アクセスFSA 第241号

title


Contents

データ利活用の高度化
-高粒度データを活用した分析事例とデータ収集・整備の取組-

総合政策局リスク分析総括課 マクロ・データ分析監理官室

課長補佐 伊藤 仁美

係長   城戸 寛也

1.はじめに

行政におけるデータの活用は、近年ますます重要となっています。金融庁においても、2023年8月公表の令和5事務年度「金融行政方針」に記載のとおり、金融行政の高度化の一環として、データを活用した多面的な実態把握に取り組んでいます。中でも、法人貸出明細等の高粒度データの定期収集が段階的に開始されるところ、今後の政策立案やモニタリングへの活用を見据え、高粒度データを活用した分析に試行的に取り組んでおり、本年6月には、いくつかの分析事例を「FSA Analytical Notes―金融庁データ分析事例集―」(FAN)※1と題して公表しました。本稿は、これら分析事例の概要や、分析の基盤となる高粒度データ収集及び整備の取組について紹介します。

2.高粒度データを活用した分析事例(FANの概要)

FANでは、3つのデータ分析事例を掲載しています。1つ目は、足元の企業財務の動向に関する分析であり、帝国データバンクの企業財務のデータを用いて、コロナ後の企業財務の動向、とりわけ影響が大きかったとされる飲食・宿泊等サービス業※2の状況を分析しました。同業種の収益や債務の動向は、平均的には回復の兆しが見られるものの、特定の切り口で企業をグループ分けして見ると、引き続き注視が必要な側面も確認されます(図表1)。

(図表1)債務超過企業の割合(中小・零細企業)

(図表1)債務超過企業の割合(中小・零細企業)

2つ目の事例は、銀行融資の信用リスクに関する分析です。金融庁では、全国地方銀行協会加盟行(62行)の融資先企業の財務情報と与信情報に関する匿名化されたデータを用いて、貸出ポートフォリオの信用リスクを評価するモデルを構築し、推計しました(図表2)。このモデルを用いて、経済・金融環境の変化がデフォルト確率へ与える影響について、企業規模別や産業別など様々な切り口に基づく影響試算を行うことが可能となり、タイムリーかつ多角的な分析の一助となることが期待されます。

(図表2)デフォルト先割合(実績値)とデフォルト確率(推計値)

(図表2)デフォルト先割合(実績値)とデフォルト確率(推計値)

最後の事例は、気候関連リスクの分析です。地方銀行(49行)から収集した法人向け貸出明細等の高粒度データを用いて、顧客企業の業種、製品または地理的条件に着目して、地方銀行の気候関連リスク(移行リスク・物理的リスク)の特徴や、地域毎の相違等を明らかにしました。例えば、ファイナンスド・エミッション(投融資先の温室効果ガス排出量に、投融資先の資金調達総額に占める対象金融機関の投融資の割合を掛け合わせたもの、以下「FE」)を分析すると、地方銀行がメインバンクである顧客のFE(修正FE)に占める多排出産業の割合は、国全体のCO2排出量に占める多排出産業の割合よりも相応に低いことが分かりました(図表3)。また、貸出明細データをハザードマップと掛け合わせることで、どのエリアに水災リスクが高い与信先が集中しているかが視覚的に分かるようになりました(図表4)。その他にも、気候変動に伴うビジネス変化のリスク、具体的には、自動車のEV化により影響を受けるエンジン部品製造企業の特徴について分析しました。

なお、いずれの分析事例も、利用データやモデル制約の影響を受けるため、その結果の解釈には留意が必要です。また、高粒度データを用いた分析は試行的な段階にあり、その手法やデータ整備の面において、依然として高度化の余地が残っています。金融庁としては、引き続き、中長期的な課題として、分析手法の改善やデータ分析力の向上に努めていきます。

(図表3)温室効果ガスインベントリ及び地銀FE、修正FEの業種構成

(図表3)温室効果ガスインベントリ及び 地銀FE、修正FEの業種構成

(図表4)地図上へのリスク度マッピング

(図表4)地図上へのリスク度マッピング

3.データ収集・整備の取組

こうした分析を一層充実させていくためには、量・質の高いデータをよりタイムリーに収集し、それを支えるインフラを整備することが重要です。金融庁は、日本銀行と共に、より質の高いモニタリングの実施と金融機関の負担軽減に向けた連携強化の一環として、データ一元化の取組も実施しており、こうした中で、新しいデータ収集・管理の枠組み(共同データプラットフォーム(以下「共同DP」))のあり方に向けた検討にも取り組んできました。

