アクセスFSA 第226号

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鈴木内閣府特命担当大臣(金融)車座対話に参加
~ ソーシャルマインドを醸成するための地域金融機関による伴走型支援 ~

 本年5月24日、日本青年会議所主催の車座対話に鈴木大臣が参加しました。
 
 テーマは、「ソーシャルマインドを醸成するための地域金融機関による伴走型支援」でした。車座対話には、日本の各地域の事業者の方々が参加されました。

写真:車座対話で発言する鈴木大臣
写真:車座対話で発言する鈴木大臣

 参加者の皆様からは

 ・事業者は、社員などのステークホルダーに経営理念を共有し、地域と共に成長していく取組みを行っている

・財務に必ずしも反映されない事業者のこのような取組みについて地域金融機関はどう評価すべきか

 ・また、地域金融機関がこうした取組みをどのように支援していくべきか

といった点について、様々なお話やご示唆をいただきました。

写真:車座対話の様子
写真:車座対話の様子

 それぞれのお立場から具体的なご指摘、ご提案をいただけたという点で 、 非常に実り多い議論を行うことができたと感じています 。

 金融庁では、いただいたご意見も参考にしながら 、地域金融機関による、地域の事業者の社会課題の解決に向けた取組みの支援を一層促してまいります。

写真:参加メンバー (注)手の形は「八方よし」の数字の8
写真:参加メンバー
(注)手の形は「八方よし」の数字の8

 


 昨年10月8日の、岸田首相の所信表明演説にて、全閣僚が、様々な方と車座対話を積み重ね、その上で、国民
のニーズに合った行政を進めているか、徹底的に点検する旨の指示がありました。これを受け、昨年11月26日に金融庁でも、「国民の資産形成と金融リテラシー」をテーマに、鈴木大臣の車座対話を開催しました。
 令和3年11月26日の車座対話の模様:https://www.fsa.go.jp/kouhou/kurumaza/tokyo20211126.html


トランジションファイナンスに関する金融庁主催の国際シンポジウム

1.背景  

 気候変動はグローバルに解決が必要な喫緊の課題です。カーボンニュートラルの実現には、すべての産業が、パリ協定の目標達成に資する「トランジション(移行)」の取組みを進めるとともに、その取組みを適切に評価し、資金供給を促す「トランジションファイナンス」が重要です。

 金融庁では、本年5月26日に、虎ノ門ヒルズフォーラム及びオンラインにて、この「トランジション」に焦点を当て、ネットゼロへのトランジションのパスウェイ(道筋)や、トランジションファイナンスの役割について議論を行う、国際シンポジウムを開催いたしました※1。  

 本稿では、本シンポジウムの概要をご紹介します。

2.シンポジウムの概要

 本シンポジウムでは、トランジションという差し迫った課題を解決するため、産業界、金融界、政府機関、外部評価機関を含む国内外の主要なステークホルダーを一堂に会する場を設けたいという考えのもと、日本国内に留まらず、シンガポール・アメリカ・ヨーロッパ諸国より、産業界・金融界・政府関係者約30名にご登壇いただきました。当日は、会場・オンラインの参加を合わせ、約850名の参加がありました。  当日の議論の流れは以下のとおりです。

◆開会挨拶

 鈴木大臣から、世界に先駆けて日本政府がトランジションファイナンスの重要性を訴えてきたことや、日本政府・金融庁の取組みについて紹介がありました。また、トランジションファイナンスに関しては、こうした政府の取組みに留まらず、民間主導の動きも活発であり、気候変動という課題の解決のために、本シンポジウムに集まった官民の関係者が国境を越えて協力をすることが大事であるといった旨のメッセージがありました。

写真:開会挨拶する鈴木大臣
写真:開会挨拶する鈴木大臣

◆基調対談

 マーク・カーニー ネットゼロのためのグラスゴー金融同盟(GFANZ)※2議長と、水野弘道 革新的ファイナンス及び持続可能な投資に関する国連事務総長特使より、GFANZの作業、とりわけ本シンポジウムのテーマである、脱炭素へのトランジションが難しいセクター別のパスウェイの検討や、金融機関のトランジション計画に関する作業について紹介がありました。また、新興国支援・脱炭素に向けた技術革新(イノベーション)支援に果たす日本の役割への期待が聞かれました。

