成29事務年度の取組み状況」について
4.議事内容:
事務局による「地域金融行政における平成29事務年度の取組み状況」の説明に続いて、以下のような議論が行われた。(○:メンバーの発言、●:当庁の発言)
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○ 地方の中小企業の方と話をすると、地方創生の最大のキープレーヤーは地域金融機関だと実感する。その意味でこれまで金融庁がやってこられた事業性評価についての発信や、人材紹介機能の規制緩和は正しい方向だと思っている。これをどう早く広げていくのかということが現在の課題。
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○ 地域金融機関と話していて、最近発見したことが2つある。1つは、地域金融機関はこれまで戦略を考える必要性がなかったので、彼らが用いる戦略という言葉の大半は戦略ではないということ。もう1つは、機能別組織が強く、本部(の権限)があまりにも強いので、支店長、すなわち現場のラインのトップが疑似経営体験を積んでいない。つまり、経営技量を高める仕組みが現場で回っていないということ。したがって、経営という疑似体験を積んでいない方がいきなり経営幹部になってしまうので、地域のオーナーと経営の議論ができるはずがないというのを大変強く感じている。各地域金融機関の中に経営技量を高めるような仕組みをビルトインしていかないと、いくら外部から人を取ってもそう簡単には変わらない。
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○ 若い方はそれなりの思いを持って銀行に入っている。その思いをしっかりと業務を通して成就できるような仕組みをどうやって銀行の中にビルトインしていくのか、ということが課題。
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○ 拡大前提のモデルから縮小もありうるというモデルに変えていくことが頭ではわかっていても体が追い付いていない、というのを強く感じるので、そのようなことが改善できると我々が想定している方向での改革が加速するのではないかと感じる。
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○ 地域銀行だけでなくメガバンクも含めて、現在は驚くほど融資の姿勢に甘さが感じられ、貸付金利も適正とは思えないほど低い。今のうちに軌道修正しないと、景気が悪くなった時に不良債権が増えるのではないかととても不安を感じる。
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○ 地域銀行には、決められたことはできるが、自分で考えたり、創意工夫したりできる人材が少ない。それは日本の企業等全体に言える傾向である。そのような会社は、すぐにコンサルティング会社に依頼しようとするが、まずは自分たちで考えるようにアドバイスしている。解決策として、外部から専門家を呼んでくるというのも一つの手段であるが、その人を通じて内部人材をどう育成していくかが問題である。
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○ また経営者や本部の人間は外部の専門家との接点があり、いろいろと議論しているのだが、それが現場までに落ちていかないことも問題である。現場の人たちからすると今までどおりにやりたいという思いも強く、なかなか変わっていかない。地域銀行の人たちには人材育成の解決策をもっていないため、金融庁がかなり踏み込んでいかないと、変わっていかないと思う。
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○ 日本の若者全体に言えることだが、リスクの意識に欠けていると感じる。人口減少等により、社会全体の生活水準は落ちると理解しているものの、自分はある程度で下げ止まると考えている若者が多くいる。地域銀行の経営者も同じような感覚なのではないかと感じる。リアリティを出してリスク意識をもたせる必要がある。人材育成について、対策を打っていると言う者もいるが、その内容は、単に研修を増やしたり、MBAを取得させたりというものでありそれでは解決しないと思う。
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○ 再生支援について、金融機関が行っていることは借金の減免等だけであり、会社を良くするために人材等を派遣したり、ビジネスを分かった上でアドバイスをしたりしているのは事業スポンサー企業である。それでも倒産することはあるので、倒産時に事業スポンサー企業が努力した分だけお金を返してもらえる仕組みを作る必要があるのではないか。
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○ 金融仲介の改善については、地域金融機関を中心に、ビジネスモデルの大変革および顧客本位で、かつ将来の健全性を確保できるビジネスモデルの構築をキーワードに議論が進められてきた。