共同DPは、金融機関から法人貸出明細等の高粒度データを定期的に収集・蓄積し、当局間で共有することを通じて、各金融機関から提出を受けている既存計表の一部を代替することで金融機関の負担軽減を図ると同時に、貸出動向や企業動向について、よりきめ細かい分析を行うことで、金融システムのリスクの把握や金融機関による企業支援を促すための対話を進めることを目的としています。

共同DPの構築に向け、2021年度には共同DPに関する海外事例の調査をしたほか、2022年度には、金融庁と日本銀行が連携し、一部の金融機関から高粒度データを収集する実証実験を実施しました(図表5)。その結果、高粒度データの集計により一部の既存計表の代替が可能とみられること、モニタリングや分析の高度化への高粒度データの活用余地が大きいことを確認できた一方、金融機関側の対応や金融庁・日本銀行側のオペレーションの整理も含め、相応の時間及びリソースを要することも判明しました(図表6)。こうした実証実験の結果も踏まえ、金融機関との調整を進めながら、2023年度後半より高粒度データの収集を段階的に開始していきます。また、金融システムを取り巻く環境の変化も踏まえつつ、より網羅的かつ的確なモニタリング・分析に向けて、中長期的な観点から、データの質の向上を含め、引き続き必要なデータ整備を着実に進めていきます。こうした取組等を通じて、金融機関のデータガバナンスやリスク管理の更なる高度化にもつなげていきたいと考えています。

4.データ利活用の更なる高度化に向けて

金融庁におけるデータ分析実務の高度化は、データ分析人材の育成と両輪で進めていく必要があります。こうした観点から、金融庁では、人材育成や庁内のデータ分析に係る文化醸成の一環として、データ分析プロジェクト(職員が自主的に立ち上げたものも含めて庁内の分析プロジェクトを集約し、専門家によるアドバイス等の支援を行うもの)に取り組んできました。3年目となった2022事務年度には、優秀なプロジェクトに対する表彰制度も創設しました(表彰されたプロジェクトの概要はアクセスFSA7月号に掲載)。プロジェクトの中には、職員個人が自発的に様々なデータを活用し新たな示唆を得ようとした分析事例も見られるなど、金融庁内におけるデータ分析人材の育成や文化醸成は着実に進展しています。

また、データ分析結果を政策立案やモニタリングに活かしていくためには、分析実務を担う職員のみならず、政策立案やモニタリングに携わる多くの職員が、例えばBIツールの活用等により、必要な時に容易に高粒度データやそれを用いた分析結果にアクセスできるような基盤を整えていくことも重要です。金融庁としては、今後もこうした様々な切り口から、データを活用した金融行政の高度化に向けて取り組んでいきます。

(図表5)実証実験の概要

(図表5)実証実験の概要

(図表6)各検証項目の内容と結果

(図表6)各検証項目の内容と結果

※1 FSA Analytical Notesについて
  https://www.fsa.go.jp/common/about/kaikaku/fsaanalyticalnotes/index.html

※2 宿泊業・飲食業、教育・学習支援業、生活関連サービス業を指す。


サステナブルファイナンス有識者会議第三次報告書

総合政策局総合政策課サステナブルファイナンス推進室
課長補佐 松本 亜衣 

係長       廣松 那津季

1.はじめに

持続可能な開発目標(SDGs)やパリ協定の採択等を受けて、持続可能な社会の構築が大きな課題となる中で、新たな産業・社会構造への転換を促し、持続可能な社会を実現するための金融(サステナブルファイナンス)の推進が不可欠となっています。

金融庁では、サステナブルファイナンスを政策的に推進していく観点から、2020年12月に「サステナブルファイナンス有識者会議」を設置し、「企業開示の充実」、「市場機能の発揮」、「金融機関の投融資先支援とリスク管理」という3つの柱、さらにその他の横断的課題として、インパクト投資の推進等について、議論を行ってきました。

政府としても、社会課題の解決を通じた持続的な成長機会の実現が「新しい資本主義」の重要課題として位置付けられ、本年6月に閣議決定された「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画2023改訂版」や「経済財政運営と改革の基本方針2023」において、GX(グリーン・トランスフォーメーション)投融資の促進やインパクト投資の推進等が盛り込まれています。また、国際的にも、日本が議長を務める G7財務大臣・中央銀行総裁会議および広島サミットで、サステナブルファイナンスの重要性が確認されました。

こうした動きも踏まえ、金融庁では、特に昨年7月に第二次報告書を公表してからの1年間の環境変化や施策の動向、新たに認識された課題、今後の施策の方向性等を取りまとめ、第三次報告書として、本年6月に公表しています(次頁図参照)。本稿では、第三次報告書のポイントについて、「市場機能の発揮」、「金融機関の投融資先支援とリスク管理」、「その他の横断的課題」を中心に、ご紹介します。