◆パネルディスカッション1「カーボンニュートラルへの挑戦と課題」

 ディスカッションを始めるにあたり、シンガポール金融管理局(MAS)のダリアン・マクベイン チーフ・サステナビリティ・オフィサーより、アジアにおける脱炭素に向けた挑戦と機会について、基調講演が行われました。
 続くディスカッションでは、セクター別のパスウェイをグローバルで、また日本国内で描く取組みや、その背景となる国内外のエネルギー事情、トランジションファイナンスの重要性について議論が行われました。

写真:シンガポール金融管理局(MAS)のダリアン・マクベイン チーフ・サステナビリティ・オフィサーによる基調講演の様子
写真:シンガポール金融管理局(MAS)のダリアン・マクベイン チーフ・サステナビリティ・オフィサー
による基調講演の様子

◆パネルディスカッション2「ネットゼロ達成に必要なトランジションパスウェイ

 続いてのパネルでは、より実務的な議論を行うため、「鉄鋼」「航空」「電力」の3つのセクターごとの分科会に分かれ、パリ協定の目標を達成するための信頼できるパスウェイの在り方について議論しました。セクターごとに、グローバル/日本におけるパスウェイの策定者、代表的な企業、投資家や外部評価機関をパネリストとして招き、ネットゼロを達成するための技術的な課題や国内外の産業界の取組み、投資家・評価機関がパスウェイや企業の移行戦略を評価するうえでの目線について紹介いただくとともに、産業界や金融界が対話を通じて意見交換し、協力して対応することの重要性が再確認されました。

◆パネルディスカッション3「秩序だったトランジションを達成するファイナンス

 最後のパネルでは、銀行・資産運用会社・機関投資家の立場から、フォワードルッキングに企業のトランジションを評価するための金融機関の目線や現時点での日本企業の評価、技術革新や顧客とのエンゲージメントの促進方法、地域差や産業界・金融界の間に生じ得るギャップへの解決策などについて議論が行われました。

◆閉会挨拶

 天谷金融国際審議官から、高排出セクターの企業にアプローチする、事業体ベースの日本のトランジションファイナンスへの取組みに関する説明や、本シンポジウムが、パリ協定の実現に向けた長い旅路の礎となることへの期待が述べられました。

3.結び

 本シンポジウムは、サステナブルファイナンスについて、金融庁が主催する最大級のシンポジウムとなりました。コロナ禍や不安定な国際情勢が続く中ではありますが、持続可能な社会の実現に向けた不断の努力を行うために不可欠な、産業界・金融界等の垣根を超えた協力の輪が、更に広がる一助となっていればと願っております。
 末筆になりますが、参加いただいた皆様、イベントの周知にご協力くださった国内外の関係者の皆様に感謝申し上げます。

(参考)タイムテーブル・登壇者

   

 


※1 シンポジウムの詳細については、特設サイトhttps://supportoffice.jp/fsasustainable2022/をご参照ください。

※2 Glasgow Alliance for Net Zero:2021年4月、マーク・カーニー国連特使を議長とし、金融界が業態別にネットゼロを目標とする取組を統合する戦略的フォーラムとして発足。GFANZが傘下に置く業態別の取組には、450以上、総資産130兆ドル(約1.69京円)以上の金融機関が参加。


財務局長会議~黄川田副大臣と宗清大臣政務官による挨拶~

 令和4年4月28日(木曜)、今事務年度4回目の財務局長会議を開催しました。今回の会議は、対面とWEB会議を併用して開催したところ、黄川田内閣府副大臣(金融担当)及び宗清内閣府大臣政務官(金融担当)は、財務局長や金融庁幹部が集まる会議室にて、挨拶をいたしました。

