「トランジション・ファイナンス環境整備検討会」(第2回):議事要旨

1.日時:令和3年3月31日(水曜日)13時30分~15時30分

2.場所:オンライン開催

3.出席委員:  
伊藤座長(一橋大学)、上野委員(一般財団法人電力中央研究所 社会経済研究所)、押田委員(マニュライフ・インベスト・マネジメント株式会社)、梶原委員(株式会社日本格付研究所)、加藤委員(株式会社三菱UFJ銀行)、金子委員(株式会社三井住友銀行)、金留委員(DNV GL ビジネス・アシュアランス・ジャパン株式会社)、木保委員(アクサ・インベストメント・マネージャーズ株式会社)、今委員(日本生命保険相互会社)、高村委員(東京大学 未来ビジョン研究センター)、竹内委員(第一生命保険株式会社)、竹ケ原委員(株式会社日本政策投資銀行)、長谷川委員(一般社団法人日本経済団体連合会)、林委員(BofA証券株式会社、国際資本市場協会(ICMA))、平林委員(株式会社みずほ銀行)

4.議題:
(1)開会
(2)プレゼンテーション(株式会社日本格付研究所 梶原委員)
(3)トランジション・ファイナンス基本指針説明
(4)トランジション・ファイナンスの今後の進め方
(6)閉会

5.議事内容:

 

議事(1)開会

 

議事(2)プレゼンテーション(株式会社日本格付研究所梶原委員)

●日本格付研究所 梶原委員より、資料3に基づき、先般行われた川崎汽船へのトランジション・ローンについて、評価の視点をご説明いただいた。
●梶原委員のプレゼンテーションを踏まえ、質疑応答が行われた。

○今回の事例のファイナンス対象はSPCであるが、トランジションであるかどうかの判断は、傭船者でありSPCを支配している川崎汽船の計画を参照してなされている。今後もこのような判断は可能であるか。
  •  可能と考えられる。SPC自体は意思を持たないため、背後にいる川崎汽船を評価対象とすることとなる。これはグリーンボンドでも同様である。

○今回は傭船者が川崎汽船1社であったが、複雑なスキームとなる場合は、どのように見るべき主体を決めるのか。
  • 案件によって検討が必要。
 
○資金使途である船舶について、国際的な目標としてIMOは2008年比で2050年までに50%削減、2100年近くでゼロを掲げている。一方、国は2050年カーボンニュートラルを掲げている。この場合、業界ベストの値がゼロでない場合、どの程度許容されうるのか。海外投資家のからはどのように見られているのか。
  • 2050年カーボンニュートラルを目指すことは理解しているが、すべての産業、企業がネット・ゼロという訳ではなく、全体としてネット・ゼロとすることを目指すと理解している。今回の件は、2050年排出ゼロと明示的に言えないが、参照しているIMOのロードマップが国際的な議論から合意を得られたものであり、その合意プロセスも確認した上で、意欲的なものであるとして判断している。
 
○2050年までに2008年比50%削減というIMOの水準が現時点ではグローバルで幅広く認知された値であり、国際的にも受け入れられている。他のグリーン分類事例ではバイオマス発電も最終的には排出ゼロとはならない等、業界固有の目標の考え方が受け入れられているなど、これら、一定の水準に達するものは適格性があると評価されることを確認しており、現時点ではこれをトランジションとしていくとの考えである。

○国際的な目標がその業界のベストであることを示すことができれば、2050年排出ゼロでなくても許容されると理解した。 

○評価対象の川崎汽船は、SBTも取得しており、TCFDにも賛同している。一方で、統合報告書ではTCFD提言に沿った開示が十分とは言えないと感じている。TCFD提言に沿った開示は評価でどのように捉えられているか。
  • 川崎汽船は開示を強化するために、ガバナンスも強化すると伺っている。完璧な開示はなされてはいないが、その点をもって、トランジションとして認められないとの判断はしていない。ただし、リンク・ボンドあるいはローンの場合は、戦略の観点をもう少し深堀することになるだろう。
 
○このような事例の深堀は事業会社やファイナンス側の対話につながるため有益である。
 
○IMOの長期目標について、今後見直しがなされた場合、今回のような長期のローンでは貸出条件にどのように影響が出るか。
  • 資金使途特定型のトランジション・ファイナンスの場合、基本的には評価対象時点における戦略と対象アセットの環境性能を評価する。サステナビリティ・リンク・ファイナンスのように目標と貸出条件を連動させるタイプのファイナンスではないため、今後の戦略の見直しは本ファイナンスの評価に影響はしない。目標と貸出条件を連動させる場合でも、貸付実行時の戦略と貸出条件が連動すべきで、その後戦略が見直しになったからといって達成目標を都度変更させることは、資金調達者にも市場にも混乱をきたす恐れがある。また、サステナビリティリンクローン原則およびトランジションファイナンスハンドブックでもそこまで求められていないと理解している。
 
