【特集】

金融審議会金融分科会第二部会・
情報技術革新と金融制度に関するワーキンググループ
「電子登録債権法(仮称)の制定に向けて
~電子登録債権の管理機関のあり方を中心として~」

金融審議会金融分科会第二部会、及び情報技術革新と金融制度に関するワーキンググループ(以下「情報技術革新WG」)の合同会合は、平成18年12月21日PDF「電子登録債権法(仮称)の制定に向けて~電子登録債権の管理機関のあり方を中心として~」を公表しました。電子登録債権制度については、かねてから情報技術革新WGにおいて検討が行われていたところであり、平成17年7月6日にはPDF「金融システム面から見た電子債権法制に関する議論の整理(座長メモ)」が公表されています。さらに、平成18年に入り、法務省の法制審議会において、電子登録債権に関する私法上の問題点についての検討が具体化されたことも踏まえ、金融審議会合同会合においては、電子登録債権に関する決済の安全性の確保、利用者の保護といった諸問題について報告書をとりまとめました。本稿では、その概要について紹介します。

I.「電子登録債権法(仮称)の制定に向けて~電子登録債権の管理機関のあり方を中心として~」の概要

  • 1.電子登録債権の意義

    企業間信用の手段である手形については、かねてより事業者の資金調達の手段として利用されてきましたが、紙媒体を利用することに内在するリスクやコストの問題から、近年その利用が減少してきています。また、指名債権についても、二重譲渡のリスクや債権の存在確認等のコストの問題があり、事業者がその保有する売掛債権を用いて資金調達を行う際の制約要因となっています。

    経済社会のIT化が進展する中で、これらの問題を克服し、中小企業者を含む事業者の資金調達環境を整備するため、電子的な記録によって権利の発生等の効力を生じさせ、取引の安全や流動性を確保する新たな制度として、電子登録債権制度の制度を行うことが期待されています。

  • 2.電子登録債権制度と管理機関の果たすべき役割

    電子登録債権は、手形や指名債権に代わり、電子的手段による債権譲渡を通じた新たな資金調達の手段として、広く利用されることが期待されています。このためには、電子登録債権制度の信頼性を確保することが必要不可欠の課題であり、取引の安全性や流動性を確保する要請とともに、利用者の保護の要請に応えていくことが何より重要です。

    特に、管理機関は電子登録債権の権利の内容・帰属を定める登録原簿を管理し、業務規程等を通じて利用者の取引を規律する機関であり、いわば社会の公器として、公正性・中立性が確保され、国民から信頼される存在となる必要があります。

  • 3.電子登録債権の決済の安定性の確保

    • (1)同期的管理の必要性

      電子登録債権制度においては、管理機関に対する支払等登録(記録の抹消)の請求は、原則として債権者が行うこととされており、債務者は債権者が承諾しない限り記録の抹消の請求を行うことができません。このため、債務者が支払等を行ったとしても、債権者の対応如何では、債権が譲渡され、債務者に二重払いの危険が生じることとなります。

    • (2)管理記録による同期的管理

      債務者の二重払いの危険を防ぐために、債務者が支払等を行った場合、管理機関が、債権者による債権の登録を消すことの請求(抹消登録の請求)を待たず、職権により記録の抹消を行う仕組み(管理機関による同期的管理)を導入することが有効です。

    • (3)管理機関による同期的管理の方法

      管理機関が資金送金の事実を確認することにより同期的管理を行う場合、債務者の口座から債権者の口座への資金送金があった旨の連絡を、管理機関が金融機関から受け、記録を抹消する方法が考えられます。

  • 4.管理機関の業務の適正性の確保

    • (1)管理機関の公正性・中立性の確保

      電子登録債権の発生等の効力は、登録原簿の記録によって生じるものであり、その登録原簿を管理する管理機関については公正性・中立性が確保されることが極めて重要です。

    • (2)管理機関の破綻の回避

      管理機関が破綻した場合には、利用者に多大な影響を及ぼすだけでなく、わが国の経済社会にも大きな混乱を生じさせかねません。そのため、管理機関の破綻は極力回避する必要があるほか、万が一破綻しても利用者にできるだけ不便が生じないような仕組みを設ける必要があります。

