アクセスFSA 第239号

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全国信用金庫大会 
~鈴木大臣の挨拶~

本年6月21日、「全国信用金庫大会」が開催され、鈴木大臣が、以下のとおり挨拶を行いました。

○はじめに

金融担当大臣の鈴木俊一でございます。本日は、全国信用金庫大会にお招きいただき、誠にありがとうございます。本大会の開催を心よりお慶び申し上げますとともに、開催に当たり、一言ご挨拶を申し上げます。

日本経済につきましては、コロナ禍からの社会経済活動の正常化が進みつつある中、一部に弱さがみられるものの、緩やかな持ち直しの動きが続いております。一方、世界的なエネルギー・食料価格の高騰や欧米各国の金融引締め等による世界的な景気後退懸念など、日本経済を取り巻く環境は引き続き厳しい状況にあります。
 とりわけ、中小・零細事業者の方々は、コロナ禍や物価高騰等の影響を受け、日々の資金繰りや増大した債務の返済負担に苦しんでおられるものと認識しています。

こうした中、信用金庫の皆様におかれましては、これまで、事業者支援に大変なご尽力をいただき、感謝申し上げます。

今後、新型コロナで大きく傷ついた日本の経済社会を立て直す上で、事業者の資金繰り支援はもちろんのこと、経営改善支援等の必要性が更に高まっていくことが見込まれます。

本年1月から開始された新たな借換保証制度の活用を積極的に提案し、伴走支援に努めるなど、事業者の資金繰りに、引き続き万全を期していただきたいと思います。加えて、増大した債務の返済負担に苦しむ事業者に対する収益力改善・事業再生・再チャレンジの支援にも、能動的に取り組んでいただくなど、事業者に最大限寄り添った支援に取り組んでいただきますようお願い申し上げます。

○資産所得倍増プランについて

わが国経済が持続的な成長を実現していくためには、気候変動への対応に伴う産業構造の転換や、格差の拡大、地域における人口減少への対応など、社会的課題への対応が急務となっております。

政府としては、「新しい資本主義」を通じて、社会課題を成長のエンジンへと転換することで、経済の付加価値を高めつつ、企業があげた収益を労働者に分配し、消費も企業投資も伸び、更なる経済成長が生まれるという、成長と分配の好循環を実現していくことを目指しております。

これらの推進には、金融面からのサポートが重要であり、金融庁としても精力的に取組みを進めていきたいと考えております。

今年は「資産所得倍増プラン元年」として、貯蓄から投資へのシフトを抜本的に進めてまいります。
 3月末には、来年1月からのNISAの抜本的な拡充・恒久化が決まりました。さらに、国民の安定的な資産形成の支援に関する施策を国全体として総合的・計画的に進めていくため、国家戦略としての「基本方針」を定めていきたいと考えています。また、官民一体となって金融経済教育を広範かつ効率的に実施するため、金融経済教育推進機構の創設も進めていきます。

家計の安定的な資産形成を進めていく上では、こうした取組みと合わせ、日頃から顧客に寄り添い、顧客へ運用商品をお届けする役割を担う金融機関の皆様のご理解とご協力が不可欠です。金融庁は、これまで「顧客本位の業務運営に関する原則」に基づき、金融機関等の皆様に、顧客の最善の利益を図る取組みを促してきましたが、これを法定化することで、一層の定着・底上げを図っていきたいと考えています。信用金庫の経営陣の皆様が、ぜひイニシアティブを発揮して、家計の資産形成を後押ししていただくことを期待しております。

○「資産運用立国」の実現について

先日とりまとめられた「骨太の方針2023」では、2,000兆円にのぼる家計金融資産を開放し、持続的成長に貢献する「資産運用立国」の実現を目指すことが盛り込まれました。資産運用業は、家計に良質な運用商品を提供し、また、投資先となる企業の中長期的な企業価値向上に向けたスチュワードシップ活動を行うなど、とても重要な役割を担っていると認識しています。資産運用業等の抜本的な改革を行うための政策プランを年内に策定していきたいと考えております。

信用金庫の皆様にとっても、顧客に投資信託などの運用商品をお届けする上で、運用商品のクオリティは欠かせないものだと思います。資産運用立国の実現に向けたご支援をよろしくお願いいたします。