<黄川田副大臣挨拶>

 黄川田副大臣より、「事業者支援の徹底等」、「災害対応」の2点について、以下の発言がありました。

 第1に、事業者の資金繰り支援に積極的に取り組むことが重要であることから、各財務局より地域金融機関に対し、「原油価格・物価高騰等総合緊急対策」(本年4月26日決定)で講じられた支援メニュー(セーフティネット貸付の更なる金利引下げ、政府系金融機関による実質無利子・無担保融資等の本年9月末までの延長等)を有効活用するなど、事業者の資金繰り支援に関し、引き続き柔軟な対応を促していただきたいこと。

 また、今後は、増大する債務に苦しむ事業者の再生支援等も一層重要な課題であることから、各財務局より地域金融機関に対し、「中小企業の事業再生等に関するガイドライン」(本年4月運用開始)や「中小企業活性化パッケージ」(本年3月策定)といった施策の有効活用など、適切な対応を促すとともに、各財務局においても、各地域における関係機関とも一層密に連携して、実効性のある事業者支援態勢の構築・強化に努めていただきたいこと。

 第2に、本年3月16日深夜に福島県沖を震源とする地震が発生したところ、各財務局において、休日や夜間の連絡体制等といった災害発生時の対応を改めて確認するなど、万全の態勢を整えていただきたいこと。

<宗清大臣政務官挨拶>

 宗清大臣政務官より、「サイバーセキュリティ対策の強化」、「システムリスク管理態勢の強化」の2点について、以下の発言がありました。

 第1に、サイバーセキュリティ対策は、地域金融機関にとっても重要な課題であるところ、「金融分野のサイバーセキュリティ強化に向けた取組方針(Ver.3.0)」(本年2月公表)や、サイバー攻撃に関する複数回の注意喚起を行ったことに触れつつ、各財務局において、サイバーインシデント発生時の対応や、地域金融機関のサイバーセキュリティ対策の強化に向けた取組みについて、引き続き、金融庁と連携して対応いただきたいこと。

 第2に、本年3月に発生したシステム障害事案に触れつつ、障害事案の発生に備え、引き続き財務局と金融庁との間でしっかり連携いただきたいこと。

 財務局長会議では、副大臣及び大臣政務官からの挨拶のほか、長官はじめ金融庁幹部から、金融行政の当面の課題や金融庁の取組み等について説明を行いました。こうした課題等について、財務局長と認識を共有するとともに、引き続き金融庁・財務局が一体となって取り組んでいくことを確認しました。

写真:財務局長会議で挨拶をする黄川田副大臣(左)と宗清大臣政務官(右)
写真:財務局長会議で挨拶をする黄川田副大臣(左)と宗清大臣政務官(右)

 金融庁では、法令に基づき、地域の民間金融機関等の検査・監督に係る権限の一部を全国11の財務省財務(支)局等(沖縄総合事務局を含む)に委任しているところ、金融庁と財務(支)局等との間で十分な連携を図る観点から、3か月に一度、財務(支)局長等及び金融庁幹部が集まり、開催する会議。


「霞が関ダイアログ」オンライン開催~各府省庁施策を紹介~

監督局総務課地域金融支援室 主査 住本 史也

本稿において意見に係る部分は筆者の個人的見解であり、所属組織の見解を示すものではありません。)

 本年5月25日、金融庁地域金融支援室及び地域課題解決支援チーム※1は、「霞が関ダイアログ」※2をオンラインで開催しました。全国各地の地域金融機関や地方公共団体等をはじめ施策に関心のある担当者等、今回も約100名の方々に参加いただきました。

写真:司会・運営の様子
写真:司会・運営の様子

 冒頭に、地域課題解決支援チームのメンターである堀本善雄審議官から「霞が関ダイアログは、心理的安全性を確保し、自由闊達な意見交換ができる場づくりに努めていることから、省庁からのプレゼンテーターや金融機関等の参加者の皆さまには、間違った発言をしてはいけない、などと考えず、ぜひ積極的なプレゼンテーションに対するフィードバックや意見交換への参加をお願いしたい」との挨拶から始まりました。
 今回の「霞が関ダイアログ」も、主催する金融庁を含め6府省庁が連携し、デジタル田園都市国家構想、環境施策や農林分野、地域経済分析等の幅広いテーマが各府省庁担当者から紹介された後、施策担当者と参加者、参加者同士による活発な議論が交わされ、施策における理解を深めるとともに、参加者からも、それぞれの地域の取組みや課題が共有されました。
 参加者からは「施策担当者に直接質問が出来る機会が得られたことで、今後の地域における取組みの活用に向けて、理解が深まった」「企業や地方公共団体のデジタル化支援等を通じた地域の相談が増えている中、各府省庁の制度に対する考え方の一端を聞くことができ、参考になった」「公募期間中の施策もあり、効果的な時期に聞くことができたため、地域における取組みの検討・支援に向けて活用を検討したい」といった声が聞かれるなど、早速、各地域の取組みに活かそうとする動きもみられました。

