「トランジション・ファイナンス環境整備検討会」
(第7回):議事要旨

1.日時: 令和5年2月21日(火曜日)14時00分~16時00分

2.会場: 経済産業省別館6階626・628会議室及びオンライン

3.出席委員:  伊藤座長(一橋大学)、秋元委員(公益財団法人地球環境産業技術研究機構(RITE))、伊井委員(株式会社みずほフィナンシャルグループ)、上野委員(一般財団法人電力中央研究所)、押田委員(マニュライフ・インベストメント・マネジメント株式会社)、岡崎委員(第一生命保険株式会社)、梶原委員(株式会社日本格付研究所)、金子委員(株式会社三井住友銀行)、金留委員(DNV GL ビジネス・アシュアランス・ジャパン株式会社)、北島委員(アクサ・インベストメント・マネージャーズ株式会社)、栗栖委員(日本生命保険相互会社)、高村委員(東京大学)、竹ケ原委員(株式会社日本政策投資銀行)、西地委員(株式会社三菱UFJ 銀行)、長谷川委員(一般社団法人日本経済団体連合会)、林委員(BofA 証券株式会社、国際資本市場協会(ICMA))、清木委員(東京ガス株式会社)

4.議事:
(1) 開会
(2) 事務局説明
(3) 討議①
(4) 事務局説明
(5) 討議②
(6) 閉会

5.議事内容:

議事(1)開会

⚫ 事務局より研究会の概要、運営、ご参加者等について説明。
⚫ 経済産業省産業技術環境局環境経済室 梶川室長より挨拶

  • 海外でもロシア・ウクライナ情勢を受け、トランジションの考え方や概念は広まりつつある。日本の特徴は、官民で連携しながら議論を進められる点である。グローバルでの浸透施策の検討と、国内での環境整備のために本検討会は重要だと考えるため、引き続き活発にご議論いただきたい。
  • 今後の課題として、サブワーキングでの議論にも挙がっているように、ファイナンスド・エミッション関連の環境整備と、ロードマップの信頼性向上に向けた定量化の充実や拡充が挙げられる。本検討会の論点であるフォローアップはさらに一歩進んだ議論だが、資金調達後に資金調達者と資金供給者のコミュニケーションを充実させる方法を本検討会にて議論いただきたい。


