アクセスFSA 第195号

title


Contents  

宮下 一郎 内閣府副大臣(金融担当) ロングインタビュー

 第4次安倍・第2次改造内閣発足に伴い、9月13日にご就任された宮下一郎 副大臣に、意気込みや金融行政へのお考え等についてお聞きしました。

インタビューの概要
  • 日本経済のエンジンである金融をしっかり前に進める
  • 事業承継など地域金融機関の役割は重要
  • 「つみたてNISA」で長期・分散投資を
  • 趣味は写真と手品
  • 今は激動の時代。歴史に名を残すチャンス  

写真
宮下 一郎 内閣府副大臣 (金融担当)
 昭和33年8月生まれ。平成3年、防衛庁長官だった父 宮下創平氏の秘書官に。平成15年11月に初当選後、財務副大臣、衆議院財務金融委員長等を歴任。座右の銘は「誠実」「着眼大局 着手小局」

――― 9月13日、副大臣にご就任されましたが、今の率直なお気持ちを教えて下さい。

 まず、今般の台風19号や台風15号などにより被災された皆様、豚コレラの発生により被害を受けられた事業者の皆様に対して、心よりお見舞いを申し上げます。とりわけ台風19号の被害は極めて広範囲に及んでおり、いまだ多数の方が避難生活を続けていらっしゃいます。引き続き、被災状況の実態把握を進め、被災者へのきめ細かな支援対応を行ってまいります。

 今般、内閣府副大臣を拝命しまして、広い担務のご指示をいただきました。金融担当の副大臣として、また西村康稔大臣をお支えする担務としては経済再生や全世代型社会保障改革、TPPの国内対策等々、様々な分野を担当させていただくことになり、その範囲の広さを改めて実感しています。それぞれの課題について、内閣・政府として果たすべき役割が大きいと感じています。

 私はこれまで、8年半の銀行員生活、12年間の秘書や秘書官としての生活を経て議員になりましたが、父の宮下創平は、政治活動の後半は自民党税制調査会での活動に力を入れていました。私も財政、税制そして金融をずっと勉強してきました。初当選は平成15年ですが、最初に希望して配属してもらったのは財務金融委員会で、選挙後初の国会で、当時の谷垣財務大臣に質問させてもらったのが思い出深いです。

 その後、政府においては財務大臣政務官や財務副大臣を、国会では財務金融委員長をさせていただき、党においても財務金融部会等で活動したり、金融調査会の企業会計小委員会の小委員長も務めさせていただきました。議員連盟の活動としては、証券市場育成等議員連盟の事務局長ということで、岸田文雄会長を支え、証券業界の皆様とも常にコミュニケーションを取りながら、勉強を続けてきました。

 それだけに、今回金融庁を担当する副大臣に任命をいただいたというのは、非常にありがたいと思いますし、これまで学んだことを踏まえて、皆様のお力をお借りしながら、日本経済のエンジンである金融をしっかり前に進めるために頑張っていきたいと思っています。


――― 地方創生は政府全体としても現在大きな課題となっていますが、地域の活性化を進めていくために、どのような政策が必要とお考えでしょうか。

 私は、党では経済産業部会長をさせていただいたり、中小企業・小規模事業者政策調査会等の役職を通じて、地域の経済を実際に担う企業の皆さんの応援をする活動もしてまいりました。その中で、事業承継税制の拡充により、未上場企業や個人事業主の皆さんの事業承継を税制面で支える新たな仕組みづくりに努力しました。

 事業承継は、地域の企業にとっては大きな課題になっています。人の面でのマッチングや、M&Aを通じた事業継続などいろんな形がありますが、地域金融機関の皆さんがアドバイザー、サポーターとして関わっていただくのは、大変重要なことだと思います。また、事業承継を契機に新たな事業や経営革新に取り組むという事例はたくさんありますので、それを支えていただくことも、地域金融機関の皆さんに期待される役割です。

 私の地元の長野県でも、信用金庫、信用組合、地方銀行、政府系金融機関、信用保証協会などが、企業に寄り添う形で支援をしてくださっており、連携はかなりうまくいっているのではないかと思います。