 

写真:「霞が関ダイアログ」の様子
写真:「霞が関ダイアログ」の様子

今後も、金融庁地域金融支援室/地域課題解決支援チームでは、各府省庁と地域、地域と地域をつなぐことで、施策の浸透・好事例の展開を引き続きサポートしていきます。

 

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※1 「地域課題解決支援チーム」については、https://www.fsa.go.jp/policy/chiikikadaikaiketsushien-team/chiiki-kadai-top.htmlをご参照ください。

※2 「霞が関ダイアログ」:金融庁地域支援室及び地域課題解決支援チームと各府省庁が協働で企画し、各府省庁等の実務担当者と金融機関や地方公共団体の現場職員が直接対話する機会を通じて、地方創生を目的とした各府省庁施策や取組みの理解を深め、各地域における取組みの促進を図るもの。


省庁の垣根を越えた公的保険の広報
~公的保険への理解が過不足のない民間保険商品の選択につながる~

監督局保険課 課長補佐 西沖    悠
課長補佐 山﨑 一郎

 金融庁では、本年3月11日に公的保険制度に関するポータルサイトを開設※したところ、開設の経緯などについて、担当者へのインタビューを行いました。

写真:今回インタビューを受けた監督局保険課 西沖補佐(左)と山﨑補佐(右)

写真:今回インタビューを受けた監督局保険課 西沖補佐(左)と山﨑補佐(右)

問1 公的保険の解説に金融庁が注力しています。公的保険は厚生労働省が担当なので不思議です。まずは、金融庁の取組みの概要を教えてください。

【西沖】
 本年3月11日に、公的年金、公的医療保険などの公的保険制度を分かりやすく解説するポータルサイトを金融庁のウェブサイト上に開設しました。これは金融庁のウェブサイトで見られるだけでなく、プリントアウトをしてリーフレットとして活用することも可能です。ご指摘のとおり、公的保険の担当は厚生労働省ですので、同省に監修をしていただいています。

【山﨑】
 また、本年4月25日に、厚生労働省は、働き方・暮らし方の変化に応じて、将来受給可能な年金額を簡単に試算できる「公的年金シミュレーター」の試験運用を開始していますが、金融庁としても先ほど申し上げたポータルサイト上でもご案内したり、金融業界に周知するなど、その広報活動を連携して行っています。

監督局保険課 西沖補佐

問2 次に、取組みの狙いを教えてください。

【西沖】
 民間保険に加入いただく際には、お客様が個々のライフプランやリスクなどをきちんと理解され、過不足無く保険を選んでいただくことが重要です。わが国では、公的保険制度が充実していますから、自らの抱えるリスクを理解するためには、公的保険でカバーされる範囲についても理解いただいたうえで保険加入をご検討いただくことが重要だと考えております。
 そこで、公的保険の理解を促すよう、先ほど申し上げた取組みをしています。

【山﨑】
 民間保険を販売する際も、公的保険制度をお客様に理解していただいた上で販売商品の説明をすれば、お客様に商品の必要性を理解していただいたり、納得感が得られるなど、顧客本位の業務運営につながるという考えもあると思います。その際、保険業界の皆様にこうしたツールを活用いただくこともあり得るかと思っています。具体的な保険募集の在り方は、保険会社や保険募集人の創意工夫に委ねられるべきものだと考えますので、必ず活用していただきたい、というわけではありませんが、その一助になれば幸いです。