議事(2)事務局説明(①フォローアップガイダンスの論点

⚫ 事務局より資料3について説明。
⚫ 本検討会では以下の論点について議論。
  • フォローアップガイダンスの論点
  

議事(3)討議 ①フォローアップガイダンスの論点

⚫ 本ガイダンスの目的として、モニタリングのプロセスを精緻に定める事なのか、不適切なラベルでの調達ができないようにすることなのか、焦点を定めた方が良い。後者ならば細かい規定を定める必要は無く、対象が定量的なデータや戦略であっても、モニタリングをしていく事自体が重要となる理解である。
⚫ 戦略を評価するプロセスは排除した方が良いのではないか。前回の検討会でもGHG 排出量の開示データが、設定した排出削減の経路と乖離していないかを見る方良いと申し上げた。現在の議論では単年で数値を確認し、少しでも目標値とずれていたら乖離と判断するという事の様に捉えられる。毎年乖離の判断をしていくのか、もしくは複数年の削減量の傾向があまりにもずれていた場合を乖離と見なすのかという点は明確にすべきではないか。
⚫ 本来トランジションは野心的な目標を設定する必要があるもののため、理想通りに移行が進まない企業の方が多い。あまりにも厳しく乖離を指摘し過ぎると、企業の計画の野心性が失われる懸念がある。現在乖離の有無の判断は資金供給者に委ねられているが、資金調達者に一斉に資金供給者が殺到する事態は避けた方が良いため、何年単位で乖離の判断をするか、や乖離判断の方向性が定められている事は重要ではないか。
⚫ トランジション・ファイナンスを標榜するならば、ICMA に則り、そもそも野心的でなければセカンドパーティ・オピニオンは取得できないことを前提である。そのため、目標が野心的とするならば、何年単位の目標とするかは、業種や技術によって異なるため個々の判断に委ねて良いのではないか。
⚫ 日本企業はこれまでも財務情報について中期経営計画等で目標を定めており、そこに乖離があれば説明をしてきている。非財務情報についても基本的な考え方自体はそれと同様なのではないか。一方で、非財務情報についてそうした説明等を行うことはこれまでそれほど経験が積まれているわけではないのでガイドラインを示す事は有効だと考えるため賛同する。
⚫ 多排出分野の業界横断的に留意すべきテーマ内、「他業界の低・脱炭素化への貢献や連携(低・脱炭素エネルギー・素材の提供等)」とあるが、同業界であっても突出した技術等が出てくれば、それを取り入れる必要があるため、「同業界及び他業界の脱炭素化への貢献や連携」という記載にすべきである。
⚫ 企業から説明を受けた場合でも開示を促す事は必要であるため、その旨は追記すべきである。
⚫ ケーススタディについて、考え得るケースは無数にあるため、あまり多く書き表す必要はないのではないか。本ガイダンスに記載があるケースの限りではない事を明記いただき、各社の判断に応じて対応いただければ良いのではないか。
⚫ 本ガイダンスの目的はトランジション・ファイナンスを促進することであり、厳密に規定し過ぎると、トランジション・ファイナンスのラベルの活用を避けられる可能性がある。対象をトランジションのラベル1つに限定せず、様々なファイナンスに適用すべきではないか。
⚫ 乖離の判断について、戦略との乖離を判断する事は難しいとの議論があったが、乖離があった場合は戦略のシナリオやパスウェイから定量的な数値がずれる事になると考える。例えば、年に1回程度、定期的に外部環境・内部環境の変化を踏まえてシナリオを検討し、定量的な進捗が確認される事を想定している。この際の数値的なズレが戦略との乖離として判断できるのではないか。序章の中で、進捗との差が生まれて全社シナリオの修正が必要となった地点を乖離と判断するのか、定量的に乖離を判断していくのかという点は明確にしていただきたい。
⚫ ロードマップは経済産業省のロードマップを念頭に記載されていると思うが、IEA 等が公開している国際的なロードマップやシナリオも実務上では頻繁に利用されているため、「国際的なロードマップ・シナリオについても参照すべき」という旨を記載いただきたい。
⚫ 「乖離」は戦略を意識した記載になっているが、資金使途不特定型であればSPTs との乖離、特定型であれば資金使途の乖離もチェックすべき事項である。ただ、両者は本質的に異なるため、書き分けた方が良いのではないか。
⚫ 「対話の目的は資金調達者と資金供給者が今後の方針と進め方について認識を合わせることで、次回以降の対話の充実につなげる」という記載が、対話のための対話のように見えてしまう。対話が機能するためには、資金調達側と資金供給側の緊張関係が必要。あまりにも乖離している状態が長期的に続くと、リファイナンスの際に資金提供を再検討する投資家がいることにより緊張感が生まれるため、対話が意味を成すと考える。ただ、ガイダンスでの書き方が難しい。緊張感をどこまで高めるかは、資金供給側の各社の判断次第であることから、「最終的な判断は個々の会社に委ねる」という考え方が適切なのではないか。
