「トランジション・ファイナンス環境整備検討会」
(第4回):議事要旨

1.日時: 令和3年11月4日(木曜日)14時00分~15時00分

2.場所: オンライン開催

3.出席委員:  
伊藤座長(一橋大学)、秋元委員(公共財団法人地球環境産業技術研究機構RITE)、上野委員(一般財団法人電力中央研究所 社会経済研究所)、押田委員(マニュライフ・インベスト・マネジメント株式会社)、梶原委員(株式会社日本格付研究所)、加藤委員(株式会社三菱 UFJ 銀行)、金子委員(株式会社三井住友銀行)、金留委員(DNV ビジネス・アシュアランス・ジャパン株式会社)、首藤委員(アクサ・インベストメント・マネージャーズ株式会社)、今委員(日本生命保険相互会社)、高村委員(東京大学 未来ビジョン研究センター)、竹ケ原委員(株式会社日本政策投資銀行)、長谷川委員(一般社団法人日本経済団体連合会)、林委員(BofA 証券株式会社、国際資本市場協会(ICMA))、平林委員(株式会社みずほ銀行)、和田委員(第一生命保険株式会社)

4.議題:トランジション・ファイナンスに関する取組

5.議事内容:トランジション・ファイナンスに関する取組

⚫事務局(経済産業省 産業技術環境局環境経済室)より資料3、4の説明。
⚫三菱UFJ 銀行 加藤委員より、Asia Transition Finance Study Group について補足説明。

  • Asia Transition Finance Study Group を9 月に立ち上げ、2 回の会合を行った。その中でトランジション・ファイナンスに関して理解不足な部分があったため、11、12 月にパスウェイや ICMA ハンドブックに関するラーニングセッションを設けている。11 月の中旬から12 月に会合を重ねていき、枠組みを定める予定である。
  • アジア、特にASEAN は、日系企業や日系企業のビジネス相手が多い地域であり、トランジション・ファイナンスを進めていくことが重要と考えている。今回のスタディグループには日本の金融機関以外にもアジアや欧米の金融機関が加入しており、可能な限りグローバルコンセンサスに近いものを作っていきたい。
  • スタディグループでの議論は、日本の基本指針を含め、各種タクソノミー・ガイドライン等を排除するものではない。現在は国際的に様々な基準等が乱立しているとも見える状況であるが、これらの考え方を活用しつつ、実際にアジアでトランジション・ファイナンスを出していく際に何が必要か、どのような手順であればファイナンスを出しやすいのかなど、実務的なガイドラインまで落とし込んでいきたいと考えており、他の様々な議論と並立しうるものと考えている。
⚫秋元委員(ロードマップ検討会座長)より、技術ロードマップの策定についてコメント。
  • ロードマップの策定にあたって、事務局や経産省の金属課に多大な作業をして頂いた。また、委員の皆様には活発な議論・非常に有益なご意見を頂き、感謝している。
  • パリ協定の長期目標と整合したロードマップを作製することが重要かつ難しい。分野によって差が大きく、長期的にカーボンニュートラルを目指すという目標は固定されているが、そこに至るトランジションをどう描くかは難しい。日本の鉄鋼業は現状世界で最も効率がよいため、足元では削減率が低く見えてしまう面もある。そうした日本の事情を説明できるようなロードマップにする 必要があるという議論で、委員の中で認識を共有できていた。海外に日本の取組を説明できる、アジア諸国に展開できるロードマップにすべきというご意見もあった。
  • 戦略は各社によって異なり、ロードマップによって画一的に決められるものではないが、戦略の理解に役立つものとして、今回のロードマップはありがたいというご意見を金融機関からもいただいている。
  • コークスを2030 年まで利用し続け、その後も部分的に利用を続けることについて、石炭ベースで生産する期間が長いというご意見もあったが、特に鉄鋼分野の専門的な見識をお持ちの委員からは、高炉も含め複線的に脱炭素を進めていくことが重要というご意見があった。
  • 100%直接水素還元技術について、IEA のロードマップでは日本で想定されるよりも速い時期の導入が想定されている。この点について、パリ協定への整合を確認しつつ、またIEA との違いについては注記を加えながら、日本の現状に応じた導入年をロードマップでは記載している。
  • カーボンニュートラルに向けたトランジションは、金融機関がファイナンスを検討していくにはそれぞれの対策・技術が産業競争力を維持・向上させていく観点が必要というご意見もあった。
  • このように検討会を通して、非常に様々なご意見をいただき、それらを可能な限り反映させたロードマップになっていると自負している。
  • 他方で、政策や技術の進展、活用者の視点を踏まえ、定期的なアップデートが必要という意見も委員から多くあり、今後も更新していく必要があると考えている。
  • 鉄鋼分野のロードマップをベースに、他分野のロードマップへ展開していきたい。
⚫伊藤座長(モデル性審査委員会 座長)よりモデル事業についてコメント。
  • モデル事業の認定は、一つ一つの案件を審査するという手間のかかる作業であるが、審査委員会でも厳密に議論している。
  • これまでに海運3社がモデル事業として認定されていて、良い意味で競争が広がっていると考えている。今後認定事例が増えていくことで、トランジションがより普及していくと考えている。
     