問3 公的保険制度を解説するポータルサイトでは具体的に何が学べるのでしょうか。

【西沖】
 これは、顧客が抱えるリスクを、ケガ・病気、老齢、死亡などのいくつかのタイプに分けて、それぞれに応じて、どのような公的保険制度があるか、また、それに応じた主な民間保険とは何があるかを分かりやすく解説したものです。
 さらに詳細を知りたい場合は厚労省ウェブサイトなどに進んだり、照会窓口にお電話いただいたりもできるように工夫しています。

【山﨑】
 例えば、長生きするリスクに対して年金があることは良く知られていると思いますが、死亡リスクに遺族年金があることや、ケガや病気に備える仕組みとして毎月の自己負担上限額を定める高額療養費制度があることなどは、意外に知られていない部分もあるかもしれません。そうしたことが一覧化されていることには意義があるのではないかと考えています。
 民間保険への加入をご検討されている方に、ポータルサイトで公的保険制度について知っていただくことで、ご自身にはどのような民間保険が必要かを考える一助になることや、保険の勧誘の際に、その方のニーズを的確に引き出した提案がされることにつながれば幸いです。

監督局保険課 山﨑補佐

問4 今後の取組みの方針を教えてください。

【西沖】
 昨年12月28日に、保険会社向けの監督指針を改正し、保険会社・保険募集人が民間保険を提案する際には、公的保険についても、各社の創意工夫のもとで適切に説明をして欲しい、という点を監督上の着眼点として明確化しました。

【山﨑】
 現在、それに基づいて、公的保険の説明の在り方について業界の皆様と対話をしているところです。公的保険を補完する関係にある保険商品を販売している会社においては、実際に保険を販売する中で、自社商品の保障内容を踏まえて公的保険の保障内容について説明・情報提供を行うことは重要だと考えます、とおっしゃっている社がほとんどです。また、公的保険の保障内容に関する説明・情報提供の重要性を踏まえて、保険募集人に対する教育や、顧客に対する説明に当たっての取組みなどにおいて、創意工夫を行っている会社があることも確認できました。

【西沖】
 今申し上げたような点も含め、対話の結果については、今夏に保険モニタリングレポートで記載して明らかにしたいと思っていますし、その後も継続していきたいと考えています。
 また、公的保険の周知も含めた保険教育のための施策についても、引き続き取り組んでいきたいと考えています。そのためには、厚生労働省とも、省庁を超えた連携を継続していきたいと考えております。

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~~以下、厚生労働省からのコメント~~

 厚生労働省は、スマートフォンやタブレットで、年金額を簡単に試算できるツール「公的年金シミュレーター」の試験運用を本年4月25日から開始しました。日本年金機構から送付される「ねんきん定期便」に記載の二次元コードを読み取り、生年月日を入力するだけで、ライフスタイルに応じた将来の年金額を手軽に試算することができます。
 「公的年金シミュレーター」は欧米諸国の先進的な取り組みを参考に、ファイナンシャルリテラシーの世界的権威であるペンシルベニア大学のOlivia S. Mitchell教授をはじめとする専門家からの御助言をいただき制作したコンテンツです。
 今後、金融庁とも連携の上、「公的年金シミュレーター」が幅広く活用されることを目指して取組みを進めてまいります。

(厚生労働省年金局総務課年金広報企画室 的羽・菊地・新藤)

 


 本年3月11日公表「公的保険制度を解説するポータルサイトの開設について」は、  https://www.fsa.go.jp/news/r3/hoken/20220311.htmlをご参照ください。


金融行政の国際交渉の総本山(スイス バーゼル)

欧州駐在 朝倉 利恵

1.はじめに

 海外駐在として現在スイスのバーゼルに住んでいます。スイスでの生活や駐在の業務内容についてご紹介させていただければと思います。

2.BIS90周年記念

 バーゼルに住んで感じたことは、規模に比して高い文化水準、リベラルな街、物価が高い、文化・言語・地理的に仏独伊が近い(他国からの通勤者多数)、といったことですが、金融関係者の方々にとってまず思い浮かぶのは駅前の丸い国際決済銀行(BIS)タワーではないでしょうか。BISタワーには少し前まで設立90周年記念の垂れ幕が掛かっており、昨年10月~11月には建物内の一部が一般公開されていました。