⚫ どこまで対象を広げるかという議論はあるが、フォローアップの対象となるファイナンスのスコープを広げすぎると、ガイダンスが抽象的になる懸念がある。第三者認証を受けたトランジション・ボンドを購入している時点で投資家はボンドと基本指針との整合を前提としているため、これを以てエンゲージメントをすることが考えられる。よって、トランジション・ファイナンスのラベルがまずはフォローアップ対象となるのではないか。
⚫ 事業戦略との乖離については認証を受けたフレームワークで前提としているNDC ロードマップ等との乖離を見る事になるのではないか。また、技術ロードマップのタイムラインも踏まえて乖離を見る事も排出量の確認と共に重要である。
⚫ 評価機関も企業動向を追い乖離を確認している中で、投資家も敢えて乖離を確認する作業がどの程度必要なのか疑問である。評価機関が行っているような確認事項だけではなく、投資家ならではのコミュニケーションを行うべきである。
⚫ 野心性の意見については同意する。また、計画を達成していても必ずしも最適とはいえない場合もある。例えば、技術革新などで外部環境が変化した場合など、状況が変われば、自社で設定した戦略が最適とは言えなくなる場合にどうするかも考える必要がある。
⚫ これまでトランジション・ファイナンスに取り組んだことがない投資家に向けて、最低限実施すべき内容を示し、トランジションの普及を図るという意味においては、フォローアップガイダンスは有意義だと考える。ICMA のハンドブックも同様の位置づけであると認識している。一方で、細かく内容を規定しすぎると、資金調達者の開示や説明の手間と、ベネフィットのバランスから、トランジション・ファイナンスの実行を躊躇してしまうのではないか。実際足元ではサステナビリティ・リンク・ローンやサステナビリティ・リンク・ボンドでの調達を志向するケースも増加している。また、直接金融と間接金融で金融機関の立場が異なる点は考慮すべきである。これらの点を考慮しなければ、トランジション・ファイナンスの市場が縮小する懸念もある。双方の意見を考慮して内容の細かさ等調整をしながらガイダンスの作成を進めていただきたい。
⚫ 銀行は企業と長期的な関係性を築くことが重要であり、個別案件を対象とする本ガイダンスによりエンゲージメントが変化する事は考えにくい。株主である生保なども然り。一方、様々な案件がある中から案件毎に判断して債券を購入する投資家は、ガイダンスによりエンゲージメント手法をより重視するのではないかなど、利用者によって位置付けは異なる。
⚫ 計画との乖離が生じる背景は複数あるが、乖離が発生した際にどの様に判断し対応するかが重要。
ボンド・ローンに関わらず、フィデュ―シャリー・デューティ―の観点も含め、資金回収の蓋然性への影響が最も重要であり、計画からの乖離で資金回収に影響がないかをまず確認することになる。資金回収の蓋然性が担保されて初めて、GHG 排出量を削減経路に戻していくための議論を行うことになる。
⚫ 乖離の要因が企業のコントロール範囲内のものなのか、範囲外のものなのかは論点である。コントロール範囲内で対応を怠っていた場合は企業に軌道修正をいただく、コントロール範囲外だが打ち手がある場合は、銀行や投資家から追加支援を行うことも想定される。企業の打ち手もなくコントロール範囲外の要因で乖離が生じる場合については、民間で対応しきれないため、そもそもそうした事象が起きないように当初段階で政策的に支援いただく必要があるかもしれない。ケース別で類型化しても良いのではないか。
⚫ トランジション・ファイナンスの良い点はグリーンファイナンスの様な個別のものとは異なり自社の戦略に賛同いただいて債券を購入いただける点である。戦略そのものがロードマップや各種ガイダンスに適合しているかどうかをSPO として評価機関に提出いただく事で信頼性を担保するものだと理解している。
⚫ 事業社では各時点で最適な戦略を策定し、状況に合わせて更新をしていくため、乖離という言葉自体に違和感がある。ファイナンス時点で最適だと考えている自社の戦略に投資いただいており、それがトランジション・ファイナンスの本質なのではないか。トランジションの絵でも描かれているように、我々は山を登っている最中であり、今後到達する地点によっては戦略も変わり得るため、何を以て乖離としていくかも変わる。当初の戦略から変化することで、投資家の理解が得られなければ、今後トランジション・ボンドが購入されなくなるものであって、当初のトランジション・ファイナンスがおかしかったという議論にはならないのではないか。