2.市場機能の発揮

サステナブルファイナンスの市場が有効に機能するためには、ESG投資に関連した様々な情報の集約と質の確保が重要であり、昨年7月には、日本証券取引所グループ(JPX)が  ESG 債券の発行情報等を集約する情報プラットフォームの運用を開始しています。有識者会議では、国内外においてサステナビリティ開示の枠組みの整備が進む中で、取引先企業を含む排出量等のデータ整備が不可欠であり、今後の対応の方向性として、国際的な検討状況も踏まえながら、関係省庁や金融機関、JPX等が連携し、企業開示データの集約・提供に向けた検討を行っていくが提言されました。

ESG投資市場の透明性向上の観点から、ESG評価の客観性・公平性の確保についても議論が行われました。第三次報告書では、昨年12月に世界に先駆けて策定された「ESG評価・データ提供機関に係る行動規範」について、関係機関に更なる浸透性を図ることの必要性が指摘されています。

(図)サステナブルファイナンスの取組みの全体像

(図)サステナブルファイナンスの取組みの全体像

また、機関投資家においては、サステナビリティへの対応を進める企業に中長期的な視点をもって必要な資金提供等の支援を行い、スチュワードシップ活動を通じて企業価値の向上を促す点で、重要な役割が期待されています。第三次報告書では、各投資先の特性・課題等に応じて、ESG投資を含め運用資産の成長性・持続可能性を高める方策について知見を共有していく必要性や、「資産運用立国」の実現に向けた検討において、サステナビリティの考慮も含めた議論が行われることへの期待が示されています。

3.金融機関の投融資先支援とリスク管理

第三次報告書は、日本では間接金融の比率が高いことを踏まえ、サステナブルファイナンスの領域でも、金融機関が自行及び顧客企業のリスクと機会を評価し、そのリレーション機能を発揮していくことが重要であると指摘しています。

特に、企業の脱炭素に向けた中長期的な事業戦略と設備投資等に基づく排出量削減等の取組みを支援するトランジション・ファイナンスは、経済全体の脱炭素化を推進する上で重要です。

各企業が脱炭素に向けた移行計画の策定・実施を進めるにあたっては、企業と対話を行い、各企業の実情に応じた投資や支援を行う金融機関の役割に期待が寄せられています。金融庁では、昨年10月、「脱炭素等に向けた金融機関等の取組みに関する検討会」を設置し、本年6月、顧客と対話を進めながらネットゼロを目指す金融機関が検討すべき論点について、提言を取りまとめました。提言の内容も踏まえ、第三次報告書では、今後、トランジションの重要性と適格性について、具体的な案件形成を通じて国内外に浸透を図っていくことの重要性が示されています。

また、トランジションの案件実装には、国内のみならず、新興国を含む世界全体での推進が重要です。有識者会議では、特に日本と地理的結びつきの強いアジアでのGXの推進に向け、今後、官民の多様な関係者が参画する協議体の設置を通じて関連する情報等を集約し、また、日本の金融機能等を活かして案件を実装していくことで、日本が貢献していくことの重要性が議論されました。

4.その他横断的な課題

有識者会議では、横断的な課題の一つとして、インパクト投資の推進について議論が行われました。社会・環境的効果と収益性の双方の実現を図るインパクト投資は、投資を通じて社会・環境課題の解決に資する技術やビジネスモデルの変革等に取り組む企業への支援を促す観点から、国内外で関心が高まっています。

こうした中、金融庁では、インパクト投資の意義と推進に向けた課題等について議論するため、昨年10月、サステナブルファイナンス有識者会議の下に「インパクト投資等に関する検討会」を設置しました。その議論の成果は、本年6月、インパクト投資の基本的な考え方と要件を取りまとめた「基本的指針(案)」を含む報告書として公表されています。

検討会における議論も踏まえ、有識者会議では、国内外の多様な市場関係者との丁寧な対話を通じて、インパクト投資に関する共通理解を醸成し投資実務の促進を図っていく観点から、今後、「基本的指針(案)」の市中協議を経て指針を策定すること、また、幅広い関係者が参画しインパクト投資に関する知見の共有等を行う場として「コンソーシアム」を立ち上げることの重要性が提言されました。

なお、第三次報告書では、インパクト投資のほか、生物多様性や専門人材の育成等についても、横断的な課題としてその意義や論点、今後の方向性等を整理しています。

5.サステナブルファイナンスの実質化に向けて

第一次報告書の公表以来、サステナブルファイナンスの推進に関する施策や環境整備は着実に進捗しています。他方で、気候変動問題に加えて、少子高齢化、人的資本、経済格差の拡大など、サステナブルファイナンスが視野に入れるべき課題は拡大し、深刻化しています。また、サステナブルファイナンスへの理解・関心が高まる一方、その考え方も広がりをみせています。