本年に入り日本の株価は好調な状況が続いています。日本株が買われている要因は様々なものがあると思いますが、日本企業の収益力向上に対する期待が大きいことが指摘されています。
 金融庁は、4月にコーポレートガバナンス改革の実質化に取り組むアクションプログラムをとりまとめました。貯蓄から投資への流れを促進し、資産運用の高度化を図るとともに、投資対象としての日本の企業や金融資本市場の魅力を向上させることによって、成長と資産所得の好循環を実現させていきます。

挨拶する鈴木大臣
写真:挨拶する鈴木大臣

○グリーン・トランスフォーメーション(GX)等に関する取組みについて

グリーン・トランスフォーメーション(GX)等に関する金融面での取組みについても、ご紹介したいと思います。

金融庁においては、サステナブルファイナンスの重要性が年々高まっていることを踏まえ、昨年7月に、金融機関における気候変動への対応について「基本的な考え方」を公表するほか、社会・環境的効果と投資収益の双方を目指すインパクト投資など、新たな金融手法の活用を推進しているところです。

中堅・中小企業は、日本のGDPの4割、従業員の7割以上を占めており、カーボンニュートラルの実現に向けて重要な存在です。金融庁は、地域でのGX投融資を促すため、地方自治体と地域企業、金融機関等による推進協議体の設置等も支援していきたいと考えています。

地域の脱炭素化に向けた地域金融機関への期待は非常に大きいと認識しています。皆様方におかれましては、金融庁における取組み等も踏まえながら、持続可能な地域経済の確立に向けて、事業者との対話や支援等に取り組んでいただきたいと思います。

○人への投資について

最後になりますが、信用金庫の皆様は、地域の事業者にとって、最も身近で、安心して頼れるパートナーとして、各地域の様々な課題解決に取り組んでいるものと承知しております。

そうした課題解決力を高めていくためには「人への投資」が欠かせません。それぞれの人的投資・人材育成に取り組んでいただき、また、全国規模のネットワークも活かしながら、信用金庫の経営基盤をより強固なものとし、地域経済との共栄を図っていただきたいと考えております。

結びに、本日ご列席の皆様のご多幸とご健勝を心より祈念いたしますとともに、信用金庫業界の益々の発展を祈念いたしまして、私の挨拶とさせていただきます。
 


Tech Forming Team 「法令高速読み合わせツール」の開発
~読み手の自動化による業務効率化~

政策オープンラボ Tech Forming Team

長谷川 正樹、桐山 祐貴、岩﨑 唯

金融庁では、若手職員を中心とした人材の育成・活用、組織の活性化に取り組むとともに、職員の新たな発想やアイデアを積極的に取り入れ、新規性・独自性のある政策立案へとつなげるため、職員による自主的な政策提案の枠組み「政策オープンラボ」を設置しています。

政策オープンラボ「Tech Forming Team」は、「金融庁を創造的な仕事・人材にあふれた環境へ」を理念として、非効率な業務手法・習慣を再構成し、若手職員の業務を効率化するプログラムの開発や、最新のITスキル・プログラミングノウハウを吸収する機会を提供している有志チームです。1~4年目の若手を中心に17名が在籍) し、

  • 1.非効率な業務手法・習慣を再構成し若手職員の業務を効率化
  • 2.若いうちから金融行政の内容に係る業務を担当できる金融庁へ
  • 3.最新のITスキル・プログラミングノウハウを吸収する機会を提供

すべく、業務効率化に資する様々なプログラムやツールを開発しています。

今年の「Tech Forming Team」活動から、新たに開発した「法令高速読み合わせツール」をご紹介します。

背景

「法令読み合わせ」とは、法令改正の際に行われる確認作業の一つです。法律改正・政令改正の場合は、改め文と新旧対照表との対応関係や、形式・誤字の確認を目的として、1人の職員が改め文を音読し、他の職員がその音声を聞きながら文面を確認しています。

この作業は、読み手と聞き手の2名以上が予定を合わせる必要があり、かつ長時間に及ぶため、大きな負担となっていました。また、同音異義語などを音声上区別するために、特殊な読み上げ方(「掲げる」を「けいげる」と読む等)をしており、読み手を担うには読み方の知識や慣れが必要となります。