⚫ エクイティとデットで情報の非対称性はあまりないのではないか。フォローアップにより、デットだけエクイティと比較した際にデットだけ多くの情報を得る事はあり得ないと考えている。フォローアップガイダンスが公開されれば、ガイダンスに沿っていかなければいけないが、情報の非対称性が生まれる状態は現実的ではない。
⚫ その時々で最適な戦略に対する債券に投資しているため、乖離という言葉に違和感があるとの事だが、最適な戦略に対する期待に反して実行力が芳しくないため乖離が生じる場合もあるのではないか。
⚫ 実行力が乏しく、乖離が生じた場合はエクイティ・デット関係なくIR で説明をせざるを得なくなる。しかし、その時点での差異を説明する必要があるに過ぎなく、その後のデットにおけるアクションが変化するという事ではない。フォローアップに向けて体制を整えることは考えているが、野心的な目標であり見通しも立てづらい。また、差分が出たからといって戦略の方向性を変更するわけでもない。各種変化により、社内で変化が生じた点は必ずどこかで説明が求められるため、それにしっかりと対応する。
⚫ 乖離はこのガイダンスの骨格的な部分でもあるが、評価機関としてどのように考えているか。
⚫ 資金使途特定型のグリーン・ボンドでは、環境関連の技術が毎年進歩する中で基準も見直される。この結果、現在はグリーン適格とされている技術が数年後にはグリーン不適格になる事もあり得る。しかし、例えば、2030 年時点から見た際に2025 年にファイナンスした当時の基準でグリーン適格だったグリーンビルディング認証のB+という基準があったとして、それが2030 年時点ではA+に引き上げられたから、2025 年に起債した債券のグリーン性が2030 年になって否定されるわけではない。本件の乖離の判断は、過去に実行したファイナンスへのフォローアップとなるため、将来的にファイナンスを実行する際には基準が変化している可能性があるが、既に発行したものについては発行当初の基準を適用して乖離しているかどうかを判断するのがグローバルにも共通の認識である。外部環境の変化等により新たにできた基準や技術は、その基準や技術が適用された以降のファイナンス評価の段階から適用するので、既往債券のフォローアップをする際には、既往債をフォローアップの段階の最新の基準で判断して乖離している、という結論を導かないよう、留意してもらいたい。
⚫ サステナビリティ・リンク・ローンが難しい点は、SPTs が戦略を見ているという点である。例えば、当初2020 年に30%削減を目標として発行したが、外部基準が2025 年に50%削減に変更された場合、事業社と金融機関の間で、削減目標変更する必要があるかは議論が必要であり、フォローアップの意義があると考える。
⚫ 個社の実績ではなく、個社が前提としていたシナリオの変化を確認し、資金調達者の戦略がこの変化に適応しているかを確認するのが良いのではないか。
⚫ 乖離という言葉は事業社にとっては強烈なインパクトがある。「乖離」と「追加的な開示」については表現だけでも留意すべきである。
⚫ BCP やリスクマネジメントを評価する事もあるが、環境目標や戦略などPDCA を回していくものを評価する際は、双方の合意に基づき「乖離」という言葉を利用することになる。一方的に評価機関が基準を決めて「乖離」という言葉を使用することはない。
⚫ 社内の戦略や目標、実績などに対して、内的環境と外部環境の変化等を踏まえて未達であると資金調達者との対話において判断した場合にのみ、双方合意の下で乖離として扱い、次に資金調達者がとるべき対応策を検討することになる。
⚫ 乖離の有無を確認する事を前提で議論すると乖離を解消するためだけのコミュニケーションとなる懸念がある。サステナビリティ部門が毎年目標に対する進捗報告を行い、こうした情報と、資金供給者の見解を双方が信頼に基づいて共有する事が重要である。
⚫ 乖離の有無を前提とした対話になるとことは望ましくなく、ガイダンス内での言葉や用語の使い方には留意すべきである。
⚫ 1つの手法として、対話の中で乖離だという合意が得られた場合に初めてフォローアップを実施してはいかがか。乖離は生じると考えるが、最初から乖離がある事を前提にせず、外部環境の変化や社内の事情等の聴取から対話を広げた方が良いのではないか。
⚫ 原則としてガイダンスは厳しく規定しすぎない方が良いと考える。その点において今回のガイダンスは全体的に違和感がない。
⚫ 資金使途不特定型の方が乖離の確認は難しいと考える。