第三次報告書で示された方向性を踏まえ、金融庁では、持続可能な社会の構築に向け、経済・社会の変革・成長を金融面から支援していくため、引き続き、様々な国内外の関係者と議論を行うとともに、今後は、サステナブルファイナンスに対する認知を確立するという第一ステージから、その内容の深化と実質化を進める第二ステージに向けて、検討や取組みを進めてまいります。


「金融機関のITガバナンスに関する対話のための論点・プラクティスの整理」の改定及び「金融機関のシステム障害に関する分析レポート」の公表について

総合政策局リスク分析総括課

金融証券検査官 野口 佳宏

金融証券検査官 山腰 真哉

2023年6月30日、金融庁は、金融機関のITガバナンスに関するディスカッション・ペーパー(DP)及びシステム障害に関する報告書を公表しました。※1

1.「金融機関のITガバナンスに関する対話のための論点・プラクティスの整理」の改定について

金融機関がそのビジネスモデルを持続可能なものとするためには、利用者ニーズの変化などの経営環境に応じてITの仕組みを整備し、充実させるといった、IT戦略を経営戦略と一体的に考えることが重要です。これは経営戦略に関わることであるため、経営者の主体的な対応が必要であり、金融庁では、経営者のリーダーシップの下で、ITと経営戦略を連携させ、企業価値を創出する仕組みを「ITガバナンス」と定義しています。したがって、ITガバナンスには、内部統制のみならず収益を向上させるための成長戦略も含まれています。

金融庁では、2019年6月に、金融機関とITガバナンスに関する対話を行う上での論点を整理したDPを公表し、建設的対話を続けています。DPの公表後、金融機関においてデジタルトランスフォーメーション(DX)が相応に進捗するなどの状況の変化があったことを踏まえ、2023年6月に、DXの考え方・着眼点を盛り込んだDP第2版を公表しました。

金融庁では、金融機関との建設的対話をもとに、経営戦略、IT戦略及びDX戦略の関係について整理しています(参考1)。経営戦略とIT戦略に基づいて、DX推進組織が既存業務の革新、ビジネスモデル変革などのDX戦略を策定する場合が多いものの、DX戦略を実現するためにインフラやデータ活用基盤といったIT戦略が決まる場合もあります。

(参考1) ITガバナンスの概念

(参考1) ITガバナンスの概念

DP第2版では、基本的な考え方・着眼点として、①経営陣によるリーダーシップ、②経営戦略と連携したIT戦略・DX戦略、③IT戦略を実現するIT組織・DX推進組織、④最適化されたITリソース、⑤企業価値の創出につながるIT投資管理プロセス、⑥適切に管理されたITリスクを提示しています(参考2)。

経営陣によるリーダーシップの着眼点の例として、組織内で戦略の実現に向けた機運やモチベーションを高める観点から、経営陣がDX戦略について情報発信を続けることで、ステークホルダーの信頼と共感を得ることが重要であるとしています。また、経営陣は、DX戦略を進める際に、デジタル活用の恩恵を享受する上での前提となる情報セキュリティリスク(サイバーリスクを含む)等の低減および管理も考慮する必要があります。

金融庁は、今後もベストプラクティスの追求に向けた対話を通じて、金融機関のITガバナンスの実態を把握するとともに、問題が生じやすい点について気付きを与えることで、金融機関の自主的な取組みを促進していきます。

2.「金融機関のシステム障害に関する分析 レポート」について

金融庁では、監督指針等に基づき、発生したシステム障害について金融機関から報告を受けています※2 。これらの報告等に基づくシステム障害の分析結果や他の金融機関に参考となる事例を纏め、2019年以降、毎年、「金融機関のシステム障害に関する分析レポート」として公表しています。

2023年6月に公表した直近のレポートは、過去の事例も含め、以下に挙げる障害の端緒に着目して障害事例を分類し、原因と課題を分析しています。また、ITレジリエンス※3強化の参考となるよう、障害対応の好事例も記載しています。以下、端緒毎に主な障害傾向(次頁(1)~(4))及び障害対応の好事例(次頁(5))を紹介します。

(参考2)ITガバナンスに関する考え方や着眼点

(参考2)ITガバナンスに関する考え方や着眼点
(1)サイバー攻撃、不正アクセス等の意図的なもの

外部委託先の設定ミスに伴う不正アクセスによる情報漏えいや、サポート期限切れ機器のマルウェア感染、DDoS攻撃※4によりホームページが閲覧できない事例が発生しています。

