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- 「トランジション・ファイナンス環境整備検討会」 (第10回)議事要旨
「トランジション・ファイナンス環境整備検討会」
(第10回):議事要旨
- 日時:令和 6 年 7 月 16 日(火曜日)9時00分~11時00分
- 場所: 経済産業省別館 6 階 626・628 会議室 及び Web 会議
- 出席委員
- 議事:
(2)事務局説明
(3)討議
(4)閉会
5.議事内容:
議事(1)開会
⚫ 事務局より検討会の概要、運営、ご参加者等について説明。
⚫ 経済産業省イノベーション・環境局 GX グループ 環境金融室 鬼塚室長より、GX 全体の動向等について説明。
- まず、5月13日にGX実行会議が開催され、そこで国家戦略としてGX2040のビジョンを策定するという方針が打ち出された。エネルギー、GX 産業立地、GX 産業構造, GX 市場創造というフレームワークに沿って今後議論をしていくこととなった。7 月 2 日には GX リーダーズパネルが設置され、有識者のヒアリングを開始した。第 1 回の 7 月では、デジタル化・AI の活用と電力需要というテーマで議論をした。今後も有識者会合を開催する予定である。また、5 月 17 日、6 月 5 日には排出量取引の法的課題研究会が開始した。さらに、7 月 11 日には GX 時代の産業構造、産業立地について専門家ワーキングが稼働した。今年度はエネルギー基本計画や温対計画の見直し、カーボンプライシングの制度設計についてそれぞれ政府の検討会において議論を進めている。2025年2月のNDCに向けて、議論事項が多い年度が今年度である。
- トランジション・ファイナンスの動きについて、2024 年 5 月に ICMA の総会に日本からも参加し、GX 移行債・GX 戦略について説明をしてきた。移行債については昨年度に比べると、 Hard-to-abateセクターの脱炭素を進めるうえで今後必要になる金融ツールであるという考えが国際的にも浸透している印象を受けた。また、7 月 1 日には GX 推進機構が立ち上がり、民間企業が 76 社出資している。債務保証と出資の業務を早急に立ち上げるべく、準備がされている。本検討会においても、次回以降、GX 推進機構にオブザーバーとして参加してもらう予定である。また、7 月 18 日には、第 4 回 GX 移行債が発行される。今年度 2 回目の発行となるが、今回は 3500 億円規模の発行を予定している。
- 本日の検討会では、トランジション・ファイナンスの国内外の動きについて状況共有を行うと共に、基本指針の改訂についてご議論をいただきたい。また、今後トランジション・ファイナンスのさらなる普及・浸透に向けた方針についてもご議論をいただきたい。
議事(2)トランジション・ファイナンスに関する動向について討議
⚫ 事務局より資料3について説明。
⚫ 宮本委員
- 2024 年 6 月 11 日に日本生命として「トランジション・ファイナンス実践要領」を公表した。背景として、NZAOA に加盟しポートフォリオ GHG の中間削減目標がある中で、トランジション・ファイナンスにより一時的にファイナンスド・エミッションが大きくなってしまうという問題に直面している。NZAOA の Steering Group にもメンバーを輩出している中、トランジション・ファイナンス拡大とファイナンスド・エミッション削減を両立しなければいけない、という課題意識がある。
- そこで本実践要領を発行し、本要領の基準でトランジション・ファイナンスに適合すると評価されたものは、ポートフォリオ GHG の管理対象から外し別枠で管理することを考えている。ポートフォリオ GHG 管理の目的はパリ協定の達成であり、パリ協定に個別で整合していると証明できるものについては、二重管理をしなくても良いのではないか、と国際的に訴えている。
- 実践要領の策定にあたり半年ほど欧州、NZAOA など国際的な組織とも議論をしてきたが、「合理的」「イノベーティブ」などの反応を得ている。また公表後も国内外ともに好意的に受け止められていると感じている。参考になったコメントの1つとして、欧州委員会のハイレベルエキスパートグループの方から、実践要領の考え方は効率的なエンゲージメントにつながるという意見をいただいた。非財務情報開示の話が日本でも進んでいるが、その議論においても貢献できればと考えている。
