アクセスFSA 第65号(2008年4月)
【法令解説等】
金融商品取引業者向けの総合的な監督指針の一部改正について
金融庁では、金融機関等を監督する際の基本的考え方や着眼点等を「監督指針」としてまとめ、明らかにすることで、透明性の高い監督行政の遂行に努めています。金融商品取引業者等の監督についても、平成19年9月30日に施行された金融商品取引法に対応するため、同年8月に「金融商品取引業者等向けの総合的な監督指針」を策定し、これにより監督事務を遂行してきましたが、今回、この監督指針に、次の4点について、新たな着眼点、監督手法を追加しました。
1. 無登録業者への対応
昨今、金融商品取引業の登録をしていない業者が未公開株を一般投資家向けに販売し、被害が発生している事例が多発しています。また、詐欺的な投資スキームを利用し、一般投資家に被害が生じている事業型ファンド等の事例も発生しています。こうした状況を踏まえ、被害の未然防止・拡大防止の観点から、無登録業者等への対応に係る着眼点を追加しました。
今回の改正では、無登録で一般投資家向けに集団投資スキーム持分の「自己募集」又は「自己運用」を行う者への対応について、
(a)投資者からの情報提供を受けた際の対応
(b)積極的な情報収集
(c)密接な捜査当局との連携
(d)悪質な無登録業者への厳格な対応 等
を、より具体的に規定しています。これにより、財務局を含む監督当局としての、無登録業者への対応の統一化を図るほか、監督当局の考え方を示すことで登録の慫慂や問題業者を牽制する効果が得られるものと考えています。
2. 早期警戒制度
サブプライム・ローン問題や金融商品取引業者の破綻事例等を踏まえ、金融商品取引業者(第一種金融商品取引業を行う者)の財務の健全性に対するオフサイト・モニタリングの機能を強化する観点から、早期警戒制度を導入することとし、そのための監督上の着眼点を追加しました。早期警戒制度とは、早期是正措置の対象となる前の段階で、予め設定した財務上の基準に該当した金融機関に対してヒアリング等を行い、早め早めのリスク把握、経営改善を促していくものです。
具体的な早期警戒ラインは、自己資本規制比率の変動、有価証券の価格変動、為替変動の影響等のそれぞれの区分ごとに設けています。
これらは、基本的にはヒアリングのきっかけとしての一つの指標であり、基準への該当が、金融商品取引業者の財務の不健全性を示すものではなく、また、直ちに当局から経営改善を求めるということもありません。
3. 店頭デリバティブ取引業に係る業務の適切性の確保について
平成19年夏からの為替相場の変動を受け、複数の外国為替証拠金取引業者が破綻したことに伴い、金融庁では、昨年11月上旬に外為業者に対する一斉調査を行い、リスク管理の状況等についてヒアリングを行いました(調査結果の概要は19年12月7日に金融庁ウェブサイトで公表しています)。
この調査により、外為業者が顧客の注文をカバー取引(相場変動のリスクを解消するために行う反対売買)先へつなぐ場面において、取引の方法によっては顧客との取引とカバー取引とに時間差が生じ、その間の相場変動による損失を業者が被るおそれがあることが把握されたため、こうした方法を採用している業者のリスク管理に関する着眼点を監督指針に記しました。
また、最近の破綻事例では、顧客へ保証金の返還ができなかったケースのほとんどが、区分管理の方法を信託や銀行預金ではなくカバー取引相手方への預託によって行っていました。こうした方法をとる場合には、カバー取引に係る保証金と自己取引に係る保証金とを明確に区分して管理する必要がありますが、杜撰(ずさん)な管理は、先の破綻事例のような事態を招く可能性があるため、留意して監督を行う必要があります。
こうしたカバー取引先との取引の方法、区分管理の方法については、必ずしも法令上顧客に対して業者からの説明が義務付けられてはいませんが、顧客にとっては取引の相手方である金融商品取引業者のリスクを判断するために重要な情報です。そのため、業者が、顧客から求められた場合にはこうした点についても適切な説明を行っているかどうかを監督上の着眼点としました。
