有識者コラム

(注)本コラムは有識者本人の個人的見解に基づいて書かれたものであり、当庁の見解、意見等を示すものではありません。

心とお財布が幸せになる!お金との付き合い方

  • 平成29年10月18日
  • ファイナンシャルプランナー
  • CFPR 認定者
    山中伸枝

第6回 老後資金作りはiDeCoをフル活用!

こんにちは、ファイナンシャルプランナーの山中伸枝です。

人生100年時代!最近よく聞く言葉です。アラサー(30歳前後)、アラフォー(40歳前後)、アラフィフ(50歳前後)、アラカン(還暦前後)、年代を表現する言葉も色々ありますが、更にアラハン。アラウンド・ハンドレッド、100歳前後の方を表現する言葉です。

せっかく神様から長生きというギフトを頂いたのですから、元気に暮らしたいですよね。

さて、「生活」の時間が長くなると気になるのが「生活費」の確保です。第1回目のコラムで「ねんきん定期便」から将来の老齢年金を試算する方法をご紹介しましたが、やはり公的年金だけでは老後の生活が心配という方が多いです。

日本の年金制度は賦課方式という支え合いの仕組みで、現役世代が負担する保険料が高齢者の生活保障として支給されます。だからこそ、「制度」としてずっと維持されますし、寿命が延びても終身保障を受けることができます。

しかし長寿を支える年金はもともと「物価スライド」といって物価が上がれば年金受給額も上がる安心設計だったのですが、最近は「マクロ経済スライド」といって実際の物価の上昇よりも少な目に(マクロ経済スライド率)年金受給額を上げますよ、というルールに変わりました。すなわち、世の中の物価に年金受給額は追いつかなくなり、年金受給期間が長くなればなるほど、生活に必要なお金(物価の影響を受ける)と年金受給額に開きが生じてしまうのです。

では、その「開き」を埋める手段はなにか・・・やっぱり「自らが主体性をもって資産形成に取り組むこと」なんですね。「貯蓄から資産形成へ」との声が聞こえるなぁと思っていらっしゃる方も多いかと思いますが、いろんな意味で資産形成は必然なんです。

もちろん資産形成の掛け声だけではなく、資産形成の環境も整ってきました。その一つが前回ご紹介したNISA(少額投資非課税制度)です。運用益にかかる税金が免除される期間が5年のもの(一般NISA)と投資金額は少額ですが免除期間が20年のもの(つみたてNISA)、それとお子さんのためのジュニアNISAと3つの種類があります。

それともう一つが、今回ご紹介するiDeCo(イデコ)です。こちらは個人型確定拠出年金のニックネームです。もしかしたら企業型確定拠出年金は知っているという方もいらっしゃるかもしれません。後者は会社が従業員のために用意する「企業年金」としての確定拠出年金で、前者は会社に制度がない方が任意に加入する「私的年金」としての確定拠出年金です。企業型確定拠出年金は会社の制度なので会社によって仕様が異なりますから、今回は国の制度であるiDeCoについてお伝えします。

iDeCoもNISA同様、税制優遇がある「特別な口座」で運用が出来る制度です。この口座は銀行や証券会社、保険会社あるいはiDeCo専用会社で作ることができます。20歳以上60歳未満、自営業者、会社員、公務員、専業主婦とほぼすべての方が加入できます。ただし会社で企業型確定拠出年金に加入している方は、会社のルールをご確認ください。会社によってiDeCoの加入が可能というところもあります。

iDeCoもNISAと同じように、運用で得た利益にかかる税金が免除となります。NISAと違う点は、非課税期間が年数ではなく年齢で区切られている点です。iDeCoは最長70歳まで非課税期間が続きます。従って若い方ですとNISAより長く非課税メリットを受けることができます。

前回お伝えしたようにNISAは少額「投資」非課税制度なので、口座の中で購入できる商品は投資商品のみです。一方iDeCoは口座開設をした金融機関が準備した商品ラインナップの中からというしばりはありますが、元本確保型商品または元本変動型商品(投資信託)で運用することができます。例えば、iDeCoの口座で定期預金を選ぶと通常の預金利息にかかる20.315%の税金がかからないのでお得に貯蓄ができるのです。

また、iDeCoには所得控除というNISAにはない特徴があります。まずiDeCo口座に貯蓄をする掛金は全額自分の所得から控除されるので節税になります。例えば月々2万円をiDeCo口座に積立をすると年収500万円の方であれば年末調整で約24,000円の所得税の還付が受けられます。(実際は所得によって課税率が異なります。また、会社員の場合、掛金が給与天引きで徴収されると毎月の給与で税金が調整されるので年末調整での還付はありません。)さらに住民税も全額が所得控除です。住民税はお住まいの地域に関わらず10%ですから、年間24万円の積立をすると住民税も24,000円安くなるのです。