ツールの概要

こうした状況を改善するため、読み合わせ作業について、原稿を自動で音読するアプリケーションを開発しました。
 元の原稿ファイルを読み上げ用の原稿に変換し、PCの各種機能で読み上げさせるという仕組みです。このツールを利用することで、担当者は一人で自由な時間に読み合わせ作業を行うことが可能となります。また、プログラムが音読を行うため、読み飛ばし等の人的ミスの防止につながります。 そして、読み合わせ作業の知識を、データとして集約することも可能となります。

今後、ツールの高度化に向けて、他省庁や外部組織の方との意見交換や協業ができれば嬉しく思いますので、ご関心がありましたら、ぜひお気軽にご連絡ください。

「法令高速読合わせツール」の開発による読み手の自動化

ワークスタイル変革取組アワードで最優秀賞を受賞、河野大臣から表彰されました!

本取組は、令和5年6月、ワークスタイル変革取組アワード において、「業務見直し・デジタル化部門(本省の部)」の最優秀賞を獲得し、河野大臣、川本人事院総裁から表彰いただきました。授賞式では、2分間の受賞者スピーチの後、質疑応答が行われ、激励のお言葉をいただきました。

授賞式の様子(左:河野大臣、右:長谷川)
写真:授賞式の様子(左:河野大臣、右:長谷川)

~河野大臣御発言(抜粋)~

このツールは、これは金融庁だけでなくてあらゆる霞が関でやってることではないかと思うので、2人でやってるものが1人になる、あるいは1人ずつでやってくれれば、2回分くらいになるわけだから、かなり効率化にはなると思います。(中略)これはもう本当に各省庁、横展開すぐにでもできると思いますので、本当にありがとうございます。すぐ横展開できるようにしていきたいと思います。

 

※  内閣人事局・人事院・デジタル庁が行政のワークスタイル改革を各職員により一層普及することを目指して開催。受賞プロジェクトは全国の国家公務員による投票で決定され、1万1千人以上の職員が投票した。各省庁から応募のあった計146件の取組のうち、二次選考へ進んだ24件の取組を対象に投票が実施され、最優秀賞4件(デジタル化部門、人材開発部門それぞれ本省部門、地方部門1件ずつ)、優秀賞8件(2件ずつ)を決定(本取組の得票数は2,663票)。


地域課題解決支援チームの取組み

政策オープンラボ 地域課題解決支援チーム

笠井 泰士

政策オープンラボ「地域課題解決支援チーム」は、2018年10月から、地方公共団体や地域金融機関をはじめ、地域活性化に取り組むさまざまな地域関係者との対話を重ねながら、地域の相談に応じて、地方と中央、官と民との結節点、通訳機能を果たしながら、課題解決に向けた施策をともに考え、実現を支援していく取組みを続けています。

本事務年度の当チームの取組みを一部、紹介させていただきます。

~北海道旭川市での活動~

北海道旭川市では、市内事業者を対象に外部人材の獲得にかかる経費を補助するとともに、滞在する外部人材に旭川市の魅力を伝え、旭川市との交流を深めることで関係人口の創出・拡大、「旭川のファン」を増やすことを目的に、2022年8月から「旭川市たいせつなファン獲得支援補助金」を導入しました。

この施策の活用にあたって、当市や地域金融機関では、行政と地域金融機関等との連携方法を模索していたところ、当チームが相談を受けて、旭川市・地域金融機関・北海道財務局旭川財務事務所・当チーム等で議論を重ね、地域金融機関が課題を抱える事業者の抽出、市内事業者と首都圏IT企業に務める人材とのマッチングを行ったことで、施策の活用を通じたデジタル技術導入の支援につなげました。

2023年6月には、地域における事例の共有や新たなネットワーク形成を目的に、「旭川市たいせつなファン獲得ミーティング」(主催:旭川市、協力:北海道財務局旭川財務事務所他)が開催されました。同イベントでは、市内事業者と支援機関である地域金融機関、外部人材とのパネルディスカッション、登壇者と参加者、参加者間の名刺交換会・個別相談会が行われました。本イベントを契機とした地域関係者間のつながりから、現在では、地域内で新たな事業創出に向けた議論が展開されています。