その後、以下の意見交換が行われた。
⚫トランジションを実現していく上でのファイナンスの重要性を再認識した。また、現在実用化されていなくても将来実現すべき技術を示すという意味でも、重要である。
⚫国際的に資金を集めること、アジア等にロードマップを展開していくためには、海外となぜ違うのか、どこに違いがあるのかを考えることが重要。その意味で、国際的な動向を記載いただいたのは良かった。
⚫ロードマップを継続的にアップデートすることが非常に重要であり、毎年見直しの要否を検討すべきと考えている。COP26 では、イギリス、アメリカ、インド、EU において、2030 年までにゼロエミッションに近い鉄鋼生産という方向性で、ロードマップの策定に向けた取り組みや意思表明がされている。技術開発やファイナンスについては動きが早いため、定期的な見直しが必要。
⚫実際にトランジション・ファイナンスが実施されることが重要。企業ごとに扱う製品やプロセスは異なるため、ロードマップを活用してファイナンスをつけていくためには、金融からの積極的なフィードバックが必要と考えている。
⚫例えば、ロードマップ検討会の中では、技術開発のコスト的な側面をロードマップに入れることが必要ではないかという意見があり、今後の課題として事務局に受け止めていただいたと認識している。技術ロードマップの内容として、もしくは補足するものとして、実際にトランジション・ファイナンスを実施するために追加的に何が必要か、金融機関からもフィードバックをもらいつつ検討していく必要がある。
⚫ロードマップ検討会では、ロードマップに沿った技術の実装により2050 年カーボンニュートラルが達成されるというコンセンサスを取れたことが画期的だったと考えている。今後、個社から複線的な戦略が提示される中で、金融機関と事業者がディスカッションできる枠組みが鉄鋼分野のロードマップでは出来上がっており、化学分野でも順調に議論が進んでいる。
⚫モデル事業について、商船三井は2050 年ネットゼロに賛同しており、その達成をトランジション期間について支えるものである。LNG 船内航フェリー2 隻の新造が使途である。またシンジケートローンにして、高炉の沿線を基盤とする地域金融機関に広く参加いただいた建付も特徴と考えている。
⚫参加候補の銀行からはトランジションとはなにかという疑問が寄せられ、アレンジャーとの議論の中で理解が深まったと聞いている。最終的にはアンモニアや水素、合成メタンへの転換などのイノベーションを視野に入れているが、まずはLNG 船という移行プロセスをトランジション・ファイナンスとして支えていくべきというコンセプトが理解され、これが拡大しつつある。海運以外の他のセクターにも広げていきたい。
⚫川崎汽船の案件は、ジェネラル案件であり新規の投資家にも声掛けし、組成金額1,000 億円以上、19 先以上という多くの投資家が参加した大型案件である。アセットを特定しないリンク型として初めてのトランジションローンであり、投資家からの質問も多く出た。
⚫地域金融機関を中心に60 を超える投資家にヒアリングを行った。その結果、トランジションについて、検討上プラスになると答えた投資家は半数に届かず、半数以上がニュートラルと回答した。
⚫プラスと回答した理由について、ESG ファイナンスへの取組意識が高まっているという意見が多かった。また、単独でトランジション・ファイナンスを実施することが難しく、シンジケートローンとしての機会はありがたいという声もあった。最終的には、新規先やトランジションだったから参加したという投資家もおり、ポジティブなコメントが多かったと認識している。
⚫ニュートラルと回答した理由について、トランジションへの理解不足や行内の整理不足が挙げられていた。勉強会で理解が深まったというご意見もいただいたが、実際の案件が出てこないと金融機関内部の整理も進まないため、案件数を増やし投資家サイドのリテラシー向上に繋げていくことも必要であると考えている。
⚫海運について、国交省・船主協会から2050 年ネットゼロの宣言が出ている。川崎汽船も本日2050 年ネットゼロに向けた目標を開示しており、会社の新しい取り組みなど、今後フレームワークに追加していきたい。