――― 国民の皆さんの資産形成がスムーズに進むことも重要かと思います。今後どのような金融行政の舵取りが必要とお考えでしょうか。

 足下の低金利時代においては、経済全体が成長しても、そのメリットがなかなか国民の皆さんに返ってきにくい、実感しにくい時代になってきていると感じます。もちろんGPIFの運用等を通じて、経済の発展は年金財政のプラスにもなっていますし、経済成長は税収増加や社会資本充実にもつながっていますが、資産形成の面では、これまで以上に経済発展の果実を個人の皆さんにも享受していただく仕組みを整えていくことが大事です。

 そのひとつの形は「つみたてNISA」だと思います。NISAは、一般NISA、ジュニアNISAも含めて、個人の皆さんの資産形成を応援する仕組みですが、特に長期にわたって分散投資をするという形がこれから重要ではないかと思います。

 もうひとつは確定拠出年金の運用のあり方として、できるだけ安定したリターンが得られる商品を金融業界に提供いただき、それで長期・分散で年金を運用していくということが必要だと思います。

 証券市場育成等議員連盟では、海外の資本市場、資産形成のあり方を日本と比較する勉強をしました。アメリカやオーストラリアでは、多くの年金資産が投資信託等を通じて資本市場を支え、そしてその成長が個人にリターンとして返ってくるという仕組みがうまくワークしていますが、残念ながら、日本はそこのルートがまだまだ脆弱であるというふうに思っています。

 ここを厚くするためには、金融教育や就職したときのガイダンスを通じて、そうした運用先についてきちんとした情報を提供して、長期・分散運用のメリットをご理解いただくことが重要です。同時に、政府が「つみたてNISA」のような仕組み等で資産形成を応援していることを多くの皆さんに分かっていただいた上で、この仕組みをご活用いただくことも、とても大事なことだと思います。
 
写真
(写真:インタビューの様子)


――― 金融サービスの提供の仕方にあらたな情報技術が入ってくる、いわゆるフィンテックについてこれからの展望などお考えをお聞かせ下さい。

 フィンテックにより個人や企業のニーズに合った新しいサービスが提供されるようになるということは、経済活性化や利便性向上に大きな意味があると考えています。

 一方で、資産を守るために、これまで金融機関において膨大なシステム投資があったという土台があることは忘れてはならないと思います。信頼性を確保しながら利便性向上のための仕組みをどう作っていくのか、コスト負担をどうするのかを含めて、しっかり議論をしなくては、持続可能なものとはならないと思います。

 暗号資産の流出事件もあり、サイバーセキュリティの観点からの配慮も必要ですので、安全性の確保と利便性の確保をどうするのか考えることが必要です。また同時に、FATFやマネロンへの対策をどう行っていくかという観点も重要です。

 社会全体をデジタル社会にするのは今後のあるべき方向だと思います。その際、どうセキュリティを確保するのか、マイナンバーの活用も含めてデジタル技術によって個人の利便性をどのように高めていくのかが重要です。安全性を確保しながら利便性も向上させていく、そういう大きな転換をしていく時期に来ています。それをどのように行政として支えていくのか考えなければと思っています。


――― 副大臣が国会議員・政治家になろうと思われたきっかけと、議員活動を通じて目指されるものを教えてください。

 平成3年11月に父が防衛庁長官となり、銀行を辞めて父を補佐するために政治の世界に飛び込みました。以来、12年間父を支え、世の中が大きく変わる、変わらざるを得ないとき、政治の果たすべき役割は非常に大きいと感じ、人生をかけてやるに値する仕事だと感じました。そこで、父が引退する平成15年に出馬を決意しました。

 今の日本は歴史上はじめて急速に人口が減り始めている、歴史上の大転換期であり、一方で人生100年時代と言われる長寿社会にもなっています。そこで、我が国の歴史・文化・技術・国土等、多くの素晴らしいものを受け継ぎ、持続可能なものにしていくためには、逆に大きく変わらなければならない時だと思います。働き方も暮らし方も変えていかなければならないということで、一億総活躍社会、女性活躍社会を実現し、元気な高齢者の方には支える側に回ってもらうということも必要です。AIやロボット等のテクノロジーを活用してSociety5.0、デジタル社会を実現して、少人数でも、より便利な世の中にしていくという転換を図らなければなりません。その上で、どうしても足らざる部分については、外国人の皆さんにもサポートしてもらうということも必要でしょう。このように世の中の仕組みを大きく変えていくことが必要な時期です。