○ロックインの恐れがない技術であることと、Do no significant harm(DNSH)をどのように確認されたのかを教えていただきたい。具体的な水準、プロシージャ―等があるのか。
  • 全てのアセットに適用できる定まった手法があるわけではないため、個別案件を見ることになるだろう。
  • また、DNSHはEUタクソノミーやCBI、環境省のグリーンボンドガイドラインなどを考慮していく中で、他のグリーンプロジェクトで除外対象となっているアセットが含まれていないかを確認した。
 
○国際船舶の排出量は国別排出量の外側でカウントされており、NDCにおいても枠外であるため、IMOが目標を定めている。国際船舶や航空が別扱いされることは理解できるが、今後パリ協定との整合との観点から目標の見直しがされることもあり得るだろう。
 
○整合性について、参照目標が変更された場合に、事後評価などを含めどのように対応されるのか、また、当初のトランジション性の評価にも影響があるのか。
  • グリーンボンド同様に評価時点での適格性を評価するため、その後の参照先の変更に伴い適格性が外れることはない。
 
○船舶の耐用年数はどの程度か。年数に関係なく燃料転換をしていくのであればロックインの問題はないだろうが、そうでない場合は耐用年数が問題となるだろう。 
  • 個別の船舶の耐用年数に着目するというよりも、ロードマップ上2035年より前に様々な技術革新や燃料転換が想定されているため、ロックインのおそれはないという整理をしている。
 
○DNSHはEUタクソノミーで多く使われているが、今回はEUタクソノミーの基準を見られているのか。あるいは概念を踏まえて案件を確認されているのか。 
  • DNSHは、他のグリーンプロジェクトにおいて除外されるアセットを確認しており、EUのTEGの考え方も参照している。
 
○トランジションの基準について、DNVでは4つの視点を設けている。最も高いレベルが2050ネット・ゼロである。2050年ネット・ゼロが難しい場合、2つ目として国際的に認知された産業別の目標を次のレベルとしている。3つ目が国別のロードマップである。欧州で実施した事例もガス・電力会社は国の目標をトランジションの基準としている。最後に4つ目の基準として、企業別のTCFDやSBTiに関する取組を見ている。
 
○冒頭の「先行事例の共有」が有効だろう、というアドバイスについては、DNVが関与した海外事例があるので、関係者と共有・議論をしていきたい。DNSHについてはプロジェクト実施に付随するその他の環境(水、循環資源、生態系、廃棄物等)について考慮することが必要と考える。
 
○長期のローンや償還期間が長い場合、発行時点での基準で判断する。グリーン事例を例にすると、具体的には3種類あり、1つは発行時点で判断し、その後基準を超過することは許容されるという考え方である(陸上交通・輸送セクター)。次に、現在時点に加え償還期間で条件を満たすか確認するものがある。最後に償還期間中の平均の排出が基準を下回ればよいとする考え方がある(グリーンビルセクター)。これらを各々のトランジション・ファイナンスの各セクターの計画や文脈でどのように設定し、納得の得られるものとするかが重要である。


議事(3)トランジション・ファイナンス基本指針説明

●経済産業省 梶川室長より、資料4(トランジション・ファイナンス基本指針(案))について、説明がなされた。
●その後、以下の意見交換がおこなわれた。  

○要素3について、④に「資金調達者に期待される事項」において、科学的根拠のある目標として、SBTiやIEAなどと並び、今後策定される業界別のロードマップも記載されているが、11ページ「開示が推奨される事項」の⑧では、「業界等が定めた計画や業種別ロードマップ等を参照した際には、それらが科学的根拠に基づいていることを説明に含むべきである」と記載されている。業種別ロードマップやNDCが科学的根拠のあるものという前提であればそれらに基づけば良いと思うが、発行体や評価機関、資金供給者である金融機関が挙証責任を負うとなると難しくなる。この関係性をどのように理解すべきか。
  • (事務局)国が多排出産業のロードマップを策定する際は、産業界だけの意見だけでなく、気候変動の分野の科学的知見がある方や環境分野の方にも入っていただき、2050年に向けた経路が科学的根拠のあるものだと担保されることを示していきたい。そのため、金融機関等が、科学的根拠があることを説明しなくても済むような形にしていきたい。