⚫ 外部環境について、例えば経済活動が好調な時は生産活動量が増加するため排出量原単位は改善し、生産活動量が低下すると排出量原単位は悪化する。この変化は業種によっても変動幅が異なる。短期間でも変化するため、業種による差も考慮しながら、どのように評価・フォローアップをしていくかを考えなければいけない。できるだけ生産活動量を大きくしつつCO2 を削減するという点を踏まえて、どの様にフォローアップすべきか検討いただきたい。
⚫ 現在、エネルギー価格や資材価格が上昇している中で、目標設定当初想定していない影響が出てくる事も考えられる。また、より大きな影響として例えば米国がパリ協定から脱退することがあれば、米国企業との競争の観点から排出量の削減に優先的に対応しにくくなる事も考えられる。これらの外部環境の変化に関しては企業の努力とは無関係な部分もあるため、こうした点を考慮したフォローアップが必要となる。
⚫ ガイダンスは厳しいものにはしないでいただきたい。新たなプレーヤーにとってガイダンスが重荷となり、トランジション・ファイナンスが避けられないように留意いただきたい。
⚫ 開示の公平性について、配慮した書きぶりとすべきである。
⚫ トランジション・ファイナンスは気候変動を外部要因として企業価値を如何に向上させていくかという戦略を評価し、資金を出すものだという認識である。その戦略の進捗に対してどのような乖離が発生しているのかを把握する事がフォローアップガイダンスの意義だと考えている。戦略の進捗を、どのように開示するのかは、企業により異なるため、開示の方法は各企業のスタイルに任せてしまっても良いのではないか。それが資金調達における差別化要因・優位性になると考える。
⚫ 投資家についても、ラベルだけで判断して債券を購入する投資家もいれば、戦略まで考慮して購入する投資家もおり、投資家の技量・判断に委ねるべきである。国内・国外どちらのロードマップを参照するのかも、企業及び投資家次第である。ただし、進捗に対する乖離として、当初想定していた外的リスクと、現在企業が晒されているリスクにどのような差があり、自社の位置づけがどのような状況になっているのかという様な点については、資金調達者が一定程度の情報を開示・説明することが重要である。
⚫ 本ガイダンスの対象読者は中小金融機関やこれまでトランジション・ファイナンスに触れてきていない投資家だと認識している。内部環境・外部環境の変化等を考慮し、資金供給者がどの様に対話を進めるべきかという点をまとめたガイダンスの構成にすると良いのではないか。
⚫ 目標や戦略との乖離は1 つの対話のきっかけとなるのだと思うが、乖離がある事がマイナスではないケースもあれば、外部環境の変化次第では乖離が無い場合でもトランジションとして適切ではなくなるケースもある。そのため、本ガイダンスの中ではどのような場合に対話を始めるべきか、という点を例示的に示す事が必要なのではないか。対話の際に何に注目し、どのような情報を資金調達者からいただき、何を働きかけるべきか、という点を意識した構成にしていただけると良い。要素は既にガイダンス内にあるため、読者層も考慮しながら構成を工夫していただきたい。
⚫ 本件の議論の最初の段階では、この分野で様々なガイダンスが既にある中で新たなガイダンスが本当に必要なのかという議論があって、その中で、トランジション・ファイナンス実行後のフォローアップに関するガイダンスが存在していない点が課題として上がった。その後、フォローアップのあり方を議論している中で、実際の状況が戦略から乖離している場合に、フォローアップを行うという考え方が出てきた。一方現在のガイダンス案では乖離の有無に関わらず、実行後にフォローアップを実施する方針になっている。どちらの方針にするか明確にすべきである。
⚫ 乖離の有無の認定は当事者間で判断をする一方、進捗確認は全員が実施すると整理するのが良いのではないか。もし乖離があると双方が認識した場合にどうするかを記載すると自然な流れになるのではないか。そうする事で乖離という言葉の厳しさも和らぐのではないか。
⚫ トランジションの概念は元々、タクソノミーに対するアンチテーゼであり、理想からのバックキャスティングではなくフォワードルッキングな考えの下、足元で実施すべきことや可能な対応策に積極的に取り組む事に重点を置いている。また、科学的根拠に基づくとされる直線的な削減のパスウエイでは現実的に説明しきれない部分もあるため、補完的な対応が必要であるとして産業別ロードマップが整備された背景がある。ロシア・ウクライナ情勢以降、懐疑的だった欧州でもトランジションを評価する向きがあるとはいえ、なんでもかんでもトランジションとして認められるような運用は、ウォッシュの誹りを回避するためにも避けるべきである。