旭川市たいせつなファン獲得ミーティングの様子の写真
旭川市たいせつなファン獲得ミーティングの様子の写真
写真(上下):旭川市たいせつなファン獲得ミーティングの様子

~霞が関ダイアログ~

地域課題解決支援チーム及び地域金融支援室では、各府省庁の施策を全国津々浦々の地域活性化に取り組む方々に届け、各省庁担当者と参加者との直接対話する場を創出する「霞が関ダイアログ」というイベントを定期的に開催(オンライン)しています。

第15回「霞が関ダイアログ」(申込者数:約180名)では、内閣府・環境省・経済産業省・農林水産省・金融庁の5府省庁が連携し、施策担当者と参加者、参加者同士の対話を通じて、施策における理解を深めるとともに、参加者からもそれぞれの地域の取組みや課題が共有されるなど、双方向による活発な議論が展開されました。参加者からは「地域における取組みの検討・支援に向けて、施策の活用を検討したい」といった声が聞かれ、早速、各地域の取組みに活かそうとする動きもあり、引き続き現場のニーズを把握しながら、施策の浸透や具体的な活用等につなげるため、定期的に開催する予定です。

以上、金融庁地域課題解決支援チームの取組みの一部をご紹介させていただきました。今後も当チームでは、地域からの相談に応じて、これまで取り組んできた地域支援の事例や各府省庁とのネットワーク等を通じて、引き続き地域主導の取組みを支援していきますので、お気軽にお問い合わせください。

 地域課題解決支援チーム
 https://www.fsa.go.jp/policy/chiikikadaikaiketsushien-team/chiiki-kadai-top.html

第15回「霞が関ダイアログ」

金融庁データ分析プロジェクト 分析報告会について

総合政策局リスク分析総括課 データ分析統括室

課長補佐 伊藤  仁美

係長   城戸  寛也

係員   角七  凌太

                                                                                              係員   青山  昴 

1.はじめに

金融庁では、2020事務年度より、金融行政におけるデータ活用高度化の一環として庁内のデータ分析プロジェクトの集約・支援を行い、業務の一環として取り組むデータ分析の高度化だけでなく、各職員が自主的に政策立案やモニタリングのために取り組んでいるデータ分析の後押しも行っています。例年、各プロジェクトの分析結果は、学識経験者等を講評者として招いた分析報告会において発表されていますが、今事務年度からは、優れた分析には長官賞等の表彰を授与する取組みも始めました。本稿では、表彰を受賞したプロジェクトの分析概要や、分析担当者の声などをご紹介します。

2.長官賞

「ETF市場のマーケットメイク制度とHFT業者の注文発注状況の検証及びビックデータを用いた登録HFT業者の損益分析」
証券取引等監視委員会事務局 市場分析審査課
大山審査官、福山審査官、本間主任審査官、原審査官、 齋藤審査官

Q1.分析の概要について教えてください。

<ETF市場のマーケットメイク制度とHFT業者の注文発注状況の検証>

今事務年度に公表した個人論文※1で得られた、ETF市場におけるHFT業者の取引特性を踏まえ、東証のマーケットメイク(以下、「MM」)制度※2に参加するHFT業者の注文状況を詳細に調べました。本分析では、新たな流動性指標を用いて業者別の発注(約175万件)を分類し、HFT業者が真の流動性供給者となっているのかを検証しました。今後、新たな流動性指標の更なる検討・考察等を進めるとともに、ETF市場の特殊性や他市場・他銘柄(先物やETF構成銘柄の個別株等)間の連動性等の深掘りを行いたいと考えています。

<ビックデータを用いた登録HFT業者の損益分析>

HFT業者の日本市場での損益に対するヒアリングが困難なところ、アカデミックの直近の研究会で得た知見に基づき、詳細な取引データを用いて日別の超過ポジションを終値で評価し、日次の損益を3年10か月分算出しました(算出回数:約1億3,572万回)。業者の利益源泉を考察すると共に、業者毎にポジション(各営業日、各取引銘柄の売りと買いの約定株数)の偏りを起点にして分析を再整理することで、各業者の取引戦略把握度合や戦略変更タイミング等、モニタリングに資する指標を開発しました。今後、こうした指標を、不公正取引の検出、市場の歪みや、瞬間的な流動性枯渇の要因を探る足掛かりにしていきたいと考えています。