 BISは第一次世界大戦のドイツからの賠償金の徴収と分配のために1930年に設立され、その後各国中央銀行にとって重要な意見交換の場を提供してきました。今回の一般公開では、こういったBISの歴史や、ヘルシュタット銀行の問題をきっかけに1974年に設立されたバーゼル銀行監督委員会に事務局機能を提供するようになった経緯などが、映像と共にドイツ語及び英語で紹介されました。また、紙幣をデザインして印刷したり、クイズコーナーがあったりと、子供も楽しみながら金融を身近に感じることができるような工夫がなされていたことも印象的です。BISタワーは18階に全面ガラス張りになった眺望スペースがあり、BISのメンバーである63中央銀行への距離と方角が示されていますが、これも一般公開され、多くの家族連れが写真を撮っていました。8,000人を超えるバーゼル市民が来訪したようです。バーゼルは、後述する市を挙げてのお祭りや、大手企業による美術コレクションの寄贈といった文化的貢献など、市民との関わりが重視されており、国際機関であるBISのこういった取組もそのうちの一つではないかと感じました。

写真:気候を担当するFSB事務局員Kathy Huynh氏とBISタワー内で(筆者は写真左)
写真:気候を担当するFSB事務局員Kathy Huynh氏
とBISタワー内で(筆者は写真左)

3.現在のスイス

 無事BISタワーが一般公開されましたが、コロナの影響で一年遅れての開催でした。今ではスイスの規制はすべて撤廃され、公共交通機関内のマスクも不要となり、BISタワーへの出勤割合も徐々に増えている状況です。本年2月には、スイス最大のお祭り、ファスナハトも3年ぶりに開催されました。ファスナハトはユネスコ世界無形文化遺産にも認定された由緒あるお祭りで、月曜日早朝4時からパレードが開始されます。今年はお天気に恵まれていましたが、大雪の中実施される年もあるようです。バーゼルの人口が17万人ほどの中、仮装した1万人以上の人がわざと少し音を外したピッコロやドラムなどを演奏して練り歩き、その期間、バーゼル名物のトラムも路線が変更されます。あまりの大音量なので、場所によっては在宅勤務が困難で睡眠も妨げられますが、このために一年間準備に費やしてきたバーゼル市民がすべてを出し切る3日間で、まさに街を挙げてのお祭りです。

4.バーゼルでの業務について

 欧州駐在として、金融安定理事会(FSB)の気候関連の部会や、気候変動リスク等に係る金融当局ネットワーク(NGFS)のワークストリーム(WS)に参加しています。欧州当局や金融機関との対話や、欧州で開催されるカンファレンス等への参加も重要な任務ですが、コロナ後はバーチャル会合ばかりとなってしまいました。グラスゴーで開催されたCOP26に参加し、最近は少しずつ物理会合が増えています。オンラインになっても欧州駐在の時差のメリットは大きく、五大陸から参加するNGFSの会合や、頻繁に実施されるドラフティング作業などへの参加が可能です。地の利を生かし、日本の取組について日常的に事務局等と話すことで、会議での発言の裏にある事情を共有し、お互いの理解を深めることができるように思います。特に気候変動は誰にとっても新しい分野であり、各当局の具体的な取組に関心が強く、早い段階で発信していくことが重要だと考えています。

 本年4月末にはFSBから「気候関連リスクに対する規制・監督手法:中間報告書」が公表されました。金融安定の確保をマンデートとするFSBとして、気候変動から生じるシステムワイドな金融リスクに注目した文書で、気候関連データの収集やシステミック・リスクへの規制・監督対応において当局が考慮すべき事項などについて、6月30日まで広く意見が求められています。NGFSからも「グリーン及びトランジション・ファイナンスに係る市場の透明性の向上」や「気候関連リスクによるリスク差異の把握」などの文書が公表され、近日中にはシナリオの改訂版が公表される予定です。気候変動への対応は実施局面に入っており、文書の中でも各法域における対応事例が紹介されるなど、実務的な課題の共有が進められています。