年間24万円の貯蓄で約48,000円の税金の還付が受けられる可能性があるのですから驚きですね。iDeCoの掛金は60歳まで拠出することができますから、30歳から始めるとこの税のメリットだけで約144万円得する訳です。

iDeCoは最長70歳まで貯めたお金を非課税口座で運用することができます。また60歳から70歳までの10年の間であれば、好きな時に引き出しすることも可能です。実はお金を出す時も税制優遇があります。一時金として受け取ると退職金扱いに、年金として受け取ると公的年金扱いになるのです。

退職金というのは所得税の計算上もっとも税金がかからないように考慮された所得です。勤続年数に応じて退職所得控除が計算され、それでも控除しきれない部分はその半額のみに課税されるという特別措置です。でも最近は転職も当たり前になってきていますから、長期間の勤続は少ないのです。従って大きな退職所得控除を使える方も限られてきました。

そこで注目されるのがiDeCoです。iDeCoはあくまで「私的年金」なのですが、任意で掛金を拠出していた期間をなんと「勤続年数」としてカウントしてくれるのです。退職金がない会社も増えていることから、時代にマッチした自分でつくる退職金という側面もあるのですね。仮にiDeCoを30年間続けると、退職所得控除は1,500万円、つまりその枠内であれば全額非課税で受取が出来ます(勤続年数20年までの退職所得控除は1年あたり40万円、20年超は1年あたり70万円)。

もし退職所得控除以上の資産ができた、あるいは分割で受け取りたいといった要望がある場合は年金として受け取ることも可能です。この場合、公的年金控除が適用でき、やはり税金を抑えながら受取ができます。

受取については、iDeCoの他に会社からの退職金があるのか、退職後の働き方はどうするのか、公的年金は繰下げ受給や繰上げ受給(受給開始年齢の変更)をするのかなどにより、どの受け取り方がもっとも税制上有利なのかはシミュレーションする必要があります。税制上有利となる方法はケースバイケースなので、とりあえずiDeCoは受取方法に選択肢がある分有利な税制を選べる、と理解しておいていただければと思います。

さあ、ここまで説明するとiDeCoの方がNISAより魅力的に感じられると思います。確かに、所得控除などの税制優遇を踏まえると、iDeCoの方がお得です。しかし、iDeCoは公的年金を補完する目的で作られた制度なので、60歳までは資産が下ろせない仕組みとなっています。また、加入者の年金被保険者区分等により掛金に上限が設けられています。自営業者は月68,000円、会社員は23,000円、ただし会社に確定拠出年金以外の企業年金がある場合は12,000円、公務員も12,000円、専業主婦は23,000円です。

結論としては、それぞれの特徴を理解し、みなさんのお金の用途に合わせてiDeCoとNISAを上手に使い分けることが必要ということです。可能であれば、両方ともフル活用したい仕組みですね。iDeCoとNISAの同じところ・違うところについて、簡単に表にまとめましたので、参考にしていただけると幸いです(ジュニアNISAは少し特殊なので除きました)。

iDeCo NISA つみたてNISA
対象 20歳〜60歳までの方(お勤め先等によりできない方もあり) 20歳以上だれでも
税制
優遇
掛金 全額所得控除 なし
運用益 非課税 最大70歳まで 5年間 20年間
受取 退職所得控除または公的年金控除 なし
制限 掛金・投資額 職業などにより異なる。(詳しくは本文参照)2018年より年払い可 年間120万円まで 年間40万円まで、積立投資のみ
資金の引き出し 原則60歳まで不可、死亡給付、障害給付あり いつでも可
運用商品 元本確保型・元本変動型 元本確保型なし
株、投資信託、ETF、REITなど
元本確保型なし
金融庁に届出の投資信託103本(10月2日時点)
併用 NISA or つみたてNISA 〇 iDeCo 〇
つみたてNISA ×
iDeCo 〇
NISA ×

次回はiDeCoとNISA、具体的にどこでどんな風に始めたら良いのか、お伝えしていきたいと思います。

有識者プロフィール

山中 伸枝

CFPR認定者。ファイナンシャルプランナー。1993年、米国オハイオ州立大学ビジネス学部卒業後メーカーに勤務。これからは自らの知識と信念で自分の人生を切り開いていく時代と痛感し、FPを目指す。
著書:「なんとかなる」ではどうにもならない 定年後のお金の教科書(インプレス)ど素人が始めるiDeCo(個人型確定拠出年金)の本(翔泳社)他

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