再発防止・未然防止のため重要な外部委託先を含めたセキュリティ対策の強化とインシデント発生時のレジリエンスの強化が必要であると考えられます。

(2)日常の運用・保守等の過程の中で発生したシステム障害

障害時に冗長構成が意図どおりに機能しない障害や、外部委託先での復旧作業における手順の検証不足に起因し復旧が遅延する事例が発生しています。

障害発生時の外部委託先における対応を含めた復旧手順・体制を整備し、外部委託先との共同訓練等を通じて、復旧手順・体制の実効性を確保していくことが課題となっています。

(3)システム統合・更改等に伴って発生したシステム障害

旧システムの仕様に係る理解不足やレビュー態勢の未整備等に起因した障害が発生し、顧客の決済に影響を及ぼす事例が発生しています。

システム統合・更改に当たっては、システム仕様書等の開発文書の整備、レビューアとしての有識者の配置等によるレビュー態勢の整備が課題となっていると考えられます。

(4)プログラム更新、普段と異なる特殊作業等から発生したシステム障害

外部委託先におけるプログラム更新作業時に、設定ミスや作業誤りによって、ATM等が利用不可となる事例が発生しています。

関係部署の連携による作業手順の整備や作業手順の実効性確認のほか、金融機関における外部委託先で作成した作業手順の事前検証等の外部委託先管理の強化が課題となっています。

(5)システム障害後の対応が円滑に行われた事例

通信回線・ネットワーク障害によってATMが利用不可となる障害が発生したものの、コンティジェンシープランに基づく手動による復旧作業や顧客対応の実施により、顧客影響を最小限に抑えた事例がありました。


※1 「金融機関のITガバナンスに関する対話のための論点・プラクティスの整理(第2版)」
 https://www.fsa.go.jp/news/r4/sonota/20230630/20230630.html 
  「金融機関のシステム障害に関する分析レポート」
 https://www.fsa.go.jp/news/r4/sonota/20230630-2/20230630-2.html

※2  監督指針等に基づき、発生したシステム障害について金融機関から「障害発生等報告書」を受領するとともに、各金融機関に対し障害の復旧状況の確認やヒアリング等を行い、金融機関で分析・検討した 障害の真因、事後改善策の報告を受けている。

※3  システム障害からの回復力、復元力。障害の未然防止にとどまらず、障害発生時の業務の早期復旧や顧客影響の軽減も含む。

※4 「Distributed Denial of Service の略で、分散型サービス妨害攻撃のことを指す。


「金融仲介機能の発揮に向けたプログレスレポート」の概要

課長補佐 岡村 龍嗣

係長   尾高 拓磨

係長   益子 優輝

1.はじめに

金融庁では、金融機関による金融仲介機能の発揮や、地域金融機関の持続可能なビジネスモデルの構築を後押しするため、財務局と連携した取組みや地域金融機関の特徴的な取組事例等を「金融仲介機能の発揮に向けたプログレスレポート」として取りまとめて公表しています。

2023年6月に公表したレポートでは、事業者支援の取組みを後押しする施策や、資金面にとどまらない事業者の新たな支援ニーズへの対応、地域金融機関の持続的な価値創造を支える基盤となるガバナンス・人的資本の状況などについてまとめています。本稿では、その概要を紹介します。

2.事業者支援の取組みの後押し①(事業者支援態勢構築プロジェクト)

新型コロナウイルス感染症や物価高等の地域経済への影響が続く中、各地域において、事業者支援に取り組む関係者が、連携・協働して事業者の実情に応じたきめ細やかな支援に取り組むことが、より一層重要となっています。そこで、財務局や経済産業局と事業者支援に取り組む関係者が、それぞれの地域において、事業者支援にあたっての課題と対応策を共有する「事業者支援態勢構築プロジェクト」を推進しています(図表1)。

2022事務年度には、県内の地域ごとに実務担当者同士の連携強化に向けた意見交換会を実施した事例や、事業承継に関する主な相談相手となる税理士向けに、事業承継に係る支援機関等の業務説明会を開催した事例などが見られました。

3.事業者支援の取組みの後押し②(事業者支援能力の向上)

人口減少や高齢化等、金融機関を取り巻く社会情勢が大きく変化する中、地域金融機関は、地域経済の要として、事業者を支えることを通じ、地域経済の成長に貢献していくことが期待されています。こうした観点から、金融庁では、地域金融機関が効果的・効率的に事業者支援に取り組むことができるよう、地域金融機関の事業者支援能力の向上を支援しています。

(図表1)事業者支援態勢イメージ図

(図表1)事業者支援態勢イメージ図

例えば、地域金融機関が早期に経営改善支援を実施できるよう、多数の取引先企業を経営改善支援の必要性に応じて優先順位付けを行うにあたって、AI技術がどう活用できるかについて調査・研究を行いました。この調査・研究では、企業の信用データを保有する複数の共同研究先の協力を得て、多数の個別企業データ(財務・属性データ)や、外部環境データを機械学習の手法で分析し、その関係性を用いて、経営改善の必要性が高いと考えられる先を早期に発見することに資するAIモデルを構築しました。構築したAIモデルは、個別金融機関の取引先データを活用した実証事業等を通じて、一定の精度を有することや実務においても活用できる可能性が示唆されました。2023年3月には構築したAIモデルの配布を開始しています。