 また、人口について見てみると、江戸時代までは人口が3千数百万人だったのが、明治初期からの140年ほどで、1億2800万人まで急速に増加しました。この急激な人口増加とともに起こったのが東京一極集中です。一貫して、東京とその周辺に全国から人が集まるという構図があって、それは今でも続いています。この流れを転換し、地域でいろいろな発展の花を開かせて、若い方の活躍する場を増やして、全国各地がそれぞれの特色を生かした発展をするような国造りをしていかなければいけないと思います。もうひとつ人口減少を乗り越える施策としては、いわゆる「関係人口」「交流人口」を増やしていくことが重要です。地方と地方、都市と地方、いろんな人が行き来する中で、お互いの地域を盛り上げていく、知恵を出し合っていく。そうしたことが、この日本全体を活性化させていきます。

 さらに、インバウンド観光に本腰を入れることも必要だと思います。訪日外国人は去年は3千万人ですが、来年はオリンピック、パラリンピックを契機として4千万人、2030年には6千万人を目指す計画です。これには、受け入れるためのインフラである宿泊施設、食事や体験の場所の確保や、外国人向けのインフォメーションの多言語化も必要になります。多くの皆さんに来ていただくとすれば、既存の観光地だけでは不可能なので、今まで外国の方が来ていない地方にこそ、人の流れを作っていくことが必要です。地方へのアクセスの確保をはじめ、やることがたくさんあります。私の地元では、三遠南信自動車道という、長野県・愛知県・静岡県をつなぐ道路を建設しています。さらに、リニア新幹線の開通を目指すなど、交通インフラの整備を頑張っています。加えて、今回の台風災害を含めた自然災害に対応するためにも、更なる国土強靭化を図っていかなければいけないと思います。

 この大きな転換期にあって、日本全体がバランスよく、人口減少の中でも元気に発展するには、まさに総力戦でやっていかなければいけません。逆に言えば、今頑張れば将来につながり、花が開きます。今は種を蒔く時期だとも言えると思います。これほどやりがいのある時期に、政治家として議席をいただいているのは、大変ありがたいことだと思っています。皆さんとともに元気な日本、世界の発展に貢献できる日本を作っていきたいと思います。
写真
(写真:インタビューの様子)


――― 日々の激務のなか、オンとオフの切り替えや休日のリフレッシュはどのようにされていますか。

 まとまったオフが取れないのですが、特に地元では四季折々の風景も花もありますし、それらを写真におさめるというのが楽しみになっています。時間があるときは家内の運転であちこち行って、家内はスマホで、私はミラーレスカメラで撮って歩くことが多いですね。

 また、手品を3歳頃から始めてずっと趣味でやっているのですが、最近では敬老会とか結婚式とかで依頼を受ければ披露したりしています。また地元の飯島町にマジッククラブがあり、発表会が時々あるので、そんなときは「ミスターM」と称して舞台に立ったりしています(笑)。
写真
写真
 左:上伊那郡中川村 渡場 右:上伊那郡箕輪町 もみじ湖
撮影(左右とも):宮下副大臣


――― 最後に、国民の皆さんや金融機関の職員の皆さんにメッセージをお願いします。

 今は時代の大きな転換期です。これはビジネスの社会で言えば大きなビジネスチャンスですし、いろんな面でとてもやりがいのある時代であると思います。ぜひ、それぞれのお立場で力を発揮していただいて、地域を、日本を、あるいは世界を良くする方向に、新しいことにチャレンジしていただきたいなと思います。

 「やってみよう」、「ありがとう」、「なんとかなる」、「ありのままに」、こういう4つの心持ちを持っている人が幸せを感じると、幸福について研究されている慶應義塾大学の前野隆司先生が仰っていますが、「なんとかなる」、「やってみよう」という心持ちで、自分を大切に、周りの皆さんに感謝をしながら力を合わせて取り組めば、みんなが幸せを感じながら、新しいことにチャレンジできると思います。

 「自分がもし、明治維新の前後に生まれていれば、あの幕末の志士のように活躍し、歴史に名が残ったかもしれない。戦後の焼け野原に生まれていれば、松下幸之助や本田宗一郎のように名を残す活躍ができたかもしれない」と思っている人がいらっしゃれば、その方に、「その激動の時代はまさに今なのです」と、ぜひ言いたい。今、新しい世の中作りに汗をかけば、それは必ず将来に花開くし、まさに歴史に名を残すチャンスが広がっています。今がチャンス。そういう新しい取組みをみんなで応援する。地域の金融機関の皆さんにもそういった思いを持った人を応援してくださるとありがたいなと思います。