Q2.分析をする上で大変だった点や、心掛けていた点は何でしょうか。

大変だったことは、膨大な取引データを取り扱うため、チームでプログラム処理方法の発案や試行等を重ねるプロセスに時間を要する点でした。この点、昨年9月からチームに加わったIT人材がビッグデータであることを忘れてしまうほど迅速かつ正確にコードを実装してくれたことで解決しました。今回の成果を報告することができたのは、このIT人材の活躍があったからだと言っても過言ではありません。

また、分析過程で心掛けていたことは、分析結果に対する違和感を大切にすることと、情報収集のアンテナを広げ先入観に縛られない柔軟な思考です。MMの分析では、前述論文でETF市場での特異性がみられたところ、取引状況の精査等を行い、従前の流動性供給の定義では見落とすような取引戦略が見えてきました。損益分析では、正確な損益計算は不可能という先入観を捨て、逆に、計算上問題となる「ポジションの偏り」こそ、我々がHFT業者の戦略を把握しきれていない現れと再考し、各業者の戦略等を紐解く指標を獲得できました。

Q3.今回、長官賞を受賞されました。受賞についてのお気持ちを一言お願いします。

皆様からのご支援の下、各メンバーが強みを活かし、日々議論を重ねた成果が、「長官賞」に繋がり、大変嬉しく思います。今後も、公正な市場を守るという証券監視委のミッションの一助となるよう努めてまいります。


※1 2022年10月25日公表『高速取引(HFT)のスピード競争の現状とその影響 』

※2 MM制度とは、東証のETF市場の流動性向上のため、HFT業者等がマーケットメイカーとなり、常に適切な価格で十分な量の気配を提示し、一定の気配提示義務を満たした場合はインセンティブが付与される仕組みのこと。


3.審査員特別賞

「バーゼル規制に関する承認審査の効率化」

総合政策局リスク分析総括課 健全性基準室
小澤補佐、平田係長、青井係員

Q1.分析の概要について教えてください。

健全性基準室では、国際合意に基づく自己資本比率規制等の策定や、銀行のリスク計測手法の承認審査を行っています。2023年3月期より、段階的にバーゼル3が実施されることから、多数の金融機関に対して承認審査を行う必要が生じており、効率的かつ有意な審査を行うことが必要になりました。そこで、各先の審査開始に先立ち、様々な切り口でデータを分析し、全体の傾向や注意が必要な点を把握することにしました。

Q2.分析をする上で心掛けていた点や分析の成果は何でしょうか?

データが物語る状況を素直かつ多面的に解釈することを心掛けました。データ分析を踏まえ、承認要件を満たしていない可能性が示唆される審査項目については、金融機関に対して濃淡を付けて丁寧にヒアリングを行うこととし、その結果、特有の事情が明らかになるなどの成果がありました。

Q3.今回、審査員特別賞を受賞されました。受賞についてのお気持ちを一言お願いします。

データ分析により、新しい審査の着眼点をみつけることができました。今後も、金融機関との建設的な対話に向けて、データの利活用をさらに進めていきたいと思います。

「金融機関のリレーションシップの発揮が与信先企業の財務に与える影響の分析」

総合政策局リスク分析総括課 マクロ分析室
結城係長

Q1.分析の概要について教えてください。

金融庁が毎年実施している「金融機関の取組みの評価に関する企業アンケート調査」のデータと、企業の財務情報を組み合わせて、金融機関による与信先企業へのコミュニケーションや経営改善支援活動が企業財務を改善させているかについて、統計的な手法で分析を行いました。

Q2.分析をする上で大変だった点や、心掛けていた点は何でしょうか。

金融機関によるリレーションシップの発揮を通じた取引先企業の経営改善支援は、金融行政長年の政策課題であり、また、金融機関職員の中にも、取引先企業の支援のために情熱をもって取り組んでいる方が多くいると承知しています。しかし、その成果を数字で表現するのは簡単ではなく、効果の検証が必ずしも十分に行われてこなかったという問題意識がありました。今回、それらの取組みの効果を証明したいという気持ちで取り組みました。