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○ 過去のデータでは、アメリカの中小企業の8割強が1行取引となっている一方、同時期の日本は中小企業の8割強が複数行取引を行っているという結果が出ていた。日本の企業は、業況が悪化した場合の保険として、複数の金融機関と取引するようだが、実際に業況が悪化した時は全ての金融機関が回収に走るため、その機能は果たしていない。欧米では1行取引により、メイン行との信頼関係を構築するという考え方だが、日本での顧客本位のビジネスモデルの構築のあり方も欧米と同じ方向に向かうべきではないか。
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○ 金融機関の経営統合は競争戦略の1つにはなるが、金融機関の規模を大きくすることは、顧客対応の観点では逆に作用するのではないかと思う。金融機関の連携で、スケールメリットの効果が出るのは、シェアードサービスの形態によるもの。より顧客のことを知るためには、地域金融機関はコミュニティ単位で考えるべき。日本中で金融仲介機能の空白地がないように再構築することが重要。規模は小さくとも地域をしっかりと守る金融機関が増えていくことが必要であり、そのためには、経営人材を再育成する必要がある。金融機関において、ガバナンスが発揮できる人材の育成に向けた仕組みの構築が重要。
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○ 固定費の多い産業はある日突然業況が悪化し、深刻な状況に陥るということがある。このような産業における突然の業況悪化に対応するためには、スピード感を持って企業としての組織能力を高めていかなければならない。他のインフラ産業が水平分業へ転換している中、インフラ産業の中で垂直統合モデルとして残っているのは銀行業が最後だと思う。ミドルリスク先への貸出に関しては既に規模の経済が働かなくなっているので、規模の経済が働くバリューレイヤー毎の水平分業でなければデジタル革命にはついていけない。
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○ 行政としても、金融機関側の組織能力の向上を促していけるよう対応する必要がある。一方で、変革の速度を上げきれず深刻な状況に陥るところも出てくると考えられるので、そうなった場合の対応も考えておく必要がある。
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○ 現状のような変革期においては、経営者は鮮烈な戦略を想像する力と選択する力が必要であるが、その2つの力を備えた経営者は限りなく少ないと思う。統合メリットを得るには、そのような経営者のガバナンスの下に企業を複合化することがよい。
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○ また、デジタル革命等、急速な環境変化の中にあっては過剰な固定費が足かせとなり、改革のスピードについていけない。金融機関は、固定費を下げて軽量化することが急務で、スピード感をもった戦略的対応が求められる。
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○ ゆうちょ銀行の資産構造は、市場金利の変動に対し脆弱である。そのことを踏まえずに、ゆうちょ銀行の預入限度額上限の議論が行われていると感じる。金利リスクやFinTechなどのデジタル革命に対応できるよう、預金金利を含めた固定費を削減することが必要。ゆうちょ銀行の預入限度額引き上げにより、預かり資産手数料を増やして、現在の郵便局ネットワークを維持するという発想は、危険な政策アプローチと考える。
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○ ゆうちょ銀行の預入限度額の引き上げや撤廃については、非常に良くないのではないかと懸念している。今後明らかにゆうちょと地銀は協調していかなければならないのだから、今考えられていることが事実であるとすると、それに水を差すような話になる。民営化を進めて、それが十分に進んだ段階で、限度額を緩めていくべき。ただし、それがどの幅であれば地域金融機関とゆうちょとの協調関係を崩さないのか、そこをしっかりと判断していく必要がある。そのためには、政令改正等が必要になるとは思うが、内閣全体として各省庁がしっかりと意思統一をすることが望ましい。
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○ 企業アンケート調査について、特徴的な結果の一つとして、訪問回数が少ないことが満足度の低下につながっているということが挙げられる。フィンテック等による業務の効率化で、地銀の行員は、むしろ行内から外に出て、現状より足しげく訪問するということが可能となるのだから、しっかりと足で稼ぐべき。満足度が高くなった企業のうち、その理由を有益な情報提供と答えた企業が昨年よりも増えており、顧客は有益な情報提供や提案を求めているのだから、お金だけでなくて、新たな提案を行うべき。
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○ また、全国で何万社という廃業の危機があるようなところに必要な人材、銀行の人材であったり、いろんな人材をあっせんするというようなことを地域金融機関がより積極的にやっていかなければならないということが、前年と今回の調査で色濃く出たのではないか。