4. 証券化商品の追跡可能性(Traceability)の確保について
サブプライム・ローン問題の大きな要因のひとつとして、証券化の技術を使うことによって、広くリスクが分散し、リスクの所在がわからないという不確実性があったと言われています。
この点に関連して、昨年11月30日に公表した「金融市場戦略チーム」の第一次報告書や昨年12月21日に策定・公表した「金融・資本市場競争力強化プラン」の中で、「証券化商品の追跡可能性(Traceability)の改善」に関する提言がなされました。
こうした提言を具体化するため、監督指針に証券化商品の販売者(ディストリビューター)に対して説明態勢の整備を求める規定を新設しました。
具体的には、第一種金融商品取引業(有価証券関連業)及び第二種金融商品取引業(信託受益権販売業)の説明態勢に関する留意点として、業者による(a)販売に先立つリスク情報収集・リスク分析、(b)販売の際の的確な情報伝達、(c)販売後の情報伝達、(d)的確な時価情報の提示、に関する着眼点を規定しています。
現在、本監督指針改正を受け、日本証券業協会に設置された「証券化商品の販売に関するワーキング・グループ」が、情報伝達の自主ルール及び証券化商品に関する情報の統一フォーマット作りに向けた検討を開始しています。
今後、こうした取組みがあいまって、我が国証券化商品の追跡可能性(Traceability)の改善、ひいては我が国証券化市場の透明性・公正性の向上のために大きな前進がなされることを期待しています。
これらの改正については、パブリックコメントに付した上で、平成20年4月2日に改正監督指針を公表し、同日付で施行しました。
※ 詳しくは、金融庁ウェブサイトの「報道発表資料」から「金融商品取引業者向けの総合的な監督指針の一部改正について」(平成20年4月2日)にアクセスしてください。
各監督指針の一部改正について
金融庁では、以下の項目に係る各業態の監督指針の一部改正(案)について、平成19年12月18日から平成20年1月25日にかけて広く意見の募集を行い、先般3月26日にパブリックコメント結果を公表し、監督指針の改正を行いました。
改正の概要について、以下のとおり説明します。
○「反社会的勢力による被害の防止」に係る改正
近時、反社会的勢力の資金獲得活動が巧妙化しており、関係企業を使い通常の経済取引を装って巧みに取引関係を構築し、後々トラブルとなる事例も見られ、実際に金融機関と反社会的勢力との不適切な関係について問題となったケースもありました。
そのような状況のもと、平成19年6月、犯罪対策閣僚会議の下に設置された暴力団資金源等総合対策ワーキングチームにおける検討を経て、「企業が反社会的勢力による被害を防止するための指針について」(犯罪対策閣僚会議幹事会申合せ、政府指針)が策定され、犯罪対策閣僚会議に報告されました。
金融庁としては、政府指針を関係業界団体に対して周知するとともに、これまでも意見交換会等を通じて反社会的勢力との関係遮断について金融機関へ要請してきましたが、今般、監督上の着眼点を明確化するため、各業態の監督指針の改正を行いました。
具体的には、経営管理(ガバナンス)の項目において、取締役会は反社会的勢力による被害の防止を法令等遵守・リスク管理事項として内部統制システム等に位置付けているか、代表取締役は取締役会で決定された基本方針を行内外(社内外)へ宣言しているか、といった点を記載しました。
また、業務の適切性(法令等遵守)の項目においては、金融機関における反社会的勢力との関係遮断に向けた態勢整備の意義について記載するとともに、例えば、契約書等に暴力団排除条項の導入、不当要求の対応を総括する部署(反社会的勢力対応部署)の整備、反社会的勢力に関するデータベースの構築、外部専門機関との連携、組織としての対応、といった態勢整備にあたっての留意点等を記載しました。
なお、信託会社等に関する総合的な監督指針については、本改正に併せて、経営管理の評価に関する留意事項を新たに設けました。