⚫ 実施要領で示されていることが正しく実行され、開示ルールとしてグローバルに確立されれば、ファイナンスド・エミッションの課題に対するブレークスルーとなり、日本の銀行も多排出産業に投資しやすくなるだろう。まず日本の開示のルールの中で確立されると良いと考える。
⚫ 企業レベルでパスウェイ整合であればトランジション・ファイナンスというのは自然に受け入れられた。一方、企業レベルでパスウェイがパリ協定に整合していない場合に、アセットレベルでトランジション・ファイナンスを実施すると、企業としてのトランジションを実現できないということも起こりうると考えられるが、その点についてどう考えているか。
⚫ 宮本委員
- アセットレベルでの評価について、現状は企業全体ではパスウェイ整合でなく、整合に向けた取り組みの途上であるが、アセットレベルで脱炭素に向けて努力している取組をトランジション・ファイナンスの対象として含みたいという趣旨である。パリ協定に整合しない企業をパーツだけ取り出して評価することに関する懸念はご指摘の通りであり、要領も順次改善していく必要があるが、基本的には企業全体としてパリ協定に向かっていく努力をしている中での評価、という大前提の下で考えている。
- 補足だが、超長期の企業取り組みを評価するという形であり、最終的に排出削減が予定通りに進まないこともあるだろう。そうならないよう、なるべく具体的なプロジェクトや資金計画を評価する仕組みにしているが、限界もある。最終的に達成できない場合は、金融機関側の責任として GHG ポートフォリオに再度計上し、別の手段でパリ協定に向かっていくという設計にしている。
⚫ 日本生命の「トランジション・ファイナンス実践要領」は非常に良い取組だと感じている。「電力会社のグリーンボンドはグリーンなのか」という古くて新しい問いに通じる部分があると思う。企業の取組としては石炭を使わざるを得ず、企業全体として 1.5℃整合が難しい場合もあると思うが、アセットレベルでパリ協定に整合している取組は後押しされるべきである。GX の技術も同じことが言えると考える。
⚫ トランジションのラベルを用いずとも、移行の取り組みはGSS の枠組みでカバーできるようになるなど、この領域にもグリーンが拡張してきた中で、日本生命のような機関投資家がトランジション・ファイナンスの旗を立てることは非常に意味がある。それだけに、ラベル付きのファイナンスとして信頼性を担保できる基準とすることが重要である。パリ協定整合のパスウェイとしてどこまでのシナリオが認められるのか、またロックインの回避ついてどう評価されているか、ご教示いただきたい。
⚫ 宮本委員
- 検討したシナリオは2つである。電力セクターを例に挙げると、IEAの1.5℃に該当するネットゼロシナリオ(NZE)と、WB2℃に該当するであろう Announced Pledges Scenario (APS)である。ただ、APS でよいというのではなく、1.5℃という目標を見定めた中で過渡的には APS に沿っている取組も認めようという方針で実践要領を策定している。
- ロックインについては資料 3 の p.7 右下の図が示す考え方で対応している認識である。P.7 のグラフでは、全体の積分値として排出量を捉えるという考えであり、パリ協定に沿う経路の累積排出量に対して、企業が 2050 年までに累積で排出する量が同等または下回っていれば、地球に与える影響は同じであるので認めても問題ないと考える。パスウェイに整合する時期が遅れれば遅れるほど、後半に遅れ分を削減しなければいけないので、安易なロックインが自動的に排除される考え方であると捉えている。
- SMBC グループで「Transition Finance Playbook」を公表している。昨年度、電力、石油・ガスセクターにフォーカスした初版を公表し、今年は鉄鋼、自動車セクターを追加した PlaybookVer2.0 として更新した。また、資金使途不特定型にもファイナンスをするよう、フローチャートなど含めて記載している。
- この 1 年間、グローバルで 100 ほどの顧客と案件について議論をしたが、そのうち 21 件ほどがトランジションのラベルを使うことになり、議論が深まっているという感覚を持っている。
議事(3)基本指針の改訂について討議 ※非公表
議事(3)トランジション・ファイナンスの更なる普及に関する動向について討議
⚫ 事務局より資料3について説明。
⚫ 1 つ目の国内の更なる普及は非常に重要だと思うが、フレームワークが濫立するとそれはそれで訳が分からなくなる。フレームワークはできるだけ1つに集約し、その解釈も1,2個程度としつつ、あとは各企業を判断していく形が望ましい。現在は過渡期と認識しており、国際的なトランジションの統合がここ1,2 年の次の動きになると思うが、基軸となるもので評価していくべきと考えている。