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○ 拡張・拡大の時には、組織はあまり手直しせずともいろいろなことがうまく回る。しかしながら、今は縮小・撤退の時期にきており、個人のみならず組織についても相当変革しないといけない。トップダウン型に変えて、頭取等の意見がしっかり行き渡るようにしないといけない。特に気になるのが、金融機関は本部の権限が非常に強い組織。例えば建設会社だと現場にかなりの権限がある。金融機関は現場の権限をもっと強くしないといけない。そして、現場の支店長の個々のレベルを如何に上げていくか、ということが重要ではないか。
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○ 地域銀行の経営状況について、前回の金融レポートでは、一般的に顧客企業の事業の内容をよく理解し、企業価値向上につながるアドバイスとファイナンスを提供することで収益を確保している地域金融機関については、金利低下が進む中においても貸出金利回りの低下幅が緩やかとなっていると記載されていたが、現時点において融資先企業の価値の向上が金融機関の価値の向上に繋がるというような好事例や良い兆候があれば教えてほしい。
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● 金融機関の中には、7~10年ほどかけて、経営者保証ガイドラインを活用した無担保融資、信用保証協会に頼らずにプロパー融資を実行、貸出金利競争を避けた本業支援の中でのコンサルティングフィービジネス等に取り組み、ビジネスモデル転換に向けて努力をしているところもあるが、低金利の影響で利益を出せず、赤字になっている金融機関もある。
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○ 有価証券の益出しにより、当期純利益の50%以上の利益の確保を何年も続いている銀行が存在するのは不自然。当局との対話の中で銀行の経営陣がどのように説明しているのか教えてほしい。
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● 持続可能性の観点から経営陣とも対話を行っているが、風評リスクも考えると配当水準の維持が必要であり、最終利益を確保する必要があるとの説明が聞かれる。しかし、それでは悪循環であり、本当に持続可能なのか、ビジネスモデルをステークホルダーへ説明した上で適正な配当水準の検討をすることも必要なのではないかと考えている。
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○ KPI素案の策定にあたっては、金融機関の対応にも考慮し、慎重に対応してほしい。
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○ ゆうちょ銀行と金融機関の連携に関していうと、政府系金融機関と連携することについては、金融機関の支店長の約7割はポジティブな反応を示すが、ゆうちょ銀行との連携についてはポジティブな反応を示す金融機関の支店長は少ない。ゆうちょ銀行の方が連携しやすいように思うが、地方の金融機関の職員はゆうちょ銀行にアレルギーがあるようであり、すぐに預入限度額の上限を撤廃することは地域金融機関との連携を進める上で問題だと考える。
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○ また、資産形成という観点からも、ゆうちょ銀行はもう少し多様な金融商品を販売する必要があるのではないか。地域銀行では、ファイナンシャルプランナーを採用し、金融商品を人生設計の一環として販売しようとしているが、ゆうちょ銀行は、まだそういう姿勢になっていない。手数料収入のためではなく、顧客の資産形成の観点で金融商品を販売するような姿勢にならないと顧客のためにならないと思う。投資信託を取り扱っていない郵便局の窓口担当者が、取扱局に取り次ぐ手間を考えて販売しない可能性もある。この点も考えていかないとゆうちょ銀行は、貯蓄から投資へという流れにのれないのではないか。
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○ 企業アンケート調査結果について、顧客企業の売上・収益改善につながったサービスにおける人材派遣、人材紹介、人材教育がほとんどない状況である。この点、日本人材機構などを活用して、更に取り組んでほしい。金融機関からも人材を紹介してほしいという要望は多いと聞く。
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○ 今後、企業アンケート調査結果を分析するに当たっては、地域別の分析や、創業間もない企業についての分析をしてほしい。また、銀行数の多寡が顧客に与える影響を確認する観点から、金融機関の統合前後での回答の違いについて分析してほしい。