今回の監督指針の改正を踏まえ、各金融機関等において反社会的勢力との関係遮断に向けた態勢の整備・強化を図ることで、反社会的勢力が金融取引等から排除されることが期待されます。
○その他の改正
「反社会的勢力による被害の防止」以外にも、以下のとおり改正を行っています。
1. 「法令適用事前確認手続(ノーアクションレター制度)」について
「行政機関による法令適用事前確認手続の導入について」の改正(平成19年6月22日閣議決定)を踏まえ、平成19年7月2日付で「金融庁における法令適用事前確認手続に関する細則」を改正しました。これらの改正を受けて、各監督指針のノーアクションレター記載部分につき所要の改正を行いました。
2. 「行政処分等を行う際の留意点等」について
行政処分に対する基本原則や、実際に処分を行う際の勘案要素について取りまとめ、平成19年3月に公表を行った「金融上の行政処分について」(平成19年3月1日公表)(資料「金融庁の監督手法について」4ページ目(表紙除く))の内容を各監督指針に盛り込むべく所要の改正を行いました。
3. 「与信取引に関する顧客への説明態勢」について
平成19年10月より、信用保証協会の保証付き融資について「責任共有制度」が導入されたことに伴い、与信取引に関する顧客への説明態勢の一層の整備を図るため、信用保証協会の保証付き融資に係る、顧客との契約時点等における留意点や、「責任共有制度」の導入を口実とした融資の謝絶といった不適切な対応を行っていないかについて、着眼点として明確化しました。
※ 詳しくは、金融庁ウェブサイトの「報道発表資料」又は「パブリックコメント」から「主要行等向けの総合的な監督指針、中小・地域金融機関向けの総合的な監督指針、信託会社等に関する総合的な監督指針、保険会社向けの総合的な監督指針、少額短期保険業者向けの監督指針、金融商品取引業者等向けの総合的な監督指針及び貸金業者向けの総合的な監督指針の一部改正について 」(平成20年3月26日)にアクセスしてください。
「外国監査法人等に関する内閣府令」の概要について
先の第166回国会において、「公認会計士法等の一部を改正する法律」が可決・成立しました(平成19年6月20日成立、同年6月27日公布)。
同法においては、外国の法令に準拠し、外国において、他人の求めに応じ報酬を得て、財務書類の監査又は証明をすることを業とする者は、金融商品取引法による開示規制の対象となる外国会社等の財務書類について監査証明業務に相当すると認められる業務を行うときは、あらかじめ金融庁に届け出なければならないこととされ(改正公認会計士法第34条の35第1項)、また、届出を行った外国監査法人等について、必要な指示、報告徴収、立入検査等の規定が整備されました(改正公認会計士法第34条の38、第49条の3の2)。
今般、同法の施行に伴い、外国監査法人等の届出制度の詳細を定めるため、『外国監査法人等に関する内閣府令』が新設されました。府令の主な内容は次のとおりです。
1. 訳文の添付
金融庁長官に提出する書類で特別の事情により日本語で記載することができないものがあるときは、日本語の訳文を付さなければならないこととし、他方で、当該書類のうち添付書類については、英語で記載されたものに限り、日本語の訳文の添付を要しないことを規定しています(第1条)。
2. 代理人
外国監査法人等の届出をしようとする者は、本邦内に住所を有する者であって、当初の届出に関する一切の行為につき、当該届出をしようとする者を代理する権限を有するもの(代理人)を定めなければならないことを規定しています(第3条)。
3. 届出書の記載事項
法34条の35第1項の規定による届出における届出書の記載事項として、以下のものを規定しています(第4条、様式第1号)。
(a)届出者が法人である場合は、設立年月及び当該法人の設立に当たって準拠した法令を制定した国の国名
(b)届出者が法人に属する個人である場合は、当該法人の名称及び主たる事務所の所在地