また、経験年数にかかわらず現場職員が効率的・効果的に経営改善支援に取り組めるよう、2023年3月に、事業者支援のニーズが予想される業種を中心に、「業種別支援の着眼点」(以下「着眼点」)を取りまとめました。「着眼点」では、事業者の状況を理解するために把握すべきポイントや、経営改善支援に向けた対応のイメージ等を具体的に例示しつつ、事業者支援経験の少ない職員でも適切に経営改善支援のポイントを理解し、対応ができるよう、基礎的な内容をコンパクトにまとめたものとなっています。金融機関の現場において、この「着眼点」の活用が、事業者との対話の深耕や、経営改善支援に関するより深い専門性を身に着ける契機につながることを期待しています。

4.新たな支援ニーズへの対応(人材マッチング)

金融庁では、地域金融機関の金融仲介機能の取組みに関する顧客の評価等を確認するため、地域金融機関等をメインバンクとする企業を対象としたアンケート調査を毎年実施しています。2023年のアンケート調査の結果を見ると、企業が金融機関から受けたいサービスは、「取引先・販売先の紹介」といった利益改善に直結するサービスが高い割合を占めたほか、「経営人材の紹介」や「業務効率化(IT化・デジタル化)に関する支援」が上位となっています。さらに、これらのサービスのうち、事業者が手数料を支払ってもよいと回答した割合は、「経営人材の紹介」が5割弱と最も高く、人材に関する支援ニーズの高さがうかがわれます(図表2)。

(図表2)金融機関から受けたいサービスと手数料を支払ってもよいと考えるサービス

(図表2)金融機関から受けたいサービスと手数料を支払ってもよいと考えるサービス

こうした人材に関する支援ニーズに関連して、金融庁では、2020年度から、地域金融機関の人材マッチングを通じて、大企業から地域の中堅・中小企業への新しい人の流れを創出し、企業の経営人材確保を支援する「地域企業経営人材マッチング促進事業」を実施しています。これは、地域経済活性化支援機構(REVIC)が整備する人材プラットフォーム(「REVICareer(レビキャリ)」)を通じて、転籍や兼業・副業、出向といった様々な形態で、地域金融機関による、大企業で経験を積まれた方々の地域企業への人材マッチングを後押しするものです。

金融庁では、本事業の利便性向上や活用促進に向け、大企業や地域金融機関から寄せられた意見・要望を踏まえ、様々な制度改善等に取り組んでいます。例えば、2022年8月には、大企業人材が企業の人事部を経由せずに直接レビキャリへ登録することができるよう、登録要件の緩和を行いました。こうした取組みを通じ、金融庁としては、引き続き、地域金融機関による人材マッチングを後押ししていきます。

5.地域金融機関のガバナンス・人的資本

人口減少や高齢化等、金融機関を取り巻く社会情勢が大きく変化する中、地域金融機関には、様々な変化に機敏に対応し、果敢な経営判断を行い、経営改革を進めていくことが求められています。こうした経営の鍵となるのが、中長期的なビジョンを踏まえた意思決定を支えるガバナンスと、その実施と価値創出を支える人的資本です。

金融庁・財務局では、2022事務年度、ガバナンス・人的資本に着目した対話を一部の地域銀行と実施しました。ガバナンスについては、一部の地域銀行においては、積極的に議論に参画してくれる人材を社外取締役として招聘すべく、事前に行内勉強会の講師として招き、能力や意欲を確認するなどの工夫も見られた一方、特定の出身母体から社外取締役が慣例的に選出されている等、取締役の適格性や適正規模が十分に議論されていないと思われる事例もありました。

人的資本については、地域銀行100行を対象に、人員構成、採用状況や人材育成の取組み等についてのアンケート調査を実施しました。その結果、例えば女性職員は本部よりも営業店に勤務する職員の割合が高く、営業店におけるマネジメントを担う職員についても、性別による差が見られました。アンケート調査の結果も参考にしながら、各行において、経営戦略に即した採用・育成・配置等の人事戦略の策定・実行や、多様な行員がそれぞれの能力を最大限発揮できる職場環境の整備等を進めることが期待されます。

6.最後に

金融庁では、引き続き、関係機関と連携しながら、地域金融機関の金融仲介機能の発揮に向けた取組みを後押しするとともに、地域金融機関の金融仲介機能をめぐる課題の実態把握に努め、その結果等を広く発信していきます。こうした取組みを通じて、地域金融機関の金融仲介機能の発揮が促され、地域経済の活性化や地域金融機関の持続可能なビジネスモデルの確立等につながることを期待しています。