5.NGFSの組織改編

 NGFSは、本年1月に欧州中央銀行(ECB)のフランク・エルダーソン議長が退任し、シンガポール金融管理局(MAS)のラビ・メノン長官が議長に、独連銀のサビーネ・マウデラー理事が副議長に就任し、5月から体制も刷新されました。

 これまでのWS1(Microprudential/Supervision)は、Supervisionという名前に変わり気候関連リスクに係る監督上のプラクティスについて議論する予定で、議長はシンガポールMASからカナダ金融機関監督庁(OSFI)のJamey Hubbs氏に引き継がれました。WS2(Macrofinancial)は、Scenario Design & Analysisという名前に変わりNGFSシナリオの策定や検討を行う予定で、議長は英中銀からECBのCornelia Holthausen氏に引き継がれています。WS3(Scaling up green finance)は金融政策(議長:英中銀James Talbot氏)とNet Zero for Central Banks(共同議長:伊中銀Paolo Angelini氏及びニュージーランド準備銀行Simone Robbers氏)の2つのWSに分かれることとなりました。また、自然関連リスクのタスクフォース(共同議長:仏中銀Sylvie Goulard氏及び蘭中銀Saskia de Vries氏)とキャパシティ・ビルディングとトレーニングのタスクフォース(共同議長:マレーシア中銀Madelena Mohamed氏及びBIS Jeffery Yong)が設置されています。

6.駐在について

 ニューヨーク、ロンドンに続き今回3回目の駐在任務であり、それぞれリーマン・ショック、ブレグジット、コロナと、大きな出来事を現地で経験することとなりました。現地当局と幅広いアジェンダについて意見交換できることにやりがいを感じるとともに、リモート環境が大きく改善されたとは言えやはり日本への距離は遠く、日本についての理解を深めることが難しいのが課題でもあります。

 現地当局と話す中で、政策に関する迷いや日々の作業における細かな苦労など当局者として抱える悩みは意外にも同じであることに気づかされます。そのうえで、滞在国も自分の年齢もリモートの業務環境も大きく異なる中で、個人的には駐在の役割はそれほど大きく変わっていないのではないかと思っています。日々感じている問題認識を共有することで、交渉だけでは得られない共感や課題解消に向けた関係構築ができるように思います。またそれは、現地の日系金融機関の方々との関係にも言えることです。海外にいるとオールジャパンとして官民の垣根は無くなり、組織を超えた議論をさせていただけるように感じています。こういった関係は、組織にとっても駐在員にとっても、短い駐在期間だけではなく、長期的な財産になると思っています。
 


先月の金融庁の主な取組み(令和4年5月1日~5月31日)

高校向け金融経済教育指導教材のPDF版の公表(5月10日)
金融関係団体等に対し、「原油価格・物価高騰等総合緊急対策」を踏まえた資金繰り支援の徹底等について要請(5月11日)
「Regional Banking Summit (Re:ing/SUM)地域金融のチカラでつくる未来」における5月12日)
ギャンブル等依存症問題啓発週間(5月14日~5月20日)
「記述情報の開示の充実に向けた解説動画」の配信(5月18日)
「金融商品取引法施行令の一部を改正する政令(案)」等のパブリックコメント結果(5月18日)
金融教育の時代に必須の取組!若年層取引につなげる情報提供(5月20日)
天谷金融国際審議官によるResponsible Investor「RI Japan 2022」における基調講演(5月25日)
「金融サービス利用者相談室」における相談等の受付状況等(期間:令和4年1月1日~同年3月31日)の公表(5月27日)
預金口座の不正利用に係る情報提供件数等の公表(5月27日)
「資産運用業高度化プログレスレポート2022」の公表(5月27日)


 


編集後記

新たな企画として、
今月号に担当者へのインタビューを掲載しました。

「政策の解説記事は文章が固くて読みにくいことが多い。
インタビュー記事のほうが、リズム感があって読みやすいのでは」
という意見を参考にしました。

このようなインタビュー記事をこれからも掲載してまいります。

写真
(インタビューの様子。ライトスタンドを活用。)

金融庁広報室長 齊藤 貴文
編集・発行:金融庁広報室

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