    • (3)登録原簿の信頼性の確保

      登録原簿の記録に誤りがある場合には、譲受人が誤った記録を正しい記録であると誤信して電子登録債権を取得するおそれがあり、取引の安全を害することになりかねません。そのため、管理機関が管理する登録原簿の信頼性が確保されるような制度設計が行われる必要があります。

    • (4)管理機関の要件

      以上を踏まえ、管理機関には、次のような要件が必要と考えられます。

      • (ア)業務範囲

        公正性・中立性の確保や破綻リスクの回避のために、管理機関は専業とすることが適当と考えられます。

      • (イ)財産的基礎

        システム投資能力等の具備や安定的・継続的な管理機関の運営のため、一定の財産的基盤が必要です。

      • (ウ)業務遂行能力

        登録原簿の適切な管理ができるよう、一定の業務遂行能力を確保することが必要です。

    • (5)監督

      管理機関と類似した社債等振替機関を参考に、指定制等を設けることについて検討するほか、管理機関の経営状況を適格に把握しつつ、管理機関に対しする各種規制の実効性を確保するために、必要な検査・監督規定を整備する必要があります。

  • 5.利用者の保護

    • (1)消費者による利用

      利用者保護も重要な課題です。現在、消費者については、法制面での保護が図られているものの、そもそも紛争に巻き込まれること自体が不利益であることから、紛争の発生を未然に防止することが重要です。

    • (2)利用者の情報の保護

      管理機関は、利用者の情報が蓄積された電子登録債権の登録原簿の管理を行う者であることから、秘密保持、本人認証や情報セキュリティの確保のための対応を万全に行う義務を負うべきです。

    • (3)業務規程等の利用者への周知等

      電子登録債権の利用については、管理機関の定める業務規程等によって規律されることになるため、業務規程等の周知に向けて適切な措置を講じることが重要です。またITに関する知識・能力の水準が利用者により異なることをふまえ、利用者のIT環境への配慮が求められます。

  • 6.その他の課題

    • (1)金融商品取引法等との関係

      電子登録債権は、多様な利用方法が考えられる仕組みとなっており、金融商品として広く取引される可能性があることをふまえ、金融商品取引法の規制を適用することも検討する必要があります。

    • (2)電子登録債権のネッティング

      電子登録債権のネッティングに関しては、実務上の利点の確保、決済の安全性の確保や利用者保護の観点から、どのような対応が適切か、検討していく必要があります。

    • (3)標準化等

      管理機関の保有する電子データ交換の技術等の標準化に関しては、実務を踏まえた適切な対応が期待されます。

  • 7.おわりに

    電子登録債権の制度設計に際しては、信頼性を確保する視点だけでなく、将来の多様なビジネスニーズや情報技術革新等に柔軟に対応することによって、電子登録債権を利用した金融サービスの成長性を確保するという視点も重要になってきます。このような視点を踏まえた法整備によって、電子登録債権が広く利用され、電子登録債権制度が健全に発展することが期待されます。

II.今後の対応

今回の報告や法制審議会での議論を踏まえて、現在、法務省と共同で法制化作業を進めているところであり、本年の通常国会に関連の法案を提出してまいりたいと考えております。

※ 詳しくは、金融庁トップページの「審議会・研究会等」から、「金融審議会」内の「答申・報告書等」の、PDF「電子登録債権法(仮称)の制定に向けて~電子登録債権の管理機関のあり方を中心として~(金融審議会金融分科会第二部会・情報技術革新と金融制度に関するワーキンググループ)」にアクセスしてください。


【金融ここが聞きたい!】

  • このコーナーは、大臣の記者会見における質疑・応答(Q&A)などの中から、時々の旬な情報をセレクトしてお届けするものです。

    もっとたくさんご覧になりたい方は、是非、金融庁ホームページの「記者会見等」のコーナーにアクセスしてください。

〔平成18年の総括〕

Q:(平成18年最後の閣議後会見において)大臣就任後、今年を総括されて、どのように今年を評価されるかお聞かせください。

A: 初の入閣でありましたし、ひたすら一所懸命取り組んだという気持ちでございます。貸金業法が何と言っても成立しましたし、信託業法も成立しました。そして再チャレンジ施策も推進する目処が立ったと思います。その意味では、皆さんのご協力をいただきながら、ここまでやってこられました。大過なく進んできたことに対しまして、安堵感を持っております。