 
 (インタビュアー:広報室長 和田 良隆)
  
 

家計の安定的な資産形成
~つみたてNISAを通じた長期・積立・分散投資のススメ~

総合政策局総合政策課 総合政策監理官 三浦 知宏

 (※本稿において意見に係る部分は筆者の個人的見解であり、所属組織の見解を示すものではありません。)

 毎年10月4日は投資の日。今年も昨年に引き続き、日経CNBC「マーケット・レーダー」に三浦知宏 金融庁総合政策監理官が出演し、「資産形成を支援する環境整備」と題し、家計の安定的な資産形成に向けた金融庁の施策として、つみたてNISAの整備・普及に関する取組みや、NISAに関する令和2年度税制改正要望のポイントについて解説しました。
 聞き手は日経CNBC経済解説副委員長の直居敦さんに務めていただき、対談形式で進められました。概要について以下のとおり紹介します。
 
 

(直居さん)
 三浦さんは昨年10月4日の「投資の日」以来、2回目のご出演となります。資産形成を支援する環境整備ということで、この点について、最近の環境の変化など、気になっているポイントはありますか?

(三浦)
 一部メディアでも取り上げられていたように、資産形成を「我が事」として捉える方が、特に若い方々を中心に増えてきているのではないか、と感じています。こちらのグラフにある通り(表1)、投資未経験者であっても、世帯年収にかかわらず、資産形成のための投資の必要性を感じている方の割合は30~40%台と高いです。しかし、投資の必要性は感じていても「まとまったお金がない」「十分な知識・経験がない」などの理由で、二の足を踏んでしまっている方も多いです。金融庁としては、こうした方々が少額からの長期・積立・分散投資を始め、それぞれ適切なポートフォリオを構築していくことを応援していきたいと思っています。
 
(表1)

(直居さん)
 資産形成の第一歩としては、まず長期・積立・分散投資が基本になるということでしょうか?

(三浦)
 投資手法はいろいろありますが、特に投資未経験者や慣れていない方々に対して、リスクを抑えながら効率的に投資ができる、少額からの長期・積立・分散投資をお勧めしたいです。長期・積立・分散投資のシミュレーションとして、代表的な指数に過去20年間毎月1万円ずつ積立投資した場合、リーマンショックを経て落ち込んだ時期はありますが、どの指数に投資しても、良好なパフォーマンスとなっています(表2)。こうした長期・積立・分散投資にフィットした制度が「つみたてNISA」であり、投資家の皆様には有効活用してほしいと思います。
 
(表2)

(直居さん)
 日経平均は相対的に良くなかったのですが、積立投資をすれば、米国の次くらいにあるというところが面白いところですね。さて、2018年1月から始まった「つみたてNISA」、実際の口座数などはどうなっていますか?

(三浦)
 本年6月末時点の数字では147万口座、買付額は1,781億円と、順調に伸びています。世代別でみると、一般NISAが50代以上のシニアな層を中心に利用されているのに対し、つみたてNISAは20~40代の比較的若い方々を中心に利用されています。これは、まだまとまったお金を持っている方が少ない若い方々にとって、つみたてNISAが使いやすいということではないかと思います。
 ちなみに、本年3月末時点と6月末時点の比較でも、20代の増加率が18.8%増と、世代別では最も大きくなっています。他方、60代以上の伸びも12.3%と決して低い訳ではなく、シニアな方々にも利用が広がりつつあることも、とても心強いですね。

(直居さん)
 ということで、50代の私も2018年からつみたてNISAを始めているわけです。一方、相場自体は上下し、難しい状況だなと思っているのですが、つみたてNISAの口座は伸びています。この背景についてどう考えていますか?

(三浦)
 口座数の増加には様々な理由があると思いますが、やはり資産形成に関心を持っていただく方が増えているのではないでしょうか。金融庁も様々なイベントや動画の作成等を通じた広報活動を行っています。その際には、「つみたてワニーサ」のぬいぐるみやクリアファイルといったグッズも活用しています。

(直居さん)
 (スタジオでは)つみたてワニーサも控えめに主張していますが、こちらのキャラクターも大分お馴染みになってきました。
 つみたてNISAの口座数は伸びてきているとはいえ、NISAは時限措置となっています。税制改正要望の時期でもありますが、行政として課題について、どのように見ていますか?