Q3.今回、審査員特別賞を受賞されました。受賞についてのお気持ちを一言お願いします。

課題設定やデータの選択等、分析デザインの面が評価されたと理解しており、大変感謝申し上げます。今後とも調査や分析を続け、より金融行政や、金融機関の現場にも届くようなものにしていければと思います。

4.チーフ・データ・オフィサー賞

「東北地方を中心とした金融知識と有価証券保有割合の関係等に関する分析」

東北財務局理財部 金融監督第三課
栗原調査官

Q1.分析の概要について教えてください。

個人の金融知識が家計の有価証券の保有に与える影響等について、金融リテラシーや家計に関する公表データ等を用い東北地方を中心に分析を試みました。今回扱ったデータ及び分析方法の限りにおいては、金融リテラシーが高いほど有価証券の保有割合が高まる傾向が見られましたが、貯蓄水準を考慮したうえでの有意な結果までは得られませんでした。仮説通りの結果は十分に検出されませんでしたが、少なくとも現状では有価証券の保有割合の上昇には貯蓄水準を引き上げることによる効果が大きいということがデータでも見て取れたものと考えています。

Q2.プロジェクトに参加したきっかけは何でしょうか。また、分析をする上で大変だった点は何でしょうか?

金融庁が開催したデータ分析基礎研修を受講したのですが、受講だけで終わるよりは実際に実務の中で分析にトライしてみようと思い、プロジェクトにエントリーしました。業務の傍らデータ整理等の作業を少しずつ進めるのに苦労しました。

Q3.今回、チーフ・データ・オフィサー賞を受賞されました。受賞についてのお気持ちを一言お願いします。

賞をいただけるとは恐縮です。まだまだ至らない点が多々ありましたが、報告会まで取り組むことができたのは金融庁の参事、データ分析統括室の皆様、東北財務局の金融監督第三課の上司はじめ周りの方々のご助言・ご支援のおかげです。改めて御礼申し上げます。

5.おわりに

データ分析プロジェクトは今年で3年目を迎えました。これまでプロジェクトに参加した職員による試行錯誤の積み重ねや、分析に対する有識者からのフィードバックなどによって、年々、全体としてプロジェクトの質が高まってきていると感じています。

また、本年は、メンバー構成(民間出身の分析の専門家とプロパー職員の混成チーム、プロパー職員単独のチーム等)や、分析の経験(分析の専門家もいれば、研修受講をきっかけに自身でプロジェクトを立ち上げた方もいました)に関して、より多様なバックグラウンドを持つ職員が分析プロジェクトへ参加しました。

今後も、こうしたデータ分析プロジェクト等の各種取組みを通じて、データ分析を金融行政上の課題発見・解決に活かそうとチャレンジする職員を後押しすることで、金融行政におけるデータ活用の高度化を進めてまいります。

中島前長官(前列中央)と受賞者の集合写真

中島前長官(前列中央)と受賞者の集合写真


国立大学法人東京大学との連携協力に関する基本協定の締結

本年5月31日、金融庁と国立大学法人東京大学は、金融市場や金融行政における学術と実務を融合し、お互いが持つ知見や専門性を活用することで、先端的・革新的な研究を推進するとともに、その成果を実際の金融行政の現場へ還元・共有することにより金融行政の高度化に繋げていくことを目的として、連携協力に関する基本協定を締結しました。

協定を締結した東京大学藤井総長(左)と中島前長官(右)の写真
写真:協定を締結した東京大学藤井総長(左)と中島前長官(右)

本協定に基づく連携協力事項は、以下の通りです。

  • 1)データドリブン手法による金融市場及び金融行政に関する研究
  • 2)金融庁の職員に対するデータ分析手法の教育及び東京大学の学部学生・大学院学生等に対する金融リテラシー教育
  • 3)産官学連携による研究、教育、広報のための新たな資金調達手法の開発
  • 4)その他本協定の目的を達成するために必要な事項
  •  