 2023年6月公表、「企業アンケート調査の結果」は 
PDFhttps://www.fsa.go.jp/policy/chuukai/shiryou/questionnaire/230628/01.pdfをご参照ください


国際金融センターの実現に向けたJapan Weeksの開催

Japan Weeksのポスター

政府は、国際金融センターの実現に向けた取組みを前進させるとともに、今後、資産運用立国の実現に向けた取組みを推進することとしています。こうした取組みの一環として、本年9月25日から10月6日に「Japan Weeks」を開催することとなりました。ここでは、Japan Weeks立ち上げの背景や、主なイベントの概要をご紹介します。

1.Japan Weeks(ジャパン・ウィークス)立ち上げの背景

政府は、日本の国際金融センターとしての地位向上に向けて様々な取組みを進めています。本年4月26日の経済財政諮問会議では、鈴木大臣から「国際金融センター施策の今後の方針」が示されました。この中では、2,000兆円の家計金融資産を開放し、世界の金融センターとしての発展を目指すべく、①コーポレートガバナンス改革の実質化、②GX(グリーントランスフォーメーション)投融資の促進、③税制上の諸課題への対応、④資産運用業等の抜本的な改革、が必要とされています。これを受けて岸田総理からは、日本が国際金融センターとして更に発展するため、コーポレートガバナンス改革やGX投資促進策とあわせ、資産運用業等を抜本的に改革することが重要であり、資産運用立国日本を実現するための政策プランの策定を求める旨の発言がなされました。

その後本年6月16日に閣議決定された「経済財政運営と改革の基本方針2023」(いわゆる「骨太方針」)では、資産運用立国や国際金融センター等の実現に向けた一連の取組みにつき、「集中的に海外金融事業者を日本に招致する「Japan Week(仮称)」の立ち上げを含む国内外でのプロモーションイベントの開催等、情報発信を効果的・戦略的に実施する」とされています。こうした流れを受け、今回Japan Weeksを開催することとなりました。

2.具体的に何が開催される?

Japan Weeksの期間中には、海外の投資家や資産運用会社等が集中的に日本に集まり、サステナブルファイナンス、貯蓄から投資への促進、資産運用立国など、さまざまなテーマに関する多くのイベントが開催されます。例えば国連の責任投資原則の15回目の年次会合である「PRI in Person」(10月3日~5日)は、ESG投資に関する世界最大級のイベントであり、世界中から1,000人以上が参加する見込みです。

また、Japan Weeksのイベントには、岸田総理や鈴木大臣を含め、政府関係者も多く参加する予定です。例えば上述のPRI in Personでは岸田総理が基調講演を行うほか、イベント終盤にはグローバル投資家等と政府関係者等によるラウンドテーブル・イベント(10月5日~6日)も開催されます。

3.最後に

今回初めて開催するJapan Weeksは、国際金融センターや資産運用立国の実現に向けた重要なステップと考えています。日本の金融資本市場としての魅力や政府の取組み等を発信するとともに、関係者間のコミュニケーションの場を提供する有意義な機会とすべく、関係者との連携のもと、当庁としても力を入れて取り組んでまいります。ぜひご期待・ご注目ください!

<<Japan Weeksのイベント一覧(8月23日時点)>>

Japan Weeksのイベント一覧(8月23日時点)

★詳細は特設ページ新しいウィンドウで開きます/internationalfinancialcenter/lp/japanweeks/)もご覧ください。


 機関投資家の投資の意思決定プロセスや株式の保有方針の決定にESG課題に関する視点を反映させるための考え方を示す原則として、2006年4月に国連が公表した6つの原則です。


こども霞が関見学デーの開催

本年8月2日、3日の2日間にわたって、「こども霞が関見学デー」が開催されました。本イベントは、子どもたちが職場見学などを通して親子の触れ合いを深め、夏休みに広く社会を知る体験活動の機会とすることを目的としており、文部科学省を中心に霞が関の中央省庁等が参加している取組みです。

金融庁では、お金の役割や大切さを子どもたちに分かりやすく実感してもらうための講演や、金融庁内の見学などのプログラム「金融庁へGO!」を開催しました。

1.業務説明「金融庁ってどんなところ?」、「記者会見室で質問してみよう!」

最初に、金融庁職員から金融庁の業務について説明しました。金融庁の位置や三権分立の話を交えながら、金融庁の業務や役割について、子どもたちに分かりやすく講義しました。その後、子どもたちには記者になりきって金融庁やお金に関して職員にインタビューしていただきました。子どもならではの目線によるものなど、様々な質問が飛び交いました。

