有識者コラム

(注)本コラムは有識者本人の個人的見解に基づいて書かれたものであり、当庁の見解、意見等を示すものではありません。

心とお財布が幸せになる!お金との付き合い方

  • 平成30年3月30日
  • ファイナンシャルプランナー
  • CFPR 認定者
    山中伸枝

第11回 50代の資産形成:キャリアの棚卸で生涯現役を目指そう

こんにちは、ファイナンシャルプランナーの山中伸枝です。

人生100年時代という言葉、最近とてもよく耳にしますね。私たちの寿命が伸びることは幸せなことですが、一方で「何歳まで生きるの?お金は足りるの?暮らしは大丈夫なの?」といった不安の声もよく耳にします。

そこに将来の年金がいくらなのか分からない不安、低金利でお金の成長も見込めない不安も加わって、100年時代を心から歓迎できないという方も多いようです。

ところで、私たちみんなの一生が100年になるとどういうことが起こるのでしょうか?

きっと「老後」とか「定年」という概念が変わってくるのではないかと思います。仮に60歳で仕事を辞めてしまうとそこから先が40年あります。20歳で社会人になってから60歳定年までの時間と同じだけの時間が続くわけですから、昔のような定年、引退というシナリオとは全く異なる様子となるでしょう。

特に老齢年金の観点から考えても、これからは年金受給開始年齢の65歳からを老後と定義づけるよりむしろ70歳と最初から考えて準備する方が理に適っているようです。

ご存じの方も多いかと思いますが、老齢年金には繰上げ、繰下げというオプションがあります。繰上げというのは、本来65歳から受け取る年金を最大5年間、つまり60歳まで「繰上げ」て受け取る制度です。この場合、1か月あたりの繰上げで0.5%の引き下げ率が適用されますから、5年繰り上げると30%減額されます。

厚生労働省が「年金モデル」を発表しています。現役時代会社員だった夫と専業主婦の2人暮らしの高齢者が受け取っている年金額は夫婦合わせて月約23万円だそうです。また総務省が発表する2人世帯の平均的な生活費は月約28万円。つまり夫婦同い年であれば、65歳から年金生活が始まったとして、その後、恒常的に月5万円の赤字が発生するということです。

年金モデルを60歳に繰り上げると30%の減額ですから、月69,000円年金額が減り、月161,000円となります。必要な生活費は月28万円でしたから、一気に月の赤字は119,000円となり、100歳までの累積赤字は6,000万円近くに迫ります。

こう考えると60歳で完全リタイアして、無収入となっても大丈夫な方というのは、それなりに資産のある方に限られてきますね。普通の人にとって、60歳リタイアというのは、かなり現実味の薄いことになりそうです。

では、年金を70歳まで繰り下げたらどうなるでしょうか?繰上げと異なり、繰下げは月0.7%の増額です。つまり65歳で受け取るはずの月約23万円の年金額が、42%増額され月約33万円に増えるのです。国の年金は終身ですから70歳から100歳まで月33万円の年金が確保できることにより、必要な生活費28万円を差し引いても月5万円「余裕のある」暮らしができることになります。

あくまでもモデルケースなので個々の状況は違いますが、この例で行くと70歳まで公的年金に頼らない生活設計ができれば、70歳以降は公的年金だけで十分生涯にわたる安心を手に入れることができます。

70歳までのやりくりを自分で準備すると決まれば、少し今後の計画のメドが立ちやすくなります。仮に会社の定年が60歳であれば70歳までの10年間の生活費を確保すれば良い事になります。先ほどと同様、夫婦二人暮らしの生活に必要なお金を28万円とすれば10年分は3,360万円です。

準備しなければならないお金が見えてきたとはいえ、3,360万円は大金です。では、65歳までは「働く」と条件を変えて考えてみましょう。定年後は嘱託として再雇用をする会社も多いようですが、残念ながら収入は大幅に減ります。100年人生を見越し、高齢期の働く環境も改善される兆しもありますが、現状はまだまだ厳しいです。

仮に月25万円の収入になったとしましょう。月の赤字は3万円になりますから、65歳までの5年間の赤字は、180万円、65歳以降70歳までの5年間の赤字は1,680万円、合計1,860万円が老後に必要なお金の再計算後の数字となります。

では、65歳以降も週に3回程度仕事をして月10万円ほど稼げるようだとどうなるでしょうか?70歳までの10年間の赤字は、1,260万円まで圧縮することができます。

こう考えると、老後の家計はどうやら「これからの働き方」にずいぶん影響されることが分かります。もちろん老後に備えて、しっかり貯蓄をするのはとても大切です。しかし日々の暮らしの中で、3,000万円、4,000万円、ましてや6,000万円もの大きなお金を貯めるのはやはり難しいでしょう。そうなると、「長く稼げる自分」でいることも、考えていくべきことなのかもしれません。

私自身は50代ですが、30代からフリーでファイナンシャルプランナーという仕事を始めたので、定年という考えがそもそもありません。従って、働く自分でいることはごく自然の考え方としてここまでやってきました。

女性の独立起業がとても珍しかった当時、もちろんフリーで十分な収入を得ることは簡単なことではありませんでした。子どもも小さかったですし、時間の制約、能力、体力の限界など障壁も多く、今思えばよくやってこられたなと感心します(笑)。