(c)届出者がその財務書類について監査証明業務に相当すると認められる業務を行うこととなる外国会社等の名称及び主たる事務所の所在地
4. 届出書の添付書類の記載事項
(1)法34条の35第1項の規定による届出における届出書の添付書類の記載事項として、以下のものを規定しています(第5条第1項)。
(a)定款及び登記事項証明書又はこれらに準ずるもの
(b)外国会社等財務書類について監査証明業務に相当すると認められる業務を執行する者のうちその事務を統括する者の氏名及び経歴
(c)届出者の主たる事務所の所在する国における監査制度の概要
(d)届出者が関係法令を遵守し、かつ、監査証明業務に相当すると認められる業務を適正に遂行する者であることが確認できるもの
(e)届出者の業務の状況に関する事項(業務の内容、業務の品質の管理の状況、業務上の提携の状況、事務所の概況に関する事項等を含む。)
(f)届出日から起算して過去5年間において、届出者が監査証明業務に相当すると認められる業務について、罰金以上の刑に相当する外国の法令による刑に処せられた場合又は行政機関等から行政処分その他これに準ずるものを受けた場合は、その旨及び当該刑又は当該処分その他これに準ずるものの内容
(g)届出者が、本邦内に住所を有する者に、法第34条の35第1項の規定による届出に関する一切の行為につき、当該届出者を代理する権限を付与したことを証する書面
(2)(1)の事項につき、届出者の主たる事務所の所在する国の法令により記載できない事項がある場合には、当該事項の記載に代えて、次の事項を記載することができるとしています(第5条第2項)。
(a)当該事項が届出者の主たる事務所の所在する国の法令により記載できない旨及びその根拠となる法令の内容
(b)(a)で記載された事項が真実かつ正確であることについての法律専門家の法律意見
(c)当該事項の記載について第三者の許可、同意又は承認を要する場合において、当該免許等が得られなかったことにより当該事項が記載できない場合にあっては、届出者が当該許可等を得るために講じた措置及び当該措置を講じてもなお当該許可等を得られなかった理由
5. 指示に対する是正が図られたと認める場合に公表する事項
金融庁長官の指示に従わない旨の公表がされた後、当該指示に係る事項につき是正が図られたと認める場合に公表される事項として、以下のものを規定しています(第7条)。
(a)指示に従わない旨が公表された日及び指示を受けた外国監査法人等の名称
(b)指示の内容
(c)指示に係る事項につき是正が図られたと認める旨及びその理由
6. 変更の届出及び廃業の届出
変更の届出及び廃業の届出について、その手続及び記載内容を規定しています(第6条、様式第2号、第8条、様式第3号)。
7. その他
(1)府令は、公認会計士法等の一部を改正する法律の施行の日(平成20年4月1日)と同日に施行されています(附則第1条)。
(2)経過措置として、施行日以後最初に開始する会計期間に係る外国会社等財務書類について監査証明業務に相当する業務を行うときは、届出書に添付すべき書類については、当該届出書の提出があった日以後6月を経過する日(当該日が監査報告書を提出すべき日以後の日である場合は、当該提出すべき日の前日)までに提出することができることを規定しています(附則第2条)。
(3)なお、府令において記載されていない事項についても、金融庁ウェブサイトにおいてFAQを公表することにより明確化を図っています。詳細は以下のウェブサイトアドレスにアクセスして下さい。
※ 詳しくは、金融庁ウェブサイトの「報道発表資料」または「パブリックコメント」から「外国監査法人等に関する内閣府令」等の公表について(平成20年3月14日)に、また、英語版「The FSA Publishes Frequently Asked Questions Regarding the Notification Requirements for Foreign Audit Firms, etc.」(2008年3月19日)にアクセスしてください。