写真:業務説明の様子
写真:業務説明の様子

2.金融経済教育講演

  • 8月2日 「働いてお金を得ることの楽しさと難しさを知ろう!」


講師:さんきゅう倉田さんさんきゅう倉田さんの写真

吉本興業所属のお笑い芸人。

大学卒業後、東京国税局に入局し、2年1か月後退職。その後、お笑い芸人になり、国税局職員と下積み時代の経験を活かして、税金やお金についての講演活動を行っている。2023年東京大学に合格し、話題に。

新しいウィンドウで開きます(オフィシャルサイト)

さんきゅう倉田さんには、ご自身の経歴をふまえ、「自分にとって楽しい仕事を選ぶことで、能力が伸び、周囲から評価され、お金がたくさんもらえ、より仕事が楽しくなる」という話や、働くことやお金について何が正しいのかよく考えて行動することの大切さについて子どもたちに熱弁していただきました。簡単なクイズも交えつつ、お金に関する知識習得の重要性を分かりやすく伝えていただきました。子どもたちは、たくさん質問するなど、終始積極的に参加していました。

写真:講演の模様
写真:講演の模様
  • 8月3日 「親子おこづかい会議」


講師:キッズ・マネー・ステーションキッズ・マネー・ステーション

子どもたちが物やお金の大切さを知り、「自立する力」を持つようにという想いで設立された団体。全国に約300名の講師が所属し、自治体・学校などで、お金教育・キャリア教育の講座実績が多数。

新しいウィンドウで開きます(オフィシャルサイト)

ファイナンシャルプランナーの、ばたこ先生(田端講師)と、えこ先生(萩原講師)より、「親子おこづかい会議」と題して、お金の使い方を親子で考える講座を実施いただきました。講師の方々の楽しい寸劇を通して、子どもたちはおこづかいを目的別に設定し、その内容を親子で話し合い、おこづかいに関する約束を定めた「おこづかい契約書」を作成するなど、終始熱心に取り組んでいました。また、実際に子育てをされている講師から、保護者向けに家庭での金融経済教育方法について丁寧にアドバイスしていただくなど、親子ともに楽しく学べる機会となりました。

写真:講演の模様
写真:講演の模様

3.大臣室・審判廷見学「大臣室をのぞいてみよう!」、「審判廷ってどんなところ!?」

金融庁内の見学として、参加者を金融担当大臣の執務室である大臣室と、金融商品取引法等違反に関する審判手続を行う審判廷にご案内しました。大臣室では、子どもたちだけでなく保護者の方も、大臣の椅子に座るなどして、楽しんで記念撮影をしていました。

写真:大臣室で記念撮影する参加者の方々
写真:大臣室で記念撮影する参加者の方々

4.1億円分の紙幣や金塊の重さ体験「1億円や金塊持てるかな?」

当日会場内には、1億円分の紙幣(10kg)や金塊(12.5kg)(※いずれも模造品)を設置し、自由に触っていただきました。子どもたちはその重さに驚きながらも、親子で体験を楽しんでいました。

写真:金塊を持ち上げる参加者
写真:金塊を持ち上げる参加者

今年度は、久々に両日とも対面でのイベント開催となりましたが、たくさんの親子にご来庁いただきました。いずれの企画も子どもたちは積極的に取り組み、また参加者からは、「とてもおもしろかった、よくわかった」、「次回以降も参加したい」とのお声をいただきました。いただいたご意見・ご感想については、次回以降の開催に向けて活用させていただきます。


先月の金融庁の主な取組み(令和5年8月1日~8月31日)


編集後記

「史上最も暑い夏」が過ぎ去り、朝の空気が少しずつひんやりしてきたことを感じています。この間、寝る3時間前からは何も食べないことを意識したのですが、寝る前の誘惑に打ち克つと朝の目覚めがこれほど違うものかと、変化を実感しました。秋の夜長とともに更なる誘惑も訪れるのではと今から恐れていますが、朝にも夜にも負けない気持ちを持ち続けたいと思います。

今月は、「こども霞が関見学デー」の模様をご紹介させていただきました。小学生の皆さんが、当日お招きした講師の話を楽しそうに聞き入り、お小遣いの使い道に関する質問などについて、自分の意見を活き活きと答えていた姿がとても印象的でした。

せっかく金融庁に来ていただいたので、私からは金融庁の日常的な業務をご紹介させていただきましたが、思わず小学生向けの採用説明会のようになってしまいました(笑)。これからも未来の行政官にとって魅力的な仕事と映るよう、金融行政について積極的に発信していきたいと思います。

  • 金融庁広報室長 矢野 翔平
  • 編集・発行:金融庁広報室

サイトマップ

ページの先頭に戻る