(三浦)
 資産形成は生涯にわたって行っていくものであることを踏まえると、現在時限措置となっているNISA制度を、将来的には、英国のISAと同様に恒久化し、制度の安定性を確保したいところです。特に「つみたてNISA」については、2018年から開始した人は40万円×20年間で800万円の投資ができますが、来年(2020年)から投資をする場合には、(40万円×18年間で)720万円が限度となります。したがって、特につみたてNISAについては、投資の開始時期にかかわらず20年間の積立期間が確保されるよう、制度期限の延長をしっかりと要望していきたいと思います(表3)。
 
(表3)

 その他「つみたてNISA奨励金の非課税措置」を要望しています。これは、企業の従業員がつみたてNISAを行う際、福利厚生の一環として、毎月1,000円など、少額の奨励金を出しているところがあります。少額でも奨励金を出してあげると、単に給与天引きを行う場合に比べ、従業員にとってつみたてNISAを利用する大きなインセンティブとなるといった調査もあります。奨励金には従業員の積立投資への背中を押す効果がある一方、これは給与所得として課税されます。したがって、その部分につき、非課税にして頂きたいというものです(表4)。
 
(表4)

(直居さん)
 特に中小企業の場合、従業員を支援したくても、負担も気になるというところでしょうから、少額でもインセンティブになると、動きが変わってくるかもしれないですね。そんな動きも今年の税制改正要望に入っているということです。
 資産形成に関しては、まだまだ伺いたいことはありますが…本日は三浦さんありがとうございました。

 

「インサイダー取引規制に関するQ&A」の改訂

企画市場局市場課市場機能強化室  課長補佐 森岡 和宏
課長補佐 定森 俊昌 

(※本稿において意見に係る部分は筆者の個人的見解であり、所属組織の見解を示すものではありません。)

 金融庁及び証券取引等監視委員会では、本年7月29日、「インサイダー取引規制に関するQ&A」※(以下「Q&A」)の改訂を公表しました。本稿では、この改訂の背景及びその概要等について紹介します。

改訂の背景
 一般に、上場会社において、会社の重要事実を知る特別な立場にある役職員等が、その公表前に当該会社の株取引等を行うことをインサイダー取引といいます。こうした取引が横行すると、重要事実を知らない一般投資家は著しく不利になり、証券市場の公正性・信頼性が損なわれます。証券市場が十分に機能を発揮するためには、このような不公正な取引の抑止を図る必要があるため、インサイダー取引規制が設けられています。
 本来、投資信託やETFを含む株式投資等は、安定的な資産形成の観点から有効に活用されるべきものです。しかし、一方では、投資に関する近年のアンケートにおいて、企業の役職員で投資を経験したことのない人の割合は決して少なくないほか、インサイダー取引規制が正確に知られていないことや社内規則の定め方により、問題ない取引まで抑制されているのではないかとの指摘もありました。日本取引所自主規制法人等による上場会社の社内規則に係るアンケート調査等においても、そのような課題が確認できたことから、Q&Aの抜本的な見直しを検討することとしました。
 アンケート調査では、取引類型や取引主体の役職等に応じて、インサイダー取引の未然防止に必要な社内手続きを定めている会社がある反面、特に問題のない株取引(重要事実を知らない非取引先の株等)も含め、一律に許可制等にしている会社もありました。(図1、2参照)



 また、当庁が実施した上場企業役職員の方へのヒアリング等においても、次のような声が聞かれました。
  • インサイダー取引規制は、初心者にはわかりにくい部分もあるので、わかりやすい解説をしてもらいたい。
  • 社内規則の見直しを検討する際、他社の状況がわかる資料や、ひな型があるとありがたい。
  • 役職員が投資をせず、金融リテラシー向上の機会が乏しい。
  • 何となく「株取引は良くない」という意識があるので、健全な投資は良いことだというメッセージを当局から出してもらいたい。
 企業の役職員が投資を控える要因としては、株取引等を必要以上に制限する内容となっている社内規則や、株取引等に関する法令や社内規則が正確に知られていないこと等が考えられます。
 以上のような背景を踏まえ、今回のQ&Aの改訂では、インサイダー取引に該当しない取引を、投資経験・知識の少ない方にもわかりやすく解説し、規制の正確な理解や社内規則の再点検等を促すこととしました。