⚫(金融庁 池田チーフ・サステナブルファイナンス・オフィサー)
  • COP26 周りで話す機会にて、技術ロードマップについても言及している。COP26 周りではネットゼロ関連のアライアンスが幅広い分野で構成されている。FSB(金融安定理事会)などで当局との連携に関する話が出ており、ネットゼロに向けて金融当局として関心がある。技術ロードマップはネットゼロへの道筋を示すモデルケースになるはずであり、関係省庁として引き続き協力したい。
  • Scope3 のファイナンスエミッションをゼロにしていくことための道筋を描くことが各金融機関で求められている。個々の案件の積み上げに加え、具体的な技術のポテンシャルとして実際どの程度の削減量となるか、それが最終的にどのようにネットゼロにつながるかというカーボンバジェットの議論などについてのコミュニケーションが金融機関と企業でできるよう、ロードマップの内容を引き続き改善していただけるとよい。

⚫ロードマップの取り組みは非常に重要であり、金融機関として、お客様との話で参照できるものと考えている。事例を積み上げつつ、世の中の動向を追いながらロードマップの内容をブラッシュアップしていくことが重要である。
⚫アジアのスタディグループでは、実際にファイナンスを出す上で何が不足しているか考えている。大きく2 点論点があり、一つは時間軸をどう考えるかが重要。各国がタクソノミーなども含め様々な取り組みをしているが、ファイナンスは返済までに一定の時間がかかり、技術も移ろいでいく。もう一つ、互換性が重要である。様々なイニシアチブや議論がある中で、何かを排除するのではなく、国毎にエネルギー政策など状況が異なることを踏まえつつ、各イニシアチブ間の互換性を考慮しながら、グローバルコンセンサスを得ることが重要。こうした考え方はアジアトランジションだけではなく、グローバルでトランジション・ファイナンスを考慮する場合に、広く適用できると考えている。

⚫(環境省 今井補佐)
  • 今後具体的なファイナンスにつながることを期待するとともに、その中で議論が深まり、ファイナンスにとって必要なものが更に明らかになっていくことに期待したい。
  • 環境省でもファイナンスドエミッションの算定について金融機関の支援を進めている。また、環境省で策定しているグリーンボンドガイドラインの見直しも今後予定している。こうした中で問題になるのは企業の移行の取り組みであり、まさに今回のロードマップの中身がかかわってくる。環境省としても足並みをそろえつつ、全体のファイナンス向上に向けて取り組んでいきたい。

⚫炭素の取り組みに伴う環境価値をどう評価するのか、現状で共通認識があれば知りたい。利子補給についても、金利が変動することになっているが、環境価値と企業のクレジット(信用力)の関係をどう考えれば良いか。環境価値を直接クレジットに取り組む部分について議論が進んでいないという認識がある。こういった部分の研究が進むと、脱炭素関連投資のリターンを見込むという意味で全体像が見えやすくなると考えている。