研究分野において、金融庁が大学等の学術研究機関と連携協定を締結するのは、今回が初めてのことです。

金融庁は、金融行政を更に進化させるため、「金融行政におけるデータ活用の高度化」を金融行政方針の一つに掲げています。今回の基本協定締結によって、東京大学の持つ研究資産を活用した金融庁の人材育成が可能となることが期待できると考えています。

また、金融庁の持つデータを、東京大学との共同研究の形で分析を進めることで、金融市場への理解が一層深まり金融行政に活かせるようになること、更に、例えば政府一体となって取り組んでいる金融経済教育について、東京大学と連携することで、より効果的に取組を推進することができるものと期待しているところです。まずは今年4月に開始している共同研究を着実に進めて行く予定で、次の共同研究のテーマについては、お互いの研究ニーズを擦り合わせながら検討していきたいと考えています

安田講堂で行われた協定締結後の記者会見の様子
写真:安田講堂で行われた協定締結後の記者会見の様子

市場へのメッセージ

~課徴金納付命令勧告の解説~

証券取引等監視委員会(以下「証券監視委」という。)は、勧告事案等に関する解説記事を「市場へのメッセージ」として証券監視委ウェブサイトに掲載しております。

監視委員会のロゴマーク

ここでは、本年6月26日に掲載した「市場へのメッセージ」の内容についてご紹介します。

※「市場へのメッセージ」の全文については、 証券監視委ウェブサイトをご参照ください。
 参考URL:https://www.fsa.go.jp/sesc/message/20230626.html


株式会社旅工房における有価証券報告書等の虚偽記載に係る課徴金納付命令勧告について

証券監視委は、株式会社旅工房(以下「当社」といいます。)における金融商品取引法に基づく開示規制の違反について検査した結果、下記のとおり法令違反の事実が認められたことから、令和5年6月6日に内閣総理大臣及び金融庁長官に対して課徴金納付命令勧告を行いました※。

【法令違反の内容】

当社は、資金循環取引による売上の過大計上等の不適正な会計処理を行ったこと により、重要な事項につき虚偽の記載がある下記の開示書類を関東財務局長に提出しました。
・令和3年3月期有価証券報告書(令和3年6月24日提出)等、合計4本

【不適正な会計処理】

当社は、GoToトラベル事業給付金対象となる受注型企画旅行商品の仕入れ・販売を行っていましたが、本取引は、GoToトラベル事業給付金の支給を受けることを目的に、当社から仕入先に支払われた仕入代金の一部が仕入先から販売先に資金移動し、販売先から当社に支払われる販売代金の一部に充てられていました。

したがって、当社は、売上及び売上原価を計上することができなかったにも関わらず、売上及び売上原価を計上しました。

資金循環のイメージ
参考:資金循環のイメージ

証券監視委は、本事例のような有価証券報告書等における虚偽記載などの開示規制違反に対して、引き続き厳正に対処してまいります。


 本年6月6日公表、「株式会社旅工房における有価証券報告書等の虚偽記載に係る課徴金納付命令勧告について」は、https://www.fsa.go.jp/sesc/news/c_2023/2023/20230606-1.htmlをご参照ください。


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開会挨拶を行う鈴木大臣の写真

先月の金融庁の主な取組み(令和5年6月1日~6月30日)


編集後記

今月の政策解説コーナーでは、主に金融庁職員が自主的に政策課題のテーマ設定をし、成果を挙げてきた内容を紹介しています。一人ひとりの個性が光る内容となっており、読者の皆様もお楽しみいただけたのではないかと感じています。

さて、毎年6月下旬から7月上旬に金融庁では定例の人事異動が行われており、今年もその季節がやってまいりました。このアクセスFSAを発行する金融庁広報室も今月号から新しい顔ぶれとなりますが、金融行政の進展が多くの方に伝わるよう、広報の充実に取り組んでまいります。

申し遅れましたが、この7月に広報室長に着任しました、矢野と申します。アクセスFSAを通じて、多くの方々と金融行政について語らえる機会が持てることを、楽しみにしております。

  • 金融庁広報室長 矢野 翔平
  • 編集・発行:金融庁広報室

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