改訂の概要
 今回の改訂では、「はじめに」において、問題のない株取引等を抑制する必要はない旨のメッセージを明確に打ち出すとともに、問題ない取引等をわかりやすく解説した「基礎編」(全7問)を追加しています(従来のQ&A(全5問)については、主に法令解釈の指針等を示すものとして「応用編」と位置付けました。)。
 具体的には、重要事実を知り得る立場にある上場会社役職員であっても、①実際に重要事実を知らずに行う株取引や、②重要事実公表後に行う株取引、③ETFや一般に販売されている大半の投資信託(J-REIT等を除く)の取引であれば、インサイダー取引規制との関係で問題はない旨を明確に記載しました。
 また、上場企業において社内規則の再点検を行っていただく場合には、例えば、
  • 自社株や取引先株については、制限を設けるとしても、重要事実を入手する機会が多い役員等と、一般職員を区別し、後者は前者と比べてより緩やかにする
  • 自社で重要事実を管理していないと考えられる非取引先株や、インサイダー取引規制の対象となっていないETFや大半の投資信託については、特段の制限を設けない
といった点について検討を行っていただくことが有用と考えますが、Q&Aでは、その際に参考となる情報を紹介しています。
 さらに、資産形成を考えるきっかけとして、金融庁における職員の投資に関するルールや、NISA等の資産形成支援の取組みも紹介しています。

周知普及に向けた取組み
 企業において、役職員の金融リテラシー向上や株式投資等を通じた資産形成促進を図るためには、社内における啓発活動(図3参照)や社内規則の再点検を積極的に実施していただくことが有用と考えられます。こうした企業の取組みを進めていくためには、企業経営層のご理解とリーダーシップが重要となるほか、あわせて、社内規則に係る担当部署のご理解も重要となります。そのため、金融庁では、経済団体等を通じ、企業経営層及び担当部署の双方に対して、今回のQ&A改訂の趣旨を説明するなど、積極的な働きかけを行っていきたいと考えています。

 


「よい仕事おこしフェア」に長官出席、「第3回 ちいきん会 in 福島」開催決定

■ 2019 「よい仕事おこしフェア」に金融庁が参加
 先日、東京国際フォーラムで開催された2019「よい仕事おこしフェア」では、遠藤金融庁長官が出席し、鏡開きを行いました。また、ちいきん会の展示ブースを設置し、これまでの模様を紹介するとともに、初の地方開催となる「第3回ちいきん会in福島」を広報しました。

写真


■第3回「ちいきん会 in 福島」が11月9日(土)に開催 決定
 福島の有志から地元を元気にしたいという熱意を受け、11月9日(土)に福島民報本社(福島駅徒歩5分)にて開催します。当日は、ゲスト講演、参加者プレゼンに加え、軽食をとりながら参加者全員と交流できる時間もあります。皆様のお越しをお待ちしております!

熱意ある公務員+金融マンを集めた「ちいきん会」
「ちいきん会」(「地域」と「金融」とがコラボするようにと願いを込めて命名)とは、熱意ある公務員と金融機関職員が、肩書きを外しても安心して建設的な議論を展開するミートアップの場です。ちいきん会事務局は、金融庁・地域課題解決支援チームなどの省庁やよんなな会の有志ほか、金融機関の有志で構成されています。
 


台風第19号等で被災された皆さまへ

  金融庁では台風第19号等の災害に対する迅速な復旧・復興に向け以下のとおり支援してまいります。

□ 台風第19号等金融庁相談ダイヤル
 金融庁では、台風第19号等による災害に関し、 「令和元年台風第15号及び第19号金融庁相談ダイヤル」を開設しましたので、金融機関とのお取引に関してやそのほかご心配なことがある場合など、お気軽にご相談ください。
  0120-156811(フリーダイヤル)【平日10時00分~17時00分】
  ※IP電話からは03-5251-6813におかけください。

□ 金融機関によるきめ細かな支援

 金融庁・財務局では、日本銀行との連名で、災害救助法が適用された1都13県(※)内の金融機関等に対し復旧復興に向け以下の事項などを要請しましたので、被災された方におかれましてはお取引先である金融機関・保険会社へご相談ください。

※  岩手県、宮城県、福島県、茨城県、栃木県、群馬県、埼玉県、東京都、神奈川県、千葉県、新潟県、山梨県、長野県、静岡県

・預金の払戻時の柔軟な取扱いをすること(通帳や印鑑がない場合に、可能な確認方法で本人確認を実施して払戻し)