⚫(伊藤座長)
  • 環境価値に関する包括的な評価モデルはまだ確立されてない認識。部分的に機会側・リスク側それぞれで投資家がモデルを持っていることはあるが、共通の環境価値をバリュエーションに反映させるモデルは開発途上。ハーバードビジネススクールなどがインパクトに関するデータなどを出しているが、各論であり包括的なものではないという認識である。

⚫(経済産業省 梶川室長)
  • 環境価値の経済価値化について、環境省、経産省、森林関係では林野庁がかかわっている。制度としてはJクレジットを運営しており、省エネ投資に関する環境価値をベースラインのクレジットとして認めるという取組を実施している。
  • また、JCM という国際的に削減分をクレジットとする制度もある他、TSVCM のように、カーボンクレジットに関する標準化等のイニシアチブが進んでいる。カーボンプライシングにおいて、カーボンクレジットに関する国内での取り扱いの明確化をしたいと考えており、国内での使い方が定まると需要が定まると考えている。カーボンクレジットの取り扱いの明確化や価格の公示機能、n対nの取引のマーケット化等について検討を行っている。

⚫モデル事例としてあがっている海運業界では、IMO や国交省が定めた基準や中長期目標について、海運特有の総量や原単位のような定量的な指標が揃っていたことがよかった。ベースラインや、いつまでにどの目標を達成すべきかが明確になっていたことが取組を後押しした要因と考えており、今後のロードマップ策定においても目標の明確化が期待される。日本郵船の場合は、目標達成のために、複数の可能性(候補プロジェクト)を考慮することで信頼性を手に入れた。
⚫鉄鋼分野のロードマップでは現時点では数値的な目標を策定することは難しかったかと思うが、定期的な見直しの中で具体的な案件も積上げつつ、定量的な目標値(目安)を示せるとよい。
⚫各分野の排出削減について、NDC など国の他の指標との連動を考えることは重要であり、各分野のロードマップで定量的な数値(基準年や達成目標年&目標値等)を示すことが難しい場合は、オピニオン(第三者評価)の中でどうとらえていくか難しい状況となる可能性がある。当該セクターの技術やプロセスをよく理解しつつ対応していきたいと考えている。
⚫鉄鋼は削減困難な部門だと言われているが、海運のような先行事例が鉄鋼分野で出てくるにはどうしたら良いか考えていた。鉄鋼分野としての議論の組み立て方は海運とは異なるものになると考えている。
⚫鉄鋼部門全体で原単位が下がっていくイメージはなだらかなものになるだろうが、COP26 では、グラスゴーブレイクスルーをはじめ、削減困難部門についての先導的な取組があり、そういう個々の取り組みでは実証的・先導的取組により原単位がより大きく減る部分が出てくるだろう。一度で全ての技術が整うわけではないので、随時、課題を確認しながら議論する必要がある。

⚫(伊藤座長)
  • ご意見の中で、地域金融機関ではトランジションにポジティブなのが3 割という話があった。委員の皆様には、トランジション・ファイナンスに関する認知度を高めるべく、ステークホルダーを動かすような活動を積極的にしてほしい。

⚫(経済産業省 梶川室長)
  • ロードマップは国際的な発信が重要であると認識しており、英語訳を含め準備を進めている。また、国内では産業の特性も含め発信していきたい。動画の活用など、投資家向けへの説明や意見交換も検討する。
  • ロードマップの見直しについて、国内各種計画のアップデートや、海外イニシアチブで業界にとってインパクトのものが出た段階で対応していくことを考えている。また、金融機関からもフィードバックをいただき、使いやすいものにしていきたい。継続的なアップデートにより、信頼性を高めていきたい。
  • 本検討会についても、他分野のロードマップが固まった段階でまた開催したいと考えている。

  

―― 了 ―― 

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