⚫ 燃料転換や省エネ投資など現状できる事を実施し、将来的に水素燃料や人工光合成等のイノベーションに接続する方向性が全体戦略として提示されていれば、よほどのことがない限り、「戦略そのものからのずれや乖離」はないという認識である。特に評価機関がSPO を出して科学的根拠に基づいているかを確認した上で、ラベルがついているものであれば、その時点で最も適切な戦略となっているはずである。故に例えば、後発事象として想定していた技術の実装年が遅れることで、進捗に差が生じることは戦略の変更には当たらないから問題ない。つまり乖離とはいえない。計画を見直す際に、戦略と進捗の両面からずれの有無を確認し、方向性を再確認し、対話するのが良いのではないか。
⚫ 乖離という言葉に、「正しくない方向に向かっている」というというニュアンスがあるのが問題なのかもしれない。当初設定され、是とされた戦略そのものの変更につながるものは、乖離でよいとして、「企業が実施しようとしている方向性にずれは無いが、外形的な要因で当初想定していたパスウエイから一時的に浮いている状態」を何と呼ぶのかを検討すべきである。
⚫ フォローアップの必要性は資金調達者側の要因にも依るが、資金供給者側の要因も想定されるのではないか。例えば、資金供給者の世界観が変わったため、それを資金調達者に共有する場合もある。両方の事情でフォローアップが必要になり得る事をガイダンスに記載いただけると良いのではないか。資金調達者と資金供給者が対立構造となるような記載は避けるべきである。
⚫ トランジション・ファイナンスに限らず、資金提供した以上、該当案件の進捗確認は必要である。そのため、如何に双方が効率よく進捗確認のプロセスを進めていけるかが重要であり、その趣旨でガイダンス全体の設計をしていただく方が良いのではないか。
⚫ 国際的な理解を得ることを考えた際、多排出産業の業界横断的に留意すべきテーマの中に国際的な目線が欠けているのではないか。日本の事情のみを説明してしまうと、国内で完結する内容として捉えられてしまうため、国際イニシアチブとの比較で示し、そこに差異がある場合はその際の要因が技術的なものなのか、地理的なものなのかを説明すべきである。
⚫ 記載されている内容は、資金調達時に確認する要件となっているので、事後の確認項目と見えるような書きぶりとなるよう工夫をお願いしたい。例えば、地理的制約を考慮するという観点をフォローアップの時点で何を確認すべきかというと、当初想定していたエネルギーミックスやエネルギー基本計画の変化に伴う資金調達者への影響の確認、等といった記載の仕方がいいのではないか。
⚫ 乖離という言葉をあえて使わずとも、進捗確認やエンゲージメントという言葉を使用しても良いのではないか。
⚫ どういう場合に乖離と判断するか、あるいはより積極的なエンゲージメントを行うかについては、①ファイナンスした当初の想定から外れているかどうか、②ファイナンスを受けた事業会社がベストエフォートを行っているかどうか、③当該事業全体としてネットゼロやパリ協定整合の方向に向かっているか、といったメルクマールがありうる。どのメルクマールをとるかということだと思う。
⚫ ガイダンスの目的については、まず、大きく2つあり、1つはマクロで資金がトランジション・ファイナンスに流れるよう促進すること。もう1つは資金が流れた後、脱炭素に資することに資金が適切に使用されたかフォローアップで確認することである。
⚫ マクロで資金がトランジション・ファイナンスに流れるためということでは、さらに2つあり、ひとつは、資金供給者が資金をトランジションに流すよう仕向けるガイダンスにすることと、もうひとつは資金調達者が調達しやすくするためのガイダンスにすることなのではないか。
⚫ 資金供給者としては乖離という言葉に違和感がなかったが、日本語にした際に、ネガティブな印象を受ける。乖離という言葉に、正しいものからずれる事を指す印象があるので、「差異」という言葉の方が良いのではないか。
⚫ 業界特性の内容について違和感はなかったが、世界に発信していくためには業界区分を国際イニシアチブも考慮したものに変更した方が良いのではないか。
⚫ 乖離は英語でdeviation、差異はdifference であり、乖離の方がより強い印象である。資金調達者の観点からは語気が強いのではないか。表現をどの様にするかは各委員のアイディアを踏まえ事務局にて修正いただきたい。修正のうえ改めてヒアリング等進めていただき、それらの結果をもとにガイダンスの内容を策定いただきたい。
⚫ 外部環境(政策等)は変化する。今後外部環境が変化して参照先のロードマップが変更されたことをもとに、その当時のロードマップに指摘が入るのは困る。ただし、債券発行時点でのロードマップに適合している事は必要であり、前提に変化がない場合、KPI との差は説明責任を果たさなければならない。一方、資金供給者が対応しきれないような、乖離を発生させる外部環境の変化は考慮いただきたい。
⚫ 国際的に認められる内容となる様、引き続き検討を進めていただきたい。
 