【平成18年12月26日(火)閣議後記者会見 抜粋】

〔多重債務者対策関係〕

Q:多重債務者対策について、受皿、相談窓口の設置というのは、どのようにお考えですか。

A: 債務整理と家計管理と二つの要素がカウンセリング体制には不可欠だろうと思います。加えて更に欲張って言えば心理カウンセラーも。三つも専門性がいるわけでありまして、それをどなたか一人にお願いするわけにはいきません。しかもそれぞれ多重債務者の皆さんは、全国に散らばっておられることを考えました時には、やはりそこには都道府県・市町村の強力な推進体制と、各団体のネットワーク作り、こういうものが不可欠だろうと思っております。

【平成18年12月26日(火)閣議後記者会見 抜粋】

〔証券取引所統合構想〕

Q:日本の六大証券取引所を将来的に統合する構想があるという記事が出ましたが、大臣のご所見をお聞かせください。

A: 報道があるということは存じあげておりますが、これについて直接の感想は持っておりません。ただ私から見て今後フリーハンドで考えさせていただくならば、それぞれの証券取引所がさらに交流を深めていくことは絶対に大事な話であろうと思っております。私のイメージでは、両国国技館を東京証券取引所とするならば、各地域にそれぞれの地域リーグがあって、そこの土俵で頑張っていただける。国内六証券取引所の統合構想というのが機能強化という意味であり、新しい時代に向けた直接金融のあり方について模索していただいて、事業会社と共にこれを支援したり、相互補完しあって相互に成長していただけるということであるならば、私にとりまして、これは望ましいことであると思っております。

【平成19年1月5日(金)閣議後記者会見 抜粋】

〔日銀の利上げ関係〕

Q:日銀が金融政策決定会合で追加利上げを決めるとの観測や一方で利上げに対する反発が強まっていますが、大臣のご所見をお聞かせください。

A: 景気についてそれぞれのお立場で懸念を抱かれているという向きは、私ども十分理解しております。特に参議院選挙を控えて地域的な斑模様の景気動向、いわゆる地域的勝ち組、負け組の存在することを前提として金融政策の在りようを考えた時に、色々懸念する材料はあると思います。しかし、マクロで考えた場合の金融政策は、一元的に日銀が専管事項として持っているわけでありまして、この日銀の決定に対して私どもは最大の尊重をする立場にあるわけです。

【平成19年1月16日(火)閣議後記者会見 抜粋】

Q:日銀が追加利上げを見送る決定をしました。今回の件は日銀の市場あるいは政府の対話という点で課題を残したとの指摘もありますが、大臣のご所見をお聞かせください。

A: 金融政策は日本銀行の専管事項であり、日本銀行が諸般の状況を勘案し責任を持って判断されたものと考えております。ただ、政府との関係でやや気になることは、「天変地異でも起きない限り1月利上げだ」ということが日銀からの去年のメッセージだとすると、ややそこには今後日銀の説明責任が少し残ったような感じがいたします。

【平成19年1月19日(金)閣議後記者会見 抜粋】

〔その他関係〕

Q:第一生命で医療保険の特約を巡る不払いが新たに発覚しましたが、これについての受け止めと今後の金融庁の対応をお聞かせください。

A: 保険会社と利用者保護というテーマは、常に我々が目指さなければならない、考えるべき最初のテーマであります。それが未だ徹底されていないということに対しては大変遺憾に思っております。今後、十分な第一生命の説明や改善の実績を示していただきたいと思っているところでございます。

【平成19年1月19日(金)閣議後記者会見 抜粋】

Q:関東甲信越の信用金庫のATMで10万円超の現金振込みが200~300件あったとの一部報道がありましたが、大臣のご所見をお聞かせください。

A: 一部の信用金庫におきまして10万円を超える現金振込みが可能となる事態が発生したとの報告がありましたが、詳細につきましては個別の金融機関に関することであるためコメントは差し控えさせていただきます。今後、事実関係について把握・精査した上で再発防止に万全を講じるよう対応してまいりたいと考えています。

【平成19年1月23日(火)閣議後記者会見 抜粋】


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