⚫ 3つ目についてエクイティ性の商品を導入していくという趣旨は賛成だが、ものによってデット性のものとエクイティ性のどちらが適しているか異なる。トランジションに資するものでも、技術開発系とイネーブラー等とでは異なり、後者はエクイティにあまりなじまず、やはり前者の技術開発系になじむのではないか。ものによって変えていくような思想が必要と考えている。CB は株のオプション価値を用いているのが本質と理解しており、(受託者責任の観点では ESG や責任投資が儲からないと言われることがあるが)CBはクーポンを下げるという意味でその論調を助長することになりうる。テクニカルにCBを使うよりも、純粋に、トランジション・ファイナンスの目的に従ってエクイティとデットを使い分ける方が良いのではないか。
⚫ 12 ページ、個別事業者のトランジション・戦略やその科学的根拠を問うことは、リソースの観点等で難しい。そこで、地域主体が策定した地域全体の戦略の中で個別事業者の取組の位置づけを示し、プロジェクト実行主体として適切かどうか、個別事業者と個々の資金供給者が対話をしてトランジション・ファイナンスのラベリングをしていくことが良いのではないか。
⚫ 12 ページについて、このスキームはトランジション・ファイナンスとして実施する際にいくつか課題がある。
1つの例で、個別事業者が資金調達をする場合、個別事業者の総体としてのトランジションがうまくいかなかった場合のリスクを誰が取るのか、という観点も重要である。ただネガティブな意味ではなく、地域の移行をどうするかは別の意味でも重要と考えている。最初からトランジション・ファイナンスとしてのラベリングをせずに、こうしたケースでどのような課題があるか一種の思考ケースとして進めていただき、また議論の遡上に乗せてほしい。
⚫ 2 点目の国外普及について、アジアトランジションも 2022 年頃から経産省が国内で進めてきた普及や市場形成、理解醸成、国外投資家の呼び込みといった取組をアジアでやり直すような形になるのでは。具体的には、アジアのトランジション・パスウェイや ASEAN タクソノミーで示されるようなアジアとしてのトランジションの捉え方がどのようなものであり、それらが実効性を持つかという紹介を、アジアの発行体に代わり日本企業が代行して実施するような形になるのではないか。また ASEAN諸国で 1.5℃にコミットしている国はなく、政策を上回る目標を個別企業に課すかどうかはポイントになるだろう。
⚫ 元々サムライボンドマーケットは銘柄が限られ、トランジションのラベルが付いたから購入されるというわけでもない。東南アジアのボンドについては、アジアの政府や国営企業、地場大企業くらいなら良いかもしれないが、それ以外の債券については信用をサポートする仕組みとセットで考える必要があると思われ、本気で進めるのであれば、JBIC や MEXI、ADB 等で信用力を補完する仕組みが必要。ファーストステップとしてボンドやローンのマーケットでそもそもどのようなリスクをとれるのかの分析が必要ではないか。
⚫ 1つ目のフレームワークの話は、戦略がポイントとすると、戦略を個別で出せない人をどうするか、ということがポイントと認識している。例では事実上京都府がフレームワークを設けており、それは評価する側が理解していれば良いことになる。ただ、フレームワークを拡大解釈して質の低い案件が出てくる事例もあるため、有効性の評価は重要である。
⚫ 3 点目、エクイティで資金を入れることは大賛成である。ただ、CB を出させたい人にとっては良いが、それで脱炭素が進むか、脱炭素が進むことを担保できるか、というテクニカルな議論はある。
⚫ トランジションの果実として、エクイティストーリー、企業成長というナラティブは非常に良くなじむと思うが、現実として CB の投資家はボラティリティトレーディングやアービトラージを目的とする海外投資家が多く、安いか高いかで判断する人が多い。商品としてはトランジション・ファイナンスに合うが、投資家層がトランジション・ファイナンスの市場発展に貢献するかが疑問。真に脱炭素に資する案件に仕立てるためには、課題を整理した上で、商品設計などの工夫によって解決できるのか検討する必要がある。
議事(4)閉会
―― 了 ――
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