議事(4)事務局説明(②「官民でトランジション・ファイナンスを推進するためのファイナンスド・エミッションに関するサブワーキング」第1 回開催報告)

⚫ 事務局より資料4 について説明。
⚫ 本検討会では以下の論点について議論。
  • 「官民でトランジション・ファイナンスを推進するためのファイナンスド・エミッションに関するサブワー
    キング」第1回開催報告
  

議事(5)討議 ②「官民でトランジション・ファイナンスを推進するためのファイナンスド・エミッションに関するサブワーキング」第1回開催報告

⚫ GFANZ でもファイナンスド・エミッションだけでは評価できないという議論が進んでいるため、国際的な議論と整合した内容である。
⚫ 欧州のキャピタルマーケットでは、GFANZ もこの数年でウォッシュと見られ始めている。GFANZ がGFANZ アジアを立ち上げ、多排出産業が多い国も議論に参加させる動きが出てきた中で、多排出フレンドリーになっていると指摘する声もあるようだ。トランジション・ファイナンスを国際的に普及するためには未だ課題が残っている印象である。引き続き日本においても議論を深めていただきたい。
⚫ 国内のみで議論して最終成果物を発信すると、日本がグリーンウォッシュを加速させているような印象を他国から持たれる懸念がある。議論の過程でもPCAF の方々など国際的なプレーヤーを巻き込んではいかがか。そうする事で最終的な成果物もグローバルに承認を得たという事をアピールできるのではないか。
⚫ ファイナンスド・エミッションをある一時点で捉えた際、トランジションに投融資する事でファイナンスド・エミッションが一時的に増えてしまう。この様にカーボンニュートラルに資する投資をしているはずなのにファイナンスド・エミッションが増えてしまう事がファイナンスド・エミッションのみで評価を進めた場合の課題である。
⚫ ファイナンスド・エミッションは評価手法の1 つであるが、長期的にはファイナンスド・エミッションは減少していくため、一時的にファイナンスド・エミッションが増加する部分だけを切り取って見るのではなく、長期視点で捉えていただくというのは合理的な考え方なのではないか。政府レベルでも課題提起しており、民間の金融機関でも議論され、徐々に考え方として浸透してきている。
⚫ 国内外で共通して議論されているのは、金融機関を評価する事が難しいという点である。ファイナンスド・エミッションはどの程度金融機関がGHG 排出に関係しているかという点で、定量的に捉え易い。
⚫ 乖離の議論もファイナンスド・エミッションの議論と同様に定量的な内容だけでは評価しきれない部分があると考えるが、当初の計画とどの様な違いが生じたのか、というストーリーを金融機関は知りたいのだと考える。定量的に捉える事は難しい内容のため、試行錯誤しながら国際的な枠組みでも議論が進んでいくのではないか。今後も国際的な議論に積極参加し最新の動向を捉えられる様にしていきたい。
⚫ G7 のファイナンストラックでトランジション・ファイナンスは重要な柱の1 つとされており、トランジション・ファイナンスをアジェンダの1 つとして掲げる予定である、できるだけ本検討会での論点もアジェンダの中で取り上げていきたい。日本の金融業界・産業界が今重要な論点として取り上げている内容を国際的に訴求できる様、関係省庁との連携も進めていく方針である。


議事(6)閉会

⚫事務局
  • ガイダンスについては、表現や構成を工夫しながら検討し、草案を示したい。検討会または書
    面等で協議しつつ策定を進めるため、引き続きご意見を頂きたい。
  • 春ごろにパブリック・コメントを予定しているが、開始前には合意を頂けるよう取り纏めていく。
  

―― 了 ―― 

お問い合わせ先

金融庁 Tel 03-3506-6000(代表)

総合政策局総合政策課サステナブルファイナンス推進室(内線 2770、3515)

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