パートの仕事を探すなど他にもオプションはあったのですが、私はフリーで自分が一生をかけて社会貢献できる仕事をしたいと思いました。死ぬまで現役で働ける、死ぬまで働く喜びを感じられる、時間を重ねることでさらにキャリアを積み収入を得られる自分でいたいと願ったのです。

私がそんな風に思うようになったのは、ある女性の一言がきっかけでした。

当時29歳の私は、勤めていた会社がシンガポールに工場を立ち上げたので、そこのローカルスタッフの採用を任されていました。海外で、始めて行う採用の仕事。正直何をどうやって良いのか、全てが手さぐりで本当に苦労しました。幸いなことにとても優秀な女性スタッフの採用にこぎつけることができ、やっとの思いで入社の日を迎えることができました。

午前中のOJT終了後、昼食から戻ってくると、彼女は机でお弁当を広げなにやら雑誌を読んでいました。私はあまり年齢もかわらないシンガポールの女性が、どんな雑誌を読んでいるのだろうかと興味津々で覗いてみました。その時は、きっとファッション雑誌でも読んでいるのだろうと、ほんの軽い気持ちで覗いてみたのです。

彼女が読んでいる雑誌がなんなのか理解した私は、一瞬であー見るんじゃなかったと後悔しました。なぜならば、それは求人雑誌だったからです。

えっ、もう会社を辞めようと思っているのかしら。せっかく採用したのに、また求人しなきゃいけないの?正直パニックでした。そこで恐る恐る彼女に聞いてみたんです、「どうして求人雑誌を読んでいるの」って(笑)

すると彼女は私が勘違いしていることに気づき、ほほえみながら、「私は求人雑誌を見ながら、世の中ではどのようなスキルが求められているのか、より収入の高い職種は何なのか、またそれにつくためにはどんな勉強をしたら良いのかをリサーチしながら、自分のマーケットバリューを高める努力をしているんです。頑張りが認められたら、給与もあげてもらえますから」と言いました。

マーケットバリュー、その時初めて聞きました。正直しびれました(笑)

マーケットバリュー、翻訳すると市場価値となるでしょうか?社会からの自分自身の評価がどういうものなのかを計るという意識、自分自身の価値を高めるという意識は、強烈な刺激となり、目からうろこでした。目の前で自分と年も変わらない女性が、人生をより良くするために社会から求められるスキルを真剣にリサーチし、世の中から求められる「人材」になろうと自身の価値を高める努力をしている。

正直、衝撃でした。それまで私自身は、自分のマーケットバリュー、社会にいかに貢献し対価を得ていくかなんて、そこまで真剣に考えたことがなかったからです。

彼女のこの一言は、私の意識を大きく変え、人生に大きな影響を与えてくれたと思っています。

その後日本は山一証券の破たんがあり、失われた20年の中で国や会社に依存せずどうやって生きていくのか一人一人が考え、自らの足で立ち、自らの手で経済的自立を勝ち取っていかなければならない時代に突入します。普通に頑張る人達のライフプランを支える仕事がしたい、それが世の中に求められる仕事であり、私が担う仕事だ、そんな想いに取りつかれ、フリーのファイナンシャルプランナーとしてのキャリアがスタートしました。

日本に住む多くの方は、まだまだ自分自身のマーケットバリューを高めようという意識が薄いように感じます。特に長年同じ会社でお仕事をしてきた方に、これからどのような働き方をしたいかをうかがうと、「自分にはこれといってスキルがないから、思いつかない」とおっしゃる方も多いです。そしてこう続きます。

「50代になると役職定年になり収入が減るし、60歳を過ぎると再雇用といいつつ、給与は新入社員並みまで落ちてしまう。気持ちが前向きにならないし納得はいかないけれど、受け入れるしかないですよね。これからも生きていくために働かなければならないのだと思うと気が重い」と。

同じ会社で一生懸命勤めあげた人にスキルがないなんてあるわけがありません。もう一度ご自身のこれまでのキャリアの棚卸をしてみるべきです。そしてその経験を活かし、これからいかに社会に貢献し対価を得ていくのかをしっかり考えるべきです。50代は人生100年のまだまだ中間地点、今、ご自身のマーケットバリューを見つめ直さないでどうするんですか!と思うのです。50代はこれからの「生き方、働き方」を考えてみるには絶好のタイミングです。

もしかしたら、この機会にご夫婦で役割チェンジをしてみるのも良いかもしれません。会社員だったご主人は家事を、主婦だった奥さんは外で仕事を。それぞれが、過去の経験をもとに新しい仕事にチャレンジするとおもわぬメリットが生まれてくるかもしれません。

50代、これまでの自分に自信をもって、そしてこれからの自分に勇気をもって人生を楽しみましょう。働いて社会に貢献し対価を頂くことは誇りだと思います。

有識者プロフィール

山中 伸枝

CFPR認定者。ファイナンシャルプランナー。1993年、米国オハイオ州立大学ビジネス学部卒業後メーカーに勤務。これからは自らの知識と信念で自分の人生を切り開いていく時代と痛感し、FPを目指す。
著書:「なんとかなる」ではどうにもならない 定年後のお金の教科書(インプレス)ど素人が始めるiDeCo(個人型確定拠出年金)の本(翔泳社)、100人以下の会社のためのiDeCo&企業型DC楽々活用法(日本法令)他

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