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○ 地銀の半数以上が本業で赤字となっていることは非常に重い現実である。経営の巧拙が出ている面もあるだろうが、これだけ多くの銀行が赤字に転落している現実を考えると、この検討会議で経営モデル自体を議論し、提言していくことも大切である。この検討会議はあくまで金融仲介の改善がテーマであることから、金融商品販売や顧客資産を豊かにするといった銀行サービスの側面があまり出てこなかったが、それらも含めて、どのような地域銀行が持続可能なのかについて議論するタイミングになってきていると考える。
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○ 更に、持続可能なビジネスモデルを考える上で、貸出金利の適正性についても議論が必要である。現状は、適正利潤と比較して非常に低い状況になっているのではないかと危惧しており、こういった状況が続くことは銀行の持続性・預金者保護の観点で疑問である。適正な金利水準については、ガイドラインの策定を検討することも必要ではないか。
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○ 事業性評価については、年々改善しており、良いことであると感じている。一方で自分が銀行と対話する中では、人材育成が非常に大きな課題となってきている。したがって、上手くいっている地域金融機関とそうでない地域金融機関について、人材育成・組織運営の相違点を見定めていくことも次の大きなテーマであると考える。
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○ 銀行の経営力評価や企業アンケートを通して一定の進捗があるのは非常に喜ばしいが、一方でスピードに問題があると思う。この原因としては、既存の金融機関が店舗やシステム、人件費等の固定費が重い状況から抜け出せていないことや生産性の低さ人材不足等の経営上の課題が挙げられる。
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○ 内部にいる人は金融機関は特殊な存在であり、金融機関の経営は金融機関の人間でないとできないと考えるが、必ずしもそうではない。今の金融機関に求められていることは、いかに金融機関以外の方の経験・知識を取り込んでゆくかという点である。これは、役員が多少変わっただけでは達成できないと考える。
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○ そもそもこの検討会議は金融仲介の改善が目的であり、既存の金融機関の改善が目的ではない。今後は、既存の金融機関の改善にリソースを割くのではなく、非金融機関が参入し金融仲介に貢献できるような枠組みの議論を行った方が良いのではないかと強く思っている。
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○ 協同組織金融に関して、過去、協同組織金融機関に対しては重い規制よりも軽い規制を課す方がうまく機能するのではないかとの提言がなされたことがあるが、今後、この点について議論していくべきではないか。地域金融を考える際は、地銀のみならず、協同組織金融機関についても考慮する必要がある。今後は、協同組織金融の問題も視野にいれて議論をしていきたい。
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○ 現場への権限委譲に関する提言があったが、スウェーデンのハンデルスバンケンのような、支店を重視した分権型経営の成功例も参考に検討していくべきではないか。引き続き多面的な観点から議論をしたい。
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最後に、本日の議論を踏まえた越智内閣府副大臣の挨拶
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● これまでに議論した競争のあり方については、4月の官房長官会見で政府全体で考えていく、との発言があり、6月の未来投資戦略に盛り込まれた。そのうち、革新的事業活動に関する実行計画において、公取委、金融庁、経産省、国交省の4省庁が、工程表に基づき取り組んでいく予定である。
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● 本日の事務年度末のとりまとめ及び今後の方向性の検討に際し、ご指摘いただいた内容を4カテゴリーに分類して総括すると、1点目、経営については、今のスピードで間に合うのかという問題、既存金融機関にとらわれない金融仲介機能について議論すること、産業構造の変動を想定して考えることが今後の課題。その際は公共サービスとしての地域貢献と、経営とのバランスについて、金融当局として常に意識していきたい。2点目、人材については、既存の規制ベースの組織運営からの脱却や経営人材育成が大きな課題。3点目、銀行と企業の関係については、メインバンクと企業との関係、一行取引カルチャーや金融機関の競合関係等について、金融当局だけでなく、社会全体の課題として検討が必要。4点目、ゆうちょ銀行の預入限度額については、現状は論理とは次元が違う世界での議論の感があるが、これを合理的世界に収めていかなければならない。
以上
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