・貸出金の返済猶予等の条件変更に対応すること

・生命保険金又は損害保険金の支払いについては、できる限り迅速に行うこと など


□ 住宅ローンなどをご利用されている被災された皆さまへ
 今般の災害で住宅ローンなどの返済にお困りの被災された皆さまのため、「自然災害による被災者の債務整理に関するガイドライン」により、住宅ローンなどの免除・減額といった支援がございますので、お取引先である金融機関へご相談いただき、ご活用ください。

□ 生命保険及び損害保険を契約されている被災された皆さまへ

 災害救助法が適用された地域で、家屋等の損壊・流失等により保険会社との保険契約に関する手掛かりを失ったお客様についての契約照会を各保険協会にて受け付けていますので、こちらもご活用ください。

 ・生命保険について
  生命保険協会 災害地域生保契約照会センター  0120-001731(フリーダイヤル)
   【受付時間】月~金曜日(除く祝日・年末年始)9:00~17:00

 ・ 損害保険について
  日本損害保険協会 自然災害等損保契約照会センター 0120-501331(フリーダイヤル)
  【受付時間】月~金曜日(除く祝日・年末年始)9:15~17:00

  外国損害保険協会 自然災害等損保契約照会センター 03-5425-7850
  【受付時間】月~金曜日(除く祝日・年末年始)9:00~17:00


□ 復旧・復興に向けた被災地への金融庁・財務局職員の派遣 
 現地の被害状況や被災された方のニーズを伺うため、 1都13県に対して順次職員派遣を行い、被災現場や地元金融機関・商工団体からニーズを直接確認の上、引き続き復旧・復興に向けて更なる支援をしてまいります。
 
上田市千曲川(上田電鉄別所線)   八十二銀行豊野支店
 

※ 金融庁ウェブサイトでは、被災者支援のための施策を取りまとめた特設サイトを開設しております。
 詳しくはこちら⇒https://www.fsa.go.jp/ordinary/typhoon201910/press.html


今月の金融庁の主な取組み(2019年10月1日~10月25日)


つみたてNISA対象商品届出一覧及び取扱金融機関一覧(10月1日)
スチュワードシップ・コードの受入れを表明した機関投資家のリスト(10月1日)
金融審議会「市場構造専門グループ」(第3回)を開催(10月2日)
「金融業界横断的なサイバーセキュリティ演習(Delta Wall4)」の実施(10月3日~11日)
偽造キャッシュカード等による被害発生等の状況(10月4日)
金融審議会「決済法制及び金融サービス仲介法制に関するワーキング・グループ」(第1回)を開催(10月4日)
外国人の受入れ・共生に関する金融関連施策(10月7日)
「令和元年台風第15号及び第19号金融庁相談ダイヤル」を開設(10月15日)
財務局が令和元年台風第19号に伴う災害に対し金融上の対応について要請(10月15日)
「令和元年台風第19号関連情報」特設ページを開設(10月16日)
「経済価値ベースのソルベンシー規制等に関する有識者会議」(第4回)を開催(10月18日)
「マネー・ローンダリング及びテロ資金供与対策の現状と課題」(2019年9月)(10月21日)
10月24日に「金融仲介の改善に向けた検討会議」(第20回)を開催(10月23日)
金融審議会「市場構造専門グループ」(第4回)を開催(10月23日)
10月23日に金融審議会「市場ワーキング・グループ」(第25回)を開催(10月24日)
金融審議会「決済法制及び金融サービス仲介法制に関するワーキング・グループ」(第2回)を開催(10月24日)
10月30日に金融審議会「決済法制及び金融サービス仲介法制に関するワーキング・グループ」(第3回)を開催(10月24日)
監査法人のローテーション制度に関する調査報告(第二次報告)(10月25日)

 


編集後記
アクセスFSA10月号をご覧いただきありがとうございます。今月は宮下副大臣にお話をお聞きしました。これまでの幅広いご経験や政策に対する思いを情熱的に語ってくださった姿が印象的でした。11月9日には、福島でちいきん会が開催されます。地域を盛り上げるため、たくさんの方にご参加いただければと思っております。

金融庁広報室長 和田良隆
編集・発行:金融庁広報室
 

サイトマップ

ページの先頭に戻る