○要素4で新規の取組が望ましいとの点は理解するが、リファイナンスについても条件を満たせば対象となりうるため、一概にリファイナンスを外すことはないと理解している。 
  • (事務局)リファイナンスについては、13ページ⑦で記載しており、対象とする。

○冒頭で目的を明記し、日本政府としての立ち位置や方向感を記載している点は非常に良い。
○先日、国として2030年の脱炭素目標を作る旨の報道があった。2030年に向け日本としてコミットしていく姿勢を示すため、短・中期目標について、2030年の目標設定を推奨する旨を記載したほうが良いのではないか。 
  • (事務局)国全体のエネルギー関連はエネルギー基本計画等で現在検討中であり、現時点で基本指針に具体的な記載をするのが難しい部分もある。事業者の戦略によってマイルストーンとなる期間が変わることも考えられる。2030年の目標設定を求めるべきか、あるいは求めることで逆に縛りとなってしまうのか、ご意見をいただきたい。
 
○今後、基本指針を国外でどのように利用する予定か。
  •  議題(4)で、説明する。
 
○8ページ脚注10(パリ協定の説明)ついて、カギかっこ付きで原文を引用するのであれば、正確な表現とすべきである。
 
○短期中期を具体的にどの程度とすべきかは業種により異なるため、短期・中期の定義を3~15年とする現在の考え方で良いのではないか。2030年、2050年といったマイルストーンは重要だが、ファイナンスの観点では、あまり縛りすぎない方が良い。むしろ、業種別に期間を検討するべきであるという考え方もあり得る。
 
○業種によって設備寿命なども異なるため、排出経路は多様なものとなるべきと認識している。あまり厳格に期間を定めない方が良いだろう。
 
○実際に取り組みしていく際は、業種別ロードマップの位置づけが非常に重要になる。ロードマップはある程度幅を持たせて示すべきだろう。実際に全体としてのネット・ゼロを目指す場合は、どの部門でどの程度排出削減が可能であるかという議論になるため、実効性のある排出削減に向けては、一定の柔軟性を保つべきと認識している。
 
○要素4について、アウトカムやインパクトについてのディスクロージャーの記載があり、その後ネガティブインパクトに関する記載が存在している。これは、③に対し踏み込んだ記載であるように感じられるので、③のサブパラグラフとして④、⑤を含めたほうが良いのではないか。
  • (事務局)ご意見を踏まえ精査する
 
○外国人投資家は2030年をマイルストーンとして重視しているため、基本指針でも何らかの言及があってもいいかもしれない。他方、外国人投資家と日本企業では、イノベーションに対する考え方が違う場合がある。外国人投資家は、実験室レベルのイノベーションをすぐに社会実装できるように捉えがちだが、日本は社会実装まで見ている。考え方の整理が必要と認識している。
 
○ICMAのハンドブックでも2030年の目標設定を明示的に記載していない。基本指針がICMAを参照していることを踏まえ、柔軟性を持ちつつ、投資家との対話の中で対応いただければよいと考えている。もし投資家との対話の中で2030年の目標設定を求められるのであれば、個別に対応すべきである
 
○12ページの脚注に削減貢献量を記載しているが、本文中にも記載いただけると良いのではないか。
  • (事務局)ご指摘を踏まえ検討する。
 
○短期・中期目標で2030年の目標を求めるかどうかは、基本指針においては明示的に記載しないという方向性でよいと考える。
 
○5ページの⑦は、資金の管理が長期に亘る場合は難しくなることには留意。
 
○8ページの②の3行目について、製造プロセスの効率化なども含まれることがわかる記載にしていただけると良い。
  • (事務局)ご指摘を踏まえ検討する。


議事(4)トランジション・ファイナンスの今後の進め方

●経済産業省 梶川室長より、資料6:事務局資料について、トランジション・ファイナンスの今後の進め方について説明がなされた。
  • パブリックコメント実施後、4月下旬~5月上旬に基本指針を公表したい。
  • その後、分野別ロードマップの策定、モデル事業、利子補給等の実施も検討中。また、トランジション・ファイナンスの事例について、利便性を高めるため、グリーンボンド等と同様に環境省のグリーンファイナンスポータルに掲載する予定である。
  • 4月16日のESG金融ハイレベル・パネル、28日のTCFD関連セミナー、ICMA と連携したセミナーなど、情報発信も積極的に行っていく予定。
  • また、今回の基本指針をベースに、アジアへのトランジション・ファイナンスの展開も検討している。成長戦略として、経済成長を実現しつつ、カーボンニュートラルへの取り組みを加速させていく必要があると認識。
●その後、以下の意見交換が行われた。
 
○パブリックコメントについて、ICMAに対してもコメントを求めるような働きかけをしていくとよい。
 
○欧米では、鉄鋼におけるコークス還元の効率化など、化石燃料の継続利用・直接利用、化石燃料のみを使用することが前提の技術や設備効率化は非常に厳しい目で見られており、水素還元や電炉等への転換が求められている。他のセクターの例として、ハイブリッド自動車は許容されるが、内燃機関のみ(化石燃料の継続利用・直接利用、化石燃料のみの使用)はどれだけ効率化してもグリーンにならないという考え方もあり、ロードマップ策定時には留意。
 
○生保会社も相当程度の規模の融資を実施しているため、利子補給制度の指定金融機関に含めてほしい。
  •  (事務局)法案が可決次第詳細の制度設計をする。官民一体となって進めることが重要と認識しており、幅広に検討をしていきたい。
 
○アジアでは制度レベルで脱炭素への取組が進んでいるが、トランジションの認識はまだ未成熟である。科学的根拠のある基準を自国で設定できるのか、あるいはトランジション・ファイナンスであるかどうかの検証の担い手が自国で育てられるのか、という懸念もあり、日本の基本指針やロードマップは、アジアで非常に参考になるだろう。また、トランジション・ファイナンスには企業に大きな負担があり、それを全て途上国が負担しなくてはならないのか、輸入国である先進国からの支援が欲しいといった声もある。
 
○先ほど欧州の鉄鋼業についての話があったが、扱っている鉄の種類によって、電炉化が可能な場合とそうでない場合があると理解している。例えば2030年までに日本やアジアの企業が担っている工程を電炉で全て生産することは難しいだろう。グリーン適格資産に化石燃料を使った技術を含めることは難しいかもしれないが、いずれグリーン適格な技術が確立するまでの移行戦略においては、化石燃料を最初からすべて否定するのではなく、技術特性や今後の技術革新の行く末、当該技術の採算性など、様々な観点からの慎重な検討の上で、ロードマップの検討も進めることが必要と認識している。
 
○いろいろな事例を見ていくことが非常に重要である。何らかのプラットフォームが作られることを期待している。
 
○ファイナンスでは、国際的な議論を踏まえエビデンスベースで企業の活動やアセットを評価しており、それが企業の良い移行の支援につながると期待している。その意味で、業種別ロードマップが国際的な金融機関の基準やプラクティスに耐えうるものである必要があるだろう。きちんと専門家の目が通り、透明性を持った形で策定される必要がある。
 
○基本指針のアジアへの普及について、異論はない。サプライチェーン全体の排出量削減の視点でも、非常に大きなプラスの効果があるだろう。ただ、アジア諸国は指針を使うような体制に至っていない場合もある。トランジションに向けた国としての支援が必要だろう。
 
○トランジション・ファイナンスは日本のNDCと連動すべきである。EUが55%、英国が68%という削減目標を出している。日本の2030年までの目標が厳しいものであれば、そのためにトランジションが必要であるという説明の論拠があると見なされるので、トランジション・ファイナンスを幅広にみてよいだろう。逆に目標が厳しいものでなければ、トランジションをより限定すべきではないか。削減貢献量はGHGプロトコールで位置づけられておらず、国際的な計測が確立している訳ではない。目標値が厳しくないと、国際的に厳しい目が注がれるだろう。
 
○2030年目標値が高くなるよう投資家からも声を上げていただき、そのうえでトランジションを進めていただければよいと期待している。
 
○アセットマネージャーのように顧客のお金を預かり運用していく上では、アセットオーナーの意思が重要であり、トランジション・ファイナンスに目を注いでいただけるような啓蒙活動をいただけるとよい。
 
○(貸付の利子補給事業を受けて)日本の間接金融の割合は高く、その重要性は認識しているが、社債市場において、排出削減困難なセクターやエネルギーセクターのシェアは高い。そのため、ぜひとも社債市場も盛り上げるような取組が進められるとよい。
 
○ロードマップができるまでの過渡期では、科学的根拠の判断が非常に難しいだろう。ロードマップをどの産業を中心に、あるいは優先して策定していくかぜひご確認いただきたい。特に具体的にどの産業から進めてほしいという事はないが、難しい産業から進めていただきたい。SBTなどがありわかりやすい産業もあるが、そうでない産業もある。  
 

議題(5)閉会

 

―― 了 ――

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